『脳は平気で嘘をつく−「嘘」と「誤解」の心理学入門』−誰にでも「エラー」は存在すること

著者は日本教育心理学界において、「城戸奨励賞」「優秀論文賞」を最年少受賞した心理学者であり、臨床心理士である植木理恵氏。本書は認知心理学の知見を踏まえた「人のエラー」について語られています。5章構成で、見出しには「男はなぜ美人に騙されるのか」や「あなたの記憶は捏造されている」といった好奇心をくすぐられる言葉が並んでいます。

人は人を絶対に正しく見ることができない

たしかに、自分にはこう感じるのに、他の人は感じないのか、と思う瞬間はしばしばあります。しかし“絶対”とまで言い切ることができてしまうのでしょうか。

しかし、人には“主観”というものがあり、その“主観”によって情報は取捨選択され、もとの形とは大分異なる歪んだ情報がインプットされてしまう。過去の研究でも、人は主観なくして他人を見られないことがわかっている。「相手の印象」というものをインプットする時、客観的なデータというのはほとんど加味されないのである。

男は美人になぜ騙されるのか。これは綺麗な女性を見た時に「心も綺麗でいてほしい」という人の持つ連続性、一貫性を追求する本能が表れてしまうのだと言います。驚くべきことに、被告とルックスの関係を調べる研究では「ルックスのいい人」の刑が軽くなり、「ルックスの悪い人」の刑が重くなる傾向も現れたという。悲しいことに人間は見た目ありきで考えてしまうところがあるようです。

“女の勘”はやっぱりある

複数の事柄を同時に扱う能力である「デュアルタスク」。聞いたことのある方もいるのではないでしょうか。このデュアルタスクが女性の方が高いことがフランスの研究で明らかになったという。たしかに、女性は電話しながらマニキュアを塗ったりとあれこれしながら別のこともやってます。こういったデュアルタスクが長けているために細かくいろいろなことにも気づけるのだそうなのですが、いろいろなことに気づく分、注意力が散漫になりやすくなります。一方で男性は一つのことに打ち込む集中力に長けている。これは男女の脳の違いによって起こります。「なんで男はこうなの。」「なんで女はこうなんだ。」と嘆いてしまいがちですが、脳による違いがあるので、仕方がないことである。男女差を知っていくことが大切です。

“直感”だと思っていることは記憶による“主観”?

人間の脳は節約志向であり、何かを考える時は主観が大きく作用しています。人間にはエピソード記憶というものがあり、個人的な出来事や思い出に関する記憶があります。

重要なのは、このエピソード記憶はある時、ふいにフラッシュバックするところだ。無口であまり愛想のない人と対面した時、「過去にもこんな陰気な人がいたなぁ」「この人とはちょっと合わないな」とエピソード記憶が勝手な判断を下す。さらには人はこのエピソード記憶による勝手な判断を「直感」としてしまう場合があるから始末が悪い。

「私はタレ目な人を優しいと思う傾向にある」といった人間観を自覚することで、より正しい人間観察ができるようになるという。思い込みを正しいと思わずに、もう一度考え直す必要がありそうです。

集団になると必ず手抜きをする人が出てくる

人は集団の流れに合わせてしまう傾向があります。日本人は特にそうではないでしょうか。そして集団の人数の増加に伴って、この集団心理の働く傾向も強まると言います。たしかに少人数のグループでは手抜きをする人は少ないように感じるが、10人以上のグループになるとちらほらと手抜きをする人が目立つ気がします。こうした集団心理は知っておくと、学校生活や仕事をする上で役に立つでしょう。

 

今まで感じていた疑問を日常の例を交えながら理論的に解決してくれます。認知心理学だけでなく臨床心理学、社会心理学などの要素も含まれており、心理学入門とタイトルにあるが、心理学初心者〜中級者にオススメできる内容です。本書は日常の幅広い場面で応用でき、仕事や人間関係に応用すれば、イライラする回数も減り、なんとなく肩の荷が下りた気持ちになるのではないでしょうか。