【最新】水について知る・学ぶおすすめ本

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水をもっと知ってみよう

日常から水に関わらない日はありません。飲料水として、生活用水、また工場用水としても様々なところで使われています。それらは水の化学式として水が、H(水素原子)2個とO(酸素原子)1個が結合してできていますが、水についてはもっと奥深く、そのような水を知れる書籍を今回紹介します。子供向けから大人向けまで用途によって選んでみましょう。

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出典:出版社HP

水とはなにか―ミクロに見たそのふるまい〈新装版〉 (ブルーバックス)

水の不思議をさぐる

本書では、水分子の運動やその並び方のようなミクロなふるまいが、水の性質にどのように反映しているかを考えて、生命システムでも重要な役割を果たす「水」についての不思議さを探っています。水に関することを基本的なことからわかりやすく説明しています。水について詳しくなりたいと思っている人におすすめです。

水は万物のみなもとである。
(矢島文夫訳・世界最古の物語 カナアン出 土の楔形文字で書かれた物語の中の言葉)
五行は河から始まる。万物の由って生ずる ところのもの、元気の膜液である。
(森鹿三他訳・元命苞水経注に引用されて いる言葉)

カバー装幀/芦澤泰偉・児崎雅淑
カバー写真/CIDC/orion/amanaimages
編集協力/(有)東行社 古友孝兒

はじめに

生物は水がなくては生きることができない。水は人間の生活に、はかり知れないほどの大きな影響をあたえてきた。
人類ははるか以前から水の驚くべき力を知っていた。たとえば、古代中国人は五害(水害、早害、風霧雷霜の害、疫騰の害、虫による穀害)のうち、水害を最大であると言っている。二一世紀に入っても毎年のようにどこかで局所的に起こる集中豪雨は人々に甚大な被害をあたえている。
また、水に豊饒と再生の力があるという神話や民話が多くの民族の間で語り継がれてきている。

これらの事実は、水は生命を育てる根源的なものであると同時に、生命を奪うものに転換する という二面性をもっていることを示している。この二面性は水の自然現象によって現れるので、 これらの問題は水文学で取り扱われている。
次に水を日常生活の観点からみてみよう。たとえば、健康に良い水とか汚染された水という言葉をよく耳にする。その原因は水に溶けている成分にあるのだと言われている。

しかし、さらに詳しく調べると、溶け方にもいろいろあり、また溶けている成分の濃度や、ある るいは温度・圧力のような外部条件でも水の性質が変わることがわかってきた。
また、水に溶けている高分子や分散している微粒子の表面の水、あるいは狭いすきまや細孔の 中の水は普通の水とは違うことがわかった。
さらに生物の体の中の水はどうだろうか。生体の水は、極限状態、たとえば乾燥した高温の砂漠、あるいは極地の南極大陸などで生存する生物では変わるのだろうかという疑問が浮かぶ。

このような多様性を示す水はきわめて魅力的な物質で、さまざまな分野の研究者の関心の的と なってきた。現在でも水に関する多くの研究が行なわれている。新しい結果が発見され、それに 応じて新たな問題が提起されている。
水の多様性は本質的には水分子の性質によって決まる。水は分子量がわずかに一人で、二個の 水素原子と一個の酸素原子からなる簡単な化合物である。この見かけの単純さにもかかわらず、 水分子は驚くべき性質をもっている。

本書では、水分子の運動やその並び方のようなミクロなふるまいが、水の性質にどのように反映しているかを考えることにする。
最初に第一章で分子の運動や分子間に働く力について説明する。そして第二章と第三章で水と水溶液の構造についてのべる。ここでは溶質の種類に応じて水分子の応答が異なることが示される。続いて第四章と第五章で界面や生体内の水の挙動、第六章では外部条件の変化によって生じ る水の興味ある挙動、最後に第七章では医学や食品科学の分野でますます重要になってきている 低温生物学と水との関係を説明する。

これらの章を通じて、水の多様性はそれぞれの場合に特有な水分子のダイナミックな応答によ るものであることが理解されると思う。

もくじ

はじめに

第一章 分子レベルでみた気体・液体・固体
気体、液体、固体の違い/弾丸なみの気体分子のスピード/分子運動からみた気体、液体 /並進運動と回転運動/分子間に働く種々の力/ファン・デル・ワールス力/力の勢力範 囲/ポテンシャル曲線/ポテンシャルの谷/分子を捕える

第二章 水の構造をさぐる
水は液体の代表か/水分子の構造と作用する力/水分子の二重性格/水の性質/さめにく い液体/水は蒸発しにくい/水は縮む/一八種類の水/純水とはなにか/なぜ氷は水に浮 かぶのか/激しく運動している氷の結晶/ガラス状の水/水の構造/水の構造の平均寿命 /クラスター説は間違い

第三章 水溶液の構造
物を溶かす特殊能力/蒸留酒と醸造酒/アルコール水溶液の性質/「5cc + 10cc = 14.6cc」!?/置換え型と空家型/エタノール水溶液中の分子の動きやすさ/似ている砂糖 と水/電解質の水溶液/イオンと水分子の間の力/イオンのまわりの水分子の配列/正の 水和と負の水和/イオンの熱運動

第四章 界面と水
表面張力/洗剤の働き/毛管現象/水と油の話/エントロピーの減少/疎水性水和/疎水 性相互作用/二〇度Cで凍るガス/地球温暖化とクラスレート水和物/すきまの水/浸透 圧/水の活量/浸透圧と生物/南極大陸の塩湖に生きるドゥナリエラ

第五章 生体内の水
人は一日にどれだけの水が必要か/体液の組成/細胞/蛋白質の構造/三次構造と疎水性 相互作用/蛋白質構造内部の水分子/蛋白質の水和量/三重の水に取り囲まれた蛋白質/ 蛋白質生合成と水分子の働き/蛋白質を守る構造化した水/酵素反応と水和/イルカはな ぜ速く泳げるのか/細胞内の水の状態/体の中を水が回る速さ/老若生死の識別/似てい る赤血球とガン細胞/休眠と冬眠/重水の生理作用

第六章 麻酔・温度・圧力
麻酔と温度の関係/不活性気体の性質/ガス麻酔/細胞の増殖を停止させる/立枯れの原 因は/人は何度Cで凍死するか/すきまの水と温度変化/生命に危険な一五、三〇、四 五、六〇度C/エコロジー/圧力と気体の溶解度/高圧と水の二面性/潜水病(ケイソン 病)/クジラはなぜ潜水病にならないか?/潜水酔い―窒素の麻酔作用

第七章 低温生物学
低温生物学とは/細胞内の水は何度Cで凍るか/生体組織の凍結/精子の凍結/利点の多 い冷凍血液/冷凍人間は蘇生するか/雪どけ水の謎/血液と精子の凍結乾燥/ガンの凍結 療法/人体実験

あとがき
参考文献
さくいん

みずとは なんじゃ?

水とは何かがよくわかる

水のさまざまな性質を知り、自然環境に目を向けるきっかけとなるような絵本です。私たちにとって身近な水を通して、科学する心を育んでくれます。子どもたちへの贈り物のような1冊です。

かこさとし (著), 鈴木まもる (イラスト)
出版社 : 小峰書店 (2018/11/8)、出典:出版社HP

あさ おきて、かおを あらう みず。
うがいを したり、のんだりする みず。
みずとは、いったい どんな ものなのでしょうか?

みずは、コップや ゆのみに いれたり、ながしたり、 じゅうに かたちを かえたり、うごかしたりすることができます。

また、みずは においも いろも なく、すきとおっています。

みずがはいった おさらを そのままにしておいたり、かわいた みちに みずを まいたりすると、やがて みずは なくなってしまいます。
みずは どこに いったのでしょうか?

おさらのみずや みちにまいたみずは、まわりのおんどや かわきぐあいによって、めに みえない ちいさな つぶ、すいじょうきと なって くうきに まじってしまったのです。

みずを なべや やかんで あたためたときに みえる ゆげは、 ねつでめに みえない すいじょうきと なった みずが ひえて みえるように なったものです。

また、みちに みずをまくと すずしくなるのは、 みずが、あたりのねつを うばって すいじょうきと なるからです。

このように、みずをねつで あたためるとすいじょうきと なります。

みずに ねつを くわえると、すいじょうきと なりました。
こんどは ぎゃくに ひやしてゆくと どうなるでしょうか?

そうです。さむい ふゆに いけのみずがこおったり、 れいとうこに いれたみずがこおりと なるように、かたまりにかわります。
みずをひやすと、いしのようにかたい こおりになるのです。

こおりは みずより ほんのすこし かるいので、 まるで すいえいの せんしゅが あたまだけだして およぐみたいに、うかびます。

いけに できたこおりは いけのうえにうかび、 れいとうこでつくったこおりは みずや ジュースなどの うえに うかびます。

みずは すいじょうきと なったり、かたい こおりと なったり、 わたしたちの くらしのまわりで、すがたを かえています。

そうです。みずは、まるで にんじゃのように すがたをけしてみえなくなったり、
たくみなしばいのやくしゃのように すがたを かえることができるのです。

にんじゃのように、やくしゃのように、 なんども すがたをかえることができるというのが、 みずの だいじな1ばんめのせいしつなのです。

さて、わたしたちは みそしるや スープや おちゃなど、 みずを たくさん からだに とりいれています。

ひとの からだの おもさを 100と すると、60~70を みずが しめています。 ひとが いきてゆくには、たくさんのみずがいるのです。

ひとだけでは ありません。
ほかの どうぶつや さかなや しょくぶつも、 みな、いきてゆくために、からだの なかに たくさんの みずを たくわえています。

かこさとし (著), 鈴木まもる (イラスト)
出版社 : 小峰書店 (2018/11/8)、出典:出版社HP

水の科学―新しい水の話

必要不可欠な「水」についての知識

私たちが生きる上で欠かせない要素である「水」。自然回帰の優等生ともいえるそんな水から学ぶことはあまりにも多いです。本書では、水について7章に分けて詳しく説明されています。水の本質を理解し、自然そして生命とは何かを問い直すきっかけとなるでしょう。

大坪 亮一 (著)
出版社 : 東宣出版 (2011/7/1)、出典:出版社HP

目次

プロローグ―水が示唆する偉大なもの
人体はまさに水袋
水は宇宙進化の主役
水は単なる健康水ではない
水は体内で生命水に資化される
地球の歴史は水の歴史
溶質と溶媒を区別する
物質の元は水素原子(プロトン)
宇宙進化は水の生成と破壊のストーリー
水が宇宙と人体の営みをつなぐ

第1章 水は巨大な万物の器である―自然回帰の優等生3
水と火が現代文明の礎になった
物質中心の文明では幸せにならない
水は世界でいちばん大きい富
物質文明は絶対真理に背く
「生自然」はどこに行ったのか
すべての出発点を水に求める
胎児の誕生は地球進化の長編ドラマ
肉体は死後、また水に還る
水は人間生命の原型を伝える
水は時間・空間・重力…が溶け込む万物の器
宇宙は生命体を生み出すために作られた
人体は地球に運ばれてきた星屑
生命の素材はすべて宇宙に起源をもつ
水はエネルギーでもあり物質でもある

第2章 すべてが火と水から始まった―宇宙創造と生命誕生
ビッグバンのイメージ
宇宙の出発点は無の世界
火の玉宇宙から始まった
最初の物質、水素原子の誕生
水素原子は物質界のボス
水素原子は人知を超えた存在
水は水素の燃えかす
水の科学名は酸化水素
水が生成されるメカニズム
地球の水は彗星の衝突でもたらされた
水が太陽系をつくった
地球と月の水は太陽の残り水
灼熱地獄の原始地球
地球に降った最初の雨
化学進化によるRNAの世界
最初の生命は深海の熱水噴出孔で誕生した
水がすべての生命進化に関与する
無生物と生物をつなぐものとは?
新しい生命観を確立する物質「モネラ」
生命誕生の中心にはプロトンがあった

第3章 水の疑似科学を検証する―溶質の水と溶媒の水
溶かしている水の働きこそ重要
溶質から溶媒に視点を変える
水は細胞膜内で溶質から溶媒に転換される
病気や加齢により細胞内の溶媒は減少していく
水処理も溶媒作用による浄化が最も実用的
おいしい水「溶質の水」の疑似科学性
「外国有名ブランド水」は唾液成分に近い
「クラスターの小さい水」はすでに消滅
「海洋深層水」は本来飲用目的ではない
「波動水」は量子力学の波動とは無関係
「磁気(磁化)水」は信憑性に乏しい
「トルマリン(電気石)の水」は電気が微弱過ぎる
アルカリ性信仰で広められた「アルカリイオン水」
「アルカリイオン水」は本来の電解水とは異なる
「活性水素」は単に用語がひとり歩き
「還元水」はアルカリイオン水が姿を変えただけ
「水素水」は体内で過剰反応しやすく要注意
溶媒化した水「奈良県吉野郡の天川水」
エネルギー生の高い地層を潜り抜けた薬水
生物活性化作用のある雪解け水

第4章 活きた水は解離している―水はエネルギーの器
水の水素結合の世界が見えてきた
水はどのように化学結合されているか
二重の役割を果たす水の分子
水のエネルギーはどう運動しているか
「イオン積」によって水を定量化する
水の「イオン積」が増すとどうなるか?
水の解離度が高まると機能性が高まる
自然水は極微量が解離している
生命誕生の場・熱水噴出孔の水も解離していた
雷は水の神様として崇められてきた
雷が多い年は豊作になる生物学的根拠
光合成のスタートでも水の解離現象が起きている
生体内の一 が生命活動を支える
的として水の解離を追究
自然の摂理に則した電気二重層の化学的反応
解離指数が小さいほど水の機能性は高い
電解陰極水は生体内で抗酸化作用を示す
電解陽極水は強力な求電子作用のある高プロトン密度水

第5章 造血とエネルギー生成―水の体內作用が
水は代謝・解毒・排泄のすべてに関わる
ほとんどの水は細胞内に取り込まれる
腎臓が処理する水は1日1升ビン100本分
体における3つの重要な水の働き
造血の現場は胸骨や骨髄ではなく小腸
小腸で水や食べ物は未完成細胞となる
水は生きている物質「モネラ」を生む原動力
消化吸収とは物質を生命体に発展させるしくみ
未完成細胞から赤血球が作られていく
細胞は中心から外へ向かって発展していく
腸で血液が作られなくなると逆戻り現象が起きる
心や魂は腸管内臓系で発生する
現代人は本能が宿る腸管内臓系が弱まっている
植物は地下水の温度を感じて発芽、開花、落葉する
ATPの生成に水が深く関与する
代謝水が水力発電所の働きをする
代謝水から生体エネルギーが作られる
水を原動力とする水車と生命現象は似ている

第6章 水が円滑な解毒と排泄を支配する。
医療のスタートは薬草による解毒と排泄
腸管内臓系で取り込みと排泄の仕分けをする
円滑な解毒と排泄は水次第
現代人は腸内環境に関心が薄い?
共役性のプロトンと非共役性のプロトン
腸内の好気性環境は偏った食生活が原因
腸内は共役性プロトンで守られる
共役性プロトンでは活性酸素を解毒できない
フリーラジカル消去実験で電解水の陽極の有効性確認
たまりの臓器を解離度の高い水で常に洗い流す
活性酸素と余った共役性の水素イオンの処理
代謝系の解毒は厄介、一筋縄でいかない
すべての病気の発生源・消化管を解毒する
食餌が腸壁から内部へ取り込まれる条件
活性酸素に対しては還元酵素で対応する
水の電気化学的反応によるヒドロキシルラジカル追放
栄養効果を足し算で考える現代栄養学の誤り
水がなければ消化吸収の条件を満たすことができない
入れる栄養学から出す栄養学へ
生体解毒に必要な水の条件

第7章 水を中心にした自分医学を実践する
健康に必須のミネラルは体内では作れない
カルシウム、マグネシウム、カリウムの働き
リン、鉄、亜鉛は体内で何をしているのか
体のほこりを取って水とミネラルで若返る
水と良質のミネラルが健康の鍵
欲は少なく、足ることをわきまえる
大量の食べ物を詰め込むと上質の血液が作れない
プロトンを含んだ穀菜食と炭水化物を摂る
肉食系を柱にした現代栄養学の間違い
穀菜食と解離水の組み合わせが本当の栄養源
自らがプロトン・ホームドクターになる
プロトンをふんだんに用いて健康管理する
メガ・プロトン主義で毒素の海を乗り越える
細胞内の遺伝子は水に囲まれている
遺伝子決定主義では細胞活動は説明できない
環境が遺伝子の活動をコントロールする
生命現象を支えてきたのはRNA
目に見えない世界をコントロールしている何ものか
主役は水、RNAは準主役、DNAは脇役

おわりに

大坪 亮一 (著)
出版社 : 東宣出版 (2011/7/1)、出典:出版社HP

―水は地球の生命の血液である―
ヴィクトル・シャウベルガー

プロローグ―水が示唆する偉大なもの

■人体はまさに水袋

最近、いろんな分野において水に対する関心が高まってきました。私にも、水をテー マにした講演の依頼が増えています。

「水は単なる飲み物ではありません。根源物質です」

水の話をする時、いつも冒頭でいう言葉です。
昨年、NHKのラジオ深夜便「明日へのことば――水こそ命の源」にも出演させていた だきました(2010年7月7日、8月20日放送)。番組は担当アナウンサーとの対話形 式で進行していきました。

体の60%は水といわれていますね。
「私たちの体の隅々まで水がしみこんでいます。赤ちゃんは体重の90%は水で占められ ています。大人でも脳内は95%で水びたし。硬いと思われている筋肉で75%、骨22%、歯 でさえ15%が水です。150キログラムのお相撲さんも水分を抜くと普通の人の体格と変 わらなくなります」
―ちょっと、驚きですね。どうやって体内の水分が分かるのですか。

「一般的な測定法としては、希釈法というのがあります。同位元素(同じ元素群にあっ て原子量が異なる元素)を静脈注射する方法です。その希釈度から計算していきます。生 体解剖の臓器を摘出して生の状態での重量を測り、100から105℃で乾燥させた後の重量差が水分量に対応しています。その他には、近赤外線法・ラマン分光法・NMR法な どがあります。組織、細胞の水分量、水分子の運動性なども調べることができます」
―何でも計測できるんですね。ところで人間はどれくらいの量の水を飲んでいるのでし ょうか。

「食べ物もほとんど水ですから、1日、水と食物で約3リットル、1年で約1千キロリ ットル (1トン)になります。生涯80歳とすると約8万キロリットル (80トン) 5トント ラック16台分に相当する量です」
―まさに、人体は水袋ですね。

■水は宇宙進化の主役

こうして、5分間、水にまつわる話が続いていきます。話したいことが山ほどありましたが、私がいいたかったのは次の4点です。

1 水の生い立ちは137億年前の宇宙創成期にあり、太陽や地球よりもはるかに古い。
2 水は宇宙進化の主役を演じ、原子団、銀河系、太陽系、地球を生成した。さらに水は生 命を誕生させ、生物進化をうながしてきた。
3 四季の移り変わり(気温、芽吹き、桜前線、紅葉、動物の冬眠)をはじめ、大腸菌から 動・植物、人間まで生きとし生けるものすべてが水によってコントロールされている。
4 生命の設計図といわれているDNA、RNAは水の元素で構成されている。さらに血肉、タンパクをはじめとして体細胞は水から作られている。まさに、水は万物の根源で ある。

定められた時間内で私は懸命にしゃべりました。いかんせん時間切れになりました。 残念ながら尻切れトンボで、中途半端な結果となりました。それでも放送終了後、何日も の間、視聴者から問い合わせが続きました。水に興味をもっている人が多いことを実感さ せられました。

■水は単なる健康水ではない

一方、水に対して勘違いしている人もかなり存在していることも分かりました。そば 打ち名人が求めるこだわりの水など、嗜好品として水を見ている人もいます。人の味覚や 好みは曖昧です。官能で水は判断できません。

飲料に適する水ならば、どんな水でも10℃から5℃に冷やすとおいしく感じます。厚 生労働省も「おいしい水の条件」にあげていますが、低温で味蕾細胞が麻痺するのでしょ う。冷酒が口当たりがいいのと同じです。
市販されている清涼飲料水は、すべて冷やしてあります。冷たい水を常飲すると腸管 の温度(37度2分) が低下して免疫力が弱体化していくという報告事例もあります。体を壊してまで、おいしい水を求めるのもどうかと思います。

健康水という言葉も一人歩きをしています。どういう水が体にいいのか。判定が難し いのです。結果、体にいい水と称する「あやしい水」を買わされてしまいます。
「健康のために1日、2リットル以上の水を飲んだ方がいいという専門家もいますが、 どうなんでしょうか」
視聴者の方からこういう質問がきました。水を健康維持の手段として考えている人もい るようです。間違いではないのですが、ちょっと待ってください、といいたいのです。

■水は体内で生命水に資化される

どんな水が体にいいのか証明するのは困難です。プラシーボ効果(偽薬効果)かもし れません。イワシの頭も信心からという例です。
水飲み健康法をはじめサプリメントやダイエットの代替として水を推奨する専門家も います。メディアなどの情報を鵜呑みにして「健康や美容のためだったら水をたくさん飲 んだ方がいいんだ」と解釈して、質よりも量だと勘違いする人も出てくるわけです。

前述したように、成人であれば食べ物由来と飲料で、1日に2.5リットルから3リ ットルの水を取り込んでいます。通常の状態であれば、それ以上の飲料は苦痛になるはず です。真夏炎天下で熱中症に罹患した場合でも、急激な摂取は危険ですから生体は拒否するはずです。
体は細胞膜内のアクアポリン (水チャンネル)というタンパク質から成る特殊な装置 で水を生命水に資化させています。つまり、体に機能させるために反応性を高めたり、水 の物性を変化させているのです。
このときに、膨大な生命エネルギー (ATP=生体高分子)を消費します。消費する エネルギーによって細胞の寿命が決まるともいわれています。
体調を崩したり、老齢になると水が飲めなくなります。治癒やアンチエージングのた めにエネルギーが消費されて、水チャンネルまでエネルギーが供給されないからです。

■地球の歴史は水の歴史

重要なことは、毎日取り込んでいる「3リットルの水」の質です。水は牛乳やジュー ス、清涼飲料水と同じレベルでは語れません。なぜなら水は根源物質であるからです。生 命のエキスです。ゆえに、水の選択は命にかかわる問題です。水の本当の姿をつかまえな ければなりません。
今、生命を中心に据えた価値観の転換が求められています。地球の歴史は水の歴史で す。何のために地球上にこれだけの水が存在しているのか。
食べ物も90%は水です。私たちの生命は、水から生まれ、生命進化を促され今日に至っています。食べ物を粗末にすることは、水を粗末にし、水を汚すことに、そして命を粗 末にすることにつながっていきます。

「隗より始めよ」

まず、水の本当の姿を知ることが新しい生命観、文明観を生み出す原動力になると考 えます。水の本質とは何か。水の生い立ちまで遡って調べました。水が生命や我々の体と どのように関わっているのかを探っていきましょう。

■溶質と溶媒を区別する

水といっても、いろんな種類の水があると思われがちですが、本質的には、溶質と溶 媒の水に大別されます。
溶質の水というのは、溶けている物質によって影響された水です。水を外から見ると 溶質論で終わってしまいます。溶質論から見えてくる世界は、物質中心の世界で、水その ものは脇役に回されてしまいます。溶質論では、水の本質がまったく見えてきません。
なぜ、宇宙に水が生成され、なぜ、地球にこれだけの水が存在し、我々の体の隅々ま で水が沁み込でいるのか。

この世は、物質だけで成り立っているわけではありません。
生命現象をはじめとする森羅万象は、物質の次元を超えて質量のない世界まで広がっています。水を調べていきますと、物質の次元を超えたところにたどりつきます。ここで はじめて水の本当の姿に出会うことができるのです。水の本体は、質量のないエネルギー です。
20世紀になって、アインシュタインが「物質とエネルギーは等質である」と定義しま した。「物質はエネルギーにもなり、エネルギーは物質にもなる」ということを提唱して、 多くの科学者が実証したのです。

これによってこれまでの物質中心の自然観、価値観が大きく転換しはじめました。こ の影響を受けて、水に対する研究者の姿勢も変わってきたのです。
ここで溶媒論が登場してきました。水分子は物質ですが、原子レベルにおいては物質 性は壊れて、エネルギー性が高くなってくるという考え方です。溶けている溶質に惑わさ れるのではなく、溶かしている水の機能 (溶媒)に視点を転じなければなりません。
溶媒の水というのは、物質の特性より本来、水がもっているエネルギー性が勝っていま す。水を内部から見ていきますと、水の本質が分かってきます。

■物質の元は水素原子(プロトン)

宇宙物理学によると、この世のスタートは、火の玉宇宙でした。真空でのゆらぎが極微 の時空を産み出し、同時多発的に膨張を始め、宇宙空間ができていきました。小さなゆらぎの正体はエネルギーです。エネルギーからこの世が生まれ、物質が生成されました。
物質の元は水素原子です。水素原子がエネルギーと物質をつなぐ中間体の役割を担っ ているのです。水素原子が進化しての基本元素を作り出しました。水素原子は物質の生 みの親という意味のギリシャ語で、プロトン (根源)と呼ばれています。

水という物質 (分子)は、物質界の“ボス”であるプロトンを2個ももっています。 水分子のネットワークは、強大な創造力(GODエネルギー:アインシュタインのいう根 源的エネルギー)を秘めています。
ビッグバンから約70万年から100万年にかけて、宇宙空間で水分子のネットワーク が形成されました。水分子の誕生劇は、人知を超える時空で演じられたもので誰も見るこ とができませんでした。文献から再現するしか術がありません。

■宇宙進化は水の生成と破壊のストーリー

水素原子と酸素原子は、衝突をくり返した後に「爆鳴気反応」により融合し、巨大な エネルギーの渦に発展していきました。数万個の大型原子炉が生み出すエネルギー量であ ったと推察されます。自然エネルギーの原型は渦巻きです。渦巻きは水の求心力によって 発生しています。
水によって発生したエネルギーの渦は巨大な電子集団に吸収されました。電子はビッグバン直後から宇宙空間に存在し、水素原子や酸素原子の原子核を取り囲んで電子雲を形成 しています。

簡略に表現すると、「プロトン (水素原子)と酸素原子と電子が融合して水分子が生成 しました」となりますが、実際には、エキサイティングでダイナミックな出来事であった と推察されます。 プロトンと酸素原子の衝突時に発生したエネルギーが電子の集団に取り込まれていく 様子は、ちょうど投網に捕獲された魚群みたいな状態です。電子が強力な接着剤の役割を して水分子を固めてしまったのです。これが現在、私たちがコップの中で見るおとなしい 水の姿というわけです。
ところが、この電子の網を切断しますと、爆鳴気反応のエネルギーが飛び出してきま す。水分子に、電磁気や圧力、熱エネルギーを負荷すると水分子そのものが解離してさま ざまな形態のエネルギーが発生してきます。自然界で起きている雷放電や火山による水蒸 気爆発などは、水分子の破壊現象そのものです。
宇宙は水の生成と破壊によるエネルギーと物質の相互作用により進化してきました。 微惑星の誕生、恒星、銀河系の出現などの宇宙進化は、水の生成と破壊によるものです。 太陽系や地球の生成、生命誕生は、その延長線上での出来事です。

■水が宇宙と人体の営みをつなぐ

水が生成する時には、膨大なエネルギーが発生します。一方、水分子が壊れる時は、 遊離した物質にエネルギーが吸収されていきます。水分子が壊れる時の現象を「解離」と 呼んでいます。
驚いたことに、水の生成と解離の現象は、我々の体の中でも起きていることが分かり ました。科学ではフラクタル現象(相似形)といっています。
細胞内の電子伝達系で代謝水が生成されるとき、エネルギーが発生します。代謝水由 来のエネルギーを利用してATP(生体高分子)合成酵素のモーターが回転して、生命工 ネルギーが作られているのです。
小腸で血液が生成されるときにも、水は重要な働きをしています。血液は小腸の絨毛 組織で作られています。小腸壁の粘膜細胞膜内のアクアポリンを通過した水は解離してエ ネルギー性が高くなっています。

解離した水のエネルギーが働いて食べ物が溶かされ(イオン化)、血液の元である「モ ネラ」が出来ていきます。モネラこそ物質と生命をつなぐ中間体です。モネラは「生きた 物質」です。モネラを発見したのはドイツのヘッケルです。世紀の大発見と呼ぶにふさわ しい業績です。
水が食べ物という物質に生命の息吹を吹きこんでいるのです。水が生命を誕生させたヒントは、モネラにあります
腸壁の粘膜細胞内を通過する水分子は、膜電位を浴びて解離します。解離の OH-(電 子)と解離の H+ (プロトン)は、物質から遊離してエネルギー体になっています。共役 性(化学的に反応する物質)から非共役性(pHに影響されない遊離の中間体)に早変わり したのです。腸内で造血するときに、この解離した OH-と解離した H+が活躍しています。
137億年前に、宇宙創成期に生成された水は、生命を誕生させ、今も私たちの体の 中で不眠不休で働いている様子が想像できます。水を介して宇宙の営みと人体の営みはつ ながっています。人体が小宇宙といわれる所以です。
ここで水が示唆するものは何か、が見えてきました。

大坪 亮一 (著)
出版社 : 東宣出版 (2011/7/1)、出典:出版社HP

地球を旅する水のはなし (福音館の科学シリーズ)

水の科学絵本

水はすがたを変えながら、世界中を旅しています。本書は、この水はどこへ行くのかという問いから始まります。水がどのように循環しているのか、どのような性質があるのか、詩情豊かな文章と繊細なイラストによって理解することができます。

大西 健夫 (著), 龍澤 彩 (著), 曽我 市太郎 (イラスト)
出版社 : 福音館書店 (2017/9/6)、出典:出版社HP

水の旅
かわる・めぐる・つなぐ
大西健夫

水はどこから来たのか

水の旅、いかがでしたか。大小さまざまな流れ、渦、よどみをつくりながら地球をめぐる水。そもそも、その水は地球誕生時から地球にあったのでしょうか。地球が誕生したと考えられている 45億年よりはるか前、宇宙誕生のビッグバンの後、最初にできたのが水素、そして酸素も比較的早くにできたと考えられています。そして宇宙空間でこの水素と酸素が結びついて「水分子」ができあがり、隕石などに含まれて地球にもたらされたといわれています。地球誕生直後は、地球の表面はとても高温だったため、水は液体では存在できなかったと考えられています。しかし、すでに44億年前には液体の水が存在し、少なくとも38億年前からは、ほぼ水の総量は一定であるとされています。

「クレオパトラの最期の吐息に含まれていた空気の一部をあなたが吸いこむ確率」は、どれぐらいになると思いますか? なんと60%ほどにもなると計算されています。これは、空気が世界中をめぐってまざりあっているからです。空気と同様、水も世界中をめぐっています。ですから、太古のむかし、だれかの体を通過した水の一部を今の私たちが体にとり入れている確率も、思いのほか、高いかもしれません。世界と私たちは時空を超えて、水を通して、つながっているのです。

地球をめぐる水

このように地球をめぐっている水は、決まった量が絶えまなく循環しており、半永久的に利用できる究極のリサイクル資源ともいえます。この循環の仕組みを少し立ち入って見てみましょう。

水には固体の氷、液体の水、気体の水蒸気の3つの顔があります。どの状態にあっても水は酸素原子 (O)ひとつと水素原子(H) ふたつが結合した水分子(H2O)ですが、ちがいは、ひとつひとつの H2Oが持っているエネルギーです。固体の雪や氷を熱すると、とけて液体の水になります。液体の水を熱すると、沸騰して気体の水素気になります。つまり、ひとつひとつの H2Oが、より多くのエネルギーを得て、氷→水→水蒸気と変身していくわけです。自然界では、水は太陽からエネルギーを得ています。氷や水は太陽からエネルギーを受けとり、水蒸気となって大気にまじります。そして、上空で温度が下がると、水蒸気は持っていたエネルギーをパッと手ばなして、水や氷となり、再び地上に戻ってきます。この繰りかえしがあるからこそ、水は地球を絶えまなくめぐることができるのです。太陽からのエネルギーが水の循環を引きおこす原動力となっているわけです。

また、塩からい海水が水蒸気になるとき、塩分は海に置きざりになります。そのおかげで、雨水や川の水は、わたしたちが飲める真水、塩からくない水になるのです。

水を動かす重力

水の循環を引きおこす原動力にはもうひとつ、重力があります。ものとものとが、互いに引きつけあ力を「万有引力」といいます。このとき、自分の質量が大きいほど相手に及ぼす力は強くなります。地球という大きな星が生みだす引力を、重力といいます。水が高きから低きに流れるのは当たり前のことのようですが、実は地球の重力があるからこそ、水は川となり、山から平地、そして海へとたどり着くのです。

さらに、北極や南極近くの海にできる海氷も、水の循環を生みだす、とても重要な働きをしています。海の表面から熱が奪われることで氷ができますが、氷になると海水中の塩分が絞りだされるため、あたりの海水は、より濃度の高い、重い水になります。また、氷で冷えた海水は、まわりの海水よりも重くなります。つまりしょっぱくて水分子がぎゅっと寄り集まった、とても密度の高い水の塊ができ、この水が重力によって海の深いところに引っぱりこまれることで水の動きが生まれ、大きな海流形成の原動力となる、といったわけです。

また、絵本の中では風が波を起こし、海流の動きも生みだすと書きましたが、月や太陽から受ける重力による潮の満ち引きなども、海の水の大きな動きに影響しています。水はこうしたさまざまな力によって、絶えまなく動きつづけているのです。

水は運び屋さん

水は、それ自身、生命にとって欠かせませんが、液体の水はいろいろなものをとかして運んでくれる「運びさん」でもあります。生命にとって必要不可欠な元素のひとつに鉄があります。鉄は人間の体の中では、酸素を運ぶ赤血球をつくるのに必要です。また植物が太陽光、水、二酸化炭素からエネルギーを得る光合成のときにも鉄が必要となります。海で生きる植物プランクトンもまた、光合成をするときに鉄を必要としますが、海では鉄が不足しがちです。その鉄を海までの長い距離、運んでいるのが水なのです。

アムール川という大河をごぞんじでしょうか。日本の面積の5倍ほどもある大きな川ですが、ロシアと中国の国境を流れ、オホーツク海に流れこみます。オホーツク海は世界でも有数の豊かな漁場で、ここで獲れるカニやタラなどが私たち日本人の食卓を賑わせています。この漁場の豊かさを支えているのがまさに鉄であり、その鉄の多くがアムール川の湿地から水にとけだして運びだされているのです。しかし、水は良し悪しを区別することなくいろいろなものを運ぶため、アムール川のように恵みとなる鉄を運ぶだけではなく、その逆のことも起こり得ます。もし生命にとってよくない働きをする汚染物質が川上から流れだした場合には、その川下、そして、海にまで影響がおよぶことになるのです。

さらに、水はエネルギーの「運び屋さん」でもあります。特に熱帯で太陽のエネルギーを吸収した海水が蒸発して水蒸気になると、大量のエネルギーを海水から持ち去り、大気の流れにのって熱帯をはなれて、はるか遠くにまで熱を運んでくれます。この水の働きがなければ、地球上には生き物が暮らせないほど暑い場所ができてしまいます。ときとして台風やハリケーンというかたちになり、私たち人間にとっては禍いとなる場合もありますが、一方では、地球全体にまんべんなく太陽から与えられたエネルギーをゆきわたらせて、全体として穏やかで、土き物にとって住みよい環境をかたちづくるのにも一役買っているのです。

水のあるところ、ないところ

水はくまなく地球をめぐってはいますが、決してあらゆる場所に平等に同じ量の水が割り当てられているわけではありません。年間で1万ミリ(10メートル)も雨が降る地域もあれば、ほとんど降らない砂漠のような場所もあるわけです。循環しながらも、一方でその存在の仕方は地域によって全然ちがうという点が、水のもうひとつの面白い特徴です。そのために、人間は大むかしから飲み水や作物を育てる水を得るために、さまざまな工夫をしてきました。川や地下水から水を引いてきて田んぼや畑に配る灌漑技術は、文明発祥の早い時期からあったと考えられています。灌漑によって広大な土地がくまなく効率的に潤されることになりましたが、水の使用をめぐって川上と川下という対立を生みだすことにもなりました。川上で過剰に水をとりこめば、川下では必ず不足するからです。
また、現代のような交易が盛んな時代では、地域や国を越えて、遠くはなれた土地で収穫された作物を口に運ぶ機会も多くなっています。このことは、作物の交易を通じて、その作物を育てるために使われた「はなれた土地の水」を間接的に使用しているということになります。ことの良し悪しはそう簡単には判断できませんが、目の前にある水だけでなく、地球上のさまざまな水と自分が関わりながら生きているということを知ると、世界の見え方が少しちがってくるのではないでしょうか。

水を読む

地球をめぐる水を注意深く調べると、実はいろいろなことが読みとれます。たとえば、水には水に棲む生物の体や排泄物に由来するDNAの断片がとけています。そこで川の水を1リットルほど持って帰ってきて、とけているDNAを分析することで、その川にどんな生き物がいたのかということがわかるようになってきています。姿は見えなくても生き物の痕跡が水に残るわけです。また、実は同じ水分子(H2O)にも重い水分子と軽い水分子があり、地下水と雨水とを比べると、地下水のほうが重い水分子を含む確率が高くなります。そのため、川の水分子の重さを精密に測定することで、川の水の起源が地下水なのか雨水なのかということがわかるようになってきています。
中谷宇吉郎 (1900-1962)という日本の雪氷学の父ともいえる人が「雪は天からの手紙」という印象的な言葉
を残しています。 雪の結晶は気温と湿度によりさまざまにそのかたちを変えるため、そのかたちからそのときの大気の様子をうかがい知ることができます。液体の水は無色透明で、どの水も同じように見えますが「この水はどこから来てどこへ行くのだろう」と思いを馳せ、世界に目を向けるとき、遠くはなれた土地の自然や人も、めぐる水によってつながっている、少し身近な存在になるのではないでしょうか。
(おおにしたけお/水文学者)

大西 健夫 (著), 龍澤 彩 (著), 曽我 市太郎 (イラスト)
出版社 : 福音館書店 (2017/9/6)、出典:出版社HP

通読できてよくわかる 水の科学 (BERET SCIENCE)

身近だけれど、意外と知らない水のことが良くわかる

私たちは水に囲まれて生活しています。本書では、そんな身近な水について改めて「なぜ」という視点で問いかけをしながら、性質や問題点について解説されています。「水」について理解するのにちょうどいいフルカラーの入門書です。

橋本淳司 (著)
出版社 : ベレ出版 (2014/8/22)、出典:出版社HP

はじめに

水はとても身近な存在であり、飲まないと生きていくこ とができません。一方で、あらゆる物質のなかで最も不思 議な性質をもっているといえます。マーティン・チャップ マン博士(ロンドン市バンク大学名誉教授)によると、水の 「常識はずれ」な性質を数えると67もあるといいます。

その1つは、温まりにくく、冷めにくいこと。
私たちの体は60~70%ほどが水で占められています。
私たちは体内を水で満たしているので、極端に熱が上 がったり、下がったりすることなく、生体の機能を維持で きます。

不思議な性質の2つ目は、固体の水のほうが、液体の水 より軽いこと。ほとんどの物質はその逆で、固体のほうが 液体より重いのです。
だから池の表面が凍っても、底には液体の水があります。
もし池の水が底から凍っていったとしたら、魚は死に絶 えてしまったでしょう。

3つ目に、いろいろな物質を溶かします。私たちが生き ているのは、この力のおかげです。食べ物からとった栄養 を血液に乗せて運んだり、不要な物質を尿として排出したりしています。水ほどいろいろな物質を溶かす働きをもつ物質は自然界に他にはありません。

本書では、日常見慣れた現象・出来事を題材に、改めて「な ぜ」という視点を投げかけながら、水の性質をわかりやすくお話ししていきます。
また、水不足、水汚染、気候変動などの水問題や、その 解決方法、水についての最新トピックスも紹介します。
現在、さまざまな科学技術や新しい水政策によって、水問題の解決が図られていますが、そこには大切な視点があります。

1つ目は、水循環という広い視野でとらえることです。 たとえば、水道水は地下水や川を原水としており、その水 は水源の森に降った雨です。また、自分のところへ流れて くる水だけでなく、自分が流している水にも注目すること が大切です。たとえば、生活排水、工業排水、農業排水な どです。このように視野を広げると、真の問題が見えてき たり、問題を解決する選択肢が増えていきます。

2つ目は、水のことといっしょに、食料やエネルギーの ことも考えることです。水問題とは、当たり前ですが、水 そのものに問題があるわけではありません。水問題がなぜ 大きくなったかというと、人間の経済活動が大きくなり過 ぎたことに関係します。いまのままでは、私たちは地球の資源を使い尽くしてしまいます。持続可能な社会をつくるには、水、食料、エネルギーの関係を合わせて考える必要 があります。

こうした視点をもちながら、身近にありながら謎につつ まれている水について知ることで、問題の本質や課題の解 決方法に気づくことができるでしょう。
では、これから不思議で興味深い水の世界へあなたを招 待します。ごゆっくりお楽しみ下さい。

2014年8月
橋本淳司

橋本淳司 (著)
出版社 : ベレ出版 (2014/8/22)、出典:出版社HP

もくじ

はじめに

第1章 水と科学
水は万物の根源なのか?
水が H2Oとわかったのは 19 世紀のこと
固体、液体、気体に変化する
水は固体より液体のときのほうが重い
水は比熱容量が大きい
融解熱、蒸発熱が大きい
融点、沸点が同系列の物質に比べ極端に高い
圧力によって融点、沸点は変わる
一定の条件のもと固体から気体へと変化する
水は多くの物質を溶かす
水は溶かし運ぶ
降り始めの雨には多くの物質が溶けている
表面張力が大きい
共有結合する水分子
水分子同士は水素結合で結ばれる
氷の分子は隙間が多い
原子力に利用される重水
水の粘度は温度が高いほど減少する
液体と気体の性質をあわせもつ超臨界水
0℃以下でも凍らない過冷却現象
ミネラルウォーターは無機物が溶けた水
ミネラルは必須条件ではない
水道水とペットボトル水の製造基準
海はなぜ青く見えるのか?
鉄の船はなぜ水に浮かぶのか?

第2章 地球と水、宇宙の水
地球は表面を水に覆われた惑星
地球型惑星の水の起源
水が存在する可能性のある惑星
わずかな淡水が偏在する
水蒸気が雲になるまで
潮の満ち引きは月の引力によって起きる
地球温暖化が水に与える影響
気候変動によって起こる水不足と災害
ハリケーン・サイクロンが起こるしくみ
地球上からなくなってしまう国
日本でも水没する土地がある
砂漠化によってすめなくなる土地
気候変動の生き物への影響
私たちの暮らしへの影響

第3章 水と人と生態系
水を汲みにいく時代から水を引き寄せる時代へ
エネルギーを使って水を運び、浄化する時代
エネルギーを使って水を生み出す時代
水の管理方法にはどのようなものがあるか
生態系の保全を第1に考えた水管理
陸の水をゆっくり流す
光合成によって生まれる水
豊かな森が水を育む
地下水が減った原因は田んぼが減ったこと
転作田を使った涵養方法
間伐で保水力が上がることもある?
豊かな森は魚を育む
雨水活用で洪水防止を図る

第4章 安全な水と技術
毎日どれくらいの飲み水が必要か
日本人は1日にどれくらいの水を使っているのか
生きていくのに最低限必要な水の量
水をとおして病気が広がる
多くの浄水場で採用される急速ろ過
塩素による水の殺菌
高度浄水処理で東京の水道はおいしくなった
生物の力で水をきれいにする「生物浄化法(緩速ろ過)」
浄水器が水をきれいにするしくみ
浄水器と活水器の違い
硬水を軟水にする
シンガポールの独立を支える生活排水
海水を真水に変える方法
災害に備えて水道水を溜めておく方法
ポリタンクに水を溜める方法
雨水を資源として活用する
大気から水をつくるという新発想
汗を飲料水に変える
ゴミにならない「食べられるボトル」

第5章 水汚染と技術
トイレ、風呂、キッチン、水を汚すものをいちばん流すのはどこか?
海水淡水化の盲点
工業による水汚染
農業で使う化学肥料が水を汚す
農薬中の水を汚す物質
放射能による水汚染
水の汚れをはかる基準
棲息している生き物で水の汚れがわかる
都市の成長と下水処理
黎明期から成長期のまちに必要な下水技術
下水処理の役割
下水汚泥はどのように活用できるか
成熟期に必要な老朽管を管理・再生する技術
トイレがないと水が汚れる
節水トイレの開発に力を入れる日本
水洗式トイレには下水道か浄化槽が必要

第6章 持続的な水利用
食料生産にはどれくらいの水が必要か
日本に輸入される食料生産の水
灌漑によってロスする水
食料自給率の低い国は他国の水に依存している
農業排水を再利用する
鉄1kgをつくるのに必要な水
超純水が半導体生産を支える
深刻な中国の水不足
中国の水不足が与える影響
企業にとっての水リスクとは何か?
水リスクをもつ企業は投資を受けにくくなる
水保全は水利用者の義務
家庭でできる水のレデュース
家庭でできる水のリユース
水とエネルギーのマイナス連鎖を断ち切る

本書の主な参考文献
科学用語さくいん

橋本淳司 (著)
出版社 : ベレ出版 (2014/8/22)、出典:出版社HP

水と生命―熱力学から生理学へ (シリーズ・ニューバイオフィジックスII 2)

熱力学をベースにして水について理解する

このシリーズは、若い世代に生物物理学の重要性と面白さを伝え、21世期の生命科学の担い手となってもらいたいという考えで企画されました。シリーズ13冊目である本書は、水と生命との関わりを熱力学をベースに解説し、どのように生かされているかを明らかにしていきます。

永山 国昭 (編集), 日本生物物理学会 シリーズニューバイオフィジックス刊行委員会 (編集)
出版社 : 共立出版 (2000/5/1)、出典:出版社HP

執筆者一覧(執筆セクション)
体合バイオサイエンスセンター chemistry, Department of
永山國昭(序章) 自然科学研究機構岡崎統合バイオ
清水 青史 (1-1) Lecturer in Biochemich,
Chemistry, University of York, UK
大畠玄久 (1-2) 元 名城大学理工学部
髙橋卓也 (1-3) 立命館大学情報理工学部
日向 邦彦 (2-1) 広島大学大学院理学研究科数理分子生へ
山崎昌一 (2-2) 静岡大学理学部物理学科
今野卓(2-3) 福井大学医学部
石井淑夫 (閑話休憩) 鶴見大学歯学部歯学科
鈴木誠 (3-1) 東北大学大学院工学研究科
岡田泰伸 (3-2) 自然科学研究機構生理学研究所
玄爾(3-3) 花王株式会社生物科学研究所分子生命理学専攻

シリーズ・ニューバイオフィジックス刊行委員
曾我部正博(委員長)·桐野豊・鄉 信·宝谷統一

シリーズ・ニューバイオフィジックス II

刊行にあたって

生物物理学(バイオフィジックス)は、生命を物理科学的に理解するとともに,その応用を目指す学問である。その対象は分子,細胞,個体,集団の全域にわたり,分子や膜の構造と機能,細胞情報変換,エネルギー変換,運動機構,形態形成,脳機能などを実験と理論の両面から解明しようとしている。ここ10年の分子生物学の発展により,細胞の機能を担う重要なタンパク質の1次構造が次々と決定され,その動的高次構造も明らにされつつある。また,さまざまな分子プローブと超顕微鏡の開発によって、生きた細胞の中で,分子が情報変換する様子を直視することもできるようになってきた。さらには、ミリ秒で変化する脳の活動をイメージングする技術も開発されている。一方、カオスやフラクタルに代表されるように,上記の技術から得られる動的で複雑な情報から、その物理学的根拠を探る理論的な研究も盛んになってきた。

生体は分子を単位とした,複雑な動的システムである。これまではその構成要素を探し、分子実体と構造を決める時代であった。これからは,その要素自体の動的構造機能連関と、要素が織りなす複雑で動的なシステムの謎を解明して、生命の本質に迫る時代である。そのためには,それらを計測する技術と,その結果を解釈する理論の両者が不可欠である。生物物理学こそ,これらの課題に真正面から取り組んできた学問であり,21世紀の生命科学を先導する役割を担っている。こうした重要性にもかかわらず、生物物理学は,捕え所のない難しい学問であるという印象を与えてきた。本シリーズは、次代を担う若い世代に、生物物理学の重要性と面白さをわかりやすく伝え,21世紀の生命科学の旗手になってもらいたいという願いを込めて企画された。同時に、関連する周辺の科学者に生物物理学の目指すところを理解してもらい、実りある共同研究や新分野の開拓が促進されることも願っている。執筆者は現在生物物理学会の最前線で活躍している研究者を中心に構成した。多少難しく詳しい部分はコラム形式に分離し、図をふんだんに使用して、考え方や研究方法の要点を予備知識無しに読み通せるように努力した。

日本生物物理学会 シリーズ・ニューバイオフィジックス刊行委員会

中学2年の時の理科の試験問題が,私の研究魂を最初に刺激した。問題は「水が1気圧で100°C以上にならないことの理由を述べよ」というものであった。この問題の標準的な答えは知っていた。水は蒸発するときに気化熱をうばうからというものである。しかしこの答え方が気に入らなかった。熱のエネルギー流入と気化熱によるエネルギー流出のバランスだけなら100°Cという定数は出てこない。15°Cでも200°Cでもバランスが傾けばいかなる値も取りうる。私の答えは水の蒸気圧が100°Cで1気圧になり,水としてとどまれず気体になるというものであった。結果はバツであった。その後私の顔を見ると逃げ出すほど理科の先生に食い下がり,標準的な答えがいかに間違っているか問い直したがついに私の答えにマルはもらえなかった。今でも私の答えが正しいと思っている。しかし私自身本当に納得できる解答を得るには物理学科での熱力学修得とそれを血肉化する20数年を要したように思う。

水にまつわる話には際限がない。それだけ人間、いや生物が水の恩恵をこうむっている証拠である。水の神秘はどこにあるのか。答えは“常温常圧で水である”(序章の「おわりに」参照)。この地球環境で液体であること,それがモノをよく溶かす水の性質につながり生命誕生のゆりかごとなった。水には母のやさしさがつきまとう。しかし実はそれをよく溶かす性質は水が破壊の神であることをも意味する。それについてタンパク質を用いて説明しよう。
タンパク質を電子顕微鏡で観察しているとよく質問される。「タンパク質は真空中で壊れないの?」。タンパク質の天然構造保持には水が必要であると堅く信じているほとんどの生化学者と生物学者はタンパク質を水から取り出し真空に入れると壊れると思っている。熱力学が教えるところはこの逆である。真空中でタンパク質は壊れると水との接触面積が増える。接触面籍敷かれるテフロンほどに安定で、低下している。これは何でも溶かす水の性質からな水との引力相互作用が増えることけることはタンパク質が壊れることを意味する(防爆月でタンパク質はフライパンに安定性はギリギリまでこの性質から実は起因する。タン接触面積が増えることはなる。すなわちよりよく溶する(乾燥昆布が水中で広かしこの水の破壊性は必ず安定性は石のように固いパク質に構造のゆらぎをがるのをイメージしてもらえばよい)。しかも生命にとって不利ではない。ギリギリの安定性はるの直空中でのタンパク質の構造をほぐし,タンパク質に構造のとタンパク質独特のすぐれた動的機能を生み出す。創造 表裏一体性の中に命の水の第2の神秘がみえている。

水の第1の神秘は水そのものの本性(物性)にかかわり、科学は解明しようとすれば量子力学をベースとした液体論の助けが必要でする。しかし生命にとって水の物性自体はさしたる関心事ではない。生命とのかかわりは水の第2の神秘の中にある。すなわち生体分子と水との相互作用の中にある。本書は水の第2の神秘を(化学)熱力学をベースに定量的に明らかにする。その上でその神秘が個々の具体的生理作用とどうかかわり、どう活かされているかを明らかにする。

本書は3章に分かれている。第1章は水と生体分子の相互作用(水和エネルギー)の熱力学的導入と溶媒和エネルギー一般の移相エネルギー解釈の確立にあてた。水和・溶媒和エネルギーのような最も基本的熱力学量の実験的確定が,最近まで科学的論争の的であったことに驚くだろう。日本人の大学院生がその論争に決着をつけた(セクション1-1)。水和エネルギーの熱力学的定式化は,タンパク質水和に即してはセクション1-2で、イオン水和に関してセクション1-3で展開した。

第2章は2つの生体分子,タンパク質と脂質それぞれについての水和・溶媒和エネルギーの計算法についてセクション2-1で生体膜の水和問題についてセクション2-2で展開した。セクション2-3では水和・溶媒和エネルギーが主役を演ずるタンパク質変性について熱力学的な立場から俯瞰した。

第3章は水和の熱力学を生理作用と関係づけるためにあてた。筋肉収縮の際のエネルギー収支をタンパク質水和の状態変化として説明したのがセクション3-1である。セクション3-2は水和エネルギーのもう1つの形態であるイオンの浸透圧に関し,細胞の容積調節の生理学を展開している。セクション3-3は皮膚のうるおいを決める水和と美容の関係を生理学の一例として紹介した。

本書で展開する水から始まる熱力学が重すぎると感じる読者には肩の力を抜いた閑話休憩「おいしい水,おいしい酒」を用意した。官能の世界に熱力学がどう切り込んでいけるのか興味ある話題である。
2000年3月
担当編集委員

カバー写真
辻 けいのフィールド・ワーク; 1999年10月5日,高知県 安芸川にて
自然への配置。新たな発見。水の中の布。水の形をしてみたの造形。糸は光と水によって織られる。そして生命をふき込まれる。布が渦巻く水流に引き込まれてゆく様に<私>の蔵峠ず泡立ってゆく。
表現形成の根を張るような仕事としてのフィールド・ワークフ興味をもつようになったのは,行為や素材を通して対峙する白映の中に、どうやら私は、私の失われた<祖型>や<原基>への成情を発見するからだろうと思うことがある。ヒトは自然界の一部でありながら自然でないものになった。その失われた魂の祖型を知りたいという深い心理が,行為や素材を通して伝わる光や水や空気の流れを含んだ全体性へ私を駆りたてる。アートが意識という名の人工性にあふれたものだとしたら,その祖型が<自然>に秘められていると想像するのである。自然の中に一枚の薄い布を置くのは、それまで見えなかった彼等=自然の形や色彩の声を聴くと同時に<私>という反自然的存在への問いであろうとするの
だ。
“辻けいのメッセージ”より
辻けい
1953年東京生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科修了。染と織を主体に自己(染織した布)と時空(生態)とのかかわりを探求し続け
ている。

永山 国昭 (編集), 日本生物物理学会 シリーズニューバイオフィジックス刊行委員会 (編集)
出版社 : 共立出版 (2000/5/1)、出典:出版社HP

もくじ

■序章 水から始まる生理機能の熱力学
1生物の階層構造と熱力学
2水と生体分子との相互作用
3アロステリック調節と水
■第1章 水和エネルギー
1- 1水和・溶媒和と表面積
その基礎をめぐる混乱と論争
1溶解度から溶媒和へ,生体高分子へ
2溶媒和をめぐる論争
1- 2水和の熱力学
1イオンの水和エネルギー
2非イオン性溶質の水和エネルギー
3一水和エネルギーの露出表面積による表現。
1-3 イオンと水
1イオンと溶媒との相互作用
2高次の生命現象におけるイオンの役割
■第2章 生体分子と溶媒和
2-1 タンパク質の選択的溶媒和
1アミノ酸の溶媒和
2タンパク質の選択的溶媒和
3選択的溶媒和の熱力学的意味
4選択的溶媒和と構造安定性74
2-2 生体膜の溶媒和
1リン脂質の多重層ベシクルの膨潤とリン脂質の水和量
2最近の脂質膜界面の物理的描像
3 オスモティック・ストレス
4膜間距離の決定因子水和力は存在するのか?
5 生体膜の表面セグメントと溶媒の相互作用自由エネルギー
2-3 タンパク質の熱力学的状態数
1議論の領域と対象
2研究の方法的側面
3非天然状態の多様性の概略
4各状態間の転移の性状
5タンパク質とホモポリマーの構造転移の比較
6一測定法による構造多様性の解析の利点
状態を実現する自由エネルギー関数の現象論的表現
■閑話休憩 おいしい水,おいしい酒
1“おいしい”といえる条件
2嗅覚と味覚のセンシング
3おいしい水,健康によい水
4酒のおいしさが測定できた
5酒に超音波を照射すると味が変わる
■第3章 水と生理
3-1水和と筋収縮
1筋肉収縮の分子モデル
2モータータンパクミオシンの熱特性
3マイクロ波誘電分散法
3- 2細胞の容積調節
1浸透圧平衡下における物理化学的細胞容積変化
2―物理化学的浸透圧負荷と定常的ポンプ作動性容積調節メカニズム
■生理学的浸透圧負荷とチャネル/トランスポータ作動性容積調節メカニズム
1長期的浸透圧負荷に対する容積調節応答
2細胞の増殖・生存における容積調節機構の役割
3-3 表皮角層水分保持機能
1角質細胞間脂質溶出と角層水分保持機能の低下
2角層内の脂質の局在
3脂質の塗布による水分保持機能の回復
4角質細胞間脂質の水分保持関与する物理化学的性質
5水分保持機能に関与する色脂 関与する角質細胞間脂質の微細構社
6角層内の結合水の挙動

索引
用語解説索引

COLUMN
水和エネルギーの偉大な力
KNFモデルとMWCモデル
生化学過程における疎水性の重要性について
混合のエントロピーをめぐる1つの大前提と3つの罠
非イオン性原子団の水和熱力学量の計算
タンパク質の変性の水和熱力学量の計算
同種の電荷をもつ粒子の間に働く引力の謎
Melander と Horvath によるタンパク質の溶解度の理論
アミノ酸の溶解度と移相の自由エネルギー
選択的溶媒和の理論
リン脂質多重層ベシクルの内部の水の化学ポテンシャル
スペクトルデータの特異値分解法とタンパク質の構造状態の解析
ppmのトリック
実験動物のマウスにも愛が必要
タンパク質モデルからの水和数の計算法
ミオシン ATP 分解反応の反応経路
ドナン平衡
示差熱分析(DSC)

序章 水から始まる生理機能の熱力学

永山國昭
はじめに
水という物質ほど私たちの生活に、いや私たちの存在基盤に深くかかわっている物質はない。私たちの体の60~70%(重量)を占め,“いのち”生まれいずる所と教えられてきた。しかしこうした文化的バイアスがときに私たちの科学的な眼を曇らせる。たとえば「生体物質は水中と真空中でどちらが安定か」と問われればほとんどの人が水中と答える。タンパク質の物理化学をかじった研究者でも「疎水性相互作用」などを理由に、水の中で安定と答える。しかし真実はその逆である。
水と生体分子の相互作用を研究すればするほど、水の重要性は認識されるが,その中味はいささか常識と異にする。常識はたとえば次の新聞記事の驚きの中に現れている。「“6千気圧でも生き延びるクマムシの驚異的能力”クマムシは、周囲が乾燥すると体内から水分を放出し、樽のように体を縮め仮死状態になる。仮死状態のクマムシを不活性液体のパーフルオロカーボン(PFC液)に浸し、6千気圧で20分加圧した後,大気圧にもどして水を加えると、再び動き出す(科学新聞, 1998年12月18日)」
本書は上記の記事が科学的常識として受け入れられるための基盤作りとして刊行された。

1生物の階層構造と熱力学

ユリウス・マイヤーは船医として熱帯を旅しているとき静脈中の血の色が外界温度で変わることを見出し、エネルギー保存則と関係づけ、
力学はその出発点か出会量。9項参照)と深を含め(化学)熱力学の第一法則を発見した。このように熱力学はその出発点から生理作用(この場合はヘモグロビンの酸素結合量)と深く結びついていた。生体内の現象は化学反応を含め(化学)食そのものといってよい。複雑な対象を細部にとらわれず完語る。用できるのが熱力学的方法である。したがって生物の各階層に問題がある。考えられる例を図1に示した。
武力学はエネルギー収支のつじつまを合わせる学問であるエネルギーの出入りのあるには必ずこの方法が適用できる。生物は食物という形でエネルギーを取り込み、体の中で使う。その取をどのレベルであるかが、図1の各階層に対応する各々の熱力学である。しかも生物は恒常性ゆえに多くの部分がサイクルを描いていている。このため熱力学解析が生体に対し熱機関の解析と同じように有効に使われるのである。
ところで、生物のすべての側面が熱力学で解析できるわけではない。図1の階層構造には遺伝(情報)的視点がまったく抜けている。

生個体群(生エネルギー収支)
巻目(器官機能の熱力学)
目(生体エネルギー、容積題節のお力学)
オルガネラ(一般道の熱力学の生長会、筋肉の力学)
生体高分子(タンパク質変性の力学,核酸融解の熱力学)
図1 生物の階層構造と各種熱力学

物の成り立ち、働きには熱力学的制御の他に生物固有の遺伝(情報)的制御が必要である。それが端的に現れるのがタンパク質である。ポリペプチドの生合成は遺伝子配列の翻訳だが,構造形成自体は完全に自発的で,熱力学法則(自由エネルギー最小化)に従っている。このことを図2に模式的に示した。すなわち生体系の生成(発生)も維持(恒常性)も情報と熱力学法則の二重制御によって行われている。これ
が生命の本質だが,本書では図2の下段,「熱力学的制御」を水に焦点をあて浮き彫りにする。もちろん隆盛を誇る分子生物学は図2の上段を扱う学問であり、遺伝情報に一元化したものの見方はものごとを単純化する。しかし生体という現実の物質系は熱力学的プロセスなしに完成しえない。

2水と生体分子との相互作用

図1の最下層における熱力学は,結局,水ータンパク質間相互作用、リガンドータンパク質間相互作用,タンパク質ータンパク質間相互作用,膜タンパク質間相互作用を扱うことになる。生理機能の熱力学は本来このすべてを対象とする。しかし本書では水と生体分子,とくにタンパク質との相互作用に焦点をあて生理現象をどう理解すべきかを問う。タンパク質を中心に考えると水,溶媒,リガンド,脂質などの媒質との相互作用を溶媒和エネルギーとして統一的にとらえることができる。水和エネルギーはその最も原初的相互作用である(第1章参照)。
水和エネルギーを議論するとき異分子との相互作用を考慮しない水分子自体の構造研究はまったく役に立たないことを肝に命ずるべきである。さらに水のクラスター構造,分光学的まったく無力な量である。以後の議論では水は媒質として連続的に塗り潰されている。ただし固い結合水のようにタンパク室の一部として取り込まれた水はその構造が問題となる。しかしこれはタンパク質の一部と考えれば事足りる。
水和エネルギーは生体分子の構造を仮に固定したとき、水のあるなしに伴う自由エネルギー差として定義される。
もし構造がわかっていれば,水と接触する原子団の面積あたりの水和パラメータAg水を用いてG私は次のように表現される
(1-1 参照)。
ここではA,はi種(たとえば-CHなど)の原子団の水と接触する露出表面積で,分子構造をもとに計算される。△gi水は真空中から水へ原子団を移相するときのエネルギー利得(移相エネルギー, transferonergv)である。(1)式で重要なことはタンパク質構造由来のエネルギー(分子内ポテンシャル)が2つの自由エネルギーの差を取ることにより落ちていることである。またAgi水は低分子の熱力学実験から求まる。多くの研究者がAg水のパラメータを与えているが, Oobatake & Coil や Privalova のものが有名である。
(1), (2) 式の意味するところは,水和エネルギーが組成量(構造も含む)と原子パラメータの積に分解できることである。すなわち部分の和として表現できることである。この考えはタンパク質の構造変化,変性そしてアロステリック調節の熱力学的考察に有効で,ひいてはリガンド結合に伴う生理作用をもその射程におさめて議論できるのである(5項参照)。たとえば「水を」とすれば水から変性剤溶液に移行したときの変性のエネルギーが次式(3)のように求まる。
AGPN= 8Go-OG SGP- 32APAI
(3) SOGN=”ASAHI ここでAP は変性状態の, AS は天然状態のi種原子団の溶媒露出表 面積である。A4用は種原子団の移相エネルギー(変性溶媒和エネルギー-水和エネルギー)である。
(3)式は図3のように視覚化される。ここで重要なのは構造変化を伴うエネルギー差量AGR,AGONを計算するのをやめ、(3)式のみ

図3 タンパク質構造変化と溶媒和エネルギー水分子,変性剤分子に囲まれたタンパク質は構造変化に伴い,溶媒(水,変性剤)との相互作用を大きく変える。その際表面積の変化が溶「媒和エネルギー変化を与える。実際の計算では水も変性剤も溶質として完全に塗りつぶして考えてよい。

から、すなわちタンパク質の幾何学的構造と移相エネルギー原子パラメータのみを用いてDAGAIを計算できることである。もちろんAGFが実験的に与えられていればAGONは(4)式のように求まる。
AGN=8AGN+AGPN変性過程の実験はAGRAという溶媒和エネルギー由来の項のみを変化させるので天然/変性という2つの構造の存在比は次のように簡単に予測される。
ここでAは、例えば変性剤を入れる前の天然/変性存在比。また

COLUMN 1 水和エネルギーの偉大な力

水和がどれほど生物にとって重要かを示すには、塩などの固体の水への溶錠為程を考えればよい。NaClを例にとれば、NaCI結晶が融解するのは180100
するのは1,413°C,完全にイオン解離するには約62,000°Cの高温が必要となる。水への溶解過程ではこのすべてを常温で行うことが可能となる。なぜか。答えは62,000°Cに対応するNaCIの格子エネルギー681kJ/molをNat.CIイオンへの水和エネルギー727kJ/molが十分に補うからである。だから超高温,超高圧でのみ起こる気相反応を水中では常温、常圧でいとも簡単にやってのける。その秘密は水和エネルギーにある。そしてこの大きな水和エネルギーは水が常温、常圧で,液体であるという性質と同根なのである。

こうしてタンパク質構造に由来する分子内ポテンシャルの計算や知識を必要とせず,タンパク質の幾何学的構造をもとに構造変化に伴う自由エネルギーの変化,したがって対応する構造状態の存在比(濃度比)が合理的に説明できることになる。この考え方は一般に拡張でき,ともかく有限個の安定構造状態(変性の場合は天然状態,完全変性状態,モルテン・グロビュール状態,ヘリックス状態;チャネルの場合は開状態,閉状態;アロステリックタンパク質の場合はT状態,R状態など)を指定できる場合,たとえばチャネルの開と閉の2つの状態へのリガンド結合の結合エネルギーに差があれば,あるリガンド濃度における閉と開状態の存在比を予測できる。結合エネルギーはリガンド溶液への移相エネルギーという量に翻訳できるので,定性的な「リガンドが結合してチャネルがオープンする」は以下のような定量的表現に変わる。「何モルのリガンド存在下では開状態が♂AGランド分のエネルギー利得があるためその存在比をexp(BAG/RT)だけ増す」。こうした熱力学的定量表現で生命の神秘の1つアロステリック調節を説明し,水とのかかわりをさらに明確にしたい。

アロステリック調節と水

ヘモグロビンで見出されたアロステリック調節は,種々のタンパク質にみられる生体系特有の機能調節機構である。それは活性部分から遠位(アロステリックサイト)のタンパク質表面への分子(リガンド)の結合が調節に効くというものである。活性部位とリガンド間に直接の相互作用がなくても活性機能を調節(活性上昇,低下など)できることは一見神秘的である。しかしこれは取りうるいくつかのタンパク質状態へのリガンド結合エネルギーの違いがわかれば説明できる。アロステリック調節が最初にみつかったヘモグロビンについて具体的に説明しよう。
きわめて合理的である。酸素分圧の高い肺でヘモグロビンに吸着された酸素は,末端組織の筋肉へ血液へ。れ、そこでミオグロビンに酸素を渡す。そのな(~20Torr)に対し、ミオグロビンとヘモグロビンで吸着低くなった酸素分圧で吸着量に差が生まれる。
その差の分だけへモグロビンからミオグロビンフヘモグロビンに酸素が渡されるAからBへの矢印である。こうした合理的な働きは取ってられる通り、2つのグロビンの酸素吸着能力の差に合うしぎに負うところが大きい。すなわちミオグロビンの飽和型吸着曲線とヘモグロビンのS字刑(シグモイド)吸着曲線の差である。この吸着曲線の脳空吸着曲線の顕著な差はへモグロビン(四量体)の4個の酸素吸着部位とミオグロビン(一番は、の1個の酸素吸着部位の個数の差から生まれる。ただし吸着部位がみ

図4 ヘモグロビン,ミオグロビンの酸素吸着曲線
水中の酸素量(水に溶けている酸素濃度を平衡にある気体酸素の分圧で評価)の変化に伴い、酸素吸着の割合が変化する。ミオグロビンに比べヘモグロビンの吸着はS字型曲線が特徴である。

立な場合,ヘモグロビンといえどもミオグロビンと同じ飽和型曲線となる。そこでPeruz)をはじめ構造生物学者の多くが吸着部位酸素間の直接の相互作用,いわゆるヘムヘム相互作用を探そうと過去30年間努力を重ねてきた。しかし直接相互作用は見出されていない。むしろ遠位にある酸素間に直接の相互作用がなくても酸素吸着はS字型曲線となりうるのである。
この現象の説明としてタンパク質の構造変化を前面に出すアロステリックモデルが2つ提案されている。1つはMWC(Monod-WymanChangeux)モデル,もう1つはKNF(Koshland-Nemethy-Filmer)モデル60である(COLUMN2参照)。両者はまったく対立するモデルではなく,ある意味で複雑な調節機構の異なる断面を典型的に表している。次にMWCモデルの上に立ち,現象の定量表現を試み,さらに一般に溶媒との相互作用を考えてみよう。
T状態とR状態の構造的な差異は四次構造(サブユニット間結合状態)における差である。R状態の方がサブユニット間が離れておりユニットの間に水が入り込みやすい。X線の結晶構造解析から溶媒への露出度(溶媒接触度)の差は水約60個分の表面積の差(700A2)だ

用語解説

一次構造
タンパク質のアミノ酸配列。
二次構造
タンパク質中の要素構造でヘリックス,シート,ターンの3種類がある。
三次構造
1本のポリペプチドでできたタンパク質の立体構造を三次構造と呼ぶ。
四次構造
ヘモグロビンのような複数のポリペプチドでできた大きなタンパク質の立体構造を四次構造と呼ぶ。
安定構造状態
タンパク質と人工高分との違いは,タンパク質における少数の安定構造(自由エネルギー極小または最小)である。ただし各安定構造は厳密に1個の構造に対応するのではなく、多くのサブ構造間をゆらいでいる熱力学的状態である。

COLUMN 2 KNFモデルとMWC モデル

ヘモグロビンを構成するサブユニット(一量体)はほとんど進サブユニット間の結合状態には2つの種類がある(四次構造」tightな結合(T)とrelaxしたルースな結合mでrelaxした結合様式を丸()で示した。すると丸と四角グロビンの状態は5種類の四次構造,IT,TR,TR,TB、B1これが図の縦の列を表している。また酸素吸着の種類はやはり5つno0.1である。したがって安定構造と吸着量によりヘモグロビ態は図のような5×5のマトリクスで表示できることになる。

この可能な存在状態のうち,対称性のよいTとRのみの四次元構法るのがMWCモデル,一方酸素吸着ごとにTからRへの構造変化(T,OS-TBSTR.O,T,R,O,R,O)が逐次的に起こると考えるのがKNFモデルである。どちらが正しいかはこれらの存在状態の安定性(自由エネルギー)の比較からまる。ただほとんど同一のサブユニットからできているヘモグロビンでは対行きの高い方がサブユニット間の結合エネルギーが大きくなり、エネルギー的に有になると考えられる。とくにリガンドがサブユニット間の接触部に入るような場合、非対称構造は不利と考えられる。

ヘモグロビンのS字型吸着曲線は酸素が吸着されると次の酸素が吸着されやすくなることを意味しており、いかにもKNFモデルが正しいようにみえる。しかしタンパク質の変性問題と同じで、こうした一見ナイーブな解釈は分子世界では正しくないことが多い。あくまで可能な存在状態の存在比を自由エネルギーの言葉(熱力学)で定量表現しなければならないのである。

MWCモデルとKNFモデルは25個のタンパク質存在状態を招く説明できる。MVCモデルはRT.の対称的構造のみを収定、KNFモデルは酸素吸着に伴う構造変化を仮定MVCモデルが、力学的には最も単純であり見通しがよい。

といわれている。変性現象でいえばT状態は天然のコンパクト構造(N),R状態は変性したルースな構造(D)と対応する。酸素がないときは当然コンパクトな結合エネルギーの高いT状態が安定である。しかし酸素があるとその吸着エネルギーはR状態の方が高く,R状態を有利にする。したがって酸素はT状態(~N)からR状態(~D)を導く変性剤のようなものである。これを図式的に図5aに示した。変性剤の効果は△gi移相という溶媒和(移相)エネルギーでパラメータ化されるが,この量はまた変性剤の吸着エネルギーと直接の関係をもっている。溶媒和というのはO2と水とを連続的に塗りつぶしたとらえ方,吸着というのはO2を水と区別した分子的見方である。しかしその両者は合理的に変換可能である。
そこでこうした酸素吸着の平衡を第3の物質(リガンド,アルコールなど)がどう変えるかをみてみよう。とくに変性剤や安定化剤を入れると吸着曲線がどう変わるかみてほしい。TとRでは露出表面積に差があるので,溶媒和エネルギーが変わればその平衡(存在比)がずれる。事実,実験的に図5bのような結果が得られている。安定化剤を入れると吸着曲線が右方へ,変性剤を入れると左方へずれる。これは2項で述べた考え方を用いれば,変性剤存在下では露出表面積の大きなR状態が作られやすく、安定化剤存在下では露出表面積の小さなT状態が作られやすいと読み替えられる。この場合第3の物質が酸素吸着部位から十分遠い所にあり,まったく直接的相互作用がなくても,RとTの存在比を変える能力さえあれば,あたかも直接吸着平衡を変えるようにみえるのである。これがアロステリック(遠位)調節の本質である。ポイントはタンパク質の少数の安定構造の存在とその間の熱力学的選択(調節)ということになる。R状態はサブユニット間のすきまが大きいので,そこにリガンド(HやDEG)の強い結合部位があり,リガンドが侵入可能なら,変性剤と同じようにリガンドはR状態を有利に導く(図5参照)。「自由エネルギーレベルで表現すると上に書かれた文章はすべて図5Cのように定量表現される。図5cの中央は中性条件のときの酸素

図5 ヘモグロビンのアロステリック調節
a:酸素の吸着によりヘモグロビンはT状態からR状態に変わる。これは変性と同じように酸素吸着が表面積の大きいR状態を有利にすると解釈される。
b:第3物質による吸着曲線の制御。変性剤やH+イオンがあると平衡はR状態因ずれ、吸着曲線は左へシフト、安定化剤があると平衡はT状態側にずれ出術ヘシフトする。
C:アロステリック調節のエネルギーダイヤグラム表現。状態,シールキータイヤグラム表現。R状能T状態への酸素吸に伴うエネルギーレベル変化を中性,変性剤存在下,安定化剤存在下で比較した。

東着状態(RO~RO、10~10に対する自由エネルギーが書かれている、素着なしではTOが安定だが、酵素が4個付くとRO。き定となるのがみてとれる、安定化、変性の存在はこの両者の対関係を変える、変性用の場合TOTO、全体が相対的に上方へ移動するため、状態全体が安定化され、低い酸素分圧でR状態が実現する、エネルギー移動量は変性剤の溶エネルギー差(AG%3DcaseGlassくのが決める。一方、安定化があるとJGeosは三となり10~10が相対的に下方へずれる。こうしてT状態全体が安定にされ高い要素分目までT状態が残る。このエネルギーダイヤグラムで、ヘモグロビンのアロステリック調節のすべてを表現している。

おわりに

水の効果はタンパク質の露出部分での水和エネルギーを通してタンパク質構造の安定化や機能の熱力学的選択原理として現れる。繰り返すが、水分子を連続的に塗りつぶし酒家和エネルギーとしてとらえたとき、その力学的特徴が最も浮かび上がるのである。水自体の構造や物質はその前面に出てこない。しかしそれでも水の構造,特性が生体とどうかなあるか知りたい人もあるだろう。そこで水自体がどれほど特殊なものが、最後にその特性の根源を考えてみたい。「空気中の夜までも窒素でも炭酸ガスでもそして都市ガスのプロバンガスでも一般に小さくて軽い分子は常温常圧で気体である。低分子では分子どうしの引き合う力が認く、地球環境では凝結できないからである。液体にするには-100°C以下に冷やす必要がある。唯一の例外が水である。すなわちHOのような最も軽い分子が常温常圧で液体であることが例外的なことなのである。この例外は水分子間の強い相互作用(水素結合)から生まれる。そしてそれが水に第二の性質を付与する。色々な分子と適度に相互作用し、かつ水の密度が高いため、
ける基盤がここにある。常識的すぎてかえってみえない、“常温常圧で水(液体)である”,ことが実は他の物質になし、の性質,神秘なのである。水の物性,構造もろもろの固有の性質はそれ自体神秘といい。しかし本書で主張したいのはその神秘から直接生命活動がきれるのではないことである。生命の神秘は生命の個物,生体分子水との相互作用を通じて現れるのだということを私たちは再度肝ずべきであろう。

文献
1) Oobatake. M., Ooi, T.: Hydration and heat stability effects on protein
folding. Prog, Biophys. Mol. Biol., 59, 237-284(1993) 2) Privalov, P.L., Makhatadze, G.I. : Contribution of hydration to pro
tein folding thermodynamics. J. Mol. Biol., 232, 660-679(1993) *3) 永山國昭:生命と物質一生物物理学入門,東京大学出版会(1999) 4) Peruz, M.F.: Mechanism of cooperativity and allosteric regulation in
proteins. Quat. Rev. Biophys., 22, 139-256(1989) 5) Monod, J., Wyman, J. et al.: On the nature of allosteric transitions :
a plausible model. J. Mol. Biol., 12,88-118(1965) 6) Koshland, D.E., Nemethy, G. et al. : Comparison of binding data and
theoretical models in proteins containing submits. Biochemistry, 5, 365-385(1966)
7) Lesk, A.M., Janin, J. et al.: Haemoglobin: The structure buried
between the dißi and a2B2 dimers in the deoxy and oxy structures. J.
Mol. Biol., 183,267-270(1985) 8) Colombo, M.F., Rau, D.C. et al.: Protein solvation in allosteric regu
Tation .a water effect on hemoglobin. Science. 256, 655-659 (1992)

第1章
水和・溶媒和と表面積
その基礎をめぐる混乱と論争

永山 国昭 (編集), 日本生物物理学会 シリーズニューバイオフィジックス刊行委員会 (編集)
出版社 : 共立出版 (2000/5/1)、出典:出版社HP