【最新】イーロン・マスクについて知るためのおすすめ本 – 生い立ちから彼の目指す未来まで

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イーロン・マスクとはどんな人物?彼の目指す未来とは?

イーロン・マスクという名前を知らない方でも、彼が設立に携わったテスラやスペース Xという名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。彼は実業家、エンジニアとして、大きな業績を残しています。そんな彼の生き方や名言は、私たちが役に立てることができるものも多くあります。そこで今回は、イーロン・マスクとはどんな人物なのか、彼の生き方や業績はどんなものなのかを学べる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

INSANE MODE インセイン・モード イーロン・マスクが起こした100年に一度のゲームチェンジ (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

テスラは何をもたらすのか

本書は、イーロン・マスク率いるテスラが巨大な自動車産業に与えた影響について書かれた本です。現在の自動車産業では、CASEと呼ばれる概念が提唱され、従来の自動車の概念を大きく変容させる動きがあります。この本では、その旗振り役となったテスラを取材した情報がまとめられています。

ヘイミッシュ マッケンジー (著), 松本 剛史 (翻訳)
出版社 : ハーパーコリンズ・ ジャパン (2019/5/17)、出典:出版社HP

いつもそばにいてくれるステフに

目次

第一部 イントロダクション
第1章 モーターを動かせ
第2章 加速三・二秒の衝撃
第3章 電気自動車をめぐる戦い
第4章 炎上
第5章 ただの取引
第6章 航続距離への不安

第二部 パワー・シフト
第7章 自動車会社を立ち上げる
第8章 カリフォルニア・ドリーミング
第9章 中国の躍動
第10章 巨人が目を覚ます

第三部 開かれた道一
第1章 エレクトリック・アベニュー
第2章 石油時代の終わり
第3章 天国か地獄か?
第4章 ルネッサンス行きのクルマに乗って
付記

謝辞
※本文中、[ ]は訳注、また*は脚注があることを示す。

ブックデザイン TYPEFACE(AD: 渡邊民人、D:谷関笑子)

ヘイミッシュ マッケンジー (著), 松本 剛史 (翻訳)
出版社 : ハーパーコリンズ・ ジャパン (2019/5/17)、出典:出版社HP

第一部 イントロダクション

第1章 モーターを動かせ

「自動車や太陽光、宇宙開発といった分野には、新規参入者が見当たらない」
私がある程度の期間ちゃんと乗っていた初めての自動車は、手動チョークのついた一九八三年式フォード・レーザーだった。元の塗装はゴールドだが、年とともに色あせてくすんだ茶色に落ち着いていた。一六歳の私はそのレーザーを「ブラウン=ブラウン」と名づけ、ニュージーランドの人口五○○○人の町アレクサンドラ中を乗り回した。
チョークの使い方以外、クルマのことはあまりよく知らなかったし、とくに知ろうとも思わなかった。私の父親は物理学者で、ブラウン=ブラウンの細々したあれこれをどう扱えばいいか心得ていて、メンテナンスもすべてやってくれていた 。私はただガソリンを満タンにして、何もないど田舎の凍結した裏道で立ち往生せずにいればそれでよかった。なんの不都合もなかった。

何年かたって、大学の休み中に自動車の仕組みを学ぼうとしたことがある。そのころには一九九一年式トヨタ・コロナに格上げしていた。私の基準からすればぜいたくなクルマで、チョークがないばかりか、トランスミッションもオートマチックだった。あるとき、クルマにくわしい友達が内燃エンジンの仕組みを説明してくれた。物理学者の父をずいぶんがっかりさせることになったのだが、当時の私は美大の学生で、メカのことはさっぱりだった。友達はたちまち私の鈍さに業を煮やし、私はこんなおそろしく複雑な魔法には永遠に手が届かないものとあきらめてしまった。それでべつに不都合もなかった。

私と自動車とのどっちつかずの関係は、その後もずっと続いた。二九歳のときに自動車産業の聖地アメリカに移住してからは、妻の二〇〇一年式ホンダ・シビックのハンドルを握り、これまでとは逆の車線をどうやって走るか、ハイウェイでアクセルを踏み込みたいという衝動をどうやって微調整して死を避けるかを学んだ。それでも点火プラグがどうして点火するのか、タイミングベルトがどうやってタイミングをとるのかといったことには無知なままだった。実のところ、運転はなるべくしないようにしていたし、クルマなんてないほうが世界はよくなると思うようにさえなっていた。テック系ニュースサイトの『パンドデイリー』に書いたある記事では、クルマをなくしてほしいとシリコンバレーに訴えたりもした。地球温暖化がどんどん進み、自動車事故より熱中症で死ぬ人の数のほうが多くなりそうなこの時代に、自動車や道路がもたらす環境コストはとうてい受け入れがたい。クルマは事故死をもたらし、健康を損ない、地球を殺そうとする有害な機関である。

誰がそんなものをほしがるのか?

もちろん、実際にほしがる人はいくらでもいたし、過去の歴史に将来が規定されるのはどうしようもない。人間はすでにあちこちの山を切り崩し、沼地を埋め立て、馬のない驚異の四輪馬車のためのガレージをこしらえてきたので、いまさらそれを捨てるというのは現実的ではないのだろう。おまえが言っているのは無責任な夢物語だというコメントが山ほど寄せられたあと、私は譲歩のため息をつき、踏ん切りをつけようとした。

テスラを知ったのは、ちょうどそのころだった。
私がパンドに加わったのは二〇一二年四月で、アップルの共同創業者でありCEOだったスティーブ・ジョブズが死去し、世界がいまだにスーパースターの喪失を嘆いていた時期だった。演出どおりに眉をぴくりと動かすだけで世界中の注意を引きつけ、スライドショーに二言三言つけ加えるだけでメディアを右往左往させられる、そんな人物を業界は失った。シリコンバレーは必死につぎの何かを探したが、結果は混沌としていた。iPhoneはそのころにはもう現状維持で、シリコンバレーの偉大なイノベーターたちは写真共有アプリや広告最適化ツールに関心を移していた。ソフトウェア・エンジニアは一般からの注目の総計を扱いやすいようにデジタル化し、ニュースフィードに配信することで何百万ドルも稼ぎ出していた。それ以外のアイデアは誰の関心も引かなかった。フェイスブックはいい、でも小人数のグループが相手だろう? オンデマンドのリムジンサービスもいい、でもお客は中流のサンフランシスコ人だけだろう? マリッサ・メイヤーもいい、でもヤフーだけの話だ。

そんな折、二〇一二年六月にテスラ・モデルSが登場した。華やかな発売記念パーティーが開かれたものの、初めのうちは誰もこのクルマのことをよく知らなかった。七万ドルの電気自動車のラグジュアリーセダン、それも最低価格帯でこの値段だという。発売記念イベントでテスラは一〇台分のキーをオーナーに渡し、今後増産するという計画を明かした。ジャーナリストたちは一〇分間試乗できただけだが、それでも自動車メディアやテック系メディアの想像力を捉えるには十分だった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙のダン・ニールはモデルSをランボルギーニになぞらえ、その驚くべき静粛性を絶賛してみせた。『ワイアード』誌は「運転するには完璧なシロモノ」と評した。このクルマのパフォーマンスモデルは、時速ゼロから六○ マイル(約九七キロメートル)への加速を四・二秒で達成した。これはセダンの形をしたスーパーカーと言っていい。

翌月にはテスラのCEOイーロン・マスクが、サンタモニカで『パンドマンスリー』のスピーカーシリーズに登場した。私は当時中国にいたが、そのイベントの映像をインターネットで観た。マスクのことはほとんど知らなかったものの、その言葉を飾らない大胆不敵さにたちまち引きつけられた。彼はすでにロケット企業のスペースXを立ち上げ、国際宇宙ステーションに物資を送り届けていた。太陽光発電のスタートアップ企業ソーラーシティを構想し、出資も行っていた。そしてテスラを育て、世界を化石燃料から切り離そうという意思をもっていた。「いま私が注力しようとしている分野は、人類の未来に最もポジティブな形で影響を及ぼすと思われるものだ」。マスクはそのイベントで、私の当時の上司サラ・レイシーに向かって語った。「インターネット方面へ向かう起業のエネルギーや投資はいくらでもあるが、自動車や太陽光や宇宙といった部門には、新たな参入が見られない」
私たちがどうしてもクルマと離れられないのなら、この男に電気自動車を作らせるのもいいかもしれない。そうすれば大気中への二酸化炭素排出にも少なくとも歯止めがかけられるだろう。そんなことを私は思った。

テスラについてさらに調べていくと、電気自動車のスポーツカーであるロードスターを二〇〇八年に売り出していることがわかった。初めてのクールなEVであり、電動モーターを動力とする自動車がゴルフカートより興味深いものになるという初めての実例でもあった。価格は一〇万ドル台で、買い手はだいたい金持ちやセレブだった。世間の注目を引くには悪くない方法だが、それだけでなく、電池の高価さを踏まえると経済的に必要なことでもあった。それでもマスクは二〇〇八年に、一○○パーセント電気で動くファミリーカーの話を始めていたのだが、形になるまでにはかなり時間がかかっていた。なぜだろうと私は思った。その後二〇一一年に〈電気自動車の逆襲〉というドキュメンタリー映画を観て、テスラが金融危機を生き延びるために必死だったことを知った。ニュースや雑誌の記事をいくつか読んでみると、マスク自身がポケットマネーから従業員の給料を払い、会社を支えていたという。二〇〇八年末には倒産の一歩手前まで来たが、土壇場で四○○○万ドルの投資があり、さらに翌年にはダイムラーが救いの手を差し伸べてくれた 。その後の数年間は、工場をひとつ買い、株式を公開し、モデルSを開発して、『モーター・トレンド』誌のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞した――この雑誌始まって以来の満票での受賞だった。やはりこのマスクという男、何か持っているのかもしれない。
二〇一三年なかばには、テスラの株価は一気に一六〇ドルを超え、市場価値は二○○億ドルに達しようとしていた。二〇一〇年に一株二〇ドルほどだったテスラ株を買っていた小口株主は、いまや大金持ちになっていた。マスクも有名になりはじめた――テック業界だけでなく、一般の世界でも。二〇一三年八月、その名声をさらに新しいレベルにまで高めたのは、ロサンゼルスからサンフランシスコまで乗客を三〇分で運べるという「第五の輸送手段」、いわゆるハイパーループの計画を発表したことだった。マスクはその青写真をひと晩徹夜して書き上げ、テスラとスペースXの企業ブログに掲載した。ハイパーループを自分で作る予定はないが、誰かが実現させてほしいとあった。その後マスクはさまざまな報道で取り上げられ、スティーブ・ジョブズ並みの注目を浴びるようになった。

ハイパーループの発表についての情報を『パンド』用にまとめるという仕事を課せられた私は、マスクはこの社会にとってジョブズ以上に重要な人物であると書いた。ジョブズはインターネットに接続できるポケットサイズの強力なコンピューターで世界に貢献したが、マスクにはまったく別次元の目的がある。つぎの写真共有アプリやつぎの「フラッピーバード」を開発するのではなく、移動手段や宇宙旅行のあり方を根本的に変えようとしているマスクは、まさに新世代の起業家のモデルケースとなっている、と。
その記事が出たあとで、ノンフィクション担当の編集者からメールをもらった。マスクについて本を書いてみる気はあるかというのだ。私はその提案についてじっくり考え、うん、たしかにいいアイデアだと結論を出した。そしてマスクに要請をしたのだが、驚いたことに彼は、かわりにテスラで働いてみないかと言ってきた。私はジャーナリズムから離れたくなかったので、しばらく二の足を踏んだが、結局は申し出を受けた。本にはいつでも戻ることができる。

私がテスラで過ごしたのはほんの一年あまりだったが、ジャーナリズムのことはいつも心のどこかにあった。私は二〇一五年三月にテスラを去り、やはり本に戻ってきた。本書を読むにあたっては、以下の点に注意していただきたい。そう、私はテスラの元従業員だ。あの会社のミッションを信じている。テスラの株も持っている。それでも私は、あくまで読者のためにこの本を書こうとした。テスラのどこがすばらしいのか、そしてどれほど切迫した難題を抱えているかを、フェアで明快な視点から紹介しようと努めた。
それでもこの本は、インサイダーの話ではない――そういう仕事はゴシップブログにまかせておこう。そしてテスラだけの話でもない。それよりはるかに大きなものの話だ。決意に燃えたあるシリコンバレーのスタートアップ企業がどうやって自動車産業全体を変え、そのあいだにカリフォルニアから中国に至る多くの人間を奮い立たせて、資金豊富な後発企業を続々と生み出させたかという話だ。この星に住むすべての人間に影響を及ぼす技術的、経済的な変化をシステムのレベルから見た話だ。つまりはテスラが始めた革命の話なのだ。

初めてテスラのモデルSに乗ったときには、これは車輪のついたコンピューターだと思った。デジタル制御装置、インターネット接続、ソフトウェアのアップデート、iPadに似たタッチスクリーンがそんな印象を作り出すのだろう。だがその程度の説明では、このクルマの本質を言い尽くせてはいない。テスラ車はすべてそうだが、モデルSも、車輪のついた電池と考えたほうがいいだろう。ボディーシェルとシートをはぎ取ってしまえば、このマシンは基本的に、低い位置にある金属のマットレスを四つの車輪が支える構造で、マットレスのなかには古いノートPCに使われていたような円筒形のリチウムイオン電池が数千も入っている。蓋をはがせば、電池が直立した状態で八つのモジュールに分かれ、行儀のいい小学生のようにぎっしりと何列にも並んでいるのが見えるだろう。この地味な形の電池がやがて、世界のエネルギー供給における石油産業の独占を終わらせようとしているのだ。

私たち人間が動力を得るのに、恐竜時代の遺物を燃やして空気を汚し、大気中に化学物質をまき散らすよりもましな方法があるーテスラはそんな発想の自動車だ。この考え方が当てはまるのは、クルマだけにとどまらない。テスラは充電池をエネルギー貯蔵装置としても販売している。二〇一六年にソーラーシティを買収し、商品のラインナップに太陽光パネルも加えてからは、マスクはいよいよ自らの意図をあきらかにしてきた。テスラはエネルギー企業であると。

これは電気自動車がどうして新しいエネルギー経済におけるトロイの木馬になり得たかを描いた本だ。二一世紀で最も重要なテクノロジーの話だと私は思っている。そして私もやっと、遅まきながら、内燃エンジンの仕組みを理解しようという気持ちになった――それがまもなく消えてしまう前に。

ヘイミッシュ マッケンジー (著), 松本 剛史 (翻訳)
出版社 : ハーパーコリンズ・ ジャパン (2019/5/17)、出典:出版社HP

Newsweek (ニューズウィーク日本版)2018年10/9号[イーロン・マスク 天才起業家の頭の中]

イーロン・マスクは何者か

本書は、イーロン・マスクを特集したNewsweek日本語版です。ペイパルやスペースXの創業者であるイーロン・マスクの独創性などについてまとめられています。次々と新たな革新的企業を創業していく彼に関心を持つ方も多いでしょう。彼が何を目指し、数々のビジネスを展開しているのかを探っています。

Newsweek CONTENTS

SPECIAL REPORT
イーロン・マスク 天才起業家の頭の中
電気自動車、火星移住、地下高速トンネル、脳の機能拡張 「人類を救う」男のイノベーションがつくり出す新たな世界

経営 「異端児」マスクとテスラは成熟へと脱皮できるか
テクノロジー 天才起業家マスクが創造する新世界
プロジェクト 頭の中には何がある?
■超格安の新型ロケットで月旅行と火星移住へ
■脳とコンピューターが融合する未来は
■都市の交通渋滞を解決する地下トンネル
■マリフアナ吸引でテスラ株が急落
メンタルヘルス マスクに必要なのは睡眠と休息だ

台湾軍は中国軍に勝てる
戦力分析 2つの研究から予測する中台戦争のシナリオと台湾の「勝ち目」

経営 「異端児」マスクとテスラは成熟へと脱皮できるか
シリコンバレーの龍児イーロン・マスクが歩んできた道のりとこれから迎える最大の試練
冷泉彰彦(在米作家、ジャーナリスト)

SPECIAL REPORT ELON MUSK

電気自動車メーカー、テスラのイーロン・マスクC EOの周辺が騒がしい。と言っても以前のように、 火星旅行とか、完全自動運転といった「壮大な夢」をブチ上げているからではない。テスラの経営をめぐって、マスク自身が迷走を見せているからだ。
47歳のマスクはシリコンバレーを代表するベンチャー起業家だが、出身は南アフリカで、大学進学のためにカナダの親族を頼ってアメリカへと渡った。 若くしてプログラミングの才能を発揮し、28歳で後の「ペイパル」の原型と なる電子送金プログラムを開発。ペイパルの創業者となった。
その後、ペイパルを売却した資金を元手に、ロケットの再利用と低コストを売りものにした民間の宇宙開発会社 「スペースX」を創業。さらに自身が出資することでテスラの創業メンバーの1人となった。
マスクのベンチャー経営を見ると、2000年前後のペイパル初期においては、電子送金というアイデアがほとんど理解されていないなか、全く新しいビジネスの開拓者だったと言っていいだろう。スペースXにしても、民間の商用サービスとしてロケットを打ち上げるビジネスは、9年の創業時点では革命的だった。
マスクのコンセプトは明確で、衛星周回軌道に打ち上げる際に「1 (約 0.5)」当たりのコストをいかに下げるか、そのためにロケットなどの再利用をどこまで可能にするかといった試みに真骨頂があった。スペースXでは、打ち上げ失敗事故を何度も経験したが、「再利用によるコストダウン」がビジネスの核心であるスペースXにとって、信頼性は生命線であり、マスクは事故のたびに徹底した検証と再発防止をアピールし続けた。

テスラの設立は3年で、5年後の8 年には最初の電気自動車(EV)のスポーツカー「ロードスター」を発売して話題となった。その後、10年には米ナスダックに上場、量産車の「モデル S」「モデルX」を次々に市場に送り出した。このテスラのケースでも、EVをベースに、さらに完全自動運転を実現しようというコンセプトは、8年の時点では、誰も考えない革命的なものだった。
そのテスラがいま迷走している。問題は大きく3つある。1つは、生産体制の偏りだ。テスラの生産工程では、車両の大量生産よりもエネルギー源であるバッテリーの量産に関心が払われてきた。その一方で、車両そのものの量産体制は整っていない。例えば量産車の「モデル3」は受注に生産が追い付かず、ビジネスチャンスを大きく逸することになった。

2つ目は、その結果として出てきた資金繰り不安だ。今年4月1日の「エ イプリルフール」にマスクが「テスラ 破綻」という「悪い冗談」をツイートし、これが市場から不評を買う出来事があった。もっと深刻なのは、マスクが8月7日に流したツイートだ。この中でマスクは、テスラの上場廃止を示唆。市場は「プレミアムを乗せての買い取り」への期待が高まるなど混乱し、 テスラ株は乱高下した。
だが、これは違法な株価操作と言われても仕方がない行為で(この件で米証券取引委員会は、9月9日にマスクを証券詐欺罪で提訴)、マスクはこの発言をすぐに撤回。しかしより深刻なのは、この騒動でテスラが安定したキャッシュフローを維持していないという懸念が広がってしまったことだ。
3つ目は、自動運転技術における開発の遅れだ。完全なEVに加えて、「準」自動運転機能を搭載しているというのがテスラ車のセールスポイントで、マスクは常に「数年先には完全な自動運転を可能にする」とブチ上げてきた。だが、競合のグーグルやウーバ 1-トヨタ連合、アップルなどは、既にハイスペックな試験走行車を投入し、多数のセンサーからのデータを統合してAI(人工知能)に操縦判断をさせる技術の完成を目指している。

自動運転ソフト開発の出遅れ

これに対して、テスラの取り組みは周回遅れと言わざるを得ない。今年3~4月にかけて、市販のテスラ車に搭載されている「オート パイロット」という準自動運転機能を過信したドライバーによる深刻な事故が続いた。脇見運転が許容されるという誤解を与えた点も批判されてしかるべきだが、問題は高速道路上での準自動走行機能の際に、テスラ車の場合、前方確認用のセンサーがミリ波レーダーとカメラ、赤外 線センサー「だけ」で、最新の「レーザー照射センサー(ラーイダー)」が搭載されていない点だ。

仮に、市場で騒がれている「資金不足」が事実なら、巨額の投資を必要とする自動運転AIのソフトウエア開発に十分な資金を回すことができず、さらにライバルに後れを取ることになる。
それでは、マスクとテスラは、このまま苦境に陥ってしまうのだろうか?
しかしペイパルの創業も、現在に至るスペースXの試行錯誤も、これまでマスクが乗り越えてきた試練は並大抵のものではなかった。技術面でも、資金調達という面でも綱渡りの経営を続けてきたマスクは、まさに起業家精神の塊のような人物だ。そのマスクは、 現在のテスラをどう舵取りしようとしているのか?

1つの考え方は、今回はベンチャー 流の「奇手」で突破する局面ではないということだ。テスラ車の生産にしても、自動運転ソフトの高度化にしても、 ここは自己流を貫くのではなく、協業先とのチームワークで乗り越えるべき課題だろう。資金調達も同じだ。上場を維持して、市場の監視を受けつつ進めるのが正道だ。
元来ベンチャー企業のテスラに、常識的な企業への転換を求めるべきではないという声もあることは事実だが、既に年間10万台以上の車が路上に出ている現在、テスラは人命を預かるビジネスになっている。

自動運転機能で現状以上の自動化を実現するためには、さらに信頼度を高めて各国の監督官庁などと協調し、交通法規の枠組み作りに参加していかなければならない。
9月に入ってからも、マスクがインタビュー番組で「マリフアナを吸引」して見せたり、テスラ幹部の辞任が続くなど、迷走が止まらない印象を与えている。しかしテスラもそしてマスクという経営者も、シリコンバレーの異端児というフェーズから、成熟した企業、経営者へと脱皮すべき時期を迎えていることは理解しなければならないだろう。

イーロン・マスクの言葉 (時代を変えた起業家シリーズ)

イーロン・マスクの人物像に迫る

本書は、時代を変えているとされるイーロン・マスクについて、その考えや人物像を、彼の発言などから紐解いている本です。世界的な起業家としての働き方や現状に対する考え方、世界を大きく変えるバイタリティの根底にあるものなどが、数々の言葉から伝わってきます。

桑原晃弥 (著)
出版社 : きずな出版 (2018/10/23)、出典:出版社HP

はじめに

スティーブ・ジョブズが亡くなったあと、「ポスト・ジョブズは誰か」が話題になったことがあります。当時の最有力候補は、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスでしたが、いまや最も革新的で最もクレイジーな「ポスト・ジョブズ」は、間違いなくスペースXやテスラモーターズのCEOイーロン・マスクと言うことができます。

ジョブズのキャッチフレーズが「世界を変える」なら、マスクのキャッチフレーズは 「世界を救う」です。学生時代から「いずれ枯渇のときが来る化石燃料に、過度に依存した現代社会に変革をもたらし、人類を火星に移住させる」という、SF小説を凌ぐほどのクレイジーな夢を大真面目に語り続けていたマスクですが、当初はその言葉に真剣に耳を傾ける人はほとんどいませんでした。

人は「いまそこにある危機」には対処しますが、「やがて来るであろう危機」からは目をそらす傾向があります。マスクと同じ危機感を共有できる人は、ほぼいませんでした。
それはペイパルなどITの世界で成功してからも同様で、当初は「大金を手にした若造のほら話」くらいに思われていました。しかし、そこからマスクは破產覚悟の挑戦を続けることで、世界中の大企業が実現できなかったロケットと電気自動車をつくりあげることに成功。その評価は一転、いまや「クレイジーなイノベーター」の地位を確立しています。

本書にも登場しますが、人の心を動かすのはパワーポイント上の美しい図表でも、巧みな弁舌でもなく、実際に動く形あるものです。マスクが何を考え、何を目指しているかは、マスクがつくったロケットや電気自動車を見ればわかります。
ツイートを含めて、マスクの発言にはたくさんの批判が寄せられることがあります。テスラモーターズの将来を不安視する人たちもいます。しかし、マスクの掲げるビジョンは壮大で、その実現力や失敗にひるまない復活力、突破力はあまりに魅力的です。
本書はそんなマスクの「言葉」を収録したものです。その言葉を辿れば、マスクの生き方や考え方も自ずと浮き彫りになるはずです。現代は夢を持ちにくい時代ですが、そんな時代だからこそマスクの言葉は生きる力になると信じています。
マスクの言葉が明日への活力となり、みなさんの挑戦を後押しできれば幸いです。

桑原晃弥

イーロン・マスク小史

1971(0歳) 6月8日、南アフリカ共和国プレトリアで生まれる
1975(4歳) *4月、ビル・ゲイツがマイクロソフトを創業
1976(5歳) *4月、スティーブ・ジョブズがアップルを創業
1979(8歳) 両親が離婚。母親と南アフリカの都市を転々とするようになる
1981(10歳) プログラミングを独学する
1983(12歳) ソフトウェア「ブラスター」を自作、販売してお金を得る母親のもとを離れ、父親と暮らし始める
1988(17歳) プレトリアボーイズ高校で大学入学資格を得る
1989(18歳) 母親の出身地カナダに移住、労働の日々を送る
1990(19歳) カナダのクイーンズ大学に入る
1992(21歳) アメリカのペンシルベニア大学ウォートン校に入る
1995(24歳) カリフォルニア州のスタンフォード大学大学院に進むが、2日で中退 弟のキンバルと、ウェブソフトウェア会社「ジップ2」を設立
*7月、ジェフ・ベゾスがアマゾンのサービス開始(創業は5年7月)
1998(27歳) *9月、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンがグーグルを創業
1999(28歳) ジップ2をコンパックに売却、2200万ドルを得る
オンライン金融とメール支払いサービス会社「Xドットコム」を設立
*アメリカでITバブルが始まる
2000(29歳) Xドットコムがコンフィニティ社と合併(のちに『ペイパル」となる)
2001(30歳) *9月1日、アメリカで同時多発テロ。ITバブルが終わる
2002(31歳) ペイパルをイーベイに売却、1億6500万ドルを得る
ロケット開発会社「スペースX」を設立、CEO兼CTOに就任
2004(33歳) 電気自動車会社「テスラモーターズ」に投資
*2月、マーク・ザッカーバーグがフェイスブックを創業
2006(35歳) 太陽光発電会社「ソーラーシティ」を2人のいとこと設立、会長に就任
テスラがスポーツカータイプの電気自動車「ロードスター」を発表
スペースXが初のロケットを打ち上げるが失敗
2007(36歳) *アメリカでサブプライム住宅ローン危機が急速に悪化
2008(37歳) テスラの会長兼CEOに就任
テスラがロードスターを発売開始
スペースXが4回目のロケット打ち上げで初の成功
*リーマン・ブラザーズ倒産を契機に世界的金融危機が起きる
2009(38歳) テスラにダイムラーが出資
テスラが高級電気自動車セダン「モデルS」を発表
2010(39歳) テスラとトヨタが提携を発表
テスラが株式公開
2011(40歳) 福島県相馬市を訪問し、太陽光発電を寄贈
*10月、スティーブ・ジョブズが死去
2012(41歳) 多くの富豪が参加する慈善活動「ギビング・プレッジ」に参加
スペースXの「ドラゴン」が国際宇宙ステーションとドッキングに成功
テスラがモデルSを発売開始
2013(42歳) 超高速輸送システム「ハイパーループ」構想を提案
2014(43歳) 来日して安倍晋三総理と会談
2017(46歳) ドナルド・トランプ大統領のもと、大統領戦略政策フォーラムのメンバーになったが、トランプがパリ協定離脱を表明したため辞任
2018(47歳) 「テスラを非公開企業にする」などの発言で、世界を騒がせる

桑原晃弥 (著)
出版社 : きずな出版 (2018/10/23)、出典:出版社HP

イーロン・マスクの人生

ここからはイーロン・マスクの人生を、ざっとまとめて書いてみたいと思います。後の本編で出てくる言葉と重複するところもありますが、最初に時系列で追っておくことで理解しやすくなると思うので、お付き合いください。

◆「出生~ペイパル」

イーロン・マスクは1971年6月23日、南アフリカ共和国の首都のひとつ(行政府) であり、アフリカ有数の大都市でもあるプレトリアで生まれています。
父親はエロル・マスク、母親はメイ・ホールドマン。3人兄弟の長男として育ちます。
父のエロルは地元のエンジニアであり、何かわからないことがあるとすぐに「どうなっているの?」と尋ねるマスクに、何でも教えてくれました。母親のメイは栄養士で、モデルもやっていたという美貌の持ち主です。しかし、マスクが8歳の頃に両親は離婚、マスクは母親に連れられて、弟や妹とともに南アフリカの都市を転々としています。
子ども時代のマスクの特徴は、無類の読書好きだったことです。1日に2冊の本を読み、ファンタジー小説やSF小説をたくさん読んだことが、のちの「世界を救う」につながっているかもしれない、とマスクは話しています。
コンピュータにも人一倍関心を持っていました。0歳でプログラミングを独学でマスターし、12歳のときに自作の対戦ゲームソフトを売り、500ドルを手にしているほどです。

12歳のとき母親のもとを離れて父親のところに行き、18歳で母親の出身地カナダに単身移住しています。アメリカの「やる気さえあれば何でもできる」という精神と、最新のテクノロジーへの憧れからですが、アメリカへの移住は簡単ではありませんでした。
隣国カナダで母親の親戚の家を転々としながら労働の日々を送ったのち、19歳でカナダのクイーンズ大学に入学。2年後に奨学金を得て、ようやくアメリカのペンシルベニア大学ウォートン校に進んでいます。同校で物理学と経済学の学士号を取得したマスクは、 1995年、応用物理学を学ぶため、スタンフォード大学の大学院物理学課程に進みますが「新聞などのメディア向けに、ウェブサイトの開発などを支援するソフトウェアを提供する」というアイデアを思いつき、わずか2日間で退学。
そして弟のキンバル・マスクとともにオンラインコンテンツ会社「ジップ2」を起業しています。これが初めての起業です。

しかし起業はしたものの、当時のマスクには資金がありませんでした。アパートより安い賃貸オフィスを借りて、そこで寝泊まりをして、シャワーは近くのYMCAで浴びて、たまに行くファストフードが唯一のごちそうという、貧しい生活だったと言います。
しかし、やがてITブームが到来。マスクの会社も順調に成長。1999年にコンパックに3億700万ドルで買収され、マスクも2200万ドルを手にしています。
そのお金を基にマスクは次の夢に向かいます。オンライン金融サービスと電子メール支 払いサービスをおこなう会社「Xドットコム」の立ち上げです。
ちょうどその頃、ピーター・ティールが創業したコンフィニティという会社も同様のシステム「ペイパル」を開発、オークションサイトの「イーベイ」で使われ始めていましたが、2000年にXドットコムとコンフィニティは合併、社名を「ペイパル」とし、最大株主のマスクは会長(のちにCEO)に就任しています。
すぐれたサービスを生み出しながら権力闘争も多かった会社ですが、ペイパルの成功こそが、マスクにその後の「世界を救う」ための挑戦を可能にしてくれたのです。

◆「ペイパル〜ロケット開発の夢」

2000年3月、Xドットコムとコンフィニティが合併して誕生したペイパルのCEO にはビル・ハリスが就任。マスクは会長となり、CFOにはピーター・ティールが就任しています。合併によって無益な競争から解放され、資金調達も順調に進んだこともあり、この合併も最初は成功したように見えましたが、両社の企業文化の違い、マスクとティー ルの考え方の違いもあって、社内での抗争は激しさを増していきます。
そのためマスクがハリスに代わってCEOに就任、Xドットコムへのブランドの統一を進めようとしたものの、マスクがシドニーオリンピックの観戦に出かけた隙を狙ってクーデターが勃発、マスクはCEOを解任されています。コンフィニティの創業者マックス・レブチンによる「ペイパルの乱」です。

代わってピーター・ティールが暫定CEOに就任していますが、この休暇中の解任劇はマスクにとって、トラウマになってもおかしくないほどの出来事でした。今日、マスクは週100時間といった猛烈な働き方をして、休みはほとんどとらなくなっていますが、この苦い経験が影響しているとも考えられます。
CEOを解任されたマスクは会社の相談役に棚上げされることになりますが、このとき怒りに任せて会社を辞めたり株式を売却していたら、いまのマスクはなかったかもしれません。「ピーターを支持して、いい人を貫いた」マスクは、ペイパルの筆頭株主として自らの資産を増やしています。マスクのもくろみ通りペイパルは順調に利用者を増やし、 2002年2月に株式を公開、時価総額は2億ドルに達しました。
この絶好のチャンスに、かねてよりペイパル買収を考えていたイーベイに会社を5億ドルで売却、マスクは1億6500万ドルを手にすることになりました。
この資金を基にマスクがまず乗り出したのが宇宙ビジネスです。
ただし、最初からロケット開発を考えていたわけではありません。最初に考えたのは、火星に「バイオスフィア」と呼ばれるミニ地球環境を持ち込んで、植物を栽培する構想でした。専門機関に費用を調査してもらったところ、マスクの手元資金で十分可能でした。

問題は必要な資材を運ぶためのロケットです。ボーイング社製のロケットを使うと、莫大なコストがかかります。マスクはより安い方法を求めてロシアに出かけ、交渉を重ねますが、ロシア製には信頼性が欠けていました。
普通はアメリカ製もダメ、ロシア製もダメとなれば、計画そのものをあきらめるところですが、マスクは「安くて信頼性の高いロケットを誰もつくっていないのならば、自分でつくればいい」と考えたのです。これが、マスクがロケット開発に乗り出した理由です。
2002年、マスクはスペースXを設立。火星への人類の移住を本気で目指すことになりました。マスクによると、かつて恐竜が絶滅したように人類にも滅亡の危機が訪れるとすれば、「多くの人を火星に運ぶ方法を考える必要」があり、それを可能にするのがスペースXのつくるロケットとなります。多くの人にとっては笑い話でも、マスクにとって「世界を救う」ことは長年の使命だったのです。

◆「スペースX、テスラ起業〜苦難の時代」

2002年、スペースXを設立したマスクが事業開始にあたって目指していたのは「宇宙分野のサウスウエスト航空」になることでした。同社は,格安航空会社の雄、として低価格、低コストを実現、企業としても優良企業として知られていますが、同様にスペース Xも宇宙ビジネスの「価格破壊」を実現しながら優良企業を目指そうとしました。
長い間、宇宙ロケットの打ち上げは各国政府の手厚い支援を受けた大手企業が担ってきています。そこでは軍需産業と同じく、価格やコストよりも性能や国の威信のほうが重視されています。そこに挑戦したのがスペースXですが、一方でロケットの開発にはとてつもないリスクがつきまといます。

1957~1966年まで、アメリカでは400基を超えるロケットが打ち上げられ、そのうちの100基以上が爆発したといいますから、スペースXのような実績を持たない民間企業が短期間(計画では設立から5ヵ月で打ち上げ)でロケットを開発して打ち上げるだけでなく、いずれは火星に人を運ぶなど、当時でさえあまりに無謀な挑戦でした。
さらに、ロケット開発には莫大な資金が必要になります。
当時、マスクはペイパルの売却によって1億ドルを超える資金を手にしていましたが、それでさえ国が用意する資金とは比較になりません。こうした不利な条件を抱えていたにもかかわらず、設立から10年足らずでロケットの打ち上げを相次いで成功させたばかりか、国際宇宙ステーションに物資や人を運ぶNASAとの巨額契約にこぎ着け、大手企業を押しのけた商業用の人工衛星の打ち上げも多数受注するようになったのですから、驚きです。
しかし、もちろんそこに至る道は平たんではありませんでした。
スペースXが初めてロケットの打ち上げに挑戦した2006年3月には、発射からわずか5秒で制御不能となり地上に落下しています。2度目の挑戦は2007年3月ですが、このときもロケットは空中分解して爆発しています。3度目の挑戦は2008年8月で、ロケットの第一段と第二段が切り離された際に爆発事故を起こしています。

「こんなことでへこたれるな。すぐに冷静になって、何が起きたのかを見きわめて、原因を取り除けばいい。そうすれば失望は希望と集中に変わるんだ」

マスクはこう言って、うちひしがれる社員を励ましましたが、じつはマスク自身もこの時期にはどん底を迎えていました。マスクは2004年に「テスラモーターズ」に出資、電気自動車の開発に取り組んでいましたが、こちらも「ロードスター」の開発が遅々として進まず、マスクは資金的に苦境に立たされていました。
テスラがロードスターの開発に要した期間は4年半、資金は1億4000万ドルにのぼっています。その多くをマスクは個人資産と個人で調達する資金で支えていますが、一向に車は完成せず、一方でスペースXの相次ぐ失敗もあって、「スペースXを取るか、テスラを取るか、それとも共倒れか」という選択を迫られることになりました。「共倒れ」にはもちろんマスクも含まれていました。

◆「奇跡を起こす」

自動車開発も宇宙ロケット開発も莫大な資金を必要とします。開発に要する期間も長くかかるし、当然そこには失敗のリスクもあります。だからこそ自動車や宇宙ロケットをつくることのできる国は限られていますし、国の支援を受けることで開発を進めている企業が少なくありません。そう考えると、マスクのように個人資産でこうした巨大産業に挑戦するというのはたしかに無謀といえますが、それを支えるのはマスクの「電気自動車の未来を切り拓きたい」「人類を宇宙に送り込みたい」という強い使命感です。だからこそマスクは、テスラとスペースXを救うために個人資産をつぎこみ、現金をつくるためにマクラーレンなどの金目の資産を次々と売り払い、友人に借金までして挑戦を続けています。

マスクの執念がようやく実る日が来ました。 2008年9月、これが失敗したらすべてを失うという4度目の挑戦の日。ついにロケ ット「ファルコン1」を軌道に投入することに成功しました。
それは周囲の「できるわけがない」という侮蔑を覆す快挙であり、マスクは「この地球上で達成できたのはわずか数カ国しかありません」と高らかに勝利宣言をしています。
最高の瞬間でした。しかし、一方にはテスラの破産の危機も迫っていました。テスラを救うためにマスクが取り組んだのが、NASAとの交渉でした。ちょうどNASAが宇宙ステーションへの補給契約の相手を探しており、4度目の挑戦でロケット打ち上げに成功 した実績を背景にマスクは交渉を進め、2008年2月に6億ドルのロケット打ち上げ契約(2回分の補給契約)を獲得しています。 「この契約のお陰で倒産の危機を免れることができたテスラも、ようやく2008年に超高級スポーツカータイプの「ロードスター」を発売することができました。
発売当初、大手自動車メーカーの反応は冷ややかなものでした。「あんな車は誰でもつくれる」と無視していましたが、電気自動車にしてスポーツカーというコンセプトが受けたのか、俳優のレオナルド・ディカプリオやブラッド・ピット、ジョージ・クルーニーや、カリフォルニア州知事も務めたアーノルド・シュワルツェネッガー、グーグルのラリー・ペイジといった著名人の支持を得ることができました。

同時にロードスターは電気自動車に対しての一般的な「ダサい」というイメージを覆し、 電気自動車でもすごい車がつくれることを証明したという点で画期的な車となりました。
マスクの望んでいた最初の革命は起こすことができたわけですが、次なる問題はスペースXと同じく「より良く、より安く」を実現することでした。それが実現できて初めてマスクの「世界を救う」に大きく近づくことができるのです。

◆「栄光か挫折か」

最初の打ち上げに成功して、NASAとの大型契約を締結して以降、スペースXは下請け業者に頼ることなく、すべてをアメリカ国内で、自前でロケットをつくり上げることで圧倒的な低コストを実現しています。たとえば日本のHIIAロケットの打ち上げコストが約1億ドルとすると、スペースXのファルコン9は約6000万ドルと、3~4割安くなっています。これでは「宇宙ロケットのライバルで脅威を感じているのはスペースXだ」と日本の関係者が危機感をあらわにするのも当然のことです。

NASAからの信頼も厚いものがあります。
2014年9月、NASAはスペースシャトルの後継機として2017年に初飛行を目指す有人宇宙船の開発を、当初ボーイング一社のみと見られていた下馬評を覆して、スペースXが5億ドルで受注しています。
さらにマスクはこれまで使い捨てが常識だったロケットを何度も使えるようにしようと挑戦を続け、2015年には陸地の発射場、2016年には海上のはしけ船にまっすぐ着地させることにも成功しています。打ち上げにかかる燃料費30万ドルに対し、ロケット本体のコストは6000万ドルです。もしマスクが言うように一基のロケットを百回使うことができるようになれば、ロケット打ち上げのコストはほとんど燃料費だけでよくなります。

もちろんすべてが計画通りにいくわけではなく、さまざまな失敗もしていますが、こうしたコスト構造が可能になれば、マスクの目指す低価格でのロケット打ち上げ、そして火星へ低価格で人を運ぶという夢物語が俄然現実味を帯びることになります。
ロケット打ち上げの低コスト化が進むのと同じように、テスラがつくる電気自動車価格化も着実に実現しようとしています。ロードスターは10万ドルを超える高額な車だが、2012年に「モデルS」、2015年にSUV車「モデルX」を発売。2017 年に生産を開始した4ドア車「モデル3」は「3万5000ドルから」と、一般の人でも手が届く価格に近づきつつあります。いまはまだ量産化の壁を前に悪戦苦闘していますが、この壁を乗り越えることができれば「モデル3」の人気は他車を圧倒するものとなるはずです。
インフラの整備にも積極的で、充電スタンド「スーパーチャージャー」の拡充や特許の無料開放など、電気自動車の本格普及に向けて着々と手を打っています。 その間、大手自動車メーカーのダイムラーやトヨタ自動車から資本提供を受けたこともあれば、2010年にはアメリカの自動車メーカーとしてはフォード以来という株式公開 を果たしてもいます。リコール問題や生産の遅れなどいくつもの問題がありましたが、いずれも乗り越えるか、何とか乗り越えようとします。

あのスティーブ・ジョブズも、たしかにいくつもの業界で革命を起こしましたが、マスクが乗り込んだ業界は自動車やロケット開発、電気事業とまさに国家的な事業ばかりです。
言わば、国家を相手にして革命を起こしたという点で、マスクの企業家としての評価は危うさの一方で、「不可能を可能にしていく経営者」として世界の注目を集め続けています。
そうした注目度の高さから、ときに「何気ないつぶやき」がテスラの株価を大きく下げることもありますが、もしいまの勢いで会社を経営し続けることができれば、10年後の自動車市場はいまとは違うものになるでしょうし、もしかしたら火星に向かってロケットが打ち上げられるかもしれません。イノベーションの条件は「クレイジー」であることですが、まさにマスクはみんなが「クレイジー」という夢を、本当に実現する正真正銘のイノベーターなのです。

さて、いよいよこのあとの本編では、マスクの「言葉」にふれていきましょう。

桑原晃弥 (著)
出版社 : きずな出版 (2018/10/23)、出典:出版社HP

目次

はじめに
イーロン・マスク小史
イーロン・マスクの人生

第1章 すべては壮大なビジョンから始まる
001 常に世界を劇的に変える何かに関わりたいと思い続けてきた
002 私は投資家ではない。未来に必要な技術、有益な技術を実現したいだけなんだ
003 世界の未来にとって重要だと思うことがいくつかある。その中でも私が自分自身の努力で。変えられると思っているものを、EVのテスラとスペースXでおこなっている
004 自分でなくても世界を変えられる人がいる
005 ほとんどの人は何も知らないんだ
006 私たちは暗闇の中を導く光のようなものです。
私たちの事業により、電気自動車の導入が5~10年早まりつつあります。
それは人類という生物種が生き延びるうえでは重要な時間です
007 人類は限界に挑む意欲を失ってしまった
008 大事なのは、私が火星に行けるかどうかではなく、数多くの人々が行けるようにすることだ
009 1%の危機というのはなお、相当な努力を費やす価値があるのです
010 明るい未来を信じられる仕事を創ること、それこそがリーダー自身の誇りにも繋がっていくと思うのです
011すべての大木も元は小さな種。大事なのは成長率だ

第2章 最高のアイデアも、 実行しなければゴミと一緒
012 EVのアイデア自体はかなり古くからあったのに、なぜ誰もつくらなかったのか。それはアイデアを実行することが、思いつくより難しいからだ
013 こうなったら自分でロケットをつくるしかない
014 あなたが会社をつくるつもりなら、最初にやってみるべきことは、実際に動く試作品をつくることです
015 ほかの車のひどさを知ることも重要だ
016 私はものづくりが好きだし、多くのイノベーションを注ぎ込める分野だ
017 スケジュールに関しては楽観的だったかもしれませんが、結果について大げさな約束をしたことはありません
018 巨大自動車メーカーが、私たちを恐れる必要はありません。彼らが恐れるべきなのは、競合他社がテスラ社を模倣していくことです
019 お客が車を本当に気に入ってくれたら、自然に我々の宣伝をしてくれます
020 そんなことは百も承知だ。これまでそんな車がなかったんだから当たり前だ
021 私は何をおこなうにも冷静に判断を下す
022 組むのは、その分野でベストなサプライヤーだ

第3章 本物のイノベーションは、 クレイジーの先にある
023 恐れは理にかなったものとして無視する。理にかなっていても、前に進むのが遅くなるから
024 インターネットとか財務とか法務に詳しい賢い人間が多すぎると思うんだ。そういうこともイノベーションがじゃんじゃん生まれてこない理由なんじゃないかな
025 宇宙ロケットの打ち上げコストを100分の1にまで引き下げる
026 いま望まれているのは、絶対衝突しなくて、飛行機より倍速く、動力源は太陽エネルギーで、駅に着いたらすぐに出発できる移動手段だ
027 10年前、アップルの製品をどのくらいの人が知っていたでしょうか?
028 始めた当初こう思っていました、「スペースXは確実に失敗する」
029 我々がやっていることはジャングルの中で道を切り拓くようなものだ。後ろに地雷を埋めるようなことはしたくない
030 テスラのライバルはEVメーカーではなく、膨大な数のガソリン車だ
031 テスラが上場を果たすなど5年前は誰も予想しなかった。世界はひっくり返った
032 ずっと同じものの見方をしていては、いつまで経っても変わりませんよ
033 どんなものにもためらってはいけません。想像力が限界を決めてしまいます
034 それは可能と不可能のちょうど境界線上にあるもののひとつです
035 自動車は完全に電気に移行する。それがいつなのかが問題であって、なるのか、ならないのかは問題にならない

第4章 絶望は強烈なモチベーションになる
036 貧しくてもハッピーであることは、リスクを取る際に大きな助けになります
037 私はこれまでもこれからも決してギブアップしない息をしている限り、生きている限り、事業を続ける
038 いいところを聞くのも嬉しいことですが、批判の声に耳を傾けるほうが大事です
039 問題があったのは事実だが、原因をきちんと究明すれば乗り越えられる。立ち止まる必要はない。前に進もう
040 前に進めないような邪魔なルールがあるなら、ルールそのものと戦わなきゃならない
041 いまだに片足は地獄に突っ込んだままだが、このカオスからも、あとひと月もすれば解放されるだろう
042 私はサムライの心を持っています。失敗で終わるくらいなら切腹します
043 結果が出ていなければ、その努力はやめる必要があります
044 困難が多い事業こそ、やりがいが大きくて面白い
045 絶望は、がんばろうという強烈なモチベーションにつながります

第5章 圧倒的な成果が欲しければ、 地獄のように働くしかない
046 起業家は毎週100時間、地獄のように働くべき
047 こういう出来事があるから、休暇は頭痛の種なんです
048 最初からそんな甘えたスケジュールにすべきではありません。そんなことをしたら、無駄に時間を多く使うに決まってますから
049 私のデスクはこの工場で一番小さいし、しかもそこに座っていることなんて 。 ほとんどありません。私は象牙の塔なんかに引きこもりません
050 このプロジェクトの責任者をやりながら、2つの会社のCEOもやる。私なら実現する
051 人生は短い。そう考えたら、懸命に働くしかない
052 社員が苦痛を感じているなら、その何倍もの苦痛を感じたいのです
053 尋ねるべき質問が何かを考え出すことが大変なわけで、 。 一度それができたら、残りは本当に簡単だ
054 君は不可能を可能にするためにこの会社にいるはずだ。 。 できないのであれば、ここで働く理由が僕には理解できない

第6章 成功には「才能の集中」と「重力」が欠かせない
055 企業をつくるときに大切なことは、才能の集中
056 クビにするタイミングを先送りすればするほど、とっととクビにしとけばよかったと後悔する時間も長くなる
057 これから会社に寄生する大量のフジツボたちをこそげ落とすところです
058 略語の過剰な使用は、コミュニケーションの邪魔になります
059 ダサくて高い車もつくれるし、格好よくて高い車をつくることもできる。大企業は企業の歴史や文化に縛られ過ぎるのかもしれません
060 不可能を恐れず、狂ったように挑戦的なプロジェクトに、タイトなスケジュールでも取り組める人材を求めている
061 ずっとアウトサイダーではいられない
062 何をすべきか考えたことがあるのか。私たちは世界を変えようとしているし、歴史を変えようとしている。やるのか、やらないのか、どちらかはっきりしてもらいたい
063 私は物理と商業を学びました。何かをつくり出すためには、 大勢の人を取りまとめ、協力してもらう必要もあると思ったからです
064 間違いは直してあげるのが当たり前だと思っていたけど、 。 それで本人の働きぶりが悪くなるとはね

第7章 お金は「人類を救うため」に使え
065 ゆっくりやって利益を出すか、早く進めて利益は二の次か。私は後者を選んだ
066 金儲けのために悪魔に変身してしまう人間もいるが、大切なのは、そのお金を何に使うのかという目的をはっきりさせておくこと
067 気を散らすものや短期的思考から可能な限り解放される
068 最後の1ドルまで会社のために使いたい
069 私が考えたのは「お金を儲ける一番いい方法にランキングされているものは何だろうか?」 。 ではなく、何が人類の未来に最も影響を及ぼすだろうということでした
070 最悪の事態になったらテスラを買収してほしい
071 優れたEVをつくっている限り、テスラの存在意義があるのです
072 「私たちは世界に役立つことをしている」。それが一番大事で、それこそが私のモットーです

第8章 世界を変える男の私生活
073 女性には週にどのくらい時間を割けばいいのか、2時間くらいか
074 学校の図書館でも近所の図書館でも読むものがなくなった
075 アメリカの「やる気さえあれば何でもできる」という精神に惹かれていました
076 平均して女性1人あたり2・1人の子どもをつくりなさい
077 いまの子たちには、逆境を人工的につくるしかないね
078 僕と一緒になるということは、苦難の道を選んだことになる
079 ええ、そこにありますよ。最速の車がね
080 火星で死にたい。衝突事故ではなく

あとがき・参考文献

桑原晃弥 (著)
出版社 : きずな出版 (2018/10/23)、出典:出版社HP

史上最強のCEO イーロン・マスクの戦い

イーロン・マスクは如何に常識を覆したか

本書は、本当に世界を変えてきたイーロン・マスクの挑戦や型破りな発想について説明している本です。彼が持つ壮大なビジョンと不可能だと思われてきた事業を成功に導いた手腕が取り上げられています。ただ、事業や家庭での苦難についても触れられており、一人の人間としてのイーロン・マスクの戦いも知ることができます。

竹内 一正 (著)
出版社 : PHP研究所 (2015/2/19)、出典:出版社HP

はじめに

米国音楽界の父と言われる作曲家ジョージ・ガーシュインが作った「みんな笑った」
(原題They all laughed)という歌がある。こんな歌詞だ。
コロンブスが地球が丸いと言った時、みんな笑った。(中略)
ライト兄弟が人は飛ぶことが出来ると言った時、みんな笑った。
そして、この本で紹介する人物、イーロン・マスクがベンチャー企業で宇宙ロケットを打上げると言った時、やはりみんな笑った。宇宙開発は国家がやるものだと決まっていで。

しかし、イーロンが作ったロケットベンチャー企業「スペースX」は創業わずか6年で独自に開発したロケット「ファルコン1」の打上げに成功。さらに、ファルコン1の10倍以上の推進力を持つ「ファルコン9」は国際宇宙ステーションへのドッキングを成し遂げる。これは民間企業として初の快挙だった。

しかも、イーロンが目指すゴールは「人類を火星に移住させること」。彼がこの発言をした時も、みんな笑った。しかしイーロンは、二酸化炭素による温暖化で環境悪化する地球に100億人もの人間が住むのは困難で、人類は火星に移住すべきだと本気で考えている。スペースXは米国で最も推進力のあるロケット「デルタNヘビー」の2倍以上の推進力を持つ「ファルコン・ヘビー」を開発中であり、火星に100万人を送る考えだ。

そして、スペースXの凄いところは、従来NASA主導で作ってきたロケットと比べ、コストを10分の1にしたことだった。
さらに、使い捨てだったロケットを”再利用できる、設計にして、最終的にはコストを100分の1にする型破りの計画を推し進めている。垂直に打上げたロケットが、ビデオを逆再生するように同じ場所に帰ってくる。その発想を聞いた時、やはりみんな笑った。
だが、スペースXはグラスホッパーというプロジェクトを立ち上げ実績を積んだ。近々打上げる「ファルコン9v n」は、洋上に浮かべたサッカー場ほどの着陸甲板を持つ船「自動スペースポート」に着陸する予定だ。

スペースXを創業して2年後に電気自動車(EV)のベンチャー企業「テスラモーターズ」に出資したが、ノートPCのちっちゃなバッテリーを約7000個も使ってEVカー「ロードスター」を開発しようとしたら、みんな笑った。どこの自動車メーカーもEVは大きな専用バッテリーを開発して取り組んでいたからだ。

しかし、ロードスターはそんな常識を打ち破って長い航続距離を実現し、ポルシェより速かった。第二弾の「モデルS」は人気を博し、米コンシューマーレポートで総合1位に輝いた。そして地球上で最大のバッテリー工場「ギガ・ファクトリー」を建設中だ。
テスラのEV特許を無償で公開するとイーロンが言った時、みんな笑い批判した。特許を公開すればテスラが危機に立たされることは眼に見えているからだ。だが、イーロンはテスラの利益ではなく、EVの世界への普及を目指した。

ガーシュインの「みんな笑った」では、素敵な女の子に愛を告白したい主人公を、みんなが笑う。でも、この恋は実るのだった。だから、歌はこんな歌詞で終わっている。
ハ、ハ、ハ、最後に笑うのは誰だ。

イーロン・マスクの人類と地球を救おうとする戦いは、一企業の金儲けを超えた、極めて壮大なものだ。常人には理解しがたいが、グーグルの創業者で約300億ドル(約3兆円)の資産を持つラリー・ペイジはこう言った。「もし自分の莫大な財産を残すとしたら、慈善団体ではなくイーロン・マスクに贈る。彼なら未来を変えられるからだ」
では、天才経営者イーロン・マスクによる人類と地球の未来を変える戦いを見ていこう。

竹内 一正

竹内 一正 (著)
出版社 : PHP研究所 (2015/2/19)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 「人類と地球を救う」壮大な挑戦
スペースXが拓く未来― NASAを仰天させた実行力
物理学的思考で新しいものを生み出す
民間企業初の快挙
再利用を想定したロケット開発
少人数でスピーディに前進する
「誰もが不可能だと考えるミッションを」
新たな時代の幕開け
コストを10分の1にする秘策|日本人以上のモノ作り力
マルチプラネットという発想
NASAのロケットが高い理由
シンプルに設計し、自社で作る 1000回の帰還に耐える断熱シールド材
考え方そのものがブレークスルーになる
ロケットを再利用可能にする――皆わかっていて、誰もやらなかったこと
コロンブスの卵を探せ
まるでCGのような衝撃的な着陸
EVの常識を破る――ポルシェより速く、セクシー
ハリウッドセレブも欲しがるテスラの車
志を共にした素人集団
高級EVカー「ロードスター」の全貌
ロケット技術を取り入れたクルマ
走るコンピュータへの評価は
太陽を味方につける――砂漠で生まれたソーラーシティー
積極的なファミリービジネス
太陽光発電の魅力
シリコンバレー的な電気自動車―1世紀のクルマの姿
モデルSが火災事故を起こす
問題対応の要諦はどこに
シリコンバレー的な事故対応
ハッカーがクルマを狙っている
日本でのモデルS発売
未来へ布石を打つ――アイデアを膨らませ、実行に移す
世界最大のリチウムイオン電池工場
3Dプリンターで作ったエンジン搭載の宇宙船
2026年、火星に人類が立つ

第2章 南アフリカの少年が抱いた夢と憧れ
南アフリカのオタクだった少年――パソコンが導いた可能性
アポロ1号の落とし子
イジメられっ子が憧れたアメリカ
0歳でパソコンと出会う
夢は大西洋を越えて――冒険は青年を育てる
親の反対を押し切って
運命の女性との出会い
シリコンバレーのわらしべ長者―――努力のやり方で成果は変わる
スタンフォード大学大学院を2日で辞める
コンパック伝説
eBayがペイパルを約5億ドルで買収
はるかな宇宙を目指せ――勇気が未来を拓く
米ソ冷戦の産物
国家がやらないなら、俺たちがやる
安いロケットを探してロシアへ

第3章 とてつもない失敗をする度胸
ペイパル・マフィアの闘い ――昨日の敵は、明日も敵
休暇中に起きた反乱
冷静さが明日を作る
「ファルコン1」の不都合な真実――高い目標に空回りする思い
打上がらないロケット
辛抱の時
南太平洋へ墜落した「ファルコン1」
楽観主義が推進力だ
三度目の挑戦
ロケットエンジンを改良しろ
テスラ社、崖っぷちの闘い――情熱と現実の狭間で
イーロンのこだわりが足を引っ張る
水面下の苦悩
次々と代わるCEO
GMが倒産の坂道を転げ落ちる中で
息をしている限り、事業を続ける
魂が揺れるほどの苦難――仕事と家庭の板挟み
生まれたばかりの長男の急死 結婚生活の光と影
ヒーローはゴシップにも事欠かない
名を成すは窮苦の日にあり――テスラ、異端の株式上場
困難を乗り越えて
「モデルS」出荷でももたつく

第4章 型破りすぎる発想
細心かつ大胆に――世界最大の「ギガファクトリー」
切り札はこれだ!
工場に美意識を求める
部品メーカーにまで足を運ぶわけ
パナソニックの舞台裏の事情
NASAからの熱い期待
お金は目的ではなく手段である

第5章 進化の連続が成功を引き寄せる
垂直に着陸する巨大ロケット――常識は覆すためにある
進化が止まらない「ファルコン9」
顧客からの「回収試験」中止要望
海洋がだめなら~陸、でやろう
未来を拓く「ドラゴンV2||3Dプリンターで宇宙は近くなる
ヘリコプターのように自在に着陸する宇宙船
史上初、3Dプリンターで作ったロケットエンジン
「第三の産業革命」はホンモノか
足し算の加工技術教育が急務
21世紀の宇宙船の姿
コックピットにも美しさを
次々に墜落する他社ロケットたち―宇宙は近くて遠い
アンタレス・ロケットの失敗、炎上
スペースシップ2が墜落
ダビデとゴリアテの闘い ――テスラとトヨタは敵か味方か
急接近したテスラとトヨタ
ZEV規制の呪縛
トヨタがライバルに変身した日
「危険な水素はクルマに向いてない」
ガソリン車を駆逐するEV ―夢を乗せて走れ
「D」が意味する2つのこと
カモメのようなドアを持つ「モデルX」
大衆車「モデル3」で迎える正念場
刺激的過ぎた新車の名前
人工知能に警鐘?|天才物理学者ホーキング博士が恐れたあのこと
人工知能は、核兵器よりも危険
HALではなくベイマックス
万里の長城を攻略せよ―魅力的で厄介な中国
テスラ社も被害を受けた中国のパクリ
巨大な中国にEVカー充電網を広げろ
5年以内に世界最大の電気自動車市場になる?
狡猾な竜を御する方法
もう一つのギガファクトリーを作る――ソーラーシティーの破格の闘い
「ソーラーファクトリー」の建設より大きな困難に挑む

第6章 巨大な敵に平然と挑む
巨人にひるむな――正面から向き合えば道は拓ける
ロケット開発の傲慢なライバル
BBCから売られた喧嘩
「モデルS」対ニューヨーク・タイムズ
古い法律が邪魔をする―未来を見るか、過去に縛られるか
カーディーラーとの激烈な闘い 大衆を味方につけろ」
古いハンマーが襲いかかる
出る杭を打ちたがるバカ
腰の定まらないオバマ大統領
変化することは当たり前
批判を歓迎するしたたかさ――意外なところに秘訣はある
友人に見せればいい。 目先の金儲けより大切なもの
保護貿易なんて時代遅れ
火星に100万人を送り込む――壮大な夢への階段
加速するイーロンの行く道
いつ、スペースXは上場するのか
3Dプリンターを宇宙で使うわけ
新時代を切り拓く経営力|世紀の風雲児
地球は危機に瀕している
21世紀の経営者の条件

イーロン・マスク 略年譜
参考資料・文献

装幀 齋藤 稔(株式会社ジーラム)

竹内 一正 (著)
出版社 : PHP研究所 (2015/2/19)、出典:出版社HP

イーロン・マスク 破壊者か創造神か

イーロン・マスクの正体に迫る

本書は、天才的な起業家でもあり、異色の経営者でもあるイーロン・マスクの経歴や彼が持つビジョンについて解説している本です。電気自動車や宇宙ビジネスで、それまでの常識を覆し、産業を大きく変えた彼が、「人類を救うため」の型破りな言動で何を目指しているかが理解できます。

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2016/11/7)、出典:出版社HP

本書は二〇一三年十二月、小社より刊行されたものを全面改稿しました。

はじめに

「わが社が潰れても、構わない」
こんな変なことを言う社長がいる。
彼の名はイーロン・マスク。私財を投げ打って、宇宙ロケット、電気自動車、太陽光発電の3つの分野で革命を起こそうとしている。
「いずれ人類は地球以外の惑星に住まなくてはいけなくなる」。イーロンはそう確信し、人類を火星に移住させるための巨大ロケットを劇的に低いコストで開発しようと2002年に宇宙ロケットベンチャー「スペースX」を創業した。
ロケット工学を学んでもいないイーロン率いるスペースXは、わずか6年で宇宙ロケット「ファルコン1」の打ち上げに成功。さらに、ファルコン1の9倍以上の推進力を持つ 「ファルコン9」を開発し、宇宙船「ドラゴン」は地球軌道周回を成し遂げた。創業10年で、ドラゴンは国際宇宙ステーションへのドッキングを成功させ、世界中を驚かせた。
これらすべて、民間宇宙企業として史上初の快挙だった。
現在、スペースXはNASAからの委託を受け、国際宇宙ステーションへの物資輸送をファルコンロケットと宇宙船ドラゴンで行っている。
日本のモノづくりも凌駕する革新的な技術でスペースXが起こしたロケット革命は、これらの偉業をコストを劇的に安くして達成した点にある。NASAのロケットコストの約 1/10でファルコンを完成させていた。それは、ボーイングなど既存のロケットメーカーには破壊的な脅威となった。
そして、ロケットコストをもっと安くするには、ロケットの再利用が近道だ。打ち上げたロケットが再び地球に戻り、もう一度打ち上げることができれば、コストは半分になり、10回再利用できれば1/10になる。最終的にコストは1/100に出来る。誰でもわかることだが、誰もやろうとしなかった。
スペースXは、2015年2月に1段目ロケットの着陸に成功し、不可能だと言っていた専門家たちを驚嘆させた。
そして、イーロンはファルコン9の数倍の巨大ロケットを打ち上げ、2025年に人類を火星に降り立たせると宣言。NASAの目標が2030年代なのに対し、少なくとも5年以上前倒しの野心的な計画だ。しかも、火星旅行の費用を現在考えられている金額の 500万分の1に引き下げるという。

しかし、火星ロケットが完成するまでの間も、CO2が増え温暖化が加速していく。その流れにブレーキをかけるためガソリン車に代わり、電気自動車(EV)を普及させようと設立したのがテスラ・モーターズだった。
自動車メーカーで働いたこともないイーロンが指揮するテスラが生んだ高級スポーツカー「ロードスター」は、カッコいいデザインとポルシェを超える走行性能で世間の話題をかっさらった。
さらに、高速充電ができるスーパーチャージャー・ステーションを全米に展開。屋根に設置した太陽光パネルで発電し充電ができ、パネルの設置はイーロンが会長を務めるもう一つの会社ソーラーシティー社が手掛ける。これなら電力会社からの電気は不要で、電力会社の屋台骨を揺さぶりかねない。
テスラ第2弾の高級セダン「モデルS」は、抜群の走行性能と400km以上の航続距離を実現し、数々の賞を受賞。人気のモデルSの注文台数を出荷できるかは、リチウム電池の生産能力にかかっている。そこで、約10億ドル(約5千億円)を投入し、世界最大のリチウム電池工場「ギガファクトリー」で勝負に出た。
テスラの強みはノートPCに使うリチウム電池を約7千個も集約して一つの大きなバッテリーのように扱う独自技術にあり、数多くの特許を保有していた。
しかし2014年、特許を無償公開すると発表し、賛否両論を巻き起こした。
この男、テスラの株価を上げるために人生を賭けているのではない。たとえテスラ社が潰れても、EVが普及して地球温暖化の速度が少しでも遅くなれば構わないと公言する。 20世紀にはこんな経営者は存在しなかった。
そのテスラに、ITの巨人で皆が憧れるアップルから150人を超える優秀な人材が転職し全米の注目を集め、アップルCEOティム・クックを激怒させた。転職の最大の理由は、技術にこだわり、世界を変えるスゴイものを生み出そうとしたジョブズのカリスマ性を、イーロン・マスクに見出したからだという。
全財産を投げ打ち大きなリスクを取り、やることが桁違いにデカいイーロンだが、目的はカネ儲けではない。「人類と地球を救うため」だ。
ドン・キホーテのような彼の夢を当初人々は笑ったが、実績が積み上がってくるに従い、慌てだした連中が続出し、それ以上に喝采を送る人々が増えている。
億万長者にしてバツ2で独身、5人の男の子のパパであり、業界のルールを無視し、常識を打ち壊す異端の経営者イーロン・マスク。果たしてこの男、破壊者なのか、それとも、人類と地球を救う救世神となるのか。

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2016/11/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 新たな旅立ち
ロケット大爆発
暗闇が怖かった少年
1歳でカナダへ
運命の女性との出会い
スタンフォード大学院を2日で辞める
Zip2を売却して
合併はしたものの
CEOを追放される
ペイパルと eBayの騙し合い
NASAがやらなきゃ、オレがやる
原理に立ち返る
テスラ・モーターズの起源
投資家の剛腕

2章 素人集団の戦い
ファルコン1を打ち上げろ
宇宙は遠い、
ついにファルコン1が飛んだ。だが……
高まるテスラ社への期待
ロードスター開発現場の混乱
現場に口出す経営者
失敗しても、前を向け
イーロンの度量と先見
誰かテスラのCEOをやってくれ
テスラ倒産?
結婚、そして長男の急死 仕事か、家庭か、
2度あることは3度ある
銀行にキャッシュがない
絶対に諦めない男

3章 新世紀のクルマをつくれ
ロードスターの衝撃
未来を駆けるモデルS
点火しないで走るクルマ
落下物を巻き込んで火災発生
カモメのようなモデルX
ドアが出荷を妨げた
オートパイロットの登場
ハンドルに触れず大陸横断を敢行
オートパイロットで死者が。原因は……
オートパイロットが命を救った
大衆車モデル3への期待と不安
ギガファクトリーで世界を変える
目指すは垂直統合型エネルギー企業
先進国は、発電ではなく蓄電に着目
テスラは自動車メーカーではない

4章 偉業達成への飛翔
ベンチャー企業がロケットを打ち上げる
竜に乗って夢を追え
再利用できるロケットを作る
理系の頭と文系の交渉力
NASAのデッカイ金庫
5千億円を引き出す才能
コスト意識がない困った業界
世界初、国際宇宙ステーションとドッキング
量産でロケットコストを下げる
ロケットエンジンが1基止まったが
ドラゴンの神通力

5章 巨大な敵に打ち勝て
トヨタ、揺らぐ信頼
テスラに3億円を出資
最悪の時に立ち上げる新工場
コア技術は社内で生産する

未来のアメリカの工場
BBCの厳しい批判
テスラに第2の危機が
ニューヨーク・タイムズが足を引っ張る
言論の操縦方法
カーディーラーとの激烈な戦い
テスラ車を締め出す法案可決
ノースカロライナの迷走
ライバル企業もEVに本気に
SECの元委員長のイーロン批判
バッテリーの革命を起こせ
200のギガファクトリーが必要
無償でテスラ特許を公開する
ガソリン車の販売を禁止しようとする国が登場

6章 不可能だから挑む
NASAを超えるスペースXの挑戦
ホバーリングするロケット
絶望の中で、未来の布石を打つ才能
海に船を浮かべて、そこへ
不都合な事実への向き合い方
最悪の誕生日
ジェフ・ベゾスの目指す宇宙
ついに1段目口ケットの着陸に成功
1千回の帰還に耐えるシールド
聖人君主ではない嫌な上司 着陸は海上か、それとも陸上か
スペースXの社長は女性
進化するファルコン9
ドラゴンの飛翔
ロケット特許は出さない
中国の病巣と限界
フラットな組織で
コストダウンに ~革命的”はない クレイジーだ!と思ったが
イーロンの光速学習方法
日本のJAXAがスペースXに勝てない理由

7章 未来を切り拓け
安く太陽光発電を手に入れる
ソーラーファクトリーで太陽をつかめ
電気を貯める事業の展開
官僚的な巨大宇宙企業の闇 米空軍の入札に成功
NASAのお墨付き
スペースXが欲しがる人材
ロケットが炎上したら
3Dプリンターで作った世界初のエンジン
未来世紀のコックピット

8章 イーロンが描く未来
自動運転の今と未来
ラクをしたがる人間
8版をなぜ出荷したのか
実走行で精度を上げる
一気にレベル4を狙うグーグル
クルマを支配するのは誰か
自動運転の競争激化 保険会社がつぶれる日
燃料電池車はクソだ
燃料電池車ミライ、1兆円の開発費
電気自動車 S燃料電池車、一体どっちがエコなの?
トヨタ「ミライ」の成功のカギ
欧米企業は再生エネルギーにシフト
仏政府が原発に代わりテスラ工場の誘致を
10年後のテスラ社はこうなる
自動運転にはEVが向いている
「所有」から「共有」の時代
走行距離も販売する
完全自動運転でクルマが売れなくなる時
産業構造の大転換はすでに始まっている
大衆車「モデル3」成功のカギを握るもの
火星に人類を送り込む
資産4兆円の男の遺言
宇宙を行く巨大なノアの箱船

カバー装幀
細山田デザイン事務所(細山田光宣+天池聖)

カバー写真
Getty Images

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2016/11/7)、出典:出版社HP

イーロン・マスクの野望 未来を変える天才経営者

イーロン・マスクはどんな人物か

本書は、イーロン・マスクの生い立ち、半生を綴ったもので、彼がどんな人物でどんな業績を打ち立てたのかを知ることができます。彼は地球温暖化などといった地球規模の問題を解決しようと考えています。そのために何ができるか、この問いに対する彼の考え方や姿勢を学びたい方におすすめできます。

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2013/12/6)、出典:出版社HP

はじめに

自動車王のヘンリー・フォード、石油の世紀を築いたジョン・ロックフェラー、そしてパーソナルコンピュータで未来を創ったスティーブ・ジョブズなど、天才経営者や偉人は数々登場してきた。しかし、その誰をも凌駕する桁違いの発想と、比類なき行動力を持ち、アメリカ大統領以上に世界中がいま注目する人物がいる。それがイーロン・マスクだ。

宇宙ロケット、電気自動車、そして太陽光発電。この三つの先端産業で革命を起こそうと挑んでいる異色の経営者である。長身でハンサム、物腰は柔らかく、はにかみながら話す外見からは、こんな途方もない大事業に挑むなど想像が難しい。だが、イーロンが異色なのは外見ではない。彼が、金儲けのためではなく、人類を救い、地球を助けるために会社を興していった点であった。
イーロンは、1971年に南アフリカ共和国で生まれ、 2 歳の時すでにゲームソフトを作り、500ドルで販売していた。 7 歳で母国を旅立つと、カナダに、そしてアメリカに移り住み、未来への扉を探し始める。アメリカは「すごいことが可能になる国だ」と思ったからだった。

アメリカのペンシルベニア大学で物理学と経営学を学んだイーロンは、スタンフォード大学の大学院に進学したが、たった2日で辞めて、ソフト制作会社「Zip 2」を起業。
PC大手のコンパック社が約3億ドルで同社を買い取ると、イーロンはこれで得た2200万ドル(約 3 億円)の資金を元にインターネット決済サービス会社「Xドットコム」を立ち上げ、ペイパル社の母体を築く。2002年、ペイパル社をネットオークション大手のeBayが5 億ドルの巨額で買収し全米で話題となった。
ペイパル社売却で約1億7千万ドル(約170億円)を手にしたイーロンが、次に何をやるのか?シリコンバレーだけでなく全米が注目した。だが、彼が選んだのはインターネットのサイバー空間ではなく、何と「宇宙」だった。

宇宙ロケットベンチャー「スペースX社」を 3 歳で立ち上げ、NASA(アメリカ航空宇宙局)が支配していたロケット産業へ挑戦を始める。しかし、宇宙開発の専門家たちは、「ベンチャー企業ごときに、不可能だ」と見下した。
ところが、スペースX社はわずか6年で独自開発のロケット「ファルコン1」を見事に完成させ、打ち上げに成功する。さらに、その2年後、国際宇宙ステーションに、宇宙船「ドラゴン」を民間として初めてドッキングさせ、地球に無事帰還させるという離れ業をやってのけた。世界はスペースX社の偉業に驚き、興奮した。しかも、NASAの物まねでロケットを作ったのではない。家電やパソコンの「コモディティ (汎用品)化」のアイデアを果敢に取り入れ、従来の 10 分の1という激安な製造コストで作り上げたのだ。これだけでも驚くが、イーロン・マスクの視線は遥か彼方を目指している。
「人類を火星に移住させる」。これこそ彼の究極のゴールだ。
「火星?」と聞くと何だかホラ話に思えてくる。しかも、大きなことを言うヤツほど、現場の実態など知らないものだ。しかし、イーロンは違っていた。ロケットに使う材料や溶接方法に至るまで細部を知り尽くし、その上でロケット開発に挑んでいた。
それにしても、なぜ、彼は火星に人類を送り込むなんて途方もないことを考え付いたのだろうか?

地球の人口はすでに70 億人を突破し、今世紀半ばには100億人にも届くだろう。しかし、二酸化炭素は増加し温暖化は進み、異常気象は頻発し、水不足や食糧危機が叫ばれている地球に本当にそれだけの人間が住めるのだろうか。イーロン・マスクは、「いずれ人類は地球以外の惑星で住まなくてはいけなくなる」との考えに至った。地球以外の惑星、つまり火星に人類は移住すべきだと確信し、火星への飛行可能なロケット開発という
遥かな、しかし現実的であると疑わないゴールに向かって挑んでいく。
その一方で、火星ロケットはすぐに作り出せるわけではなく、時間が必要なことも事実だ。そこで、二酸化炭素による地球環境の悪化を少しでも食い止め、地球の延命を図るために、排気ガスをまき散らすガソリン車ではなく、電気自動車の本格的な普及を決断した。

イーロンはスペースX社の経営と並行して、2004年に電気自動車ベンチャー「テスラ・モーターズ社」に出資し、会長となる。そして、 1 万ドルもする魅力的なデザインの高級スポーツカー「ロードスター」を発表。レオナルド・ディカプリオやハリウッドの有名人たちがこぞって欲しがり、話題沸騰となった。ロードスターはポルシェより速く、一回の充電で約400 mの長距離走破が可能で、ファンは熱狂した。さらに独創的なのは、ノートPCに使うリチウムイオン電池、約7千個を車体に積んで電源とし、抜群の走行性能を実現したことだ。
イーロンの打ち出したEVカー(電気自動車)戦略は、GMなど他の自動車メーカーと大きく違っていた。他社が、ズングリしたデザインなのに対し、ロードスターはとにかくカッコいい。みんなが憧れ、乗ってみたいと切望するEVカーを世に出し、マスコミの注目を集める。その後、ピラミッドのすそ野を広げるように5万ドル台のセダン、2万ドル台の大衆車へと展開していくという戦略だ。テスラ社は、創業から7年目の2010年、株式上場に成功した。新規自動車会社の上場はフォード社以来 5 年ぶりの快挙だった。

イーロンの卓越した能力の一つは、成功を単なる〝点〟ではなく、〝線〟で捉えることにある。どれだけ高性能なEVカーを作ったとしても、必要な時に充電できなければ〝点〟で終わる。〝線〟にするには充電ステーションの拡充がカギとなる。
そこでイーロンは、全米に高速充電が可能な「スーパー・チャージャー・ステーション」の設置を開始した。これでロサンゼルスなど西海岸からニューヨークのある東海岸まで長距離ドライブが可能となる。
しかも、充電ステーションは、地域の電力会社から電気を供給してもらうのではない。太陽光パネルを各充電ステーションに設置し、電気は自家発電してEVカーに充電できる仕組みを構築。そして、太陽光パネルの設置事業は、ソーラーシティ社が行っている。これはイーロンの従兄弟が経営する会社で、イーロンがアイデアと資金を提供し、会長も務めている。2012年には上場を果たし、全米が熱い視線を送っているクリーンエネルギー企業だ。
電気自動車に太陽光発電、そして宇宙ロケットと、どれ一つとっても、一つの国家でさえ手を焼く大事業だ。しかしそれを、イーロン・マスクはひとりでやろうとしている。

振り返ると、大学生時代のイーロンはたびたび、「人類の将来にとって最も大きな影響を与える問題は一体何か」と考えていた。そして、辿り着いた結論が、「インターネット、持続可能なエネルギー、宇宙開発の三つ」だった。なるほど、ここまでなら、よくある学生の〝妄想〟で片付く話だ。だが、イーロンが違うのは、この三つを実行に移していったことだ。
シリコンバレーで成功して得た資金の多くを、宇宙ロケット、電気自動車、太陽光発電の三つの事業にイーロンは惜しみなく投入してきた。だが、どの事業も困難に行く手を阻まれ、途中で投げ出したくなるような苦境に何度も陥ってきた。
たとえば、テスラ社はロードスター開発で迷走し、会社の資金が底をついてしまう。マスコミ連中がこぞって「テスラ社は倒産する」と騒ぎ出した時、イーロンは「もし、すべての投資家が見捨てても、私がテスラ社を支える!」と果敢に言い放ち、個人資産を投入して危機を乗り越えていく。
また、スペースX社はロケット「ファルコン1」の打ち上げに幾度も失敗した。それどころか、打ち上げの前段階でロケット本体に不具合が見付かり、発射台から降ろさざるを得ない屈辱も体験している。しかし、いずれの時も諦めることなく、イーロン・マスクは前を向いて全力で突き進んだ。その姿は感動的でさえあった。

イーロンの資産は、今や約 30 億ドル(約8千億円)と言われる。そして、2010年公開の映画「アイアンマン 2」で、主人公トニー・スタークのヒントになった人物こそ、このイーロン・マスクだった。天才発明家にして大富豪の主人公が、アイアンマン・スーツを身にまとい、悪をやっつけるこのシリーズは世界中で大ヒットした。
アイアンマンは強敵と戦い苦戦しながらも、最後には思い通りの結末を迎える。しかし、イーロン・マスクの戦いは、思い通りにならない厳しい現実世界で繰り広げられていく。
本書は、イーロン・マスクの壮大なスケールの奮闘と、人類の未来を変える冒険をわかりやすく紹介していく。
彼の野望が、野望のまま終わるか、人類の歴史を変えるのか、それはまだわからない。 しかし、我々は彼と同時代に生き、見守ることができる。どうか、身のまわりのいろんな悩み事からしばし離れ、破天荒なイーロンの挑戦を楽しんでほしい。
まずは、イーロン・マスクの幼年期から話を始めよう。

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2013/12/6)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 降臨-南アフリカから来た男
暗闇が怖かった少年
スタンフォードを2日で辞める
現代版わらしべ長者
チェルノブイリ原発事故を逃れた家族
イーロン・マスク追放される
ペイパルの「関ヶ原の戦い」
NASAがやらなきゃ、オレがやる
原理に立ち返る
電気自動車に取りつかれた男たち
投資家の剛腕
二つのクラッシュの違い

2章 難航 人生最悪の時
日本人が知らない南アフリカ
ファルコン1を打ち上げろ
いきなりの失敗
宇宙は遠い
ついにファルコン1が飛んだ……だが、
高まるテスラ社への期待
ロードスター開発現場の混乱
失敗しても、前を向け
イーロンの度量と先見
誰かテスラのCEOをやってくれ
テスラ倒産?
二度あることは三度ある 妻との出会い、そして
仕事か、家庭か
銀行にキャッシュがない
絶対に諦めない男

3章 前進 未来を見る
ロードスターの衝撃
ポルシェより速い
日本のお家芸「電池」
効率はガソリン車の2倍
破格量のバッテリー搭載
ジェットコースターのような乗り心地
鳥のさえずりが聞こえる
暗黒の2008年を越えて
バッテリー切れの高級車
未来を手にする方法

4章 信念 宇宙への道
インターネットの外へ
ベンチャー企業がロケットを打ち上げる
竜に乗って夢を追え
米ソ冷戦とロケット競争
ケネディからブッシュへ
理系の頭と文系の交渉力
NASAのデッカイ金庫
コスト意識がない業界
官僚的な巨大宇宙企業たち
インターネットから飛び出そう

5章 独創 PCの電池で車を走らせる
モデルSの誕生
空気抵抗を減らせ
騒音にも種類がある
ジョブズも欲しかった車
トヨタと提携
カネは上手に使う
未来のアメリカの工場
赤字でも株式上場

6章 異端 ロケット作りの革命
世界初、国際宇宙ステーションとドッキング
毎月、ロケットを打ち上げる
特許は出さない
設計はシンプルに
フラットな組織で

竹内一正 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2013/12/6)、出典:出版社HP

イーロン・マスク 世界をつくり変える男

イーロン・マスクのビジョンがわかる

本書は、イーロン・マスクの生き方や考え方についてまとめています。多くの人が想像もしなかったような壮大なビジョンを掲げ、そのビジョンを現実にしていく力強さは多くの人を惹きつけます。本書で、彼がどのようにこの世界をみて、どのような未来をつくろうとしているかが理解できます。

竹内 一正 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/1/25)、出典:出版社HP

プロローグ

イーロン・マスクとは何者なのか?

もし、あなたがイーロン・マスクのことを「あまりよく知らない」というのなら、せめてこのプロローグだけでも読んで、この人のことを知って欲しいと思います。

たとえば近年、世界を一変させたビジネスリーダーと言えば、誰を思い浮かべるでしょうか。
スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグ、そんな面々を思い浮かべる人は多いでしょう。

たしかに、ジョブズは洗練されたプロダクトと、まったく新しいビジネスモデルを生み出し、人々のライフスタイルを一変させました。ジェフ・ベゾスが作り出したアマゾンは世界中の流通システムを変え、人々の「買い物」という概念を完全にひっくり返しました。あるいは、ザッカーバーグのフェイスブックは人々のコミュニケーションのあり方を変え、現実の世界に革命をもたらす原動力ともなりました。
しかし、そんな彼らの破格の活躍でさえ霞んでしまうほど、イーロン・マスクが実現しようとしている「未来」には、とんでもないスケール感と奇想天外さが溢れています。
グーグル創業者の一人で、資産約5兆円を有するラリー・ペイジはこう言っています。

もし、自分の莫大な財産を残すとしたら、慈善団体ではなく、
イーロン・マスクに贈る。
彼なら未来を創れるからだ。

イーロンと仲がいいラリー・ペイジのこの言葉には、もちろんジョークも含まれているでしょう。しかし、グーグルで世界を変えてきたビジネスリーダーの一人ラリー・ペイジにそう言わせるだけの魅力がイーロン・マスクにあることは間違いありません。ラリー・ペイジをして「未来を託したくなる」という男。
イーロン・マスクとはいったい何者なのでしょうか。
どんな未来を見据え、何を実現しようとしているのでしょうか。
興味を引かれると思いませんか。ラリー・ペイジだけでなく、世界中の名だたる投資家が「イーロン・マスクが描く未来」に期待を寄せ、莫大な資金を投資しています。
これがまた奇妙な話で、イーロン・マスクがやっているビジネスがものすごく大きな利益を出し続けているかと言えば、決してそうではありません。むしろ、赤字であったり、倒産の危機を迎えたりするなど、お世辞にも「投資家が喜ぶ業績」を挙げてはいないのです。
「自らの資産を増やす」ということに熱心な『ふつうの投資家』なら、イーロン・マスクに投資などしません。金儲けが上手な経営者ならほかにいくらでもいるからです。
それなのに世界中の投資家がイーロン・マスクに投資するのはなぜか。
それは彼がカネ儲けよりも、未来を作ることに情熱を傾けているからです。
その期待感こそが、イーロン・マスク最大の魅力であり、独特の光を放つ個性でもあります。こんなにも愉快で、痛快で、ワクワクするビジネスリーダーがほかにいるでしょうか。

170億円の成功など「ほんの序章」に過ぎない

1971年、南アフリカ共和国で生まれたイーロンは、7歳で母国を離れ、カナダへと移住し、クイーンズ大学に入学。その後、アメリカのペンシルベニア大学に編入すると物理学と経営学を学び、1995年、スタンフォード大の大学院へと進学しました。1995年と言えば、ウィンドウズ5が発売され、世界中の人々のライフスタイルから産業のあり方までも大きく変わっていく年でした。
そんな時にシリコンバレーの空気を吸っていれば、起業への思いが沸き立つのは自然の流れ。イーロン・マスクも例外ではなく、せっかく入ったスタンフォード大学院をわずか2日で辞めると、弟のキンバル・マスクとソフトウェア制作会社「Zip2」を起ち上げます。

天下のスタンフォード大学院を2日で辞めてしまう決断と行動力はさすがですが、それだけシリコンバレーの熱狂がイーロン・マスクを突き動かしたとも言えるでしょう。
そして、イーロンが考えついたインターネットのイエローページ版のアイデアは時代を先取りし、「Zip2」は大成功。
PC大手のコンパックに約3億ドル(約300億円)で売れるまでに成長し、この買収によってイーロン・マスクは約2200万ドル(約8億円)を手にします。
この資金を元手に、今度はインターネット決済のサービス事業会社「Xドットコム」を起ち上げました。紆余曲折がありながらも、この会社も結局は成功。「Xドットコム」は創業翌年の2000年にはコンフィニティ社と合併してペイパル社となり、そのペイパル社を、 ネットオークション大手のイーベイが5億ドル(約1500億円)で買収することになります。この買収劇は全米でも話題となりました。
端的に言えば、イーロン・マスクが起ち上げた会社は次々と栄光し。合併を経て、さらに、成長。そして、最終的に大手企業に売り切ることで、とんでもない金額を手にしたわけです。 起業家が成功し、大金を手にする典型的なパターンでしょう。
ちなみに、ペイパルの買収によって彼が手にしたお金は約1億7000万ドル(約 170億円)。まだ30歳そこそこのイーロン・マスクは、シリコンバレーの風に乗り、まんまと億万長者となったのでした。

「世界をつくり変える」ビジョンをぶち上げる!

しかし、それぐらいの成功ならシリコンバレーではよくある話ですし、ラリー・ペイジがわざわざ「未来を託そう」などと思うはずがありません。
わずか数年で170億円を稼ぎ出したサクセスストーリーが「ほんの些細な序章」と感じられてしまうほど、その後のイーロン・マスクはとてつもない事業へと手を伸ばしていきます。
ペイパル社の次にイーロン・マスクが挑んだのは、なんと「宇宙ロケット事業」でした。 そもそも、大学時代のイーロンは「人類の将来にとって、もっとも大きな影響を与える問題は何だ?」とたびたび考えていました。そして、辿り着いた結論が「インターネット」 「再生可能エネルギー」「宇宙開発」の3つだったのです。

火星移住計画を提唱

そんな学生時代の夢を叶えるかのようにイーロンは、2002年に「スペースX」という宇宙ロケット開発会社を起業。そして、この男がぶち上げたのが「人類を火星に移住させる」という驚天動地の目標でした。

人類を火星に移住させる。

これだけ聞けばまるでSF映画のストーリーのように感じますが、イーロン・マスクは本気でした。本気どころか、「ロケットの開発コストを従来の100分の1にする」と公言し、「打ち上げに使用したロケットを何度も再利用する」など宇宙ロケット業界ではあり得ない目標を次々と打ち出します。なるほど、ロケットを再利用できればロケットコストは、大幅に減らせます。そして、人類を火星に移住させることができれば、地球上で起こっている環境破壊、お億人を超え100億人にも届こうかという人口爆発などの問題を根底から解決させることができるかもしれません。
しかし、話が飛びすぎていて、ついていけないと多くの人は思いました。ところが、そんな凡人の心配などどこ吹く風とばかりに、イーロンはロケット再利用の妥当性をこう言ってのけたのです。
「飛行機だってロサンゼルスからニューヨークへ飛行したら、それで機体を壊すわけじゃない。向きを変えてロスに向けて飛ばせばいいんだから、ロケットだって同じことをすればいい」
しかし、こんなにもクレイジーな発想を、誰が本気で信じて、誰が支援してくれるでしょ うか。普通に考えれば、ツッコミ所が満載の与太話ともとられます。

そもそもイーロンは宇宙ロケットに関しては完全なる素人でした。ロケット工学を学んだこともなければ、ロケットを打ち上げる知識も、技術も、ノウハウも知りませんでした。そんな人間が簡単に手を出せるほど、宇宙産業は甘くはない。誰もがそう思いました。
これまでイーロンが成功させてきたビジネスは、いわゆるシリコンバレー型です。つまり、 資金がなくても、アイデアとプログラミングの技術があれば、自宅のガレージでだって起業できる。それが当たればお金を生んでいくビジネスでした。
しかし、宇宙ロケット産業は根本的に異なります。
開発するのに膨大なお金がかかる上に、苦労の末に運よく口ケットを完成させたとしても、 打ち上げに失敗すればすべてがゼロになってしまう。リスクが超ド級にでかいビジネスです。 プログラミングのように「バグが出たから修正しよう」という類いのものではないのです。 一度口ケット打ち上げに失敗すれば、何百万ドルという「お金の塊」が一瞬にして海の藻屑 と消えてしまいます。
だからこそ、国家レベルのプロジェクトでしか成し得ない領域で、はっきり言って、ベンチャー起業家が思い付きで参入できる分野ではない。それが業界の常識でした。
しかし、そんな「つまらない常識」がイーロン・マスクに通用するはずはありません。

地球環境が汚染されていくのなら、火星に移住すればいい。
ロケットだって、飛行機のように何度も同じ機体を使えばいいじゃないか。
私なら、100分の1のコストを実現させてみせる。

そんなシンプルかつ大胆な発想で、未来を見据え、それに向けて世界を変えていく。それがイーロン・マスクという男のやり方です。

イーロンがぶち上げた「未来」が少しずつ「現実」になる

イーロンは、誰もが「無謀だ」と吐き捨てたプランを次々と実現させていきます。
2002年に「スペースX」を創業した後、わずか6年で宇宙ロケット「ファルコン1」 の打ち上げに成功。それだけでなく「ファルコン 1」の9倍の推進力を持つ「ファルコン 9」、宇宙船「ドラゴン」を次々と開発し、「ドラゴン」に至っては地球軌道周回を成し遂げ、 国際宇宙ステーションへのドッキングを民間企業として初めて成功させました。
素人社長率いるベンチャー企業がわずか10年で成し遂げた偉業に世界中が驚嘆しました。

しかも、スペースXの「ファルコンロケット」はNASAが作るロケットに比べてコストは約10分の1であったことが後にNA A自身の分析で明らかになりました。そして、イーロンが掲げる「ロケットのコストを100分の1にする」を達成するためには、ロケット再利用が欠かせません。すると、2015年には、打ち上げたファルコン9の1段目ロケットを無事に着陸させることに成功し、全米が沸き立ちました。NASAでさえできなかった快挙でした。
さらに2017年の6月には3日で2回の打ち上げを行い、並行して1段目口ケットの再 利用とその着陸・回 [収を実現させて、開発ペースを加速させています。
イーロン・マスクは物理学的思考でロ ケットを分析し、その結果「ロケットを量産する」ことでコストを格段に下げる という前代未聞の結論に達しました。それはNASAでさえ考えつかない「コロンブスの卵」的発想でした。
スペースXはNASAの技術協力を得 ながらも、NASAの物真似はしません。 ロケット本体もエンジンも宇宙船もすべてスペースXが独自に設計し製造しているのです。
それは、ロッキード・マーチン社やボーイング社など宇宙ロケット企業のライバルたちが外注に頼ってロケットの組み立てを行っているのとは真逆の発想でした。異端の企業スペースXのサイトにはこんな挑戦的なメッセージが躍っていました。
「スペースXは、人々が不可能だと思う任務を成し遂げる会社だ。我々の目指すゴールはムチャクチャに野心的だが、私たちはそれを実現する」と。
イーロンは「毎月ロケットを打ち上げる」と公言しています。家電製品やテレビを作るようにロケットを量産する。それはまさに、ロスから飛んできた飛行機がニューヨークに着陸し、再び口スに向けて飛び立つ姿と完全にダブってきます。文字通り、イーロンの描く未来が一つ現実になるのです。

新車なら「電気自動車」という時代がやってくる

話を宇宙から地球にガラリと変えましょう。なぜなら、イーロンが活躍するフィールドは何も宇宙だけではないからです。多少なりともイーロン・マスクを知っている人にとっては、 むしろ「テスラモーターズのCEO」としての顔の方に馴染みがあるかもしれません。
イーロン・マスクは2004年に電気自動車会社「テスラモーターズ」の起ち上げに参画し、会長に就任し、現在はCEOも兼務しています。

宇宙ロケットと電気自動車
一見すると、まったく関係ない事業を始めたように感じるかもしれませんが、決してそうではありません。イーロンに言わせれば「人類が火星に移住するロケットを作り上げるにはもう少し時間がかかる。それまでに地球環境の破壊が進んでしまうので、排気ガスをまき散らすガソリン車に代わり、世界中に電気自動車(EV)を走らせよう」というわけです。
理屈はわかります。
しかし、そんな巨大な事業を同時に二つも起ち上げるなんて、並の経営者の考えることではありません。しかも、「細々と電気自動車を製造し、少しずつシェアを伸ばしていこう」なんてショボイ発想はイーロンにはありませんでした。

世界で最も売れている自動車を電気自動車にする
イーロンは「電気自動車の年間販売台数を、世界中で1億台にする」と発言したのです。
この数字は「世界中で一年間に販売される自動車の台数」そのものです。つまり、イーロンは「新たに車を購入する人は、すべて電気自動車になる」という未来を実現させようとしているのです。

たしかに、少し前から自動車業界では、いわゆるガソリン車から排気ガスをまき散らさない車(電気自動車や水素燃料電池車)への移行が緩やかに始まっています。しかし、イーロン・マスクほど「本気でガソリン車をなくそう」と考え、実施している自動車メーカーはテスラ創業期の2004年頃にはありませんでした。現実的には「時代の流れは意識するけど、本丸のガソリン車ビジネスは絶対守るぞ」というのが既存自動車メーカーの本音だったのです。

ところが、イーロン・マスクは違いました。彼が目線の先に見据えているのは「自らのビジネスの成功」なんてものではなく、「世界の未来」であり「実現させたい理想」だからです。
イーロン・マスクが凄まじいのは「電気自動車の販売台数を1億台にする」と言うときに、「テスラ車の販売台数を……」とは言わなかったところです。
彼は何も、テスラで金儲けをしたいわけでもなく、テスラの株価を上げたいわけでもありません。「新しい世界」「世の中の未来」を思い描き、創造しようとしているのです。未来の街を走り回っている車が電気自動車であれば、それがテスラだろうが、他社製だろうが構わないのです。
マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツと比較するとその姿勢は対照的です。ゲイツは「世界のすべてのPCに、マイクロソフトのソフトウェアを搭載すること」を目標にし、市場の独占を図りました。ライバル企業は徹底的に撃退して帝国を築き、ゲイツは世界一の大金持ちになったのです。インターネットブラウザーを世界で初めて作り出したネットスケープ社に対しては、マイクロソフトはOSを牛耳っているという独占的な立場を利用して、これを叩き潰したことはPC関係者の間では有名な事件です。
こうしたビル・ゲイツの強欲とも思える姿勢は彼だけでなく、程度の差こそあれ20世紀の経営者にとって、共通であり常識でした。
だからこそ、イーロン・マスクはこれまでにない、極めて特異で興味深いビジネスリーダーと言えます。
事実テスラは、自社で開発した虎の子の電気自動車の重要特許でさえ、一般に無償で公開し、誰もが使えるようにしてEVの普及を加速しようとしています。

ポルシェより速いEVを作れ!

電気自動車がいかに地球に優しかったとしても、長距離ドライブが可能で、スピードが出るといった車としての性能が根本的に劣っていたら、ユーザーは見向きもしません。
もちろん、イーロンはそこにも徹底的にこだわっていて、テスラが開発した第一号であるEVスポーツカー「ロードスター」の最高速度は時速210km。とりわけ、スタートダッシュの素晴らしさはファンを熱狂させました。

すると「ロードスターとポルシェはどちらが速いのか」という話題が沸騰。自動車メディアの「SPEED」がこの対決動画をネットに公開したほどでした。
結果は、0~400mでの対決でテスラが圧勝。アクセルを踏み込んだ瞬間から、ポルシェを置き去りにし、ロードスターは走行性能の素晴らしさをみせつけました。
また、電気自動車最大の弱点といわれる「走行距離」についても、ロードスターは一度の充電で走行できる距離が394km。東京から名古屋までが約360kmですから、充電なしで走破できる距離としては十分です。イーロン・マスクとテスラの優秀なエンジニアたちは、走行距離の面でもガソリン車に引けを取らないレベルを実現させたのです。
しかし、それだけで彼が描く未来が実現できるわけではありません。
ロードスターの販売価格は、じつに10万ドル(約1000万円)。とても一般大衆が手にできる代物ではありませんでした。
イーロン自身もそれはわかっていて「我々のEVはエコカーではなく、プレミアカーだ」

と言ってロードスターを送り出しました。それでも、 一部の金持ちにしか手が届かないのであれば「電気 自動車、年間1億台」なんて未来は絶対に訪れません。

高性能の電気自動車をいかに安く、大量に作るか。

テスラはロードスターの次に高級EVセダン「モデルS」などを登場させながらも、ずっとその難題 に挑み続けてきました。
そして、ついに2017年7月、テスラ初にして待 望の大衆車「モデル 3」(3万5000ドル・約 350万円)が完成しました。真の大衆車と言うには、まだ少し高価な気もしますが、それでも一般の人に手が届くところまできていることは事実です。「モデル3」の期待の高さはその事前の予約台数に現れています。予約台数は10万台を超え関係者を驚かせただけでなく、1台あたり100 ドルの予約金の合計は約5億ドル(約500億円)に達し、売上高は175億ドル(約100億円)にもなるスケールです。それだけの人が「テスラに乗りたい」と思っているわけです。
BMWもメルセデスも凌駕するテスラの大衆向けEV車「モデル3」の人気は極めて高いのですが、問題は、10万台も大量生産できるかです。なぜならテスラはこれまで年間で10万台も作ったことはありません。
本当の大量生産を経験するテスラの真価が問われるのは、これからです。

イーロンの前に立ちはだかる「強力な敵」

イーロンが描く未来の実現には、ほかにもさまざまなハードル(それもとてつもなく高いハードル)がいくつもそびえ立っています。「モデル3」が完成し、イーロンが打ち出した強気の予測通りの量産が可能だったとしても、それですぐに「EVの時代」にガラガラポンと置き換わるかと言うとそうでもありません。
イーロンが革新的なビジネスを展開すればするほど、強力な抵抗勢力が現れ、その相手ともことあるごとに戦っていかなければならないからです。当然のことながら、イーロンの存在を苦々しく思っている人も大勢いるのです。
その巨大な敵とは、たとえばGMなど全米の自動車業界であり、それによりかかる全米ディーラー協会。その背後には石油利権に群がる企業や政治家など「石油族」が控えており、まさに「権力の中枢」とも呼ぶべき相手と対峙していかなければなりません。
「安くて、いいもの」を作れば、それで万事うまくいくほど、世の中はシンプルでも、甘くもないのです。
たとえば、これが「スマートフォンを作る」とか、「新しいSNSを開発する」といった、『シリコンバレー型ビジネス』なら、比較的簡単にいくかもしれません。
なぜなら、それらは新しいマーケットを形成するため、抵抗勢力も少ないからです。実際、ザッカーバーグがフェイスブックを10億人に広めるのに、それほど大きな抵抗勢力は存在しなかったでしょう。
しかし、イーロンがやっているビジネス領域は違います。
「スペースX」の航空宇宙産業にしろ、「テスラ」の自動車産業にしろ、既得権益でガチガチに守られた牙城にこの男は殴り込みをかけているのです。その抵抗たるや、半端ではありません。金と、人脈と、政治力をすべて持ち合わせた「悪の権化」みたいな巨大企業や政治家連中がウヨウヨいて、ドロドロとした巣窟の中でも戦わなければならないのです。
つまり、イーロンは、

まったく新しいテクノロジーを開発しつつ、
自らのビジネスを成功させ、
同時に巨大な既得権者とも戦っていく。

こんな「とんでもないミッション」を、想像を絶するスケールとクオリティとスピードで同時進行させなければならないのです。
しかし、それこそが「世界を変える」「未来を作る」という仕事であり、イーロン・マスクという男の一挙手一投足に多くの人が注目し、ワクワクし、痛快ささえ感じるのでしょう。

イーロン・マスクは「現代のコロンブス」

イーロン・マスクにとって金儲けは目的ではなく、手段です。もちろん、テスラもスペースXも、お金がなければ経営できません。車にガソリンが必要なように、企業にはお金が必要ですが、それはあくまで手段なのです。人は空気と水がなければ生きていけませんが、だからといって人は、空気や水のために生きているのではありません。
イーロンにとってのお金は、会社を経営し、新しい技術を生み出していくための燃料であり、新しい未来を切り開くために必要な手段なのです。

さて、ここまで、イーロン・マスクの宇宙産業と、自動車産業について語ってきましたが、そのほかにも、太陽光での「発電事業」、その発電した電気を効果的にためる「蓄電事業」、まったく新しい交通システム「ハイパーループ」、人間の脳とコンピュータを融合させる「ニューラリンク」など、世界を驚かせる巨大なプランを次々と打ち出し、着実に進行させています。
何度も言いますが、彼は「宇宙ビジネスでカネを稼ごう」とか「電気自動車で儲けよう」 なんてレベルで考えているのではありません。
イーロンは、自ら新しい世界を切り開き、輝く未来を創造するという、ある種の使命感に突き動かされているようです。
今、世界中を見渡して、これほど未来を託したくなるリーダーがいるでしょうか。イーロンのことを知れば知るほど、数兆円もの自分の財産を「あげてもいいと言った」ラリー・ペイジの気持ちがわかります。
イーロン・マスクは現代のコロンブスだと私は捉えています。
約500年前、コロンブスがヨーロッパから西に向けて船を漕ぎだしたとき、「この先に インドがある」という言葉をいったい誰が信じ、まして、そこに新大陸があるなんて、誰が想像したでしょうか。
しかし、実際には新大陸が発見され、多くの人々が移住し、新しい文化と経済を生み、豊かな国家を築きました。
99.999%の人が信じなくても、たった一人の開拓者が信じた未来が現実になるということが、本当にあるのです。誰もが「バカバカしい!」「あり得ない!」と切り捨てる荒唐無稽な発想でも、それを実現させ、本当に未来を切り開く人物はいるのです。
イーロン・マスクの描く未来がどこまで実現するのか。そんなことは誰にもわかりません。
しかし、彼なら、本当に実現させてくれるかもしれない。そんな期待を抱かずにはいられないのです。

イーロンに学ぶ「常識を破壊する力」

本書では、イーロン・マスクの「破壊的実行力」を生み出すAのルールを抽出して、彼の型破りな戦いでの輝ける成功と、目を覆いたくなる失敗を紹介しつつ、イーロンの考え方や行動を紐解いていきたいと思っています。
ともすれば現状に安住しようとする私たちが、世界をつくり変え、未来を創造しようと奮闘するイーロン・マスクから学ぶ点は数多くあるはずです。
そして、たとえイーロンと同じことはできなくても、あなたのすぐ横には「第二のイーロン・マスク」がいるかもしれません。世間の逆風を真正面に受けながら、常識を打ち破り、独創的なアイデアと行動力で世界を変える逸材が潜んでいるかもしれません。
ならば、そんな人のことを認め、応援してあげるのもいいでしょう。
本文ではイーロン・マスクのみならず、スティーブ・ジョブズやラリー・ペイジ、ゼロックス成功の立役者であるチェスター・カールソンの話も登場させますし、松下幸之助、盛田昭夫など日本をリードしてきた伝説のリーダーたちのエピソードも交えながら語っていきたいと思っています。
彼らもまた、紛れもなく「世界をつくり変え、未来を創造した人物たち」だからです。

未来の創造者たちから、私たちは何を学ぶべきなのか。
そんなことを考えながら、ぜひ楽しんで読んでください。

イーロン・マスク 年表

イーロン・マスクの足跡
1971 南アフリカ共和国の首都プレトリアで、三人兄弟の長男として生まれる
1988 17歳 南アフリカの家を出てカナダに渡る
1990 19歳 カナダのクイーンズ大学に進学
1992 21歳 米国ペンシルベニア大へ編入。経営学と物理学を学ぶ
1995 24歳 スタンフォード大大学院に入学。
だが、2日で退学し、Zip2社を弟のキンバル・マスクと共同で創業
1999 28歳 Zip2社をコンパック社に約3億ドルで売却し、Xドットコム社を創業。後にペイパルに
2000 29歳 クイーンズ大で知り合ったジャスティン・ウィルソンと結婚
2002 31歳 ペイパルをイーベイに5億ドルで売却。これによりイーロンは1億 7000万ドルを手にする
宇宙ロケットベンチャー 「スペースX社」を設立、CEOに就任
2004 33歳 電気自動車ベンチャー「テスラモーターズ社」に出資し、会長就任
2006 35歳 太陽光発電ベンチャー「ソーラーシティ社」に出資し、会長就任
スペースX社のロケット「ファルコン1」1号機が打ち上げ失敗
2007 36歳 テスラ社のCEOエバーハードが退任。後継CEO探しで迷走
2008 37歳 テスラ社が高級スポーツカー「ロードスター」を発売開始
ファルコン1が4度目の打ち上げで成功。民間ロケット初の地球軌道を飛行
危機のテスラ社のCEOに就任。妻・ジャスティンと離婚
2010 39歳 テスラ社が株式上場(1956年のフォード以来)。女優タルラ・ライリーと再婚
宇宙船ドラゴンが地球を周回後、無事帰還に成功。民間初の快挙
2012 41歳 宇宙船ドラゴンが国際宇宙ステーションとのドッキングに成功。民間企業初
タルラと離婚騒動
テスラ社がセダン「モデルS」を発売
2013 42歳 高速充電「スーパー・チャージャー・ステーション」の全米展開を開始
時速1200mの高速輸送計画「ハイパールーブ」を発表
スペースXのファルコン9の1段目ロケットが洋上着水に挑戦するも失敗
2014 43歳 次期有人宇宙船「ドラゴンV2」を発表
2015 44歳 – 家庭用蓄電池「パワーウォール」発売
テスラ初のSUV「モデルX」を発売
ファルコン9の1段目ロケットが陸上着陸に成功、史上初
2016 45歳 テスラ社がソーラーシティ社を経営統合
脳神経科学開発企業「ニューラリンク」設立
地下高速道路開発企業「ボーリング・カンパニー」設立
2017 46歳 世界最大のリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」稼働開始
ファルコン9で一度使った機体を再利用しての打ち上げに成功
宇宙船ドラゴンの再利用に成功、史上初
テスラの大衆車「モデル3」発売

竹内 一正 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/1/25)、出典:出版社HP

目次 『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』

プロローグ イーロン・マスクとは何者なのか?
170億円の成功など「ほんの序章」に過ぎない
「世界をつくり変える」ビジョンをぶち上げる!
火星移住計画を提唱
イーロンがぶち上げた「未来」が少しずつ「現実」になる
新車なら「電気自動車」という時代がやってくる
世界で最も売れている自動車を電気自動車にする
ポルシェより速いEVを作れ!
イーロンの前に立ちはだかる「強力な敵」
イーロン・マスクは「現代のコロンブス」
イーロンに学ぶ「常識を破壊する力」
イーロン・マスクのビジネスドメイン
イーロン・マスク年表

Rule01
理想を掲げた現実主義者になる ――ビジョンに実行力を近づける
誰もがワクワクする未来を描く
近未来感に溢れた「新交通システム」
「現実の一歩」を示すからこそ人々の期待感が高まる!
世界は「イーロン・マスクの描く未来」に近づいている

Rule02
社会全体を見ろ、世界の未来を担え! ――スケール感を2段階アップして考える
地球規模のスケール感で考える
「再生可能エネルギーを使うように」と電力会社に要求する
日本企業に求められる「世界視座を持った、自立した企業スタンス」
松下幸之助が大事にした「水道哲学」

Rule03
どんな失敗でも、正面から受け入れる――絶望をモチベーションに昇華する
失敗は成功の必要条件
ロードスターの出荷が遅れるなど、テスラはトラブル続き
「ファルコン 1」は打ち上げ失敗の連続
スペースXは「宇宙の宅配便」
アメリカにおける宇宙産業の光と影
タフなハートがなければ「未来の創造者」になんてなれない

Rule04
ギブン・コンディションを超える ――「ワク」を取っ払う図太さ 与えられた状況に甘んじるな
大きく見ながら、細部にこだわる
ハードワークを恐れない
「普通の仕事」に安心するか、ボイコットするか
車にソフトウェア・アップデートを行う

Rule05
ひとつの成功なんかで満足しない――21世紀を切り拓く起業家の正体
イーロンが連続起業する理由

ビル・ゲイツより金持ちになったかもしれない男 それは、人生を賭けるに値する仕事なのか 人間の知能レベルを飛躍させる 聖人君子ではない 脈々と受け継がれる「開拓者」のDNA …… 2世紀は開拓者の時代だ

06
Rule
最後はトップがリスクを取る ――やり抜く組織はリーダーがつくる イーロン、最大の苦境 すべての投資家が見捨てても、私がテスラを支える! 商品を世に出すまでに2年かかった男と、その理解者 テスラ車の自動運転で死亡事故が起きた時 死亡事故でわかるトップの覚悟

Rule07
常識は疑え、ルールを壊せ
絶望をモチベーションに昇華する
業界の慣習を破る
テスラの前に立ちはだかる巨大な敵「全米ディーラー協会」
松下電器も苦しんだ「販売ルート」の変遷
MITの「不服従賞」? 常識を壊せば、そこから未来が見える

Rule08
すべてを、ハイスピードで実行する ――頭脳とフットワークの両輪を回す
スピードのあるジェネラリスト
専門家を束ねる指揮者となる
インプットに比べて「人間のアウトプット」は凄まじく遅い
誰もが熱中した「プログラミングの時代」
21世紀を生きるすべてのビジネスパーソンに求められること
ICBMを買いに、ちょいとロシアまで
輸送中に「ファルコンロケットの機体」がへこんでしまった

Rule09
相手が強敵でも、怯まず戦う
―攻撃は合理的かつ客観的に
ニューヨークタイムズとの戦い
データをもとに理詰めで反論していく
「エンタメの巨人」を相手に一歩も引かなかった盛田昭夫
米国防総省や公正取引委員会まで敵に回す
ドラゴンV2で有人飛行へ挑戦

Rule10
常にオープンであれ ―自ら「矢面に立つ」覚悟を持つ
すべてを公開して協力を得る
業界の外側にいる「大衆」を味方につける
オープンにしたくないこともある
「電気自動車の要」の特許を無料公開するわけ
特許を公開することで業界を活性化させる

Rule11
本質に立ち戻って考える――日本企業にこそ必要な思考法
すべて当たり前だと思わない
「料理は科学だ」を実践している老舗料亭の料理人
「なぜ」を繰り返すことで本質に迫っていく
トヨタに引き継がれている「本質に立ち返る精神」
企業には4つのフェーズが存在する
なぜ、日本の大企業はイノベーションを起こせないのか?
本質に立ち戻ってわかるロケット再利用の方法

Rule12
世界を変えるビジネスモデルを構築する――点から線に、線から面に拡大せよ
新たな価値を創造する
テスラは「サスティナブル・エナジーカンパニー」になる!
「太陽光発電の未来」はすぐそこまで来ている

Rule13
時流に乗り、大勝負に出る――勝敗を分けるタイミングの見極め方
世界最大のリチウムイオン電池工場を建設
経営とは「後ろしか見えない車を運転するようなもの」
時流を読めば「無茶」は「飛露」へと変わる
イーロン・マスクの大勝負は規模を拡大させながら続いていく

Rule14
株主の言うことなんか聞くな! ――ぶれない信念が壁を壊す
最大の敵は「株主」
「株式会社」と「株主」の微妙な関係
火星ロケットBFRを打ち上げろ
危機の時こそ、冷静に判断する
未来を託したくなる男

参考文献

竹内 一正 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/1/25)、出典:出版社HP

天才イーロン・マスク銀河一の戦略 (経済界新書)

イーロン・マスクの戦略を読み解く

本書は、多くの人を惹きつける革新的なアイデアや壮大なプランを生み出すイーロン・マスクの戦略を解き明かそうとしている本です。彼の生い立ちや起業、ビジネスを軌道に乗せるまでの格闘などから、彼の考え方、哲学についてテーマごとに解説されています。

桑原 晃弥 (著)
出版社 : 経済界 (2014/11/22)、出典:出版社HP

はじめに

イーロン・マスクのつくった「ロードスター」は、本当に衝撃的な車だった。 ロードスターとは、マスクが設立したテスラモーターズが二〇〇八年から発売している スポーツカータイプの電気自動車である。
とにかく格好よかった。走行距離から加速性能まで、あらゆるスペック(仕様)が、それまでの電気自動車のダメなイメージと大きく一線を画していた。
トヨタ自動車の社長ながら、みずから自動車レースにドライバーとして参加したりする国際ライセンス保持者、豊田章男氏が実際にハンドルを握って、「新しい風を感じる」とほれ込んだのもうなずける。

私は十数年にわたってトヨタ式の普及にかかわってきた。だから、環境対応車はトヨタが最先端を走っていると、かなり信じ込んでいた。
電気自動車、燃料電池車、ハイブリッドカーの中で、トヨタが優先したのはハイブリッドカーだった。電気自動車は走行距離の極端な短さ、搭載電池の開発、充電設備のインフラ整備など、ネックだらけだった。多くの人が環境対応車はハイブリッドカーから徐々に燃料電池車へと向かい、電気自動車は台数を伸ばすことなく限られた用途に使われるだけだろうと見ていた。
実際、「プリウス」が出てからは各自動車メーカーが競ってハイブリッドカーを生産し、 環境対応車はトヨタが主導する流れになっていた。
その世界的な流れに、ほとんど一人で「待った」をかけたのがマスクだったのだ。
これはすごいとマスクを調べて、また驚いた。
マスクはテスラのほかに、宇宙ロケット開発会社の「スペースX」と、太陽光発電会社 の「ソーラーシティ」も経営しており、それぞれかなりの成果を上げているのである。
また、インターネット決済でよく使う「ペイパル」開発者の一人にもなっている。
しかも、優秀ではあるものの、エリートではまったくない。南アフリカ共和国から無一文でアメリカに渡ってきた移民である。
また、多くの会社を経営しているのは、「人類を救う」「地球を救う」という大目標に沿ったものであり、人類の火星移住を本気で考えている。
マスクがすごいのは、それらがただの荒唐 無稽な夢物語ではなく、着々と現実化されていることだ。

私は経営ジャーナリストとして、アップル創業者のスティーブ・ジョブズや、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスなども、ずっと追ってきた。
自動車にしろ宇宙ロケットにしろ、長い歴史がある業界であり、お金も人も技術も持つ大企業が、すでに覇を競い合っている。それはジョブズが活躍したパソコンの誕生期や、ベゾスが目をつけたインターネットの普及期とはまったく異なる、規模の優位が圧倒的にものを言う世界だ。
そんな世界に南アフリカから単身乗り込んで、わずか一〇年あまりで流れを変えてしまったのである。マスクには、既存の企業が思いもつかなかったアイデアがあり、壮大なプランがあり、人を惹きつける何かがあるに違いない。
それを解き明かそうとしたのが本書である。
マスクの「人類を救う」「火星移住」といった目標が、私たちの手の届く、どのあたりまで具体化されているのかも、同時に解明できたと思っている。

ものづくりの世界で人を動かす力があるのは、つくり上げたものだけである。どんなものをつくっているのかを見れば、技術から思想まですべてがわかるのだ。
豊田章男氏は、マスクに会い、ロードスターに試乗してからわずか一ヵ月でテスラとの資本提携を決めている。あるいはNASAは、アメリカの威信をかけた有人宇宙ロケットの開発を、スペースXに委託している。
すべては、マスクのつくり上げたものがすぐれており、そこにたくさんの魅力と可能性があったからにほかならない。革命が起こりにくいとされていたものづくりの世界にも、まだまだ革命の余地があることがよくわかる。
今、日本では生産拠点が次々と失われ、日本発の世界製品も格段に減っている。しかし、日本の底力はこんなものではないはずだ。きっかけさえあれば、未来を開き、世界を変える力を持っている。その力が発揮された時、私たち一人ひとりの生活や人生も、もっと明るいものになっていくだろう。
本書がそのきっかけになれば幸いである。
桑原晃弥

桑原 晃弥 (著)
出版社 : 経済界 (2014/11/22)、出典:出版社HP

◎イーロン・マスクのあゆみ

1971(0歳) 6月8日、南アフリカ共和国プレトリアで生まれる
1975(4歳)*4月、ビル・ゲイツがマイクロソフトを創業
1976(5歳)*4月、スティーブ・ジョブズがアップルを創業
1979 (8歳) 両親が離婚。母親と南アフリカの都市を転々とするようになる
1981(10歳)プログラミングを独学する
1981 (12歳) ソフトウェア「ブラスター」を自作、販売してお金を得る
母親のもとを離れ、父親と暮らし始める
1988 (17歳) プレトリアボーイズ高校で大学入学資格を得る
1989 (18歳) 母親の出身地カナダに移住、労働の日々を送る
1990 (19歳) カナダのクイーンズ大学に入る
1992(21歳) アメリカのペンシルベニア大学ウォートン校に入る
1995(24歳) カリフォルニア州のスタンフォード大学大学院に進むが、2日で中退
弟のキンバルと、ウェブソフトウェア会社「ジップ2」を設立
*7月、ジェフ・ベゾスがアマゾンのサービス開始(創業は4年7月)
1998 (27歳) *9月、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンがグーグルを創業
1999 (28歳) ジップ2をコンパックに売却、2200万ドルを得る
オンライン金融とメール支払いサービス会社「Xドットコム」を設立
*アメリカでITバブルが始まる
2000(29歳) Xドットコムがコンフィニティ社と合併(のちに「ペイパル」となる)
2001(30歳) *9月1日、アメリカで同時多発テロ。ITバブルが終わる
2002 (31歳) ペイパルをイーベイに売却、1億6500万ドルを得る
ロケット開発会社「スペースX」を設立、CEO兼CTOに就任
2004 (33歳) 電気自動車会社「テスラモーターズ」に投資
*2月、マーク・ザッカーバーグがフェイスブックを創業
2006 (35歳) 太陽光発電会社「ソーラーシティ」を2人のいとこと設立、会長に就任
テスラがスポーツカータイプの電気自動車「ロードスター」を発表
スペースXが初のロケットを打ち上げるが失敗
2007 (36歳)*アメリカでサブプライム住宅ローン危機が急速に悪化
2008 (37歳) テスラの会長兼CEOに就任
テスラがロードスターを発売開始
スペースXが四回目のロケット打ち上げで初の成功
*リーマン・ブラザーズ倒産を契機に世界的金融危機が起きる
2009 (38歳) テスラにダイムラーが出資
テスラが高級電気自動車セダン「モデルS」を発表
2010 (39歳)
テスラとトヨタが提携を発表
テスラが株式公開
2011 (40歳) 福島県相馬市を訪問し、太陽光発電を寄贈
*10月、スティーブ・ジョブズが死去
2012 (41歳) 多くの富豪が参加する慈善活動「ギビング・プレッジ」に参加
スペースXの「ドラゴン」が国際宇宙ステーションとドッキングに成功
テスラがモデルSを発売開始
2013 (42歳) 超高速交通システム「ハイパーループ」構想を提案
2014 (43歳)「来日して安倍晋三総理大臣と会談

目次 ◎ 天才イーロン・マスク 銀河一の戦略

はじめに
イーロン・マスクのあゆみ

第1章 自分で自分の発想を制限するな
南アフリカの貧しい移民が富豪に駆け上がる
マスクは「どこから来た」人間か?――父と母、そして親の離婚
スティーブ・ジョブズの後継者に躍り出る
アマゾン創業者ジェフ・ベゾスとの「勝者の共通点」
読書もパソコンも「何かをつくる体験」につながってこそ
あこがれはあらゆる力の源泉――カナダを経てアメリカに
やる気さえあれば何でもできると信じる
「大きな答え」を早く出しておく
大きく得る人は惜しげもなく捨てられる人――二つの企業売却
タイミングをつかむことは成功の絶対条件
貧乏は成長をうながす慈雨でもある
お金を使う時は目的をはっきりさせておく
何がマスクに一八一億円をもたらしたのか
手を打つだけでなく二の手、三の手が大切 三社の経営を開始
マスクが「週一○○時間働く」理由
係争中の休暇には気をつける
スペースX、テスラ、そしてソーラーシティ

第2章 すごくなるにはすごい相手と組む
――小企業テスラがトヨタ、パナソニックを動かす
先に舞台に上がってこそ幕は開く―ロードスターの衝撃
急成長するにはハイエンド市場を狙う
暗闇だから小さな光でも価値がある
達成術は「妥協をせずに」やり続けること――ロードスターの開発
現実を変えるにはイメージをまず塗り替える
なければ自分でつくれ
世界最高を使い、世界最高を実現する
すごい新しさにはすごい人が集まってくる――トヨタとの提携
開発はできたが量産ができなかったテスラ
相手を乗せるには「渡りに船」を出せ
言葉よりも「実物」に説得力がある
販売は発明より重要である――トヨタ生産方式の導入
必要なのは「需要に合わせながら」安くつくること
いい発想は現地で現物を見てこそ
任せるが「丸投げ」はしない――一気通貫の実現
外注よりも自社開発のほうが周囲もうるおう
外注先進国アメリカのあとを追うな
マスクは「ものづくりの男」
成功を人にも分けることでさらに成功する――日本への進出
国を富ませる企業には政府も力を貸す
足場を固めるマスクのやり方
ビジネスはまず多くの人に知られることから

第3章 恐れは無視せよ。進むのが遅くなる
――新企業スペースXがアメリカの威信を背負う
成功はコストダウンから始まる――スペースXのスタート |
安くできれば資金も流れ込んでくる
スタートは荒唐無稽でかまわない
そして成功はゲームオーバー寸前にやってくる――宇宙船ドラゴンの成功
価格破壊は改革ビジョンの一つ
一○年続ければ状況が味方し始める
高い理想には危機を乗り越える力がある
汎用品の利用でもイノベーションは起こせる――格安ロケット革命
コストを劇的に下げる三つの方策
「すでにある技術を利用するほうが合理的です」
マスクはなぜ「火星で死にたい」のか――有人宇宙飛行へ
火星移住に一歩近づく
目標は普通の人が火星に行けること
ボーイングに勝ったスペースX
失敗を克服する者はすべてを克服する――スペースXの進化
失敗に打ちひしがれてはイノベーションは起こせない
大切なのは責任追及でなく原因追究
「バカの増殖」を防げ―スペースXの人材
トップ人材に目をつける
組織づくりに不可欠な「才能の集中」
世界を変えるのは「世界は変えられる」と信じる人たち――マスクの組織論
人生には「週一○○時間働く」時があっていい
「本気の人」に優秀な人が集まる

第4章 絶望は強烈なモチベーションにつながる
一人の執念が自動車一○○年の歴史を揺るがす
利益に踊っていると遠路は歩き通せない――テスラの設立
対策を取らなければ今は普通のことがやがて困難になる。
発明王ニコラ・テスラが教える「あと一歩」の計り知れない重み
「あいつには貸しをつくろう」と思わせよ――テスラの上場
生産台数わずか千台の自動車会社がなぜ上場できたのか
「世界をひっくり返したよ」
ついに二四八億円を得たマスク
「早く進める。利益は二の次」が正しい――テスラの経営戦略
大切なのは利益よりもシェア –
消費するな、投資せよ
特許で守るか、公開して進化するか―テスラの特許公開
絶望的な差が最初からついていたら?
進み方がまるで正反対のアマゾンとグーグル
「切り開いた道をみんながついて来れるようにしたい」
「今」を変えるには今までなかったことをする――テスラの技術
新規参入組の勝ち方「業界に相手にされない間に成長せよ」
発想源は「誰もまだ……ない」
大局は計画に沿い、細部は現実に沿うーマスクのマスターブラン
大切なのはコストダウンの計画
成功はチャンスを生かす心構えができていてこそ

第5章 大事なのは成長率。成功率とは限らない
ソーラーシティの太陽光発電が原発をしのぎ始める
成長するものは目立たなくても未来を変えてしまう―ソーラーシティ設立
太陽光発電はなぜエネルギー源の中で最も有望なのか
「私は巨大な木を育てている」
シェールガス、そして原発に未来はあるか
成長するには環境をまず整える―マスクのエネルギー戦略
マスクが大震災直後の福島を訪問した理由
批判するだけでは何も生まれない、変わらない
問題解決に最適な時期はいつも「今」である――マスクの危機感覚
エネルギー問題が進まない本当の理由
追い込まれる前に解決する

第6章 明るい未来を信じたくなる仕事をせよ
―壮大な「夢物語」がイノベーションを進める
適度な目標は行動を変え、高度な目標は意識を変える―イノベーション戦略 「常軌を逸していると言われてもかまわない」
イノベーションは発想の「大枠」を取り払うことから
不可能に見えたら少し「ゆるく見直す」といい――挑戦戦略
貧しくてもハッピーであればリスクは取れる
「ちょっとまぬけ」な見方からグーグルは生まれた
利益や勝利も大切だが「世界に役立つ」のはもっと大切―ビジネス戦略
「お金が目当てで会社を始めて成功した人は見たことがない」
建設的とは未来を変えられるということ
改革のうまい人は不満のすくい取り方がうまい――発想戦略
強い不満は強い意欲になり得る
自分たちが使いたいと思う製品をつくればいい
自分を必要としない分野を避ける――成長戦略
天才ゲイツもよけいな野望を捨てたから大成した
自分以外の誰かができるなら、かかわる必要はない
ハードワーカーは私生活に要注意――マスクの私生活
豊かさと幸福の関係は難しい
「女性にはどれくらい時間を割けばいいのか」

第7章 人をあっと驚かせる事業こそおもしろい
―コストダウンが火星移住を手の届く現実にする
可能性を高めるにはコストを含めたプランを示す――ハイパーループとマスク
すぐれたものを安くできるならそれはもう夢ではない
ビジネスの究極の目標は「最高」を提示すること―電気自動車戦略I
欠点を解消すれば不評製品も人気製品に変わる
挑戦の喜びは「いいね」が徐々に増えてくること―電気自動車戦略Ⅱ
消費者を動かせば大手が動く、すると不可能も可能になる
テスラにおごりはあるか
マスクは世界にどんなプラスをもたらすのか――電気自動車戦略Ⅲ
マスクが電池工場ギガファクトリーを建設する理由
「巻き込む力」が不可能を可能にしていく

参考文献

プロデュース、編集/アールズ 吉田 宏

桑原 晃弥 (著)
出版社 : 経済界 (2014/11/22)、出典:出版社HP

イーロン・マスク 未来を創る男

イーロン・マスクの人生がわかる

本書は、イーロン・マスクのこれまでの人生とこれから何を目指すかが紹介されている本です。少年時代のエピソードや大学生活、起業、ペイパル創業などの若い頃の話が比較的豊富です。苦境に立たされた時期の出来事や失敗をバネにして成功を手に入れる姿が描かれており、彼が何者であるかを知るきっかけになるでしょう。

アシュリー・バンス (著), 斎藤 栄一郎 (翻訳)
出版社 : 講談社 (2015/9/16)、出典:出版社HP

目次

1 イーロン・マスクの世界 「次の」ジョブズはこの男
救世主か大ボラ吹きか/スペースX探訪記/ イノベーションを地で行く/ ライフスタイル
2 少年時代 国・南アフリカの甘くて苦い記憶
型破りだった祖父史/マスク独自の思考法/父親との微妙な関係/ 衝撃の出会い才能の開花弁
3 新大陸へ壮大な冒険の始まり
大学生活/即席ナイトクラブ/1994年のマスクが予測した未来
4 初めての起業 成功への第一歩を踏み出すまで
ベンチャー・ビジネス /事業拡張/仕事も遊びもモーレツ主義 /お家騒動と買収劇
5 ペイパル・マフィア 栄光と挫折とビッグマネー
ネット銀行という大野望☆/ドリームチーム/昨日の友は今日の敵/ クーデター発生! /マスク経営の功罪/天国から地獄の手前へ
6 宇宙を目指せ ロケット事業に乗り出すまで
マウスを火星に/ロシアでICBMを買おう)/買えなければ自前で/ ロケット・ベンチャー/スペースXとファルコン1/悲しみを乗り越えて/試行錯誤のモノ作り/欲しい人材要らない人材 /赤道直下の島で
7 100%の電気自動車 スラモーターズという革命
リチウムイオン電池なら?/エンジェル投資家/爆発実験/試作車完成/暗雲 /解任と確執/会社のゴタゴタ
8 苦悩の時代 生き残りをかけた闘い
離婚 /新たな出会いぬ/4度目の正直/破産寸前
9 軌道に乗せる 火星移住まで夢は終わらない
大ボラ会社から有力企業へ/スペースX社の入社試験 /マスクとベゾスの仲違い/ 厳しすぎるスケジュール /上場はまだまだ先
10 リベンジ &世紀の自動車を世に出す
傷だらけの栄光 /デザイナーとも大ゲンカ/モデルSの誕生 / ダイムラーを味方に/「物理学のレベルまで掘り下げろ」 / ライバル車の欠点を探す/さらに上を目指すゲ/荒波にも負けず/ なぜテスラは勝ったのか
11 次なる野望 イーロン・マスクの「統一場理論」
太陽を格安で手に入れる /企業同士をつなげる/真の電気自動車革命を起こせるか/究極の目標 の 宇宙にかける思い / ハイパーループ構想必/冷酷な一面 めジョブズ、ゲイツとの比較論外/ マスクは「本物」なのか /ラリー・ペイジ、マスクを語る/ネクスト

エピローグ
補記1 マスクに関するいくつかの「疑惑」について
補記2 ペイパルに関するマスクの証言
補記3 イーロン・マスクのメール全文(「上場について」2013年6月7日)

アシュリー・バンス (著), 斎藤 栄一郎 (翻訳)
出版社 : 講談社 (2015/9/16)、出典:出版社HP

イーロン・マスクの世紀

イーロン・マスクがもたらしたものは

本書は、壮大なスケールのビジョンを持つイーロン・マスクを取材してきた記者がイーロン・マスクのビジネスやそれに関連した事象についてまとめている本です。世界が抱える大きな課題をどのようにして、解決するべきかを考えるきっかけになるかもしれません。

兼松 雄一郎 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2018/6/15)、出典:出版社HP

まえがき

福島原発の事故の後、電源としての原子力をどう考えるかをイーロン・マスクに聞いたことがある。

「私は原子力賛成派だ。基本的にクリーンな電源と言っていい。ただし、自然災害から守られているという条件付きだ。残念だがカリフォルニア州や日本のような地震多発地帯には向かない。実際、カリフォルニア州はサンオノフレやディアブロ・キャニオンなどで原発を少しずつ止めていっている。フランスのような平地で洪水や竜巻など自然災害が少ない場所であれば有効な技術だ。ただ、周辺地域から住民を隔離する必要があり、近隣不動産の価値も下がる。優先的に選ばれる電源ではないはずだ。それだけの広い土地があるなら太陽光で発電した方が効率的だ」

しばし考えた後で、整理された答えが流れるようにあふれ出る。大胆な構想と冷静な判断でテスラやスペースXなどを率いる希代の起業家マスク。この本はそんな彼の伝記ではない。扱うのは、幅広い範囲に及ぶマスクの影響の方だ。その影響はいまや単に自動車や宇宙産業の中にとどまらない。
マスクは間違いなく米国における製造業の旗手だ。アジア勢に押される米国の製造業が向かうべき方向を指し示すだけではない。EV、ロケット開発、トンネル掘削、はては脳とコンピューターの接続技術まで。リスクが高すぎて投資が集まらなかったこうした業界に資金を呼び込む広告塔となり、新たなうねりを作り出す。既存業界を破壊し革新を生み出すことを善とするイノベーション教の教祖のようにも扱われるが、本書はそうした一面的なマスク礼賛の立場は取らない。
マスクの事業群は突出した起業家独りで成り立つものではない。著名なベンチャーキャピタリストを中心とする人脈が足りない部分を補う。シリコンバレーのエコシステムだけでなく、米国の政府系機関の研究の蓄積やインフラも総動員している。スペースXとNASAの良好な関係が象徴するように。
多くの産業にまたがるマスクの企業群は、米国の基礎研究の遺産、世界から集まった最先端の技術者たち、シリコンバレーでアップルが育成してきたデザイン・マーケティングに長けた人材などの上に立っている。マスクの実績をその際立った個性や起業家魂といった陳腐な精神論だけに還元すべきではない。彼の突出した企業群はいかにして生まれ得たのか、本書ではその背景にある構造を解説したい。

マスクの快進撃が続くかはまだ不透明だ。テスラはEV量産に苦しみ、スペースXも巨大ロケット開発に苦闘している。しかしマスクの企業が勝ち残れるかは本質的な問題ではない。本当に重要なのはマスクが成功するかではなく、やっている実験の中身だ。
スポーツの世界では、一人の選手が今まで不可能に見えたタイムを切ると突然他の選手も続々と好タイムを出す現象が知られている。同様に一社でも狂気じみた初期投資をして顧客を獲得し、既存の業界が安定した利益を分け合う構造が揺らげば、技術の普及は格段に早まる。実際、捨て身で新しい機能を次々に商品化するマスクの動きに多くの企業がすでに引きずられている。
自動車大手はEVの品揃えを大幅に拡充しており、蓄電池やその原料の争奪戦が始まっている。仮にマスクの事業が失速したとしても、加速した業界全体の流れは止まらないだろう。古くなってきたインフラや製造業の構造を変える、シリコンバレーを起点とする新たな産業革命の動き。マスクの実験がそれを牽引する。
さらに見逃せないのは米国が産業政策上、マスクという新たなスターを求めているということだ。温暖化政策ではたもとを分かったが、米トランプ政権の政策は製造業の米回帰による雇用創出、宇宙開拓による国威発揚、研究開発へのリスク資金の呼び込みなどで明らかにマスクのビジョンと共鳴しており、彼の政策への影響は大きい。
たとえばマスクの動きを追っていれば、自動運転技術が急激に進化する中で新幹線を輸出するような時代錯誤の計画を進める気にはなれないはずだ。交通インフラの未来は混沌としており、交通手段のあり方は大きく変動するだろう。マスクとその周辺の動きを押さえることは社会インフラの未来を占う上でも不可欠な知識になり始めている。本書はその助けとなることも企図している。

クールなスポーツカーとロケットを開発し、傍らにはいつも美女がいる。そんな完全無欠のヒーローのようでいてナイーブな面もある。2017年7月末、新型車「モデル3」の出荷式を控え、カリフォルニア州フリーモント工場に現れたマスクは瀕死の人間のような表情を浮かべていた。生気もなくテンションも上がってこない。いつも冗談を飛ばし、論争を仕掛ける陽気なカリスマ経営者と同一人物とは思えないやつれぶりだった。
「モデル3」量産の苦労によるものかと思われたが、のちにローリングストーン誌のインタビューで女優のアンバー・ハードと別れたせいだったと明かしている。マスクは公の場に現れるたびに痩せたり、太ったりを繰り返している。孤独を嫌い、ストレスで食べ過ぎることもある。冷静で強気な仮面の下に人間らしい弱さと激しい感情も隠している。
その姿は複雑でつかみどころがない。ゲームとサイエンスフィクションを愛するオタクでもあり、工場に泊まり込み、取引先の部品メーカーの工場をふらりと訪問する生粋のエンジニアでもある。週末や休暇シーズンまで長時間働き、地球の温暖化防止と火星への移住を真剣に唱える。その行動はもはや現実離れしてみえる。
だが、世紀を超えるスケールのマスクの構想には怪しく曖昧な部分も多い。マスクは極めて科学的な思考を披露するにも関わらず、構想や計画の時間軸については適当さが目立つ。この相反する2つの要素がマスクという人物の中に共存している。
マスクは仮説をすぐに実行に移す。仮説の力で人を集め、達成のために人を追い詰める。そこには単なる抽象的な構想にはない手触りがある。それを真に受けて未来について楽観的に語りすぎることも、その計画が未達であるがゆえに過剰に批判することも、マスクという人物を扱う上であまり生産的ではないと考えている。
マスクに関する多くの記事がこの2つのどちらかに偏っているが、本書はそこから少し引いた視点で、マスクに影響を受けた興味深い人々を影の主役として描いたつもりだ。
なお、本書では敬称は省略し、肩書や数字は執筆時の2018年3月時点のものを使った。

兼松 雄一郎 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2018/6/15)、出典:出版社HP

目次

まえがき

CHAPTER 1
さらばアップル
米国製造業の革命
マスクランド
ガラスの神殿
アップルに先回り
「iPhone的瞬間」
オブジェになる電池
エンジニアとデザイナー
工場が最大の製品
高速經常

CHAPTER 2
ロボットと愛
トヨタをあざ笑う
研究者の楽園
短かった蜜月
燃え上がる車体
「マスク仕様」の工場
盟主の苦悩
懸賞金ハンター
ハッカーのアイドル
足りない技術者
遅れてきた巨人
マスク時間
「クソ」で動く車
「約束できることしか公表しない」
メンテナンス革命

CHAPTER 3
解けるエジソンの呪い
電力の未来
死の谷を超えて
ブレインレイプ
秘中の秘
特許開放
「テスラはブラックベリー」
誤算
エジソンの呪い
「生産方式」を生み出す
EVで電力不足
電力との融合
荒ぶる風
電池革命後の風景

CHAPTER 4
「ザッカーバーグは分かってない」
Al終末論
目障りな「救世主」
「規制セヨ」
Al幸福論
「意識」は生まれるか
世界を見通す石
「人は見た目が9割」
遺伝子からAIへ、アシロマ再び
倫理学ルネサンス
What’s Facebook?
不気味なフェイスブック
過ぎ去りし黄金時代
理念の空白
ライフワーク逆回転
パワーゲーム

CHAPTER 5
トランプとの伴走
近似形の二人
離反
投資はハムスター500億匹級
トランプの科学
不思議な伴走
近似形の二人
ファクトチェックの対象
ツイッター大統領
トランプ支持の民主党員
ロビーイング2・0
バーニーの革命

CHAPTER 6
マルキシズム2・0
シリコンバレーの不安
株価が組合対策
完全自動化後の工場
米国の新たな「社会主義者」たち
「Dump Trump(トランプをゴミ箱へ)」
テクノロジー企業の深謀
汚れ仕事
自動車業界の鎮痛剤

CHAPTER 7
アキレスと2匹の亀
異端投資の生態系
「テスラ倒産」
歪曲フィールド
戦時のCFO
キャッシュ・マシーン
地球規模の通信会社
世紀を超える思考
太陽を作った少年
マスク・エフェクト
「知能の拡張」に投資を呼び込む
火星のゼネコン
1万年の鼓動
吸血鬼マウス
2匹の亀

CHAPTER 8
米都市の生と死
蝸牛とブガッティ
退屈な会社
忘れられた地下
地獄のLA
愚かな鉄道計画
構想1:空の開発
構想2:ライドシェアの進化
ライドシェア渋滞
ウーバーとの隠れたつながり
構想3:「都市のOS」
構想4:リアル・シムシティ
アルファベットの「理想像」
都市開発という免罪符

CHAPTER 9
アイアンマンのダークサイド
殺人マーケティング
凶暴なボクサー
未熟なオートパイロット
顧客の車を「実験台」に
性急さの代償
ブラック企業
振り回されるパナソニック
破れた大風呂敷
ヒーローと階層

CHAPTER 10
起業家の建国神話
物語が育むアメリカ
逆噴射の公式
テスラと宇宙の神話
マスク・ファンクラブ
「新冷戦」
ロシアに復讐を果たす
2つのフロンティア
まずは広告・マーケティング
宇宙商品取引所
ロボットのOS
西のパトロン
贅沢とネット資本主義

CHAPTER 11
方舟と民主主義
紅いディストピア
現代の「方舟」
技術で感情は代替できない
火星と民主主義」
宇宙医学
灼熱の「宇宙港」
NASAの遺産
失敗の殿堂
NASAはどけ!
空白

CHAPTER 12
トム少佐の退屈
マスクがまだ語っていないこと
火星のナイトクラブ
ササカワと宇宙建築
長い夢
砂漠の雪
ムシたちの宇宙レストラン
宇宙リゾット
秘密の実験室
個人情報としての味覚
肉とは何か、それが問題だ
Rip. Mix. Burn.
生物学者とロボット技術者の融合
ジョブズの予言書

あとがき
[巻頭・巻末資料] マスクの人脈図
イーロン・マスク年表
主な登場組織・企業の解説
参考文献

イーロン・マスク年表
1971
南アフリカ・ブレトリアで 技術者の父とモデルの母の長男として生まれる
1989
カナダに移住し、クイーンズ大学に入学
1992
ペンシルベニア大学に転入。経済学と物理学を専攻
1995
スタンフォード大学の博士課程に進学するも、すぐに起業のために中退
弟のキンバルと地域広告プラットフォームベンチャー、 ここ2を業
1999
この2をコンバックに売却。これを原資に決済ベンチャー、 X.com
2000
ピーター・ティール率いる同業コンフィニティと統合し、 ベイバルを自業
2001
ICBM購入でロシア企業と交渉
2002
ネット売買仲介大手イーベイがペイパルを15億ドルで買収。
資金を元手にスペースXを創業
2003
創業のEVベンチャーのテスラに出資し、経営に参加
2008
国産車のスペースXが4度目にして打ち上げに初成功 NASAから国際宇宙ステーションへの大型輸送契約を受注
2009
国産車のテスラに独ダイムラーが出資
2010
スペースが宇宙を「ドラゴン」の打ち上げ・回収に成功
テスラがトヨタ自動車と資本提携
2012
テスラがセダン・モデルS」を発売
2013
「モデルS」の販売が急拡大し、テスラが倒産危機から抜け出す
2014
スペースXがNASAから
国際宇宙ステーションへの大型輸送契約を再受注
テスラとダイムラーとの提携解消。
トヨタとの提携も実質的に解消
2015
テスラが定置型の蓄電池販売も開始し、エネルギー事業に参入 SUV「モデルX」投入
AI開発NPOのオープンAIを創設
スペースXがロケットブースターの着地・回収に初成功
2016
パナソニックと共同投資するネバダ州の巨大電池工場が稼働
テスラ車で「オートパイロット」モード作動中に死亡事故が発生
脳・コンピュータ接続技術開発のニューラリンク、トンネル掘削のボーリング・カンパニーを相次ぎ創業
スペースXのロケットが試験中に爆発
テスラが太陽光発電ベンチャー、ソーラーシティを買収
2017
量産車「モデル3」の出荷が始まるも量産が難航
スペースXがロケットブースターと宇宙船の再利用に成功
2018
低軌道に小型通信衛星ネットワークを作るための試験機の打ち上げに成功
大型ロケット「ファルコンヘビー」の試験打ち上げに成功

兼松 雄一郎 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2018/6/15)、出典:出版社HP