行動経済学入門

行動経済学を知る6冊 – 入門・基本から最先端・応用まで –も確認する

はしがき

「実は昔から、心理学に興味があるんです」 経済学と心理学の境界領域を研究していると話すと、よくそう言われます。人間の心のメカニズムは、多くの人の興味を引くようです。人の心について知るには、直接的には 心理学を学ぶのがよいのかもしれません。しかし実はその試みは、人間の行動を研究対象とする社会科学全体で行われていることです。
行動経済学は、経済学という考え方の枠組みをスタート地点にして、人の心の動きを理解しようとするものです。したがってみなさんは、行動経済学の教科書である本書を通 して、行動経済学だけでなく標準的な経済学の考え方をも身につけていくことになるでしょう。

経済学は複雑な社会現象をできるだけシンプルに捉えるために、様々な仮定を置 きます。自然な仮定のときもありますし、到底納得できないような仮定のときもありますが、これらによって経済学という枠組みができています。この枠の中で、時には仮定を 見直して枠を少しずつ広げながら、人の心の不思議について理解を深めていこうとするのが行動経済学です。

行動経済学が明らかにした、人間の行動や意思決定に関する面白い話はたくさんあります。本書ではもちろんそれらを紹介します。しかし同時に、その発見が経済学という枠 組みにどのような影響を与えたのかということも重要な話題です。ぜひそのことも意識しながら、行動経済学の世界を楽しんでください。

本書では、まず第1章で行動経済学が生まれた背景を紹介します。行動経済学が何を目指しているのかと、その問題意識が理解できることでしょう。続く第2章では、私たちの 意思決定のクセについて知ることができます。第3~5章では、時間選好、危険回避、社会的選好という行動経済学の基幹部分を学修します。第6章は、私たちにとって最も身近 な「お金」にまつわる意思決定の話題です。

第7章以降は応用的なトピックスです。第7章はファイナンスに関する話、第8章は幸福度に関する話を紹介し、第9章では、実際に現 実世界で使われている行動経済学に触れます。これらを網羅した教科書は珍しいと思います。

この教科書はできるだけ平易な文章で書かれており、平均的な大学生が、特に予備知識がなくても独学できるようになっています。統計手法や数理モデルを使用する部分はウ ェブ上の〈より進んだ内容〉に回すことによって、本文は易しく記述するよう心がけました。行動経済学を体系的に学びたいと思っているビジネスマンの方や、経済学に初めて 触れるような方にも、広く読んでいただければと思います。

本書の内容からさらに詳しく知りたい場合は、巻末のブックガイドなどを手掛かりに、より専門的な書籍へと進んで ください。それぞれの話題に特化した、優れた専門書が数多くあります。 著者たちは、近畿大学、甲南大学、大阪大学で行動経済学の講義を行っており、本書はそれらの講義内容をもとにして書かれました。

学部1~2年生向けの、入門的な行動経済学の授業の教科書として使えるものを目指して作ったつもりです。半期(15回)で使用する場合は、例えば第1章から第4章、または第1章から第5章を使っていただけると、分 量的にちょうどよいかと思います。〈より進んだ内容〉や「練習問題」は、授業の形態や受講生のレベルに応じて取捨選択してください。〈より進んだ内容〉は以下のウェブサ イトに掲載しています。

https://store.toyokeizai.net/books/9784492314975

本書の草稿は、甲南大学の筒井ゼミ、近畿大学の佐々木ゼミ、近畿大学のマルデワゼミの学生のみなさんに読んでもらい、分かりにくい点を指摘してもらいました。みなさん のおかげで、読みやすさは飛躍的に上昇しました。ありがとうございます。
また、いつも一番の読者としてたくさんの有意義なコメントと、細やかなチェックをしてくださった東洋経済新報社の矢作知子さんなしに本書は完成しませんでした。ここに深く感謝の意を表します。

この本の著者はいずれも、行動経済学を専門とする研究者です。細かな興味・関心は違いますが、行動経済学を面白いと思っているのは同じです。本書を通じて、みなさんと も「面白い!」を共有したいと思います。

筒井 義郎 (著) ,佐々木 俊一郎 (著), 山根 承子 (著), グレッグ マルデワ (著)
東洋経済新報社 (2017/4/28)、出典:出版社HP

目次 – 行動経済学入門

はしがき
第1章 行動経済学はどのようなものか
1 行動経済学とは何か
2 行動経済学の分野
3 行動経済学の方法
4 ホモエコノミカス:伝統的経済学の前提
5 ホモエコノミカスと行動経済学
6 なぜ伝統的経済学は合理性を仮定するか
7 ヒトは合理的か?:進化論と合理性

第2章 ヒューリスティクス
1 経済的な決定とヒューリスティクス
2 ヒューリスティクスのメリット・デメリット
3 代表性
4 利用可能性
5 係留と調整
6 フレーミング

第3章 時間選好
1 異時点間選択
2 時間割引率の測定方法
3 マシュマロテスト
4時間割引率の個人差
5 先延ばしと後悔のメカニズム
6 時間割引率のアノマリー
7 更なる分類:ナイーフとソフィスティケイテッド
8 生活の中の時間選好

第4章 リスク選好とプロスペクト理論
1 サンクトペテルブルクのパラドックス
2 期待効用仮説
3 危険回避
4 アレのパラドックス
5 確実性効果
6 小さな確率
7プロスペクト理論
8 参照点
9 価値関数
10 確率加重関数
11 プロスペクト理論の評価
12 エルスバーグのパラドックス

第5章 社会的選好
1 独裁者ゲーム実験
2 最後通牒ゲーム実験
3 最後通牒ゲーム実験と互酬性
4 信頼ゲーム実験と互酬性
5 違法副業ゲームと互酬性
6 公共財供給実験と社会的ジレンマ
7 公共財供給実験における互酬性
8 不平等回避性
9 行為の背後にある意図の重要性
10 文化と社会的選好

第6章 お金に関する経済心理
1 お金の経済的な意義・心理的な効果
2 お金を払う苦痛
3 メンタルアカウンティング
4 サンクコスト
5保有効果
6機会費用
7 「無料(フリー)」の価格の経済心理

第7章 行動ファイナンス
1 現代ファイナンス理論の概要
2 現実の金融市場と効率的市場仮説の反証
3 投資家心理とその市場結果への影響
4 投資家心理の市場成果

第8章 幸福の経済学
1 幸福の経済学の目指すもの
2 どのような人が幸福か 3 幸福感の順応
4 相対所得仮説 5 幸福のパラドックス

第9章実世界における行動経済学
1 行動経済学を役立てる
2 「ナッジ」する
3 デフォルトの力
4 コミットメントの力
5 色々なナッジ

ブックガイド

筒井 義郎 (著) ,佐々木 俊一郎 (著), 山根 承子 (著), グレッグ マルデワ (著)
東洋経済新報社 (2017/4/28)、出典:出版社HP