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宇宙ビジネスとは?どんな分野がある?
宇宙ビジネスと聞くと何を思い浮かべますか?おそらく多くの人がロケットを最初に思い浮かべると思いますが、宇宙ビジネスにはそれ以外にもたくさんの幅広い分野があります。そして、近年、宇宙ビジネスに参入する民間企業が徐々に増えつつあります。とはいっても、まだまだ知られていない面もたくさんあります。そこで今回は、宇宙ビジネスについて入門から学べる本をご紹介します。
これだけは知っておきたい! 弁護士による宇宙ビジネスガイド
宇宙ビジネスへの第一歩
宇宙ビジネスに参画する企業は年々増加しています。本書は、宇宙の専門家ではない学生や一般の方々が宇宙ビジネスに必要不可欠な宇宙法の全体像を把握するための入門書です。各ビジネスに関連する宇宙法をテーマごとに分かりやすく解説してあります。
はじめに
本書を手にとられた方には、夜空に輝く満天の星空を見上げながら、宇宙の神秘や可能性に想いを馳せ、宇宙飛行士になって碧く美しい地球を宇宙からみてみたいと願ったことがある方も少なくないことでしょう。
現在、米民間企業であるSpaceX社によるロケットの打上げ成功や日本発の小型ロケットであるいわゆるホリエモンロケットの打上げチャレンジなど、宇宙にかかわるビジネスには、大きな注目が集まっています。
これまで、ロケットの打上げや衛星利用などの宇宙活動は、大企業が国家プロジェクトに参画する形で、ビジネスとしてチャレンジしてきました。しかし、近時は、大企業のみならず、日本においてもさまざまな領域において宇宙活動を行うベンチャー企業(New Space)が登場し、民間企業が宇宙ビジネスを推進しています。今や、宇宙ビジネスはまさに現実のものとして動き出しているのです。本書は、宇宙の専門家ではない学生や一般の方々が、宇宙ビジネスに不可欠な宇宙法のおおよその全体像を把握するための「道しるべ」となるわかりやすい入門書を目指すものであり、齋藤崇弁護士をプロジェクトリーダーとして、第一東京弁護士会総合法律研究所宇宙法研究部会に所属する弁護士のうち39名(およびオブザーバー1名)が執筆にあたりました。
その背景には、宇宙法自体が非常に新しい分野であるため、宇宙法を概説した書籍はあまり多くはなく、特に、これから宇宙法を学ぼうとする方を対象とした入門書は、ほとんどないといってよい現状があります。
当部会は、2016年春に水島淳弁護士とともに発案し、野原俊介弁護士をはじめ22名の賛同者を得て、2017年1月に、第一東京弁護士会総合法律研究所内に正式に設置されました。設置後は、毎月入会希望者が増え続け、脱稿日現在、若手弁護士を中心とした約70名の部会員が所属し、それぞれの専門分野を生かしながら切磋琢磨し、研究に勤めています。
本書を、宇宙法を学ばれる「入口」として利用していただければ幸いです。
なお、本書は、各項目の担当者個人の研究成果に基づく文責にかかっており、第一東京弁護士会や部会員が所属する各法律事務所・団体ないの統一した見解ではないことを申し添えます。
本書の執筆にあたり、平素から当部会へのご指導をいただいている書木節子慶應義塾大学教授、中須賀真一東京大学大学院教授、奈良道博弁護士(元第一東京弁護士会会長)、澤野正明弁護士(前第一東京弁護+A会長)、辺見紀男弁護士(元第一東京弁護士会副会長)、中西和幸弁護士、帯へのコメントを快く引き受けていただきました山崎直子様(元宇宙飛行士)、差込写真などさまざまなご高配をいただきました郷田直輝教授はじめ国立天文台の皆様、UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)川島レイ様にこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。
また、裏方として事務作業を一手に担った伊豆明彦弁護士、木村響弁護士、田代夕貴弁護士、山本峻弁護士のハードワークなくして刊行できませんでした。
最後に、宇宙ビジネスや宇宙法が日々進歩しているなかで、このようないわばチャレンジともいえる企画を後押しいただき、出版に向けて尽力いただいた同文舘出版株式会社の青柳裕之様と有村知記様にも心から感謝申し上げます。
2018年7月
第一東京弁護士会 総合法律研究所 宇宙法研究部会部会長
弁護士 高取由弥子
目次
はじめに
序章 広がる宇宙ビジネスと法
宇宙ビジネスの拡大
宇宙ビジネスの類型
宇宙ビジネスの広がり
人工衛星・ロケット製造および打上げ
軌道上の人工衛星
宇宙ビジネスの類型
国際宇宙ステーション等の軌道上有人活動
軌道上サービスなど宇宙空間活動
序章
宇宙法の利害関係者と宇宙法の重要性
宇宙ビジネスと国・公的機関
宇宙とは
宇宙の定義
宇宙にあるものの位置関係
第1章 人工衛星・ロケットの打上げ
人工衛星・ロケットの打上げの概要
打上げの実務
増大する小型衛星の打上げニーズ
超小型ロケットの開発競争
打上げ契約の留意点
射場の設置と関連産業保護の調整
損害賠償と補償
第2章 人工衛星の活用
人工衛星活用の概要
人工衛星の購入・利用
人工衛星の購入
人工衛星の利用
人工衛星の国際的管理
通信衛星
衛星放送
衛星放送
関連する法律
衛星リモートセンシング
衛星リモートセンシング2
「データの著作権」とは
衛星データの著作権
著作権の制限
測位
有人ステーション・有人宇宙旅行
第3章 有人ステーション・有人宇宙旅行の概要
有人宇宙旅行
ISSとは
ISSとは
ISSの構成
計画の歴史
ISSへの宇宙飛行士の滞在
ISS でのビジネス活動
サブオービタル(宇宙旅行)
サブオービタル旅行とは
サブオービタル旅行への法的規制
世界初のサブオービタル旅行
第4章 軌道上サービス
軌道上サービスの概要
デブリ除去
軌道上サービス
第5章 宇宙資源探査その他の宇宙ビジネス
宇宙資源探査その他の宇宙ビジネスの概要
資源開発
その他の宇宙ビジネス
宇宙ホテル:間近に迫る旅行者向け宇宙ホテル開業
宇宙活動を加速度的に発展させる宇宙エレベーター
宇宙葬:神秘的で壮大な冠婚葬祭
流れ星やその他の拡がる宇宙ビジネスへの期待
周辺産業
第6章 周辺産業の概要
宇宙ファイナンス
宇宙ファイナンス2
プロジェクト・ファイナンス
アセット・ファイナンス
宇宙ファイナンス3
宇宙保険
宇宙とサイバーセキュリティ
他産業との関連
宇宙関連技術の他産業での活用
他産業の技術の宇宙産業での活用
第7章 国際的ビジネスとしての法的視点
宇宙活動自由の原則と国際公益
国際公益とは何か
宇宙条約における「自由」と「公益」
スペース・ベネフィット宣言一協力と競争(市場原理)の調和
国際ビジネスの視点から
宇宙活動と知的財産権
特許でみる宇宙関連企業
宇宙空間と知的財産権
安全保障貿易管理
宇宙環境保護
宇宙の平和利用
紛争解決
宇宙活動と政治
第8章 国際宇宙法
国際宇宙法の構造
宇宙のルール=国際宇宙法
国際宇宙法の構造
国際宇宙法形成の動向
国際的機関の概要
国際宇宙法の歴史
宇宙条約
国際宇宙法の歴史
宇宙関連条約
国際宇宙法の歴史
ソフトロー
条約策定の難しさ
条約に代わるソフトロー
ソフトローの具体例
各国の法制動向
第9章 日本の宇宙法
日本の宇宙法の概観
日本の宇宙政策の歴史
日本の宇宙機関(JAXA)の概要および役割
JAXA の概要
JAXA の役割
JAXAの今後の取組み
日本の官公庁の概要および役割
宇宙基本法および宇宙基本計画
宇宙産業ビジョン 2030
第4次産業革命下の宇宙利用創造
宇宙産業ビジョン 2030の制定
宇宙産業ビジョン 2030の概要
今後想定されている工程と宇宙産業ビジョン 2030
宇宙活動法宇宙活動法の概要
宇宙活動法制定の背景
宇宙活動法が規定する諸制度の内容
衛星リモセン法
衛星リモセン法
規制の内容
おわりに
コラム一覧
宇宙法のハブ
スターウォーズとスタートレック
宇宙エレベーターの歩み
宇宙天気
宇宙技術と災害利用
宇宙飛行士になるには
隕石について
技術とロマンを乗せて飛ぶはやぶさ
宇宙食
宇宙日本食
宇宙の謎に挑む国立天文台
宇宙関連技術の活用と規制改革
アニメの中の宇宙ビジネス
惑星の命名
シリコンバレーでも注目度の高まる日本の宇宙系スタートアップ
学生たちの熱き宇宙開発~宇宙科学技術立国の原動力~
宇宙ビジネス入門 NewSpace革命の全貌
宇宙ビジネスの可能性とは
本書は、宇宙ビジネスに関する社会的な動向や産業としての可能性などを説明している本です。宇宙産業の全体的なこれまでの経緯から宇宙関連の市場の概要、起業家のビジョン、宇宙産業のエコシステム、主要国や日本の宇宙ビジネスの状況など宇宙ビジネスの基本的な項目がわかる内容となっています。
プロローグ
宇宙は古今東西変わらず、人々の興味をひきつけてきた。
1969年にアポロ11号が月面着陸した際には、世界40カ国以上にテレビ中継され、6億人が人類にとっての歴史的瞬間を見たと言われている。
スペースシャトルや国際宇宙ステーションなどのプロジェクトにも人々は関心を寄せてきた。また、日本では2010年に小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還して社会現象となったのも記憶に新しい。
宇宙は我々の生活にも溶け込んでいる。日々使っているカーナビゲーションや地図アプリケーションでは測位衛星からの信号を受信しており、朝の天気予報では気象観測衛星「ひまわり」による画像が使われている。昨今増えつつある飛行機の機内で使えるWi-Fiサービスでは、地球からなんと3万6000キロメートルも離れた静止通信衛星を利用している。意識しないことが多いが、我々の生活は多様な宇宙技術に支えられているのだ。
宇宙はコンテンツとしても鉄板だ。ハリウッド映画では『スター・ウォーズ』などのSF映画の人気は高く、近年も2013年の『ゼロ・グラビティ (原題 : Gravity)』や2015年の『オデッセイ(原題 : The Martian)』などがヒットしている。日本でも 1979年から始まった人気アニメの『機動戦士ガンダム』や、2007年末から始まっ た人気漫画の『宇宙兄弟』など宇宙を舞台にしたコンテンツは沢山存在する。
そして、ここ数年はビジネスとしての宇宙に対する注目が高まっている。打ち上げサー ビスを行う宇宙ベンチャー企業スペースX(SpaceX)の活躍がニュースで届けられる機 会も増えた。スペースXの創業者であるイーロン・マスク氏は稀代の起業家として、宇宙業界以外のビジネスパーソンにとっても馴染みある存在だ。
スペースXだけではない。今、世界の宇宙産業では「New Space」とも言われる新たな潮流が起きており、1000社を超えるベンチャー企業が誕生している。宇宙起業家たちが掲げるビジョンは壮大だ。人類が火星に到達し複数の惑星に文明を築く世界、数百機の衛星が数十億人にネットインフラを届ける世界、多くの人々が宇宙旅行や宇宙ホテルに 滞在する世界。そうしたビジョンを実現するためのテクノロジー、リスクマネー、ビジネ スモデル、法律・政策などの具体的な動きが始まっている。
かつて夢として語られた世界が、自分が生きているうちに実現するかもしれない。従来は限られた人にしか機会のなかった宇宙ビジネスに自分も関われるかもしれない。そうし たワクワクする大きな期待が今この宇宙ビジネスには存在する。新しい産業の可能性を読者の皆様にお届けしたい。
2017年7月
石田真康
目次
プロローグ
1 全体像
1-1 米国発・宇宙ビジネスビッグバン
1-2 宇宙産業の歴史
1-3 従来市場
1-4 新潮流 : NewSpace
1-5 将来的な市場セグメント
2 市場セグメントとキープレイヤー
2-1 宇宙へのアクセス
大型ロケット
小型ロケット
2-2 衛星インフラの構築
觀測衛星
通信・放送衛星
測位衛星
地上インフラ
2-3 衛星および衛星データ利活用
衛星ビッグデータ(ジオ・インテリジェンス)
衛星インターネット(ユビキタス・コネクティビティ)
精密測位と自動化(オートノマス・モーション)
2-4 軌道上サービス
スペースデブリ除去
宇宙ステーション (微小重力実験など)
2-5 個人向けサービス
宇宙旅行
宇宙ホテル
2-6 深宇宙探査・開発
月・火星の探査・開発
資源開発
3 宇宙起業家たちのビジョン
3-1 イーロン・マスク/スペースX「人類を複数惑星に住む種族に」
3-2 ジェフ・ベゾス/ブルーオリジン「数百万人が宇宙で暮らし、働く時代を創る」
3-3 リチャード・ブランソン/ヴァージン・ギャラクティック「空中分離システムで宇宙旅行と衛星打ち上げ」
3-4 ピーター・ディアマンディス/Xプライズ財団「ツーリズムと宇宙資源開発の市場形成」
3-5 グレッグ・ワイラー/ワンウェブ「グローバル情報格差をゼロにする」
3-6 マーク・ザッカーバーグ/フェイスブック「ドローン、衛星、レーザーを活用してネットインフラ構築」
3-7 スティーブ・ジャーベソン/DFJ「宇宙産業はネットの黎明期と同じ」
3-8 エアバスグループ「新規参入組に対抗」
4 米国の宇宙産業エコシステム
4-1 法整備/政策
法整備
商業宇宙政策
4-2 テクノロジー
4-3 リスクマネー
4-4 プラットフォーム
カンファレンス
メディア・プロフェッショナル
業界団体
産業クラスター
5 世界各国の宇宙ビジネス
5-1 欧州
5-2 ルクセンブルク
5-3 英国
5-4 インド
5-5 中国
6 日本の宇宙ビジネス
6-1 歴史と現状
6-2 近年の産業振興
6-3 宇宙産業ビジョン 2030
6-4 日本の宇宙ビジネスイノベーション
ベンチャー企業の台頭
異業種による宇宙技術の利活用
グローバルビジネス展開
6-5 新たな宇宙ビジネスエコシステム
業種をまたぐアライアンス
産業横断プラットフォーム : SPACETIDE
人材の多様化
7 今後の可能性と課題
7-1 2020年までの見どころ
世界
日本
7-2 2030年に向けた可能性
エピローグ
図解入門業界研究 最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本
宇宙ビジネスの今後を学ぶ
本書は、宇宙ビジネスの基本的な内容について紹介している本です。宇宙ビジネスの最新動向や基礎知識に加え、プレイヤーの紹介やロケット、人工衛星、宇宙旅行関連のセグメント別のビジネスの動向が説明されています。終盤では、宇宙の進出に意欲的な中国の動きについても紹介しており、宇宙ビジネスが世界に与える影響の大きさが理解できます。
はじめに
近年は、日本を代表するロケットH-ⅡA、H-ⅡBについて、打ち上げの失敗といったニュースはまったく耳にしなくなりました。ロケットの打ち上げの成功が続くとそれが“当たり前”になり、メディアに取り上げられなくなる傾向にあります。筆者としてはそれは残念ですが、今は成功が“当たり前”の時代になっています。
人工衛星も同様です。ロケットにより打ち上げられ、宇宙空間の軌道上に投入される人工衛星も、与えられた設計寿命をまっとうするようになりました。人工衛星はそのミッションの途中でさまざまな故障や想定していない動作といった不具合が発生したりしますが、そのような事態が起きても乗り越え、運用実績とノウハウを蓄積することで、設計寿命を超えてもミッションを遂行し続けるといった衛星もあります。
最近、ある専門家の方から「水と空気とGPS」という言葉を教えていただきました。本書でも紹介しますが、GPSという測位衛星は、水と空気のように“当たり前”に日常生活で活用されています。そのうちに、「水と空気と宇宙ビジネス」という言ができるようになるでしょう。
このような“当たり前”を作っていくことが、宇宙ビジネスに課せられたミッションなのかもしれません。
こうした日本の状況は、長年、政府主導で進めてきた宇宙技術開発の賜物といえるでしょう。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、世界の宇宙先進国の一員となるべくリードしてきたため、日本の宇宙技術力は欧米と肩を並べる水準となりました。
これはとても凄いことです。なぜなら、アメリカは宇宙にかける政府予算が年間約5兆円です。日本はどうかというと、年間約3000億円。約7倍近い予算の差があるにもかかわらず、宇宙先進国の一員として認められる日本の技術力はすさまじいものがあるといえます。
しかしながら現在、日本も正直なところ、昔のように大掛かりな宇宙技術を開発する必要性は薄くなり、次の宇宙政策では、ハード面からソフト面へと舵取りを変更する機運が高まっています。
さらに、日本政府、JAXA、ロケット・衛星製造メーカが培った技術やノウハウなどを活用し、新しい宇宙産業の姿を模索し始める状況もあります。
結果として、政府主導の宇宙技術開発の時代から、今までロケットや人工衛星を開発してきた老舗企業、ベンチャー企業、そしてまったく宇宙産業にかかわったことのない非宇宙企業も含め、民間企業が中心となった新しい宇宙ビジネス、「NewSpace」の時代が始まっています。
ところで、宇宙技術というと、ロケットを連想する方が多いようです。これはテレビや新聞などメディアで映像や写真として目にする機会が多いからではないでしょうか。エンジンの轟音とともに、まぶしい光と白煙を噴射しながら大空に向かって真っすぐ進んでいる姿は、迫力があり、多くの人を魅了します。
人工衛星は、そのロケットの先端(フェアリング)に搭載されます。桃太郎のもものように、真っ二つに割れるフェアリングに収まっていますから、外からは姿が見えません。しかも人工衛星は宇宙空間で活動するため、実際の姿がテレビに映る機会がありません。それで、宇宙技術と聞いて、すぐに人工衛星を連想する方は少ないようです。メディアの力、映像の力というのは大きな影響力があるのです。
本書を通じて、宇宙技術、宇宙ビジネスの最新情報、そして基礎知識などをお伝えすることは、意味のあることではないかと考えています。なお、宇宙ビジネスの最新事例等については、筆者が運載している日経XTECH「資日記哉の宇宙ビジネス通信」や拙著「宇宙ビジネス第三の波」(日刊工業新聞社)をベースに作成しています。
より多くの方や企業に宇宙ビジネスを知っていただければ、もっともっと領域が拡大するのではないか、筆者が思いもつかない新しいアイデアを創出する方や企業が現れるのではないかと、大きな期待を持っています。
筆者は、宇宙ビジネスに関するコンサルティングを生業としています。さまざまな方にお会いしますが、よく質問されるのは、これからの展望です。「将来、宇宙ビジネスは、具体的にどのような姿になるのでしょうか?」、この質問が半分以上を占めます。宇宙ビジネスの具体的な未来のイメージが、その成功に直結すると考えていらっしゃるのだと思います。
宇宙ビジネスは、正直なところ、まだまだ事業リスクが高い市場です。ロケットや人工衛星の開発や製造はコストがかかりますし、特殊な技術やノウハウも必要です。失敗したときのリスクも考えなければなりませんし、失敗により被る損害など、他の産業よりもリスクが高いのです。
政府主導で動いてきた宇宙ビジネスの市場(OldSpace)は、このような事業リスクに耐えうる大企業が請け負う傾向にありました。企業なども固定化しており、新しいアイデアや発想は出にくい状況であることは否定できません。
しかしながら最近は、従来の宇宙ビジネスの主流であった大型ロケットや人工衛星以外にも、小型のロケットや小型の人工衛星、それらのデータを利活用したビジネス、小型だからできるビジネスなど、参入できる範囲が広がっています。だからこそ、宇宙ビジネスとまったく無縁であった人や企業が参入し、新しいアイデアや発想を持ち込んでいます。
宇宙ビジネス業界に新しい風が吹いてくれることを筆者も期待しています。サプライチェーン自体も今後改革が進んでいくでしょう。ロケットや人工衛星をいかに安く製造できるか、どう信頼性を高められるかがキーポイントとなります。
このような視点から、宇宙ビジネスを皆さんにお伝えするというミッションを持って、本書を執筆しました。世界では、これからどのような宇宙ビジネスが展開されようとしているのでしょうか。一緒に見ていきましょう。
二〇一八年初秋
著者
目次
はじめに
第1章 宇宙ビジネスの最新動向
1-1 日本の宇宙ビジネスの市場規模
1-2 世界のロケット開発・製造
1-3 リモートセンシング衛星
1-4 通信衛星と測位衛星
1-5 惑星探査機
1-6 大型衛星と小型衛星の違い
1-7 宇宙旅行と宇宙ホテル
1-8 惑星への移住計画
1-9 惑星の資源を探査
1-10 宇宙資源の利用に向けた法整備
1-11 日本の宇宙ビジネスの課題
第2章 宇宙ビジネスの基礎知識
2-1 ロケットとは何か
2-2 ロケットと飛行機の違い
2-3 ロケットの構成について知る
2-4 ロケットの打ち上げ輸送サービス
2-5 世界には射場がいくつあるか
2-6 人工衛星とは何か
2-7 ロケットの歴史を知る
2-8 ロケットの開発と進歩に貢献した科学者たち
2-9 日本のロケット開発
2-10 旧ソ連と米国の人工衛星開発装争
コラム 人工衛星のデータは、リアルタイム活用の時代へ
第3章 宇宙ビジネスのプレイヤーたち
3-1 宇宙ビジネス業界はピラミッド構造
3-2 世界の宇宙機関
3-3 New Spaceで活躍するベンチャー企業
3-4 大型ロケット、人工衛星の主な企業
3-5 コンポーネント企業
3-6 部品・部材企業
3-7 国際宇宙ステーションにかかわる企業
3-8 宇宙旅行を手掛ける企業
3-9 ロケットや人工衛星の保険を扱う企業
第4章 ロケットビジネスの最前線
4-1 ロケットの新たな打ち上げ方法
4-2 日本で進んでいるマイクロ波ロケットの開発
4-3 ロケットのコスト削減策
4-4 注目される超大型ロケット市場
4-5 爆発的に拡大する小型ロケット市場
4-6 小型ロケットをめぐる日本の動き
4-7 ロケット射場ビジネスの最新事例
第5章 人工衛星ビジネスの最新事例
5-1 活気づく小型衛星コンステレーション
5-2 NECなどの小型レーダー衛星ビジネス
5-3 ビッグデータや仮想通貨関連ビジネスでの活用
5-4 衛星も大量生産される時代へ
5-5 人工衛星データを経済分析に活用
5-6 天候・災害に対するリスクヘッジやコスト算出
5-7 測位情報を活用したビジネス
5-8 VRを活用した宇宙ビジネス
第6章 宇宙旅行関連のビジネス最前線
6-1 宇宙旅行ビジネスの現状
6-2 宇宙旅行とともに広がるビジネス
6-3 惑星資源探査ビジネス
6-4 実現へ向けて進む惑星移住計画
6-5 日本らしい技術が光る宇宙機器
6-6 エンターテインメントビジネス
6-7 宇宙でお葬式をあげる
第7章 中国の宇宙ビジネスの動き
7-1 宇宙強国を目指す中国の政策
7-2 無人宇宙実験室「天宮2号」の打ち上げ
7-3 中国の人工衛星をめぐる動き
7-4 民間も宇宙ビジネスに参入
7-5 進む中国の宇宙技術
参考文献
索引
宇宙ビジネスのための宇宙法入門 第2版
宇宙法入門書
宇宙ビジネスのためには、宇宙空間の特殊性ゆえの様々なルール、法的手法の理解が必要です。本書は、宇宙活動法・衛星リモートセンシング法、宇宙ビジネスの最新動向をふまえた改訂版となっています。宇宙について、ビジネス的な観点から捉えることができます。
第2版 はしがき
本書の初版は,2015年の1月に出版された。その翌年,2016年(平成28年)には,宇宙2法と呼ばれる「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」(宇宙活動法)および「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律」(衛星リモセン法)が成立し、日本にもいよいよ、民間宇宙活動を国内法に基づく許可制度の中で監督し,宇宙条約等の実施を確保するという体制が成立した。宇宙2法は、2017年に宇宙活動法の一部を除いて施行されており,残る部分も2018年11月には施行される。
そうするうちにも,宇宙ビジネスの動きは速く,new spaceと呼ばれる革新的な宇宙ビジネスが、日本にも生まれてきた。近年では,伝統的な宇宙産業が築き上げてきた財産(legacy)を,new spaceの革新性と融合させ、新たな可能性を開いていくことの必要性が説かれるようになった。このような事業者間の提携を効果的に進めるためにも,宇宙ビジネス法がもつ意味は,いよいよ大きくなるといえる。「宇宙ビジネスの観点から宇宙法を考えるというわれわれの問題意識は幸いにして多くの読者に受け入れられ,本書の初版は,広い範囲の読者に温かく迎えられた。宇宙法に対する関心も,法律家コミュニティの内外で,かつてないほどに高まっている。このことは、われわれにとって,文字どおり望外の喜びであった。しかし、宇宙法と宇宙ビジネスが大きく変化していく中で、当初の評価に安住するわけにはいかない。そこで,最新の動向を取り込んで,ここに第2版を世に送ることとした。
改訂に際しては、new space企業のひとつとして知られる株式会社エールから、図版の提供をいただいた。ここに記して厚く御礼を申し上げる。また,初版に引き続き、第2版の編集にもご尽力をいただいた株式会社有斐閣の笹倉武宏氏にも,著者一同から感謝を申し上げたい。そして、ここで一々お名前を挙げることは控えるが、各著者が執筆に際して直接,間接の負担をかけている研究室のスタッフや家族にも、心から感謝の思いを伝えたい。
2018年2月
著者一同
著者紹介
青木節子
慶應義塾大学大学院法務研究科教授
慶應義塾大学法学部卒業。カナダ、マッギル大学法学部附属航空宇宙法研究所博士課程修了。D.C.L.(法学博士)。立教大学法学部助手,防衛大学校社会科学教室專任講師,助教授,慶應義塾大学総合政策学部助教授,教授等を経て2016年4月より現職。
小塚荘一郎
学習院大学法学部教授
東京大学法学部卒業。博士(法学)。千葉大学法経学部助教授,上智大学法科大学院教授等を経て,2010年4月より現職。
佐藤雅彦
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 評価・監査部長,JAXA法務スペシャリスト
学習院大学法学部法学科卒業。ジョージワシントン大学国際関係大学院宇宙政策研究所客員研究員,文部科学省宇宙政策課調查員,JAXA総務部法務課長,人事部人事課長,ワシントン駐在員事務所長等を経て,2019年1月より現職。慶應義塾大学法学部非常勤講師。
竹内悠
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 有人宇宙技術部門事業推進部主任
上智大学法学部地球環境法学科卒業。一橋大学国際・公共政策大学院,カナダ,マッギル大学法学部附属航空,宇宙法研究所修士課程修了。JAXA総合技術研究本部事業推進部,給務部法務課,第一宇宙技術部門事業推進部,外務省総合外交政策局宇宙室(出向)等を経て,2018年10月上)現職。2015年から2017年まで慶應義塾大学法学部非常勤講師。
水野素子
宇宙航空研究開発機構(JAXA)調查国際部 参事
東京大学法学部卒業。ライデン大学国際法修士課程修了。中小企業診断士。外務省国際科学協力室(出向),JAXA総務部法務・コンプライアンス課長等を経て2018年7月より現職。2010年より東京大学公共政策大学院非常勤講師,2013年から2014年まで慶応義塾大学法学部非常勤講師。
目次
第2版はしがき
初版はしがき
著者紹介
CHAPTER1 イントロダクション
「宇宙法」は宇宙ビジネスをキャッチアップしているか?
旅行代理店で「宇宙へのパックツアー」を買ってみよう!
人類の宇宙進出と宇宙法
宇宙法の種類
国際宇宙公法(国際法――国家間のルール)
国内宇宙法(国内公法―国と私人の間のルール)
宇宙私法(契約法―私人間のルール)
国際宇宙私法(各国私法の適用関係を調整するルール)
宇宙法の有効性
宇宙ビジネスの特殊性(政治リスク)
CHAPTER2 宇宙活動の基本ルール
はじめに
国際宇宙公法の知識が必要なのか
国際宇宙法のリスト
国連宇宙5条約
国連の外で作られた宇宙関係条約
ソフトローとしての国際宇宙法
国連宇宙諸条約の基本原則
宇宙活動自由の原則と国際公益
宇宙の領有権禁止原則——私人の土地所有は可能か?
宇宙での天然資源の採掘・利用
宇宙の平和利用
「宇宙物体」の法的地位と宇宙物体により生じる損害の賠償制度
宇宙環境の保護(1)
宇宙環境の保護(2)
宇宙活動を規律する新たな法形成の動向
ソフトロー優位の時代
スペース・デブリ低減に向けての国際協力
リモートセンシング画像配布の国際法
原子力電源利用原則と国際安全枠組み
宇宙の商業利用時代に対応する国連総会決議
打上げ回概念,登録,国内法
通信衛星の周波数・軌道位置獲得問題
CHAPTER3 国家間の宇宙活動の法的ルール
二国間の法的ルール
技術導入のための法的ルール「1969年日米交換公文」
共同活動のための法的ルール
通商・調達に関するルール「日米衛星調達合意」
多国間(マルチ)の法的ルール
ISS計画の概要
ISS計画の経緯、歴史
IGA条約体系
IGAの主な内容
CHAPTER4 宇宙ビジネスを支える国内法
わが国の宇宙ビジネスに関する法制度の現状や課題
宇宙活動法
宇宙航空研究開発機構法(JAXA法)
行政機構の再整備・宇宙ガバナンスの転換
宇宙基本法の概要
宇宙基本法
衛星リモートセンシング法
諸外国の宇宙法
能動的な宇宙活動国
受動的な宇宙活動国
リモートセンシング関連法制
世界最古の北欧諸国の宇宙法
CHAPTER5 宇宙ビジネスのルール
民間宇宙活動の基本枠組み
様々な宇宙ビジネス
宇宙保険
宇宙空間と知的財産
宇宙ビジネスと規制
宇宙ビジネスの紛争解決
各種の宇宙ビジネス
打上げビジネス
宇宙観光ビジネス
衛星通信ビジネス
測位ビジネス
地球観測(リモートセンシング)ビジネス
新しい宇宙ビジネス
CHAPTER6 宇宙ビジネスの展望と法的課題
宇宙機器製造業
衛星利用産業
宇宙ベンチャー
多彩な宇宙関連ビジネス
映像・コンテンツビジネス
宇宙ブランド商品
冠婚葬祭ビジネス
コンサルティング・シンクタンク
教育ビジネス
地方創生・ソーシャルベンチャー
宇宙ビジネスの第一歩を踏み出そう
JAXAの新事業促進プログラム
宇宙ビジネスの進展と宇宙法
参考文献
索引
宇宙開発の未来年表 (イースト新書Q)
宇宙計画のすべてが分かる
2020年、宇宙進出への時代が始まったとも言われています。本書では、衛星・ロケット・惑星探査など世界の最新宇宙開発が紹介され、宇宙ビジネスと開発の動向が分かります。宇宙開発によって世界がどう変化していくのか理解できるので、宇宙について少しでも興味のある方におすすめの1冊です。
最新 怒濤の人類宇宙進出の時代
再び月へ!——2024年月着陸を目指す「アルテミス」計画
アメリカは2024年に人類を再び月に送ると発表。そのための中継基地となる月周回軌道上の宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設が早くもはじまる。
国主導から民間企業がビジネスとして宇宙に進出する時代が始まっている。宇宙商業旅行や1000を超える衛生で構成する「コンステレーション」、巨大ロケットの開発などその可能性ははかりしれない。
巨大ロケット&コンステレーション
——激化する宇宙ビジネスの覇権争い
火星へ、そしてその先へ!
——宇宙の謎を解き明かす惑星探査
月の次は火星探査&基地建設と開発のレールは既に敷かれている。そして各国はその先の外惑星へも次々と探査機を飛ばしている。地球外に生命体が存在するのか、その結論が出る日も近いはず。
はじめに
世界の宇宙開発の歴史は大きく3つに分けられると、私は考えている。
最初の時代は1957年の、ソ連によるスプートニク1号の打ち上げにはじまる。東西冷戦の時代で、アメリカとソ連は宇宙でも競争を続けていた。この時代は1991年のソ連崩壊で終わる。
次の時代は国際宇宙ステーションに象徴される。アメリカ、ロシア、日本、ヨーロッパ、カナダが共同で国際宇宙ステーションの建設と運用に取り組み、日本とヨーロッパも高い宇宙技術をもつに至った。
この2番目の時代の終わりを告げる出来事が、2011年のスペースシャトルの退役であった。このあたりから、世界の宇宙開発には新たなプレーヤーが登場する。中国が有人宇宙飛行に成功し、アメリカではスペースXやブルー・オリジンのような企業が宇宙に参入してきた。
こうして今、3番目の時代がはじまっている。その特徴は多数の民間企業の参入によって、イノベーションが次々と起こり、驚くほどのスピードで物事が進んでいることである。宇宙活動が国の宇宙機関でしかできなかった時代に比べると、とんでもない様変わりが起こっているのだ。しかも、再び月を目指すアルテミス計画が、こうした動きをさらに加速させている。
誰でも宇宙へ行ける時代を実現するために、テクノロジーとビジネスの、まさに疾風怒涛の時代がはじまっている。本書では、主にアメリカの事情を中心に、宇宙開発の最前線で何が起こっているかをみていくことにする。
寺門和夫
(本書に登場する企業で特に国名の表記がない場合は、アメリカの企業です。また人名の敬称は略しました)
宇宙開発の未来年表
●目次
カラー口絵 最新 怒濤の人類宇宙進出の時代
はじめに
宇宙開発の未来年表
第1章 2020年は宇宙観光元年
サブオービタル宇宙旅行から宇宙ホテル、そして商業宇宙ステーションへ
加速度的に進む宇宙観光ビジネス
ブルー・オリジン社も商業宇宙旅行を目指す
国際宇宙ステーションに滞在
宇宙ホテル実現へ
アクシオン・スペース社も宇宙ホテルを計画
スペースX社は月旅行を目指す
低軌道は民間にまかせるというアメリカの政策
商業宇宙ステーションの時代へ
第2章 2024年、アメリカが再び月着陸を目指す「アルテミス計画」
再び月へ
オライオン宇宙船と巨大ロケットSLS
月着陸の鍵は国際協力で建設するゲートウェイ
アルテミス計画のきびしいスケジュール
月の南極への着陸を目指す
アメリカはなぜ急ぐのか
世界のリーダーであるための競争
オバマ時代の「空白の8年間」を取り戻す
月面初の女性宇宙飛行士
第3章 人工衛星は「コンステレーション」の時代へ
高機能の大型衛星から低軌道小型衛星群への転換
それはワンウェブ社からはじまった
メガ・コンステレーションの時代へ
宇宙には1万9000個もの物体が
地球観測衛星もコンステレーションの時代に
第4章 大型ロケットも小型ロケットも群雄割拠の時代に
ロケット開発の2つの潮流
小型ロケットの流れ——ロケット・ラボ社の成功とヴェクター社の失敗
中国では小型衛星打ち上げロケットの開発が活況
空中発射式の衛星打ち上げも実現間近
小型衛星と小型ロケットの未来
第5章 独自の路線で開発を進める宇宙新興国
中国
インド
韓国
インドネシア
フィリピン
ベトナム
タイ
マレーシア
ウクライナ
カザフスタン
アラブ首長国連邦(UAE)
ルクセンブルク
第6章 宇宙と安全保障
中国の衛星破壊実験で状況が一転
中国は何を考えているか
衛星破壊の手段
即応打ち上げとコンステレーションが鍵に
SSAからSDAへ
商業衛星のデータを偵察任務にも活用
第7章 進む太陽系探査計画
太陽
水星
金星
月
火星
小惑星
木星
土星
あとがき
宇宙ビジネス第三の波-NewSpaceを読み解く- (B&Tブックス)
宇宙ビジネスの全体像がわかる
内容としては「宇宙ビジネスの概略」「国内外の宇宙ビジネスの最新事例」「ビジネスモデル」これらの3つのパートで構成されています。これまで宇宙とは関係がないと思われていた分野と宇宙との繋がりが分かり、広いビジネス領域を把握することができます。日本のビジネスパーソンにおすすめの1冊です。
はじめに
宇宙ビジネスに興味があるかたもないかたも、宇宙ベンチャー企業の取組みをニュースやコマーシャルなどのメディアを通じて、目にする機会が増えてきた、と感じるかたも多いのではないでしょうか。
ispace社HAKUTOの月面ローバーをテレビCMで見たことがあるかたも多いでしょう。その他にも、世界を代表する企業としては、米国SpaceX社が挙げられます。SpaceX社は、Falcon9ロケットを打上げた後、第1段ロケットを地上の所定の場所へ正確に垂直着陸させて回収し再利用する取組みでロケット市場をリードしたり、BRFロケットにより火星などの惑星へ移住する構想を発表したりしています。SpaceX社のCEOイーロン・マスク氏は、PayPalなどの創業者で、既にIT企業を設立し事業を成功させた経験をもつ人物です。このように、世界の宇宙ベンチャー企業は、宇宙ビジネスの実績はもちろんのこと、宇宙ビジネスの斬新な発想や第三者へのアピールなども超一流です。
従来は、このような取組みを目にすることはほとんどありませんでした。テレビCM、新聞、雑誌などのメディアを通じてPRする相手もいませんでした。それは、そもそも必要性がなかったためです。つまり、昔と今では、宇宙ビジネスの顧客ターゲットが異なるということです。なぜならば、従来の宇宙ビジネスは政府主導であり、国際競争力を向上させるために宇宙技術開発を中心に進められたためです。この時代をOld Spaceと呼びます。本書ではそのように定義したいと思います。
Old Spaceの時代では、宇宙空間という特殊な場所で、故障なく正常に動作させるため、高品質で高信頼性の製品を製造することを主眼に開発が進められてきました。そのため、高い技術力と経営に関する体力などを有する少数の大企業がロケット、人工衛星などの技術開発を担当してきた経緯があります。その甲斐あって、日本はロケットの打上げの成功率が高まり、人工衛星の軌道上運用において設計寿命を全う。ど、米国、ロシア、欧米などの宇宙先進国と肩を並べる技術水準には、ることができました。
その反面、従来のような宇宙技術開発の大きなテーマも減少し、も宇宙機関も予算の確保が難しくなってきていることは正直なとことす。現時点では、宇宙技術開発にブレイクスルーを起こす必要性はさ、になり、その時代は終焉を迎えつつあります。
そのため、政府主導から民間主導へと、技術開発のみならず宇宙ドネスの分野においてブレイクスルーを起こすべく、民間企業が様々なの組みを始めていると理解しています。この時代をNew Spaceと呼びます。本書ではそのように定義します。
日本を含む世界の宇宙ビジネスにおいて、プレイヤーやビジネスモデルなどがどんどん多様化してきています。従来の宇宙技術開発の時代は、政府から民間企業へ発注するG2B(Government to Business)のビジネス中心でしたが、G2Bに加えてB2B(Business to Business)及びB2(B2)C(Business to (Business to) Consumer)のビジネスが主流になりつつあります。従来は、政府事業を受注するために民間事業者は、よりよい提案書を作成すること、実績を積み高い技術力を保有すること、などに注力してきましたが、今後は民間事業としてビジネスをするためには、顧客を確保し、売上を立てる必要があるため、マーケティング活動をしなければならなくなりました。民間ビジネスとしてはあたりまえのことですが、コスト削減策、製品・サービス開発、業務効率化、マーケティング活動など他業界のビジネスでみられる活動が宇宙ビジネスでようやくみられ始めています。そのため、大企業、中小企業、ベンチャー企業など多くの企業が宇宙ビジネスに直接的にも間接的にも参入する機会が増えると筆者は予想しています。
宇宙ビジネスは、“事業リスクが高すぎる”、“儲からない”、や“自社とは無縁の世界である”という声を多方面から多く聞きます。これらの理由から、宇宙ビジネスに参入しないという意思決定をする民間企業も現時点では、多くいることも確かです。
筆者は、コンサルティングを生業としており、各社から宇宙ビジネスはうまくいかないのではないのか、という問いをよく受けます。この問いに対して筆者は、うまくいくと回答をすることはできません。Yesでもあり、Noでもあります。なぜならば、宇宙ビジネス以外のビジネスであっても同じことがいえるからです。このような実情も理解していますが、いろいろと考える前にまず実行してみる、この点が重要と筆者は考えており、この意思決定のスピードが速いのはIT系企業やその出身者、ベンチャーマインドを有する人たちです。そのため、どんどん新しいことを実施していますし、失敗を恐れない風潮です。もし、失敗があればすぐに改善策に取りかかり、うまくいかないようであれば、きっぱりと止める、など宇宙ビジネスを順調に運営しているのも、このようなかたがたが多いのが特徴です。
繰返しになりますが、宇宙ビジネスは、“事業リスクが高すぎる”、“儲からない”という点についての筆者の回答としては、Yesでもあり、Noでもあります。
事業リスクが高いという点は、一例として損害賠償責任の観点が挙げられるのではないでしょうか。例えばロケット、人工衛星、宇宙旅行機など打上げサービスをビジネスとする企業が、打上げを失敗してしまうことで、人命や物などに損害を与えてしまい、多大な賠償責任を負う可能性は否定できません。そのため、日本でも2016年11月9日に宇宙活動法(人工衛星などの打上げ及び人工衛星の管理に関する法律)が成立し、ロケット打上げ企業などが打上げをする際には、保険を付保すること、限度額以上は政府が保証することなどが盛り込まれ、宇宙活動に係る事業リスクなどに関してルールが定められています。これにより、事業リスクを回避するためのルールが盛り込まれたため、企業にとっては、参入の意思決定をスムーズにするものとなるでしょう。2017年11月にはその一部が施行され、2018年11月には全面施行となります。また、宇宙活動法に関する法解釈や民間企業間の契約、保険車で以上に活発になることも予想されます。
儲からないという点は、宇宙用部品という高信頼性部品の人工衛星の製造費用やロケット製造及び打上げ費用がかかる」挙げられるのではないでしょうか。従来、ロケット、人工衛宇宙用部品と呼ばれる、宇宙空間でも耐えられる部品が使用されした。日照日陰の温度及び温度変化に耐えられる部品、宇宙放射えられる部品、ロケットの振動や音響環境に耐えられる部品ないしかし、現在、ベンチャー企業を中心に宇宙用部品ではなく民生用を使用することを模索している取組みがあります。民生用部品のなかから、宇宙環境に耐えられる部品を選び出すという作業です。この取組みに対して、従来の宇宙ビジネスに携わってきたエンジニアなどは、使的な意見を持つ人も多いですが、この取組みが成功すれば、コストが幅に下がるため、ロケット、人工衛星、宇宙旅行機などの打上げサービスをビジネスとする企業は、利益が出やすくなるでしょう。ただし、最良の民生部品を選定したり、その実績をつくったりするのに、多くの時間と労力を費やしてしまう可能性もあります。しかし、ロケット、人工衛星、宇宙旅行機などの打上げサービス以外にも、ビジネスの機会は多くあります。あたりまえのことですが、どの業界でも、各社企業がアイデアを出し、創意工夫しながら、ビジネスモデルを確立させ、試行錯誤しながら競争し合い、自律的に成立していくものです。1つでも成功事例としてのビジネスが出だすと、一気に「無縁」だった世界から、参人したい世界へと変わっていきます。反対に、このような成功がなければ、宇宙ビジネスは、大きく成長することはないと思います。また、別の視点として、宇宙ベンチャー企業の取組みは、技術的に事業的にもフィージブルなのかという意見も多く聞きます。例えば、星移住計画は実現可能なのか、時間軸は確からしいのか、惑星探査事*は資源リターンは可能なのか、事業採算が取れるのか、などです正直なところ、筆者は答えを持ち合わせていませんが、現在、世界の宇宙ビジネスをリードしている宇宙ベンチャー企業は、他の事業で成功してきた優秀でかつ著名な経営者であること、多方面に信頼、信用力がある人が実施していること、世界を代表する投資家にプレゼンテーションなどでアピールし実際に資金調達に成功していること、他の大企業などと連携していること、などをみるとそれほど間違った取組みではないと筆者は認識しています。フィージブルなのか、事業採算性はあるのか、という結論を急ぐのではなく、まず失敗を恐れずチャレンジしてみる、これが重要なのだと筆者は感じています。成功のために努力する、失敗したら、次の手を考えればよい、撤退すればよいなどの正確な意思決定をすればよい、それを重要視しているのがベンチャー企業であり、Old SpaceとNew Spaceの企業のマインドの違いと理解しています。
本書は、大きく3つのパートで構成しています。Part1では、宇宙ビジネスを概観していただくために、宇宙ビジネスの歴史、国家予算、市場などについて、宇宙先進国のアメリカ、欧州などを中心に紹介し、日本との相違点や世界における日本の立ち位置を理解していただけると思います。また、New Space時代の政策として、世界の取組みとして、各国でみられる民間ビジネスの支援機能やルクセンブルクや米国の惑星資源探査にかかる法規定の整備、日本における宇宙活動法や宇宙産業ビジョン2030などを紹介します。
Part2では、国内外の宇宙ビジネスの最新事例を紹介します。ロケット、小型衛星、宇宙旅行などの分野ごとに取り上げます。Part2により、現在のNew Space時代のベンチャー企業の取組み、老舗企業の取組み、ベンチャー企業と老舗企業の経営方針の相違点、競争や協力体制に関する動向などが理解していただけるのではないでしょうか。
Part3では、New Spaceにみられ始めたビジネスモデルについて、事業構造を描いてプレイヤーとサービスのやりとりを図示することで可視化します。可視化することで、個々のプレイヤーとのやり取りが明確化され、課題の抽出や売上の把握などに役立ちます。さらに、その事業構造を用いて、他業界でみられるビジネスモデルを取り込むなど、応用もきくと筆者は感じています。また、宇宙ビジネスの参入の留意点を紹介したいと思います。宇宙ビジネスの参入の留意点は、宇宙ビジネスに特徴的なもの、ビジネス一般的にいえるものも含まれていますが、筆者が日常の業務において感じている内容を記載しました。
宇宙ビジネスとは、「直接的にも、間接的にも何らかの形で宇宙に関係するビジネス全般」と本書では定義しています。「宇宙産業」「宇宙事業」という用語は、「宇宙ビジネス」という用語と意味に大きな差異はありません。「宇宙産業」、「宇宙事業」という用語は、Old Spaceのシーンでよく活用され、G2B(Government to Business)のシーンがよく連想され、「宇宙ビジネス」という用語は、New Spaceのシーンで活用される傾向がありますが、本書では、読者の混乱と誤解を回避するため、全て「宇宙ビジネス」という表記に統一することとしました。
筆者は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の開発員として、2機の人工衛星の開発プロジェクトに従事した経験があります。新卒で入社し、様々な経験をさせていただきました。実際に現場に出て、宇宙に関連する多くの企業と共に、概念設計から詳細設計、打上げ、運用までの一連の工程を肌で感じた経験を有します。また、プロジェクトメンバーとの信頼関係、企業の枠をも超えた現場の一体感などは、言葉では表現することができないものであり、一生の宝物であり、忘れることはないでしょう。複雑かつ大規模で先進的なシステムを開発する大規模なプロジェクトを皆で課題を解決しながら成功に向かって進む、これが、宇宙ビジネスの醍醐味の1つと考えています。
その後、JAXAを退職し、日系および外資系コンサルティングームにて官公庁や多種多様な業界の企業のコンサルティングを経した。この経験を通じて、様々な業界のビジネスの課題を知り月き、また担当した企業の強み・弱み、特徴を知ることができ、リレーションも構築することができました。筆者は宇宙ビジネスにおいて、実際に現場に出て宇宙ビジネスの課題を肌で感じた経験、“禅的”な感覚を有していること、宇宙ビジネスの技術やプレイヤーにおける現状の強み・弱み、特徴、課題を把握していること、そして、宇宙ビジネス以外の多種多様な業界のビジネスの課題を知っていることを強みに持っている数少ない人材であると考えています。
本書は、こうした筆者の経験を踏まえて、国内外の宇宙ビジネスの“良いところ”や“理想像”だけを紹介したものではなく、宇宙ビジネスの現状はどうであり、どのようなところに強み・弱み、そして課題があり、何に留意すればよいのか、どのようなところにメリットがあるのか、デメリットがあるのかなどを正直に記載したつもりです。
本書は、宇宙ビジネスに関連のある業界に就職を考えている学生、宇宙ビジネスに関心のある非宇宙企業関係者、宇宙ビジネスの新しい動きに関心のある、従来の宇宙企業の関係者を対象としています。
宇宙ビジネス業界に就職を考えている学生には、おそらく理科系のかたが多いでしょう。本書を読んで、宇宙技術のみ知見を有する人材に留まらず、「誰に」「いくらで」「何の製品・サービス」を「どのように販売するのか」というビジネスマインドを有する人材を目指そうと少しでも思ってもらえると幸いです。文科系のかたも、今後の宇宙ビジネスにおいては、活躍する場面が多く創出されると筆者は考えています。
また、宇宙ビジネスに関係がないと思っていた民間企業が、少しでも宇宙ビジネスに関心を持ち、参入を検討していただく材料になれば、筆者は幸いです。このような観点で、支援ができることが筆者の何よりの喜びです。
本書を執筆する機会をいただいた日刊工業新聞社の国分未生様に深く感謝申し上げます。
2018年4月
齊田興哉
NewSpaceのビジネス領域
宇宙ビジネスというと、多くの読者が真っ先に思いうかベるのはロケットでしょう。もう少し詳しいかたであれば、次に衛星を挙げられるでしょう。ロケットと衛星を、ここでは宇宙ビジネスのインフラと位置付けています。宇宙インフラには、ロケットの発射場や衛星をコントロールするための地上システムも含みます。この宇宙インフラをベースに、通信衛星データ利活用、宇宙ステーションといった様々な宇宙ビジネスの分野が展開されています。また、宇宙インフラ領域にサービスや製品を提供する、商社、保険、宇宙用部品・宇宙用機器といった分野も存在します。
宇宙ビジネスには、あまり多くのビジネス分野が関係していない印象をもたれているかもしれません。しかし実際には、図にも示したように多くの分野が関係して成り立っています。ロケット分野にしても、衛星などの宇宙空間へ運ぶペイロードがなければ成立しないビジネス分野ですし、リスクヘッジのための保険も必要不可欠です。ロケットを構成する宇宙用部品・宇宙用機器の種類も多岐にわたりますし、多くの企業が関係しています。衛星や地上システムも同様です。
NewSpaceでは、宇宙旅行やエンターテインメントが新しい分野としてみられます。その延長には惑星探査の試みもあります。もともと利活用が盛んな衛星データ分野では、位置情報やリモートセンシング画像を扱うビジネスが、今までは宇宙とは関係ないと思われていたような分野(たとえば金融)にまで広がりを見せています。その一方で、宇宙インフラ分野においても、小型衛星や小型/新型ロケットなど、新規参入の企業の活躍が目立つ領域が現れています。技術開発主導からビジネス主導へ、ビジネス領域が拡大するにつれて、参入するプレ彼らのビジネスモデルも多様化していきます。
宇宙インフラ、宇宙インフラを取り巻く各分野の主要プレイヤーを記した企業相関図を作成しました。
主な事業として宇宙ビジネスを実施している企業を宇宙外を非宇宙企業として定義しています。国内企業については可能な限り宇宙ビジネスに関係していることが公表されているプレイヤーを網羅的に入れました。海外企業については、著名なトップ企業を教社と、本書で紹介しているプレイヤーを中心に掲載しました。企業間での出資やサービス提供、モノの販売などなんらかの連携についても、可能な限り図示しています。
ただし、全ての企業を入れ込むことは非現実的ですので、筆者の主細に依存している部分は大いにあります。ご了承いただけると幸いです。たとえ全てを網羅していなくとも、多くのプレイヤーが関わり、宇宙へ業、非宇宙企業が様々な取組みを実施していることがわかります。
NewSpaceの時代から特にみられ始めたのは、企業間の連携や出資、非宇宙企業の進出です。OldSpaceの時代では、高い技術力と高い信頼性・品質を武器にビジネスを展開していたため、日本ではこのようなNewSpaceの取組みはほとんどみられませんでした。また、民間企業が自治体とうまく連携することで、宇宙ビジネスの組成と地方創生というWin-Winの関係を構築している点も特徴的です。
このように、高い技術力と高い信頼性・品質をベースとしたビジネスから、サービスベースのビジネスへと変貌している点もこの企業相関図をみて理解することができます。
現時点で示している企業相関図は、今から数年後、10年後になれば、宇宙ビジネスを取り巻くプレイヤーも増え、分野もさらに多様化し、新たな企業相関図となっているでしょう。
宇宙ビジネスへの参入を検討するにあたり、どのようなプレイヤどのような分野で取組みを実施しているのか、どのような競合がいか、などを俯瞰していただき、少しでも読者の参考になればと考えます。
目次
はじめに
NewSpaceのビジネス領域
Part1 Old SpaceからNewSpaceへ
第1章 宇宙ビジネスの歴史は競争から協調へ
米国と旧ソ連のロケット開発競争/戦後の人工衛星の開発競争/有人空中
分野の争い/月への争い/宇宙ステーション開発と協調の時代到来
第2章 世界のなかの日本の宇宙ビジネス
ロケット打上げ機会が多い米・露・中/圧倒的な国家予算を有する米国/世界の宇宙ビジネスの市場規模/圧倒的な官需の日本の宇宙ビジネス
第3章 政策で民間企業を後押しする
民間の宇宙ビジネスを実施する上で重要な宇宙活動法/米国政府が民間企業の月面商用利用を許認可/惑星資源探査事業の法整備を進める先駆国ルクセンブルクと米国/世界で行われている宇宙ビジネスの民間支援機能/宇宙産業ビジョン2030
日本の課題と成功に必要な条件
Part2 宇宙ビジネス第三の波
第4章 NewSpaceを動かすプレイヤーたち
ジャイアント出身者を中心とした海外ベンチャー企業の台頭/宙ビジネス出身者が多くない日本のベンチャー企業/多様化する。ネスの市場/大企業連合、大企業からベンチャー企業への出資
りスク回避による分社化/実は昔からあったクラウドファンディングによる資金調達/NewSpace時代に求められる人材、職種とは
第5章 NewSpaceのビジネスは始まっている
5.1 斬新なアイデアが導くロケットビジネス
大型ロケットのコスト削減策/航空機によるロケット打上げ/マイクロ波を活用したロケットベンチャー/ハイブリッドエンジンを搭載したロケット/世界をリードするRocketLab社/SpaceX社創業の小型ロケットベンチャー、Vector/超大型ロケットビジネスの狙い/世界初となる民間運営のロケット射場/夢の宇宙エレベータ建設へ
5.2 NewSpaceの花形、小型衛星ビジネス
大規模コンステレーションによるグローバルブロードバンドビジネス/小型衛星の大量生産の時代到来/宇宙空間を操るビジネス/スペースデブリ除去ビジネス/宇宙のVR映像化ビジネス/ビットコイン衛星の登場
5.3 リモートセンシング画像の様々な活用法
リモートセンシング画像と人工知能(AI)で街づくり/リモートセンシング画像と経済指標/リモートセンシング画像とAIで太陽光パネルの設置状況を可視化/リモートセンシング画像のカラー動画とスマートフォンサービス/人工衛星を活用した新しい牧畜業者向けビジネス
5.4 大型衛星の新しい動き
大型衛星の主流となるオール電化衛星/大型衛星のコスト削減策
5.5 海外の次は宇宙旅行、そして惑星移住へ
脱出システムとエンターテインメント性を重視した宇宙船の内装/ハイブリッドエンジンでコスト削減を狙う/ロケットを使った高速旅行サービス/デザイン性と機能性に富んだ宇宙服ビジネスの幕開け/民間の宇宙旅行訓練ビジネス/一歩先を行くBigelowAerospaceの宇宙ホテル/NanoRacks社、エアーロック事業を加速/老舗企業vsベンチャ一企業、両社が目指す火星移住計画/アラブ首長国連邦(UAE)の火星移住計画/火星移住シミュレーターから新規ビジネスを創出するIKEA/GoogleLunarXPRIZEから始まった惑星探査事業/日でトップを走るMoonExpress社/月面ランダーを武器に多くの企業と連携/DeepSpaceIndustries社の惑星資源探査機/日本
資源探査機/日本を代表するHAKUTO/地球外生命を探す数グラムの宇宙船プロジェクト
5.6 異分野に広がる人工衛星データの利活用
気象データを保険事業に活用/測位信号とアニメ、VR、ARで地域活体化/宇宙×仮想現実(VR)/測位衛星を使って農機を自動運転、農作業効率向上/物流×宇宙
5.7 技術を活かす、日本の宇宙ビジネス
シャープの新しいフラットアンテナ/キヤノンの回折格子による光学センサーの小型化/栗田工業の宇宙ステーションでの水循環システム/宇宙食の発展/宇宙×医療・健康
5.8 異分野、ベンチャー、老舗企業の挑戦
サービス全般を揃えるNewSpace時代の宇宙商社/思いをかなえる宇宙葬ビジネス/国際宇宙ステーションからの360度VR映像/次世代の屋内測位ビジネス/超小型衛星キットの登場、進む低価格化/芸能プロダクションの宇宙ビジネス参入/スカパーJSATの低軌道衛星向けビジネス/水中ドローンによる海洋×宇宙ビジネス
5.9 中国は宇宙強国を目指す
中国版宇宙ステーションの整備/中国版GPS北斗(BeiDou)/中国リモートセンシングの取組み/20人乗りの宇宙旅行機の開発計国、宇宙旅行ビジネスに参入/惑星探査計画を意識したパルサー航法衛星/宇宙で使う3Dプリンターの開発
「柔よく剛を制す」日本の進むべき道
Part3 NewSpaceのビジネスモデル
第6章 多様化する宇宙ビジネスモデル
6.1 ハードウェア製造販売を中心とするビジネスモデル
官公庁・宇宙機関が調達するロケットや人工衛星の製造販売(G2B)/ロケットや人工衛星の製造販売はG2BからB2Bへ/衛星通信事業者のビジネスモデル/リモートセンシング事業者のビジネスモデル/小型衛星の製造販売ビジネスモデルは民間企業主導/ハードウェア製造に顧客サービスが伴う宇宙旅行(B2B2C)/惑星移住ビジネスのプレイヤー(B2B2C)/惑星探査機(ランダー、ローバー)・サンプルリターン機の製造と資源販売ビジネス(B2b)
6.2 人工衛星データを活用するビジネスモデル
リモートセンシング画像や衛星測位が農業を効率化する(G2B・B2B.B2C)/衛星測位とウェアラブル装置で位置情報を把握するスポーツビジネス(B2B2C)/衛星測位とスマートフォンで位置情報を活用する観光ビジネス(G2B2C)/位置情報を交通・物流ビジネスに活用する(B2B2C)/リモートセンシング画像から付加価値サービスを提供する(B2B2C)
第7章 全く新しい、マーケティング重視の宇宙ビジネスモデル
市場を支配する価格破壊型ビジネスモデル(SpaceX)/“場”を提供するプラットフォームビジネス(Facebook、アクセルスペース)/顧客を離れさせない課題解決型ビジネスモデル(SpaceKnow、三井住友海上)/フリーモデル(無料)で顧客を獲得する(SpaceKnow)/ブルーオーシャン戦略ビジネスモデル(アストロスケール、ALE、SpaceVRなど)/広告塔での収益を狙うビジネスモデル(惑星探査事業企業など)/サプライチェーン変更型ビジネスモデル(OneWebなど)/ディファクトスタンダードを構築するビジネスモデル(Microsemi(旧Acte)、Moogなど)
第8章 宇宙ビジネスに新規参入するには
人工衛星はだいたい3種類しかない/人工衛星を活用する6つのト/人工衛星とドローン、それぞれの強みと弱み/ニーズオリエンティッドな視点でビジネスを考える/事業構造を可視化して、ステークホルダと市場性を把握する/他分野のビジネスモデルを真似る、アレントする/避けて通れない信頼性と品質の考え方/宇宙ビジネスのユーザを発掘開拓する/宇宙ビジネス新規参入の勘所
おわりに 宇宙ビジネスの未来
索引
宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ
シリコンバレーが牽引する宇宙ビジネスの実際
本書は、現在大きな注目を集めている宇宙ビジネスについて紹介している本です。Googleやアマゾン、スペースXといった、シリコンバレーの各企業が積極的に宇宙ビジネスへの投資を行っている背景や将来的な生活への影響などについて説明されています。宇宙ビジネスのダイナミックさが理解できるでしょう。
はじめに
なぜITの巨人は宇宙に巨額投資するのか?
「地球のビッグデータ」を狙うゴールドラッシュ到来
宇宙開発というと、国や政府がやっていることだと考える人が多いと思います。しかし民間による「宇宙ビジネス」が、この10年あまりで一気に加速しています。
例えば、電気自動車のテスラで有名なイーロン・マスクが、ロケットを宇宙に打ち上げている会社も経営していることは、日本ではあまり知られていません。
その会社スペースXは、すでに3回以上ロケットの打ち上げを行っているだけでなく、NASAに代わって地球の軌道上にある国際宇宙ステーション(ISS)への、アメリカの補給便サービスまで引き受けているのです。スペースXが手がけているのは、これまでNASAが打ち上げてきた大型ロケットの事業化です。
世界最大のオンライン・ショッピングサイト、アマゾン・ドット・コムの創業者、ジェフ・ベゾスも、ロケットを開発する会社ブルーオリジンを設立しています。
将来、宇宙に100万人の経済圏ができることを想定し、有人宇宙飛行を見据えて安価で安全なロケットが必要になると考え、宇宙旅行ができるサブオービタル(準軌道)機や大型ロケットの開発に取り組んでいるのです。すでに試験機による宇宙空間までの飛行実験に何度も成功しています。
しかも驚くべきことに、ブルーオリジンにはアマゾンから年間1000億円の投資を行う、とジェフ・ベゾスは発表しています。これは日本の宇宙開発予算の、実に3分の1もの規模になります。
アマゾンだけでなく、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、アップルを加えたIT企業のBIG5と言われる巨大企業、さらにはシリコンバレーの企業やベンチャーキャピタルも、宇宙ビジネスに熱い視線を送っています。
「ペイパル・マフィア」の異名を持つ、シリコンバレーで絶大な影響力を持つ投資家ピーター・ティールや、スカイプやホットメール、テスラへの投資家として世界的に有名なドレイパー・フィッシャー・ジャーベットソン、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ、そして日本のソフトバンクの孫正義氏もまた、宇宙ビジネスに巨額の投資をしています。実際にシリコンバレーでは近年、数多くの宇宙ベンチャーが生まれています。
IT関連の技術や資金が流れているのは、宇宙をインターネットの延長として見ているからです。宇宙にネットワークを張り巡らせることで、「地球のビッグデータ」が手に入る。これが、さまざまなビジネスを生み出すと期待されているのです。
例えば、小型といえども高性能になっている小型衛星の撮影機能を使えば、コンステレーション(複数の人工衛星を連携させる運用法)で連続的に周回して地球を捉えることで、一刻一刻その変化を見ることが可能になります。
あるショッピングモールの駐車場に停まっている車の数を、時系列で分析することができる。植えられた作物の生育状況を宇宙から把握することができる。牧畜では、牧羊犬に代わって牛を管理することができる。魚群探知機の精度を高めていくことができる……。
こうした情報は商品相場にも影響を与え、投資銀行やヘッジファンドなどの金融機関にとっても望まれるものです。大気のビッグデータを集めて天気予報の精度を高めたり、衛星写真を用いてゴルフ場やイベント場所など局所的な天気予報も可能になれば、どうなるでしょうか。
小型通信衛星によるコンステレーションで安定したネットワークをつくることができれば、今はまだインターネットがつながらないエリアもカバーできるようになります。地図情報と組み合わせることで、車の自動運転に結びつけることができる。バスの運行状況が適切なのか、どの時間帯が混むのかがわかれば、時刻表づくりも変わっていくでしょう。決済システムが導入され、eコマースが地球の隅々までいきわたれば、大きな経済発展がもたらされます。
そうした地球を観察することで手に入るビッグデータや通信環境は、今後、IoTやAIの進化と結びついて、製造、サービス、流通、医療、金融、娯楽、教育、農業、漁業、防災などのあり方を激変させ、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。このデータは、第4次産業革命を駆動させる大きなピースとなるのです。そして、この通信環境は5G時代にシームレスなコネクティビティーを実現します。事実、現在打ち上げが計画されている小型衛星の数は、地球観測衛星で約1000機、通信衛星では2万機を超えるほどの規模になります。
宇宙はもはや、特別な場所ではありません。それはビジネスチャンスを大きく拡大する場所です。デジタル化が急速に進む中で、宇宙は再びイノベーションのフロントとして期待されているのです。
無重力空間を使って、地球では行えない創薬開発のための実験や高品質材料の製造をする。月の氷を資源として利用する。資源がたくさんありそうな小惑星を分析し採掘を目指す。国際宇宙ステーションに旅行”として滞在する……。こんなことも、もはや夢物語ではありません。
実際、ラスベガスのホテル王であるロバート・ビゲローは、宇宙でもホテル王になることを目指して、これまでに300億円以上の投資を行っています。月も、もはや目指すものではなく、これから「経済活動」をする場所だという認識で、月を舞台にした民間主導のコンペティション(技術開発レース)もグーグルをスポンサーにして行われています。
火星への飛行も真剣に検討されています。イーロン・マスクは火星飛行が可能な大型宇宙船を発表し、人類が火星に居住することを目指した取り組みを進めています。
火星の資源の活用や、自給自足のための植物生産などの研究も進んでいます。アラブ首長国連邦では、100年後に現地にミニシティーを建設すると発表し、国をあげて火星への取り組みを進めています。
こうした宇宙開発の商業化とも言うべき大きな流れが起きたのは、2005年のアメリカ政府による政策変更でした。スペースシャトルの後継機の開発は民間に任せて、NASAは一顧客として民間から打ち上げサービスを購入するという大転換があったのです。
2010年にオバマ大統領が出した「新国家宇宙政策」では、そうした民間企業の技術やサービスの購入、競争に通じる起業の促進、インフラの商業利用、輸出の促進などがはっきりと示されており、官民連携で宇宙開発の商業化が推進されてきました。
実際、2005年に17兆円だった宇宙ビジネスの世界市場「スペース・エコノミー」は、2016年には実に33兆円にまで拡大しています。このうち各国の宇宙予算、いわゆる公的なマーケットというのはもはや25%に満たなくなっています。すなわち、民間の商業によるサービスやプロダクトが大きく伸びてきたのです。しかも。数年でほぼ2倍という市場スケールになっています。
これにともなって、投資も急激に拡大しています。世界の宇宙関連ペンチャーへの投資は2015年、前年の約500億円から、5倍の約2500億円へと大きく膨れあがりました。2016年には約3000億円に、2017年は約500億円減って約2500億円ですが、2000億円を超える高い水準で推移しており、特にベンチャーキャピタルの関心が高いことがわかります。宇宙は今や、期待値の高い優良投資先という認識が広がり、ビジネスの場になったのです。私は宇宙ビジネスコンサルタントとして、こうしたステージの大きな変化を問近に見てきました。
私は大学卒業後、大手建設会社の清水建設に入社しました。建設会社といえば、ビルを建てたり、施設をつくったりするのが中心の事業ですが、私が配属されたのは新設の「宇宙開発室」でした。
少し前まで普通の女子大生だった私は、慌てて書店に走って宇宙の本を買い漁り、勉強したのを覚えています。そして、宇宙開発室の企画・調査研究・広報などを担当しました。
この宇宙開発事業の一環として関わったのが、「国際宇宙大学」でした。世界数十か国から100名を超える参加者が集まり、宇宙に関することを夏季に集中して学ぶ宇宙専門の大学院大学でしたが、この日本側の窓口を担当することになったのです。
私は事務局スタッフとして参加しましたが、世界中から宇宙の専門家が講師としてやってくる環境は、私にとって大きな転機とビジネスのトップたちも、今思えばその大学に学びに来ていたのです。
私は2002年に清水建設を退職。夫の留学に同行してアメリカに渡りました。このとき宇宙についての調査の仕事を請け負う機会があり、ワシントンDCで宇宙関連の公聴会をレポートしたりしましたが、同時に垣間見ることになったのが、アメリカ各地で「宇宙ビジネス」が勃興していく姿でした。
宇宙ビジネスのことをもっと知りたいと考え、帰国後はJAXA(宇宙航空研究開発機構)に入社しました。広報部の教育グループに所属、宇宙のことを世の中に広める活動をしていました。アメリカ政府の政策変更によって、まさに商業の宇宙開発のステージが大きく変わるタイミングでした。
その後、独立して宇宙ビジネスコンサルタントになり、事業開発、市場開拓、調査、コンサルティングの事業をスタートさせました。海外と日本の宇宙ビジネスのプリッジ役として、商業宇宙の世界を日本でもっともっと広げたいと考えたからです。アメリカで進行していた宇宙商業化は、世界に広がると確信していました。
宇宙ビジネスは今、世界規模で急激に拡大しています。その勢いは一攫千金を狙い、金の採掘のために多くの人が殺到した19世紀アメリカの「ゴールドラッシュ」にたとえられるほどです。
宇宙に浮かぶ小惑星には、実際に燃料やレアメタルなどの貴重な資源が豊富にあることが確認されていますが、その採掘という意味だけでなく、未開拓の空間に広がる無限のビジネスチャンスをつかもうと、多くの企業や投資家たちが殺到しているのです。
その先陣を切っているのが、世界を動かすIT企業のBIG5やイーロン・マスクのスペースXです。彼らは一体どんな未来を見ているのか。宇宙にどんな可能性を感じているのか。その狙いを本書を通して、多くの方に知っていただきたいと思います。
本書は、これまで宇宙とは無縁だった人でもわかりやすいように、次の分野に分けて解説していきます。
第1章 IT企業が引き起こしたパラダイムシフトと「21世紀の黄金」
第2章 宇宙ビジネスが変える「今後の産業と私たちの生活」
第3章 シリコンバレーが切り拓く「宇宙ビジネスの最前線」
第4章 圧倒的なコストダウンで実現間近の「宇宙旅行」
第5章 もはやSFではない「月と火星への移住計画」
第6章 ベンチャーの参入が増え続ける「宇宙産業の事例」
この10年あまりの宇宙の商業化で、宇宙ピジネスは急激に拡大してきました。そしてそれは今も、世界規模に広がっています。
これからさらに成長が加速していく宇宙ビジネスには、大きなポテンシャルが潜んでいます。その「今」と「これから」をお伝えすることができれば幸いです。
目次
宇宙ビジネスの衝撃
はじめに
なぜITの巨人は宇宙に巨額投資するのか?
目次
第1章 グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト、アップル……
なぜ、IT企業の巨人は宇宙を目指すのか?
BIG5が狙う「21世紀の黄金」
イーロン・マスクが宇宙を「市場」に変えた
火星移住はもはや構想ではなく「計画」である
極秘で進められていたジェフ・ベゾスの宇宙計画
「秘密企業」は何を虎視眈々と狙っているのか?
なぜベンチャー企業が宇宙に向かい始めたのか?
ビリオネアたちが気づいた宇宙の巨大な投資価値
世界のIT企業が見ているインターネットの先
グーグルが500億円で買った理由
22億円を賭けて競い合う「月面無人探査レース」
フェイスブックが狙う40億人市場のポテンシャル
地球の周回軌道は8000機の衛星で過密状態
マイクロソフト、アップルもいよいよ動き出す!
第2章 製造、サービス、流通、医療、農業、漁業、防災……
宇宙ビジネスは、私たちの生活をどう変えるのか?
「地球ビッグデータ」が産業革命を引き起こす
マーケットは約2倍の33兆円に
中国はアメリカと並ぶ世界屈指の宇宙大国
宇宙は「低軌道」「静止軌道」「深宇宙」の3つ
ビッグデータは産業をどう変えるのか?
正確な気象データは生産管理を根本から変える
丸見えの「地球観測データ」は経済活動を変える
無重力環境での研究が医療・製造業を変える
3Dプリンターで「宇宙製造革命」
宇宙に行くコストはロケット再利用で大幅ダウン
衛星の再利用サービスも続々登場
グーグルも投資する「小惑星捕獲ミッション」とは
1年滞在も始まった国際宇宙ステーション
第3章 小型衛星、宇宙旅行、月面探査、小惑星資源利用……
シリコンバレーが狙う新時代の金脈
開拓精神を受け継ぐベンチャー起業家たちの夢
シリコンバレーが夢見るITプラットフォーム
NASAの宇宙飛行士はシリコンバレーへ向かう
ロケット野郎たちが持ち込んだアジャイル開発
失敗にめげないイーロン・マスクのポジティブさ
アメリカの開拓精神に資金の出し手が結びついた
資金のハードルが下がり、リスクが低くなった
なぜビリオネアは宇宙に巨額投資するのか?
賞金目指してベンチャー企業がしのぎを削る
宇宙ビジネスを変える、その他の国・地域
第4章 オービタル旅行、サブオービタル旅行、訓練、保険、宇宙服、宇宙食……
宇宙旅行はいつ実現するのか?
圧倒的なコストダウンで実現間近の新経済圏
なぜ宇宙ステーションはリング状なのか?
民間人でも宇宙に行けるという衝撃
サブオービタル旅行は100分の1の費用
いよいよ「宇宙旅行」は実現間近!
宇宙旅行の申込者は1000人を超えている
宇宙旅行には多くのビジネスチャンスがある
オービタル旅行の訓練はどこまで短くなるか?
民間の力で商業宇宙ステーションをつくる
宇宙でどれだけ快適に過ごせるか?
「宇宙服」という新しい市場の誕生
「商業スペースポート」がもたらす新しい経済発展
宇宙旅行は新しい観光産業へと成長する
第5章 月面基地計画、月資源開発、有人火星探査、100万人経済圏……
月と火星に人類は本当に住めるのか?
もはやSFではない「火星移住計画」の実現性
2030年代、火星に人類が降り立つ!?
月の市場規模は2020年には3000億円
月は探査や「経済活動」の場所へ
日本の「かぐや」が探り当てた「巨大な地下空洞」
「月の土地」は誰のものか?なぜ売れるのか?
なぜ世界中の人が「火星」を目指すのか?
人類で最も「火星に近い男」
宇宙を漂う「5兆円の価値」を持つ小惑星
第6章 大手からベンチャーまで続々参入
宇宙という「未来産業」の幕開け
デジタル化、IoT、AIへとつながる新市場の誕生
日本の宇宙ビジネスにもいよいよビッグバン到来
アクセルスペース 地球のモニタリング情報を提供
インターステラテクノロジズ 量産型で目指すロケットの価格破壊
アストロスケール 深刻化する宇宙デブリ問題を解決
アイスペース 月開発を引っぱる宇宙ベンチャー
エール 宇宙から人工流れ星を生み出す
輸送が激変する宇宙エレベーター構想
「宇宙」という未来産業の幕開け
おわりに
宇宙の覇者 ベゾスvsマスク
宇宙開発の大転換点を描いた必読書
IT業界で成功したベゾスとマスク、2人の天才による宇宙への挑戦そして彼らの宇宙への想いが描かれています。それぞれ異なるアプローチで宇宙事業を進めていくなど、個性的な2人のストーリーは非常に読み応えがあります。宇宙ビジネスに携わる方にとってバイブルともなる必読の1冊です。
目次
CONTENTS
序章
「着陸」
Touchdown
第1部 できるはずがない
第1章 「ばかな死に方」
A Silly Way to Die
第2章 ギャンブル
The Gamble
第3章 「小犬」
Ankle Biter
第4章 「まったく別の場所」
Somewhere Else Entirely
第5章 「スペースシップワン、政府ゼロ」
SpaceShipOne, GovernmentZero
第2部 できそうにない
第6章 「ばかになって、やってみよう」
Screw It, Let’s Do It
第7章 リスク
The Risk
第8章 四つ葉のクローバー
A FourLeaf Clover
第9章 「信頼できる奴か、いかれた奴か」
Dependable or a Little Nuts?
第10章「フレームダクトで踊るユニコーン」
Unicorns Dancing in the Flame Duct
第3部 できないはずはない
第11章 魔法の彫刻庭園
Magic Sculpture Garden
第12章 「宇宙はむずかしい」
Space Is Hard
第13章 「イーグル、着陸完了」
The Eagle Has Landed
第14章 火星
Mars
第15章 「大転換」
The Great Inversion
エピローグ ふたたび、月へ
Again, the Moon
謝辞
原注
※訳注は〔 〕で示した。また原書の[ ]はそのまま[ ]とした。
考えるとは、結局のところ、見えているものをよく見ることで、
気づいていなかったことに気づき、
それによって目には見えないものを見ることなんだ。
——ノーマン・マクリーン『リバー・ランズ・スルー・イット』
序章 「着陸」
海抜2万5000フィート〔約7.6キロ〕の上空についにロケットの姿が現れた。ふつう、ロケットが爆弾のように空から落ちてきたら、慌てふためくことだろう。だがシアトル郊外にあるブルーオリジン本社の従業員用ラウンジに集まったおよそ400人はちがった。地上に迫ってくるブースターを目にすると、期待に胸を躍らせた。
「エンジン始動まで推定10秒」管制官の声が響きわたる。
ラウンジを埋め尽くした従業員たちは、ほぼ全員エンジニアだ。ロケットの自由落下を映し出した大型スクリーンにじっと目を凝らしながら、手で口を覆う者もいれば、座ったまま身を乗り出して、手を固く握りしめる者もいる。話し声はしない。誰もが息を詰めて、成り行きを見守っている。
「エンジン点火」と、管制官が告げた。「推力発生」
そのとたん、部屋じゅうから歓声が沸き起こった。2015年の感謝祭〔11月の第4木曜日〕の3日前に当たるこの日、西テキサスにあるブルーオリジンの試験場からロケットが打ち上げられたのは、つい3分前のことだった。ロケットは超音速で上昇を続け、やがて宇宙空間との境界線とされる海抜高度100キロメートルを越えた。しかしロケットが下降している今、エンジンの推力は逆の働きをしていた。ロケットが墜落しないよう、落下のスピードを抑えているのだ。
ロケットの高度が下がり続ける。
2000フィート〔約600メートル〕。
1000フィート。
500フィート。
ロケットが地表付近に達すると、エンジンから放たれる炎で土煙が舞い上がった。ラウンジにいる従業員たちがいっせいに椅子から立ち上がった。ロケットは制御されており、着陸する熱気球のようにゆっくりと降りてくる。
「高度150フィート〔約45メートル)」管制官が告げる。
「高度70フィート」
「高度50フィート。速度安定」
エンジンからもう1回、最後の噴射があって、煙幕の向こうに鮮やかな橙色の光がきらめく。そして、エンジンが止まった。
「着陸完了」
部屋はたちまち興奮のるつぼと化した。互いに抱き合ったり、ハイタッチし合ったりして、狂喜乱舞する従業員たち。着陸台の中央にはロケットブースターが巨大なトロフィーのように見事に立っていた。
ジェフ・ベゾスは自社の所有する西テキサスのロケット発射場の管制室から、打ち上げの一部始終を見守っていた。のちに「あれは人生で最高の瞬間だった。目が潤んでしまった」と語った。
28日後、また別のロケットが空から落ちてきた。このブースターは前のよりもはるかに大きく、はるかに速いスピードで宇宙を飛んできていた。その速度は宇宙空間との境界線を越えるだけでなく、ペイロード(搭載物)を軌道高度に投入できるほどのものだった。この着陸を成功させるのはさらに至難の業であり、失敗の可能性は桁ちがいに高い。
フロリダ州ケープカナヴェラルの夜空に向けてロケットが打ち上げられてから約10分後、とつぜん、ロケットエンジンから出る炎が遠くにある街灯のようにぱっと夜空に現れた。炎はそのまま信号灯のように明滅しながら雲のあいだを降りてきた。
2015年のクリスマス前のこの日、ロサンゼルス郊外にあるスペースXの本社ではテレビ画面の前に従業員たちが集まっていた。従業員たちはロケットを目にしたとたん、ブルーオリジンのライバルたちと同じように沸き立った。
イーロン・マスクは屋外に出てロケットの帰還を見守った。それから管制室に駆け戻って、ロケットが着陸台に堂々と立つ姿をモニター画面で確かめた。ベゾスと同じように、人生で最高の日と感じたはずだ。「歴史的な瞬間」とマスクはこの成功を評し、「火星都市を実現できる自信がいっきに深まった」と述べた。
宇宙時代の幕開けから約50年間。宇宙空間まで達したロケットが地上に垂直に着陸したことは一度もなかった。それが今、ひと月足らずで2回、行なわれた。
これまでの宇宙飛行ではおもに打ち上げが盛大に祝われてきた。しかし着陸というと、人々の記憶に残っているのは、地上への着陸ではなく、ニール・アームストロングとパズ・オルドリンによる月面着陸か、さもなければ火星探査機キュリオシティ号によるいわゆる「恐怖の7分間」の火星への着陸だった。ロケットのブースターが焼け焦げながらも地上にしっかり立つ姿は、新時代の到来を予感させた。ついにアポロ11号のあの感動が再現される日が来る、近い将来に実現すると多くの人が信じていながらいっこうに実現しなかった次の大飛躍がついに実現するのだと、期待させた。
さらに特筆すべきは、この着陸——NASA(米航空宇宙局)にもできなかった偉業——が国ではなく、民間企業2社によって成し遂げられたことだ。2社とも、再利用可能なロケットの開発に執念を燃やす大富豪の支援のもと、宇宙飛行の費用を劇的に下げる可能性を秘めた新技術の開発に取り組んできた。
ロケットの1段目はこれまで何十年も、ペイロードに宇宙まで達する推進力を与えたあとは、海に没したままにされていた。マスクとペゾスにはこれがとんでもない無駄遣いに思えた。まるでニューヨークからロサンゼルスへのフライトのたびに、飛行機を捨てるようなものだ、と。そのふたりが今、ロケットは上に向かって飛ぶだけでなく、下に向かって戻り、目標地点に正確に着陸できることを証明してみせた。数十年来薄れていた有人宇宙飛行への人々の関心が、これによってふたたび呼び覚まされた。
着陸の成功に沸いたのは、ブルーオリジンとスペースXばかりではない。ネット上にアップされた着陸の動画は、増え続けるファンたちによって何百万回も再生された。1960年代のブームを彷彿させる盛り上がりだ。かつてフロリダ州のココアビーチの岬が宇宙ファンで埋め尽くされたように、ユーチューブやソーシャルニュースサイトのレディットに宇宙ファンのアクセスが殺到した。新しい宇宙時代の幕開けに興奮する若者たちのようすは、かつてジョン・グレンを乗せたロケットが地球周回軌道へ向けて打ち上げられたときの親の世代の熱狂ぶりと同じだ。グレンのロケットが大空を突き抜けて宇宙へ達した瞬間には、いつもはけっして感情をあらわにしない冷静なニュースキャスター、ウォルター・クロンカイトですら、生放送中、「すごいぞ、ベイビー!」と叫んだほどだった。
米国の宇宙事業の復活をここまで牽引したのは、ふたりの億万長者、マスクとペゾスだ。ふたりは手法でも性格でも、好対照をなしている。平気でむちゃなことに挑むマスクは、がむしゃらに前に進もうとし、成功によっても失敗によってもたえず世の注目を集めた。いっぽうのベゾスは物静かな秘密主義者で、謎めいたロケット開発を極秘裏に進めた。
ただし、参入者はこのふたりだけではない。リチャード・ブランソンも宇宙旅行の提供を約束している。宇宙から地球を眺め、数分間の無重力体験を楽しめる旅行だという。マイクロソフトの共同創業者ポール・アレンは、民間初の有人宇宙飛行を成功させた宇宙船に出資し、さらに、史上最大の飛行機の開発にも取り組み始めている。ハワード・ヒューズの飛行機スプルース・グースよりも大きいその飛行機は、上空1万メートルからロケットを「空中発射」できるという。さらに「ブラックアイス」と名づけられた新型のスペースシャトルもひそかに開発しているらしい〔ボール・アレン氏は日本でも広く報じられたとおり、本書の原書刊行の約半年後、2018年10月15日、逝去された。氏の宇宙にかけた夢は、この飛行機の開発を含め、氏の設立した宇宙輸送企業ストラトローンチ・システムズ社に引き継がれている〕。
これらの「宇宙の覇者」はいずれも世界的な大企業——アマゾン、マイクロソフト、ヴァージン、テスラ、ペイパル——を築いて、それぞれ小売り、クレジットカード、航空の各業界に破壊的な変革をもたらした者たちだ。今、それらの破壊者たちが莫大な私財を投じて、宇宙旅行を大衆の手に届くものにするとともに、これまで国主導で行なわれてきた有人宇宙飛行の限界を打ち破ろうとしている。
新たな地平を切り拓こうとするドラマチックな奮闘の物語は、まるで映画のようだ。リスクと胸躍る冒険の数々があり、テストパイロットが犠牲になった墜落事故があり、ロケットの爆発があり、破壊工作の嫌疑がある。弱小ベンチャー企業が強大な「軍産複合体」を相手取って起こした訴訟があり、ホワイトハウスまで巻き込んだ政治闘争があり、人類を月や火星に運ぶという壮大な構想があり、そしてもちろん、新たな「宇宙探査の黄金時代」(ベゾス)の先触れをなす歴史的な着陸の成功がある。
この物語を活気あるものにしているのは、新しい宇宙開発を引っ張るマスクとベゾスのあいだに芽生えた競争心だ。ふたりの対抗意識は訴訟やツイッターの発言、それぞれのロケットの着陸の意義や推力をめぐる論争、さらには発射台の争奪戦となって表れる。猛烈に突っ走る”兎”イーロン・マスクと、秘密主義でゆっくり歩む”亀”ジェフ・ベゾス。先行するのはマスクだ。ただしレースは始まったばかりで、ベゾスに慌てるようすはない。一歩一歩、着実に前進を続けている。
タイムライン
2000年9月 ジェフ・ベゾスがブルーオリジンの前身ブルーオペレーションズLLCを設立する。
2002年3月 イーロン・マスクがスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズを法人化する。
2003年12月 スペースシップワンの最初の動力飛行が実施される。
2003年12月 マスクがワシントンDCでファルコン1を披露する。
2004年9月 リチャード・ブランソンがスペースシップワンの技術ライセンスを取得し、2007年までに世界初の商業宇宙飛行を実現すると宣言する。
2004年10月 スペースシップワンがXプライズを獲得する。
2005年3月 ブルーオリジンの最初の飛行試験機カロンが試験飛行を行ない、高度96メートルに達する。
2006年3月 スペースXがファルコン1の1回目の打ち上げを行ない、失敗に終わる。
2006年8月 NASAが商業軌道輸送サービス事業で、スペースXと2億7800万ドルの契約を交わす。
2006年11月 ブルーオリジンの試験ロケット、ゴダードが打ち上げられ、高度87メートルまで達する。
2008年9月 スペースXのファルコン1が初めて地球周回軌道に達する。
2008年12月 NASAが国際宇宙ステーションに物資を運ぶ事業で、スペースXと16億ドルの契約を交わす。
2010年1月 オバマ大統領がNASAの予算案を発表し、ブッシュ政権時代に始まったコンステレーション計画の中止を表明する。
2010年4月 オバマ大統領がケネディ宇宙センターで演説するとともに、第40発射台を訪れ、マスクと会う。
2010年6月 ファルコン9の1回目の打ち上げが成功する。
2011年7月 NASAのスペースシャトルが最後の飛行を終える。これにより米国には宇宙飛行士を宇宙へ送る手段がなくなる。
2011年8月 ブルーオリジンの試験ロケットPM2が西テキサスに墜落する。
2011年12月 ポール・アレンがロケットの「空中発射」に使える世界最大の航空機ストラトローンチの開発計画を発表する。
2012年5月 スペースXの宇宙船ドラゴンが民間機で初めて、国際宇宙ステーションに到達する。2013年3月ベゾスが大西洋の海底からF-1エンジンを回収する。
2013年9月 スペースXとブルーオリジンのあいだで、第39A発射台の利用をめぐって緊張が高まる。ベゾスがNASAに認可される軌道飛行用ロケットをつくるより、「フレームダクトで踊るユニコーン」を見る公算のほうが高いと、マスクが述べる。
2014年4月 スペースXが国防総省の打ち上げ契約をめぐり、米国空軍に対して訴訟を起こす。
2014年9月 スペースXとボーイングがNASAから宇宙飛行士を国際宇宙ステーションへ輸送するミッションを請け負う。契約額はスペースXが最大で26億ドル、ボーイングが最大で42億ドル。
2014年10月 ヴァージン・ギャラクティックのスペースシップツーがモハーヴェ砂漠に墜落する。
2015年4月 ブルーオリジンがニューシェパードを打ち上げ、初めてロケットを宇宙空間付近まで飛ばすことに成功する。
2015年6月 ファルコン9が宇宙ステーションへ物資を運ぶために打ち上げられたが、途中で爆発する。
2015年9月 ブルーオリジンがケープカナヴェラル空軍基地の第36発射台から新しい軌道飛行用ロケットを打ち上げると、ベゾスが発表する。
2015年11月 ニューシェパードが着陸に初めて成功する。
2015年12月 ファルコン9が着陸に初めて成功する。
2016年2月 リチャード・ブランソンが新しいスペースシップツーを公開する。
2016年9月 ファルコン9が発射台で燃料注入中に爆発する。
2016年9月 マスクが国際宇宙会議で登壇し、火星への移住計画を発表する。
2016年10月 ブルーオリジンのニューシェパードに使われた最初のブースターが、発射と着陸を5回繰り返したのち引退する。
2017年1月 ブルーオリジンが月面に物資を運ぶ事業計画をNASAに売り込む。
2017年2月 マスクが民間人ふたりの月周回旅行を有料で実施する計画を発表する。
2017年9月 マスクが月面基地の建設計画を発表する。