コミュニティデザインの時代 自分たちで「まち」をつくる (中公新書)

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コミュニティデザインについて幅広く解説

ファシリテーターとしての心構え、雰囲気、コミュニティデザイナーとしての資質、行政との付き合い方などは、すぐ実践できる学びの本です。山崎さんと対話しながら講義を受けている感覚になれて、山崎さんの人柄も伝わる本です。街の活性化は、街を構成する一人ひとりが活き活きと活動する事によってもたらされるという事が、具体例を示して、丁寧かつ具体的に書かれています。

山崎 亮 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2012/9/24)、出典:出版社HP

まえがき

最近、講演会に呼んでもらうことが多くなった。平均すると、毎月10回ほどどこかで講演している。コミュニティデザインという聞き慣れない職業を標榜したせいで、「それはいったいどういう仕事なんだ?」という問い合わせにも似た講演依頼をいただくことが多いようだ。
美味しい食事と気持ちいい温泉が大好きな僕は、講演依頼が両者を備えた地域からのものだと二つ返事で引き受ける。こうして講演回数はどんどん増えることになる。多くの場合、講演会の最後には質疑応答の時間が設けられる。初めて聞く仕事内容だという人が多いせいか、質問も多岐にわたる。それらの質問にひとつひとつ答えていくうちに、質問がいくつかに類型化できることに気づいた。「コミュニティデザインを始めようと思ったきっかけは?」「地域に入ったとき、まずは何から始めますか?」「コミュニティデザインの成果は何ですか?」「コミュニティデザインの教科書は書けませんか?」など、どの地域でも出る質問というのがいくつかある。きっと僕がしっかり説明できていなかった点なのだろう。なかには前著『コミュニティデザイン人がつながるしくみをつくる』(学芸出版社)を隅から隅まで読んでくれて、それでもわからなかった点を質問として会場に持ち込んでくれる人もいる。ありがたいことだ。これまで書いた文章のなかでうまく説明できていなかった点がどこなのかがよくわかる。
そこで、講演会場で多く出る質問をベースにした本を書いてみようと考えた。建設系の分野で勉強し、設計の実務を経験した人間が、どうして「つくらないデザイン」を目指すようになったのか。日本の総人口が減ることとコミュニティデザインとの関係性はどうなっているのか。質問に答えるように、ひとつずつ文章を重ねていくと、エッセイのようにひとつひとつ読みきりタイプの原橋になった。
書き終わった原稿を並べ替えてみると、いくつかの特徴に分かれていることに気づいた。そこで、それぞれの文章を次の4つの視点で分類してみた。1つ目は「なぜいま、コミュニティが注目されるのか」という視点。コミュニティの衰退やつながりの希薄化はなぜ進むのか、人口減少社会ではどんな課題が出現するのか、まちはなぜ寂しくなったのか、僕たちは「公共」をどう考えるべきかなどについて、思うところを書いたつもりだ。2つ目は「つながりのデザインって何?」という視点。コミュニティデザインとは何か、住民参加型のデザインにおける注意点、まちの豊かさをどう考えるべきかなどについて考えた。3つ目は「プロジェクトを通じて知り合った人に関するエピソード」。プロジェクトの参加者がどう変化したか、中山間離島地域で生活する人たちから学ぶこと、集落を支援する人材の大切さなどについて述べている。4つ目は「コミュニティデザインの進め方」という視点。ファシリテーションの方法、話の聴き方や事例の調べ方、会場の雰囲気のつくり方、行政職員との付き合い方、コミュニティデザイナーの育て方などについてまとめた。
以上のように分類した読みきりタイプの原稿を、それぞれ「なぜいまコミュニティなのか」「つながりのデザイン」「人が変わる、地域が変わる」「コミュニティデザインの方法」という4章にまとめた。体系だったコミュニティデザイン論を語るほど自分の思考と実践が整理できているわけではない。思いつくままに書き散らかした原稿を4つの袋に分けて入れるのが精一杯。相互に矛盾したことを述べている箇所があるかもしれない。気になる点があれば、ぜひ講演会やワークショップ等で質問して欲しい。インターネット経由でいただいた質問に答えるのはあまり得意ではない。実際に対面しながら語り合うのが好きだ。じっくりと対話しながら質問にお答えしつつ、いつかまたそれらをまとめた書籍をみなさんにお届けしたい。

本書は、前著『コミュニティデザイン』と対をなす本だといえよう。『コミュニティデザイン』がこれまで関わってきたプロジェクトを紹介する本だとすれば、本書はそれらのプロジェクトに関わろうと思った動機や背景を解説する本だといえる。したがって、本書のなかには『コミュニティデザイン』で詳述したプロジェクトがいくつか登場する。プロジェクトの概要は本書の巻末(本書に出てくる主なプロジェクトの概要)に示したものの、もし詳細を知りたいという方がいれば前著も合わせてお読みいただくことをお薦めする。
「つながりをデザインする」とは、まことにわかりにくい表現である。「バラの笑顔」のように暗喩的な響きを持つ言葉とも受け取られよう。しかし、自分が普段関わっているプロジェクトを省みるに、やはり僕が携わっているのは「つながりをデザインする」ことなのだと感じてしまう。本書を通じて、コミュニティデザインの5W1H、「なぜ」「いつから」「誰と」「何を」「どこで」「どうやって」が少しでも伝えられれば幸いである。

山崎 亮 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2012/9/24)、出典:出版社HP

 

目次

まえがき

第1章 なぜいま「コミュニティ」なのか
1.自由と安心のバランス
つながりが分断された社会/つながりのなかに生きる社会/「つながり」と「しがらみ」/「お客さん化」する社会/「活動人口」という考え方/いいあんばいのつながり
2.まちが寂しくなった理由
活動の屋内化とコミュニティの弱体化/公共空間をどうするか/新しいコミュニティが関わる仕組みをつくる
3.「昔はよかった」のか
人口の増減についての空想/日本の適正人口/人口減少先進地における実践/「過疎」を目指して
4.人口減少先進地に学ぶ
人口減少社会/人口減少先進地/中山間離島地域のアドバンテージ/人口減少先進国から何を発信するか
5.ハード整備偏重時代の終焉
「つくる時代」の終わり/建築家の「すごろく」が変わる/時代の変化/これからの時代に何をすべきか
6.まちに関わること
つながりが希薄化する社会/まちの生まれ方を学ぶ/主従関係をずらすコミュニティの活動/専門家の領分
7.パブリックとコミュニティ
「私」と「共」と「公」/公共的な事業に対する住民参加と行政参加/つながりから抜け出す時代/つながりを求める時代/公共をどこまで広げて考えるか

第2章 つながりのデザイン
1.宣言について
つくらないデザイナー/仕事が生まれる/コミュニティデザインと空間のデザイン/建築的思考
2.まちの豊かさとは何か
「住民参加」の胡散臭さ/コミュニティデザインに目覚める/コミュニティに関する違和感/「豊かさの定義」が変われば「デザインの方法」も変わる/精算しない生き方/「ぼろ儲け」人生/豊かさ、幸せ、経済
3.コミュニティとデザインについて
住民参加型デザインはあり得るか/どう話し合うか/誰と話し合うか/何を話し合うか/デザイナーの専門分野、コミュニティの専門分野
4.肩書きについて
ランドスケープデザイナーからコミュニティデザイナーへ/コミュニティってなんだ?/自分の仕事を説明しづらい人たち
5.プライアン・オニールという人
軍用地から国立公園へ/有償の公園利用プログラム/出前プログラム/ショップの品ぞろえ/公務員コミュニティデザイナー
6.変化するコミュニティデザイン
3種類のコミュニティデザイン/コミュニティデザイン1.0/コミュニティデザイン2.0/コミュニティデザイン3.0/ハード整備を前提としないコミュニティデザイン/時代とともに変化するコミュニティデザイン

第3章 人が変わる、地域が変わる
1.人が育つ(中村さんの場合)
まちづくりに参加しなさそうな人/気持ちの変化/本業でもまちづくりの活動を開始/新たな活動へ
2.コミュニティ活動に参加する意義(小田川さんの場合)
レクリエーションとしてのまちづくり/レクリエーションを疑ってみる/まちづくりに関わらなさそうな人の力/コミュニティに何が可能か
3.チームについて
いえしまへ押しかける/普段どおりの生活を見せる/コミュニティデザインの成果
4.中山間離島地域に学ぶ
中山間離島地域の魅力/中山間離島地域の魅力を知り尽くす1ターン者たち/中山間離島地域での買い物/民間企業の公共的役割/個人商店の取り組み
5.集落診断士と復興支援員
なぜ里地里山が大切なのか/集落診断士という提案/兵庫県への提言を海士町で実践/集落支援員の研修と実践/集落支援員の自立/復興支援員の育成/復興予算の「ニューディール」を

第4章 コミュニティデザインの方法
1.コミュニティデザインの進め方
ふたつの変数/コミュニティデザインの4段階/第1段階:ヒアリング/第2段階:ワークショップ/第3段階:チームビルディング/第4段階:活動支援
2.ファシリテーションと事例について
話し合いの場を円滑に進める/無意識のアイデアを引き出す/できる限り事例を調べる/主義化するのはマズイが、事例は大切
3.地域との接し方
事前の勉強/傾聴/酒とファシリテーション
4.雰囲気について
服装/おやつ/体型/坊主にヒゲ面
5.資質について
多様な知性/モードを変える/偶然を計画的に起こす/スタジオメンバーに必要とされる能力
6.教育について
実地訓練が大切/大学の教育にも実践を/ソーシャルデザイン
7.行政職員との付き合い方
行政の特徴/熱い行政職員との出会い/熱い行政職員リスト/行政は「貝」である」
8.コミュニティの自走
仕事の区切り/地域の力学の外側にいること/思えば僕はずっとヨソモノだった

あとがき

本書に出てくる主なプロジェクトの概要

山崎 亮 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2012/9/24)、出典:出版社HP