歯の健康のために知りたい3冊紹介 – なぜ歯医者の治療は1回で終わらない?、虫歯予防は食生活?

歯にまつわる書籍を今回はリストアップしております。歯科の診療システムや治療費に関する疑問や食生活から見るむし歯予防をテーマ、また歯を磨かない実験、歯を削るということはどういうことなのか、理解を深められます。

なぜ歯医者の治療は1回で終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40

若林 健史 (著)
出版社: 朝日新聞出版 (2019/5/13)、出典:amazon.co.jp

本書は、歯周病の専門医として歯科医院を開業し、医療法人社団真健会理事長や日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める若林健史氏による著作です。そして、患者が治療を途中でやめてしまったり、歯科に対する不信感の声もあることから、歯科治療の分かりにくさを解消することを目的として著されています。またタイトルにもあるように、本書は基本的な40の歯科への疑問に全6章で答えていくという構成になっています。

本書ではまず、歯を大事にするのは高収入のエリートが多いことについて言及されていますが、これは金銭的な理由というよりも、先を読む力や自己管理能力の高さから来るものであるとしています。他にも、歯科医師から見た良い患者の条件や、困った患者の例などが挙げられている第1章は、患者の自身の歯に対してあるべき姿勢を最初に明記するというかたちになっています。

次に、歯科の診療システムや治療費に関する疑問の第2章は、まさに患者の歯科医療に対する不信感を解消するための内容となっていると言えます。まず、タイトルにもなっている「なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?」の答えを、症状が進行してから来院する患者が多いことからも、1回で治療を完了させるのは準備の必要性や患者の負担の大きさという観点から見てもできないということで述べています。他にも予約制に関する疑問や次の予約が翌日では駄目な理由などを明らかにしており、患者が日頃理解できる機会の少ない歯科医療の事情を教えてくれる内容になっています。

第3章は日常的な口腔ケア、生活習慣に関するギモンと題され、フッ素が歯に染み込むことで歯が酸に強くなり、むし歯になりにくくなることや、歯周病菌は増殖を避ければ歯周病になることを避けられること、歯ぎしりや口臭、いびきの対策方法などが述べられており、歯に関する身近な疑問や悩みを解決する手がかりになる内容です。

第4章は歯科医師・歯科医院に関する疑問で、まず歯科医院はコンビニよりも多いとされていることが述べられますが、歯科の標榜科の詳細や、筆者が勧める歯科医師選びのポイントなどが述べられています。また逆に、自身の不安を主治医に伝えた時に、説明を嫌がる医師である場合は他の歯科医院に変えるべきであるなど、勧めない例も述べられており、本性は患者が膨大な歯科医院からどれを選ぶかを判断するのに助けになるはずです。

第5章は歯科治療の内容に関する内容で、むし歯の放置で痛みがなくなったら神経がなくなってしまっていること、歯磨きで出血する場合は歯周病であること、親知らずの抜歯が勧められやすい理由、矯正治療やインプラント治療、ホワイトニングなどについて詳しく述べられています。全体的に一貫して、健康な歯はできるだけ傷つけないような治療が望ましいとあります。本章は第2章と同じように、歯科医療で日頃患者が詳しく理解できていない事柄について明らかにする内容となっています。

第6章は歯周病の最新トピックに関する内容で、まず喫煙やストレス、糖尿病、運動不足、偏った食事などが歯周病を悪化させる原因になると述べられている。また、歯周病によって口内だけにとどまらず体の病気や認知症に及ぶ理由、最新の歯周再生治療の情報などが述べられており、歯に関する知識をより深めることのできる内容になっています。

筆者の若林氏はあとがきで、読者に歯科医院では遠慮せずに質問することを促しており、それによって医療者と患者の相互理解が深まると述べています。本書は歯や歯科医療についての知識を深めることで、歯の重要性を理解することや歯科医院に積極的に行けるようになることを可能にするものであると言えます。

子どものむし歯予防は食生活がすべて 4人の子どもに歯を磨かせなかった歯科医の話

本書は歯科医師の黒沢誠人氏と管理栄養士の幕内英夫氏による共著であり、食生活から見るむし歯予防をテーマにしているが、筆者である黒沢家の「歯を磨かない実験」についても述べています。

第1章では歯科医師の黒沢氏が自身の4人の子どもたちに歯磨きをやめさせてみた経緯とその結果や結論について述べられています。同氏はもともと、口内のプラークを歯ブラシ一本ですべて落とすという「100%磨き達成認定証」を歯科医としては日本で初めて受領したほど、患者に熱心に歯磨きの重要性を唱える歯科医師でしたが、その認定の苦労ゆえに幼児の歯磨きや親の仕上げ磨きでもプラークはほとんど落ちないはずという考えや、しかしそれでも、ある子どもにはむし歯ができ、ある子どもにはむし歯がないという事実から、「歯磨きがむし歯予防の決め手」という文言に疑問を抱くようになります。

その頃、共著者の幕内氏による食生活の講習会に参加したことから、伝統食を食べる先住民族と近代食を食べる先住民族のむし歯保有率がどの地域でも約30%も差があるというウェストン・A・プライスの研究に触れ、伝統食と健康な歯の関連性を実感します。そこで黒沢氏は、自身の子どもたちに中学進学まで歯磨きをさせず、代わりに伝統食の食事を徹底させるという実験を行い、結果長女と長男が中学進学後に買い食いを始めるまでの間は誰もむし歯になることはなかったとのことです。つまり、良い口内環境は歯磨きの有無よりも、食生活に大きく左右されるということがわかります。本章は実際の著者の経験、実験をもとに食生活の重要性が説かれており、非常に説得力があり、革新的で興味を引く内容となっています。しかし、将来的な歯周病のリスクやデンタルケアの意識のためにも、今も歯磨きは推奨する立場であると黒沢氏は述べています。

第2章では、前章で黒沢氏に挙げられた「食」と「むし歯」の関係を踏まえ、幕内氏によってむし歯を防ぐ食生活の提案がなされます。まず、最近の歯科医院による指導内容は間食を控えることや咀嚼をよくすることなどが多いですが、肝心な食事に関するものが少ないことに問題を示しています。そして近代食の多くが、消費者のニーズに応えた結果の砂糖や油の多い工業製品であることや、現代の甘いパンは主食として望ましくはないこと、子どもたちにカタカナ主食と砂糖の多く含まれた清涼飲料水が重ねて摂取されてしまうことなど、近代食の問題について多く述べられています。そこで、本章末には子どものより良い食生活の提案として、外遊びをさせることや子どものウケを気にした食事作りを止めること、飲み物は「水」「麦茶」「ばん茶」にすること、朝ごはんをしっかり食べさせることなどが挙げられています。この提案が、章のほとんどを占める近代食問題の記述に比べてほとんど簡素であることからも、多少の努力でむし歯予防のできる食生活は叶えられるということがわかります。

そして最後の第3章は「実践に役立つQ&A」と題され、甘いものが悪いというよりはだらだら食いを注意する必要があること、歯磨きや定期検診の必要性、和食は難しいと考えず、ご飯と味噌汁と常備食だけを考えることから始めること、子どもに偏食の習慣をつけてしまった場合の対処法などが詳細に述べられています。第1章や第2章を読んだ後で読者が気になるであろうことを解決する助けになる内容です。

本書は、食生活の重要性を唱えることで、むし歯予防だけでなく健康にも近づけるということを明らかにしています。黒沢氏はここで示した良い食生活が、最も効果があり実用的で、費用のかからないむし歯予防の方法であると述べています。今一度自身の食生活を見直し、伝統的な食生活に戻ってみることで、口内だけでなく身体全体の健康を可能にするということが本書を読むことで痛感させられます。子どもを持つ場合には、早期にその食生活を習慣づけることで将来的な健康が保証されると考えると、本書が示す食生活を実行しない手はないだろうと思われます。

歯を削らない、抜かない、だから痛くない、むし歯・歯周病の治し方

天野 聖志 (著)
出版社: 現代書林 (2019/1/10)、出典:amazon.co.jp

歯を削らない、抜かない、だから痛くない、むし歯・歯周病の治し方

「治療した歯がむし歯になりやすいのは、歯科医師の常識です。」

本書のそでに書かれていた一文に衝撃を受けました。この本を読むまで、むし歯治療とは、歯を削って、抜いて、だから痛いものだと思っていました。それを我慢して治療を受けたのに、治療した歯はむし歯になりやすいとはなんとも非情です。しかし、『歯を削らない、抜かない、だから痛くないむし歯・歯周病の治し方 天野聖志(現代書林)』では、そのタイトル通りの、従来の方法に比べたら魔法のような治療法について書かれています。

「MI治療」という最新治療法

歯を削る従来のむし歯治療法のデメリットは痛い、むし歯が再発しやすいだけではありません。削った歯は弱くなる、硬いものが食べられなくなる、食感がわかりにくくなるなどたくさんあります。本書で紹介されている最新治療法の中には、そのようなデメリット無く治療できるだけでなく、むしろ歯を強くする方法もあるというのだから驚きました。

そもそも、むし歯治療とは増殖したむし歯菌を取り除き、炎症を治すことを指します。従来の治療法では、このむし歯菌を取り除くという工程が「削る」という方法で行われています。それを薬剤、レーザーなどに置き換えて、むし歯菌を削り取るのではなく殺菌することで歯を削らない治療を可能にするのです。このように患者の健康な歯を損なわず、最小限の介入で行う治療のことを「Minimal Intervention」の略より「MI治療」と呼ばれています。

MI治療は歯周病の治療にも普及し始めています。歯周病は日本人の約7割がかかっている上、見えにくいところで進行し、初期症状では痛みも小さいため進行しやすいとされています。さらに、歯周病菌のエサとなる歯垢や歯石が歯周ポケットの奥にある場合、歯肉を切り開いて歯石を除去するため、治療は痛みを伴います。しかし、この治療もレーザーと殺菌水を用いるMI治療では歯肉を切る必要がなく、痛みもありません。このMI治療ですが、ヨーロッパでは10年ほど前から普及しているというので、日本でもはやく普及することを願います。

むし歯や歯周病が直接的な原因で死に至ることはないため軽く考えられがちですが、他の様々な病気を引き起こす原因となっていることが最近の研究で明らかになっています。また、健康な歯でいれば食事を楽しむこともできます。健康で長生きするためには、健康な歯を保つことが必須であるとされてきているのです。