たんなる熱中?それとも依存?ゲームのやりすぎを心配するとき (おそい・はやい・ひくい・たかい No.107)

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ゲームは諸悪の根源か?人生の救世主か?

ゲームと子どもの関係について、とても参考になります。子どもにとってオンラインゲーム以外の楽しいことがなかなかないことや、大人たちも余裕がないことなど、子どもたちがゲームにハマっていくその背景にあるものの指摘がひとつひとつ的を得ているように感じます。「ゲーム障害」という言葉で片付けず、丁寧に紐解き、対応していくための足がかりを得るのにとてもよい特集です。

〈おそい・はやい・ひくい・たかい〉を編むにあたって

お腹に子どもを宿したとき、「ああ、うれしいなあ」というだけで親として十分なのに、昨今は「育成プログラム」や「勉強ができない」「人とのつきあい方がヘタ」など、子育てをする親や学校で仕事をする教員を不安にさせている。
「通っていれば、それなりに大人になっていくはず」だった学校でも、「個性を大切に」といいながら、実態は、大人の都合でつくったものさしで子どもを「分けて、ならべて、ばらばら」にしていないか。「個性」ってのは、つくられた枠からはみだすことだ。その「はみだし」を先生も親もクラスの子どもも、認めあいながら、調整し、折りあい、ときに見逃し、助けあう。それでこそ、みんなが一人前になるはずなのだ。

それから、家庭は安心して寝起きできる場、地域は子どもたちの遊ぶ元気な声を聞ける場にしたい。野山や路地裏の暮らしや自然は、子育てを支えてくれることにも思いいたりたい。知らず知らず、いま大人たちは、子どもが子どもでいられる空間や時間をますます狭く窮屈にしてしまっているからだ。そこには、「安全」「保護」「指導」という「配慮」がある。でも、この「配慮」が続けば、子どもは死に体となって「生きる意欲」と「生きる意味」をどんどん減じていってしまうことになるだろう。
そんなことを思いながら、〈お・は〉は、これからも、つらいときや出口が見えないときにみなさんとはげましあい、ほんとうに役立つ「指針」「原則」「経験」「知識」を提供したい。ときには「常識」や「力を持つ者」への疑いや抗議、異議を折りこみながら。
それから、平和は「世界」「国家」より、「未来を生きる子ども」にこそ必要不可欠。それは、〈お・は〉の深い根っこに宿った祈念でもある。
〈お・は〉編集人/小学校教員 岡崎 勝

目次

〈おそい・はやい・ひくい・たかい〉を編むにあたって
たんなる熱中? それとも依存? ゲームのやりすぎを心配するとき
はじめにの前に
親子のゲームバトルはますます混乱する
〈お・は〉編集部
はじめに
「ほどほどにやればいい」が、なぜ難しいのか??
岡崎 勝(〈お・は〉編集人/小学校教員)
お父さん・お母さん、子どものデビューはいつ?どこから?
〈お・は〉的ゲームの四〇年史
監修関 正樹 (児童精神科医)/作成 〈お・は〉、編集部

I ゲーム×病気・障害―医療の面から見てみると
対談
手放せない! やめられない! 子どもの姿に「ゲーム障害」の不安がよぎったら
関 正樹(児童精神科医)
岡崎 勝(小学校教員)
ゲームのやりすぎは「病気」なの?
児童精神科医・関正樹さんに聞く①
Q 子どもがゲームをしはじめると、いうことを聞かなくなるのはどうして?
「依存」=ハマるのは、悪いこと?
児童精神科医・関正樹さんに聞く②
Q 子どもが「課金」したいといったら?
それでも、「気になってしまう!」ときは?

Ⅱ ゲーム×趣味・居場所―当事者の語りから
いじめにあった私の「支え」になったもの
紀伊菜檎 (会社員/イラスト作家)
不登校・ひきこもりからの「逃避先」として
吉岡真斗/仮名 (会社員)

Ⅲ ゲーム×教育・スポーツー社会と学校でいま起こっていること
座談会
ゲームもコンテンツ教育も「産業」として見るーそれはほんとうに「子どもの将来」のため?
自由すぽーつ研究所
岡崎 勝 (小学校教員)
土井峻介 (元中学校体育教員)
山本芳幹 (フリーランス・ライター)
ゲームと親子の移り変わり
学校で求められる「ゲーム」にまつわる学び
「eスポーツ」に見るゲームとスポーツ
おわりににかえて
肝心なのは「夢中になる」こと―山田太一脚本「早春スケッチブック」より
〈お・は〉編集部

次号予告
ジャパマホームページからのお知らせ
創刊のことば
編集後記
【アピール】原発のない日本を
〈ち・お〉&〈お・は〉を読む会リスト
〈お・は〉バックナンバー常備店
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〈お・は〉編集人・編集協力人
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はじめにの前に

親子のゲームバトルはますます混乱する

〈お・は〉編集部
コンピューター・ゲーム、いわゆる電子機器を使って遊ぶ「ゲーム」は、〈お・は〉の生まれる少し前から、親子のくらしに根をおろしました。
当初一〇年くらいは、親たちの多くは子どもたちの熱量に圧倒されながら、どうしたものかと戸惑ったりしていました。
なにしろ、そのおもしろさが皆目わからなかったのですから。
いま、現役のお母さん、お父さん方は、「いい加減にしなさい、時間を決めていたはずだよね!ルールを守れないなら捨てるよ!」などと親にいわれるほどに、のめりこみ楽しんだ思い出があるかもしれません。
それでも、わが子ののめりこむ姿を目の当たりにすると、不安にもなるのです。
部屋にこもって画面を見つめ、「ファック!」だの「殺れ!」だの耳タブを赤く染めて唸っている子どもは、健全に見えない。
さらに、ゲームが好きなら、将来ゲームの仕事に就いてくれたらいいのに……などと願ってしまう。それには勉強が必要。「ものには限度というものがあり、バランスが大事」とも思うのです。
そんなところが、昔もいまも変わらない親の本音の相場かもしれません。
……ああ、難しい。いまどきの親は楽しさを知っているだけに難しいこともあるでしょう。そんな声に推されるように「ゲーム障害」という「病気」が生まれました。
そして、親子のゲームバトルはますます混乱するのです。

はじめに

「ほどほどにやればいい」が、なぜ難しいのか?
岡崎 勝(〈お・は〉編集人/小学校教員)

大人の枠組みをくぐって子どもは遊ぶ

体育会系のボクは、家の狭い空間でごちゃごちゃゲームをやっている子どもを見ると、つい「外でしっかり遊んでこい!」といいたくなるのです。でも、子どもはきっと「大人に遊びのことまでとやかくいわれたくないよな!」と思っています。
ボク自身も子どものころはよく遊びについてしかられることがありました。それでも、反抗したり無視したりして遊んでいたのです。いつの時代も、子どもの遊びは大人から「攻撃」されるものなのです。
「子どもに健全な遊びを!」と叫ぶ親や大人の気持ちも十分理解できますが、その批判・監視・制限の枠組みをくぐって子どもたちは遊ぶだろうなと思います。それが、子どもと大人の自然な立ち位置なのかもしれません。
それに、そもそも「健全な遊び」ってなんだ? と思うのです。子どもは大人を安心させるために遊んでいるのではないのです。もちろん、子どもに全面的におもねる必要もありません。「いつまでやってるの!」「勉強しないならゲームやめなさい!」「ゲームソフトのお金もバカにならないのよ!」という思いを我慢する必要もないと思います。もちろん、子どもはいうとおりにはならないと思いますし、それをある程度予測しておかなければ疲れます。

親も自分の子ども時代を思いだしながら

ゲームに子どもはハマります。子どもがうまくハマるようにつくられています。トラブルもたくさんたくさん起こります。ゲームにかかわるケンカもあります。なぜか、ほとんどが男子ですが。
じつはボクも若き教員時代に「パックマン」には、なぜかハマりました。一九八○年代なかば、仲間につきあって行った職場の近くのボーリング場にゲームコーナーがあり、そこでやってみたら非常に楽しかったのです。何度も通いそのゲーム台にはボクの最高得点が記録されました。
いまはもうハマることはないのですが、ゲームは大好きです。楽しむ時間の余裕がないのが残念でなりません。たまに孫とやる Wii Uでは、常に「じいじ、そっちじゃない!ちがうってえええー、なにやっているのぉぉー」といわれつづけてめげています。
今回、テーマとしてとりあげたゲームは、まさしくデジタルネイティブである現代の子どもたちがハマって当然の選びです。だけど、メーカーの利益誘導の路線に乗せられやすいしくみがありますし、凝りすぎが「依存症」という病気にされるとあれば、親や教育係者の心配や不安はかなりのものです。
「程々にやればいい」のが、なぜむずかしいのでしょうか?ゲームをめぐる常識と非常識はあるのでしょうか?なぜ、ハマるのがゲームだといけないのでしょうか?
親も自分の子の時代を思いだしながら・・・いまの子どもたちのゲームへのかかわり方を考えてみてはいかがでしょう。

お父さん・お母さん、子どものデビューはいつ? どこから?

〈お・は〉的ゲームの四〇年史

監修 関 正樹 (児童精神科医)
作成 〈お・は〉編集部
お父さん・お母さんの子ども時代、あるいはじいじ・ばあば世代が若かりしときに親しんだ懐かしい機器から、いまの子どもに人気のコンテンツまで、〈お・は〉、執筆陣のハマり時期とあわせてご紹介!
*表示の価格はすべて税抜。
1970年代
ゲームの商業化が進み、日本のゲーム産業が広がりを見せはじめる。日本の玩具メーカーや電機メーカーがゲーム市場に参入。
1976年(昭和51年)
アーケードゲーム「ブロック崩し」(タイトー)発売。喫茶店などに設置される。
フリーライター・山本芳幹さん(106ページ・座談会に登場)のテビューはこのあたり。
1978年(昭和53年)
アーケードゲーム「スペースインベーダー」(タイトー)が大ヒット。日本中でブームとなる。このころのアーケードゲームは1回100円。
1980年(昭和55年)
携帯型ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」(任天堂)発売。発売価格は5800円。アーケードゲーム「パックマン」(ナムコ)発売。
〈お・は〉、編集人・岡崎 勝さんもハマる!
1983年(昭和58年)
カセット式家庭用テレビゲーム機「ファミリーコンピュータ」(任天堂)発売。発売価格は14800円。カセット式家庭用テレビゲーム機「SG-1000」(セガ)発売。発売価格は15000円。
1984年(昭和59年)
家庭用ゲームソフトメーカーが増加。
1985年(昭和60年)
高橋名人(ハドソンの社員)がファミコンの連打で人気になる。家庭用ゲーム機「セガ・マークN」(セガ)発売。発売価格は15000円。ファミコン向け「スーパーマリオブラザーズ」(任天堂)が大ヒット。発売価格は4900円。
1986年(昭和61年)
「ファミリーコンピュータディスクシステム」(任天堂)発売。発売価格は15000円。第一弾ソフトに 「ゼルダの伝説」。RPG「ドラゴンクエスト」シリーズ第一作(エニックス)発売。発売価格は5500円。
いまも絶大な人気を誇る二大RPG
1987年(昭和62年)
RPG「ファイナルファンタジー」シリーズ第一作(スクウェア)発売。発売価格は5900円。家庭用ゲーム機「PCエンジン」(ハドソン、NECホームエレクトロニクス)発売。発売価格は24800円。
1988年(昭和63年)
ファミコン向け「ドラゴンクエスト皿」大ヒット。発売価格は5900円。
社会現象に
家庭用ゲーム機「メガドライブ」(セガ)発売。発売価格は21000円。
児童精神科医・関正樹さん(30ページ・対談に登場)も小学生時代、ハマる。
1989年(平成元年)
携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」(任天堂)発売。発売価格は12500円。落下型パズルゲーム「テトリス」大ヒット。
1990年(平成2年)
携帯型ゲーム機「ゲームギア」(セガ)発売。発売価格は19800円。家庭用ゲーム機「スーパーファミコン」(任天堂)発売。発売価格は25000円。
1991年(平成3年)
アーケードゲーム「ストリートファイターI」(カプコン)発売。翌年スーパーファミコンでも大ヒット。
対戦型格闘ゲームがブームに。

バブル崩壊

1994年(平成6年)
家庭用ゲーム機「セガサターン」(セガ)発売。発売価格は44800円。
家庭用ゲーム機「プレイステーション」(ソニー)発売。発売価格は39800円。
この年、元中学校体育教員・土井峻介さん(106ページ・座談会に登場)がプレイした「3DO」(「3DOREAL」が松下電器から、「3DO TRY」が三洋電機から)も発売・
1995年(平成7年)
Windows 95 発売以降、PCゲームが広がる。
1996年(平成8年)
ゲームボーイ向けRPG「ポケットモンスター赤・緑」(任天堂)発売。発売価格は3900円。家庭用ゲーム機「NINTENDOM」(任天堂)発売。発売価格は25000円。
1998年(平成8年)
家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」(セガ)発売。発売価格は29800円。
2000年(平成10年)
家庭用ゲーム機「プレイステーション2」(ソニー)発売。発売価格は39800円。
世界で1億5500万台が出荷されたゲーム機史上最も売れたと言われている。
インターネットの普及が進み、オンライン市場拡大
2001年(平成13年)
家庭用ゲーム機「ニンテンドーゲームキューブ」(任天堂)発売。発売価格は25000円。 NINTENDOS向け「どうぶつの森」(任天堂)発売。発売価格は5800円。
その後続くシリーズは女性や女の子に絶大な人気を誇る(71、84ページ参照)。
2002年(平成14年)
家庭用ゲーム機「Xbox」(マイクロソフト社)発売。発売価格は34800円。プレステ2などに向け「ファイナルファンタジーM」(スクエア・エニックス)発売。プレステ2用の発売価格は7800円。
シリーズ初のオンラインゲーム。家庭用ゲーム機にオンラインでのMMORPGを持ち込んだ先駆的作品。
『ゲーム脳の恐怖』(森昭雄著/NHK出版)が話題となるが、のちに疑似科学という批判を浴びる。中国のネットカフェでゲーム中の高校生が急死。韓国では86時間連続でゲームに没頭した24歳男性が死亡。
2003年(平成15年)
日本ではじめて「基本無料」、「アイテム課金」制のゲームが登場。
2004年(平成16年)
二画面携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」(任天堂)発売。発売価格は15000円。プレステ2向けアクションゲーム「モンスターハンター」(カプコン)発売。発売価格は6800円。
2005年(平成17年)
DS向け「脳を鍛える大人のDSトレーニング」(任天堂)発売。発売価格は2667円。
国民生活センターなどへの相談に、オンラインゲームに関するトラブルが急増
2006年(平成18年)
家庭用ゲーム機「プレイステーション3」(ソニー)発売。発売価格は59800円(60GBモデル)、49980円(20GBモデル)。家庭用ゲーム機「Wii」(任天堂)発売。発売価格は25000円。「Wii Sports」が世界的ブームに。

スマホ向けアプリ市場拡大

2009年(平成21年)
『ネトゲ廃人』(芦崎治著/リーダーズノート)発刊。
SNSゲーム「怪盗ロワイヤル」(ディー・エヌ・エー)が大ヒット。
ゲーム実況やeスポーツなどが人気となる。
2011年(平成23年)
携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」(任天堂)発売。
携帯型ゲーム機「プレイステーションヴィータ」(ソニー)発売。
2012年(平成24年)
家庭用ゲーム機「Wii U」(任天堂)発売。発売価格は31500円(プレミアムセット)、26250円(ベーシックセット)。
スマホ向けパズルRPG「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー)が大ヒット。
スマホゲーム人気の火つけ役に。
2013年(平成25年)
アメリカの精神障害の診断と統計マニュアル『DSM-5』に「今後の研究のための病態」として「インターネットゲーム障害」が収載される。
スマホゲーム「モンスターストライク」(ミクシィ)が大ヒット。
2014年(平成26年)
家庭用ゲーム機「プレイステーション 4」(ソニー)発売。発売価格は41979円。
2016年(平成28年)
スマホゲーム「ポケモンGO」(ナイアンティック・ポケモン共同開発)が大ヒット。「プレステ4」のバーチャルリアリティシステム「プレイステーション VR」(ソニー)発売。 発売価格は44980円。
ドット絵、3Dから の新時代の到来といえる革新的な変化を もたらした。
2017年(平成29年)
次世代ゲーム機「Nintendo Switch」(任天堂)発売。発売価格は29980円。
2019年(令和元年)
WHO(世界保健機関)が作成する国際疾病分類『ICD-11』に「ゲーム障害」が収載される。
「Nintendo Switch Lite」(任天堂)発売。 発売価格は19980円。
(参考資料)
『日本ゲーム産業史――ゲームソフトの巨人たち』(日経BP社ゲーム取材班/日経BP社)
『激動の平成史―8年で日本はこんなに変わった!』(洋泉社MOOK)