キレイゴトぬきの就活論 – 学歴は関係ない、 一年目から即戦力になれるは本当?

本書は教育問題、就職活動を主なテーマとするライター・大学ジャーナリストである石渡嶺司氏によるもので、就活関連の新書はノウハウ本か、社会批評論かのいずれかであることが多いが、本書はそのいずれでもなく、就活のメカニズム、構造を一般社会人、学生にもキレイゴトぬきで伝えることを目的としており、全ての就活生が知っておいて損のない内容となっています。

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本書は、結局「夢は持つべき」なのか「夢は持つべきではない」かという永遠的なテーマについて記したプロローグから始まります。キャリア講義をする教員や講師の中でもこの意見は二分されることが多いが、大抵は「夢を持つべき」であるとする人が多いのが現状でしょう。

職業には「専門職」と「一般職」の二つがあり、「専門職」は人々がその職業そのものに憧れを抱いて目指すものであるため、夢を持っていることが大前提であり、成功者の言葉には強い説得力があります。しかし、それを目指す過程で挫折をしてきた大多数の人々の言葉は、学生向けの進路講演で語られることはありません。「一般職」の場合、分野ごとの国内シェアが高い企業でさえも就職人気ランキングでは長期間圏外となっていたり、大抵は知名度が低く、企業側もそれをわかっているために、学生の「夢」は必要としておらず、「専門職」よりも教養や人間性を重視しています。また、知名度が高い企業であっても、夢は障壁になる場合がほとんどです。具体的には、企業も特定の分野だけで成り立っているわけではないので、憧れゆえに企業の都合で任される仕事内容や部署の異動に幻滅する可能性が非常に高いためでもあります。

つまり、単に「夢」と言っても希望する職種によってはその重要性は異なり、「専門職」希望者がそのまま夢を持つことは異論なく肯定できるが、「一般職」希望者は企業が夢を重視していないということを心に留めておくべきであるとのことです。よって後者は、「専門職」出身の成功者が言う「夢を持つべき」という言葉を鵜呑みにするのは非常に危険であるということになります。

次に大学名差別に関して、学歴不問採用を掲げた企業の採用結果が難関大学偏重になった事例がいくつかありました。企業側は「自由競争の結果」とし、貴重な就活時間を奪われた就活生からすれば「詐欺に等しい」とされるが、これは学歴不問採用が実力不問採用と混同された結果であると言えます。このように、例えば学生側の無謀な大企業志望や失敗恐怖症、卒業年次による採用率の違い、採用側の事なかれ主義による保守的な採用姿勢などが、大学名差別が存在すると言われる要因にもなっているとのことです。

最近では企業が学生個人のPRから選考や説明会参加のオファーを出すという逆求人型サイトも存在しており、企業の採用を大学名への依拠から個人重視に変化させる可能性があります。また、社会人慣れをしている学生は企業側の人間にも対人間として接することができるため、学歴フィルターにめげずに大胆に行動できることが多い傾向があります。この努力が採用につながることもあるのも。つまり、失敗を恐れないことが就活生には重要であるということがわかります。

採用基準が少しずつ大学名依存から個人重視へと変化しつつある今、企業は学生の何を見ているのか。まず履歴書が手書きであるべきかPCでの作成であるべきかについては、多くのIT企業は就活情報サイトなどネットでのやり取りが多いために手書きを支持していないが、その他は文字に個人の丁寧さや意識などを見ることもあるとのことです。また近年では志望動機や自己PRよりも、「学生時代に力を入れたこと」を選考書類で重視するのが主流になりつつあります。また、ありきたりな自己PRよりも、具体的な経験やエピソードによって学生本人の人間性を知ることが企業側の希望であるということを知っておく必要です。

今、学生の間でも敏感なブラック企業の見分け方に関して、求人広告や説明会で嘘をつく企業はあからさまであるが、人間の体力の限界というものをしっかり理解し、効率を重視する企業を見極めることが大切であると述べています。また、倒産の危機がある企業もブラック企業に含めるとすれば、企業の借金や資産などの公開情報をよく見る必要があるが、無借金企業はそれだけ保守的で利益拡大の機会を失っている可能性もあるため、優良とも言い切れないところはあります。
企業の良し悪しは結局のところ個人で異なるため、就活生はできるだけ様々な情報を入手し、自身に合った企業を見つけることが大切であるということで本書は締めくくられています。

石渡嶺司 (著)
出版社: 新潮社 (2017/1/14)、出典:amazon.co.jp