【最新】ESGについて理解するためのおすすめ本 – ESG経営から投資まで

ESGとは?具体的な取り組みは?

ESGとは「Environment・Social・Governance」の頭文字を取ったもので、今日の企業の長期的な成長のために3つの観点を持った取り組みが重要であることが広まっています。SDGsだけでなくESGに配慮した取り組みをしている企業に対する投資も重視されるようになっています。ここでは、企業価値の向上が期待できるESGについて理解を深めるためにおすすめの本をご紹介します。

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出典:出版社HP

投資家と企業のためのESG読本

ESGについて理解するための入門書

本書は、ESGと最前線で向き合ってきたアナリストが、ESG投資の過去、現在、そしてこれからを分析するとともに、企業のIR部門はESG投資家に対してどのような情報開示を実施するのが有効なのかを提示しています。初学者におすすめの一冊です。

足達 英一郎 (著),村上 芽 (著), 橋爪 麻紀子 (著)
出版社 : 日経BP (2016/11/11)、出典:出版社HP

 

はじめに

今から17年前、1999年は日本でエコ・ファンド元年と呼ばれた。環境問題に対する企業の対応を評価して、銘柄選定を行う「エコ・ファンド」が相次いで、日本で発売された年だった。そのうちの一つ「UBS日本株式エコ・フアンド“エコ博士”」の企業調査を担うこととなり、筆者はチームの一員となった。
当時、国内の運用機関の皆さんからは、「環境対策はコストだ。環境問題に熱心だからといって、仮に中長期的にだとしても、優れた投資成果を上げられるとは思わない」という声を多数、頂戴した。一方、公開された情報がないので、上場企業に調査票をお送りしたり、インタビュー調査を申し込んで回答をお願いするのだか、「そんな細かいことを聞いてどうするのですか?」と企業の皆さんにも訝しがられた。「総会屋みたいな仕事はお止めなさい」と真顔の忠告を頂戴することもあった。
それでも、先進的な投資家・運用機関の皆さんの存在と、理解ある企業の皆さんの存在で、曲がりなりにも今日まで仕事を続けることができた。調査領域は、環境側面に留まらず、社会側面やコーポレートガバナンス側面に拡大した。投資家の顔ぶれも、企業年金基金や公的年金にも広がっていった。調査チームも、2006年6月にはESGリサーチセンターに改称した。ESGを冠する部署名としては、日本国内で初だったのではないかと自負している。
しかし一方で、日本のESG投資拡大が遅々として進まなかったのも事実である。特に機関投資家の世界において、この傾向はハッキリしていた。海外の関係者と意見を交わすたびに、「なぜ、日本で拡大しないのか」という理由を考えあぐねてきた。
それが、2014年後半くらいから雰囲気が急変する。アベノミクスの材料としてESG投資が取り上げられるようになってからのことである。株の格言に「政策に売りなし」があるが、業種や銘柄ばかりでなく、運用スタイルにもこれは当てはまるようだ。あちこちでセミナーが開催され、投資方針にもESGが盛り込まれるようになった。ただ、多くの皆さんの関心が高まり、その裾野も拡大することによって、ESG投資とは何か、ESG経営とは何かが分かりにくくなった側面も否めない。
世界や日本の統計でよく用いられる、「インテグレーション云々」といった類型も、どうも理解しにくい。筆者自身は、常日頃、世界や日本のESG投資は4つの類型に大別できると感じてきた。そこで、我田引水の誇りを恐れず、この類型を読者の皆さんにご披露して、ご意見を仰ぎたいと考えた。
さらに、一種のブームの様相を呈している日本のESG投資だが、それが着実に定着するかについては、筆者は決して楽観視はしていない。突き詰めていくと、それは内発性の多寡の問題にたどり着くが、本書で示したいくつかの私見は、決して「冷や水を浴びせよう」というのではなく、「克服すべき課題を明らかにしたい」という意図であることを汲み取って頂ければ有難い。本書が、投資家、運用機関そして企業の皆さんの、ESG投資とは何か、ESG経営とは何かという疑問に、何らかの回答の手がかりを示すことができれば幸いである。

足達 英一郎 (著),村上 芽 (著), 橋爪 麻紀子 (著)
出版社 : 日経BP (2016/11/11)、出典:出版社HP

 

contents

はじめに
第1部 ESGをどう見るか
1 ESGって何だ
にわかに出現したESGブーム/SRI、CSR、サステナビリティとは何が違う/「企業の健全性」と「地球や社会の健全性」との関係
2 ESGと投資家
もう株価指数やレーティング、ランキングだけではない/社債、国債、不動産への広がり/ESG投資家4つの類型
3 コーポレートガバナンスを重視する投資家
日本企業とコーポレートガバナンス/外国人投資家がもたらしたもの/アベノミクスによる後押し
4 社会課題起点のキャッシュフローを重視する投資家
社会課題こそ宝の山/ポーター教授のCSVが人気になるわけ/インパクト投資という発想と対象の広がり
5 ダウンサイドリスク回避を重視する投資家
企業暴走の怖さとGとE+Sの結婚/企業不祥事情報から見えてくる危うい企業/「事業等のリスク」を長期視点で占う/テールリスクを回避する投資行動
6 ユニバーサルオーナーシップを重視する投資家
ユニバーサルオーナーという考え方/脱炭素社会とダイベストメント/自らの資産を守るための行動
7 エンゲージメントの機能とその期待
ESG投資における「株主との対話」/米国のProxy Voteと共同エンゲージメント/日本国内のE+Sを巡るエンゲージメント
8 年金運用とESG投資
日本がESG投資に出遅れたわけ/年金運用が直面する課題/GPIFはどう動いたのか
9 企業は情報開示の要請にどう対応すべきか
網羅的・総花的開示だけが最善ではない/マテリアリティ選定の落とし穴/SASBを参考にする/ESG投資家に向けたIRのポイント/非財務情報開示の将来をどう理解するか

第2部 ESGを理解するためのトピックス40
1 トリプル・ボトム・ライン
2 スチュワードシップ・コード
3 コーポレートガバナンス・コード
4 責任投資原則
5 炭素予算と座礁資産
6 ダイベストメント
7 脱炭素経済
8 炭素価格
9 CDP
10 再生可能エネルギー
11 グリーンボンド
12 水危機
13 気候変動への適応
14 CATカンド
15 環境不動産とREIT
16 国債の環境格付
17 ダイバーシティ(ジェンダーとLGBT)
18 責任あるサプライチェーン
19 子どもとマーケティング
20 海外腐敗行為防止
21 租税回避
22 ベーシック・ヒューマン・ニーズ《医薬品へのアクセスの問題)
23 食糧問題(食品と聞)
24 紛争鉱物開示規制
25 土地収用と先住民の権利
26 企業の人権ベンチマーク(Corporate Human Rights Benchmark)
27 国際統合報告評議会(IRC)
28 持続可能な証券取引所イニシアティブ
29 米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)
30 XBRL
31 自然資本と自然資本プロトコル
32 OECD多国籍企業ガイドライン
33 世界持続可能投資連合
34 金融安定理事会
35 ARISTA(責任投資のリサーチのための品質規格)
36 マイクロファイナンス
37 インパクト投資とインパクト評価
38 PPPとインフラ投資
39 ベンチャー・フィランソロピー
40 持続可能な開発目標(SDGs)

参考資料
おわりに

足達 英一郎 (著),村上 芽 (著), 橋爪 麻紀子 (著)
出版社 : 日経BP (2016/11/11)、出典:出版社HP

 

1冊で分かる! ESG/SDGs入門

読みやすく書かれたESGの専門書

ESGとSDGsを企業経営において、どのように整合性をもたせ、株主と経営者の合意が得られる企業展開を図るかを解説した書籍です。文章が分かりやすい言葉で書いてあり、ESG/SDGsについてあまり知らない方でも、すんなりと読むことができます。また、図やデータが沢山記載されていて、理解を深めるのに役に立ちます。

大森 充 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2019/6/6)、出典:出版社HP

 

はじめに

近年、ESGやSDGsという言葉を、テレビ、新聞、雑誌、ネットなどさまざまなメディアで見かけるようになりました。「またよく分からない横文字が出てきたなあ」「どうせ流行り言葉でしょ」「そもそもなんて読むの?」という思いでひとまずこの本を手に取ってくださった方も多いのではないでしょうか。あるいは、経営陣から「うちの会社はこれからESGやSDGsに取り組むから、しっかりと対応を検討するように」と言われたことをきっかけに、読んでみようと思ってくださった方もいらっしゃるかもしれません。
実はESGやSDGsは一部のビジネス界だけの言葉ではありません。皆さん一人一人の生活にも大きく影響し、全世界的に注目を集めている考え方でもあります。
ESGは「イーエスジー」と発音し、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を取った言葉です。2006年、当時の国際連合事務総長コフィアナン氏が、「地球の長生き」のためESGを意識した投資を行うよう投資家に呼びかけたのが、ESGという言葉が生まれたきっかけです。「地球の長生き」とは一体どういうことでしょうか。例えば、世界のCO2排出量がこの先も今と同じペースのまま続くならば、あと30年で世界の平均気温は2°C上昇すると言われています。「2C上昇したら冬が少しは暖かく過ごせていいんじゃないの?」と考える方もいるかもしれません。しかしながら、平均気温が2°C上昇するということは、海水温の上昇、猛暑日や熱帯夜の恒常化、台風の巨大化等の現象ももたらすことになります。近年の世界的な異常気象はこうした地球温暖化の表れかもしれません。今、地球の健康状態の悪化は、以前よりもはるかに深刻さを帯びた問題となっているのです。
また、地球の長生きの問題に加え、世界には人道的・社会的に解決しなければならない社会課題がたくさんあります。そこで国連は2030年までに解決しなければいけない社会課題を「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」と称して具体化することで、世界的な取り組みを促そうとしています。SDGsは「エスディージーズ」と発音します。日本という豊かな国で生活している中では目に触れる機会はあまりないかもしれませんが、「飢餓をゼロに」「安全な水とトイレを世界中に」といった17の目標と169項目のターゲットを提示しています。
こうした背景のもと、企業はこれまでのようにビジネスをしてお金もうけをするだけではなく、投資家、消費者などとともに地球市民の一員として皆で協力しあい、ESGやSDGsへの対応を行っていこうという大きな流れが生まれました。
2017年7月、世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF: Government Pension Investment Fund)がESGやSDGsにしっかりと取り組む企業への投資を始めたことをきっかけに、日本でも多くの企業がESG/SDGs対応を進めるようになりました。また、日本政府は2016年に本部長を内閣総理大臣としたSDGs推進本部を立ち上げ、地方創生の文脈と合わせて自治体と民間企業がビジネスを通じて日本の社会課題を解決するというモデルを構築しようとしています。
地球に長生きしてもらい、そこに住む我々にとってもよりよい生活環境を維持・向上させるための活動がESG/SDGsの取り組みです。しかしながら、まだまだその概念や考え方が浸透していないのが現状です。本書がESG/SDGsに関心を持った方々の理解を深め、また、それぞれの企業でESG/SDGsの実際の取り組みを進めていく方々のお役に立つことができれば望外の幸せです。
株式会社日本総合研究所 大森充

大森 充 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2019/6/6)、出典:出版社HP

 

CONTENTS

はじめに
第1章 背景と言葉を理解しよう
1.ESGとSDGS
2.社会性の議論の流れと登場する言葉の理解(ESGとSDGsとは)
3.日本にESGの大きな潮流が生まれたのは2016年
4.ESG評価会社は企業の何を見ているか
5.日本におけるESGからSDGsの動き
6.じわじわ迫るESG/SDGs対応の波
7.あらゆるステークホルダーから求められるESG/SDGs対応の要請
ColeBrush ESG/SDGSが流行り言葉で終わらない理由

第2章 求められるESG/SDGs対応を理解しよう
1.現状延長では地球崩壊?将来成長・発展に対する切迫感
2.社会課題をESGとSDGsのフレームで理解する
3.社会課題対応(環境編):「気候変動」と「脱プラスチック」
4.社会課題対応(社会編):「ダイバーシティ」と「インクルーシブネス」
5.社会課題対応(ガバナンス編):「非財務目標の設定」と「経営陣のコミット」
6.SDGs視点で見る社会課題
SDGs達成度ランキングで日本は11位から15位へ

第3章 ESG/SDGs対応の好事例を、見て理解を深めよう
1.シーン別の事例整理
2.東京エレクトロン:価値創造ストーリーとしてESG/SDGsを統合
3.SGホールディングス:ESG/SDGsの重要課題視点で語る経営
4.サントリー:2050年を見据えた課題設定
5.ピジョン:非財務目標を規定するESG/SDGs基本方針
6.TBM:石灰石でプラスチック代替素材LIMEXを開発
7.セイコーエプソン:紙の地産地消を実現する
8.PaperLab花王:製品ライフサイクル全体で捉えたCO2排出量を基にした製品開発
9.東京海上ホールディングス:地方創生と健康経営によるSDGsへの貢献
10.フェリシモ:社会課題解決企業への投資を主目的とする投資子会社の設立
11.Apple:サプライチェーン全体で社会貢献
12.高島屋:両立支援に向けた8つの育児勤務制度
13.オムロン:役員の業績連動報酬の一部をESG/SDGsと連動
ESG/SDGs対応はCSR担当だけで対応するものではない

第4章 手順に従ってESG/SDGs経営を実践してみよう
1.ESG/SDGs経営実践の手順
2.現在のESG/SDGs対応レベルを把握する
3.到達地点を設定する
4.価値創造ストーリーを考える
5.重要課題(マテリアリティ)を特定する
6.重要課題に対する打ち手を検討する
7.SDGSで新規事業を考える
8.打ち手の非財務目標を設定する
9.サステナビリティ方針としてとりまとめる
10.非財務目標と財務目標を連動させる
11.統合報告書等で開示する
SDG Compasst
おわりに
付録① SDGs17の目標と169のターゲット
付録② ESG/SDGs関連用語集

1冊で分かる!ESG/SDGs入門

執筆協力 足達英一郎、村上芽、藤井正輝
装幀・図版制作 酒井栄一(ストローク・デザイン)

大森 充 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2019/6/6)、出典:出版社HP

 

第1章
背景と言葉を理解しよう
1.ESGとSDGs
2.社会性の議論の流れと登場する言葉の理解(ESGとSDGsとは)
3.日本にESGの大きな潮流が生まれたのは2016年
4.ESG評価会社は企業の何を見ているか
5.日本におけるESGからSDGsの動き
6.じわじわ迫るESG/SDGs対応の波
7.あらゆるステークホルダーから求められるESG/SDGs対応の要請

ESG経営 ケーススタディ20

最新の事例からESG経営を学ぶ

本書は、ESG経営のヒントになるケーススタディー集です。環境・CSRの専門誌『日経エコロジー』は先進企業を多く取材し、連載「ケーススタディ環境経営」で取り上げています。本書はその中から読者の人気が特に高かった20社を紹介しています。

日経エコロジー (編集)
出版社 : 日経BP (2017/6/22)、出典:出版社HP

 

はじめに

いま「環境経営」は「ESG経営」へと大きく進化しようとしています。
グローバル企業は、温暖化対策や資源循環に加えて、世界が抱える社会課題の解決や生物多様性に配慮した経営を強化しています。また、投資家や金融機関も、そうした取り組みを加味して投融資を判断する動きを加速させています。
日本国内でも、ESGを意識した経営が求められるようになっています。例えば、世界最大の公的年金基金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、ESGで優れた日本企業を構成銘柄とする株価指数(インデックス)の運用を開始しました。今後、日本企業も従来の環境対策やCSR活動に加えて、より一層の温暖化対策の推進、貧困や人口減少などの社会課題解決、天然資源の持続可能性に配慮した調達などを進めなくてはなりません。
本書は、ESG経営のヒントになる最新のケーススタディー集です。環境・CSRの専門誌である『日経エコロジー」は「環境対応と社会課題解決で経営を革新する」というコンセプトの下、先進的な環境経営に取り組む企業を数多く取材し、連載「ケーススタディ環境経営」の中で取り上げています。本書は、その中から読者の人気が特に高かった3社を厳選して紹介するものです。
取り上げる先進事例は多岐にわたっています。第1章では、ESG投資の促進や、SDGsを活用した事業の推進、中長期の環境ビジョンを策定するなど、最新ツールを活用するなどして新たなサステナブル経営を模索する4社の事例を紹介しています。第2章では、パリ協定を踏まえて政府が策定した2030年度までのCO2削減目標を達成するためにZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の普及や、水素インフラの構築を進める5社の事例。第3章では、人口減少や過疎化など日本が抱える社会課題を解決しながら事業化を目指す3社の事例。第4章では、持続可能な原料調達や生物多様性に配慮するなど「自然資本」を意識して企業価値の向上に取り組む5社の事例。第5章では、先行企業買収や途上国開拓、継続投資などによってグローバルな経営基盤の構築を推進する3社を紹介しています。
すべての事例とも、日経エコロジーの記者が経営者や環境・CSRの担当役員などの幹部取材と、事業の現場に足を運んで密着取材して執筆しています。巻末にはケーススタディーの中で登場するキーワードを解説した「ESG経営を理解する最新キーワード5」を掲載しています。今後のESG経営の推進に役立てて頂ければ幸いです。
日経エコロジー編集部

日経エコロジー (編集)
出版社 : 日経BP (2017/6/22)、出典:出版社HP

 

CONTENTS

はじめに
第1章
ESG、SDGs、環境ビジョン
サステナブル経営の3種の神器を使いこなす
コニカミノルタ環境部が売り上げに貢献
大日本印刷新しい価値生みSDGsに貢献
デンソー2025年、技術で業界をリード
TOTO成長と節水の一体化打ち出す

第2章
水素、ZEB、BEMS
2030年度のCO削減目標達成に向けて省エネを徹底
大和ハウス工業法人施設のZEB化で先行
川崎重工業水素社会のトップランナーに
積水ハウス集合住宅で創エネを駆使
竹中工務店既存ビルのZEB化で受注拡大
清水建設災害に強い街をエコで実現

第3章
人口減少、女性活用、地方活性化
日本の社会課題を解決し次代の主力事業に育てる
リコーオフィスから地域の課題解決へ
佐川急便物流で社会課題を解決
コマツ購入電力9割減で地域も活性化

第4章
持続可能な調達、生物多様性、都市の再開発
「自然資本」経営で企業価値を持続的に向上
積水化学工業自然資本経営、飛躍への挑戦
イオン持続可能な調達で先陣切る
サントリーホールディングス使った水を「倍返し」、エコを力に
住友林業「緑」の事業で成長期す
三菱地所自然と防災で国際都市競争に勝つ

第5章
先行企業買収、途上国開拓、継続投資
グローバルな環境経営で世界で存在感をアピール
日立造船買収で切り開いた世界への道
東レ「超継続」が1兆円事業生む
ヤマハ発動機途上国で「生涯の顧客」つかむ

巻末資料
ESG経営を理解する最新キーワード5

日経エコロジー (編集)
出版社 : 日経BP (2017/6/22)、出典:出版社HP

 

第1章
ESG、SDGs、環境ビジョン
サステナブル経営の3種の神器を使いこなす

ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった

ESG普及のプロセスを元に全体像を把握する

世界がESG思考に至る経緯が丁寧かつ明確に説明されていて、とても分かりやすいです。経済に関する認識や思想の違いをもとに4つのモデルに分けて説明されるので、それぞれの主張と行動の背景が掴みやすくなっています。この領域の経験者には頭の整理になりますし、初心者には入門書になるような一冊です。

 

はじめに
スターバックスの本当の姿を日本人は知らない

コーヒーチェーンで日本でも有名なスターバックス。今や世界約3の国と地域で3万店舗以上を運営するほどのグローバル企業だ。店舗でコーヒーを販売するために1年間で調達しているコーヒー豆の量は約20万トン。コーヒーは1杯当たり10グラムの豆を使っていると言われているので、この割合で換算すると1年間で300億杯を提供していることになる。
このスターバックスが、2018年7月に「世界中の店舗で使い捨てプラスチックストローを2020年までに廃止する」と発表したことが大きな話題を呼んだ。スターバックスの使い捨てプラスチックストローの年間使用数は推計1億本。このときの発表では、世界では毎年800万トンのプラスチックが海に流れ込み、それが生態系に悪影響を与えているという海洋プラスチック汚染の問題を提起し、業界の一企業としてこの問題を傍観しているわけにはいかないと、使い捨てプラスチックストローを廃止する理由を説明した。
使い捨てプラスチックストローの廃止という衝撃的な発表に対し、私の周辺でも賛否両論が聞かれた。賛成派は、海洋プラスチック汚染問題にグローバル企業が関心を寄せ、廃止を決めたことを大歓迎していた。一方反対派からは、ストローばかりを問題視しても意味がないといった意見や、ストローを必要としている人もいるので一方的な廃止はむしろ社会にとってマイナスだという意見も出た。ちなみにこの日の発表でもスターバックスは、必要な人にはストローを提供すると表明しているのだが、いずれにしても、賛成派にとっても反対派にとっても、企業が何やら最近、環境問題に関心を寄せ始めていることを感じさせるニュースとなった。スターバックスは、シアトルにある本社が作成した年次報告書の中で、次のようなことを言っている。
今日、市場の中でのスターバックスのブランド力のおかげで、当社は範を以てリーダーシップを発揮する機会を得ている。当社の責任は、事業パートナー、消費者、サプライヤー、株主、地域社会など、スターバックスのステークホルダー(利害関係者)に対して説明責任を果たし、事業のやり方やパフォーマンスについてオープンに発信・対話していくことから始まる。
当初での進化は、環境分野で責任ある方針や社内規定を策定することを担う環境問題チームを発足したことにある。環境問題が新たに浮かび上がってくれば、このチームが現状を分析し、改善のための機会を探していく。
これを読んで皆さんは何を思うだろうか。環境問題に関する内容があることから、プラスチックストローを廃止するスターバックスが言いそうなことだと思ったかもしれない。また、最近メディアで「ステークホルダー型資本主義」という単語が登場し始めていることから、いま流行りの言葉が並んでいると感じたかもしれない。
しかし、私がここで伝えたいのは、この内容が記載されている年次報告書がいつのものかということだ。このスターバックスの年次報告書は、2019年度や2018年度のものではない。私がこの引用部分を引っ張ってきたのは、スターバックスの2001年度の年次報告書で、今から約20年も前のものだ。スターパックスの人気メニューの一つである「抹茶クリームフラペチーノ」の日本での販売が始まるのが2002年3月なので、この年次報告書はそれよりも前に世に出ていた。
では、次の内容は、同じくスターバックスのどの年の年次報告書のものだろうか。
スターバックスとCI(著者注:国際環境NGOコンサーベイション・インターナショナルのこと)は、今後の気候変動に対応し、当社の責任あるコーヒー育成手法であるC.A.F.E.プラクティスのインパクトを測定することで協働するため、5年間のパートナーシップを更新した。スターバックスは今後3年間で750万ドルを提供することにコミットし、その半額以上をメキシコとインドネシアでの現場プロジェクトに投ずる。我々の計画は、そこで得た知見を、アジア太平洋、アフリカ、アラビア、中南米の他のコーヒー農家でも実施支援していくことにある。特に、C.A.F.E.プラクティスに参加する農家を拡大し、当社のガイドラインを通じて、農家の事業支援、世界の動植物の種のための重要な生息地の保護、潜在的な気候変動からの悪影響に対する農家の対応支援に取り組む。
この中に登場するC.A.F.E.プラクティスとは、スターバックス独自の自主的な取り組みで、環境と農家の所得に十分に配慮してコーヒー豆を調達するという、いわば「フェアトレード認証」と「エコ認証」を同時に満たすような高い水準の調達基準のことを指す。この年次報告書が発表された年には、スターパックスは創業以来初めて、調達したコーヒー豆全体に占めるC.A.F.E.プラクティスでの調達割合について目標を定めた。その成果は、定めた目標%に対し実績は一%と、目標を大幅に上回っていた。同じ年には、他にも数多くの定量目標が設定された。たとえば、「今後3年間で直営店舗からの二酸化炭素排出量を%削減」「今後3年間で直営店舗での消費電力の3%を再生可能エネルギーに切り替え」「全新設店舗で環境ビルディング認証を取得」「今後8年間で飲料カップの5%を再利用可能なものに切り替え」というようなものだ。
さて、あらためて、これらの内容が記載されていたのは、どの年のスターバックスの年次報告書だろうか。気候変動や、飲料カップの再利用といった内容があることから、今度こそここ数年のものだと思ったかもしれない。しかし残念ながら答えはまったく違う。これは、2008年度の年次報告書だ。
スターバックスの経営については、カジュアルで洗練された内装、フレンドリーな店舗従業員の育成文化、消費者から支持され続けるブランドマネジメントなどが大きく注目されてきた。しかしその一方で、スターバックスがそれら以上に何を重視し、定量目標まで設定していたかについては、日本ではほとんど着目されることがなかった。それもそのはず、スターバックスの店内表示や広告を見ても、フェアトレードや環境配慮などといった表示はほとんどない。この事実から、スターバックスは、消費者から支持されるために必要なものはフェアトレードや環境配慮といった「きれいごと」ではなく、あくまで「商品の質」と「居心地の良い空間」だと捉えていたことがうかがえる。
では、スターバックスは、消費者に訴求するためでもないのに、何のために、わざわざそこまでしてフェアトレードや環境配慮を大規模に手掛けていたのだろうか。実は、このような「わざわざ」とも思えるアクションを2008年頃から展開していたのは、スターバックスだけではない。日本でもよく知られているグローバル企業はほぼすべてこの時点で同様のアクションをとり始めていた。しかし、今に至るまで日本ではほとんど知られてこなかった。このあまり語られてこなかった大いなる謎を解き明かしていくのが、本書のテーマだ。そこに資本主義の変化の過程が隠れている(文中敬称略。肩書は当時のもの)。

※ちなみに、スターバックスは、2018年度の報告の時点で、C.A.F.E.プラクティスに基づく調達率は、コーヒー豆で99%、茶葉で95%にまで到達。すなわちスターバックスのドリンクの原材料調達は100%近くフェアトレードが実現されている。再生可能エネルギー比率は7%となり、2020年までに100%にする目標を掲げている。環境ビルディング認証取得では、すでに既存店舗にまで対象を拡大し、現在好ヵ国1612店舗で取得済み。2025年までに1万店舗にまで伸ばすことが目標だ。容器では、2022年までに再生素材利用率を8%にまで増やした上で、100%堆肥化可能にすることを目標としている。

 

目次

はじめに
スターパックスの本当の姿を日本人は知らない

第1章 環境・社会を重視すると利益は増えるのか
利益が減るから反対する「オールド資本主義」
利益が減っても賛成する「脱資本主義」
利益が増えるから賛成する「ニュー資本主義」
利益が増えても反対する「陰謀論」

第2章 オールド資本主義の時代はいつ終わったか
WTOと反グローバリズムの闘争
ナイキ不買運動とシアトル暴動
企業のグローバル投資がODAを上回る
アナンが始めた2つの装置
国連グローバル・コンパクト
日本独自の「CSR文化」が始まる。
1992年から「サステナビリティ」が広がる
2003年は日本のCSR元年
過激なNGOとアドバイスをくれるNGO

第3章 ESGとともに生まれたニュー資本主義
投資家という存在の大きさ
「機関投資家」とは誰か
日本と世界の運用会社は?
機関投資家には「受託者責任」がある
トリプルボトムラインは投資家受けが悪かった
社会的責任投資とエコファンド・ブーム
〈第1の波〉酒・たばこ・ギャンブル・ポルノの排除
〈第2の波〉武器製造とアパルトヘイトの排除
〈第3の波〉エコファンドの登場
日本にも来たエコファンド・ブーム
たった3年で終わったブーム
国連責任投資原則(PRI)の発足
ニュー資本主義の幕開け
ESG投資は受託者責任に反しないのか
50署名機関で始まったPRI

第4章 リーマン・ショックという分岐点
政府とNGOの対立が消えた
日本企業は徹底したコスト削減
欧米ではサステナビリティ経営が勃興
見えないリスクを掘り出す
1年に1つブームが起こる日本のCSR

第5章 ニュー資本主義の確立
国連責任投資原則署名機関は9年で1400に
SRIファンドとESGの違い
SRIインデックスの登場
ESG評価機関の創始者たち
ESG投資が発展するための4つの基盤
ESGの基盤1(長期思考〉
経営者たちのリスク認識の変化
ESGの基盤2(データ〉
ESGの基盤3(マテリアリティ>
ESGの基盤4(ESG評価体制》
ESG投資のパフォーマンス
日本企業の停滞
自社株買いに貴重な資本を費やす

第6章 ニュー資本主義が産み出したパリ協定・SDGs
気候変動懐疑派の退潮
京都議定書の失敗
先行する金融機関の気候変動対策
気候変動8大リスク
石炭投資引き揚げ
屈服したティム・クック
満を持して開かれたCOPTパリ会議
パリ協定に出遅れた日本
グレタ演説にグローバル企業が共感
国連持続可能な開発目標(SDGs)の採択
サプライヤーを監査する
1320兆円の成長機会

第7章 日本でのニュー資本主義への誘導
世界最大の機関投資家GPIF
GPIFのESGインデックス採用
ESGスコアを引き上げリターンを伸ばす
株主という意識が薄かった運用会社
運用会社が投資先と対話する意味
日本のSDGsブームの罠
SDGsバッジは大流行
やはりSDGs予算が削られる?

第8章 ニュー資本主義時代に必要なマインド
上場企業に必要なこと
非上場企業に必要なこと
金融機関に必要なこと
政府に必要なこと
NGOに必要なこと

おわりに 未来は自分たちでつくるしかない
補遺新型コロナウイルス・パンデミックとESG思考

重要略称
ESG(Environment, Social, Governance)環境・社会・企業統治
SDGs(Sustainable Development Goals)持続可能な開発目標
MDGs(Millennium Development Goals)ミレニアム開発目標
CSR(Corporate Social Responsibility)企業の社会的責任
SRI(Socially Responsible Investment)社会的責任投資
PRI(Principles for Responsible Investment)責任投資原則
UNEP(United Nations Environment Programme)国連環境計画

 

第1章 環境・社会を重視すると利益は増えるのか

ESG投資 新しい資本主義のかたち

ESG投資に関する最新の状勢を学べる入門書

ESG投資の概要がコンパクトに纏まっている良著です。欧州など海外での研究も重ねてきた第一人者が、これまで断片的にしか伝えられてこなかったESGをめぐる様々な動きを整理、上場企業、機関投資家双方に必須の知識を提供しています。事前知識があまりなくて、初めてESG投資について学びたい人でも読みやすい内容となっています。

水口 剛 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/9/26)、出典:出版社HP

 

はじめに

環境(E)、社会(S)、コーポレートガバナンス(G)を総称して「ESG」と呼ぶ。これを投資判断に組み込むことは、長い目で見て合理的な行動だ。ESG投資の趣旨を一言で表せば、そうなる。
「いい加減、そういう横文字をありがたがって使うのは、やめたらどうだ」
そういう人もいるかもしれない。横文字が象徴するのは、欧米で生まれた概念を輸入するという態度だからだ。よく、欧米は枠組みを作るのが上手く、日本は真面目だから律儀に守るばかりだ、といわれる。たしかにESG投資は、これまでヨーロッパの機関投資家が中心になって推進してきた。そしてここ数年、日本でも急速に浸透し始めた。その意味で、欧米発の考え方の輸入であることは事実である。
だが、「日本は真面目だから」は事実なのか。逆にいえば、なぜESG投資のような概念が次々にヨーロッパからやって来るのか。それは、彼らがそれだけ真剣だからではないのか。
それでは、なぜヨーロッパはそれほどESG投資に熱心なのか。その背景にあるのは、危機感ではないだろうか。このままでは今の社会は持たないという危機感。経済的不平等が拡大することで、資本主義に対する信頼が揺らぐ。地球温暖化に象徴されるように、経済が地球の環境容量の限界を超えてしまう。そういう危機感がESG投資を根底で動かしているようにみえる。その危機感を、日本はどこまで共有してきただろうか。
冒頭、ESG投資は長い目でみて合理的な行動だと記した。これは、単に「儲かる」という意味ではない。もし私たちが破局を避けて、持続可能な経済を築きたいと思うなら、環境や社会の側面をきちんと考慮する経済システムを作る必要がある。ESG投資は、そのようなシステムを構成する一部となる。それが結局は、投資利益も守ることになるのである。
もっとも、ESG投資が本当にそのような役割を果たすかどうかは、「どのような」ESG投資が行われるかによる。単に表面的、形式的にESG投資の「形」を備えるだけでは十分でない。実際にどのようなESG課題に着目し、どのような投資行動がなされるのか、いわばESG投資の「質」が問われるといってもよいだろう。そして、最終的な資金の出し手には、その質を見極める「目」が必要だ。日本でESG投資が広まりつつある今だからこそ、今後のESG投資とはどうあるべきなのかを考えたい。
そこで本書では、具体的なESG課題を1つひとつ取り上げて、世界のESG投資家がどう考え、どう行動しているのかをみていくことにしよう。一言でESG投資といっても、多くの論点があり、さまざまな立場があることがわかるだろう。日本のESG投資もそれらの論点にきちんと向き合うことで、単なる輸入の域を越えて、成熟していくことを期待したい。

水口 剛 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/9/26)、出典:出版社HP

 

目次

はじめに
第1章 環境・社会・ガバナンス――なぜ、どのように投資と関わるのか
1 ESG投資は誰がしているのか
責任投資原則―GPIFは何にコミットしたのか/ESG投資はどこまで広がったのか/PRI事務局の果たす役割/存在感増すアセットオーナーたち/運用機関からNGOまで
2なぜESG投資をするのか
ESG要因は投資のリスクと機会に関わる/受託者責任とESG投資の関係/時間軸で考える/ユニバーサル・オーナーシップ/政府がすべきことではないのか/非財務的な動機/受益者の共の利益とは何か
3 ESG投資とは何をすることか
投資判断への統合/除外とダイベストメント/ESGに関わるエンゲージメント/動機と方法の関係/上場株式以外のESG投資/まとめ

第2章 売却か、対話か――気候変動とESG投資
1 2度目標に向けた動き
科学が出した答え/政治が決めた目標/トランプ政権で流れは変わるか/企業側で進む対応
2投資家はどう行動してきたか
パリ協定を支援した投資家グループ/投資家自身の責任を問うーモントリオール炭素蓄約/座礁資産に気をつけろ/ダイベストメントは行き過ぎか/Aリスト入りを目指せ活発化する株主行動/ポートフォリオの「脱炭素化」とは何か
3注目集まるグリーンポンド
グリーンボンドとは何か/グリーンボンドを名乗るには/日本版ガイドラインの公表/グリーンボンドが意味すること
4脱炭素時代の投資
アセットオーナーの気候変動戦略/4つのシナリオから考える/もしあなたが投資家だとしたら?/まとめ

第3章 奴隷的な労働を許すな 人権問題とESG投資
1サプライチェーンの人権問題とは何か
強制労働の現状/どこで何が起きているのか/人権問題にどう向き合うか――国連の指導原則を読む
2サプライチェーン情報を開示せよ
現代奴隷法の要求/サステナビリティ報告書にどう書くか
3動き出した企業評価と投資行動
サプライチェーンを理解せよーウ・ザ・チェーンのベンチマーク/企業人権ベンチマーク世界500社が対象に/強まる投資家からの圧力/まとめ

第4章 経済的不平等とESG投資
1 ESG課題としての「経済的不平等」――何が問題なのか
不平等の何が悪いのか/低賃金はESG問題/PRIの問題提起
2リスク・リターン・インパクト―社会的インパクト投資の試み
ビッグ・イシュー・インベストの挑戦/G8が推進する社会的インパクト投資
3金融化を問う
「金融化」とは何か/金融化は何をもたらしたか
4経営者報酬への注目
経営者報酬開示規制の強化/イギリスでも経営者報酬が焦点に/日本は何が問題なのか/まとめ

第5章 すそ野広がるESG課題
1森林問題を考える――パーム油とESG投資
CDPフォレスト・プログラム―何が森を壊すのか/持続可能なパーム油/森林問題は人権問題である――アムネスティの指摘/パーム油発電の誤解
2持続可能なシーフード水産業とESG投資
水産業のESGリスクとは何か/タイユニオンの約束/フィッシュ・トラッカーの試み
3工場的畜産のリスク――動物愛護からESG課題へ
工場的畜産はなぜ問題なのか/「動物の福祉」ベンチマークの登場
4クラスター爆弾の除外非人道的兵器とESG投資
クラスター爆弾を巡る動き/名誉リストと不名誉リスト/GPIFは除外しないのか/ノルウェー政府年金基金に学ぶ/日本に欠けているもの/まとめ

第6章 ESG投資と実務―現場はどう向き合うか
1 ESG情報の開示――企業はどう対応すべきか
制度化に向かう世界の動き/G4ガイドラインからGRIスタンダードへ/制度化は企業を委縮させるのか/ESG評価の現場/「正しいESG評価」はあるのか、開示から対話へ
2エンゲージメント―――投資家は何をすべきか
スチュワードシップとは何か/アムンディのエンゲージメント/短期主義のアクティビストに非ず/重要提案行為とエンゲージメント/まとめ

第7章 この先のESG投資へ
1 ESG投資は何のため?
あなたのモチベーションは何か/背景にある危機感/サステナブルな金融システムーシステミックな課題への挑戦
2ケイ・レビューの指摘
なぜ短期主義になるのか/売買からエンゲージメントへ
3資本主義の再定義
資本主義が直面する3つの課題/資本概念の拡張/動的システムとしての持続可能な社会/ESG投資のなかの「責任ある投資」まとめに代えて

おわりに
参考文献

水口 剛 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/9/26)、出典:出版社HP

 

略語表

本書ではいくつかの英略語が登場する。本文の初出時に説明を付しているので、通読するうえで支障はないと思われるが、読者の便宜のために主なものを以下にまとめて示す。
ABP
オランダの公務員年金。オランダ語のAlgemeen Burgerlijk Pensioenfondsが基になっている。
COP
気候変動、水、森林に関して企業に情報開示を求めるイギリスの非営利組織。元々の名称はCarbon Disclosure Projectだったが、現在はCDPが正式名称。
CSR
Corporate Social Responsibilityの略。企業の社会的責任。
ESG
環境、社会、コーポレートガバナンスの総称。
GPIF
Government Pension Investrent Fundの略。日本の年金積立金管理運用独立行政法人国民年金と厚生年金の積立金を運用している。
GRI
Global Reporting Initiativeの略。オランダに本拠を置く非営利組織。サステナビリティ報告書の国際ガイドラインを策定してきた。
IPCC
Intergovernmental Panelon Climate Changeの略。気候変動に関する政府間パネル。気候変動に関する科学的知見を蓄積し、定期的に報告書を作成している。
NBIM
Norges Bank Investment Managementの略。ノルウェー銀行投資マネジメント。ノルウェー銀行の運用部門でノルウェー政府年金基金の運用を担当する。
PRI
Principles for Responsible Investmentの略。責任投資原則。
SRI
Socially Responsible Investmentの略。社会的責任投資。アメリカやイギリスで1920年代から行われ、ESG投資の原型となった。
TCFD
Taskforce on Climate-related Financial Disclosuresの略。気候関連の財務情報開示に関するタスクフォース。金融安定理事会(Financial Stability Board: FSB)が設置したタスクフォース。

水口 剛 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/9/26)、出典:出版社HP

 

第1章 環境・社会・ガバナンス―なぜ、どのように投資と関わるのか

ESG投資時代の持続可能な調達

会社運営に携わる人の必読書

本書は、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が広がる現代において重要性を増す「持続可能な調達」について、その意義から具体的な実践方法まで、非常にわかりやすくまとめられています。この分野の専門でない方にとっても会社運営に必須な情報が満載です。

冨田秀実 (著)
出版社 : 日経BP (2018/9/28)、出典:出版社HP

 

まえがき

筆者が、広い意味での「持続可能な調達」の分野に関わるようになって、ほぼ20年が経過した。1990年代の後半に直面した最初の大きな課題は、欧州の有害物質規制であるRoHS指令への対応だった。製品に含有する物質を規制するこの指令に対応するためには、対象となる鉛やカドミウムなどの有害物質が、サプライチェーンにおいて意図的に使用されたり、非意図的に混入したりするのを排除する必要があった。当時、筆者はエレクトロニクス企業の環境部門に所属し、この法令対応を主導する立場であったが、それを実現するために調達する部品や原材料、さらにサプライヤーの管理まで含めた包括的な管理システムを構築することが必要だった。いわゆる「グリーン調達」である。
当時、大手企業や公共セクターでも事務用品などの環境対応という側面では、既にグリーン購入に取り組んでいたが、その関係者は購買部門のごく一部に限られていた。一方、「グリーン調達」では、その結果がビジネスに直結することもあるが、研究開発、設計、製造、調達、品質管理など幅広い部門の連携による全社的な取り組みが必要となった。これが、サステナビリティ(持続可能性)の調達実務への統合の本格的な取り組みの始まりだったと思われる。
7世紀に入ると、この分野で先行していたアパレル業界に続き、エレクトロニクス業界でも、サプライチェーンにおける人権・労働問題が徐々に注目を集めるようになり、サプライヤーの人権にも配慮するCSR調達の必要性が認識され始めた。エレクトロニクス業界のサプライヤーでもアパレル業界同様、様々な人権・労働問題が顕在化してきたからである。当時、「紛争鉱物」という言葉はまだ存在していなかったが、企業などの関心は原材料の採掘段階にも及ぶようになっていた。CSR部門の責任者となっていた筆者には、過去のグリーン調達の経験から、自社と直接取引のある非常に多くの1次サプライヤーのみならず、その先の2次、3次サプライヤーまで一社だけで管理するのは、現実的ではないと感じられた。こうしたサプライヤーは、同業他社のサプライヤーでもあり、似て非なる要求を各社が一斉にすることで、混乱が生じ、ビジネスの効率を極度に低下させると危惧された。そのため、管理システムの共通化が正攻法と考え、当時、同様な考えを持ち、共通のサプライヤーを多数共有していた米国のIT企業らと協議し、2004年にEICC(Electronic Industry Citizenship Coalition)を設立、加入した。EICCは、当初エレクトロニクス企業のアライアンスとして、限られたメンバーでスタートしたが、現在、会員企業は100社を超えた。サプライチェーンの包括的な管理システムを構築し、自動車業界などの他業界も巻き込み、2017年にはRBA(Responsible Business Alliance)と改名されている。
2010年に米国で金融規制改革法(ドッド・フランク法)が成立すると、サプライチェーンの最上流の課題である紛争鉱物までを管理対象として意識せざるを得なくなる。こうした新たな要求に対しても、既に業界共通の管理手法が確立されている。このように過去を振り返ってみると、環境、人権など様々なサステナビリティの課題に対処する持続可能な調達は、当時、実現困難な課題と思われたが、現在では、現実的な取り組みとして定着しつつあることには、感慨とともに驚きすら覚える。
さらに、2015年のSDGs(持続可能な開発目標)を含む国連の2030アジェンダの採択や、我が国での年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国連責任投資原則(PRI)への署名を発端とするESG投資の広がりもあり、持続可能な調達が国際的な期待となり、一部のグローバル企業の評判リスクの課題から、すべての企業にとって避けて通ることのできない重要課題に浮上したと言えるだろう。
これまで様々な企業が、様々な手法を通じて持続可能な調達にチャレンジしてきた。こうした試行錯誤を経て、サプライチェーン管理の実践的な方法論も、現在ではかなり成熟してきている。この分野における包括的な概念として、2017年にIS020400「持続可能な調達」が発行され、本書の執筆中にもOECDからサプライチェーンの包括的な「責任ある企業行動に関するデュー・ディリジェンス・ガイダンス」が発行された。持続可能な調達が、その上位概念から一連の実務的な手法まで、確立された時代になったと言えよう。さらに、2020年東京オリンピック・パラリンピックの「持続可能な調達コード」も決定された。
こうした背景から、持続可能な調達についてビジネスパーソンから一般消費者まで幅広い人たちが理解を深めることにより、効果的で、適切な取り組みの普及につながると考え、本書の執筆に至った。
本書は、持続可能な調達を実施する上で、包括的な理解が必要不可欠となる企業の経営層を含めたマネジメント層、CSR・サステナビリティ担当者、調達担当者などを想定して執筆しているが、ESG投資関係者やエシカル購入に関心のある一般市民の方々にとっても興味を持っていただけるのではないかと思う。やや専門的な部分もあるが、この分野に対して事前の知識がなくても読み進められるようにしている。全7章で構成しており、それぞれの章の概要は次の通りである。第1章は、本書のテーマである持続可能な調達が、注目されるに至った背景、特に、企業のサプライチェーンで起こった、人権、環境などのサステナビリティ(持続可能性)に関わる様々な問題の事例を紹介する。
第2章では、NGO、投資家など企業を取り巻く様々なステークホルダーがどのような形で、この分野に関心を寄せているのか、さらに、近年、急速に進化した国際規範や各国の法令によって企業が何を期待されているか、企業にとってどのようなリスクが関連するかを解説する。
第3章では、持続可能な調達を実施する組織・企業のための包括的なガイダンスを提供する文書、IS020400「持続可能な調達」とOECD「責任ある企業行動に関するデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を紹介する。
第4章では、責任あるサプライチェーンを構築するための、一般的なサプライヤーの管理手法について、さらに、サプライヤー管理のために企業が活用できる主な業界イニシアティブを紹介する。第5章では、農林水産物などの原材料における持続可能な調達を実施するための手法としての認証スキームと、紛争鉱物などに関わる責任ある鉱物調達の管理手法を紹介する。
第6章では、持続可能な調達を実施している国内外の先進企業の事例を取り上げる。ここでは第4章と第5章で紹介する管理手法などをどのような形で適用しているか、さらに、各企業に特徴的な取り組みを紹介する。
第7章では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのために策定された、「持続可能な調達コード」の内容と特徴を解説する。加えて、今後、幅広い企業にも影響が及ぶ可能性がある公共セクターでの持続可能な調達についても言及する。
各章はそれぞれ完結しているため、関心のあるところから読んでいただければいいと思うが、特に第3章から第5章は、持続可能な調達を実践するのに役立つ情報を提供する観点から、企業実務に必要な概念や管理手法を中心に解説しているため、この分野に初めて接する方は第1章から順番に読み進めることをお勧めする。
なお、本書は、日経BP社の専門誌「日経ESG」に連載中の「待ったなし「持続可能な調達」」を大幅に加筆・再編集したものである。

冨田秀実 (著)
出版社 : 日経BP (2018/9/28)、出典:出版社HP

 

CONTENTS

まえがき

第1章 なぜ今、持続可能な調達なのか
社外の問題で済まされない。東京五輪で浮かぶ人権リスク
・ピル崩落事故の衝撃
・企業が恐れる「評判リスク」
・あらゆる産業に蔓延
・東京五輪で日本企業に厳しい視線
・毛皮、フカヒレ使わない

第2章 企業を取り巻く包囲網
NGO、投資家、顧客が要請。中小企業にも影響大きく
・「社外で起きたこと」では済まされない
・世界に4000万人の「現代奴隷」
・持続可能な開発目標(SDGs)が後押し
・影響力を増すNGOの企業ランキング
・ブランド力のある大企業が狙われる
・調達の5大ビジネスリスクに注意
・意識すべきはサプライチェーンのサステナビリティリスク

第3章 持続可能な調達に必要な要素とは
IS020400「持続可能な調達」と
OECD「デュー・ディリジェンス・ガイダンス」
・IS020400はガイダンス
・押さえておくべき13のポイント
・信頼関係の構築、向上に配慮
・なぜデュー・ディリジェンスを実施するのか
・デュー・ディリジェンスの6つのステップ
サプライヤーの管理:

第4章 良きサプライヤーを見極める
調達基準を明確化。取り組みを評価し、ともに改善
・4つのステップで実践
・サプライヤー監査の鍵はインタビュー
・要求事項を上流へ伝え
・統一基準でサプライヤー管理を効率化
・買い手と売り手が情報を共有
持続可能な原材料調達:

第5章 信頼できるモノを選ぶ
ターゲットは農林水産物と鉱物。原産地と流通過程を押さえる
・主な認証スキーム
・認証は大きく2種類
・生産者の生活を守る
・認証システムの限界
・ドッド・フランク法が転機に
・サプライチェーンの「首根っこ」を押さえる

第6章 欧米日の先進企業に学ぶ
ディズニー、アップル、ユニクロ。8大グローバル企業の挑戦
・国単位で調達の可否を決定
・200社のサプライヤーリストを公開
・年間1000件の工場を訪問
・欧米企業を追う日本企業
・農林畜水産物の100%認証へ
・2020年までに「危険化学物質」ゼロへ
・「証拠作り」の段階は終わった

第7章 東京五輪から変わる
公共調達から全国へ拡大。そしてレガシーへ
・メガスポーツイベントを狙い撃ち
・東京五輪を機に公共調達へ広がる

参考文献
あとがき

冨田秀実 (著)
出版社 : 日経BP (2018/9/28)、出典:出版社HP

 

第1章
なぜ今、持続可能な調達なのか

SDGs・ESGを導くCVO(チーフ・バリュー・オフィサー)―次世代CFOの要件

現代の経営についてしっかり学べる専門書

CFOのみならず、経営トップや関連部門すべての人に読んでほしい真の統合思考、持続可能な経営が記された良書です。全体を通して読みごたえがあり、辞書機能としても活用することができます。経営へのサステナビリティー統合の原則が把握できる一冊です。

マーヴィン・キング (著), ジル・アトキンス (著), KPMGジャパン 統合報告センター・オブ・エクセレンス (翻訳)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/5/31)、出典:出版社HP

 

この作品は、2019年6月に東洋経済新報社より刊行された書籍に基づいて制作しています。
電子書籍化に際しては、仕様上の都合により適宜編集を加えています。
また、本書のコピー、スキャン、デジタル化等の無断複製は、著作権法上での例外である私的利用を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してコピー、スキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用であっても一切認められておりません。

日本語版 はじめに

本翻訳の原著『Chief Value Officer: Accountants Can Save the Planet』(会計士は地球を救う)はマーヴィン・キング博士によるものであり,博士は南アフリカが今日の発展に至るに際し,はかりしれないほど大きな貢献をされた方です。さらに博士は,この地球という美しい感星で協働生活を営む我々に対し、人類が抱える共通の課題に向けて、今もなお高潔な信念と理性を体現し続けておられます。
私は、そのマーヴィン・キング博士の原著を日本語でお届けできる光栄を深く感謝しています。本書はその翻訳に,日本での現状を鑑みて3つの補章を追加し、一冊の本となっています。
さて,現在の地球は気候温暖化や急速な人口増加に伴う環境破壊で危機に瀕しており、この地球で事業活動を営む企業が取るべき行動のあり方や倫理は,これを取り囲む多くのステークホルダーの複雑さと相まって、まさに暗中模索にあるとも言えます。このような中、本書が提示する統合的思考と,それに支えられた統合報告は私たちが進むべき道を指し示す一筋の光とも言えます。本書は,21世紀の企業活動の中において,統合的思考と統合報告こそが企業の長期的価値創造に最も貢献できることを極めて論理的に説明しており,しかも特筆すべきは,そこに会計プロフェッショナルに対する高い期待が込められていることです。
第12章は「価値創造(と地球の保全)に不可欠な会計士の重大な役割」となっており,そこでは,会計士とは“数字の計算ばかりしている人”ではなく,“価値創造プロセスを企業に確実に存在させるための中枢的な役割”を担う人と記述されています。
そして第14章「会計士(と地球の保全)の研修を変革する」では,“会計士自身が統合的思考,統合報告,そして,それらと価値創造とのつながりについて精通しないかぎり,真の統合報告書が作成されることはまずないであろう”とまで書かれています。
私は,ながらく公認会計士として多くの企業の方々との深い関わりを持ちながら仕事をしてまいりました。その中で,我々のような「会計」に関わるプロフェッショナルが、社会から期待されている責務を遂行するには、誠実であり続けることは言うまでもなく、関係者との深い信頼関係がその根幹になければならない、と感じています。そのためには、常に自らの役割を深く自覚し、責任ある行動を取ることに臆さない者であらねばならないと考えています。
本書の原題で付された『Accountants Can Save the Planet』を心にとめるとき,我々は,そのような存在であることが期待されているのだと、
そして、私が勤務する監査法人のように,法制度上で一定の業務を独占することが許されているような存在は,この大きな変革の時代の中で自ら変わり続ける努力と勇気ある試みを持続していかなければならないのだと強く感じています。
本書の刊行にあたっては、青山学院大学名誉教授・首都大学東京特任教授であられる北川哲雄先生に1章を寄稿いただくことができました.また,東洋経済新報社の村瀬裕己氏には、企画の段階から、大変お世話になりました.心からの御礼を申し上げます。
2019年5月
KPMGジャパンCEO
酒井弘行

 

日本語版への序文

日本は,過去10年の間,経済的な変化,そしてコーポレートガバナンス改革の最前線にあり続けたと言えます。それは、いち早く統合報告を支持,導入し,そして、21世紀における価値創造のありようを理解する土台となるコーポレートガバナンスコードとスチュワードシップコードが策定されたことにほかなりません。日本の企業や大学が,多様な資本を考慮して価値を創造し,長期的に財務パフォーマンスを向上させてきていることからも明らかです。
多種多様な要素同士のつながりを理解して初めて、安定的で想定可能な範囲での経済的成果は実現できるものなのです。このことを私たちは統合的思考と呼んでいます。統合的思考は,縦割りの組織を打ち崩し,多様な資本―いわゆる社会関係資本,自然資本,財務資本,人的資本,知的資本,製造資本を縦横して存在するリスクと機会をより適切にとらえ,その変化を見定めることで、これまでの価値の概念を解き放つことができる,世界のあらゆる取締役会や経営層にもたらされる革命です。
価値創造の説明に資するモデルを提供する統合報告と、企業による多様な資本の活用の実態に関わる計測と説明の手法に変革をもたらす統合的思考により,日本は政府と民間のいずれにおいても,よりサステナブルな経済への移行に向けた,国際的なリーダーシップを発揮しています。
KPMGジャパンの調査報告で紹介されているように,日本で統合報告に取り組む組織は400を越えていますし,金融庁による開示要請の高度化や,経済産業省が提供する様々なガイドラインは、よりサステナブルな経済への移行を後押しするものとなるはずです。
2019年に開催されたB20サミットにおいても,日本は、国連が提唱する17の持続可能な開発目標(SDGs)の達成におけるビジネスの重要な役割について強調しました。すなわち、限りある天然資源の責任ある消費を促し、その恩恵を将来にわたり維持していくための、民間企業の協調に焦点を当てているのです,
移行の長い旅路(ジャーニー)のあらゆる局面において、会計の専門家は、これまで大きな役割を果たしてきました。日本公認会計士協会やアカウンティングファームは,国際統合報告フレームワークの開発において中心的な役割を担い,日本市場の価値観や商慣習が,この新たな国際的な規範に反映されるよう尽力されました.また,国際統合評議会のグローバルカウンシルメンバーを7年間つとめた東京証券取引所も,熱心に統合報告をサポートしてくださいました.
この先,日本がリーダーとして取り組むべき大きな課題は二つあります。一つは、劇的に変化するメガトレンドやコーポレートガバナンスの進展に後れをとることなく、監査と保証のマーケットを革新していかなければならないという点です。国際会計士連盟(IFAC)や,その他の検討の場において,日本が引き続き意見発信していくことを願っています。二つ目は,統合的思考を合理的にガバナンスと連動させるために,これまでのCFOの役割を発展させ,企業のビジネスモデル,戦略,そして将来のパフォーマンスにインパクトを与える多様かつ相互に関係しあう価値創造の源泉に配慮することです。新たな企業像を体現するチーフ・バリュー・オフィサー(CVO)は、将来の業績を多面的に監視し、事業と社会と環境の関係性について、投資家や他の主要なステークホルダーが理解できるよう努め,対話の質と信頼を高めていくでしょう。
これが,本書のタイトルを「チーフ・バリュー・オフィサー」(日本語版書名は「SDGs・ESGを導くCVO次世代CFOの要件』)とした理由です。本書を日本の皆様にお読みいただけることを,私も共著者も大変光栄に感じています。日本の皆様のリーダーシップは,すでに次世代のビジネスリーダーたちのインスピレーションとなっています。本書が,偉大で素晴らしい日本経済の根幹をなすイノベーションに導かれた未来において,新たな明るい展望へとつながることを願っています。
2019年4月
マーヴィン・キング

★1Business20の略称であり,G20参加各国のビジネスリーダーによる会合.2019年のB20サミットは、日本経済団体連合会(経団連)がホストとなり3月に東京で開催された.

マーヴィン・キング (著), ジル・アトキンス (著), KPMGジャパン 統合報告センター・オブ・エクセレンス (翻訳)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/5/31)、出典:出版社HP

 

日本語版刊行にあたって

本書は,国際統合報告評議会(IIRC)カウンシ
ル議長の役割を設立時から担われ,現在は同カウンシルの名誉議長であるマーヴィン・キング博士の著作「Chief Value Officer: Accountants Can Save the Planet」の翻訳に,日本の実情を踏まえた補章を追加したものです。キング博士は,IIRC設立に深く関わり,その職責において名高いだけでなく、南アフリカの発展を支える経済的土台の論理的な枠組みを提起し、実現を推進し続けてきた方であり,世界中の関係者から深い敬意がはらわれています。
私たちは,本書が刊行された2年前から,翻訳版を上梓したいとの思いを持ち続けてきました。いくつもの理由があるのですが,なかでも,現在,日本企業が取り組んでいる様々な施策の進捗とそのありようを見るときに,「統合的思考」の必要性を深く実感しているからです。本書の刊行にあたり、私たちは,本書で展開されている議論が,多くの方々の課題解決に至る道筋に,必ずや貢献できるものである、との思いをさらに強くしています。
コーポレートガバナンスの強化,スチュワードシップ・コードに適合するような投資家との対話の進展,統合報告書の作成等による報告の充実への取組,SDGsやTCFDなど,グローバルで展開するムーヴメントへの対応など、個々の課題に対する社会の関心は高く,企業の担当者のみなさまは「一つとして同じ答えのない」課題に向き合い,多忙をきわめておられようです。
しかしながら,これらのムーヴメントの背後にある課題認識への理解や,期待されている成果と目標についての関係者との共有は,はたして十分でしょうか?私たちが共通して直面している深刻な課題は、一つの組織の努力だけで解決することが不可能なほど,複雑に絡み合い深化しているのです.キング博士が指摘しておられるように「我々は,より少ないものから多くのものを生み出すことを学ばなければならず,これまで通りに事業を続けるという選択肢はない」のだとすれば,企業は,社会にある限られた資源を活用して価値を提供していくという役割を担うための「一つの機能」としてつなぎ合わされ、響きあうものとして存在していくのではないでしょうか?だからこそ,個々の企業の個性が活かされることも,また,然りなのであろうと考えます。
「統合的思考」の実践は,解を導き出すための考え方を示すものです。IIRCは「統合的思考」の必要性について指摘はしているものの,実際にはどのように思考を展開していけばよいのでしょうか?本書は,コーポレートガバナンス,企業報告,そして、価値創造の三つの側面から,歴史的な経緯も含めて,根源的な問いを振り返り,企業における包括的なアプローチを支持し、統合的思考を展開するためのヒントを多く提供しています。
時に、内容は大変抽象的と感じられるかもしれません。もっと「具体的な例がほしい」という感想もあるでしょう.しかしながら,社会科学の多くの事象は,具体的な事例を一般化し抽象化したうえで理論化し,さらに,それを実務に展開するという営みの連続から成り立っています。本書で述べられている事柄の多くを,「抽象的でわからない」ととどめることなく,実際に取り組んでいる課題へと適用していただきたいと考えました。そこで,補章をそれぞれの側面ごとに付すこととしたのです。ぜひ、その二つの「化学反応」から,「統合的思考」に基づく取り組みへと進化するステップの自社にふさわしい「道筋」を見つけて出していただけたら,と思います。
本書の翻訳にあたり、担当者が悩み,留意した事項について記しておきます。内容理解の参考にしていただけたら幸いです。
まず,「Accounting」という言葉があります。通常,この言葉に該当する日本語は,「会計」です。しかし,そう訳してしまうと文脈に組話が出てしまう場合が多くありました.AccountingはAccountを変換したものですから,本書の翻訳にあたっては,「Accountを行う」という意味合いとしてとらえ,目的や内容を考察したうえで、言葉を選び、時に補足しつつ対応することとしました。同時に,Accountabilityについても通常の日本語訳「説明責任」を付すことはせずに,そのままカタカナ表記とすることを原則にしています。
次に,「Materiality」です。通例,日本で翻訳されている文書や刊行されているものの多くでは,「重要性」と訳されているようです。しかし,本書においては,「重要性」「重要である」
という表現は用いないことにしました、原書でMateriality,あるいは,Materialが使われている場合には,そのままカタカナ表記とし,他書で「重要性」「重要」が日本語として付されることの多い「important」「significant」「critical」等についても,前後の文脈や意味合いを読み解き,別の訳語をあてています。
これは,日本企業の多くの統合報告書を調査している私たちの問題意識に基づきます。
企業の統合的思考の根幹を形成するマテリアリティ,また,マテリアルな課題への分析の記載において,企業価値との結びつきが表現されていないことが多いのです。その結果,企業のビジネスモデルや戦略,施策等に対する説明が論理的でなく,エンゲージメントの質向上にも影響を及ぼしているのでは、と見ています。統合的思考は,現時点の「つながり」だけではなく、過去から現在,現在から未来へのつながり,すなわちストーリーを描くことに貢献するものです。そして、そのストーリーの「重奏低音」の役割を担うものこそが「マテリアリティ」であり,統合的思考で検討した中で、企業価値に影響を持つと判断されるものが「マテリアルな課題」と言えるのではないでしょうか。次に,あえてカタカナ表記をした言葉に「レスポンシビリティ」があります。通常は「責任」という訳語が使われる言葉ではありますが,本書における「レスポンシビリティ」は、それぞれの主体が果たすべき根源的な役割を深く考察させられる側面で用いられていました。今ある存在としての責任,換言すれば,過去からの歴史を背負い、現在の役割を担い,どう未来につなぐのか,という社会のストーリー,循環の中での役割を自覚,実行することへのコミットメントといったニュアンスをおびています。
日本においては,「企業情報の開示の充実に向けた取り組み」が進行中です。コーポレートガバナンスの改革に続いて,「記述情報の充実」が示されていることは,まさに,本書の構成のとおりです。続く課題は,本書の順番で言えば,これをどう「価値創造」へと結びつけるか,となっていくでしょう。SDGs実現に向けた施策の中でも指摘されている
ように、今の社会的課題の解決の主役は企業にほかなりません。企業の価値創造が,社会的課題の解決と一体化していけば,きっと私たちは共通の目標を達成できるでしょう。では,それぞれの組織において推進の役割を担うのは誰なのでしょうか?企業のリーダーはCEOですが,リーダーがなすべき役割を支え実行の道筋を導く役割としてのCFO,なかでも、その「発展型」としてのCVOがカギであるとの主張が本書では展開されています。そして,様々な事象を定量的/定性的な情報で表して包括的に取り扱い,その実情を把握し、課題解決に貢献する役割を果たしうる存在として、会計的/財務的に高度なスキルを持つ会計士への期待を表しています。私たちは、その提言を強く支持したいと考えています。
かつて会計基準の構築に多くの努力が払われたと同様の,法律等に基づくルールや社会的な仕組みの構築が必要と主張する方々もおられるでしょう。しかし、たとえ確固とした枠組みがなくても,社会的にプロフェッショナルとしてみなされた存在が,自らのレスポンシビリティを誠実,かつ,謙虚に自任し,具体的な行動に移すことはできるはずです。
キング博士が高い理想と信念,見識のもとに著された本書から,日本語版の編集・訳に関わったすべての者が多くの励ましを受けることができました。深く感謝しています。私たちが抱えている課題はひとりの存在では解決しえないほど深刻なものです。しかし,この混沌とした社会をあきらめることなく、個々をリスペクトしあいながら,次の世代へとつなげていけるよう、努力と研鑽を続けていきたいと決意を新たにしています。
本書を読んでくださった方と、私たちが「どうやって地球を救えるのか」議論させていただける機会のあることを待ち望みつつ、
編著者を代表して
芝坂佳子

マーヴィン・キング (著), ジル・アトキンス (著), KPMGジャパン 統合報告センター・オブ・エクセレンス (翻訳)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/5/31)、出典:出版社HP

 

前書き

ガバナンスは,もはや広く知られる言葉である。その語源は,ラテン語で「操縦する」を意味するグベルナーレ(gubernare)である。古代の海は,澄みわたっていることが少なく,多くの場合,嵐の中での操舵を余儀なくされたという.これは今日の船員にとっても、大きなチャレンジである。いかなるコンディションの下でも船を航行し,操縦することは,すべての乗務員,貨物や船そのもの、そして船のオーナーと運搬する貨物の売買主,また,船と何らかの影響や関係性を有する者に対する重い責任を伴う.船,そして船とともに航海するあらゆるものの安全は,船長と操縦士の手に委ねられているのである.このアナロジーは、コーポレートガバナンスにも言えるであろう.役員研修は,船長や操縦士のトレーニングと同じく,会社のため、もしくは何かを達成するためだけでなく,株主,従業員、サプライヤー,顧客,債権者,地域住民,自然環境など、企業に関係するあらゆる者の福利のために不可欠である。研修マニュアル,ガイドライン,原則,ベストプラクティスを示すコード,規制,礼儀,倫理的行動は,取締役への適正かつ適切な研修のためであり,航海する船長へのトレーニングに,それらが必要であるのと何ら変わりはない。
本書は、21世紀の取締役,会計専門家、そしてコーポレートガバナンスに関わるすべての人への完全にたる,そして包括的なガイドとなるだけでなく、ミニマムスタンダードをはるかに超越するベストプラクティスのフレームワークを提供するものである。
本書で述べるコンセプトの多くは、南アフリカ共和国のコーポレートガバナンスコードであるキングレポート第1号から第4号に着想を得ている。私見では,キングレポート第1号は革命的であり,そのアプローチと範囲は先鋭的であった。キングレポート第1号が公表された1994年の時点で,明らかに存在が認められる実践的なコードは英国のキャドバリーコードと,それに付随するキャドバリーレポート(1992年)のみであった。このコードは、本質的には株主中心のものであり,株主アクティビズムや,機関投資家によるエンゲージメントと対話という画期的な要素を,初めてガバナンスの中核に盛り込んだ.しかし、私が大きな期待と喜びをもって完成版を手にしたキングレポート第1号は,それとはまったく異なるものだ.キングレポート第1号は、まさに、ステークホルダーと企業に対するビジネス上の倫理を盛り込んでいた.2002年に発行されたキングレポート第2号は,さらに踏み込んだものであった。私にとって、キングレポート第2号の最も大切な要素の一つは、アカウンタビリティとレスポンシビリティを,以下のように明確に区別した点である.
人はアカウンタブルであるときに説明責任を負い,レスポンシブルであるときに説明責任を問われるものである。ガバナンスにおいては,取締役であれば,コモンロー(common law)と企業に対する法令に従いアカウンタブルであり,事業に関連性を有すると識別されたステークホルダーに対してレスポンシブルなのである。すべての法規上のステークホルダーに対してアカウンタビリティを負うというコンセプトは、否定すべきである。なぜなら、取締役にあらゆるステークホルダーへの責任を負わせるならば,結果的に誰に対する責任も負えなくなるからである。現代のアプローチは,株主を含むステークホルダーを取締役が識別し,それらのステークホルダーとの関係性をいかに進展させ,会社の利益に適うよう,いかに管理するかの方針に合意することである。(キング委員会2002,p.5)
14年の時を経て公表された2世代あとのキングレポートにおいても,このようなステークホルダーへのレスポンシビリティを中核に据える考え方は,コーポレートガバナンスにおいて、引き続き重みのあるものだ。2009年のキングレポート第3号は,企業のステークホルダーに対する責任ある行動の必要性をさらに強調し,一体的ガバナンス(holistic governance)のコンセプトを導入している.しばしば述べられているとおり,キングレポート第3号の最も意義深い成果は,南アフリカに統合報告を義務づけた点である.本書でも述べられているが,統合報告は,南アフリカ企業の社会的,倫理的な課題や環境問題に関する報告と,それらの要素の統合的思考を通じ,戦略的事業計画に組み込む方法に根本的な変化をもたらした、統合報告は,統合報告を実践する世界中の先進企業に導かれ、あるいはその内容とアプローチに導かれて、すでに世界的に浸透しつつある。
ステークホルダー指向のコンセプトをガバナンスに包含したコーポレートガバナンスの定義の構築へと私を導いてくれたのは、まさにキングレポートである。私自身の定義は,コーポレートガバナンスは、「企業内外の抑制と均衡(checks and balances)」のシステムであり,企業がステークホルダーに対するアカウンタビリティを確実に遂行し、あらゆる事業活動において社会的責任を意識した行動をとるよう促すものである(Solomon,2013,p.7).
たしかに、コーポレートガバナンスのエッセンスは、企業にステークホルダーや自然環境、そして広く社会に対して責任ある行動と、アカウンタビリティ,いや、むしろキング氏が言うところのレスポンシビリティを促すための特定の抑制と均衡(checks and balances),またはメカニズムであろう。私はしばしば,なぜ南アフリカが,真のステークホルダー包括主義的ガバナンスの発祥地となったのだろうかと考えることがある。おそらく,複雑な政治的背景や,壮大な収入格差,貧困,社会的難題や,世界的にも豊かな環境および生物の多様性などに起因するのであろう。しかし,私の結論は,これらのすべての要素の一つひとつと,ある一つの魔法の構成要素が組み合わさったためだと考えている。それは,マーヴィン・キングである。まさに,社会的活動家ともいうべきインスピレーショナルな意見が,変革の役割を果たし、ガバナンスとアカウンタビリティに多くの優れた改革をもたらしたケースである.これは,英国のガバナンスにおけるキャドバリー卿,国連責任投資原則を創設したジェームス・ギフォード氏のケースと並び称されるものであろう。
本書は,株主,ステークホルダー,そして企業に対する価値向上をもたらすと同時に,社会的厚生の向上に寄与するコーポレートガバナンスを実現するために必要不可欠なメカニズムを包括的に紹介する。それが適切に実装されれば,生態系へのダメージが回避でき,まさしく地球を救うことができる誠実かつ善意をもって、統合報告,統合的思考,実効性あるCVO(チーフ・バリュー・オフィサー),適切なチーフ・ステークホルダー・リレーションズ・オフィサー,そしてコーポレートガバナンスの原則を実践する企業は,高潔な成長,価値創造,ステークホルダー満足度,社会的厚生の向上,適切な環境スチュワードシップのサイクルを作り出すことができるである統合報告のコンセプトは、会計と報告の機能へのポジティブな変革を意味している。生物多様性や地域社会,従業員の安全や福利厚生,二酸化炭素排出量,生態系などへの影響に関する記述的な(かつ,次第に定量的かつ財務的となる)報告は,完璧に機能する統合報告の根幹となる要素である。統合報告を下支えする統合的思考のプロセスは,これらの課題をマテリアルな財務的課題として,企業戦略に影響を与える要素として,また,価値創造の構成要素として考慮すべきである.これらの関連性の認知と理解を拒む類の企業は、21世紀の社会が進展するにつれ、落ちこぼれていくであろう。本書で議論する新たなコンセプト「絶滅会計(extinction accounting)」は、企業報告,特に統合報告が地球を救うための一つの方法となりうる。これと同様に,チーフ・バリュー・オフィサーおよびチーフ・ステークホルダー・リレーションズ・オフィサーが本書の提案したとおりに実装されれば,それも地球を救うことができる、いや救うであろう。
キング教授のガバナンスへの貢献は,しばしばスキャンダルや非人道的行為,贈収賄,腐敗,従業員の虐待,環境破壊などにより、暗く停滞しがちな企業社会にもたらされた一筋の光である.ガバナンスを船の舵取りであるとらえるならば,本書と本書が提案する頑強かつ広範なフレームワークは、最も危険な海に,明確な道しるべと警告,そしてアドバイスを提供する灯台となり,企業とそのステークホルダーを守ってくれるであろう.会計的な手法による説明は,これまで企業活動に光を当て,それを映し出す手段としてとらえられてきた。本書は,企業活動に光を当てるだけでなく,企業の会計およびアカウンタビリティが,ステークホルダーとの対話を啓発・改善し,レスポンシビリティ,持続性,そして社会的厚生の改善への暖かな光をもたらす手段を提供する.灯台の保全に対する配慮が,船員と船,そして、その航海に関わりを有するすべてのものの安全を確保し,次世代の便益のために自然環境の保全へとつながっていくのである。
シェフィールド大学ジル・アトキンス

マーヴィン・キング (著), ジル・アトキンス (著), KPMGジャパン 統合報告センター・オブ・エクセレンス (翻訳)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/5/31)、出典:出版社HP

 

序文

本書の目的は,数多くの提案事項を掘り下げ、なぜそれらが真実であるかの証跡を提供することである.本書ではまず、株主は本当に企業の所有者なのか,という問題を取り上げ、昔ながらの財務理論に反し,それが真実ではないという結論を導く、伝統的かつオーソドックスな株主指向モデルのガバナンスの議論も存在するが,今日の世の中においては,もはや、それが目的適合性を失っているという結論に至る.さらに,取締役が企業の最善の利益を考慮しつつも、企業とその固有性に鑑みてマテリアルなステークホルダーとの継続的な関係性といった企業価値の源泉に,同等の注意を払う責務を果たす「包括的なステークホルダー指向モデル」への変革が必要とされる。本書はまさに,株主優先主義に基づく株主指向モデル,さらには「賢明なる投資家(enlightened shareholder)」との考え方も、持続可能な価値向上につながる企業行動へ変革をもたらすガバナンスのアプローチではないと主張する.地球温暖化により,気候と自然は危機に瀕し、人口問題も脅威となっている。株主指向アプローチでは,これらの地球規模の壊滅的な課題に対処できないのである.会計と財務も,根本的な変革を迫られている。今日の会計専門家は、財務報告基準に則って財務諸表を作成するだけであってはならない、財務専門家は,株主のための利益の極大化から、持続的な価値創造の継続という変化の中で果たすべき役割がある。その役割とは、単なる財務責任者(financial officer)ではなく、価値の責任者(value officer)としてのものである。結果的には,CFO(chief financial officer)は,CVO(chief value officer)として認識されるべきである。このコンセプトは、世界中の企業が、二酸化炭素の排出量ターゲットなど,持続可能性の目標に合致した価値創造を行うために必要不可欠である。
会計の専門家が地球の保全に貢献し,他の専門家をも導くことができるようになるためには,彼らの教育や研修のやり方の劇的な変化を要する.会計の専門家を目指す者の教育や研修は、社会や環境を犠牲にしても株主の利益追求を重視する思考から,持続可能な価値創造を目指す思考への転換が必要なのである。この思考転換には、会計や財務の管理者が統合的思考を実践し、真に統合された報告書をいかに作成するかを学ぶ必要があるとどのつまり,あらゆる事業戦略と企業レポーティングにおいて,持続的な開発を優先させることにつながる価値創造の源泉と,株主の長期的な最善の利益は,取締役にとって同等の価値を有するのである。

SDGs・ESGを導くCVO(チーフ・バリュー・オフィサー)――目次

日本語版はじめに
日本語版への序文
日本語版刊行にあたって
前書き
序文
略語一覽
第I部 企業,取締役の責務,コーポレートガバナンスの発展
第1章 企業の発展
第2章 所有者のいない「オーナーレス企業」の出現
第3章 取締役の責務の進化
第4章 ガバナンスの包括的アプローチと排他的アプローチ――一体的ガバナンスとアカウンタビリティへの動き

第1部 補章投資家と企業との新しい関係——意味共有化のための対話の必要性北川哲雄
第1節 時間軸のズレとイノベーションの予兆への想像力
第2節 取締役会とステークホルダー企業体理論の復権
第3節 強靭な意思と高い見識を持った投資家・アナリストの出現
第4節 あるがままを描き出そうとする経営者の開示姿勢

第II部 企業報告の新しい時代の到来
第5章 財務報告から企業報告へ
第6章 サステナビリティ報告とIIRCの設立
第7章 企業における変革
第8章 統合的思考と統合報告書
第9章 企業報告の新時代

第Ⅱ部 補章
企業価値向上とコーポレートコミュニケーション芝坂佳子
第1節 はじめに
第2節 情報開示のパラダイムシフト
第3節 なぜ,統合報告書を作成するのか
第4節 統合報告書に取り組むメリットと企業価値への影響
第5節 持続可能な社会を実現するための統合的思考
第6節 コーポレートコミュニケーションを支えるもの

第II部 価値創造とチーフバリュー・オフィサー
第10章 価値創造
第11章 統合報告のメリット
第12章 価値創造(と地球の保全)に不可欠な会計士の重大な役割
第13章 チーフバリュー・オフィサー
第14章 会計士(と地球の保全)の研修を変革する

第II部 補章1
持続可能な資本主義における事業目的と会計機能の再定義新名谷昌
第1節 はじめに
第2節 六つの資本による価値創造
第3節 持続可能な資本主義における事業の目的と成功
第4節 会計に求められる機能

第II部 補章2
持続的な価値創造のマネジメント新名谷昌
第1節 はじめに
第2節 戦略策定と資源配分
第3節 リスクマネジメント
第4節 インタンジブルズの管理
第5節 持続可能な資本主義のための会計

マーヴィン・キング (著), ジル・アトキンス (著), KPMGジャパン 統合報告センター・オブ・エクセレンス (翻訳)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/5/31)、出典:出版社HP

 

社会を変える投資 ESG入門

ESG経営の知っておくべき知識を得られる

昨今、投資家の間で注目されているESG経営とはどういうことか分かりやすく解説している本です。ESGとはどういうものか、なぜ流行っているのかという切り口から始まり、ESGに取り組む事が企業の長期的な安定と利益につながる事を簡潔に説明してくれています。

アムンディ・ジャパン (編集)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2018/9/20)、出典:出版社HP

 

はじめに

この本を手に取られた方は、最近、よく耳にする「ESG」や「責任投資」という言葉が気になっている方だと思います。
個人で投資をされている方でしょうか。はたまた、株主からの「エンゲージメント」を求められている上場会社にいらっしゃる方でしょうか。もしかすると、私たちと同じような運用の仕事をされている方、あるいはこれから資産運用の世界に入ろうとされている方なのかもしれません。
いずれにしても本書に興味を持っていただけたことに感謝いたします。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取った略語です。なぜ今ESGなのでしょうか。
それは、経済や社会が成熟し3世紀までに経験してきたような市場の拡大が望めない一方で、これまでの人類の経済活動が気候変動をもたらし、また、成長の結果生まれた格差が社会の歪みを引き起こしたりする中にあって、「いかに成長を引き上げるか」から「いかに成長を持続できるか」という点に人々の意識が変化しているためです。
では、そのESGが投資になぜ関係するのでしょうか。それは、モノやサービスを生み出す経済活動はファイナンスを伴うからです。この表裏一体の関係を前提にすると、投資を行う側の意識と行動には、「成長」に向けた企業の営みの在り方に影響を与える力があるわけです。そして、より広いステーク・ホルダーのことを考えてこの力を生かすことが、投資に求められている今日の役割なのです。
翻って、日本の運用業界で「ESG」が使われ始めたのはほんの2、3年前のことです。それが、最近では、ESGだけでなく、SDGs、PRIなど関連する言葉がいろいろな場面で用いられています。今後は、こうした「横文字」の理念を理解するだけにとどまらず、いかに投資の実務に落とし込んでいくか考え行動することが期待されています。
そこには唯一の正解はありえません。投資目標は実にさまざまであり、その手段には、株式もあれば債券もあり、また、広く市場の動きに連動させることを目指す戦略もあれば、積極的に投資したい対象を選ぶ戦略もあるからです。
いずれにせよ最後は、とったリスクとあげたリターンで評価されるのが投資です。各々のプロセスにどのようにESGを盛り込んでいくかは、まさに工夫のしどころです。
さて、この本は、運用会社であるアムンディ・ジャパンの有志でまとめた入門書です。すでにESGについては学術書や解説書がいくつか発刊されていますが、投資の実務者が書いたという点では、おそらく初めてのケースかもしれません。それができたのは、アムンディが責任投資を価値基盤に置く会社で、ESGを投資に反映することに関してパリの本社を中心に多くの経験とリソースがあるからです。
私たちは、本書をわかりやすい「読み物」にするために、型にとらわれずに今の運用の世界で起こりつつある変化について生の声を載せていくことにしました。その結果、まとまったのが次の構成です。
第1章では、ESGや責任投資に対する世の中の意識が高まってきている背景について、構造的な要因による世界の経済成長の鈍化や地球規模の問題である気候変動などから考えます。
第2章では、ESGの歴史を振り返るとともに、E(環境)、S(社会)、G(企業統治)のそれぞれの分野におけるテーマと企業のマネジメントに対して意味するところをまとめます。
本書のコアである第3章では、企業の営みに必要なのは、「お金」だけでなく、それ以外にもさまざまな資本が要ることを国際統合報告評議会(IIRC)がまとめた6つの概念で説明します。そして、企業の「付加価値創造プロセス」についていくつか例示したのち、ESGに関する企業の発信手段である「統合報告書」を紹介します。さらに、こうした企業のESGにかかわる取り組みが格付けされていることに触れ、日本株についてESGの情報と株式リターンの関係を考察した結果を示します。
第4章では、運用実務に話を展開します。ESGへの運用からのアプローチの仕方を4つの動機と3つの形態を使って整理します。そして、日本におけるESG投資について、ガバナンス改革と日本版スチュワードシップ・コードに触れながら、「インベストメント・チェーン」において大切な役割を果たすエンゲージメントについて、私たちの考えを述べます。
結びに代えて第5章では、アセット・マネジャーの側でも「統合思考」を実践し、アセット・オーナーとともに投資先企業と同じ船に乗り運用成果の積み上げを目指す「スロー・インベストメント」の考えを紹介しながら、日本のインベストメント・チェーンで取り組むべき課題を述べます。
限られた紙面でESGという大きなテーマについてすべてを満遍なくカバーするものではありませんが、本書が、「投資が世の中で果たしうる役割」という大きなテーマに関して考えるきっかけを読者の皆様に与えることができれば大変うれしく思います。
2018年9月
執筆者一同

アムンディ・ジャパン (編集)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2018/9/20)、出典:出版社HP

 

社会を変える投資ESG入門 目次

はじめに
第1章 ESGで何が変わるのか
①企業の活動と存在意義――存在意義がわかって変わる企業の活動
さまざまなステーク・ホルダーとの関係の中での位置づけ
②今なぜ持続的成長か――ESGを考えなければ持続的成長はできない
資本主義の限界
グローバルな要請SDGs(持続可能な開発目標)とは
「持続的成長」のために会社にはやれること、やるべきことがたくさん
③「利益最大化」から「先義後利」ー「義」とは取り組むべき社会的課題

第2章 ESGとは何か
①それぞれ何を指すものか――異なる3つの言葉をひとつに
「国連責任投資原則」の6原則
環境の課題と具体例
環境課題の例
社会の課題と具体例
社会課題の例
ガバナンスの課題と具体例
ガバナンス課題の例
アムンディのESG基準
②ESGの歴史SRIからESG投資へ
根幹にあるのは社会的責任投資(SRI)
貴任投資の拡大
③今求められているものは何か―大局的な視点で課題を把握する
世界の今と日本の課題
企業に求められているもの
投資家に求められているもの
④経営戦略の一貫として価値創造の源泉としても注目
「守り」のESGから「攻め」のESG
ビジネスモデルにESGを取り込む

第3章 これからの「良い会社」
①付加価値創造メカニズムESGの目標値を持ち始めた「良い会社」
IIRCが定義する「6つの資本」
財務資本/製造資本/知的資本/人的資本/社会・関係資本/自然資本
価値創造プロセス
時間と空間を超える会社活動の影響
②経営トップのコミットメントの必要性ESGにはトップの意識と実行力が大事
会社のストーリー
まずはビジョン
フェイスブックの資本の変換、増減の流れ/シオノギの資本の変換、増減の流れ
6つの資本におけるESG的視点
個人情報対策を迫られるフェイスブック
時間軸を超えてなされる経営判断
③資本市場への発信「統合報告書」ESGへの目標を表明する場
統合報告書が生まれた背景
日本での統合報告書発行の動き
統合報告書は何を訴えているのか
具体的なフレームワーク
オムロンの先進事例
④会社がESGで格付けされる?――取り組みや達成度を評価
⑤投資への影響――現状の分析と今後の展望は
価格形成に関するわれわれの仮説
分母分子
これまでの実証研究
ESGスコア/東京理科大学・山下隆教授の分析/アムンディ・ジャパンの分析/実証はこれから

第4章 投資で社会を良くする
①ポートフォリオでいかに表現するか――責任投資への取り組み方はさまざま
4つの動機(貴務、リスク、価値観、リターン)と3つの形態
ESG情報の反映/エクスクルージョン/インパクト
②日本でのESG投資の在り方―投資家と会社の間に築かれる「建設的な関係」
日本にとっての意義―国を守る!
脆弱なインベストメント・チェーンとガバナンス改革
期待されるガバナンス改革
「同じ船に乗る」ことがエンゲージメント実践の大前提
まずは相互理解から
重要なESG項目は時代とともに変化する

第5章 ESGの未来
スロー・インベストメントへの転換
これから必要な変革とは
参加者の姿勢が成否を決める

アムンディ・ジャパン (編集)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2018/9/20)、出典:出版社HP

 

第1章
ESGで何が変わるのか