5G 大容量・低遅延・多接続のしくみ (ブルーバックス)

5Gの意義がよくわかる

最近よく耳にする5Gですが、その本領は伝送速度だけでなく「低遅延」「多数同時接続」にあります。5Gと4Gの根本的な違いから通信技術の本質まで、前提知識がなくても理解できるわかりやすい解説がされています。今の時代に必要不可欠な知識が身につく1冊です。

岡嶋 裕史 (著)
出版社 : 講談社 (2020/7/16)、出典:出版社HP

まえがき

ついに移動通信システムの第五世代、すなわち「5G」がお披露目になり、世界各地で商用サービスが開始されるに至りました。
通信事業者が新しい技術を投入し、利用者がそれに追従する構図は、少なくともここしばらくは続くのだと思い ます。
私は通信技術を勉強していますから、ご多分にもれず新しもの好きです。目新しいコンセプトの製品の初期ロッ トなど、痛い目を見るのがわかりきっているものにいつも手を出し、そして案の定、痛い目を見ています。
でも、スマートフォンに関しては、かなりのレイトマジョリティでした。
私は人とコミュニケーションを取るのが苦手ですし、スキあらば家に帰って新しい製品をいじり倒したり、そう でなければゲームでもやっていたりしたいのです。飲み会に誘われるなど、もってのほかです。いつだって下戸の ふりをしています。
スマートフォンなどという便利なもの、人とつながりやすいものを手にしてしまったら、長年かけて築き上げて きたこの快適な生活にひびが入ってしまうのではないかと、心の底から恐怖したのです。
それでも、スマートフォンを手にする日はやってきました。もう持っていないと業務に支障を来すようになった からです。
新しいものを手にする人が増えれば、古いものは消えていきます。
私の場合は、スマートフォンを使いはじめたら、Eテレのスマホ講座の仕事をいただくことになりました。スマ ホゲームの完成度がけっこう高いことに感動しました。そして、「や、スマホ持ってないんで!」と言っておけば 人から捕捉されずにすんだ生活と、低めだった通信料は、いずれも過去の彼方に去りました。
サービスを提供する事業者にとって、複数のサービスを維持することは大きな負担ですし、そのための資源も限 られています。あまり使う人がいなくなった3Gの周波数帯域を、いつまでも3Gのために残しておくことは無駄 です。
固定電話も、3Gも、ガラケーも、やがて姿を消していくでしょう。4Gがそうであったように、5Gも急速に 社会の基盤を成すインフラになっていきます。
インフラになるくらい洗練された技術は、たいてい中身がわからなくなっています。たとえば、インターネット の出はじめのころは、ある程度インターネットの知識がないと使えない代物でした。万人が使うような技術ではあ りませんでした。
でも、いまのインターネットは幼稚園の子でもアクセス可能なくらいに(それがいいことか悪いことか、安全か どうかは別として)よく整備され、作り込まれています。
移動通信システムも世代を重ねて5つめ、もう十分にその水準に達しています。実際に、スマートフォンの背後 にどんなしくみがあるかなど、気にとめずに使っている人がほとんどだと思います。それでも使えるように、技術 者が技術を磨いてきたからです。
でも、自分を取り巻き、どっぷりと浸かっている事象が、どんなふうに成り立っているのか知らないことは怖いことでもあります。私は保険の契約内容など、何もわかっていないのに、言われるがままにサインをしますが、 「きっと損してるんだろうなあ」とか「いざというときは役に立たないんだろうなあ」といつも思っています。そ んなときに頼りになるのは知識です。わかりやすい本でも親切なFP(フィナンシャルプランナー)でも、何でも活 用して保険のことを知っておくのが、身を守ったり得をしたりするためのたしかな手段です。
法律でも経済でもなんでもそうですが、社会の根幹を成すしくみを知っておくのはいいことなのだと思います。 そのお手伝いをすることを念頭に本書を書きました。
損得勘定を抜きにしても、人類が何十年も熟考し、工夫を重ねてきたしくみやしかけの粋を紐解いていくのは、 純粋に楽しいものです。
本書を読んでいただいた皆さまにも、「こんなこと、よく思いついたなあ」と膝を打つ瞬間が1つでもあれば、 嬉しく思います。研究者や技術者の思考の軌跡を、ぜひお楽しみください。

岡嶋 裕史 (著)
出版社 : 講談社 (2020/7/16)、出典:出版社HP

目次

まえがき

第0章 「電波」とはなんだろう
周波数は「とんでもなく大きい」 /短波は特定方向へ、長波はより遠くへ /携帯 電話のアンテナが短くなった理由 /振幅と位相 / 「電波を取り合う」ということ /いい感じの周波数におさめる「変調」
コラム1 電波が「強い」とはどういうことか

第1章 携帯電話がつながるしくみ
どこまでも小さく、軽く /スマホが人類を変えた、ただ1つの理由 /「1G」と 呼ばれていなかった第一世代 /有線でつながった「網」 / 「閉域IP網」への統合/制御用の周波数のおかげで混線しない /番号から正体を探る /位置情報を知 るのは「ホームメモリー」 / 「交換機」のしていること /回線を割り当てる
コラム2 積極的なタイプはすぐ乗り換える?

第2章 携帯電話の「世代」とは何なのか
簡単に変わりそうで変わらない / 時間は「離散的」なものになった /アナログの 利点と弱点 /曲線をデジタルで表現する /欠落した情報を補う /音を輪切りに する方法 /ハイレゾの音質がわからなくても大丈夫な理由 /電話で音楽を楽しむのは難しかった /標本化から量子化へ /適切な「切りどころ」を探す /最低限 必要な「ビットレート」とは /量子化のおかげでノイズを克服
コラム3 「すりーじー」の謎

第3章 3G―国際標準規格が採用されたけど
「データ爆発」は今に始まったことではない /携帯通信勃興期では「規格」は後回し/スタンダード・テクノロジーとしての「3G」 /3Gを決めたのは「ITU」 /すっきり統一されなかった理由 こうして5つの規格が乱立した /電波は希少 だ /駅に無料 Wi-Fi がある理由 /3段階の「多元接続」 /周波数を細切れにす る「FDMA」 /時間を細切れにする「TDMA」 /PZ符号のおかげで混線し ない「CDMA」 / 「圧縮」のしくみ /音楽の符号化で生まれた「着メロ」 / シンセサイザーでわかる「分析合成符号化」

第4章 4G―スマホの普及にシステムの進化が追いつかない
音声電話からデータ通信へ /通信に「ギガ」が登場した! /改めて覚えておこう「バ イト」「ビット」の違い /机上では見事な規格統一が達成されたが…… / 「なん ちゃって4G」が必要とされた理由 / 「LTE」の誕生 /同じLTEでも速さが 数倍違う /ダウンロードは速く、アップロードは遅い /要素技術その1「MIMO」/「ダイバシティ」で高品質化 /アンテナ複数化の到達点 /電波が干渉しても 大丈夫な理由 /要素技術その2 「OFDMA」 /要素技術その3 「QAM」 /モー ルス信号のしくみ /周波数にデータを対応させると…… /位相をずらす方法 / 「1周期で64パターン」への道 /3.5Gも4Gになった
コラム4 WiMAX とラストワンマイル問題

第5章 5G―移動通信システムの「解放」
映像は有線から解放された /5Gが解放したもの /3Gと同じ体制で5Gも定 まった /自動運転を可能にする「低遅延」/スマホ「以外」に通信を開く「多数 同時接続」 / 「高速」と「大容量」をどうやって両立するか /高周波数帯のメリッ ト「余裕がある」 /高周波数帯のデメリット「遠くまで届かない」 /基地局のカバー エリアを小さくする /同時につなぐための技術も洗練された /まずは4Gと連携/最小送信単位が4分の1に /無線部分「以外」をどう高速化するか / クラウ ド処理ではデータが長距離移動する / 「劇的に効く」エッジコンピューティング /接続先はセンサーネットワーク /「あえて低速」で電池が10年もつ /通信資源 を合理的に割り当てる / 「線」をどこまで排除できるか
コラム5 6Gに必要な7つめの要件

第6章 その先にあるリスク
いたちごっこで新製品が売れた時代 /夢を見せ続けるために /苦心の末に出てき た企業向けビジョン /成功するからこそリスクは膨らむ /地球全体へ拡張される 身体感覚 /GAFAの支配は「既定の事実」へ /すばらしき監視社会へ / ベン サムの夢 /本当に監視していなくてもいい「パノプティコン」/透明化され、外 部化される「意思」
コラム6 「移動」が贅沢品になる世界へ

あとがき
SI接頭辞の一覧
さくいん

岡嶋 裕史 (著)
出版社 : 講談社 (2020/7/16)、出典:出版社HP