【最新】企業価値評価について学ぶためのおすすめ本 – バリュエーション初心者でも理解できる本を紹介

企業価値はどのように評価するのか?

企業価値を正しく評価することは、会社の合併などのM&Aの場面では必須ですが、そういった企業再編に関わらない人でも、企業価値評価の知識を得ることで、株式の投資に役立ったり、普段のニュースをより深く理解することができます。企業価値の分野は、実際には複雑な数式や会計知識が必要ですが、ここでは、そういった知識がない初心者の方でも企業価値について理解できる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

はじめての企業価値評価 (日本経済新聞出版)

企業価値評価の基本がわかる

本書は、企業価値評価の基本的な内容を解説した本です。前半では、企業価値評価の考え方から始まり、評価のポイント、価値評価の方法とその応用など企業価値評価の基礎が解説されています。後半は、クロスボーダー・バリュエーション、企業価値評価の実践方法、検証がテーマになっています。

砂川伸幸 (著) , 笠原真人 (著)
出版社 : 日経BP (2015/2/16) 、出典:出版社HP

まえがき

社会人MBAのファイナンスの講義では,最後のクラスで企業価値評価を教えます。財務分析,戦略立案,キャッシュフロー計画,資本コストの算出など,個別のテーマを合わせて数値化する作業が,まとめにふさわしいからです。
MBA経営戦略の講義では,最初のクラスで企業価値と企業価値評価について話します。企業価値の向上が経営戦略の判断基準になるからです。
この10年間で,企業価値評価に対する関心は驚くほど高まりました。以前は,「企業価値は測れるのですか」「DCF法とは何ですか,どのように使うのですか」という質問が多くありました。いまは違います。多くの方がDCF法を使っています。「今後,何らかの形でM&Aに関わると思いますか」と聞くと,多くの手があがります。企業価値の向上をベースに経営戦略を議論したり,M&Aの買収価格について分析したりする時間も増えました。企業価値評価は,ビジネスマンにとって,必須のリテラシーになりつつあります。
学部学生は,ビジネスの流れに敏感です。最近では,学部の講義でも,企業価値評価を教えるようになりました。今年の講義では,M&Aのシナジー効果の算定や負債コストを税引後にする理由などについて質問がありました。ずいぶん進歩したものです。
いま,企業価値評価はトレンディーです。以前は,企業価値評価を知っていることが強みになりました。今後は,企業価値評価を知らないことが弱みになるかもしれません。企業価値の向上が経営目標になっている時代です。ビジネスマンとして,企業価値評価を知らなければ,経営目標が分かっていないことになりかねません。学生は,企業価値評価を学ぶことで,企業に対する理解が深まります。
この本は,タイトルのとおり,企業価値評価の入門書です。企業価値評価をはじめて学ぶ人を想定して書きました。すでに知識がある人は,短時間でエッセンスと全体像を思い出すために利用してください。
改めて実感したのですが,企業価値評価は,簡単ではありません。専門的な用語が多く出てきます。また,実践を体験していただくために用意した数値が,多く出てきます。そのため,『はじめての企業価値評価』にしては,読み応えがあると思います。苦労されることもあるでしょう。それでも読む価値はあります。最後までお付き合いください。

本の構成を紹介します。第1章から第4章は基礎編です。第1章では,企業価値評価の考え方を紹介します。本書では,企業価値を数字で評価するアプローチをとります。とくに,理論的にしっかりしており,実務でも普及しているDCF法をコアにします。DCF法による事業や企業の価値評価を通じて,企業と投資家の関係がみえてきます。資本利益率やROEを高める必要性も理解できるでしょう。
第2章では,企業価値評価のキーワードであるフリー・キャッシュフロー(FCF)と資本コストについて説明します。FCFは,事業活動からフリーなキャッシュで投資家に配分できます。資本コストは,投資家の期待収益率で,企業価値評価における割引率になります。負債のコストと株式の資本コストから求める加重平均資本コスト(WACC)も大切な用語です。FCFやWACCは,グローバルスタンダードです。グローバル経営においても役に立ちます。
第3章は,エンタープライズDCF法の解説です。エンタープライズDCF法では,FCFをWACCで割り引くことで,企業価値を数値化します。企業はゴーイングコンサーンです。そのため,無限のFCFを取り扱うことが必要になります。定額モデルや定率成長モデルは,無限を有限に変えるツールです。しっかり理解してください。
第4章は,クロスボーダー・バリュエーションの入門です。国境を越えても,FCFをWACCで割り引くというエッセンスは同じです。ただし,金利水準が異なることと,為替レートの取り扱いには,注意が必要です。クロスボーダーのパリュエーションでは,金利と為替レートの整合性がポイントになります。カントリーリスクも出てきます。
第5章と第6章は,企業価値評価の実践編です。基礎編で学んだことをいかして,プロジェクトXというM&A案件に取り組みます。第5章では,経営分析を行い,客観的かつ現実的な前提がおかれたFCF計画を分析し,評価していきます。実際に手を動かしながら,読み進めてください。企業価値評価の実践では,膨大な数字をあつかいます。専門家でも,数字の海におぼれて,方向を見失うことがあるそうです。そんなときは,エッセンスと方針を確認するため,基礎編に戻ってください。
第6章のテーマは,企業価値評価の検証です。エンタープライズDCF法の結果を,修正純資産法や類似会社比準法で確認し,企業価値評価の精度を高めます。その後,サステイナブル成長モデルを用いて,企業価値評価のエッセンスについて再確認します。最後に,次のステップに進む方のために,ブックガイドを用意しました。ご参照ください。

この本を書き上げるにあたり,たくさんの方からサポートをいただきました。神戸大学経営学部の砂川ゼミの学生は,原稿を読み,読者の視点からアドバイスをくれました。株式会社エフエーエスの脇野信太さんからは,専門家としてのご指摘をいただきました。そして,日本経済新聞出版社の平井修一さんには,企画から出版までお世話になりました。ありがとうございます。
何事も基本が大切です。最初が肝心です。この本で,企業価値評価を正しく学び,きちんと使うための基礎にしてください。
2015年1月

砂川伸幸
笠原真人

砂川伸幸 (著) , 笠原真人 (著)
出版社 : 日経BP (2015/2/16) 、出典:出版社HP

はじめての企業価値評―[目次]

第1章 企業価値評価の考え方
1 企業価値の向上
2 企業価値評価
3 企業と投資家
(1) 企業とステークホルダー
(2) 投資家からみた企業価値
(3) コーポレート・ファイナンス入門
(4) 企業と投資家
(5) リスク回避と資本コスト
4 企業価値と成長戦略
(1) サステイナブル成長
(2) 定率成長モデルと定額モデル
(3) 成長戦略の評価
(4) 成長戦略の注意点
5 資本利益率と資本コスト
(1) 経営指標と資本利益率
(2) 競争優位と資本利益率
(3) 資本利益率と経営戦略
(4) 転地と資本利益率
(5) ビジネスリスクと資本コスト
6 リスクと現在価値
(1) リスクマネジメントとDCF法
(2) 現在と将来
(3) リスクと現在価値
(4) 短期と長期
7 M&Aと企業価値評価
(1) M&Aと事業構造
(2) 事業投資としてのM&A
(3) シナジー効果
(4) M&Aバリュエーションの重要性

第2章 企業価値評価のキーワード
1 フリー・キャッシュフロー
(1) フリー・キャッシュフローの4項目
(2) フリー・キャッシュフローと事業資産
(3) フリー・キャッシュフローと事業資産(続)
2 固定資産と運転資本
(1) 設備投資と減価償却費
(2) 運転資本
(3) 正味運転資本
(4) キャッシュコンバージョン・サイクル
3 資本コスト
(1) 3つの資本コスト
(2) リスクフリー・レート
(3) 負債コスト
(4) 株式資本コストとCAPM
(5) 株式資本コストの算出
(6) WACC
(7) WACCの算出
4 レバレッジと資本コスト
(1) 無関連命題
(2) よくある間違い
(3) 正解
(4) レバレッジとマルチプル
(5) エンタープライズとレバレッジ

第3章 企業価値評価の基礎
1 エンタープライズDCF法
2 エンタープライズDCF法のイメージ
3 ターミナルバリュー
(1) ターミナルバリューとは
(2) ターミナルバリューの現在価値
4 フリー・キャッシュフロー計画
5 エンタープライズDCF法による企業価値評価
(1) フリー・キャッシュフロー計画の立案
(2) コンプスのWACCとマルチプル
(3) エンタープライズDCF法による企業価値評価
(4) マルチプル法による検証
(5) 感度分析とレンジ
6 エンタープライズDCF法の応用
(1) シナジー効果とFCF
(2) シナジー効果の評価
(3) 経営戦略の評価
(4) 成長とリスク
(5) 事業と財務

第4章 クロスボーダー・バリュエーションの基礎
1 金利平価と購買力平価
(1) 金利平価と為替先物
(2) 金利平価と購買力平価
2 クロスボーダーの投資評価
(1) フリー・キャッシュフローの変換
(2) 資本コストの変換
3 クロスボーダーの企業価値評価
(1) 資本コストの変換
(2) フリー・キャッシュフローの変換
4 クロスボーダーのリスク
(1) カントリーリスク
(2) ソブリンスプレッド
(3) ソブリンスプレッドの算出
(4) 相対ボラティリティ
(5) その他の注意点
(6) 新興国の資本コスト

第5章 企業価値評価の実践
1 極秘プロジェクトX
(1) 現状と目標
(2) 強みと弱みの分析
(3) 機会と脅威の分析
(4) SWOT分析と経営方針
(5) プロジェクトX
2 企業の分析
(1) 貸借対照表の分析
(2) 含み損益の分析
3 フリー・キャッシュフロー計画
(1) 損益計算書
(2) シナジー効果
(3) 投資計画とFCF計画の策定
4 資本コストの算出
(1) 資産ベータ
(2) 資産ベータと株式ベータ
(3) 株式ベータの算出
(4) 株式資本コストとWACCの算出
5 DCF法による企業価値評価の実践
(1) 事業価値分析
(2) 企業価値分析
(3) 企業価値と株式価値

第6章 企業価値評価の検証
1 企業価値の検証
(1) 企業価値評価の本質
(2) 企業価値の検証アプローチ
2 ネットアセット・アプローチとしての修正純資産法
(1) ネットアセット・アプローチ
(2) ネットアセット・アプローチの類型
(3) ネットアセット・アプローチにおける含み損益と税効果
(4) ネットアセット・アプローチによるX社の価値分析
(5) ネットアセット・アプローチの位置づけ
(6) 修正純資産法と超過利益
3 超過利益法と競争優位
(1) 超過利益法の考え方
(2) 超過利益法にみる競争優位
(3) X社の超過利益分析
(4) 超過利益法によるX社の事業価値
4 マーケットアプローチとしてのマルチプル法
(1) マルチプル法による企業価値評価
(2) マルチプルの対応関係
(3) マルチプル法によるX社の分析
(4) マルチプル法の特徴
5 まとめ

ブックガイド

カバーイラスト
©︎carmen2011/shutterstock.com

砂川伸幸 (著) , 笠原真人 (著)
出版社 : 日経BP (2015/2/16) 、出典:出版社HP

企業価値評価【入門編】

企業価値評価の入門書

本書は、企業価値評価について解説した初学者向けのテキストです。企業価値の基本的な項目から現在価値、リスク、ポートフォリオの理論といったファイナンス理論の基礎を解説しています。本書の後半には、実務的な内容の解説もあるため、企業価値評価が一通り学べます。

鈴木 一功 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/10/25) 、出典:出版社HP

まえがき

近年、M&A取引(企業の合併・買収)の日常化もあり、投資や経営、買収の意思決定など、金融機関のみならず一般事業会社においても、企業価値の計算が日々の経営戦略を策定・実行するうえで重要な分析ツールとなっている。また会計分野でも、時価会計への流れと相まって、不動産などの資産時価や銀行の貸出債権の時価に至るまで、キャッシュフロー割引モデルの応用が試みられている。

たとえば上場企業の買収に目を向けると、被買収企業の少数株主が、買い手の提示した買取価格や合併比率が不当に低いと経営陣に異議を唱えたり、裁判所に価格算定を求めたりする事例は増えている。こうしたケースでは、どのような企業価値評価手法が妥当か、それぞれの企業価値評価手法で用いられた数値は適切なのかといった、細かな論点に関する精緻な議論が展開される。

ビジネスパーソンは、こうした議論の背景となるファイナンス理論の理解と、その理論を実務に適切に応用することが不可欠である。ただ実際には、M&Aの最先端で企業価値評価の実務に携わる実務家であっても、理論と実務をバランスよく修得している者は、必ずしも多数派ではないように思える。

筆者は、前職のM&A部署で企業価値評価の実務を担当していた頃から通算すると、20年以上にわたり接点を持ち続けている。現在はビジネス・スクールにおいて、企業価値評価の背景となるコーポレート・ファイナンス理論と、企業価値評価の実務手順を解説する講義を担当している。その傍ら、金融機関のM&A部署の外部アドバイザーとして、実際の現場で作成される企業価値評価算定書について、実務家から数多くの相談を受けている。

ビジネススクールの講義とは、初学者にも理論と実務を理解してもらうためのチャレンジの連続である。講義中の学生の表情や質問、試験の結果などを基に、その説明を少しでもわかりやすいものにするために、筆者なりに日々、改善を積み重ねてきた。その現時点における集大成が本書、「企業価値評価【入門編】」である。

現在、日本でコーポレート・ファイナンス理論を学ぶ際の標準教科書は、『コーポレート・ファイナンス上・下』(日経BP社)や『コーポレートファイナンスの原理』(きんざい)だが、どちらの本も1,000を超す膨大なページ数があり、初学者のビジネス・パーソンが手に取るには敷居が高い。また、コーポレート・ファイナンス理論の応用分野である企業価値評価(バリュエーション)の実務を学ぶうえでは、本書でも基本書として参照している『企業価値評価[上][下]』(ダイヤモンド社)が標準教科書となっているが、こちらも上・下巻合計で1,000ページを超えるボリュームである。

筆者自身も、『企業価値評価【実践編】』(ダイヤモンド社)を2004年に刊行した。同書では、上場企業3社を事例に詳細な企業価値評価の実務手順を記しており、ありがたいことに、現在まで何度も版を重ねている。ただし同書が対象とするのは、すでに基本的なコーポレート・ファイナンス理論を理解している人(企業価値評価実務を実践している、あるいは近々実践する必要がある人)であるので、実務で要求される細かな論点まで網羅することを心がけた。

本書は、企業価値評価の実務を初めて学ぶ方を念頭に置き、そのために理解しておくべきコーポレートファイナンス理論(第1部)と、企業価値評価の実務の流れ(第2部)を1冊に集約した。企業価値評価を切口に、読者が理論と実務手順の両方の「そこそこの」知識を得られることを目標としているので、極めて専門性が高い部分はあえてカバーしていない。一方、企業価値はなぜキャッシュフローの割引きによって求められるのかなど、既存の教科書では当然として扱われている事柄についても、極力理屈づけを試みている。

第1部の理論編では、企業価値がキャッシュフローの現在価値の総和で求められること、現在価値の計算には資本コスト=割引率の算定が必要であること、資本コストはリスクとの関係でハイリスク・ハイリターンの原則から推定されること、リスクには固有リスクと市場リスクがあり、固有リスクは分散投資によって無視できる水準まで低減できること、市場リスクは資本資産価格モデル(CAPM)によって資本コストが導けることを説明する。さらに、資本政策と資本コストの関係を考えるために、完全資本市場を前提としたMM命題と、完全資本市場の前提を緩和した結果から負債比率(財務レバレッジ)と株主資本コストの関係を導き、税引後加重平均資本コスト(WACC)についても解説する。そして、企業価値評価の中でもっとも頻繁に用いられるエンタプライズDCF法の理論について、そこで割引対象となるフリー・キャッシュフローとはどのようなキャッシュフローか、WACCで割り引くことでいかなる価値が求められるのかを示す。

また、第1部(全9章)の第8章までの各章末には復習問題を設けた。ファイナンス理論を理解するためには、漫然と解説を読むだけでは不十分である。みずからの手を動かして計算することで初めて理論が自分のものになる、と筆者は考えている。読者の皆様にはぜひ、本書の復習問題を通じて、理解を確実にすることをお勧めしたい。

第2部の実務編では、東京証券取引所第1部上場のモスフードサービスを事例に、企業価値評価、特にエンタプライズDCF法の実務に関する詳細な手順を解説する。そこでは、評価対象企業のフリー・キャッシュフローを予測し、企業価値を求めるステップとして、4つのステージを追いながら説明していく。4つのステージとは、(1)過去の業績分析、(2)将来の業績とフリー・キャッシュフローの予測、(3)資本コストの推定、(4)継続価値と企業価値の算定、である。また最終章では、エンタプライズDCF法と併用されることの多い、マチプル(倍率)法の実務にも触れている。

本書を通じて、初学者はもちろんのこと、既存の教科書でコーポレート・ファイナンス理論や企業価値評価を学習した経験のある実務家にとっても、何らかの新しい発見を提示できることを願っている。

本書の目的は、企業価値の算定を理解するうえで必要な理論と実務の手順を紹介することにある。実在する上場企業のモスフードサービスを事例に用いているが、当該企業の事業戦略や財務戦略の是非・巧拙を議論することが主題ではない。また、いかなる企業価値評価の数科書にも書かれているように、エンタプライズDCF法で算定した価値と、市場で実際に取引される価格とが厳密に一致する保証はない。したがって、読者が本書に基づいて株式の取引等を行ったとしても、その結果を何ら保証するものではない点について、ご留意いただきたい。

鈴木 一功 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/10/25) 、出典:出版社HP

CONTENTS
企業価値評価 目次

まえがき

第1部 コーポレート・ファイナンス理論

第1章 企業価値と現在価値の関係
1-1 企業や資産の価値とキャッシュフローの価値
1-2 キャッシュフローの現在価値
復習問題

第2章 現在価値と割引率の関係
2-1 割引率=資本の機会費用
2-2 資本の機会費用の決定要因:リスクとリターン(期待収益率)の関係
2-3 リスクと現在価値の関係
復習問題

第3章 ファイナンス理論におけるリスク
3-1 ファイナンスにおけるリスクとは何か
3-2 3つの手順でリスク(分散)を数値化する
3-3 リスク指標としての分散と標準偏差の関係
復習問題

第4章 ポートフォリオのリスクとリスク分散の限界
4-1 複数資産への投資によるポートフォリオとリスク低減効果
4-2 ポートフォリオのリスク低減の仕組みとリスクの計算式
復習間題

第5章 効率的フロンティアとリスクフリー資産を加えたポートフォリオ、資本資産価格モデル(CAPM)
5-1 ポートフォリオ分散投資と期待収益率の関係
5-1-1 投資対象資産が2つの場合
5-1-2 3つ以上の資産を組み合わせる場合
5-1-3 ポートフォリオの最適化と効率的フロンティア
5-1-4 投資家はポートフォリオをどう選択すべきか
5-2 リスクフリー資産と効率的フロンティア
5-3 リスクフリー資産と資本資産価格モデル(CAPM)
復習問題

第6章 資本政策と資本コスト① 完全資本市場での理論
6-1 MM命題と完全資本市場—資本政策を考えるうえでの出発点—
6-2 MMの第1命題:企業の資本構成と企業全体の価値の関係
6-3 MMの第2命題:借入れと株主の期待収益率の関係
6-4 企業の資本構成と企業の平均的な資本コスト(WACC)
復習問題

第7章 資本政策と資本コスト② 完全資本市場の前提の緩和
7-1 法人税の存在と負債金利の節税効果の影響
7-2 負債の活用と財務的困難のコスト
7-2-1 財務的困難のコスト①:倒産コスト
7-2-2 財務的困難のコスト②:倒産が視野に入ることによる経営の変質のコスト
7-3 負債活用のメリットとコストのバランス:トレードオフ理論と最適資本構成
復習問題

第8章 負債の存在と株主資本の期待収益率、ベータ、加重平均資本コスト(WACC)の関係
8-1 借入れの有無による企業の貸借対照表の構成と株主資本の期待収益率の比較
8-2 税引後加重平均資本コスト(WACC)
8-3 税引後加重平均資本コストとCAPMのベータとの関係
復習問題

第9章 エンタプライズDCF法の理論的背景
9-1 フリー・キャッシュフローとは何か
9-2 エンタプライズDCF法の特徴
9-3 エンタプライズDCF法の手順の概略

復習問題解答

第2部 企業価値評価・実務編

第10章 エンタプライズDCF法の実務 [STAGE1] 過去の業績分析
STEP1 財務諸表の再構成と投下資産の計算
SUB-STEP1 過去の財務諸表の収集
SUB-STEP2 要約損益計算書・要約貸借対照表の作成
SUB-STEP3 投下資産の計算
STEP2 NOPLATの計算
STEP3 フリーキャッシュフローの計算
STEP4 ROICの要素分解と過去業績の詳細な分析・評価
補論

第11章 エンタプライズDCF法の実務 [STAGE2] 将来の業績とフリーキャッシュフローの予測
STEP1 将来予測の期間と詳細の検討
STEP2 戦略的見通しの立案
STEP3 戦略的見通しの業績予測への転換
SUB-STEP1 売上予測
SUB-STEP2 予期損益計算書の作成
SUB-STEP3 NOPLATの予測
SUB-STEP4 予測貸借対照表の作成
SUB-STEP5 予投下資産残高の計算
STEP4 予測フリーキャッシュフローの算定
STEP5 複数業績予測シナリオの作成(適宜)と戦略的見通しとの一貫性・整合性のチェック

第12章 エンタプライズDCF法の実務 [STAGE3]資本コストの推定
STEP1 資本構成の推定
STEP2 有利子負債の資本コストの推定
STEP3 普通株式の株主資本コストの推定
SUB-STEP1 リスクフリー金利の推定
SUB-STEP2 市場リスクプレミアムの推定
SUB-STEP3 ベータの推定
SUB-STEP4 普通株式の株主資本コストの算定
STEP4 WACC(加重平均資本コスト)の計算

第13章 エンタプライズDCF法の実務 [STAGE4] 継続価値と企業価値の算定
STEP1 継続価値算定の公式の選択
STEP2 継続価値の公式における変数(パラメータ)の設定と継続価値の算定
STEP3 事業価値の算定
STEP4 企業価値、および株主資本価値の算定

第14章 マルチプル(倍率)法の実務エンタプライズDCF法との併用
14-1 マルチブル法の特徴と計算方法
14-2 マルチブル法計算の実例
14-3 マルチブル法利用上の留意点
14-4 マルチブル法とエンタブライズDCF法の関係

あとがき
謝辞
参考文献

鈴木 一功 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/10/25) 、出典:出版社HP

バリュエーションの教科書―企業価値・M&Aの本質と実務

企業価値にまつわる知識がわかる

本書は、企業価値、バリュエーションに関する内容を解説しているテキストです。バリュエーションの基本的な内容である公式の紹介から、評価方法の解説、M&Aにおけるバリュエーションの意味、理論の実務への応用の解説など様々な内容が扱われています。

森生 明 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/5/27) 、出典:出版社HP

はじめに

「ROE向上へ、取組み本格化」
「東芝が東証開示基準違反 米原子力子会社の減損損失公表せず」
「安倍政権、今度は企業に『内部留保吐き出せ」と要求」
「シャープ、鴻海提案受け入れ台湾企業の支援で再建めざす」

昨今注目を集めているこれらの話題は、すべて企業価値やファイナンスに絡むものだ。つまり、ファイナンスやバリュエーションの知識なしに、これらがなぜ重要なのかを腹落ちして理解するのは難しい。
それに加え、日銀が金利をマイナスにしたり紙幣をたくさん印刷して、国の借金である国債を買い支えたりすることでこの国の経済が立ち直るのか、グローバル資本主義は人類を幸せにする仕組みなのか、という大上段に構えた議論も、経済学や金融理論の知識なしには、事の本質が理解できない。

価値を生むこととカネ儲けすることはなぜずれるのか?
本書のタイトルのバリュエーション(valuation)とは、資産の価格算定、M&Aなどで会社の企業価値や株価を算定する際に使われる用語だ。「value=価値あること」に状態・結果を表す接尾辞「tion」をつけたもので、要するに「価値」を「価格」にして表現することである。
専門家が行う難しい作業だと思われがちだが、実はマンションの価格算定や中古車の購入判断、果ては資格を取ることの価値や結婚相手の品定めまで、日常的に行われている。
この作業は、自由市場を軸とする資本主義経済体制を健全に機能させる最も重要なもので、「カネでは買えない価値がある」とか、「カネですべて解決しようとするのは間違いだ」などと思考停止していてはならない。

価値を生み出す活動とカネ儲けする人がずれていて、格差が拡大しているのが社会の実情ではないか、という意見には私も同意する。しかし、そういう世の中は各個人が、投資家が、経営者が、価値に見合った値段を付け損なう結果、生み出しているという自覚を持たない限り、いつまで経っても良くはならない。
額に汗して働くこともなく「虚業」のファンドが株の売買でボロ儲けするのはおかしい、というのはごもっともだが、そのファンドがボロ儲けできるのは、同じ株を安く売ってくれる人と高く買ってくれる人が同時にいるから、その間でサヤが抜けるというだけのことだ。
突き止めるべき課題は、むしろ安く売った人と高く買った人が、それぞれどのように株価を評価(バリュエーション)したか、なぜ同じ会社の株式にファンドをボロ儲けさせるほどの評価の差が生じたのか、であろう。
本書は、価値と価格にギャップが生まれるのは「評価基準=バリュエーション」の問題だ、という視座で世の中を捉えようと試みている。

現場実務感覚でシンプルに考える
自由市場経済社会で生きていくにあたり、価格算定や企業価値評価が重要なことを理解しそれを学ぼうとしても、一般にはその敷居は高いと思われがちだ。ファイナンス理論やバリュエーションの専門書の多くは、数式やβ、λ、Σ、といったギリシャ文字がやたらと出てきて、多くの人に拒絶反応を与える。
本書は、そのギャップを埋めることをめざしている。そのためにまずは、会計やファイナンスという学問は、数字という言語を使ってコミュニケーションをとる際の文法書と割り切るスタンスで取り組むことをお薦めする。
ファイナンスは投資と資金調達についての学問だ。そして、誰かが投資するから誰かが資金調達できるということなので、この2つはコインの裏表、どちら側から見るかという違いにすぎない。ファイナンスは資金を出す人と、もらう人の間のコミュニケーション、バリュエーションは両者が折り合う地点を見定める活動、である。
グローバル競争の時代、日本人同士でしか通じないやり方では戦えない。そのためにみな、グローバル共通言語である英語をしっかり学べと言われる。
ところで、ビジネスの世界で最も広く使われている言語は何か?それは数字だ。
その目的はビジネス交渉の相手方を説得し、合意に至ること、それを円滑に進めるために、ファイナンスというツールが便利なので、使っているにすぎない。
英語で交渉するのが苦手な日本人は多く、それは歴史的・文化的なもので仕方ない。言語的なハンディキャップがあるからこそ、英語より中国語よりグローバルな共通言語である数字でコミュニケーションするスキルとして、ファイナンス知識は身につけておくにこしたことはない。
「欧米はいつも自分たちに都合のいいようにルールを作り押しつけ、フェアではない」と言いたくなる場面もあるだろう。しかしどの道、われわれは国際社会においてはアウェーの環境で戦うしかないのだ。
こうして、DCF方式でNPVを求める、IRRで投資判断をする、PERやPBRで適正株価水準を見定める……、とアルファベットの略語オンパレードな世界と対峙することになる。

用語だけでなく文法も身につけなければ、コミュニケーションはできない。しかし、実務で使うファイナンスのツールを体系的に頭に入れるには、やはり手間がかかる。まず財務諸表を読むには会計の知識が必要、次に現在価値という概念を理解して、DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)方式という投資判断の基本枠組みを学び、具体的に算定するために資本コストを計算できるようにならなければならない。
これらを演習を交えて1つひとつ習得していくうちに、「木を見て森を見ず」状態に陥ったり、腹落ちしない概念でつまずいて、先に進む気力が萎えてしまったりする。
さらに厄介なことに、ファイナンスを難しい世界にしたがる「財務のプロ」や「専門家」がいて、必要以上にその作業をブラックボックス化する。やたら難解に説明したがり、「難しい世界なのでお任せなさい」と言いがちな「プロ」は疑ってかかったほうがよいのだが、「素人」がそれを見破るのは簡単ではない。

本書の構成
企業価値算定やM&Aは、ファイナンスの上級・応用編、ピラミッドの上部に位置づけられることが多い。そこへ到達するには、1つひとつ石を積み上げなければならず、その土台作りのために、数学や統計学の知識を身につける必要がある。こう言われると、苦難の道のりとなる。
本書は、世の常識的スタイル(≒欧米のビジネススクールで教わる手順)を無視して、ピラミッドの全体像を見てから骨格と枠組みを作り、そこに肉づけをして完成させるというアプローチを取っている。
企業価値算定について30年にわたりさまざまな立場でかかわってきた私は、その間に米国的な手法が進化し複雑化しながら日本市場に浸透していく姿を見てきた。そして経験を積むにつれて、バリュエーションの本質がシンプルな構造をしていて、おなじみの用語だけを使った簡単な公式に美しく収斂すること、それさえ腹に落として理解すれば、企業経営者や実務家として十分だろう、という確信を持つに至った。
日本的な企業観と米国的な株主至上主義の間には、一般に言われるほどの大きな違いはなく、それらを対立的に描く必要もない。企業価値算定は、専門家が複雑な理論やモデルを駆使しなければできないような世界ではなく、企業経営者と投資家が建設的にコミュニケーションを取るための共通言語として、使い勝手の良いものでなければならない。
このようにバリュエーションを身近で手触り感のあるものにすることによって、世間を騒がせる経済ニュースの意味や背景がより鮮明に見えるようになり、グローバル取引の交渉や投資家へのIR活動の場で役立つスキルを手に入れることができる。これが本書の第Ⅰ部・第Ⅱ部で取り上げるトピックだ。

しかし同時に、2000年以降のバリュエーションの世界がより難しさを増していることも、おそらく事実だろう。それは、事業活動を取り巻く「リスク」がますます多様かつ複雑になっているからだ。その結果、ひと昔前の経済成長時代のファイナンス理論だけでは対応しきれなくなったり、リスク管理の手法としてデリバティブ取引なるものが活発化して市場を攪乱したり、という現象が起こっている。
いずれにせよ、先行きの読みにくい社会・経済環境の中で、難しい投資の意思決定を迫られるのが、今日の企業経営の宿命である。
そこで第Ⅲ部では、経営者や投資家やファイナンス理論の専門家が、それぞれの定義とニュアンスで使っている「リスク」なるものを整理し直し、それらが企業価値算定や投資の意思決定にどう反映されるのか、を検討する。
また、不確定要因の多い状況下では、「リスクマネジメント」や「臨機応変の対応」といった意思決定の柔軟性が重要になる。この要素を価値算定に取り込むには、「オプション価値」の議論は避けて通れない。
天変地異から戦争・テロ、製品事故からネット炎上による風評被害まで、現代企業経営は「一寸先は闇」状態だ。「リスク」と「オプション」は、そのような不確実性に満ちた世界での企業価値算定において、外せないキーワードであるものの、これまでは統計学や数学の知識なしでは理解できない「専門家」の領域に委ねられがちだった。
本書の後半では、それを実務家の常識で理解し使いこなせるレベルに引き下げて噛み砕こうと試みたのだが、まだまだ私自身が書きながら、思考を続けている段階だ。

謝辞
本書の執筆にあたって、数え切れない方々にお世話になった。私が15年にわたり経営顧問を務めている西村あさひ法律事務所の諸先生方、特に草野耕一弁護士には米国留学以来ずっと私の議論の相手をしていただき、本書は彼の著書である『金融課税法講義』『会社法の正義』から多くの示唆を得ている。
専任教員を務めているグロービス経営大学院のファカルティメンバー、講師つながりのプルータス・コンサルティングの野口真人社長と明石正道氏からも、さまざまな知見を拝借している。ネットでさまざまな情報が瞬時に手に入る時代、私が思考を深め、検証するうえで、池田信夫、冷泉彰彦、田坂広志、伊東乾、渋沢健、澤上篤人、ニューヨーク大学教授のアスワス・ダモダランなど、先輩諸氏の発信するブログや寄稿記事から、多くの知識と影響を受けている。
そして、これまでさまざまな案件と職場で得た実体験と、グロービス経営大学院のクラスおよび企業研修での受講生との数え切れないやり取りが本書執筆の原動力であり、肥やしとなっている。
私の前著『MBAバリュエーション』(日経BP社、2001年)と『会社の値段』(ちくま新書、2006年)や、監修としてかかわったNHKドラマ・映画「ハゲタカ」を通じて、投資銀行やファンドの最前線で活躍中の若い世代との接点も多く生まれ、彼らとの会話から得た現場感覚は、執筆上大いに役立った。
企業価値算定には、このようなありとあらゆる人々の知見や価値観が「集合知」として反映されるものだ、という意味で、タイトルは「教科書」だが「バリュエーション『2.0』の世界」を私なりに表現したつもりだ。
出版にあたって東洋経済新報社出版局の佐藤敬氏、グロービスの佐々木一寿氏と大島一樹氏には、細かな編集作業を含めて大変お世話になった。この場を借りて改めて感謝申し上げたい。
最後に、私の身勝手な転職人生に付き合い、最高の執筆環境を整え、素朴かつ鋭い問題意識を常に投げかけてくれた家族の存在は、とても言葉では言い尽くせない貢献だったことを申し添えたい。

2016年5月
森生 明

森生 明 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/5/27) 、出典:出版社HP

バリュエーションの教科書――目次

はじめに

第Ⅰ部 企業価値算定(バリュエーション)の基本構造
第1章 企業価値は財務諸表にどう表れるのか
1 バリュエーションの中核にあるシンプル公式
1.1 企業価値の全体構造
1.2 国内海外の主要企業で指標を比較してみる
2 バランスシートで企業価値をイメージする
2.1 日本と米国の「のれん価値」へのアプローチの違い
2.2 バランスシートに「企業価値」はどう表れるのか
3 損益計算書に株主価値はどう表れるのか
【column1】「わが社」と「自己資本」、そして「会社は誰のもの?」

第2章 基本公式から一歩深掘りする
1 借金と余剰キャッシュと企業価値の関係
1.1 実態B/Sと企業価値
1.2 「メタボ」気味な日本企業のB/S
1.3 債務超過会社の場合
【column2】カネは堆肥のようなもの
2 ROEの分解とその応用
2.1 ROEの分解式=デュポン式
2.2 業態に合わせたデュポン式の応用展開
3 答えは市場に聞くしかない

第3章 DCF評価と倍率評価は、実は同じ
1 すべての投資価値算定はDCFから
1.1 割引率と期待利回りと資本コスト
1.2 割引率と倍率はコインの裏表
1.3 PERとDCF方式は同根
2 利益よりキャッシュフロー
2.1 足元の利益は会社の実力を正しく反映しているか
2.2 投資家が気にすべきは、フリーキャッシュフロー
3 M&Aの場合――株式時価総額より企業価値、PERよりEBITDA倍率
3.1 企業価値と株主価値の関係
3.2 のれん価値は、将来キャッシュフローのプラスα
3.3 減損処理と負債の時価
3.4 M&Aによく登場する指標――EBITDA倍率とは
3.5 万能な指標はない
【column3】短期的利益変動に気をとられすぎ?

第Ⅱ部 基本構造から読み解くM&Aの世界と資本主義社会の課題
第4章 日本の株式市場は「サヤ取り天国」なのか
1 ファンドによる買収攻勢の背景――明星食品をめぐるTOB合戦
2 アベノミクス下でのアクティビスト活動――ファナックとFA業界のバリュエーション
3 米国の先進事例――アイカーンとモトローラ

第5章 事業や業界を再編するM&A活動
1 大企業の「恐竜化」とコングロマリット・ディスカウント
1.1 コングロマリットディスカウントとは
1.2 なぜディスカウントが起こるのか
2 事業再編で企業価値は上がるのか――総合電機メーカーの企業価値と業界再編の歴史
3 それでも規模は力なり――敵対的買収は悪なのか

第6章 日本市場に押し寄せる資本の論理とその課題・限界
1 資本市場の役割は変遷する
1.1 第1ステージ――経済成長期
1.2 第2ステージ――経済成熟期
1.3 第3ステージ――21世紀型
2 「資本家」とは誰なのか
3 ファイナンス知識は役に立つのか
3.1 「役に立たない」と言われた時代背景
3.2 知らなければ困る時代の始まり
【column4】欧米流は強欲礼賛、格差拡大なのか
3.3 理論の限界をわきまえることも大切
【column5】正規分布とベキ分布の補足説明

第Ⅲ部 実務応用編理論と実務の橋渡しの試み
第7章 リスクを数字にする方法
1 「リスク」の捉え方の差——経営者視点と投資家視点
1.1 ファイナンス理論上の「リスク」の理解
1.2 リスクと割引率と資本コスト
1.3 資本コストを「正確に」計算するには
1.4 理論値と実務現場感覚の差はなぜ生まれるのか
2 市場の現実からリスク=割引率を読み取る
2.1 実務における対応例
2.2 不確実性と割引率——それはリスクの問題か成長性の問題か
2.3 巡り巡ってr-gの問題に戻る?
【column6】不確実性とリスク――最後は「経験と勘」で決めるしかない?

第8章 経営支配権を売り買いするM&Aの世界
1 M&AはDCF方式で、の理由
1.1 デュー・ディリジェンスの将来計画で買収価格が決まる
1.2 DCF方式を使う際のよくある質問
2 シナジーと支配権プレミアム
2.1 シナジーの再定義
2.2 水平統合のシナジー
2.3 相互補完シナジー
2.4 支配権プレミアムの根拠
3 買収ストラクチャーと買収価格の関係
3.1 買収対価の払い方
3.2 資金調達・回収と買収価格

第9章 リスクマネジメントをオプションで捉える
1 オプション的思考
1.1 オプションの基本構造
1.2 ペイオフの合成
1.3 オプションの価値算定
2 リアルオプションの考え方
2.1 シナリオ分析とディシジョンツリーとリアルオプション評価
2.2 リスクマネジメント力とリアルオプション的思考
3 リアルオプションを使った投資判断事例の研究
3.1 シナリオ策定によるリアルオプションの認識
3.2 伝統的な評価方法を適用した場合
3.3 リアルオプション思考をとり入れた場合
3.4 リアルオプションの理論価格評価とその難点

第10章 株式のオプション価値と事業再生
1 株主有限責任原則と株式のコール・オプション価値
2 事業再生の勘所
2.1 破産か再生か
2.2 継続事業価値の保全
2.3 スポンサーと他のステークホルダーのせめぎあい
3 事業再生のシンプル事例分析
3.1 債権放棄する銀行の採算
3.2 スポンサーの投資採算
3.3 DESという調整手段

おわりに
参考文献

森生 明 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/5/27) 、出典:出版社HP

企業価値の神秘

コーポレートファイナンス理論の考え方と面白さがわかる

本書は、コーポレートファイナンス理論を解説した本です。基本的な理屈をしっかりと解説しており、初学者でも理解できる構成にしています。企業の価値をつけることの意義や割引現在価値、資本コスト、キャッシュ、評価の種類など企業価値がどのように評価されるかが理解できるようになっています。

宮川壽夫 (著)
出版社 : 中央経済社 (2016/10/25) 、出典:出版社HP

はじめに

このたびは本書をお買い上げいただきありがとうございます。著者の宮川壽夫です。私はコーポレートファイナンス理論の実証研究を専門としている研究者です。大学では学部生,大学院生向けにコーポレートファイナンス理論を教えています。学外でも,事業会社や金融機関の経営者・ビジネスパーソン向けに企業価値評価に関するセミナー,コーポレートファイナンス理論をテーマにした講演,研修などを行っています。
大学の教室や講演会場で,私はコーポレートファイナンス理論への「愛」と,この学問分野のおもしろさをわかってほしいという「情熱」を語ってきましたが,このたび私のコーポレートファイナンス理論に対する愛と情熱を1冊の本にしていただきました。本書は「企業価値」という概念を中心に,コーポレートファイナンス理論が持つ独特の思考回路とそのおもしろさを説いた本です。

ゴツゴツの理屈をバリバリと噛み砕く因果律のおもしろさ
そのために,語り口調はソフトであるものの,厳密で正しい理論の積み重ねがしっかりできることを意識しました。本書は「なぜ現在価値に割り引く必要があるのか」,「なぜ資本にコストなどというものがかかるのか」,「なぜMM理論は俳大なのか」,「配当と企業価値はどのようなメカニズムでつながっているのか」といったゴツゴツとした基本の理屈をバリバリと噛み砕きながら,初心者の方が厳密な理論のおもしろさを楽しめるよう解きほぐした本です。
したがって,詳細な数値例を用いて企業価値計算のノウハウを学ぶ本にはなっていませんし,これ1冊で企業価値の悩み解決という実践書でもありません。また,研究者として私の発見や創見を主張する本でもありません。強調したいのは,なぜこう考えるのか,こう考えないとなにが困るのか,といった因果律で整理された「思考回路」です。これが実はコーポレートファイナンス理論をマスターする早道だと私は思っています。
MM理論は現実にはあり得ない仮定に基づいているので意味がないと誤解していないでしょうか。増資をすると希薄化して株価が下がると思ってはいませんか。リキャップCBを発行して自己株式を取得すると企業価値が上がると考えたことはないでしょうか。初心者の方にはなんのことだかわからないかもしれませんが(本書を読み始めればすぐにわかります),もし“玄人”の方で少しでもこれらのことに不安がある方は,是非とも初心者の方と一緒にこの本でスタートしてください。もう一度だけ厳密な理論のゴリゴリさ加減を楽しんでいただきたいと思います。それが企業価値の計算プロセスを正確に理解する早道になるはずです。

想定する読者層への願い
この早道を知るとなにがうれしいのかは読者層によって異なると思います。本書はやや欲張って広範な読者層を想定しています。
まず,これからコーポレートファイナンス理論を学ぼうとする学部生,大学院生の初学者のみなさん,あるいはなにかのきっかけでコーポレートファイナンスに興味を持ったり,なにかの理由でこの分野の勉強をせざるを得なくなったビジネスパーソンの方々にとっては最初に読むべき1冊となることを願っています。
また,コーポレートファイナンスは一通り勉強したけど今ひとつ腹に落ちていない,実をいうと「割引現在価値」とかでいきなり挫折してそのままにしている,という方々には「なんだワリとおもしろいじゃないか」と思っていただくことを願っています。
さらに,企業価値計算ならエクセルで計算できるけど実は計算の意味がわからないままやっている,あるいは,すでにこの分野は勉強して「理論ではそうだけど実際にはネ」,「企業価値なんていうから世の中,短期志向に走るんだよ」とニヒルな笑いを浮かべていらっしゃる方々には「そういう考え方もあるのか」と新たな発見をしていただくことを願っています。以上のような願いをわずか1人の方にでもかなえていただければと考えている本です。

うれしくて眠れない講義の前日
ところで,実に僭越なことではありますが,私は人にモノを教える,ということが心の底から大好きです。場合によっては見知らぬ人に道を尋ねられただけでも興奮します。ですから,大学の講義の前日などうれしくて眠れません。「明日はこういう話から始めよう」とか「ここでこのネタをはさんで」とか「この話ウケそうだなあ」などと考えているうちにワクワクしてきて,気がついたら朝になっていたりします。寝不足の目をギンギンにさせてハイテンションのまま教室に入っていきますので学生にとってはいささか迷惑な話です。
ゴルフにも「教え魔」という人がいます。私の昔の上司だったF岡課長がそうでした。F岡課長は「んー,惜っしいなあ」と言いながら近づいてきて,「左ひざがサァ,開いちゃってるわけ。こう,ほら。ここにネ,壁があると思ってさ,ここまでググゥーッと下半身止めて。グーッとがまんする。でもって,ここから一気にダァーンッと。全身の力でインパクト。ね?このときヘッドアップ気をつける。」
F岡課長は教えることそれ自体が大好きです。ちょっと目を放した隙に他の知らない人のところへ行って「んー,惜っしいなあ」とまたやっています。私も教えること自体が好きですが,F岡課長と違うのは,私はどこから話を始めて,どのような手順で進めていくか,という理解に至るプロセスをずっと考えることが大好きなのです。そして,要するになにがポイントとして重要なのか,なぜそのポイントが重要なのか,という知識の意味づけをキッチリと説明したいのです。左ひざの開きとヘッドスピードの因果関係とか,そもそもボールが真っ直ぐに飛ぶメカニズムとかを追及して整理できないと気が済みません。
自分の中で整理できたら今度は相手に「なるほど。そういうことだったのか」と腑に落ちてもらうためにはどうすればいいかをひたすら考えています。この思考過程がたまりません。
単に理屈っぽいだけではありますが,それでもその甲斐あってか私の講義は昨年も290人収容の大教室が最終回まで立ち見が出るほどの満席状態でした。講義では,F岡課長のように「ググゥーッと」とか「ダァーンッと」といった擬態語で表現することができませんし,9番アイアンを持って手本を披露することもできません。そのかわりに私はゲームや実験を考案してさまざまな演出で講義を盛り上げるのも大好きです。
しかし,結局のところ理屈を1つひとつ地道に積み重ねて,言葉を紡いで情理を尽くして,「ググゥーッ」という気持ちをなんとか言語化して,最後に「どうよ,これ!めちゃめちゃおもしろくない?」と語りかけたとき(なかば強制的ですが),学生諸君が「ほぉー」という表情を見せ,大教室全体が静かにうなずくような気がします。この瞬間がたまりません。もしうなずいてもらわなければまた一からバラバラにして考え直します。

企業価値のブラックボックスをどう開けるか
さて,本書も以上のようなスタンスとテンションで書きました。だから文体もこのような語り口調で通します。コーポレートファイナンス理論は決して万人ウケしない,難しくてイヤなカンジの理屈です。そのため多くの人が理屈を素通りしてしまいます。正確な理屈をおろそかにした結果,「株主至上主義」とか「市場原理主義」という皮相な表現が独り歩きして大きな誤解を招いているというのが私の問題意識です。
企業価値というブラックボックスを,手順を間違えないようにうまく開いて,中の回路がどこからどうつながっているのか,なにがわかっていてなにがわかっていないのかを白日の下にさらし,その構造を多くの人にうなずいていただくためには本書のような構成とノリが必要だと考えました。何とか1人でも多くのみなさんに,コーポレートファイナンス理論がいかにエレガントで美しいか,また,いかに油断とスキを許さない「思考回路」で世の中の謎を解明しているかに共感していただきたいと思っています。
再び私ごとで恐縮ですが,なにしろ私の人生はコーポレートファイナンス理論によって変わったといっても過言ではありません。証券会社に入社して若さに任せて仕事していた当時はコーポレートファイナンスの「コ」の字も企業価値の「キ」の字も知りませんでした。自分の仕事との関係すら考えたこともありませんでした。その後,アナリストの資格試験を嫌々ながら受けたときも証券分析とポートフォリオ理論は本を開いただけで頭がクラクラするほど嫌いな不得意科目でした。
しかし,何を思ったか40歳を過ぎてコーポレートファイナンスの分野を研究するため大学院に通い始めました。大学院では,自分が実務で抱いてきた問題意識を科学的な理論がサクサクと見事に解説してくれることに衝撃を受けました。最初は修士論文を残すことが目的でしたが,それでは飽き足らず,一気に博士論文まで無酸素運動のように突っ走りました(今思い出しても息が苦しくなります)。そして,企業価値の神秘的魅力にすっかり取り憑かれ,ついには会社を辞めて研究者になってしまいました。コーポレートファイナンス理論に出会ったことによって,それまで平和で幸せな会社員生活を送っていた私の人生は一変してしまい,現在はさらにもっと平和で幸せな毎日を送っています。
この理論,一体どのあたりが「来る」ポイントなのか,どのあたりで胸が高鳴って,どのあたりで思わず感動してしまうのか,本書ですべてを語り尽くすことは到底不可能ですが,こういう気持ちも散りばめながらじっくり「語って」いこうと思います。

本書の使い方についてのお願いです
ここで本書の使い方としていくつかお願いしておきたいと思います。
まず,本書はコーポレートファイナンスの硬い教科書ではありません。読み物として電車の中やベッドの中でリラックスしてお読みください。そして,本書の内容を理解した後は,できれば興味に応じてきちんとした基本書にもチャレンジしていただくことをお薦めします(参考までに,私の学部ゼミでは『Principles of Corporate Finance』の日本語版『コーポレートファイナンス』ブリーリー/マイヤーズ/アレン(日経BP社)を教材にしています)。
本書では正統派といえる古典的文献や代表的教科書など名作名著をいわば換骨奪胎しながら平易に説明しますので,その都度必要に応じて読んでおくべき基本書のいくつかを脚注で紹介していきます(ただし,本書は研究論文ではないのでいちいち詳細な文献情報を掲載することは避けました)。本書はリラックスしながら読んで,紹介した基本書はどうか机に向かってガリガリと読んでください。
本書は,これからファイナンスの専門分野への入門にチャレンジしようという学部生や大学院生には体を慣らす1冊として打ってつけとなるはずです。試合前のアップの感じで気軽にお読みください。事業会社や金融機関にお勤めのビジネスパーソンや経営者の方々が本書を読んでコーポレートファイナンスに興味を持って,分厚い教科書も読んでみたいと感じていただければうれしいですし,本書でだいたいのことは掴めたと感じていただいても当面は大丈夫だと思います。
また,本書は幅広いコーポレートファイナンスのトピックをすべてカバーするのではなく,企業価値という概念を中心にコーポレートファイナンス理論という学問の思考回路を身につけていただくことを目的としています。たとえばポートフォリオ理論やオプション理論などはバッサリと切り捨てました。ポートフォリオ理論やオプション理論は勉強しているうちになんのための知識だか途中でわからなくなりがちなテーマですが,本書で学ぶ企業価値に根ざした思考回路に慣れれば理解しやすくなるはずです。
さらに,本書は前提の知識がない方でも読めるように書いたつもりです。コーポレートファイナンス理論は高山植物の研究のような,一般の方々にとって別世界の話ではありません。おカネとか会社とかビジネスといった,私たちの日常にさまざまな影響を及ぼす知識です。「世の中こうなっているのか」と感じていただければありがたいですし,「理屈って,考えるとおもしろいなあ」と少しでも思っていただければ望外の喜びです。
最後のお願いとして,できれば本書は最初のページから順を追って最後までお読みいただきたいと思います。このような本のまえがきでは「どこからでも興味を持った章から読んで構いません」とか「自分にとって必要のない章は適宜飛ばしながらお読みください」というのが普通かもしれません。それは,正眼の構えをして「さあ,どこからでもかかってきなさい」といえる達人の書いた本です。私は達人どころか研究者としてはまだまだ駆け出しの身で,今なおコーポレートファイナンス理論の森の奥でもがいている人間です。
しかし,神秘の森の奥にはなんとか入ってきて,ときどきは美しい湖や山の景色を満喫している立場にいます。したがって,これから森に入っていこうとされる方々には,「そこ,穴あいてますから気をつけて」とか「そっちの道に行くと,とんでもないことになりますよ」とか「その先に水が湧いてますから,もうちょっとがんばって」といったアドバイスができます。だから,できる限り本書の道順に従って読んでいただいたほうが安全ではないかと思います。

では,これから皆さんを美しい神秘の森へ安全にご案内しましょう。

宮川壽夫 (著)
出版社 : 中央経済社 (2016/10/25) 、出典:出版社HP

本書の構成とあらまし

これからはじまる神秘の森の全体像を見晴らしよくしておこうと思います。
本書は大きく分けると第1章から第7章までの前半部と,第8章から第13章までの後半部という2つの構成になっています。前半で企業価値評価の基本的な方法論を学び,後半では現実の世界で企業価値に影響を及ぼす要素をさまざまな理論によって明らかにしていきます。コーポレートファイナンス理論の入門書としては各章の構成もかなりユニークです。

第1章から第7章までの前半は企業価値がどのような理屈によって評価されるのかというお話を進めていきます。
まず第1章で株式会社がなぜ価値を生む必要があるのかというお話をし,第2章では,そもそも価値とはなにかについて考えます。企業価値が資本市場で観測されるという大事な前提について説明した上で,第3章から具体的な計算過程を説明します。第3章では,企業の出資者である株主と債権者の立場の違いを明らかにし,まず資本コストを加重平均する理屈について説明します。第4章は,企業価値の計算においては避けて通れない割引現在価値の計算方法を学ぶ章です。そして,第5章で企業価値を計算する際の分母になる資本コストを説明します。ベータ値とはなにかをわかりやすく解説し,一気にCAPM理論までをマスターします。第6章は企業価値計算の分子にくる要素の話です。ここでは3つの企業価値評価モデルを学びます。第7章はマルティブル法の意義と活用方法についてです。

以上で企業価値の評価はすっかりお手のものですが,おもしろいのは実はここからです。第8章からはじまる後半では企業価値が理屈どおりに市場で観測されない現実に挑みます。
まず第8章では,人間と企業の行動が必ずしも完全に合理的ではない点から市場メカニズムに限界があることを説明します。この現実を具体的に説明する理論を第9章で組織の経済学として学びます。そして,完全市場という仮定を緩めながら企業の現実的な行動に迫るのが第10章と第11章です。MM理論から話をはじめて,第10章では資本構成が企業価値に影響を与えるメカニズム,第11章では株主還元が企業価値に影響を与えるメカニズムについて代表的な理論を紹介しながら検討していきます。第12章はさらに発展して,人的資産が企業価値に与える影響を取り上げるとともにエージェンシー理論の現実性について疑問を投げかけます。最後の第13章では本来コーポレートファイナンス理論ではあまり取り上げられない企業戦略に対する評価について企業価値評価の観点から実践的な整理を行います。
「おわりに」で「企業価値の神秘」について,読者の皆さんへ私からメッセージをお届けします。
なお,本書の内容の一部には文部科学省科学研究費補助金・基盤研究C(2014年度~2016年度)の援助を受けた研究が含まれています。

宮川壽夫 (著)
出版社 : 中央経済社 (2016/10/25) 、出典:出版社HP

目次

第1章 コーポレートファイナンス理論と株式会社
1 コーポレートファイナンス理論とはなにか
まず視点をどこに置くべきか
なぜ価値がつくとうれしいのか
2 株式会社という便利でキケンな仕組み
株式会社を舞台にしたドタバタ劇
経営者の能力が低いと世の中みんなが迷惑する
家計が提供する資本と労働だから経営者というシゴトは楽なはずがない
企業価値拡大の原理原則

第2章 企業に価値をつけるという大胆不敵
1 人はなぜモノをほしがるのか
「価値」という豊かな日本語
カイシャには値札がついている
割引現在価値という理屈
将来の利得とリスクが価値を決める
2 すぐれた経営をどう評価するか
企業価値を定義すると
すぐれた経営とはなにか
コーポレートファイナンス理論の3つの原則
なぜ企業価値概念が普遍的なのか
企業価値は一企業の問題にとどまらない
しかし世の中はそこまで単純ではない

第3章 企業価値=株主価値+債権者価値という理屈
バランスシートの意味
株主と債権者,その立ち位置の違い
もしもバランスシートが時価だったら
なぜ資本コストを加重平均しなければならないのか
なぜ「1-実効税率t」をかけるのか? 節税効果を入れてWACCの計算式完結

第4章 割引現在価値という考え方
黄金の卵を産むガチョウの話
ガチョウが長生きすればするほど価値は上がるか?
黄金の卵を産むガチョウはだいたい2,000万円くらいの値段がつく
再び企業価値の定義
イソップ寓話が教える教訓
補論/なぜそんなに簡単な式になるのか? 永久債の価値

第5章 分母にもってくるもの〜資本コストという考え方
1 ベータ値という考え方
株式市場はなんでも知っている
株価は一次方程式で決まる?
2 ベータ値の意味と実際
ペータは企業によって異なる
ペータが表す意味
実際のペータ値を観察する
3 株主資本コストの計算
これで完成,美しくも強引な悪魔的魅力 CAPM理論
株主資本コストの導出
補論/分散と共分散の簡単な計算方法とペータ値の意味

第6章 分子にもってくるもの~キャッシュの考え方
1 株式価値評価モデルの原点:配当割引モデル(DDM)
もしも毎年同じ金額の配当がもらえたら?
もしも配当が毎年同じ割合で増えていったら?
2 実務でも活躍:割引キャッシュフローモデル(DCF法)
企業全体を主体に考えるエンタープライズDCF法
継続価値と永久成長率
フリーキャッシュフローの考え方:要するに「ゼニ」がなんぼ残っているか
なぜ利益ではいけないのか
会計と正反対のコーポレートファイナンス
負債を考慮しないフリーキャッシュフロー
それでも公式は通用しない:最終的な企業価値の算出
3 会計情報で計算できる:残余利益モデル(RIM)
B/SとP/Lの連続性で企業の行動を見る
もしも株主がその利益に満足しなかったら?
計算式は多いですが,理屈はスッキリしています
ROEと資本コストの関係ROEは高ければよいという指標ではない
4 公式を覚えることに意味はなし
どのモデルでも同じ答えが出る?
なぜDCFが実務で使われるのか
補論/配当割引モデルによくある勘違い

第7章 株価の割高割安が本質ではない〜倍率法の考え方
1 PERとDDMの関係
株主価値だから当期純利益で割る
日清食品と東洋水産のPER比較例
PERの分母が当期純利益である理由
PERが語る企業のリスクと成長
2 PBRとRIMの関係
株主価値だから株主の資本で割るPBR
PBR1倍割れというけれど
PBR1倍にあえぐ日本市場のミステリー
3 PBRとPERの関係
PBRはROEとPERのかけ算
PBRとPERの関係から作れるストーリー
4 回収期間で見るEV/EBITDA倍率
EVの再定義
実際の計算過程
なにがわかる数値なのか

第8章 本当に市場は正しい答えを知っているのか
1 市場で価格がつくとなにがうれしいのか
株式市場は本当に異質な場なのか?
市場価格が正しいとはどういう意味か?
市場メカニズムの限界に挑む
2 基本的競争モデルという理想
基本的競争モデルからの出発
経済学の教科書にはなぜ数式ばかりが並んでいるのか
3 限定合理性という現実
人間は効用最大化できない
企業は利潤最大化できない
基本的競争モデルという仮定の役割
4 情報の非対称性という現実
あなたの知らない世界
情報の非対称性が惹き起こす問題
なぜ保険料は高くなるか:アドパースセレクション
サポリ営業マンの給料は高いか低いか:モラルハザード
情報の非対称性問題への対応方法:シグナリング
エントリーシートは有効な経済的行為か:スクリーニング
補論/市場経済は本当に日本人になじみにくいのか?

第9章 組織の経済学三銃士
1 エージェンシー理論
企業が利潤を最大化できない理由
どういう問題が発生するのか?
エージェンシー関係はコストを発生させる
コーポレートファイナンス理論への応用
2 取引費用理論
市場での取引には費用がかかる
市場取引の費用が高いと組織化する
市場か企業かという選択
取引費用が高くなる条件
企業はなぜ多角化するのか
なぜ会議ではだれも発言しないのか
なぜ旧日本陸軍は白兵突撃戦術を続けたのか
個別効率性と全体効率性は一致しない
3 所有権理論
所有権がないと市場取引は成立しない
タバコの煙はだれのもの?
実はあいまいなほうがよい?
企業の所有権をどう考えるべきか?
株主が所有しているもの
株主が所有できないもの
4 新たなアプローチ

第10章 なぜMM理論はすごいのか〜資本構成の理論
1 MMからのメッセージ
最近のよくある勘違い
MM理論第一命題の例証
MM理論の第二命題が示唆するもの
MM理論がスゴイ理由
2 MM理論が実現しない現実
税金が存在する現実
なかなか実証されないトレードオフ理論
エージェンシー問題が存在する現実
取引費用が存在する現実
3 理論は理論で批判する

第11章 なぜ株主は配当が好きなのか~ペイアウトの理論
1 配当と自己株式取得
配当とはなにか
配当政策の悩み方
自己株式取得とはなにか
2 MMからのメッセージ再び
配当はいつだれに支払われるのか
配当無関連命題の例証
1株当たり利益が上がったから株価が上がるという勘違い
希薄化して株価が下がるという勘違い
3 配当が無関連ではない現実
税金が存在するなら無配が最適配当政策?
リントナーモデル:経営者は安定配当がお好き
シグナリングモデル:配当に込められたメッセージ
成熟性仮説:成熟はリスクの低下
フリーキャッシュフロー仮説:エージェンシー問題の解決策
株主と債権者のトレードオフ:株主は債権者の価値を奪う?

第12章 なぜ企業には人が必要なのか~人的資産の理論
1 マイヤーズの外部株主モデル
エージェンシー理論に対する問題意識
株主と経営者が企業に投下する2つの個人資産
配当は固定的であってしかるべき?
経営者の交渉力は人的資産
権利行使の配分メカニズム
2 会社の二階建て構造論
ヒトとしての組織とモノとしての組織
エージェンシー理論の誤謬
人的資産は個性的な企業にしからない?

第13章 なぜ企業に戦略が必要なのか~企業戦略の理論
1 完全競争と独占企業
完全競争市場で企業は価値を拡大できない
競争企業に対して独占企業とはなにか
2 独占企業と競争企業の間に企業戦略のヒントあり
現実には存在しない独占企業と競争企業
ポジショニングかリソースか?
3 ポーターVSバーニー
人がいない場所を取る:ポジショニング・ピュー
差別化かコストリーダーシップか
人が持たないものを持つ:RBV(リソース・ベースト・ビュー)
経営資源と呼ばれるためには
差異からしか価値は生まれない
実務でどこまで応用できるのか?
補論/独占企業はいかにして儲けるか

おわりに
企業価値は最大化されない
アカデミアの世界と実務者の世界の違い
今後も神秘の解明を目指して

索引

宮川壽夫 (著)
出版社 : 中央経済社 (2016/10/25) 、出典:出版社HP

会社の値段 (ちくま新書)

会社に値段をつけるのはなぜか

本書は、企業価値の算定とM&Aをテーマにしている本です。企業価値の意義やこれまでの経緯、アメリカ的な価値評価が行われる理由など企業価値評価そのものというより、その背景などの解説が多くなっています。M&Aについては、日米での比較もされており、M&Aの基本が理解できるようになっています。

森生明 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2006/2/6) 、出典:出版社HP

目次

はじめに――会社の値段がわかると世の中が見えてくる

第一章 なぜ会社に値段をつけるのか
会社の役割
株式上場もM&Aも中身は同じ
反対者の言い分①―会社は安易な金儲けのネタではない
反対者の言い分②―バブル長者は勤勉日本人の敵
資本主義とは会社に値段をつけること―株式会社と資本主義の誕生
公開株式市場への発展
会社に値段がつくフェアな社会―ホリエモン発言の真意
カネさえあれば何でも手にはいる、でいいの?
日本企業によるアメリカ買いの顛末
日本の転換期―会社の値段が重要になる時代の到来

第二章 基本ルールとしての「米国流」
「米国流」がグローバルスタンダードな理由
投資価値算定の万国共通ツール
永遠に同じキャッシュを生みつづける金融商品の値段
お金の時間価値――現在価値という発想
企業価値算定の原理
リスクを数値化する
最低限覚えておくべき公式
株主至上主義の紆余曲折
オーナー一族経営の時代
所有と経営の分離
一九六〇年代のM&Aブーム
一九八〇年代以降―株主の逆襲
機関投資家の拡大とコーポレート・ガバナンス
敵対的M&Aとその防衛策の発達
強いアメリカの復活と株主至上主義

第三章 企業価値の実体
会社の持ち主
企業価値にあたる英語はない?
企業価値という言葉にひそむ曖昧さ―ニッポン放送の企業価値と株主価値
誰にとっての「価値」なのか
すべてのステークホルダーという事なかれ体質
誰が企業価値を創るのか
経営者を選ぶということ

第四章 「会社の値段」で見える日本の社会
「会社の値段」という共通テーマ
全ては「金余り」からはじまった
高度経済成長の終わりからバブル崩壊へ
バブル崩壊から貸し渋りと金融再編
銀行の機能不全からハゲタカファンドの登場へ
ハゲタカと事業再生
事業再生と企業スキャンダルのつながり
ハゲタカファンドから産業再生機構へ
事業再生と外人社長
若手起業家の登場とネットバブル

第五章 企業価値算定―実践編
基本公式をどう使いこなすか
倍率は本質を語る
答えは市場から探す
株価、企業価値と会社の値段の関係―家電メーカー四社の比較
株価をそのまま比較しても意味はない
株式時価総額=会社の値段?
株式時価総額(=株主価値)と企業価値は違う?
バランスシートをイメージする
株式時価総額とのれん価値
企業価値にはすべてが織り込まれる
キャッシュフロー倍率で比べる
EBITDAというスタンダード指標
EV
EBITDA倍率は経営者の通知表
「客観的に正しい企業価値」はあるのか

第六章 ニュースを読み解く投資家の視点
正しい市場評価の前提
情報開示の重要性
投資家層の厚み
転換社債や新株予約権
買収資金は誰のカネ?
ベンチャー起業家は本当に稼いでいるのか?
財務優良会社がなぜ狙われる?
投資ファンドばかりが儲ける世の中でいいのか?

第七章 M&Aの本質
健全なM&Aの姿―支配権の売買
100%買収があるべき姿
支配権価格に「相場」はあるのか?
オーナーのわがままは構わない?
経営者のわがままは許されない?
なぜM&Aが企業価値を生むのか
M&A価格算定とDCF方式
支配権の値段の数値化作業
流動性の有無―なぜ上場廃止を選ぶのか
隠された負の遺産を見つけ出す

第八章 日本の敵対的M&A、米国の敵対的M&A
三タイプの敵対的M&A―良い、悪い、微妙
ライブドアとフジテレビ―何をめぐる争いか?
米国の敵対的M&A合戦―ディズニーの場合
新たな展開―楽天とTBS

第九章 日本らしい「会社の評価」のために資本主義は万能?
敵対的買収防衛策の必要性
会社への依存―国民性の違いか?
会社の金融資産は本当に株主のものか?

おわりに――投資家が形作る国と社会

森生明 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2006/2/6) 、出典:出版社HP

はじめに――会社の値段がわかると世の中が見えてくる

私は、二〇年ほど前、留学中に米国の企業買収の世界に触れたことがきっかけとなり、以後、企業価値の算定やM&Aの世界で仕事をしてきました。「どういう仕事をしているのですか?」と訊かれれば、
「企業価値を算定したりM&Aのアドバイスをしたりしています」
と答えていました。こう自己紹介すると昔は大抵、耳よりなインサイダー情報を持っていると期待され、「じゃあどの株が儲かるのか教えてくれ」と訊かれたものです。M&Aという用語が、Mergers(合併)&Acquisitions(買収)という英語の略であることを説明し、M&Aのアドバイザーというのは、会社の中身を調べて値段を算定して企業の合併や買収の交渉をする仕事です、と説明すると、今度は、
「企業を買収しちゃうなんて、なんだかぶっそうな仕事だね」
と眉をひそめられたものでした。
会社を運命共同体、人々が助け合い生活を支えあう場、ととらえる伝統的な日本の会社観からは、会社を買収しようとする人間は村を襲撃する山賊のように映ります。会社の財産は村びとが冬に備えて蓄積してきた食料で、買収者はそれを横取りしに来る、そんな構図を思い浮かべる人も多くいるでしょう。だとすると、会社の中身をあれこれ詮索して値段をつけて売り買いするのを助ける仕事は、山賊の手先が村の蓄えを調べまわるようなもので道徳的によろしくない、と言いたくなる気持ちもわかります。実際のところひと昔前は、そのように強引な買収を仕掛ける人の中には、会社の資産を売り払い社員の首切りをして安易な金儲けをしようとする人や、「会社を乗っ取るぞ」と脅しをかけて高値で株式を引き取らせることを狙っている人が多くいました。そこから、「会社の買収=会社の乗っ取り=人の道をはずれた強欲な人間のやること」という構図が、多くの人の頭にインプットされてしまった面もあります。そもそも、会社を買う行為を「買収」という犯罪用語と同じ呼び名にしてしまったことが、偏見の始まりなのかもしれません。

ところが最近では、M&Aはすっかり日常用語となりました。企業買収というと拒否反応を示す人は相変わらず多くいますが、M&Aが、会社中心の日本社会において避けては通れないトピックであり、ひとりひとりの人生設計に大きな影響を及ぼす出来事として受け取られるようになってきたことは事実です。株主価値についての議論が堂々と展開されるようになったこと、外資系、日系、政府系を問わず、経営者を交代させて事業を再生し売却して利益をあげるケースが出てきたこと、には隔世の感があります。
「M&A」だけではありません。ここ一年ほどの間で、急に「企業価値」「事業再生」「ハゲタカファンド」「株式上場廃止」……こんな言葉が新聞・テレビで毎日飛び交う世の中になりました。
そして、これらの言葉は、ただ一時的に流行しているだけではない、日本の社会・経済の大きな変化を表しているのだ、と私には感じられます。小泉内閣の「構造改革」「民営化」の流れと、「銀行再編」「不良債権処理」「デフレ」という動き、さらに遡って「バブル経済の崩壊」という出来事と、「企業売買」の話は、根がつながっています。
現代日本を賑わせているこれらの出来事の背景や理由は、「会社の値段」を軸にして考えることによって、全てすっきりと見えてくるのです。それが、この本を書こうと考えたきっかけです。

この本では以下の順序で、話を進めていきたいと思います。
まずは、会社に値段をつけて自由に売り買いできるようにすることが、世の中を便利で豊かにするための大切な原動力であることを説明します。
次に、ではどうやってその値段を算定するのか、という疑問に取り組みます。そうすると、昨今世の中を騒がせている「M&A」や「投資ファンド」の活動の意味と仕組みがわかるようになります。
その上で、「金が全て」という拝金主義的な考えにどこでどう歯止めをかけるべきなのか、欧米的な手法と日本的な良さとの間にどう折り合いをつけられるのか、という問題を考えます。
企業価値の算定やM&Aは、実際には複雑な数式や会計知識が必要な世界ですが、それらのテクニック面には深入りせず、「なぜそうなるのか、そうするのか」という素朴な疑問に、歴史的背景や世の中の移り変わりの脈絡や具体的な事例を引きながら答える「読み物」となるよう心がけました。国民ひとりひとりの「教養」としては、細かいテクニックより、大雑把ではあっても、その本質を押さえておくことの方がずっと重要だと思うからです。
また、企業価値算定やM&Aの話題は、とかく「米国的、外資系的」な発想や手法と「日本的」なものとの対立、どちらが良いか悪いか、という議論になりがちです。しかしあまり表面的な「日本vs米国」的構図にとらわれると物事の本質を見誤る、と私は感じています。この本ではいわゆる「米国的」な考え方を「日本的な頭と心」で理解できるように説明し、その上で、「では、日本的とは実際にどういうことなのか」を改めて考えるための材料を提供したいと思っています。

森生明 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2006/2/6) 、出典:出版社HP

企業に何十億ドルものバリュエーションが付く理由

ストーリーによって数字に魂が入る

この本では、企業価値評価の定量的、定性的評価の組み合わせについて解説しています。一般的に、いわゆる文系、理系という考え方が異なる人の分類がありますが、本書では、計算とストーリーというその両方の利点を組み合わせた企業価値評価をテーマにしています。

アスワス・ダモダラン (著)
出版社 : パンローリング株式会社 (2018/8/8) 、出典:出版社HP

目次

監修者まえがき
序文

第1章 2つの部族の物語
簡単なテスト
ストーリーテラーの魅力
数字の力
懸け橋としてのバリュエーション
絶えざる変化
企業のライフサイクル
結論

第2章 ストーリーを教えてください
歴史上のストーリーテリング
ストーリーの力
ストーリーが結びつける
ストーリーを覚えてもらう
ストーリーは行動を促す
ビジネスのストーリーの特例
ITデータ時代におけるストーリーテリング
ストーリーテリングの危険性
感情面の二日酔い
移り気な記憶
対抗手段としての数字
結論

第3章 ストーリーテリングの要素
ストーリーの構造
ストーリーの類型
一般的な形
製品のストーリー
創業者のストーリー
ビジネスのストーリー
ストーリーテラーのステップ
優れたストーリーの要素
結論

第4章 数字の力
数字の歴史
数字の力
数字は正確である
数字は客観的である
数字は管理を暗示する
数字の危険性
信頼性という幻想
客観性という幻想
コントロールという幻想
脅しの要素
まねされるという問題
タビネズミ問題
対抗手段としてのストーリーテリング
結論

第5章 数字を操る道具
データから情報へ——順序
データ収集
データ収集における選択
データ収集のバイアス
選択バイアス
生存者バイアス
ノイズとエラー
データ分析
データ分析の道具
分析におけるバイアス
データのプレゼンテーション
プレゼンテーションの選択肢
プレゼンテーションのバイアスと罪悪
結論

第6章 ストーリーを構築する
優れたストーリーの要素
事前作業
企業
市場
競争
ストーリー
大と小
現状維持と革新
ゴーイングコンサーンと有限の命
成長のスペクトル
結論

第7章 ストーリーの試運転
3つのP——可能性がある(Possible)、もっともらしい(Plausible)、確からしい(Probable)
あり得ないストーリー
経済より規模が大きい
市場よりも規模が大きい
利益率が100%を超える
コストのかからない資本
信じがたいストーリー
市場のダイナミクス
巨大市場の妄信
ありそうもないストーリー
結論

第8章 ストーリーから数字へ
価値を分解する
ストーリーとインプットを結びつける
定性的要因と定量的要因の出合い
ストーリーに価格を付ける
価格付けのエッセンス
ストーリーと価格を結びつける
ストーリーに価格を付ける危険性
結論

第9章 数字から価値へ
インプットから価値へ
バリュエーションの基礎
バリュエーションの未決事項
バリュエーションを改良する
バリュエーションの診断
価値を分解する
結論

第10章 ストーリーを推敲する——フィードバックループ
慢心と戦え
エコーチェンバーから脱出する
不確実性を直視する
価格付けのフィードバック
代替ストーリー
結論

第11章 ストーリーの変更
なぜストーリーは変わるのか
ストーリーの変更を分類する
ストーリーブレイク
ストーリーチェンジ
ストーリーシフト(マイナーチェンジ)
結論

第12章 ニュースとストーリー
情報の効果
業績リポートとストーリー
その他の企業のニュース
投資に関するニュース
資金調達のニュース
配当、自社株買い、現金残高
コーポレートガバナンスのストーリー
企業のスキャンダルと不正
株主構成
結論

第13章 ビッグゲーム——マクロのストーリー
マクロのストーリーとミクロのストーリー
マクロストーリーのステップ
マクロの評価
ミクロの評価
それらをまとめる
ビッグストーリー
サイクル
予見可能性
戦略
マクロ投資に関する警告
結論

第14章 企業のライフサイクル
年を取る事業
ライフサイクル
ライフサイクルを決めるもの
企業のライフサイクルに応じたストーリーと数字
ライフサイクルにおけるネガティブドライバー
制約とストーリーの類型
投資家への示唆
投資家に必要な能力
投資家の道具
結論

第15章 経営上の課題
ライフサイクルが教える経営上の課題
経営上の課題
ストーリーと数字——ライフサイクルに基づく教訓
移行期の構造
容易な移行
不適格なCEO
コーポレートガバナンスとアクティビスト投資家
結論

第16章 最終段階
ストーリーテラーと計算屋
投資家への教訓
起業家、企業オーナー、経営者への教訓
結論

注釈

アスワス・ダモダラン (著)
出版社 : パンローリング株式会社 (2018/8/8) 、出典:出版社HP

監修者まえがき

本書は、ニューヨーク大学教授のアスワス・ダモダランが著した“Narrative and Numbers: The Value of Stories in Business”の邦訳である。ダモダランはビジネススクールで教鞭をとっており、ファイナンスの分野で高い評価を得ている。一般向けの著書も多く、日本でも『資産価値測定総論1 2 3』(パンローリング)や『コーポレート・ファイナンス――戦略と応用』(東洋経済新報社)といった邦訳がある。

一般に企業価値評価には、バランスシートを精査して数字を積み上げていく方法、同業種の企業との比較に基づいた算出法、そして将来における収益のフローを現在価値に割り引くDCF法などがある。独創的なビジネスを手掛ける成長株の場合には、その価値評価は前二者にはなじまないことから、主として3番目の方法がとられることになる。そこでは、評価対象となる企業やそれを取り巻く環境の未来についての予測が伴うが、将来は常に不確実であり、キャッシュフローは想定するストーリーによって大きく変わってしまう。

だが、著者が本書で解説しているように、いったん前提とするストーリーが決まれば、それを一つ一つ数字に落とし込んで具体的な企業価値を算定することが可能である。もちろん、成長株では特に、市場価値は実体から長期にわたってかけ離れることがあるために、正しく評価して投資したからといって、それが利益につながるという保証はどこにもないし、ストーリーによる解釈は分かりやすい反面、語り手が間違っていても自分でそれを訂正することは心理的に至難であるという欠点を持つ。

しかしいずれにせよ、成長企業の真の価値などだれにも分からないのだ。もともと厳密な予測やモデル化などできない対象を扱う場合の次善の策として、仮説(ストーリー)に基づく演繹で価値評価を行い、事実の進行に照らしたフィードバックによって仮説を変えていくというのは悪くない方法なのではないか。なぜなら、成長株投資においては企業の価値評価の正確性に大した意味があるわけではなく、それは実際にはほかの市場参加者がその企業の価値をどのように見積もっているのかを推定して対処することを競うゲームだからである。

そこで重要なのは定量的評価による価値評価の精緻さではなくて、他人の評価の総体を効率良くかつ高頻度で参照し、粛々と自身のビューに反映させていくことである。その意味では、著者がインターネットにナラティブな表現を使って自分のアイデアを投げかけることで、多くの人の意見を募り、第三者の視点によるストーリーの訂正の機会を確保していることは注目に値する。これはネット上の集合知を投資に利用する方法として秀逸であり、今後も大きな可能性がある。

翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。翻訳者の藤原玄氏はいつもどおりとても丁寧な翻訳を、そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行される機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。

2018年7月 長尾慎太郎

アスワス・ダモダラン (著)
出版社 : パンローリング株式会社 (2018/8/8) 、出典:出版社HP

序文

中学生になるころには、世界はストーリーテラー(文系)と計算屋(理系)とに分断される。そして、ひとたび分断されると、彼らは、それぞれの好ましい居場所にとどまろうとする。計算屋タイプの人間は、学校でも数字を使う授業を求め、大学でも数字がものをいう分野(エンジニアリングや物理化学や会計学など)に進む。そして、時間が経過するにつれて、ストーリーテラーとしての能力を失っていく。ストーリーテラーたちは、学校でも社会科学の分野に籍を置き、自らのスキルを磨くべく、歴史や文学や心理学などを専攻する。それぞれのグループは互いを恐れ、また疑うようになり、MBA(経営学修士)の学生として私のバリュエーションの講義に参加するころには、その疑いはもはや橋渡しができないほどに深いものとなっている。世界には2つの部族が存在し、それぞれが自分たち独自の言葉を話し、自分たちだけが真実を語っており、ほかの部族が語っていることは誤りだと確信しているのだ。

私は、ストーリーテラーというよりもむしろ計算の世界の人問であり、バリュエーションの講義を始めたばかりのころは、同族の者たちばかりを相手にしていた。バリュエーションの問題に取り組むなかで、私が学んだもっとも重要な教訓は、ストーリーの裏づけがないバリュエーションは魂がなく、信頼に足らないものであり、われわれの記憶に残るのはスプレッドシートよりもストーリーのほうである、ということだ。私の性には合わないことだったが、バリュエーションとストーリーとを結びつけるようにし始めると、6年生のころから無視していたストーリーテラーの世界が改めて見えてきたのである。私はいまだ本能的には左脳人間であるが、自分の右脳の働きを再発見したのだ。このストーリーを数字に結びつけようとする(またはその逆)経験こそが、本書を通じて伝えようとしたことである。

個人的なことではあるが、本書は私が単独で著す最初の書籍である。「私」や「私の」という言葉を繰り返し使っていることを不快に感じ、エゴをむき出しにしているように思われるかもしれないが、個別企業のバリュエーションについて記しているときは、企業やその経営者たちに対する考えだけでなく、その全体像に対する私の考えも踏まえて、それらの企業のストーリーを記しているのだと考えている。つまり、2013年のアリババ、2014年のアマゾンとウーバー、2015年のフェラーリに関するストーリーを語り、それらのストーリーをバリュエーションに落とし込んでいく試みを記していくことになる。「われわれ」という表現を用いて、読者である皆さんに私のストーリーを押しつけるよりも、自由にそれを受け入れるか、反対するかにしてもらったほうが、よほど正直であろう(かつ、おもしろい)と考えている。実際に、本書を通じて、たとえばウーバーといった企業に関する私のストーリーを知り、同意できない部分について考え、読者独自のストーリーを構築し、それに基づいた企業のバリュエーションを行ってもらうことが最良だと考えている。実在の企業に関するストーリーを記すことの危うさとして、現実世界では予期しないことが起こり、私のストーリーが誤ったもの、時に取り返しのつかないほどの誤りとなることがある。私はそれを恐れるよりも、むしろ歓迎している。なぜなら、それによって自分のストーリーを見直し、改善、補強することができるからだ。

私は、本書のなかで幾つもの役割を演じることになる。もちろん、外部の投資家として企業を観察し、評価することに多くの時間を割いている。それこそが私がもっとも頻繁に演じる役割であるからだ。また、時には新たな事業の可能性や価値を、投資家や顧客や潜在的な従業員に納得させようとする起業家や創業者の役割を演じることもある。私は何十億ドル規模の企業を創業したことも、築き上げたこともないので、説得力がないと思われるかもしれないが、幾ばくかの役には立てると考えている。最後の数章において、上場企業の経営陣の目を通して、ストーリーテラーと計算屋との関係を見ていく。ここでも、私は人生で一度も企業のCEO(最高経営責任者)を務めたことがないことを断っておく。

本書を読んだ計算屋が、私のテンプレートを利用して、彼らが行った企業のバリュエーションを裏づけるストーリーを構築し、またストーリーテラーがどれほど創造的なものであっても、自分たちのストーリーを数字に落とし込むことができるようになることが私の目標である。さらに言えば、本書が2つの部族(ストーリーテラーと計算屋)の橋渡しとなり、彼らが共通言語を手にし、互いの役に立つようになることを望んでいる。

アスワス・ダモダラン (著)
出版社 : パンローリング株式会社 (2018/8/8) 、出典:出版社HP