新卒採用基準―面接官はここを見ている

1000社を超えたサンプルから見えたこと

本書は、リクルート勤務期間に大手一流企業からベンチャー企業まで1000社を超える企業の採用と人材育成を支援し、その後、一部上場企業の人事部責任者として年間500人の採用と人材育成を行なった廣瀬泰幸氏によって著されたものです。同氏は企業の採用活動をサポートするうちに、各企業の経営者や人事担当者が描く「採用したい人物」像はさまざまであったにも関わらず、内定を獲得した学生には「共通する人間性や能力」が備わっているということに気づづきます。本書は、そのような基準を学生が知れるようにすることを目的としています。

まず、「企業が求めるもの」についてはいくつか誤解があるという序章で本書は始められます。一つ目は、企業と学生の間には、重要と考える能力(基準)のミスマッチと、それぞれの能力をどの程度身につけるべきかの、求めるレベル(水準)のミスマッチが生じているというものです。

二つ目は、キャリアデザインの三つの輪である「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」の比重についての誤解で、学生は「やるべきこと」が圧倒的に多いものと考えるのに対し、実際には企業は「やれること」の量に重きを置いているといいます。

三つ目は、近年の面接は第一印象や志望動機などを評価する「一般面接」だけでなく、成果を生み出す行動特性を評価する「コンピテンシー面接」の融合が主流であるにも関わらず、学生は一般面接の対策ばかりしがちであるというものである。就活生はこれらの誤解が生じていることを知ることで、「企業が求めるもの」について改めて正しい理解をする必要があると考えられています。

各章を見ていくと、第1章の「新卒採用基準①:人間性」では、企業は一般的に「自己肯定感」の強い人を採用したいと考え、「他者軽視感」は持たないように注意すべきであると述べられています。「自己肯定感」が高く「他者軽視感」の低い、理想型としての「自尊型」になるためには、集団で力を合わせて何かに取り組んだり、緊密なコミュニケーションの取れる環境に身を置き、お互いの心に触れ合うことが大切であるとのことであると言います。これは日頃の生活においても意識しておきたいものであり、人間性とは就活のためだけに留まるものではないということを考えさせられます。

第2章の「新卒採用基準②:仕事力」では、「目標を達成すること」および「目標達成を目指して行う思考と行動」を仕事の定義とし、そのために必要なPDCAサイクルや、モチベーションとなる目的に向かって自ら困難な目標を設定し続けること、などについて言及されています。そして、「目標を達成する力」を「仕事力」とし、職場で仕事をする上で欠かせない「社会人基礎力」というものに言及している。これは「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力に分けられ、これらを発揮するために必要な能力要素が合計12挙げられていますが、これら全てを持ち合わせて初めて発揮される能力がリーダーシップであります。能力要素について詳しく見ると、どの項目も一緒に働きたいと思わせるようなもので、非常に説得力があります。また、項目ごとに「発揮できた事例」や「よくある誤解」などが挙げられ、能力向上の手がかりになります。

第3章の「新卒採用基準③:表現力」では、まずコミュニーケーション力の説明に始まるが、これは「表現力」の1要素に過ぎず、表現力はVisual(ビジュアル), Vocal(声), Verbal(言葉)の「3つのV」で大きく構成されると言います。本章では良い姿勢のあり方や発生のトレーニング方法、表現技法など、第一印象から実際にコミュニケーションに至るまでの「表現力」を鍛えることのできる内容です。これも就活に限ったことではなく、自身の財産となるスキルとして取り入れられると良いと考えられています。特にVerbal(言葉)の項目では、人に共感を誘う文章の作り方を具体例も示しながらわかりやすく述べられており、非常に興味深い内容です。

第4章の「新卒採用基準④:就活スキル」では、就活全体を通して必要となるスキルについて、選考を受けるまでに準備するスキルと、選考に合格するためのスキルの二つに分けて記述されています。前者では自己分析や業界選び、インターンや説明会などにおける留意点、後者ではESや試験、面談などにおけるものが述べられており、企業側のチェックポイントなどを確認することができます。

第5章の「新卒採用基準⑤:+α」では、1章〜4章の内容に加えて、就活を勝ち抜くために必要不可欠な要素について説明されるが、企業は大学名よりも「入社後に成果を上げる人材」を求めていること、TOEICや読書量、ニュースの接触度が大事であること、何より「感謝の心」が大事であるということについて述べられています。

第6章の最終章では、「山田君」という就活生について語られるが、どこにでもいそうな普通の真面目な学生が、彼なりに真面目に就活に取り組んだが失敗したという参考事例であり、反面教師という観点で書かれています。おそらく闇雲に、また字面通りの大学が終わるから就職活動をするという形ではこのような事になってしまうでしょう。

本書は多くの学生の就活コーチを務めてきた筆者によるものであるということもあり、企業の採用を受けるための有効な情報を様々な観点から得ることができる点で優れたものとなっており、そして、採用基準となる多くの能力は向上することができることや、その方法も詳しく記されています。

廣瀬 泰幸 (著)
出版社: 東洋経済新報社 (2015/2/19)、出典:amazon.co.jp