スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる

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基礎理論から学ぶ

アスリートのパフォーマンスを向上させるための食事摂取法や運動との組み合わせなど、基礎となる理論を紹介しながら細胞・分子レベルで解説していきます。メソッドやマニュアルではなく、科学的根拠のある基本理論を理解することができるので、現場に応用して活用することができるようになります。

寺田 新 (著)
出版社 : 東京大学出版会 (2017/10/25)、出典:出版社HP

スポーツ栄養学: 科学の基礎から「なぜ?」にこたえる

Molecular and Cellular Sports Nutrition
Shin TERADA University of Tokyo Press, 2017
ISBN978-4-13-052706-4

はじめに

一流のスポーツ選手が繰り出す超人的とも思える数々のパフォーマンスに私たちは魅了され,感動する.2016年のリオオリンピック・パラリンピックも終わり,いよいよ2020年の東京オリンピック・パラリンピック,さらにはその先の大会にむけて,各競技団体もメダル獲得のための強化に本腰を入れ始めている.では,そのようなスポーツ選手の競技パフォーマンスを向上させる方法にはどのようなものがあるのだろうか。たとえば,一流選手の動作を解析し,無駄のない効率の良い動きを獲得するために,スポーツバイオメカニクスと呼ばれる「身体の動き」に着目した研究が行われている.また,効果的なトレーニング方法を確立したり、一流選手のさまざまな生体機能を測定し,どのような能力が優れているのかということを解明したりするトレーニング科学や運動生理学といった分野も存在する。さらには,スポーツ選手がほどよい緊張のなかで最高のパフォーマンスを発揮できるように心理面からサポートを行うスポーツ心理学も注目を集めている。このように近年のスポーツ科学研究の発展にともない、多くの競技選手がいわゆる「科学的トレーニング」と呼ばれる手法を積極的に活用するようになっている。また最近ではランニング愛好者が急増し、空前のマラソンブームとなっていることなどもあり,トップアスリートだけではなく,一般のスポーツ愛好者の多くが、スポーツ活動をより楽しく行うためにその成果を積極的に活用しはじめている.本書はそのような,近年目覚ましい進歩を遂げているスポーツ科学のなかでも「スポーツ栄養学」と呼ばれる分野について解説するものである。
スポーツ栄養学とは、「スポーツ選手のパフォーマンスを向上させるためには,どのような内容の食事をどのように摂取したらよいのか?」,「運動と食事をどのように組み合わせれば、健康の維持・増進につながるのか?」ということを解明し,実際にアスリートのパフォーマンスや一般の人びとの生活のために役立たせることを目的とした応用科学・実践科学であるというのしたがって、近年出版されているスポーツ栄養学に関する書籍の多くが「各種スポーツ活動をサポートするためにはどのような食事を準備すべきれのか」といった実用的な内容のものであった.本書では,そのような実用的な内容というよりも、スポーツ栄養学の基礎となる理論を紹介しながららに一歩踏み込んで「なぜそのように摂取すると効果的なのか?」というメカニズムを細胞レベル・分子レベルで解説することを目的として書かれている.このようなメカニズムを知ることは,その栄養学的手法が本当に理にかなったものであるのかどうかを自ら判断できる能力を養うことにつながるためである.
本書は、著者が東京大学教養学部後期課程統合自然科学科において担当している「スポーツ栄養学」の講義内容の一部をまとめたものである.スポーツ栄養学の分野は日進月歩であり,毎月、毎日のように新たな研究成果が報告されており、講義ではその内容も随時紹介・解説している.本書でも,まだ完璧とはいえず、可能性の段階の手法も含めて,できるだけ最新の研究成果も解説するように心がけた。ぜひスポーツ栄養学の学問分野・研究分野としての魅力も感じていただければ幸いである。「東京大学出版会の丹内利香氏には、本格的な本の執筆が初めての経験であった著者を、企画の段階から粘り強くサポートしていただき,大変お世話になった.また,東京大学に着任後,研究室の初期メンバーとして著者をサポートし,研究を精力的に進めてくれた,松岡智子氏,野中雄大氏,稲井真氏,西村脩平氏,浦島章吾氏,近藤早希氏,深澤歩氏,横田悠天氏,普段一緒に研究活動をしていただいている東京大学の八田秀雄教授と八田研メンバーには深く御礼申し上げる.最後に,同じスポーツ栄養学分野の先輩研究者であり、公私にわたりサポートをしてくれている妻の木村典代(高崎健康福祉大学教授)への感謝の気持ちをここに付け加えることをお許しいただきたい.
2017年 寺田新

寺田 新 (著)
出版社 : 東京大学出版会 (2017/10/25)、出典:出版社HP

目次

はじめに
序章 スポーツ栄養学とは?
スポーツパフォーマンスと健康のための食事の重要性 2/スポーツ栄養学に対 する間違ったイメージ 4/スポーツ栄養学に関する知識の必要性 5/スポーツ 栄養学の学問としての魅力7
コラム1 世界と日本におけるスポーツ栄養学の歴史

第1章 身体組成と体脂肪・脂肪細胞の種類
1.1 肥満の指標と身体組成
肥満を客観的に判断する BMI 13/身体組成16/体脂肪量の測定法―生 体電気インピーダンス法16/体脂肪量測定のゴールドスタンダード 19/スポーツ選手における身体組成の測定
1.2 体脂肪の種類
内臓脂肪と皮下脂肪 25/「貯める」脂肪と「使う」脂肪28/第3の脂肪細胞 ベージュ脂肪細胞33/運動と褐色脂肪細胞,ベージュ脂肪細胞34
コラム2 若年女性の痩せ問題

第2章 エネルギー消費量と摂取量
2.1 エネルギー消費量
カロリーとは?39/運動によるエネルギー消費40/3つのエネルギー消費 量 42/基礎代謝量 43/食事誘発性熱産生48/運動時のエネルギー消費量の測定法51
2.2 エネルギー摂取量
・・・55 エネルギー摂取量・食欲の調節 55/「腹八分目」で得られる効果――エネルギー摂取量の制限と長寿効果 61/アスリートにおけるエネルギー有効性 常な生理機能と骨密度を維持するために 64
コラム3 脂肪研究最前線

第3章 糖質——パフォーマンスと健康のための三大栄養素摂取法(その1)
3.1 運動と糖質
「糖類」,「糖質」,「炭水化物」の違いは? 73/運動時における糖質の重要性 74/筋グリコーゲン量を高める――グリコーゲンローディング77/運動前の地 質補給に関する注意点 83/運動後のグリコーゲン回復 86/運動中の糖質の利用を減らすためには? 92/持久的トレーニングの効果を高める方法 ―Training-Low, Compete-High 法, Sleep-Low法
3.2 糖尿病と運動・栄養
糖尿病の原因は? 98/運動・栄養による糖尿病予防効果 101/糖質制限食の効果 102/食物繊維の効果 105 コラム4 栄養素の組み合わせによる相乗効果・相殺効果

第4章 たんぱく質——パフォーマンスと健康のための三大栄養素摂 取法(その2)
4.1 筋肉とたんぱく質.
「たんぱく質」,「アミノ酸」,「ペプチド」の違いは? 111/筋肥大のメカニズ ム 112/筋力の生理的限界・心理的限界 117/骨格筋の膨張現象――パンプア ップとは? 119/たんぱく質の分解と合成――動的平衡119/運動による筋たんぱく質の分解と合成 122
4.2 たんぱく質の摂取法
たんぱく質の摂取量 124/良質なたんぱく質とは? 126/たんぱく質摂取のタ イミング129/プロテインサプリメントの効果 132/たんぱく質摂取の効果を 高める方法 134/たんぱく質の過剰摂取による影響136/たんぱく質摂取の例 果に関する最近の話題 138/減量・怪我による骨格筋の萎縮140
コラム5 たんぱく質の摂取量を減らしたほうが良い?

第5章脂質——パフォーマンスと健康のための三大栄養素摂取法(そ の3)
5.1 脂質の種類と健康
「脂肪」, 「油」,「脂」,「脂質」の違いは? 149/脂質のおいしさ150/脂肪酸 の種類 152/脂肪酸の種類による効果の違い154/トランス脂肪酸とは? /脂質はどれくらい摂取すべきなのか?
5.2 運動と脂質
スポーツ選手にとっての脂質摂取 172/長期的な高脂肪食摂取に対する骨格筋 の適応 173/高脂肪食摂取と疲労・パフォーマンス 175/低糖質・高脂肪食=ケトン食の効果 177/運動後の疲労回復と脂質摂取 182
5.3 特殊な脂質——機能性脂質
通常の油脂の消化・吸収の仕組み184/中鎖脂肪酸の効果 185/ジアシルグリセロールの効果 190
コラム6 Exercise mimetics

第6章 運動中の水分摂取法とスポーツドリンクの効果
6.1 発汗作用と体温調節
1日の水分出納197/運動時の体温上昇と体温調節 199/夏場の発汗量とパフォーマンスへの影響202/体水分量を調節するメカニズム205
6.2 スポーツドリンクの効果
スポーツドリンクの組成209/スポーツドリンクに含まれる糖質 211/糖質飲 料で口をすすぐーマウスリンス 213/スポーツドリンクの主な種類——ハイポトニック vs. アイソトニック
コラム6 マラソンと体型,熱放散との関係

第7章 パフォーマンス・健康とサプリメント
薬機法と食品衛生法による分類 219/サプリメントの分類223/パフォーマン ス向上を目的としたサプリメントエルゴジェニックエイドを活用する際の注 意点224/サプリメントについてのエビデンス(科学的根拠) 226/サプリメ ントの情報源231/代表的なエルゴジェニックエイドの効果232/スポーツ選手がサプリメントを活用する際の心構え236
コラム8 効果的な食事・栄養素摂取法の確立にむけて

索引

寺田 新 (著)
出版社 : 東京大学出版会 (2017/10/25)、出典:出版社HP