「物流危機」の正体とその未来 時代の変化を勝ち抜く処方箋

本書は、株式会社湯浅コンサルティングの社長である湯浅和夫氏と、同社のコンサルタントである内田明美子氏と芝田稔子氏による共同著作で、人手不足によって危機を迎えている物流において、この危機克服への荷主、物流業者、行政の現在の取り組み状況を紹介し、物流が向かっている方向性を描き出すことを目的としています。

まず第1章は「物流危機の正体」と題され、トラック輸送において重要なドライバーが不足しており、モノを運ぶことができないということを「物流危機」として、このドライバー不足が賃金水準の低さなどの構造的な問題からも今後続くだろうという予想や、企業活動はモノが運べる範囲でしかできないこと、物流の遅れによって経済発展が阻害されることからもわかる物流危機の深刻さなどが述べられています。また、1950年代日本の物流の脆弱性が、米国に派遣された日本生産性本部の「物流視察団」によって打開されたということが述べられており、物流がいかに重要であるかということや、また物流で劇的な変化が起こりはじめているという認識を持つことが「持続的な物流」への第一歩であるということが示されています。本章では他にも、この危機を克服するための対策や指標などが詳しく示されています。

【最新 – 物流について学ぶためのおすすめ本 – 基礎知識から最先端まで】も確認する

 

湯浅 和夫 (著), 内田 明美子 (著), 芝田 稔子 (著)
生産性出版 (2019/2/28)、出典:出版社HP

次に第2章「物流危機に立ち向かう行政・経済界の動き」ではまず、国土交通省に代表される物流に関連の深い行政が、物流危機克服のための施策を公表したことが述べられています。その中の「総合物流施策大綱」では、荷主と着荷主、物流業者同士、同業あるいは異業種の荷主同士の「連携」、荷主と物流業者との間の取引慣行の見直しである「透明化」、サプライチェーン全体の最適化・効率化を可能にする「新技術(IoT、ビッグデータ<BD>、AI)」の実行が強調されています。他にも、「改正物流総合効率化法」によって物流業界の連携などへの支援が行われていることや、国土交通省が「荷主・物流事業者の連携・協働による物流生産性向上セミナー」で物流における出荷量の変動である波動を連携によって最大限吸収し、物流平準化を図るというメッセージが示されたことなどが本章では述べられています。

第3章の「「運べない危機」克服に乗り出した荷主企業」では、まずサプライチェーンにおいてたくさんの無駄があること、持続的な物流のためには「運べない危機」や物流コストの「運賃の上昇」などを企業の経営課題とすべきこと、不要な輸送や配送における無駄を避けることが述べられています。また本章では、キューピーなど食品業界企業が検品レス・翌々日納品を実現することで荷受け時の事務、作業負担の軽減や積載率や配送効率の向上、納品時待機の削減などを実現したこと、物流共同化が同業種や異業種間での連携により広がっていること、輸送効率向上のために企業が取り組んでいる事などが述べられています。

第4章「変革を迫られる物流業界」では、トラックドライバーの収入など、輸送にかける「運賃値上げ」が社員の労働環境改善だけでなく、物流危機を乗り切るために最優先で行うべきもので、近年法律によってもこのための動きが出てきていることがまず述べられています。また、物流業界の「働き方改革」が生産性向上のためにも行政によって計画されていることや、利害が対立する傾向にあったトラック運送業者と荷主が理解・協力する関係になることで、荷主にとっても重要なトラック運送の持続性確保に繋がることなどが本章では詳しく説明されています。

第5章「「AI」「IoT」「ロボット」が物流を変える」では、物流に技術革新を導入することで生産性向上を図る「ロジスティクス4.0」について言及され、これが実現する世界ではAI、BD、ロボット導入による無人化で人手不足が解消できること、IoT導入により膨大なデータの分析が迅速化することが述べられています。これらの次世代技術により、様々な作業が効率化・自動化することや、他にも何が可能になり、物流がどのような世界になりうるかなどが詳しく説明されています。

第6章の「無人化を目指す「次世代型物流センター」」では、「省人化」や「無人化」という点で今後志向されると予想される物流センターについて紹介しており、最初の節では日本で最初に「オートストア」という省力化機器を導入したニトリが挙げられています。ここではこのオートストアについて、様々なメリットを挙げながら説明されています。また『ブラネット埼玉』物流センターを持つトラスコ中山は、効率よりも顧客の利便性を追求するために在庫アイテムを増加させている専門商社として挙げられていますが、そのためにも徹底した自動化を目指す積極的な設備投資や、物流を存続させるための体制を作るためにしっかりとした社員教育を行っていることが述べられています。

本書では物流危機そのものについて、原因や何が起きているのかについて詳しく説明され、現在どのような対策が物流業界企業や行政によって取り組まれているのかなどが示されており、物流のために企業が取るべき姿勢や施策などを考えるのに非常に参考になる内容であると言えます。

湯浅 和夫 (著), 内田 明美子 (著), 芝田 稔子 (著)
生産性出版 (2019/2/28)、出典:出版社HP