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会社運営に携わる人の必読書
本書は、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が広がる現代において重要性を増す「持続可能な調達」について、その意義から具体的な実践方法まで、非常にわかりやすくまとめられています。この分野の専門でない方にとっても会社運営に必須な情報が満載です。

まえがき
筆者が、広い意味での「持続可能な調達」の分野に関わるようになって、ほぼ20年が経過した。1990年代の後半に直面した最初の大きな課題は、欧州の有害物質規制であるRoHS指令への対応だった。製品に含有する物質を規制するこの指令に対応するためには、対象となる鉛やカドミウムなどの有害物質が、サプライチェーンにおいて意図的に使用されたり、非意図的に混入したりするのを排除する必要があった。当時、筆者はエレクトロニクス企業の環境部門に所属し、この法令対応を主導する立場であったが、それを実現するために調達する部品や原材料、さらにサプライヤーの管理まで含めた包括的な管理システムを構築することが必要だった。いわゆる「グリーン調達」である。
当時、大手企業や公共セクターでも事務用品などの環境対応という側面では、既にグリーン購入に取り組んでいたが、その関係者は購買部門のごく一部に限られていた。一方、「グリーン調達」では、その結果がビジネスに直結することもあるが、研究開発、設計、製造、調達、品質管理など幅広い部門の連携による全社的な取り組みが必要となった。これが、サステナビリティ(持続可能性)の調達実務への統合の本格的な取り組みの始まりだったと思われる。
7世紀に入ると、この分野で先行していたアパレル業界に続き、エレクトロニクス業界でも、サプライチェーンにおける人権・労働問題が徐々に注目を集めるようになり、サプライヤーの人権にも配慮するCSR調達の必要性が認識され始めた。エレクトロニクス業界のサプライヤーでもアパレル業界同様、様々な人権・労働問題が顕在化してきたからである。当時、「紛争鉱物」という言葉はまだ存在していなかったが、企業などの関心は原材料の採掘段階にも及ぶようになっていた。CSR部門の責任者となっていた筆者には、過去のグリーン調達の経験から、自社と直接取引のある非常に多くの1次サプライヤーのみならず、その先の2次、3次サプライヤーまで一社だけで管理するのは、現実的ではないと感じられた。こうしたサプライヤーは、同業他社のサプライヤーでもあり、似て非なる要求を各社が一斉にすることで、混乱が生じ、ビジネスの効率を極度に低下させると危惧された。そのため、管理システムの共通化が正攻法と考え、当時、同様な考えを持ち、共通のサプライヤーを多数共有していた米国のIT企業らと協議し、2004年にEICC(Electronic Industry Citizenship Coalition)を設立、加入した。EICCは、当初エレクトロニクス企業のアライアンスとして、限られたメンバーでスタートしたが、現在、会員企業は100社を超えた。サプライチェーンの包括的な管理システムを構築し、自動車業界などの他業界も巻き込み、2017年にはRBA(Responsible Business Alliance)と改名されている。
2010年に米国で金融規制改革法(ドッド・フランク法)が成立すると、サプライチェーンの最上流の課題である紛争鉱物までを管理対象として意識せざるを得なくなる。こうした新たな要求に対しても、既に業界共通の管理手法が確立されている。このように過去を振り返ってみると、環境、人権など様々なサステナビリティの課題に対処する持続可能な調達は、当時、実現困難な課題と思われたが、現在では、現実的な取り組みとして定着しつつあることには、感慨とともに驚きすら覚える。
さらに、2015年のSDGs(持続可能な開発目標)を含む国連の2030アジェンダの採択や、我が国での年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国連責任投資原則(PRI)への署名を発端とするESG投資の広がりもあり、持続可能な調達が国際的な期待となり、一部のグローバル企業の評判リスクの課題から、すべての企業にとって避けて通ることのできない重要課題に浮上したと言えるだろう。
これまで様々な企業が、様々な手法を通じて持続可能な調達にチャレンジしてきた。こうした試行錯誤を経て、サプライチェーン管理の実践的な方法論も、現在ではかなり成熟してきている。この分野における包括的な概念として、2017年にIS020400「持続可能な調達」が発行され、本書の執筆中にもOECDからサプライチェーンの包括的な「責任ある企業行動に関するデュー・ディリジェンス・ガイダンス」が発行された。持続可能な調達が、その上位概念から一連の実務的な手法まで、確立された時代になったと言えよう。さらに、2020年東京オリンピック・パラリンピックの「持続可能な調達コード」も決定された。
こうした背景から、持続可能な調達についてビジネスパーソンから一般消費者まで幅広い人たちが理解を深めることにより、効果的で、適切な取り組みの普及につながると考え、本書の執筆に至った。
本書は、持続可能な調達を実施する上で、包括的な理解が必要不可欠となる企業の経営層を含めたマネジメント層、CSR・サステナビリティ担当者、調達担当者などを想定して執筆しているが、ESG投資関係者やエシカル購入に関心のある一般市民の方々にとっても興味を持っていただけるのではないかと思う。やや専門的な部分もあるが、この分野に対して事前の知識がなくても読み進められるようにしている。全7章で構成しており、それぞれの章の概要は次の通りである。第1章は、本書のテーマである持続可能な調達が、注目されるに至った背景、特に、企業のサプライチェーンで起こった、人権、環境などのサステナビリティ(持続可能性)に関わる様々な問題の事例を紹介する。
第2章では、NGO、投資家など企業を取り巻く様々なステークホルダーがどのような形で、この分野に関心を寄せているのか、さらに、近年、急速に進化した国際規範や各国の法令によって企業が何を期待されているか、企業にとってどのようなリスクが関連するかを解説する。
第3章では、持続可能な調達を実施する組織・企業のための包括的なガイダンスを提供する文書、IS020400「持続可能な調達」とOECD「責任ある企業行動に関するデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を紹介する。
第4章では、責任あるサプライチェーンを構築するための、一般的なサプライヤーの管理手法について、さらに、サプライヤー管理のために企業が活用できる主な業界イニシアティブを紹介する。第5章では、農林水産物などの原材料における持続可能な調達を実施するための手法としての認証スキームと、紛争鉱物などに関わる責任ある鉱物調達の管理手法を紹介する。
第6章では、持続可能な調達を実施している国内外の先進企業の事例を取り上げる。ここでは第4章と第5章で紹介する管理手法などをどのような形で適用しているか、さらに、各企業に特徴的な取り組みを紹介する。
第7章では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのために策定された、「持続可能な調達コード」の内容と特徴を解説する。加えて、今後、幅広い企業にも影響が及ぶ可能性がある公共セクターでの持続可能な調達についても言及する。
各章はそれぞれ完結しているため、関心のあるところから読んでいただければいいと思うが、特に第3章から第5章は、持続可能な調達を実践するのに役立つ情報を提供する観点から、企業実務に必要な概念や管理手法を中心に解説しているため、この分野に初めて接する方は第1章から順番に読み進めることをお勧めする。
なお、本書は、日経BP社の専門誌「日経ESG」に連載中の「待ったなし「持続可能な調達」」を大幅に加筆・再編集したものである。
CONTENTS
まえがき
第1章 なぜ今、持続可能な調達なのか
社外の問題で済まされない。東京五輪で浮かぶ人権リスク
・ピル崩落事故の衝撃
・企業が恐れる「評判リスク」
・あらゆる産業に蔓延
・東京五輪で日本企業に厳しい視線
・毛皮、フカヒレ使わない
第2章 企業を取り巻く包囲網
NGO、投資家、顧客が要請。中小企業にも影響大きく
・「社外で起きたこと」では済まされない
・世界に4000万人の「現代奴隷」
・持続可能な開発目標(SDGs)が後押し
・影響力を増すNGOの企業ランキング
・ブランド力のある大企業が狙われる
・調達の5大ビジネスリスクに注意
・意識すべきはサプライチェーンのサステナビリティリスク
第3章 持続可能な調達に必要な要素とは
IS020400「持続可能な調達」と
OECD「デュー・ディリジェンス・ガイダンス」
・IS020400はガイダンス
・押さえておくべき13のポイント
・信頼関係の構築、向上に配慮
・なぜデュー・ディリジェンスを実施するのか
・デュー・ディリジェンスの6つのステップ
サプライヤーの管理:
第4章 良きサプライヤーを見極める
調達基準を明確化。取り組みを評価し、ともに改善
・4つのステップで実践
・サプライヤー監査の鍵はインタビュー
・要求事項を上流へ伝え
・統一基準でサプライヤー管理を効率化
・買い手と売り手が情報を共有
持続可能な原材料調達:
第5章 信頼できるモノを選ぶ
ターゲットは農林水産物と鉱物。原産地と流通過程を押さえる
・主な認証スキーム
・認証は大きく2種類
・生産者の生活を守る
・認証システムの限界
・ドッド・フランク法が転機に
・サプライチェーンの「首根っこ」を押さえる
第6章 欧米日の先進企業に学ぶ
ディズニー、アップル、ユニクロ。8大グローバル企業の挑戦
・国単位で調達の可否を決定
・200社のサプライヤーリストを公開
・年間1000件の工場を訪問
・欧米企業を追う日本企業
・農林畜水産物の100%認証へ
・2020年までに「危険化学物質」ゼロへ
・「証拠作り」の段階は終わった
第7章 東京五輪から変わる
公共調達から全国へ拡大。そしてレガシーへ
・メガスポーツイベントを狙い撃ち
・東京五輪を機に公共調達へ広がる
参考文献
あとがき
第1章
なぜ今、持続可能な調達なのか