【最新】観光学について学ぶためのおすすめ本 – 観光の在り方や持続可能性を理解する

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観光学はどんな学問?これからの観光はどうなる?

観光学とは、観光を通じて地域の活性化につながる事業の開発を目指すための学問です。近年、コロナの影響でインバウンドが前年に比べ9割以上減少するなど、観光業は非常に厳しい状況にあります。現状を踏まえた上で観光の在り方や今後の展望について学ぶことが、これからの観光を持続させるための一助となるでしょう。ここでは、そんな観光学について学ぶためにおすすめの本をご紹介します。

Part1【最新 – 観光学(観光文化・観光社会)を学ぶおすすめ本】 も確認する

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出典:出版社HP

観光経営学 (よくわかる観光学)

観光経営の在り方がよくわかる

各種観光関連サービスの経営を解説する教科書です。観光産業の経営人材養成に役立ちます。何らかの意味で楽しみを目的とする旅行を意味する観光は、国際的にも国内的にもますます盛んになっています。観光学を学ぶ学生,および観光に関連する実務者にお勧めしたい一冊です。

岡本 伸之 (著)
出版社 : 朝倉書店 (2013/10/15) 、出典:出版社HP

編集者 岡本伸之帝京大学経済学部
執筆者
岡本伸之 帝京大学経済学部 (1章)
矢ケ崎紀子 首都大学東京都市環境学部 (2章)
奖“裘 帝京大学经济学部(3章)
篠崎 宏 株式会社JTB 総合研究所 (4章)
大谷新太郎 阪南大学国際観光学部 (5章)
柳田義男 杏林大学外国語学部 (6.1 節)
西村剛 株式会社 ANA 綜合研究所 (62節)
野口洋平 杏林大学外国語学部 (7章)
帝京大学经济学部 (8章)
丹治朋子 川村学園女子大学生活創造学部 (9章)
古本泰之 杏林大学外国語学部 (10章)
後藤克洋株式会社 KPMG FAS (11章)
山口有次 桜美林大学 不久了不下学群 (12章)
金 蘭正 鈴鹿国際大学国際人間科学部 (13.1 ~13.3節)
産 錦珍九州国際大学国際関係学部 (13.4~13.5節)
福島規子 九州国際大学国際関係学部 (14.1~14.2 節)
美 聖淑 帝塚山大学经管学部 (143節)
鈴木涼太郎 相模女子大学学芸学部 (15章)
執筆順 ( )は執筆担当

はじめに

何らかの意味で楽しみを目的とする旅行を意味する観光は,国際的にも国内的にもますます盛んになっている.その結果,現在では観光が政府の成長戦略の一翼に位置づけられるなど,その経済的重要性が高まり,企業経営や地域経営の分野で観光経営の在り方に関心が寄せられるようになった観光経営人材の育成が喫緊の課題とされるわけであるが,こうした社会情勢の変化を背景として,わが国でも観光を研究・教育の対象とする大学の数が,半世紀前の状況を知るものとしては,急増したとの印象を持つ。しかし,観光が今後の成長分野であることを万人が認めるなかで,これは当然の成り行きといえよう。
本書は,上記のような背景の中で、4年制大学レベルにおける観光経営の入門書としての役割を発揮させることを意図して編んだ。大学における観光経営教育の使命は,社会現象としての観光が生起する原因と結果,その因果の連鎖を学生に理解させることである。その上で,観光のさらなる健全な発展を実現するための知識・技能・経験を自主的に身に付けさせる必要がある.そのためには,大学としても学びの場をインターンシップなどによって観光の現場に拓いて,学生の創造的な勉学意欲を引き出す必要がある.
観光経営を専攻する学生の多くは,観光関連の各種事業活動を担う多方面の企業や,地域において観光まちづくりを担う各種事業主体を卒業後の進路として選択するものと期待される.実際の選択の対象は,観光とは無縁に見える進路が有り得るが,現代社会においては観光と無縁の企業など存在しえないともいえる。このような状況では、どのような進路を選んだとしても観光産業の新たな発展を担う可能性がある。学士の学位を取得するまでには、観光が直面する諸問題の解決と諸課題の達成に資する知見を幅広く、しかも掘り下げて修得することによって,各人の就業力としてほしい、
本書は,上記のような問題意識に基づいて,『観光経営学」の標題のもとで,観光に関わる各種事業活動の経営の側面に関連する論考を収録したものである.各章の「観光経営の基礎」,「観光政策・行政」,「観光まちづくり」「観光行動と観光市場」,「ICT革命と観光産業」,「交通産業経営」,「旅行産業経営一旅行業の近未来」,「宿泊産業経営」,「外食産業経営」,「博物館と美術館」,「ホテルアセットマネジメント」,「集客戦略」,「観光産業の人的資源管理」,「接遇と顧客満足」,「ポストモダンと観光」といった標題から本書の概略を推量してほしい.
それぞれの章の執筆者には,編者の責任で適任者を選んだ.各執筆者は朝倉書店編集部の適切な指導に従って,極力読みやすい教科書となるよう努めた.

2013年8月
岡本伸之

岡本 伸之 (著)
出版社 : 朝倉書店 (2013/10/15) 、出典:出版社HP

目次

1. 観光経営の基礎
1.1 観光事業の経営特性
1.2 事業分野と経営課題
1.3 観光事業の経営戦略
2.観光政策・行政
2.1 基本法、関連法令
2.2 重点施策
2.3 推進体制(観光庁および関連団体)
3. 観光まちづくり
3.1 観光まちづくりの起こりと意義
3.2 持続可能な観光まちづくり事業体から観光まちづくりプラットフォームへ
3.3 観光まちづくりの段階的展開手法と今後の展開方向
4. 観光行動と観光市場
4.1 観光行動の3つの特性
4.2 データから読み取る観光市場
4. 3観光産業の市場戦略
5. ICT革命と観光産業
5.1 観光におけるICT 革命の影響
5.2 観光を構成する各要素におけるICT革命の影響
5.3観光産業とICTをめぐる動向と展望
6. 交通産業経営
6.1 鉄道事業
6.2 航空事業
7. 旅行産業経営——旅行業の近未来
7.1 旅行業の機能と役割
7.2 パッケージツアー
7.3 旅行業の新たな展開
8. 宿泊産業経営
8.1 宿泊産業の概要
8.2 ホテル業の経営特性
8.3 旅館業の経営特性
8.4 宿泊産業の展望と課題
9. 外食産業経営
9.1 外食産業の市場構成
9.2 チェーンレストラン経営
9.3 外食産業の現代的課題
10. 博物館と美術館
10.1 博物館・美術館の概要
10.2 博物館・美術館を取り巻く状況
10.3 観光地における博物館・美術館の役割
10.4 特色ある事例
10.5 今後の課題
11. ホテルアセットマネジメント
11.1 ホテルアセットマネジメントの歴史
11.2 ホテルアセットマネジメントの組織と機能
11. 3日本のホテルアセットマネジメント形成の背景
11.4 ホテルアセットマネジメント発展への課題とチャレンジ
12. 集客戦略
12.1 集客の捉え方
12.2 集客方法の考え方
12.3 集客戦略の重要ポイント
13. 観光産業の人的資源管理
13.1 人的資源管理とは
13.2 観光産業の人的資源管理の特徴
13.3 柔軟性理論(人件費の変動費化)
13.4 感情労働とは
13.5 感情労働と組織管理
14.接遇と顧客満足
14.1 日本のおもてなし
14.2 向社会的行動と配慮行動
14.3 顧客満足とは
15. ポストモダンと観光
15.1 現代観光とポストモダン
15.2 ポストモダンをめぐる諸議論
15.3 観光のモダンとポストモダン
15.4 テーマパーク化する消費空間と「ツーリズムの終焉」
15.5 ポストモダン観光論の限界と観光経営への示唆
索引

観光経営の基礎
1.1 観光事業の経営特性

岡本 伸之 (著)
出版社 : 朝倉書店 (2013/10/15) 、出典:出版社HP

観光情報学入門

情報で観光を実学する

観光情報学という新たな領域を具体的な事例を数多く例示しながら解説しています。観光情報に関心のある読者はもとより、観光資源をいかに活用しようかと考えている読者にも最適の書です。

観光情報学会 (編集)
出版社 : 近代科学社 (2015/5/15) 、出典:出版社HP

◆読者の皆さまへ◆

小社の出版物をご愛読くださいまして、まことに有り難うございます。おかげさまで、(株)近代科学社は1959年の創立以来,2009年をもって50周年を迎えることができました。これもひとえに皆さまの温かいご支援の賜物と存じ、衷心より御礼申し上げます.この機に小社では、全出版物に対してUD(ユニバーサルデザイン)を基本コンセプトに掲げ,そのユーザビリティ性の追究を簡底してまいる所存でおります。本書を通じまして何かお気づきの事柄がございましたら、ぜひ以下の「お問合せ先」までご一報くださいますようお願いいたします。
お問合せ先:reader@kindaikagaku.co.jp
なお、本書の制作には、以下が各プロセスに関与いたしました:
・企画:小山透・編集:石井沙知・組版,カバー・表紙デザイン:菊池周二・印刷,製本資材管理:藤原印刷・広報宣伝・営業:山口幸治,富高琢磨
ます。
●本書に記載されている会社名・製品名等は、一般に各社の登録商標または商標です。本文中のC,R,TM等の表示は
・本書の複製権・翻訳権・譲渡権は株式会社近代科学社が保有します。・JCOPY《(社)出版者著作権管理機構委託出版物本書の無断複写は著作権法上での例外を除き禁じられています。複写される場合は、そのつど事前に(社)出版者著作権管理機構(電話03-3513-6969,FAX03-3513-6979,e-mait.info@jcopy.or.jp)の許諾を得てください。

序文

本書は,観光情報学とはどういうものかを学ぶためのテキストとして書かれたものである.観光に関する学会は古くから数多く存在するが,観光を情報という観点から見るという立場はほとんど存在しなかった。観光において情報が果たす役割は非常に大きく,適切なタイミングで適切な情報を提供すると、観光はとても良いものになる.しかし,まずいタイミングでまずい情報を提供してしまうと,観光はだいなしになってしまう。そこで、最近の技術を用いれば,うまく情報を提供して観光の魅力を増すことができるという考えから、観光情報学会が2003年に設立された.理系文系という分け方は紋切り型かもしれないが,あえて言えば従来は文系に偏りがちであった観光の学問に,観光情報学会は理系の要素を取り入れたということになる。
新しい研究領域はどれもそうであるが,最初からその体系が存在するものではない、混沌とした中から少しずつ体系化していくことが,新しい学問を立ち上げたときの重要な作業になる.観光情報学はまだ始まったばかりであるが,これまでの初期の研究成果を一旦まとめて体系化を図ることが,この研究領域に新たな人を呼び込んでさらに発展させるために必要と考えて,観光情報学会として本書の企画に至った次第である。
本書は、私が2009年に観光情報学会の二代目の会長になった直後に発案し,学会として本の構成を検討して、学会の主要メンバーに執筆をお願いした.忙しい中執筆していただいた方々に感謝する。もっと早く発刊する予定であったが,遅れてしまったのは私の責任であり,この場を借りてお詫びしたい.また,観光情報学会の担当理事として本書のとりまとめをしていただいた北海道大学の小野哲雄氏,本書の出版を引き受けて編集をしていただいた近代科学社の小山透氏に深く感謝する。
本書によって観光情報学に興味を持つ人が増えて学問が盛んになり、ひいては観光の振興につながることを願っている。

2015年4月
桜が連休に咲くのを心待ちにしている函館にて
松原仁

観光情報学会 (編集)
出版社 : 近代科学社 (2015/5/15) 、出典:出版社HP

目次

1章
はじめに 観光情報学とは?
1.1 観光とは何か
1.2 観光にまつわる学問
1.3 個人旅行と観光情報学
1.4 観光情報学で対象とする研究の概観
1.5 観光情報学の今後
章未問題
参考文献

2章
情報化時代の観光行動
2.1 観光行動の変遷
2.2 旅行前の観光行動と情報サービス
2.3 観光旅行中の観光行動
2.4 観光旅行後の観光行動
2.5 観光行動に関する情報サービスの今後
章未問題
参考文献

3章
位置情報サービスと観光
3.1 位置情報サービスの概要
3.2 位置情報サービスを実現するための要素技術
3.3 観光分野などにおける位置情報サービスの事例
章末問題
参考文献

4章
拡張現実(AR)が観光にもたらすインパクト
4.1 拡張現実(AR)とは
4.2 ARの基礎技術
4.3 観光への応用
4.4 ARの課題と可能性
章末問題
参考文献

5章
デジタルアーカイブと観光
5.1 観光情報とデジタルアーカイブの関係
5.2 地域デジタルアーカイブ
5.3 デジタルアーカイブの観光情報への利用
5.4 アーカイブを活用する観光デザイン
章末問題
参考文献

6章
観光情報とデザイン
6.1 PRとナビゲーション
6.2 PRの再構築と地域デジタルアーカイブ
6.3 デスティネーションにおけるPRの再構築
6.4 地域デジタルアーカイブによるデスティネーションキャンペーン
6.5 ナビゲーション
章末問題
参考文献

7章
ユーザ参加による情報構築と価値共創
7.1 観光消費行動と情報行動
7.2 Web2.0時代と情報行動
7.3 CGM EUGC
7.4 AISASモデルとロコミ
7.5 ロコミ共有と二つの価値共創
7.6 集合知とは何か
7.7 集合知の活用
7.8 経験価値と価値共創
章末問題
参考文献

8章
観光情報パーソナライゼーション
8.1 はじめに
8.2 パーソナライゼーションとレコメンデーション
8.3 レコメンデーションを実現する理論
8.4 おわりに
章末問題
参考文献

9章
ゲーミフィケーションと観光 トゼーシー
9.1 観光とゲームイベント
9.2 恒常的なゲーム運営
9.3 携帯電子機器を使った観光周遊支援ゲーム
9.4 参加者が創る観光周遊支援ゲーム
9.5 ゲーミフィケーションという文脈から
9.6 思い出を記録しロコミにつなげる仕掛け
章未問題
参考文献

10章
観光情報が拓く観光サービスのデザイン
10.1 観光とサービス工学の接点
10.2 観光プランを、誰がいつデザインするか
10.3 観光情報が拓く観光サービスのデザイン
10.4 おわりに:価値共創の時代と、変化する旅行会社の役割
章末問題
参考文献

11章
観光地イメージとサービス・マーケティング
11.1 観光とイメージ
11.2 観光目的地(デスティネーション)と観光情報
11.3 観光地のサービス商品と情報技術
11.4 観光地サービス・マーケティングの新潮流
章末問題
参考文献

12章
観光情報システムが目指す未来
12.1 UNWTOにおける国際的観光動向
12.2 世界観光競争カランキング
12.3 国際競争力のある観光産業育成に向けての情報システム
12.4 観光はシステムとしての発明品
章末問題
参考文献

13章
観光情報学に関するトピックス
13.1 東日本大震災からの復興と観光情報学
13.2 温泉旅館ソフトの中国への輸出可能性
13.3 文化観光における情報の役割とその将来展望一平泉の取組みから
13.4 風評被害と観光
章末問題
参考文献
章末問題の解答・ヒントなど
索引
著者紹介

1章
はじめに 観光情報学とは?

観光情報学会 (編集)
出版社 : 近代科学社 (2015/5/15) 、出典:出版社HP

観光政策への学際的アプローチ

最新の観光政策がよくわかる

本書は、地域資源を維持・管理し、活用する観光政策を多角的に検証しています。最新の政策・研究手法・事例を盛り込んでいるので、新たに観光政策を学ぶ人におすすめです。「地域社会のキーパーソン」養成に役立つテキストとなっています。

高崎経済大学地域科学研究所 (編集)
出版社 : 勁草書房 (2016/3/29) 、出典:出版社HP

刊行に寄せて

本書は,高崎経済大学地域政策研究センターの主要事業の一つである「プロジェクト研究」の成果である。
地域政策研究センターは、平成10(1998)年の開設以来,政治学・行政学・法律学・経済学・経営学・社会学・地理学・歴史学など学際的視点から地域政策に関する研究を通じて、プロジェクト研究,地域政策セミナー,公開講演会,自治体等からの受託研究,ラジオゼミナールなどに精力的に取り組んできた。
とりわけプロジェクト研究はセンターの看板事業ともいうべきものであり,その研究成果を世に問うため、これまでにも『環境政策の新展開』『景観法と地域政策を考える」「地域政策学事典』『社会的排除と格差問題——地域社会による解決への取り組み』『地域政策を考える2030年へのシナリオ』(いずれも勁草書房)など多数の書籍を出版してきた。
さて、本書のそもそものねらいは,平成19(2007)年度に地域政策研究センターから刊行された『観光政策へのアプローチ」(津久井良充・原田寛明編,鷹書房弓プレス)のヴァージョンアップを図ることであった。そのため、平成25(2013)年度から27(2015)年度の3カ年の時限付きプロジェクトが設置された。そして、旧版とは大幅に執筆陣を刷新し、学外の実務家メンバー2名にも参画していただいた。その結果として、本書は単なる改訂版ではなく、まったくの新版ともいうべき内容に仕上がっている。
本プロジェクト研究の遂行過程において、観光政策を取り巻く社会経済環境に新たな潮流が創出された。我が国において平成26(2014)年6月に「富岡製糸場と絹産業遺産群」が,さらに平成27(2015)年7月に「明治日本の産業省命遺産」がそれぞれ世界遺産に登録された。また,平成27(2015)年の訪日外国人数は推計値で前年比47.1%増の1973万7400人となり,3年連続で過去最多を更新した。そして訪日外国人が家電製品などを大量に購入する「爆買い」が平成27(2015)年の流行語大賞(「現代用語の基礎知識」選)に選ばれることとなった。
その他特筆すべき出来事としては,平成32(2020)年の東京オリンピックの開催を控え,既存のホテル等の収容力不足を補う手段として,観光庁が「民泊サービス」のあり方に関する検討会を設置し,議論を進めている。さらに,政府が掲げる地方創生の推進に呼応して、地方版総合戦略において観光によるまちづくりを重要施策に掲げる地方自治体も少なくない。
このように観光政策は政府および地方自治体にとって最も重要な戦略の一つとしての地位を確立しつつある。本書が観光政策への関心と理解を一層深め,皆様のお役に立てるとしたら幸甚である。
なお、平成27(2015)年度から地域政策研究センターは本学の産業研究所と統合再編され、新たに「地域科学研究所」としてスタートを切っている。その意味では、本書が地域政策研究センター最後のプロジェクト研究の成果物となった。関係各位の多大なる御理解と御支援に深く感謝申し上げたい。
2016年3月
前・高崎経済大学地域政策研究センター長佐藤徹

地域科学研究所の開設について

本書は,旧地域政策研究センターの研究プロジェクトの研究成果です。本研究プロジェクト開設の経緯については、当時のセンター長が述べていますので,地域科学研究所の発足の経緯と今後の取り組みについて説明させていただきます。
2015(平成27)年4月1日,高崎経済大学に地域科学研究所が開設されました。本学には,これまで2つの研究機関が設置されていました。一つは、1957(昭和32)年の大学開設と同時に開設された産業研究所,もう一つは,1998(平成10)年に開設された地域政策研究センターでした。
高度経済成長の助走が始まった1957(昭和32)年に市立高崎経済大学が経済学部の単科大学として設置されました。戦後,商都に加え,工業都市としての二つの顔を持つことになった高崎市が大学を設置した背景には,地方都市を支える人材の養成が大きな目的にあったことはいうまでもなく,同時に地方都市からみた地域,地方都市から見た経済・経営を科学的に研究する拠点を形成することも高崎経済大学に求められたのでした。それに応えて開学と同時に附置研究機関として産業研究所が設置されました。産業研究所の最初の研究が沖電気の誘致と経済波及効果であったことからも,大学に課せられた使命の一端が理解できます。
産業研究所では、1979(昭和54)年の『高崎の産業と経済の歴史」を皮切りに,研究成果を公刊するようになりました。当初は自費出版の形式をとっていましたが,1987(昭和62)年以降は、研究プロジェクトによる成果が日本経済評論社の協力を得て公刊されるようになりました。2014年度まで計34冊の研究成果本が刊行されました。また産業研究所では,1974(昭和49)年より市民公開講演会を開始し,シンポジウムも熱心に行われました。
1990年代の初め頃,大学と地域社会との関係が重視されるようになり、多くの大学において大学の地域貢献のあり方を模索する動きが活発化しました。その頃,産業研究所をモデルにしようと多くの大学が本学に視察に来られました。訪問者からは,開口一番,毎年,研究成果を出し続けられているのはなぜかと尋ねられました。産業研究所は独自の研究費を持たず,そのため所員と学外の研究者の「手弁当主義」によって続けられていると説明すると一同に驚かれていたことを思い出します。研究プロジェクトはプロジェクトリーダーが研究テーマの設定を行い、それに賛同する所員と学外の研究者によって約4年間にわたって研究が進められ成果がまとめられています。研究環境が整わない条件下において、毎年研究成果が積み重ねられてきたことは参加された所員,学外の研究者の方々の情熱があったからでした。
こうした産業研究所の取り組みは、1996(平成8)年に設置された全国初の地域政策学部の設置認可に大きく貢献しました。地域政策学部は、地方分権社会を担う「地域の目で地域を考える」ことのできる官民諸分野の人材養成を大きな目標としました。当時の学部認可は容易なものではありませんでしたが,不十分な研究条件下にも関わらず,多くの先生達が積極的に地域研究に取り組んでこられた実績が地域政策学部の基礎として評価されたのでした。
1998(平成10)年,地域政策学に関連した研究所として、主に自治体職員の研修機関機能を中心とした地域政策研究センターが開設されました。開設当初は、政策評価を中心とした研修が行われました。その背景には、バブル崩壊後,自治体は税収減に見舞われ、効率の良い行政運営が求められたことがありました。地域政策研究センターでは,2000年「自治体職員のための政策形成ゼミナール」,2001年『自治体政策評価演習』,2005年『市民会議と地域創造』なと,地域政策学に関連した専門書を刊行し、2015年までに16の図書,報告書
を公刊する一方で、まちづくりのためのセミナーも積極的に展開されました。
高崎経済大学は、2011(平成23)年4月から、公立大学法人として高崎市から独立した組織となりました。この法人化に際して、研究機関の統合が話題に上りました。その要因は,産業研究所と地域政策研究センターの事業内容が似てきたことにより,2つの研究機関の必要性に疑問符が打たれたからでした。2014年度に研究機関の統合について具体的に検討され,その結果,2014年度末に産業研究所と地域政策研究センターを廃止し,2015年度より地域科学研究所として新たに出発することに決まりました。長期経済不況,デフレ経済が続く中,少子高齢化問題も相まって,地方経済の低迷が顕在化するようになりました。このことは,国公立私立を問わず,大学に地域貢献が求められるようになりました。高崎市は,3次にわたる合併の結果,群馬県を代表する地方中核都市となりました。高崎市の森林率は合併前の7.8%から一気に48.3%まで増加し,市域は高速交通網の整備された旧高崎市を中心として,近郊農村地域,過疎山村地域を含む広大な地域となりました。
高崎経済大学では,こうした地域の動向を直視する中で、これまでの2つの研究機関における研究成果やノウハウをより効果的に社会に還元し,大学の地域貢献を強化するために、2つの研究機関の統合を検討し,新たに地域科学研究所を設立することとなりました。産業研究所は57年,地域政策研究センターは16年の歴史をそれぞれ閉じることになりました。
新たに設立された地域科学研究所は,地域で発生している人口問題をはじめとして、産業,福祉,教育,交通,環境など,地域が直面している諸問題の科学的分析を行い、都市,農山村の地域づくりの指針となるよう,様々な研究テーマを設定して研究プロジェクトを編成し,基礎的な研究を行います。長年,産業研究所,地域政策研究センターの研究プロジェクトには、研究費がありませんでしたが,今後は研究に取り組む環境整備を進めたいと考えております。そして,研究によって得られた成果を市民,県民の皆様に披露し,地域の様々な諸問題を考えていく基礎を提供してまいります。
また地域科学研究所では,大学の地域貢献拠点としての重要な役割を担い,所員による市民の皆様を対象とした公開講座(春講座と秋講座を計画中)や,高崎市の歴史や現状を市民の皆様と本学の教員,学生がいっしょに勉強し考えていく地元学講座の開設、また所員の案内によって高崎市や群馬県をめぐり,地域への理解を深めるエクスカーションなどの企画を計画中です。詳細が決定いたしましたら大学ホームページ、ニューズレターにてお知らせいたします。
このようにして,地域科学研究所は,大学の地域貢献拠点としての役割を担ってまいります。現在,本学の専任教員の内,こうした地域貢献事業に積極的に参加しようと人文科学,社会科学分野で活躍されている46名の専任教員が所員を兼務しています。所員の先生方は,日頃の講義,学生指導に加え,地域科学研究所の諸計画の遂行に携わっていただくことになりますが,こうした積極的に参加下さる先生方によって研究所の運営が支えられています。
新しく発足した地域科学研究所は、どのようにして地域貢献を果たしていけば良いのか,まだまだ暗中模索の状況にあります。市民,県民の皆様のご要望に応えられるよう,日々研鑽を重ね、研究成果をまとめて参ります。市民,県民の皆様から要望がございましたら,地域科学研究所までお知らせいただければ幸いです。産業研究所,地域政策研究センター同様,地域科学研究所へのご支援,ご鞭撻をお願い申し上げ,所長のあいさつとさせていただきます。

地域科学研究所長西野寿章

高崎経済大学地域科学研究所 (編集)
出版社 : 勁草書房 (2016/3/29) 、出典:出版社HP

目次

刊行に寄せて 佐藤 徹
地域科学研究所の開設について 西野寿章

第1章 国際親善文化観光都市としての軽井沢町 大河原眞美
1. 軽井沢の別荘文化
2.「別荘」と「別荘」を所有する人
3. 軽井沢の別荘地
4.別荘地の特色
5. 別荘地の組織と環境への取り組み
6. 今後の軽井沢の景観形成

第2章 世界遺産を奇貨としたまちづくり,観光振興 高橋 修
1. はじめに
2. 富岡市の生い立ちと富岡製糸場
3. 世界遺産登録を見据えたまちづくり
4. 富岡製糸場を核としたまちづくり
5. 養蚕の存続,絹文化の継承
6. 外国人観光客の誘致
7.おわりに――地域資源を活用したまちづくり,観光振興 松田和也
第3章 高崎の食発信と観光
『開運たかさき食堂』のブランド化戦略
1. はじめに
2. 高崎の食発信に向けた取り組み(初年度)
3. 高崎の食発信に向けた取り組み(2年目)
4. 高崎の食発信に向けた取り組み(3年目) 5.おわりに 54

第4章 地域資源を活用した体験・交流型観光政策の展開と課題 一千葉県芝山町と山形県飯豊町を事例に 高津英俊
1. はじめに
2. 各事例からの検討
3. おわりに
第5章 グリーン・ツーリズムの現状と新たな展開可能性 若林憲子
1. 日本のグリーン・ツーリズムの導入と展開
2. グリーン・ツーリズムの条件不利地での取り組みとその特徴
3. グリーン・ツーリズムを通じた地域活性化のステージのイメージ
4. グリーン・ツーリズム推進体制と農山村社会の活性化
5. 長野県浅間山麓国際自然学校
6. 考察と今後の課題 佐藤徹

第6章 観光行政と政策評価
1. 政策評価の基本的視座
2. 行政評価制度
3. 観光政策の評価
4. おわりに 米本清

第7章 観光資源・イベントの経済評価
1. なぜ,経済的な評価が必要なのか
2.どんな評価手法があるか
3. 旅行費用法(トラベルコスト法)
4. 仮想評価法(CVM)
5. ヘドニック分析
6. コンジョイント分析など
7.おわりに 伊佐良次

第8章 観光政策と産業連関分析
1. 沖縄における観光政策の展開
2. 観光客数の決定要因
3. 観光客数増加による経済波及効果の推計
4. おわりに 165

第9章 群馬県における観光資源としての産業遺産活性化に向けた動向と課題 大島登志彦
1. はじめに
2.「富岡製糸場と絹産業遺産群」と「ぐんま絹遺産」
3. 鉄道遺産の宝庫である群馬
4. 鉱業県としての群馬
5.おわりに

第10章 観光における地域ブランドの役割 河藤佳彦
——茨城県ひたちなか市における取組みを実践事例として
1. はじめに
2.観光と地域ブランドの意義
3. 茨城県ひたちなか市における観光振興への取組み
4. おわりに 千葉 貢

第11章 “旬”を旅する
一愛唱歌をくちずさみながら
1. はじめに――暦とカレンダー
2.“弥生の空”に花明かり
3. 青葉隠しか“八十八夜”
4. “二百十日”の風やまず
5. “師走”は年を惜しみつ一再会を願いながら
索引
執筆者一覧

第1章 国際親善文化観光都市としての軽井沢町
大河原眞美
1. 軽井沢の別荘文化

高崎経済大学地域科学研究所 (編集)
出版社 : 勁草書房 (2016/3/29) 、出典:出版社HP

新しい時代の観光学概論:持続可能な観光振興を目指して

入門書として最適

筆者は実務経験もあり、観光の過去現在未来を総合的な理解するために必要なテーマを読みやすい分量にまとめ、かつ単独で論じることで、読者の腹落ちできる観光学概論に仕上げています。いずれ復活するであろう観光を支える次世代養成には必要不可欠な一冊です。

島川 崇 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2020/10/27) 、出典:出版社HP

はじめに

「観光学は学際的な学問である」。この言葉を何度聞いたことか。社会学,文化人類学,都市計画,経営学,経済学,語学あらゆる分野から研究者が観光学に集っている現状を表した言葉である。
しかし,その出自が確立された学問分野であればあるほど,自分の研究分野(ディシプリン)が「観光学」であると語ることを躊躇する研究者をよく見てきた。今は観光が注目を浴びているから、観光に集ってきているけれど,これがもし世間の観光への注目がなくなったら,または、最悪,世間が観光を目の敵にしたりするような事態になったら,そのような人たちは,自分の観光への関与の痕跡を我先に消すだろう。
観光学を学んで観光学の研究者や大学教員になった人はまだ数えるほどしかいないから,それはある意味やむを得ないのかもしれないが,そこに,観光学というこの新しい学問を確立させようという気概は感じられない。私は,2017年に観光学概論の講義を受け持つこととなり、テキストとなる文献を読み比べた。ほとんどが共著であった。章によって、温度差が否めない。共通言語がない。最初から最後まで一貫したメッセージや大切にしている哲学がない。著者間で想いが共有されていない。それどころか,政策系,計画系の人は,産業のことを知らず、産業系の人は政策のことを知らず,多くの人は世界で起こっていることを知らない。そして,世界で起こっていることを知っている人は,残念ながら、日本はガラパゴスだと、はなから小馬鹿にする。そのような言葉をまた役所が必要以上にありがたがる。これでは、この学問はいつまで経っても一人前にはならない。
観光学そのものを学んだ数少ない人間として,学士課程ではリベラルアーツ,修士課程では経営学と社会学と時々文化人類学からの観光学,博士課程では都市計画と、多分野を知った人間として、産業界とアカデミズム両方に足を突っ込んだ人間として,地方において観光でまちづくりを目指す志の高い人々と協働した人間として,産業界でも,航空業に身を置きながら,旅行業と接し,総合旅行業務取扱管理者資格を有し,総合旅程管理主任者資格も取って添乗業務の内情を中からの視点で見て大いなる理不尽を実感し,旅行業では大手と中小手の両方とビジネスを共にし,旅行業の構成員では真の多数者である中小手で働く人々の代弁者として,単著で観光学概論を書くべきだとの強い想いに駆られた。
今,観光学には一貫したメッセージが必要である。それがないから,外部環境の急激な変化にただおろおろするばかりなのだ。今観光学が考えていかなければならないことは、何よりも観光の持続可能性だ。そして、観光を持続可能にするためには,商業的に成立すること,すべてのステイクホルダーが倫理観を持つこと、歴史や背景,ストーリーを大切にすること,それを語る語り部の存在をもっと大切にすること,地元の雇用創出につなげること,人間の存在と積み重ねてきた業績をリスペクトすること, For Others, Be Professional! これを最初から最後まで貫き通した今までにないテキストとなったと自負している。
2020年6月
島川崇

島川 崇 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2020/10/27) 、出典:出版社HP

目次

はじめに
序 章 観光リーダー列伝
1 セザール・リッツ
2 山口仙之助・正造
3 岩切章太郎
4 松下幸之助

第1章 観光の意味
1 「観光」とは――国の光を観る
2 観光と旅行の違い
3 観光研究の潮流

第2章 観光の功と罪
1 観光地化のメリット
2 観光は両刃の剣——負のインパクト
3 観光に蔓延する一見さん商法とブーム至上主義
4 観光客・地域住民・観光事業者の三方一両得

第3章 観光で実現する持続可能な発展
1 SDGsと観光の関係
2 サステナブル・ツーリズムが生まれるまでの経緯
3 サステナブル・ツーリズム概念の定着

第4章 日本の観光発展史
1 開国,そして不平等条約改正と観光の関わり
2 喜賓会からジャパン・ツーリスト・ビューローへ
3 外国人観光客誘致の受難と克服,そして戦争の時代へ
4 力強い戦後復興と旅行会社の相次ぐ誕生
5 東京オリンピックを契機に加速した観光基盤整備
6 旅行代金の低廉化によるアウトバウンド全盛
7 旅行の流通革命——HIS と AB-ROAD
8 再び, アウトバウンドからインバウンドへ

第5章 観光産業論I:旅行業
1 旅行業の類型
2 企画旅行における旅行業の6つの義務
3 旅行業のさらなる活用

第6章 観光産業論II:旅行業の流通
1 旅行業界の複雑な流通
2 添乗(旅程管理)業務を担う派遣添乗会社の存在
3 OTAの台頭とそのビジネスモデル
4 OTAとホテルの最低価格をめぐる攻防

第7章 観光産業論III:交通機関と宿泊機関
1航空
2 鉄道
3 バス
4船舶
5 その他の交通
6 ホテル・旅館

第8章 ホスピタリティ論
1 ホスピタリティ=おもてなし?
2 安心保障関係
3 相互信頼関係
4 新たな関係性としての「一体関係」

第9章 觀光行政・政策論
1 観光政策が重要政策課題となるまで
2 観光政策を取り巻く現状
3 観光を担当する組織
4 観光プロモーションの様々な手法
5 観光まちづくりの力
6 MICE

第10章 観光資源論I:人文観光資源と自然観光資源
1 観光資源の類型
2 人文観光資源
3 自然観光資源

第11章 観光資源論II:その他の観光資源と世界遺産
1 複合観光資源
2 社会観光資源
3 無形観光資源
4 世界遺産と観光
5 観光の光と影の資源——被災地観光,戦跡観光
結びにかえて観光のこれから

参考文献
人名・事項索引

コラム
1 横浜市民が誇る震災復興の象徴:ホテルニューグランドのサービス
2 杉原千畝から繋いだJTB の命のリレー:大迫辰雄
3 モルディブ旅行をモルディブ専門の旅行会社にお願いして大満足だった話
4 三陸復興のシンボル:三陸鉄道
5 沖縄の特色あるバスガイド
6 おかげ犬
7 台湾に生きる国立公園設立に向けての日本人の志

島川 崇 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2020/10/27) 、出典:出版社HP

序章 観光リーダー列伝

観光に関する理論を学ぶ前に,観光の発展に寄与した立役者の足跡をたどってみることにする。観光にその生涯を賭けた人たちは,何を想ってその志を遂げたのか,そして,その生涯は現在の私たちに何を訴えかけているのかを感じることから,観光学の始まりとしたい。

1セザール・リッツ

“The King of Hoteriers” “The Hoterie of Kings” セザール・リッツは、“The King of Hoteriers(ホテリエの王)”または “The Hoterie of Kings(王たちのホテリエ)”と呼ばれる伝説のホテリエ(ホテル支配人)である。今も最高級ホテルチェーン「リッツ・カールトン」に彼の名がつけられているように,近代ホテルサービスの礎を築いた人と言っても過言ではない。
セザール・リッツは,1850年2月23日,スイスのニーダーワルト(図序-1)にて羊飼いの13番目の息子として生まれた。父ヨハン=アントン・リッツは、貧しいけれど,村長を務めていた。父は彼に朝から晩まで羊を追う生活に明け暮れることなく,勉強することを勧めた。セザールは、15歳のとき,語学学校に行き,外国語を習得した。セザールはまずウェイター見習いとしてホテルで働き始めるが、上司は彼の手先が不器用なことを指摘し,「お前はこの仕事には向いていない」と言って解雇した。しかし、人から喜んでもらえることの価値を知った彼は、そんな上司の言葉だけではあきらめなかった。彼は、17歳のとき,万国博覧会で沸くパリに移り,万博スイス館での給仕として働くこととなった。万博が終了したあとは、ホテルの給仕や靴磨き、売春宿のボーイ等の仕事を転々として食いつないだ。
その後,ウェイター見習いとして有名レストラン「ヴォワザン」に入り,ここで頭角を現し始める。著名な料理人でその後のホテル運営のパートナーとなっていくエスコフィエとの最初の出会いも,このヴォワザンだ
った。20歳でヴォワザンの総支配人となった。しかし,このとき普仏戦争が勃発し,フランスの敗戦とともにパリは荒れ果ててしまう。そこで,ウィーンで万博が開かれることになったことを機に、23歳でウィーンに移り,万博のフレンチレストランで働くこととなった。これが,世界の人々,特に上流階級の人々と交流を深めるきっかけとなった。
1877年,セザールは念願のホテリエになることができた。モンテカルロ・グランドホテルの支配人になると、ありきたりのサービスではなく、巧みな話術と手の込んだ仕掛けで上流階級の人々を喜ばせ,1年で収益を倍にするなど敏腕を振るった。顧客がリピーターとなり、順調と思われたが,突然南フランスをコレラが襲った。予約はすべてキャンセルになってしまった。そこで,セザールはこの危機的状況をチャンスに変えることを思いつく。どこよりも衛生的なホテルにするという新たな目標を設定したのだ。清掃は入念にし、全従業員の身だしなみも整えた。自身も多い時は1日に4回もスーツを着替えるほどであったという。さらに、彼はトイレや風呂が各階に1つしかなかった時代に,ホテル界で初めて各客室にトイレとバスタブを完備した。この逆境に対してチャレンジしたことが評判を呼び、彼の名は欧州中に轟いた。
セザールは、1880年、スイスのグランド・ナショナル・ホテルの支配人を兼務した。冬は暖かいモンテカルロ、夏は涼しいスイスで彼は過ごした。セザールは、ラジオも映画もなかった時代に,宿泊客のために趣向を凝らした様々なイベントを考え出し,ホテルは盛況を呈する。1884年,盟友エスコフィエをモンテカルロのグランドホテルの料理長に迎え、レストランにも力を入れるようになる。1888年グランドホテルのオーナーの姪でモンテカルロ育ちのマリー=ルイーズとカンヌで結婚した。妻の一族との階級差を意識した彼は、その後一流ホテルを買収するようになる。1889年にはエスコフィエとともにロンドンのサヴォイ・ホテルも担当することになり、モンテカルロ,ドイツ、ロンドンと飛び回る日々が始まった。図序-2は,買収により初めて所有したバーデンバーデンのホテルミネルヴァである。
1898年,セザールはパリのヴァンドーム広場にホテルを建てるための理想的な場所を見つけた。オテル・リッツのオープン時には、イギリス、アメリカ、ロシアなどの各国から著名人,知識階級,富裕層,貴族らが続々と訪れた。その後、マドリードやロンドンにリッツ・ホテルをチェーン展開した。順調に見えた彼の人生であったが,多忙のために家族に会えないことに寂しさを感じ、自分の家柄や教養に関しては劣等感を抱いていた。また、5カ国12ホテルすべての面倒をみなければならず,長いときには10数時間に及ぶ汽車での移動はセザールを肉体的にも精神的にも疲労させていた。1901年,ヴィクトリア女王崩御に伴い,長年親交のあったプリンス・オブ・ウェールズがエドワード7世として即位した。セザールはその戴冠式の式地雷営を一任されたが,エドワード7世の突然の病気で戴冠式は本番2日前に延期された。セザールは失意で精神的に病んでしまった。これ以上ビジネスが続けられないと判断され,1911年には役員を外されてしまったが,セザールのデザインとコンセプトはリッツ・シンジケートで踏襲され続けた。しかし,精神病を発症してから16年後の1918年10月26日,彼は療養所で孤独な死を迎えたのであった。

2 山口仙之助・正造

近代ホテルの創始者であるセザール・リッツと同年代で,世界に通用するホテルを日本に作った男がいた。その男こそ,山口仙之助である。
1851年,彼は漢方医を家業とする大浪昌随の五男として武蔵国橘樹郡大根村(現・神奈川県横浜市神奈川区青木町)に生を受けた。その後,遊廓「神風楼」の経営者・山口桑蔵の養子となった。神風楼は開国後の横浜にあって,外国人が多く利用した。そのときに外国人との関係が作られたのであろう,1872年に米国へ渡った仙之助は、生活難のため皿洗いに従事して金を貯めた。米国で牧畜業の可能性に触発され、牛を購入して日本に持ち帰り,牧畜業を志したが,結局その牛は内務省駒場勧業寮に売り払い、周囲の勧めで慶應義塾に入った。福沢諭吉から今後の国際観光の重要性を説かれ,それがホテル開業の決断につながった。仙之助は当時既に創業500年を経過していた箱根宮ノ下の温泉旅館「藤屋」を買収し、ここを外国人観光客に喜んでもらえる「ホテル」として開業することとした。1878年,旅館は洋風に改築され,外国人客を対象とした本格的リゾートホテル「富士屋ホテル」がオープンした。
オープン後は、苦難の連続だった。特に交通の不便さは想像を絶するほどだった。パンや肉類は横浜から馬車で小田原へ運び、朝の食卓に間に合わせるため、毎朝小田原まで人夫を出して運搬した。輸送だけで、大変な労力を要したのだ。そのような地道な努力の甲斐あって、ようやく富士屋ホテルは軌道に乗り始め、難題だった箱根の道路事情も,後述するように革命的な進展を遂げていくのである。
しかし,開業6年後,宮ノ下で発生した大火により、ホテルの建物とともに,6年間の記録も失われた。それでもその1年後には見事に復興を果たした。
現在も現役で活躍する「本館」が完成したのは,1891年である。その年,ロシアの皇太子ニコライ殿下が宿泊することとなった。大津事件により皇太子は急遽帰国することになり、宿泊は叶わなかったが、ともかくも外国の要人の宿泊所に指定されたことで全国に名を轟かせることとなる。富士屋ホテルは外国人専業のホテルとして発展した。岩崎弥太郎が予約を依頼してきても仙之助はそれを断った。バジル・ホール・チェンバレン,アーネスト・サトウ、ラフカディオ・ハーン等の明治期を彩った外国人に富士屋ホテルは愛された。
仙之助は、本館完成に伴い、火力発電機を導入した。自家発電により、箱根の山に初めて電灯を点した。さらに、水力発電も計画し,宮ノ下水力電気合資会社を設立し、富士屋ホテルだけにとどまらず,地域全体に電力を供給した。さらに,仙之助は自力で宮ノ下に至る道路の整備を行い、これが現在の国道1号線になっている。・明治が終わる頃、かつて一寒村であった宮ノ下は、毎年1万数千人の外国人を集客できる一大観光地となっていた。仙之助は村長として,地域の発展に多大なる寄与をした。その功績に対して藍緩褒章を授けられた。
山口正造は、1882年、富士屋ホテルと並ぶ日本リゾートホテルの草分けである日光金谷ホテルの創業者,金谷善一郎の次男として生まれた。金谷善一郎はもともと武士の出で、維新後は日光東照宮の雅楽師をする傍ら,来訪する外国人を自宅に泊めるのを稼業とした。
正造は立教学校で学んだ後、18歳で米国へ渡り、ホテルのコックや貴族家庭のボーイをしながら各地を放浪した。その後,英国へ渡り、柔道の師範として名を知られるようになる。見知らぬ異国の地で、見事成功を手にしたこの経験は、後年のホテル経営に多大な影響を及ぼした。
1906年,正造は帰国し,山口仙之助の長女孝子の婿養子として山口家の一員となり,富士屋ホテルの経営に参画することとなる。
正造はホテルの設計にもこだわりを見せ、正造自身のプロデュースによって完成した花御殿は世界的にフラワーパレスの名で知られた。43室の客室には部屋番号の代わりに花の名前がつけられ,客室のドア,鍵,そして部屋のインテリアにも各部屋の花のモチーフが使われている(図序-4)。またホテルの長年の懸案であった交通問題に関しても,正造は先を予見して、バス事業を開始する。
すべてが順調に推移していたところに,1923年9月1日の関東大震災が富士屋ホテルを襲った。しかし,数日後には,正造の陣頭指揮により,従業員を総動員して復旧工事に着手し,富士屋ホテルは蘇った。
震災の被害を乗り越えたのち,正造は,食堂の新築に着手する。チーク材を用い,和の意匠を凝らしたメインダイニングルームは「ザ・フジャ」という名の通り,富士屋ホテルらしさが最も色濃く表れた場所として、現在も訪れるお客様の人気を集めている。
1937年,盧溝橋事件をきっかけに日中戦争が勃発。これ以降,富士屋ホテルは長い暗黒の時代へと突入していく。ついに太平洋戦争が始まると、物資の欠乏や増税により、ホテル経営は深刻化した。そのような中、外務省会議に出席するため上京した正造は、帰路の列車内で倒れ、2日後の1944年2月14日に急逝した。
今でも,富士屋ホテルのメインダイニングには、山口正造をかたどった柱の装飾がある(図序-5)。現在の富士屋ホテルのスタッフたちがきちんとサービスできているか、時を超えてにらみをきかせているかのようだ。

3岩切章太郎

宮崎県民が「観光宮崎の父」と親しみを込めて称えているのが、岩切章太郎である。宮崎県はかつて新婚旅行のメッカとされて、多くの新婚カップルが訪れたが,岩切章太郎がまさにその基盤を作った。戦後の日本が経済発展ばかりを望み,海岸という海岸が埋め立てられて工場の建設が進む中、自然保護の重要性を説き、自然を生かした観光事業の発展のために生涯を賭けた。その名は全国に轟き、当時の総理大臣佐藤栄作や元総理大臣の岸信介から全日空の社長になってほしいと三顧の礼で迎えられたにもかかわらず、故郷宮崎から離れず、その要請を断った。気骨の人,岩切章太郎とはどのような人物なのだろうか。
岩切章太郎は1893(明治26)年,ちり紙輸出や石油業を営む地元の資産家っあった岩切與平,ヒサの9人兄弟の長男として現・宮崎市中村町に生まれた。
宮崎中学校(現・大宮高校)時代は、学業は首席で通し,望洋会(生徒会)を組織するだけでなく,柔道や相撲の選手となり,文武両道を極めた。第一高等学校から東京帝国大学法学部に進んだ。
卒業前に,前宮崎県知事で当時神奈川県知事だった有吉忠一を横浜の知事官舎を訪ねたときのこと,有吉に「岩切君,いよいよ卒業だね。卒業したらどうするの?」と聞かれ,岩切は「郷里に帰ろうと思います」と答えた。それに有吉は驚き、「宮崎に帰っても仕方がないじゃないか。いったい宮崎に帰って何をするつもりか」と聞くと,岩切は「民間知事をしようと思います」と言ってしまった。それを聞いた有吉は笑いだして「岩切君の考えそうなことだ。まあしっかりやってみるんだね」と激励した。岩切は晩年振り返って,このとき「馬鹿な考えはよせよ」などと言われたら民間知事構想は立ち消えになったであろうと言っている。このときに咄嗟の思いで出した「民間知事」という言葉が、その後の岩切の一生を貫く言葉になった。岩切は故郷に帰るにあたって、以下の3つの方針を立てた。それは、
第一世の中には中央で働く人と、地方で働く人とあるが,あくまで地方で
働くことに終始する。第二上に立って旗を振る人と,下に居て旗の動きを見て実際の仕事をする人とあるが,仕事をする側になる。
第三人のやっていること,やる人の多い仕事はしない。新しい仕事か,行き詰って人のやらぬ仕事だけを引き受けてみよう。人のやっている仕事を自分がとって代わってみても,それはその人と自分との栄枯盛衰でしかない。しかし、もし新しい仕事を一つ付け加えたり、行き詰った仕事を立て直したりするならば、それだけ世の中にプラスになる。
「岩切は1926年に帰郷し、4台のバスで宮崎市街自動車株式会社(宮崎交通の前身)を創立し,大淀駅(現・南宮崎駅)と宮崎神宮間に市内バスの運行を始めた。
その後,観光事業に力を注ぎ,1931年に定期遊覧バスの運行を開始した。自ら率先してバスガイドの採用と養成に尽力し,1933年に開催された「祖国日向産業博覧会」では,遊覧バスに乗れば,「純真な娘さん」のバスガイドの解説で,その地方のすべてがダイジェストで分かる仕掛けが大好評を博し,宮崎バスの名前が全国的に一躍有名になった。バスガイドの原稿は,岩切自身が調査して執筆したものだった。その後も宮崎バスのバスガイドは人気を保ち続け,コンクールでも優秀な成績をいつも収めている。
1939年に「こどものくに」を開園した。その当時,入園料は大人も子供も一律10銭で,「おじいさんもおばあさんも、お父さんもお母さんも、お兄ちゃんもお姉ちゃんも,今日は子供になって子供券をお買いください」と,ここにも岩切の愛情溢れる想いが表れている。
第2次世界大戦の後,観光事業をいち早く復活させる。1947年,宮崎観光協会会長に就任。1950年には,観光バス新車14台を連ね,「東海道五十三次,声の旅」観光宣伝隊が東京から宮崎まで宣伝行脚し、全国に話題を呼んだ。その後,日南ロードパーク(こどものくに,堀切峠,サボテン公園),えびの高原,都井岬等,「大地に絵を描く」の想いを込めて、宮崎の面的な観光開発を進めた。
岩切の慧眼ぶりは、景観保護,自然保護ということが言われていなかった時代に、日南海岸の復活と保護,自然景観を生かした観光資源の発掘と開発を行ったことである。特に第2次大戦後,日本は経済成長ばかりを望み、海岸という海岸が埋め立てられて、工場の建設が相次いで進められた。太平洋ベルト地帯を中心に、日本の沿岸は工場からの排水で汚染された。日本全国でそのような開発が進む中、岩切はまさに「民間知事」としてリーダーシップを発揮し、自然美を生かした観光資源を生み出し,それを丹精込めて育てていった。特に,全国に先駆けて、屋外広告物の規制や優れた景観を形造っている樹木の伐採規制などを目的とした宮崎県沿道修景美化条例の制定に向けて県民運動を率先して展開した。また,365日花のある観光地であるように沿道に植栽したり,赤松の自然林やミヤマキリシマの群落が鑑賞できる地点を整備したりした。
その結果,新婚旅行に宮崎を選ぶカップルが後を絶たなかった。1972年の婚カップルは100万組を超え,そのうちの約4分の1が新婚旅行に宮崎を選だ。その人数は57万人に達し,当時の宮崎県の人口の半分以上に相当する新婚旅行客が訪れていた。
岩切の発言は,現在の観光振興にも大いに示唆に富むものに溢れている(富田,2018a;20186)。
・宮崎の観光の特徴はロードパークであり,また会員バスの発展のためにも次々と新しい観光地作りが必要であるが,コスモスと梅林,梅の茶屋もきっと、その一翼を担ってくれるであろう。それにしてもコスモスでさえ10年がかりである。何事も10年,20年と黙々として努力を続けることが必要であるとしみじみ思うことである。
・経済発展と環境汚染,観光開発と自然破壊,この2つはどうしても両立し「難いものであろうか。いやそうでは決してないのである。私共は既に自然破壊のない観光開発をいくつかやって来た。
・花好きの人は一本の花でも直ぐ気がついて,心にきざみつけていただくが,一般の人々は見ることは見られても、直ぐ忘れて仕舞われるらしい。ところが大群落があると凡ての人が,これは驚いて下さるばかりでなく,その時,今まで見て忘れていた沿道の花も一緒に思い出して,すばらしかったといい心に強く印象づけて下さるものらしい。だからどうしても,どこかに中心拠点になる大群落が出来ないと駄目だと言うのが私の考えである。
・自分が感心しないと人が感心するはずがない。観光とはそういうもので,地元で評判にならないものが、どうして他県人の共感を呼びますか。「あなたそこへ行ったか、いやまだいっていない。行ってみなさい,それはすばらしいところだ」そんなことを常に思っている。観光は常に工夫しなければならない。見どころをつくらなければいけない。何度いってもいい観光地にはそれだけの魅力がある。
観光宮崎の父,岩切章太郎は、1980年に軽い脳血栓で倒れて体調を崩し,1985年に死去,92歳であった。

4松下幸之助

松下幸之助の名前は,松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)を一代で世界企業にまで拡大した人物として内外に有名である。また,PHP研究所を設立し,日本が戦後の荒廃から脱却し、物心ともに豊かな社会を構築するにはいかにすべきか,研究と実践に生涯を捧げた。さらに,松下政経塾を設立し,門閥や官僚組織によらない,志がある若者を次世代のリーダーとして育成することにも尽力した。
そのような松下幸之助だが、戦後の工業化、高度経済成長下において、いち早く観光の価値に気づき、観光立国を唱えていたことはあまり知られていない。2009年9月に発足した鳩山内閣で国土交通大臣となった前原誠司は,就任記者会見の中で、公共事業の見直しとともに,「観光立国」のさらなる推進を図っていかなくてはいけないと述べた。さらに前原大臣は自身が松下政経塾で学んだことを引き合いに、「観光立国」という名前を初めて使ったのは松下幸之助であることを紹介した。この記者会見で,観光分野でも松下の発言が脚光を浴びることとなった。
松下が観光立国について持論を披露したのは、『文藝春秋』1954年5月号に掲載された「觀光立國の辯——石炭掘るよりホテル一つを」である。この論文における論点を整理すると,以下の通りである。
1観光に対する理解が官民ともに低調で、心なき人によって不調和な建物や施設が建設されて本来世界的に見て価値のある日本の景観が損なわれている。
2日本の美しい景観を日本人は今まで自国のみで独り占めしてきた。相互扶助の理念に立って広く世界に開放されるべきだ。
3物品の輸出貿易は日本のなけなしの資源を出すが、富士山や瀬戸内海はいくら見ても減らない。運賃も荷造箱もいらない。こんなうまい事業は他にない。
4観光予算に200億円が必要だ。観光は観光業界にとどまらず,他産業に大きな波及効果がある。
5観光客を迎えることで日本人の視野が国際的に広くなる。すなわち居たがらにして洋行したと同じ効果を挙げることができる。
6観光は最も大きな平和方策である。持てるものを他に与えるという博愛の精神に基づいている。全土が美化され,文化施設が完備されたら中立性が高まる。
7観光省を新設し,総理,副総理に次ぐ重要ポストとして観光大臣を任命す「べし。各国に観光大使を送り,国立大学を観光大学に切り替えるべし。
松下は観光立国の根幹に流れる思想を「相互扶助」「持てるものを他に与える博愛精神」にあると説いている。この思想こそまさに現在の観光行政および観光事業者に欠けている考え方である。観光は今までいつも,有形・無形の「資源」からベネフィットをもらうことしか考えていなかった。しかし,これからは、観光が観光客に何らかの貢献ができないか,そしていつもベネフィットを享受するだけだった「資源」側に対しても何らかの貢献ができないかという発想を持つことを,松下は奨励しているのではなかろうか。この観光側の発想の転換こそが、観光という産業が一人前の産業として認知され,さらに資源も観光も持続的に共存していく要諦であると思えてならない。
日本が「観光立国」として世界にアピールをするためには,単に国内の観光地を外国人に紹介することにとどまらず,観光の意味を再考し、名実共に「観光は平和へのパスポート」となる必要がある。松下はPHP(Peace and Happiness through Prosperity:(経済的)繁栄による平和と幸福)を主張したが,観光がそのPHPに関わるとするならば,PHPT(Peace and Happiness through Prosperity by Tourism:観光による経済的繁栄を通しての平和と幸福)といった観光の効果を単に経済的指標だけで計るのではなく、PHT(Peace and Happiness through Tourism:観光そのものがもたらす平和と幸福)でなければ、松下幸之助の思いを具現化することはできない。私も松下政経塾の一卒塾生として、平和と幸福を追求できる観光のあり方を追求していきたいと強く感じている。


(1) Peace and Happiness through Prosperity:(経済的)繁栄による平和と幸福。

島川 崇 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2020/10/27) 、出典:出版社HP

反・観光学: 柳田國男から、「しごころ」を養う文化観光政策へ

観光学を見つめ直す

柳田國男,内田義彦,宮本常一,司馬遼太郎,白洲正子,柳宗悦,南方熊楠。七賢人の著作と思想に探る,観光学の再出発への手がかりをまとめています。著者の民俗学愛に溢れる一冊となっています。

井口 貢 (著)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2018/8/20) 、出典:出版社HP

はじめに

これから本書を通して伝えていくことになる拙文は、あくまでも私見である。ゆえに、異論反論も当然出てくるに違いないが、百の反論がなければ、たった一個の共感もないと信じて綴っていくことにする。そもそも、人とその営為について論じる著作は人文、社会、自然科学を問わず等しく筆者による「作品」でなければならないと思う。
学生時代の恩師の一人であった山田鋭夫先生(一九四二-経済学者、わが国におけるレギュラシオン理論の第一人者)を通して、私が二十歳のころに経済史家・内田義彦(一九一三~一九八九)の名を知り、数年ののちにその著書の一つ『作品としての社会科学」(岩波書店、一九八一年)と出会ったときの記憶は、今も喉元を過ぎてはいない(余談、奇縁かもしれないが、内田、山田ともに私の好きなまちの一つ名古屋の出身である)。
同じく二十歳の夏に私は、中学生三年生のころからその名が心に留まり続けていた柳田國男(一八七五-一九六二)の初期の作品「遊海島記」(初出は雑誌『太陽』、一九〇二年)を大学図書館で見つけることになる。その経緯については、少し前の拙著『くらしのなかの文化・芸術・観光|カフェでくつろぎ、まちつむぎ』(法律文化社、二○一四年)で詳述した。
一方私はその中学生のころ、あるいはそれ以前より日本のポピュラー音楽への興味と関心が抜きがたく、「柳ヶ瀬ブルース」や「帰って来たヨッパライ」などに衝撃を受けたそのときの記憶は今になっても鮮明に残る。特に、小学校六年生の冬に柳ケ瀬(岐阜市随一の繁華街)のお好み焼き店・正村の店頭で「帰って来たヨッパライ」が流れてきたときの衝撃は、昨日のことのように一枚のスナップ写真のごとく心の片隅に残っている。
また生まれて初めて観たライブコンサートもそのころのことで、名古屋・御園座での美空ひばり(一九四九-一九八九)の劇場公演だった。公演の内容は詳細には覚えていないが、二部構成となっており一部がお芝居、二部は歌謡ショーであったと記憶している。一部のお芝居は江戸中期に大奥を発端として世間を揺るがした「江島生島事件」(一七一四年)を主題としたものであった。ホールは満席で熱狂する人々の様子がなぜか強く印象に残った。
作家の五木寛之(一九三二-)は、その著作『蓮如』(岩波新書、一九九四年)のなかで、明治維新史・日本資本主義発達史研究を中心とした経済史学のある大家(前記の内田の著作にもその名が紹介されている)が生前、五木との対談中に「美空ひばりは日本人の恥」と述べていたことを披歴している。五木自身、その発言について詳細に論述批判しているわけでは必ずしもなかったが、もしもその大家が真実そう思っていたとしたら、「日本人の恥」とは何かを美空ひばりという文脈のなかで、しっかり語ってほしかったと思う。戦後間もないころ、十二歳でデビューした美空ひばりは、当初から「天才少女歌手」という名声を受けたものの、詩人・サトウハチロー(一九〇三-一九七三)に代表されるように、知識人階層の人々からの批判は存在した。しかし敗戦で荒む心に晒されていた多くの日本人、あるいは喩えていうならば柳田國男のいう常民や、その概念への反論として赤松啓介(一九〇九~二〇〇〇)が提示する非常民にとって、心和ませ勇気と元気と未来への希望を与えてくれた少女の歌声であったことを否定することはできないのではないだろうか。関連するが、宗教史家の山折哲夫(一九三一-)の『美空ひばりと日本人」(現代書館、二〇〇一年)は、巧まずしてその大家への反論ともいえるだろう。山折にその意図があったか否かは別としても。
歌に関連して、もう一つ。昨年(二〇一七年)紫綬褒章を受章した作詞家の松本隆(一九四九-)は、若いころに「はっぴいえんど」というロックバンドを細野晴臣(一九四七-)、鈴木茂(一九五一-)、大瀧詠一(一九四八-二〇一三)らと結成している(一九六九-一九七三解散)。そのセカンドアルバム『風街ろまん」(一九七一年)は、評価が高く収録曲の一つ「風をあつめて」は今もCMなどのなかでも流れてくる。そして、別の収録曲「はいからはくち」は、日本人による日本人のための日本のロックミュージックを念じた彼らのメッセージソングとみる向きもある。「ハイカラ白痴」(「白痴」とは、今は使ってはいけない言葉であるが)と「肺から吐く血」という二重の意味(掛詞、ダブルミーニング)、もちろん作詞は松本によるものだ。
彼女自身がそれを念じたか否かは知るすべもないが、美空ひばりのパフォーマンスと通じるところは少なくない。「日本人の日本人による日本人のための」という文言も今では不穏当な、グローバル化社 会・ボーダレス化社会・多国籍化社会であるかもしれないが、あえていうならば、それであるがゆえに、 再確認し忘れてはいけない何かがあるに違いない。
すなわち本当にグローバルであるためには、自分の国とそれによって育まれてきた自国語と自国の文 化を知り、自分自身を知ることがまずは肝要であって、外国語だけ堪能になって外国人(とりわけ西欧 米)のパフォーマンスを真似ることでは決してはないということだ。
批判を恐れずにいおう。五木寛之の前掲書に登場する大家とそのグループの人々の明治維新史・日本 資本主義発達史に関する優れて多彩な業績を否定するつもりは全くないが、私は学生時代の演習でその 一部に触れたときから「イギリスやフランスの革命の舞台上で幕末と明治が踊っている」という「観」 がどうしても拭えず、日本資本主義論争を学説史で辿ってみても、講座派の見解にも労農派のそれにも 与することはできなかった(この両派の論争については、ここで詳述はしない)。
したがって、修士論文はその「観」を記した。山田先生はその当時はいわゆる「専任講師」で、私の主査でも副査でもなかったが、「ヨコのものを、タテにするだけでは絶対ダメだからね」という激励をいただいた。一方で副査のある先生からは、「君の文章は晦渋で、文学経済学だね」という指摘を受けた (このころ、すなわち一九八〇年代の冒頭は、少なくとも私たちの周囲ではほとんど誰もが「文化経済学」や「文芸社会学」 という文言を知らなかった時代であったように思う)。そのときに思ったことは、「渋と思われてしまう文章を書くのはやめよう」ということと「リベラルな発想に不寛容な国粋主義者やその対極を装っても、実 は……というような人たちはもちろんのこと、はいからはくちにも決してなるまい」ということだった。
同じころ私がその著作を愛読していた作家・劇作家の一人に、井上ひさし(一九四三-二0-0)がい た。彼が自ら創りそして課していた座右の銘がある。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに」、これを簡単に実践することはできない相談 ではあるが、少なくとも教育に関わろうとする者にとっては、忘れてはならない箴言として心にとめお きたいものである。
さて、私が修士論文のなかで最も主要な参考文献の一つとして依拠したのは、『遠野物語」(初出一九一〇年)であった。その冒頭で柳田國男は、「この書を外国に在る人々に呈す」と刻んだ。その意味を忘れずにいたいと、併せ思ったことも、ここで改めて付記しておきたい。
ここまでの前口上では、本文というべき部分に対する予告を、本来一球目ではそうすべきはずの直球 (ストレート)というよりも、曲球(ナックル)のように綴ってきたかもしれない。しかしそれでも打者に は届くはずであるし、それをどのように打ち返すかは打者次第であってほしい。しかし決してビーン ボールではないことを伝えるために、タイトルとその副題のなかに示した語句の一部についてはあえて記しておきたい。
「反・観光学」とは、決して「観光学」そのものを否定するものではない。一般的に固定観念(ステレオ タイプ)で捉えられがちと思われる「観光」と「観光学」に対する考え方への再考を促す暗示にすぎな い。ほんの一例であるが、昨今観光用語でしばしば使用されている「コンテンツ・ツーリズム」は、アニメの舞台の聖地巡礼と強く意識され捉えられがちである。それを否定するわけではないが、決してそれだけではないはずだ。同じく、「創造都市」という概念も、しばしばわが国の観光について考える局 面で援用される。もともと英米からを主としたこの輸入学問を、安易に俯瞰しわが国の観光文化に応用 してしまう若い人たちはもとより、観光の現場の実践者も少なくないとしたら危惧を感じざるを得ない。 この発想を主導したある米国の人物は、名古屋を二流都市と称している。そもそも、都市をその文化をベースにして一流・二流と色分けするような創造都市論には、その創造性欠如ゆえに与することなどで きない。私は寡聞にして知らないが、本当に彼は名古屋を訪れその豊かな経済と文化が織りなしてきた、 少なくとも尾張藩徳川家の治政下以来の官民挙げての知性を御存じなのだろうか。英米の誰でも研究者は優れていると考えてしまうとしたら、まさに「はいから……」である。わが国の都市の創造性を、京都や横浜、東京など文化が豊かで多彩な、創造性に満ち満ちたもののみに限定して捉えてしまってそれ を模倣するかのような、お洒落でカタカナ語のまちづくりを地方で展開するとしたら、日本の地域文化 そのものの創造性に対する忘却の偽装に他ならない。そもそも柳田が『都市と農村』(初出一九二九年) で診て取った両者の相互補完的な関係性を鑑みたとき、特定の大都市のみでなく小さなまちや農村にも、 ささやかかもしれないがその創造性が存在することを看過してはならない。同じ柳田の書、『後狩詞記」 (初出一九〇九年)で詳述された宮崎県椎葉村の経済と文化の濃密な所在をみたとき、それは明らかである。また稀代のエッセイストでもあった白洲正子(一九一〇 – 一九九八)は、『近江山河抄」(初出一九七四 年)のなかで「近江は日本の楽屋裏」と表現する。京都や奈良の陰に大きく隠れてしまっているが、大 舞台を演出する楽屋裏にも負けずとも劣らない創造性が存在してきたことを私たちは忘れずにいたい。
あるいは流言飛語のような話で恐縮であるが、昨今「IR法とカジノは、日本の観光にとって最後の切り札」といった人がいるという。改めて「観光とは何か?」と問いたい。それでインバウンドを増大させ ようという発想があるとしたら、わが国で二十二世紀に生きていく子どもたちの観光とくらしと幸福はどうなるのだろうか、またどう保障すればいいのかと、「観光」概念の再考を通してさらに問いたいと思う。
副題の「柳田國男から、「しごころ」を養う文化観光政策へ」とは、柳田が「日本の祭」(初出一九四二 年)で私たちに伝えようとした「史心」の大切さにヒントを得た私は、駄洒落のように同じ音の「ご ころ」を「誌心」と「詩心」という言葉を使って、文化・観光を思考、志向するうえでその三者が、鼎立することの必要性を読者諸氏に伝えたいと念じたものである。いずれにしても本文中(とりわけ第1章)で詳述していくこととする。
さてタイトルと副題について一定部分を記したのであるが、本文について語るもう少しの冗長をお許 しいただきたい。すでに、内田義彦、柳田國男、白洲正子という名は紹介した。彼ら三人に加え、本文 での主な登場人物は宮本常一(一九○七-一九八一)、司馬遼太郎(一九二三 – 一九九六)、柳宗悦(一八八九1 一九六一)、南方熊楠(一八六七 – 一九四一)である。この七人の思想家は稀代の読書家であり、それゆえ に膨大な著作を遺した人たちでもあった。改めて、読むことは書くことであり、書くためには読まねば ならないと痛感させられる。
昨今、若い人たちの読書離れがいわれて久しい。ときおり「大学生の一日の読書時間は?」ということで、アンケート調査の結果が報じられたりすることもある。私自身の経験則でいうならば、アンケートということで集約されてしまうが、実際は読んでいる人とそうでない人との格差(あまり好ましい言葉ではないが)が年々広がっているにすぎないような気がしてならない。そしてそうした彼らもやがて社 会に出て、中高年という年齢に達していく。現実に中高年の人々の間での読書時間の格差も、年々広がっていくに違いないだろう。あるいは社会人の読書というと、仕事の必要に駆られたビジネス書やハウツーものが多くなり、それもやむを得ないことではあるが、読書時間のアンケートにはおそらくプラ スの時間としてカウントされていく。
少し取り留めもないことを記してしまった。ここで登場する七人の思想家は、何らかの形で日本の文化はもちろんのこと、狭義ではなく広義のそして真義としての観光とは何かについて考える(ありがちな、ステレオタイプの「観光ビジネス論」ではなく)うえで、大きなヒントとなることがらを言及してきた人たちである。膨大な著書群の氷山の一角のさらにその一部分を掠めるにすぎないが、それを通して何が 考えられるかという一例を、この拙著を通して大学生(所属する大学・学部を問わず)から中高年以上の 方々(職業や立場を問わず)に至るまで広く伝えてみたいという思いがあった。
「「七人の思想家」を導きの糸としながら、日本の文化や観光について自身なりに考えてみませんか。 そして改めて、現代の古典を読むことの愉しさを味わうきっかけとしませんか?」というのが、読者の 皆さんへの私からのメッセージと考えていただければ幸いである。
このささやかな拙著であるが、生まれるきっかけとなったのは、私が勤務する同志社大学が二〇一八 年度より全学共通科目として「クリエイティブ・ジャパン科目」を開設することになったことである。 そこには、二○二一年度までに文化庁の京都への全面移転も大きな視野に入っている。本学・全学共通 教養教育センターでは、それに向けて、二〇一七年十二月六日に、科目開設記念シンポジウムとして 「日本のブランド力としての文化創生」を一般公開で行なったことに起因している。そのさらなる詳細については、あとがきで謝辞とともに記したい。

二〇一八年二月七日
日本文化の楽屋裏、淡海の寓居にて入試期間の監督業務が終わりに近づきつつ始めた着稿の日に
井口貢

井口 貢 (著)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2018/8/20) 、出典:出版社HP

目次

はじめに
序章 文化と観光と人文知
1 「観光」再考
2 忘れてはならない人文知
3 内田義彦が残した言の葉を手掛かりに
4 「脱観光的」観光力

第1章 柳田國男の警鐘
1 経世済民、学問救世と民俗学
2 「遊海島記」の世界に観る文化と警鐘
3 今一度再考したい、文化とは?
4 文化政策再考
5 まちつむぎと観光の所在

第2章 宮本常一の憧憬
l 民俗学への旅
2 観光文化論の創始者
3 観光資源と常在観光のススメ
4 「若い人たち・未来」のために

第3章 司馬遼太郎の葛藤
1 日本とは、文化とは、文明とは?
2 街道と文化
3 もう一度、近江に
4 絶筆『濃尾参州記』の旅

第4章 白洲正子の愛情
1 美をさらに輝かせるもの、それは楽屋裏
2 湖北(江北)をゆく
3 湖北とかくれ里

第5章 柳宗悦の美学
―対峙して談じる柳田國男――
1民藝と用の美というくらしの流儀
2民藝と民俗学
―対峙して談じる柳と柳田――

第6章 南方熊楠の地平
――交して信じる柳田國男
1 南方のまなざし
2 神社合祀令に抗して
3 真摯な遊び心と真実

おわりに-謝辞に代えて-
事項索引
人名索引

井口 貢 (著)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2018/8/20) 、出典:出版社HP

新現代観光総論-第3版

観光の本質がわかる

観光とは何であり、いかなる構造をもち、どのような事柄とかかわりをもっているのか。現代観光の全領域について解説するとともに、観光と情報、環境、教育、福祉など新たな視点からの考察も試みた一冊です。

前田 勇 (著, 編集), 東 徹 (著), 麻生 憲一 (著), 井上 晶子 (著), 内田 彩 (著), 大久保 あかね (著), 太田 実 (著), 大橋 健一 (著), 海津 ゆりえ (著), 鈴木 涼太郎 (著), 関口 伸一 (著), 中村 哲 (著), 橋本 俊哉 (著), 橋本 佳恵 (著), 正木 聡 (著), 安村 克己 (著), 権代 美重子 (著, その他), 辻 のぞみ (著, その他), 羽生 敦子 (著, その他)
出版社 : 学文社; 第3版 (2019/8/20) 、出典:出版社HP

(編著者)
前田勇(立教大学名誉教授)

(執筆者)
東 徹 (立教大学觀光学部教授)
麻生 憲一 (立教大学観光学部教授)
井上 晶子(立教大学観光研究所)
内田彩 (東洋大学国際観光学部専任講師)
大久保 あかね(日本大学短期大学部教授)
太田 実 (拓殖大学商学部教授)
大橋 健一 (立教大学観光学部教授)
海津ゆりえ (文教大学国際学部教授)
鈴木 涼太郎 (獨協大学外国語学部准教授)
周口伸一(元和光大学兼任講師)
中村哲(玉川大学観光学部教授)
橋本 俊哉(立教大学観光学部教授)
橋本 佳惠(共榮大学国際經營学部教授)
正木聡(常磐大学総合政策学部教授)
安村克己(追手門学院大学地域創造学部教授) 〈五十音順〉

(コラム協力者)
権代美重子 (高崎経済大学)
比如入(名古屋短期大学)
羽生敦子 (立教大学観光研究所) 〈五十音順〉

『新現代観光総論』出版によせて

1995年に初版を出版させていただいた『現代観光総論』が,今日までに多くの方々の支持を得られたことは望外の喜びであります。
観光を取り巻く社会的環境は日々変化し続けているため、その状況変化を的に反映させるために,出版して3年目の1998年に最初の改訂を加え,その後適時修正を加えてまいりましたが,2006年には,4つの章を全文改訂,また約半数のコラムのテーマ・内容を時代にマッチしたものに改めました。
さらに2010年,観光と地域社会および開発にかかわる第9章,第10章の2つの章全体と,第IV部観光を支える社会システムを構成する各章について,新規の執筆あるいは大幅な修正を加え,本書が“現代観光総論”という書名にふさわしい内容に改め、以後は〈改訂新版〉と称することといたしました。
そして今回の修正は,第5章:観光の影響と第14章:観光行動対象(2)一暮らしと交流一の2つの章については、それぞれに新しい執筆者に参加していただき、異なる視点からの考察を加えた内容とすることを試み,また,観光に影響を与える社会的状況の変化がとくに著しい「観光と環境」(第8章),「観光と教育・福祉」(第15章)をはじめ複数の章について検討を加え、さらに,第IV部(観光を支える社会システム)を構成している各章については、動向と課題に関する記述に修正を加えたものです。
今回の改訂によって、初版以来,現在までに大規模・中規模の改訂を合わせて10数回の改訂を加えたことになり、そして、初版から継続している内容記述はほとんど残ってはいないことから、『現代観光総論』『~改訂新版』といった名称を用い続けるのは、不適当であると思われました。そこで、出版社と協議の結果として、今回の改訂版については、“新現代観光総論”と称するのが適当であろうとの結論に達したのです。
このように,今日まで改訂に次ぐ改訂を続けてきたのは,本書が対象とする「観光」という事象・行動,そして観光を支えている事業活動が絶えず変化と発展を続けてきているからにほかなりません。
本書が長きにわたって、全国の大学で“観光論テキスト”として使用され,多くの学生の皆さんと教員の方々から支持されてきた理由は,観光を理解するために必要な知識を,正しく提供するために必要な改訂を絶えず続けてきてい
ることにあると考えております。
その意味では,『現代観光総論(改訂新版)』から『新現代観光総論』への改訂もまた,よりよいテキストを編纂するための,ステップであろうと考えています。
出版以来の,そして今回の改訂にかかわられた執筆者,学文社編集部の方々に心よりお礼を申し上げたいと思います。
2015年3月
編者記

第3版刊行にあたって

2015年3月末,1995年以来続いた「現代観光総論』を『新・現代観光総論』に改めた経緯は前記したとおりですが,“新”を付してからも毎年版が替わり第3版を編纂いたしました。今回の大きな特徴は、「第IV部観光を支える社会システム」の内4つの章を全面改訂し、新しい観光の動きをより的確に反映し,解説したとことです。
また、これらの改訂に連動させて、「第4章観光の諸制度」の内容を全面的に改訂しました。観光とくに国際観光がかってないほど活発に行われている現代社会には観光をめぐる“新たな問題”もさまざまあることを解説しています。
本書最新版が、現代社会における観光理解のための最新・最良の入門書となり、ガイドブックとしての役割を果たすことを願っています。
2019年5月

前田 勇 (著, 編集), 東 徹 (著), 麻生 憲一 (著), 井上 晶子 (著), 内田 彩 (著), 大久保 あかね (著), 太田 実 (著), 大橋 健一 (著), 海津 ゆりえ (著), 鈴木 涼太郎 (著), 関口 伸一 (著), 中村 哲 (著), 橋本 俊哉 (著), 橋本 佳恵 (著), 正木 聡 (著), 安村 克己 (著), 権代 美重子 (著, その他), 辻 のぞみ (著, その他), 羽生 敦子 (著, その他)
出版社 : 学文社; 第3版 (2019/8/20) 、出典:出版社HP

目次

『現代観光総論』の構成について
1 基本構成
2 各部の内容

第I部観光とは
第1章 「観光」の概念
1 「観光」とは
1)基本的理解
2)「観光」と主な類語との関係
2 現代観光の構造と構成要素
3 現代観光の特色
コラム「観光」の意味の変遷

第2章 観光の世界史
1 “観光の歴史”の考えかた
2 大衆化以前の観光
1) 古代の観光 2) 中世の観光 3) 近代の観光
3近代観光史
1) 旅行業の成立… 2) 観光の大衆化 3) 観光の量的拡大
コラム2「八十日間世界一周」を生んだ19世紀の交通事情

第3章 観光の日本史
1 庶民の旅のひろがり
1) 中世までの旅・・ 2) 江戸時代の旅
2 わが国における近代観光史
3 わが国の旅行にみられる特徴
コラム3 「お伊勢参り」のコースにみる庶民の旅の遊楽性

第4章 観光の諸制度
1 観光振興を図るための観光政策・行政
1) 観光政策のはじまり 2) 国際観光政策の地域開発への応用
3) 総合政策としての観光政策
2 国民生活と観光政策
1)生活の豊かさと観光政策 2) 観光・レクリエーションの促進と質の向上
3) 観光者の学習と教育機会
3 国際観光における新しい活動目標と課題
1)持続可能な観光 2) 世界観光倫理憲章3) 責任ある“旅行者”について
コラム4 観光基本法の精神

第5章 観光の効果と影響
1 観光が個人の生活にもたらす影響
1) 心身の充足 2) 教育的効果
2 観光者の来訪による観光地における効果や影響
1) 経済効果2)社会・文化的効果 3) 地域の活性化
3 観光の社会への効果や影響
1)日常生活への影響 2) 他産業への波及
4 観光地へのマイナスの影響
1) マイナスの影響と対応 2) 文化の変容
5 観光の現代的意義
コラム5 異文化理解機会としての観光

第II部観光と社会とのかかわり
第6章 観光と経済
1 観光と経済とのかかわり
1)国際観光の動向 2) 観光のミクロ的視点 3)観光のマクロ的視点
2 観光の需要と供給 1)観光需要 2)需要の価格弾力性 3) 観光供給
3 観光市場 1) 市場と調整機能 2)市場の不完全性 3)余剰概念
4 観光の経済効果
1)観光消費と経済波及効果
2) 観光と地域経済
3) 観光統計の整備
コラム6観光産業の経済波及効果

第7章観光と情報
1 観光情報の概要
1) 観光における情報の重要性 2) 観光情報の送り手 3) 情報の媒体(メディア) 4) 情報の内容
2 観光宣伝 1) 観光宣伝の担い手と目的 2) 観光宣伝の対象と方法 3)タイアップによる観光宣伝
3 観光における情報通信技術の活用と影響
1) 観光における情報通信技術の発展過程 2) インターネットの普及とその影響
コラム7 「旅行案内書」の歴史

第8章観光と環境
1 自然環境保護の系譜
1)自然公園制度の治革 2)地球規模での自然環境保護運動のひろがり
2 観光と自然環境の保護・保全
1)「環境と調和した観光」の考えかた 2) 観光が自然環境の保護・保全に果たしうる役割
コラム8 観光地における「ゴミ対策」

第9章観光と地域社会
1 観光と地域社会
2 地域社会をとりまく状況の変化と観光
1) 高度経済成長時代の大衆観光の発達と地域 2) 過疎化が進む地域と「リゾート法」 3) 観光者と地域社会を結ぶ新しい動 4) 地域における文化価値の伝承と観光一宝探しと新しい地域主体観光
3 地域主導型観光の現状と課題
1) 地域主導型観光の現状2) 地域社会の課題
コラム9 日本のエコツーリズムと地域振興

第10章 観光における開発と保護
1 観光地の形成と発展
1) 観光地とは 2) 観光地の開発 3) 観光地ライフサイクルー観光地の栄枯盛衰
2 観光と地域開発
1) 外来型観光開発 2)内発的観光地づくり
3 持続可能な観光地づくり
1) 地域の観光受容力 2) 持続可能な観光資源利用
コラム10 地域ブランド戦略

第Ⅲ部 人間生活における観光
第11章 余暇活動としての観光
1 余暇の意味
1)「余暇」の概念 2) 余暇と労働の歴史的変遷
2 余暇社会の到来
1) 産業社会から脱産業社会へ 2)脱産業社会としての余暇社会
3 余暇と観光
コラム11 少子高齢社会における余暇の役割

第12章 観光行動を成立させるもの 1 観光行動成立のしくみ
1) 観光にかかわる欲求 2) 観光行動成立の基本的条件と具体化のプロセス 3) 観光行動と情報, イメージ 4)観光目的による観光行動の分類
2 観光者の心理
1) 観光者心理の一般的特徴 2) 観光者心理と旅行形態
コラム 12 観光の基本型としての回遊行動

第13章 観光行動の対象(1) ——自然と文化――
1 観光対象の基本的性格
2 観光対象の種類と評価
1) 観光対象の種類 2) 観光対象と文化財 3) 観光対象の評価
3 観光対象の現代的特色
コラム 13 世界遺産と観光

第14章 観光行動の対象(2) ——暮らしと交流――
1 観光と人間の暮らし
1) 観光対象としての暮らし 2) 観光と伝統文化 3) 観光と新たな文化創造
2 文化交流の場としての観光
1) 文化の交流と観光事業 2)交流がつくりだす文化
コラム14 観光と文学作品

第15章 観光と教育・福祉
1 教育のための観光
1)観光の教育的意味 2) 教育観光の特徴
2 観光のための教育
1)持続可能な観光を支える教育 2) 観光教育の理論と実務
3 福祉のための観光
1) 福祉とノーマライゼーション
2)福祉における観光の意義
4 観光のための福祉
1) 福祉としてのソーシャル・ツーリズム 2)観光のための福祉における新たな動向
コラム15ユニバーサル・デザインと観光

第IV部 観光を支える社会システム
第16章 観光と交通
1 日本における観光と交通の歴史
1) 近世までの旅と交通手段一交通手段には変化が少なかった時代 2) 近代の観光と鉄道一移動を早く容易なものとした鉄道
2 現代の観光と交通
1) 鉄道会社によるディスティネーション・キャンペーン(観光客誘致活動) 2) モータリゼーションと観光 3) 航空機の発展と マスツーリズム 4) クルーズにみる、交通の移動手段から観 光目的への変化 5) 交通事業と観光
3 これからの観光と交通
1) 観光客の増加と交通事業 2)今後の交通の役割と観光という視点
コラム16 “観光県宮崎”の基をつくった岩切章太郎-交通業を基盤とした観光事業の展開-

第17章 観光と宿泊
1 宿泊業の歴史
1) 宿泊施設の登場 2)欧米の宿泊業の成立-近代ホテルの誕生- 3) チェーンホテルの誕生とホテルオペレーターの成立 4) わが国における宿泊業の成立 5)近代旅館の成立とホテルの発展 6) 旅館の大型化とホテルの大衆化
2 現代の宿泊業
1)データでみる日本の宿泊業 2)日本の宿泊業を取り巻く現状-宿泊関連業法の改正- 3) 宿泊営業にかかわる法と行政の多岐性 4) ホテルの経営形態の変化一世界に広がるホテルチェーン
3 宿泊業の動向
1) 旅館経営の動向 2)ホテル経営の動向 3) 宿泊業の課題-インバウンド対応-
コラム17 旅館および各国の伝統的宿泊施設

第18章観光に関連する諸事業
1 観光事業の意味と目的
2 観光を支える諸事業
1)観光の基本的行為と関連する事業 2)日常型サービス事業の観光への広がり 3) 機能の分化と専門化 4) 観 光地を支える諸事業 5) ICT技術の進歩により変化する観光事業
3 観光事業における課題と展望
コラム 18 滞在型観光
第19章 観光と旅行業——システムオーガナイザーとしての役割
1 旅行業略史
1)欧米諸国における旅行業の成立・ 2) 日本の旅行業略史
2 旅行業の業務
1)「旅行業法」にみる旅行業 2) 旅行業者の取扱額と旅行商品の流通
3 現代観光における旅行業の役割
1)従来の旅行業の役割 2) 旅行業の課題・今後求められる役割
コラム19 わが国の「旅行業務」のめばえ-先達・御師の果たした役割-

第20章 観光事業の労働と人材
1 持続可能な観光事業の担い手
1)持続可能な観光を支える観光関係者 2) 観光の持続可能な開発を担う観光事業
2 観光事業の労働
1) 観光労働の基本的特徴 2) 観光労働の実態と課題
3 観光事業の人材と人的資源管理
1) 観光事業が求める人材 2) 観光事業の人的資源管理 3)専門職としての観光労働
コラム20 ホスピタリティの教育と訓練

索引

前田 勇 (著, 編集), 東 徹 (著), 麻生 憲一 (著), 井上 晶子 (著), 内田 彩 (著), 大久保 あかね (著), 太田 実 (著), 大橋 健一 (著), 海津 ゆりえ (著), 鈴木 涼太郎 (著), 関口 伸一 (著), 中村 哲 (著), 橋本 俊哉 (著), 橋本 佳恵 (著), 正木 聡 (著), 安村 克己 (著), 権代 美重子 (著, その他), 辻 のぞみ (著, その他), 羽生 敦子 (著, その他)
出版社 : 学文社; 第3版 (2019/8/20) 、出典:出版社HP

『現代観光総論』の構成について

1. 基本構成

本書は、下図に示したように大きく4つの部分から構成されており,各部はそれぞれ5つの章からなりたっている。
各章は、最初に全体の要旨が述べられ,学習課題が2~4項目にまとめられており、その章に関係する重要な用語および人名が「キーワード」として記載されている。章の内容や用語等が,他の章と密接なかかわりをもっている場合には、→ 第0章)の形で示している。なお、各章の参考文献は,入手が容易なものに限っており,邦文(一部邦訳書を含む)を原則としている。
また、章の最後には、密接なかかわりをもち、理解を深めるために有効な参考資料・調査事例などが「コラム」として付されているので、併せて活用してほしい。

2. 各部の内容

1) 第I部(観光とは)
現代観光の仕組み・役割・影響と特徴を,社会とのかかわりや人間生活における位置づけなどの面から詳細に考察する前提として,「観光」とは何であるか という基本的事柄について学習するのが第I部である。
まず最初に,観光・ツーリズムなどの関連したことばの意味を学び,それらを通して,観光の基本的構造と構成要素を理解する。 <第1章>
現代観光の最大の特徴は,観光に参加する人びとが飛躍的に増大し,国民各層に広がってきたことである。そして,観光需要の増大とともに交通・宿泊をはじめとする観光にかかわるビシネスが活発に展開され,現代では、観光は社 会事象としても大きな地位を占めるようになっている。しかし,観光が広く社会一般に認識されるようになったのは、ごく最近のことなのであり,観光発展 の過程を知ることは現代観光の性格を理解するために不可欠なことといってよ いのである。そこで、観光の歴史を「世界史」と「日本史」とに大別し,現代 観光にいたる発展の過程を理解する。 <第2章・第3章>
また、観光の果たす社会的・経済的役割が大きくなることによって,観光に 直接・間接に関係する諸制度が国内的にはもとより,国際的にも整備されてきている。政府が観光に対してどのような政策をとるかは、国内外から高い関心 を集めるものとなっており,現代観光は,政策・行政とのかかわりの面からも 理解することが必要となっている。 <第4章>
さらに、近年とくに国内・国際両面において、地域振興・経済発展への貢献を中心とする経済的効果,地域文化の発展・相互理解の増進などの社会・文化 的効果に対する関心が強まっており、観光の及ぼす影響について多面的に理解 することは、現代観光の役割を考えるための重要な課題となっている。 <第5章>

2) 第II部(観光と社会とのかかわり)
第1部を通しての基礎的理解をふまえて,現代観光の社会とのかかわりを多面的に学ぶのが第II部の課題である。
まず、観光事象のもたらす経済効果を,さまざまな角度からの分析によって <国内観光ならびに国際観光が,なぜ注目されるかを理解する。<第6章>
次に観光と情報とのかかわりを学び,情報ネットワークの整備が観光に及ぼす影響などについて理解を深める。<第7章>
現代観光と社会とのかかわりにおいて忘れることができない問題が,環境と のかかわりである。ここではとくに,自然環境保護の系譜や環境を大切にする 観光の考えかたなどに重点をおいて学ぶ。 <第8章>
もうひとつ,現代観光と社会とのかかわりに関して重要な意味をもっているのが地域社会である。ここでは、観光による地域振興と地域社会に与える影響 についての考えかたを中心として学ぶ。<第9章>
前章と密接な関係をもつものとして、観光における開発と保護がある。この領域は、観光資源や観光地の開発・計画などに関する知識を必要とするものであるが、ここでは基礎的理解を意図して,基本的な考えかたや用語の説明を中 心としている。 <第10章>

3) 第II部(人間生活における観光) 第1部が社会・経済的事象としての観光を理解することに重点がおかれているのに対して、観光を社会的な人間行動として学ぶことを中心としているのが 第II部の各章である。
まず、観光が各人の自由に使うことのできる時間(=余暇時間)での行動でめることから,「余暇」の概念や歴史的変遷を知ることが必要であり,さらに余収活動としての観光の役割などについて理解が求められる。 <第11章>
観光が余暇社会の到来によって一般化するようになった事象であることはいつまでもないが、自由な意志に基づく個人的な人間行動の集合であることを忘れてはならないのであり,行動成立のしくみや観光者の心理を理解することを 観光成立の条件や特徴を理解するために不可欠なことである。 <第12章>
次に,具体的な観光行動の対象となる対象について,自然と文化,暮らし、 交流とに分けて説明を加えている。<第13章><第14章>
第Ⅲ部の最後の章は、観光と教育および福祉とのかかわりを説明しており, 現代観光がもっている社会的課題や役割について,理解を深めることを意図している。<第15章>

4) 第IV部(観光を支える社会システムと活動)
観光事象が実際に成立するためには,交通・宿泊をはじめとするさまざまな事業活動が必要不可欠である。これらをそれぞれ事業論としてではなく,現代 の観光を支える社会システムとしてとらえ,説明しているのが第IV部の各章である。
まず,観光に密接な関係をもつ交通・宿泊について歴史を中心に説明し, さらに現代観光とのかかわりを考察している。 <第16章><第17章>
次に観光関連の諸事業の内,現代観光においてとくに大きな役割を果たして いるいくつかの事業を取り上げ,課題等について説明している。 <第18章>
観光事業の中でも、観光の大衆化に果たした役割がとくに大きい旅行業については,現代観光の“システム・オーガナイザー”として位置づけ,発展経緯 と基本業務全般,当面する課題について説明を加えている。 <第19章>
最後の章では、観光事業を担っている人材と労働問題に関して,さまざまな 角度から分析し、観光ならびに観光事業を“人間の問題”として改めて理解することを求めている。<第20章>

環境との調和,文化理解の促進をはじめ現代観光はさまざまな課題をもって おり,“新しい観光のありかた”を求める論議も盛んである。それらについての 糸口となるものは,本書の随所でふれられている。
(前田勇)

前田 勇 (著, 編集), 東 徹 (著), 麻生 憲一 (著), 井上 晶子 (著), 内田 彩 (著), 大久保 あかね (著), 太田 実 (著), 大橋 健一 (著), 海津 ゆりえ (著), 鈴木 涼太郎 (著), 関口 伸一 (著), 中村 哲 (著), 橋本 俊哉 (著), 橋本 佳恵 (著), 正木 聡 (著), 安村 克己 (著), 権代 美重子 (著, その他), 辻 のぞみ (著, その他), 羽生 敦子 (著, その他)
出版社 : 学文社; 第3版 (2019/8/20) 、出典:出版社HP

ここからはじめる観光学: 楽しさから知的好奇心へ

3つの観点で学ぶ

観光学の初歩の初歩を、経営、地域再生、文化の三つの観点からわかりやすく紹介しています。観光についての基礎的かつ包括的な学習に資することを企図した構成となっており、観光について学ぶ学生は もちろんのこと、観光に関心がある一般の方にも読みやすい内容となっています。

大橋 昭一 (編集), 山田 良治 (編集), 神田 孝治 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2016/12/25) 、出典:出版社HP

はしがき

日本では、2003年に観光立国を宣言して以降、本格的に外国人の訪日観光客増加を目指すようになり、2006年には観光立国推進基本法を制定し、2008年には観光庁も設立している。こうした動きは、グローバル化が進展する現代社会において、観光が重要な産業として位置づけられるようになったことによるものである。また観光立国推進基本法においても謳われているように、観光は地域の活性化にあたって大きな役割を果たすものとして社会的に位置づけられるようになっている。くわえて、グローバルな観光客の移動にともない、異なる文化の出会い・交流が活発になっており、かかる点への対応や理解も重要な問題となっている。
こうした社会状況に対応して、日本においても多くの大学で観光関連学部学科の設置がなされてきた。そして、学問としての観光学の深化を図るとともに、観光産業、観光を通じた地域再生のあり方、そして観光と文化の関係性に関する検討が加えられ、多くの教科書も出版されるなかで、観光教育の充実が図られてきた。しかしながら、上述の内容を初学者向けに包括的に紹介する書籍は、管見の限りいまだ出版されていない。

そこで本書は、第I部において観光現象および観光学の概要を解説し、第II部で観光の経営について、第II部で観光による地域再生について、そして第IV部で観光と文化について、具体例を挙げながら解説することにした。こうした構成をとることにより、観光についての基礎的かつ包括的な学習に資することを企図したのである。観光について学ぶ学生はもちろんのこと、観光に関心がある一般の方も、まずは本書を読むことで、観光および観光学の基礎知識を身につけていただきたい。そして、そこで興味を持った内容に関してさらに深く探究することを通じて、より人生を豊かにしていただくことを、編者一同、切に希望している。
最後に、本書の出版にあたって、ナカニシヤ出版の酒井敏行氏にご尽力いただいたことに謝意を表するとともに、和歌山大学観光学部。助成を受けたことを附記したい。

2016年11月
大橋昭一・山田良治・神田孝治

大橋 昭一 (編集), 山田 良治 (編集), 神田 孝治 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2016/12/25) 、出典:出版社HP

目次

はしがき
第I部観光と観光学
1.観光とは何か(大橋昭一)
2.観光の歴史とその特徴(神田孝治)
3.観光学と観光教育(山田良治)

第Ⅱ部 観光の経営について学ぶ
4.観光と経営(竹林浩志)
5.旅行産業 (廣岡裕一)
6. 宿泊産業(竹田明弘)
7.観光人材(竹林 明)
8.観光統計(大井達雄)
9.観光マーケティング(佐野 楓)
10.観光とブランド (佐々木壮太郎)
11. 観光とコンテンツ (出口竜也)
12.観光と技術革新(尾久土正己)

第Ⅲ部 観光による地域再生について学ぶ
13. 観光と地域再生 (大浦由美)
14.観光と地域プロデュース (木川剛志)
15. 観光とまちづくり (堀田祐三子)
16.域学連携と地域再生 (上野山裕士)
17.都市農村交流と観光(藤田武弘)
18. 森林とレクリエーション(大浦由美)
19.観光と景観(永瀬節治)
20. ジオツーリズム(中串孝志)
21. アーバンツーリズム (堀田祐三子)

第Ⅳ部 観光と文化について学ぶ
22. 観光と文化(神田孝治)
23. 観光とイメージ(長坂契那)
24.観光と感情·(伊藤央二)
25. 観光とサステナビリティ(加藤久美)
26. 観光とジェンダー(吉田道代)
27. 観光と翻訳(竹鼻圭子)
28.観光と異文化間コミュニケーション(東悦子)
29.観光とデザイン (北村元成)
30. 観光と宗教(森正人)

人名索引
事項索引

大橋 昭一 (編集), 山田 良治 (編集), 神田 孝治 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2016/12/25) 、出典:出版社HP

観光学全集〈第9巻〉観光政策論 (観光学全集 第 9巻)

観光振興担当者には必携の1冊

国、都道府県、区市町村、さまざまな立場からの観光政策論集です。全集を構成するにふさわしい網羅的かつ啓蒙的な内容になっています。この本は、多くの研究者がこの分野にも目をむけるきっかけとなる本となるでしょう。

寺前 秀一 (著), 日本観光研究学会 (監修)
出版社 : 原書房 (2009/11/1) 、出典:出版社HP

刊行の辞

日本政府は,2003年に観光立国宣言をし,2007年,観光基本法を43年ぶりにみした観光立国推進基本法を施行した。2008年にはわが国初の観光庁が設置
これね、政府がこのように本腰を入れて観光政策に取り組むのは、1930年に観半局を設置して以来のできごとである。国の動きに連動して,日本各地の自治休においても,観光事業に積極的に取り組む姿勢をみせている。
このような国の観光政策に対する大きな方向転換は、観光が国や地域経済に与える効果が大きいということが認識されてきたからであるが,観光は,人間が生きて成長していくために,そして世界平和に寄与するためにも,その役割がおおきいことも理解してほしい。
こうした国及び自治体の動きに呼応して,大学においても観光学部・学科の設置が盛んである。4年制大学で、1987年以前にはわずか2校を数えるのみであった観光学科が、1987年に施行された総合保養地域整備法の影響と今日の積極的な政府の観光政策から、全国各地に観光学科が新設され,2009年にはその数も40校に迫りつつある。
大学の数が増えれば当然,観光学の専任教員も学生も増加するわけで,その関連から観光関連の専門書籍も数多く出版されるようになったのは望ましい状況である。
しかし,このように観光分野が急成長を遂げつつある一方で,観光学の学問体系は存在するのかといった声も聞かれる。たしかに、新しい学問だけに観光の専門分野別にみても集大成された専門書は少ないし、まして体系化をにらんでの全集は刊行されていないのが事実である。
そこで、いまや700名を超える私たち日本観光研究学会が、そうした批判のに応えるために,観光学全集を刊行する責務があるだろうと、学会の事業として取り組むことになった。
観光現象が早い速度で変化するだけに,観光学がなかなか理論化できない面もあるが,いつまでたってもそれは同じことで,とにかく出版をし,他の観光関連学会や行政,民間など多くの方々からご意見をいただくことにした。各分野からのご意見を参考に,修正をしながら,10年くらいのスパンで全集を完成させていきたいという気持を持っている。
その意味からも,歴史のある他学問と比較すると,まだ観光学はひよこ程度にしかみえないかもしれないが,とにかく大きな目標に向かってスタートを切った。観光学を一人前に育てるためにも、多くの方々からご意見、ご指導を賜りたいというのが,全集を刊行した私たちの率直な気持ちである。
最後に,本学会のこうした企画にご理解を示し,全集の出版をお引き受けいただいた原書房成瀬雅人社長並びに編集の労をとられた中村剛さん,早川江里さんに、心から感謝の意を表したい。

日本観光研究学会,観光学全集編集委員一同

はじめに

観光学において政策論は新しいジャンルであるものの,その重要性は急速にしている。特に2007年及び2008年は観光政策をめぐり大きな出来事があった。自由民主党と保守新党との政策合意に基づく「観光立国、観光立学が民主党等も含めた超党派による衆議院国土交通委員長提案の観光立国推進基本法として結実した。更にはエコツーリズム推進法も制定され、2008年10月には観光庁が設置された。これらの動きに先立つこと2006年5月、日本観光研究学会においては観光立国推進基本法案をテーマにシンポジウムを開催し,全国各地の大学における観光学関係の学部,学科設置の潮流にあわせて、観光政策論への期待を真剣に議論したところである。行政改革,財政再建が推進されている環境の中,観光行政への期待は逆に大きくなってきており、国、地方公共団体においては観光政策部局が拡充強化されてきている。しかしながらこれを単なるキャンペーン行政,コンテスト行政に終わらせないためには、研究者等の手による観光政策論の展開が必要である。このような状況において、これまで体系的にまとめられることのなかった観光政策論が,シンポジウムに引き続き日本観光研究学会の観光学全集としてまとめられることは、まことに時宜を得たものである。
本巻は,第1章において観光政策論全体の意義付けを展開するとともに今後の政策論の進め方を提案している。第2章においてわが国において実施された観光施策の分類と分析・評価を行っている。第3章においては日本及び外国の国際観光政策・観光関係国際協力政策に関し分析し、ビジット・ジャパン・キャペーンに関する政策評価等を行っている。第4章においては中央政府及び沖縄県が実施する沖縄に関する観光施策の分析・評価を行っている。第5章においては荒川区,練馬区を例に東京都区部自治体の観光政策の分析している。第6章においては群馬県草津町の観光政策に関する分析を展開している。付論は観光政策史の一翼を形成するものと位置づけられものであるが,今後の観光政策論の発展を期待する視点からも不可欠なものである。
政策論においては研究者の求められる分野は無限に広がっており,本書が多くの研究者がこの分野にも目をむけるきっかけとなることが出来れば望外な喜びである。観光学全集がきっかけとなり,研究分野が広がり深度化することを期待するものである。

著者を代表して
寺前秀一

寺前 秀一 (著), 日本観光研究学会 (監修)
出版社 : 原書房 (2009/11/1) 、出典:出版社HP

目次

刊行の辞
はじめに

第1章 観光政策の意義と役割……….寺前秀一
1 観光政策論展開の必要性
2 観光政策の目的
3 観光政策と観光制度
4 観光立国推進基本法の成立と観光政策論の今後の課題

第2章 実施された観光施策の分析・評価……….寺前秀一
1 実施された観光施策の分類及び分析・評価
2 観光施策実施責任主体の関係
3 公的主体としての交流事業

第3章 国際観光政策の展開……….新井俊一
1 日本の国際観光振興政策
2諸外国政府観光局の組織と活動
3.観光協力

第4章 沖縄に関する観光政策とその評価……….伊佐良次・寺前秀一
1 沖縄観光の経緯
2沖縄振興開発特別措置法及び沖縄振興特別措置法による施策
3 沖縄県により展開された観光施策
4 観光政策と環境政策の調和に関する政策
――政策先進地域としての沖縄
5 沖縄観光に関する政策評価分析

第5章 東京都区部における観光政策
一荒川区及び練馬区を中心に…….伊澤敦・井上努
1 東京都における観光行政の変遷
2 東京都特別区の観光行政
3 荒川区の観光政策
4 練馬区の観光政策

第6章 群馬県草津町の観光政策…….片岡美喜・寺前秀一
1 草津町における観光の概況
2 草津町における観光行政の概要
3 草津町で展開された観光施策の沿革
4 草津町における温泉及び自然観光資源を中心とした行政対応とその課題
5 総括

付論 植民地統治と「観光」政策
―日本統治下南洋群島における内地観光団を事例に…….千住一
1 はじめに
2 第1回・第2回内地観光団
3 第3回・第4回内地観光団
4 第5回・第6回内地観光団
5 おわりに

参考文献

索引

執筆者一覧(執筆順)
寺前秀一(加賀市長)
新井俊一(株式会社コスモメディア顧問)
伊佐良次(高崎経済大学地域政策学部觀光政策学科准教授)
伊澤敦(東京都交通局千住自動車營業所)
井上努(東京都練馬区企画部)
片岡美喜(高崎経済大学地域政策学部觀光政策学科講師)
千住一(川村学園女子大学人間文化学部非常勤講師)

編集委員一覧
溝尾良隆(帝京大学经济学部觀光經營学科教授)
安烏博幸(立教大学觀光学部教授)
下村彰男(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻教授)
十代田朗(東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻准教授)

寺前 秀一 (著), 日本観光研究学会 (監修)
出版社 : 原書房 (2009/11/1) 、出典:出版社HP

観光計画論1: 理論と実践 (観光学全集 第 7巻)

観光学の基礎がわかる

自分たちの観光地はどうありたいのか、という観光基本計画、ビジョンを立案するときに必要となる考え方、実現のためのプロセス、組織の作り方、住民の合意経営などのキーポイントが理解できます。また計画の検証や財源の確保についても触れています。

日本観光研究学会 (監修), 梅川 智也 (著)
出版社 : 原書房 (2018/3/20) 、出典:出版社HP

目次

序 観光計画とは―その定義と意義(本書で考える「観光計画」とは;我が国には世界に誇れる観光地が少ない;これまでの観光と観光計画;今なぜ観光計画が必要か;観光計画の意義)
第1章 観光計画の変遷(観光計画に関連する用語及び調査・研究の変遷;観光計画の策定手法の変遷)
第2章 観光計画の概念と構造(観光計画の概念;観光計画の基本構造;観光計画のプランの構成;観光計画のプランニングの構成;観光計画に関わる人・組織と役割;観光計画のタイプ別の特徴)
第3章 観光計画策定のプロセスと実践(観光計画策定の流れ;観光計画の基本的な策定手法;観光計画における合意形成;観光計画の実現と評価)

日本観光研究学会 (監修), 梅川 智也 (著)
出版社 : 原書房 (2018/3/20) 、出典:出版社HP

観光学全集〈第1巻〉観光学の基礎 (観光学全集 第 1巻)

初歩がよくわかる

新しい学問である観光学は、出発点となるツーリズム・観光・レクリエーションの定義が未だ明確でなく、混乱して使用されています。その課題を整理し、基本的な用語を定義、一般化し理論を構築することで、観光学及び観光に従事する全ての人たちが共通の概念をもち、それに基づいた観光事業の展開及び観光学のさらなる前進に寄与する一冊です。

溝尾 良隆 (著), 日本観光研究学会 (監修)
出版社 : 原書房 (2009/11/1) 、出典:出版社HP

目次

第1章 観光の意義と役割
第2章 ツーリズムと観光の定義
第3章 観光資源と観光地の定義
第4章 観光研究の諸側面とその構造
第5章 観光史 外国編
第6章 観光史 日本(1)飛鳥時代―昭和時代戦前
第7章 観光史 日本(2)昭和時代戦後以降(1945~2008年)
付論 観光学の入門書・概論書からみる観光研究の広がり

溝尾 良隆 (著), 日本観光研究学会 (監修)
出版社 : 原書房 (2009/11/1) 、出典:出版社HP

観光計画論2:事例に学ぶ (観光学全集)

観光計画の応用がわかる

第7巻観光計画論1のベースとなった具体事例を取り上げ、計画の策定、方策、実施、評価等を共通項目として整理しています。観光計画論1では、観光政策の基礎が体系的に示されていますが、これはその続編として応用例が学べます。まちづくりの重要性が良くわかる一冊です。

野倉 淳 (編集)
出版社 : 原書房 (2019/6/6) 、出典:出版社HP

目次

序 掲載事例の狙いと特徴
第1章 市町村レベルの観光計画の事例(岩手県田野畑村;福島県下郷町;群馬県みなかみ町;長野県飯山市 ほか)
第2章 地区レベルの観光計画の事例(北海道釧路市阿寒湖温泉(旧阿寒町)
福島県北塩原村檜原地区(裏磐梯地区)
福島県いわき市小名浜地区
栃木県日光市中宮祠地区)
第3章 広域レベルの観光計画の事例(県の計画―青森県;海外事例―中国・海南島)

野倉 淳 (編集)
出版社 : 原書房 (2019/6/6) 、出典:出版社HP