【最新】高校化学を学ぶおすすめ本 – 社会人からでも、受験生基礎にも最適!

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また学びたい高校化学!

今回は高校化学をもう一度、教養として学ぼうと思う社会人、またはこれから学ぶ受験生も最適な紹介となります。どの本も基本事項がコンパクトにまとまっており、簡潔で分かりやすい文体です。図や図表、グラフも豊富で読んでいてもビジュアルとしても理解も助けてくれるものが多いです。ぜひ化学を学ぶ参考にしてください。

 

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出典:出版社HP

やりなおし高校化学 (ちくま新書)

化学が苦手な人のための「再」入門書

高校化学の内容は全て網羅されていて、説明もわかりやすいものとなっています。特に、ざっくり高校化学を復習したい方におすすめです。また、初めての方でもこれをベースにして分野分野の内容をもう少し深く勉強するという使い方も良いでしょう。

齋藤勝裕 (著)
筑摩書房 (2016/5/10)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 原子と原子核
1 原子構造/2 原子・原子核・電子/3 原子核の構造/4 同位体/5 原子量・アボガドロ定数・モル/6 原子核反応/7 放射性物質・放射線・放射能/8 核分裂反応/9 原子の電子構造/10 電子殻のエネルギー/11 軌道/12 電子配置/13 価電子/14 イオン化

第2章 周期表と元素の性質
1 周期表とカレンダー/2 周期と量子数/3 族と元素の性質/4 ランタノイドとアクチノイド/5 最大の元素/6 元素の周期性/7 電気陰性度/8 典型元素/9 遷移元素/10 金属元素と非金属元素 /11 レアメタル/12 レアアース/13 気体、液体、固体元素/14 超ウラン元素

第3章 化学結合と分子構造
1 分子・単体・同素体・化合物/2 化学結合/3 金属結合/4 電気伝導度/5 イオン結合/6 水 素分子の共有結合/7 δ結合とπ結合/8 sp2混成軌道/9 sp2混成軌道/10 共役二重結合/11 sp混成軌道/12 アンモニアと水の結合/13 アンモニウムイオンとヒドロニウムイオン/14 結合のイオン性と水素結合/15 分子間力

第4章 気体・液体・固体
1 物質の三態/2 三態における分子の状態/3 気体の体積/4 状態図/5 超臨界状態/6 三態以外の状態/7 液晶の性質/8 液晶モニターの原理/9 アモルファスの性質と利用

第5章 溶解度と溶液の性質
1 溶解と溶媒和/2 似たものは似たものを溶かす/3 溶解度/4 蒸気圧/5 沸点上昇と融点降下/6 半透膜と浸透圧/7 コロイド溶液/8 コロイド溶液の性質

第6章 酸・塩基・pH
1 酸・塩基とは①—アレニウスの定義/2 酸・塩基とは②—ブレンステッドの定義/3 酸・塩基の種類/4 酸性・塩基性/5 酸・塩基の強弱/6 中和反応と塩/7 緩衝溶液/8 酸性食品と塩基性食

第7章 酸化・還元と電池
1 酸化・還元と日本語/2 酸化数の計算法/3 酸化と還元/4 酸化剤と還元剤/5 イオン化傾向/6 化学電池/7 水素燃料電池/8 太陽電池

第8章反応とエネルギー
1 エネルギーとは/2 熱力学第一法則/3 分子の持つエネルギー/4 反応と反応エネルギー/5 化学現象とエネルギー/6 原子と光エネルギー/7 分子と光エネルギー/8 ヘスの法則/9 エントロピ 1/10 反応の方向を決めるもの/11 反応速度と半減期/12 可逆反応と平衡状態/13 逐次反応と律速段階/14 遷移状態と活性化エネルギー

第9章 非金属元素の性質
1 水素/2 ヘリウム/3 窒素/4 酸素/5 リン・イオウ/6 ハロゲン元素/7 希ガス元素/8 ホウ素・炭茶・ケイ素/9 ヒ素・セレン・テルル・アスタチン/10 半導体

第10章 金属元素の性質
1 典型金属と遷移金属/2 1族金属の性質/3 2族金属の性質/4 12族金属の性質/5 13族金属の性質/6 14族金属の性質/7 15、16族金属の性質/8 3族金属の性質/9 4、5族金属の性質/10 6、7族金属の性質/11 8族金属の性質/12 9、10族金属の性質/13 11族金属の性質

第11章 有機化合物の種類と性質
1 有機化合物の分類/2 飽和炭化水素の命名/3 飽和炭化水素の構造/4 分子構造の表現法/5 置換基/6 置換基効果/7 異性体/8 立体異性体/9 光学異性体/10 酸・塩基/11石炭・石油・天然ガス

第12章 有機化合物の反応
1 有機化学反応の特徴/2 酸化・還元反応/3 酸・塩基の反応/4 置換反応/5 脱離反応/6 付 加反応/7 金属触媒反応/8 アルコールの性質と反応/9 アルデヒドの性質と反応/10 カルボン酸の性質と反応/11 芳香族の構造と性質/12 芳香族の反応

第13章 環境と化学
1 日本の主な公害/2 PCBとダイオキシン/3 オゾンホール/4 酸性雨/5 地球温暖化/6 放 射性物質/7 エネルギーと人類/8 石油の起源/9 リサイクルとリユース/10 グリーンケミストリー

おわりに

参考文献

イラスト てばさき他

齋藤勝裕 (著)
筑摩書房 (2016/5/10)、出典:出版社HP

はじめに

本書は、高校の化学の授業でやったが忘れてしまったこと、あるいはその授業で分からないままにしていたことを思い出す、あるいはやりなおすための本である。

しかし、本書の目的はそれだけではない。高校の化学は面白くなかった、あんなものをやるのは時間の無駄遣いだと思った、さらには化学など二度とやりたくない。そのように思われる方に、改めて化学の面白さ、あえていえば化学の本質を知っていただきたいと思う願いを込めて書いた本である。

化学を面白くないと思われるのも、化学などに時間を割くのはもったいないと思われるのもよいだろう。あるいは、科学の本質を極めるなら化学よりも他に物理や数学がある。そのように思われるのも結構だし、私自身、そのお気持ちはよくわかる。

でも、そのように決めつけるのは少しの間、待っていただきたい。少々の時間を割いて本書をつまみ読みすれば、高校の化学の教科書とは違うことにお気づきいただけることと思う。本書の最大の特色はそこにある。

化学の骨格を見る

高校化学の教科書を易しく噛み砕いた解説本はたくさんある。高校化学の導入のような本もたくさんある。しかし、そのような本の多くは高校化学教科書の呪縛から逃れられていないように私には思える。私には高校化学の教科書は、易しいことを難しそうに記述しているように思えてならない。

どうでもよいような細かい事実を正確に書き連ねるあまり、大事な本質が隠れてしまうのである。これは、葉っぱに覆われて幹や枝ぶりが分からなくなっているようなものだ。

葉っぱを刈り込んで、化学という樹木の枝幹をお見せしたい、それが本書を貫く方針である。枝と幹、つまり化学の骨格だけを眺めたら、高校化学が扱う範囲というのはこんなに少なく、こんなに簡単だったのか?と驚かれるのではなかろうか。このようにすると、今まで精力を注いでいた葉っぱの理解、暗記の代わりに、他の大切な枝の理解に傾注することができる。すると、それまで見てきた枝の必然性が理解でき、樹木全体の理解が増すというサイクルが出来上がる。

本書はそのようなサイクルの形成を目標としている。そのため、高校化学では扱わない、一見高度なことも紹介している。しかし、読んでいただけば分かる通り、それは高校化学で扱わないだけであって、決して難しいことではない。それどころか、それを理解することによって、従来の高校化学の部分がより理解しやすくなるのである。

宇宙の誕生と原子

文学的な表現で「悠久の宇宙」といったものがある。宇宙の枕言葉として悠久という言葉がついてくるようであるが、宇宙が永く続くという意味だけなら、その通りであろう。しかしもし、宇宙が変化しないという意味が入っているとしたら、間違いである。宇宙は変化しないどころではない。激しく変化しているのだ。

そもそも「永い」とはどのようなスパンのことをいうのだろうか。地球の年齢は億年ほどである。38億年前にはバクテリアが発生している。すなわち、生命の歴史でさえ、弘億年もの「永さ」があるのである。それに対して宇宙の年齢は138億年である。永いといえば永いかもしれないが、このか弱い生命の歴史の4倍ほどの永さでしかない。

138億年前に宇宙が誕生した時には、宇宙には原子番号1の水素原子しかなかった。それが集まって集団になると圧力と熱が発生し、核融合反応が起きて原子番号2のヘリウム原子が誕生した。それと同時に大量のエネルギーが発生した。これが太陽などの恒星の姿である。この変化は、太陽はもちろん、無数の恒星で今も進行しているのである。そして核融合はさらに進行し、次々と大きな原子が誕生している。

しかし、これも原子番号8の鉄あたりまでである。鉄は核融合してもエネルギーを発生しない。エネルギーパランスを失った恒星は大爆発を起こす。その時に発生する大量の中性子を鉄原子が吸収して、さらに大きな原子が誕生する。このようにして、現在宇宙に存在し、我々が化学で扱う原子番号型のウランあたりまでの原子が誕生したのである。

原子は雲のようなもの

わずか138億年の間にこれだけの大変化が起き、この変化が今も続いている。宇宙はまさしく悠久であろうが、実は大変動の場なのである。

このようにして誕生した3種類ほどの原子が、地球と自然と生命体を作っているのである。生命体の変化にもまた驚くべきものがある。必億年前に誕生した単細胞バクテリアが6億年前には大型軟体動物に進化し、4億年前には脊椎動物になり、1億年前には恐竜となった。そして2500万年には類人猿が現れ、現代に至っている。
このすさまじいまでの変化を担ったのは、結局は原子である。原子が結合して簡単な分子となり、簡単な分子が反応して複雑な分子となり、それが集まって機能的な集団となったのが生物だ。生物といえど、結局は分子の集合体であり、最後は分子であり、原子なのである。

原子は丸い雲のようなもので、雲のように見えるのは電子雲である。電子雲の中心には小さくて重い原子核がある。原子核の直径は原子直径の1万分の1に過ぎない。東京ドーム(直径100m)を2個貼りあわせた巨大どら焼きを原子にたとえると、原子核はピッチャーマウンドに転がるビー玉(直径1m)ほどの大きさしかない。ところが、原子のほとんど全ての重量(99.9%)は、原子核にあるのである。

原子はまさしく雲のような頼りないものに過ぎない。しかし、これが集まったものが物質なのである。手を見てみよう。この手を作っているのは分子であり、このような原子なのだ。雲か霧のようなものなのである。頭の中には脳みそが詰まっていると確信しているが、その実態はこのようなものなのだ。雲の集合なのである。ザルの比喩どころではないのかもしれない。

ところが、原子の性質、結合、反応は全て電子雲によるものである。雲か霧のようなものが互いに溶けあったり、反発したりして化学反応、すなわち自然の現象を作りだしているのだ。まさしく色即是空、空即是色の世界である。
このように見てみると、無味乾燥に見える化学もなかなか味があるように見えてくるのではなかろうか。

化学が実らせた果実

化学者の私がいうのもおかしいが、化学はなかなか面白い。化学が他の科学と違うのは、化学は物質を扱うということである。

私たちが実感する宇宙は物質からできている。そして全ての物質は化学の研究対象となる。生物もまた化学の研究対象である。すなわち、金属も鉱物も気体も固体も液体も、もちろん、食物も衣服も建材も、宝石、香水、アルコール、男、女、薬、毒、全ては化学の研究対象となるのである。このような化学が面白くないはずがない。というより、どなたでも何かしら興味を持つ物があるだろうが、それがすなわち、化学の研究対象なのである。お酒が好きなら、それを突き詰めてゆくと化学になる。医薬品に興味があって、それを調べるといつか化学の領域に踏み込んでいることになる。毒も同じである。しかし、化学は物質の状態、性質、変化だけを扱うのではない。最も重要なのはその変化の背後に潜む自然の摂理、法則である。これこそが先にいった樹木の枝幹、化学の骨格である。骨格を調べ、それを明らかにして、自然の摂理を明らかにする。それが全ての科学と同じように、化学の目的とするところである。

だが、化学にはもう一つの目的がある。それは人々の幸福に資するということであり、これこそは、化学が物質を扱う学問であるからこそできることである。つまり、化学は物質、分子を調べるだけでなく、物質、分子を創り出すこと、すなわち、これまでこの宇宙に存在しなかった分子を新たに創り出すことができるのだ。これは創造である。あえて不遜な言い方を許していただけるなら、神の創造にも匹敵する創造なのだ。

化学がこれまでにどれだけの新分子を創り出し、どれだけ人類の幸福に貢献してきたか?地球上には記憶に達しようという人類が生活している。これだけの人類が十分ではないまでも、とにかく生存に足る食料を得ることができるのは化学肥料と殺虫剤などの農薬のおかげである。

衣服も、合成繊維を抜きにしたら貧弱なものになるだろう。プラスチックのない生活が想像できるだろうか?電池がなかったらどうなるだろうか?医薬品がなかったら人間の一生はかなり辛いものになるだろう。麻酔薬がなかったら手術はなりたたない。
これらはまさしく化学という学問が実らせた果実なのである。これだけ豊富に果実が実った学問分野が他にあるだろうか?

本書の扱う範囲

本書はこのような化学を徹底的に分かり易く、楽しく紹介しようという意図のもとに作られたものである。内容は化学理論を扱う物理化学から、鉱物などの無機物を扱う無機化学、生命体を含む有機化学、さらには現代の大きな問題である環境問題を考える環境化学まで、化学の全分野を網羅している。本書一冊を読破したら、化学に関してはほぼ完ぺきに近い、広くて偏りのない知識体系を身につけることができるものと確信する。

化学の良い所は、その表現手段として、文章や数式だけでなく、化学式という独特の方法を持っていることである。例えば野球にはボールを投げ、それを打つというテクニックがあり、バイオリンには弦を押さえ、弓で弾くというテクニックがある。

しかし化学の表現手段のテクニックは、それらとは比較にもならないほどの簡単明瞭なものである。化学式は慣れないと馴染みにくいかもしれないが、慣れてしまえばこれほど便利なものはない。
有機化学の構造式は、三角形や六角形など、まるで図形かと思われるものがメジロ押しとなる。これも、表記の約束事さえ分かれば、この上なく便利なものである。はじめは絵を見るような感覚で見るのもよいかもしれない。慣れるにしたがって、その絵の持つ意味が見えてくることであろう。

本書は本格的な化学専門書の目次と考えることもできよう。本書を読んで面白いと思われたところがあったら、そこをさらに進んだ書物で読みなおしてほしい。すると、本書を読んで身につけた基礎知識の分だけ、専門書が読みやすくなっているはずである。それはまさしく本書の意図するところである。また、何か調べたいと思う問題をお持ちならば、本書を読んで、その問題がどこに該当するかを探していただきたい。その上で、その分野の専門書に当たっていただければと思う。本書を読んで化学の面白さ、楽しさを実感していただくことができたなら、私にとってこれ以上嬉しいことはない。
最後に本書の作製になみなみならぬ努力を払ってくださった筑摩書房の松田健、河内卓の両氏、参考にさせていただいた書物の著者並びに発行出版社各社の皆様に感謝する。

平成9年3月 齋藤勝裕

齋藤勝裕 (著)
筑摩書房 (2016/5/10)、出典:出版社HP

やさしい高校化学(化学基礎)

高校化学の学び直しに最適

絵や図を利用した解説がとてもわかりやすく、完全に初めての方や、他の参考書でつまづいてしまった方でもかなり理解しやすい構成となっています。色使いが目に優しいというところもお勧めしたいポイントです。とにかくわかりやすさを求めている方にお勧めです。

岸良祐 (著)
学研プラス (2015/10/20)、出典:出版社HP

はじめに

中学のときの理科は得意だったのに,高校生になって“化学基礎”の授業についていけなくなった,という生徒は意外と多いです。これは、中 学の理科の場合,そのほとんどが”覚えて暗記する”ことで問題が解けて しまうものであるのに対し,高校で学ぶ化学基礎はちゃんと理解してい ないと解けない部分が多くなるからです。でも,いきなり何から何まで すべて理解しようとするのも,また混乱を招き勉強が進まないものです。 そこで,この参考書では,化学基礎の勉強を始めるにあたり,まず“何 を覚えて”“何を理解する必要があるのか”を明示しながら解説をしてい きます。そして、理解すべきところは,初めての人でもわかるように図 や例え話を使いながらかなりくわしく解説しています。

“モル molを使った計算がわからない”
“濃度の計算が苦手”

という人も多いと思います。でも,この参考書を読めば,自分で問題を 読み,式を立てて計算できるようになることを約束しましょう。確かに, ときに難しい内容も出てきますが,何度もくり返し読めば必ず理解でき るはずです。この参考書を一冊仕上げれば,学校の定期試験に加えて, センター試験のレベルまでは到達できます。ぜひ,最後まで諦めずに, 本書を読み通してください。

最後に、校閲に参加してくださった方々,図版を作製して頂いたデザ イナーの方々、小椋さんをはじめとする編集部の方々には大変なお力添 えを頂き、心から感謝いたします。一人の力ではとてもつくることがで きない、最高の化学基礎の入門書が出来上がったと思います。

この仕事をしていて、化学に興味をもち,化学を好きになっていって くれる生徒を見るのが一番の喜びです。この参考書をきっかけに、また そのような生徒が増えてくれることを願っています。

岸良祐

本書の使いかた

本書は高校化学 (化学基礎)をやさしく、しっかり理解できるように編集され た参考書です。また、定期試験やセンター試験でよく出題される問題を収録して いるので、良質な試験対策問題集としてもお使いいただけます。以下のような使 いかたの例から,ご自身に合うような使いかたを選んで学習してください。

1 最初から通してぜんぶ読む

オーソドックスで、いちばん化学基礎の力がつけられる使いかたです。特に, 「高校化学基礎を学び始めた方」や「化学に苦手意識のある方」にはこの使いか たをお勧めします。キャラクターの掛け合いを見ながら読み進め、練習問題を解 いてみましょう。その後、本文の解説を読んでいくと、つまずいたところがわか り理解が深まります。また、テーマの最後にあるセンター試験問題を想定した例 題にチャレンジしてみましょう。

2 自信のない単元を読む

高校化学を、多少勉強し、苦手な単元がはっきりしている人は,そこを重点的に 読んで鍛えるのもよいでしょう。Pointやコツをおさえ、例題や練習問題をこなして, 苦手な単元を克服しましょう。

3 別冊の問題集でつまずいたところを本冊で確認

ひととおり化学を学んだことがあり,実戦力を養いたい人は,別冊の問題集を 中心に学んでもよいかもしれません。解けなかったところ、間違えたところは本 冊の解説を読んで理解してください。ご自身の弱点を知ることもできます。

登場キャラクター紹介

ナギサ
高校1年生。お調子者の男の子。中学・高校と化学が苦手でなんとかしたいと思っている。
リカ
高校1年生。明るくしっかり者の女の子。化学は好きな科目だったが、少しずつわからなくなってきた。ナギサのクラスメイト。
先生 (岸良祐)
ナギサとリカの高校の化学の先生。化学が得意な生徒から苦手な生徒まで、わかりやすく化学の楽しさを教える。

岸良祐 (著)
学研プラス (2015/10/20)、出典:出版社HP

もくじ

1章 物質の探究
1-1 純物質と混合物
1-2 混合物の分離
1-3 元素・単体・化合物
1-4 同素体
1-5 元素の検出
1-6 熱運動
1-7 物質の三態

2章 物質の構成粒子
2-1 原子の構造
2-2 同位体
2-3 放射性同位体
2-4 電子配置
2-5 価電子
2-6 周期表

3章 物質と化学結合
3-1 イオン
3-2 イオン化エネルギーと電子親和力
3-3 イオン結合とイオン結晶
3-4 共有結合と分子
3-5 配位結合
3-6 電気陰性度と極性
3-7 共有結合の結晶
3-8 金属結合

4章 物質量と化学反応式
4-1 相対質量と原子量
4-2 物質量(その1)
4-3 物質量(その2)
4-4 物質量(その3)
4-5 溶液の濃度
4-6 濃度変換
4-7 溶液の希釈
4-8 化学反応式
4-9 化学反応式の量的関係・
4-10 過不足のある反応

5章 酸と塩基
5-1 酸・塩基の定義
5-2 酸・塩基の価数
5-3 酸・塩基の強弱
5-4 水素イオン濃度とpH
5-5 中和反応と塩
5-6 塩の分類と液性
5-7 中和反応の量的関係
5-8 中和滴定
5-9 中和滴定の実験
5-10 適定曲線と指示薬・

6章 酸化還元反応
6-1 酸化と還元
6-2 酸化数
6-3 酸化剤と還元剤
6-4 酸化剤と還元剤の半反応式
6-5 化学反応式のつくり方
6-6 酸化還元滴定
6-7 金属の酸化還元反応

さくいん

岸良祐 (著)
学研プラス (2015/10/20)、出典:出版社HP

「高校の化学」が一冊でまるごとわかる

高校化学を網羅した1冊

説明が非常にわかりやすいだけでなく、記憶に残る言い回しで、要を得て簡潔にまとめられているところがこの本の良いところです。非常にわかりやすく、読み終わった頃には著者の先生の授業を受けてみたい!という気持ちになっているかと思います。

竹田 淳一郎 (著)
ベレ出版 (2018/12/12)、出典:出版社HP

はじめに

この本を手に取っていただいて、ありがとうございます。著者は毎日、中学生・高校生に化学(ときには地学、物理、生物も!)を教えている現役の教員です。生徒にはエラそうに教えている私ですが、自分の高校生時代を振り返ると成績はいつも真ん中よりも下で、特に理系科目はどれも赤点スレスレでした。通知表が渡されるたびに毎回ヒヤヒヤしたのを今でもよく覚えています。そんな中でも一番好きだった化学を専門に選んで、大学で化学の本当の楽しさに目覚め、化学の面白さを伝えたいという気持ちが抑えきれなくなって、とうとう化学の教員になってしまいました。今でも高校の友人に会うと「お前が教員なんて・・・教えられるの?」と真顔で聞かれます。昔は「いやあ、なんとかやってるよ、テへへ。」と苦笑いしてごまかしてきましたが、今では20年近い教員生活で生徒がつまずきやすいところもわ かり、どう教えれば理解しやすいか、イメージをつかみやすいかいろいろなアイデアもたまってきたので、「そんな私だからわかりやすく教えられるのさ」と自信をもって答えられるようになりました。

最近では社会人の方々にも化学を教える機会も多くありますが、「先生の講義を本にまとめてくれたら絶対に買いますよ」とたくさんの受講生の方々にほめていただき、今までに貯めたアイデアを惜しみなく盛り込んで書き上げたのが本書です。
どうぞ目次を見ていただき、興味をもったページを開いてみてください。「化学ってこういうことだったのか」という新鮮な発見があることを保証します。

竹田淳一郎

竹田 淳一郎 (著)
ベレ出版 (2018/12/12)、出典:出版社HP

CONTENTS

基のマークは高校の「化学基礎」で学ぶ内容です。
はじめに

第1章 基礎化学 物質の基本粒子
(1) 基 原子と元素はどう違う?
(2) 基 中性子にはどんな役割があるのか?
(3) 基 同じ元素でも重さが異なります
(4) 基 周期表はなぜ中央がくぼんでいるのか?
(5) KとCaはなぜもう一つ外側のN殻に電子が入るのか?
(6) 基 イオンになる原子、ならない原子の違いとは?
(7) 基 イオンになりやすさを比べる2つの指標

第2章 基礎化学 化学結合
(8) 基 陽イオンと陰イオン、合体させるときの作法と命名法
(9) 基 イオンにならずに安定になるには?
(10) 基 共有結合? イオン結合?見分け方のコツ、教えます
(11) 基 分子の極性の有無は結合だけじゃなく全体の形を見よう!
(12) 基 金属が電気を通す理由も「結合」というキーワードで説明できた!
(13) 基これを知っていれば化学通!
(14) 基 結合のまとめ、いろんな結合の違いの確認
(15) 基 固体の構造をミクロの視点で見てみると

第3章 基礎化学 物質量と化学反応式
(16) 基 モルがわかると化学がわかる
(17) 基 原子量、式量、分子量、正しく使い分けられますか?
(18) 基 化学反応を化学式を使って表す
(19) 基 化学反応式を学ぶと何の役に立つのか?
(20) 基 モルがもう少しだけ続きます

第4章 理論化学 物質の状態変化
(21) 基 圧力とは何か? 化学におけるもっともわかりにくい単位
(22) 固体、液体、気体を粒子の視点で見てみよう
(23) 基 「打ち水」は水が冷たいから涼しくなるわけではありません
(24) 富士山の山頂では水は88°Cで沸騰します
(25) ドライアイスはなぜ液体にならず、直接気体になるのか

第5章 理論化学 気体の性質
(26) 気体の性質を数式で表すと
(27) 気体の計算でいちばんよく使います
(28) 混合気体のそれぞれの圧力はどう考えるの?
(29) 実在するのはいつも理想から離れているものですね

第6章 理論化学 溶液の性質
(30) 基 塩と砂糖、どちらも水に溶けるがそのメカニズムは異なります
(31) 基 水100gにNaClは何gまで溶けるでしょうか?
(32) スキューバダイビングで注意しなければいけないことは?
(33) 煮立った味噌煮込みうどんは100°Cを大きく超えています
(34) 氷+食塩で冷凍庫なみに冷やすには?
(35) 計算法をマスターしてもう一歩上へ
(36) 青菜に塩、このことわざも化学で説明できます
(37) 名前はマニアック、でもどこにでもあるんです
(38) 人工透析はどんな仕組みで血液をきれいにしている?

第7章 理論化学 化学反応と熱
(39) カロリー(cal)とジュール(J)、熱を表す単位とは
(40) 化学反応に伴う熱の出入りをどう表すか
(41) 化学変化どころか物理変化まで熱化学方程式で表せます
(42) 熱化学の計算問題には必ずと言っていいほど出てくる法則
(43) 共有結合を切断するのに必要なエネルギーは?
こうこう化がくの窓 本来は吸熱反応は自然にはおきない!?

第8章 理論化学 反応の速さと平衡
(44) 化学反応のメカニズムを結婚に例えると
(45) 化学反応の速度も結婚に例えてみます
(46) 鉄がさびるのは反応速度が遅い反応です
(47) 活性化エネルギーを下げて反応速度を上げる
こうこう化がくの窓口 触媒と第一次世界大戦の密接なかかわり
(48) 行ったり来たりできる反応と一方通行の反応
(49) 化学平衡を数式で表すと
(50) 水に溶けない塩でも実は本当に少しだけ溶けています
(51) 平衡がどちらに移動するかはどう判断するの?

第9章 理論化学 酸と塩基
(52) 基 酸と塩基とは何だろう
(53) 基 酸と塩基の強さはどうやって表す?
(54) 基 酸と塩基をもう少し詳しく分類すると
(55) 基 酸と塩基を混ぜると・・・?
(56) できるやつは電離度は使いません。その理由は・・・
(57) 中和反応をpHの変化で見てみよう1
(58) 中和反応をpHの変化で見てみよう2
(59) 基 中和滴定はどんな実験器具を使って行なうか?

第10章 理論化学 酸化還元反応
(60) 基 「酸化」というと悪いイメージが? 本当のところはどうなのでしょうか
(61) 基 酸化と還元を判断する強力な武器
(62) 基 酸化剤と還元剤にはどんな種類があるのか
(63) 基 重要な酸化剤、還元剤の特徴を押さえよう
(64) 基 誰でも酸化還元反応式が書けるようになれます
(65) 基 酸化還元反応を用いてモル濃度を計算で求めるには?
(66) 基 CuとZnのイオンになりやすさを実験で比較するには?
(67) 基 金やプラチナが永遠に輝くわけ.
(68) 基 電池はなぜ電気エネルギーを取り出せるのか?
(69) ボルタ電池の弱点を改良しました
(70) 基本的な構造は100年以上前から変わっていません
(71) エコカーに搭載されている電池の違い
(72) 自然界には存在しないNaの単体を得るにはどうする?
(73) 銅の純度を99%から99.99%に上げるには
(74) 電流とmolの関係は?
(75) 電気分解の総まとめです

第11章 無機化学 典型元素の性質
(76) 無機化学に本格的に入る前に知っておきたいこと
(77) ヘリウムHe、ネオンNe、アルゴンAr、クリプトンKr、キセノンXe、ラドンRn
(78) フッ素F、塩素CL、臭素Br、ヨウ素、アスタチンAt
(79) 炭素C、ケイ素Si、ゲルマニウムGe、すずSn、鉛Pb
(80) 空気中にたくさんあるのに使える形にするのは難しい
(81) 窒素N、リンP、ヒ素As、アンチモンSb、ビスマスBi
(82) 黄色いダイヤとよばれたこともありました
(83) 酸素の化合物をどれだけ言えますか?
(84) リチウムLi、ナトリウムNa、カリウムK、ルビジウムRb、セシウムCs、フランシウムFr
(85) ベリリウムBe、マグネシウムMg、カルシウムCa、ストロンチウムSr、バリウムBa、ラジウムRa
(86) ルビーからお金まで、意外なものに含まれています
(87) 水銀と鉛、昔は毒性が知られてはいませんでした

第12章 無機化学 遷移元素の性質
(88) スカンジウムSC、チタンTi、バナジウムV、クロムCr、マンガンMn、鉄Fe、コバルトCo、ニッケルNi、銅Cu
(89) 身近にあるけど奥は深い
(90) 足尾銅山鉱毒事件の原因になりました (91) 古くから人類が追い求めてきました
(92) 遷移金属の名脇役
(93) 混ざってしまった陽イオンを分けるには?
(94) ガラス、陶磁器、セメント、まとめてなんとよぶ?
(95) 10円玉は銅でできている? いやいや実は合金なんです

第13章 有機化学 脂肪族化合物」
(96) 有機化学、有機農業、有機肥料・有機って何だろう?
(97) 無数にある有機化合物を分類して整理しよう
(98) 異性体を理解すると有機化学が理解できる!
(99) 都市ガス、ライター、ガソリン、灯油…主に燃料に使われます
(100) 構造異性体の見つけ方と命名法のコツ
(101) “不飽和”という言葉はとても重要!
(102) 三重結合という固い絆
(103) アルカンとアルケン、一文字違うだけで反応性は大きく違う?
(104) 「アルコール好き」は本来は「エタノール好き」というべきなのです
(105) ヘキサンとエタノールを区別するには?
(106) 麻酔薬として非常に優秀です
(107) 聞いたことはなくても身近で活躍しています
(108) 酢酸は世界一有名なカルボン酸です
(109) 原材料に「香料」と書いてあるときはたいていエステルが入っています
(110) バターとサラダ油の違いを化学の視点で見てみる
(111) 洗剤はせっけんの弱点をカバーしてくれます
(112) 脂肪族有機化合物の総まとめ

第14章 有機化学 芳香族化合物
(113) ベンゼンを含む有機化合物だけ特別扱いします
(114) ベンゼン環は壊れずに置換基が置換されていきます
(115) 洋服ダンスの防虫剤に使われるナフタレンが代表的です
(116) ベンゼンがおこす重要な3つの反応
こうこう化がくの窓 爆薬を作るのに重要な役割を示すニトロ化
(117) 重要な芳香族有機化合物です
(118) プリンターのインクの原料です
(119) カルボン酸から作られるアスピリン錠は世界で 年間1500億錠も消費されています
(120) 混ざっている芳香族有機化合物を分けるには?

第15章 高分子化学 天然高分子化合物
(121) 原子が無数につながった化合物
(122) 砂糖と一口に言っても色々な種類があります
(123) 料理に使う白砂糖は二糖類です
(124) デンプンも食物繊維もばらばらにすれば同じグルコースです
(125) 我々の体は20種類あるアミノ酸からできています
(126) 三大栄養素の一つがタンパク質です
(127) 触媒の有機化合物バージョンです
(128) 木綿、絹、羊毛…共通点は天然高分子化合物
(129) 「化学」と「生物」のすみ分けができています

第16章 高分子化学 合成高分子化合物
(130) 養蚕業に大ダメージをもたらした原因です
(131) ビニロンは日本で発明された合成繊維です
(132) これなしではもう生活できません
(133) 世界初の合成樹脂は熱硬化性樹脂でした
(134) ゴムは化学の視点で見るとどんな分子構造をもっている?
(135) 高分子化合物は素材として活躍するだけではありません

参考文献
さくいん

竹田 淳一郎 (著)
ベレ出版 (2018/12/12)、出典:出版社HP

暗記しないで化学入門―電子を見れば化学はわかる (ブルーバックス)

化学の見方が変わる、高校生必読の入門書

原理をていねいにコツコツ積み重ねるように書いてあるため、しっかり読み進めることで理解が深められます。化学を「理解したい」方にお勧めしたい一冊です。既にある程度学習した方でも、より化学を理解するために役立ちます。

はじめに

化学が嫌いだと言う人にその理由を聞いてみると、返ってくる答えはたいがい似ている。「細かい化学式や化合物名をたくさん覚えなくてはならないから」。また化学というと環境問題、薬害などの暗いイメージがあるので嫌だという人も少なくない。化学はどうも暗いイメージで、かつ細々としたことを覚えなくてはならないとおおかたには映っているようである。公害問題が騒がれた一時期、化学が非常に不人気だったことは確かにあった。

化学の暗いイメージは化学自身のイメージではなく、それを利用する人間の暗い部分の反映である。確かに実験室はあまりきれいとは言えないことが多いし臭いもあるが、 化学自体はそれほど暗くもなく、むしろ創造に対するチャレンジに満ちたものである。化学は実に広い範囲の物質とそれに関わるいろいろな現象を含んでいる学問であり、生命科学でも究極的に解くべき課題は化学的な問題が多いと言える。私たちの物質生活には化学によって創出されたものが溢れ、それらなしでは生活できない。むろんそこから派生する暗い問題もある。しかしそれを解決するのも化学 である。さらに私たちの生命活動は化学反応によって支えられており、多くの森羅万象も化学反応の結果である。私たちは化学的な環境の中で化学的な営みをしているとさえ言える。また化学的に世界を理解することは、私たち自身を理解することにつながり、化学を有効に活用することは人類の未来を開くことにもつながる。ただ現在では以前にも増して、それを利用する人間の品性と意識が問われていることは確かである。

「化学式をたくさん覚えないといけないから化学は嫌だ」という人は少なからず化学を勉強した人であろう。高等学校の教科書を読めば、たぶんそういう印象を持ってしまうだろう。小さな本の中であまりに多くの知識を盛ってしまっているために、そうならざるを得ない。この本を書いた目的の1つは、そういう不満を持っている人、それで化学嫌いになってしまった人に、化学の面白さを知っていただくことである。化学は決して「暗記物」ではなく、理屈を納得して、それを応用するものである。その点では物理などと違うところはまったくない。しかしこの小さい本で化学の教科書に書いてある分野すべてについて、解説をすることはできない。この本では、原子同士を結ぶ化学結合に焦点を絞った。しかし、化学結合は化学の中で最も本質的なことであり、ここで解説する基本的なことは化学全分野について、もちろん成り立つものである。

化学の教科書にはたくさんの有名な科学者の名前があり、また歴史的に見ると重要な物の考え方がたくさん説明されている。しかしその多くは、現代的な化学の概念を知 るためにはあまり重要でないことが少なくない。例えばドルトンの原子説はほとんどの教科書に載っているが、極論を言ってしまえば、このような名前を知っている必要はないし、それでも化学の面白さは充分に味わえる。現代的な化学の概念がきちんと理解できたあとで、時間があれば過去に遡ればよい。ということで、本書ではほとんど人名も “なんとかの説”も取り上げない。むろんここで述べるこ とは過去の偉い科学者が発見したことに基づいているのだ が、今現在どう考えればよいかということにフォーカスを絞る。教科書でないからできる業であろう。

この本での主役は電子である。最も重要な登場人物 (?)である電子が、この本の大切なキーワードである。 電子というものの性質や挙動が理解できれば、化学のかな りの部分が理解できるからである。分子中や分子間の電子 の動きが予測できれば、化学が理解できたと言ってよい。もう1つのキーワードは立体構造である。分子は原子が立 体的に組み立てられた三次元構築物であり、立体構造によってその分子の働きが大きく左右される。電子の挙動と立体的な条件、これらが化学反応を決定する上で非常に重要である。これら2つのキーワードを軸にして物語を展開していきたい。むろんこれらだけで化学全般が分かるようになるわけではないが、とりあえずこの2つのキーワードで 化学を理解すれば、残りの部分を理解する準備は充分でき たと考えてよい。高校生の諸君は、本書を通読した後、化学の教科書にぜひ戻って欲しい。教科書の内容がだいぶ違って見えてくるに違いない。

この本では、高等学校程度の化学のエッセンスとその面白さを知っていただくことを目的にしているが、高等学校の教科書では教えていない概念も説明の中に入れている。 ただし、これらの概念を理解することはそれほどたいへんではなく、理解すれば他の多くの概念が一挙に理解しやすくなる。ちょうど鶴亀算をまともにやるより、方程式で解く方が簡単でかつ計算している内容が理解し易いのに似ている。第7章と第8章は少し挑戦的な内容である。化学は暗記物ではなく、そこには生き生きしたストーリーがあることに気がつかれたら幸いである。

人類の有力な知的財産の1つである化学を有効に駆使すれば、暗いイメージどころか、明るく輝く21世紀は化学 の力で開かれるとも言える。環境問題、病気など 21 世紀への申し送り事項の大部分について、化学は有望な解答を 出してくれるだろう。また、私たちはそのようにしなくてはならない。

本書をまとめるにあたり、講談社の梓沢修氏にはたいへん有益かつ多くの助言をいただいた。ここに記して深く感謝申し上げたい。

目次

はじめに

第1章 電子が原子を結びつける
1-1 グルタミン酸
1-2 メタン
1-3 エチレン
1-4 水とアンモニア
1-5 原子の構造
1-6 電子の部屋割り
1-7 電子は寂しがり屋
1-8 原子の中の電子
1-9 電子が結合する手の役目をする
1-10 2重結合や3重結合
1-11 結合に関与しない電子対
1-12 平面構造から立体構造へ
1-13 混成軌道とスピンー
1-14 さらに混成軌道について1-150やN原子も混成軌道を使う
1-16 第1章のまとめ

第2章 電子は動く
2-1 ベンゼン分子中の電子
2-2 異なる原子間の共有結合
2-3 電子を引っぱる強さ
2-4 より柔軟な電子の移動

第3章 化学結合は他にもないか
3-1 共有結合と本質的に同じ配位結合
3-2 プラスとマイナスの原子が作る結合
3-3 金属結合

第4章 原子の間に働く力
4-1 静電相互作用
4-2 ファン・デア・ワールス力
4-3 水素結合
4-4 疎水相互作用とは
4-5 結合や相互作用の強さの比較

第5章 分子の立体構造が決め手
5-1 2重結合のまわりでは回転できない
5-2 単結合まわりの自由回転はどこまで自由か
5-3 右手の分子と左手の分子
5-4 平面から立体へ

第6章 分子の形や化学結合を見る
6-1 原子を見るためには
6-2 X線を使って分子を見る
6-3 コンピュータで電子の挙動を探る

第7章 電子の動きで化学反応を理解する
7-1 非共有電子対よりラジカルな電子
7-2 エチレンの2重結合を単結合へ
7-3 アルコール
7-4 グリニャール試薬
7-5 亀の甲も怖くない
7-6 ベンゼン環では置換反応は容易に起こる
7-7 フェノールはなぜか
7-8 アスピリンを作ってみよう

第8章 素晴らしい分子の世界
8-1 分子の色
8-2 遺伝情報を蓄えるDNA
8-3 酵素の働き

さらに進んで勉強したい方のために
さくいん

高校で教わりたかった化学 (大人のための科学)

化学の「なぜ」がよくわかる

「なぜそうなるのか」を理解するための重要な説明を、この本は丁寧に解説しており、とても充実した内容となっています。化学に興味のある方や、化学の好きな方はかなり楽しく読めると思います。

渡辺 正 (著), 北條 博彦 (著)
日本評論社 (2008/2/1)、出典:出版社HP

まえがき

日本の壁紙は,紙に見えても9割までが塩ビ(ポリ塩化ビニル)だという。 なぜ塩ビを選ぶのか? 糖尿病の人はインスリンの注射を受けるが,飲める なら痛い思いはせずにすむ。インスリンはなぜ飲めないのか?……というよ うな,材料や物質の「なぜ?」を解き明かすのが化学です。

プラスチックや化粧品, 衣類や家電製品は化学の知恵と技術が産みました。 すっかり普及した携帯電話も,20種どころではない元素を絶妙に組み合わ せ,驚異の機能を出させる製品です。このように化学は,理数系のうちで暮 らしにいちばん縁の深い科目だといえます。

大学の化学系に進む人はせいぜい1~2%。つまり国民の大半が化学の勉 強を高校で終える以上,化学は暮らしに役立つ科目であってほしい。かたや 化学系に進む少数派は,大学につながる話を教わりたい。

でも現実は? 教科書は商品カタログに似た味気ないもので,先生は「商 品名」「説明書き」と簡単な計算を教えるだけ。入試がそれしか要求しない からですね。教科書の実験も,指示に従い決まった結果を出すものばかり。 「なぜ?」がないから心に響かず,役にもあまり立ちません。

第2の点(大学への接続)もあやしくて、高校化学と大学化学の間には、 とてつもなく高い壁,深い溝があるのです(終章)。 高校でどんなふうに教わったら、二つの願いはかなうのでしょう?

政治とは民から富を集めて再分配する仕事――という言葉に出合い,目か らウロコがポロポロ落ちた経験があります。それと似て、化学の核心を突く 言葉は何なのか?・・・・と,研究・講義生活の中でぼんやり考えながら何年も たったころ、こんな言いかたがぴったりだろうと気づきました。

【化学の原理】 置かれた環境のもと,電子も原子・イオン・分子も、でき るだけ居心地をよくしたい(エネルギーを減らしたい)。
ドライアイスが液体を通らずに気化し,食塩が水に一定量まで溶け,紙が 燃え,鉄がさび, アルカリが酸を中和するのも, さらには岩が少しずつ風化 してゆき、生き物が命を保つのも,原理に従って粒子たちが安定化を目指す 現象なのです。
実のところ原理は,ミクロな粒子のほか「物体」でも成り立ち、あらゆる 自然科学に当てはまる。扱う素材でとりあえず物理・化学・生物・地学に分 け,中学→高校→大学・・・・とバーを上げていくだけのこと。・・・・そう悟った 人間が、なるべく身近な素材を使いながら,高校化学の範囲に入る 14 個の 「なぜ?」や「どのように?」を解剖してみました。そんな本書は,「エネル ギーをもとに物質の性質や変化を見つめる本」だといえます。

化学は、未開の地も多い豊かな物質世界に分け入って創造(ものづくり) を目指す学問ですが,その手前で想像の力を要求します(序章)。目に見え ない電子や原子・分子の姿やふるまいを思い浮かべる力です。

ただし粒子の世界は,日本の高校化学では扱わない量子論に従います。量 子論の感覚なしには,周期表(2章)も,H2O 分子の形(5章)も,色の変 化(14章)も、ホントのところはわかりません。そこで想像の助けにと, 量子論の計算から出る粒子の素顔(電子書のたたずまいや電子エネルギー) を1~5章にちりばめました。
14 個の疑問を正面から扱ったため,数式が少し顔を出します(ことに中 盤の7~10章)。数式にあまり慣れていない方は、説明文だけをたどってく ださい。最初に読む際、むずかしそうな箇所は飛ばし読みしてかまいません。 ときには電卓を使いながら手を動かし,何度もつき合っているうちに,数式 の意味を含めた「化学の理屈」がつかめてくると思います。

本書はこのままで大学入試の攻略本にはなりませんが、入試問題の基礎に ある化学の本質はお伝えします。また、国際標準の高校化学カリキュラムは本書の内容をほぼ含むため(終章),化学オリンピック予選に挑む高校生諸 君の手引きとして役立つでしょう。

受験には縁のないシニアの皆さんと,受験しても化学はとらないジュニア 諸君は,中身を純粋にお楽しみください。また,中学や高校で化学を担当な さる先生がたに本書のココロをつかんでいただけば,学校の化学を「暗記モ ノ」から少しずつ脱皮させることにもなるだろうと信じています。

化学といえば・・・・の「実験」を扱う余地はありませんでした。物質に触れ, 理論を確かめる実験の大事さは重々承知しながらも,そちらは世にあふれる 実験書にゆずります。

ただし、見たりやったりすれば楽しい実験も,原子・分子レベルの「な ぜ?」がなければ,「あぁきれい,おもしろかった」で終わります。ビー カーの中で何かを反応させたとき,「真空中を飛び交う分子やイオンが毎秒 100 億回もぶつかり合い,原理に従って原子どうしが結合を組み替える」あ りさまを想像できたら,実感はぐっと深まるでしょう。

本書は大部分を渡辺が書き(本文中の一人称は渡辺),量子論の計算と5 章の執筆を北條が担当しました。

東京学芸大学附属国際中等教育学校の鮫島朋美教諭,同大学附属高校の岩 藤英司教諭,東京女学館中高校の柄山正樹教諭,東京大学の下井 守教授と 尾中 篤教授,早稲田大学の神崎夏子講師ほか数名の方からは,原稿に貴重 なコメントを頂戴しました。章扉や本文用の写真を提供してくださった方々 と本書の企画・刊行にご尽力いただいた日本評論社の佐藤大器氏にも深謝 します。

2008年1月 著者を代表して
渡辺正

渡辺 正 (著), 北條 博彦 (著)
日本評論社 (2008/2/1)、出典:出版社HP

目次

まえがき

序章 見えない世界
1章 安定な元素はいくつ?
2章 周期表とはなんだろう?
3章 ナトリウムのイオンはNa+なのに、なぜ窒素のイオンはNO3-のか?
4章 原子はなぜつながり合う?
5章 H2O分子は、なぜ「く」の字に曲がっている?
6章 モルとは何か?
7章 熱と温度はどうちがう?
8章 2H2 + O2 → 2H2Oの矢印は、なぜ右を向く?
9章 化学反応は,どのように進むのだろう?
10章 化学反応は,最後まで進みきるのか?
11章 水に溶けやすい物質と溶けにくい物質は,どうちがう?
12章 電池のパワーは、どこから出てくる?
13章 水を電気で分解するのに、なぜ硫酸などを溶かすのか?
14章 フェノールフタレインは、どうして赤くなる?
終章 教科書の記述は正しい…のか?

参考図書
付録1 標準生成ギブズエネルギーAGの例218
付録2 標準電極電位Eの例219
索引

渡辺 正 (著), 北條 博彦 (著)
日本評論社 (2008/2/1)、出典:出版社HP

序章 見えない世界


水滴(協力:高野清,撮影:倉科満寿夫)
液体の水は、おびただしい数の H.O分子が集まっただけのもので,分子と分子 のすき間には何もない。水滴の絶妙な形も,落ちる寸前におよそ 0.05 cm2 となる体 積も,H,0分子どうしの引き合いから生まれる。

原子や分子には、もう中学校理科の終わり近くで出合う。高校ではいきな り原子・分子・イオンの話になるけれど,なにしろ目には見えないものだか ら、以後の話が実感しにくい。だから私も高校の化学は好きになれなかった。
化学の話を実感するには、見えない世界を思い浮かべる力をつけたい。身 近な水と空気を素材にして,分子の大きさや数,動きなどのあらましから始 めよう。

1. クレオパトラの H2O

古代エジプト最後の王クレオパトラ(前 69 ~前 30年)は, ローマとの交 流で歴史に大きな名を残す。絶世の美女だったとも伝わる。
どれほどの大物だろうと美女だろうと,私たちと同じく、日にほぼ2リッ トルの水をとり、ぴったり同じ量を尿や汗に出し続けた。39年半の生涯で は約 25 m (25トン)にもなったはず。
地球をめぐる水

図1 地球上にある水
その他(多い順に塩湖・淡水湖・土壌水・水蒸気・河川水・生物内): 計0.02% ない。

人の体から出た水は,蒸発して大気氷河・氷冠に混じるか、水路や川を通って海に行 く。蒸発した分もいずれ雨や雪になっ て落ち、川や湖や海の水に混ざってし まう。
水の97.4%までは,平均深さ4000海水 mの海にある(図1)。水は海からし じゅう蒸発し,だいたい10日でまた 地球表面に戻る。そうした旅の途中,その他水をつくっている原子はけっして壊れない。
クレオパトラの死から2000年以上たつ。 海の表層には流れがあるし、深みには数百年で一巡する深層循環もあるため, 彼女の体から出た水は、もう地球のすみずみに行きわたった。
1滴の水
地球上には1,390,000,000,000,000,000 m(立方体にしたら一辺1100 km) の水がある。2000年前にクレオパトラの体を通った25mは、総量の 550億 分の1の、さらに100万分の1にあたる。
割合はごくわずかでも、水の1滴(約 0.05 cm2) は 1,670,000,000,000,000,000,000 個の H2O 分子 (図2)からできている。上と同じ比率なら,そ の1滴は「クレオパトラの H2O」を3万個も含む。 つまり, アマゾンの密林に落ちる露の1滴も,図2 H2O分子の形 さっき読者が飲んだコーヒーの1滴も,クレオパー トラの H2O 分子を3万個ほど含んでいる。コップ1杯の水 180 cmには1億 個,読者の体内には 200億個だ。
こうした数字が、分子の小ささをよく語る。目に見える大きさの物体は無 数の分子や原子からでき、そんな世界で1万個や1億個はゼロに近い。

図2 H2O分子の形

2. スカスカで騒がしい世界

水の素顔
H2O 分子は決まった大きさをもつ。それをもとにはじ いてみると、液体の水は体積の 60%近くまでが真空だ とわかる。すき間などなさそうな水も,意外にスカスカ なのだ。
また、水をかき混ぜるか揺するかしないかぎり、コッ プの中は静かそのものに見える。けれど理論や実験の結 果によれば,自由なH2O分子は秒速600 m で動き回り、 しじゅう仲間にぶつかっている。ある1個のH2O分子 が仲間にぶつかる回数は、毎秒16~10兆回にのぼる (7章)。
水に溶けた物質の粒子も,実験で使う濃度なら,毎秒100億~1000億回 ほど仲間にぶつかる。ぶつかったとき、どこかの結合が切れたり、新しく生 まれたりすることがある。それが化学反応の世界にほかならない(9章)。
温度と騒がしさ
熱湯と冷水はどこがちがう?・・・・この問いが,大学に入ってすぐ学ぶ「数 力学」で脳内がウニ状態だった私の目から, ウロコを何枚か落としてくれた。

(a)誤ったイメージ
(b) 実体に近いイメージ
図3 液体の水:誤ったイメージ(a)と,実体に近いイメージ (b)

水はH2O 分子の集まりだと中学で習う。頭ではそうかと思っても,「H2O分子の間に何かがある」イメージ(図3(a))が抜けきらない。化学史を振 り返ってみれば,私の脳みそは 200年前の人々と似たレベルだった。だが上 記の問いを頭に置いて考えるにつれ,「H2O分子が集まり,動き回っている だけ」というイメージ(図3(b))が少しずつはっきりしてきた。
皮膚の表面はタンパク質の分子ででき,温度計の先端にはケイ素や酸素の 原子が並ぶ。分子も原子も,たえず動いている。湯に指を入れたらH2O分 子がタンパク質分子にぶつかる。そのときタンパク質分子はエネルギーをも らって運動が活発になり、神経細胞に信号を生み,私たちは「熱い」と感じ るのだ(7章)。
空気はほとんど真空
空気は透明だし、重さも感じないけれど、けっして「無」ではない。数字 で当たってみよう。空気1mの重さは1.2 kgで、普通サイズ(9 m × 7.5 m×3m)の教室は容積が約 200 m 。密度をかけた空気の重さ240kgは大 人の体重およそ4人分だから、空気も意外に実質がある。
ただし空気のスカスカ度は、むろん水どころではない。長さを2000万倍 に拡大したら、空気はおおよそ図4(天地の幅と同じ奥行きをもつ箱)のイ メージになる。いちばん多い窒素分子 N2(同じ倍率でサイズ6mm)がかろうじて1個だけ見え、白い部分(体積で99.96%)は真空だ。
図4 2000万倍に拡大した空気の姿

おなじみの組成(窒素:酸素 4:1)に合う「窒素分子4個+酸素分子 1個」を見たいなら、5個の箱を合体させなければいけない。さらに,合体 50 箱でH2O分子1個が,100 箱でアルゴン原子1個が顔を出す。近ごろ話 題になる二酸化炭素は,2500 箱の合体でようやく1分子が見える。
分子の動き
図4の矢印は、1兆分の1秒間に N2分子が飛ぶ平均距離を表す。分子サ イズから計算すると、矢印のほぼ 200倍の距離を飛ぶたびに分子は別の分子 とぶつかる。つまり、ある1個のN2分子は,毎秒 50 億回も仲間と衝突をく り返す。容器に入れた分子なら、壁にもしじゅうぶつかっている。
見た目は静かな空気の中で進むこういう騒がしいドラマが,気体の圧力を 生み(7章), 光化学スモッグをつくる。

3. 万物は万物を含む

空気の成分
図4の拡大率だと窒素分子1個しか描けない空気も,目に見える体積には 万物を含む。呼吸1回で吸う空気 500 cm の成分を眺めよう。

窒素(78%)から酸素・水蒸気・アル ゴン・二酸化炭素(0.04%)ネオン・へリウム (0.0005%) ・メタン・クリプトン・水素・一酸化炭素・一酸化二窒素・キセノン(0,00001%)までの13種は除き,きれいな空気 500 cm が含む物質のうち,猛毒の一部を表1にまとめた。
表1 空気 500 cm”が含む有害物質(一部)

物質 分子・原子数
オゾン(O3)分子 240兆個
二酸化硫黄(SO2)分子 60兆個
アンモニア(NH3)分子 10兆個
硫化水素(H2S)分子 6000億個
水銀(Hg)原子 3000億個
鉛(Pb)原子 50億個
塩化水素(HCl)分子 10億個
ダイオキシン分子 1億個

図表1.有害物質
表1のリストは氷山の一角だ。1万個 レベルまで見れば、最強の発がん物質ベンズピレンを始め,何千何万種とい う毒性気体も並べなければいけない。とはいえ,さっき述べたように,1万 個だろうと1兆個だろうと「ものの数ではない」ため,健康に問題を起こす 量ではない。
空気 500 cmが含む分子の総数と,成分いくつかの個数を比べたら,下の ように書ける(表1を見ながら,ほかの成分も書きこんでみよう)。
体の成分
私たちは日ごろそんな空気を吸っている。食卓にのぼる生物(食品)も, そんな空気や,おびただしい種類の物質を含む土と水に触れながら育った。 きれいな米ひと粒が5兆個のカドミウム原子を含み,人体の組織1 mgが PCB分子を100億個ほど含むのも、だから不思議なことではない。
高級な装置で人体の組織を分析すれば,水素からウランまでの全元素がつ かまる。金も銀も白金も,ヒ素も水銀もタリウムも入っている。
以上のような感覚を身につけたら、健康にからむ環境問題を見る目もだい ぶ変わってくるだろう。

4. 目に見えないものを「みる」

ソンな分野
ロボットや建築の研究なら, 成果がくっきりと目に見え,話 もわかりやすい。ソフトウェア の開発も成功・失敗は一目瞭 然。かたや化学は,目に見えな い原子・分子を相手にするから 他人に説明しにくい。ソンな分 野だ。

図5 光学顕微鏡で見た単細胞生物の珪藻
(提供:ニコン・大木裕史)

0.01 mm ものを見るには可視光を使う。波長(14章)以下のものは識別できないため、最先端の光学顕微鏡も分解能は 0.0003 mm どまり(図 5)。原子・分子はその3桁も下,1億分の1cm の世界にいる。
とはいえ科学はそこに突破口を開けた。中学・高校ではまず無理だが,大 学や大学院に進むとミクロ世界を覗く手段あれこれに出合う。その一部を眺 めておこう。
理論・計算でつかむ
筋のいい理論があれば、見えた現象から見えない世界の出来事をつかめる。 たとえば,一定時間の反応で生まれた物質の量は,分子やイオンが1秒間に ぶつかり合う回数を教えてくれる(7章)。
可視光でなければ見える !
X線の波長は1億分の1 cm 以下しかない(14章)。結晶に当てたX線は 決まった方向に強く反射され,そのパターンが,原子のつながりかたを物語 る(5章)。
1980年代には,1億分の1 cm ほど離れた原子間に流れる 電流や,原子間に働く力を測っ て原子や分子を「みる」道がひ らけた。電流を測る装置を走査 トンネル顕微鏡(STM), 力を 測る装置を原子間力顕微鏡 (AFM)という。AFM を使うと,ケイ素=シリコンの表面が図6のように見える。

図6 AFM で見たケイ素結晶の表面
(提供:川勝英樹)

このように先端科学では原子や分子が「みえて」きた。本書に登場する分 子やイオンの姿も、空想の産物ではなく、確かな裏づけがある。

5. 足元の闇

小学校の算数では加減乗除の計算と推論の初歩をやり,中学高校では方程 式やグラフを学ぶ。小~中~高の連続性がよくて,原点となる1 + 1 = 2 には一点の曇りもない。だから、ある段階までの力は誰でもつく。
化学の宿命
化学はそこが苦しい。原子・分子の世界に日常感覚は通用せず,高校物理 もお手上げだ。なにしろ水素原子の素顔さえ、日常感覚にまるで合わない (1章)。化学反応も,色の変わる現象も,そういうつかみどころのない原子 が起こす。つまり化学は、どうしても手さぐり前進になる宿命をもつ。
原子の性質は電子が決め、電子のふるまいは量子論に従う。周期表の姿 (2章)もH2O 分子の形(5章)も,量子論の感覚なしにはわからない。
量子論は大学の内容だから、とりあえず深い理解はあきらめよう。とはい。 え,高層ビルから見下ろせば建物の位置関係がつかめるように,量子論のサワリを知れば見晴らしがよくなる話も多い。そう思って本書では,さっそく 次の1章から,ときどき量子論の結果をもち出す。ちなみに海外諸国は,量 子論の初歩を高校化学の必修項目にしている(終章)。
量子論を含め、日本の高校であまり教えない話題は11で囲った(第1号 が次ページにある)。飛ばしてもかまわないけれど,お読みいただけば霧も 晴れ手さぐりの不安が減ると思う。

6.「化ける」もと=エネルギー

変化の向きとエネルギー
リンゴが下に落ちるのも,川が海へと 高 流れるのも,エネルギーを減らしたいと いう自然の本性が起こす。そうした変化 は,上下をエネルギー軸として,図7の ように表せばわかりやすい。
図7 自然に起こる変化

同じことは化学変化にも成り立つ。日 本の高校ではおもに熱の形で出入りする
エネルギーを考える。けれど粒子の「バ ラバラになりたい」性質から来るエネル ギーもあって、両方を考えないかぎり変化の向きはわからない(8章)。二 つの和を改めて「エネルギー」とみたとき,化学変化はこうまとめられる。
1 物質はエネルギーが高いほど不安定 = 活性で,低いほど安定 = 不活性。
2ひとりでに起こる変化は、必ずエネルギーが減る向きに進む。
エネルギーの単位
エネルギーはJ(ジュール)単位で測る。約1kgの物体を 10 cm もち上げ るのに必要なエネルギーが1J ・・・・というピンとこない単位だが,やむをえない。むかし使った cal(カロリー)は、「1 cal = 水 1g の温度を1°C上げる。 エネルギー」というわかりやすい単位だった(1 cal = 4.18 J)。
化学では物質の量をモル単位で測るため(6章),エネルギーもモルあた りにする。ただし」だと値が大きくなるから,ふつうは 1000 倍のkJ を使っ て kJ/mol(キロジュール・パー・モル)と書く。たとえば酸素分子O=O の結合を切ってバラバラのO原子とするには,約 500 kJ/mol のエネルギー がいる。
電子ボルト(eV)という単位
値が数百になるうえ「キロ(1000)」もつく「kJ/mol」という単位は,まだ 少々わかりにくい。日本の高校では使わないけれど,便利な eV(読みは「電子ボ ルト」か「エレクトロン・ボルト」か「イー・ヴィー」)という単位を紹介しょ う。1eVは「電圧 1Vで加速された電子1個のエネルギー」を表し,kJ/mol との 間には次の関係が成り立つ。
1eV = 96.5 kJ/mol 「原子間の結合エネルギー(4章)は2~6eV,原子のイオン化エネルギー(2 章)は3~25 eV, 可視光のエネルギー(14 章)は 1.7 ~ 3.1 eV の範囲に入り, 余計な指数もつかないため、扱いやすいし覚えやすい。そのため次章から,一部 の話では eVをエネルギーの単位に使う。

7.まとめ

以下の章を読み進めるときは,次の3点をいつも心に置こう。
1 原子・分子は目に見えない(が,まちがいなく実在する)。
2 原子・分子の姿や性質をつかむのに、日常感覚は役に立たない(が,私たちには想像力がある。想像の翼をめいっぱい広げよう)。
3 物質が変化する話になるたび、図7のイメージを思い起こそう。

渡辺 正 (著), 北條 博彦 (著)
日本評論社 (2008/2/1)、出典:出版社HP

新しい高校化学の教科書―現代人のための高校理科 (ブルーバックス)

楽しく化学を学べるコンパクトな1冊

化学についての一般常識を身に付けたい社会人や、背伸びして高校化学を学びたい中学生におすすめの一冊です。身近な内容や最近の話題などを取り入れ、全体の内容としても面白いものとなっています。

はじめに

―もっと面白い、やりがいのある理科を!

化学、生物、物理、地学の4教科がそろったブルーバックス高校理科教科書シリーズは、すべての高校生に読んでもらいたい、学んでもらいたい理科の内容をまとめたものだ。理系だろうと、文系だろうと、だれもが学習してほしい内容を精選してある。
そして、本シリーズ4冊を読破することで、科学リテラシー(=現代社会で生きるために必須の科学的素養)が身につくことを目指している。
本シリーズの特長を紹介しよう。

(1)内容の精選と丁寧な説明
高校理科の内容を羅列するのではなく、検定にとらわれずに「これだけは」という内容にしぼった。それらを丁寧に説明し、「読んでわかる」ことにこだわり抜いた。
(2)読んで面白い
「へぇ~、そうなんだ!」「なるほど、そういうことだったのか!」と随所で納得できる展開を心がけた。だから、読んでいて面白い。
(3)飽きさせない工夫
クイズ・コラムなどを随所に配置し、最後まで楽しく読み通せる工夫をした。
(4)ハンディでいつでもどこでも読める
持ち運びに便利なコンパクトサイズ。電車やバスの中でも気軽に読める。

本書『化学』編も、以上の特長を備えている。
また、とくに次の諸点も工夫したつもりだ。
化学は「物質の性質、構造、反応を研究する学問」である。その学問の性格にふさわしく、いつも具体的な物質をメインに据えながら説明するようにした。物質にはくり返し化学式をつけて、化学式に自然に慣れ親しむようにした。
現在の中学校理科の化学領域では、原子の内部構造を一切学習しない。原子核も電子も「発展」として一部の生徒が学習するだけである。原子核、陽子、中性子や電子は高校で初めて学ぶのだ。そこで、そんな中学校理科の化学領域からでもスムースに入っていけるように、まず原子について丁寧にわかりやすく説明している。
原子のモデルについては、あえて、電子配置をボーアモデル(K,L,M,…殻)にとどめ、そのレベルで丁寧な説明をすることにした。
化学と生活、環境との関わりについては、とくに意識的に取り上げた。化学が生活や環境と密接に関係しており、化学を学ぶことで生活や環境を化学の目で見ることができることを願っているからである。

本シリーズ4冊は、高校生の他に、こんな人たちにも読んで欲しい。
・少しでも科学的な素養を身につけたいと願う社会人
・化学、生物、物理、地学をもう一度きちんと学習したいと考える社会人
・化学を勉強せずに工学部に入った大学生、生物を勉強せずに医学部に入った大学生
・試験の問題は解けるのだが、ものごとの本質がよくわかっていないと感じる大学生

なお、このブルーバックス高校理科教科書シリーズ4冊は、ベストセラーとなった中学版『新しい科学の教科書I~Ⅲ』(文一総合出版)と同様、有志が集い、教科書検定の枠にとらわれずに具体的な教科書づくりをした成果である。

最後に、ブルーバックス出版部には、原稿について忌憚のない意見をいただき、よりよいものに改善することができた。感謝申し上げる。

2006年1月20日
編著者 左巻健男

もくじ

はじめに

第1章 物質を作るおおもと——原子
1-1 ものは原子の建築物
1 そもそも「もの」って何?
2 物質を研究する学問——化学
3 「もの」を作るおおもと

1-2原子の内部はどうなっている?
1 原子の構造

1-3 化学反応と物質の量
1 私たちの周りは化学反応でいっぱい
2 化学反応と化学反応式
3 物質量
4 電子配置

第2章 原子と原子の結びつき——化学結合
2-1 イオンとは何もの?

2-2 いろいろな化学結合
1 物質のでき方
2 原子がくっつくパターンは3種類
3 陽イオンと陰イオンの結合
4 分子を作る結合
5 分子同士がくっつくと
6 分子にもあるプラスとマイナス
7 ダイヤモンド、フラーレン——ハイテク素材
8 金属結合と金属
9 結合による物質の分類とその性質

第3章 物質の状態
3-1 物質の三態
1 熱と温度と水(物質の状態変化)
2 気体の分子運動と圧力
3 液体の蒸発と蒸気圧

3-2 気体の性質
1 気体研究の歴史
2 気体の体積変化
3 気体の状態方程式

3-3溶液
1 なぜものは液体に溶けるのか
2 水に溶けやすいものと溶けにくいもの
3 固体の溶解——溶解量に限界があるのはなぜか
4 気体も水に溶ける
5 溶液の濃度の表し方
6 溶液の蒸気圧と沸点・凝固点
7 植物の吸水の秘密——浸透圧
8 溶液のように見えて溶液ではない——コロイド溶液

第4章 化学変化の仕組みといろいろな反応
4-1 化学変化と熱の出入り
1 物理変化と化学変化
2 化学変化と熱の出入り
3 エネルギーから見た発熱反応と吸熱反応
4 結びつくと熱が出る

4-2 反応速度と化学平衡
1 反応速度
2 反応速度式
3 反応速度とエネルギー
4 化学平衡
5 平衡移動の原理(ル・シャトリエの法則)

4-3 酸と塩基の反応
1 酸性
2 アルカリと塩基
3 酸・塩基の価数
4 酸・塩基の強弱
5 水のイオン積
6 pH
7 pH指示薬
8 中和反応の本質
9 中和反応の量的関係

4-4 酸化還元反応
1 酸化と還元
2 酸化数
3 酸化剤と還元剤
4 金属のイオン化傾向
5 電池
6 電気分解

4-5 空気の酸性化
1 「空気で消えるペン」と「色が消えるのり」
2 酸性雨とは
3 酸性雨の成分
4 解体屋・OHラジカル
5 SOxとNOx(硫黄酸化物と窒素酸化物)
6 酸性雨による被害
7 空気の酸性化

第5章 無機物質
5-1 非金属元素の単体と化合物
1 元素の周期表と五大物質
2 ハロゲンの単体と化合物
3 酸素とオゾン、硫黄
4 窒素とリン
5 炭素とケイ素
6 水素と希ガス

5-2 金属元素の単体と化合物
1 強い塩基になる元素
2 アルミニウム、亜鉛
3 鉄と銅
4 銀、金、白金
5 水俣病とイタイイタイ病——水銀、カドミウム

第6章 有機化合物
6-1 有機化合物とはどんな化合物だろう
1 有機化合物(有機物)とは
2 有機化合物の定義
3 有機化合物の特徴
4 有機化合物の構造と分類

6-2 脂肪族炭化水素
1 有機化学の基本——鎖状の飽和炭化水素、メタン系炭化水素(アルカン)
2 鎖状の不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素 (アルケン)とアセチレン系炭化水素(アルキン)
3その他の脂肪族炭化水素
4 脂環式炭化水素

6-3 芳香族化合物
1 ベンゼンの特別な安定性
2 その他の芳香族炭化水素
3 ベンゼン環上で起こる反応
4 芳香族化合物の側鎖で起こる反応

6-4 アルコール、アルデヒド、ケトンなどの有機化合物
1 アルコール、フェノール、エーテルの仲間
2 光学異性体
3 アルデヒド、ケトン、カルボン酸
4 アミン、アゾ化合物、カップリング

第7章 高分子化合物
7-1 天然高分子化合物
1 高分子化合物とは
2 糖・デンプン・セルロース
3 アミノ酸・タンパク質
4 天然繊維

7-2 合成高分子化合物
1 付加重合で作られるポリマー
2 縮合重合で作られるポリマー
3 熱硬化性の樹脂
4 ゴム

第8章 人間と化学のかかわり
8-1 生活と化学
1 食品の化学
2 リサイクルの化学
3 温室効果ガスと地球温暖化
4 水環境と化学

8-2 フロンとオゾン層
1 「夢のような化学物質」フロン
2 オゾン層のすがた
3 オゾン層が生まれる仕組み
4 フロンのゆくえ(ローランドとモリーナの考え)
5 オゾン層破壊の犯人をつきとめる
6 世界がふるえたオゾンホール
7 フロン禁止、そして
8 オゾン層破壊と異常気象
9 代替フロンはどんな物質か
10 フロン削減と環境問題

8-3 生命と化学
1 デオキシリボ核酸DNA
2 酵素・分子認識
3 強力な生理活性を持つ化合物
4 医療用材料の化学
5 医療技術の進歩

付録
参考図書
さくいん

Newton別冊『学びなおし中学・高校化学 改訂第2版』 (ニュートン別冊)

身近な化学を学ぶ

身近な事例を多く取り上げながら、中学・高校で習う化学の基本を2章立てで紹介しています。身近なことに焦点を当てている点がこの本の特徴であるため、とてもとっかかりやすく、読みやすくまとめられています。これから化学を学ぶ生徒のみなさんや、学びなおしたい大人の方々にお勧めします。

ニュートンプレス
ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/6/18)、出典:出版社HP

はじめに

「化学なんて私には無縁」。そう感じる人もいるかもしれません。しかしあらゆる学問の中で,私たちの暮らしに最も身近で,最も欠かせないものが化学だといっても過言ではありません。化学の成果は,私たちの暮らしを便利に,そして快適にしてくれました。食品・日用品・スマートフォンといった身近なものに注目すれば,私たちの毎日がいかに化学に支えられているかがわかることでしょう。

本書は,身近な事例を多く取り上げながら,中学・高校で習う化学の基本を2章立てで紹介しています。

1章では,キッチン,家電製品,街や環境に目を向けながら,身近にひそむ化学のしくみを紹介していきます。2章では,物質の化学的な基本単位である原子の構造や,化学の“ガイドマップ”である周期表のくわしい読み解き方,化学反応のしくみなど,化学のテーマごとに解説していきます。

中学・高校で習う化学の範囲と本書のページとを示した対照表も収録していますので,本書を読んで道に迷った際には参考にしてください。

これから化学を学ぶ生徒のみなさんや,学びなおしたい大人の方々に,本書を通じて化学の面白さを実感していただければ幸いです。

2020年6月

ニュートンプレス
ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/6/18)、出典:出版社HP

目次

プロローグ
化学は身近なサイエンス
Interview 桜井弘博士

1 “見る教科書”化学
監修 桜井弘
イントロダクション ①~②
PART1 キッチンの化学
アボガドロ定数
浸透圧
酸と塩基
中和と塩
有機化合物
官能基
異性体
ベンゼン環
油脂

PART2 家電製品の化学
レアメタル
リチウムと電池
酸化・還元
ガラス
液晶
ハロゲン
気化熱

PART3 暮らしの化学
超臨界流体
燃料電池
触媒
プラスチック
生分解性プラスチック
炎色反応
同素体

資料編
周期表
無機化合物の反応
有機化合物の反応
本書と学習指導要領の対照表

2 もっと知りたい! 中学・高校化学
協力 玉尾皓平/桜井弘/岡部徹/松本正和/高橋邦夫/川那辺洋
林潤/中村栄一/伊藤章/中坪文明
PART1 原子の構造と元素の周期表
物質の探究
現在の周期表
周期表と電子配置
遷移元素
原子量と同位体
原子の半径
イオンの法則
イオンへのなりやすさ

PART2 元素の性質を知ろう
アルカリ金属
炭素とケイ素
貴ガスと水素
金属と性質と炎色反応
レアアース(希土類)
人体を構成する元素
宇宙の元素存在度

PART3 ものはどのように結びつく?
原子どうしの結合
分子どうしの結合 ①~②
ものの状態の変化 ①~②
気体の状態方程式
固体の構造

PART4 化学反応を学ぼう
化学反応とは
水に溶けるとは
酸・塩基と中和
中和と塩の性質
酸化と還元
炎と燃焼
イオンと電池

PART5 炭素が生み出す有機化学
有機化学と無機化学
周期表で見る炭素の“強み”
有機物の骨格
官能基のカラクリ
異性体
自然界の有機物
細胞の部品
人工の有機物
石油化学
薬学と有機物
有機化学の未来

ニュートンプレス
ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/6/18)、出典:出版社HP

化学は身近なサイエンス

スマートフォンも,紙も鉛筆も,あらゆるものが化学の結晶です!

「化学」のことを,遠いどこかの研究室で行われている,むずかしい学問だと思う人がいるかもしれません。しかし,それはあまり正しくありません。スマートフォンはもちろんのこと紙や鉛筆も,そして生きているあなた自身も,実は化学の結晶です。化学は,身近なサイエンスなのです。日々の生活を思い返して,ふだん何気なく見のがしている身近な化学をいっしょにさがしてみましょう。

執筆 桜井弘
京都薬科大学名誉教授

21世紀に生きている学生のあなたや化学を学び直そうとされるあなたと今日は身のまわりの化学について,少し考えてみることにしましょう。

あなたはきっと,スマートフォン(携帯電話)を毎日使っていることでしょう。スマートフォンで最もよく見るところは,文字や画像を映しだす画面ですね。この画面は,液晶という物質からできています。液晶は,炭素や水素,窒素,酸素などからなる有機化合物がつながった,大きな分子です。画面をより美しくみせるために,液晶にはいくつかの物質が加えられていて,中でも「インジウム」という元素がとくによく用いられています。
電車の中などでスマートフォンをマナーモードにしているとき,友達から電話やメールを受信すると,スマートフォンが振動してあなたに知らせてくれます。これは,スマートフォンの中に入っている,ごく小さなモーターが振動するからです。モーターを強く振動させるために,モーター内部にあるネオジム磁石には,「ネオジム」や「ホウ素」といった元素が加えられています。

スマートフォンには,ガリウムやリチウムも必要

スマートフォンの話を少ししただけなのに,日ごろあまり耳なれない。インジウムやネオジムなどの言葉がでてきました。でも,これでおどろいてはいけません。

スマートフォンをおおっているカバーを取りはずすと,とても複雑で小さな部品や回路があらわれます。これらの部品や回路には,骨格となるプラスチックや鉄,チタン以外に,タングステン,ニッケル,パラジウム,タンタル,ジルコニウム,ガリウム,リチウムなど,もうめまいがしてしまうような名前の元素が使われています。もしこれらの元素がなければ,スマートフォンはできないし,またすばらしい機能も生まれないのです。
スマートフォンに限らず,最近の薄型テレビやパソコン,ハイブリッドカーなどは,すべてこのような多くの種類の元素を必要としています。つまり,精密な機器や乗り物は,こんなにも多くの元素がなくてはできないものなのです。
精密な機器という言葉を使いましだが,実は,あなた自身こそ生きている精密機器です。あなたには,いったいどんな元素が含まれていると思いますか?
ヒトの体には,酸素や炭素,水素,窒素,カルシウム,リンなどの元素が,とても多く含まれています。さらに,硫黄やカリウム,ナトリウム,塩素,マグネシウムがその次に多くあります。しかし,ヒトは,これらの元素だけでは生きていけません。鉄,亜鉛,マンガン,銅,セレン,モリブデン,クロム,コバルト,ケイ素,ヨウ素,ホウ素などの元素がごくわずかにないと,ヒトは生きるエネルギーをつくることも,空気中の酸素を使って呼吸することもできません。
スマートフォンの高い機能を引きだすためには多くのめずらしい元素が必要であるように,あなたが生きていくためにもたくさんの種類の元素が必要なのです。
※:薄型テレビは,フラットパネルディスプレーを採用し,液晶パネル,プラズマディスプレーパネル,有機ELディスプレーパネルなどを使ったテレビのことで,極めて薄く,大型画面で大変見やすい。

氷の水分子は,整列して空洞をつくっている

ここでもう一度確認してもらいたいのは,あなた自身だけでなく,あなたが日ごろ使っている身近なものは,すべて元素でできているということです。私たちの身のまわりのものや自然界の物質をつくっている元素には,約90の種類があって,それぞれの元素は同じ名前の原子からできています。
そして,スマートフォンや私たちの体をつくっている元素(原子)は,それぞれ独立して存在しているのではなく,いくつかの元素(原子)どうしが結合して,分子として存在しています。水やアルコール,あるいはアミノ酸などは,すべて分子です。
私たちが住む地球には,一体どれくらいの種類の分子があるかを想像できますか?これまでにみつかった自然界に存在する分子と,長い時間をかけて人々が歴史の中でつくってきた分子を合計すると,2020年現在,約2億個以上にのぼります。この数は,毎日ふえていく一方です。私たちは日々,無数の元素と分子の組み合わせに囲まれて生きているのです。つまり,私たちの身近にあるものや現象は,すべて化学の対象なのです。いくつかの例を見てみましょう。
あなたは朝おきると,歯をみがいて,口を水ですすいで,それから朝食をとるでしょう。あなたが使っている練り歯みがきは,炭酸カルシウムやリン酸水素カルシウム,水酸化アルミニウムとよばれる分子を主成分としています。そしてそれにさわやかな香りをつけたり,虫歯予防のためのフッ化ナトリウムを加えたり,ある種の殺菌剤を加えたりしてできています。
次に,口をすすぐ水です。水は,1個の酸素原子(0)と2個の水素原子(H)からできている水分子(H2O)の集団であることは,すでに知っていますね。水分子は,「H-O-H」の順番で結合しています。この「H-O-H」は直線ではなく,104.5度の角度で,結びついています。
水分子どうしは水分子中の水素原子を仲立ちにして,長くつながるか,大きなかたまり(これを「クラスター」とよんでいます)をつくっていることがわかっています。しかし,水がどれくらい大きなクラスターをつくっているかについては,まだ十分にわかっていません。このことから,水は不思議な物質といわれています。
ところで,あなたは,氷も石油も水に浮かぶことは知っているでしょう。この二つの物質は,水の密度よりも小さいために水に浮かびます。でも,水と石油はまったくことなった物質です。
水は常温ではさらさらしていて,水分子が自由に動きまわっています。ところが0℃以下になると,水分子が規則正しく整列して,結晶(氷)に変化します。水も氷も同じ水分子なのに,分子の並び方がことなると,まったくちがった性質の物質に変化するのです。
氷は水分子と水分子の間にたくさんの空洞があるため,水よりも密度が小さくなります。同じ体積でくらべたとき,水の質量を1とすると,氷の質量は0.92です。氷が水に浮かぶのは,このためです。
一方の石油は,炭素原子の数が10~15個つながり,そのめいめいの炭素に水素原子が結合した分子です。同じ体積でくらべたとき,水の質量を1とすると,石油の質量は0.8~0.9です。これが,油が水に浮かぶ理由です。ついでに,石油に氷を入れたらどうなるかも,考えてみましょう(答はこのページの下)。
石油からつくられるものに,ペットボトルがあります。あなたもたまには,ペットボトルに入った天然水やジュースを買うはずです。このペットボトルの「ペット」の正式な名前は,「ポリエチレンテレフタラート」といいます。英語で表記した名前「polyethylene terephthalate」の略号が「PET」であることから,ペットとよんでいるわけです。
ペットは,エチレンテレフタラートという小さな分子が,およそ160個も直線状につながった大きな分子です。ペットボトルのほかに,写真のフィルムや磁気テープ,衣服などの繊維としても使われ,私たちの身のまわりに実に多くの製品があります。

1年に平均1トンもの食品がヒトの体を通過

さて,朝食にしましょう。私たちが毎日食べる食品は,おどろくほど多くの元素や分子でできています。大ざっぱにいえば,「炭水化物」,「タンパク質」,「脂質(油)」があり,これらは「三大栄養素」とよばれています。
炭水化物の一つであるデンプンは,「アミロース」と「アミロペクチン」という2種類の物質からできています。アミロースはブドウ糖が数十個から数千個直線状につながったもの,アミロペクチンは数万個のブドウ糖が枝分かれしてつながったものです。
タンパク質は,アミノ酸がいろいろな組み合わせで数珠つなぎになった物質です。アミノ酸は全部で20種類あり,中には硫黄を含むものもあります。血液の赤い色素は,「ヘモグロビン」という大きなタンパク質で,酸素を肺からとりこみ,全身に酸素を送っています。脂質は,「脂肪酸」と「グリセリン」という2種類の物質からできていて,高エネルギーです。
私たちは,三大栄養素だけでは健康を保てません。ビタミンやミネラルとよばれる無機元素をごく少量必要とし,さらに食物繊維なども必要です。たとえば,ビタミンAやビタミンB1が不足すると,それぞれ夜盲症や脚気という病気になります。鉄や亜鉛が不足すると,それぞれ貧血や味覚異常があらわれます。
私たちは,1年に平均して1トン(1000キログラム)の食品を取り入れています。ヒトの平均寿命を84年とすると,一生の間に84トンもの食品をとることとなります。これらがすべて元素や分子の形で体を通過して,そしてそれらが24時間中体内で化学反応を受けると考えると,想像をこえるものがあります。

黒鉛が鉛筆の芯から紙へ,紙から消しゴムへ

朝食を食べ終わると,学校へ,社会へ飛び出していきます。社会人生活をリタイアされた方もいらっしゃるかも知れません。学生のみなさんは,学校でたくさんの勉強をすることでしょう。
本やノートをつくっているのは,紙です。紙は,紀元前2世紀ころに中国で生まれ,蔡倫という人が実用化したと伝えられています。紙は,「セルロース」という物質からできています。セルロースはブドウ糖が直線状につながった大きな分子で,炭水化物の一つです。
授業中,黒板の文字をノートに写し取ったり,教科書の問題をノートで解いたりします。もしうっかりまちがえてしまっても,鉛筆やシャープペンシルの文字は消しゴムで消せるから安心です。
1770年イギリスの化学者ジョゼフ・プリーストリー(1733~1804)は,鉛筆の文字が天然のゴムで消えることを発見しました。その2年後の1772年,ロンドンで初めて消しゴムが販売されると,またたく間に世界中に広まったそうです。プリーストリーは,さらに2年後の1774年に,空気中に酸素分子があることを発見して有名になりました。ではどうして,鉛筆の文字は消しゴムで消えるのでしょうか?
鉛筆の芯は,黒鉛(炭素のみからできていて,「グラファイト」といいます)と粘土を,1000~2000°Cで焼き固めたものです。鉛筆の芯を紙に押しつけると,黒鉛が紙の表面に移り,文字となってみえます。このとき,鉛筆の芯はかたいため,黒鉛が紙の凹凸の中にはあまり入っていきません。その上を消しゴムでこすると,今度は黒鉛が消しゴムにくっついて,紙をはがすことなく文字を消すことができるのです。
最近では,ゴムのかわりに「ポリ塩化ビニル」とそれを固まらせる物質(可塑剤といいます)でできたプラスチック字消しが使われています。あなたも,きっと使っているでしょう。ゴムが含まれていないのですから,もはや“消しゴム”とはよべないことに注意してください。このプラスチック字消しは,わが国で考えられたものです。

これまで,いくつかの身のまわりの化学のことを紹介してきました。私たち自身や私たちの日々の生活が,歴史と化学の結晶でなりたっていることをわかっていただけたと思います。そして化学のことを,前よりも好きになっていただけたのではないでしょうか。

ニュートンプレス
ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/6/18)、出典:出版社HP

Newton Special Interview 桜井弘博士

真っ白な紙に絵をかくように,物質をつくりだす

高校のころは化学の授業に興味をもてず,ついにはきらいになってしまった。そんな桜井博士は,一転,大学で薬学を学び,化学の道へ進んだ。現役の研究者時代には,新薬のもとになる化合物を生みだし,「元素」に関する書物をいくつも世に送りだしてきた。現在は,子供から大人まで幅広い世代に元素や化学のおもしろさを伝える活動を行っている。桜井博士に化学の楽しさをうかがった。

○N 今日は京都大学総合博物館でお話しをうかがうことになりました。現在,桜井先生は,ここで毎週土曜日に開催されている「子ども博物館」というもよおしにボランティアとして参加されているそうですね。
桜井 子供たちに「えれめんトランプ」というカードゲームを紹介しています。もともと京都のある高校の先生が発案されたもので,それを株式会社化学同人が制作し,発売しているものです。私は監修者として協力しています。
118ある元素それぞれのカードと,素粒子のカードがあり,それらを使って「UNO」のような遊びをします。子供たちは夢中になって遊んでくれますよ。なかにはすべての元素を覚えてしまっている子もいて,私も負けることがあります。
○N 子供の記憶力はときにおそろしいほどすごいことがありますね。
先生ご自身は,どのような子供だったのですか?
桜井 私は絵をかくのが大好きな少年でした。クレヨンや水彩絵の具でいろんなものをえがいていました。将来は画家になりたいと漠然と思っていました。今でも絵をかくのは好きで,最近よくやっているのは木の板にえがくことです。
○N化学の道に進もうと思われたのは,いつのことなのでしょうか?
桜井 大学です。高校のころは,授業に興味をもつことができなくて,ついには化学がきらいになってしまいました。ただ,デンプンとか脂肪とかの化学構造を立体的にえがくことは好きでしたね。大きな紙に何度もえがいてながめているうちに,その構造の美しさやユニークさにひかれていきました。
高校を卒業したあとは,美術系の大学か文学部へ進みたいと思っていたのですが,父のすすめにより,薬学部へ行くことにしました。「これからは化学の時代だ」といわれたのを覚えています。

「錯体」と出会った日は感動で眠れなかった

○N京都大学の薬学部に入られたわけですが,最初から研究者を志していたのでしょうか?
桜井 いいえ,就職しようと考えていました。
○Nどうして研究者の道を歩むことになったのですか?
桜井 どうしてでしょうね,だんだんとそう思うようになったのでしょうか。
印象的なできごとがあったのは,薬学部に入って3年目の実習のときのことです。助手の方が自分で合成したばかりだという新しい化合物をもってこられて,それと金属イオンとを反応させる実験を見せてくれました。二つを混ぜたとたんパッとあざやかな色が試験管いっぱいに広がり,まるで手品を見ているようでした。おどろきと感動でその日は眠れませんでした。化学には,こんな世界が広がっているのだと夢見る思いでした。
これが「錯体化学」とのはじめての出会いでした。
○Nその後,半世紀近く研究者として関わることになる「錯体」ですね。錯体とは,どのようなものなのでしょうか?
桜井 錯体は,金属とおもに有機化合物が結合した化合物のことです。「錯塩」ともいいます。
身近なものなら,血液中の赤血球に含まれている「ヘモグロビン」が錯体です。タンパク質という有機化合物に,金属の鉄がくっついたものです。
「シスプラチン」という化合物を知っていますか?がんの治療薬で,アンモニアと白金が結合したものです。これも錯体です。シスプラチンは,私が大学院生のころにアメリカで開発されていた薬です。
また,そのころヨーロッパやアメリカでは金属と生体との関係をあつかう「生物無機化学(bioinorganic chemistry)」という新しい学問が生まれようとしていました。私は生物無機化学こそが将来の薬学に必要な学問だと思い,生物無機化学を研究することを決意しました。とくに私は,「錯体そのものを薬にしよう」と考えていました。
○N錯体が薬になることは今ではよくあることなのでしょうか?
桜井 いいえ,今ある薬の99%は有機化合物です。錯体の薬はめずらしいといえます。
○N先生はどのような薬の研究にたずさわってこられたのでしょうか?
桜井 いろいろな研究をしてきましたが,定年までの10年間くらいで成果が出たのは,亜鉛やバナジウムを使った錯体です。ニンニクから抽出される「アリキシン」という有機化合物を骨格に使います。
調べてみたところ,この錯体は,血糖値を下げるインスリンの分泌を促進する効果があることがわかりました。細胞やマウスを使った実験では,糖尿病やメタボリックシンドロームを改善できました。製薬会社から「薬にしましょう」という話をいただいたのですが,定年後はのんびり暮らしたいと思い,実用化はめざしませんでした。
○N有機化合物と金属をくっつけて錯体をつくることは,むずかしいことなのでしょうか?
桜井 それ自体は簡単です。むずかしいのは,いかに薬として有効な錯体を生みだすかです。
まずは,化合物の形を設計し,それをもとに合成します。合成できたら,細胞や実験動物を使って,それがどのようなはたらきをするのかを確かめます。京都薬科大学の私の研究室では,学生や大学院生たちもこの流れで実験を行っていました。
膨大な数の実験をして,そのうち効き目のある化合物がいくつできるか,というところです。失敗の方が多いですよ。

元素の物語から「生きた歴史」を学ぶ

○N 先生が編集された1997年出版の『元素111の新知識』は,元素の性質や発見の歴史について一般の人むけに書かれた一冊です。2016年に元素周期表の第7周期までのすべての元素名が定められたことを受けて,2017年に『元素118の新知識』としてリニューアルされました。
桜井 この本では元素それぞれの発見や研究について,その物語をていねいに紹介しています。改訂版の冒頭では,日本発の元素である「ニホニウム」の名前が決定したときの記者会見や,さまざまな鉱物の写真をのせました。
○N 先生は元素というのものをどうとらえていらっしゃいますか?
桜井 宇宙の起源,地球の起源,生命の起源は,現在ではすべて元素から語られています。「私たちは星のかけら」とよくいわれるように,私たちの存在は星の起源までさかのぼり,生命は元素から考える時代になっています。
宇宙をつくっている元素,人をつくっている元素,身のまわりのすべてをつくっている元素,すべての基本となっている元素を身近に知り,感じることは化学を好きになる原点ではないか思います。
○N 元素は一つ一つにちがった物語があって読んでいて興味がつきません。
桜井 そうですね。それぞれの元素が発見された経緯や歴史的背景を調べていくと,元素が発見された時代の社会構造,文化・芸術・社会生活の高さ科学技術の発展の度合い,そして元素発見にたずさわった人々のふるまい方などを知ることができます。すなわち,元素の世界から生きた歴史を学ぶことができると思います。
○N 生きた歴史,ですか。
桜井 そうです,そこがいちばん楽しいところだと思います。
そして,重要なことは,これらの歴史を知ることによって,科学に対する考え方がみがかれるという点です。ひいては,自分はどう生きればいいか,そのヒントが得られることにもなります。
○N具体的にはどのような話がありますか?
桜井 たくさんの話がありますが,ダイヤモンドがおもしろいかもしれません。
ダイヤモンドは,炭素のかたまりです。今の私たちは知識として知っていることですが,何世紀も前にはだれも知りませんでした。では,それを確かめるにはどうしたらよいか?それは,燃やしてみることです。
フランスの大化学者であるアントワーヌ・ラボアジエは,ダイヤモンドを実際に燃やしてしまいました。炭素でできていることを確かめるために,高価なダイヤモンドを燃やしてしまう,その化学者の心はどのようなものでしょうか。化学に対する姿勢が問われるようなエピソードだと思います。

リチウムについても興味深い話があります。リチウムを発見したのは,アルフェドソンというスウェーデンの化学者です。アルフェドソンは,新しい元素をみつけたことを師匠であるベルセリウスに報告します。ベルセリウスは,新元素は「石」からはじめてみつけられたため,その名前は,ギリシャ語で「石」を意味する「リトス」にちなんで,リチウムにしてはどうかと提案するのです。
この場合,現代でしたら,リチウムの発見者は「アンフェドソンとベルセリウス」になるでしょう。アンフェドソンは,ベルセリウスの下で研究を行っていたのですから。でも,ベルセリウスはそうはさせませんでした。発見したのはアンフェドソンなのだから,自分の名前は入れなくてもよいと告げたのです。
このような師弟の心温まる話を聞くと,自分も生き方を問われるような気がします。
○N子供たちにとって,元素は化学の入り口として最適かもしれませんね。
桜井 元素の楽しさ,おもしろさを知るには,文部科学省が発行している「一家に1枚周期表」や「えれめんトランプ2.0」があるといいですね。これらを利用して,子供たちとともに遊び,元素の世界へ,そして化学の世界へ入りこみ,子供たちが自ら化学のおもしろさに関心をもってくれればと願っています。

今までこの世になかった新しい物質をつくりだす

○Nあらためてうかがいます。化学の楽しさ,おもしろさはどのような点にあると思われますか?
桜井 化学の楽しさは,真っ白な紙に絵をかく,あるいは青空の下に一戸の住宅を建設することと同じように,元素どうし,化合物どうし,あるいは元素と化合物を結合させて,今までこの世になかった新しい物質をつくることだと思います。
文献を調べ,合成方針を考えて決め,失敗をくり返しながらの作業は,ときには苦しいことがありますが,未知への憧れにあふれています。合成に成功し,論文として世界の人々の目にふれ,評価されたときの喜びと充実感は,何事にもかえがたい貴重な体験となります。
○N 今までこの世になかった新しい物質をつくると聞いて,金や不老不死の薬を生みだそうとした錬金術を思い浮かべてしまいました。
桜井 錬金術は化学の祖先のようなものです。元素の中にはただ一つだけ,金術師によって発見されたものがあるのをご存知ですか?それは,リンです。偉大な科学者ニュートンも錬金術師だったのですよ。私たちが今使っている化学の実験器具の多くは,錬金術師がつくったものが元になっています。
○N現代の化学は錬金術の系譜にあるわけですね。実験器具の話が出ましたが,実験というのも化学の楽しさの一つですね。
桜井 私も実験は大好きです。蒸留なんかはやりはじめるととても楽しいですよ。昔はガラスを買ってきて,バーナーでとかして器具を自作したこともありました。
○N楽しそうですね。
桜井 現代はあらゆる化学の分野が花ひらき,あふれるばかりの情報を得ることができます。しかし,まだ人類が知らない化学がかくれているかも知れません。かくされている不思議を見つけようとする姿勢が,化学の楽しさ,おもしろさではないでしょうか。

身のまわりのことは化学で話ができる

○N小中学校へ出前授業をされることもあるとうかがいました。そんなとき,子供たちにはどのようなことを伝えていますか?
桜井 イギリスの化学者マイケル・ファラデーが1860年から61年にかけて講演した「少年少女の聴衆のためのクリスマス講演」の記録は,『ロウソクの科学』として出版されて,世界中で読まれています。私もこの書物を大学生のころに読み,ロウソクはいかに燃えつづけるかを知り,感激しました。機会があるたびに,私はこの書物を読んでごらんと子供たちにすすめています。
この講演の最後で,ファラデーは子供たちに「来るべき皆さんの時代において,ロウソクのようになってほしい」といっています。皆さんは,ロウソクのように光り輝いて,世界を照らしてくださいと願っているのです。この言葉はとてもすばらしく,私が大事にしている言葉です。私は,ロウソクを化学の力に置きかえられると思います。化学の力で世界を明るくしてほしい,そう願っています。
○N2018年6月には先生ご自身が執筆された『宮沢賢治の元素図鑑』が刊行されました。
桜井 実はそうなんです。小さいころから宮沢賢治が好きで,詩集などをよく読んでいました。学生になって,元素の名前を教科書で目にすると,「どこかで聞いたことがあるな」と思うのですが,それは賢治の著作に登場するものだったんです。
定年したのを機に全集を買って,どこにどんな元素が出てくるのかを調べてまとめてみました。おもしろいほどたくさん登場するんですよ!そういう目で賢治の作品を読み直してみると,またちがった風に感じられて,楽しいものです。

○N昔,宮沢賢治にふれた世代の人たちがもう一度読みたいと思ってくれるかもしれませんね。
桜井 ちょうど今,おもにそういった世代の人を対象に講座をひらいているところです。
食品は化学の対象ですか,という問いかけからはじめて,元素の話,薬の歴史,日本のお香の話など,いろいろな話題をもりこんでいます。元素には118種類あって,私たちの体もそのうちのいくつかの元素からできているんですよという話をすると,おどろかれる人もいますよ。
その講座の最終回では,文芸と化学というテーマでお話しをします。宮沢賢治と元素の話もしています。
○Nいろいろなことを化学の視点で語ることができるのですね。
桜井 身のまわりのことはほとんどすべて化学で話ができるのではないでしょうか。ニュースや新聞に出てくる用語の意味やその背景にあることがわかるようになって楽しいという声をいただいています。
○N今日はたくさんのお話しをありがとうございました。

ニュートンプレス
ニュートンプレス; 改訂第2版 (2020/6/18)、出典:出版社HP

ニュートン式 超図解 最強に面白い!! 化学

挫折せずに化学を学べる

イラストや図が多用されているため、化学が苦手な方にとってもわかりやすいです。また、一つのテーマが見開きで完結しているため読みやすさは抜群の一冊と言えます。学生だけではなく、大人でも気軽に読めて楽しい本です。

桜井 弘 (監修)
ニュートンプレス (2019/12/21)、出典:出版社HP

はじめに

原子や元素,分子に周期表,イオン結合,有機物……。そんな言葉を化学の授業で聞いたけれど,自分たちには関係のない遠い世界の 「話だと思った人もいるのではないでしょうか。でもそれは、大きなまちがいです。

化学は、物質の構造や性質を解き明かしていく学問です。その成果は、私たちの身のまわりのあらゆるところで見ることができます。たとえば,毎日使うスマートフォンからコンビニのレジ袋,医薬品まで, 生活の中で利用する多くのものが,化学の知識を元に生み出されているのです。私たちの生活は、化学がなければ成り立たないといえるで しょう。

本書では、さまざまな現象にかかわる化学を,“最強に”面白く紹介しています。化学を勉強している中高生や,学生時代に挫折してしまった人にピッタリの1冊です。どうぞお楽しみください!

目次

イントロダクション
1 化学とは、物質の性質を調べる学問.
2 スマホには、レアな元素がたくさん使われている
3 鮮やかな花火の色は、化学でつくる
4 プラスチックは、“鎖状の分子”でできている
5 開発が進む生分解性プラスチック
6 博士!教えて!!ダイヤモンドをつくるには?

1.世界は原子でできている!
1 通常の物質は、「原子」でできている!
2 原子は、原子核と電子でできている
3 水素原子には、重いものと軽いものがある
4 原子がぶつかって「化学反応」がおきる
5 膨大な数の原子や分子を、「モル」であらわそう!
Q モルの計算をやってみよう!
A モルの計算の答え
6 周期表をみれば,元素の“性格”が丸わかり
7 最外殻の電子が元素の性格を決める
8 宇宙にある元素の99.9%は水素とヘリウム
9 新たな元素を人工的につくりだせ!
コラム 地球は年々,軽くなっている!
4コマ 物理学者、アボガドロ
4コマ アボガドロの法則を発表

2. 原子が結びついて物質ができる
1 原子のつながり方には3種類ある
2 電子を共有して強く結びつく「共有結合」
3 自由に動きまわる電子が原子を結びつける「金属結合」
4 電気的に引き合うことで結びつく「イオン結合」
5 水分子は「水素結合」で結びついている
コラム 博士!教えて!! 氷が水に浮くのはなぜ?
6 謎の引力「ファン・デル・ワールスカ」
7 物質は,気体・液体・固体に変化する
8 宝石や鉄は,原子が整列した結晶だった
コラム ヤモリのファン・デル・ワールス力
4コマ 物理学者,ファン・デル・ワールス
4コマ 分子間の引力を発見

3. 身のまわりにあふれるイオン
1 「イオン」とは、電気を流すと動く粒子
2 原子とイオンのちがいは、電子の数にある
3 電子の“空席”の数で,どんなイオンになるかが決まる
4 水分子が連れ去ることで結晶が溶けていく
5 魚に塩を振るのは、くさみをぬくため
コラム 世界一臭い食べ物とは
6 酸味や苦味は、イオンが生みだしていた!
7 金属のサビは、酸素がつくっていた
8 電池は、金属のイオンを利用している
9 マンガン乾電池の中を見てみよう
コラム イカやタコの血液は青い

4. 現代社会に欠かせない有機物
1 炭素原子が生みだす物質を調べる有機化学
2 19世紀,有機物は徹底的に分解された
3 炭素の四つの手が多彩な有機物を生み出す
4 炭素原子がつながって、有機物の骨格になる
5 有機物の性格は、“飾り”で決まる
6 同じ原子からでも、まったくちがう有機物ができる
7 生命の部品は、炭素が骨格になっている
コラム 博士! 教えて!!マグロのトロは、なぜとろけるの?
コラム ヘンな名前の有機物たち
8 私たちは有機物に囲まれて生活している
9 薬となる有機物を人工的に合成する!
10 有機EL,超分子….., 有機化学は新時代へ…..
4コマ 有機化学の創始者,リービッヒ
4コマ 有機化学の創始者, ウェーラー

桜井 弘 (監修)
ニュートンプレス (2019/12/21)、出典:出版社HP

イントロダクション

化学と聞くと、自分とは何の関係もないむずかしい学問だと思 う人も少なくないでしょう。でも実際は、化学は私たちの生活 のさまざまな場面で活躍しています。イントロダクションでは, 化学とは何なのか,そして、私たちの身のまわりにどんな化学 がひそんでいるのかをみていきましょう。

1 化学とは、物質の性質を調べる学問

化学は、錬金術から発展してきた

原子,元素,分子,周期表にイオン結合,無機物,有機物……。そ んな言葉を化学の授業で習った記憶はあるけれど,その意味はちんぷ んかんぷんという人は少なくないでしょう。「化学」とは,いったい 何なのでしょうか。
化学とは、世の中のすべての物質の構造や性質を解き明かす学問で す。英語で化学を意味する Chemistryは, Alchemy(錬金術)に由来 します。中世以前に、ありふれた金属を金などの貴重な金属につくり かえようとした試みが錬金術です。金を生みだす錬金術そのものは成 功しませんでしたが,その試行錯誤(実験する精神)から化学は発展 してきました。

化学は生活に欠かせない身近なもの

私たちの身のまわりのあらゆる物質が化学の対象です。さらに物質 の構造や性質がわかり,物質どうしがどのような反応をおこすのかが わかれば,その知識はさまざまな技術に応用できます。実際に,私た ちが利用する多くのものは、化学の知識を元に生み出されたものです。
化学は私たちの生活に欠かせない、とても身近な学問であることを, これからみていきましょう。

鉛筆の芯とノートの構造

私たちがよく使う鉛筆の芯と,ノート(紙)のミクロの構造を 示しました。化学とは,このような物質の構造や性質を解き明 かしていく学問です。

鉛筆 鉛筆の芯は,炭素の膜 が層をなした黒鉛を粘 土と混ぜたものです。
黒鉛(グラファイト) 炭素原子(C)が正六角形の網目 構造をなす膜が,層状に積み重な っています。膜どうしは、弱い電 気的な力でつながっています。
紙 紙は「セルロース」という鎖状 の分子でできています。

2 スマホには、レアな元素が たくさん使われている

スマホが高性能なのは、レアメタルのおかげ

今や,私たちの生活に欠かせないスマートフォン(スマホ)。スマ ホには、どんな化学がひそんでいるのでしょうか。
スマホが多機能かつ高性能なのは、「レアメタル」のおかげです。 レアメタル(希少元素)とは、地上に存在する量の少なさや,採掘方 法のむずかしさなどから希少性が高いとされる,経済産業省が指定し た金属元素の総称です。

家電製品には、必ずレアメタルが含まれる

リチウムイオン電池の材料となる「リチウム(Li)」, スピーカーな どに使われている「ネオジム(Nd)」, 液晶ディスプレイに欠かせない 透明な金属の材料となる「インジウム(In)」など,スマホにはさまざ まなレアメタルが使われています。これらの元素の性質をうまく利用 することで,スマホはできているのです。スマホのほかにも、家電製 品には必ずレアメタルが含まれるといっても過言ではありません。
レアメタルを確保することは、まさに現代産業の生命線です。そこ で最近、スマホやデジタルカメラオーディオプレーヤーなど,廃 棄される家電製品に使われている金属や微量のレアメタルを「都市鉱 山」と名づけ、リサイクルする試みが進められています。

スマホの中にある元素

スマホの中にあるパーツと,そこに使われている元素を紹介し ています。炭素やアルミニウムなどから,貴重なレアメタルま で, スマホの中にはたくさんの元素がつまっています。

液晶ディスプレイ 液晶ディスプレイには、イン ジウム(In)やスズ(Sn)から つくられた透明な電極が使わ れています。
LED LEDをつくる材料として,イ ンジウム(In)やガリウム (Ga)などの元素が使われて います。
ICチップ ICチップの中には、シリコン (Si)などの半導体をはじめ、 金(Au), 銀(Ag), 銅(Cu) などの電気が流れやすい材料 が使われています。
リチウムイオン電池 リチウムイオン電池には,電 気をつくるかぎとなるリチウ ム(Li)や、電極としてコバル ト(Co) や炭素(C)が使われ ています。

3 鮮やかな花火の色は, 化学でつくる

バリウムは黄緑,カルシウムはオレンジ

夜空を美しくいろどる花火。花火の鮮やかな色も、化学の力で生み だされています。
花火の色のちがいを生んでいるのは,「光を放つ金属元素のちがい」 です。熱エネルギーを受け取った金属の原子は一時的に不安定な状態 になり,安定な状態にもどるときに,元素ごとに特有の色(波長)の 光を放ちます。たとえば、バリウム(Ba)は黄緑,カルシウム(Ca) はオレンジ,カリウム(K)は紫,といったぐあいです。化学では, これを「炎色反応」といいます。

江戸時代の花火は、カラフルではなかった

花火師は、これらの金属元素を含むさまざまな「染色剤」を調合す ることで、さまざまな色を生み出しています。色とりどりの花火が日 本で見られるようになったのは、明治時代以降のことです。それ以前 の江戸時代の花火は、今のようにカラフルではなく、黒色火薬の燃焼 で生じる暗いオレンジ色の光が主だったといわれています。黒色火薬 とは,硝石(硝酸カリウム,KNO3)や硫黄(S),木炭などをまぜあ わせた火薬です。

色とりどりの炎色反応

金属を加熱すると,種類ごとに決まった色の光を放ちます。こ れを炎色反応といいます。さまざまな金属を含む「染色剤」を 使うことで,花火のあざやかな色が生みだされています。
赤 リチウム(Li)
紫 カリウム(K)
オレンジ カルシウム(Ca)
深い赤 ストロンチウム(Sr)
黄線 バリウム(Ba)
青綠 銅(Cu)

4 プラスチックは、 “鎖状の分子”でできている

プラスチックには、さまざまな種類がある

「プラスチック」は、身近な化学の代名詞だといえるでしょう。歯 ブラシやペットボトル, レジ袋やストローなど,多くのプラスチック 製品が私たちの生活を支えています。
ひとくちにプラスチックといっても,化学的にはさまざまな種類が あります。なかでも代表的なのは、レジ袋などに使われる「ポリエチ レン」とストローなどに使われる「ポリプロピレン」です。

となりあう分子どうしをつなげてつくる

「ポリエチレンは、「エチレン」という分子からつくります。エチレ ンの分子は、2個の炭素原子が“2本の手”でつながっています(二重 結合といいます)。その一方の手を解くことで、となりあうエチレン どうしをつなげることができます。こうして、たくさんのエチレンを 鎖のように次々とつなげたものがポリエチレンです。一方,ポリプロ ピレンは、エチレンのかわりに、「プロピレン」を次々に鎖状につな げたものです。
プラスチックは、自然にはほとんど分解されません。そのため,フ ラスチックによる環境汚染が問題になっています。

プラスチックの構造

エチレンからつくられるポリエチレンとプロピレンからつく られるポリプロピレンの分子構造をイラストで示しました。ど ちらも鎖状に一本に連なった構造をしています。

ポリエチレン 多数のエチレンが鎖 状につながったのが ポリエチレンです。 スーパーやコンビニ のレジ袋のほか,包 装用フィルムなどに 使われています。
ポリプロピレン 多数のプロピレンが、 鎖状につながったの がポリプロピレンで す。ストローのほか、 使い捨てのスプーン やフォーク、容器な どに使われています。

開発が進む生分解性プラスチック

プラスチックによる環境汚染をふせぐため,化学者たちが 近年さかんに研究しているのが,「生分解性プラスチック」で す。生分解性プラスチックとは、微生物などの生き物が分解 できるプラスチックのことです。その代表的なものが,「ポリ 乳酸」です。
ポリ乳酸は、トウモロコシなどのでんぷんを「乳酸」に変え, その乳酸を鎖状につなげたプラスチックです。ポリ乳酸は, 生物由来の「バイオプラスチック」にも分類されます。
ポリ乳酸は、土壌などに生息する一部の微生物が分解でき ます。ただし,急速に分解するためには60°C付近にするなど の特別な条件が必要とされます。たんに土に埋めたり海に捨 てたりした場合は、数か月、あるいは年単位の時間をかけても, 完全には分解されないことがあるとみられています。そのた め、より分解されやすい生分解性プラスチックの開発が望ま れています。
イラスト(IMG_4513.JPG)省略

博士! 教えて!!

ダイヤモンドをつくるには?

博士! ダイヤモンドを家でつくって大もうけしたいん ですけど、ダイヤモンドってどんな元素でできているん ですか?
ダイヤモンドは、鉛筆の芯と同じ炭素(C)でできておる。
じゃあ,鉛筆の芯からダイヤモンドをつくれますか!?
うーむ……。天然のダイヤモンドは、地下150 ~ 250 キロメートルでつくられておる。1000°C以上,数万気 圧の環境で,炭素がおしかためられてできるんじゃ。
地下150~250キロ!? ダイヤモンドをつくって億万 長者になるのは、あきらめないといけませんね……。
家でつくるのは無理じゃが、今は人工のダイヤモンドが, 数日から数週間でつくれるようになっておるぞ。地球深 部の高温・高圧環境を再現して、さらにさまざまな条件 をととのえることでつくられるんじゃ。

桜井 弘 (監修)
ニュートンプレス (2019/12/21)、出典:出版社HP

大人のための高校化学復習帳 (ブルーバックス)

化学の学び直しに最適

非常に分かりやすく、一つの単元ごとに日常でどのように使われているか、どのように役立っているかなど雑学的な話も絡めながら書いてあります。復習がしたい大人はもちろん、化学を習っている高校生が授業の前に予習で読んだりするのに適している本です。導入本としてかなり優れた一冊です。

竹田淳一郎 (著)
講談社 (2013/5/20)、出典:出版社HP

はじめに

本書を手に取っていただきありがとうございます。みな さんは「化学」と聞くとどんなイメージを抱きますか。いろんな物質が出てきて、覚えることがたくさんあって、なんだかとっつきにくかったと思われるかもしれません。

たしかに、小学校や中学校までは身近な現象を扱っていた理科も、高校生になって「化学」という名前に変わった 途端、モルやpH が出てきて難しくなりますよね。「共有結合」とか「アルデヒド」なんて、テストのためには勉強 したかもしれないけれど、今ではさっぱり覚えていないよ、という人も多いと思います。

しかし、高校時代に習う化学の基礎は、大人になった今こそ役に立つのです。身近な物質の成り立ちや現象の仕組みを知ったり、環境問題を考えたりするうえで欠かせないからです。電池はどうしてエネルギーを蓄えられるの? 大気汚染で話題になるSOx、NOxって何? 洗剤に「まぜるな危険」と書いてあるのはどうして? そんなことが高校化学で理解できてしまうのです。

とはいえ高校化学では、はじめに「原子の構造」からスタートして、化学結合やモルといった目に見えないミクロな分野に踏み込んでいくので、なかなか具体的なイメージをもちにくいと思います。ここを何とかクリアしても、そのあとに続く無機化学と有機化学で膨大な量の物質名の暗記を強要されて、もうそのころには化学はすっかり嫌いになってしまっていた、そんな人がたくさんいるのではない でしょうか。

でも心配いりません! そんなあなたに向けてこの本を 書きました。本書は読み物形式で、高校化学が基礎から復習できるようになっています。

著者は毎日中高生、ときには小学生、大学生、社会人にも化学を教えている現役の教員です。教員になって10年間、生徒がどこでつまずきやすいかに気付いたり、どんな説明をすると理解しやすいかを発見したりするたびに、楽 しく理解できるためのアイデアを考えてきました。そうやって蓄積してきた工夫を全体に盛り込み、高校の化学の内容を楽しく復習できるように書いたのが本書です。

本書はテーマごとに 26 項に分かれています。各項は「内容紹介」、「ポイント」、「本文」という構成になっています。「ポイント」は本文で説明する内容をキーワードで挙げたものなので、難しいなと思ったら最初は読み飛ばしてもらってかまいません。ひとつの項は 10 ページ程度と短く区切られていますが、エッセンスをわかりやすくまとめてあるので、高校時代に理解できずモヤモヤしていたことがたちまち氷解し、「化学って面白くて役に立つ」ということが実感できるはずです。

さあ目次を見て、興味を持ったページを開いてみてください。高校のときに学んだことを新鮮な発見とともに思い 出してもらえたら幸いです。

竹田淳一郎 (著)
講談社 (2013/5/20)、出典:出版社HP

目次

はじめに
Part 1 基礎化学 化学だけじゃない、科学に共通するルールとは?
1 世界を構成する元素原子の構造と周期表
2 イオンって何? 陽イオンと陰イオン、イオン結合
3 原子のつながり方 共有結合、金属結合
4 化学に出てくる特殊な単位 モルとモル濃度
5 化学反応式の作り方 化学反応の量的関係

Part 2 理論化学 身の回りに潜む現象を化学する
6 物質の状態を決めるもの 物質の三態 気体、液体、固体
7 気圧と温度と体積の関係 気体の状態方程式
8 海水は0°Cでも凍らない 沸点上昇と凝固点降下
9 ナメクジは塩でなぜ縮む 浸透圧
10 ホッカイロはなぜ熱くなる 熱化学
11 速い化学反応、遅い化学反応 化学反応の速度と反応のメカニズム
12 反応中でも見かけ変わらず 化学平衡
13 すっぱさの正体はH+  酸と塩基、中和反応
14 酸化還元は電子のやりとり 酸化剤と還元剤
15 金が永遠に輝くわけ 金属のイオン化傾向
16 化学反応を電気に変える いろいろな電池
17 電気の力で反応をおこす 電気分解

Part 3 無機化学 身近な元素も化学の目で見ると一味違う
18 ハロゲン、希ガスって何だっけ? 非金属元素
19 アルミ箔はすでに錆びている!? 典型金属元素
20 文明を支える金属 遷移金属元素

Part 4 有機化学 炭素が主人公、「有機」を化学的に考える
21 石油や天然ガスの主成分 炭化水素
22 アルコール、エーテル、エステル 酸素を含む有機化合物
23 ベンゼン環の仕組みを知る 芳香族化合物

Part5 高分子化学 原子がたくさんつながってできた不思議な物質
24 デンプンは糖からできている 糖類、天然ゴム
25 生命に不可欠な物質 アミノ酸、タンパク質
26 人間が作り出した高分子化合物 合成樹脂(プラスチック)、合成繊維

おわりに
参考文献
さくいん

竹田淳一郎 (著)
講談社 (2013/5/20)、出典:出版社HP