行動経済学~経済は「感情」で動いている~ (光文社新書)

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内容がギュッと詰まった新書

若干古めの新書となりますが、かなり濃い内容の新書となっております。人間の意思決定での最新研究内容は直近のものを手に取らなければなりませんが、行動経済学そのものの柱になる理論の説明は充実しています。

友野 典男 (著)
光文社 (2006/5/20)、出典:出版社HP

はじめに

経済は感情で動いている。
流行遅れと言われるのがイヤだからはやりの洋服を着て、はやりの音楽を聴き、はやりのレストランに行き、はやりの本を買う。BSEが怖いから、牛肉はなるべく食べない。株に投資する時にも最後は直感で決める。景気の良し悪しは肌で感じる。

老後に備えて計画的に貯金すれば、年金に頼らなくても困らないのに、つい衝動買いしてしまう。ダイエットした方が健康でいられることはわかっているのに、つい甘いものの誘惑に負けてしまう。掃除当番をサボって他の人に任せてしまえば楽なのに、サボると不快だからサボれない。たとえ誰も見ていなくても、良心が許さないからゴミのポイ捨てはしない。
経済行動を感情や直感で決め、経済を直感で把握する例は数多い。しかし、経済は感情だけで動いていると言っているのではない。

経済は心で動いている。
心と言っても、思いやりとか優しさとか人間性で経済が動いているというのではないし、道徳を主張するのでもない。心は知覚、認知、記憶、判断、決定、感情、意志、動機などを担っている。ハートというよりマインドである。
心は合理的推論や計算もするし、感情や直感も生み出す。心が人間行動を決定し、人間行動が経済を動かしているのであるから、経済は心で動いている。標準的経済学では、人は合理的な計算や推論によって行動を決定するとされている。
しかし感情や直感も重要な役割を果たしていることが次第に明らかになってきた。抜け目ない人々の合理的な損得勘定から、感情の役割も重視する方向への変化である。いわば「勘定から感情へ」という転換だ。

二〇〇二年一〇月、小柴昌俊さんの物理学賞と田中耕一さんの化学賞というノーベル賞ダブル受賞に日本中がわきかえっていた頃、ノーベル経済学賞の記事が新聞の片隅に載った。受賞者は米国人二人で、そのうち一人がプリンストン大学のダニエル・カーネマン教授であった。
カーネマンは、共同研究者にして親友であった故エイモス・トヴェルスキーと共に本書のテーマである行動経済学の最大の立役者である。しかし、わが国ではあまり知られておらず、経済学者からでさえ「カーネマンって誰?」という声が聞かれた。それから三年半の歳月が流れたが、わが国では事情はそれほど変わっているとは思われず、行動経済学はまだ市民権を獲得したとはいいがたい。

本書は、「勘定から感情へ」というテーマを通奏低音としつつ、行動経済学という新しい経済学の基礎について広く紹介し、検討することを目的としている。基礎といっても単なる入門という意味ではなく、構築物の土台・根元という意味を持つ。本書は、行動経済学の入門書であると同時に、経済行動の背後にある心理的・社会的・生物的基盤を探り、行動経済学の基礎を固めることを目指す。
行動経済学はまさに現在進行形の学問であり、今こうしている間にも新しい重要な貢献が生まれているに違いないから、このような小さな書物でそのすべてをカバーすることはできない。しかし本書によって行動経済学に関心を持つ人が少しでも増えてくれれば幸いである。

友野 典男 (著)
光文社 (2006/5/20)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 経済学と心理学の復縁……行動経済学の誕生
第2章 人は限定合理的に行動する……合理的決定の難しさ
第3章 ヒューリスティクスとバイアス……「直感」のはたらき
第4章 プロスペクト理論(1) 理論……リスクのもとでの判断
第5章 プロスペクト理論(2) 応用……「持っているもの」へのこだわり
第6章 フレーミング効果と選好の形成……選好はうつろいやすい
第7章 近視眼的な心……時間選好
第8章 他者を顧みる心……社会的選好
第9章 理性と感情のダンス……行動経済学最前線

主要参考文献

おわりに