『気象・天気・雨』についての書籍4選 – 何がわかっていて、何がわからないの?

天気について、多くの方はどのくらい知識があるでしょうか?雨の降るメカニズム含めたこの気象はどうなったら発生するのか。またこれまでの気象を扱う気象学がどこまで進んでいるのか。それを応用する仕事である予報官とは? 梅雨前線に特化した書籍もあります。

天気と気象についてわかっていることいないこと

筆保 弘徳 (著), 稲津 將 (著), 吉野 純 (著), 茂木 耕作 (著), 加藤 輝之 (著), 芳村 圭 (著), 三好 建正 (著)
出版社: ベレ出版 (2013/4/16)、出典:amazon.co.jp

本書は、子どもの頃に多くの人が抱いたような空に対する興味を喚起するために著されており、日々のニュースで見るような大気現象のメカニズムや、現代の気象学の予報などについて明らかにしています。構成としては、各章のテーマごとに分野の異なった専門家による執筆が成されており、専門的で説得力のある内容となっています。また、専門家らがどんな経緯で気象学を志したのかなどを述べた短いコラムも各章ごとに付いているため、気象学の研究者を志望する人にも有効な内容です。

第1章は気象学を専門とする稲津將氏によるもので、温帯低気圧の研究について述べられます。中緯度において、海洋の温度の上下は大気の影響によるもので、海洋から多くの熱や水蒸気が出てもその大気への影響は地表面付近に限られるという定説があるが、気候系のホットスポット海域(海からの熱が気象に影響を与える場所)ではそれとは異なった仮説があるとのことです。それは、この海洋前線上で大気の前線がつくられやすいこと、または温帯低気圧が海洋前線上を好んで通過しやすいというもので、これによって海洋前線上では海洋表面付近に熱がとどまらずに、温帯低気圧をかいして上空まで達していることの説明がつくといいます。本章ではその検証が成されたり、温帯低気圧が太陽光エネルギーの格差是正という存在意義を持つことなどが述べられています。

第2章は気象学を専門とする筆保弘徳氏による、台風の研究に関してですが、台風の発生の謎が解けていないことからその予報が難しいということについてまず言及しています。しかし過去の台風発生を調べると共通の大気や海の状態が背景にあり、台風発生の必要条件は6つ挙げられたが、これに加えて決定的に台風が発生する要素を解明する必要がありました。台風が発生するメカニズムの2つの仮説として、台風発生を導く大気下層の強い渦の形成にはMCV(層状雲付近で発生する鉛直方向にうすい構造の渦)が重要であるとするトップダウン仮説、逆にVHT(積乱雲の強い上昇流にともなって発生する、大気の下層から上層まで鉛直に立つタワーのような渦)が重要であるとするボトムアップ説がありますが、現在も激しい議論が続いているとのことです。本章では他にも、エルニーニョ現象と台風発生の関係や日本の科学技術によって台風発生の予測研究が進んでいることなどが述べられています。

第3章は気象学と気象工学を専門とする吉野純氏によるもので、竜巻の研究について述べられます。まず、今日の気象学発展の礎を築いた研究者の藤田哲也博士は、積乱雲にともなって生じるダウンバーストという突風現象を発見した功績で知られていると言及されますが、彼はまた、竜巻の規模を測ることができる「藤田スケール」の考案でも知られています。この藤田スケールによって異なる二国間の竜巻規模が比較できるようになったとのことです。また、ストームチェーサーや竜巻にも眼があるのかなどについても述べられています。

第4章では大気力学とメソ気象学の専門である加藤輝之氏によって、集中豪雨の研究について述べられています。まず、集中豪雨が積乱雲によって引き起こされていることが述べられます。積乱雲の発生・発達を「爆発」現象に例えると、水蒸気は積乱雲を発生させるための「爆薬」であり、強制的な空気のもち上げは「点火」であるとしています。また、積乱雲が繰り返し発生することで降水域が西に向かってのび、線状の降水域をつくりだしているというバックビルディング形成が、積乱雲と線状降水帯を結びつけているとのことです。

第5章では気象学を専門とする茂木耕作氏によって、梅雨の研究について述べられます。ここでは最先端の梅雨研究として、遠い熱帯からの影響と近くにある海の影響とあります。熱帯からの影響としては、台風の進路状況によっては水蒸気が梅雨前線へより多く運ばれる状況になりやすいこと、近くにある海の影響としては、南からの暖かく湿った流れは本来、梅雨前線にぶつかって雨雲をつくるが、黒潮の暖かい海水温によって大気の下から強く加熱され、暖かい空気が上空にいきたがるので、上下方向に大気が混ざりやすい状態が黒潮上で続き、雨雲がそこでつくられるという事例があります。いずれの研究においても、気象の数値シミュレーションの技術の向上や、それがうまくいくための条件を与えるような観測をすることが今後の課題となっているとのことです。

第6章は同位体気象学を専門とする芳村圭氏による水循環の研究です。観測の都合上、水の存在量や移動量の不確実性について言及されるが、その水循環をより理解しようという取り組みとして、森林伐採と降水の関係について調べたものがありますが、陸からの蒸発量も地球水循環における重要な要素であることがわかります。また、地上の降水の同位体比だけでなく、水蒸気の同位体比が測れるようになると、それに高さ方向も加えた三次元の情報が入手可能になり、「雲内の複雑な過程」の結果としての同位体比変化が観測できるようになる可能性があります。これによって雲生成・降水生成過程における水の挙動の理解を深めることができるとあります。

第7章は数値天気予報とデータ同化を専門とする三好建正氏による、天気予報の研究で、まず天気のコンピュータ・シミュレーションに関して述べています。大気の状態の時間変化を計算するコンピュータプログラムである「モデル」により、ここで表現された大気の状態が次々に移り変わっていく様子を計算することを天気のシミュレーションと言いますが、これをもとに天気予報は行われています。そこで、当たる予測、当たりにくい予測の違いについて述べられますが、発生原因の理解やその原因の動きが安定的であるかどうかが挙げられており、天気は予測が難しいものです。しかしこの当たりにくさを逆手にとり、予測因子になりうるという研究もあるといいます。

本書は天気予報という、一般にも身近で、かつ不確実性のあるものに挑む専門家たちの気象の研究や努力を垣間見ることができ、もちろん、気象そのもののより深い理解にも繋がる内容となっています。しかしまた、現在も多くのことが解明できていないという気象学の難しさや奥深さにも驚かされます。

雨はどのような一生を送るのか:降る前から降った後までのメカニズム

三隅良平 (著)
出版社: ベレ出版 (2017/6/23)、出典:amazon.co.jp

本書は、防災科学技術研究所で水・土砂防災研究部門の総括主任研究員を現職としている三隅良平氏による著書で、一見当たり前に思われる「雨」という日常現象に隠された自然の摂理を明らかにすることで、読者の自然を見る目を変え、人生をより豊かなものにすることを目的としています。

まず、旧約聖書におけるノアの箱船やプラトンが提唱したタルタロスなど、人類のこれまでの地球上の水に対する多様な解釈が紹介されますが、初めて最も現実的な水循環の概念を提示したのはアリストテレスで、これは現代にも十分通用する内容であったと述べられます。そしてこのような想像から観測の時代へと移り変わり、17世紀フランスの科学者らによって、川の水は降水が地面に浸透したものであるという現代の理解と同じ説明に初めて到達します。第1章は水に対する人類の考え方の遷移や、現代と共通の結論を打ち出した決定的な実験の内容などを知ることができ、科学的にも思想史的にも興味深いです。

第2章では、19世紀に初めて水滴であることが明らかにされた雲や、その雲の形成に必要な、水蒸気が凝結するための「表面」の役割を担う空気中の微粒子「凝結核」について詳しく述べられますが、同時にそれを研究した科学者エイトケンの葛藤や努力についても触れられており、科学者のドラマとして共感できる内容にもなっています。

次の第3章は雨粒の形成について述べられます。普段は小さく落下しない、雲を作る水滴や氷の粒が合体して大きくなると雨や雪として空から降るというのが一般的な雨の説明ですが、ではなぜ雲粒どうしが合体するのかという問いから始まります。スウェーデン人の気象学者であるベルジェロンは、過冷却水の雲粒と、「水を凍らせる物質」である氷晶が共存するとき、飽和水蒸気圧の違いによって雲粒が蒸発して氷晶が成長するという氷晶雨仮説を提唱しますが、イギリス王立気象学会の会長であるシンプソンにより、氷晶を含まない雲でも降雨が発生するという「暖かい雨仮説」で反論されます。結論として、これらは二つとも正しいということが明らかにされます。紆余曲折を経て現在の雨粒形成の共通認識が完成されているということがわかります。

第4章では雨と植物の関係について述べられます。アメリカの科学者であるホートンによって、木の葉や枝などから雨が蒸発する量である「遮断損失量」が求められるが、18世紀イギリスの生理学者ヘイルズによって植物体内の水が蒸発する「蒸散」という現象が初めて科学的に研究されたということが述べられています。本章では他にも、植物体内の浸透圧によって木は水を高いところまで吸い上げることができていることや森林全体の大気への水放出量、森林は洪水を防ぐのかどうかなどが説明されていおり、水循環の重要な部分が描かれている内容となっています。

次の第5章は降雨の浸透ということで、前章の植物から地中の雨の動きに移ります。まず土壌における雨の浸透の速さや、空気によってスムーズな浸透が妨げられていること、地下水は様々な形態で存在していることなどが述べられます。そして、『泉の起源』という本を出版した17世紀フランスのウィリアム・ペローの実験により、降雨が河川水の起源になっていることが明らかになったことやその実験内容、また、19世紀フランスのヘンリー・ダルシーによる地下水の流れに関する基本的な法則である「ダルシーの法則」についても説明され、水循環の壮大さを実感するような内容です。

第6章は降雨の流出と題されており、河川流量と降雨の関係に関する内容ですが、雨がどのような経路で川にたどりつくのかについて述べています。第4章でも紹介されたホートンによると、雨は地面に到達した後、地表流と地下水流の2つの経路に分かれると考えられたが、地表流は植生のない裸地などで起こる特殊な現象に過ぎないという意見や、荒廃したヒノキ林では日常的に発生しているという考えもあり、様々な議論が成されたことがわかります。また、本章では雨量から河川流量を推定するための様々な計算方法の説明も簡単に成されており、難しいテーマに尽力した研究者らの努力について考えさせられます。

第7章は蒸発に関する内容ですが、蒸発現象を初めて科学的に調べたイギリスの化学者であるジョン・ドルトンについての伝記的な内容から始まり、次に彼の実験によって、蒸発は真空中でも起こるので空気への溶解現象ではないと示されたことが述べられ、他にも空気のもつ水蒸気圧の測定や蒸発量と飽和水蒸気圧との関係に関する実験など、ドルトンによって実行されたたくさんの実験について述べられています。本章では他にも、風が蒸発に及ぼす影響や蒸発散率の推定法など、蒸発に関する様々なトピックに触れることができ、蒸発テーマの実験のしやすさも伺えます。

第8章は地球の雨の特徴について、地球と、地球によく似ているとされる土星の衛星タイタンとを比較しながら述べられます。そこで地球の雨は水蒸気、タイタンの雨はメタンによるものであることが言及され、これは大気組成物質のうち、飽和蒸気圧の低い成分が凝縮して雨になるが、それは環境条件によって異なるということを示していると考えられます。他にも地球の積乱雲の背が低いことや雨粒が小さいこと、水循環の激しさなどが詳しく説明されており、他の天体との比較という視点からより地球の水について理解を深められるような、興味深い内容となっています。

本書は地球上の水の動きを理解するのに有効的である上に、科学的な歴史や科学者の伝記的な内容、実験の詳細などを詳しく知ることができるので、多方面の興味を引き付けるような内容であると言えます。また、日頃当たり前のように捉えている現象でも、すぐには説明できないことがたくさんあると実感させられるため、子どもの頃の「なぜそうなるのか?」というあらゆる物事に対する疑問の気持ちを喚起させられるような内容になっています。

気象予報と防災―予報官の道

永澤義嗣 (著)
出版社: 中央公論新社 (2018/12/25)、出典:amazon.co.jp

本書は、気象庁予報第一班長や気象庁防災気象庁、気象庁主任予報官などを歴任した経験のある永澤義嗣氏による著書で、予報官の仕事を広く紹介することや各種気象情報および気象防災の留意点を解説すること、また、現代社会における気象サービスのあり方を考えるきっかけとなることを目的としています。

第1章は「大気のふるまい」と題され、地球大気の構造、偏西風帯と熱帯域について述べられています。まず、「天気」を決める気象現象は大気圏の最下部の厚さわずか10キロメートルほどの薄い「対流圏」で起きることであるということが言及されます。また、気象とは太陽から受け取るエネルギー量の緯度や季節による差によって生じる地球上のエネルギー分布のアンバランスを解消するために起きている現象であるということや、日本に馴染みの深い中緯度偏西風帯でも偏西風が低緯度にたまり続けるエネルギーを高緯度に輸送しており、その流れで同様のエネルギー輸送をする温帯低気圧が発達すること、熱帯域では水蒸気が大量に雨に変わる時の凝結熱をエネルギー源に熱帯低気圧が発達することなどが述べられています。

第2章は「大気を描く」と題され、天気図やその他の断面図について述べられ、天気図の起源や何を表現しているか、他にも鉛直断面図や時間断面図といった天気図があることなどが詳しく説明されています。

第3章は「天気予報発展のあしどり」と題され、天気予報に関する事柄が述べられます。まず、現在の状態を知り、それに何らかの法則を適用して将来の状態を推し量るという態度が天気予報の原理であるとし、そこから天気予報や天気図の起源、気圧配置のパターン、コンピュータを用いた気象予測などについて述べています。

第4章は「天気予報の実像」と題されます。天気予報においては現在を知ることがまず大事であるが、それは観測データを要し、データの誤差や誤りなどが生じることからも難しいものであるということが述べられます。筆者が予報文を作っていた時の苦労や、そもそも天気とは何なのかという基準、天気予報の伝え方や分かりやすい方法、天気予報の信頼に関する話が述べられています。特に天気予報の信頼や精度評価に関しては、作成した予報官や気象予報士の署名入りで天気予報を作成すれば、発表者と利用者の関係は良好になるのではないかと筆者は言及しています。

第5章は「予報官の実像」と題されます。ここではまず、予報官が午前1時から早朝5時に天気予報を発表するまでの数時間が最も苦労を要すると述べられ、その手順が詳細に説明されます。次に、国家公務員試験を受けるなど、予報官になるためにするべきことや、予報官の様々な気象データに季節を察知する職業柄というべき性質、また、神経のすり減る仕事ではあるが時代の先見者になったような気分になるという予報官のやりがいについても言及されており、この章は予報官の実態を明らかにしつつ、予報官など気象関係者志望者の助けになる内容とも言えます。

第6章は「用語とのつきあい」と題され、「時々」や「一時」の違いなど、予報官なら誰でも知っているが一般的には正しく理解されていない可能性のある用語の紹介とその解説がなされており、気象関係者以外にも身近な天気用語をより深く理解できるような内容になっています。

第7章は「警報を考える」と題されており、防災情報の上位にあるべき気象庁の警報の法的な定義についてまず述べられます。そこから、警報や注意報のシステムや、その発表の基準、警報の意味、警報気象情報の重要性などについて詳しく説明されますが、この章では、警報や注意報の精度を高めるための気象関係者の努力も伺え、たとえ警報に空振りのイメージを抱いているとしてもそれを軽視してしまうのでは警報の意味がないということを考えさせられます。警報に対する意識改革のきっかけにもなる内容であると言えます。

第8章は「防災に軸足を移す」と題され、異常気象などの、通常とは異なった気象現象に対する対応についてまず述べられますが、これによって予報官の真価が問われると述べられています。本章では筆者のイレギュラーな状況との遭遇についても語られながら、防災の具体的なシステムや気象庁での取り組み、予報官のあり方などについて説明されます。気象関係者の責任やそれ以外の人々の防災に対してあるべき姿勢や対策などが改めて考えさせられる内容になっています。

本書は気象情報を利用する側や発信する側の両方にそれぞれメッセージを送っており、気象関係職は技術力を尊重する職場であるべきということや、気象情報の利用者が気象情報に対する要望などを発表者に伝えていくことでより良い気象予報に繋がるということが述べられています。本書は気象についての知識を得ることや、気象に対する自身の意識を変えることができる内容であると言えます。

梅雨前線の正体 (新しい気象技術と気象学)

茂木 耕作 (著)
出版社: 東京堂出版 (2012/6/12)、出典:amazon.co.jp

本書は、メソ気象やデータ同化を専門とする茂木耕作氏による著作で、一般的に多くの人が不快感を抱く梅雨という気象現象の面白さを、梅雨前線という構造の中に読者が見出せるようになることを目的としています。

第1章の「梅雨前線の立ち振る舞い」ではまず、梅雨前線の特徴について、「単一方向に通りすぎるのではなく、動きが読みにくい」や「長期間にわたって継続的な悪天をもたらす」、「地域によってもたらされる「悪天」の詳細が大きく違う」という3つが挙げられ、これに沿って実例を交えて筆者の気づいたことが述べられていきます。

そこで最初に、南下したり北上したりする停滞前線について述べられますが、これはメソ(中間規模)低気圧の種類によってその停滞前線が寒冷前線のような性質を帯びたり、温暖前線のような性質を帯びたりすることでこのような安定しない動きを見せていることが考えられ、絶対的なものではないが前線の動きを読むのに参考になると述べられています。読者はこれを知ることで、日頃の天気予報で見る天気図の見方も変わってくるはずです。

次の節では長期間の継続的な悪天について述べられます。これは梅雨前線が南北に揺らぎながら停滞し、徐々に北の緯度へと推移していくためのものですが、そこであれだけの雨量をもたらす水蒸気がどこからきているのかという疑問が生じます。これは、同じ気圧下では飽和水蒸気混合比は気圧が高いほど大きいことや、より暖かい海の上により暖かい大気がある状態がより多くの水蒸気を含む条件であること、海から大気が水蒸気を受け取れる量は風速が大きいほど多くなることなどの、大気が海から水蒸気を受け取る条件が関係しているとのことです。この節も梅雨に関する不明点を明らかにすることで、その不快感を少しだけ和らげているような内容です。

次の節では、同じ梅雨前線を経ても地域によって雨の強さや実際の感じ方に大きな差があることが気象庁の調べで明らかにされているということが述べられています。これは一般に、西日本の方がより多くの水蒸気を獲得した流れが梅雨前線に吹き込みやすいことなどが理由に挙げられます。数値的な記録だけでなく人々の声によっても梅雨前線の様々な情報が得られるということに面白さが感じられます。

次に第2章の「梅雨前線の姿」は、最初の節で、梅雨前線に発生する雨雲にも、含む雨粒の量や大きさでの違い、強い雨をもたらす積乱雲や積乱雲の周辺に比較的弱い雨をもたらす層状の雨雲などの違いなど、たくさんの個性があるため、いずれも注目する価値があるということが述べられています。雨雲も生き物のように捉えて面白さを見出す筆者の言葉には、梅雨前線という現象の見方にはそういう楽しみ方もあるということに気づかされます。

次の節では水蒸気前線の発見に関する内容であるが、これは通常梅雨前線は一本で寒冷な北風のエリアと温暖な南風のエリアを分断しているが、時に梅雨前線の南側に水蒸気前線が発生しているという発見について述べています。梅雨前線の構造が、一般的な授業で習った通りの単純さでは片付けられないということに気づかされる内容となっています。

次の節では、梅雨前線の帯か線かの捉え方について述べられています。これは梅雨前線の降水帯の南北幅を意識するかしないかという考え方にもよりますが、筆者はこれを考えることが梅雨前線の正体を捉える上では重要であると述べています。ここでものの捉え方にも言及しており、何かを知るという行為においては方法まで考えることが大事であるということを考えさせられます。

第3章の「梅雨前線をめぐる出会い」では、筆者が研究員になってから出会った近年の研究の中で、特に強い興味を抱いた話題について述べられています。まず最初の節では、中国大陸の雨雲発達における南風と日射の関係について述べられていますが、南風に含まれる水蒸気量が少ない中国大陸の内陸部では、水田などの陸面が太陽放射によって加熱されることによって水蒸気が追加されたり、また海よりも下層の気温が上がりやすいため、よりたくさんの水蒸気をより厚い層で受け取ることができ、梅雨前線上で背の高い雨雲を作ることがあるといいます。ここでは太陽と南風が会話するような形でこの説明がなされており、非常にわかりやすいうえ、内陸部での水蒸気がどこから来ているのか、なぜそれなりの積乱雲が発達することがあるのかなどの単純な疑問を解決してくれる内容です。

次の節では、チベット高原南側の中層の西風と対流の関係について述べられます。梅雨前線帯の雨雲の維持やその季節進行は、地表の高気圧の盛衰だけでは説明できない部分があるが、梅雨前線帯上空の西風ジェットが中層を上昇しながら吹いていることが関係しています。しかしそのためには西側の温度が高く、東側の温度が低い状態である必要があり、ベンガル湾沿いやインドシナ半島の北部で活発になる対流によって西側が加熱され続けているといいます。

最後の節では東シナ海上の南風と海流の関係について述べられています。温度の低い海からは大気は十分に水蒸気を受け取ることができないため、5月の東シナ海北部の海では、梅雨前線がそこで停滞していても南風が十分に暖かく湿った状態になれない場合がありますが、熱帯の高い水温の水を含んでいる黒潮により、南風は多くの水蒸気を得られているとのことです。ここまでの第3章により、自然現象は様々な要因が重なって起きているということがわかりますが、それらは生き物のように関係し合っていると考えると確かに面白く感じられ、探究心をくすぐられるような内容です。

本書により、一見不快なだけに思われる梅雨に代表されるような気象現象でも、不明点が明らかになったり新たな疑問が生まれたりすることで面白く感じられるということに気づかされます。本書は、知識によって気象などの自然現象に対する愛着が湧くような、わかりやすい学問的専門書でありながら非常に暖かな気持ちになる著書であると言えます。