【最新】航空産業について知識を深めるためのおすすめ本 – エアラインビジネスの基礎知識から実践まで

今の航空産業は?将来的には?

航空産業は歴史的背景や政策の影響を受けやすく、取り巻く環境は常に変化しています。また、他社との差別化を図る必要があり、経営は非常に困難です。そこで今回は、航空産業の現状や今後の戦略、将来のビジネスモデルについて知ることができる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

航空産業入門(第2版)

航空業界を展開できる1冊

航空業界の歴史から、プライシングやレベニューマネジメント、データベースマーケティング等の航空会社の最新の戦略まで詳細に解説しています。今後の航空産業における課題やビジネスモデルを考えるうえで最適の書です。

ANA総合研究所 (著)
出版社 : 東洋経済新報社; 第2版 (2017/4/12)、出典:出版社HP

はしがき

2008年に『航空産業入門』を刊行し、以降第5刷まで版を重ねてきましたが、今般,改訂版として第2版を発行することとなりました。
『航空産業入門』は、航空の歴史と政策,航空会社の戦略と経営について,広く多くの方々,とりわけこれからの日本を背負って立つ学生や大学院生を含む若手研究者に読んでいただき,航空産業についての理解を深め、より多くの方々に航空産業を志望いただきたいという考えから発行しました。その後,株)ANA総合研究所が大学との連携事業を拡大する中、多くの学生に本書をご紹介する機会を得ることができ,結果,航空産業を志望する学生を中心に業界が抱える課題や経営の要請に対する理解を深めていただけたと考えております.
一方,初版刊行の2008年から9年が経過し、航空産業を取り巻く環境や抱える課題も変化しました。特に,「台頭」と表現していたLCC(低コスト航空会社)は,成田空港,関西空港を中心に大きく事業を拡大し、国民に広く認知されるに至っています。また大手航空会社においては,刊行後間もない2010年1月に日本航空が経営破綻しました。その後,国の支援の下で再生が進められ,2017年4月には国土交通省による「日本航空の企業再生への対応について」の中で記されている日本航空に対する規制も解除されます。また国内第3位の航空会社であったスカイマークは2015年1月に民事再生法の適用を申請し,その後,他社の出資を得て,再生を進めています.
世界に目を転じると,航空会社の提携(アライアンス)が一層拡大するとともに,その提携内容も従来のコードシェアの枠組みを超えたさらに強固なものとなっています.一方,中東の航空会社の多くは今まで3大アライアンスグループへの参加には消極的でしたが,個々にサービスの充実を図ることで、業績を拡大しています。LCCも欧州や北米のみならず,アジアにおいても大きく事業を拡大するに至りました.
また,航空機製造においても大きな変化がありました.「ゲームチェンジャー」と称されたボーイング社のB787型機が,2011年に就航しました。炭素繊維複合材による軽量化が図られ航続距離が大幅に伸びるとともに燃費も改善し,多くの航空会社が導入しています.一方,エアバス社は大型機A380を2007年に就航させましたが、その後,導入の拡大には至っていません。日本国内においては、YS-11型機以来の純国産の旅客機としてMRJ(三菱リージョナルジェット機)の開発が進められています。
今回の改訂版の刊行にあたり,航空の歴史と政策および航空会社の経営について普遍的な内容を紹介するとともに,こうした2008年以降の環境変化を踏まえ,内容の見直しを図りました。第1部の「航空の歴史と政策」においては、航空会社における機材の変遷」の章を設け,航空機製造に関する著述を加えています。第2部の「航空会社の戦略と経営」においては「LCCの台頭と特徴」の章を設け,LCCの経営についてより詳細に紹介しています。これら以外にも新たな執筆者により最新の情報を盛り込み、内容の充実を図りました。
本書が初版の『航空産業入門』同様,航空産業を目指す学生にとって適切な指南書として役立つことを願っています.また,日本の航空産業の健全な発展について考える一助になれば幸いです.
最後になりますが,本書の編集にあたり,東洋経済新報社の茅根恭子エデュケーション室長およびANAグループの各部署の担当者に大変お世話になったことをこの場を借りて御礼申し上げます.

2017年3月
株式会社ANA総合研究所
代表取締役社長 岡田晃

ANA総合研究所 (著)
出版社 : 東洋経済新報社; 第2版 (2017/4/12)、出典:出版社HP

目次

はしがき

第1部 航空の歴史と政策
第1章 航空輸送の歴史
1.1 揺籃期
1.2 第2次世界大戦までの民間航空
1.3 第2次世界大戦後の民間航空の発展
1.4 高度経済成長と45/47体制
1.5 ’85日米暫定合意と航空政策の見直し
1.6 9.11テロ以降とわが国の航空
Coffee Break 空に憧れて~零戦からMRJへ~

第2章 シカゴ体制
2.1 シカゴ体制とは
2.2 バミューダ型2国間航空協定
2.3 国際民間航空機関(ICAO)
2.4 国際航空運送協会(IATA)

第3章 自由化の流れ
3.1 米国国内航空の規制緩和
3.2 米国の国際航空政策オープンスカイポリシー
3.3 EUの単一航空市場
3.4 日本の航空自由化の動き
3.5 その他の地域での航空自由化の動き
Coffee Break 飛行機のナビシステムとは?

第4章 航空会社における機材の変遷
4.1 大量輸送時代の到達
4.2 空港等環境整備の推進,発着枠の余裕,小型機による需給適合
4.3 日本製の航空機
Coffee Break 大きくなる窓,小さくなる窓

第5章 空港
5.1 日本の空港の現状と課題
5.2 昨今の空港運営に関わるこれまでの国の政策
5.3 空港民営化
5.4 2020年に向けた施策
Coffee Break 成田空港は日本一のショッピングセンター?

第2部 航空会社の戦略と経営
第6章 航空運送業の特徴・使命・環境
6.1 航空運送業の特徴
6.2 航空旅客需要の特徴
6.3 航空機の生産性
6.4 航空運送の費用
6.5 安全運航の追求
6.6 地球環境問題への対応
Coffee Break 航空会社におけるリスク管理最前線

第7章 アライアンス(航空連合)
7.1 アライアンスの背景
7.2 グローバル・アライアンスの誕生,発展
7.3 アライアンスの活動,戦略,消費者利益

第8章 ネットワーク戦略
8.1 O&D需要
8.2 便の選択要素
8.3 ネットワーク設計プロセス
8.4 ネットワークの実例
8.5 ネットワーク戦略とアライアンス

第9章 プライシングとレベニュー・マネジメント
9.1 プライシングのあり方
9.2 プライシングの多様化
9.3 国内線運賃の制度
9.4 国際線運賃の制度
9.5 レベニュー・マネジメント
Coffee Break 変わるIATAの役割

第10章 マイレージとデータベースマーケティング
10.1 FFPの歴史
10.2 FFPの仕組み
10.3 FFPデータに基づくデータベースマーケティング
10.4 今後の顧客戦略の方向性

第11章CS(顧客満足)
11.1 CS(顧客満足)の重要性
11.2 CSをどのように推進していくのか
Coffee Break 「おもてなし」コンテストがもたらすもの

第12章 ブランド戦略
12.1 ブランド戦略の必要性
12.2 航空会社のブランド戦略

第13章CRSとインターネット時代の戦略
13.1 CRSの概要
13.2 CRSの歴史と発展
13.3 近年のCRSの展開とGDS
13.4 インターネットの衝撃
13.5 インターネット・サービスの進化
13.6 インターネットとプロダクト戦略
Coffee Break 航空会社のコンピュータシステムは「一戸建て」から「大型マンション」へ

第14章 国際航空貨物
14.1 国際航空貨物とは
14.2 航空会社における貨物ビジネス
14.3 航空貨物輸送の特徴
14.4 航空貨物のマーケット
14.5 航空貨物の課題
Coffee Break ANA沖縄貨物ハブ

第15章LCCの台頭と特徴
15.1 LCCの生い立ちと発展
15.2 LCCのビジネスモデル
15.3 LCCの新たな展開について
15.4 LCCの将来に向けて
Coffee Break 変えるもの、残すもの

あとがき
索引
執筆者紹介

ANA総合研究所 (著)
出版社 : 東洋経済新報社; 第2版 (2017/4/12)、出典:出版社HP

エアライン・ビジネス入門

エアライン・ビジネスの今がよくわかる

エアライン・ビジネスの歴史的背景,航空会社の事業構造の成り立ちから関連事業を含めて初学者に配慮した記述としながら,躍進するLCCなど最新の航空業界研究も収録しています。飛行機を知らない方でも読みやすい構成となっています。

稲本 恵子 (著, 編集), 阿部 泰典 (著), 小川 祐一 (著), 北村 伊都子 (著), 久保 俊彦 (著), 志村 良浩 (著), 丹治 隆 (著), 手島 廉幸 (著), 中村 真典 (著), 馬場 哲也 (著), 林 良隆 (著), 日坂 幸司 (著), 平野 典男 (著), 真野 靖久 (著), 水野 徹 (著)
出版社 : 晃洋書房; A5版 (2017/9/20)、出典:出版社HP

目次

第1章 エアライン・ビジネスとは
1 エアライン・ビジネスとは
2 エアライン・ビジネスの特徴
3 エアライン・サービス
4 本書の目的と展望――エアライン・ビジネスの視点から

第2章 航空機の発達と歴史
1 人類の初飛行
2 航空機の分類
3 航空機の発達

第3章 エアライン・ビジネスの歴史的背景
1 民間航空輸送の黎明期
2 第二次世界大戦以降の民間航空輸送
3 自由化の流れ
4 日本の民間航空の歴史

第4章 空港
1 空港の概要
2 空港の課題
3 空港の民営化

第5章 航空会社の経営計画
1 経営計画とは
2 航空会社の経営計画
◆異文化のもとで働く:アイデンティティ
Column1 航空と環境

第6章 アライアンス
1 航空会社の提携やアライアンスの背景
2 航空会社間の提携の類型
◆異文化のもとで働く:ダイバーシティ
Column2 ハブ・アンド・スポーク(Hub and Spoke)
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第7章 航空会社の関連事業
1 航空直結事業関連会社
2 周辺事業会社
◆異文化のもとで働く:名札のひみつ

第8章 航空運賃の仕組み
1 国内航空運賃と国際航空運賃
2 運賃決定の理論
3 国内航空旅客運賃制度
4 日本発着国際航空旅客運賃制度

第9章 予約と販売
1 予約のコントロール
2 販売手法の多様化
Column3 航空会社のレベニュー・マネジメント

第10章 客室サービス
1 客室乗務員の等級と編成
2 機内サービス
3 安全業務

第11章 航空貨物輸送
1 航空貨物輸送の概要
2 マーケット概況
3 今後の見通し

第12章 旅客ハンドリング
1 旅客ハンドリングとは
2 搭乗に注意を要する旅客
3 運送約款
◆異文化のもとで働く:微笑みの国タイ

第13章 グランドハンドリング
1 運航管理とは
2 各空港での業務
3 航空機の運航に影響を与える気象

第14章 ケータリング
1 日本の機内食の歴史
2 機内食の位置づけと現状
3 機内食
4 ケータリング会社の仕事
5 機内という特殊環境への対応

第15章 航空会社の安全管理
1 航空会社にとっての「安全」とは
2 安全管理とは何か
3 事故と安全管理
4 安全管理の方法
5 安全管理(仕組みと運用)の課題
Column4 航空業界を支える仕事
◆異文化のもとで働く:海外で部下をマネジメントする

第16章LCCの世界的躍進
1 LCC(低コスト航空会社)の概要
2 LCCの世界的躍進
3 LCCの航空業界・市場へのインパクト
4 日本のLCC
5 LCCの社会的・経済的価値
6 LCCの未来

第17章 これからのエアライン・ビジネス
1 データからみるエアライン・ビジネス
2 航空会社間の硬柔連携の進展
3 運営形態の変化
4 航空会社の今後
Column5 ムスリム・インバウンド

あとがき
索引

稲本 恵子 (著, 編集), 阿部 泰典 (著), 小川 祐一 (著), 北村 伊都子 (著), 久保 俊彦 (著), 志村 良浩 (著), 丹治 隆 (著), 手島 廉幸 (著), 中村 真典 (著), 馬場 哲也 (著), 林 良隆 (著), 日坂 幸司 (著), 平野 典男 (著), 真野 靖久 (著), 水野 徹 (著)
出版社 : 晃洋書房; A5版 (2017/9/20)、出典:出版社HP

最新|航空事業論 第3版

航空事業の教科書

世界55か国を旅した航空の研究者が、航空の未来、歴史の真実、最強の経営理論、LCC、ジョイントベンチャー、航空安全、空港、さらに“就活成功のヒント”まで全てを網羅しており、36のKey wordと43の事例研究を読めば航空業界のイロハがわかります。

井上 泰日子 (著)
出版社 : 日本評論社; 第3版 (2019/10/15)、出典:出版社HP

序文

本書は、航空事業についての教科書を目指したものである。航空を取り巻く環境の変化に応じて、前著『最新・航空事業論(第2版)』(2016年発刊)から、章の入れ替えも含め内容の多くを改訂している。本書における特徴、また各章の内容などは以下の通りである。

■本書の特徴

(1)航空輸送と航空機製造の両分野をカバー

航空産業は、大手航空会社や近年急成長を遂げているLCCなどのビジネス領域である航空輸送とボーイング、エアバスなどのビジネス領域である航空機製造があり、通常単著で両方のビジネス領域をカバーすることはない。しかし、本書では、前著に引き続き両方の領域をカバーしている。何故なら、航空輸送産業と航空機製造産業は密接に繋がっており、一つの産業と言っても過言ではないからである。

(2)日本とドイツの敗戦後の占領政策や航空技術者の動きの違いに焦点をあてた

「同じ敗戦国でありながらドイツはエアバスを牽引し、その中核で航空機を製造しているが、何故、我が国はドイツのように本格的に航空機を製造できないのですか」との質問を受けることが多い。
この問いの第一の回答は、占領政策の違いである。冷戦開始を想定しドイツの技術を活かそうとした欧州と、そうではなかった日本の占領政策が今日の違いをもたらしている。第二の回答は、ドイツと日本の航空技術者の動きの違いである。敗戦国では航空機製造は禁止される。ドイツの技術者は自国で禁止されるなら、海外に行けば良いと考え海外で航空機製造を続けた。一方、日本の技術者は、国内にとどまり航空機製造への関わりは制限された。今日の社会では、日本の技術者や研究者が国境を越えて本来の職を続けることは稀なことではない。しかし、70数年前に既に国境を越えて行動していた技術者や研究者がドイツにはいたのである。

(3)マーケティングの視点からの分析

航空の領域も含めビジネスの世界を良く理解するためにはマーケティングの視点が不可欠である。第3章、第4章、第5章、第6章においては、特にマーケティングの視点からの分析を重視した。
(4)「オープンスカイ政策」の原点
「航空の世界でもグローバルなレベルで自由化が進展している。航空事業における自由化政策は「オープンスカイ政策」と呼ばれる。我が国では、「オープンスカイ政策」は20世紀後半に開始された政策と考えられがちであるが、はるか以前、1940年代航空の重要性を真っ先に理解していた米国における議会での動き、そしてルーズベルト大統領主催の政策会議が、その方向性を固めた。よって、当時の状況を詳述することに努めた。

(5)最後の章に「就活成功のヒント」を加えた

本書の最後には、航空会社への就活成功のためのヒントを書き加えた。航空事業を解説した著作において就活に関する章を設けることに一時は逡巡したが、以下のような背景があり書き加えることにした。
筆者は企業で長く働き、大学でキャリア教育を担当し授業外で1000人を超える学生の個別相談に応じた経験がある。大学で講義を開始した頃は、就活の相談への対応には戸惑ったが、最近では考え方を変え、就活の相談も積極的に受けている。考え方を変えたのは、昨今の就職活動が大変厳しいものであることに気づいたからである。第二の理由は、筆者自身の長い企業経験を出し惜しみせずに、学生に助言することは、親切なことだと考えたからである。

■各章における主要な内容・特徴

第1章「航空の未来」
未来を予測することは、現在の状況を知る上で重要である。予測は外れるかもしれないが、次の段階で修正、さらに予測、修正の繰り返しサイクルにより予測精度を高めることができると考えている。
第2章「航空の歴史」
歴史は、全ての学問において重要である。我が国の航空の歴史においては戦後の「7年間の航空禁止」が何をもたらしたかを理解することは特に重要である。
第3章「航空会社のビジネスとは」
航空会社は、外部からはそのビジネスの実態がわかりにくい。よってできるだけ具体的に航空会社のビジネスについて解説した。
第4章「LCC(格安航空会社)」
LCCの登場は、単に安い運賃が実現したことではなく、低価格で世界を移動することが可能になり社会に大きな変革をもたらしている。
第5章「レベニュー・マネジメント一最強の経営理論」
航空事業の経営において、最も重要な理論であり実践的な手法である。
第6章「アライアンスからジョイントベンチャーへ」
航空事業は外資規制があるため、世界的なレベルでの再編・統合には制約がある。しかし、今後は国を超えての資本移動緩和とともに、他の産業のように大規模な統合、再編が進む可能性がある。
第7章「規制緩和とオープンスカイ政策」
「オープンスカイ政策」の原点は、第二次世界大戦中の1943年の米国で見出すことができるが、その状況をできるだけ具体的に解説した。
第8章「航空機製造産業」
航空事業は、航空輸送と航空機製造を一体として考察することで初めてその重要性が理解できる。
第9章「航空安全」
輸送機関にとって安全はもっとも重要である。
第10章「空港」
グローバル化の進展にともない、世界で国際都市間競争が展開されている。国際都市として発展するには、航空ネットワークと空港の充実が不可欠である。
第11章「国際航空法」
航空輸送は、単に航空会社のマーケティング上の判断で行われているのではなく、厳しい外交交渉の結果もたらされた国際条約をベースに行われている。
第12章「米国チャプター11(連邦破産法第11章)」
米国にとって航空は最も重要な産業の一つであり、それを支えているものつがチャプター11である。
第13章「航空管制」航空管制の仕組みはわかりにくいものである。しかし、その内容の把握は重要である。
第14章「就活成功のヒント」「航空会社が求める重要な資質」、「過去問」など具体的な内容を網羅している。

■「Keyword」、「事例研究」について

Keyword
本文の内容を理解する上で重要だと思われる用語については、「Keyword」として解説した。

事例研究
本文の内容を理解する上で有効だと思われる事例は、「事例研究」として紹介した。
尚、第2章、第7章などにおいて英文を訳文無しで引用している。英文に直接触れる方がその意味が良く理解できると考えたためである。
言うまでもなく、本書制作は筆者自身の力のみでなし得たわけではない。美添泰人青山学院大学名誉教授からいただいた様々なご助言により本書は完成することができたが、感謝の気持ちは表現のしようがない。東京都市大学中村英夫名誉総長(東京大学名誉教授)からは大学教育から世界や国家を見る視点まで高度で豊富な知見に基づきご指導いただいた。吉田和男京都大学名誉教授からは、経済学の領域のみならず、世界の潮流を読み解くための貴重な示唆をいただいた。京都大学工学部奥島研究室OBの皆様からは、筆者が忘れかかっていた工学の知見について教えていただいた。JAL、ANAの幹部の方々からも多くのことを教えていただいた。

航空の教科書を書き始めてから早いもので10年以上が経過し、現在継続中も含め獨協大学、青山学院大学、東京大学、早稲田大学、京都大学、立教大学、立命館アジア太平洋大学、甲南大学、中央大学、東洋大学など全国の多数の大学で講義、講演を行う機会をいただいた。航空産業は超人気産業であると同時に、国家にとって重要な産業である。これからも全国の大学で講義、講演を続けたいと考えている。これは、一方的に航空の事を語りたいと思っているからではない。大学教授として学生にメッセージを届け指導しているつもりになっている期間も長くなっているが、振り返ってみれば、学生からの質問やコメントを通して多くのことを学ばせてもらったことを実感しているからである。学生は航空の魅力や課題を若く鋭い感性で洞察しており、筆者が気づいていなかったことも気づかせてくれる。また、学生たちとの会話を通して、現在の学生たちのリアルな姿、また就職活動の実態を知ることができる。大学教員として、このリアルな情報は、次の学生の指導に生かすことができる宝の山である。
最後に、本書完成まで導いていただいた日本評論社の斎藤博氏に厚く御礼を申し上げたい。

2019年9月1日
井上泰子

井上 泰日子 (著)
出版社 : 日本評論社; 第3版 (2019/10/15)、出典:出版社HP

目次

序文

第1章 航空の未来
1.空の産業革命
(1)ドローンの進化
(2)空飛ぶクルマ
2.超音速旅客機
3.アジア・オセアニアのメガキャリアは?
4.米国・欧州・中国の航空3極形成一中国は世界最大の航空機市場に
(1)中国航空機製造の強み
(2)航空輸送と航空機製造一体の構造(シンビオシス)
5.テクノロジーの進歩と航空ビジネスの変化
(1)5Gの活用
(2)GDSからNDCへ

第2章 航空の歴史
1.飛行船
(1)ツェッペリン伯爵の夢
(2)ツェッペリン伯号の世界一周飛行
(3)タイタニック、チャレンジャー、そしてヒンデンブルグ
(4)飛行船はなぜ衰退し、飛行機は躍進したのか?一隆盛を誇っていたモノも時代遅れに
2.20世紀最大の発明一ライト兄弟による人類最初の動力飛行
(1)学歴がなく無名の兄弟による世紀の偉業
(2)飛行機の本質的な不安定性
3.航空の成長期(1920~30年代)
(1)ヨーロッパ
(2)アメリカ
(3)植民地への航空路開設
(4)大西洋・太平洋線の開設
4.第二次世界大戦
(1)アメリカー戦後は航空事業の黄金期
(2)ヨーロッパー長期の戦争で疲弊した航空事業
(3)中南米、アジア、オセアニア一新メンバー「日本航空」
5.我が国の航空輸送
(1)堺=徳島、堺=高松の航空輸送開始
(2)日本航空輸送設立
(3)大日本航空設立
6.7年間の航空禁止時代
(1)我が国の敗戦と占領政策
(2)航空禁止令の起点
7.何故我が国だけ厳しい航空禁止令が課せられたのか?
(1)我が国だけが厳しい禁止令が課せられた二つの理由
(2)EU、そしてエアバスの原点
8.何故ドイツの技術は生き残ったか?―ドイツの技術者は海外、日本の技術者は国内
9.我が国航空史上最大の危機一日本の空は日本人の手で
10.時代が送り出した「日本航空」
(1)外国社の東京乗入れと日本航空設立
(2)日本航空株式会社法一ナショナル・フラッグ・キャリアの成立
11.全日空の躍進、そして世界へ
(1)全日空誕生
(2)二つの経営危機
(3)国際線への果敢な挑戦

第3章 航空会社のビジネスとは
1,航空事業の特性
(1)派生需要
(2)即時財一在庫の利かない最も腐りやすい商品
(3)高速性
(4)季節性・シーズナリティ(Seasonality)
(5)社会情勢による需要変動
(6)消費者の特性で“需要の価格弾力性”が異なる
(7)装置産業
(8)顧客の識別が可能
(9)サービスの同質性と運賃の重要性
(10)空港施設など社会のインフラに依存
2.航空事業の経済性
(1)規模の経済性
(2)範囲の経済性
(3)密度の経済性
(4)連結の経済性
3.経営計画について
(1)経営計画策定時の重要なポイント
(2)経営計画の個別テーマ
4.マイレージプログラム
(1)発展の経緯
(2)パレートの法則とデータベース・マーケティング
(3)マイルを貯める方法と使う方法
(4)ロイヤルティ・マーケティングと上級会員制度
5.予約発券システムの発展とeコマース
(1)CRS誕生
(2)CRSの中立的なシステムへの転換
(3)GDSとして発展
(4)インターネットの登場とeコマース
(5)One to Oneサービスの登場
6.AIがもたらすイノベーション

第4章LCC(格安航空会社)
1.LCCが世界を変える1万円で海外を往復する時代
2.LCCの成長
(1)インターネットが導いたLCCモデルの世界的拡大
(2)LCCの現状723.中長距離LCC登場
4.PSAが創造しサウスウエストが完成したLCC
(1)PSAの成功と破綻
(2)サウスウエスト航空の成功ーハーブ・ケレバーの功績
5.夢を追いかけたレイカー航空スカイトレイン
6.LCCモデルで利益を出す仕組み
7.大手航空会社とLCCのビジネスモデル比較
8.ハイブリッド化とウルトラLCCの登場
9.ハブ・アンド・スポーク型とポイント・ツー・ポイント型
10.我が国のLCC

第5章 レベニュー・マネジメント最強の経営理論
1.伝説の経営者R・クランドールが発明したイールド・マネジメント
(1)マーケティング戦略におけるイールド・マネジメント
(2)イールド・マネジメント登場の経緯
(3)イールド・マネジメントが有効なビジネスモデル
2.レベニュー・マネジメントへ発展
3.航空運賃の多様化、多段階化
4.収益最大化のための3要素91
(1)オーバーブッキング(過剰予約)
(2)トラフィック・ミックス(多段階運賃の割合の最適化)
(3)プライシング(価格戦略)
5.AI(人工知能)によって新しいフェーズへ

第6章 アライアンスからジョイントベンチャーへ
1.ジョイントベンチャーとは何か?
(1)ジョイントベンチャーと独占禁止法適用除外
(2)「メタルニュートラル原則」と公正な成果配分
2.なぜ提携が必要なのか?
3.提携モデルの発展
4.グローバル・アライアンス成立

第7章 規制緩和とオープンスカイ政策
1.“オープンスカイ政策”の起点は1943年
(1)米国の国際航空政策
(2)オープンスカイ政策(Open Skies policy)とは何か?
(3)オープンスカイ政策の拡大戦略
2.米国の規制緩和
3.欧州の自由化

第8章 航空機製造産業
1.敵の敵は味方か?ーボーイング/エンブラエルvs.エアバス/ボンバルディア
2.ボーイング、エアバス誕生
(1)ドイツ系移民縁のボーイング
(2)EUの象徴エアバス
3.小型機市場拡大
(1)エアバスA380生産中止
(2)2037年までの市場予測
4.航空機製造産業の特殊性
5.航空機製造の特性と市場
(1)学習効果
(2)ドミノ理論
(3)国際共同開発
(4)サプライヤーの課題
6.最先端技術を外した“ツケ”が回っているのか?

第9章 航空安全
1.航空機事故の原因
(1)様々な要因
(2)着陸時の事故割合
2.安全性向上が著しい航空輸送
3.航空会社各部門における安全管理体制
4.同時多発テロ以降の航空保安体制
5.ヒューマンファクターの重要性
(1)スイスチーズ・モデル
(2)ハインリッヒの法則とヒヤリ・ハット
6.航空機の安全性を高めるシステム
7.御巣鷹山のB747型機事故
(1)事故概要と航空事故調査報告書
(2)何故か「修理計画書」と異なる修理が行われた
(3)金属疲労
(4)白いシャツの男たち
(6)事故調査に立ちはだかった大きな壁
(7)事故調査委員の報告
(8)JAL破綻最大の原因一事故原因はボーイングにあったが、経営責任をとったのはJAL

第10章 空港
1.アジア=米国路線の大転換―空港間競争激化
(1)”アジアのハブ空港”としての成田の位置づけ変化
(2)アジア=米国の直行便拡大
2.アジア主要空港の概要-アジア・太平洋地域の旅客数増加
3.成田国際空港
(1)発着時間延長と第3滑走路建設
(2)成田新幹線計画
4.羽田空港(東京国際空港)
5.関西国際空港
6.中部国際空港
7.空港民営化―コンセッション方式
8.全国の空港数と分類

第11章 国際航空法、
1.航空法の概念
(1)航空法の沿革
(2)航空法の定義
2.空域
(1)空の法的地位
(2)条約の規定
(3)領空の範囲
3.シカゴ条約一空は自由のためのハイウェイ
(1)嵐のシカゴ会議一「オープンスカイ」VS.「クォータシステム」
(2)領空主権
4.定期航空における運輸権
(1)第1から第9の自由まで
(2)国際航空業務通過協定

第12章 米国チャプター11(連邦破産法第11章)
1.チャプター11は米国の保護政策か?
2.破産法におけるコスト(救済資金)とベネフィット(便益)の比較
3.復活後に、チャプター11の本質がある
4.航空事業の公益性と外資規制

第13章 航空管制
1.フラッグマンの登場
2.飛行方式
(1)有視界飛行方式
(2)計器飛行方式
3.国際条約と航空交通業務
4.我が国の航空管制
(1)第二次世界大戦後の占領期
(2)航空機事故と航空保安システムの抜本的見直し
(3)レーダー管制
5.航空管制の流れ
(1)航空管制の業務(空の交通整理)
(2)飛行場管制、ターミナルレーダー管制、航空路管制のリレー方式
6.飛行情報区(FIR)

第14章 就活成功のヒント
1.本章の目的
2,客室乗務員やGSにとっての重要な資質
3.成功の秘訣―シナリオプランニング
4.過去問

索引

井上 泰日子 (著)
出版社 : 日本評論社; 第3版 (2019/10/15)、出典:出版社HP

■事例研究

ドローンと空飛ぶクルマの安全レベルの違い

ボーイングの新型旅客機737MAXの運航停止と「規制のとりこ」
商業飛行の起源
チャールズ・リンドバーグの大西洋単独無着陸横断
パンアメリカン航空の台頭
飛行艇(flying boat)
世論が獲得した国家目標一世界一周路線
ポイントプログラム
シェアリングエコノミー
JALのエアバス機材購入
アメリカン航空のAAdvantage(アドバンテージ)とマイレージプログラムへの不安
CRM(顧客関係管理)
JALの新LCCZIPAIR Tokyo”と“カニバリゼーション”
ピープル・エキスプレスの栄光と崩壊
IATA運賃の廃止
座席利用率
RBD(Reservation Booking Designator)について
アルテアによるO&D(Origin and Destination)管理
ATI無しには実施できない提携プログラム
どうサービスレベルを合わせるか
クレア・ルースとヘンリー・ルース
日米オープンスカイ協定概要
Brexitの欧州航空会社への影響
敵の敵は味方一ボーイングによるボンバルディアへの制裁
スミソニアン航空宇宙博物館
スマイルカーブ
世界が注目した1955年の英米逆転ープロジェクト・キャンセル
外国で整備を行う時代へ
ジャムも持込禁止
“金属疲労受入れの壁
ボーイングの発表
ニューヨーク=シンガポール間の直行便
ハブを使った長距離移動の基本パターン
世界一の空港一シンガポール・チャンギ国際空港
顔認証でウォークスルー
成田闘争
2018年9月の台風21号で関西国際空港閉鎖
みやこ下地島空港ターミナル
客室乗務員の主な仕事
神様と同じくらいの超一流サービス一粒のぶどうの物語”
史上最短の就活
何故起こってほしいことだけを想定するのか?
圧迫面接

■Keyword
loT(Internet of Things)
ボーデン湖とベルサイユ条約
フーゴー・ユンカース(1859-1935)
GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)
チャーチルの三つの環
ペーパークリップ作戦
固定費と変動費
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)
スイッチング・コスト
データベース・マーケティング
ディスプレイ・バイアス(Display Bias)
eコマース(EC)
One to Oneサービス、One to Oneマーケティング
アジャイル(agile)開発
先行者利益
資本財
ブレークイーブンポイント(Break Even Point:損益分岐点)
限界費用
価格差別
デナイド・ボーディング”と“スポイレッジ
プレミアムエコノミー
“スピルとスタイフル
アマデウス(Amadeus)アルテア”
ASK,RPK
ポーグ民間航空委員会委員長
EAS(Essential Air Serivice:必須航空サービス)プログラム
ボンバルディアの「Cシリーズ」
ランプ(ramp)とエプロン(apron)
ヒヤリ・ハット
横田空域
採択と批准
国際民間航空機関(ICAO)
国際航空運送協会(IATA)
モラルハザード
レーダー(RADAR)
スモールトーク

井上 泰日子 (著)
出版社 : 日本評論社; 第3版 (2019/10/15)、出典:出版社HP

エアライン/エアポート・ビジネス入門〔第2版〕: 観光交流時代のダイナミズムと戦略

航空産業の入門書

世界の航空産業および空港について多面的、体系的に概説した入門書。激動期にあるエアライン/エアポート業界の実証分析を踏まえ、本来の航空産業の行方を探求しています。初版刊行(2011年)以降の動向を盛り込んだ最新版です。

高橋 望 (著), 横見 宗樹 (著)
出版社 : 法律文化社; 第2版 (2016/4/21)、出典:出版社HP

第2版はしがき

2011年の初版公刊以降,日原勝也東京大学大学院特任教授(当時)による好意的な書評(『運輸政策研究』Vol.14.No.4)もあって,本書は望外の読者に恵まれた。とりわけ,エアラインで経営企画に携われた経験のある方が大学で講義される際にテキストとして採用いただいたことは、実務界と学界を結ぶことができた証として,著者の慶びとするところである。
しかし、激動期にあるエアライン/エアポート業界では,この間大きな変化があった。2012年にはピーチ等の参入で日本も遅ればせながらLCC元年を迎える一方,第三極を目指した新規企業スカイマークが経営破綻し,九州と北陸の新幹線開業もあって日本の航空市場の動向は目が離せない。また伊丹と関空の経営統合と運営権の売却をはじめ空港改革の波が日本にも押し寄せている。
世界に目を向けると、欧州の伝統的企業やアジアの国営企業の経営不振に対し、中東のエアラインが躍進し,空港も乗り継ぎ機能をシンガポールから奪うなど、変化が著しい。こうした新事態に可能な限り対応すべく,第2版の改訂に取り組んだ。改めて読者諸兄姉のご批判を賜りたい。
*髙橋担当分については,平成27年度関西大学教育研究高度化促進費における課題「関西圏の交通社会資本(空港・港湾)と地域経済発展」の成果の一部,横見担当分については、平成26年度大阪商業大学海外研究員制度及び平成27年度大阪商業大学研究奨励助成費の成果の一部である。

高橋望
横見宗樹

はしがき

わが国の大学では、交通論の各論として伝統的に「海運論」が設置されてきた。ところが,海運が長年担ってきた国際貨物輸送において航空機の利用が年々増加し,わが国の場合金額でみると、3割程度を占めるに至っている。国際旅客輸送が航空の手に移ったのは太平洋路線で1953年(当時世界最大の輸送量を誇った大西洋路線は1957年)のことだが,現在では毎年日本人の2割近くが航空利用で出国するほど海外旅行も大衆化している。
このように航空のめざましい成長があったことから,多くの大学で「海運論」が「国際交通論」へと名称変更された。こうした大学カリキュラムの変遷に応じ、かつて筆者の一人は新たな「国際交通論」の体系化を目指して教科書を上梓したことがある(吉田茂・高橋望『国際交通論』世界思想社,1995年)。とはいえ海運と航空は、サービス供給技術や市場の制度的枠組みが大きく異なるため固有のシステムが確立しており、結局同書も、旧来通り縦割り的に海運と航空を別々に扱うという形式にならざるをえなかった。

ところがセメスター制の導入で、国際交通の問題はロジスティクス(海運)と旅客輸送(空運)とに分けて講義することとなった。しかし皮肉なことに,両者が分離されることで両者の問題が実は相互に関連していることに改めて気付かされ,海運の講義では空運の問題を、空運の講義では海運の問題を意識せざるをえなくなったのである。
つまり,近年の技術革新と経済の国際化によって、従来先進国が独占した海運業が次第に発展途上国に拡散し、先進国の海運業は相対的に国際競争力を失っていることに歩調を合わせるかのように、先進国の航空企業が独占していた国際航空市場で、アジア諸国の新興航空企業や斬新なビジネスモデルを開発した格安航空企業(LCC)が低コストを武器に市場を席巻しつつある。海運では米国の大手定期船会社が消滅する一方わが国外航海運産菜産業は必死の生き戦略を展開し世界の定期船業の上位に留まることができた。他力で、フラッグ・キャリアとして国際業務を長らく独占してきた日本航空が経営破綻した。
その差は何に由来するのか?実はその究明こそが本書のテーマであり,海運の現在・過去を通して航空の将来を見通すことを目的としている。両産業の違いが大きいのは事実だが、両者を1つの論理で分析することは十分可能であり,海運でえられた知見から多くのことを空運は学ぶべきであると,我々は考えている。その鍵は「海運自由の原則」と「空の不自由」ということなのだが、詳細は本文に譲りたい。また対象を航空輸送産業に限定するのではなく,それを補完する空港・旅行・観光の各分野についても加えることとし,新進気鋭の空港・航空・観光研究者である横見宗樹氏の協力を仰ぐこととなった。
我々は以上の問題意識に基づいて,できるだけわかりやすい教科書を心がけた。つまり、激動する世界の航空業界について、事実を詳細に紹介すると同時に,それに対する無理のない理論の適用に注意した。本書読了後に,さらに研究を進めたい読者のために,参考文献も充実させた。学部レベルの教科書であるため,日本語文献が中心となったが,これら先学の貴重な業績に助けられて本書があることに,改めて感謝したいと思う。

実は近年,日本航空の経営破綻や事業仕分けにおける関西空港の利子補給金,さらには地方空港の赤字といった問題が社会の注目を集めたせいか、交通以外の他分野の研究者の本の出版が相次いでいる。それらの成果から新鮮な視点に学ぶべき点も多いのだが,従来からこの分野を研究対象とする我々には、事実の誤認や理解不足あるいは杜撰な記述が目に付くのも事実である。そうした誤解を読者に与えないよう,難しいことを厳密性を損なわない範囲でわかりやすく、しかしまた理解を優先するあまり水準を下げないよう努めた。我々の意図がどこまで達成されたか,それは読者諸兄姉のご批判を仰ぐほかないと考えている。
いずれにせよ、このような形で本書を上梓できたことについて、高橋が一橋大学大学院で指導していただいた故地田知平名誉教授と杉山武彦元学長に改めて感謝申し上げたい。地田先生には徹底した実証主義に基づく理論の検証と適用を,杉山先生には理論に基づいた政策策定におけるバランス感覚の重要性をご教示いただいた。もちろん,お二人から受けた学恩に比べれば、本書は誠にささやかな成果でしかないが,できれば真の意味での卒業・修了論文としていただきたいと願っている。
加えて、常日頃ご指導いただいている勤務先の同僚並びに二人が所属する日本交通学会と日本海運経済学会の会員諸氏にも謝意を表したい。
最後に,法律文化社編集部部長代理の小西英央氏には、丁寧な編集作業で本書をこのような形にまとめていただいたことに感謝したい。偶然ともいえる出会いが本書誕生の背景にあるが、読者に恵まれて本書の成長が必然的となることを願っている。

高橋望
横見宗樹

高橋 望 (著), 横見 宗樹 (著)
出版社 : 法律文化社; 第2版 (2016/4/21)、出典:出版社HP

目次

第2版はしがき
はしがき

第I部 国際航空輸送産業と政府―市場環境の変化―
第1章 航空輸送産業の特質と動向
§1 航空輸送産業の発展
1 国際旅客輸送の担い手:海運と航空
2 航空輸送産業発展の特徴
3 エアライン・ビジネスの特徴
4 空運クラスター
§2 LCCの急成長
1 LCCのビジネスモデル
2 LCCの効果と進化
§3 航空輸送サービスの特質
1 派生需要(derived demand)
2 参入の容易さ
3 経営環境の変化

第2章 日本の航空市場の発展と航空政策
§1 日本の航空市場の動向と構造
1 ゼロからの出発
2 航空需要の動向:二眼レフ構造から一極集中へ
§2 日本の航空企業
1 日本の定期航空企業
2 小型機を使用した航空事業
§3 日本の航空政策の展開
1 45.47体制と競争促進策への転換:1985年12月航空憲法の廃止
2 航空法に基づく経済的規制とその緩和

第3章 米国における航空規制緩和政策
一米国国内航空産業の事例一
§1 米国国内航空の経済的規制をめぐる諸議論の展開
1 米国航空産業における規制とその問題点
2 規制をめぐる環境の変化とADAの成立
§2 規制緩和以降の航空企業の経営戦略
1 参入規制の撤廃:活発な新規参入による競争激化
2 運賃規制の撤廃:割引運賃戦略
3 路線戦略:ハブ・アンド・スポーク型路線ネットワーク
§3 規制緩和の評価
1 消費者の利益
2 消費者の不利益と行政当局の対応の失敗
3 規制緩和の課題
4 規制緩和の戦略性

第II部 国際空運の制度的枠組み
第4章 国際航空輸送の制度的枠組み
§1 シカゴ会議と多国間協定
1 シカゴ会議
2 シカゴ会議の成果
§2 ICAOとIATA
1 ICAOの特色と機能:各国政府が加盟
2 IATAの役割:航空企業が加盟
§3 空の5つの自由(運輸権の分類)

第5章 国際航空における規制と競争
§1 二国間航空協定とバミューダ体制
1 二国間航空協定
2 シカゴ・バミューダ体制
3 航空ナショナリズム
§2 商務協定からアライアンス(国際航空連合)へ
1 プール協定(運賃収入プール協定)
2 共同運航とコード・シェア
3 アライアンス(国際航空連合)
§3 国際航空における競争
1 伝統的寡占理論
2 レガシー・キャリアとLCCの競争
3 アライアンスの市場競争への影響

第6章 国際航空における規制緩和の動き
米国の国際航空規制緩和策:オープンスカイ政策(航空市場開放政策)
1 IATA(国際航空運送協会)との対立
2 オープンスカイの推進
§2 EUの国際航空政策:市場統合による新しい枠組み
1 自由化の進展:1984年イギリス/オランダ間新協定
2 EUの統一航空政策(27ヵ国:当初加盟国12ヵ国)
§3 日本の国際航空政策:世界の潮流に立ち遅れ
1 競争促進策への転換
2 国際航空自由化への対応
3 国際航空自由化の意義と今後の課題

第Ⅲ部 航空经营論
第7章 航空サービスの費用
§1 会計的費用分析
1 費用分類
2 費用動向
§2 航空機材と運航パターン
1 機材規模の経済
2 航空機の速度・航続距離
3 運航パターン
§3 航空費用の経済分析
1 規模の経済性
2 密度の経済性
3 範囲の経済性
4 ネットワークサイズの経済性

第8章 航空企業のプランニング
§1 航空輸送サービスの供給システム:航空サービスの供給に特徴的なインプット
1 機材(運搬具)
2 労働力:国家資格と国際規制
3 燃料
4 空港
5 航空路
§2 ハブ・アンド・スポーク型路線ネットワーク
1 都市間ペアの効率的増大
2 ネットワーク効果
§3 航空企業の経営管理
1 労務管理:二重賃金制の導入
2 品質管理
3 航空機リース
4 CSRへの取り組みと地球環境問題

第9章 航空企業のマーケティングー
§1 流通チャネル
1 ネット販売(e-retailing)の進展
2 旅行代理店(travel agent)
3 企画旅行の航空運賃
§2 CRS(コンピュータ予約システムの相互接続によるネットワーク化)
1 コンピュータ予約システムの開発と競争
2 コンピュータ予約システムのCRS化とコード・シェア
§3 航空企業間の国際的提携(アライアンス)とマイレージ
1 アライアンスの目的
2 アライアンスのメリット
3 アライアンスの進化
4 成否の鍵
5 マイレージ(FFP:常顧客優待制度)

第IV部 航空経済論
第10章 航空需要と観光
§1 航空輸送需要の特性
1 市場細分化と特性把握
2 旅客の選択
§2 航空需要の経済分析
1 航空輸送需要の決定要因
2 需要の価格弾力性
3 価格政策への適用
§3 航空需要の成長分析
1 需要の所得弾力性(ex)
2 経済成長と観光需要

第11章 航空運賃
§1 規制緩和と国内航空運賃体系の変化
1 認可制から事前届出制に緩和
2 運賃規制緩和の影響
§2 国際航空運賃とIATA
1 IATAの機能
2 国際航空運賃の構造:競争激化による各種料金の多様化
3 IATAの弱体化:運賃設定機能の低下
§3 規制緩和下の運賃戦略
1 運賃戦略の策定
2 レベニュー・マネジメント(revenue management)

第12章 航空貨物
§1 航空貨物の成長
1 航空貨物の動向
2 航空貨物成長の要因
3 航空貨物サービスの供給
§2 国際分業体制の確立と航空貨物輸送
1 生産拠点の海外移転
2 国際工程間分業の進展
3 ロジスティクスの展開
§3 インテグレーター
1 フォワーダー(forwarder:利用航空運送事業者)の概念
2 国際宅配便
3 複合一貫輸送とSea/Air輸送
4 インテグレーター(integrated carrier)

第V部 空港問題
第13章 わが国の空港制度と空港政策
§1 わが国の空港整備制度
1 空港整備・運営の沿革と現状
2 空港整備勘定
§2 空港政策の諸問題
1 空港政策の問題点
2 国際空港問題の対応策
§3 国際ハブ空港の機能と性格
1 国際ハブ空港の類型とハブ空港をめぐる競争
2 国際拠点空港の容量不足による問題点

第14章 空港経営
§1 空港の収入・費用構造
1 航空系活動
2 非航空系活動
3 空港経営の採算性
§2 空港の所有・運営形態
1 空港の所有形態:公的所有と民間所有
2 空港運営の市場化・商業化・企業化
3 PPP/PFIによる空港整備
4 空港債による資金調達:アメリカの事例
§3 空港民営化の潮流
1 民営化の理論的背景
2 民営化の方法
3 民営化の事例
4 今後の展望

第15章 空港と地域経済
§1 空港の経済効果
1 空港と地域経済
2 空港と観光産業
§2 地方空港の活性化策
1 建設から経営の時代へ
2 活性化策の検討
3 補助制度:運航補助・搭乗率保証
§3 効率的な空港経営に向けて
1 複数空港の運営:個別経営と一括経営
2 内際機能分離
3 整備主体と経営主体の分離

参考文献
索引

高橋 望 (著), 横見 宗樹 (著)
出版社 : 法律文化社; 第2版 (2016/4/21)、出典:出版社HP