日本一学生が集まる中小企業の秘密: 社員20人なのに新卒採用に1万人が殺到

本書は、人材採用・育成のコンサルティングや学生の就職支援活動を行う株式会社Legaseed(レガシード)代表取締役である近藤悦康氏による著作であり、人材採用で悩む経営者に、人材採用を成功させるノウハウと考え方を伝えることを目的としています。プロローグでは、一人の採用が3億円の投資であるということや、大手を蹴ってでも中小企業を選ぶ若者もいるということ、自社の将来の成長ビジョンを共有できる人材を採用するのが重要であるということ、新卒採用は単に優秀な人材を集めることを目的としているわけではなく、新卒採用を通して会社組織全体をイノベートすることを目的としているということが述べられています。

序章は、「なぜ、あなたの会社はデキル人材が集まらないのか?」と題され、採用すべき人材の条件は抽象的ではなく、具体的に明確にするということや、就職サイトの広告だけではなく自社に適した人材の集め方をすること、採用活動ではお金を使うよりも学生目線の説明会や選考会などをすること、新卒採用活動は人を採ることだけを目的にするのではなく、そこで出会う学生の今後の人生や既に働いている社員の意識や行動をより良くし、会社が成長することでより良い社会を作り上げていくことを意識すること、などが重要であるとしています。

第1章「「集まらない、活躍しない、続かない」が会社の悩みのタネ」ではまず、優秀な人材が集まらないという経営者の悩みの原因は、大手企業と自社を比較して自社を低く捉える考え方に問題があるとし、新卒採用の失敗の原因にもなる誤った思い込みを8つ紹介しています。また、採用活動は絶対にマンネリ化させないようにし、毎年イノベーションさせる必要があることや、採用の成功は「定着力×戦力化」の達成で初めて成功と言えること、長期のインターンを探し自身の人材価値を高めようとしている学生が増えていること、人材から「選ばれる」企業になるためには、会社員自身が誇れるような会社であるべきということが述べられています。

第2章「「ニワトリ」が先か「タマゴ」が先か!?」では、「顧客満足」や「社員教育」、「会社作り」などそれぞれの観点に沿いながら人材採用の重要性について説明する内容になっています。最後には「中途採用」と「新卒採用」の比較をし、新卒採用のメリットについて詳しく説明されています。

第3章「会社で活躍している人材を採用チームに抜擢しなさい!」では、まず「採用力」とは「企業ブランド」と「人材戦略(人事制度)」、「採用活動」の質の高さで決まるとされ、最後の「採用活動」の項目はすぐ変えることのできる部分であると言及されています。そしてこの「採用活動」の要素は「求人プロモーション」、「採用プロセス設計」、「採用チーム」であり、学生が入社を決める理由で「一緒に働きたいと思える社員がいるかどうか」や「採用スタッフが魅力的かどうか」が多く挙げられることからも、「採用チーム」の人材のレベルがいかに重要であるかが示されています。ここでは、採用担当者にはどのような人物が望ましいか、また採用担当者は経営者の代弁者であり、後継者にもなりうるような存在であるということも述べられています。

次に、第4章「広告だけに頼らない「人が集まる」マーケティング戦略」では、まず求人広告を上げる媒体は費用に対してどれだけの効果があるかで判断すべきであると述べられます。また、求人広告の書き方も詳しく説明されています。本章では、ターゲットの学生を効率良く呼び込むための「ピンポイントマーケティング」、社員によって紹介・推薦された人に通常の選考プロセスを受けてもらう「リファラル採用」、早期や長期インターンシップを活用する「囲い込みマーケティング」、説明会などのイベントにおける満足や意外性によって学生に会社の口コミを起こしてもらう「口コミマーケティング」、ターゲットの学生の元に直接赴くなどといった「攻め型マーケティング」など、様々なマーケティング戦略について知ることができます。

第5章「入社したくなる選考フローのつくり方」は、内定を出した後の学生に内定辞退をされないためには、学生を「魅了」するような採用をする必要があるという言及から始まり、そのための採用における様々なポイントについてまず述べられます。次に会社説明会については、会社の未来を創造することに対する責任やレベルが社員とは異なる、社長自らが学生の前で会社の存在意義やビジョンなどについて語る必要があることや、その語るべき内容、また「説明型」ではなく「参加型」であるべきということが述べられています。本章では他にも、会社のオフモードを見せる必要性とメリット、学生のそれぞれの欲求の違い別に提供する会社の情報を選ぶこと、採用において重要なタイミングを押さえた活動や機会づくりなどについて詳しく説明されています。

第6章「筆記試験と面接で見極めると「ミスマッチ」が起こる」では、学生の印象や面接官自身の主観によって合否が左右されるのをなくすために、会社の求める人材要件や判断基準を明確にして面接官をトレーニングすることや、面接の最中ではなく面接をし終えた後に、できるだけ多くの客観的事実に基づく情報を収集して合否判断を下すことが重要であると述べられています。そのためには5W1Hでの具体的な質問を投げかけることによって、学生の過去の行動事実に着目し、入社後会社でどのように再現されるかを確認することが面接では大切であるとあります。本章では、求める人物像を明確化するには単なる定義からの判断ではなく言動や行動から見極めること、その言動や行動を見える状態にするにはどのように選考に取り組めば良いかなどが具体的に説明されています。

第7章「究極の採用は「採用活動をしない」こと」では、採用活動をしなくても必然的に一緒に働きたいという仲間が集まるような価値ある会社にするために、社員にとって「入社してよかった会社」にすることの重要性やその方法について述べられています。その方法として、組織内に信頼感、貢献感、一体感などといった主要な8つの「感覚」が満たされる、社員が働きやすい環境を築くことが挙げられています。本章では、経営者や幹部が社員を大切にしたいという気持ちをカタチにするための、筆者が経営する会社における様々な取り組みの例が具体的に説明されています。

本書は、企業が人事採用において学生の人気を得るためにどのような活動をするべきか、また採用では何を心がけるべきかなどが詳しく説明されており、経営者や採用関係者にとって企業により良い採用活動のあり方を学ぶのに有効な内容であると言えます。また、企業目線での採用の仕組みを知ることができるという点で、企業側だけでなく就活生にとっても参考になる内容です。