最強の地域医療 – だから地方は消滅しない

夕張を変えた医師が「患者」になって都会にはできない医療が見えてきた- 死病から生還した「医の超人」が語る、医療、介護、地域、そして私達のある人生のあるべき未来

本書は、地域医療、予防医学、地域包括ケアを専門分野としている村上智彦氏によるもので、同氏が医師から患者となった経験から見えてきた地方の医療問題や、その解決が「まちづくり」によって可能であるということについて伝えることを目的としています。

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第1章は「高齢者医療がおかしい」と題され、筆者が地方の病院や大学病院など様々な場所で闘病生活を送る中で気づかされた問題について述べられています。具体的には、地方の総合病院が赤字であり、ただでさえ食欲が低迷する患者のための食事が低品質であったりすることでありますが、この理由としては、医療機関が多すぎるために病気以外の障害や老化までも医療でなんとかしようとし、結果的にお金だけがかかってしまっているということが挙げられます。

また、専門的な医療までも地方に分散させてしまっているため医療費は無駄にかかり、医師は疲弊するばかりであるという効率の悪い状況であることにも言及されている。高齢者が6割以上の医療費を使い、負担は人口も減少している後の世代に投げてしまっているという状況に問題があるとしています。少子高齢化社会の医療における弊害が、回り回って患者に提供された食事などに及んでいるという事実に驚かされます。

第2章は「夕張の「ムダ」を考える」と題され、筆者が闘病中に気づいた「地域医療の歪み」について述べられています。まず医師になって地域医療を始めた瀬棚町では、過疎地域ゆえに不安だからという理由で高齢者が都市部で社会的入院をすることで高齢者の医療費が日本一を記録したという問題があった。しかし予防医療の意識を住民に芽生えさせ、ワクチンを積極的に利用させていくことで高齢者医療費は約半分ほど下がったという。また、少子高齢化社会では、治療よりも、予防することはもちろんだが、介護や療養を重視する「ささえる医療」が重要になっていることにも言及しており、「人は必ず死ぬ」という観点から見ても、ただ病気だけを見つめ治すことに専念することは幸せとは限らないということが明らかにされています。生老病死をみつめることが人生における大きな学びにも繋がるというような指摘からも、医療のあり方や死生観について深く考えさせられる内容です。

第3章では、これまで挙げられた医療の諸問題をふまえた筆者の考えについて、「新しい地域医療のかたち」と題されて述べられている。それは「ささえる医療」の実現のため、専門家は全てを担おうとするのではなくサポート役に徹すること、地域をつくるのは地域住民であるべきというものであり、これが地域全体の満足や不安の解消に繋がるものであるという。最後には、医療介護によってまちづくりを進めることが奨励されています。

本書は、少子高齢化社会における医療の問題を知ることによって、医療のあり方だけでなく、医療に携わっていない一般住民の生死に対する考え方や、地域に対する姿勢についても考え直させられ、誰にとっても読む意義のある内容であると言えます。

村上智彦 (著)
出版社: ベストセラーズ (2017/4/8)、出典:amazon.co.jp