【最新】科研費について学ぶためのおすすめ本 – 科研費の解説から申請書の書き方まで

ページコンテンツ

科研費の審査を受けるためには?申請書の書き方とは?

科研費とは、科学研究費助成事業に基づいて、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野における研究の発展を目的に補助される資金のことです。科研費は研究者が全員もらえるわけではなく、審査を通過しなければ交付を受けられません。そこで今回は、科研費の仕組みから申請書の書き方まで学べる本をご紹介します。

ランキングも確認する
出典:出版社HP

科研費のしくみと研究をめぐる状況

科研費の解説書

本書は、現代の大学の研究になくてはならない研究費制度である、「科研費」の実際の制度運営に携わり、その仕組みを最もよく知る著者によって書かれた、解説書です。科研費制度についてはもちろん、日本の論文事情や女性研究者などの現状についても述べられているため、大学研究に関する知識を豊富に身につけることができます。

渡邊淳平 (著)
出版社 : 科学新聞社 (2016/5/18)、出典:出版社HP

はじめに

本書のタイトル『大学の研究者が知っておきたい科研費のしくみと研究をめぐる状況』を見て、少し上から目線に思われたかもしれません。本書は決してそういうものではありません。
筆者はこれまで,大学の研究に近いところで,国の行政側の立場で学術研究の振興にかかわる仕事をしてきました。科研費の制度も担当してきました。そうした中で,大学の先生方が,意外にも科研費のことや最近の大学の研究をめぐる様々な情報について知らないということに気がつきました。

政府はイノベーションによる日本の発展を目指しています。資源の乏しい日本にとって、科学の発展は,持続的な社会の成長のための最重要ポイントの1つであることは間違いありません。2015年には、赤崎勇、天野浩,中村修二の3先生が青色LED の発明でノーベル物理学賞を同時に受賞され, その翌年には大村智先生が感染症の予防に絶大な効力を有する化合物の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞されました。これらは科学の発展が社会の発展に結びついていることを示す最も身近で典型的な例の1つといえましょう。
同じく、素粒子物理学の分野で梶田隆章先生がノーベル物理学賞を受賞されました。先生がおっしゃられたように,まさに「人類の知の地平線を拡大」するという自由な学問のすばらしさを示すものです。
日本人ほどノーベル賞が好きな国民はいないのかもしれませんが,いずれにしても,日本の科学研究のレベルの高さが認められたことについて,国民の多くが日本人として大きな誇りを感じていることは間違いないでしょう。

いろいろな意味で、大学における科学研究に対する期待が高まっていますが、その一方で、大学を取り巻く環境は厳しさを増しています。

科研費は、いまや大学で研究する者にとって,なくてはならない研究費制度です。ですから,研究者の皆さんに科研費の制度の考え方やよく考えられた審査のしくみについてもっとよく知っておいてもらいたいと思います。よく知ることで,科研費の制度をよりよいものにしていくことにもつながりますし,また,応募する側として科研費を獲得することにもつながるでしょう。 そうすることで,研究に割く時間を増やすことにもつながるでしょう。
そういう思いを込めて、日本の科学研究を支える科研費制度について,で きるだけわかりやすく紹介してみました。
また,現在の日本の科学研究を取り巻く論点のうち,論文の現状,世界の 研究費の状況,女性研究者のことなどについても簡単にまとめてみました。 こうした点についても,研究者自身がもう少し整理された知識として知っておいた方がよいのではないかと思ったからです。

外国との比較を含めて、なるべくわかりやすく記述したつもりですが,そのために説明が初歩的になり過ぎたり、逆にまだ説明が足りない点があるか もしれません。また,論点に対するとらえ方が不十分であったり、むしろ間違っているのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。そうした点については、皆さまからのご指摘をいただければありがたいくらいの気持ちもありますので,あらかじめご容赦いただけると幸いです。

渡邊淳平 (著)
出版社 : 科学新聞社 (2016/5/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 科研費のすべて
1章 日本の科学研究のごく大まかな姿
(1) 研究者の数
(2)研究の種類
(3) 研究費

2章 大学での研究を支える科研費
(1) 大学の研究費
(2) 科研費の応募・採択の状況
(3) 科研費の予算額
(4) 科研費の「研究種目」
(5)応募から審査,採択されるまで
(6) 審査システムを支える「日本学術振興会・学術システム研究センター」
(7)採択の結果を見ると
(8)研究の評価と報告

3章 米国の研究費制度と比べるとどうなのか
(1)応募数,採択率
(2) 大学別の配分状況
(3) 助成金の平均規模
(4) 審査のしくみ
(5)審査後の応募者に対する対応
(6)審査の改善のためのいくつかの取り組み

4章 科研費の使い勝手をよくする
(1)使いやすくするための様々な改善
(2)設備購入のための科研費の合算使用
(3) 科研費の基金化

5章 科研費の採択のためのヒント
(1) 基本的に頭に入れておくべきポイント
(2)情報を入手しましょう
(3) 審査と採点のルールを理解する
(4) そのほかのヒント

6章 科研費の研究成果
(1)研究の結果としての論文
(2) 論文のオープン・アクセス化
(3) 成果の社会への発信
(4) 研究成果と社会・経済の発展

第2部 研究をめぐる状況
7章 世界の論文を比較する
(1) 世界の論文の国別シェア
(2) 論文数と研究者数,科学技術予算との関係
(3) 日本企業による研究論文の激減
(4) 科研費による論文の状況
(5) 国立大学におけるデュアル・サポートの変化と論文への影響

8章 女性研究者をめぐる状況
(1)企業を含めた日本全体の女性研究者の現状
(2) 大学の職名別の女性教員比率
(3) 米国における分析
(4)博士課程修了者の進路(就職状況)
(5) 女性研究者を増やすための長期的な戦略

あとがき

渡邊淳平 (著)
出版社 : 科学新聞社 (2016/5/18)、出典:出版社HP

科研費 採択される3要素 第2版: アイデア・業績・見栄え

新制度にも対応

採択件数トップを誇る著者が贈る、科研費についてよくわかる渾身の1冊です。科研費の新制度にしっかりと対応した内容になっています。審査委員の心をつかむコツがわかるので、科研費獲得のための指南書です。

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

著者紹介

郡 健二郎Kenjiro Kohri
公立大学法人 名古屋市立大学 理事長・学長

略歴
大阪府東大阪市生まれ, 1973年大阪大学医学部卒業, 東大阪市立中央病院泌尿器科, 近畿大学医学部講師, その間日本学術振興会特定国派遣研究員およびBritish Royal Societyとの交換研究員として南マンチェスター大学(英国)留学を経て, 1993年名古屋市立大学医学部教授, 同大学病院長(兼任), 同医学研究科長・医学部長(兼任), 2014年からは名古屋市立大学理事長・学長

受章歴紫綬褒章
受賞歴日本医師会医学賞, 中日新聞社中日文化賞, 東海テレビ文化賞, 杉田玄白賞, 日本泌尿器科学会坂口賞など

本書に関して, 著者の3つの特徴

1)研究外国人には採択率が厳しいとされるアメリカ泌尿器科学会で, 採択演題数が2年連続トップ10に取り上げられた.
2)人材育成教室員の受賞件数(学会および民間を通して)が, 教授在職中に約200件であることがマスコミなどで報じられた.
3)科研費)細目(泌尿器科)の中で, 2015年までの5年間の採択件数が全国1位であることが文部科学省ホームページで公表された.

科研費採択される3要素―アイデア・業績・見栄え
発行
2016年7月15日 第1版第1刷
2016年11月15日 第1版第4刷
2017年6月15日 第2版第1刷
2019年5月15日 第2版第3刷
著者 郡健二郎
発行者 株式会社医学書院
代表取締役 金原俊
〒113-8719東京都文京区本郷1-28-23
電話03-3817-5600(社内案内)
組版ビーコム印刷・製本日経印刷

本書の複製権・翻訳権・上映権・譲渡権・貸与権・公衆送信権(送信可能化権を含む)は株式会社医学書院が保有します.
本書を無断で複製する行為(複写, スキャンデジタルデータ化など)は, 「私的使用のための複製」など著作権法上の限られた例外を除き禁じられています.大学, 病院, 診療所, 企業などにおいて, 業務上使用する目的(診療, 研究活「動を含む)で上記の行為を行うことは, その使用範囲が内部的であっても, 私的使用には該当せず, 違法です.また私的使用に該当する場合であっても, 代行業者等の第三者に依頼して上記の行為を行うことは違法となります.
JCOPY〈出版者著作権管理機構委託出版物)本書の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています.複製される場合は, そのつど事前に, 出版者著作権管理機構(電話03-5244-5088, FAX03-5244-5089, info@jcopy.or.jp)の許諾を得てください.

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

第2版を上梓するに至った理由を2つ述べ, 序といたします

1)深い感謝

昨年7月, 拙書を発刊しました.その後, 科研費の申請月を中心に8月から11月まで, 予想をはるかに超える多くの方々に拙書を手に取っていただきました.毎月増刷され, 一般新聞でも取り上げられ, 東大の本郷生協では毎週売上トップが続いたと教えていただきましたご愛顧いただいた皆さまに深く感謝申し上げます.
本年4月には, 「科研費に初めて採択された」, 「門外不出の資料が役立った」など, 丁重なるお礼状を多数いただきました.申請書を校閲させていただいた研究者のみならず, 直接存じ上げない研究者からのお便りには嬉しさと同時に, 責任の重さに身が引き締まる思いがいたしました.
各大学からの科研費セミナーの依頼には, 時間の許す限りお引き受けしました私がこれまで最も力点をおいている若手研究者の育成に, 少しでもお役に立ちたいとのボランティア精神からです.しかし日程が合わず, ご要望にお応えできなかった方々には, この書面でも深くお詫び申し上げます.
第2版を上梓するにあたっては, 皆さまからいただいた疑問点やご意見を参考にし, 初心に戻って出書を読み直しました.私が言いたい2つのこと, 「研究の大切さ」と「採択される申請書の条件」は, 私の拙い経験からではありますが, おおむね書き表せていると改めて確信いたしました.

2)平成30年度(平成29年9月申請)からの大幅な改定

平成30年度からは科研費の制度が大幅に改定されます.このことは昨年の初版時にもわかっていたので, その概要を初版に載せました第2版では, 正式に公表された主に2つの改定点を中心に, 第2章を全面的に改訂しました.
改定の内容は膨大なのでポイントのみを載せていますが, 文科省の原文をできる限り尊重したので, 格調高い文章になっています.
今回の科研費の改定にいかに対応し, 採択率を高めるかを, 第2章で述べました愚見をまとめていて感じたことは, 大幅な改定により, 研究者や科研費担当の事務の方々は若干の戸惑いはあるでしょうが, その戸惑いは1, 2年のことです, 科研費を採択されるために肝心要なのは「独創的で優れた研究をすること」と「採択される申請書を書くこと」で, それらは大幅改定でも変わらないことです.
最後に, 皆さんに留意していただきたいことを2つ述べます.

1つ目は, 第2章を全面的に改訂した直後の本年6月に, 文部科学省による説明会が行われ, 「応募書類の変更点」の概要が公表されたことですそれらは付録6(164頁)に坊物載せています.応募書類の変更点は, これまでのものと多少の違いはありますが, 出書の中で強調している申請書の書き方と変わるものではありません.とりわけ, 「研究目的」では「概要」が大切で, 「起承転結」の考えを基本にして, 誰にでもわかるように書くことです.今回の改定から推察されることをあえて言えば, 今後の審査方針は, 従来に比べ, 「業績」よりも「アイデア」が重視されるであろうことですこの方針は, 拙書でも述べてきたところと一致するもので, 「採択される3条件」の中でも最も重要なのは「アイデア」, 次いで「業績」, さらに「見栄え」があることです日頃の地道な研究が大切です.

2つ目は, 9月に正式に公表される「公募要領」を精読していただきたいことです.上記の6月の説明会でも言われていますが, さらに小さな改定がある可能性があるからです.いずれにしても例年に比べ少し早く準備をすることが「科研費に採択される4つ目の条件」かもしれません.

初版にてご執筆いただきました髙久史麿先生の「推薦のことば」と合田哲雄様の「発刊に寄せて」を, 第2版でも掲載させていただきました.お2人には改めて深く感謝申し上げます.
拙書にはすべてのことが書かれています.申請書を作成する時には参考書のようにして, 時間にゆとりのある時には読み物や教科書のようにして, 出書をご利用いただけると望外の喜びです.
採択されますことを心よりお祈りしながら.

2017年6月吉日
名古屋市立大学
郡健二郎

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

推薦のことば

このたび, 名古屋市立大学理事長・学長を務めておられる郡健二郎先生が執筆された『科研書採択される3要素—アイデア・業績・見栄え」の推薦文の執筆を本書の出版元である医学書院から依頼された.
郡先生は泌尿器科学を専門とされておられ, そのご業績に対して紫綬褒章をはじめ, 数々の賞を受賞されておられるが, そのなかに平成16年に受賞された, 「尿路結石症の病態解明と予防法への応用研究」と題する論文に対する日本医師会医学賞がある.私はそのとき, 日本医学会の会長として医学賞の選考に携わったが, この医学賞は日本医学会に加盟している基礎・社会・臨床のすべての分野の研究者から申請を受け, そのなかの3名だけに受賞が限られるので, 泌尿器系の先生が受賞されるのは珍しいことであった.そのため郡先生のことは私の記憶に強く残っていた.その郡先生が上記の題で200頁近い本をご自身で執筆されたことは私にとって大きな驚きであった.

この本は「研究の楽しさ, 美しさ」「科研費の制度を知る」「申請書の書き方」「見栄えをよくするポイント」の4章に分かれているが, 特に第3章の「申請書の書き方」では実際の申請書の執筆形式に沿う形で, それぞれの項目において基本的に注意すべき点(基本編)と, 実際にどのように書くか(実践編)について詳細に記載されており, 科研費を申請される方にとってきわめて有用かつ実用的な内容となっている.
また, 第4章の「見栄えをよくするポイント」についての記述には, 今まで数多くの科研費の審査にあたってきた私自身にとっても思い当たる点が数多くあり, 郡先生が本書で述べている科研費が採択される3要素の1つに「見栄え」をあげられた理由がよくわかった.私の経験では, 科研費の審査の際, どうしても申請内容の新規さと申請者の過去の業績に目が向きがちであったが, 考えてみると読みやすさも評価の大きなポイントであった.
2013年にあったディオバン事件を契機にして, 従来からあった企業からの奨学寄付金がかなり減額したと聞いている.また, 国立大学法人への運営費交付金も毎年減額されており, 研究者は文部科学省の科学研究費, AMEDからの科研費, 民間の研究助成財団からの研究費などを受けなければ研究ができない状況になっている.郡先生が第1章で書かれているように, わが国からの研究成果の発表論文数は減少しており, 中国に追い抜かされつつあるのが現状である.本書を精読することによって, 能力のある研究者が科研費をより多く受けられるようになることを期待している.したがって, 本書はわが国の医学の進歩にきわめて重要な役割を果たすと考えられ, 本書を出版された郡先生に心から敬意を表したい.
2016年6月
日本医学会会長
髙久 史麿

発刊に寄せて
2015年1月まで, 私は文部科学省研究振興局の学術研究助成課長として科研費を担当していた.周知のとおり, わが国最大の競争的資金である科研費の審査は, 私どものような重丸方の容除する余地のない完全なピアレビューによって行われており, 科研費が研究者の間でも社会においても最も信頼されている最大の理由となっているこのことに私自身, 大きな誇りを感じながら科研費を担当していた.

担当課長として科研費の審査に陪席していたある日, 1年間派遣されていたNSF(米国科学財団)での, あるプログラムオフィサーとした次の対話を思い出した.NSFには500人ほどのプログラムディレクター(PD)プログラムオフィサー(PO)がいるが, その約半分は大学からの「ローテーター」, 大学教員からの出向組だった私にとって不思議だったのは, 30代後半から40~50代の自然科学者がなぜ1~2年にわたって大学を離れるというリスクを背負ってまでNSFに来るのか, ということだった.そのことを, 私と同世代, 大学1年のときに北京大学の学生として天安門事件に遭遇し渡米, スタンフォードでPhDを取り30代でペンシルベニア州立大学のコンピュータサイエンスの教授になったうえでNSFのPOをしている若手の俊英に尋ねたことがあった.彼は, 「NSFのPOでいることは研究にとって決してマイナスではない. ペンステートのような有数の研究大学であっても研究室に1日座って得られる情報と, 新しいアイデアを抱えた研究者がどんどんやって来る. NSFで得られる情報とでは, 質・量ともに全然違うもちろん盗用するわけではないが, 研究者としてのインスピレーションが湧く」と言っていた, 研究費の審査がいかに創造的な仕事なのかを知った瞬間だった.

本書において郡学長が指摘なさっているとおり, 科研費の申請とは, 自分の研究上の「アイデア」を, ディシプリンに基づいた論理とフィージビリティ(「業績」)を明らかにしながら, 専門分野や実績, 経験の異なる第三者にわかりやすく(「見栄え」)アピールし, 学術研究上の新規性, 卓越性のみをルールとする土俵で存分に競い合うある種のコミュニケーションであり, そこからさらに新たなアイデアが創発される創造的な営為にほかならないだからこそ, 本書は, 若い研究者に研究の楽しさ美しさを知ってもらいたい. わが国の研究力を高めたいという郡学長の思いに満ちている.

本書が1つの契機となって, 多くの研究者が自らのアイデアを冷静にメタレベルで捉え直したうえで分かりやすく表現し, 研究者同士や社会とのコミュニケーションを通して, さらにアイデアが触発されるという「知の循環」が一層盛んになり, わが国の研究力が強くしなやかになることを心から期待している.また, 現在私は小・中・高校のカリキュラムを担当しているが, この「知の循環」のなかで輝く研究者の姿は, 子供たちにとって大切なロールモデルであると痛感している次第である.

2016年6月
文部科学省初等中等教育局教育課程課長
合田 哲雄

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

初版序

本書を執筆するきっかけになった4つの理由をお話しし, 序といたします.

1)私が持っている「科研費」のすべてを伝えたい

一昨年秋, 文部科学省(以下, 文科省)は, 科研費の獲得件数を細目別にみた大学ランキング上位10校を公表しましたその公表を知ったのは, 当時文科省の科研費を担当する課の課長だった合田哲雄さんの「名市大の泌尿器科は, 獲得件数が突出して多いですね」との話からでした.
その後, 私のもとに, 「申請書をみてほしい」, 「書き方のセミナーをしてほしい」などの依頼を, 学内外のみならず, 私の専門外からもいただきました.昨年夏から秋にかけては, 土, 日曜日を含め空いている時間はそれらに割きました.

そんな折, セミナーを聴講された先生方からは, 「他の人も聞きたかったでしょうね」との過分な話や, セミナーの準備をしていただいた秘書さんからは, 「本を書いたらどうですか」といった, 来年も同じことをするのか, とも聞こえるような話に後押しされ, 執筆に至りました.
なお, この4月には, 昨年申請書を見せていただいた大学や研究者から嬉しいお便りをたくさんいただきました教育者冥利に尽きます.
本書の内容は, 私の長年の経験と知識・知恵の集大成です.持てるものをすべて書き込んだつもりです.
教授時代には, 毎年20名余りの申請書を1人数回にわたって完成するまでアドバイスしました.当初は, 申請書の体裁をなしていなかったものが大半でしたが, 毎年同じことを繰り返すたびに, 私の補助をする人材が次々に育ちました.
大学や学会でも「科研費申請書の書き方」の講演を何回かにわたってしましたそのあとには決まって「私の申請書が採択されなかったのはどこが悪いのでしょうか」と熱心な方が尋ねに来られました.そのような方の申請書からは, 反面教師のようにして学ぶことが多かったように思います.

泌尿器科学分野における科研費の新規採択累計数上位10校(2010~2014年)

順位 大学名 累計数
1 名古屋市立大学 78.5
2 K大学 39
3 K大学 27.5
4 O大学 27
5 O大学 23
6 T大学 20
7 Y大学 17
8 F大学 17
9 A大学 16.5
10 K大学 16
[日本学術振興会より]

2)若い人に「研究の楽しさ, 美しさ」を知ってもらうことで, 応援したい

このようにして, 多くの申請書を見せていただいて気付いたことは, 若い研究者は優秀で研究熱心だが, 「基本」が身についていないことです.時には, このようなことで論文の作成や研究の遂行は大丈夫だろうかと心配になることがありました.
「研究のおもしろさを申請書に書ききれていませんね」とか, 「読む気になる申請書に書き変えましょう」などと話すことは多かったのです.しかし, それらの問題点はテクニックである程度直すことができます.
問題なのは, 「その研究をなぜ始めたのですか」, 「オリジナリティは何ですか」, 「その研究はどんなことに役立つのですか」といった質問をついしてしまう申請書が多かったことです.

多分, そのような方々は, 「研究の楽しさ, 美しさ」を知ることがないので, 独創性や発展性は生まれず, 心ときめかす研究生活は得られないことだろうと思います.
そこで本書では, 「申請書の書き方のコツ」(第3, 4章)を話すだけでなく, 「研究の楽しさ, 美しさ」や「研究サイクル」の大切さを知っていただきたく, 私の考えを第1章に力を込めて書きました.

3)わが国の研究力を高めたい

わが国の研究力が諸外国に比べ低下していることが, 最近問題になっています.本書でも, この点については第1章で触れています.
学会や学術雑誌が増えたにもかかわらず, 「聞きたい, 読みたい」と思う論文が逆に少なくなっているのはなぜでしょう.その理由の1つは, それらの論文は似たような内容が多く, 新規性や独創性が乏しいからだと思います.
昨今, 研究成果を早急に求められているためか, 研究時間が少なくなっているためか, ハングリー精神が薄れ大きな目標を見失っているためか, いずれにしてもじっくり考えながら研究をする人が少なくなっているように思えます.
本書では, このようなことを改善したいとの強い思いで, 執筆をしました.

4)危ない科研費を守りたい

前述の文科省の合田課長さんは, なぜ「科研費大学ランキング」を公表されたのでしょうか?
公表された当時は, 国家プロジェクトとしたAMEDなどの大型研究資金に研究費を集中させる動きがあり(今もあります), その財源として科研費の二千数百億円がターゲットになったように思います.その動きを阻止するのが「大学ランキング」の公表で, 細目(専門分野)によっては, 地方大学や中小規模の大学のなかにも「キラリと輝く研究」があることを, 文科省は示したかったのでしょう.
その取り組みが功を奏してか, 小さな研究を支援するムードが高まり, 科研費予算はギリギリの線で守られました.私は, 文科省のこの取り組みに敬意を表しています.
研究費は, 基盤的経費と競争的研究資金とに大別されます.基盤的経費の代表格は科研費と運営費交付金です.昨今, 基盤的経費が減り続け, 競争的研究資金を獲得しなければ, 研究はおろか教育にも支障が出始めています.この動きは, 大学間の格差をさらに増長させています(キラリと輝く申請書17-134頁).
このような偏在により, すぐれた人材が潤沢な研究費がある研究施設に集中するようになり, 研究成果には研究者の能力や努力だけでは語りきれない格差が生じている一因になっています.その結果, 地方大学や中小の大学では, 基盤的経費で行われてきた裾野の広い独創性に富んだ研究が激減していることが指摘されています.
特化した研究を推進することは不可欠で, 本学でも同様の方針で研究支援をしています.一方, 次世代を担う若手研究者の育成や, 大型研究ではないがユニークな研究を支援することは重要です.それらには基盤となる研究費が必要なのです.
社会から「科研費はもっと必要だ」と言われるためには, あなた方若い世代が, 科研費を用いて独創的な社会に役立つ研究を世界に発信することだと思います.そのようなことも念頭におき, 本書を執筆しました.

謝辞

本書の出版に当たっては, 「郡との二人三脚で, 自分にとっても代表作となる書籍を作りたい」との思いでご尽力いただいた医学書院の渡辺一さん, 科研費申請書を本書の具体例として快く提供していただいた先生方, そしてご協力いただいた秘書生駒桂子さん, 河村千尋さん, 早川喜代さん, 市川教子さんにこの場をお借りして深く感謝申し上げます.

2016年6月吉日
名古屋市立大学
郡健二郎

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

目次


推薦のこと
発刊に寄せて
初版序
本書の特色と使い方
科研費を申請する前のチェックリスト

第1章 研究の楽しさ, 美しさ
1 科研費が採択される3つの要素「アイデア・業績・見栄え」
2 「研究の楽しさ, 美しさ」を知っていただきたい
3 なぜわが国の研究は停滞しているのか?
4 すぐれた研究をするための12の条件
5 なぜ申請書を書くのか?

第2章 科研費の制度を知る
1 科研費の制度が, 平成30年度(平成29年9月申請時)から大阪に改定
2 申請時の「審査区分」と「審査方式」の抜本的な改革
3 「若手研究」と「挑戦的萌芽研究」の大幅な見直し
4 採択率と充足率のバランス
5 新制度への改定について思うこと.

第3章 申請書の書き方
A 研究課題
I基本編
1 「研究課題」の申請書における位置づけ
2 「研究課題」を書くコツと落とし穴
Ⅱ実践編
B 研究目的1(概要)
Ⅰ 基本編
1 研究目的(概要)は, 論文のabstractと同じである
2 概要の書き方の基本型は, 「起承転結」である
3 「起承転結」で何をどのように書くか
4 「起承転結」の分量とそれぞれの配分
5 「概要」の書き方に慣れるまでのコツ
6 その他の留意点
Ⅱ 実践編
1 実例から学ぶ:その前に7つの留意点
C 研究目的2(学術的背景, 研究動向, 着想までの経緯など)
Ⅰ基本編
1 「研究目的で審査評価は決まる」との思いで書く
2 「研究目的」を書くコツと落とし穴
Ⅱ実践編
1 「学術的背景([1]本研究に関連する国内外の動向および位置づけ)」の書き方
2 「学術的背景([2]これまでの研究成果を踏まえた着想)」の書き方
3 「研究期間内に何をどこまで明らかにするのか」の書き方
4 [①本研究の学術的な特色・独創的な点, ②予想される結果, ③意義, 将来性」の書き方
5 「研究目的」に書く4つの項目の配分比率
6 「研究目的」における文献の書き方
7 「見栄え」をよくするために

D 研究計画・方法
Ⅰ基本編
1 「研究計画・方法」の申請書における位置づけ
Ⅱ実践編
1 「研究計画」を書くコツと落とし穴
E 準備状況および研究成果を社会・国民に発信する方法
Ⅰ基本編
1 書く前の注意点
2 本研究を実施するために使用する研究施設・設備・研究資料など, 現在の研究環境の状況
3 研究分担者(若手研究では研究協力者)がいる場合には, その者との連絡調整状況など, 研究着手に向けての状況(連携研究者および研究協力者がいる場合も必要に応じて記述)
4 本研究の研究成果を社会・国民に発信する方法など
Ⅱ実践編
1 書き方の実例
F 研究業績
Ⅰ基本編
1 「研究業績」は科研費が採択される第一歩である
2 書き方のポイント
3 重要な変更点
4 あなたの研究業績が少ないときにどうするか?
Ⅱ実践編
1 書き方の実例
G これまでに受けた研究費とその成果等
Ⅰ基本編
1 書き方のポイント
Ⅱ実践編
1 書き方の実例
H 人権の保護および法令等の遵守への対応
Ⅰ基本編
1 研究をする前に研究倫理を見直す
Ⅱ実践編)
1 書く対象と書き方の実例
I 研究経費の妥当性・必要性
Ⅰ基本編
Ⅱ実践編
J 研究経費(設備備品費, 消耗品費, 旅費等)
Ⅰ基本編
Ⅱ実践編
1 設備備品費の書き方とその実例
2 消耗品費の書き方とその実例
3 旅費, 人件費・謝金, その他の書き方とその実例
K 研究費の応募・受け入れ等の状況・エフォート

第4章 見栄えをよくするポイント
Ⅰ基本編
1 「見栄え」は「採択される3要素」の1つである
2 なぜ, 業績があり, 先端研究なのに採択されないのか?
Ⅱ実践編
1 余裕のスペースを作る
2 すっきりした申請書にする
3 図表を用いる
4 わかりやすい文章のコツ:「流れのある文章」を書く
5 申請書全体のレイアウトを見直す

付録
①申請書を引き立てる表現
②文の接続に有用な表現
③科研費の第1段審査(書面審査)における評定基準
④予算額等の推移
⑤問い合わせ先等
⑥新たな応募書類(研究計画調書)

キラリと輝く申請書

1. 先生, どうして科研費の採択が多いのですか?
2. 私のよき共同研究者
3. 「私の恩人:2人のK先生」「人に支えられ, 人を育て人に尽くす」
4. 研究するのに必要な費用は?
5. 「研究サイクル」:正か負か, それが問題だ
6. 研究種目「若手研究」に思うこと
7. どの研究種目, どの区分に申請するのが有利か
8. 応募書類を修正しながら思うこと—科研費事務担当者より①
9. 1つ上の科研費にアタックしよう
10. とにかくお願い—科研費事務担当者より②
11. 「起承転結」こそ科研費の採択を左右する
12. 0.9×0.9×0.9×0.9の原則
13. パラグラフ・ライティングの書き方とは?
14. 独創性ある研究
15. 自己アピールはどの程度するか
16. 熱意こそ採択への道
17. 研究費に思うこと(その1):研究費にも「格差社会」がある
18. 申請書を書き終わったところで, もう一度(その1)
19. 申請書を書き終わったところで, もう一度(その2)
20. 研究費に思うこと(その2);研究費に格差をきたしている他の原因とは
21. 研究費に思うこと(その3):科研費の必要性を, 研究成果で示そう

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

本書の特色と使い方

1)「科研費が採択される3つの要素(アイデア・業績・見栄え)」のすべてを会得できるように使ってください
本書では, これら3要素を4つの章, 付録, 「科研費を申請する前のチェックリスト」で説明しています.
皆さんは, 「申請書の書き方のコツ」すなわち“見栄え”を早く会得したいと思われることでしょう.それらは第3章, 第4章にしっかり書きました.しかし, 科研費が採択されるには「アイデアと業績」がより重要で, それらは第1章に「研究の楽しさ, 美しさ」として書いています, 時間の余裕があるときに必ず通読してください.新たな「アイデア」が生まれ, 「業績」が積み重なるきっかけになるものと確信しています

2)本書の構成は, 4つの章, 科研費を申請する前のチェックリスト, 付録, コラムからなります
各章では, まず初めにPointを設け, 章のエッセンスを書きました.大切なことばかりです.各章の目次の働きもしています.それらに目を通すと「その章の流れ」がわかると思います.
Pointに続き, 第3章と第4章では, 「基本編」があり, 申請書の書き方の基本事項を説明しています.その後には「実践編」で, 紙面の許すかぎり多くの具体例を示しています.
Before, Afterの形式(一部はHop, Step, Jumpの形式)をとり, 多くの研究者が陥りやすい落とし穴を赤字で示し, それらを改善するコツを丁寧に書きました.
ここでお断りしたいのは, ①具体例にある, 申請書の内容, 氏名, 年月などはすべて本書に向けて加筆修正したものであること, ②重複した記述はあえてしたもので, それらは特に重要であることです.

3)付録, コラム「キラリと輝く申請書」には, 非常に重要なインフォメーションがあります
通常の書物では, 「付録」は付け足しの感があり, 「コラム」はコーヒーブレイクの働きをしていることが多いようです, 本書の付録とコラムは, 本文の中には書ききれなかった内容を示しています, 科研費を獲得する上において非常に有益なインフォメーションを, 力を込めて書きました.
付録は6項目からなります, 特に有益なのは, 「付録1 申請書を引き立てる表現」, 「付録2文の接続に有用な表現」, 「付録3 科研費の第1段審査(書面審査)における評定基準」の3つです.付録1, 2については, これまでの集大成で, 門外不出としていたものです.これらを上手に用いれば, あなたのよき味方になることでしょう
コラムの名前は「キラリと輝く申請書」としました「キラリと輝く研究」(初版の序を参照)をあなたにしていただきたいとの思いからです20余りのコラムの中で, 2つは科研費を担当している本学事務によるもの, 残りは私からのアドバイスです.あなたがアイデアに富んだ研究をし, 採択される申請書を書くためのものです
これらのことから, 付録とコラムについては, 目次の中にタイトルと掲載頁を明確に示しています.

4)「科研費を申請する前のチェックリスト」も門外不出の資料です
「本書の特色と使い方」のあとには, 「科研費を申請する前のチェックリスト(以下, チェックリスト)」を載せています本文の前なので, 見落とさないでください
チェックリストは, 私たちが長年にわたってブラッシュアップして作り上げた資料です門外不出の大切な資料ですが, 本書のために用いることにしました.申請書を書き上げるとホッとするものですが, その時にチェックリストを用いると, 独りよがりになっていた書き方に気づき, 科研費が採択されたケースがしばしばありました.
チェックリストは, 使い勝手がよいように4頁にまとめています本書のエッセンスを集約したものです.研究をする上においても, 申請書を書く上においてもあなたの味方です.
チェックリストの項目を流し読みするだけで, 私の言いたいポイントが具体的に言えるようになると, あなたの科研費のレベルは, 免許皆伝の境地です.例えば, 「なぜ申請書を書くのか?」「研究サイクルとは何か?」, 「320文字の世界とは?」, 「起承転結の書き方とは?」, 「見栄えのよい申請書のコツを20挙げなさい」などです.
チェックリストには, □□が付いています.それらの使い方は2通りあります.1つ目は, 1回のチェックでは不十分なので, チェックを2回するためのもので, 2つ目は, 指導者とあなたが用いるためのものです.
最初のうちは, チェックリストの項目は多いので, 申請書を書き上げたあとにチェックリストを用いて申請書を見直すことは並大抵ではありません.しかし, 私の周りの研究者はチェックリストの恩恵を受けてきたので, あなたにもお勧めします.
申請書を書き上げたあとにすることは2つ翌日声を出して読み返すこと(キラリと輝く申請書18 138頁)と, チェックリストを用いることです.その熱意が科研費獲得への道です.

5)本書は, 「教科書と参考書」の2通りの使い方をしてください
教科書としては, 一度はすべてを読み流してしてください.本書の内容は, 仔細な点まで多岐にわたり示した濃いものだと思います.できる限り平易な文章で, 「ですます調」で書いていますので, 一気に読むことができるでしょう.特に第1章を読んでください.
参考書としては, 申請書を書くときは, 本書を横におき, 首っ引きになって参照してください, 特に実践編の実例と第4章の「見栄え」のポイント, 付録1, 2を照らし合わせながら申請書を完成させてください.
もう1つ大切な使い方は, 提出前には, 必ず科研費を申請する前のチェックリストxxiiを用いて, 申請書を見直すことです.

6)本書の主たる対象は, 若手研究, 基盤研究(C)の申請者, そして事務・URAの方々です
これらの読者を常に頭に描きながら執筆しました.加えて, 熟達したベテラン研究者にも, 申請書を見つめ直す機会となり, 若手研究者への研究ならびに人生のご指導に役立てていただければ幸いでございます.なお本書について, お気づきの点がございましたらご指摘いただければと存じます(再掲 10)
読者としてもう一人意識したのは, 事務およびリサーチ・アドミニストレーター(以下, URA)の方々です, 科研費の採択率を高めるには事務やURAの力が必須です.事務の方々が科研費に関心をもち, 知識を深め, 研究者に適切なアドバイスとサポートをすることが科研費採択への王道だと思います.
本学でも, 一昔前までは, 事務の方々の科研費に対する意欲が薄く, つまらないミスが多かったのですが, 中心となる人が1人誕生すると, そのあとは次々に科研費に精通した事務のエキスパートが生まれました
最近では, 多くの大学にURAがおられ, 科研費申請のアドバイスとサポートをされていますURAの熱意と能力で採択率は大きく変化するものです.

7)本書の対象は, 医学のみならず薬学, 歯学, 看護学, 農学, 工学などの研究者です
私の専門が医学であることから, 本書で示した実例や文言は医学関係が多くなっています.できる限り幅広い領域の研究者に出書を使っていただきたいとの思いで執筆しましたが, どうしてもやむを得ないことで申し訳なく思っています.しかし, 研究の考え方や, 申請書の書き方の基本は, 領域に関係なく共通していると思います, 科研費が採択される3要素も, 領域に関係なく「アイデア・業績・見栄え」だろうと思います.
研究室に1冊, 拙書をおいていただき, 愛読書になり, 手あかにまみれることを願っています.

8)本書の内容は, 科研費だけでなく, 論文作成, 学会抄録にも応用できます
学会抄録のなかには, 読む気にならないものがあります.その理由は, 内容にオリジナリティがないこと, 画一化した書き方であること, 論理性がないこと, などが考えられます.タイトルに工夫がないので引きつけられず, 最初と最後の12行を読むだけで抄録の内容が推測できるものがあります. それらの抄録は内容も書き方もパターン化しているためでしょう.本書をマスターして, 他にはないひと味違う学会抄録を書いてください.論文作成は, 出版社からの一定の指示があるので, 独自性のある表現を醸し出すことは難しいと思います.ただ言えることは, 論文作成で共通して大切なことは, 独自性・新規性・発展性のある内容を, 論理的に(多くは「起承転結」で), 簡潔に書くことです.それらは本書に流れる基本的な考え方です.

9)本書はあくまでも基本型です.あなたのオリジナルな書き方を生み出してください.
それにあたっては, あなた個人だけでなく, グループや大学(事務, URA)と一体となって, まず研究力を高めること, それをもとに申請書の書き方のコツを磨き上げることだと思います.つまり「研究サイクル」を実行させることです(第1章2016頁)でなければ, どの申請書も同じスタイルの無味乾燥なものになってしまいます.
本書を手に取っていただいた時点がスタートです.皆さんは, 独創性ある研究をされ, 魅力ある申請書を書くなかで, 本書を(改変して)ブラッシュアップしてください.ゴールはいつまでもありません.
初版の序において, 私の教授時代には長年の積み重ねにより, 申請書の書き方を後輩に指導できる人が複数育った話をしました.その方々は研究業績もすぐれ, 若手の指導にも熱心です.
ただ心配なのは, 同じことを受け継いでいるのでは, マンネリになることです, 審査委員を経験されたある先生が, 「郡先生のところの申請書は素晴らしい, でも同じパターンですね.勉強になったので教室員に教えました」と話されました, 的を射たこの指摘は重要です.たえずオリジナリティをもって進化せねばなりません.このことは, 組織や社会が常に変革をせねばならないことと同じです.

10)本書に対するご意見を医学書院までお寄せください
本書に対するご意見を是非お聞かせください, これからの参考にさせていただきます.
本書があなたの研究と申請書作成に多少なりともお役に立ち, あなたの科研費が採択されますことを心より願っています.
また本書が皆さんにとって末永く愛読書になることができれば望外の幸せです.

郡 健二郎 (著)
出版社 : 医学書院; 第2版 (2017/7/3)、出典:出版社HP

科研費採択に向けた効果的なアプローチ

科研費申請の指南書

成功する科研費獲得の効果的なポイントが、自然科学系、人文・社会科学系それぞれの視点から具体的に解説されています。採択される書き方、不採択の場合の原因分析の仕方や改善点まで理解できる画期的な内容となっています。巻末には、大学別の採択率や教員数も掲載されています。

塩満 典子 (著), 北川 慶子 (著)
出版社 : 学文社 (2016/9/2)、出典:出版社HP

はじめに

温故知新,新しい良いものは,過去の良いものを見て聞いて,学んで作られる。最初は,誰も優れた申請書をどのように書いてよいかわからない。

今から8年前,平成20(2008)年に室伏きみ子先生と筆者の共著『研究資金獲得法』が出版された後,具体的に科研費獲得のためのポイントとノウハウを伝える解説書が複数出版された。特に,児島将康先生の『科研費獲得の方法とコツ』(羊土社)は,ご自身の申請書をもとに,わかりやすく優れて有用な解説が行われているため,筆者の研究資金獲得法の講演や申請書作成のアドバイスの際に,良書としてお薦めしてきた。

一般に,申請書の書き方は,研究室の主宰者(プリンシパル・インベスティゲーター:PI)?先輩から若手へ,日常の中で語り継がれる。このため,書き方がわかっている研究室は,次から次へと研究資金を獲得し,正のスパイラルで活動を拡大していくが,そうでない研究室の活動は縮減していく。教授や先輩が書き方のコツを知っているかどうか,教えてもらえる環境かどうかは,研究者としてのキャリアプランにも大きく影響する。
本書では,科学技術振興機構(JST)で審査事務局経験を持ち,奈良先端科学技術大学院大学,お茶の水女子大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA)などで,資金獲得支援の成功を重ねた筆者が,科研費獲得のための基本的なポイントをお伝えする。また,共著者の北川慶子先生が,ご自身の採択申請書をもとに,人文・社会科学研究,自然科学と人文・社会科学との異分野融合型研究の申請書の書き方のポイントを具体的に解説する。さらに,不採択事例に基づき,向上点の分析を行うという画期的な内容も含んでいる。

科研費を獲得したいが,まわりに良いメンター,アドバイザーを見つけられない,育児,介護,看護で,夜遅くまで研究室に残れない,学会活動に出られない,懇親会で話を聞くことができない。そもそもPIや先輩との付き合い方がわからない,得意でないという方々は多い。多くの方々の切実なニーズにお応えし,課題解決に一歩でも近づくお役に立つことができたら,とても嬉しく思う。

優れた科学的成果の創出は,人類の知的財産の蓄積につながるだけでなく,その波及効果で新たな社会的価値の創造,イノベーションを促し,産業や人々の暮らしに好影響をもたらす。
読者の皆様が本書を活用して科研費採択に成功するための効果的アプローチを見つけていただきたいとの真摯な思いをタイトルにこめた。新しい学術のフロンティアを先導する一助にしていただけたら幸いである。

平成28(2016)年7月
塩満典子

塩満 典子 (著), 北川 慶子 (著)
出版社 : 学文社 (2016/9/2)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 科研費採択のための基本と重要ポイント
第1節 高度な専門性・先進性が感じられる伝え方
1. 的確なタイトル表現
2. 先進的で高度な専門性を有する研究内容
3. 審査委員構成を意識した伝え方8
第2節 申請書作成のプロセスチェック
1. はじめに
2. 申請書作成の一般的プロセス
3. 計画から実行のPDCAサイクル
4. 自分のポジショニングと種目選択
Column FAQ1
第3節 重要性が伝わる書き方のポイント
1. 最初のつかみを大切に
2. 自分のポジショニングと評点分布をイメージする
3. 比較優位性を印象づける
4. 研究倫理とコンプライアンス遵守
5. チャレンジ精神と十分な準備確保
Column 「超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア(新学術領域)」の申請と採択

第2章 制度から見た科研費採択のポイント
第1節 科学研究費補助金制度
1. 制度の概要
2. 予算額の推移
3. 応募・採択の状況
4. 研究種目の目的と資金規模
5. 公募から内定までの流れ
6. 評定基準
第2節 評定要素・評点と科研費採択のポイント
Column 科研費申請のアドバイスを受けて得られたもの

第3章 科研費(人文・社会科学系)取得における申請書作成のポイント
第1節 基盤B/海外学術調査採択事例による「研究課題」の包括的表現方法
1. 「研究課題」の決め方
第2節 「研究目的(概要)」の簡潔な書き方
第3節 「本研究の学術的背景等」の具体的・明確な書き方
第4節 「研究計画・方法」の具体的・明確な書き方
第5節 「準備状況・発信方法」の具体的・明確な書き方
第6節 「重複応募, 研究内容の相違点」の書き方
第7節 「研究業績」の書き方
第8節 「これまでに受けた研究費とその成果等」の書き方
第9節 「人権の保護及び法令等の遵守への対応」の書き方
第10節 「研究経費の妥当性・必要性」の書き方
第11節 「研究費の応募・受入等の状況・エフォート」の書き方

第4章 不採択申請書の実例分析から採択への道へ
第1節 研究種目と応募分野の選び方
第2節 大切な審査結果の通知分析
第3節 事例研究(挑戦的萌芽研究と基盤研究C)
1. 採択申請書(「挑戦的萌芽研究」)の分析
2. 不採択申請書の分析と採択の為の徹底研究
3. 不採択事例から挑戦的萌芽研究の研究目的・研究計画の書き方を考える
4. 不採択通知評価Bの分析
Column FAQ2
Column FAQ3

第5章 異分野融合型研究による研究資金を獲得するための基本的考え方
第1節 人文・社会科学系から自然科学系への接近における基本的考え方
1. 制度の発展
2. 異分野融合型研究の特徴
3. 進捗評価と継続
第2節 課題解決に向けた異分野業績への強い関心と最適なパートナー発見
第3節 「異分野融合研究」申請書作成のポイント
1. 採択申請書からみた課題の設定方法
2. 「異分野融合を図る研究分野」の設定方法
第4節 研究構想から「研究計画」の書き方の手順
1. 研究計画作成前のポイント
2. 研究計画を書くポイント

あとがき
資料

資料目次
図1 研究者が所属する研究機関別 採択率 上位30機関 (平成27年度 新規採択分)
図2 研究者が所属する研究機関別の採択件数(平成27年度 新規+継続, 上位50機関) (全機関)
図3 研究者が所属する研究機関別の採択件数(平成27年度 新規+継続, 上位50機関) (国立大学)
図4 平成27(2015)年 教員数上位50機関(国立大学)

表1 研究者が所属する研究機関別 採択率 上位30機関(平成27年度 新規採択分)
表2 研究者が所属する研究機関別の採択件数(平成27年度 新規+継続, 上位50機関) (全機関)
表3 研究者が所属する研究機関別の採択件数(平成27年度 新規+継続, 上位50機関) (国立大学)
表4 平成27(2015)年 大学別教員数(職階別・男女別, 国立大学, 教員数順)
表5 平成27(2015)年 大学別教員数(職階別・男女別, 公立大学等, 教員数順)
表6 文部科学省ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ・女性研究者支援事業実施代
表機関

塩満 典子 (著), 北川 慶子 (著)
出版社 : 学文社 (2016/9/2)、出典:出版社HP

ビジュアル図解 科研費のしくみと獲得法がわかる: 応募の方法から、申請書の書き方・仕上げ方まで

科研費を上手に獲得するためのノウハウ本

「どのようにしたら効果的に科研費を獲得できるのか」「説得力のある申請書の書き方は?」本書はこのような様々な疑問に対して、イラストを多く交えてわかりやすく回答してくれます。自身の研究に対する根本的な見方・考え方の見直しから始めることで、効果的に研究資金を獲得できるようになります。

CONTENTS

はじめに/登場人物紹介
Q&A

chapter 1 研究生活について考える
1.1 研究生活と研究資金
1.2 研究者としてのキャリアパスを考える
1.3 自分の研究はどこへ向かうのか
1.4 研究のタイプ分け
1.5 研究の位置づけ
1.6 研究計画をたてるということ
1.7 研究資金を獲得すること
1.8 研究資金を獲得すること
1.9 どんな研究資金を選ぶか
1.10 「よい研究」とは
1.11 研究者の倫理
1.12 コンプライアンス
1.13 安全対策

chapter2 競争的研究資金の目的やしくみをよく知ろう
2.1 そもそも競争的研究資金って、どういう意pなのか?
2.2 競争的研究資金はどのように配分されるのか
2.3 政府の研究資金はいくらあるのか
2.4 研究支援にも目的がある
2.5 資金の費目
2.6 競争的研究資金に応募する

chapter3 科研費の特徴としくみ
3.1 科研費って何だろう
3.2 科研費の支援の目的って?
3.3 科研費には、どんな種類があるの?
3.4 科研費を知る
3.5 審査のしくみ
3.6 科研費の制度
3.7 基金化

chapter4科研費に申請する前に
4.1 応募する前に準備すること①
4.2 応募する前に準備すること②
4.3 応募ルールを確認する
4.4 研究種目や分科・細目を的確に選ぶ
4.5 あきらめずにチャレンジすること

chapter5 研究計画調書作成の実際
5.1 書類の作成には時間をかけて
5.2 「研究計画調書」に書くこと
5.3 審査員をひきつけるタイトルにしよう
5.4 「研究目的」一的確に、単刀直入に
5.5 「研究計画・方法」一欲張らずにポイントを絞る
5.6 「研究業績」 一日ごろからの準備が大事
5.7 「今回の研究計画を実施するに当たっての準備状況び研究成果を社会・国民に発信する方法」−できるかぎりポジティブに
5.8 「人権の保護及び法令等の遵守への対応」−空欄にはしないこと
5.9 研究組織の構成は最適か?
5.10 「研究経費の妥当性・必要性」 −必要性を明確に
5.11 「研究費の応募・受入等の状況・エフォート」−多ければいい?

chainter6 研究計画調書を書き終わったら
6.1 レイアウトを見直そう
6.2 最後まで気を抜かないこと
6.3 Web入力にあたって
6.4 研究計画調書作成のまとめ

channer7 いろいろな競争的研究会
7.1 戦略的創造研究推進事業−「CREST」や「さきがけ」など
7.2 まず国の考え方を知ること
7.3 イノベーションを創出するとは?
7.4 戦略的創造研究推進事業の制度の特徴
7.5 研究を発展させるために
7.6 戦略的創造研究推進事業に応募する
7.7 戦略的創造研究推進事業の3本の柱

chapter 8 おわりに
8.1 研究支援システムを活用しよう
8.2 研究人生は、研究費申請の繰り返し

体驗談
挑戦してよかった若手研究(B)
申請書類を書くのは難しくない若手研究(B)、基盤研究(C)
自分の立ち位置を考える基盤研究(C)
モチベーションを持ち続ける奨励研究
人脈やネットワークを活用する分担研究者として
審査する立場から審査員として
支援する立場から支援者として
わかりやすい文章を書くために編集者として

資料
審査の流れ
科研費の研究種目
審査基準
科研費「系・分野・分科・細目表」
審査結果の開示
国の科学技術政策を知ろう!-科学技術基本計画

コラム
いろいろな道がある/国家課題対応型研究開発推進事業/こんなにある研究助成 /NIHのグラント/研究室の安全対策/盤のための研究資金/研究者に係る要件(平成25年度の場合)/応募前に準備しておくべきこと/科研費のルール/概要の枠を広げることはできません!/書き方を工夫しよう①/書き方を工夫しよう②/自己採点をしてみよう/カルタヘナ法とは?/LaTeXを利用する/もう一度確認を/研究計画調書 提出までのチェックポイント/海外では、研究資金はどう配分される?/イノベーションを生み出した事例 /JSTが支援する研究 /評価の観点

索引

はじめに

研究するのは、大変なことが多いですが、待ち望んだデータがやっと出たり、新しいことをみつけたりすることは、何にも代えがたい喜びです。そんな喜びをまた味わいたくて、実験台に向かう日々が続きます。でも、近年は、ポジションや研究資金を得ることも容易ではなく、苦労している研究者も多いと思います。

かつて、私も大学の研究室に所属し、研究していました。その当時、さまざまな申請書類を書き、公募に応募しましたが思うようにいかず、世の中は なんて不公平なのだと思ったり、自分は研究者には向いていないのかと悲しくなったりしたものです。

今回、この本のお話をいただき、多くの研究者にお話をうかがいました。 そこでわかったことは、自分の研究や研究生活に長期的なビジョンや目的意 識がなければ、研究計画をたてることも資金をとることもできないということです。そして、研究費の目的やしくみを理解することが重要だということです。自分の研究生活を振り返ると、なんていきあたりばったりだったのだ と反省することしきりですし、数々の公募を出しても通らなかった理由がわかったような気がしました。

科研費などの研究資金を獲得するためには、申請書類の書き方を工夫することはもちろん必要ですが、まずは、根本的な研究に対する見方や考え方をかためておくことが大事だと思います。

そこで、この本では、
1.自分の研究生活ついてよく考えること
2.研究費のしくみを理解すること
3,申請書類の書き方を知ること
の三本柱でまとめています。

この本が少しでもみなさんの充実した研究生活のお役にたてればうれしく 思います。
科研費に関する情報は、平成25年度またはそれ以前のものを参考にしています。実際に応募される際は、必ず最新の情報を確認してください。

2013年6月
著者

登場人物

由香さん
某大学の助教。学位を取得後、ポスドクをしていたが、晴れて助教となる。研究に、教育にと意欲に燃える若手研究者。

教授
由香さんの指導教官でもあった。研究室のボスとしてみんなを率いている。

森山さん
由香さんの先露。大学を卒業後、企業に就職し、研究者となる。大学には共同研究者としてひんぱんに来ている。頼りになる兄貴分。

科研費獲得の方法とコツ 改訂第7版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略

最新のノウハウがわかる

2020年春に採択された申請書を掲載しているので、採択される申請書の書き方のコツや共通要素が分かります。研究遂行能力、学術変革領域、重複応募になどの最新情報がわかる、2021年にまで対応している最新版です。申請書の書き方を中心に、応募戦略、採択・不採択後のノウハウを学べます。

【注意事項】

本書の情報について
本書に記載されている内容は,発行時点における最新の情報に基づき,正確を期するよう,執筆者監修・編者ならびに出版社はそれぞれ最善の努力を払っております.しかし科学・医学・医療の進歩により,定義や概合,技術の操作方法や診速の方針が変更となり,本書をご使用になる時点においては記載された内容が正確かつ完全ではなくなる場合がございます.また,本書に記載されている企業名や商品名,URL等の情報が予告なく変更される場合もございますのでご了承ください.

第7版のはじめに

令和の時代になって初めての科研費審査の結果が先日発表された.世の中は新型コロナウイルス感染症流行の真っただ中だが科研費審査の発表は予定通り行われた.研究者にとっては毎年非責こもごもの恒例行事である.みなさんの結果はどうだったであろうか?またこの本の旧版を使っていただいた方の結果はどうだったであろうか?

本書はここに第7版を発行することになった平成28年度から順次行われていた性城質改単が一段落し,本書は第7版として新しい制度の変更点や新しい申請書のフォーマットをすべて含んだ内容に全面的に改訂した.特に令和元年度(2019年度)の申請書から,これまでの「研究業績」のリストが「応募者の研究遂行能力及び研究環境」に変更されたことが画期的な変更点で,もちろん今回の第7版ではそれに対応したものに改訂した.もちろん今後も科研費制度にはさまざまな変更や修正が行われるであろうが,基本的な考え方はいつも同じであるので,その点はどの版にもきちんと書いてある.申請書作成において重要なことは,明確な研究目的とそれを実現するための具体的な研究方法を書くということである.本書では常にこの点を重点的に解説してきた.

この数年の科研費申請の変化として,Web入力が増えたことがあげられる.申請者情報や研究費の使い方,研究分担者の承認などがWeb入力で簡単になった.また審査委員には申請者の業績などを調べるためにresearchmapの活用が推奨されており,今後さらにネットを介したさまざまな情報が審査に活用されるようになるのだろう.

科研費の予算拡充や制度改革によって,採択件数および採択率はかなり上昇した,若手研究における採択率40%というのは,とても高い率である.自分が若手のときにこうだったら,どれほどよかったことだろう.しかし,残念ながらというか,一部の配分額の大きい種目を除いて,現在の科研費の配分額では最先端の研究を行うには不十分である.特に実験系の研究者にとって高額な試薬やキットを買うには,場合によっては年間の研究予算額の1割が必要になることも起こりうる.また外部に委託して研究を進める機会も増えた.研究にはお金が必要である.国もわかってはいるのだろうが,予算が限られている現状では致し方がない.

毎年,採択の時期になると,何人かの方から本書のおかげで採択されたとのメールが届く,苦労して本書を書いてきてよかったと思える瞬間だ.本書がこれまで以上に研究者のお役に立てるように願っている.

令和2年7月吉日
久留米大学分子生命科学研究所にて
児島将康

初版のはじめに

この本は研究費のなかでも,科学研究費補助金(以下,科研費)を獲得するための申請書の作成方法について,具体的なテクニックをわかりやすく紹介したものだ.

毎年9月になると次年度の科研費の申請が始まる.いうまでもなく科研費は研究費の基礎として非常に重要だ.科研費に採択されるか採択されないかは,研究計画やキャリアに大きな影響を与える.ところが科研費の採択率は現在では約20~25%であり,4~5人に1人しか採択されない狭き門であり,採択されない人の方が圧倒的に多い,科研費にはぜひ採択されたいと誰もが思うが,世の中には「科研費を獲得できる申請書の書き方」などのガイドブックがありそうだが,これまでにお目にかかったことがない,各個人,各講座でのテクニックがあり,それはほとんど門外不出になっている.毎年春になって,その年度の科研費の審査結果が発表されると,毎回のようによく採択される人がどの大学にも研究所にも必ずいる.彼(彼女)らはいったいどのような申請書を作っているのだろう?

そういった疑問をもったのがきっかけで,個人的にいろいろ調べた結果をもとにして,この本を書いた,いろいろな研究者の科研費申請書をチャンスがあればコピーさせてもらったり,久留米大学で保管されている過去の申請書を,無理をいって読ませてもらったりした.さらに科研費を審査する側の経験も積んで,他大学の研究者の申請書もたくさん読んだ,またラボ内の若手やスタッフ,知り合いの研究者などから相談を受けて,申請書作成の手伝いもした.このような経験からいうと,絶対に採択されるという申請書はないが,(多分)絶対に採択されない申請書はある.「科研費に採択されるのは宝くじに当たるようなものだ」「コネがないと採択されない」などと聞いたこともあるが,しかし,そんなことはない!「科研費の審査はきわめてフェアなもので,しっかりと準備をしてよい申請書で応募すると,結構採択されるものだ.しかも宝くじよりもずっと当たる確率が高い.

若手研究者に「科研費の申請書の書き方は,どこで習ったか?」と聞くと,まずほとんどの者が「ラボの先輩が作成しているのを見よう見まねで作成している」と答えるだろう.私もそうだった.実物の申請書は作成した個人がコピーを保管しているだけで,見せて欲しいと頼まないと,見る機会などなかった.私のラボでは毎年の申請書を全員の分をコピーして保存してあり,誰でもいつでも見ることができる,もちろん採択されたものも不採択のものも全部資料としておいてある.これらの資料は,これから申請書を書こうとする者に,非常に役に立っていると信じている.なんといっても実物の申請書に勝る見本はない.そこで,この本では恥ずかしながら私の実物の申請書を見本として付けているし,本文中に出てくる例はすべて実物がもとになっている.ただし,内容は最新のものではなく,2~3年以上前の申請書のものを使っている.

第1章では,科研費とはどのようなものか,現状分析,科研費の種類,審査のしくみ,申請から採択までの流れなどについて紹介している.

第2章では申請にあたっての準備について書いてある.応募種目や応募分野の選び方や,どのような課題が採択されているかや,過去の審査委員についての調べ方を紹介してある.

第3章がこの本の中心部分で,実際の申請書の書き方をできるだけ実物の見本を示しながら解説してある.申請書の各項目ごとにポイントを書いて,どのように書けばよいかアドバイスしている.

第4章は書き上げた申請書をさらに読みやすくするための工夫について紹介している.また,わかっているようでやってみると結構戸惑う電子申請の仕方について順を追って説明した.

第5章は採択・不採択のときにどうすればよいかについて説明した.

この本に例としてあげた申請書は,久留米大学分子生命科学研究所のメンバーによる実物で,快く提供してくれたみんなに感謝している,また悪い例としたにもかかわらず,資料を提供してくれたメンバーには特に感謝しているまた佐藤貴弘くん佐藤浩くん,前原佳代子さん,高山優子さんの4名には「初めての科研費」として経験談をコラムにまとめてもらった.久留米大学研究推進課の梶原克彦さん,川辺貴光さん,村上郁磨さんと久留米大学分子生命科学研究所事務室の土岐陽子さんには,科研費の資料を快くみせてもらって感謝している.また羊土社の吉田雅博さん,富塚達也さんには「実験医学」連載時からお世話になった.吉田さん,冨塚さんなしにはこの本は完成できなかった.

この本が少しでもみなさんのお役に立って,1人でも多くの方に「科研費に採択された」と喜んでもらえるようにと願っている.

2010年7月
久留米大学分子生命科学研究所にて
児島将康

CONTENTS

科研費 獲得の方法とコツ 改訂第7版

第7版のはじめに
初版のはじめに
本書をよりご活用いただくために
「赤ペン添削HB2」アイコンについて/研究種目別「申請書の構成案」について/「速報」コーナーについて

書き込んで使おう!科研費申請To Do & Checkリスト
日本の研究費一覧

1章 科研費の概略
1. 科研費とは?
科研費の情報を得るには/科研費に応募する前にやるべきこと/直接経費と間接経費:2つの研究費
2. 科研費の種類—科研費にはどのような種目がある?
科研費の種目体系のイメージ/基盤研究と若手研究/PIとして独立した若手研究者のための新種目「若手研究」における独立基盤形成支援」/挑戦的研究/研究活動スタート支援/新学術領域研究(学術変革領域研究に発展的解消予定)の公募研究/学術変革領域研究/国際共同研究加速基金
3. 審査区分の種類
4. 審査のしくみ
2段階書面審査/総合審査/基盤研究と若手研究の審査/挑戦的研究の審査/その他の関連措置について
5. 申請から採択まで
公募の開始と準備/申請書の締め切り/第1段審査/第2段審査のスケジュール/交付決定
6. 科研費の現状について—令和元年度のデータより
科研費の予算額/新規応募件数の変化/新規採択件数,採択率の変化/研究費の配分額の変化/令和元年度の新規採択+継続分の配分状況/今和元年度の科研費の状況のまとめ
7. 科研費の基金化,調整金,合算使用
科研費の基金化/基金化の具体的なしくみ/調整金によって基金化されていない種目も使いやすくなった/科研費等の合算使用による共用設備の購入/今後への期待
8. 科研費に関する資料
科研費に関するウェブサイト/科研費に関する書籍/その他,役に立つ資料
9. 他の省庁・民間組織が公募する研究費
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)/省庁関連の国立研究開発法人の研究費/民間の研究費

コラム ○初めての科研費(Aくんの場合) ○若手研究の変更 ○審査した申請書の採択状況 ○初めての科研費(K教授の場合) ○科研費若手支援プラン(CIO)への期待 ○研究費はいくら必要か? ○初めての科研費(Bくんの場合) ○初めての科研費(Cくんの場合) ○各国の研究費事情:科研費と比べてどうなのか? ○社会科学系分野のTさんの科研費獲得への道

2章 科研費応募の戦略
1. 応募種目の選び方
基盤研究への応募/若手研究への応募/挑戦的研究(開拓・萌芽)への応募/学術変革領域研究(新学術領域研究)への応募/研究活動スタート支援/複数の種目への応募/日本学術振興会特別研究員の科研費への応募
2. 審査区分の選び方
審査区分を選ぶ際の注意点/データベースを使って最適な審査区分を選ぼう/細目で異なる採択件数,採択率は30%前後/異分野への応募
3. 採択課題の調査—審査区分を選ぶにあたって①
4. 審査委員は誰?—審査区分を選ぶにあたって②
5. 研究パートナー(共同研究者)の選び方
研究分担者,研究協力者/共同研究者の人選の採択への影響
6. 科研費申請のアイデアのまとめ方
ノートに書く/Post itを使う/マインドマップでまとめる/3つずつアイデアを出す—初心者におすすめの方法

コラム ○その後の科研費(K教授の場合) ○審査委員は知り合いだと有利なのだろうか?○アイデアのつくり方 ○K大学科研費事務担当者の奮闘記

3章 申請書の書き方
1. 申請書を書く前の注意点
まず申請書を入手しよう/最初はワープロソフトで下書きを/申請書(研究計画調書)の構成/どこから書いていけばいいのか一概要は一番最後に/申請書は審査委員のために書く一知り合いの研究者に向けて書くつもりで/申請書に求められるわかりやすさ/わかりやすい申請書にするためには/具体的に書くために
2. 研究課題名
課題名を読むだけで,研究計画がわかるようなものにする/課題名は簡潔で短いものでも,逆に長いものでもよい/専門的・マニアックな語句は避けて,一般的なキーワードを使う/その他,課題名を考えるときのアイデア
3. 研究目的,研究方法など
「概要」と(1)~(3)の分量について/「概要」—冒頭に研究計画全体の概要を書く/「概要」に書くべきこと/「概要」の例とその直し方/申請書を読みやすく理解しやすいものにするちょっとした工夫/「本研究の学術的背景,研究課題の核心をなす学術的「問い」の書き方/「本研究の目的および学術的独自性と創造性」の書き方
4. 『研究目的,研究方法など』欄の「本研究で何をどのように,どこまで明らかにしようとするのか」
「本研究で何をどのように,どこまで明らかにしようとするのか」の書き方/研究計画・方法を書くときの注意事項/研究計画・方法を具体的にするための方法
5. 本研究の着想に至った経緯など
「本研究の着想に至った経緯」/準備状況/関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
6. 応募者の研究遂行能力及び研究環境
「(1)これまでの研究活動」をどのように書けばいいのか/researchmapについて「(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)」をどのように書けばいいのか/文献入力のための便利なヒント
7. 人権の保護及び法令等の遵守への対応
8. 研究計画最終年度前年度の応募
9. 研究経費とその必要性
研究経費の明細/研究経費の必要性
10. 研究費の応募・受入等の状況
「研究費の応募・受入等の状況」記載時の注意事項/エフォートとは/エフォート採択への影響
11. 挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について
挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書の構成/挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書の書き方/「研究計画調書の概要」(概要版)と「研究目的及び研究方法,応募者の研究遂行能力」/「挑戦的研究としての意義」/実現可能性の示し方
12. 日本学術振興会特別研究員の申請書について
申請書の書き方/「現在までの研究状況」/「これからの研究計画」/「研究遂行能力」/「研究者を志望する動機,目指す研究者像,アピールポイント等」「申請者に関する評価書」

コラム ○よい申請書とは ○審査委員はあなたの申請書を何分見るか? ○どんな申請書が印象に残るか? ○初めての科研費(Dくんの場合) ○初めての(Eさんの場合) ○ある研究室秘書の「ひとりごと」 ○審査委員経験者から書に対するアドバイス

4章 申請書の仕上げと電子申請
1. 申請書の見栄え
フォントの種類と大きさ/余白を生かす/箇条書きや小見出しを使う/文字を強調する/難しい単語を避ける/漢字,英語,カタカナを適切な割合に
2. 図の挿入
図の注意点/申請書へ図を入れる方法/申請書をPDFファイルに変換する方法
3. 電子申請の実際
電子申請前の準備/アクセスから提出まで/各項目の入力/応募ファイルのアップロード
4. 最後のチェック
チェック用の申請書をダウンロードする/チェックするポイント/訂正箇所に気づいたときはどうしたらよいのか?

コラム ○審査委員がうんざりする申請書 ○初めての科研費(Fさんの場合) ○科研費今昔物語 ○科研費を獲得した後に ○科研費はノーベル賞に必要か? ○元学振職員が語る困った研究者

15章 採択と不採択
1. 採択されたとき
採択の通知(交付内定)/採択後の手続き/論文を発表したときには謝辞を忘れずに
2. 不採択のとき一採択されなかったら,どうする?
不採択の通知/もし採択されなかったら
3. 次回の応募に向けての準備
4. 科研費以外の研究費への応募の可能性
通常の募集期間以外に公募される科研費/他省庁の研究費/民間の研究助成の応募時期/クラウドファンディング/その他:オープンイノベーション

コラム 初めての科研費(Gくんの場合) ○科研費がなくても生き延びる方法 ○科研費に採択されるための最良の方法 ○C村くんの三度の学振特別研究員への挑戦 ○大物研究者はどのように科研費をもらってきたのか?

そこが知りたい!科研費なるほどQ&A
実際に採択された申請書①基盤研究(C)の例
実際に採択された申請書②挑戦的研究(萌芽)の例
索引

本書をよりご活用いただくために

■「赤ペン添削HB2」アイコンについて

“申請書の書き方”に特化し,実例を多く盛り込んだ「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック第2版」(児島将康/著)が,本書の姉妹書として発行されています(詳細は巻末の広告ページを参照).そこで本書の3章,4章に右図のようなアイコンを加えて,この姉妹書の参照箇所を示しました.よろしければ併せてご活用ください.

■研究種目別「申請書の構成案」について

研究種目ごとに申請書の様式が微妙に異なるため,何をどんな分量で書いたらよいか迷うことがあるという声をいただきます.そこで,第7版から各研究種目の申請書に対して,どんなことをどんな割合で書いていくとよいのか,その目安を児島先生にご紹介いただきます.羊土社HPで公開予定ですので,ぜひご活用ください.

■「速報」コーナーについて

科研費の制度は,審査の区分やしくみが変わったり,研究計画調書(申請書)の構成が変更になったりと,常に変化を続けています.次々と更新される制度に対応するため,第7版でも,本書の発行後に発表される科研費の最新かつ重要な情報を「速報」として児島先生にフォローしていただきます.
具体的には羊土社HPにて,下図のようにご解説いただく予定です.研究者が知っておくべき科研費情報を随時ご紹介いただきますので,ぜひご活用ください.

科研費の「速報」「申請書の構成案」は以下URLよりご覧ください.
www.yodosha.co.jp/kakenhi

書き込んで使おう! 科研費申請To Do & Checkリスト
To Do & Checkリストでは,応募を思いたってから採択・不採択後までを含めてやるべきこと,申請書作成の際に気をつけるべきポイントをまとめていただきました.やるべきことが増えた場合に後から自分で追加できるよう,空白の行も設けています.また,取り組むべき時期のおおよその目安を「理想」として示していただきました.「予定」「実際」の欄と併せてスケジュール管理,進行のペース配分にご活用ください.
(羊土社 編集部)

いかにして研究費を獲得するか 採択される申請書の書き方

目からウロコの内容が満載

本書は、アメリカの二人の学者が書いた本を和訳したものです。そのため、競争的研究資金を獲得するための申請書作成のノウハウが、よりグローバルな視点から述べられています。本書を通して、研究者たちは自身の研究の質と、それを実施できる能力を効果的に伝える方法を学ぶことができます。

Gerard M. Crawley (著), Eoin O’Sullivan (著), 尾崎 幸洋 (監修), 櫻井 香織 (翻訳)
出版社 : 化学同人 (2017/4/7)、出典:出版社HP

The Grant Writer’s Handbook
How to Write a Research Proposal and Succeed

Gerard M Crawley (University of South Carolina, USA) &
Eoin O’Sullivan (University of Cambridge, UK)

Copyright © 2016 by Imperial College Press
All rights reserved. This book, or parts thereof, may not be reproduced in any form or by any means.
electronic or mechanical, including photocopying, recording or any information storage and retrievdi
system now known or to be invented, without written permission from the Publisher
Japanese translation right Hs arranged with Imperial College Press, United Amu
through Japan UNI Agency, Inc., Tokyo

序文

William C. Harris
(Science Foundation Ireland 創設理事長)

「知識集約型」経済が確立している国であれ,多くの新興国であれ,世界中で研究と高等教育への投資は急増しています。国際的競争力のある研究およびイノベーション体制を構築するための要はピアレビュー,つまり独立した専門家による審査に基づく研究助成事業の確立です。研究者は自らの研究の質とそれを実施できる能力の両方を,レビュワーに効果的に伝える方法を学ぶ必要があります。また、新たな研究投資の原動力の一部は経済における生産性の向上と経済成長を刺激する政策によるものなので、研究者は自らの研究がもつ価値について、産業や経済への波及効果という点でますます説明を求められるでしょう。

研究を社会(国の安全保障,医療の進歩,新企業,雇用)に結びつけることは、Vannevar Bush の1945年の報告書,“Science -The Endless Frontier” の根本でした。その報告書はいまもあらゆる国において、経済の安定と国家安全保障に政府機関が投資する根拠として最も強力で有効とされています. Bush 報告はScience Foundation Ireland(SFI)の創設の枠組みともなっています.その初期投資の一つとして、この財団が戦略的優先領域としていたバイオテクノロジー(BIO)と情報通信技術(ICT)以外の領域で重要なアイデアを支援する研究フロンティア計画が策定されたことを、ぜひ知っておいていただきたいと思います。Bush報告のなかの「フロンティア」という言葉を借りて計画名がつきました。

ここで強調したいのは,本書『いかにして研究費を獲得するか」の著者らがSFIの設立に重要な役割を果たし,21世紀の研究助成組織に欠かせない。的なピアレビュー制度の構築を助けてきたことです。著者らの経験とそのたんで直に得てきた知識とユーモアが本書のそこかしこに織り込まれています。現代の諸国にとってこれほど重要な意味をもつ論説を楽しく読めることはめったにないでしょう。実際のところ,このCrawleyとO’sullivanの著書は “Science — The Endless Frontier,” the US National Science Foundation (NSF), SFI, そして the European Research Council にルーツがある研究助成プロセスの進化の経緯を表しています。本書は,競争的研究資金の交付を受けているトップクラスの研究者くらいしか理解していそうにないたいへん重要な話題を身近なものにしています。また本書は,「研究費獲得の必須事項を理解したい」,「無駄と機会の損失は絶対避けたい」という断固たる考えをもっている若手研究者や各国政府の政策立案者にとってもおもしろい必読書です.国としては、ロースキルローコストの生産活動を,高度な研究能力とイノベーション能力を必要とする知識集約度の高い活動へと移行させるにはどうすればよいのでしょうか、世界に通用する教育制度を目指すことへの投資は間違いなく必須です。また国内で競争力のある質の高い研究を奨励するとともに,研究者と国内外の企業との相互作用を促進し、国家のイノベーション能力を向上させる必要があります。国際的な企業にとって、優れた教育制度と生産的な研究コミュニティをもっている国はたいへん魅力的です。さらに、その国のビジネスにコスト競争力があれば一層魅力が増します。

世界は過去20年間に大きく様変わりしましたが,慧眼なリーダーは、高度な技術のいらない製造業中心の国から、時代の最先端の仕事と高収入の雇用のある国への変革と成長を実現できます。アイルランドは、その変革の歴史と規模,さらには変革を成功させたことを考えると、いまもなお変革の実現方法を理解するのに理想的な事例だといえるでしょう。つまり、ほどよい大きさの国であるアイルランドは、何が必須で何がうまくいくかを理解しやすく、しかも、適度に複雑で、もっと大きな国が学ぶのにも適しているのです.SFIを設立し→2001年当時,取り組むべきことの大きさと必要とされる文化的変容を考えると、この改革にはおそらく10年はかかるだろう,と私たちは政府に進言しました。SFIに全力を注いで10年経った2011年,アイルランドはIBM研究センターの本拠地になりました。SFIとアイルランドは,戦略的な重点を設定することがいかに重要であるか,強力な研究助成制度からどう経済的価値をうみだすかに関する「ケーススタディ」となりますが,本書の各章に書かれている内容を吟味することも必要でしょう(6章,7章など).

知識集約度の高い経済にうまく移行できた国のなかには,国内で行われる研究の質を改善したところがあります.しかし,これには大学の機能のしかたを変革することが,少なくとも工学・科学の分野で必要でした。真の業績評価指標と真のパートナーシップに対する新たなアプローチが不可欠でした.研究への投資は、研究と高等教育を理解し,しかも産業界に信頼されている専門家によって細心の注意を払って管理されなければなりません、うまく機能する産学連携を確立し、経済の発展を促すためには、SFIのような独立した機関が絶対に必要です。つまり、各関係者を評価し,各関係者が結果に責任をもち,誇大宣伝をしないようにするには,仲介組織が欠かせません。

著者らは、ピアレビューで審査される競争的研究資金を申請しようとする研究者のために必読の「ハウツー」本を提供することに成功しました.本書には,競争の激しいピアレビューの伝統をもつ国と,これからそのプロセスが始まろうとしている国の両方で、著者ら自身が審査を行い,とりまとめた経験が活かされています.また,各国の研究者仲間が鋭い見識とアドバイスをわかち合う形で本書に協力しています。優れた成功事例,よくある失敗例,レビュワーのコメントも多数収められているので著者らが指摘しているポイントがわかりやすくなっています。

本書は駆けだしの研究者にとって何より価値のある本です。しかし国外のレビュワーによるピアレビューをあまり経験したことがない場合には少し経験を積んだ研究者や技術者にとっても,とくに有用でしょう.本書の主眼は科学技術分野の助成金の申請にありますが,本書の貴重な内容はほかのさまざまな分野にも通じるでしょう.
もう一つ指摘しておきたいことがあります。本書は,採択される助成金申請書の書き方ガイドであると同時に,研究をうまく遂行するためのベストプラクティス,すなわち最良の実践方法についても貴重なアドバイスをたくさん含んでいます。人の管理,予算の管理,定期的なコミュニケーションの奨励,研究分野の進歩に常に明るい状態でいること,学際的な研究活動に対してオープンな態度でいることなどについてのアドバイスがあります。申請書の作成準備についての章はどれも,若手研究者が(おそらくちょっと先輩の研究者も)これから優れた科学研究を実践し続けていく参考となるでしょう.

本書は、これから研究助成のための組織を設立する国の研究機関の職員にも役立つはずです。ピアレビュー審査をとりまとめた経験に乏しいこういった研究機関の職員の多くは、本書に収められた深い見識の恩恵を受けるでしょう.そしてこれが大切なのですが、早い段階でかなりのキャリアを積んだ経験者を同僚として巻き込むことで、つまずかずに済むでしょう。

本書は、所属する研究者に研究助成機関への申請書の提出を奨励する責任がある大学や研究機関の運営管理者にも役立つでしょう.助成機関がいま、国外のレビュワーを用いる競争的ビアレビュー審査のプロセスを採用しようとしている場合にはとくにそうでしょう。また、21世紀に大学のシステムを一段と競争力の高いものに移行させることや、国の発展のためにはどういう仕事のしかたを新たにしていけばいいのかを真剣に考えている国家政策の立案者にとっても、本書は必読書になるはずです。本書は、いままさに求められている待望の書です。

Gerard M. Crawley (著), Eoin O’Sullivan (著), 尾崎 幸洋 (監修), 櫻井 香織 (翻訳)
出版社 : 化学同人 (2017/4/7)、出典:出版社HP

謝辞

本書の執筆にあたり,レビュワーとして,助成金応募書類の書き手として,あるいはその両方として,30分を超えるインタビューに快く応じてご経験を語って下さった方がた,各章の原稿に目を通してご意見をくださった方がた,ご自身の申請書の一部使用や,実際の審査結果を一部変更した事例の使用を許諾してくださった方がたに深く感謝申し上げます.
ご多忙な中で公私にわたり協力していただいた方がたは次の通りです(アルファベット順,敬称略).
Kamal Abdali(計算機科学), Swann Adams(公衆衛生), Claudia Benitez-Nelson(海洋科学), Frank Berger(生物学・医 学), Anthony Boccanfuso(化学), James Burch(公衆衛生・疫学), Ronan Daly(ナノテ クノロジー), Michael Felder (遺伝学), Joseph Finck(物理学), Stephaine Frimer(教育), Frank Gannon(生物学), Giorgia Giardina(工学), Charles Glashausser(物理学), Bill Harris(化学), Thomas Healy(化学), James Hebert(公衆衛生・疫学), Richard Hirsh(計算機科学), Rory Jordan(物理 学), Ohad Kammar(計算機科学), James Kellogg(地質科学), Mary Kelly (生物学), Peter Kennedy(工学), Scott Little(化学), Graham Love(生 物学), Aisling McEvoy(材料科学), Timothy Mousseau(環境科学),尾崎 幸洋(化学), Daniel Reger(化学), Roger Sawyer(生物学), Shirley Scott (教育・人文科学), Susan Steck(公衆衛生学), Marko Tainio(疫学・環 境衛生学), Michael Thoennessen(物理学), Vicki Vance(遺伝学), Alan Waldman(生物学), Ken Wilson(経済学), Jennifer Yip(公衆衛生学).
家族の協力と助言にも助けられました。みんな、ありがとう

監訳者序文

本書の著者の一人であるGerard M. Crawley博士は、アメリカ物理学会の核物理学部門のchairも務めた著名な学者である。エネルギーも彼の重要な研究テーマで、“World Scientific Handbook of Energy” (World Scientific Publishing Company, 2013)などの著書もある. Crawley博士は物理学者として研究の第一線に立ちながら,長年,科学技術行政に関わってきた。たとえば本国のアメリカではNational Science Foundation(NSF)の物理部門の責任者 Director of the Physics Division や核物理プログラムのプログラムオ フィサーなどを務めた。またアイルランドでは the Director of the Frontiers Engineering and Science Directorate of Science Foundation Irelandを務め,アイルランドの科学技術の発展に大きく貢献している。さらにアラブ首長国やカザフスタンでもそれぞれの国の科学技術政策のアドバイザーとして活躍した。どこの国にも目を向ける非常な国際人であると同時に優しい人柄のもち主である。

私が同博士と知り合ったのは、ともにカザフスタンの科学技術の評価委員を「務めたときである。彼の強いリーダーシップと科学技術の発展に関するさまざまな卓見と熱意には強く心を打たれた、その後も同博士との交誼は続いているが、3年ほど前に「研究費の獲得に関する本を書くので、手伝ってほしい」といわれた、私の仕事はすべての原稿に目を通してコメントを与えること,日本の研究費獲得に関する状況について情報を伝えることであった。正直これはたいへんな仕事を任されたと思ったが、いざ読み始めると本当におもしろく,しかも新鮮でほとんど一気に読んでしまった。まさに“目から鱗”の本である。

日本にもこのような本があればと思っていた矢先に、化学同人から翻訳しなかとみちかけられた知人の翻訳家でもある櫻井香織さんに相談したとこる彼女の協力が得られるとわかり引き受けることにした。櫻井さんがまず原著を訳し,それを私が監修するというやり方で仕事が始まった.その結果でき上がったのが本書である。
この本は題名通り,まさに「いかにして研究費を獲得するか」についておもしろくわかりやすく書かれた本である。いわゆるハウツー本であるが,それをはるかに超えた幅広い研究推進に関する指南書である.研究費の申請書の書き方だけでなく,研究のアイデアの発想のしかた,研究をうまく遂行する「ベストプラクティス(最良の実践のしかた)」,予算の使い方に至るまで,詳しく丁寧に書かれている。申請者を悩ますさまざまなことがら,たとえば申請書の要約や序論,研究計画の書き方から,いかにして申請書を推敲するか,共同研究の立ち上げ方予算の立て方に至るまで,隅々まで詳しく書かれている。また申請書のレビュワー(評価者)の心理をどうとらえるか,研究グループ内をどのようにまとめていくかなどについて深い経験に基づいて書かれており,心理学書を読むようなおもしろさもある。各所に著者らの長い経験が生かされており、また世界中の研究者仲間の協力を得て,彼らから達見と助言を集めている。ずばりレビュワーの生のコメントがふんだんに収められているのもおもしろい、各章のはじめに書かれている格言は至極のものばかりである。たとえ It, “Good writing is bad writing that was rewritten” (Marc Raibert) – 良い文章は拙い文章を書き換えたものである、などは実に名言である.また風刺のきいたイラストも十分に楽しませてくれる.
本書は若手の研究者にとってきわめて価値のある本であるが,若手ばかりでなく,もう少し経験を積んだ科学者や技術者,さらにはベテランにとっても役に立つ本である。私も本書を読んでいて、なるほどと何度も感心させられた.本書は研究者だけでなく,研究費を配分する国や民間団体の職員,大学や研究機関の運営管理者,職員にも役立つはずである。さらにグローバル化のなか,「読者が海外の助成金制度について学ぶ機会も与えてくれる。なお日本と海外の研究費申請制度には異なる部分もあるので,適宜訳注を入れた。本書は幅広い読者に読まれるべき待望の書である。

本書を出版するにあたり、お世話になった化学同人の浅井歩さん,岩井香容さんにお礼申し上げます.

2017年2月
監記者 尾崎幸洋

Gerard M. Crawley (著), Eoin O’Sullivan (著), 尾崎 幸洋 (監修), 櫻井 香織 (翻訳)
出版社 : 化学同人 (2017/4/7)、出典:出版社HP

目次

序文
謝辞
監訳者序文
Chapter 1 はじめに
Chapter 2 研究のアイデア
Chapter 3 審査のプロセス
Chapter 4 申請書の下書き
Chapter 5 申請書の推敲
Chapter 6 パートナーシップ
Chapter 7 研究のインパクト
Chapter 8 引用,盗用,知的財産
Chapter 9 予算
Chapter 10 レビュワーのコメントへの対応
Chapter 11 特別な助成金の選考
Chapter 12 研究助成金の管理

参考文献
結び
索引

補遺 1,2は、小社ホームページに掲載しています。
→ http://www.kagakudojin.co.jp

Gerard M. Crawley (著), Eoin O’Sullivan (著), 尾崎 幸洋 (監修), 櫻井 香織 (翻訳)
出版社 : 化学同人 (2017/4/7)、出典:出版社HP

できる研究者の科研費・学振申請書 採択される技術とコツ (KS科学一般書)

人気サイトの書籍化

研究者人気サイトである「科研費.com」の内容を切り口・構成を変えて書籍化したものです。著者が添削した申請書の実例をもとに、文例やロジック、ありがちな間違いなど豊富に掲載されています。また、チェックリストやテンプレート等の支援ツールがあるため、短時間の申請書作成にも役立ちます。

CONTENTS

第1章 はじめに

第2章 書く前に
2.1 なぜ書くのか
2.2 書く際の心得
2.3 うまいと得する申請書
2.4 何を研究するか
ポイント! → 研究対象の深い理解に近道はない

第3章 何を書くのか
3.1 何を書くのか
ポイント!→何を書くべきかをキチンと理解しよう
Column喩え話の錯覚
3.2 研究課題
3.3 背景,
3.3.1 研究テーマを含む一般的な背景
ポイント! 背景を書くときは砂時計をイメージする。
ポイント! 読み手を置いてけぼりにしない
3.3.2 研究テーマに特化した背景
テクニック文献の引用方法
ポイント!ト「だから何?」に対する回答を用意する
3.4 なぜ今その研究なのか
3.4A.1 何が問題なのか
テクニック!解決できそうなものだけを問題点として提示する
3.4A.2 なぜその問題は未解決のまま放置されていたのか
ポイント!「なぜ未解決だったのか」の理由付けは、よく考えて
3.4A.3 その未解決問題でどのような弊害が起きているのか
テクニック!「研究課題の核心をなす学術的『問い』」の書き方
3.4B.1 どういう視点が欠けていたのか、何が可能になったのか
3.4B.2 新たな価値の提案.
ポイント! 実現可能性は FeasibilityではなくPossibilityを前面に出す
3.4B.3 なぜ今その研究なのか
3.5 解決のアイデア・研究目的・研究計画.
3.5.1 研究のアイデア
ポイント! 研究のアイデアこそオリジナリティの源泉である
テクニック!新しいアイデアの生み出し方
3.5.2 その方法がうまくいくと考える根拠
テクニック!研究の特色・独創的な点の書き方・考え方
テクニック!未発表データは有効に使おう
3.5.3 具体的に何を明らかにするのか
3.5.4 何をどのように行うのか
3.5.5 どうなれば解決できたと言えるのか。
テクニックと強調するところを間違えない
テクニック!うまくいかない場合も想定する
Column 仮説の生成と仮説の証明
Column事前仮説を持つ
3.5.6 研究を実行できると考える根拠
3.6 何がわかるのか
3.6.1 どういう立場から何をどうするのか
3.6.2 他の分野にどのような影響を与えるのか
ポイント!「他の研究にも利用可能である」の幅は広い

第4章どう書くのか、
4.1 どう書けば読み手に伝わるのか
4.2 読みやすく一正しい日本語で審査員のストレスをなくす
4.2.1 英語・カタカナ語・漢語・略語・造語を乱用しない
4.2.2 1文が長すぎない、短すぎない
4.2.3 括弧による強調や補足を多用しない
4.2.4 修飾の順序、句読点の打ち
4.2.5 省略可能な言葉・文字がないか気をつける
4.2.6 書き言葉と話し言葉の違いを意識する。稚拙な表現を控える
チクニック!ら抜き言葉の見分け方
4.2.7 適切な漢字・ひらがなを使用する
ポイント!ひらがなの連続はやっかい。漢字の連続もやっかい
Column公用文書独特の表現
4.2.8 比較・並列は表現を対応させる
4.2.9日本語を正しく使う
4.2.10 無駄にへりくだらないこと、大げさでないこと
4.3 わかりやすく一論理的かつ説得力を持って説明する
4.3.1 シンプルに伝える
4.3.2 専門用語はわかりやすく
ポイントレンデルブリュックの教え
4.3.3 抽象的でないこと(具体的であること)
テクニック!具体的には、
4.3.4 なぜこの研究を行うのか
4.3.5 言い切る、言い方を考える
4.3.6 否定表現は肯定表現に変える
4.3.7 強調はほどほどに、意味を持たせる
4.3.8 内容の連続性を意識する
4.3.9 接続詞を適切に使う.
4.3.10 審査員を意識し、読み手に優しい文章を心がける
4.4 美しく一細部にまでこだわり、無意識に働きかける
4.4.1 揃える
4.4.2 余白
4.4.3 文字位置の微調整
4.4.4 フォント
4.4.5 大見出し、小見出し
4.4.6 図表の体裁
4.4.7 イラストの描き方
4.5 推敲や見直しでより良い申請書にする。
ポイント! 漢字・かな比
Column おすすめ書籍

第5章 申請書のヒント
5.1 オズボーンのチェックリスト
5.2 学振および科研費申請書などを公開しているサイト検索の仕方
ポイント!自分が納得できるところを参考にしよう
5.3データベースの利用
5.4 そこそこテンプレート。
テクニック!「これまでの研究の背景・問題点・解決方策」の別例
テクニック!研究の特色・独創的な点に何を書くか。
テクニック!前向きに書く
5.5 粒度の粗いそこそこテンプレート
5.6 科研費.comのチェックリスト

第6章 おわりに、
独り言

本等に記載されている会社名、製品名、サービス名などは、一般に各社の商標または登録商標です。 本文中でのマーク、 10マーク、ドルマークは省略しております。 URLなどは、2019年6月1日現在のものです。

第1章 はじめに

本書は 2016年4月から公開している科附貸.com (https://科研費.com/)を元に加筆・修正したものです。かつては余裕が有り、じっくりと研究に取り組める時代だったのでしょうが、現在は定員削減・競争的資金・ステージゲート・任期・校務・…….と限られた時間の中で実験をしつつ、研究を獲得し、職を探し、さらにその他の仕事もこなさないといけません。研究だけやっていれば良い時代は過ぎ去ってしまいました。こうした中でうまくやっていくには、実験技術だけでなく申請書の作成技術についても向上させる必要があります。
しかし、いざ申請書を書くとなっても経験の少ない方にとっては難しく感じるようです。 これは、ある意味当然のことで、小中学生での国語の授業や夏休みの読書感想文を思い出してください。登場人物の心情や作者の意図を読み解いたり、読んだ感想を述べたりといった経験はあっても、具体的な作文技術について学び、添削してもらった経験がある方は少ないのではないでしょうか。誰にもちゃんと教えてもらわず、また自分でも学んでこなかったのであれば、上手に書けなくて当然です。しかし幸いなことに、私たちが書くべき科学的な文章は、文学とは異なり「独自の感性・文学とは異なり「独自の感性」や「絶妙な表現」などは不要です。だが、わかりやすく・読みやすく書けば良いだけですので、本当にちょっとした技術や考え方を学ぶだけで事足ります。繰り返しますが、これまで学ぶ機会がなかっただけなのです。

しかし、本書の究極の目的はノウハウを伝えることではありません。書き方の技術を共有することで、申請書作成の基礎知識を平準化し、書き方の巧拙ではなく申請内容によって研究計画が正しく評価されるようにすることを目指しています。さらに、論理的でわかりやすい文章を書けるようになることで、あなた自身の研究計画が一層洗練され、ひいては科学全体の底上げにつながると考えています。

本書は、私がこれまでに添削してきた実際の申請書をもとに、多数の文例やロジック、よくある間違いなどを豊富に掲載することで、効率良く申請書作成のコツを学べるようにすることを心がけています。その一方で、紙面が限られているために、制度の概要や一般論は極力削ぎ落としていますので、それらについては類書を参考になさってください。加えて、チェックリストやテンプレートなど、時間がない中でも一定水準以上のものを書上げられるようにするための支援ツールも掲載しました。本書は学振や科研費を念頭に置いたものですが、つまるところ、いかにわかりやすく他人に自分の考えを伝えるか、といツコツについてですから、他の申請書や公募書類、論文など科学的な文章が求められるあらゆる場面において役立つものと考えています。ただし、残念ながら私は理系のそれも限られた分野の専門ですので、極力配慮したつもりではありますが、どうしても問題解決型 (本文参照)に寄っているのでその点は注意してください。

より良い甲請書のための一提案として、少しでも読者の役に立つようであれば幸いです。
2018年12月24日 科研費.com 管理人
https://科研費.com

学振申請書の書き方とコツ DC/PD獲得を目指す若者へ (KS科学一般書)

学振の攻略本

学振申請書の正しい書式や書き方のルール、学振に関する基礎知識などが詳しく解説されています。良い申請書と悪い申請書の見分け方がわかり、より申請書をブラッシュアップさせることができます。見やすく、伝わりやすく書くコツがよくわかる1冊です。

大上 雅史 (著)
出版社 : 講談社サイエンティフィク (2016/4/7)、出典:出版社HP

はじめに

「学振」の攻略本が,ついに登場です.
日本学術振興会 特別研究員,通称「学振」.研究者を目指す者にとっては, この言葉の重みは相当なものでしょう申請書を書いて出すという慣れない作業に四苦八苦しながら,多くの学生や若手研究者が学振に挑戦してきました。本書はそんな学振の申請書の書き方を解説した初めての本となります。

ネット社会の昨今ですので,学振申請書の書き方の情報なんてググれば(※ Google 検索の意)いくらでも出てくるでしょうと言う人がいるかもしれません。ですが,そのような申請書の書き方を知っている人と知らない人には、 想像以上の差があると感じています。多くの学振採用者を輩出する研究室にいるなら先生や先輩が情報を提供してくれるでしょう。しかしそのような恵まれた環境にいない人は、すでにスタートの時点で情報量に差がついてしまっているわけです。せっかく優れた研究をしていても学振採用につながらない、そんな不幸が起こらないようにという思いが本書に込められています。

本書は筆者が行ってきた学振申請書の書き方に関する講演をベースとしつつ、申請に際しての重要事項および申請書の書き方とコツを体系立てて一から解説したものです。本書に記載した事柄の多くは募集要項や日本学術振興会のウェブサイトに記載されていることですので、たしかにググれば出てくる話も多いです。しかし、何のどこに大事なことが書いてあるのかをうまく手ほどきしたつもりですので、必ず役に立つと信じています.

本書を執筆するにあたり、様々な方から情報提供やご意見をいただきました。以下に挙げる方々の協力なしには本書は完成しえなかったでしょう。この場を借りて感謝申し上げます。
学振経験者インタビューを快く引き受けていただき、実際に提出した申請書の掲載もご快諾いただいた余越 萌さん(京都大学),寺田愛花さん(JSTさきがけ・東京大学),新屋良磨さん(東京大学), ならびに掲載をお認めいただいた当時の指導教員の先生方、インタビューにて,学振 PD での子育ての貴重なご経験を語っていただいた谷中好子さん(分子科学研究所), 数少ないSPD 採用経験者として面接などの情報を快く提供いただいた鈴木 翔 さん (Cornell University). Tスコア換算についてご議論いただいた森脇由 隆さん (分子科学研究所), 電子申請システム上での結果表示例を快くご提供いただいた柳澤渓甫さん(東京工業大学),安尾信明さん(東京工業大学), 福永津嵩さん (早稲田大学)、本当にありがとうございました.また,筆者の指導教員でもあった秋山 泰教授(東京工業大学)が叩きこんでくれた審査員の視点も含めた申請書執筆のコツは,現在に至るまで筆者の申請書への考え方の根幹をなしています。本書の校正段階でも多くの有益なご助言をいただき、ありがとうございました。東京工業大学で毎年開催されております科研費計画調書書き方講座の講師の先生方の解説資料も,本書執筆にあたり大変参考にさせていただきました。

最後に、筆者の遅筆さに呆れることなく完成までお付き合いいただきました講談社サイエンティフィクの三浦洋一郎様,そして休日の家族サービスが犠牲になっても温かく見守ってくれた妻 可愛と,本書執筆のさなかにこの世に生を受けた娘 明香里に感謝の意を表して、本書のはじめにとします.

2016年3月 大上 雅史

大上 雅史 (著)
出版社 : 講談社サイエンティフィク (2016/4/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに

Chapter 1 「学振」の基礎知識
1.1 「学振」とは
1.2 特別研究員の制度概要
1.3 特別研究員 DC1/DC2 の申請資格
1.4 特別研究員 PD/SPDの申請資格
1.5 特別研究員 RPD の申請資格
1.6 どうすれば「学振」を取れるのか?
1.7 近年の「学振」採択率を見る
1章の関連情報
コラム 「学振」は有名な大学/先生/ラボじゃないと取れない!?

Chapter2 審査のしくみ
2.1 審査の流れ
2.2 分野,分科, 細目
2.3 分野 分科, 細目の選び方
2.4 書類選考のプロセス
2.5 書面審査の採点方式 EA スコアから計算できるもの
2.6 面接選考について
2章の関連情報
コラム 「学振」採択者に聞いてみたその1

Chapter3 申請書の書き方
3.1 「学振」の審査基準
3.2 「良い申請書」とは?
3.3 申請書には何を書くのか?
3.4 『2. 現在までの研究状況』
3.5 『3. これからの研究計画』
(1)研究の背景
(2)研究目的・内容
(3)研究の特色・独創的な点
(4)年次計画
(5)受入研究室の選定理由(PD のみ)
(6)人権の保護及び法令等の遵守への対応(DC は(5) )
3.6 「4. 研究業績』
3.7 「5. 自己評価」(DC のみ)
3.8 研究課題名を考える
3.9 評価書を書いてもらう
3章の関連情報
コラム「学振」採択者に聞いてみたその2

Chapter 4 申請書を書く、磨く。
4.1 申請書はいつ書き始める?
4.2 まず最初にやること
4.3 「学振」情報の収集・
「学振」のウェブページ・募集要項を熟読する
他人の申請書を入手して読む
他人が作った学振申請書の書き方指南を見てみる
指導教員の科研費申請書をお願いして見せてもらう
科研費申請書の書き方指南を見てみる
4.4 わかりやすい申請書を目指して(紙面デザイン編)
フォント選び
フォントサイズ
余白をつくる
箇条書き
文字装飾
図の配置
文献の引用方法
文章が枠内に収まらないときの手段
4.5 わかりやすい申請書を目指して(内容編)
専門用語には枕詞をつける
具体性を持たせる
項目ごとにサブタイトルで概要を言い切るテクニック
ひと目でわかる概要図を作る 4.6 最初のページが肝
4.7 業績アピールのコツ
業績欄に書けること
業績欄を“埋める”ために
業績欄のスタイル,その他
日頃から努力しよう
4.8 何度も校正する
4.9 「これからの研究」はまったく新しくてもよいか?
4.10 行き先は早めに決める(PD)
4.11 ダメ元でも申請する
4章の関連情報
コラム「学振」採択者に聞いてみたその3

Chapter5申請後にできること
5.1 自分のウェブサイトをつくろう
5.2 面接選考に進んだら
5.3 採用されたら、
科研費「特別研究員奨励費」の申請
その他
5.4 不採用だったら
5.5 今からできること~ B4, M1 の学生へ
5章の関連情報
コラム DC 持ちは大学の授業料免除申請ができない!?

Chapter 6 本当に「学級」が良いのか?~「学振」の義務や待遇, 今後について
6.1 「学振」に課せられる義務
6.2 「学振」の給与の現実, 節税の工夫
6.3 「学振」の良くない面
6.4 「学振」の良いところ
6.5 「学振」以外の助成など
博士学生向け
博士学位取得後の人向け
6章の関連情報
コラム 学振 PD の保育園入園活動(保活)事情など
sample ①:実際の DC1 申請書(平成23年度採用募集)
sample ②:実際の PD 申請書(平成26年度採用募集)
付録
提供sample ①
提供 sample ②
提供 sample ③
索引

大上 雅史 (著)
出版社 : 講談社サイエンティフィク (2016/4/7)、出典:出版社HP

科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第2版

申請書の添削の仕方がよくわかる

申請書を書いたが採択される自信がない、この欄が上手く書けない、審査委員の目線を知りたい…という方におすすめの1冊です。さまざまな申請書の実例をもとに、書き方のコツや改善点を学ぶことができます。本書を参考にすることで自身で申請書を添削し、ブラッシュアップさせることができるでしょう。

児島 将康 (著)
出版社 : 羊土社; 第2版 (2019/7/28)、出典:出版社HP

【注意事項】

本書の情報について
本書に記載されている内容は,発行時点における最新の情報に基づき,正確を期するよう,執筆者,監修・編者ならびに出版社はそれぞれ最善の努力を払っております.しかし科学・医学・医療の進歩により,定義や概念,技術の操作方法や診療の方針が変更となり,本書をご使用になる時点においては記載された内容が正確かつ完全ではなくなる場合がございます.また,本書に記載されている企業名や商品名,URL等の情報が予告なく変更される場合もございますのでご了承ください.

第2版のはじめに

この本のコンセプトは「ひととおり書かれた科研費の申請書をよりよいものにしていくための方法論である,姉妹書「科研費獲得の方法とコツ」は申請書をゼロからどのように作成していくのかを,そしてこの本はある程度作成した申請書をどのように改良していくのかを解説したものである.この2冊によって申請書の作成から内容のチェックまで行えるようにできている.

今回,第2版に改訂したのは,「科研費改革」による申請書の新しいフォーマットに対応させるためだ.そのため,章立てはすべて平成31年度応募の新しい申請書フォーマットに合わせて変更した,例文については,前版のものでもそのまま参考にできるものは新しい申請書に合わせて説明を少し変えた,新しい申請書で増えた項目については例文を新しく用意し,新しい申請書で不要になった例文は削除した.例文はいろんな大学のさまざまな分野のものを取り入れている.ほとんどの例文はなんらかの変更を加えて,申請者が特定できないように配慮している.そのため内容的に不自然なものもあるだろうが,ご容赦願いたい.

この本の初版を作っているときには,この本を利用するのは科研費を申請する人だけと思っていたが,その後のセミナーなどで知ったのは,URA等の研究支援の方々や事務系の方々もおおいに利用しているということだ,研究機関をあげて競争的研究資金の獲得に積極的に取り組んでいることが伺える.拙著や科研費セミナーで何度も言っているように,科研費に採択されるための絶対的な方法などない.日頃から研究をきちんとやって業績として残すこと,そして申請書をきちんと書いてよく推敲すること,それさえやっていれば必ず採択される.この本を参考にして,申請書をよりよいものに仕上げていってほしいと思う.

2019年6月
児島特康

初版のはじめに

先に出版した「科研費獲得の方法とコツ」が長編小説だとすると,今回の「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」は短編小説集だ.
この本は,ひととおり書かれた科研費の申請書をよりよいものにしていくために,どのように直していけばよいか,その方法論を豊富な例文を使って解説したハンドブックだ,申請書をゼロから作成するために参考にするための本ではない.

私が姉妹書「科研費獲得の方法とコツ」の初版を出版したのは2010年のことである.幸い,この本は研究者,特に科研費応募の初心者の方々や,応募経験が浅い方々に好評で,多くの方々から役に立ったとの言葉をもらった.また本の出版を契機として,全国のいろんな大学や研究機関で,科研費申請書の書き方についてのセミナーを行ったり,申請書のチェックを頼まれたり,申請者とワークショップでともに勉強したりしたそれは非常に得がたい経験であり,私自身おおいに勉強になることが多かった.また私は理系の研究者で,先の本は理系の例文が中心だったにもかかわらず,予想外のことに文系の方にもよく参考にしてもらい,また文系学部しかもたない大学でのセミナーの機会もいただいた.

このような経験から,研究者の方々が申請書の作成において悩む箇所やどうしたらいいのかわからなくなる部分などに,ある共通のパターンがあることがわかってきた.つまり理系文系にかかわらず,申請書の重要なポイントは同じだということだ.それは私の頭で考えたことではなく,実際の研究者の方々との話し合いや申請書のチェックによってわかってきたことである.また,いったん出来上がった申請書について,どこがよくない部分なのか,それをどのようにして改良していったらいいのかなどを参考にできるような本があれば便利だろうということもみえてきた.つまり,自分が書いた申請書にもあてはまる共通のパターンが含まれた例文とその改良法(アドバイス)がまとまっていれば,申請書の自己チェックにおおいに役立つだろう.この本はそのような考えのもとで作成した(ただし,内容は私の独断と偏見も含まれることに注意してほしい,審査が合議である以上,私の考えがすべて正しいとは限らないのだ).

例文はさまざまな分野の実際の申請書からの抜粋を基本とした,いくつかの例文は私自身の申請書を変更して使ったものもある,科研費の性質上,申請者が特定できないようにかなり変更を加えている.そのため,内容に関しては架空の化学反応・テーマ・語句になっている箇所がある.専門の方々には非常に違和感を感じる例文もあると思うが,ご容赦願いたい.

最後になるが,本書のアイデアを一緒に考えてくれた羊土社編集部の吉田さん,まとめにくい内容を一冊の本にまでもっていってくれた冨塚さん,そして例文のもととなった申請書を使わせていただいた多くの研究者に感謝する.

科研費の採択は年々難しくなってきている.しかし私自身が多くの申請者とワークショップなどで勉強した経験から言えることは,研究計画のアイデアをしっかりもったうえで,きちんと書いていれば,いつか必ず採択されるということだ.この本を参考にして,申請書をよりよいものに仕上げてほしいと思う.皆さんの検討を祈りたい.

2016年7月
児島将康

本書の構成・利用法

caseタイトル
多くの申請書を添削し,採択に導いてきた著者が,さまざまな分野の実際の申請書から重要な例文を厳選し,審査委員目線でコメント.

申請分野
比較的よくみられる関連の深い分野を濃く示します.

重要度 ★★★(採択に影響大)↔︎★☆☆(審査委員の心証次第)
頻度 ★★★(まずはここを直すべし)↔︎★☆☆(配慮できれば二重丸)

どこがよくないか
問題のある申請書の実例を提示審査委員の気持ちになって,どこがよくないのかを考えてみてください.

インデックス
8つの改良方針(ふさわしく/はっきりと/具体的に/簡潔に/推敲のヒント/レイアウト/図表/アピールする)で該当するものを濃く示します.

申請者のギモン
フォントの相談や図版の見栄えなど,ありがちな28の疑問について具体的に回答しています.

アドバイス&添削例
著者からのアドバイス,例文ごとに添削のポイントを明示します.

改善例
審査委員の目を引く,具体的な改善例を提示します.

なぜよくないのか?
どのように改良すればよいか?
各例文のよくない点と改良の方針を示します.イメージしやすいように各例文を具体的に取り上げ,応用しやすいように一般化した解説をしています.

書き方のポイントを身につけたい
①どこがよくないか の例文を使い,caseタイトルをヒントに添削の腕試し
②アドバイス 添削例 で改良のポイントを確認!
③なぜよくないのか? どのように改良すればよいか? を熟読すれば,セルフチェック
④ふとした思いつきは,申請者のギモンに類例がないかチェック!

申請書のブラッシュアップに役立てたい
※申請書の草案を用意してください(草案作成に難しさを感じる場合は「補遺1」を参照)
①セルフチェック/第三者チェックで,改良すべき点をあぶり出す
②目次や付録,索引を活用して自分の改良すべき点に近いcaseにアクセス!
③どのように改良すればよいか? 改善例 を参考に, 改良してみましょう
④①~③を繰り返して,魅力的な申請書に仕上げ,応募!

科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック第2版

児島 将康 (著)
出版社 : 羊土社; 第2版 (2019/7/28)、出典:出版社HP

CONTENTS

第2版のはじめに
初版のはじめに
本書の構成・利用法

1章 総論
▶︎申請書全体から受ける「わかりにくい」印象を改善するにはどうしたらよいか. まずはそこから解説する.
case01 これで完成!?文章が下手で申請書の内容が頭に入ってこない
case02 図がわかりにくい
case03 箇条書きが多すぎてわかりにくい
case04 概要と本文で研究項目の数が揃っていない
case05 美しくない申請書は読むのが苦痛(1)
case06 美しくない申請書は読むのが苦痛(2)
case07 一文が長くて読みにくい
case08 具体的に何を指しているかがわからない
case09 指示代名詞が何を指しているのかわかりにくい
case10 強調したい部分が目立たない
case11 簡潔に書かれすぎて内容がわかりにくい
case12 研究のキーワードが埋もれて重要度が伝わってこない(1)

2章 研究目的, 研究方法など:概要
▶︎2~6章では, 申請書のコアとなる「1研究目的, 研究方法など」欄のブラッシュアップのポイントを解説する. 2章の「概要」は審査委員が最初に読む大事な部分なのに, 必要なことがきちんと書けていない人が多いので特に気をつけてほしい.
case13 必要な内容が十分に書かれておらずわかりにくい(1)
case14 概要とはいえ中身に乏しく具体的でない
case15 「背景」の記述が十分でなく解決すべき課題(学術的「問い」)をつかみにくい
case16 「目的」と「背景」が分断されていてわかりにくい
case17 唐突なはじまりで読みにくい
case18 研究のキーワードが埋もれて重要度が伝わってこない(2)
case19 概要には必要ないもの(1)
case20 概要には必要ないもの(2)
case21 「目的」が埋もれていて見つけにくい
case22 科研費の目的としてふさわしいか(1)-

3章 研究目的, 研究方法など:背景
case23 「(1)本研究の学術的背景」の解説が長すぎてわかりにくい
case24 「(1)本研究の学術的背景〜〜学術的「問い」」に一般的な情報がなくわかりにくい
case25 研究遂行能力が十分にアピールされていない
case26 「目的」「背景」が混在していてわかりにくい

4章 研究目的, 研究方法など:本研究の目的
case27 「本研究の目的」がわかりにくい
case28 「検証する」「開発する」だけでは研究目的としては不十分
case29 科研費の目的としてふさわしいか(2)

5章 研究目的, 研究方法など独自性, 創造性
case30 「(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性」がわかりにくい
case31 この研究ならではの特色がわかりにくい(1)
case32 表現が控えめすぎて実現できるのか不安
case33 「学術的独自性と創造性」としてふさわしいか

6章 研究目的, 研究方法など:何をどのように
case34 研究項目が多すぎて何をしたいかが散漫に見える
case35 必要な内容が十分に書かれておらずわかりにくい(2)
case36 方法論は具体的なのにわかりにくい
case37 研究計画の内容が少なすぎる
case38 年度ごとの実験計画の詳細しか書かれていない
case39 研究項目ごとに計画の詳細しか書かれていない
case40 研究方法が具体的に何を指しているかがわからない(理系の例)
case41 研究方法が具体的に何を指しているかがわからない(文系の例)
case42 アンケート調査やプログラム作成の内容がないのでイメージできない
case43 データ分析の種類だけで内容がないのでイメージできない
case44 論文発表・学会発表・本の刊行は研究計画や方法としてふさわしいか
case45 たくさんの項目を文章だけで説明しようとしていてわかりにくい
case46 この研究ならではの特色がわかりにくい(2)
case47 研究項目ごとの「予想される結果と意義」がなく意図がつかみにくい
case48 締めの言葉がなく完結した感じがしない
case49 前欄に戻らないと記号や略語の意味を確認できない
case50 計画通りに進まないときの対応を考えていない印象を受ける
case51 誰に相談するかがあいまい

7章 本研究の着想に至った経緯など
▶︎「本研究の着想に至った経緯」や「国内外の研究動向」を示す欄のポイントを解説する.申請者ならではのオリジナリティをアピールして, 研究の重要性や意義を示そう
case52 「本研究の着想に至った経緯」にオリジナリティがない
case53 「本研究の着想に至った経緯」が平凡すぎる
case54 「準備状況」で独りよがりな表現が目につく
case55 「(2)関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」が具体的でない

8章 応募者の研究遂行能力及び研究環境
▶︎以前の申請書のように論文や学会発表をあげるだけではダメ.
研究の実現可能性を示すポイントを解説する.
case55 「(1)これまでの研究活動」に論文のリストしか載せていない
case57 「(1)これまでの研究活動」に載せた学会発表の情報が不十分
case58 「(1)これまでの研究活動」に申請書の研究テーマとの関連がない
case59 「(2)研究環境」の書き方が主観的で, 具体性が不十分(1)
case60 「(2)研究環境」の書き方が主観的で, 具体性が不十分(2)

9章 人権の保護及び法令等の遵守への対応
▶︎加点はないが減点がある欄なので気をつけよう.
case61 「人権の保護及び法令等の遵守への対応」が中身に乏しく具体的でない

10章 その他
▶︎加点はないが減点はある欄のポイントや, どの欄でも当てはまる注意事項を解説する. 特に後者に関するアドバイスは, 審査委員のことをよく考えた申請書にするためのテクニックになりえる.
case62 「研究経費とその必要性」に必要性が書かれていない
case63 なぜ海外調査が必要なのかがあいまい
case64 強調スタイルがいくつもありどこが重要かわからない
case65 図や画像が何を示しているのかわからない
case66 写真が不明瞭で意図がよくわからない
case67 図表の文字が小さくて読みにくい
case68 論文から流用された図は申請書ではわかりにくい
case69 回りくどい表現でなくてもよい表現がある
case70 主観的な表現, 刺激する表現が目につく
case71 略語の種類が多すぎて把握できない
case72 なぜ最新あるいは流行の機器を使うかがあいまい
case73 時事問題への配慮が足りない
case74 表記が異なっており同じものを指すか違うものを指すかがあいまい
case75 「関連性」「関係」をもつのは何かがあいまい
case76 「AとBを用いて, CとDを行う」はわかりにくい
case77 雑なレイアウトで整った感じがしない
case78 不適切な接続詞を使っている

補遺1:申請者のための「申請書を書く, 添削する」基本
補遺2:研究支援者の申請書チェックの心構え

付録1:セルフチェックリスト
付録2:研究支援者のためのチェックリスト
付録3:インデックス別アドバイス一覧
付録4:申請分野別関連case早引きリスト
付録5:実際の申請書の添削例

索引

申請者のギモン
1 ひらがなと漢字
2 フォント
3 長い語句
4 外来語
5 模式図か計画表か
6 リバイス中, in press
7 図の配置 その1
8 図の配置 その2
9 行間
10 (続)行間
11 図の解像度
12 タイトル風
13 フォントの大きさ
14 (続)フォントの大きさ
15 見出しの工夫
16 図の情報の向き
17 学会参加
18 わかりやすい図に その1
19 わかりやすい図に その2
20 わかりやすい図に その3
21 わかりやすい図に その4
22 雇うという記述
23 強調 その1
24 強調 その2
25 強調 その3
26 強調 その4
27 スペースがないとき
28 字下げ

児島 将康 (著)
出版社 : 羊土社; 第2版 (2019/7/28)、出典:出版社HP