イスラエルがすごい―マネーを呼ぶイノベーション大国―(新潮新書)

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国際社会に対する視野狭窄を解消する

著者はドイツ在住で欧州に見識があり、日本人として日米中の利害関係を考慮した上で、イスラエルの経済について述べている。特に、中国とドイツのイスラエルに対する動きに着目することで、より広い視点から国際情報に目を向けることができる。

熊谷 徹 (著)
出版社 : 新潮社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

 

はじめに

私はNHKで8年間記者として働いた後、1990年からドイツのミュンヘンに住み、フリージャーナリストとして欧州諸国について取材、執筆を行っている。その過程でハイテク立国イスラエルにも強い関心を持ち、2003年以来8回訪れた。なぜイスラエルなのか。その理由をご説明しよう。
21世紀に最も重要な資源は、石油や天然ガスではなく、「知識」と「独創性」だ。多くの日本人は感じていないかもしれないが、世界中で知的資源の争奪戦が始まっている。今年建国から70周年を迎えたイスラエルは、知恵を武器として成長する国の代表選手である。
このため欧米では2010年頃からイスラエルに対する関心が急激に強まっており、多くの有名企業がこの国に投資して、独創的なテクノロジーを持つ小企業を次々に買収している。今日イスラエルは、米国のシリコンバレーに次いで、世界で2番目に重要なイノベーション拠点となった。
私が注目しているのは、米国やドイツだけではなく、中国が近年イスラエルとの関係を緊密化している点だ。貿易額、投資額ともに急速に増えつつある。経済のデジタル化を進める中国は、イスラエルのテクノロジーを吸収しようと必死である。
日本では、イスラエルの変貌や、同国に殺到する欧米企業、中国企業の動きについて詳しく知っている人は数少ない。イスラエルという国名を聞くと、大半の日本人は「ハイテク大国」というイメージを抱くのではなく、まず「テロや戦争が絶えない危険な国」と考えてしまうのではないか。イスラエルにテロの危険があることは事実だが、それだけでこの国を判断することはできない。テロの危険は欧州や米国も同じことである。私は、日本人が旧態依然とした先入観にしがみついていたら、イスラエルというハイテク立国をめぐる国際的な潮流に取り残される恐れがあると感じている。日本の一部の大企業は、2017年頃からようやくイスラエルの重要性に気付き始め、資本参加や拠点の設置を始めたが、欧米や中国に比べて大幅に出遅れたことは否めない。
私は28年前からドイツで働いている。外国から定点観測を行うことの利点は、日本だけに住んでいたらわからない複眼的な思考、新しい物の見方が可能になることだ。私がイスラエルに対するドイツ・中国の強い関心や、同国のバイタリティに気づいたのも、ドイツからイスラエルを訪れ、この国について学んだからである。
私は、国際情報に対する視野狭窄症が日本社会に広がっていることに、強い危惧を抱いている。したがって本書の狙いは、イスラエルをめぐるドイツと中国の動きを追うことによって、そうした視野狭窄を克服する一助とすることにある。
2018年11月
ミュンヘンにて熊谷徹

熊谷 徹 (著)
出版社 : 新潮社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

 

イスラエルがすごい◆目次

はじめに

第1章 中東のシリコンバレー―日本人が知らないイスラエル
東京23区に満たぬ人口しかない小国が飛躍的成長を続けている。毎年約1000社のベンチャーが起業、巨額の投資が流れ込む。そのGDP比率、世界一。この国で何が起こっているのか。

第2章 イノベーション大国への道―国家戦略と国民性
もはや米国に次ぐイノベーション大国であるイスラエル。その強力な牽引力は世界屈指の軍事・諜報関連技術だ。中核を担う超エリート電子諜報機関を解剖し、イスラエル人の精神を探る。

第3章 恩讐を超えて―関係を深めるドイツ
イスラエルに対して各国が接近を図る中、最も緊密な関係を築いたのは、ユダヤ人虐殺という悪夢の過去を持つドイツだった。いかにして両国は過去を克服し、信頼関係を構築できたのか。

第4章 急接近する中国―一帯一路だけではない
欧米からの巨額投資を呼び込む一方、アジアとの貿易強化を図るイスラエルと近年、蜜月期にあるのが中国だ。同時に中国が次々と行うドイツでの企業買収。三国の連携が生むものとは。

第5章 出遅れた日本―危機とビジネスチャンス
ドイツや中国に比べると、完全に出遅れた感のある日本の対イスラエル戦略。その原因を解明するとともに現状を報告、今後日本が取るべき道を明示する。

おわりに
参考文献

熊谷 徹 (著)
出版社 : 新潮社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

 

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