【最新】サブスクリプションについて学ぶためのおすすめ本 – 基礎から実践まで

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サブスクリプションとは?収益を上げるためには?

近年、音楽や動画を中心として、サブスクリプションサービスを導入する事例が増えています。その市場は今後ますます拡大していくと考えられますが、サブスクサービスを導入して成功するためには、サブスクリプションのメリットとデメリットを理解し、適切な戦略を立てなければなりません。そこで今回は、サブスクリプションについて基礎から実践まで学べる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

60分でわかる! サブスクリプション

サブスクリプションの概要をサクッと調べる

本書は、サブスクリプションの基本的な内容をまとめている本です。サブスクリプションとは何か、といったところから、サブスクリプションの特徴の説明や導入事例、ビジネスの観点からの解説なども掲載されています。重要なポイントがおさえられているため、あまり詳しくない方向けの入門書として、参考になります。

リンクアップ (著), 株式会社サブスクリプション総合研究所 宮崎琢磨 (著)
出版社 : 技術評論社 (2020/2/5)、出典:出版社HP

Contents

Chapter1 いま注目! 新世代の継続課金ビジネ
001 話題のサブスクリプションとは?
002 古くて新しい新聞の定期購読からパケ・ホーダイまで
003 デジタルトランスフォーメーションが普及の後押し
004 モノの所有から価値の利用へという意識変革が浸透
005 いつも最新の製品が利用でき、顧客満足が向上
006 一時の高額出費より心理抵抗が低い「薄く長く」の課金
007 使い放題でなぜ利益が出る? 収益構造のカラクリ
008 機能のアップデートで利用者との関係性をつなぐ
009 使っても使わなくても事業者は継続的な収入が見込める
010 現状維持バイアスで他社への乗り換えを防げる
011 高い利益率と再投資によるスケーリングのチャンス
012 初期投資から回収までのリードタイムがかかる
Column サブスクリプションとリカーリングの違い

Chapter2 すでに主流に! サブスクビジネスの先進・成功例
013 最新ソフトがいつでも使える〜AdobeとMicrosoft
014 アメリカではテレビより視聴時間が長い~ Netflix, Hulu
015 音楽はストリーミングが当然に ~Spotify、Apple Music
016 無限の本棚から選ぶ~Kindle Unlimited、dマガジン
017 新聞は紙からネットへ〜ニューヨーク・タイムズ
018 家電は買わずに最新モデルを利用~Dyson、iRobot
019 ファッションはおしゃれ服からスーツまで〜STITCH FIX、airCloset
020 ブランドバッグもコスメ も使い放題~Laxus、RAXY、BLOOMBOX
021 都市部では車を持たずにカーシェア~タイムズカーシェア
022 トヨタとホンダが手を結ぶ「MaaS」の未来戦略
023 空の旅も定額で自由に使い放題~Surf Air
024 ラーメンもフレンチも定額で食べ放題、フードロスの削減も
025 気に入った家具を選んで部屋を自由に模様替え
026 教育や習い事も定額で~英会話スクール、ジム
027 建設機械もサブスクリプションで効率的に〜コマツ
Column スタイリストがユーザーの服をコーディネート

Chapter3 ここにチャンス! サブスクマーケットの分析
028 面倒な毎回の購入が解消される定期購入性
029 即応した成果を生み出す成果重視性
030 修理・維持を気にしなくてよいメンテナンス性
031 不定期かつ、いつでも利用できるランダム性
032 長く継続して利用されるインフラ性
033 最新のものを利用しやすいアップデート性
034 いざというときの安心を買う保険性
035 オンライン管理に適したデジタル性
036 常に流行や変化に応えるファッション性
037 従来よりコストを低下させる経済性
Column 日本人の約7割がサブスクリプションに好意的

Chapter4 失敗しない! サブスクビジネス実践の基本
038 顧客満足と継続利益でWin-Winの関係を目指す
039 顧客とのエンゲージメントを確立する
040 開発・営業・財務まで組織を横断する
041 デジタルトランスフォーメーションで新たな価値を見いだす
042 利用者から集めたビッグデータを活用する
043 利用者の不満を吸い上げるシステムを作る
044 迅速なフィードバックで製品・サービスを改善する
045 損益計算の基本となるユニットエコノミクス.
046 LTVを最大化するように価格を決める
047 経済合理性を算出しにくいビジネスにする
048 業種によってサブスクビジネスのやり方は異なる
Column 新しい顧客層への挑戦・海外展開を考える

Chapter5 顧客の心をつかむ! BtoCサブスク成功の法則
049 フリーミアム戦略で初期ユーザー数を獲得する
050 有料転換の鍵となるプラン作成と価格設定
051 紹介プログラムで利用者の輪を広げる
052 解約と更新をスムーズにさせる
053 利用者とのコミュニケーションでチャーン率を抑え
054 利用者のコミュニティで結び付きを強化する
Column クレーマーにはどう対処する?

Chapter6 大きな可能性! BtoBサブスク成功の法則
055 BtoCから攻めてBtoBへ拡大できるケースは少ない
056 既存顧客のエンゲージメント強化が大切
057 顧客とのタッチポイントのデジタル化が急務
058 クロスセル・アップセルをたくみに仕掛ける
059 製品ではなくパッケージプランで売る
060 トライアル期間やオウンドメディア運営で認知を高める
061 販売代理店を活かしてサブスクリプションを卸し売る
Column 「SMARTサブスクリプション」とは

Chapter7 新たな価値へ! 進化するサブスクのかたち
062 既存の勢力図を塗り替えるサブスクリプション情勢
063 サブスク市場でも消費者の予算の獲得競争が激化
064 パーソナライズの強化で独自の無形価値を提供する
065 モノからコトへ、そして新たな価値へ
066 サービスどうしの連携でスムーズな利用が可能に
067 ライフスタイルに合わせたサービス群の最適化へ

サブスクリプション関連企業リスト
索引

『ご注意』

ご購入・ご利用の前に必ずお読みください
本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を参考にした運用は、必ずご自身の責任と判断において行ってください。本書の情報に基づいた運用の結果、想定した通りの成果が得られなかったり、損害が発生しても弊社、著者および監修者はいかなる責任も負いません。

本書に記載されている情報は、特に断りがない限り、2019年12月時点での情報に基づいています。サービスの内容や価格などすべての情報はご利用時には変更されている場合がありますので、ご注意ください。

本書は、著作権法上の保護を受けています。本書の一部あるいは全部について、いかなる方法においても無断で複写、複製
することは禁じられています。

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リンクアップ (著), 株式会社サブスクリプション総合研究所 宮崎琢磨 (著)
出版社 : 技術評論社 (2020/2/5)、出典:出版社HP

サブスクリプション (やさしく知りたい先端科学シリーズ7)

サブスクリプションがビジネスを変革する

本書は、サブスクリプションの基本的な内容が書かれている本です。サービスの変遷の紹介やサブスクリプションサービスを支えるテクノロジーの説明があるため、多角的な視点でサブスクリプションを捉えることができます。サブスクリプションの基本的な内容を学びたい方には参考になるかもしれません。

小宮 紳一 (著)
出版社 : 創元社 (2020/10/27)、出典:出版社HP

はじめに

日本では、2018年前後より「サブスクリプション」あるいは「サブスク」という言葉がマスコミを賑わすようになりました。定額制でさまざまな商品を購入したり、サービスを利用したりできるサブスクリプションは、その利便性や経済性が支持され、世界的な広がりを見せています。特に、定額制で動画や音楽を視聴できるネット配信型サブスクリプションは、いまやエンターテインメント領域のメインストリームになろうとしています。

サブスクリプションは本来、新聞や雑誌などの定期購読を表す言葉であり、何十年も前から存在するビジネスモデルです。では、なぜ今、サブスクリプションが注目され、多くの支持を集めるようになったのかというと、ITの進歩により生まれた先端科学技術を活用した現代型サブスクリプションが登場しているからです。この新しいタイプのサブスクリプションは、AI(人工知能)やIoT、クラウドコンピューティング、ネットマーケティング、さらには高度な物流システムを活用して、先進的なサービスを生み出しています。本書は、この現代型サブスクリプションを中心に、サブスクリプション・ビジネスの全体像とそれを支えるデジタルテクノロジーの関係を解説していくものです。

本書内の表現については、できるだけ専門用語を使わずに、わかりやすく伝えるようにしています。また、技術的な解説もあまり細部にこだわり過ぎず、概要を伝えるように配慮しています。本書を読むことで、読者の皆さんがサブスクリプション・ビジネスとそれを支える先端科学技術への理解を深めていただければ幸いです。

2020年8月 小宮紳一

小宮 紳一 (著)
出版社 : 創元社 (2020/10/27)、出典:出版社HP

Contents

はじめに

Chapter1
サブスクリプション・ サービスの変遷
1-01 サブスクリプションとは何か
1-02 消費志向の変化に合致する現代型サブスクリプション
1-03 IT、インターネットの進化が与える影響
1-04 現代型サブスクリプションを支える物流の進歩
1-05 リースやレンタル、シェアリングとの違い
1-06 企業での利用が進むクラウド・SaaS型サブスクリプション
1-07 データ活用で進化する レコメンド型サブスクリプション
1-08 顧客満足度を高める データドリブン型サブスクリプション
1-09 動画や音楽配信で成長するネット配信型サブスクリプション
1-10 「見放題」に代表される Unlimited型サブスクリプション

Chapter2
現代型 サブスクリプションを支えるデジタルテクノロジー
2-01 コンピューターの利用方法を変えるクラウド
2-02 顧客獲得の精度を上げる ネットマーケティング・
2-03 レコメンデーションを進化させる機械学習
2-04 ディープラーニングによる サブスクリプションの進化
2-05 物を介在させて データを収集・分析するIoT
2-06 屋外でのデータ利用を革新する5G
2-07 多頻度・多品種の配送を支える 物流システム
2-08 ITで交通手段を統合するMaaS
2-09 ビッグデータの分析によるデータドリブン

Chapter3
サブスクリプション・ ビジネスの構造
3-01 サブスクリプション事業者が得る3つのメリット
3-09 サブスクリプション・ビジネスにおけるデメリットとリスク
3-03 サブスクリプション・ビジネスの 成否を分ける要因
3-04 サブスクリプション・ビジネスを成功に導く基本7項目
3-05 参入市場と対象顧客の明確化
3-06 提供する価値と料金設定
3-07 商品調達と物流の構築
3-08 全社体制と競合差別化
3-09 ユニットエコノミクスと事業性の見極め

Chapter4
広がりを見せる サブスクリプション・ サービス
4-01 生活を支援するサブスクリプションの現状①
4-02 生活を支援する サブスクリプションの現状②
4-03 日常生活の楽しみを広げる デジタルサービスの現状
4-04 日常生活の楽しみを広げる リアルサービスの現状
4-05 ビジネスを支援する クラウド・SaaS型サービスの現状

Chapter5
サブスクリプションで変わる新しい社会
5-01 サブスクリプションを利用するメリット
5-02 サブスクリプションがもたらすデメリット
5-03 生活に役立つ サブスクリプションの利用方法
5-04 ビジネスに役立つ サブスクリプションの利用方法
6-05 サブスクリプションを進化させるデジタルテクノロジー
5-06 サブスクリプションを変革する エンターテインメント

さくいん
参考文献・写真提供

小宮 紳一 (著)
出版社 : 創元社 (2020/10/27)、出典:出版社HP

サブスクリプション経営 (日経文庫)

経営におけるサブスクリプションとは

本書は、サブスクリプションをビジネスとして成功させるためのポイントを解説している本です。そのため、実務に応用するためのポイントや成功に近づけるための手法などが多く紹介されています。これから、ビジネスにサブスクリプションを導入するためのハウツー本と言えるでしょう。

根岸 弘光 (著), 亀割 一徳 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/2/15)、出典:出版社HP

はじめに

ブームから1年、本当に定着したのか

2018年11月に開催されたズオラ(Zuora)社のサブスクライブドトーキョー2018(Subscribed Tokyo 2018)をきっかけとして、日本においてサブスクリプション・ビジネス(継続課金ビジネス)が話題になり、1年以上が経過しました。ITサービスにとどまらず、電化製品やその消耗品提供サービス、飲食店における定額サービス、ネット販売における定額サービスなど、多岐にわたるサービスが展開されています。
このようなブームをきっかけに、製品・サービスを提供した際の単発の売上計上から、将来継続的に売上が見込める本ビジネスの検討を開始した企業も多数あったと思われ、筆者においてもさまざまな業種の方々からお声をかけていただきました。そのような1年間の活動を経ての感想としては、「まだまだサブスクリプション・ビジネスでの企業の売上維持・拡大は難しい」というものです。
「なぜ、そのような感想を持つに至ったのか?」「それを払拭するには、どのようなことを実施すればいいのか?」「成功に少しでも近づくために何を変えなければいけないのか?」こうした疑問について、本書では答えていきます。

繰り返される「失敗」の原因

ここで、2018年度以降の、日本企業におけるサブスクリプション・ビジネスの定着度を考えてみましょう。2019年、「モノ売り」の会社がこぞって「サブスク始めます」もしくは「リカーリングビジネス始めます」などの事業方針を唱え、本格的な展開がマーケットでも期待されました。
しかし、実状としては、各企業で担当事業部や商品企画部門に「新サービスを考えろ」と指示が出ただけ、というケースが多く見られました。新サービスを企画しても、サブスクリプション・ビジネスにとって重要である顧客接点の分析は、表計算ソフトで作業するだけというお粗末な対応がみられ、それにより、次なる顧客体験を引き出せず、徐々に活動が縮小されていきました。結局、提供する「モノ」を「サービス」に変化させただけで、そのマネジメントの方法や情報分析に基づいた意思決定プロセス、各部門の役割を変革させていなかったのです。

このようなことは日本企業にとって、初めてのことではありません。以前、データサイエンティストの活用が唱えられ、「データドリブン経営」という言葉がはやりましたが、その際もデータを活用せよと命じた経営陣が、「このデータでは使えない」といった結論を性急に出してしまい、結果、データを活用した意思決定ではなく、旧来の勘と経験と度胸のマネジメントスタイルに戻ってしまった、ということがありました。心当たりのある企業も多いのではないでしょうか。
失敗の原因は、各領域でのデータ可視化のシステム構築のみに力を入れ、本来実施すべき、データ発生元部門の責任や権限、そしてデータ加工や意思決定に至るプロセスの見直し、そしてデータを活用した意思決定への意識改革などについて、その労力を怠ったことにありました。
通常、新規事業を起業する際と同様に、サブスクリプション・ビジネスの実現においても、ビジネスモデル、組織の役割や業務プロセス、それをマネジメントする経営管理指標、そして、業務を支えるシステムについて、変革すべき必須事項が数多くあります。
サービス企画、マーケティング、データ分析部門では、分析頻度を上げるとともに、部門間連携を密にして、顧客の声を即座に新サービスの企画につなげる必要があります。また、「モノ」の提供を含んでいる場合、流通部門やチャネルという顧客接点の一部を担っている部門は、今まで以上に顧客の声を吸い上げる必要が出てくるでしょう。さらには、経営管理部門も定常的にあがる売上を、次のサービス提供の投資に活用するという考え方で各部門の指標を設定し、管理する必要が出てきます。
システムにおいては、BOCビジネスを実現するための申し込みウェブサイトや決済方法の充実、会計や受注出荷を扱う既存基幹システムとの連携、そして、迅速なデータ分析のための分析基盤は必須です。また、サブスクリプション・ビジネスのサービスは多くの場合、スマートフォンやタブレットなどのデバイスで提供されることを想定すると、顧客の声に応じたサービスを迅速に開発できるアプリケーション開発基盤も必要になり、さらには、その開発基盤上でアジャイル(Agile:迅速)にアプリケーションを開発できる人材や組織が欠かせません。

サブスクリプション・ビジネスを検討している企業の多くが、現在の単発売上ビジネスの将来性を危惧しています。その場合には、自社のみのビジネスを検討するだけでなく、他社のサービスを組み合わせて、顧客を拡大することを検討すべきでしょう。もちろん、その際に必要になるサービス、業務の連携、さらには、他社のシステムと容易に連携することができるシステム基盤も必要になってきます。
これらのことを考慮せずに、サブスクリプション・ビジネスを単に「良いサービス企画を一度実現すれば売上が向上するビジネスである」と考えていたら、また日本企業は失敗事例を増やすだけになってしまいかねません。本書で解説するポイントを押さえて実行していただくことで、少しでも読者のみなさんのビジネスが成功に近づけたとすれば、筆者としてこれ以上の喜びはありません。

2020年1月
根岸弘光・亀割一徳

根岸 弘光 (著), 亀割 一徳 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/2/15)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 サブスクリプションが注目される理由
1 広がるサブスクリプション
2 GAFAの戦略!成長を目指すビジネスモデル
3 GAFAの戦略2他社を支援する取り組み
4 サブスクリプションの形態

第2章 各業界への広がり
1 脱「モノ売り」の動きが広がる
2 消耗品/コモディティ化した製品でも成功できる
3 データ活用で差をつける外食産業
4 進化するメディア/ソフト業界
5 成熟度の三つの段階
6 撤退事例も続出

第3章 変革成功のためのポイント
1 日本企業が陥りがちな失敗
2 変革その1 マーケティングとサービス企画
3 変革その2 管理部門
4 変革その3「モノ」のサブスクリプション
5 変革その4 代理店・販売店管理プロセス
6 変革その5 ビジネスを支えるIT組織の変革
7 変革その6 ビジネスを支える経営指標

第4章 サブスクリプション・ビジネスを支えるIT基盤
1 契約・請求管理基盤は既存システムでは対応困難
2 顧客の自由度を最大化するサービス提供基盤の実現
3 顧客に素早くサービスを提供し続けるサービス開発基盤
4 APIマネジメントの導入
5 レガシーシステムのモダナイゼーション

第5章 変革プロジェクトの推進手順
1 典型的な二つのケース
2 新規事業構想を策定する
3 サービスの仕様を考え、市場性を検討する
4 実現可能性を判断し、事業計画としてまとめる
5 すでに立ち上げたビジネスの見直し
6 変革プロジェクトが難しい理由

第6章 日本企業が成功するために
1 日本の市場で今後何が起きるか
2 本書のまとめ―変革を実行できた企業だけが生き残れる

本文デザイン 野田 明果
next door design

根岸 弘光 (著), 亀割 一徳 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/2/15)、出典:出版社HP

サブスクリプションシフト DX時代の最強のビジネス戦略

サブスクリプションをITと組み合わせる

本書は、サービスがビジネスの中心となりつつある状況でのサブスクリプションの活用について解説している本です。ITが生活を変革している現代では、様々な場面でのデジタル化が重視されます。その中で、サブスクリプションのビジネスモデルをどのように活用するかをこの本で解説しています。

荻島 浩司 (著)
出版社 : 翔泳社 (2020/1/14)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに

第1部 デジタルトランスフォーメーション(DX)への構想
第1章 DXとサービス化
実店舗をデジタル化するAmazon GO
サービス化するビジネス
IT産業が提供する価値の変化=「SaaS」

第2部 SaaS/サブスクリプションの価値
第2章 SaaS/サブスクリプションとは何か
SaaS/サブスクリプションが「すごい成長」をする仕組み
SaaS/サブスクリプションの三つの公式
高く仕入れて安く売れ
カスタマーサクセスのための「アジャイル開発」
課金方式としてのサブスクリプションは成長エンジン
はじめ投資家の理解は得られなかった
サブスクリプションと五つの勘定科目
「売上」が小さく見えるサブスクリプションの罠
2年目は売上の三角が四角になる
新規売上にフォーカスすれば全体が伸びる
サブスクリプションは先行優位のビジネスモデル
経営管理の難しさと参入障壁
サブスクリプションの「隠れた価値」
LTVこそが見えない資産であり、成長の源泉
解約率マイナスが理想の姿
セールスフォース・ドットコムの戦略からのヒント

第3章 SaaS/サブスクリプションのビジネス戦略
TeamSpiritを、どうやって創造したのか
ERPのフロントウェアとしてのポジショニング
SoR、SoEの時代
クラウドERPとのポジショニングの違い
《コラム》経産省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」

第3部 DX時代の働き方・生産性・創造性
第4章 なぜ「働き方改革」のためにDXが必要なのか
働き方改革を阻む4つのジレンマを解消するために
勤怠管理のジレンマ
経費精算のジレンマ
原価管理のジレンマ
決裁権限のジレンマ
内部統制に関わるジレンマを解決する

第5章 DX時代の生産性の方程式
日本の生産性が低いという現実
労働時間を直接時間と間接時間で考える
創造性のネック =間接業務を圧縮せよ
働き手の工数を削減する思想でシステム化する
創造的な仕事にするための3段階。手作業、仕組み化、パラダイム・チェンジ
成果主義と長時間労働の弊害
ビジネスモデルの改善は難しいのか

第6章 創造性とビジネスモデル
斧を研ぐ時間を創れ
上流に遡り仕事を再定義する
思考原則1 : 既存のカテゴリーを壊す
思考原則2 : クワドラント(4象限)で考える
思考原則3 : 高い目標を掲げギャップを埋める
目標実現ツールとしてのTeamSpirit
めざす姿を明確に記述して、タスクに落とし込む
業務効率化から、さらにその先をめざして
SaaSだからこそ、考えなければいけないこと

第4部 チームスピリットの軌跡
第7章 すべては起業後の出会いから学んだ―チームスピリットのストーリー
「やらされること」に反発していた
将来が見えずに選んだデザインの道
デザインの才能がないことに気づいた社会人1年目
誰もやっていないことを「やるしかなかった」
プログラマーとしても挫折。でもわずかに見えた光明
セミナーを成功させるために100万円の投資
パソコン通信をきっかけに起業への決意を固める
「やってはいけない」をやってしまった最初の起業
自分がやりたいことをやろうと1人で再起
プロデューサーとして、東芝のプロジェクトを担当
銀行のリスク量算出システムを開発
クラウドサービスとの衝撃的な出会い
セールスフォース・ドットコムからの想定外のオファー
「TeamSpirit」の前身となる「アッと@勤務」
勤怠管理と経費精算を一つのシステムに
働き方の見直しで受託をストップ
投資家探し
日本企業からの厳しい要件に対応して品質アップ
上場へ

おわりに
新しい価値をつくること
「直感」を信じる「勇気」を持つ
SaaS/サブスクリプションの世界を広げたい
SaaS/サブスクリプションは「明日を創っていくこと」

荻島 浩司 (著)
出版社 : 翔泳社 (2020/1/14)、出典:出版社HP

はじめに

DXによる激変の時代をチャンスに変えるために
今この時代、私たちは大きな変革期をむかえつつあります。それは産業や社会のさまざ まな分野で進行する デジタルトランスフォーメーション(DX : Digital Transformation)の波によるものです。そしてこのDXの時代を牽引するのが、本書の テーマであるサブスクリプションのビジネスです。

DXとは、何でしょうか?
経済産業省の定義では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優 位性を確立すること」とあります。文書や手続きなどの一般的な業務のIT化からさらに進んで、ビジネスのあらゆる分野をIT化して業務を変革することだといえます。

しかし、こう言われてもなかなかピンとこないのではないでしょうか?
なぜなら、私たちはすでに「インターネット革命」「IT革命」という言葉と時代の変 化を体験しており、既視感をもっているからです。
ここで強調したいことは、「DX」は、単なる「デジタル化(デジタイズ)」ではないということ。手書きの文書がワープロ化され、アナログレコードがCD化され、インターネット配信されるといった単なる媒体やモノの変化ではないということです。

出版産業であれば、手書きの原稿のレイアウトやデザインがDTPになること、そこか らさらに進んで、電子書籍やインターネットによる書籍販売を行うことがデジタイズであるとすれば、DXとは、出版というビジネスが新たなメディア産業、あるいはまったく新しい産業として変化することといえます。
DXは、これまでのITやインターネット産業の世界にとどまらずに、全産業に影響を及ぼし、私たちの生活や社会のあり方そのものも変えていきます。産業においては、金融、 製造、流通・小売り、交通、医療、そして都市やエネルギーなどの社会基盤のあり方までが、「再定義」されることになります。

では、このようなDXの時代のビジネスやDXが世の中に与える衝撃を私たちはどこまで構想することができるでしょうか?
未来を予測することはできません。しかし、過去を振り返ることで変化のイメージを持つことは可能です。
ここで平成という時代を振り返ってみましょう。平成元年にはインターネットはまだ普及していませんでした。Windows95の発売が平成7年なので、平成元年はその7年前。その時代に日本企業は世界の中で圧倒的な存在感を示していました。ところが、その後の低迷と閉塞は御存知の通りです。パソコンやマルチメディアで世の中は大きく変わるだろうという予測はありましたが、その時代に、今日のGAFA(グーグル、アマゾン、 フェイスブック、アップル)などプラットフォーマーと呼ばれる企業の台頭は予測できま せんでした。

さらにこれからの10年に起きる変化は、平成の30年間の変化を上回るものになると想像 できます。ビジネスにおいてはAIやIoTそして5G通信といったデジタル技術によって生み出される膨大で多様なデータから、これまでにないビジネスモデルを展開する挑戦者が登場し、ゲームチェンジを起こしていくことでしょう。
こうした産業革命に匹敵する、激変する時代の波を乗り越えていくためには、過去の分 析から将来を予測して、少しずつ変化に順応するような今までのやり方は通用しなくなるでしょう。これからは過去とは非連続にいきなり明日をつくり出す、突然変異を生み出す ような力が求められます。そのために真の意味での「働き方改革」が求められます。

その意味での「働き方改革」とは、労務的な意味での制度の改革にとどまらず、個人や 組織が生産性を高め、創造性を発揮するための環境をつくり出す経営戦略です。創造性を 高めた結果として、画期的な製品やサービスや価値を生み出し、激変の時代に生き残ることが可能になります。

荻島 浩司 (著)
出版社 : 翔泳社 (2020/1/14)、出典:出版社HP

本書の目的

◎筆者と「チームスピリット」について

そして本書のタイトルの「サブスクリプションシフト」とは、こうしたDXの時代を牽引するビジネスという意味と、人々が創造的に働くための環境をサブスクリプションが実現するという意味をこめています。
本書が扱うサブスクリプションは、BBB型の「SaaS/サブスクリプション」が中心となります。すべての企業とそこで働く従業員の方々が、DXによって激変する世の中に対応し、新しいビジネスを創造することを願い、筆者が「TeamSpirit」という製品を生み育ててきた経験を踏まえて、新しいサービスやビジネスモデルの生み出し方について、紹介していきたいと考えます。あわせて、その前提となる「DX時代の創造的な働き方」についても、考察を試みています。

筆者は2018年8月に東証マザーズ市場に上場した株式会社チームスピリットという会社の創業者です。本書の中で、カタカナで表記される「チームスピリット」は筆者が創業した会社であり、アルファベットで表記される「TeamSpirit」は、そのチームスピリットが提供する製品の名称のことです。
「TeamSpirit」は、SaaS/サブスクリプション型のクラウドサービスで、勤怠管理、就業管理、工数管理、経費精算、電子稟議など、いわゆる企業のバックオフィ ス業務といわれる、従業員が日々利用する機能を一つに結合し、企業の生産性向上や内部 統制の強化を支援する「働き方改革プラットフォーム」です。
読者の中にはSaaS/サブスクリプション型のクラウドサービスとDXがどう関係するのか疑問に思われる方もいらっしゃるかと思います。

IT業界には今まで、お客様の課題をシステムの要件として取りまとめ、個別のオーダーを受けてお客様専用の製品を開発する「受託開発型」と、お客様の共通のニーズに基づきメーカー側で汎用的な製品を開発し、そのソフトウェアを商品として売ることで代金を回収する「パッケージ提供型」の二種類のビジネスモデルがありました。

これに対して「SaaS/サブスクリプション型」とはクラウドというテクノロジーを利用し、ソフトウェア自体を商品として売るのではなく、そこから得られるベネフィット (恩恵)を商品として、利用期間に応じて定額で代金を回収する、まさにソフトウェアを サービスとして提供(SaaS : Software as a Service)する、まったく新しいビジネ スモデルです。

筆者はこの「新しいテクノロジーを利用し」「製品をサービスとして提供する」「新しいビジネスモデル」という三つの要素が、DXの要諦となる考え方だと捉えています。そのSaaS/サブスクリプション型のクラウドサービスをつくり出した経験から、DX時代の新しいビジネスを創造するヒントがご提供できるのではと考えました。
チームスピリットも創業当初は「受託開発型」の製造業的なビジネスを行っていました が、事業展開の中で「SaaS/サブスクリプション型」のサービス業的なビジネスに生 まれ変わりました。このDXの要諦となる三つの要素と、DX時代の企業に生まれ変わる (トランスフォームする)方法に関して、業界を問わず、分かりやすく解説しようという のが本書の目的です。

◎本書の構成について

本書は大きく分けて、「DXの解説」「SaaS/サブスクリプション のビジネスモデル」「DX時代の生産性と創造性」「チームスピリットの創業ストーリー」という四つの内容から構成されます。

第一部では、DXについて、DXの要諦となる三つの要素の視点から紹介するとともに、SaaS/サブスクリプションというビジネスモデルとの関係を考えます。

第二部では、SaaS/サブスクリプションがなぜ急成長するのかについて、三つの公式を使い、ビジネスモデルの経済的な側面から説明しようと思います。会計上はつかまえにくい「隠れた価値」やLTVという見えない資産からサブスクリプションを解説します。
第三部では、SaaS/サブスクリプションのプロダクトの作り方と、私たちがさらに 創造性を高めるためにはどうするべきかについて考察していきます。DXがもたらす働き 方の変化と次の時代の生産性と創造性について述べます。

第四部ではチームスピリットという会社が、SaaS/サブスクリプションのビジネスモデルにどのようにトランスフォームしたのか、どのように成長させたのかを紹介します。
今後、新しい事業を企画される方に、日本のスタートアップ企業である私たちの経験を通じて、なるべく実践的な方法論をお伝えできればと思います。

本書を通じて、読者がこれからやってくるDXの時代を機会として捉え、自らのビジネスに活かしていただければ、これほど嬉しいことはありません。
なお本書は、筆者の個人の主観が強く反映された内容となっています。本書の内容は会社としてのチームスピリットの意見を代表しているわけではありませんので、その点をご理解、ご了承いただければと思います。

荻島 浩司 (著)
出版社 : 翔泳社 (2020/1/14)、出典:出版社HP

サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

サブスクリプションを効果的に使うには

本書は、サブスクリプションがマーケティングに及ぼす影響などについて解説しています。サブスクリプションのビジネスにおける意義から価値を生み出すための戦略、実際にサービスに反映させて、成功させるためのやり方などがまとめられているため、マーケティング関連に携わっている方には役立つかもしれません。

アン・H・ジャンザー (著), 小巻靖子 (翻訳)
出版社 : 英治出版 (2017/11/15)、出典:出版社HP

イントロダクション

私は、ここ数年、自分の購買行動が微妙に変化しているのに気づいた。「モノ」を以前ほど買わなくなったのだ。断捨離をしたわけではない。買わないのは、買う以外にも選択肢があるからだ。以前なら購入していたようなものを、今はサブスクリプションという形で利用することができる。

音楽をよく聴くが、以前のように何枚ものCDを買ったりはしない。DVDも買わずに、ネットフリックスかレッドボックス〔米国のDVDレンタル大手〕でレンタルする。ネットフリックスやアマゾンのストリーミング配信サービスを利用することもある。

私のオフィスの棚にソフトウェアの箱やマニュアルがぎっしり詰まっていたのは過去の話。ウェブサイト、メールのプラットフォーム、文書作成ソフト、マイクロソフトのOffice365など、ほぼすべてのものを私は定額料金で利用している。こうしたデジタルサービスを利用できるのは、ブロードバンドとスマートフォン(この2つも定額制で利用)のおかげである。また、以前からずっとサブスクリプション方式で契約してきたものもある。地元のYMCAのメンバーシップと『ニューヨーク・タイムズ』だ——何が言いたいのか、おわかりいただけたと思う。
日々の生活で私はさまざまな選択をしなければならないが、多くの場合、選択肢の一つにサブスクリプションがある。あなたの場合もたぶんそうだろう。

あなたは何種類のパスワードを使い分けているだろうか。ますます拡大するサブスクリプションの世界にどこまで入り込んでいるか、パスワードの数から見当がつく(賢明な人なら、パスワードの増加というありがたくない状況に対処するため、パスワードの管理をしてくれるサブスクリプションサービスを利用しているかもしれない)。
これには世代という要素も関わっている。成人した私の子どもたちは私よりはるかに多くのサービスを利用している。半調理食品、衣類、カミソリの刃。数え上げればきりがない。

私たちの社会は、サブスクライバーの社会になろうとしている。サブスクリプションは判断を下すときの煩わしさを和らげてくれる。所有や維持に伴う負担を軽減してくれる。自動的、あるいは定期的にサービスが提供され、便利である。また、サブスクリプションボックス〔毎月一定の料金を支払うと、販売会社の選んだ品が届く定期購入サービス〕なら、楽しさも味わえる。私たちは「今すぐ購入する」ボタンではなく、「サインアップする」「登録する」ボタンをどんどん押すようになっている。

初版の出版後、何が変わったか

本書(原書)の初版が2015年1月に出版されたとき、私はよくいぶかしげな目を向けられた。サブスクリプション・マーケティングだって?雑誌や新聞を売ろうっていうのか?
今ではそのようなことはほとんど起きない。
継続的な収益(リカーリング・レベニュー)が得られるビジネスモデルを導入する企業、有料、無料のサブスクリプションサービスを提供し始める企業が、毎月多数現れている。サービスには次のようなものがある。

・ソフトウェアを利用し、使った分だけ支払うクラウドベースのサービス。
・有料の会員制コミュニティや購入プログラム。
・モノ、あるいはデジタル商品の定期購入。
・専門的、あるいは産業用サービス。たとえば、プリンターや化学薬品などのモノとサポー
トサービスをパッケージにした「管理サービス」。

こうした動きがどこまで広まっているか把握するために、ズオラ(Zuora)が発表したサブスクリプション・エコノミー・インデックス(SEI)を見てみよう。ズオラはサブスクリプション型ビジネスを支援するソフトウェアの開発会社で、サブスクリプション・エコノミーというコンセプトの支持者である。サブスクリプションの比重が大きい企業を顧客とするズオラは、現在のトレンドを知る絶好の立場にある。

拡大を続けるこの経済分野に、今、ほぼすべての業界が参入している。スタートアップ企業
はサブスクリプション型ビジネスを立ち上げ、既存の大企業は参入の道を見出している。たとえば、ユニリーバは2016年にカミソリの刃の定期購入サービスを提供する企業を10億ドルで買収した。あなたの会社がサブスクリプション・エコノミーと無縁でも、競合他社はたぶん、取り組みを始めているだろう。
エコノミーといえばサブスクリプション・エコノミーを意味する時代がすぐにやってくるかもしれない。
ズオラのチーフ・データ・サイエンティストは、同社を利用する顧客のデータを集め、サブスクリプション・エコノミーの動向を示すサブスクリプション・エコノミー・インデックスを作った。2012年1月から2016年9月までのサブスクリプション・エコノミーの売上高は、S&P500企業の売上高の9倍、米国小売売上高の4倍の勢いで伸びた。サブスクリプション・エコノミーの成長は著しい。
サブスクリプションの売上高は、本書の初版が発行された2015年の初め以降、とくに大きな伸びを示している。本書で述べることは、2年前よりさらに多くの企業にとって意味のあるものとなるだろう。

チャーンの世界

サブスクリプションの売上高が増えると、一方で、成長を阻害する最大の要因であるチャーン(churn:解約、離脱)も増えていく。チャーンとは、顧客が去っていくこと、継続的な収入が消えてしまうことである。チャーンは成長の対極にある。
便利だ、楽しい、手頃だ。私たちはさまざまな理由でサブスクリプションサービスを利用する。だが、さまざまな理由で解約し、契約数を減らしたりもする。私たちは喜んで解約ボタンをクリックする。自分の生活をざっと振り返るだけで、チャーンがいかに大きな問題かわかるだろう。
おもしろそうなソフトの無料お試しを申し込んで、使うのをすっかり忘れていた。そんな経験はないだろうか(私にはある)。

オンラインコンテンツの登録をし、数カ月後、受信トレイにたまった膨大な数のメッセージに圧倒され、一気に解約したことはないだろうか。
サブスクリプションサービスへの支払いを抑えるために定期的な見直しをし、たとえば、携帯向けサービスの利用数やケーブルテレビの契約チャンネル数を減らす人もいるだろう。このような行動は企業にとって、顧客数は減らないものの、レベニューチャーン、つまり、収益の減少を意味している。

高価なサブスクリプションサービスを解約して、まったく別のサービスに切り替えたという人もいるだろう。たとえば、ケーブルテレビの契約を解約し、複数のストリーミング配信サービスの利用を申し込むのだ。
解約のハードルは低い。食品の配達サービスを定期利用していて、友人にもっといいのがあると言われたら、すぐにそちらに切り替えることができる。企業向けITの世界では、ソフトウェアのサブスクリプション契約を変更すると研修やデータの移行が必要になるかもしれないが、新しいアプリケーションインフラストラクチャーを構築するよりは手軽だ。

私たちはチャーンの世界に住むサブスクライバーである。
ズオラのサブスクリプション・エコノミー・インデックスからは、チャーンに関する厳しい現実もわかる。平均チャーンレート(解約率、離脱率)は企業向け(B2B)サービスが年率26%、消費者向け(B2C)サービスが年率35%だった。

●平均チャーンレート(年率)
B2B: 26%
B2C: 35%
テレコミュニケーション: 29%
SaaS: 25%
メディア: 36%

Zuora, Subscription Economy Index 2017
www.zeora.com/resource/subscription-economy-index/

この数字、高いとお感じだろうか。実際、高い数字である。あなたの会社が急成長している限り問題はない。だが、たとえチャーンレートがこれと似たような水準にあったとしても、打つ手はある。

アン・H・ジャンザー (著), 小巻靖子 (翻訳)
出版社 : 英治出版 (2017/11/15)、出典:出版社HP

これはマーケティングにとって何を意味するのか

私たちはチャーンの世界で生きている。しかし、高いチャーンレートを唯一の現実として受け入れる必要はない。
伝統的なビジネスモデルでは、マーケティングや営業の担当部署は新しい客が競合他社に流れることを心配した。ところが、サブスクリプション型モデルでは既存顧客を競合他社に奪われかねない。定期的に支払いをする顧客は、このまま顧客としてとどまるのか(更新)、他社へ移るのか(チャーン)、繰り返し判断を下している。あなたの会社が先行投資をしなければ、顧客は鞍替えしようという気になるかもしれない。

サブスクリプション・エコノミーでは、売り上げばかりに目を向け、顧客を無視しているマーケターは務めを半分しか果たしていない。

サブスクリプションサービスを提供している企業では、どのマーケターも常にチャーンレート(あるいは、楽天家なら、その反対の顧客維持率)に注目しなければならない。
チャーンが多いということは、それだけチャンスがあるということだ。キャンペーンやカス
タマーサクセス〔顧客がかかえる問題を能動的に解決し、顧客を成功へと導くこと」を通じてこれを下げることができれば、長期にわたって売り上げと成長にプラスの影響がもたらされる。
チャーンはさまざまな問題の存在を示しているかもしれない。自分ではどうしようもない問題もある。だが、顧客の契約時の期待とその後の経験にズレが生じて解約されるというケースも多い。期待外れだったというわけだ。
サブスクリプションのチャーンレートを下げるには、次のような方法がある。

・顧客の本当のニーズを理解し、対処する。
・適切な客、つまり、あなたの会社が提供するソリューションから最大の価値を引き出すことのできる客を引き寄せる。
・契約後も長期にわたってカスタマーエクスペリエンス〔顧客経験価値。商品やサービスの購入過程、利用過程での経験を通して顧客が感じる価値]を高めていく。
・顧客と長期的な関係を築いて顧客ロイヤリティを高め、信頼を得る。

伝統的なマーケティングの戦略・手法は、契約を1つとって見込み客を客に変えることに主眼をおいている。だが、サブスクリプション型ビジネスを手がける企業は、顧客との長期的関係を築いていくことに重点を移している。実際、サブスクライバーは見込み客であり、常に関わり、育てる必要がある。
本書では、価値の育成(バリュー・ナーチャリング)をマーケティング活動の基本的目標に加えることをマーケターに求めたい。客が最初に何かを買ってくれた時点から価値の育成は始まる。その目的は、顧客があなたの提供する商品、サービスから価値を最大限引き出せるよう支援することにある。
価値の育成は、企業の長期的利益にかなっている。価値を引き出した顧客は契約を更新する
だろう。他社がその顧客を誘い込むにはたいへんな努力が必要である。また、顧客はより上位のプランに移行する、他のサービスも契約するなどして、売り上げを増加させてくれるかもしれない。ロイヤリティの高い顧客には口コミも期待できる。

だれが本書を読むべきか

私は本書の初版で、マーケティング担当者は何をすべきか、どのようなスキルが必要かを中心に述べた。その後、さまざまな人と話をするうちに次の点に気づいた。

組織内に境界線を引くと顧客の経験価値を損なう。

価値の育成について詳しくは後述するが、価値の育成はマーケティング部門の外で進むケースが多い。カスタマーサクセスチームには、顧客を獲得する、あるいは、新機能の採用や契約の更新を促すためのキャンペーンを立案、実施する仕事を任された人々がいる。彼らは契約後、効果的にマーケティングを進めていく。
サブスクリプションサービスを提供し、成功を収めている企業には次の特徴がある。

・マーケターは自分が所属する居心地のよい部署にこもるのではなく抜けだして、顧客の全
体像を把握することに注力している。
・他の部署の人々もマーケティングの手法を採用し、マーケティングメッセージを発信している。

この第2版では、伝統的なマーケティングとは異なる新しいマーケティングのための助言や戦略を提示したい。サブスクリプション型のビジネスにはどのようなものがあるのか、サブスクリプションへの移行が進む世界に適応するにはどのように組織を再編すべきか、注意すべきリスクや問題点は何か。こうした点についても論じたい。
ここで述べる戦略やコンセプトは次のような人々のためのものである。

・サブスクリプションベースで商品、サービスを提供している企業、あるいは提供を検討し
ている企業のマーケター。
・サブスクリプションモデルに移行中の企業で役員を務め、それがマーケティング戦略や企業文化にとって何を意味しているかを理解したいと考えている人。
•何千人、何万人という顧客に新機能の利用を促し、ロイヤリティを高めるための「ロータ
ッチ〔人の接触を最小限に抑えて販売するビジネスモデル〕」な戦略、あるいは作業の自動化を求めているカスタマーサクセスチーム。
・成熟したサブスクリプションビジネスを行う企業で、顧客を満足させ、解約を最小限に抑
える方法を求めている役員。
・「グロースハック〔ユーザーの声やデータを分析して、商品の品質向上や企業の成長を図る一連の取り組み)」によって成功を収めようとしているスタートアップ。

本書ではさまざまな業界のB2B企業、B2C企業を実例としてとりあげる。サブスクリプションというコンテクストのなかでは、フォーチュン100社と向こう意気の強いスタートアップには思った以上の共通点が見られるだろう。自社と顧客について考えるときは、競合他社の動きに注目するのではなく、もっと広い視野に立つことを勧めたい。

PART1「サブスクリプション・シフト」では、さまざまな業界でサブスクリプションへの移行が進むなか、どのような状況が生まれているのか、そうした変化がマーケティングにどんな影響を及ぼすのかを論じる。サブスクリプション型のビジネスにはどのようなものがあるかを見、伝統的なマーケティングのセールスファネル〔多数の見込み客が成約までの間に絞り込まれていくようすをファネル(漏斗)に譬えたもの」という考え方には限界があることを示す。ここでは、顧客がより満足のいく経験をできる価値の育成とはどういうものかを明らかにしたい。

PART2「価値育成のための戦略」では、カスタマーサクセスを推し進める、価値を実証する、ソリューション以外のものにも価値を付加する、顧客と価値観を共有するなど、価値育成のためのさまざまな戦略を示す。価値育成の最初の段階、つまり、無料お試しで獲得したユーザーを契約者に変えるということについて、1章を割いて述べたい。PART2で述べる戦略はマーケティングの手法をベースにしたものだが、サブスクリプション型のビジネスでは、実際、だれもがマーケティングに関わっていることを忘れないでほしい。

PART3「戦略の実践」では、PART2で述べた戦略の実践法について述べる。価値育成の重要性について会社の人々に納得のいく説明をする、契約後マーケティングをさらに推進する、顧客を育てる方向にうまく進んでいくために組織面の調整を行うなど、話は多岐にわたる。サブスクリプション型ビジネスのマーケティングに伴うリスクや課題について論じた章もある。他社の轍を踏まないことが重要だ。
サブスクリプションモデルを新たに導入した企業は、本書を読んで進むべき道を考えてほしい。価値の育成をすでに始めている企業は、PART2で述べる戦略を参考にしてさらに取り組みを進めるとよい。常に改善の余地、挑戦の余地があるはずだ。

だれもがサブスクリプションのエキスパートになれる

本書を読み進めながら、周囲の世界を好奇心をもって眺めてほしい。あなたは毎日サブスクリプション型ビジネスのさまざまなマーケティング戦術を体験している。あなたにピッタリくるのはどの戦術だろう。それぞれの戦術からどんな印象を受けるだろう。何があなたを行動へと駆り立てるだろう。
私たちは皆、創造的で有能なマーケターになる力を備えている。重要なのは、従来の考え
方、つまり、これまでのやり方や競合他社の動き、業界の動向にとらわれない広い視野をもつことだ。
サブスクリプション型ビジネスで長期的な成功を収めるには、価値の付加、実証、育成によって、顧客と継続的な関係を保つことが必要だ。どんな企業に目を向けても、きっと何か得るものがあるだろう。
あなたはサブスクリプション型ビジネスのマーケティングについて学ぶ上級クラスに入ったも同然である。周囲を見回せば、いくらでも学ぶことができるのだ。

アン・H・ジャンザー (著), 小巻靖子 (翻訳)
出版社 : 英治出版 (2017/11/15)、出典:出版社HP

目次

イントロダクション

PART1 サブスクリプション・シフト
1 サブスクリプション・エコノミーの拡大
2 サブスクリプションへの移行
3 マーケティングへの影響
4 ファネル再考
5 価値の育成

PART2 価値育成のための戦略
6 カスタマーローンチプランを作成する
7 早期の成功をめざす
8 顧客の習慣作りを助ける
9 トレーニングプログラムを提供する
10 顧客のストーリーを共有する
11 価値を数値化する
12 成功を祝う
13 コンテンツを通じて価値を創造する
14 コミュニティを作る
15 ファンとアドボケイトを育成する
16 アドバイスやインプットを求める
17 解約には快く応じる
18 自社のストーリーを共有する
19 ビジネスモデルに価値観を組み入れる
20 無料お試し利用者を育成する

PART3 戦略の実践
21 価値育成のためのビジネスケース
22 価値の育成を開始する
23 組織的なサポート体制を作る
24 共通の課題とリスク
25 価値育成のための4つの基本的ルール
26 マーケティング機会

謝辞
資料と注

(編集部注)
*本書の原書、Anne H. Janzer, Subscription Marketing:Strategies for Nurturing Customers in a World of Churnは米国にて2015年1月に第1版が発行され、2017年3月に第2版が発行されました。本書は第2版の邦訳です。
*読者の理解を助けるため、著者の許諾の下、本文中に適宜、原書にはない写真・図を掲載したほか、直近の状況を踏まえた情報の更新を行いました。
*訳注は文中に〔 〕で記しています。

アン・H・ジャンザー (著), 小巻靖子 (翻訳)
出版社 : 英治出版 (2017/11/15)、出典:出版社HP

SMARTサブスクリプション: 第3世代サブスクリプションがBtoBに革命を起こす!

サブスクリプションの何がすごいのか

本書は、サブスクリプションがビジネスをどのように変えるのかについて解説した本です。特に第3世代サブスクリプションについての解説が多く掲載されています。日本企業のチャンスや導入事例なども紹介されており、今後の企業の動向にも関心を向けるきっかけになるかもしれません。

宮崎 琢磨 (著), 藤田 健治 (著), 小澤 秀治 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/10/4)、出典:出版社HP

目次

プロローグ
サブスクリプションがビジネス革命を起こす
「顧客と継続的な関係を担保している」ビジネス
日本のビジネス革命の主役たり得るのはB to Bのサブスクリプション
顧客とのエンゲージメントを深め、新たなビジネスを創出する

第1章 表層としてのサブスクリプション
2018年を代表する流行語に選出
サブスクリプションも適材適所で
もっとも単純な、「値札替え」をしただけのサブスクリプション
ジレンマを避ける3つの方法
サブスクリプションは事業者に多くのメリットを与える
規模でなく、ビジネス自体が持つ「スタイル」に呼応させる
既存のセールスエコシステムを無視した直販型
破壊的イノベーションの主戦力になる
圧倒的なマス指向
シンプルでマス指向なサブスクリプションの特徴
破壊的でない建設的イノベーションもある

第2章 サブスクリプションはビジネス革命そのものだ
始まりは生命保険だった
第2世代のサブスクリプション登場
技術革新がサブスクリプションを変える——第3世代サブスクリプションの胎動
モノからコトへ——消費者の意識が変わった
決済手段の多様化
規制緩和とサブスクリプション
サーキュラーエコノミーの波も進化を後押し
親和性が高いサーキュラーエコノミーとサブスクリプション
サブスクリプションで会計処理の選択肢も広がる
料金の「高い安い」を超えたメリットがある
革新性で分けた3つのサブスクリプション
新規参入者がメインプレイヤーに取って代わる
ゲームチェンジャーがやってくる
モビリティ分野でビジネス革命が進行している
ゲームチェンジャーが市場再編・市場淘汰を引き起こす
日本企業に勝機はあるか

第3章 これが第3世代のサブスクリプションだ!
第3世代は「S」「M」「A」「R」「T」がキーワード
相互の関連性から2グループに分けて考える:エボリューション指向とイノベーション指向S (連続性) -M (相互性) -R (即応性) の連動強化によって実現するエボリューション指向サブスクリプション
サブスクリプションの成否を分ける重要ポイントは「S」の確立:購買行動を連続的に引き起こす
ビジネスモデルそのものをサブスクリプションにしてしまう
ストックビジネスやリカーリングビジネスは第3世代なのか
S (連続性) を活用した成功の道は険しいのか
「三河屋モデル」で始めるB to Cのサブスクリプション
顧客にも決定のトリガーがある
個々の状況やニーズに合わせてパーソナライズする即応性
B to Bで最初から即応性を発揮している日本企業
新しい価値を提供するサブスクリプション
変質性は第3世代を見極める決め手の1つ
日本企業の将来の狙いどころは変質性?!
ドイツ・ケーザーのSMARTサブスクリプション
段階を踏んでモノの販売からコトの販売へと転じた

第4章 GAFAコンプレックスは失敗の元
GAFA的なものへの苦手意識
日本企業の国際競争力が落ちているのは本当か
世界で覇権を握っている日本企業
コンテンツ産業で勝ったことがあるのか
ハードの価値も厳然と存在する
得意領域に目を向けよう
サブスクリプションは企業にとって、約束された「勝利の剣」たり得るか

第5章 日本企業にこそチャンスがある
サブスクリプションによって日本企業は大きく変化する
サブスクリプションは、単なる課金の仕組みではない
日々の営みが次に踏み出すべき一歩になりうる
特有のセールスエコシステムの強みと弱み
エンドユーザーとの接点(タッチポイント)が不足している
営業も販売も決済もすべてが「複雑」な日本企業
既存の産業と寄り添うサブスクリプションを目指せ
B to Bの市場にGAFA的企業は早晩進出しない。けれども…
現状維持は即ち敗退
重厚長大の製造業はエボリューション指向サブスクリプション向き
IoTを活用して進化したコマツのサブスクリプション
SMARTに踏み込まないという選択肢
とりあえずできるところからやってみる
段階的に完成形に近づいたケーザー
顧客にIDを配る意義
IDを配っても課金はしない
レガシー企業のあるべきタッチポイントの持ち方
ティア構造を組み入れたサブスクリプションが持つもう1つの難しさ
あのマイクロソフトも販社モデルだった
顧客は慣れ親しんだシステムでモノを買いたい
日本企業が直面する3つの課題
利用前に原価が決まらないリスク
「後出しの原価」をどう扱うか
強いセールスチャネルを失ってはいけない
サブスクリプションビジネスの具体的な進め方

第6章 事例編
事例1 コニカミノルタジャパン
「Workplace Hub」の衝撃
どうしたら中小企業にITを活用してもらえるのか
IT投資を行ったほうが業績は良くなる
ライセンスの手続きが必要ない
使っていなければ課金されない
ゾンビライセンスの管理にも有効
16のパターンから課金モデルを選ぶ
クラウドサービスとのすみ分け
小回りが利くアプリ導入も計画
事例2 「KINTO」
クルマ業界だけがビジネスモデルが変わっていない
駐車場と燃料代以外はすべて込み
なぜ「KINTO ONE」は3年設定なのか
長期間のクルマ利用者に新たな選択肢を提供
シニア層からの思わぬ反応
販売店網をどう活かす
事例3 ソラコム
明太子のある暮らしを実現するサブスクリプション
IoTが日々の生活の中に入り込んできた
従量制のゼロクリックサブスクリプション
事例4 東京センチュリー
B to Bにはサブスクリプションの素地がある
マネタイズの弱さと自前主義がネックに
「IoT SELECTION」が期待を集めている
デジタルビジネスにいち早く力を入れてきた東京センチュリー
ソリューションを提供するパートナー企業にもメリット大

エピローグ

図版出所:サブスクリプション総合研究所

宮崎 琢磨 (著), 藤田 健治 (著), 小澤 秀治 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/10/4)、出典:出版社HP

サブスク変革 チェンジリーダーとチェンジモンスターの戦い

アドビ変革の経緯を描く

本書は、アドビでのサブスクリプションを用いた変革の苦難を解説している本です。組織の変革がテーマになっており、変革を阻むチェンジモンスターとの向き合い方が詳しく解説されています。アドビの変革は成功例として単純に捉えられがちですが、その背景には、どの組織も抱えている課題が根強くあったことがわかります。

小沢 匠 (著)
出版社 : 日経BP (2020/4/9)、出典:出版社HP

目次

プロローグ 戦いの始まり
「やってみない?」のひと言で始まった
「なぜチェンジしなくてはならないのか?」を突き詰める
「変革を阻害するのはチェンジモンスターの存在である」
解説 「チェンジモンスターの正体」
チェンジモンスターは人ではない
満足要因と不満足要因は同じではない
チェンジモンスターが卵からかえらないようにする

第1章 最初の壁
変革対象メンバーに抱いた違和感
14人のメンバーと1オン1をセット
1オン1にあたって自分に課した7つのルール
前向きな発言を聞けて楽観的になる
冷え切ったチームミーティング
解説 「フォロワーシップ」
チームを率いる「リーダー」、リーダーに従う「フォロワー」
リーダーシップがあってもチームは機能しない
チェンジマネジメントでは「フォロワーシップ」が重要
フォロワーが身に付けるべき3つのスキル
フォロワーの5タイプ

第2章 経営プレゼンを100日プランで乗り切る
経営陣へのプレゼンは「8月25日」と決まる
参考になる文献を見つける
PMI 100Days(100日プラン)と出合う
上位概念の統合より、最下層レイヤーの統合が難関
「物ごとを変えるのは、人が生み出す価値である」
100日プランで経営陣のモンスター化を防ぐ
100日プランで作成した資料
100日プラン⇨ 1. プリンシプル
100日プラン⇨ 2. 100日ロードマップ
100日プラン⇨ 3-1. 100日間で決着すべきイニシアチブ
100日プラン⇨ 3-2. コミュニケーションプラン
100日プラン⇨ 3-3. Decision Making Process/Criteria
100日プラン⇨ 4-1. チェックイン 4-2. マンスリーレビュー
100日プラン⇨ 5. マイグレーションチーム
経営プレゼン——乗り切る
解説 「100日プランの効用」
100日プランの効用は「見える化」
100日プランの中で重視したこと
「WHAT」(何を)、「WHO」(誰が)、「WHEN」(いつまでに)
経営陣・マネジメント陣・メンバーなど、隅々に広げる

第3章 キックオフミーティング、「チェンジモンスター」出現
メンバーに初めて伝える
キックオフで使ったプレゼンテーション資料
過去の経緯を振り返り、非礼をわびる
会議中に膨らみ始めた「違和感」
アカウントマネジメント部のマネジャーとの1オン1
マネジャーの危機感は不安感、そして不信感に
部内で連鎖的にチェンジモンスター誕生
上司の言葉に見えた「別のモンスターの卵」
上司の考えは今なら理解できる
解説 「バリュープロポジションの阻害」

第4章 カスタマーサクセスへの「4つのサービス指針」
サブスクリプションとカスタマーサクセス
「4つのサービス指針」を示す
(1) Solution Roadmap Management
(2) ROI Management
(3) Maturity Management
(4) Stakeholder Management
サービス指針示すも、メンバーは変わらず
次のマネジャー候補を4つの指針のオーナーに指名
解説 「サブスクリプションモデル」

第5章 最大のピンチ、ついに四面楚歌
メンバーが次々辞めていく
「このままだと全員辞めてしまうよ。どうする?」
私がモンスター?
採用見直しで現状打破狙う
マネジャー候補の頑張りでようやく好転
私もメンバーも「違い」を実感

第6章 行動と意識を変えた「KBOワークショップ」
納得感を得るためのワークショップ
ジブンゴト化するのに最適
投資を通す際のお客様視点のKBOツリー
カスタマーサクセスのKBOツリー
KBOの要素ごとのアクション、手法、ツール、頻度

第7章 「お客様の声」がカスタマーサクセスの会社に変えた
周りの部門を変える
「お客様の声」は企業の経営アジェンダにひも付く
社内の誰も持っていない情報を武器に
お客様にとっての「トラステッドアドバイザー」
アカウント会議の仕切り役を変えた意図
社長へのレポートでカスタマーサクセスへの信頼を得る
「私はお客様の声を誰よりも持っている」
解説 「『お客様の声』の指標と正しく導くメソドロジー」
「お客様の声」を正しく導くメソドロジー
「ペインチェーン」を使ってお客様の声を聞く
お客様から「聞きづらい情報」を聞き出すには
なぜ他部門のペインチェーンを知らなくてはならないのか?
インフルエンスマップ
「誰に話を聞き、誰に情報を伝えるか」がわかる

第8章 チェンジマネジメントの振り返り 危険な「バイアス」
人の意思決定をゆがませてしまう「バイアス」
数字バイアスと近親バイアス
「近親バイアス」に支配されたチェンジマネジメント
時間の経過とともに美化されがちな「成功体験」
「バイアス」を知ることで意思決定が変わる

第9章 プレッシャーとの戦いで生きた「マインドフルネス」と「コーピング」
チェンジマネジメント時の強烈なプレッシャー
マインドフルネス「自分のインナーメンタルに問う」
「大事な仲間に失望されたくない。正直、それが一番怖い」
マインドフルネス、私のやり方
ストレスカード
コーピングでストレスを消す
心落ち着けるもの/心躍るものを書き出す

第10章 新たな挑戦「Discipline」
営業部門のチェンジマネジメントを引き受ける
対象部門に欠けていた「Discipline」
自律的に続けることができる状態に持っていく
「結果を出すか自律するか」をメンバーに問い続ける
承認と達成を繰り返す
やるべきことをやり続け、成果を出し、協力者に感謝する
Disciplineがチェンジマネジメント成功の最大要因

エピローグ

小沢 匠 (著)
出版社 : 日経BP (2020/4/9)、出典:出版社HP

プロローグ
戦いの始まり

「やってみない?」のひと言で始まった

当社(アドビ)には「1オン1」と呼ぶ、上司と1対1の面談が隔週であります。その場で、当時の上司である常務から次の言葉を聞いたのが始まりでした。

「あの部門を変えたいと思ってるんだけど、やってみない?」

「あの部門」とは、当時「アカウントマネジメント部」と呼ばれ、当社のデジタルマーケティングのソフトウエアを扱う部門の1つでした。当社では、日本はもちろん全世界で、すべてのソフトウエア製品をパッケージ販売からサブスクリプションモデルに移行していました。その中でも特にデジタルマーケティングに関するソフトウエア製品はパッケージ販売のような売り切りモデルではなく、サブスクリプションモデルによってお客様との一定期間のライセンス契約をしていました。サブスクリプションモデルではお客様と複数年の契約を結ぶ場合もありますが、たいていは1年間の契約です。アカウントマネジメント部の目的は、お客様とのサブスクリプションモデル契約を更新してもらうことでした。そのために、製品に対する問い合わせや、製品の障害やバグがあった際の顧客とのやり取りを一手に担っており、当社にとって重要なポジションでした。

「アカウントマネジメント部」は私の上司配下の部署ですが、私は当時「アカウントマネジメント部」ではなく、「コンサルティング本部」という別の部署の本部長でした。

上司の「やってみない?」の問いかけに、私は「やります」と即答しました。

振り返るとこれが、組織変革の始まりであり、「チェンジリーダー」になった瞬間でした。

「なぜチェンジしなくてはならないのか?」を突き詰める

1オン1で即答した後、私が最初に着手したことは「そもそも、なぜ組織変革をしなくてはならないのか?」を自分の中できちんと理解し整理することでした。

ここからは当社の事業に関することですが、しばしお付き合いください。私は組織を変革する理由を3つ見いだしました。

1つめは当社のソフトウエア製品が直面していた変化でした。これまでの提供形態は、パッケージ販売という名で、電気量販店などに陳列された「箱」に入ったソフトウエアを販売する「売り切り&使い切りモデル」でした。それをすべて、クラウド上にあるソフトウエアをユーザーがダウンロードすることによって簡単に提供できるようにし、月額課金制や使用度合いによって課金する「サブスクリプションモデル」に全社的に変わろうとしていました。特に変革の対象となったデジタルマーケティング製品群は大半をクラウドベースで提供し、サブスクリプションモデルが主力ビジネスとなりつつありました。

このモデルの変化によって、「既存顧客に継続的に製品を使い続けてもらうこと」の重要度は一段と高まりました。当社のビジネス成長に関わる戦略が一変したと言えます。

当社は米国に本社があり、世界中に拠点があります。日本以外にもかつて「アカウントマネジメント部」はありましたが、現在はすべて「カスタマーサクセス部」に名称を変更しています。当時、日本だけが遅れた状況だったのです。カスタマーサクセス部は、サブスクリプションモデルの中核を担う部門です。

2つめは競合の台頭でした。当社は、買収した「SiteCatalyst(サイトカタリスト、現・Adobe Analytics)」というソフトウエアを中心に、デジタルマーケティングの統合ソリューションのラインアップを充実させています。この分野は成長していましたが、ライバルとの競争が厳しくなっていたのです。

ライバルに勝ち続けるには、積極的に顧客との関係性を深め、顧客の声を聞き、その声と期待を超えるサポートをしていく必要がありました。それが「カスタマーサクセス」であり、今回の組織変革の対象となった新部署の名称にもなっています。

3つめは、お客様との関わり方の変革です。「既存のお客様に継続的に使い続けてもらうためのカスタマーサクセス」の基本原則は、「お客様の課題を積極的に見つけて解決していく」というプロアクティブな関わり方です。「お客様から何かお問い合わせがあったら応える」というリアクティブな関わり方ではいけません。

この変革のためには、アカウントマネジメント部の役割と業務を変える必要がありました。米国や欧州地域、アジアパシフィック地域では続々とアカウントマネジメント部をカスタマーサクセス部へと名称変更すると共に、サービスレベルを変更したのです。何よりもお客様への関わり方が、今までのサポートから「お客様の成功=ソリューション導入による投資対効果(ROI)を創り出す部門になること」に変わったことが大きな理由でした。

「変革を阻害するのはチェンジモンスターの存在である」

私が自分の中で理由付けが整理できた時点では、実際のところ何一つ事態は変わっていません。しかし理由付けをしたことで、「なぜ組織変革をするのか」の問いに対して、誰もが理解できる言葉を得たのです。これが、組織変革の原動力となりました。

変革に関係するすべての人に、変革の必要性を理解してもらわねばなりません。これこそが最初に取り組むべきことです。「自分の言葉で話せるようになること」は、変革を起こす上で不可欠であり、関係者からの協力や賛同を得ることにつながっていくのです。

当然ながら、「なぜ」を伝えるだけでは関係者全員の協力を得ることはできません。「変革する」ということは、それまでの価値観ややり方を否定する面があり、変革しようとしても、それを阻害する要因が多く現れます。

その代表が「チェンジモンスター」です。マサチューセッツ工科大学の元教授であるマイケル・ハマー氏は次のように述べています。

「新しい変革を取り入れるようになったときに反対する人の気持ちは様々です。『今の体制に慣れているから壊したくない』『失敗するのが怖い』『失敗したときの後処理が面倒くさい』などと考えている人を、1人ひとり説得するのは非常に難しいものです」

変革に失敗する組織の敗因の多くは、変革そのものの内容ではなく、変革に反対する人の心情にあるというのです。

ボストンコンサルティンググループに属していたJeanie Duck氏は自らの著書『The Change Monster – THE HUMAN FORCES THAT FUEL OR FOIL CORPORATE TRANSFORMATION AND CHANGE』の一節で、

「変革を阻害するのはチェンジモンスターの存在である」

と述べています。その日本語訳から以下に引用します。

チェンジモンスターとは、人間的・感情的なものから生まれる変革に対する「阻害要因」を指す。人間関係のもつれ、慣れ親しんだ伝統を捨てることへの恐れといったものだ。通常、これらは変革過程で最も軽視されているものだが、様々に姿を変えて出現し、変革を妨害し、ときには挫折に追い込む。いわば、変革をかきまわす「怪物」である。
(『チェンジモンスター―なぜ改革は挫折してしまうのか?』東洋経済新報社、ジーニーダック著、ボストンコンサルティンググループ訳)

「カスタマーサクセス」の導入に向けた組織変革の生々しい活動を本書に書いています。振り返ってみると、組織変革の具体的な活動(=チェンジマネジメント)のすべては、「チェンジモンスター」との戦いでした。本書では、チェンジリーダーがいかにしてチェンジモンスターと戦ったのか、その記録であると同時に、読者自身が組織変革を担う際に役立つように、その方法論を整理したものです。

小沢 匠 (著)
出版社 : 日経BP (2020/4/9)、出典:出版社HP

解説
「チェンジモンスターの正体」

本編では「チェンジマネジメントはチェンジモンスターとの戦いだった」と書いています。では、「チェンジモンスター」とは何でしょうか。

・チェンジモンスターは人ではない

チェンジモンスターについて誤解を招かないように、きちんと伝えておきたいことがあります。それは、「チェンジモンスターは人ではない」ということです。チェンジマネジメントに向き合った経験のある方なら実感していることでしょう。

チェンジモンスターとは、「人々の志向/思考のギャップや防衛本能から生まれる発言と行動」です。「心の衛生」が侵される危機感から生まれる発言や行動とも言え、それは、人であればとても自然なことです。人を指さして「あのひとはチェンジモンスターだ」と言ったり、「あの人ってチェンジモンスターかもしれない」と思ったりするのは誤りです。誤りであるだけでなく、その指さしている人の発言や思考自体が、チェンジモンスターの卵になり得るのです。

・満足要因と不満足要因は同じではない

なぜ「人間であればとても自然なこと」と言えるのでしょうか。その点について、米国の臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが「動機付け・衛生理論」で説いています(図表0-1)。

ハーズバーグは、ピッツバーグ心理学研究所で働く約200人のエンジニアと経理担当事務員に聞き取り調査を実施しました。「仕事をしているとき、どういうことによって幸せな気持ちや満足に感じることがあったか」「どういうことで残念な気持ちや不満を感じることがあった」と質問したのです。その答えから、私たちの仕事において「満足」を引き出す要因(=「動機付け要因」)と、「不満足」を引き起こす要因(=「衛生要因」)は、別ものだとわかったのです。

仕事上の満足は、「達成感を得ること」や「承認されること」、また、仕事そのものへのやりがいや責任を持つことを実感して「昇進」した時に強く感じることが多いとわかりました。興味深いのは、たとえこれらが欠けていたとしても、仕事上で不満足にはならないということです。

一方、仕事上の不満足は、「会社の方針とマネジメント」や「上司自身そのもの」「上司との関係」が原因であることがわかりました。具体的には、中期経営計画などの戦略とその管理方法、上司の振る舞い/発言/行動/服装/歩き方、などです。その他、「労働環境・条件」「給与・昇給」などが満たされないことも不満足の要因でした。「仕事上の満足」と同様に、これらが満たされたからといっても、満足感が得られるわけではありません。

私自身も実感していますが、自分が達成感を得られたり自分自身を承認されたりすることは、心地の良いものであり高い満足度につながります。一方で、会社が進もうとしている方向性や方針、そして上司を含む上位マネジメントの人間性、思考、発言、行動、打ち出す方針や判断のすべてにおいて、「共感できない」と不満足感を抱きます。

・チェンジモンスターが卵からかえらないようにする

ここで「不満足」の中身を見ると、それは会社や上位マネジメントへの「反発」であることがわかります。この反発は一概に悪いわけではありません。例えば、「お客様と日々向かい合う現場の方が正しく、マネジメントが上位になるほどお客様の声から遠ざかってしまい、現場の声とお客様の声をきちんと理解しないまま間違った意思決定をしてしまう」といった事象は、多くの企業で実際に起こっているはずです。

ハーズバーグの「動機付け・衛生理論」と、この「上位マネジメントは基本的に間違っている」という事実を理解していると、マネジメントの方針を柔軟に変えることで、チェンジモンスターが卵からかえることを極力抑えられます。

正直なところ、私は最近になってようやくこの考えに至りました。本書で紹介しているチェンジリーダーを担っていた当時30代半ばの私は、ハーズバーグの理論を聞いたことはありましたが、まだうまく使いこなせていませんでした。

小沢 匠 (著)
出版社 : 日経BP (2020/4/9)、出典:出版社HP

サブスクリプションで売上の壁を超える方法(MarkeZine BOOKS)

サブスクサービスを継続的に利用してもらうためには

本書は、サブスクリプションサービスを継続して利用してもらうためにはどうすればいいかという点に重点を置いて、サブスクリプションについて基礎から解説しています。実務的な話を用語の解説を加えながら説明しているため、入門者からサブスクビジネスに関わっている人までおすすめです。

西井 敏恭 (著)
出版社 : 翔泳社 (2020/1/23)、出典:出版社HP

はじめに

この本を手に取っていただき、ありがとうございます。西井敏恭です。
「サブスクリプションで売上の壁を超える」が本書のテーマですが、みなさんはサブスクリプションって、どんなビジネスだと思いますか。

毎月定額の、使いたい放題のサービス?
それとも、定期的に売上が立つ、収益性の高いビジネスモデルでしょうか?

初めにみなさんには、サブスクリプションに対して抱いているイメージを一度リセットしてほしいと思います。なぜならサブスクリプションは、新しいビジネスモデルの話ではなく、マーケティングの捉え直しの話だからです。

私は前著『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』で、「マーケティングとは、売れ続ける仕組みづくりと、買いたい気持ちづくりである」と定義しました。
なぜかというと、これまでの日本のマーケティングは、広告をはじめとしたプロモーションに寄りすぎていたので、それを引き戻したいという想いがあったからです。
とりあえず商品を買ってもらうことをゴールとし、そのためにプロモーションを行い、できるだけ顧客獲得単価を下げる打ち手が優先されてきました。
本当は、顧客と良い関係をつくり、その関係を続ける仕組みをつくることがマーケティングの役割なのですが、商品やサービスについて、顧客がどう感じているかを多角的に知るのは難しい時代だったのです。

しかし、スマートフォンやIoT(Internet of Things)、AIなどのテクノロジーが進化したおかげで、顧客のデータを集めることは以前よりも容易になりました。さらに、幅広い種類のデータを集められるようになったため、顧客の気持ちによりアプローチしやすくなっているのです。
つまり、プロモーションに重きを置いた、商品・サービスを買ってもらうことがゴールのマーケティングではなく、商品を買ってもらってから、サービスを契約してもらってからのマーケティングが考えられるようになっています。
これが、マーケティングの捉え直しであり、サブスクリプションにおけるマーケティングの基本でもあります。
テレビや雑誌が見られなくなった、広告が効かなくなったという実感は、みなさんももっていると思います。商品やサービスを売るまでがマーケティングの中心だった時代が、ついに終わろうとしている。
企業は、商品やサービスに継続的なメリットやベネフィットをもたせ、顧客が使い続けたいという気持ちをつくることを、マーケティングのゴールにしなければなりません。

サブスクリプションとは、顧客が商品やサービスを使い続けたい気持ちをつくること。
これを心に留めて、本書を読み進めてもらえると嬉しいです。

1回 何回も
企業 売れる 売れ続ける
ユーザー 買いたい 使い続けたい

顧客が継続して使い続けたい、と思うマーケティングを考える

さて、本題に入る前に自己紹介もかねまして、私が「サブスクリプションについて語ろう」と思った理由をお話しさせてください。
私がマーケティング業界で仕事をするようになってから、約16年が経ちました。2003年頃からネット通販会社のウェブマーケターとしてキャリアをスタートし、6年間お世話になった化粧品会社のドクターシーラボでは、デジタルマーケティングの責任者を務めました。
そして2014年からは、オイシックス・ラ・大地のCMO、現在はCMT(チーフ・マーケティング・テクノロジスト)として関わり始めました。同時に、コンサルティング事業をしている株式会社シンクロを起業し、ECだけでなく、メディアやアプリ、スポーツチームなど、多くの企業を支援し、そのうち80%はサブスクリプションに取り組んでいます。

オイシックスでの私のミッションは、同社の事業成長とそれを支えるサブスクリプション・プラットフォームの確立です。
「オイシックスって、野菜のECじゃないの?」と思われる方が、いらっしゃるかもしれません。
もちろん有機野菜を中心とした食材のECは行っていますが、実は「おいしっくすくらぶ」というサブスクリプションがメインの事業なのです。
オイシックスは、創業した2000年からサブスクリプションに取り組んできましたので、「オイシックスは先見の明がありますね」とよくいわれます。しかし、創業メンバーからは「最初からサブスクリプションビジネスをやりたくて今の形になったわけではない」と聞いています。
オイシックスが提供したい「豊かな食卓をつくる」という価値を実現しようとしてきた結果、今のようなサブスクリプションの形になったのです。実際に2000年当時、サブスクリプションという言葉を聞くことはほとんどなかったと思います。
おかげさまで、オイシックスの会員数は約20万人となり、サブスクリプションの「おいしっくすくらぶ」も、時代とともに変化をし続けています。この成長を支える土台に、サブスクリプション・マーケティングがあるのです。

気がつけば、サブスクリプションに取り組む企業やブランドが増えてきました。シンクロで支援している企業も、サブスクリプションで売上を伸ばしています。
一方で世間には、サブスクリプションの成長に伸び悩んだり、撤退してしまうサービスがあることも事実です。こうした状況は、インターネット市場が盛り上がり、「これからはネット通販だ」とさまざまな企業が進出した2000年代と似ているなと思います。あのときも、ネット通販で大きく成長した企業がある一方、すぐに撤退した企業も少なくありませんでした。
サブスクリプションとは、「顧客が商品やサービスを使い続けたい気持ちをつくること」といいましたが、サブスクリプションの難しさは、まさにこの顧客に使い続けてもらうことに他なりません。これが売上の壁として、私たちの前に立ちはだかります。
ですが、サブスクリプションは、面白くて挑戦しがいのあるビジネスだと私は実感しています。ちゃんと取り組めば、売上の壁は超えられます。
サブスクリプションを一時期の流行で終わらせては、もったいない。私が知るサブスクリプションのノウハウを広く伝え、多くの企業と顧客の幸せにつなげたい。
そんな想いから、この本を書くことになりました。

本書では、サブスクリプションの始め方から成長のさせ方までをわかりやすく実践的に解説しています。自社のサブスクリプションを成長させたい、改善したいと考える方にとって少しでも得るものがある内容にまとめました。
また、これからサブスクリプションに挑戦したいと考える方には、ぜひ本書を予習として読んでいただきたいと思います。そして、サービスがスタートしたときに復習がてら本書に立ち戻る。机上の空論ではなく、実践に役立つ一冊になれば嬉しいです。

それでは一緒に、サブスクリプションで売上の壁を超える方法を見ていきましょう。

西井 敏恭 (著)
出版社 : 翔泳社 (2020/1/23)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 サブスクリプションとは何か
サブスクリプションの定義
サブスクリプションは「使い続けたい気持ち」をつくる
なぜ今、サブスクリプションなのか
テクノロジーがマーケティングを変えた
サブスクリプションは月額定額制ではない
サブスクリプションはなぜ失敗するのか
広告の限界
すべての企業にサブスクリプションの可能性がある
従来のモデルからサブスクリプションに挑戦した企業
顧客の期待以上のサービスを提供する
ユーザーのペインを解消する
まとめ

第2章 サブスクリプション・マーケティングとは
マーケティングが変わる
サブスクリプション・マーケティングの3つのポイント
「買う」から「利用する」への変化
「買う」時代のマーケティング
「利用する」時代のマーケティング
サブスクリプションが商流を変える
データ活用による顧客体験の改善
新しいテクノロジーを生かす
顧客体験の中にデータを集める仕組みをつくる
テクノロジーで顧客の好みをカスタマイズ
データをどう理解するか
顧客と企業による成功の共創
顧客の成功を一緒につくる
顧客の成功を知る指標を設定する
顧客の成功を企業が積極的に支援する
顧客の成功体験を広げる
営業しないコミュニティマーケティング
まとめ

第3章 サブスクリプションの事業のつくり方
サブスクリプションは3つに分類できる
クラウド型とは
クラウド型サブスクリプションの特徴
シェアリング型とは
シェアリングエコノミーとサブスクリプション
予約購買・利用型とは
サブスクリプションの事業をつくるフレームワーク
PTCPPという5つのステップ
ステップ1 ペインの発見
ステップ2 トライアルで仮説検証
ステップ3 コアバリューづくり
ステップ4 事業計画の確定
ステップ5 プロダクトマーケットフィット
ゼロから事業をつくったクラウド型のサービス
サブスクリプションの拡大を促す3ステップ
ステップ1 共感
ステップ2 パーソナライズ
ステップ3 入口商品づくり
選ばれなければ意味がない
顧客に暮らしを提案できているか
サブスクリプションは暮らしを提案する
暮らしの提案は伝わりづらい
その暮らしを選ばない人もいる
顧客に退会をお願いしてもいい
顧客の成功体験をアップデートできているか
暮らしの変化をキャッチアップする
ビジネスアセットをおさえる
サービスを進化させていくチーム
まとめ

第4章 サブスクリプションのKPI
サブスクリプションのKPIの考え方
「ユーザー」「顧客」「会員」の違い
サブスクリプションのKPIは3つ
KPIは「林」で考える
会員数の考え方
「新規会員」「継続会員」「解約会員」に分ける
新規会員を考える3つの要素
解約会員は「新規」「中堅」「ベテラン」に分ける
稼働率の考え方
「稼働率が下がったからセール」は間違い
休眠会員は必ず起こす
単価の考え方
クラウド型およびシェアリング型の単価設定
予約購買・利用型の単価の設定
アップセルとクロスセルで単価を上げる
価格を上げることは悪いことか
解約率を下げる方法
もっとも大切な打ち手は何か
パーソナライズで解約を防ぐ
解約・再入会のハードルを下げる
見過ごされがちなカスタマーサポートの役割
カスタマーサポートはプロフィットセンター
セルフ解決やチャットボットを取り入れる
解約が顧客をよび込むという例外もある
まとめ

第5章 サブスクリプションの事業計画を立てる
未来を映すサブスクリプションの事業計画
従来のPLではサブスクリプションの収益は表せない
サブスクリプションの事業計画の立て方
エクセルでつくるサブスクリプションの事業計画
会員が増え、黒字になるまで
広告費はどのように計算するのか
顧客獲得の広告費はLTVから算出する
LTVを試算する
LTVを伸ばすことは解約率を下げること
まとめ

第6章 顧客中心の組織をつくる
従来型組織とサブスクリプション型組織の違い
従来型組織ではサブスクリプションは難しいか
サブスクリプション型組織は円形
各部署のプロをつなぐサービス進化チーム
顧客を中心として、部署間を横断的につなぐ
サービスの成長をけん引し、新事業を生む
組織の全員がマーケターであってほしい
組織とブランディングの幸せな関係
サブスクリプションのブランドとは
インナーブランディングの重要性
まとめ

終章 サブスクリプションとこれからのマーケティング
サブスクリプションがベストか
サブスクリプションで売上の壁を超える5つのポイント
ポイント1 LTVを伸ばすマーケティングをする
ポイント2 事業をつくるときは小さく始める
ポイント3 顧客の解約率を下げる打ち手が最重要
ポイント4 LTVがCPOを超えたときが広告投資のタイミング
ポイント5 顧客を中心とした組織をつくる
これからのマーケティング

おわりに

西井 敏恭 (著)
出版社 : 翔泳社 (2020/1/23)、出典:出版社HP

サブスクリプション実践ガイド――安定収益を生み出すビジネスモデルのつくり方

様々な業種の事例を紹介

本書は、サブスクリプションビジネスについて様々な業種の事例を紹介しています。ビジネスモデルの概念やサブスクについての基本的な考え方などを具体例を交えながら解説しており、初心者にもわかりやすい内容となっています。

目次

CHAPTER 1 サブスクリプションビジネスとは何か
サブスクリプションとは何か
あらゆる分野で広がるサブスクリプション
なぜサブスクリプションが重要なのか?
サブスクリプションは決して「他人事」ではない
日本におけるサブスクリプション

CHAPTER 2 サブスクリプション4つのモデル
サブスクリプションの4つのモデル
(1) 定期購入モデル
(2) 頒布会モデル
(3) 会員制モデル
(4) レコメンドモデル
日本と海外との違い

CHAPTER 3 サブスクリプション成功の鉄則
「顧客にとっての価値」とは
成功の鉄則は「お得・悩み解決・便利」
(1) プランニング
(2) 基本設計
(3) 販売促進(マーケティング)設計
(4) 会員管理設計、リピート施策設計
(5) 定点観測と改善

CHAPTER 4 成長企業はどのように実践しているのか
事例① 富士山マガジンサービス
新たなプラットフォームを築く
事例② MEJ
徹底した顧客志向と分析で成長するヘルスケア通販
事例③ エアークローゼット
個人の趣味嗜好やファッションのお悩みにシェアリングエコノミーで応える
事例④ ネオキャリア「jinjer」
サービス品質と大胆な投資で拡大するプラットフォーム
事例⑤ 大嶌屋
99%は電話! 細やかな顧客対応で躍進する食品通販

CHAPTER 5 サブスクリプション社会の到来
大切なのは、顧客本位のサービスやプロダクト

おわりに

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセスとは何か

サブスクリプションサービスの拡大に伴い注目されるようになったカスタマーサクセス。本書は、このカスタマーサクセスの概念や歴史・背景から実践方法までを解説しています。これからカスタマーサクセスについて知ろうとする方や仕事でカスタマーサクセスに関わる方におすすめです。

ニック・メータ (著), ダン・スタインマン (著), リンカーン・マーフィー (著), バーチャレクス・コンサルティング (翻訳)
出版社 : 英治出版 (2018/6/6)、出典:出版社HP

訳者まえがき

「カスタマーサクセス」――また海外から聞き慣れないコンセプトが入ってきた。そんなふうに思われるかもしれない。しかし、カスタマーサクセスは、一時の流行語やスローガンに終わるような生易しい話ではない。多くの企業にとって極めて深刻で緊急性が高く、もはや避けることのできない絶対的な命題である。それは今後のビジネスにおいて当たり前のことになり、企業として生き残る上での必要条件になるだろう。

脅すような書き方をするのは、私が強い危機感を抱いているからだ。本書を手にした方々にも、早く同様の危機感をお持ちいただき、速やかに前向きな取り組みにつなげていただきたい。そんな思いでこの文章を書いている。

今日、消費者行動は、「所有」から「利用」へと移行している。一般の消費者だけでなく、企業の事業活動においても、この流れは加速度的に広がっている。その典型が企業向けのSaaSだ。月額いくら、というサブスクリプションモデルは、決して目新しくはないが、かつてはモノとして買う以外に選択肢がなかったあらゆるものに広がっている。読者のあなたも、アマゾン・プライム、音楽配信のスポティファイ、食品宅配のオイシックスなど、いくつかのサブスクリプションサービスを利用しているかもしれない。企業間取引においても広がっており、たとえばコマツはIoTビジネスにサブスクリプションモデルを導入している。

サブスクリプションへのシフトは、消費者側としてはありがたい。購入時の大きな出費を逃れられ、平準化された支払いになることに加え、不必要と思えばいつでもやめられるからだ。

しかし、それを提供する側はどうだろう。これまでは大型の販売契約がいくつか取れれば売上目標に達することができたが、サブスクリプションモデルでは期間あたり・顧客あたりの売上単価は小さい。薄紙を重ねるように、たくさんの顧客に、継続的に販売しなければならない。しかも顧客は簡単に離脱していくため、それを補う薄紙をさらに重ねなければならない。果てしない苦行のようだ。成功している会社は、いったい何をどうやっているのだろう。

離脱防止のために、手厚いカスタマーサポートをしよう。顧客に特別な経験を演出しよう。既存顧客にアップセル・クロスセルを掛け、顧客あたりの売上単価を上げよう。サービスをバンドル化して離脱しづらい状況を作ろう。……こうした取り組みも大切だろう。だが、カスタマーサクセス(顧客の成功)を実現するには、まったく不十分だ。

カスタマーサクセスは、これらとは大きく異なる考え方に根差している。自社の成功のために顧客をサポートするという考え方ではなく、顧客の成功を第一の目的とする。受動的・反応的に顧客をサポートするのではなく、積極的に顧客の成功を設計する。顧客の成功とは、単に要件を満たすことではない。本書の著者は「CS(カスタマーサクセス)=CO(顧客の成果)+CX(顧客の経験)」と説明しており、それは事業の成果と経験価値を併せ持つものだ。それぞれの顧客がどのような状態にあるか、自社の製品やサービスをどのように利用しているかをデータで把握し、積極的に働きかけて、顧客をよりよい状態に導く。顧客の階層に応じて、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチという対応レベルを使い分け、顧客の成功と自社の収益とが両立する合理的なバランスを取る。こうした取り組みによって成功を得られた顧客は継続顧客となり、継続顧客から得られる定期収益が自社に成功をもたらす。カスタマーサクセス部門が全社を牽引して顧客を成功に導き、サブスクリプションエコノミーにおける成功のカギである定期収益の拡大を推進する。

こうした考え方が今後のビジネスの大前提となり、カスタマーサクセスの推進は、どの企業にとっても当たり前のことになる。極端に思われるかもしれない。しかし、今日の顧客は簡単に離脱でき、乗り換えることができることを忘れてはならない。B2CでもB2Bでも、パワーは顧客側にシフトしているのだ。顧客は成功を求め、成功につながる企業、製品、サービスを選び、そうでないものからは躊躇なく離れていく。企業が優位に立って顧客を囲い込んでいた、あるいは担当者間の根回しによって顧客をつなぎ留められていたこれまでとはまったく異なる、よりシンプルでシビアな世界に私たちは立っている。そして、この世界を生き抜くためのガイドブックとなるのが本書だ。

著者の一人ニック・メータがCEOを務めるゲインサイト社は、カスタマーサクセスソフトウェアを提供する、企業向けSaaS事業者である。つまり、カスタマーサクセスを推進する企業に、そのためのソフトウェアを提供しているのだ。自社が顧客の成功を推進できなければ、真っ先に契約を失い、立ち行かなくなるのは彼ら自身であり、その主張には実践に裏打ちされた説得力がある。だからこそ本書は、カスタマーサクセスの基本書として米国で高い評価を受け、カスタマーサクセスという一大潮流の原点となったのだろう。

正直に申せば、とうとうこの領域にまで足を踏み込まねばならなくなったのか、というのが、私の読後の感想だった。当社は創業以来、CRMを事業ドメインとし、「顧客企業に結果で貢献する」という企業理念を掲げ、事業を営んでいる。コンサルティング、ソフトウェアエンジニアリング、アウトソーシングという当社のコア事業の性質上からも、顧客企業とは長いお付き合いになる傾向があり、顧客企業の事業成果に貢献すべく、社員一丸となって取り組んできた。しかし、本書を読むと、まだまだ課題があることに気づかされる。いつかこうなるのではないか、いつかはこうありたい、という考えはあったものの、ビジネス環境の急速な変化により、思いのほか早くそれが求められる時代が来てしまった。

カスタマーサクセスは喫緊の課題になっており、場合によっては生死を分ける問題にもなり得る。先進的な企業はすでにこの領域に積極的な投資をしており、継続的な成長の基盤を着々と築きつつあるのだ。さらに、ビッグデータ、AI、IoTといった技術の急速な発展がカスタマーサクセスの波を加速させ、高度化を促進している。そしてこれは当社のような事業、SaaS事業、サブスクリプションモデルの他、ほとんどすべてのビジネスに当てはまる。あなたのビジネスにも決して無縁ではないはずだ。自分たちの業界には不要、などと思ってはならない。多少の時間差があるにせよ、間違いなく、対応を迫られる時が訪れる。まさに、避けることができない絶対的な命題であることを重ねて申し上げておきたい。

米国ではすでにカスタマーサクセスの考え方が広がっており、一大潮流となっている。2018年4月にサンフランシスコで行われたゲインサイト社主催のカスタマーサクセスカンファレンス(PULSE2018)では、各社のCSM(カスタマーサクセスマネジャー)ら5000名以上が参加し、米国大手企業のリーダーを交えた250ものセッションが行われた。戦略、組織、技術、運営など多面的な切り口で繰り広げられた討議は、私には刺激が強過ぎたくらいだ。

日本でも感度のいい先進的な企業がカスタマーサクセスに取り組み、広がりつつある。あなたの会社はどうだろうか。まだ取り組んでいないとしても、遅くはない。本書を手にしている時点で、大きなアドバンテージを得ていると言えるからだ。

本書は、経済合理性に基づくカスタマーサクセスの必要性から、10の原則に沿った極めて実践的なプロセス、さらには組織面、技術面での留意事項、カスタマーサクセスの未来の絵姿まで、幅広く網羅されており、カスタマーサクセスの担い手となる者にとって、これ以上の指南書はない。まさに新しい世界を生き抜くための最良のロードマップである。

このような書籍と出会い、翻訳に携われたことを光栄に感じるとともに、カスタマーサクセスを日本で広めるという大きな責務を感じている。本書を通じて、私たちと同じように危機感を抱く同志を得て、ともに学び、それぞれの顧客の成功のために努めていければ幸いである。

さあ、ここからがあなたのカスタマーサクセスの始まりだ。シンプルでシビアな世界へようこそ。

バーチャレクス・コンサルティング株式会社
執行役員 辻大志

ニック・メータ (著), ダン・スタインマン (著), リンカーン・マーフィー (著), バーチャレクス・コンサルティング (翻訳)
出版社 : 英治出版 (2018/6/6)、出典:出版社HP

カスタマーサクセス 目次

訳者まえがき
序文

第Ⅰ部 カスタマーサクセスの歴史、組織、必要性
第1章 サブスクリプションの津波
カスタマーサクセスの緊急性が急に高まった理由
カスタマーサクセスの誕生
心理ロイヤルティと行動ロイヤルティ
サービスとしてのソフトウェア(SaaS)の誕生

第2章 カスタマーサクセス戦略
新たな組織と従来のビジネスモデルとを比較する
なぜカスタマーサクセスは重要なのか
カスタマーサクセスではないもの
カスタマーサクセスはカスタマーサポートではない
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスの他部署に対する影響

第3章 定期収益型でないビジネスにおけるカスタマーサクセス
サブスクリプションはソフトウェアや雑誌だけのものか
カスタマーサクセスの提供方法

第Ⅱ部 カスタマーサクセスの10原則
第4章 カスタマーサクセスの実践

第5章 原則① 正しい顧客に販売しよう
正しい顧客を見分ける方法
著者による補足説明

第6章 原則② 顧客とベンダーは何もしなければ離れる
金銭的リターンや事業価値が得られない
実装が遅れたり完全に止まったりしている
プロジェクトスポンサーやパワーユーザーがいなくなる
製品定着率が低い
別のソリューションを利用している会社に買収された
製品の機能が足りない
新たなトップが方向性や戦略を変えつつある
品質の低さや性能の問題に影響されている
製品が自社にとって適切な解決策でないことがわかった
人的要因
著者による補足説明

第7章 原則③ 顧客が期待しているのは大成功だ
顧客が大成功するのを支援するには、まず何が顧客にとっての成功なのかを理解しなければならない
投資利益率は概念ではなく、方程式だ
定期的に進捗を確認しよう
成功は目的地ではなく、旅路だ
理論上は理論と現実の間に差はないが、現実には差がある
著者による補足説明

第8章 原則④ 絶えずカスタマーヘルスを把握・管理する
カスタマーヘルス
管理する
把握する
絶えず取り組む
著者による補足説明

第9章 原則⑤ ロイヤルティの構築に、もう個人間の関係はいらない
自社の事業に合った指標で顧客をセグメント化する
セグメントごとに顧客カバレッジモデルを決める
カバレッジモデルに基づき顧客とのやり取りの指針を作る
顧客とやり取りする頻度を決める
強固なロイヤルコミュニティを構築して顧客同士を結び付ける
顧客のフィードバックループを作る
著者による補足説明

第10章 原則⑥ 本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ
著者による補足説明

第11章 原則⑦ タイムトゥバリューの向上にとことん取り組もう
具体的な成功の指標を固める
早い段階での価値達成に向けて何度も取り組む
すぐ調整する
著者による補足説明

第12章 原則⑧ 顧客の指標を深く理解する
著者による補足説明

第13章 原則⑨ ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める
顧客とユーザーの行動
カスタマーサクセスマネージャー(CSM)の活動
事業の成果
著者による補足説明

第14章 原則⑩ トップダウンかつ全社レベルで取り組む
(本物の)カスタマーサクセスとは何か
なぜカスタマーサクセスは避けて通れないのか
カスタマーサクセスはどのように価値をもたらすのか
どこから始めるべきか
著者による補足説明

第Ⅲ部 CCO、テクノロジー、未来
第15章 最高顧客責任者(CCO)の登場
クラウド以前のCCO
新たなCCO
専門サービス
トレーニング
カスタマーサポート
実装またはオンボーディング
カスタマーサクセス
営業
マーケティング
営業コンサルティング

第16章 カスタマーサクセスのテクノロジー
膨大な顧客情報
カスタマーサクセス管理の時間を最適化する
顧客とのやり取りからもっと多くの情報を得る
拡張性を持たせる
協働、コミュニケーション、可視化の向上
チームマネジメントの質を高める

第17章 未来はどうなっていくのか
カスタマー・エコノミー
現在の理想的なカスタマーサクセス
スターバックスとカスタマーサクセス

ニック・メータ (著), ダン・スタインマン (著), リンカーン・マーフィー (著), バーチャレクス・コンサルティング (翻訳)
出版社 : 英治出版 (2018/6/6)、出典:出版社HP

序文

現代のビジネスにおいて、「カスタマーサクセス」はバズワードだ。どの顧客もカスタマーサクセスを期待しているし、どの企業もそれを提供することを目指している。しかし、カスタマーサクセスを達成したかどうかを決めるのは誰か。本当に顧客を重視している会社なら、その答えは簡単だ。最終的に決めるのは、顧客である。

本書にあるように、クラウド時代には本当の意味での顧客第一主義への移行が求められてきたが、顧客満足とカスタマーサクセスは必ずしも同義ではない。サブスクリプションモデルにおいては、企業は常に顧客が勝利するよう働きかけ続けなければいけない。うまくいっている企業では、1日も欠かさず顧客の成功を目指している。自分の成功のことは考えていないのだ。どの顧客も最高の経験をすべきだし、成功に向けたゆるぎない献身を企業から受ける価値がある。しかし、成功は標準化できるものではない。そのことを理解している企業が、最大の報酬を得られる。

顧客第一主義を究極まで取り入れるということは、顧客の話を聴き、クラウド、モバイル、ソーシャルメディア、分析技術などを活用して、自社のサービスを顧客の立場に寄せて運用するということだ。そしてもちろん、本当の意味で顧客を大切にするということは、顧客のまだ満たされていないニーズを深く理解するということである。その理解が自社の組織でカスタマーサクセスを運用するための戦略、チーム、仕組みを築く基盤となる。

私はセールスフォース・ドットコム社のセールス兼カスタマーサクセス部長として、カスタマーサクセス活動の展開を確認できる特別な立場にあった。16年前に初めてカスタマーサクセスの概念を取り入れたのがセールスフォースだ。それはCEOであるマーク・ベニオフのビジョンの核心であり、その後年月が経ち顧客が増えてからも、当社は顧客がわずかだった頃と同じようにカスタマーサクセスに取り組んでいる。その背景にあるのは、カスタマーサクセスが私たちの活動すべてを動かしているという事実だ。単なる概念でもなければ、1つの部署だけが担当すべきことでもない。カスタマーサクセスとは私たちのコアバリューであり、すべての社員が行うべき仕事である。

私が入社した6年前から、セールスフォースではカスタマーサクセスにこれまで以上の厳密さを取り入れてきた。組織を事前対応型かつデータ重視型の部署へと変革したことが、顧客による活用と定着につながり、顧客の成功を生み出した。私の部署には4000人近くの専門家がおり、顧客が当社の製品価値を十分に引き出し、自分の事業を変革できるように献身的に支援している。当社で私は、顧客中心の文化には変革力があることを知った。私は、当社のプラットフォームを使って顧客同士が革新的な方法でつながることで、顧客が驚くべき成長を遂げる様子を目の当たりにした。当社の成功は、その後で訪れたのである。

私はテクノロジー業界に30年いるが、セールスフォースが生み出したような相互ロイヤルティがベンダーと顧客の間に生じたのを見たことはなかった。これは、私たちがカスタマーサクセスに投資したいと思っており、顧客も私たちのカスタマーサクセスに投資したいと思ってくれているからだと、私は信じている。これが本文に書かれている「心理ロイヤルティ」なのだ。

カスタマーサクセスは画一的な提案ではなく、カスタマーサクセスを下支えするテクノロジーと同じ速度で進化している。顧客の成功には、顧客との絶え間ない確認と、顧客のニーズに基づいた製品やサービスの適用が必要だ。セールスフォースでは、常に成功に関する自社製品の概念にノウハウ、イノベーション、情報を加えて再構成し、顧客ごとのビジョンを実現できるようにしている。具体的には、データサイエンステクノロジー――ビッグデータ分析や高度なビジネスインテリジェンスなど――を活用して、タイムトゥバリューを、そして顧客の成功を推進している。

他のあらゆる組織と同じく、カスタマーサクセスも変化を続けるビジネスの状況に対応しなければならない。この分野の場合、CRM(顧客関係管理)はここ数年で単なる営業自動化ツールから顧客のプラットフォームに近いものへと変革しており、営業以外にもサービス、マーケティング、分析、アプリケーション、IoTまでをも網羅するようになった。CRMの定義と範囲が広がるのに合わせて、セールスフォースも1つの事例のみへの導入から顧客の企業全体を運営する形へと進化した。それに伴って、私たちカスタマーサクセス部門の戦略にも変化が求められている。主に個々の導入事例の成功に尽力していたグループだったのが、役員会議の席を与えられて、事業変革に協力する組織へと変わっているのだ。

よく訊かれるのが、カスタマーサクセスへの投資の必要性をどう根拠づけるのかということだ。これは私の考えだが、正しく進めれば根拠の必要はほとんどない。カスタマーサクセスとは、自社の顧客リストを守り、新たな機会につなげ、顧客の中から生涯を通じてアドボケート〔企業やブランドの擁護者、代弁者〕となってくれる人を生み出すものだ。効果的に運用すれば、最大の営業・マーケティングツールになり得る。本文にもあるように、カスタマーサクセスは正しいだけではない。緊急課題なのだ。そのため、私たちのチームは常に顧客の利用状況、定着率、そして最終的な収益に対する責任を負っている。私たちの成功は、顧客の成功と直接つながっているのだ。

今も成長中のカスタマーサクセスという原理原則の歴史と、その原理原則に対する考えをまとめてくれたゲインサイトに、心から感謝したい。本書は、カスタマーサクセスを日々の業務に導入したい会社にとって、取り掛かりから成功までが盛り込まれた素晴らしいガイドブックである。顧客重視の企業にとっては最高の時代がやってきた。そして、顧客の視点で未来を見通すことのできる企業にとって、チャンスは無限にある。そう、未来はもうここにあるのだ。

成功を祈って。

マリア・マルティネス
(セールスフォース社セールス兼カスタマーサクセス部長)

ニック・メータ (著), ダン・スタインマン (著), リンカーン・マーフィー (著), バーチャレクス・コンサルティング (翻訳)
出版社 : 英治出版 (2018/6/6)、出典:出版社HP