エコハウスのウソ2

【最新 エコハウスについて学ぶためのおすすめ本 – 基本知識から建築事例まで】も確認する

家を建てる際の注意点が網羅された一冊

断熱、日射遮蔽、電力、冷暖房、給湯、換気等の個々の対策で注意すべき点をひとつひとつ科学的なデータに基づいて丁寧に解説してあります。また、情報量が多いだけでなく、挿絵や画像が活用されており、視覚的にも理解しやすくなっています。

前 真之 (著)
出版社 : 日経BP (2020/8/27)、出典:出版社HP

 

エコハウスのウソ2 目次

はじめに

PART1変わる常識
第1章 環境・エネルギー
Q.1地球の温暖化はウソだよね?
Q.2住宅のCO2削減は他人ごと?
Q.3安い電気は良い電気?
Q.4電気代はずっと上がらない?

第2章 健康
Q.5汚れた空気は健康とは無関係?
Q.6ウイルス対策は加湿でバッチリ?

第3章 家電
Q.7最新家電ならどれでも省エネ?
Q.8エアコンを買い替えれば節電に?

第4章 太陽光発電
Q.9太陽光発電はもう載せなくていい?
Q.10太陽光発電は売電で大儲け?
Q.11蓄電池で停電とアフターFIT対応は万全?

第5章 エコハウスの目標
Q.12省エネの義務化なんて必要ないよね?
Q.13ZEHは究極のエコハウス?
Q.14エネルギーコストゼロで快適な生活は無理?

PART2変わらない真実―対策編
第6章 冬の備え
Q.15空気温度さえ高ければ冬も快適?
Q.16ポツ窓住宅は省エネ?
Q.17 UA値さえ小さければ気密なんて気にしなくていい?
Q.18健康・快適な全館24時間暖房は高くつく?
Q.19冬の無暖房なんて絶対無理?
Q.20部分リフォームでは寒くても仕方ない?

第7章 夏の備え
Q.21冷房はギリギリまでガマン?
Q.22日射遮蔽は軒や庇で安心?
Q.23全館24時間冷房は電気代が高い?

第8章 空気とお湯
Q.24花粉対策は空気清浄機が1番?
Q.25換気設備は設置さえすればOK?
Q.26換気をしたら寒くなる?
Q.27給湯は湯水のごとく?

エピローグ
Q.28みんなエコハウスに住めるかな?

イラスト:ナカニシミエ
図版作成:村上総(カミグラフデザイン)
写真・資料:特記以外は前真之

前 真之 (著)
出版社 : 日経BP (2020/8/27)、出典:出版社HP

 

はじめに

みんながエコハウスで暮らせるために

本書「エコハウスのウソ」は、2012年の「初版」、15年の「増補改訂版」に続く3冊目である。初版では、冬は寒く、夏は暑い、そして電気代も高い―そんな「ウソのエコハウス」がたくさんあることを示し、その「ウソ」を暴くことが主たる目的であった。「増補改訂版」では初版を踏襲しながら、もう1歩踏み込んで、エコハウスの設計に必要な気候や建物外皮・設備の理論・知識をできる限り網羅した。
3冊目の本書はいわば「実践編」。健康・快適な暮らしを未来永劫、エネルギーコストゼロで実現する。そんな究極のエコハウスづくりについて、ぜひ知っておいていただきたい最新の情報を、25年間にわたって住宅のエネルギーを専門に研究してきた筆者の知見の及ぶ限り、厳選してまとめている。前作の「増補改訂版」も併読いただければ、より理解が深まると思う。

健康・快適な室内環境が家づくりの最重要課題に

本書で取り上げるエコハウスの究極目標はただ1つ。「暖かく涼しい健康・快適な暮らし」を「いつまでも最小のエネルギーコスト」で「全ての人」に届けることである。

大前提として、家づくりで最も重視するべきは、建て主の「生活」。これはずっと昔から変わらない。苦労してお金を工面し実際に家を建てるのは建て主なのだ。
一方で、家づくりを取り巻く状況は、刻一刻と変化している。増補改定版の発行から5年がたち、近年のヒートショック問題や2020年冬からの新型コロナウイルス問題をきっかけに、住環境が健康にもたらす悪影響の深刻さは広く知られるようになった。
もはや、不健康・不快な室内環境を「ガマンしてはいけない時代」に入っているのだ。家族みんなが健康・快適に暮らせるよう、室内の温熱環境や空気質を上手に整えることが、住宅の最優先事項の1つであることをくれぐれもお忘れなく。

新型コロナ問題で生活の中心は再び住宅に

最近まで、住宅はコンパクト化が進んでいた。共働きが増えて交通の便利さが重視され、都心に近い高額な狭い敷地にコンパクトな住宅を建てることが主流となった。日中は家族全員が外出し、家では食事や団らん、就寝がもっぱらのライフスタイルであれば、狭い住宅でもさして問題なかった。
しかし、新型コロナ問題により、感染拡大予防のために在宅勤務が増加した。それまで受け入れられていたコンパクトでオープンな住宅プランでは、ウェブ会議をするにもプライバシーの確保が困難。在宅勤務なら利便性の高い場所にこだわる理由もなくなるのだから、郊外の割安な広めの土地に、プライバシーを確保しつつ長時間過ごすためのゆとりのある家づくりを希望する人も増えると予想される。
再び生活の中心舞台となる住宅では、長時間在室しても電気代の心配がいらないよう、しっかりしたエネルギー計画も必要となる。エコハウスの重要性は、ますます高まっているのだ。

エコハウスを実現できなかった住宅・エネルギー業界

こうしたエコハウスは、住む人のためにあり、また、みんなが住めないと意味がない。お金持ちだけが健康・快適に安い電気代で暮らせるというのでは、まさに「最悪の格差社会」である。これには、住宅やエネルギーを取り巻く政策や産業界の動きが深く関係してくる。
残念ながら、誰でも当たり前にエコハウスが建てられるようになることを、つくり手である住宅産業に丸投げしていては、エコハウスに住める可能性は低い。建て主みんながしっかり勉強して、エコハウスを確実に建ててくれる設計者・施工者を見つけ出す努力が不可欠なのだ。

本書では、家づくりに関係する制度やその背景、歴史などを踏まえながら、業界に付度しない中立的な視点でエコハウスを考えているので、安心してお読みいただきたい。
なお、本書はこの思い切った(?)タイトルから、「エコハウスなんかいらない」と主張するトンデモ本の類と誤解されることも少なくない。しかし、科学的にエコハウスを考える至って真面目な本なので、くれぐれもお間違えなく!

全ての人がエコハウスで暮らせる幸せな時代

近年の住宅の進歩は急速である。高性能部材の低廉化と設計手法の高度化によって、低コストで健康・快適な家をリーズナブルに建てることは十分に可能になっている。
住宅産業の「ウソ」に惑わされることなく、優良な住宅設計者・施工者と巡り合うことができれば、かつては理想でしかなかったエコハウスを「ホント」にできる、素晴らしい時代なのだ。この素晴らしい時代に家づくりができる幸運を最大限に生かし、理想の生活を手に入れていただきたい。本書がそのお役に立てることを、心より祈念する。
前真之

予備知識1
サーモ画像の見方
「サーモ画像」は物体表面から放出される遠赤外線を可視化したもので、表面温度分布を分かりやすく見せてくれる。ただし印象的な分、いいかげんな比較がされている場合も多い。本書では冬・夏ごとに温度レンジをそろえて温度線形処理を行うことで、異なる画像でも季節ごとに同じ色が同じ表面温度となるよう工夫している。

(使用機材:FLIRT62080度超広角レンズ)
冬温度レンジ5~35°C
夏温度レンジ10~40°C

予備知識2
エネルギーと熱は同じ単位
住宅の周りでは、様々な種類のエネルギーが互いに変換され、人が必要とする用途に活用されている。原子力を除く全エネルギーの大元は、地表に降り注ぐ「太陽エネルギー」である。これを過去の植物が光合成で固定化し、地中に埋没していたものが「化石燃料」である。
様々な種類のエネルギーや熱は相互に変換が可能であり本質的に同じなので、エネルギー量と熱量は同じ単位となる(熱エネルギーという呼び方は物理的に不適切なので、本書では単に熱と呼称する)。本書では、エネルギー・熱の単位としてkWh(キロワットアワー)を基本として用いている。

予備知識3
エネルギー量の単位Wh/Jとパワーの単位W
1kWh(キロワットアワー)は、1kW(キロワット)のパワーの「電力」を1時間だけ流した場合に消費されるエネルギーの量「電力量」を表す。
エネルギー量・熱量の単位には、他にJ(ジュール)がある。建築物省エネ法やZEH(ゼッチ)では、一次エネルギー量の単位としてMJ(メガジュール)を用いている。ガスや石油などの化石燃料を3.6MJ分燃やすと、1kWhの熱を得られるが、発電所はその熱の一部(約37%)しか電気に変換できないため、9.76MJの一次エネルギーが消費してようやく1kWhの電気がつくれることになる。
本書ではなるべく分かりやすくするため、消費電力量や熱量をWh、一次エネルギー量をJで表記した。1W(ワット)は1秒に1Jを消費することなので、1kWh=1kW×3600秒/h=3.6MJ(メガジュール)と換算できる。
※1G(ギガ)=1,000M(メガ)=1,000,000k(キロ)=1,000,000,000

エネルギーの量=J(ジュール)またはWh(ワットアワー)
ジュールは石油やガスの熱量(一次エネルギー)、ワットアワーは電気の量に用いられることが多いです。
いずれも同じくエネルギーの量を表します。
1Wh=3.6kJ、1kJ=0.28Whで換算ができます!

仕事率W(ワット)=J(ジュール):秒
ワットは1秒間に消費されるエネルギーの量を表します。
仕事率というとピンときませんが瞬発力・パワーのようなものと考えてください。
能力のワットの値が大きい機器は、強力に暖冷房や給湯を行うパワーがありますが、電気やガスのエネルギー供給に必要なワットも大きくなります。

仕事率W(ワット)×時間=エネルギーの量Wh(ワットアワー)
ワットに時間をかけると、またエネルギーの量に戻ります。
100Wの電気を消費するテレビを1時間見るには、100W×1h=100Whの電力量が必要になります。
本書での1kWh当たりの買電単価は28円(2019年全国平均)。
電気をためるバッテリーの容量もWhで表すのが一般的です。

前 真之 (著)
出版社 : 日経BP (2020/8/27)、出典:出版社HP