質問紙デザインの技法[第2版]

【最新 – アンケート調査についてのおすすめ本 – 統計解析、分析デザインも学べる】も確認する

質問紙デザインから完成までのガイドライン

質問紙を作る際の実務的なガイドラインとなっています。質問紙の概要として、調査プロセスやデータ収集の技法から個人情報保護等の倫理的ガイドラインまで説明し、質問紙の具体的な作成方法では、どのような表現をすれば意図した回答を正確に得ることができるかについて詳しく解説しています。質問紙を作成する際にはとても参考になります。

鈴木 淳子 (著)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2016/7/31) 、出典:出版社HP

第2版へのまえがき

本書は,質問紙法による調査実施までのプロセスおよび質問紙デザインの技法の体系的かつ実践的紹介を目的として執筆したものです。2011年9月の初版第1刷発行以来,予想を上回る多くの方々に手に取っていただくことができました。著者としてこれほど嬉しいことはございません。

近年の急速なITの高度化とサービスの向上,さらに社会のさまざまな場面における倫理的配慮への要望の高まりにはめざましいものがあります。このような調査環境の大きな変化が調査実施や質問紙デザインに与える影響について新たに検討を加える必要性を感じ,初版刊行からほぼ5年が経過したこの機会に第2版を作成することにしました。

第2版の執筆姿勢に初版との違いはなく,章立てなどの基本的な構成にも変更はありませんが,本書の内容をより充実したものにすることに加え,大学院生や若手研究者の方々にも質問紙調査を身近に感じて本書を活用していただけることをめざして執筆しました。

今回の大幅な加筆によって,質問紙調査や質問紙デザインに関心をもつ方々や実際に取り組んでいる方々のお役に立てる可能性が少しでも広がり,その楽しさとおもしろさと怖さがより具体的に伝わることを願ってやみません。

最後になりましたが,第2版の作成にあたって,ナカニシヤ出版の宍倉由高さんに初版同様の温かいご配慮と励ましとアドバイスをいただいたことに深く感謝申し上げます。また,めんどうな校正作業を忍耐強く担当してくださった編集部のみなさまにも心から御礼申し上げます。

2016年6月
鈴木淳子

まえがき

本書は質問紙法に関する体系的かつ実践的な入門書です。質問紙法による調査実施までの計画と準備のプロセスおよび質問紙デザインの技法に焦点をしぼって紹介しています。技法のみではなく,回答者に配慮すべき倫理的ガイドラインも重視し,詳細に説明しました。社会科学分野の質問紙法による調査に限定せず,どのような専門分野のどのような調査にも,質問紙作成を必要とする限りは参考にしていただけることをめざして執筆しました。

読者としては,研究や仕事で質問紙を作成する方だけでなく,リサーチ・リテラシーの基礎の習得や質問を通したコミュニケーションのスキル・アップを求める方なども想定しています。

質問紙法による調査の第1の特徴は,調査者と回答者が直接対面せず,質問紙に記述されたことばや記号や数字のみを通して行う双方向なバーバル・コミュニケーションであることです。原則としてノンバーバル情報は用いないため,調査者は書かれたことばだけで「勝負」せざるをえません。

第2の特徴は,多数の回答者に同一条件で,しかも自記式で答えてもらうための汎用性が求められることです。そのためには,会ったこともない多数の回答者に,意図したとおり正確に質問の内容を解釈・理解してもらわなければなりません。たずねたいことを頭のなかできちんと整理し,ことばで正確に表現し,すべての回答者に同じように解釈・理解してもらうことは実はたいへんむずかしいことです。

第3の特徴は,良質なデータを集めるために,回答者によい印象を与えて調査への信頼度や協力意欲を高め,事実に即した正確な回答を返してもらえるよう説得力を備える必要があることです。

この3つの特徴をみれば,質問紙法による調査はそれほど容易には実施できないことをご理解いただけると思います。また,「質問紙作成は,日本語がわかる人ならだれでも簡単にできる単純作業」という考えは大きな誤解であることもおわかりいただけるでしょう。単に自分のたずねたい質問を並べるだけでも質問紙の体裁はとれますが,それは質問紙ではなく質問の単なる寄せ集めにしかすぎません。質問紙にはデザインが必要です。

質問紙は創意工夫の固まりです。調査者が興味をもつテーマに関する知識と思考を質問の内容に反映させ,質問順序やレイアウトなどについて試行錯誤を重ね,時間とエネルギーを注げば,質問紙はそれに見合った質の良いものにどんどん変化していきます。しかし,質問紙は創意工夫だけでは未完成です。その上に回答者の心理や立場をさまざまに想像しながら倫理的配慮を重ね,やっと完成に至るのです。最初に作成した質問紙の試案と完成版を比較すれば工夫と配慮の成果がはっきりわかります。完成版では試案の原型がほぼ消えていることでしょう。これは,質問紙デザインの技法を身につけたということを自分で客観的に確かめることのできる,非常に嬉しい経験になります。

質問紙はまた個性的でもあります。同じテーマ・目的で同じ対象者を想定して同じ文献を読んで同じ予算で質問紙を作成しても,作成者が異なればまったく異なったものができあがります。質問内容,質問のしかた,ワーディング,質問順序,体裁やレイアウトなどが作成者の個性を反映し,それぞれ異なるからです。質問紙は作成する人の興味,パーソナリティ,知識,想像力,価値観,思考スタイルを映し出す鏡であり,そこにおもしろさと怖さがあります。

本書は第1部と第2部から構成されています。

第1部「質問紙法の調査デザイン」では,質問紙法による調査実施までのデザインの概要を紹介しました。まずイントロダクションとして質問紙・質問紙法とはなにかを説明し,調査における質問紙デザインの重要性を確認し,本書の目的と構成を明らかにします(第1章)。調査者が質問紙法について理解しているべき特徴,利点,課題について整理し,調査の基本姿勢として回答者への配慮について説明します(第2章)。続いて調査プロセス(第3章),データ収集の技法(第4章),サンプリングの技法(第5章),調査実施に向けての準備(第6章)を取り上げ,最後に全プロセスにかかわる倫理的ガイドラインを総括的にまとめます(第7章)。

第2部「質問紙デザイン」では,調査デザインのなかでも質問紙デザインに的をしぼって詳細に説明しました。質問紙デザインの各プロセスごとに独立した章を立て,それぞれの技法とガイドラインを解説していますが,実際に質問紙を作成する場合には,これらを総合的に検討することになります。具体的には,まず質問紙の完成に至るまでの作成の全プロセスを示し,質問紙デザイン上もっとも重要な基本的作業とガイドラインを紹介します(第8章)。その後に,質問紙の構成と体裁(第9章),質問の種類と順序(第10章),質問作成(第11章)ワーディング(第12章),選択回答法(第13章),自由回答法(第14章),予備調査(第15章)について技法とガイドラインをまとめています。

なお,質問紙を用いた調査では,質的データより量的データを求めることのほうが多いため,本書も量的データを収集するための質問紙デザインについての説明が中心になりますが,質的データの収集にも役立つように執筆しました。また,インターネット調査法は「紙と鉛筆」による従来の調査法とは技術面で異なりますが,質問紙デザインの技法に関しては根本的な違いはないと考え,本書でも随所で取り上げました。

質問紙デザインは,配慮と工夫と経験によって上達する技法です。「正解」はありませんが,繊細な配慮と工夫を重ねれば,また経験を積んでいけば,必ずより良い質問紙が作成できます。本書が技法の解説にとどまらず,質問紙デザインには創造することの楽しさとおもしろさと怖さが備わっていることを読者に伝えられれば,執筆者として望外の幸せです。先に出版されている拙著「調査的面接の技法」と合わせてお読みいただき,サーベイ調査法全般についての理解を深めてくださることを願っております。

最後になりましたが,ナカニシヤ出版の宍倉由高さんと慶応義塾大学名誉教授の三井宏隆先生には,公私にわたってさまざまなご配慮と温かい励ましをいただきました。東日本大震災の経験も含め,執筆中には心身ともに大きな試練を迎えた時期もあり,脱稿が予定より大幅に遅れましたが,おかげさまで最後まで執筆することができました。宍倉さんには本書の校正でもご無理なお願いを重ね,たいへんお世話になりました。おふたりに心から感謝申し上げます。

2011年8月
鈴木淳子

鈴木 淳子 (著)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2016/7/31) 、出典:出版社HP

目次

第2版へのまえがき
まえがき

1 イントロダクション
1-1 質問紙とは
1-2 質問紙法とは
1-3 質問紙法による調査の現状
1-4 invisibleな質問紙の存在
1-5 質問紙の重要性
1-6 本書の目的
1-7 本書の構成

第1部 質問紙法の調査デザイン

2 質問紙法の基礎
2-1 質問紙法の特徴
2-2 質問紙法の利点
2-3 質問紙法の課題
2-4 回答者への基本的配慮

3 質問紙法の調査プロセス
3-1 調査プロセスの概略
3-2 調査テーマの発見
3-3 文献調査
3-4 調査デザイン1:調査テーマ・目的・タイトル・仮説の決定
3-5 調査デザイン2:スケジュール・予算の決定
3-6 調査デザイン3:調査対象者・データ収集法・サンプリング法の決定
3-7 調査デザイン4:データの編集・集計・分析デザインの検討
3-8 調査デザイン5:質問紙ドラフトの作成・予備調査・質問紙の完成
3-9 調査デザイン6:調査実施に向けての準備
3-10 調査デザイン7:倫理的問題の有無の検討
3-11 本調査実施
3-12 本調査実施後の調査プロセス

4 データ収集の技法
4-1 集合調査法
4-2 郵送調査法
4-3 留め置き調査法
4-4 インターネット調査法
4-5 電話調査法
4-6 構造化面接法
4-7 混合型調査法

5 サンプリングの技法
5-1 調査対象者の選定
5-2 サンプリング
5-3 確率標本抽出法
5-4 非確率標本抽出法
5-5 今後のサンプリングのありかた

6 調査実施に向けての準備
6-1 挨拶状・推薦状
6-2 第三者へのデータ収集依頼
6-3 ブリーフィング・ディブリーフィング
6-4 宛名ラベル・返信用封筒
6-5 フォローアップ・コンタクト
6-6 謝礼の方法
6-7 問い合わせ・苦情などへの対応

7 倫理的ガイドライン
7-1 倫理的配慮の必要性
7-2 インフォームド・コンセント
7-3 匿名性の保障とプライバシー・個人情報・人権の保護
7-4 回答者の権利
7-5 既存尺度の使用
7-6 倫理的ガイドラインをめぐる今後の動向

第2部 質問紙デザイン

8 質問紙デザインの基礎
8-1 質問紙デザインの重要性
8-2 質問紙デザインのプロセス
8-3 質問紙デザインの基本的作業
8-4 質問紙デザインのガイドライン

9 質問紙の構成と体裁
9-1 質問紙の構成
9-2 質問紙の表紙
9-3 表紙に記載する注意事項
9-4 最終項目群
9-5 質問紙の体裁
9-6 質問紙の書式
9-7 質問紙のレイアウト

10 質問の種類と順序
10-1 質問の種類
10-2 デモグラフィック項目
10-3 注意が必要なデモグラフィック項目
10-4 質問順序
10-5 質問順序デザインのガイドライン

11 質問作成
11-1 誘導質問
11-2 虚偽回答・タテマエの回答を招きやすい質問
11-3 ダブル・バーレル質問
11-4 反応バイアスを発生させやすい質問
11-5 回答者が答えにくい質問
11-6 否定の入った質問
11-7 質問作成と教示のガイドライン

12 ワーディング
12-1 ワーディングの微妙な影響
12-2 明確なワーディングのための5つの条件
12-3 ワーディング推敲のガイドライン

13 選択回答法
13-1 回答記入法
13-2 選択回答法
13-3 利点と課題
13-4 回答形式
13-5 回答選択肢作成のガイドライン

14 自由回答法
14-1 自由回答法
14-2 利点と課題
14-3 回答形式
14-4 自由回答法による質問作成のガイドライン

15 予備調査
15-1 予備調査の目的
15-2 予備調査の概要
15-3 チェック内容
15-4 質問紙の完成

引用文献
事項索引
人名索引

鈴木 淳子 (著)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2016/7/31) 、出典:出版社HP