ESG投資 新しい資本主義のかたち

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ESG投資に関する最新の状勢を学べる入門書

ESG投資の概要がコンパクトに纏まっている良著です。欧州など海外での研究も重ねてきた第一人者が、これまで断片的にしか伝えられてこなかったESGをめぐる様々な動きを整理、上場企業、機関投資家双方に必須の知識を提供しています。事前知識があまりなくて、初めてESG投資について学びたい人でも読みやすい内容となっています。

水口 剛 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/9/26)、出典:出版社HP

 

はじめに

環境(E)、社会(S)、コーポレートガバナンス(G)を総称して「ESG」と呼ぶ。これを投資判断に組み込むことは、長い目で見て合理的な行動だ。ESG投資の趣旨を一言で表せば、そうなる。
「いい加減、そういう横文字をありがたがって使うのは、やめたらどうだ」
そういう人もいるかもしれない。横文字が象徴するのは、欧米で生まれた概念を輸入するという態度だからだ。よく、欧米は枠組みを作るのが上手く、日本は真面目だから律儀に守るばかりだ、といわれる。たしかにESG投資は、これまでヨーロッパの機関投資家が中心になって推進してきた。そしてここ数年、日本でも急速に浸透し始めた。その意味で、欧米発の考え方の輸入であることは事実である。
だが、「日本は真面目だから」は事実なのか。逆にいえば、なぜESG投資のような概念が次々にヨーロッパからやって来るのか。それは、彼らがそれだけ真剣だからではないのか。
それでは、なぜヨーロッパはそれほどESG投資に熱心なのか。その背景にあるのは、危機感ではないだろうか。このままでは今の社会は持たないという危機感。経済的不平等が拡大することで、資本主義に対する信頼が揺らぐ。地球温暖化に象徴されるように、経済が地球の環境容量の限界を超えてしまう。そういう危機感がESG投資を根底で動かしているようにみえる。その危機感を、日本はどこまで共有してきただろうか。
冒頭、ESG投資は長い目でみて合理的な行動だと記した。これは、単に「儲かる」という意味ではない。もし私たちが破局を避けて、持続可能な経済を築きたいと思うなら、環境や社会の側面をきちんと考慮する経済システムを作る必要がある。ESG投資は、そのようなシステムを構成する一部となる。それが結局は、投資利益も守ることになるのである。
もっとも、ESG投資が本当にそのような役割を果たすかどうかは、「どのような」ESG投資が行われるかによる。単に表面的、形式的にESG投資の「形」を備えるだけでは十分でない。実際にどのようなESG課題に着目し、どのような投資行動がなされるのか、いわばESG投資の「質」が問われるといってもよいだろう。そして、最終的な資金の出し手には、その質を見極める「目」が必要だ。日本でESG投資が広まりつつある今だからこそ、今後のESG投資とはどうあるべきなのかを考えたい。
そこで本書では、具体的なESG課題を1つひとつ取り上げて、世界のESG投資家がどう考え、どう行動しているのかをみていくことにしよう。一言でESG投資といっても、多くの論点があり、さまざまな立場があることがわかるだろう。日本のESG投資もそれらの論点にきちんと向き合うことで、単なる輸入の域を越えて、成熟していくことを期待したい。

水口 剛 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/9/26)、出典:出版社HP

 

目次

はじめに
第1章 環境・社会・ガバナンス――なぜ、どのように投資と関わるのか
1 ESG投資は誰がしているのか
責任投資原則―GPIFは何にコミットしたのか/ESG投資はどこまで広がったのか/PRI事務局の果たす役割/存在感増すアセットオーナーたち/運用機関からNGOまで
2なぜESG投資をするのか
ESG要因は投資のリスクと機会に関わる/受託者責任とESG投資の関係/時間軸で考える/ユニバーサル・オーナーシップ/政府がすべきことではないのか/非財務的な動機/受益者の共の利益とは何か
3 ESG投資とは何をすることか
投資判断への統合/除外とダイベストメント/ESGに関わるエンゲージメント/動機と方法の関係/上場株式以外のESG投資/まとめ

第2章 売却か、対話か――気候変動とESG投資
1 2度目標に向けた動き
科学が出した答え/政治が決めた目標/トランプ政権で流れは変わるか/企業側で進む対応
2投資家はどう行動してきたか
パリ協定を支援した投資家グループ/投資家自身の責任を問うーモントリオール炭素蓄約/座礁資産に気をつけろ/ダイベストメントは行き過ぎか/Aリスト入りを目指せ活発化する株主行動/ポートフォリオの「脱炭素化」とは何か
3注目集まるグリーンポンド
グリーンボンドとは何か/グリーンボンドを名乗るには/日本版ガイドラインの公表/グリーンボンドが意味すること
4脱炭素時代の投資
アセットオーナーの気候変動戦略/4つのシナリオから考える/もしあなたが投資家だとしたら?/まとめ

第3章 奴隷的な労働を許すな 人権問題とESG投資
1サプライチェーンの人権問題とは何か
強制労働の現状/どこで何が起きているのか/人権問題にどう向き合うか――国連の指導原則を読む
2サプライチェーン情報を開示せよ
現代奴隷法の要求/サステナビリティ報告書にどう書くか
3動き出した企業評価と投資行動
サプライチェーンを理解せよーウ・ザ・チェーンのベンチマーク/企業人権ベンチマーク世界500社が対象に/強まる投資家からの圧力/まとめ

第4章 経済的不平等とESG投資
1 ESG課題としての「経済的不平等」――何が問題なのか
不平等の何が悪いのか/低賃金はESG問題/PRIの問題提起
2リスク・リターン・インパクト―社会的インパクト投資の試み
ビッグ・イシュー・インベストの挑戦/G8が推進する社会的インパクト投資
3金融化を問う
「金融化」とは何か/金融化は何をもたらしたか
4経営者報酬への注目
経営者報酬開示規制の強化/イギリスでも経営者報酬が焦点に/日本は何が問題なのか/まとめ

第5章 すそ野広がるESG課題
1森林問題を考える――パーム油とESG投資
CDPフォレスト・プログラム―何が森を壊すのか/持続可能なパーム油/森林問題は人権問題である――アムネスティの指摘/パーム油発電の誤解
2持続可能なシーフード水産業とESG投資
水産業のESGリスクとは何か/タイユニオンの約束/フィッシュ・トラッカーの試み
3工場的畜産のリスク――動物愛護からESG課題へ
工場的畜産はなぜ問題なのか/「動物の福祉」ベンチマークの登場
4クラスター爆弾の除外非人道的兵器とESG投資
クラスター爆弾を巡る動き/名誉リストと不名誉リスト/GPIFは除外しないのか/ノルウェー政府年金基金に学ぶ/日本に欠けているもの/まとめ

第6章 ESG投資と実務―現場はどう向き合うか
1 ESG情報の開示――企業はどう対応すべきか
制度化に向かう世界の動き/G4ガイドラインからGRIスタンダードへ/制度化は企業を委縮させるのか/ESG評価の現場/「正しいESG評価」はあるのか、開示から対話へ
2エンゲージメント―――投資家は何をすべきか
スチュワードシップとは何か/アムンディのエンゲージメント/短期主義のアクティビストに非ず/重要提案行為とエンゲージメント/まとめ

第7章 この先のESG投資へ
1 ESG投資は何のため?
あなたのモチベーションは何か/背景にある危機感/サステナブルな金融システムーシステミックな課題への挑戦
2ケイ・レビューの指摘
なぜ短期主義になるのか/売買からエンゲージメントへ
3資本主義の再定義
資本主義が直面する3つの課題/資本概念の拡張/動的システムとしての持続可能な社会/ESG投資のなかの「責任ある投資」まとめに代えて

おわりに
参考文献

水口 剛 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/9/26)、出典:出版社HP

 

略語表

本書ではいくつかの英略語が登場する。本文の初出時に説明を付しているので、通読するうえで支障はないと思われるが、読者の便宜のために主なものを以下にまとめて示す。
ABP
オランダの公務員年金。オランダ語のAlgemeen Burgerlijk Pensioenfondsが基になっている。
COP
気候変動、水、森林に関して企業に情報開示を求めるイギリスの非営利組織。元々の名称はCarbon Disclosure Projectだったが、現在はCDPが正式名称。
CSR
Corporate Social Responsibilityの略。企業の社会的責任。
ESG
環境、社会、コーポレートガバナンスの総称。
GPIF
Government Pension Investrent Fundの略。日本の年金積立金管理運用独立行政法人国民年金と厚生年金の積立金を運用している。
GRI
Global Reporting Initiativeの略。オランダに本拠を置く非営利組織。サステナビリティ報告書の国際ガイドラインを策定してきた。
IPCC
Intergovernmental Panelon Climate Changeの略。気候変動に関する政府間パネル。気候変動に関する科学的知見を蓄積し、定期的に報告書を作成している。
NBIM
Norges Bank Investment Managementの略。ノルウェー銀行投資マネジメント。ノルウェー銀行の運用部門でノルウェー政府年金基金の運用を担当する。
PRI
Principles for Responsible Investmentの略。責任投資原則。
SRI
Socially Responsible Investmentの略。社会的責任投資。アメリカやイギリスで1920年代から行われ、ESG投資の原型となった。
TCFD
Taskforce on Climate-related Financial Disclosuresの略。気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース。金融安定理事会(Financial Stability Board: FSB)が設置したタスクフォース。

水口 剛 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/9/26)、出典:出版社HP

 

第1章 環境・社会・ガバナンス―なぜ、どのように投資と関わるのか