医療職が部下を持ったら読む本 マネジメントで悩むあなたのために

本書は、外科医、病理専門医としての病院勤務の経験もあり、現在は医療機関の経営支援、ヘルスケアビジネスの支援などを行なっている裴英洙氏による著作である。同氏を含む4人の医療関係仲間が、管理職の直面しがちな問題を相談し合うことで、上司としての心得を読者に示していくという小説風のマネジメント本となっており、非常に読みやすい入門書であると言えます。

Level1「管理職になったらこれだけは知っておきたい!」

職員の辞める時のサインを早期に見抜いて適切な声かけをすることで離職を食い止めることや、実力や権威のある特定の職員に依存し過ぎる組織の属人的経営の危険性、また、上司は報告・連絡・相談の大切さを説くだけでなく、促す存在であるべきことや、組織の一体感のためには理念は冗長なものではなく明確にし、ミッション、ビジョン、バリューの3要素をメンバーで共有することが大事であると述べられています。どの内容も基本的なものでありながら、良い経営のために見落としがちな点を提示してくれているところが特徴です。

Level2「部下の心をつかむには」

まず職員満足度調査の効果的なあり方や工夫の仕方について述べられ、他にも、信頼失墜を招く問題職員に対する対処法や組織全体のためにも上司がまずコンプライアンス向上に努めるべきということなどが述べられています。これらは管理職という人の上に立つ者としておさえておきたい内容であり、詳細な具体例や対処法も書かれているため、わかりやすく効果的なものです。

Level3「部署のピンチはこう対処しよう」

組織的な問題」であるパワハラの解決のためには経営者の決断が重要であること、自院の「強み」「弱み」「機会」「脅威」を把握するSWOT分析をして組織の長期的な方針を立てること、コスト削減のために部下を巻き込んで整理整頓や無駄の見直しに取り組むこと、クレームを改善のチャンスと捉えつつ対処する方法などが説明されている。いずれも、部署を脅かす事柄にも管理職が真摯に向き合う姿勢が大事であると感じさせられる内容であります。また、組織である以上は問題意識の共有や解決などに部下を巻き込むことも同様に大事です。

Level4「最強の組織へ。ここが上司の見せ所」

チーム力向上のためには部下の成長を促す教育をして信頼関係を築き、部下に仕事を任せるのが良い上司であることや、退職勧奨や解雇の際にトラブル回避のために注意すべき事柄、部下の公平な評価のために留意すべき点などが述べられており、管理職が陥りやすい罠についても具体的であるため、自身を見直すことにも効果的です。

本書は、医療の管理職の取る行動で組織全体がどのように左右されるかがよくわかり、上司としての自身のあり方に悩む人には強く勧められる内容となっています。また、医療職に関わらず組織運営のために重要な事柄が多く含まれているため、多くの人が読んで損のない内容であると言えます。

裴英洙 (著)
出版社: 日経BP社 (2016/5/31)、出典:amazon.co.jp