睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか

本書では脳と睡眠について、特に睡眠の生理的な役割および睡眠制御の仕組みについて記載されています。巷にありがちな、よく眠れるhow to 本などではなく、オレキシンを中心としての解説した本で、睡眠の役割を知りたいという方に向けての一冊になります。

筆者の櫻井武氏は筑波大学大学院医学研究科修了後、筑波大学基礎医学系講師・助教授、テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授、金沢大学医薬保健研究域医学系教授を経て現在 筑波大学 医学医療系教授(当書籍発行時)。医師、医学博士。日本睡眠学会理事も務めています。

第1章 なぜ眠るのか?

睡眠は体の休息だけではなく、脳の休息や情報の整理にも欠かせないものです。
・睡眠不足になると、注意力が低下し、冷静な判断力を鈍らせる。
・それだけではなく、睡眠不足がメタボリックシンドロームや心筋梗塞のリスクを高めるという報告もある。
・また、レム睡眠とノンレム睡眠に分けることができ、どちらの睡眠も記憶の強化に関与している。睡眠は、身体を健康に保つ機能でなく、学習や能力の向上のためにも重要なものである。

第2章 最新技術で探る「睡眠の正体」

ノンレム睡眠は、脳のエネルギー消費とニューロンの活動が1日のうちで最低になる脳の休息時間です。
・レム睡眠は、脳の活動が覚醒時と同じかそれ以上に活動している。
・レム睡眠の時間を少なくすると、そのあとの睡眠でレム睡眠の時間が増加することが実験で証明されていることから重要な睡眠だとわかる。

第3章 睡眠と覚醒を切り替える脳のしくみ

睡眠と覚醒を切り替える時には脳が複雑に動いています。
・覚醒は脳幹に始まるシステムによって維持されていて、そのシステムがニューロンによって抑制されると睡眠が促進される。
・また、レム睡眠は大脳の強力な賦活によってもたらされる。

第4章 睡眠障害の研究から生まれた大発見

オレキシンという物質は、覚醒制御システムを適切なタイミングで刺激し、覚醒状態を必要なだけ維持するという役目があります。
・オレキシンが欠けると、安定して「覚醒」「睡眠」の状態を維持することが不可能になる
・また、オレキシンは「覚醒」とはどのようなものなのか、その本質まで明らかにする。

第5章 オレキシンが明かした「覚醒」の意味

オレキシンは摂食中枢に一致する領域であります。
・オレキシン作動性ニューロンは、血糖値が下がると発火頻度が増え、血糖値が高い状態では抑制される。
・このことから、オレキシンは、栄養状態に応じた摂食行動を維持するために覚醒を抑制する機能を持っていると考えられる。

第6章 ヒトはどこまで睡眠をあやつれるか

睡眠を促進することのできる薬、逆に覚醒を維持する薬の研究が近年行われています。
・しかし、薬物を用いなくても、食事や体温状態などで睡眠のコントロールすることもある程度可能である。

第7章 睡眠に関する日常の疑問と、これからのテーマ

睡眠は記憶の固定、視床下部の機能の維持、全身の恒常性の維持に大きく関与していると考えられています。
・夢を見て脳を発達させるとも言われている。はっきりしていることは、睡眠は「脳のメンテナンスのために必要」ということである。

終 章 なぜ眠るのか──私の仮説

眠気をコントロールするシステムは、大脳皮質とは関係なく定期的に眠気を発動していて、そのタイミングを利用して大脳皮質はシナプスの最適化を行っているのではないかというのが筆者の仮説です。

人生の約1/3は睡眠で占められている私達の日々の生活。睡眠についての体系的な知識はあまり理解していないままであり、本書でその知識を学ぶ事ができます。決して睡眠は短い方が、長い方が良い!ということではなく、まずはメカニズムをもって睡眠を知ることからスタートではないでしょうか。

詳細な目次- 下線の単元の節が特に医学的な側面はそこまで知らずとも知っておきたいトピックとなっております。”

第1章:なぜ眠るのか? -いまだに解けない謎と、記憶強化にはたす睡眠の驚くべき効果

眠らないとどうなる?
脳は睡眠中に洗浄されている
動物実験から明らかになった睡眠の必要性
最も長く眠らなかったヒトのはなし
ノンレム睡眠とレム睡眠
深まるレム睡眠の謎
レム睡眠と夢のふしぎ
「チャレンジャー号」の悲劇も睡眠不足か
眠るとゲームが上達した!
「手続き記憶」で顕著な睡眠の効果
レム睡眠とノンレム睡眠の役割の違い

第2章: 最新技術で探る「睡眠の正体」 -画像解析でわかった「レム睡眠とノンレム睡眠はこんなに違う」そもそも睡眠とはなにか?

睡眠は「脳波」で測る
脳波で分かれる睡眠のステージ
レム睡眠の発見
全身に現れる2つの睡眠の大きな違い
ルール通りに繰り返される「睡眠の かたち」
最新技術で見えてきた睡眠時の脳
脳活動の違いでみる覚醒とレム睡眠

第3章: 睡眠と覚醒を切り替える脳のしくみ – 神経伝達物質とニューロンがつくりだす巧妙な2つのシステム

フォン・エコノモが発見した視床下部の役割
脳幹による「大脳の賦活」が覚醒とレム睡眠をもたらす
モノアミン作動性システムは「Eメール」ではなく「館内放送」
レム睡眠はコリン作動性システムによって起動する
「睡眠」と「覚醒」はシーソーの関係にある
覚醒が引き起こされるしくみ
眠りを誘う脳内のしくみとは
ツー・プロセスモデルと睡眠物質

第4章: 睡眠障害の研究から生まれた大発見 – 覚醒をもたらす物質「オレキシン」の決定的に重要な役割とは

オレキシンの発見
オレキシンとナルコレプシー
クロスした2つの発見
ナルコレプ シーの症状とは
ナルコレプシーは睡眠構築の異常
オレキシンの欠乏がナルコレプシーを引き起こす
オレキシンは覚醒を安定化させている
「覚醒」と「睡眠」のほんとうの関係

第5章: オレキシンが明かした「覚醒」の意味 – ヒトや動物は、なぜ目覚めなくてはならないのか

「注意」「行動」のために必要な覚醒
オレキシン作動性ニューロンを制御するメカニズムとは
「情動」がオレキシン作動性ニューロンを刺激する
日本で発売された世界初のオレキシン受容体拮抗薬
なぜ空腹だと眠れないのか
三位一体の巧妙なシステム
体内時計とオレキシン
オレキシン作動性ニューロンの制御が重要
摂食行動と覚醒を結ぶオレキシン

第6章: ヒトはどこまで睡眠をあやつれるか – 不眠治療薬の最前線と「眠らないですむ薬」の可能性

睡眠と覚醒に影響を与える物質とは
覚醒剤が恐ろしいわけ
不眠症の人に朗報?
新時代の睡眠薬
寝ないですむ薬はできるか?
マウスで治療効果をあげたオレキシン作動薬
睡眠をあやつる光のスイッチ
日常生活でもできる「眠り」の操作

第7章: 睡眠に関する日常の疑問と、 これからのテーマ – 「夢」の役割、「腹時計」から、睡眠物質では解けない謎まで

何時間寝ればいい?
夢にも役割がある?
目覚ましが鳴る前に目が覚めるのはなぜ?」
コーヒーを飲むと眠れなくなるのはなぜ?
予知夢は本当にある?
夢遊病はどういうしくみで起こる?
寝だめはできる? 。
時差ぼけが起こるのはなぜ?
腹時計って本当にあるの?
人によって睡眠の習慣が違うのはなぜ?
動物の睡眠はヒトと同じ?
なぜ眠らなければならない?
人が成長するにつれて睡眠はどう変わる?

終章(第8章): なぜ眠るのか – |私の仮説

混同されがちな2つの問い
ノンレム睡眠についての仮説
レム睡眠についての最近の仮説
眠気を生みだしているのは何か
2つの問いは無関係かもしれない