カラー図解 地球科学入門 地球の観察――地質・地形・地球史を読み解く

【最新 地球科学について学ぶためのおすすめ本 – 中高の基礎科目から大学レベルまで】も確認する

ビジュアルで楽しみながら学ぶ

地球科学のこれまでの知見や資料を網羅した決定版です。そもそも地球とはどんな惑星か、そんな地球の歴史から順に徹底的に解説されています。さらに、フルカラーで写真や図が多いため、視覚的に理解しやすいです。初学者から基本を復習し直したい中級者まで幅広い方におすすめの1冊です。

平 朝彦 (著), 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 (著)
出版社 : 講談社 (2020/11/19)、出典:出版社HP

はじめに 観察の重要性

私たちは、科学技術を用いて、宇宙の果てから太陽系、分子、原子、そして物質の最小単位まで、広大な時空と生命の謎を解き明かしてきた。近年、コンピュータとそれをつなぐネットワークの発達によって莫大なデータを処理できるようになり、これまでの帰納、演繹という伝統的な手法から、データサイエンス、予測科学、そして人工知能という未知の領域開拓を可能とする手法も使えるようになった。それらを用いての経済発展、社会改革、そして人間の進化に繋がるあたらしいイノベーションが起こってきた。
一方、私たちは今、地球史における最大の規模の変化をこの惑星に引き起こしている。地球創成期に、惑星どうしの衝突による月の形成、原始生命の誕生、光合成生物の発達による酸素大気の発生、隕石の衝突による恐竜の絶滅など、地球史では劇的なイベントが幾つも起こった。しかし、人間(ホモサピエンス)の発展がここ100年ほどの間に地球に与えてきたインパクトは、質的に全く異なるものであり、新しい地質時代の到来(これを人新世という)として理解されつつある。これから、地球と私たちの未来に何が起こるのか、新たな俯瞰的な科学の視点で見直す必要が生じている。そして、私たちの住処である地球とは一体どういう星なのか、深く理解することが今、強く求められている。

本書は、科学の原点である「観察」という最も基本的な手法を基軸に、主に固体地球と呼ばれる部分、特に地殻の地形、地質、地球物理的な特徴、そして地球史の解読について、豊富な映像資料と写真、地形図などを用いて、学生諸君、教育現場の方々、そして自然に興味のある人々に向けて解説したものである。地球で起こる現象は複雑であり、現在起こっていることは、過去を解く鍵でもあり、また時には、全く通用しない偏った知識でもある。地球で起こる現象の本質に迫るには、深い洞察が求められる。深い洞察は、注意深い、また、時に発想の転換を背景とした、鋭い観察から得られる。私は、推理小説などで見かける“現場百度”(事件の現場は百回訪れて、見逃しがないか、また、仮説は立証できるのか、粘り強く推理を組み立てる)という言葉が好きである。特に、地層の露頭における観察は、さまざまな見方ができるので、何度も現場に足を運び、また人に説明することによって、考えをまとめたり、問題点を洗い出したりすることができる。観察という手法は、データを解釈したり、画像を読み取ったりする際にも基本となる。例えばGoogleEarthは、全地球の観察を可能とするツールであり、実に興味深い情報がそこに存在している。太陽系の他の天体においては、探査機による画像の観察が最も重要な科学の基礎となっている。

本書の構想は、15年以上前から私のなかに芽生えており、特に地層の観察をビデオで撮影し、電子媒体を利用して、できるだけ多くの学生諸君や学校の先生方の役に立つものにしたいと考えていた。2001年から2007年にかけて執筆した3冊の大学生向け教科書、『地質学1地球のダイナミックス』、『地質学2地層の解読』そして『地質学3地球史の探求』の副読本として、映像や写真で書籍の記述と現場のフィールド体験とを合体させる、という構想でもあった。したがって、本書と上記3冊は今でも相補的な関係にあることに変わりない。
本書の制作の道のりは簡単ではなかった。まず、同時進行的に起こったデジタル撮影技術の進歩があり、インターネットの急速な普及、そしてパソコン、タブレット、スマートフォンなど利用する電子機器の大きな変化である。一方、本書の内容も、海陸の境界を無くして、地球全体を眺めるという目的を達するために、カバーする領域も増え、だんだんと膨大なデータ量となっていった。全体を簡潔に俯瞰できるという紙媒体の特徴と、動画や多数の写真データを有機的に組み合わせるために、紙冊子体(カラー図解と用語解説)、特設サイトにアップロードした補足部分(図の補足説明、参考文献、写真)、YouTubeにアップロードしたビデオ動画と、異なる媒体を使うこととなった。本書の使い方の手引きは、P8にまとめてあるので、それを参照しながら活用して頂きたい。

私の高校の先輩である電子通信工学の碩学西澤潤一先生は、「真実は、机上にあらずして、実験室にあり」と教えたという。私もこの言葉を借りて、本書の目標を次のようにまとめたい。「真実は、机上にあらずして、フィールドにあり」。本書が、読者自らの地球観察の旅の良きガイドとなれば、それ以上の喜びはない。

2020年11月
平朝彦

平 朝彦 (著), 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 (著)
出版社 : 講談社 (2020/11/19)、出典:出版社HP

目次

はじめに 観察の重要性
1章 地球を眺める海洋底と大陸の大地形
1.1 大地形の概観
1.2 プレートテクトニクス
1.3 中央海嶺とトランスフォーム断層
1.4 海溝、島弧、背弧海盆
1.5 海山と海台
1.6 海洋地殻の誕生と消滅
1.7 海洋プレートの行方とマントル対流
1.8 ヒマラヤ山脈、チベット高原、タリム盆地
1.9 北米の山脈とベースン・アンド・レンジ
1.10 アフリカ大地溝帯

2章 海底の世界
2.1 東北日本太平洋沖の海底
2, 2駿河トラフから南海トラフにかけての海底
2.3 相模トラフと東京海底谷
2.4 沖縄トラフの海底
2.5 フィリピン海プレートと太平洋プレート
2.6 熱水活動の驚異
2.7 深海の生態系

3章 地層のでき方
3.1 地層のできる場所
3.2 地層の形を見る
3.3 堆積構造のでき方
3.4砂丘の観察
3.5 崖錐、扇状地、三角州の堆積環境
3.6 河川で堆積構造を観察する
3.7 海岸、干潟、浅海の堆積環境
3.8 乱泥流とタービダイト

4章 火山の驚異
4.1 マグマと火山活動
4.2 さまざまな火山活動
4.3 ハワイ島 一火山の世界遺産一
4.4 伊豆大島にて
4.5雲仙火山の歴史
4.6 阿蘇火山および九州のカルデラ群

5章 プレートの沈み込みと付加体の形成
5.1南海トラフの地形
5.2 反射法地震波探査からみた南海トラフの構造
5.3南海トラフの地質一深海掘削の成果
5.4 地震発生帯を調べる
5.5付加体のモデル実験
5.6 四万十帯 一謎の地層の解明
5.7四万十帯の起源
5.8 メランジュの成因

6章 地質学的に見た東北地方太平洋沖地震・津波
6.1 海底の大変動
6.2 「ちきゅう」による掘削
6.3 巨大津波による浸食と堆積
6.4 地盤の液状化
6.5 日本列島の地震テクトニクス

7章 地球史と日本列島の誕生
7.1 地球史の概観
7.2 最古の岩石と地層の記録
7.3 酸素大気の蓄積
7.4 真核生物の進化
7.5大陸移動、陸上生物の発展、人類の時代
7.6 日本列島の地質
7.7 日本列島誕生のシナリオ

8章 海洋・地球を調べる
8.1 地球の観測と探査
8.2 「ちきゅう」の船上にて
8.3海底下の地震波探査
8.4 海洋の探査と観測
8.5試料の採取と分析
8.6 地下生命圏に挑む
8.7 計算地球科学について

おわりに
さくいん
別冊) 用語解説

column
column1 Google Earth 地球・火星・月を観察する 平朝彦
column2 海底地形を“表現”する 木戸ゆかり
column3 大陸移動の復元と原動力 柳澤孝寿
column4 有人潜水船「ノチール」 日仏海溝計画 平朝彦
column5 世界の熱水活動を語る 川口慎介
column6 海底表面で起こっていること 小栗一将
column7 化学合成生物群集 豊福高志吉田尊雄 土田真二 長井裕季子
column8 鯨骨生物群集 藤原義弘河戸勝宮本教生
column9 日本海溝の地層を調べる 金松敏也
column10 有孔虫の世界 木元克典
column11 南海トラフ付加体の 3次元断面と深海掘削 倉本真一
column12 付加体モデル実験 山田泰広
column13 Nan TroSEIZE 木下正高
column14 JFAST物語 江口暢久
column15 東北地方太平洋沖大震災 津波シミュレーション 馬場俊孝
column16 鉱床と地球史 野崎達生
column17 真核生物の進化 灑下清貴
column18 チョークと黒色頁岩 黒田潤一郎
column19 1000年スケール気候変動: 大気-海洋循環 原田尚美
column20 マントル対流、 プレートテクトニクス、 大陸集合・分裂 吉田晶樹
column21 LWD(掘削同時検層)について 真田佳典
column22 JFAST長期孔内観測システム 許正憲
column23 DONET:深海底の リアルタイム観測技術 川口勝義
column24 AUV/ROV技術について 吉田弘
column25 人類のマントルへの到達: マントルと生命との関わり、 そして地球の未来とは何か 稲垣史生 阿部なつ江
columnn26 粒子・流体シミュレーション 西浦泰介
column27 シミュレーションと可視化 松岡大祐

平 朝彦 (著), 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 (著)
出版社 : 講談社 (2020/11/19)、出典:出版社HP

本書の使い方

QRコード・URLでの動画リンクについて

「カラー図解」の写真や図には、QRコードが付されたものがあります。
これは著者が、その地に赴き、また実験を行った映像を詳細に解説した動画が収録されています。
QRコードを読み込むと「YouTube」のリンクへと移動することができます。またPCから見たい方は、下記の〈特設サイト>に「動画URL一覧」をアップロードしました。URLをコピーして、PCに入力してください。本書を読み進めるとともに、より詳しく知りたい項目は、動画での解説を見ることで、内容についてより理解が深まることを目指しています。

「用語解説」について

後半に収録されている「用語解説」は、小冊子として取り外すことができます。
本書の骨子となる「カラー図解」は写真や図、映像を中心にして内容がまとめられており、その際、テキストをできるだけ簡素化しました。そのため本文中には、専門用語が直接的に用いられています。この「用語解説」は、専門用語や図版をより詳細に解説するもので、「カラー図解」を読み進めながら、サブテキストとして使用できるようになっています。また、解説を付した用語は、「カラー図解」の文中に水色の文字で書かれています。

コラムについて

より丁寧な解説が必要だと思われる節には、それぞれの分野の専門家による「コラム」を配置しています。本書に掲載されているコラムは簡略化しています。より詳しく知りたい方のためにコラム全体を、本書の〈特設サイトに、PDFでアップロードしました。

補足写真について

本書には多くの写真が掲載されていますが、それは調査などで撮影した写真の一部です。
そこで、内容をより深く、詳しく理解したいという読者に向けて、その項目に関連した写真を、下記の《特設サイト)に収録しました。
また、図版や本文中に補足の写真を用意した項目には、それが分かるように(補足写真)というように記述しています。*補足写真は、節ごとに分類し、それぞれの章ごとにまとめて掲載しています。こちらも、ぜひ活用してください。

図引用一覧 参考文献一覧について
本書で引用使用した図版や、参考文献の一覧は、下記の特設サイトに収録しています。

〈特設サイトURL〉https://bluebacks.kodansha.co.jp/books/9784065216903/appendix/

chapter1 地球を眺める海洋底と大陸の大地形

人間が初めて別の天体から地球を眺めたのは、アホロ11号による月面着陸の時である。荒涼とした月面から見えた美しい青い星、それが地球である。舎や海を取り除くと、地球の別の姿が現れる。地球の表面大地形である。大地形は、大きく大陸と海洋底に区分できる。両者の平均的な高度の違いは明瞭であり、また、地形の様相も大きく異なる。日本列島は、最大の大陸と最大の海洋底の境界域に存在している。このような大地形は、大陸と海洋底の根本的な成り立ちの違いを表しており、プレートテクトニクスによって説明できる。

平 朝彦 (著), 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 (著)
出版社 : 講談社 (2020/11/19)、出典:出版社HP