【最新】西洋美術史を学ぶためのおすすめ本 – 全体像の概観から政治や宗教等との関係まで

西洋美術をどう楽しむ?美術史の読み解き方とは?

西洋美術というと、美術や世界史の教科書で絵画を見たり、普段の生活で目にすることもあります。このような作品は芸術作品であるだけでなく、当時の政治、宗教、思想などを表したものという側面もあります。西洋美術史を学ぶことで歴史的背景を学ぶことができます。そこで今回は、西洋美術史について学ぶことのできる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

大学4年間の西洋美術史が10時間でざっと学べる

西洋美術史の概観を掴む

本書を読むことで、西洋美術史についてのざっくりとした概観を掴むことができます。美術鑑賞の際に、知っておくとよい歴史や各時代の技法、聖書や神話を簡単に学ぶことができます。簡単な記述で説明されていますので初心者の方や西洋美術に触れてみたい人にもおすすめの一冊です。

池上英洋 (著)
出版社 : KADOKAWA (2020/7/16) 、出典:出版社HP

はじめに

ここに一枚の絵があります。描かれているのは、後ろ手で柱に縛り付けられた一人の若者です。腰布をまとっただけのその裸体には、矢が何本も刺さっており、傷口からは真っ赤な鮮血がしたたり落ちています。聖セバスティアヌスと呼ばれることになるその男性は、激しい苦痛に顔を歪ませながら、天を仰ぎ見ています。そしてそこには、祝福をしに舞い降りてきた天使の姿があります(P177)。

この残酷なシーンは、14世紀後半以降、キリストの磔刑像に次いで、西洋世界で最も多く描かれた処刑場面です。その背景には、ヨーロッパに1348年頃に入ってきて瞬く間に大流行し、その後も長い間ヨーロッパにおいて死因の上位を占めていたペスト(黒死病)の脅威があります。というのも、感染の原因も治療法もわかっていなかった当時、ある日突如としてリンパ節に黒い腫れが生じたかと思うと、短期間のうちに全身が侵されて黒く腐り始めていったペストは、堕落した人間に対する神罰とみなされていたからです。ランダムに放たれた神の怒りの矢が運悪く当たると、その人は死を待つしか手立てがありませんでした。

いっぽう、聖セバスティアヌスは、キリスト教が禁じられていた時代に布教したかどで処刑されましたが、神が奇跡を起こして矢傷では死ななかったとの逸話があります。そこで、矢に当たらないように、そしてもし当たっても助かるよう、御守りのように聖セバスティアヌスの絵が盛んに描かれました。彼の絵が大変な人気を集めたのはそのような理由からだったのです。
興味深いのは、聖人が生きたとされるのは3世紀のことで、ペストが最初に流行する14世紀までの1000年ほどの間、この聖人の図像がほとんどなかった点です。つまり、ある図像が流行するには、その要因となる社会背景が必ずあるのです。

このように、あらゆる図像と主題が、そして技法や様式は、その時代や地域の社会によって決定されます。それは宗教や思想であったり、政治や経済や、ときにはペストのような病や戦争だったりします。そしてそれらが、新たな様式などを生みだす原動力になってきたのを知るのは面白いものです。日本でも、戦国時代に優れた芸術家が多数現れたように、人類は混乱や苦境の時代に、かえって芸術活動を盛んに行ってきた歴史があります。聖セバスティアヌスが描かれた一枚の絵からでも、当時の人々が何を恐れ、何に苦しみ、そして何に救いを見出して祈っていたかがわかるのです。

私がこの巻頭言を書いているのは、ちょうど世界中でコロナウイルスの脅威が吹き荒れている時期のことです。まだ有効な治療薬やワクチンもない状況のなか、日々大勢の犠牲者を生んでいるこの未知の病に世界中がおののいています。しかし、人類がこれまで何度もこのような事態をくぐり抜けてきたように、この脅威もいつかは終息に向かうでしょう。そして、その過程で生まれてくるであろう新たな芸術が、この記憶を後世へと伝えてくれるはずです。

美術作品とは、こうした人類が通ってきた歴史を「観る」ための扉であり、その鍵ともなるものです。そこから学べることは多くあります。それでは皆さん、その「観方と学び方」を一緒に見ていきましょう。

2020年6月 東京造形大学教授
池上英洋

池上英洋 (著)
出版社 : KADOKAWA (2020/7/16) 、出典:出版社HP

大学4年間の西洋美術史が10時間でざっと学べる 目次

はじめに

第1部 西洋美術史を楽しむために
1 美術史とは何か
01 美術史を学ぶとなぜいいか?
02 美術史を学ぶのが楽しくなる2つの視点
03 美術史を学ぶために、身につけておきたい2つのスキル
04 絵画を読み解くために知っておきたい3つのサイン
05 美術監賞の醍醐味の一つ「擬人像」「寓意画」を読み解く
06 制作年代が1200年以上も違う2つの老人の絵の共通点
07 「なぜその絵が描かれたのか」を考えてみよう
08 「いつ、どこで、誰が描いた作品なのか」を特定する方法
09 中世ヨーロッパの絵画に署名がほとんどないのはなぜか?
10 ツタンカーメンの黄金のマスクが無表情である理由
11 芸術活動にお金を払う「パトロン」には、どんな人がいるのか?
12 「ルネサンス遠近法」と「並行遠近法」の違い
13 宗教上の理由で、絵画の技法が変更されることもある
14 舞台背景画は見る人の層が変わったため描き方も変わった
15 後世の人がオリジナルに手を入れるのは悪いことか?
16 20年毎に建て替えられる伊勢神宮のオリジナリティとは?
《コラム》世界の四大美術館① ルーヴル美術館

第2部 西洋美術がもっと楽しくなる名画の見方
2 絵を読む実践
01 〈トビアスと天使〉金貸しの息子の絵が好まれた理由
02 〈アルノルフィーニ夫妻の肖像〉に散りばめられた寓意
03 〈手紙を読む青衣の女〉なぜこのシーンが衝撃的だったのか?
04 〈無原罪の御宿り〉カトリック圏にマリア崇敬の絵が多い理由
05 〈ぶらんこ〉あまりの背徳さに最初に依頼された絵師は断った
06 〈メデューズ号の筏〉ドキュメンタリーのようなリアルさを追求
07 〈雨・気・スピード〉目に見えない「速度」を最初に描いた作品
08 〈落穂拾い〉ミレーが描いたのは農民の過酷な生活
09 〈草上の昼食〉マネの挑戦心が生んだスキャンダラスな作品
10 〈女の三世代〉当時のキリスト教の教えに則って描かれた作品
11 同じ裸婦の絵でなぜ賛否がわかれたのか?
《コラム》世界の四大美術館② メトロポリタン美術館

第3部 西洋美術の「技法」「ジャンルわけ」を知る
3 技法
01 「美の追求」と「コスト」。矛盾する2つをどう両立させるか?
02 発色がよく、色あせしない「モザイク画」
03 定着力でモザイク画に勝り、細やかな造形が可能な「フレスコ画」
04 低コストで修正も容易。多くの傑作が誕生した「テンペラ画」
05 コスト、造形、修正…色んな面でメリットの大きい「油彩画」
06 速乾性があり、淡色や透明度の高い色に強みを持つ「水彩画」
07 聖書の内容を伝える役割を果たしていた「ステンドグラス」
08 色鮮やかな挿絵と、装飾的な書体で書かれた「彩飾写本」
09 美術品の量産を可能にした「木版画」と「銅版画」
10 単色のグラデーションで描くだまし絵「グリザイユ」
11 あらゆる美術の基となる「素描」
12 膨大な時間をかけて制作される高価な織物「タペストリー」

4 ジャンル
01 美術作品のジャンルは「そこに何が描かれているか」で決まる
02 聖書の物語やキリスト教の教えがモチーフの「祭壇画」
03 ジャンルとして成立したのは17世紀と意外に遅かった「風景画」
04 実写さながらの絵のなかに込められた暗職「静物画」
05 教訓や寓意が込められていることも少なくない「風俗画」
06 ある人物が実在していたことを証明する「肖像画」
07 長い間描く習慣がなかった「自画像」
08 タブーだった「裸体画」が許されたケースとは?
《コラム》世界の四大美術館③ エルミタージュ美術館

第4部 西洋美術の「歴史」を学ぶ
5 美術の歩み
01 西洋文明の源流となった2大文明
02 西洋美術の基品となった「エーゲ・ギリシャ美術」
03 ローマ帝国の版図拡大に従って広がった「ローマ美術」
04 キリスト教の布教を目的に発展した「初期キリスト教美術」
05 教会の窓も美術作品の一つにした「ゴシック様式」
06 イタリア商人がパトロンとなった「プロト・ルネサンス」
07 強力なパトロンがいたからこそ成立した「ルネサンス美術」
08 ルネサンス美術の3要素「人体把握・空間性・感情表現」
09 芸術世界に次々と革命をもたらしたレオナルド・ダ・ヴィンチ
10 ネーデルラントを中心に花開いた「北方ルネサンス」
11 ミケランジェロが創始した先駆的様式「マニエリスム美術」
12 賞者を感情移入させる技法を用いる「バロック」
13 17世紀オランダでなぜ美術史に残る変革が起きたのか?
14 優美なフランス貴族文化の象徴「ロココ」
15 遺跡の発掘をきっかけに巻き起こった「新古典主義」
16 神秘性・ドラマ性を芸術に反映させた「ロマン主義」
17 リアリズムを徹底的に追求した近代の先駆者たち
18 ディティールを気にせず対象を大胆に描いた「印象派」
19 ヨーロッパ全土を席巻した日本美術の衝撃「ジャポニスム」
20 「印象派」をさらに発展させた「後期印象派」と「新印象派」
21 目に見えないものや神秘的なものを視覚化した「世紀末美術」
22 キューブ(立方体)を積み重ねたように見える「キュビスム」
23 伝統的な芸術様式や既存秩序の否定を目指した「ダダイスム」
24 テクノロジーから新しい美を生みだそうとした「バウハウス」
25 フロイトの精神分析理論に影響を受けた「シュルレアリスム」
《コラム》世界の四大美術館④ プラド美術館

第5部 「寓意画」「聖書画」「神話画」に隠された暗号を読み解く
6 アレゴリー
01 「儚さ」「虚しさ」を示す物が描かれた寓意画「ヴァニタス」
02 人間の視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚は、どう表現された?
03 西洋で「美徳」と「悪徳」を主題にした絵画が多いのはなぜ?
04 キリストの磔刊図に「太陽」と「月」が描かれている意味とは?
05 「魔性の女」が肯定的に描かれるようになったわけは?
06 ペストを恐れる人々から重宝され、一緒に描かれた動物とは?
07 不釣り合いな(年齢/身分差)カップルの絵が多いのはなぜ?

7 聖書
01 性別のない神が、男性の姿で描かれるのはなぜ?
02 翼のなかった天使に、なぜ翼が描かれるようになったのか?
03 アダムとエヴァが食べた禁断の実はリンゴではなかった!?
04 神は、なぜカインの供物を受け取らなかったのか?
05 〈ロトとその娘たち〉で近親相姦が描かれているわけとは?
06 我が子を生贄に捧げる父の苦悩を描いた〈イサクの性〉
07 フィレンツェ市庁舎に、ダヴィデ像が設置された理由とは?
08 魔性の女サロメが、盆に載った首とセットで描かれる理由
09 時代とともに描かれ方が大きく変わった「受胎告知」
10 〈東方三博士の礼拝〉で賢者の人種や世代が違うわけ
11 レオナルド・ダ・ヴィンチの〈最後の晩餐〉は、ここがすごい
12 〈最後の審判〉でイエスの左右に羊と山羊を描く理由とは?
13 神とイエスの間に、白い鳩がいるのはなぜ?

8 神話
01 神話が生んだ壮絶な大作〈我が子を喰らうサトゥルヌス〉
02 王ブルートが春の女神をさらうシーン〈プロセルピーナの略奪〉
03 なぜキリスト風に描かれている?モローの〈ブロメテウス〉
04 不幸な恋の物語〈アポロンとダフネ〉
05 自作の彫像に恋をした王を描く〈ピュグマリオンとガラテア〉
06 人体構造を無視して描かれた〈ヴィーナスの誕生〉
07 世界一美しい神は誰なのかを描いた〈パリスの審判〉

年表解説
おわりに

執筆協力 奈落一騎
編集協力 越智秀樹、越智美保(OCHI企画)
装丁 二ノ宮区(ニクスインク)
図版作成·DTP ISSHIKI

池上英洋 (著)
出版社 : KADOKAWA (2020/7/16) 、出典:出版社HP

鑑賞のための 西洋美術史入門 リトル キュレーター シリーズ

美術鑑賞の入門書

本書は、ギリシャ美術からニューペインティングまでの美術の歴史を楽しく、しかも重要なポイントは網羅した美術鑑賞の入門書です。基本的な用語も簡潔に解説されており、さらにQ&Aに続く文章を読めば理解が深まります。美術史の流れを全て理解するにはもってこいの一冊です。

早坂 優子 (著)
出版社 : 視覚デザイン研究所 (2006/7/1) 、出典:出版社HP

目次

年表 紀元前5000年~紀元0年 西洋美術のルーツ
ギリシア美術
何のための優なの?どうしてスマイルは消えたの?
ローマ美術
なぜギリシア美術のコビーばかりなの?

年表 紀元0年~10世紀 キリスト教と多種異文化の混合時代
初期キリスト教美術
時示的表現って、寓意的人物とは?
ビザンティン美術
なぜ宮儀礼的なの?様式化って何?
初期中世の美術
クロワゾネってなーに?

年表 11世紀~14世紀 かつて暗黒時代といわれた中世
ロマネスク美術
なぜ奇怪、野蛮なモチーフが多いの?
ゴシック美術
慈愛に満ちた聖母像とは?神の光とは何ですか?
国際ゴシック美術

年表 15世紀~16世紀 古典と科学と人文主義のルネサンス時代器
初期ルネサンス美術品
建築―ブルネッレスキ アルベルティ
古代建築の要素はどこにあるの?
彫刻―ドナテルロ ヴェロッキオ ボライウォーロ
自ら立っている彫刻って何のこと?
絵画―フラ・アンジェリコ ボッティチェルリ
遠近図法や解剖学を使った絵とは?
盛期ルネサンス美術
レオナルド・ダ・ヴィンチ
なぜレオナルドは万能人といわれたか?
ミケランジェロ
なぜミケランジェロは神のごときといわれたの
ラファエロ
どうしてラファエロが美術の範例に?
ヴェネツィア派—ジョルジオーネ ティツィアーノ
始めから色彩で導くって?
〈コラム〉宗教改革(プロテスタント)と対抗宗教改革(カトリック)
マニエリスム(後期ルネサンス)
ブロンズィーノ ボントルモ エル・グレコ
複雑な実意的表現の送とは?
北方ルネサンス
フランドル—ファン・エイク ファン・デル・ウェイデン
極度の相密機導・写実的描写とは?
ドイツ—グリューネヴァルト デューラー
ゴシック的ってどんなこと?自然な風景描写って?
フランドル—ボッス プリューゲル
ボッスの絵は何かお手本があるの?
〈コラム〉絵画のジャンルとヒエラルキー

年表 17世紀~18世紀 芸術が一般人にも浸透したバロック・ロココ時代
バロック美術
イタリア—カラヴァッジョ
強烈な明暗表現の目的は?
スペイン—ベラスケス スルバラン ムリーリョ
技をした反古典的表現とは?
フランス—ラ・トゥール ブッサン ロラン
フランスにバロックは育たなかったの?
フランドル—ルーベンス ヴァン・ダイク
素放を構想力とは?親しみやすい、分りやすい絵とは?
オランダ—レンブラント フェルメール ハルス
レンブラントはバロックの国家?
〈コラム〉絵を見るところ サロン・画廊・美術館
ロココ美術
インテリア
なぜ内装にロココ様式が現れたの?
フランス—ヴァトー
ブーシェ フラゴナール
貴族の甘い快感とは?
自由奔放な明るさとは?
イギリス—ゲインズバラ イタリア—カナレット
なぜロココはイギリスに根付かなかったの?
〈コラム〉ポンパドゥール夫人とマリー・アントワネット

年表 19世紀 テーマはより個人的になった19世紀の美術
新古典主義
壁画―ダヴィッドアングル
新しい歴史園とは?
彫刻 建築—カノーヴァ ウードン
高貴な単純と静謐な偉大とは?
ロマン主義
ドラクロワ ゴヤ
渡しい華致と大胆な色彩とは?
イギリス—カンスタブル ドイツ—フリードリヒ
ロマン主義的な景とは?
写実主義
クールベ ミレー ドーミエ
「オルナンの埋葬」のどこが命的なの?
バルビゾン派—テオドール・ルソー
バルビゾン派は画家の集まり?
〈コラム〉イギリス文化の最盛期ヴィクトリア朝時代
印象派
マネ ドガ
この絵が美術史を変えた理由は?
モネ
なぜモネは同じ場所を何枚も描いたの?
ルノワール
明るい色調が生まれた理由とは?
新印象主義
スーラ シニャック
〈コラム〉シノワズリ(中国趣味)とジャポネズリ(日本趣味)

年表 20世紀~現在 概念と表現の問題は現在まで進行中、20世紀の美術
後期印象派
セザンヌ
形や空間を捉える新しい視点とは?
ゴーギャン
なぜゴーギャンはタヒチに行ったの?
ゴッホ
星月夜には何が描かれているの?
〈コラム〉こわして生まれる芸術の新しいかたち
ボン・タヴェン派
ゴーギャン ベルナール
ナビ派
セリュジェ ドニ
象徴主義
ラファエル前派―ミレイ ロセッティ バーン=ジョーンズ
ラファエロ以前の絵とは何ですか?
フランス—モロー シャヴァンヌ ルドン
邪悪な女性とは誰ですか?夢のような絵とは?
ドイツ・ベルギー他—ベックリーン ムンク クリムト
〈コラム〉ウィリアム・モリスが考えた理想のスロー・ライフ
〈コラム〉彫刻の新しい流れ
フォーヴィスム
マティス ヴラマンク
色とタッチの激しさがフォーヴの特徴?
ドイツ表現主義
ブリュッケ—キルヒナー ミューラー
人間性の回復を目指すって?
青騎士―カンディンスキー マルタ
みんな世の道を進んだの?
キュビスム
ビカソ ブラック グリス
なぜ絵に新聞紙を貼り付けたの?
未来派/オルフィスム
ボッチョーニ バッラ/ドローネー クブカ
絶対主義/構成主義
マレーヴィッチ/タトリン
デ・スティル/幾何学的抽象
モンドリアン ドゥースブルフ
抽象芸術
カンディンスキー クレー
〈コラム〉アール・ヌーヴォーとアール・デコ
エコール・ド・パリ
モディリアニ シャガール ユトリロ 藤田嗣治
素朴派(ナイーヴ派)
アンリ・ルソー ボンボワ グランマ・モーゼス
ダダイズム
デュシャン ピカビア シュヴィタース
形而上絵画/シュルレアリスム
デ・キリコ/エルンスト ミロ ダリ
無意識に描くなんてことできるの?
〈コラム〉ボロック(抽象表現主義)以前のアメリカンアート
抽象表現主義
アンフォルメル—フォートリエ デュビュッフェ
アクション・ペインティング—ポロック デ・クーニング
激しい線の動きで何が表現できたの?
ネオ・ダダ/ボッブ・アート
ラウシェンバーグ ジャスパー・ジョーンズ/ウォーホル リキテンシュタイン
1960年以降の美術
ミニマル・アート コンセプチュアル・アート
アース・ワーク ニュー・ペインティング

年表 B.C.5000~A.D.O
西洋美術のルーツ

早坂 優子 (著)
出版社 : 視覚デザイン研究所 (2006/7/1) 、出典:出版社HP

ギリシア美術
紀元前11世紀中頃~27年

ギリシアの理想美は、今でも芸術の基準です
これから美術史を読んでいく訳ですが、何度となく『古典』というコトバが出てきます。それはこの時代なんです

観賞のキーワード
●アルカイック期―ぎこちない動き、アルカイック・スマイルヘ
●クラシック期―自然な動き コントラポスト、均整、優美、理想的、崇高
●ヘレニズム期―激しい動き、バロック的、非英雄的

ギリシア美術は四つの時期に分けられる
紀元前300年頃からエーゲ海一帯の島々とギリシア本上でそれぞれ発達していた古代エーゲ海文明(クレタ・ミュケナイ美術)は前一二世紀のドーリス人侵入で新時代を迎えます。まず、前一一世紀から前八世紀中頃までの幾何学様式期。コンパスを用い円張や直線を組み合わせた幾何学的文様の陶器がつくられ始めました。前八世紀末から前五世紀末(前490~前479年:ベルシア戦争)までをアルカイック期といいます。この時期、東方(シリア=地中海の東岸地域)との交易で刺激を受け、大理石で人体をつくり始めます。前五世紀末から前四世紀中頃(前323年:アレクサンドロス大王の死)までがクーラシック期。彫刻、神殿建築の技術は最高水準となりました。前323年から前31年(アクティウムの海戦まで)がヘレニズム期。多様な発展を遂げた最後の時代です。

どんなときでも笑顔のアルカイック・スマイル
アルカイック時代はいかに静止像に動きを与えるかが造形課題でした。アルカイックとは、クラシック(完全な)に対して「古描な」という意味の言葉です。ぎこちなさを残しながらも生命感の表現としてのアルカイック・スマイルを浮かべる像がアルカイック期の特徴です。男性裸体立像(クーロス)ではエジプト美術の影修を受けた正面性の強い初期のものから、次第に、より自然な動きをもつ人体表現が目指されました。女性立像(コレー)では常に着衣姿が表現され、衣服の美しさの表現に注意が払われました。彫像に限らずギリシア美術には対比できる二つの様式が共存していました。「たくましい」「力強い」「男性的」なものをドーリス式、また「繊細な」「優雅な」「女性的な」ものをイオニア式と呼びます。これは建築の柱の様式にもあてはまります。陶器の分野では、アッティカ地方で人物を黒いシルエットで表し、その中を細い線で削り取って絵を描く黒像式陶器がつくられました。

クラシック時代は言葉通りの美の古典
クラシック時代は、アルカイック期のぎこちなさが消え、人体表現が完成されました。直立不動の立像から、体重がかかる支脚ともう一方の遊脚によってコントラポストと呼ばれる自然でリアルな動きが表現できるようになりました。彫像は均整のとれた優美な肉体と感情を抑えた穏やかな表情をもちます。生身の人間らしさではなく、完全な神の尊さを表すため、理想的な人体比例をとった崇高で荘厳な彫刻がつくられました。
陶器でも細かい表現が難しかった黒像式に代わり、背景を黒く塗りつぶし、人体の細部を筆で描く赤像式開器、円筒状の器に白地をかけて絵を描く白地式配器がつくられました。

ヘレニズム時代のテーマは、より人間的、個人的
ヘレニズム時代は、東西文化が融合しギリシア世界が拡大、経済も発達し、市民生活も向上しました。美術はより現実的な人間の感情を表すものへと変貌、感情的な興奮や激しい動きを強調したバロック的な要素をもつ彫刻がつくられました。
それまでのテーマは厳粛な神の姿でしたが、市民の力が大きくなるにつれて一般人の像が造られはじめます。ソクラテスなどの有名人や、子供や裸婦のようにただ可愛いもの美しいものといった、感傷的で非英雄的なテーマの像が一般人の間で求められたのです。

美術用語じてん
バロック的な
一言でいえば大げさな動き。17世紀の美術スタイル。
ヘレニズム的な
ヘレニズム的な、といえばギリシア的=古典的=理想的という意味で、よく解説文に使われます。ギリシア語でギリシアのことはヘレス。

早坂 優子 (著)
出版社 : 視覚デザイン研究所 (2006/7/1) 、出典:出版社HP

西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)

美術史の入門書

本書は、美術史とはどのような学問なのかを西洋美術、特に絵画を通して説明した美術史という学問の入門書です。絵の読み方、社会と美術、経済原理の視点や技法・ジャンル等について取り上げており、多角的な解説書となっています。

池上 英洋 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2012/12/5) 、出典:出版社HP

口絵

はじめに

中学生の頃、もの書きになりたかった私は、手にとった澁澤龍彦や春山行夫の本の面白さにうたれ、彼らのようになんらかの専門領域に立った文筆家にあこがれを抱くようになりました。自分にはなにがあるだろうと考え、歴史と美術がとくに好きだったので、ならばどちらか一方に絞らなければならない、どちらか一方を捨てることになる、と一丁前に悩み始めました。

そんなある日、高階秀爾という人が書いた『名画を見る眼』(岩波新書、一九六九年)を読みました。「ここでは、何もかもが魔法の世界のように輝いて見える」(三ページ)という魅惑的な一文で始まる第一章(ファン・エイクの〈アルノルフィニ夫妻の肖像〉)から、絵画の世界にぐいぐいとひきこまれた私は、軽い興奮を抑えられませんでした。その時の私は内容を充分に理解できたとはとても言えませんでしたが、なにより歴史と美術のどちらも捨てなくて良い「美術史」という学問分野があること自体に感激したのです。それから美術史を学べる大学へと進み、今はそれを生業としています。

大学に勤めていると、年に数度あるオープンキャンパスという行事で、現役の高校三年生と一対一で話す機会があります。大学受験を控えた彼らは、自分の将来像について悶々と考え、ついてはどこの大学のどの学部へ行くべきか大いに悩んでいます。私は、所属している大学で美術史を教えているので、高校には存在しないこの学問がはたしていかなるものなのか知ろうとして、彼らは興味深げに質問してきます。ヨーロッパのほとんどの国では、高校の段階でたいてい勉強させられる分野なので、かなりの人がそれがいかなるものか知っています。しかし日本では、大学の人文系の学部で学んだことのある人なら一般教養の講義としてうけたことがあるかもしれませんが、一般的にはさほど親しみのある名前とはいえません。ただでさえ就職に有利になるようには思えない学科名ですから、オープンキャンパスで私たちのブースをたずねてくる高校生の数こそ多くありませんが、それでも年をおうごとにその数ははっきりと増えてきています。つまり、その実際の姿はあまり知られていない状態ながらも、なぜか美術史は関心をもってくれる人を年々増しているのです。

そんな時、「高校生の関心に応えるような本がもっとあれば良いのに」と思うことがあります。もちろん、前掲書をはじめ、美術史の良書は日本にもたくさんあります(巻末にリストを附しておきます)。しかし、ゼロからスタートして、短く簡潔ながらもひととおり美術史のなんたるかが理解できるような導入書となると、その数は一気に減ります。もちろんいくつかはあるのですが、他分野と比較して、そのニーズの高さのわりにはあまりに少ないと感じています。

そのため本書は、美術史への最初の導入書となることを目的としています。もちろん、美術史を専門として学びたいという学生よりも、教養として一応知っておきたいという読者のほうがはるかに多いでしょうから、本書では、この学問がどのようなものなのか、そのさわりだけでもご紹介することで、美術史により親しみを感じていただきたいと考えています。ページ数も限られているため網羅的な説明まではできませんが、むしろ簡潔であることを利点としたいと思っています。そのため、私が大学でさまざまな学科の初年次学生を対象として開いている、「西洋美術史I」という導入講義を、さらにダイジェスト版にしたものが本書のベースとなっています。

進路で悩んでいた頃の自分の姿が、ブースで目の前に座っている今日の高校生の姿と重なります。全国にいる“彼ら”におくりたい――それが本書を書いた私の願いです。

池上 英洋 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2012/12/5) 、出典:出版社HP

目次

はじめに

第一章 美術史へようこそ
1 美術史とはなにか
2 なぜ美術を学ぶ必要があるのか
3 絵を“読む”ということ
4 絵を読むための手続き(一) ―スケッチ・スキル
5 美術作品が持つふたつの“側面”
6 絵を読むための手続き(二) ―ディスクリプション・スキル

第二章 絵を“読む”
1 記号としてのイメージ
2 イメージとシンボル
3 シンボルとアレゴリー
4 アトリビュート
5 イコノグラフィーとイコノロジー
6 “後段階”におけるイコノロジー――主題と社会背景
7 “前段階”におけるイコノロジー――図像の成立背景

第三章 社会と美術
1 社会を見るための“窓”
2 トビアスの冒険――ルネサンスを開花させた金融業
禁止されていた“高利貸し”/両替商のシステムと主題の流行
3 法悦の聖女——バロックの劇場
無原罪の御宿り/幻視/観る者を観客として参加させる“劇場型バロック“
4 フェルメールのアトリェ——一七世紀オランダ社会の特質
世界地図/ラヴ・レター
5 大英帝国がかかえるコンプレックス
一八世紀の修学旅行
6 悲しき<落穂拾い>からルノワールのレストランへ——階級差・鉄道・レジャー
“描かれた貧困層”を買う人々/みずからの善行をアピールするために/汽車というモチーフ/鉄道に見る階級差/オリエンタリズムの流行/レジャーとしての旅

第四章 美術の諸相
1 美的追求と経済原理
2 パトロンのはなし
皇帝と教会による独占/再び市民パトロンへ/パトロンの移り変わり
3 技法のはなし
壁画の主流となったフレスコ/板絵の主流となったテンペラ/油彩+カンヴァスという最終形/番外編:“印象派”という一大技法実験
4 ジャンルのはなし
風景画——画家はいつだって風景を描きたいと思っていた/風景画を創り出すもの——制作意図と純粋性/静物画——もうひとつの“ニュートラル”主題/風俗画——食事・モデル・注文主

第五章 美術の歩み
【エジプトとメソポタミア】【エーゲ文明と古代ギリシャ】【エトルリアとローマ】【初期キリスト教時代とビザンティン】【ロマネスクとゴシック】【プロト・ルネサンス】【ルネサンス】【北方ルネサンス】【マニエリスム】【バロック(イタリア・フランス・スペイン)】【バロック(17世紀オランダ)】【ロココ】【新古典主義とロマン主義】【印象派】【後期印象派と新印象派(点描派)】【世紀末芸術】【フォーヴィスムとキュビスム】【その後~現代美術】

おわりに
さらに学びたい人へ——目的別推薦文献リスト

池上 英洋 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2012/12/5) 、出典:出版社HP

西洋美術史入門 実践編 (ちくまプリマー新書)

美術史の実践を解説

本書は『西洋美術史入門』(ちくまプリマー新書)の続編となっており、美術品の「物理的側面」と「精神的側面」を鑑賞しその社会性を読み解く、美術史の実践について解説した一冊です。本書ではエジプト美術から現代絵画まで多くの実践例を紹介しています。

池上 英洋 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2014/3/5) 、出典:出版社HP

口絵

池上 英洋 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2014/3/5) 、出典:出版社HP

いちばん親切な 西洋美術史

西洋美術の基本を知る

本書では、エジプト・メソポタミアに始まり、古代ギリシャ、ルネサンス・バロック・ロココに印象派などから、現代美術、その後の展開まで、美術史の全体像を学びながら、楽しく西洋美術を学ぶことができます。オールカラーで、見開き2ページで一つのテーマを解説という構成になっており、4000年にわたる西洋美術史をゼロから学ぶことができます。

池上英洋 (著) , 川口清香・荒井咲紀 (その他)
出版社 : 新星出版社 (2016/7/15) 、出典:出版社HP

はじめに

私たちは、日々美術作品とともに生きている。カフェやレストランに行けば、壁には何かしらの絵が掛かっているし、道を歩けばポスターや広告であふれている。いつも使っている机のまわりを見るだけでも、ちょっとした便せんや栞、ノートやクリアファイルなどにさまざまな絵の一部が使われているはずだ。美術館やギャラリーに行かずとも、私たちはいつでもどこでも、美術作品に囲まれているのだ。

しかし、考えてみればこれは不思議なことだ。というのも、これだけ人類が太古の昔から美術に相当なエネルギーを注いできたにもかかわらず、生き物として生きながらえるという本能的な目的のためには、美術作品は一切役に立たないからだ。そもそも、「おなかがすいた」や「眠い」、「寒い」や「(異性に)魅力を感じる」といった感情に比べて、何かを「美しい」、あるいは「楽しい」や「興味深い」などと感じなくても生きていける。言い換えれば、美術品は私たちにとって「物理的には」何の役にも立たないのだ。

しかし何の役にも立たないことにこそ、人間とその他の動物を区別する理由がある。もちろん動物にも喜怒哀楽はあるが、生命維持にまったく役立たないものを進んで創ってきた歴史をもつのは人間だけだ。そう、美術品は人間にのみ与えられたモノであり、人間をほかとは異なる動物としている要素なのである。

美術の歴史は、人類の歴史と同じだけの長さをもつ。本書では、西洋の美術の流れを、時代順に一緒に見ていこう。最初に理解の助けとなるような基本的事項を見たうえで、見開きごとにひとつのトピックを取り上げながら進んでいく。その目まぐるしい変遷の歴史は、人間のみに許された「美術」なる不思議なものに、いかに膨大なエネルギーが注がれてきたかを教えてくれるだろう。

池上 英洋

池上英洋 (著) , 川口清香・荒井咲紀 (その他)
出版社 : 新星出版社 (2016/7/15) 、出典:出版社HP

もくじ

はじめに
まずは西洋美術の基本を知ろう
様式と時代区分
絵画のジャンル
技法と素材
アトリビュート
美術館
〈欧米編〉
〈日本編〉

01 エジプト・メソポタミア
来世思想
ネフェルティティとツタンカーメン

02 エーゲ文明・ギリシャ
壺絵―黒像式と赤像式
アルカイックとクラシック
ヘレニズム美術

03 エトルリア・ローマ
ネクロポリス(死の街)
巨大建築とアーチ
帝国と騎馬像
ポンペイの壁画群

04 初期キリスト教・ビザンティン
ビザンティンとイコン
ケルト美術
聖堂建築の始まり
ラヴェンナのモザイク

05 ロマネスク・ゴシック
ロマネスク教会
柱頭彫刻とタンパン
ゴシック教会
ステンドグラス
修道院と写本

06 プロト・ルネサンス
キリストの磔刑像
ジョット
シエナ派と国際ゴシック

07 ルネサンス
古典復興
ブルネッレスキと遠近法
マザッチョ
ボッティチェッリとメディチ家
レオナルド・ダ・ヴィンチ
ラファエッロ
ミケランジェロとマニエリスム
ティツィアーノとヴェネツィア派
ルネサンスの終わり

08 北方ルネサンス
ヤン・ファン・エイクと油彩画
ボスと幻想世界
デューラー
column 恐るべき、北方の画家たち
ブリューゲル一族

09 マニエリスム
絵画とアレゴリー
フォンテーヌブロー派

10 バロック<伊・仏・西>
ベルニーニと劇場型バロック
カラヴァッジョ
カラッチ
ベラスケスとルーベンス

11 バロック<蘭>
風景画の成立
静物画とヴァニタス
大航海時代とフェルメール
レンブラントと自画像

12 ロココ
雅宴画とヴァトー
ブーシェとフラゴナール
シャルダンと市民生活

13 新古典主義・ロマン主義
ダヴィッドと新古典主義
ジェリコーとロマン主義
アングルとドラクロワ
グラン・ツアー
アカデミスム
シノワズリー・オリエンタリスム
印象派にいたる先駆者たち
ターナーとコンスタブル
ミレーとコロー
クールベと「レアリスム宣言」
社会問題に眼を向けた画家たち

14 印象派
モネの実験
ジャポニスム
ルノワール
column 個性豊かな印象派画家たち

15 後期印象派・新印象派
セザンヌ
点描派
ポスター芸術
内省的な視点
ロダンと近代彫刻

16 世紀末芸術
ラファエル前派
分離派とクリムト
アーツ・アンド・クラフツ運動
アール・ヌーヴォーとアール・デコ
ナビ派
ガウディ

17 現代美術
キュビスム・未来派
エコール・ド・パリ
ルソーと素朴派
ダダイズムとデュシャン
バウハウス
美術とプロパガンダ
シュルレアリスム

現代美術、そのゆくえ

西洋美術をもっと知りたい!という方へ
さくいん

装丁・本文デザイン/米倉英弘(細山田デザイン事務所)
DTP/横村葵
本文イラスト/ミヤタチカ
写真協力/アフロ、PPS通信社、DNPアートコミュニケーションズ、ユニフォト、ワールドフォトサービス、イタリア政府観光局(ENIT)、愛知県美術館、宇都宮美術館、大原美術館、北澤美術館、公益財団法人ひろしま美術館、国立西洋美術館、トヨタ博物館、DIC川村記念美術館、MOA美術館、池上英洋
編集/関弥生

池上英洋 (著) , 川口清香・荒井咲紀 (その他)
出版社 : 新星出版社 (2016/7/15) 、出典:出版社HP

西洋美術史ハンドブック

美術作品を理解し、鑑賞するための案内人

本書は、西洋美術史に関して、最も基礎的な作品と芸術家についての知識を解説しています。古代オリエント、ギリシャ、ローマから始まり現代までの美術史を網羅しており、かつ主要な芸術家の生い立ち、影響された考え、絵の特徴などが細かくかつコンパクトに描かれています。

高階 秀爾 (編集), 三浦 篤 (編集)
出版社 : 新書館 (1997/6/23) 、出典:出版社HP

西洋美術史ハンドブック 目次

オリエント
ギリシア/ローマ/ケルト
初期キリスト/ビザンティン/初期中世
ロマネスク/ゴシック/国際ゴシック
イタリア・ルネサンスⅠ
イタリア・ルネサンスⅡ
北方ルネサンス
バロック
ロココから新古典主義へ
ロマン主義/写実主義
アカデミズム/印象徴主義/世紀末/アール・ヌーヴ
二十世紀前半
二十世紀後半
西洋美術史学の方法と歴史

高階 秀爾 (編集), 三浦 篤 (編集)
出版社 : 新書館 (1997/6/23) 、出典:出版社HP

美術史とは何か 高階秀爾

美術史が取り扱う対象は、基本的には美術作品である。つまり、絵画、彫刻、建築、工芸などの美的創作物について、それがいつ、どこで、誰によって、何のために作られたかということを明らかにし、その作品を歴史のなかに位置づけることから、美術史は始まる。もちろん、美術史研究の領域はそれだけに盡きるものではなく、きわめて多様な拡がりを持っているが、どのような方法論によってどのように新しい方向を切り拓いて行くにしても、まずもって作品の身許調べが基本となることは、誰しも異論のないところであろう。

例えばここに、遠く拡がる風景を背景として、女性の半身像を描き出した絵画作品がある。それがレオナルド・ダ・ヴィンチという画家の手になるものであり、おそらくは十六世紀の初頭にフィレンツェにおいて描き始められ、その後レオナルドとともにフランスに渡り、画家の死後、多少の紆余曲折を経てフランス国王フランソワ一世のコレクションに入って、現在では、ルーヴル美術館に収められているという事実をまず跡づけるのが、美術史の出発点である。

次いで、ではそのレオナルドとはどのような画家であったのか、そこに見られる見事な表現技術を彼はどのようにして学び、また発明したのか、彼の芸術を養ったフィレンツェの芸術はどのような特色を持っていて、どのような展開を見せたのか、あるいは、描かれているのは誰なのか、当時の――といってもレオナルドの死後の――資料ではフィレンツェのある商人の妻だということになっているが果してその通りなのか、もしそうだとすれば、その作品がずっとレオナルドの手許に残されていたのは何故か、神秘的な雰囲気を湛えた背後の風景にはどのような意味があるのか、彼女の服装は、ポーズは、表情はいったい何を物語るのか、その他さまざまの問題が提起され、美術史は多くの資料の探索と厳密な学問的手続きに基いて、それらの問題に答を与えようとする。

もちろん、つねに明確な答が得られるとはかぎらない。何しろ「モナ・リザ」が描かれたのは、今から五百年近くも昔のことである。レオナルドの場合は、それでもなおかなりの資料が残されているが、作品によっては、作者も年代もまったくわからないというものもある。その場合には、作品そのものが判定の資料のすべてということになるであろう。

直接間接の各種の資料に基いて過去の状況を再構成し、その歴史的位置を明らかにするという点において、美術史は紛れもなく歴史の一分野である。しかしながら、政治史や経済史やその他の歴史の分野が、いずれも過去の事象を対象としているのに対し、美術史の場合は、対象となる作品が現在もなおわれわれの眼の前に残されているという点で、きわめて特異である。スペインの無敵艦隊の敗北やバスティーユ牢獄の襲撃といった事件は、その後の影響はきわめて大きかったとしても、完全に過去のことに属する。だが「モナ・リザ」は、今でも厳として存在し、見る者に訴え続けている。過去を尋ねると同時に、現在の「もの」としての作品を調査し、必要があれば修復や保存の措置を講ずることも、美術史の重要な使命である。

実際、美術作品というものは、人間と同じように、歳をとるものである。それはしばしば損傷を受けたり、切断されたり、手を加えられたりする。時には修理の結果まったく違った画面が出現することも珍しくない。当初の状態がどのようなものであったかを正しく見定めるためには、美術史の知識が必要となる。体系的な学問としての美術史が成立するのは十八世紀後半のことであるが、ちょうどその同じ頃に、「もの」としての作品を集め、保存し、公開しようという近代的な美術館制度が生まれて来ているのは、決して偶然ではない。作品がなければ美術史は成り立たないが、しかしまた、美術史の支えがなければ美術館はただの物置になってしまうであろう。美術史と美術館とは、作品を媒介として、相互補完的なものである。

もちろん、美術作品というものは美術史だけの専有物ではない。それは一般の人びとの鑑賞に供されるものであると同時に、人間についてのさまざまの学問にとっても重要な役割を果すものである。歴史学にとってはそれは時代の証言であり、貴重な資料であるし、社会学にとっては儀礼の道具であり生活の記録である。文化人類学者は作品に文化的象徴を読み取るし、心理学者はそこに故人の内面の投影を見る。今や人文科学――すなわち人間の学――の諸分野のなかで、美術作品を視野に入れていないものはないと言ってよい。そのことは、逆に言えば、美術史研究もそれだけ多様なアプローチが可能だということだが、いずれの場合にしても、その作品の身許を正しく捉えることが前提となる。人間の理解にとって美術史が重要な意味を持っているのは、そのためである。

それはまた、作品を純粋に美的対象として享受する場合にも同じように必要である。梅と桜を見分けることができなければ花の真の姿を知ることはできず、したがってその美しさを本当に深く味わうこともできない。美術史が学問として体系化されるはるか以前、早く古代から、美術についてさまざまの言説がなされて来たという事実は、美への関心が普遍的なものであったことを裏書きしている。それらの言説は、大きくふたつの範疇に分けることができる。ひとつは、パウサニアースのような旅行者の残した作品の記録であり、もうひとつは、プリーニウスに見られるような芸術家の逸話である。つまり、作品についての報告と芸術家の伝記である。それが今日の美術史にまでつながるものであることは、言うまでもない。

本書は、西洋美術史に関して、最も基礎的な作品と芸術家についての知識を、最新の研究成果に基いて集約したものである。いわば美術作品を理解し、鑑賞するための信頼できる案内人と言ってよい。そしてそれは、いっそう進んだ美術史研究を志す人びとにとっても、たしかな手がかりを与えてくれるであろう。

[凡例] ①本書は西洋美術の歴史を時代順に辿ったものである。概説・作家解説・図版解説・コラムによって西洋美術史の流れを把握できるように構成した。
②作家解説は十三世紀から二十世紀までの画家(一部彫刻家・建築家)百十一人を取り上げ、欧文綴りと生年・生地、没年・没地、プロフィールを記した。原則として各々一作のみ図版を掲載している。
③作家解説の掲載順は重要度に応じておおむね画家の生年順としたが、若干の異同がある。
④データのうち欧文は通例となっている一部を除き、英語表記で統一した。また、画家の欧文表記にある( )内の名前は画家の本名である。
⑤巻頭口絵及び図版解説は、古今から代表的な作品を各々十六点と二十点とを選び、カラーで掲載するとともに、解説を加えた。
⑥コラムは美術史の理解を深めるための十の主題を選び、解説を加えた。
⑦後半には西洋美術史学の方法と歴史を解説し、美術理論入門としても利用できるよう、文中で参考文献も記した。
⑧巻末には読者の便を計り、西洋美術史年表、美術用語集、人名索引、作品名索引、掲載作品データを付した。

高階 秀爾 (編集), 三浦 篤 (編集)
出版社 : 新書館 (1997/6/23) 、出典:出版社HP

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」

教養として美術史を学ぶ

本書は、政治、宗教、世相といった歴史的背景と美術の関連を解説した一冊です。美術の裏側にある、欧米の歴史、価値観、文化を読み解くことで、美術の見方が変わります。美術鑑賞する時に必要な歴史や宗教といった知識を身につけることができ、美術をより面白く鑑賞することができるようになります。

木村 泰司 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2017/10/5) 、出典:出版社HP

美術様式年表

はじめに
「美術史とは、世界のエリートの共通言語”である」

社会がグローバル化するいま、ようやく日本でも美術史の重要性が認識され始めています。ここ10年来、日本で、財界人や企業向けの美術に関するセミナーが増えているようです。私も以前に比べると、多くの企業に美術史を教える機会をいただくようになりました。

美術史は欧米人にとって必須の教養であり、欧米社会における重要な共通認識、コミュニケーション・ツールです。私のセミナーにおいても、欧米に駐在や留学経験のある方たちほど、その必要性を認識されています。とくに、エグゼクティヴなポジションにいる方やその配偶者ほど、その地位に相応しい現地の方との社交からその必要性を痛感されているようです。
私自身、カリフォルニア大学のバークレー校で美術史を学びましたが、在籍中に、そのことを痛感した出来事がありました。それは、美術史の上級レベルの「初期ネーデルラント絵画」を受講していたときの話です。
上級レベルの授業ともなると、受講している学生は美術史専攻の人たちばかり。ほとんどが顔見知りです。しかし、その中で明らかに初めて見かける学生がいました。
学期が進むうち、その学生と声を交わすようになった私は、彼にこう聞いてみました。
「ところで、君って美術史専攻だったっけ?」
すると、「物理だよ」と思わぬ返事が返ってきたのです。
私は、「え?どうして物理専攻なのにこのクラスを取っているの?一般教養のスタンダードな美術史の授業じゃないのに」と聞き返しました。すると彼は、
「だって、社会人になったときに自分のルーツの国の美術の話ができないなんて恥ずかしいじゃないか」
と答えたのです。彼は、オランダ(ネーデルラント)系アメリカ人でした。
そのとき私は、欧米人の未来のエリート候補の意識の高さを痛感しました。私はいまだにその衝撃と感動を忘れることができません。

私には、全米でベスト10に入るほどの国際弁護士の友人がいます。私は、彼の子どもたちのゴッド・ファーザーにもなっているため、私が日本に帰国して以降も、その友人夫妻と子どもたちとは長年の付き合いとなっています。国際弁護士の友人だけでなく、彼の夫人もまた、バークレーからケンプリッジ、コロンビアで学んだ後にハーバードで博士号を取得し、その後もイェール法科大学院に進むほどの秀才です。夫婦そろって大変な「知的エリート」なのです。
そんな彼らからも、欧米のエリートたちに美術史の素養が根付いていることを痛感させられます。たとえば、彼らが寄付をしている美術館での特別講義に一緒に行った際、美術史家に堂々と的確な質問をしていたときは感服しました。

もちろんこの夫妻に限らず、私がこれまでかかわってきた欧米のエリートたちも、当然のように美術史を教養として身につけていました。なぜ欧米では、ここまで教養として西洋美術史が根付いているのでしょうか。
その理由として、欧米における「美術」は、政治や宗教と違い一番無難な話題であると同時に、その国、その時代の宗教・政治・思想・経済的背景が表れているからです。日本人は、どうしても美術を見るときに「感性」という言葉を口にしがちですが、美術を知ることは、その国の歴史や文化、価値観を学ぶことでもあるのです。
私は、いつも講演で「美術は見るものではなく読むもの」と伝えています。美術史を振り返っても、西洋美術は伝統的に知性と理性に訴えることを是としてきました。古代から信仰の対象でもあった西洋美術は、見るだけでなく「読む」という、ある一定のメッセージを伝えるための手段として発展してきたのです。つまり、それぞれの時代の政治、宗教、哲学、風習、価値観などが造形的に形になったものが美術品であり建築なのです。それらの背景を理解することは、当然、グローバル社会でのコミュニケーションに必須だと言えます。

一方の日本では、美術史というジャンルの学問が世間で認知および浸透していないのが現状です。それにもかかわらず、日本は非常に展覧会に恵まれています。とくに東京では年中展覧会が開かれており、海外の美術館が所蔵する一級の作品も来日を果たします。
しかし、それをただ鑑貨するだけで終わることが多く、それはまるでわからない外国語の映画を字幕なしに観ているのと同じだと言えるでしょう。
欧米の美術館を訪れた方なら目撃したこともあるかもしれませんが、欧米では小さな子どもたちでさえ学芸員や引率する先生に教わりながら美術品を鑑賞します。自分勝手に鑑賞するだけでは、当然、学べる点が少ないからです。
しかし、残念ながら日本ではこのような美術教育が施されていません。このような状況からも、日本と世界の差を実感してしまいます。美術(それすなわち美術史)に対して造詣がないことは、むしろ恥ずかしいことであるという認識が日本ではなさすぎるのです。
もちろん、「日本にいる限り、そのような知識は必要ではないだろう」という声があるのもわかります。
しかし、世の中はどんどんグローバル化に向かっています。「私は日本人だから、欧米のことなど知らない、必要ない」と言っている時代ではなくなってきているのです。そして、感度の高い企業が、それをいち早く感じ、幹部候補たちにその教養を身につけさせようとしているのです。

そこで私はこの本を執筆することを決めました。一人でも多くの方に、馴染みのない美術史を身につけてもらえるよう、西洋美術史約2500年分のうち必要最低限の知識を1冊に凝縮したのが本書です。ただの美術品の説明ではなく、背景にある歴史や事件、文化・価値観など、「教養」としての美術史が学べるように心して記したつもりです。
世界のエリートたちが身につけている知識を得られることはもちろん、歴史的な背景を踏まえ、美術史という概念および知識を念頭に置くことで、美術鑑賞や社交の場においても、より世界が大きく開かれていくことでしょう。
ぜひ、本書で「世界」への扉を開いてみてください。

西洋美術史家 木村泰司

木村 泰司 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2017/10/5) 、出典:出版社HP

目次

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」
はじめに 「美術史とは、世界のエリートの“共通言語”である」

目次

第1部 「神」中心の世界観はどのように生まれたのか?
ギリシャ神話とキリスト教
なぜ、古代の彫像は「裸」だったのか?ギリシャ美術
「男性美」を追求した古代ギリシャの価値観
古代ギリシャの発展と美術の変化
現存するギリシャ美術のほとんどは「コピー」
COLUMN 平和の祭典「オリンピック」の始まり
ローマ帝国の繁栄と、帝国特有の美術の発達ローマ美術
ローマ美術のもうひとつの源流「エトルリア」
「美」の追求から「写実性」の時代へ
後世に影響を与えたローマの大規模建築
ローマ帝国の衰退とキリスト教美術の芽生え
キリスト教社会がやってきた宗教美術、ロマネスク
「目で読む聖書」としての宗教美術の発達
キリスト教最大の教派「ローマ教会」が発展できたワケ
修道院の隆盛によるロマネスクの誕生
巡礼ブームで進んだ都市化と「ゴシック美術」の芽生え
COLUMN キリスト教公認以前のキリスト教美術
フランス王家の思惑と新たな「神の家」ゴシック美術
ゴシック様式に隠された政治的メッセージとは?
「光=神」という絶対的な価値観
大聖堂建立ブームの終焉と「国際ゴシック様式」の発展

第2部 絵画に表れるヨーロッパ都市経済の発展
ルネサンスの始まり、そして絵画の時代へ
西洋絵画の古典となった3人の巨匠ルネサンス
「再生」を果たした古代の美
レオナルド・ダ・ヴィンチは軍事技術者だった!?
宗教改革による盛期ルネサンスの終焉
都市経済の発展がもたらした芸術のイノベーション 北方ルネサンス
レオナルド・ダ・ヴィンチにも影響を与えた革新的絵画
台頭する市民階級に向けた“戒め”の絵画とは?
絵画から読み解けるネーデルラントの混乱
COLUMN ドイツ美術史の至宝デューラーとクラーナハ
自由の都で咲き誇ったもうひとつのルネサンス ヴェネツィア派
貿易大国ヴェネツィアの発展と衰退
自由と享楽の都が生み出した謎多き絵画
ヴェネツィア絵画は二度輝く
カトリックVSプロテスタントが生み出した新たな宗教美術 バロック
「プロテスタント」の誕生
宗教美術を否定するプロテスタント、肯定するカトリック
カラヴァッジョの革新的なアプローチ
対抗宗教改革の申し子ベルニーニ
COLUMN バロック絵画の王「ルーベンス」
オランダ独立と市民に広がった日常の絵画 オランダ絵画
オランダ独立と市民階級の台頭
市民に向けて描かれた多種多様なオランダ絵画
レンブラントとフェルメール
COLUMN オランダ人を翻弄した17世紀の「チューリップ・バブル」

第3部 フランスが美術大国になれた理由
“偉大なるフランス”誕生の裏側
絶対王政とルイ14世 フランス古典主義
ルイ14世が作りあげた「偉大なるフランス」
かつての芸術後進国フランスで、美術家たちが抱えたジレンマとは?
「プッサン知らずして、フランスの美を語るなかれ」
COLUMN 古典主義以前のフランス様式
革命前夜のひとときの享楽 ロココ
「王の時代」から「貴族の時代」へ
勃発した「理性」対「感性」の戦い
ロココ絵画の三大巨匠
聞こえてきた「フランス革命」の足音
皇帝ナポレオンによるイメージ戦略 新古典主義、ロマン主義
フランス革命と「新古典主義」の幕開け
現代の政治家顔負けの「ナポレオン」のイメージ戦略
再び起こった「理性」対「感性」の争い
2つの様式で揺れる画家たち

第4部 近代社会はどう文化を変えたのか?
産業革命と近代美術の発展
「格差」と「現実」を描く決意 レアリスム
「現実」をそのまま描いたクールベの革新性
マネから読み解く19世紀フランス社会の「闇」
産業革命と文化的後進国イギリスの反撃 イギリス美術
「イギリス」が美術の国として影が薄い理由
「肖像画」によって輝いたイギリス美術
英国式庭園の霊感源となったクロード・ロラン
産業革命でさらに発展するイギリスの国力と文化
産業革命の時代に「田舎」の風景が流行った理由 バルビゾン派
近代化によって生まれた「田園風景」需要
サロンを牛耳る「アカデミズム」
なぜ、印象派は受け入れられなかったのか?印象派
「何を描くか」ではなく「どう描くか」の時代へ
マネを中心に集まった印象派の画家たち
印象派の船出「グループ展」の開催
アメリカ人が人気に火をつけた印象派
アメリカン・マネーで開かれた「現代アート」の世界 現代アート
アメリカン・マネーに支えられたヨーロッパの芸術・文化
女性たちが開拓した現代アートの世界
ノブレス・オブリージュの精神で広がる「企業のメセナ活動」

おわりに
掲載美術品一覧
主な参考文献

木村 泰司 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2017/10/5) 、出典:出版社HP

背徳の西洋美術史 名画に描かれた背徳と官能の秘密

「背徳美術」を鑑賞するポイントを知る

本書は、ギリシャ・ローマ神話や聖書、あるいは西洋の政治経済史などの知識を学びながら、人が逃れることのできない性愛の美術を解説しています。西洋美術の歴史を紐解きながら、そこに見られる背徳の美、人間の性へのあくなき探求に触れることができます。

池上 英洋 (著) , 青野 尚子 (著)
出版社 : エムディエヌコーポレーション (2020/10/27) 、出典:出版社HP

はじめに
背徳美術を読む

ここに一枚の絵がある[図1]。描かれているのは一組の男女であり、いかにも仲睦まじい様子で男性が女性の肩に手をまわしている。しかし、よく見ると男性は初老と言ってよいほどの高齢で、好色そうな視線を送りながら右手で女性の胸を触り、しっかりと抱き寄せている。一方、女性はまだ幼さも垣間見えるほどに若い。初老の男性に視線を返すこともなく、何かもの言いたげに私たちのほうを見ている。そして画面下側では、両手でなにやら動作をしている。実は彼女は男性の財布のなかのお金をあさっているのだ。


図1●ルーカス・クラナッハ[父]〈不釣り合いなカップル〉
[1517年、バルセロナ、国立カタロニア美術館] クラナッハは「不釣り合いなカップル」の主題を数多く描いている。本作品には、女性の左ひじの上に画家のサインが入っている。女性の手に指輪がないのでただの愛人である可能性もあるが、男性の嬉しそうな顔と女性の思わせぶりな微笑が良い対比をなしている。

この絵の作者であるルーカス・クラナッハ(父)は、一四七二年に生まれたドイツの画家である。ほぼ同い年の芸術家には、デューラーやミケランジェロらがいる。彼らが生きたルネサンス時代の社会構造には、ひとつ特徴があった。それは当時の人々がギルド(同職人組合)から親方として認められて、初めて経済的に自立できるシステムということだ。そのため男性の初婚年齢が高く、また一生親方になれず結婚できない男性の数も非常に多かった。一方、女性の結婚年齢は十代後半と低かった。しかし高額な持参金を必要とするためで未婚率も高く、また当時の劣悪な衛生環境のせいで出産時の死亡率は恐ろしいほど高かった。
産褥死で妻を失った男性はすぐに次の妻を迎える。これを繰り返していくうちに、年齢の離れた夫婦ができあがる。おわかりだろうか、結婚できない若い男女であふれている街なかを、やたらと若い妻を連れた老人が歩いていく。《不釣り合いなカップル》と呼ばれるこの絵画は、そうしたやるせない社会状況を描いたもので、実際に同主題を描いた作品は数多い。
西洋美術には、性的なニュアンスを含んだ絵画や、危険な香りのする作品が多い。それらを、色彩の鮮やかさや線描の巧みさだけに注目して楽しむのもひとつの正しい鑑賞法だろう。しかしここにとりあげた主題のように、作品が描かれた社会状況や背景にあるストーリーを知ることで、作品の楽しみ方は一層広く深いものになる。とりわけ本書がとりあげる「背徳美術」といった視点で読み解ける作品群は、西洋美術の主要なテーマであり、非常に興味深いものだ。にもかかわらず、一般的な倫理観にもよるのか、内容を詳しく説明されることはあまり多くない。
よって本書では、「背徳美術」という西洋美術における一大ジャンルを構成する九つのテーマをとりあげ、それらの主要な主題のあらましと鑑賞ポイントを見ていこう。そうした背景を知ることで、読者の皆さんの今後の美術鑑賞が、さらに味わい深いものになれば幸いである。

池上 英洋 (著) , 青野 尚子 (著)
出版社 : エムディエヌコーポレーション (2020/10/27) 、出典:出版社HP

目次

はじめに 背徳美術を読む

第1章 凌辱する神たち
獣姦の神話――レダと白鳥
テキストの源泉に見る獣姦の構図
黄金の雨を受けるダナエ
ティツィアーノとミケランジェロのライバル関係
牡牛にさらわれたエウロペ
独特のポーズを追求したティツィアーノ
略奪されて妻となる――プロセルピーナ
季節はなぜあるのか
ストーカーになったアポロン
柔らかい肉と固い木

第2章 聖書で語られる背徳
兄弟殺し――カインとアベル
兄弟殺しの裏にある民族意識
英雄が犯した背徳――バテシバ
背徳の英雄
レイプをたくらむ――スザンナの水浴
裸体の美か、モラル画か
父と寝る娘たち――ロトの一家の物語
聖書の矛店を突く画家たち
ユダの裏切り
悲劇のクライマックスへ

第3章 聖女たちの受難
切断された乳房――聖アガタ
目の敵にされる女性的パーツ
処女を貫く新妻――聖チェチリア
発見された遺体
アレクサンドリアの聖カタリナ
キリストと結婚した聖女
1万1000人の処女と旅した聖ウルスラ
教会のメタファーに乗る聖女
[番外編]自ら死を選ぶ――ルクレティア
共和政のシンボルとして

第4章 不倫と愛人
不倫カップルの代名詞――マルスとヴィーナス
寝取られ男の代名詞となった夫
不義の愛の悲劇――パオロとフランチェスカ
乳首をつままれる女――ガブリエル・デストレ
政治に介入するフランス王朝の寵姫
愛人兼読書家の賢人

第5章 ファム・ファタル
首を斬る女――ユディト
ユディトの絵の裏にあるレイプ裁判
踊るサロメ
画家の自画像としての首
死をもたらす女たち――エヴァとパンドラ
原罪を犯すのは常に女性である
狂気の女たち――メデイアとパッカンテ
八つ裂きにされるオルフェウス
男性の精力を“切る”デリラ
“数世主”を倒した美女

第6章 売春とポルノグラフィー
ひと昔前のポルノグラフィー――ポンペイからカッソーネまで
夫姉のための興奮剤
売春とシンポジウム?――ヘタイラとキュリクス
古代の性愛場面の宝庫
コルティジャーナとティツィアーノ
ヴェネツィア・ルネサンスを彩ったコルティジャーナ
体位の見本市――発禁本『イ・モーディ』
当代一の文筆家の参戦
女性嫌い?なクールベ
歪んだ女性観を描く
フューズリが隠し続けたエロティックなスケッチ
画家のファンタジーを反映した素描

第7章 同性愛
ミケランジェロの苦悩
献げられた絵
カラヴァッジョの少年愛疑惑
女性よりも少年に熱い視線を向ける
聖セバスティアヌスになりたかった三島由紀夫
自決五日前に撮り終えた写真
フランシス・ベーコンの暗黒
愛憎相交わる父への想い

第8章 少年愛
プラトニック・ラヴ――年長者による導きと少年愛
少年を愛でよ、教育せよ
太腿の契り――神の寵童たち
美少年好みの神
可愛い子には酌をさせよ――ガニュメデス
さらわれる美少年たち
戦う美少年――ダヴィデ
包茎か割礼か
官能のクピド
豊富なアレゴリー
ヴィーナスとアドニスの悲恋
エロスと政治のねじれた関係

第9章 少女愛
理想的美少女像――ブグロー
転落と忘却
それは恋愛感情だったか――実在した不思議の国の少女
消えたページ
美少女の冒険――プシュケーの物語
肉体と精神の合一
処女性のアレゴリー
処女喪失の警告
聖なる少女を描き続けたバルテュス
どこにも属していない存在を描く

主要参考文献

池上 英洋 (著) , 青野 尚子 (著)
出版社 : エムディエヌコーポレーション (2020/10/27) 、出典:出版社HP