【最新】国際経済学について学ぶためのおすすめ本 – 入門から最先端まで

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国際経済学とは?入門から学ぶ

経済取引は国内にとどまらず、国境を越えて行われています。国際経済学は、このような国際取引すべてを対象とし、なぜ・どのように取引が行われ、どのような影響を及ぼすかを分析する経済学の一分野です。今回は、入門書を中心として、貿易論、国際金融論等の各分野まで、国際経済学を広く学べる本をご紹介します。

参照: 国際経済学おすすめテキスト教科書 – https://frontlab.jp/1927/

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出典:出版社HP

国際経済学入門

国際経済学を体系的に学ぶ

本書は、国際経済学の中の国際貿易論について解説している教科書です。経済学の入門の基本を学んだ方で、国際経済学を学びたい方などがターゲットとなっています。説明も比較的わかりやすく、実際の事例などを交えた内容となっているため、理論の実際についてもわかります。項目も整理されているため、理解しやすいでしょう。

木村 福成 (著)
出版社 : 日本評論社 (2000/5/1)、出典:出版社HP

はしがき

本書は国際経済学のうち、とくにミクロ面の国際貿易論について解説した教科書です。国際経済学は、少なくとも次のような3種類のグループに属する方々に興味を持って勉強していただける学問分野だと思います。

第1は、現実のさまざまな国際経済問題に興味を持っている人たちです。ここ数年の新聞をながめてみても、国際競争力の変遷、内外価格差、企業の海外進出と国内産業の空洞化、サービス産業の自由化、国際間資本移動とアジア経済危機、WTO(世界貿易機関)を軸とする国際経済体制の再編成など、国際経済学からのアプローチを抜きにしては分析枠組みさえ定まらない経済問題が生じていることがわかります。国際経済学がすべての国際問題について解決策を示してくれるわけではありませんが、しかし不可欠な学問体系であることは明らかです。国際経済学の基礎がわかっていると、現実を明確に把握でき、解決の糸口が見つかることも多いのです。

第2は、経済理論一般に興味を持っている人たちです。国際経済学、とくに国際貿易はかつて一般均衡分析の中心的な応用分野でしたので、それを学ぶことによって経済問題を部分均衡ではなく一般均衡の枠組みでとらえる思考法を学ぶことができます。また、伝統的な厚生経済学では政府の介入のない状態でパレート最適な均衡が実現されるケースをベンチマークとしていますが、それに基づいて政策論を展開する練習にもなります。応用問題を解く前に、まず経済学における標準的な考え方を学んでおくことは大変重要であり、そのためにも国際貿易論を勉強しておくことは大いに役に立ちます。

第3は、そもそも経済学は現実経済とどのような接点を持ちうるのか、経済学の社会的役割は何なのか、を考えている人たちです。経済学は、演繹的な構造を持つ経済理論と現実経済の観察という、全く方法論の異なる2つのアプローチがせめぎ合いながら成り立っている学問分野です。なかでも国際経済学は、理論体系の成熟度と政策論からの強い需要を背景に、2つのアプローチの間に建設的な緊張関係が成立しうる分野です。2つのアプローチの間のすり合わせがどの程度うまくいくのかを見ていただくことを通じて、経済学がどう現実社会の役に立ちうるかを判断することができるでしょう。

本書は、ミクロ、マクロの入門コースを終えて初めて国際経済学を学ぼうという学部生から学部上級、大学院初級の学生諸君、さらには官庁や民間の研究所で経済分析に携わっているがこれから新たに国際経済学を勉強しようと考えている人たちを、主たる読者と想定しています。英語で書かれたものも含めこれまでの国際貿易論の教科書では、とくに理論の説明において、平易な内容にとどめてしかも紙幅を節約しようとするあまり、かえってわかりにくくなってしまっていることも多いように思います。学生諸君を子供扱いして不完全な説明に終わってしまうよりも、少々難しくてもきちんと考えれば全部理解できるようにした方が、むしろ知的興味をかきたてることができると、私は考えています。

したがって本書ではあえて内容的に妥協せず、一度わかっていただければその応用ができるところまで書き込んだつもりです。とくに、卒業論文などのテーマ探しや最初のとっかかりとなる文献を見つけるためにも役立つよう、かなり上級向けのものも含めて多くの論文を紹介しました。とはいえ、経済原論の基礎固めが十分でない読者にも読んでもらえるように、私の能力と紙幅の許す限り、丁寧に説明しました。

また、大半の既存の教科書には含まれていない特殊要素モデルや市場の歪み理論、さらに新たな展開が見られた貿易政策の政治経済学、貿易と経済成長の関係、サービス貿易、海外直接投資、地域経済統合とWTO、為替変動と国際貿易などのトピックも盛り込みました。したがって、時事的経済問題を取り上げる学部・大学院の講義や演習などで、本書を部分的に使っていただくことも可能でしょう。大部の本となりましたので、章単位で取捨選択して使っていただくこともできるように工夫したつもりです。

国際経済学は決して学ぶのが難しい分野だとは思いませんが、ジャーナリストやエコノミストの発言を聞くにつけ、十分に理解されていないと感じることもしばしばあります。国際経済学はある1つの分析的な断面を提供するに過ぎません。しかし、国際経済学の基礎があればはっきりと誤っていることがわかったり、背後にある前提条件が明らかになったりすることもよくあります。本書を通じて皆さんが国際経済学の基礎を身につけ、それを現実の経済問題の理解に応用していってくださることを願っています。

2000年3月
木村福成

木村 福成 (著)
出版社 : 日本評論社 (2000/5/1)、出典:出版社HP

目次

はしがき

序章 国際経済学の守備範囲と本書の構成
1. 国際経済学の守備範囲
2. 本書の構成
3. 本書の使い方

第1部 国際貿易パターン決定の理論
第1章 国際貿易モデルの構造
この章のポイント
1. 復習:ミクロの一般均衡モデル
2. 2財の国際貿易モデル
3. 生産構造と各種国際貿易モデル
練習問題

第2章 リカード・モデル
この章のポイント
1. なぜリカード・モデルを学ぶのか
2. 標準的な設定
3. 貿易がない場合の均衡
4. 自由貿易下の均衡
5. 2国多財モデル
練習問題

第3章 へクシャー=オリーン・モデル
この章のポイント
1. ベンチマークとしてのヘクシャーオリーン・モデル
2. 2財2要素2国モデル
3. 生産面を表現する5種類の図
4. 要素集約度逆転
5. ストルパー=サムエルソンの定理
6. リプチンスキーの定理
7. 要素価格均等化定理
8. ヘクシャー=オリーンの定理
9. 4つの定理に必要な諸仮定
10. 高次のヘクシャー=オリーン・モデル
練習問題

第4章 特殊要素モデル
この章のポイント
1. 基本構造
2. VMPLダイアグラム
3. 財価格が変化した場合
4. 労働賦存量が変化した場合
5. 資本賦存量が変化した場合
6. 政策論における短期と長期
練習問題

第5章 国際間生産要素移動
この章のポイント
1. 国際貿易モデルと生産要素移動
2. 生産要素の国際間移動の厚生効果
3. 財の貿易と代替的な生産要素移動
4. 財の貿易と補完的な生産要素移動
5. ヘルプマンの多国籍企業モデル
練習問題

第6章 「新」国際貿易理論
この章のポイント
1. 規模の経済性と「新」国際貿易理論
2. 規模の経済性
3. マーシャルの外部性
4. 不完全競争と製品差別化
5. 製品差別化モデルと産業内貿易
練習問題

第2部 国際貿易の厚生効果と貿易政策
第7章 完全競争下の貿易政策の厚生効果
この章のポイント
1. 貿易政策論の重要性
2. 貿易政策とは何か
3. 関税・輸出補助金の厚生効果
4. 数量的貿易制限政策の厚生効果
5. 国内政策の厚生効果
練習問題

第8章 市場の歪み理論
この章のポイント
1. ミクロ経済学と政策論
2. 市場の失敗と厚生経済学の大原則
3. 市場の歪み理論
4. 市場の歪みと政策例
5. 最適な政策選択
練習問題

第9章 規模の経済性・不完全競争と戦略的貿易政策
この章のポイント
1. 戦略的貿易政策論の台頭
2. 外国の独占に対する貿易政策
3. ブランダー=スペンサー・モデル
4. イートン=グロスマン・モデル
5. その後の研究動向
6. 戦略的貿易政策論の評価
練習問題

第10章 貿易政策と政治経済学
この章のポイント
1. 政治経済学的アプローチの必要性
2. 貿易政策とレント・シーキング活動
3. 貿易政策についての政治経済学モデル
4. 政治経済学に関する実証的観察
5. 今後の研究課題
練習問題

第3部 国際貿易と経済成長
第11章 経済成長が貿易に与える影響
この章のポイント
1. 貿易と成長
2. 経済成長と貿易パターン
3. 経済成長要因と生産可能性フロンティア
4. 貿易パターンの変化と社会的厚生
5. 輸入代替と輸出化
練習問題

第12章 貿易が経済成長に与える影響
この章のポイント
1. 国際貿易の経済成長に対するインパクト
2. ステープル理論とオランダ病
3. プロダクト・サイクル論
4. 幼稚産業保護論と動学的な規模の経済性
5. 貿易自由化と経済成長
研究課題

第4部 企業活動の国際化と国際経済
第13章 国際収支統計とサービス貿易
この章のポイント
1. 重要性高まる国際収支統計とサービス貿易
2. 居住者概念と国際収支統計
3. 企業活動の国際化と既存の統計体系の限界
4. サービス貿易とは何か
5. サービス貿易の統計的把握
6. サービス貿易をめぐる政策論
研究課題

第14章 海外直接投資と企業活動の国際化
この章のポイント
1. 直接投資の特殊性
2. 直接投資決定の理論
3. 直接投資をめぐる実証研究
4. 直接投資関連政策と投資ルール構築
研究課題

第15章 地域経済統合と新しい国際経済体制
この章のポイント
1. 重層的な国際通商政策チャンネル
2. 地域経済統合とは何か
3. 地域経済統合の理論
4. 地域主義と WTO
5. ウルグアイ・ラウンドとWTO体制の成立
6. WTOの基本理念
7. 地域主義と多角主義をめぐる最近の動き
研究課題

第5部 為替変動と国際貿易
第16章 為替レートと貿易
この章のポイント
1. 為替レートと国際貿易の関係
2. 国際貿易モデルと為替レートの決定
3. 為替レートの決定理論
4. 貿易が為替レートに与える影響
5. 為替レートが貿易に与える影響
練習問題

第17章 為替変動のミクロ的帰結
この章のポイント
1. 代替の弾力性と商品裁定
2. 輸入価格の浸透と貿易障壁
3. 為替変動と輸出価格
研究課題

練習問題のためのヒント・略答
あとがき
引用文献
索引

木村 福成 (著)
出版社 : 日本評論社 (2000/5/1)、出典:出版社HP

序章 国際経済学の守備範囲と本書の構成

ここでは、第1部以下の本論に入る前に知っておいていただきたいことをまとめておきます。はじめに、国際経済学あるいは国際貿易論という分野について概説します。次にそれを踏まえて本書の構成を説明します。最後に、本書を大学での講義の教科書や参考書、勉強会の教材、あるいは自習用の読み物としてお使いいただく場合、どのように使われることを意図したものであるかを説明します。

1.国際経済学の守備範囲
・国際経済と移動性
国際経済学、とくに国際貿易論の理論モデルの不可欠な要素となっているのは、国が複数存在し、しかも国境を越えて動かない何かが存在するということです。これが閉鎖経済モデルと一線を画すものとなります。国際経済モデルを見る時には、まず何が国境を越えて動くことができ、何が動けないことになっているかを、しっかりと確認することが大切です。

国際間の移動性が問題となるものとしては、まず財(goods)と生産要素(productivefactors;資本や労働のこと)が挙げられます。第2章、第3章でお話しするリカード・モデルやヘクシャー=オリーン・モデルの標準的なケースでは、財は国内、国際間を問わず自由に移動できるが、生産要素は国内でのみ自由に動けると設定しています。第4章の特殊要素モデルではさらに、一国内の産業間の生産要素移動にも一定の制限が設けられます。一方、第5章のように資本や労働の国際間移動を議論する際には、生産要素が国際間で移動しないという仮定をはずしてやることになります。また、財の中でも国際間で動くもの(貿易財)と動かないもの(非貿易財)を区別することもあります。第7章以下で議論する貿易政策の厚生効果についての分析では、貿易政策は第一義的には財の国際間移動を阻害するものとして登場します。

さらに第13章、第14章で解説するように、近年の企業活動の国際化やサービス貿易の拡大に伴い、国境という地理的概念ではとらえきれない取引形態の重要性も増してきています。例えばサービス貿易とは、サービスという目に見えないものがフワフワと国境を越えていくのではなく、地理的な位置はどうであれ、居住する国の異なる経済主体間のサービスの売買です。ここでは移動性がモノの場合と違う形でとらえられることになります。また直接投資の本質は、企業の活動が国境をまたいで展開されるところにあり、ここでも国境をはさんで動きうるものとそうでないものが問題となってきます。

生産技術の国際間の移動性も、モデル設定の際の重要なポイントとなります。第2章のリカード・モデルにおいては、技術は国際間で異なると仮定されますが、これは技術を国際間で自由に移動できないものとしていると解釈することもできます。それに対し第3章のヘクシャー=オリーン・モデルでは、生産技術は国際間で共通と設定されています。これは技術がどこへでもコストなしで動きうるとの設定がなされていると考えることもできます。

その他、規模の経済性や政府の政策も、国境をめぐる移動性にかかわってきます。第6章でお話しする「新」国際貿易理論では、規模の経済性がどのような範囲で生まれるのかが重要な問題となります。また、大半の政府施策の適用範囲は、国境内あるいは国境線上に限られています。それに対し、第14章で見るように企業活動は近年急速に国境をまたがるものとなってきており、政府施策との境界の食い違いがこれからの国際貿易論の重要な課題となってくることが予想されます。第15章で取り上げる地域統合や多角主義の動きは、複数の国に横断的に適用される政策ルールの構築の動きとも解釈できます。

実態面で国境の概念が次第に希薄となっていく中、国際経済学の守備範囲は次第に狭まってきているのではないかという人もいます。しかし逆に、国境を越えて動くものと動かないものが変化していく時代であるからこそ、国際経済学の出番は増えるかもしれません。また、理論の適用範囲を国境線をめぐる議論に限定する必要はないわけで、空間的(spatial)な要素をモデルに入れようとする時にはいつも応用可能性が存在するとも考えられます。

・国際貿易論と国際金融論
国際経済学は伝統的には、国際貿易論と国際金融論(近年は国際マクロ経済学とも呼ばれる)に分けられてきました。この2つの分野の境界線は必ずしも明確でない部分もありますが、ベースとなる理論モデルの出自は明らかに異なっています。国際貿易論では、国際貿易パターンがいかに決定されるかを説明する理論の構築と、貿易・産業政策の経済効果の分析がなされます。ベースとなる理論はミクロ経済学であり、通常は貨幣の存在しない実物経済を分析対象とします。貿易パターンを議論するためには複数の財をモデルに入れざるをえず、モデルの複雑化を避けるために静学的枠組みにとどまるものが主流となります。また、ミクロの均衡に注目するという意味で、財・生産要素市場における需給が均衡した後の超長期均衡の分析が前面に出てきます。

一方国際金融論では、国際収支、為替レートの決定、開放経済下のマクロ経済学、途上国の債務累積問題、マクロ政策の国際協調などが主要なトピックとなります。ベースとなっているのはマクロ経済学です。多くの場合貨幣を含めたモデルを分析のベースとし、動学的モデルへの拡張もしばしば行われます。単純化のため、多くの場合、1時点では(貨幣あるいはアセットを除き)1財のみ存在するという設定がなされます。マクロ経済学がベースであることから、短期の均衡に対する関心が強いという傾向もあります。本元のマクロ経済理論の方はますますミクロ的基礎(microfoundation)を重視するようになってきたのに対し、国際金融論の方にはむしろ昔風のケインジアンの考え方が色濃く残っています。

経済理論全体でミクロ的基礎に基づくパラダイムの共通化が進む中、国際貿易論と国際金融論の間の境界は次第に不明確になりつつあります。また実態面でも、両方の分野にまたがる経済問題の重要性が増してきています。本書は国際貿易論を中心とするものですが、このような両方にまたがる新しい分野もできるだけカバーしていきます。第13章では国際収支、第14章では直接投資に伴う諸問題を取り上げますが、これらの分析には両分野からのインプットが不可欠です。また、為替変動の内外価格差や産業構造変化に与える影響の問題などは、従来は両分野の中間に埋没してしまってどちらでも十分に扱われてこなかったわけですが、第16章、第17章でまとめて議論します。さらに貿易と経済成長の関係についても、過去10年の経済成長理論の発展を踏まえて第11章、第12章で解説します。

2.本書の構成
国際貿易論は、貿易パターンの決定を議論するpositiveな部分と、貿易・産業政策の経済効果を分析するnormativeな部分に分けられます。”positive”、“normative”という言葉はそれぞれ「実証的」、「規範的」と訳されますが、あまりわかりやすい訳語ではないかもしれません。”positive”の方は経済メカニズムを解明しようとするもの、“normative”の方は厚生水準や政策効果を分析するもの、と理解しておけばよいでしょう。前者は国際分業論、後者は貿易政策論と呼ばれることもあります。

私の限られた教職経験に照らしてみると、学部の国際経済学や国際貿易論の講義では、前者だけで大半の時間を費やしてしまい、実際の経済問題に関心を持つ学生諸君が知りたい後者についてはゆっくり議論できぬまま終わってしまうことも多いようです。国際分業論のところがある程度理解できていないと、その応用という側面の強い貿易政策論を語れないという事情ももちろんあります。しかし、貿易論を応用経済学の一分野としてとらえ、政策論議の役に立つものとして学ぼうとするならば、後者にかなりの時間をさくべきだと私は思います。したがって、既存の教科書よりも貿易政策論の部分がやや大きくなるように、次のように目次立てをしました。

第1部 国際貿易パターン決定の理論
第1章 国際貿易モデルの構造
第2章 リカード・モデル
第3章 へクシャー=オリーン・モデル
第4章 特殊要素モデル
第5章 国際間生産要素移動
第6章 「新」国際貿易理論

第2部 国際貿易の厚生効果と貿易政策
第7章 完全競争下の貿易政策の厚生効果
第8章 市場の歪み理論
第9章 規模の経済性・不完全競争と戦略的貿易政策
第10章 貿易政策と政治経済学

第3部 国際貿易と経済成長
第11章 経済成長が貿易に与える影響
第12章 貿易が経済成長に与える影響

第4部 経済活動の国際化と国際経済
第13章 国際収支統計とサービス貿易
第14章 海外直接投資と企業活動の国際化
第15章 地域経済統合と新しい国際経済体制

第5部 為替変動と国際貿易
第16章 為替レートと貿易
第17章 為替変動のミクロ的帰結

第1部と第2部がそれぞれ、positiveな議論とnormativeな議論の核の部分に当たります。第1部はごくオーソドックスな構成ですが、省略されることも多い特殊要素モデルについても1章を当てて理論に幅を持たせることにしました。第2部では、分析のベンチマークとなる歪みのない経済を明確に示して、政策論を行う上での道筋を意識してもらうように心がけたつもりです。また、貿易政策をめぐる政治経済学についても、最近の研究の進展を紹介しました。第3部はどちらかといえばpositiveな議論が中心となっていますが、経済成長の貿易に対する影響という伝統的なアプローチだけでなく、近年の新経済成長理論の成果を意識して、貿易が経済成長に与える影響についても断片的に触れておきました。第4部の経済活動の国際化にかかわる分野は将来normativeな議論へと発展していくことが望まれるものですが、現実の変化があまりに速いために、現状の数量的把握も遅れ、経済学の分析枠組みも十分な発達を見せていません。ここでの記述はすぐに改訂を必要とする可能性もありますが、政策論の緊急性を考えてあえて3章を当てて解説しています。第5部は従来、重要でありながら国際貿易論と国際金融論の隙間に沈んでしまっていた部分であり、これまでの国際貿易論の教科書ではほとんど記述のないものですが、あえて取り上げました。

3.本書の使い方
本書は、ミクロ、マクロの入門コースを終えて初めて国際経済学を学ぼうという学生から大学院初級までの幅広い読者を想定していますので、目的に応じて自ずから読み方も変わってくるだろうと思います。内容的にはかなり高度で、しかも近年の研究成果を踏まえたものとなっていますので、相当challengingと感じられる向きもあるでしょう。しかし、中途半端にやさしく書こうとするより、きちんと理解すれば全部わかるようにした方が、むしろ読者の役に立つのではないかと考え、このような本ができあがったわけです。

学部の授業で教科書として使用していただく場合、通年週1回もしくは半期週2回のクラスですべての章を取り上げるのはかなり難しいでしょう。したがって、第1部の国際分業論に重きを置くか、第2部の貿易政策論を中心に取り上げるか、もしくは第4部や第5部の新しいトピックを主たる対象とするかを、最初から決めておく必要があるかもしれません。いずれの方式に従っても使っていただけるように書いたつもりです。各章の冒頭に「この章のポイント」と題する要約をつけておきましたので、とりあえずその章をスキップするという場合などには、それによって全体の流れをつかんでいただければと思います。

ゼミや勉強会でお使いいただく場合には、第1章から第11章、第16章の章末につけた練習問題にぜひ挑戦してください。経済学という道具は、手を動かして学ばなければ、実際に使えるようになりません。これらの練習問題が解けるようになれば、その章の内容はほぼマスターしたと考えてもいいでしょう。とりわけ第2章から第4章、それに第7章は苦労されるかもしれませんが、大変重要です。また、教科書を複数並べて同じトピックのページを開いてみて、違った角度からの説明を対照しながら勉強するのも、遠回りのようで実は効率的な学習方法です。

本書は、卒業論文や修士論文のトピック探しのためにもぜひ使っていただきたいと思います。本文中および注には、かなり上級向けのものも含め、参考文献を数多く挙げておきました。もちろん、これら全部に目を通せ、などとすべての読者に要求しているわけではありません。しかし、現代の研究者がどのような問題に関心を抱いているのか、また実際の経済問題との関係で何が課題になっているのかを肌で感じるには、これらの文献をsurfするのが一番です。英語の文献が大半となっていますが、残念ながらほとんどの重要論文は英語で書かれているというのがこの分野の現状なのです。これを機会に、ぜひ英語アレルギーを打ち破ってください。それらの中に、論文のテーマなどは山ほど転がっています。また、第12章から第15章、第17章の章末の研究課題も、そのまま論文の種となりうるものです。

本書は理論の解説を主眼としていますので、読者が自分で実証研究を試みたいと考えるのであれば、本書の「姉妹編」も参照してください。『実証国際経済入門』(日本評論社、1995年、共著)には、さまざまな実証研究の実例を示しておきました。『テキストブック経済統計』(東洋経済新報社、2000年、共著)の第8章「国際経済関係」では、各種統計データの解説をしました。また、論文をまとめる際には、『経済論文の作法』(日本評論社、1998年増補版、共著)も役に立つはずです。

木村 福成 (著)
出版社 : 日本評論社 (2000/5/1)、出典:出版社HP

理論と実証から学ぶ 新しい国際経済学

国際経済学の理論と実証をつなげる

本書は、国際貿易で用いられる理論について解説しています。従来の貿易理論に加えて、新しい理論を盛り込み、さらに実証分析も学ぶことができます。簡単な例から理論のモデルについて理解していくことができるため、理論と実務のつながりを学びつつ、段階的に応用的な理論の理解へと進んでいくことができます。

友原章典 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2018/3/10)、出典:出版社HP

はじめに

国際経済学では、自由貿易のメリットや貿易による所得分配というトピックスが、ずっと議論されてきました。近年メディアで話題にもなっている保護貿易への回帰や所得格差等の時事問題とも関係があり、国際経済学におけるもっとも基本的でかつ永遠のテーマといってよいかもしれません。国際貿易論では、保護貿易の弊害を指摘し、自由貿易を肯定する見解が一般的です。一方で、保護貿易を正当化する理論もあります。また、最近の研究では、貿易のメリットを数値化するとそれほど大きくないという指摘もあります。本書では、そうした問題を考えるための分析道具をご紹介しながら、最近の研究結果についてご紹介していきます。

・本書の目的
本書の目的は、国際貿易の問題を議論するために、初級の教科書と上級の教科書や論文の橋渡しをすることです。例えば、国際経済学の初歩的な学習は済んで少し進んだ勉強をしたいと思った時には、大学院などで使われている上級の教科書を読む機会があるでしょう。また、みなさんが自分で論文を書かれる時に、多くの英語論文を読む必要が出てくるかもしれません。こうした場合に、結構数式が多くて難しいと感じられるかも知れませんが、そのギャップを埋めるために役立つよう書かれたのが本書です。

そのため、簡単な例題(数値例)を使ってモデルの意味を直感的に学ぶことから始め、その後、そうした考えがどういった形で一般化(数式化)されるのかということを、段階的に学ぶスタイルをとっています。初級レベルの問題を通じて大体の考え方が頭に入っていれば、難しそうな数式を見ても驚かなくなります。数式の意味するところが、何となく分かってくるからです。そのために、モデルの大事なポイントを理解できるように執筆されています。

・本書の読み方
本書は、読者のバックグラウンドに応じて様々な使い方ができます。入門レベルの教科書を読み終えて、国際経済学のイメージをつかまれた方が、簡単な例題を解きながら理解を深めたい場合には、各章の前半部分を読まれるとよいでしょう。各章の前半部分は、大学の1~2年生を対象にした講義内容の簡単な復習と、大学の3~4年生を対象にした講義で使用されている数値例を載せています。また、資格試験の準備のために本書を利用される方も、各章の前半部分が参考になると思います。

一方、大学院での学習と合わせて本書を利用される場合には、各章の後半を読まれるとよいでしょう。例えば、少し時間をかけて解くような計算問題を使用して、項目の説明をしています。これらの例題は、国際経済学への応用問題なのですが、中級レベルのミクロ・マクロ経済学の基礎学習にも使用できます。というのも、第1章は一般均衡、第2章はディクシット・スティグリッツ型効用関数の独占的競争モデル、第5章はゲーム理論というように、国際貿易だけではなく、ミクロ経済学や産業組織論でも使用される基礎的なモデルの例題を使用しているからです。また、ディクシット・スティグリッツ型効用関数は貿易だけではなく、マクロ経済学モデルでもよく使用されています。

最後に、理論的な学習を終えられて、これから実証研究を行って論文作成を行う大学院生や実務家の方々などは、第3章や第4章を重占的に読まれるとよいでしょう。国際経済学や国際金融でよく使う実証研究の手法について記述しています。大学の講義だけではすべてのトピックスをカバーすることはできないので、論文などを執筆するようになると、ある程度独学する姿勢が必要になります。こうした際の手助けになればと思っています。また、独学で学習する初心者に配慮し、大事な部分や基礎問題の理解においては、できるだけ数式の解き方を段階的に記述しています。通常の教科ですと、紙面の都合から、途中の計算を示しておらず、自分で解いてみると意外とわからない場合もあったりします。また、解き方だけでなく、宿題を解いたりや期末試験を受けるときに、どのように解答を書けばよいかという解答の書き方の参考にもしていただければと思います。

本書の内容の一部は、動画教材としてhttp://www.dailymotion.com/int_econにアップロードされています。こちらも併せてご活用いただくと、本書の内容の理解が一層深まるかもしれません。また、本書内の数式番号に関しては、各節ごとに通番で付して、各節内で完結するようにしています。但し、同節内に幾つかの例題が含まれる場合には、例題ごとに通番で付しています。

・本書の特色
本書を読まれると、従来の国際経済学の書籍とは(いろいろな意味で)かなり違うことに気が付かれると思います。まず、スタイルに関しては、問題提起と解説を交互に行うという形式をとっています。これは、漫然と読み進めるのではなく、問題意識を持っていただいてから解説を行うことにより、問題点を意識でき、重要な議論が頭に入りやすくなるからです。内容に関する本書の特徴として、古典的な貿易理論は第1章で触れる程度にとどめています。これまでにも優れた国際経済学の教科書がかなりのページを割いて説明しているので、そちらを参考にしていただければと思っています。

一方で、できるだけ最近の動向を反映させた内容を盛り込もうと努めています。例えば、「自由貿易のメリット」を数値的に試算するとどうなるかといった議論です。こうした議論に対応するため、理論と実証を橋渡しするような内容を入れています。本書の内容は、これまで筆者がジョンズホプキンス大学ピッツバーグ大学院、ニューヨーク市立大学並びに青山学院大学などで講義した内容等を、大幅に加筆・修正してまとめたものです。筆者の知る限り、日本語による国際経済学の教科書では説明されていませんが、海外の大学院などでは一般的である内容をできるだけ掲載していると思います。そうした意味で、本書は他の日本語の教科書の補完的な存在として意義のあるものだと思っています。

さらに、いろいろな内容を網羅的に掲載するのではなく、現実問題ともリンクさせることを意識しています。このため、グローバル化によって幸せになるのかという観点から、特に、「自由貿易のメリット」に焦点を当てながら執筆を行いました。特に、一般的な教科書の解説ではわからない読者(特に初学者や独学者)のために、教科書の行間を埋めるような説明も心がけました。例えば、議論の前提となっていることや、モデルの意味などは、なるべく直感的に日本語で説明しています。その過程で、経済学の説明が若干ラフになっているところもありますが、現実の問題を考える端緒となればと思い、あえて大胆なアプローチをとっています。この意味で、本書は、標準的な教科書の取扱説明書にもなっています。

モデルの問題点についても記載しています。例えば、独占的競争モデルは頻繁に使用されていますが、こうしたアプローチが現実をうまく説明していると思っているエコノミストは多くなく、単に使い勝手が良いことから重宝されていることなどです。さまざまなモデルにおける問題点を意識されると、教科書で学習するような理論が示唆する含意通りに、現実が機能していないことにも納得がいかれるかもしれません。こうした疑問は、これまでの講義や講演で、学生や聴衆のみなさんから寄せられた質問にもおおくみられるものであり、本書における説明においてちりばめられています。残念ながら、試験問題のように1つの正解があるわけではありません。数式を駆使して精緻に見える議論も、モデルの前提条件を吟味することなしに、いつでも当てはまるものではないことに留意が必要でしょう。国際経済学自体が、未だ発展途上にあるのです。問題点を理解したうえで、政策分析のための道具を使用することにより、現実問題を有意義に議論できるようになると思っています。

本書の内容を丁寧にチェックしてコメントを頂いたミネルヴァ書房の水の安奈さん、執筆に際してアシスタントとしてご協力いただいた金科さん、洪靖鎧さん並びに肖宇青さんにも深謝致します。また、すべての方々のお名前を載せることはしませんが、椎野幸平さんを含め様々な質問等をいただいた過去の履修生にも御礼を申し上げます。なお、本書の出版は青山学院大学国際政治経済学会からの出版助成を受けています。合わせて感謝の意を表します。繰り返し校正を行いましたが、数式を多く含む性質上、もし、誤植が含まれていたとすれば筆者の責任です。また、ご利用の際にお気付きになられた点がございましたら、ご意見を賜れればと存じます。例えば、もっと簡単な解法があったり、この部分をもっと詳しく説明してほしい等を含め、今後の参考にさせていただきます。

最後に、本書が少しでもみなさんの学習のお役にたてれば幸いです。

2018年2月
友原章典

友原章典 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2018/3/10)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 これまでの貿易理論
1標準的な教科書で学ぶモデル
1.1自由貿易の提唱
1.2閉鎖経済と開放経済

2貿易と所得分配
2.1所得格差とストルパー・サミュエルソン定理
2.2国家格差と要素価格均等化定理

3どの財を輸出すればよいか
3.1レオンチェフ・パラドックス
3.2伝統的モデルへの評価

4ヘクシャー・オリーンモデルの応用例
4.1ヘクシャー・オリーンモデル(1)―ストルパー・サミュエルソン定理
4.2ヘクシャー・オリーンモデル(2)―要素価格均等化定理

第2章 新しい貿易理論とは何か
1規模の経済
1.1大量生産の利益
1.2閉鎖経済と開放経済

2独占的競争
2.1製品の差別化
2.2同質的な企業

3多様な財の消費
3.1消費者の効用最大化
3.2ディクシット・スティグリッツ型効用関数

第3章 実証分析の理論について学ぼう
1実証分析の基礎
1.1モデルのフィット
1.2回帰分析の考え方

2重力モデルとは何か
2.1伝統的な重力式
2.2従来の推定の問題点
2.3理論的根拠を伴う重力モデル

3重力モデルと経済理論
3.1需要―CESモデル
3.2アーミントンモデル―完全競争とCES需要関数
3.3独占的競争―同質的企業とCES需要関数

第4章 自由貿易のメリットをみてみよう
1アーミントンモデル
1.1貿易メリットの計測
1.2貿易抵抗の影響

2モデルの拡張
2.1類似点や相違点
2.2アーミントンモデル
2.3さまざまなモデル

3社会厚生の数値化
3.11部門モデル
3.2多部門モデル
3.3中間財貿易
3.4複数の生産要素
3.5その他の拡張モデル

第5章 保護貿易のメリットをみてみよう
1戦略的貿易論
1.1ペイオフ・マトリックスナッシュ均衡
1.2反応曲線―ナッシュ均衡
1.3クールノー・ナッシュ均衡

2関税の考え方
2.1輸入関税
2.2クールノー寡占モデル

3輸出補助金
3.11政府による補助金
3.2政府間補助金競争―2段階ゲーム
3.3費用等変数の一般化

4異なる市場での競争
4.1地域市場での競合
4.2第三国市場における競争

5保護貿易の政治経済学
5.1ロビー活動の弊害
5.2実証分析

主要参考文献
索引

友原章典 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2018/3/10)、出典:出版社HP

入門 国際経済学

基本的な理論を徹底的に解説

この本は、国際経済学の国際貿易論と国際金融論に関する教科書です。グローバリゼーションが進行している現代では、重要となっている項目がいくつかあります。国際収支や貿易自由化・保護貿易政策、また、国際分業モデルや国際労働移動、為替など、様々な基本的な理論が取り上げられています。

大川 良文 (著)
出版社 : 中央経済社 (2019/10/12)、出典:出版社HP

はしがき

本書は、大学生および初学者向けの国際経済学に関する教科書です。米中貿易戦争や英国のEU離脱など、世界の経済情勢が不安定化する中で、国際経済学の必要性はますます高まっています。しかし、国際経済学はミクロ経済理論とマクロ経済理論を応用したものであることから、大学生たちにとってはハードルが高い講義のようであり、授業後のアンケートなどでは受講生から「内容が難しすぎる」との指摘を受けることも多くあります。そのため、今回の教科書作成に当たっては、国際経済学の教科書を作るというより、国際経済学が伝えようとするメッセージを読み手にわかってもらえるための本を作成しようということを心掛けました。

国際経済学は、ミクロ経済学を基礎として貿易や国際労働移動などを取り扱う国際貿易論と、主にマクロ経済学を基礎として国際投資や国際金融制度を取り扱う国際金融論の2つに大きく分かれます。国際貿易論のモデルは、その分析によって導かれる結論は「貿易自由化を行うと経済全体の利益が増加する」というように、シンプルなものが多いのですが、使用する分析手法である余剰分析や一般均衡分析を理解していることを前提として話が展開されているために、それらの分析手法が理解できず、その結果最終的に導かれる結論の内容も頭の中に入ってこないという学生を多く見かけてきました。このため、国際貿易と国際労働移動について取り上げた本教科書の第3章~第6章では、従来の教科書と比べて、余剰分析や一般均衡分析そのものの説明と、そのモデルから読み取れる経済的事象について、くどいほど詳しく解説することを心掛けました。

一方、国際金融論について取り上げた第2章と第7章・第8章では、国内外の資金の動きを示す国際収支と、すべての経済取引に関連し世界経済の動向に大きな影響を与える為替レートの仕組みについて、集中的に取り上げました。金融のグローバリゼーションが進んだ現在では、国際収支の動向や為替レートの変動が世界経済に与える影響は非常に大きなものとなっています。本教科書では、世界の経済情勢に関するニュースが理解しやすくなることを目的に、実際の世界経済の動向と関連付けながら、国際収支と為替レートの仕組みに関する基本的な考え方を伝えることを心掛けました。

基礎的な概念ほど説明に手間をかけたので、本教科書で取り上げた内容は、従来の国際経済学の教科書よりも狭い分野に限定されることになりました。国際経済学は、日々進化しており、次々と新しい理論や概念が生まれています。そのような最新理論も含む幅広い項目について取り上げた国際経済学の教科書も多く出版されています。しかし、取り扱う範囲は狭くても、基本的な理論について、くどいほど多くのページを割いた教科書も一冊ぐらいあってもいいのではないかと考えて、本教科書を作成しました。本書が読者の国際経済学に対する学びの第一歩としてお役に立てれば幸いです。

この教科書は、これまで大学で行った国際経済学の講義での経験をもとに作成いたしました。前任の滋賀大学、そして現在所属している京都産業大学で私の講義を受講してくれた多くの学生に感謝します。京都産業大学の学生である松本麻依さんと山崎紗代さんには、本書の草稿を丁寧に読んでいただき、学生の視点からのアドバイスをいただきました。中央経済社の酒井隆氏には、教科書初執筆の私に様々なアドバイスをしていただきました。これらの方々に心より感謝申し上げます。しかしながら、あり得べき誤認はすべて筆者の責任であることは言うまでもありません。

最後に、筆者の研究生活を常に支えてくれている妻の順子そして研究者となるまでの長い間、最大限の支援をしてきてくれた母・妙子そして本書の完成直前に永眠した父・征一郎に心より深く感謝いたします。

2019年9月
大川良文

大川 良文 (著)
出版社 : 中央経済社 (2019/10/12)、出典:出版社HP

目次

はしがき

第1章 国際経済学の世界
1-1 国際貿易の拡大
1-2 国際投資の拡大
1-3 国際労働移動の拡大
1-4 本書の内容

第2章 国際収支
2-1 国際収支統計と国際投資ポジション
2-2 グローバル・インバランス
2-3 経常収支と貯蓄投資バランス
2-4 国際収支発展段階説
2-5 日本と米国の国際収支を読み解く
●練習問題

第3章 貿易自由化と保護貿易政策 余剰分析
3-1 貿易自由化の歴史
3-2 貿易利益
3-3 輸入関税政策の経済効果
3-4 国内産業保護政策の比較
3-5 TPP交渉と日本の農産物に対する保護貿易政策
●練習問題

第4章 交易・特化の利益 一般均衡分析
4-1 一国全体の貿易構成
4-2 一般均衡分析の基礎
4-3 交易の利益
4-4 交易の利益と特化の利益
4-5 資源価格と交易条件の変化
●練習問題

第5章 国際分業モデル
5-1 貿易パターンの決定要因
5-2 リカード・モデル
5-3 ヘクシャー=オリーン・モデル
5-4 先進国と途上国間の貿易構造
●練習問題

第6章 国際労働移動
6-1 マグドゥーガル・モデルによる分析
6-2 外国人労働者が受入国にもたらす経済的影響
6-3 送出国における経済的影響
6-4 先進国における外国人労働者受入れ政策
6-5 日本における外国人労働者受入れ政策
●練習問題

第7章 為替レート
7-1 為替レートとは
7-2 為替レートの変動が経済に与える影響
7-3 為替レートの変動に影響を与える要因
●練習問題

第8章 為替相場制度と国際資本移動
8-1 為替相場制度の種類
8-2 国際通貨制度の歴史
8-3 為替レートに影響を与える政策
8-4 固定相場制度
8-5 変動相場制度
8-6 国際資本移動と経済危機
8-7 2000年代以降の国際資本移動の動向
●練習問題

練習問題解答
索引

大川 良文 (著)
出版社 : 中央経済社 (2019/10/12)、出典:出版社HP

国際経済学―国際貿易編 (Minervaベイシック・エコノミクス)

国際経済の仕組みをわかりやすく

本書は、国際貿易論の基本的な理論から現代の経済政策までを網羅しています。難解な数式を使わずにミクロ的な理論を解説しており、初学者でも理解できる教科書と言えます。国際的な経済活動を精緻に分析することも可能で、直感的に理解しながら、国際貿易論の基本をいろいろな側面から身に付けられます。

中西 訓嗣 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2013/3/1)、出典:出版社HP

はしがき

最近では「グローバリゼーション」という言葉を見たり聞いたりしない日はない。それが何ものであるにせよ、政治、経済、文化、娯楽、教育、学術、宗教など、あらゆる人間活動がグローバリゼーションの只中にある。グローバリゼーションに弱肉強食の殺伐さを感じて不安をいだく人もあれば、実力発揮の好機と捉えて声高に推し進めようとする人もいる。グローバリゼーションの中で人々の利害対立が鮮明なものとなる。
たとえば、環太平洋パートナーシップ協定(TPP: Trans-Pacific Partnership)への日本の参加問題を見るとよい。賛成派・反対派それぞれが、「製造業空洞化の阻止」「食糧自給率の確保」「国益増進」「格差拡大」「成長促進」「弱者切り捨て」など様々な論拠を示してTPPへの参加・不参加を争っている。しかし、意見の対立とはまったく別次元で、両者の議論にはどこか噛み合っていないものが感じられる。それぞれの側が、互いに異なるグローバリゼーションを勝手に思い描いて、的外れな論戦を展開している。グローバリゼーションが何であるのかについての共通理解が欠けているのである。共通理解がなければ、賛成・反対どちらの主張も空回りして、議論自体が成り立たない。
グローバリゼーションは、人々に繁栄をもたらすのか、格差と対立を生じさせるだけなのか。こうした問に答えるためには、まず、「グローバリゼーションとは何か」が正しく把握されていなければならない。国際経済学は、グローバリゼーションのすべてとは言わないまでも、その経済的側面、すなわち「経済のグローバル化」と呼ばれる現象を分析・理解するための首尾一貫した方法となる学問分野である。国際経済学は、グローバリゼーションを肯定的に捉える人にとっても、否定的に捉える人にとっても、有意味な議論を展開するための適切な「方法」と「共通言語」を提供してくれるはずである。

本書のねらいと特色
国際経済学は、国や地域を基本単位として、それらの間で行われる様々な国際経済取引を体系的に把握し、それらの原因や効果を明らかにすることを目的としている。国際経済学の分析枠組は、「国際金融論」と「国際貿易論」の2つに大別される。国際金融論では、国民所得水準、経常収支、物価水準、為替レート、金利などのマクロ経済学的・貨幣的変数が主に取り扱われるのに対して、国際貿易論では、生産・消費・貿易パターン、相対価格、経済厚生などのミクロ経済学的・実物的変数が主に取り扱われる。本書は、国際経済学の2大分野のうち「国際貿易論」に関する標準的理論と基礎的事項について解説することを目的としている。
狭い意味での「貿易」とは財・サービスの国際取引のことであるが、国際貿易論の名称にある「貿易」には、より広い意味で、資本・労働の国際移動や企業の国際展開なども含まれている。「貿易」という言葉を広義に理解しておけば、国際貿易論の主題を「貿易パターンの解明」と「貿易利益の論証」の2つにまとめることができる。「貿易パターンの解明」とは、いかなる要因によって、どのような財・サービス等が、どちらの方向で取引されるのかを明らかにするものであり、他方「貿易利益の論証」とは、財・サービス等の国際取引によって人々の暮らし向きがどのような影響を受けるのかを明らかにするものである。本書全13章を通じて、これら2つの主題が繰り返し取り上げられる。
本書は、今日の国際貿易論に関する標準的な教科書をめざしたものであるから、個別テーマの理論的内容について筆者自身のオリジナリティを主張するものではない。しかし、テーマの取捨選択や提示の仕方には独自の工夫を凝らしている。
まず、本書では、類書によくある「貿易モデルを紹介する」というスタイルは採用しなかった。目次からも明らかなように、本書には「××モデル」といった章や節は一切含まれていない。特に、代表的な貿易モデルである「ヘクシャー=オリーン=サミュエルソンモデル」や「特殊要素モデル」は、所得分配や経済成長などの課題やテーマごとに、必要とされる部分に解体して利用した。1つ1つの「モデル」について微に入り細をうがって理解することは、経済学の専門家をめざす人には大切な作業だが、これから新たに経済学を学ぶ人にとっては迂遠で無用なことと考えたからに他ならない。むしろ、どのような課題やテーマに、国際貿易論という方法が、いかに適用可能であるのかを学びとってほしいと思う。
また、本書では、類書に見られるものより数多くの図解が示され、それらは、かなり詳細・精密に描かれている。国際貿易論をある程度知っている人には、クドイと思われるほどかもしれない。「百聞は一見にしかず」と言われるように、適切な視覚的イメージやグラフは、言語や文章による表現よりも豊かな情報を生き生きと伝えてくれる。本書における図解は、単なる例示やイラストレーションではなく、ある意味で理論の本質に触れるものである。ある曲線や図形が何を表しているのか、ある曲線が右上がりのグラフで描かれる理由は何か、ある条件が変化したときに曲線が移動するのはなぜか、などなどを考えながら、理論の解説に利用される図解の1つ1つを読者自身の手で再現してみることで、内容に対する理解を深めることができるはずである。
本書が対象読者として主に想定しているのは、経済学を習い始めた大学1~2年生である。基礎的な経済学を知っているに越したことはないが、それがなくとも本書を読み進められるよう、必要な基礎知識については、本文中あるいはコラム等を利用して解説を加えてある。したがって、意欲さえあれば、一般の社会人あるいは高校生の読者にも本書を読み通してもらえると思う。
本書では、「貿易と環境」および「貿易と天然資源」という2つの重要問題についてはまったく触れていない。これらの問題を取り上げなかったのは、恥ずかしながら、筆者の能力が及ばないというのが第一の理由である。加えて、「貿易と環境」や「貿易と天然資源」の問題を正面から取り上げるためには、国際貿易論に関する知識の他に、環境経済学や資源利用と再生産の動学に関する十分な理解も必要であって、基礎的事項として紹介するには難度が高くなり過ぎると判断したのが第二の理由である。
教科書であるということを意識して、本書では、筆者自身の思想や意見を記述することは避けている。とはいえ、まったく無味無臭・無色透明というわけでもない。筆者自身は、これまでに学界で積み重ねられてきた知見に基づいて「貿易自由化は、いくらかの問題を孕んではいるものの、基本的に実行したほうがよいものだ」と考えている。したがって、本書を通じて、このような見解に則した記述が見え隠れしていることは否めない。そして、このような見解は、ほとんどの国際貿易論研究者の共通認識でもあろう。この点に関して、恩師の1人でもあり友人でもあった下村耕嗣教授(故人、神戸大学)が好んで引用されていたアマルティア・セン教授の発言をここでも掲げておきたい。

『グローバル化をやめるかではなく、グローバル化に加えて何をするかだ。しっかりとした公共政策を併せ持つことが大切なのだ。先端技術や国際貿易の恩恵を否定することでアジアやアフリカの貧しい人々が豊かになるわけではない。』(朝日新聞、2000年8月28日)

上記のセン教授の発言ほど、本書の基本的なスタンスを的確に言い表したものはないと思う。

謝辞
筆者が初めて国際貿易論に触れたのは、広島大学経済学部在学中に三辺誠夫先生(故人、広島大学)のゼミナールにおいて、サミュエルソンの貿易利益に関する論文を輪読したときであった。経済学の数ある命題・定理の中でも「貿易利益命題」には珍しく前向きのニュアンスがあって、筆者が国際貿易論に関心を抱く大きなきっかけとなった。神戸大学大学院経済学研究科に進学後は、国際経済学の泰斗、池本清先生(故人、神戸大学名誉教授)のご指導を受けた。池本先生の研究室に所属できたのは、まったく偶然の巡り合わせであったが、池本先生からは、単に国際経済学のみならず、研究者・教育者としての心構えや姿勢について多くのことを学ばせていただいた。両先生ともすでに鬼籍に入られて久しいが、改めて感謝の言葉を記しておきたい。
筆者が、曲がりなりにも本書のような教科書をまとめられるまで国際貿易論に対する理解を深められたのは、学会・研究会・セミナー等を通じた多くの優れた方々との交流のおかげである。特に、青木浩治(甲南大学)、阿部顕三(大阪大学)、井川一宏(京都産業大学)、石川城太(一橋大学)、石黒馨(神戸大学)、石黒靖子(兵庫県立大学)、市野泰和(甲南大学)、岩佐和道(京都大学)、岩本武和(京都大学)、大川隆夫(立命館大学)、大川昌幸(立命館大学)、大川良文(滋賀大学)、太田博史(神戸大学)、大山道廣(東洋大学)、岡村誠(広島大学)、小田正雄(立命館大学)、岡本久之(兵庫県立大学)、菊地徹(故人、神戸大学)、清野一治(故人、早稲田大学)、近藤健児(中京大学)、趙来勲(神戸大学)、佐竹正夫(東北大学)、佐野進策(福山大学)、柴田孝(大阪商業大学)、下村耕嗣(故人、神戸大学)、神事直人(京都大学)、鈴木克彦(関西学院大学名誉教授)、寶多康弘(南山大学)、多和田眞(名古屋大学)、出井文男(神戸大学)、寺町信雄(京都産業大学)、内藤巧(早稲田大学)、西島章次(故人、神戸大学)、橋本賢一(神戸大学)、林原正之(追手門学院大学)、原正行(桃山学院大学)、広瀬憲三(関西学院大学)、福井太郎(近畿大学)、古沢泰治(一橋大学)、松林洋一(神戸大学)、丸山佐和子(神戸大学)、椋寛(学習院大学)、安武公一(広島大学)、吉田千里(立命館大学)、米山昌幸(獨協大学)、若杉隆平(横浜国立大学)の諸先生に対する筆者の学問的負債の大きさは計り知れない。記して御礼申し上げる次第である。
本書の執筆に本格的に取りかかった頃、同じ池本清先生の薫陶を受け、同じ研究科に勤務し、そして、よき友人であった菊地徹氏(神戸大学)が若くして世を去った。菊地氏の精力的な研究活動は筆者の大きな刺激となっていたし、研究・教育をめぐる彼との議論はいつも楽しく生産的であった。菊地氏には、原稿の一部に目を通していただいたが、残念ながら、本書全体を通したコメントをいただきたいとの望みはかなわなかった。菊地氏の冥福をお祈りしたい。
神戸大学大学院博士課程後期課程の松岡佑治君、稲葉千尋さん、後藤啓君からは、本書の初期原稿に対して詳細なコメントをいただいた。本書がいくらかでも読みやすいものになっているとすれば、彼らのおかげである。また、特に松岡君には、本書作成にあたっての資料収集・整理・グラフ作成などの労もとってもらった。貴重な時間を割いて作業をしてくれた彼ら3名に感謝したい。もちろん、本書に残る不備や誤りは、すべて筆者のみの責任である。
本書は、岩本武和著『国際経済学 国際金融編』のいわば姉妹編である。岩本武和氏(京都大学)からのご紹介を受けて、ミネルヴァ書房の堀川健太郎氏と初めてお目にかかり、本書の執筆依頼をいただいたのは、かれこれ5年ほども前であったかと思う。堀川氏には、怠惰な筆者による数々の引き延ばし戦略にもあきらめることなく、執筆を継続するよう熱心に促していただいた。堀川氏に、心よりのお詫びと感謝を申し上げたい。
家族からの日常的な支援なくしては、本書の完成はありえなかった。原稿動筆に取りかかると不機嫌な顔をしていることの多い筆者を、いつも変わらぬ笑顔で励まし、暖かい家庭を支えてくれている妻かおりに感謝の言葉を伝えたい。また、ひかると俊輔、2人の子どもたちにも感謝したい。彼らの健やかな成長が何より未来への希望を与えてくれる。来るべき彼らの時代がよりよいものであることを願ってやまない。

2012年11月
神戸大学六甲台キャンパスにて 中西訓嗣

中西 訓嗣 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2013/3/1)、出典:出版社HP

目次

はしがき

第1章 比較優位の基礎
1.1 分業の利益
1.2 生産構造
1.3 企業行動と長期均衡
1.4 貿易自由化と生産の変化
1.5 貿易均衡価格の範囲

第2章 比較優位と貿易利益
2.1 生産可能性フロンティア
2.2 家計部門の導入
2.3 閉鎖経済均衡
2.4 貿易からの利益
2.5 比較優位と貿易利益の実証

第3章 比較優位と自由貿易均衡
3.1 オファーカーブ
3.2 輸入需要曲線・輸出供給曲線
3.3 貿易均衡の存在
3.4 貿易均衡の効率性

第4章 貿易自由化と所得分配
4.1 要素間所得分配
4.2 産業間所得分配
4.3 短期的利害と長期的利害の乖離
4.4 貿易自由化とセーフティネット

第5章 貿易政策分析の基礎
5.1 貿易政策とは何か
5.2 関税の効果——交易条件が一定の場合
5.3 関税の効果——交易条件が可変の場合

第6章 貿易政策分析の展開
6.1 関税とその他の課税・補助金
6.2 有効保護率
6.3 輸出補助金
6.4 数量制限

第7章 独占・寡占市場と貿易
7.1 不完全競争の類型
7.2 国内独占と貿易自由化
7.3 国際複占競争

第8章 規模の経済性と製品差別化の役割
8.1 規模の経済性
8.2 マーシャルの外部経済性
8.3 産業内貿易
8.4 製品差別化
8.5 独占的競争

第9章 生産活動の国際展開と規制
9.1 国際生産要素移動の基礎
9.2 海外直接投資の概念と様態
9.3 海外直接投資の理論分析
9.4 国際生産要素移動に対する規制

第10章 自由貿易と保護貿易
10.1 最適関税論
10.2 幼稚産業保護論
10.3 戦略的貿易政策論
10.4 国内政治過程

第11章 貿易交渉とルール
11.1 GATT・WTO小史
11.2 WTOの基本理念と構造
11.3 関税競争
11.4 関税交渉
11.5 貿易救済措置

第12章 経済成長と貿易
12.1 成長パターンと貿易
12.2 貿易から成長への影響
12.3 貯蓄・投資と異時点間貿易

第13章 地域貿易協定・経済統合
13.1 類型と現状
13.2 経済統合の効果
13.3 経済統合の形成

練習問題解答
文献案内
索引

中西 訓嗣 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2013/3/1)、出典:出版社HP

実証から学ぶ国際経済

国際経済学の理論は現実にどれほど合致するか

本書は、国際経済学のモデルを解説している教科書です。新しい理論モデルを実証分析で検証するプロセスを繰り返していくことで国際経済学は発展してきましたが、理論と現実が一致する感動を実感しながら学べます。貿易についての基本的な理論とデータ分析の基礎を学べるため、実証的な研究の入門にもなります。

清田 耕造 (著), 神事 直人 (著)
出版社 : 有斐閣 (2017/12/15)、出典:出版社HP

はしがき

今日の私たちの生活が外国との貿易や投資なしに成り立たないことはいうまでもありません。その一方で、外国との貿易や投資を完全に自由化することに関しては、賛否両論があります。たとえば、2013年に当時の安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を表明し、大きな議論を巻き起こしたことは、多くの方の記憶に新しいでしょう。それでは、このような協定の締結が日本経済にどのような影響を及ぼしうるのか、私たちはどの程度理解しているのでしょうか。そもそも、貿易や投資は私たちの生活とどのように結び付いているのでしょうか。また、日本と外国との貿易には、どのような要因が影響しているのでしょうか。

1817年、英国の経済学者デービッド・リカードは、国際経済学で重要とされる比較優位と呼ばれる概念をその著書で提示しました。比較優位の考え方の誕生が国際経済学の原点だとすれば、2017年は国際経済学という学問が誕生してからちょうど200年にあたります。もちろん、物理学をはじめとする多くの自然科学や、哲学や数学といった歴史ある学問と比べると、200年という時間は必ずしも長いとはいえません。それでも、200年にわたる研究の積み重ねを通じて、国際的な経済活動についてさまざまな事実が明らかにされてきました。逆に、読者の中には、200年の歴史を持った学問であれば研究課題が残されていないのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、国際経済学は現在も発展を続けており、第3章で紹介するように、2000年代に入ってから大きな変革が生まれています。

意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、国際経済学では、他の社会科学や自然科学と同様に、科学的手法に基づく緻密な研究が行われています。具体的には、経済のメカニズムを記述した理論モデルが構築され、その妥当性がデータと統計的な手法を駆使した実証分析によって検証されてきました。また、既存の理論モデルでは説明できない事実が実証分析によって示され、それが新たな理論モデルを構築するきっかけとなってきました。このように、これまで国際経済学は理論分析と実証分析が車の両輪となって研究が発展してきたのです。

とくに、パーソナル・コンピュータの計算能力とインターネットの環境が向上した1990年代半ば以降、貿易や投資と企業を結び付ける新しい事実が次々と提示され、実証分析の重要性に対する認識も飛躍的に高まりました。最近の国際経済学の研究における実証分析の重要性を示す一例として、2017年9月にイタリアのフィレンツェで開催された国際貿易に関する国際研究集会では300以上の研究報告のうち何らかの実証分析を含む研究報告が実に全体の8割以上を占めていました。

しかし、大学生や社会人の皆さんがこうした実証分析の知見に触れる機会は必ずしも多くはないようです。また、仮に大学で国際経済学を学んだ人であっても、多くの人は理論モデルの理解に大半の時間を費やしたのではないでしょうか。まして、国際経済の問題を自分自身でデータを用いて分析したという方は、ごく少数に限られるかもしれません。その大きな理由の1つとして、国際経済学の実証分析の知見や手法を詳しく説明した書籍がほとんどないことが考えられます。実は、日本では以前から国際経済学に関する研究が活発に行われており、世界的に著名な国際経済学者も少なくありません。しかし、日本ではどちらかというと理論的な研究が活発に行われてきたこともあり、これまでに出版されてきた国際経済学の教科書の多くは理論モデルの説明が中心でした。

先にも述べたように、国際経済学における実証分析の重要性はこれまでになく高まっています。一方、パーソナル・コンピュータの性能の向上やインターネットの普及から、分析に取り組むハードルそのものは低くなっています。そうはいっても、国際経済学の理論と現実のデータを結び付ける作業は労力を伴うものです。しかし、私たち筆者のこれまでの経験から申し上げると、実証分析には理論を学ぶ以上に面白い側面があることも事実です。とくに、実証分析を通じて、標準的な教科書で学んだ理論が現実と適合する瞬間を目にすると、感動を覚えることも少なくありません。このような面白さを伝えたいと考えたのが、本書の出発点です。

本書は、主に大学や大学院における国際経済学や国際貿易論、あるいは国際経済に関する演習等の授業で、教科書または参考書として利用されることを想定して執筆されています。また、国際経済に関心をお持ちの社会人の皆さんにも手に取っていただけるよう配慮したつもりです。本書の内容を理解する上では、経済学や統計学、計量経済学についてある程度の予備知識を必要としますが、必ずしも最初から順番に読んでいただく必要はありません。ある程度の予備知識を持たれている方であれば、興味・関心を持たれた章のみを読んでいただいても問題ないでしょう。

さらに、それぞれの章の内容について理解を深めていただくために、各章末にはいくつかの練習問題を用意しました。各章の内容の理解度を確認する問題や、発展的な問題、あるいは実際にデータを使って自分で計算をしてみる問題などが含まれています。実証分析への足掛かりをつかむために、ご活用いただければ幸いです。

なお、序章でも説明していますように、本書は実証分析を中心に解説することを目的としているため、理論モデルに関する説明は最低限に抑えています。理論モデルの詳細に関心を持たれた方は、標準的な国際経済学の教科書をご参照いただきたいです。また、紙幅の関係もあり、さまざまな国際的な経済活動のうち、本書では物品とサービスの貿易および企業の海外直接投資を主な対象としています。おカネの国際的な取引である国際金融については本書の対象外となっていることにご注意ください。

私たち筆者が本書の執筆を決意してからこれまで、実に3年以上の時間を費やしました。多岐にわたる国際経済学のトピックの中からどのトピックを取り上げるか、それぞれのトピックについて紹介すべき重要な研究は何か、またそれらの研究をどのように紹介するかといったことについて、時間をかけて検討してきました。東京や京都で打ち合わせを積み重ねただけでなく、ときには国内外の学会の合間に打ち合わせを行い、内容を吟味し、本書を作り上げてきました。また、全章とも筆者2人が原稿の内容を相互に細かくチェックし、何度も推敲を重ねました。時間や能力、紙幅などさまざまな制約の中で執筆しましたが、筆者らが意図した書籍となるよう最大限の努力をしたつもりです。本書をきっかけとして、1人でも多くの方に国際経済学の研究を志していただけるようでしたら、私たちにとって望外の喜びです。

ただし、本書は筆者2人の力のみで完成したものではありません。本書の執筆にあたっては、多くの皆様にご協力を頂きました。伊藤萬里氏(青山学院大学)、遠藤正寛氏(慶應義塾大学)、川越吉孝氏(京都産業大学)、木村福成氏(慶應義塾大学)、田中鮎夢氏(中央大学)、椋寛氏(学習院大学)、蓬田守弘氏(上智大学)からは、草稿の段階で本書を改善するための有益なコメントを数多く頂戴しました。船窪行人氏には京都大学経済学部在学中に、本書で使っている図表作成の一部を手伝っていただきました。京都大学経済学部4回生の森雅稀君と依田遼真君には本書の校正を手伝っていただきました。有斐閣書籍編集第2部の渡部一樹氏と有斐閣に勤務されていた尾崎大輔氏には本書の構想当初から多くの助言やご意見をいただきました。また、筆者の1人の大学院時代の恩師であるブライアン・コープランド氏(ブリティッシュ・コロンビア大学)をはじめ、学界の多くの諸先輩方や研究者仲間の方々から教えていただいたことが本書の随所に生かされています。これらの皆様にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。もちろん、本書に残るすべての誤りは、筆者2人に帰するものです。最後に、子供たちの健やかな成長を祈りつつ、日々の生活を支えてくれているそれぞれの妻に感謝し、はしがきを結ぶことにします。

2017年10月
清田 耕造
神事 直人

著者紹介

清田 耕造(きよた こうぞう)
略歴
慶應義塾大学経済学部卒業
慶應義塾大学大学院経済学研究科単位取得退学、慶應義塾大学博士(経済学)
横浜国立大学経営学部専任講師、助教授などを経て現職
現職
慶應義塾大学産業研究所・大学院経済学研究科教授、経済産業研究所リサーチアソシエイト
主な著作
『拡大する直接投資と日本企業』(NTT出版、2015年)、『日本の比較優位』(慶應義塾大学出版会、2016年)、 “The Effect of Moving to a Territorial Tax System on Profit Repatriation: Evidence from Japan” (with M. Hasegawa, Journal of Public Economics, 2017), “International Productivity Gaps and the Export Status of Firms: Evidence from France and Japan” (with F. Bellone, T. Matsuura, P. Musso, and L. Nesta, European Economic Review, 2014), “A Many-cone World?” (Journal of International Economics, 2012).

神事 直人(じんじ なおと)
略歴
東北大学文学部社会学科卒業
ブリティッシュ・コロンビア大学大学院修了(Ph.D. in Economics)
(財)国際開発センター研究員、一橋大学大学院経済学研究科専任講師、岡山大学経済学部助教授などを経て現職
現職
京都大学大学院経済学研究科教授
主な著作
「環境と貿易」(有村俊秀ほか編著『環境経済学のフロンティア」日本評論社、2017年、所収) 「ミクロ・アプローチによる貿易と環境の分析」(照山博司ほか編『現代経済学の潮流 2016』東洋経済新報社、2016年、所収)、 “Trade Patterns and International Technology Spillovers: Evidence from Patent Citations” (with X. Zhang and S. Harun, Review of World Economics, 2015), “International Trade and Terrestrial Open-access Renewable Resources in a Small Open Economy” (Canadian Journal of Economics, 2006), “Strategic Use of Recycled Content Standards under International Duopoly” (with K. Higashida, Journal of Environmental Economics and Management, 2006).

清田 耕造 (著), 神事 直人 (著)
出版社 : 有斐閣 (2017/12/15)、出典:出版社HP

目次

*印の付いた節や項は発展的な内容を扱っています

はしがき
著者紹介
本書の使い方

序章 実証分析への招待
1 国際経済学の役割とは?
2 国際貿易・直接投資はどのように変化してきたか?
3 国際経済学の理論と実証はどのような関係にあるか?
4 本書の位置づけ
5 本書の構成

第1章 貿易の決定要因
はじめに:日本の貿易を決める最も重要な要因は何か?
1 産業間の貿易はどのように理論的に説明できるか?——ヘクシャー=オリーン・モデル
1.1 モデルの設定
1.2 ヘクシャー=オリーンの定理
1.3 リプチンスキーの定理
1.4 要素価格均等化定理
1.5 ストルパー=サミュエルソンの定理
2 データはヘクシャー=オリーンの定理を支持しているか?
2.1 レオンティエフ・パラドックス
2.2 多数国・多数財・多数要素モデル
2.3 貿易収支不均衡とリーマーのテスト
2.4 日本に関する実証研究
3 多数国のデータを生かしたテストの方法とは?
3.1 世界各国のデータを利用した分析
3.2 失われた貿易
4 ヘクシャー=オリーンの実証研究の最先端とは?*
4.1 要素価格均等化とリプチンスキーの定理
4.2 リカード・モデルとヘクシャー=オリーン・モデルの融合
おわりに
補論:(1.3) 式の導出方法43

第2章 産業内貿易
はじめに:なぜ同一財が2国間で相互に取引されるのか?
1 産業内貿易はどのように理論的に説明できるか?——クルーグマン・モデル
1.1 クルーグマン・モデル
1.2 対称的な2国における貿易
1.3 貿易費用の導入と自国市場効果
2 データはクルーグマン・モデルを支持するか?
2.1 ヘルプマンによる研究
2.2 ヘルプマンの研究の再検証
2.3 非OECD諸国も含めた再検証*
3 品質差による産業内貿易をいかに捉えるか?
3.1 品質が異なる財の産業内貿易垂直的産業内貿易
3.2 実証研究における品質差別化の計測
3.3 単位価値に基づく貿易パターンの判別方法
3.4 東アジアと欧州における域内の貿易パターンの分析
4 市場規模の効果は現実に観察されるか? ——貿易費用と自国市場効果
4.1 データは自国市場効果を示しているか?
4.2 貿易費用の計測
Column2.1 世界はフラット化しているのか?
おわりに
補論1:寡占競争的な同質財産業における産業内貿易
補論2:伝統的貿易理論における産業内貿易

第3章 企業の生産性と海外展開
はじめに:輸出や海外展開を行うのはどのような企業か?
1 なぜ同じ産業内に輸出をする企業としない企業がいるのか?——メリッツ・モデル
1.1 メリッツ・モデルの基本構造
1.2 外国市場への輸出
2 どのような企業が輸出しているのか?
2.1 輸出プレミアム
2.2 輸出企業と非輸出企業の生産性分布
2.3 自己選別仮説と輸出による学習仮説
3 貿易額はいかに分解できるか?―外延と内延
3.1 メリッツ・モデルから見た貿易統計
3.2 輸出の外延と内延とは?
3.3 貿易の外延と内延はどの程度重要か?
4 直接投資や海外アウトソーシングを行う要因は何か?
4.1 輸出かFDIか?
Column3.1 フラグメンテーションと企業内貿易
4.2 FDIの立地選択を決める要因は何か?
Column3.2 国際生産ネットワーク
4.3 FDIか海外アウトソーシングか?*
4.4 日本企業のアウトソーシングに関する実証研究
Column3.3 付加価値易
おわりに
補論:メリッツ・モデルにおける定常均衡の分析の概略

第4章 貿易の効果
はじめに:貿易はどのような利益や損失をもたらすか?
1 なぜ貿易は利益をもたらすか?
1.1 交換の利益
1.2 特化の利益
1.3 財の多様性拡大から得られる消費の利益
1.4 生産要素の産業内再配分を通じた効率性改善による利益
2 貿易はどの程度の利益をもたらすか?——実証分析による知見
2.1 幕末の日本が開国によって得た貿易利益はどの程度か?
2.2 財の多様化から得られる利益
2.3 生産要素の再配分による平均的な生産性の改善
3 貿易は国内の賃金格差を拡大させるか?
Column4.1 特殊要素モデル
3.1 技能労働者と単純労働者の賃金格差の要因
3.2 オフショアリングによる技能労働者の相対賃金の上昇*
3.3 質金格差に対するオフショアリングと技能偏向的技術進歩の寄与度
3.4 日本に関する実証研究
Column4.2 米国の製造業が中国からの輸入拡大によって受けた影響
4 貿易の自由化は自然環境を破壊するのか?
おわりに
補論:自然環境に対する貿易自由化の効果の分解

第5章 貿易政策の基礎
はじめに:保護貿易はどのような影響を及ぼすのか?
Column5.1 GATT/WTO
1 貿易政策にはどのような効果があるのか?
1.1 関税の効果
1.2 輸入割当の効果
1.3 RTAの効果
Column5.2 RTA
2 保護貿易の実態をどのように捉えるか?
2.1 関税
2.2 非関税障壁
3 貿易自由化は貿易を拡大するか?
3.1 グラビティ・モデル
3.2 グラビティ・モデルに基づく実証研究
Column5.3 グラビティ・モデルのフロンティア
4 貿易政策は経済厚生にどのような影響を及ぼすか?*
4.1 分析の枠組み——シミュレーション分析
4.2 シミュレーション分析の例
Column5.4 需要関数の推定を通じた厚生分析
おわりに

第6章 貿易政策の応用
はじめに:なぜ多くの国は貿易を保護しようとするのか?
1 経済厚生の最大化を目指さないことは合理的か?
1.1 理論的背景
1.2 政治経済学の実証研究
Column6.1 日本の農業と貿易政策
2 貿易の保護により、自国は常に損失を被るのか?
2.1 理論的背景
2.2 交易条件効果の実証研究
3 貿易政策が自国に有利に働くのはどのようなときか?
3.1 理論的背景
3.2 戦略的貿易政策の実証研究
4 幼稚産業を保護することは正当化できるか?
4.1 理論的背景
4.2 幼稚産業保護の実証研究
5 ダンピングは問題か?
5.1 アンチ・ダンピングとは?
5.2 アンチ・ダンピングの実証研究
おわりに

第7章 貿易と経済成長、生産性向上
はじめに:自由貿易は経済成長や企業の生産性向上をもたらすか?
1 貿易自由化によって経済は成長するか?
1.1 経済成長のモデル
1.2 R&Dを組み込んだ内生的成長モデル*
1.3 貿易自由化によって経済成長率が上昇しない可能性*
2 貿易開放度と経済成長の実証的知見は何か?
2.1 貿易開放度の指標
2.2 分析上の技術的な問題*
2.3 貿易自由化が経済成長を押し上げる条件
3 貿易はR&D投資や技術投資を活発化させるか?*
3.1 貿易自由化と個別事業所の生産性向上
3.2 貿易自由化と新技術導入
3.3 輸出とR&D・技術投資の相互関係
4 知識や技術はどのように国際伝播するか?
4.1 技術の国際伝播をどのようにして測るか?
4.2 技術はどの程度国際的に伝播するのか?
4.3 貿易とFDIを通じた技術の国際伝播
Column7.1 移民
おわりに
補論:内生的成長モデルにおける(7.3)式の導出

終章 モデルの比較と実証分析の課題
1 どのモデルが優れているのか?
1.1 現代版リカード・モデル——DFSモデルとEKモデル
1.2 主要モデルの比較
2 国際経済学の実証分析における課題は何か?
2.1 因果関係の検証
2.2 データをめぐる問題
おわりに

付録 データ分析の基礎
1 データ
1.1 国レベルのデータ
1.2 貿易データ
1.3 投入・産出のデータ
1.4 直接投資のデータ
2 回帰分析
2.1 統計学の基礎知識
2.2 回帰分析とは?
2.3 最小二乗法
2.4 決定係数とt値
2.5 回帰分析の仮定と内生性
2.6 重回帰分析
2.7 差の差推定
3 産業連関表
3.1 産業連関表とは?
3.2 逆行列の意味
3.3 国際経済と産業連関表
4 生産性の計測
4.1 全要素生産性
4.2 指数による方法
4.3 回帰分析による方法
ギリシャ文字の読み方

参考文献
索引
事項索引
人名索引

本書の使い方

1. 各章の構成 各章は、はじめに、本文、Column、おわりに、練習問題で構成されています。「はじめに」で各章における基本的な「問い」を提示し「おわりに」で問いに対する「答え」を掲載しています。
また、発展的な内容を扱う箇所には、節や項の見出しにアスタリスク(*)を付けました。内容が難しいと感じる読者は、初読の際には読み飛ばしても構いません。章の最後まで読み終えた後に、再度チャレンジしてください。
2. キーワード 重要な概念を説明している箇所を太字(ゴシック体)で表記しています。
3. Column 本文の内容に関連した興味深いテーマや専門的なトピックについて、より踏み込んで解説したColumnを収録しています。
4. 練習問題 各章末に、本章の内容の確認問題や計算問題を収録しました。発展的な問題には*を付けています。解答は、本書のサポートサイトに用意しています。
5. 補論 必要に応じて章末に補論を用意しています。補論では、本文の説明の補足や式の導出過程の詳しい解説などを行っています。補論は、あくまでも理解を深めるためのものですので、読み飛ばしても構いません。
6. 付録データ:分析の基礎 巻末に、実証分析に関係するデータや統計分析の基礎的な手法について解説した付録を収録しています。
7. 参考文献 巻末に、本文中で参照した文献一覧を掲載しています。
8. 索引 巻末に、キーワードを中心とした基本的なタームを引けるように、索引を精選して用意しています。より効果的な学習にご利用ください。
9. 本書のサポートサイト 練習問題で使用するデータセットや練習問題の解答を、本書のサポートサイトに掲載しています。
http://yuhikaku-nibu.txt-nifty.com/blog/2017/11/16517.html

清田 耕造 (著), 神事 直人 (著)
出版社 : 有斐閣 (2017/12/15)、出典:出版社HP

国際経済学 国際金融編 (Minervaベイシック・エコノミクス)

国際金融の理論を学ぶ

この本は、国際経済学の中の国際金融論に関するテキストです。初学者向けの内容となっており、理論の基礎となっている国際収支と外国為替市場から、モデルの解説や経済政策などまでを簡単な数学を用いて解説しています。現実の現象との関係性も説明されていることもあり、幅広いテーマを直感的に理解することができます。

岩本 武和 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2012/10/1)、出典:出版社HP

はしがき

2つのエピソード
本書は国際金融論(国際マクロ経済学)のバイエルである。バイエルというのは、ピアノの初学者が最初に通過するテキストであり、私も数十年前、我が家の愚息は現在、悪戦苦闘している。美しい曲も多く含まれるが、あまり面白くない指の練習もある。
バイエルの練習者には早いけれども、有名な逸話を紹介しよう。昔、ニューヨークの5番街を歩いていたルービンシュタイン(ショパンと同郷であるポーランド出身の世界的ピアニスト)に、ある観光客が「カーネギー・ホールにはどう行ったらよいのですか(How do I get to Carnegie Hall?)」と尋ねたところ、ルービンシュタインは、「練習して、練習して、練習したら行けるのですよ(Practice, Practice, Practice!)」と答えたという。
ピアノの練習と同様、経済学を含め大学で学ぶ学問には、やはり徹底的な「練習」が必要なのであり、その厳しさは、高校までの受験勉強とは一線を画する。格差社会が進展するなかで、高等教育を受けているはずの本書の読者には、まず自分が然るべき水準のプロフェッショナルになるという自覚を持つべきであると強く思う。
もう1つ個人的なエピソードを紹介しよう。数年前、入学式後のオリエンテーションで、ある新入生からこんな質問を受けた。「経済学を勉強して何の役に立つのですか?」答えに窮して、こう問い返した。「君は日本史や世界史や、センター試験で理科の勉強をして、何の役に立ったの?」するともちろん「受験勉強の役に立ちました」と言った。咄嗟に答えることができなかったが、家に帰ってから、あの新入生にこう答えれば良かったと思った。
『たそがれ清兵衛』という映画がある。藤沢周平の原作を山田洋次監督が映画化した2002年の作品である。下級武士で、妻を亡くした井口清兵衛は、夜なべの内職をしながら論語の素読をしている幼い娘と、次のような会話をした。「今読んでいるのは論語ではねえか」。「お師匠はんがこれからはおなごも学問しねばだめだっておっしゃったの。お父はん、針仕事習って上手になれば、いつかは着物や浴衣が縫えるようになるだろ。だば、学問したら何の役に立つだろう」。「そうだなあ。学問は針仕事のようには役にたたねえかもよ。でも、学問しれば自分の頭でものを考えれるようになる。この先世の中どう変わっても、考える力持ってればなんとかして生きて行くこともできる。これは男もおなっこも同じことだ」。
江戸時代に幼い娘が論語を学ぶことと、現代に経済学の専門化した分野である国際金融論を学ぶこと、それぞれの時代にどう役に立つのだろうか? 今の時代に、論語は役に立たず、国際金融論は役に立ちそうだ。しかし「役に立つ」ということを、目先の近視眼的な、経済学の言葉で言えば、短期的な視点から考えないで欲しいと思う。1990年代以降、日本も世界も、歴史的に見て大きな変革期を経過中である。少子高齢化の日本に必要なことは、長期的には生産性の向上であり、そのために高等教育が果たす役割は大きいはずだ。筆者も読者もその責任は重い。

本書の構成と内容
ところで、本書が国際金融論のバイエルたるに相応しいテキストかどうかについては、読者の批判を待たなければならない。本書は、4部10章の構成になっている。
第Ⅰ部は、国際金融論の基礎編で、国際収支と外国為替市場の説明を行っている。おそらく類書と異なる点は、第1章では、フローの統計である国際収支のみならず、ストックの統計である国際投資ポジションにも重点を置いたことである。経常収支と対外純資産の関係やグロスの対外資産や対外負債の意味については、後の章でも頻出する。第2章では、為基レートの最も古典的なフロー(国際収支)アプローチを使って、変動相場制と固定相場制の違いを詳説したことである。現代の為替レート・モデルは、こうした古典的なアプローチとは全く異なるが、固定相場制の下での外貨準備の増減等を理解するために、このモデルの直感的な説明は本質から外れていない。
第Ⅱ部(為替レート・モデル)と第Ⅲ部(国際収支モデル)は、国際マクロ経済学の理論編で、本書の中核をなす。第Ⅱ部では3つの為替レート・モデルを考察するが、それぞれのモデルにおける異なった仮定、それらから導出される異なった結論を理解することが重要である。第3章(金利平価とアセット・アプローチ)は、価格が硬直的という仮定を置いた短期の為替レート・モデルで、最も基本となる考え方である。第4章(購買力平価とマネタリー・アプローチ)は、価格が伸縮的という仮定を置いた長期の為替レート・モデルで、第3章とは異なる結論が導出される。この2つの章は、資本移動が完全に自由であり、かつ内外資産が完全に代替的であるという仮定を置いていたが、第5章(ポートフォリオ・バランス・モデル)では、内外資産が不完全代替という異なった仮定を置くことによって、前の章とは異なった結論が導き出される。おそらく類書と異なる点は、これらの章に配置された補論にあるはずである。第1に、対数関数に関する必要な説明を行い、それを使って本文で展開した代数計算に対応させている。第2に、期待(予想)といった将来に対する不確実性を扱う場合、経済主体のリスクに態度がモデルに仮定されているが、これについては、「補論5.1期待効用関数とリスクプレミアム」で必要最小限の説明を行った。
第Ⅲ部は、通常のマクロ経済学のテキストでも触れられている内容を多く含んでいる。第6章(経常収支不均衡の調整)では、経常収支の黒字や赤字が、為替レートやマクロ経済政策でどのように調整されるかを論じている。ここでも、価格が伸縮的か硬直的か、完全雇用か不完全雇用かによって結論が異なることが重要である。第7章(マンデル=フレミング・モデル)は、開放経済下でのマクロ経済政策の有効性を分析する古典的なモデルであり、IS-LM分析と同様に、物価水準が一定のケインズ経済学の枠組みで分析される短期モデルである。ここでは、為替相場制度の違い(変動相場制と固定相場制)や、資本移動の程度の違い(資本移動が完全に自由であるか、資本規制が存在するか)によって、マクロ経済政策の有効性に違いがあることを理解することが大切である。第8章(資本移動の動学モデル)では、一期間の経常収支だけではなく、異時点間の経常収支に関する動学モデル(異時点間貿易モデル)を、最も簡単な2期間(現在と将来)モデルで考察する。特に、ある期間の経常収支の不均衡が、資本移動(国際貸借)によってファイナンスされる限り、一国の経済厚生が高まることを、ミクロ経済的な基礎付けによって理解することが重要である。現在のマクロ経済学では当たり前のように頻出するものの、初学者にはみつかりにくいはずの「ミクロ経済的基礎付け」にページを割いて解説を加えたつもりである。また、本章のモデルで得られた理論的結論と、現実の資本移動とがどのように異なっているか(何が理論的に解明できていないか)についても、多くの紙面を使った。
第Ⅳ部(国際資本市場と国際通貨システム)は、国際金融の歴史、制度、および現在を扱っている。第9章(国際通貨システム)では、第2次世界大戦後のブレトンウッズ体制の原則と、金ドル交換停止後の変動相場制とドル本位制にについて、おおよそ1980年代までの国際通貨システムについて解説し、さらにEUで採用されている独自の通貨制度と、単一通貨ユーロ導入までを取り上げる。第10章(国際資本市場と金融のグローバル化)では、国際資本市場について、特にユーロ市場とオフショア市場について説明し、1990年代以降の金グローバル化と、その下で拡大したグローバルインバランス、さらに頻発する通貨危機、金融危機、債務危機について検討する。2008年のリーマンショックによって頂点に達した世界金融危機、および2009年のギリシャの財政破綻を契機に現在まで続いている欧州債務危機については、2012年半ばまでに筆者が、知り得た情報に基づいていることをお断りしたい。

謝辞
私が教育に力を入れようと思ったのは、恩師の伊東光晴先生(京都大学名誉教授)が、大学院卒業直前に模擬授業をさせて下さり、それを聞いていただいた伊東先生の「君は研究者としてより教育者として一流になる可能性がある」との一言だ。研究とは、当たり前に思われることを抽象化することで、教育とは、一般化されて難しく見えることを易しく具体化することである。同じことを理解するのに人の数倍も時間がかかる私には、そういう生き方が向いているかもしれないと思った。本山美彦先生(大阪産業大学学長)には、このようなテキストブックを執筆することさえ、受け入れていただけないかもしれない。しかし、国際経済学ではない世界経済論を京都大学で講義するという先生との約束だけは、今後もずっと果たし続けることで、ご寛恕願うしかない。
日本国際経済学会の諸学兄たちとの交流から学んだことは、私の何よりの知的財産である。また「国際的な資金フローに関する研究会」(財務省財務総合研究所)、および「世界経済の構造転換が東アジア地域に与える影響に関する研究会」(内閣府社会総合研究所)の研究メンバーとして参加させていただいたことは、必ずしも専門ではない分野も含むテキストの執筆期間中であったことや、学会関係者だけではなく政策担当者や民間実務家の立場からの視点を学ばせていただけたことでも幸運だった。特に、青木浩治(甲南大学)、阿部顕三(大阪大学)、井川一宏(京都産業大学)、石川城太(一橋大学)、石田修(九州大学)、市川真一(クレディ・スイス証券)、上田淳二(財務総合政策研究所)、遠藤正寛(慶應義塾大学)、大田英明(愛媛大学)、小川英治(一橋大学)、奥村隆平(金城学院大学)、嘉治佐保子(慶應義塾大学)、加藤隆俊(国際金融情報センター理事長)、河合正弘(アジア開発銀行研究所所長)、木村福成(慶應義塾大学)、神事直人(京都大学)、高木信二(大阪大学)、竹中正治(龍谷大学)、竹森俊平(慶應義塾大学)、中西訓嗣(神戸大学)、春名章二(岡山大学)、藤田誠一(神戸大学)、松林洋一(神戸大学)、若杉隆平(京都大学・横浜国立大学)の諸先生方には、学会や研究会等で有益なご助言をいただいていることに感謝したい。
京都大学の経済学研究科に着任して、すでに20年近くなるが、その間の私にとって最大の資産は、卒業生だけで200人を越えるゼミ生や院生たちだ。さらに私の拙い講義を受講してくれた学生たちは、ゼミ生たちの数十倍にも達するはずである。講義の後に、質問を投げかけ、疑問点を指摘してくれたことで、私の教育能力は大いに改善された。歴代のティーチングアシスタント(TA)たちは、真摯に学生たちの質問に答え、ミクロやマクロ、数学や計量などのサブゼミを担当してくれた。特に、長年TAを務めてくれた荒戸寛樹(信州大学)と磯貝茂樹(京都大学大学院経済学研究科博士後期課程、ペンシルバニア州立大学留学中)の両氏には、本書の第Ⅱ部と第Ⅲ部の原稿を読んでいただき、有益なコメントをいただいたことを記して感謝したい。もちろんありうべきミステイクは全て筆者の責任である。
ミネルヴァ書房の堀川健太郎氏と初めてお目にかかったのは、もう何年前のことかも忘れてしまった。国際経済学というテキストブックを1人で執筆するという当初の無謀な計画を断念し、2分冊という形での出版を快諾して下さったことに、まずお礼申し上げたい。中西調嗣氏(神戸大学)には、『国際経済学 国際貿易編』のご執筆をお引き受けいただいたことに感謝すると同時に、読者には本書と合わせて学習されることを強く勧めたい。計画変更後も、筆者の無能故の多忙故、執筆は遅れに遅れ、堀川氏の適切な督促なしに、原稿の完成はありえなかったであろう。
最後に私事にわたるが、家計という面では全くの不経済学者である夫と違い我が家の生活を支えてくれている妻と、いつもわれわれに笑顔と元気と希望を与え続けてくれている息子に「ありがとう」の言葉をおくりたい。

2012年8月17日
岩本武和

岩本 武和 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2012/10/1)、出典:出版社HP

目次

はしがき

序章 国際金融論の考え方
1 ミクロ経済学的な視点
2 マクロ経済学的な視点

第Ⅰ部 国際収支と外国為替市場

第1章 国際収支と国際投資ポジション
1.1 国民経済計算と国際収支統計
1.2 国際収支の構成
1.3 国際投資ポジション

第2章 外国為替市場と為替レート
2.1 外国為替市場の構造
2.2 為替レートのフロー・アプローチ
2.3 変動相場制と固定相場制
2.4 直物為替レートと先物為替レート
2.5 名目為替レートと実質為替レート
2.6 実効為替レート
補論2.1 カバー付き金利平価
補論2.2 実効為替レートと通貨バスケット

第Ⅱ部 為替レート・モデル

第3章 金利平価とアセット・アプローチ
3.1 フロー・アプローチからアセット・アプローチへ
3.2 金利平価と無裁定条件
3.3 アセット・アプローチ
3.4 為替レートのオーバーシューティング
3.5 国際金融のトリレンマ
補論3.1 対数関数の利用(1)
補論3.2 カバー付き金利平価(CIP)とカバーなし金利平価(UIP)の違い

第4章 購買力平価とマネタリー・アプローチ
4.1 購買力平価
4.2 貿易財と非貿易財
4.3 マネタリー・アプローチの基本方程式
4.4 フィッシャー効果と実質金利平価
4.5 マネーサプライの成長率と為替レートの変化率
補論4.1 対数関数の利用(2)
補論4.2 ビッグマック指数と購買力平価の推移
補論4.3 バラッサ=サミュエルソン効果の数学的証明

第5章 ポートフォリオ・バランス・アプローチ
5.1 資産の不完全代替性とリスクプレミアム
5.2 リスクプレミアムを含む為替レート・モデル
5.3 ポートフォリオ・バランス・アプローチ
補論5.1 期待効用関数とリスクプレミアム
補論5.2 一国の資金循環

第II部 国際収支モデル

第6章 経常収支不均衡の調整
6.1 対外インバランスとは何か
6.2 弾力性アプローチ
6.3 アブソープション・アプローチ
補論6.1 マーシャル=ラーナー条件の数学的導出
補論6.2 国際収支のマネタリー・アプローチ

第7章 マンデル=フレミング・モデル
7.1 IS-LM-FXモデル
7.2 IS-LM-BPモデル
7.3 資本規制の効果

第8章 資本移動の動学モデル
8.1 異時点間の予算制約
8.2 消費の決定——資本移動の利益(消費の平準化)
8.3 生産の決定——資本移動の利益(投資の効率化)
8.4 2国・2期間モデルにおける消費・生産・経常収支の決定
8.5 資本移動の理論と現実
補論8.1 現在価値

第Ⅳ部 国際資本市場と国際通貨システム

第9章 国際通貨システム
9.1 ブレトンウッズ体制
9.2 ブレトンウッズ体制の崩壊と変動相場制への移行
9.3 変動相場制とドル本位制の構造
9.4 ユーロと最適通貨圏
補論9.1 レーガノミックスと双子の赤字
補論9.2 ラテンアメリカの債務危機

第10章 金融のグローバル化と国際資本市場
10.1 国際資本市場
10.2 金融のグローバル化
10.3 グローバルインバランス
10.4 世界金融危機
10.5 欧州債務危機
補論10.1 アジア通貨危機

練習問題解答
文献・統計資料案内
索引

岩本 武和 (著)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2012/10/1)、出典:出版社HP

国際経済学 (有斐閣アルマ)

国際貿易の理論を学び、検証も行う

この本は、国際貿易の原理を理論とデータを用いて実証的に学ぶテキストです。伝統的な貿易理論から新しい話題まで丁寧に解説しながら、その理論が現実の貿易取引を説明できるかを、分析して検証していきます。現在の自由貿易と保護貿易の政治的な駆け引きを考える一助となるかもしれません。

阿部 顕三 (著), 遠藤 正寛 (著)
出版社 : 有斐閣 (2012/12/7)、出典:出版社HP

はしがき

筆者らは,長い間,いくつかの大学で国際経済学あるいは国際貿易の講義を担当してきました。時が経つのは早いものですが,この間,これらの科目をわかりやすく教えることはかなり難しいと感じ続けてきました。このことは多くの先生方が共通の認識として持っておられると思います。
通常,これらの科目では,リカード・モデルやヘクシャー=オリーン・モデルを用いて比較優位や貿易利益の解説を行い,その後で貿易政策などの説明が行われます。前者の話は,政府が介入しない閉鎖経済と自由貿易を比較するという点で簡単です。しかし,貿易取引は国際的な財・サービスの交換であり,輸出もあれば輸入もあります。その分析の枠組みは,輸出財と輸入財を含むいわゆる一般均衡分析とならざるをえません。したがって,講義の早い段階で一般均衡分析が出てくるため,学部学生にとって非常に難しいという印象を与えているように思えます。需要曲線や供給曲線を用いた分析までは理解できるが,それ以上になるとよく理解できないという学生は多くいるのではないでしょうか。
他方,貿易政策などの説明では,国際価格と国内価格の乖離や政府収入の取り扱いなどを考慮に入れる必要があります。この意味では,政府の介入がない状態のみを比較する場合と比べて難しいと感じるかもしれません。しかし,通常,その説明は1つの財の市場のみを考える部分均衡分析から始まります。分析手法が簡単になっているために,学部学生でも比較的容易に分析内容を理解することができるようです。もちろん,貿易政策を一般均衡分析の枠組みで考察することは,二重の意味で複雑さを増すことになります。したがって,貿易パターンや貿易利益のみならず,貿易政策などの解説でも共通して言えることですが,一般均衡分析は学部学生にとっかなりハードルの高い内容であるということです。
本書を執筆するにあたって,筆者らは難しい内容もできるだけ多くの学生に興味を持ってもらい,またその本質を理解してもらいたいという思いを強く持っていました。そのためにはどのようにすればよいのか,自由に意見を交換しました。
そのアイディアの1つが,一般均衡分析をあたかも部分均衡分析のように需要曲線や供給曲線を用いて統一的に説明をすることでした。それによって,高度な内容も本質を失うことなく,比較的容易に理解することができると考えました。内容の理解を深めるためには,従来通りの手法を用いて,丁寧な解説を行うこともできます。しかし,筆者らは前者の方法を選ぶことにしました。2つ目は,日本経済あるいは世界経済の現状と照らし合わせながら理論的な内容を説明したり,理論的な結論を実証的に分析したりすることでした。これまでの講義アンケートの結果などを見ると,学生たちは国際貿易の理論を勉強するだけでなく,現実との関連や理論の妥当性を知りたいという思いが強いようでした。そこで,本書では理論と現実をできるだけ結びつけて説明し,また,コラムを用いて実際の政策などへの応用も多く取り入れました。

以上の2点が本書のとくに新しいところですが,より具体的には次のような工夫をしました。たとえば,本書では,従来のテキストにあるような生産可能性フロンティアと無差別曲線が同時に出てくるような図,あるいはオファー曲線を用いた図はいっさい出てきません。より一般的に解説をしたい場合にはこれらの図が有用であるかもしれませんが,国際貿易や貿易政策などの本質を説明するのにこのような手法は必要ないと筆者らは考えました(研究者を目指す大学院生ならばそのようなことも知っておく必要があるでしょう。)その代わりに,効用関数を特定化することで,一般均衡分析のもとでも需要曲線を用いて経済厚生を表現できるという性質を利用し,需要曲線と供給曲線を用いて説明を行っています。このやり方は従来の教科書では用いられてこなかったものだと思います。
本書を手にする多くの学生や社会人の方々は,さまざまな場面で,たとえば貿易の自由化について意見を求められることもあるでしょう。そのとき,「貿易を自由化すると,より高い効用水準に対応する無差別曲線が達成可能になるので,自由化は望ましい」「自由化によって経済厚生が上がることを数式によって示すことができます」と言ってみても,間違いなくほとんどの人は何も理解してくれません。それよりも,どのような理由で自由化によって利益が発生するのかをきちんと説明できる方がより重要であると考えます。本書では,国際貿易の理論について,わかりやすいツールを用い,とても丁寧に解説を行っています。また,実際のデータや政策などもこれまでの教科書よりも多く取り入れていますので,政策の議論をする際にも本書を役立てていただきたいと願っています。

本書は,学部学生が国際貿易の理論をしっかりと学ぶことのできるテキストとして書かれました。しかし,できあがってみると,学生だけではなく,社会人で国際経済問題に興味を持っている人も十分読めるものになったのではないかと思います。なお,有斐閣書籍編集第2部のブログ(http://yuhikaku-nibu.txt-nifty.com/blog/2012/07/post-4087.html)には,本書の練習問題の解答やより進んだ議論が掲載されています。本書の理解を深めるために,ぜひ活用してください。また,講義を担当する先生方のために,4単位や2単位の講義に対応した本書の利用例や,本書で掲載した図表のスライドファイル(PowerPoint)も掲載しておりますので,参考にしていただければ幸いです。
共著のテキストは他にも多々ありますが,本書は真の意味での共著であると言えます。本書の執筆の過程でも当初は,担当の章や筋を分担して執筆しましたが,担当以外の箇所もきちんと読み,お互いに数多くの意見交換をしました。所属する大学は東京と大阪で離れていましたが,頻繁に意見交換をする機会を持つようにしました。その結果,草稿も大幅に書き換えられ,より読みやすくなったと思います。これも自由に意見交換を行うことができたことによるものだと思います。

本書の執筆に当たり,多くの人にご意見をいただきました。とくに,杉山泰之氏(福井県立大学)と川越吉孝氏(京都産業大学),そして大阪大学大学院生の小川弘昭君には,草稿を丁寧に読んでいただき,有益なコメントをいただきました。また,小林友彦氏(小樽商科大学)と江頭進氏(小樽商科大学)からは,国際経済法や経済学史について助言をいただきました。さらに,大阪大学阿部ゼミの学生には草稿を読んでいただき,学部生の視点から意見をいただきました。有斐閣書籍編集第2部の渡部一樹氏からも,多くのご意見をいただき,本書が非常に読みやすいものとなりました。また,渡部氏には遅れがちな私たちの作業を辛抱強く支援していただきました。これらの方々に心より感謝する次第です。

2012年10月
阿部顕三
遠藤 正寬

著者紹介

阿部顕三(あべ けんぞう)
略歴 : 1958年愛媛県生まれ。80年,慶應義塾大学法学部政治学科卒業,85年,神戸商科大学経済学研究科博士後期課程単位取得退学,90年,経済学博士(神戸商科大学)。名古屋市立大学経済学部助手,立命館大学経済学部助教授,大阪市立大学経済学部助教授,大阪大学経済学部助教授,同大学院経済学研究科教授などを経て2011年より現職。日本国際経済学会顧問。
現在 : 大阪大学理事・副学長
主な著作 : 「International Transfer, Environmental Policy, and Welfare” (共著, The Japanese Economic Review, 63(2), 2012), “Endogenous International Joint Ventures and the Environment” (共著 , Journal of International Economics, 67(1), 2005), “Tariff Reform in a Small Open Economy with Public Production” (International Economic Review, 33(1), February 1992), 『岩波小辞典 国際経済・金融』(共編著,岩波書店,2003年)など。
読者へのメッセージ : 本書では,できるだけわかりやすいツールを使って国際貿易の理論を説明し,実際のデータを用いた理論の検証や現実の政策との関連についても解説をしています。本書によって,多くの学生や社会人の皆さんが,国際経済の問題により興味を持っていただけることを期待しています。

遠藤正寛(えんどうまさひろ)
略歴 : 1966年埼玉県生まれ。91年,慶應義塾大学商学部卒業,96年,慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学,2000年,慶應義塾大学博士(商学)。1996年,小樽商科大学商学部助教授,99年,慶應義塾大学商学部助教授を経て現職。日本国際経済学会常任理事。
現在 : 慶應義塾大学商学部教授
主な著作 : “Can a Regional Trade Agreement Benefit a Nonmember Country without Compensating It?” (共著 , Review of International Economics, forthcoming), “Cross-Border Political Donations and Pareto-Efficient Tariffs” (Journal of International Trade and Economic Development, 21(4), 2012), “Quality of Governance and the Formation of Preferential Trade Agreements” (Review of International Economics, 14(5), 2006), 『地域貿易協定の経済分析』(東京大学出版会,2005年)など。
読者へのメッセージ : 本書は,章立ては国際貿易論の標準的な構成ですが,説明方法では類書にない工夫が行われ,理論と現実の関連も強く意識しています。読者のみなさんに,このユニークさを楽しんでいただければ幸いです。

本書の使い方

本書の構成 本書は10章で構成されています。第1章では,日本と世界の国際貿易の現状と歴史を概観し,国際収支統計の見方を学びます。第2章では,国際貿易を分析するための基本的枠組みを,第3,4章では伝統的貿易理論を学びます。また,貿易データを用いた実証的な分析も行います。第5章では,産業内貿易と新貿易理論を学びます。第6~8章では,関税政策や数量制限,補助金政策などの貿易政策を学びます。第9章では,直接投資や労働移動などの国際要素移動を学び,第10章では,地域貿易協定,貿易と環境などの新しいトピックスを紹介します。
各章の構成 各章は,Introduction, Keywords,本文,Column,練習問題,参考文献で構成され,複合的に理解できるようになっています。
キーワード 重要な概念を説明している箇所を太字(ゴシック体)で表記しました。
Column 本文の内容に関連した興味深いテーマや専門的なトピックスについて,より踏み込んで解説したColumnを収録しました。
練習問題 各章末に,本章の内容の確認問題や計算問題を収録しました。解答は,本書のウェブサポートページに用意しています。
参考文献 各章末に,本文中で参照した文献や,章の内容をさらに専門的に学習するための文献を掲載しました。
略語表 巻末に,本文中で用いられた英文略語の正式名と日本語(例:GDP: gross domestic product,国内総生産)を一覧で掲載しました。
索引 巻末に,キーワードを中心とした基本的なタームを引けるように索引を精選して用意しました。より効果的な学習にご利用ください。
本書のウェブサポートページ 「練習問題の解答」とより詳しい解説がまとめられた「補論」,図表に用いた「Excelデータ」を用意しました。
http://yuhikaku-nibu.txt-nifty.com/blog/2012/07/post-4087.html

阿部 顕三 (著), 遠藤 正寛 (著)
出版社 : 有斐閣 (2012/12/7)、出典:出版社HP

目次

第1章 国際貿易の概観
自由化への歩みと現状
1 世界と日本の貿易額の推移
世界の貿易額の推移
日本の貿易額の推移
2 世界と日本の品目別貿易額
世界貿易の主要品目
サービス貿易
高・中・低所得国の貿易構造
日本の品目別貿易額
3 日本の戦後貿易の概観
GATTへの加盟
国際収支の天井
輸出の急増と貿易摩擦
市場開放圧力
WTOと整合的な貿易政策
地域貿易協定の締結
4 国際収支統計
国際収支統計の主な構成項目
複式計上の原理
貿易収支・サービス収支・所得収支
投資収支
投資収支と対外資産の関係
経常移転収支・その他資本収支
外貨準備増減・誤差脱漏

第2章 国際貿易の経済分析
基本的枠組み
1 部分均衡分析
閉鎖経済と自由貿易
需要曲線・供給曲線・均衡:小国のケース
需要曲線・供給曲線・均衡:大国のケース
2 経済厚生
消費者余剰
生産者余剰
貿易利益
自由貿易の最適性
3 一般均衡分析
一般均衡の概念
閉鎖経済
開放経済
ワルラス法則と相対価格
閉鎖経済におけるワルラス法則
自由貿易におけるワルラス法則
4 比較優位と経済厚生
相対価格と需要曲線
相対価格と供給曲線
閉鎖経済・自由貿易の均衡と比較優位
交易条件と経済厚生
補論 需要・供給が相対価格で決まる例
需要曲線と供給曲線の導出
経済厚生の構成要素

第3章 生産技術と貿易パターン
1 生産技術の国際的相違
生産技術
生産可能性フロンティア
2 比較生産費説
企業による生産の決定
価格と生産の関係線
供給曲線
閉鎖経済の均衡
3 自由貿易と貿易利益
超過需要曲線と超過供給曲線
自由貿易の均衡
完全特化と不完全特化
総余剰の増加
自国における貿易利益
外国における貿易利益
実質賃金率の上昇
不完全特化のケース
4 データによる比較生産費説の検証
分析方法
比較優位財
機会費用

第4章 生産要素の供給と貿易パターン
1 要素賦存量の国際的相違
要素賦存と要素集約性
生産可能性フロンティア
リプチンスキー定理
1人当たりでの生産要素市場の均衡
1人当たりの生産可能性フロンティア
2 比較優位の決定
企業による生産の決定
価格と生産の関係
供給曲線
閉鎖経済の均衡と比較優位
3 貿易利益と所得分配
自由貿易の均衡
貿易利益
要素価格フロンティア
4 データによるヘクシャー=オリーン定理の検証
分析方法
労働・資本投入係数
要素賦存比率
比較優位の検証
レオンチェフ・パラドックス
補論 可変的投入係数のケース
可変的投入係数
生産可能性フロンティア
供給曲線

第5章 産業内貿易と新貿易理論
1 産業内貿易の動向
産業内貿易指数
産業内貿易の要因
2 独占的競争と産業内貿易
国際的な独占的競争
独占企業の行動
独占的競争の均衡
独占的競争下の貿易
企業の異質性と独占的競争
3 国際的寡占と産業内貿易
国際的寡占市場
寡占企業の行動
国際寡占下の貿易
貿易利益
4 規模の経済
マーシャルの外部性
産業全体の供給曲線
カード・モデルの拡張
自由貿易
幼稚産業保護論

第6章 関税政策の基礎分析
1 関税制度の基礎
関税の役割
関税の形態
関税の種類
関税の指標
2 関税の効果
●小国のケース
資源配分効果
厚生効果
3 関税の効果
●大国のケース
資源配分効果
厚生効果
関税率と経済厚生の関係
最適関税
外国と世界の経済厚生
4 保護政策の厚生効果
●日本のコメの事例
日本のコメ市場のモデル化
コメ市場の部分均衡分析
生産量の変化
消費量の変化
総余剰の変化

第7章 関税政策の応用分析
1 不完全競争下の関税分析
外国企業による独占の場合
寡占市場の場合
2 関税の一般均衡分析
予算制約と貿易収支
相対価格と財政余剰
輸入税の効果
ラーナーの対称性定理
貿易政策と歪み(ディストーション)
両国による関税賦課
3 関税の政治経済学
中位投票者定理
政治活動コストと利益団体
市場の失敗と関税
政府の目的関数
4 関税引き下げの国際交渉
政府目的関数と関税
関税率の設定
相互的・互恵的な関税引き下げ

第8章 数量制限と補助金政策
1 輸入数量制限
資源配分効果:小国のケース
厚生効果:小国のケース
大国のケース
2 国内産業保護政策の選択
輸出自主規制
国内生産補助金
関税と輸入数量
制限:不完全競争のケース
3 輸出補助金
資源配分効果:小国のケース
厚生効果:小国のケース
大国のケース
4 戦略的貿易政策
国際寡占下の数量競争
数量競争における輸出補助金の効果
国際寡占下の価格競争
価格競争における輸出税の効果
戦略的貿易政策の留意点

第9章 国際要素移動
1 国際資本移動
国際資本移動の類型
国際資本移動の動向
投資残高の推移
国際投資の収益率
2 国際資本移動の所得への影響
要素移動のない1財モデル
資本移動による生産と所得の変化
3 多国籍企業
多国籍企業の活動
多国籍化の要因(1) : 立地
多国籍化の要因(2) : 内部化
輸出とFDIの選択
進出国決定の要因
進出阻害要因への企業の対応
オフショアリングの進展
4 国際労働移動
国際労働移動の大きさ
国際労働移動の経済効果
労働受入国に関する議論
労働送出国に関する議論

第10章 国際貿易システム
1 GATT/WTOによる貿易の自由化
GATTからWTOへ
GATT/WTOの無差別原則
GATT/WTOによる自由化交渉
ドーハ・ラウンドの停滞
公正な貿易を促進する関税措置
2 地域貿易協定
地域貿易協定の叢生
地域貿易協定の特徴と種類
国際貿易システムへの影響
地域貿易協定によるルール形成
3 地域貿易協定の経済効果
貿易創出と貿易転換
大国のケース
NAFTAの例
日墨EPAの例
4 貿易と環境
貿易と環境の関連
貿易の自由化と環境
多国間環境協定と貿易制限
環境保護のための貿易制限
貿易制限と生産工程・生産方法
政府間の政策競争
補論 環境保全のための収束手段の北戦
最適資源配分と経済厚生
関税と物品税の効果

略語表
索引

Column一覧
① 日本の貿易依存度はなぜ低いのか:グラビティモデルによる説明
② 企業数と財の性質から分類した市場構造
③ オフショアリングをめぐる論争
④ 要素価格均等化定理
⑤ 企業の異質性と国際貿易:日本の事例
⑥ キューポラのある街
⑦ モデルや前提によって異なる貿易自由化の経済効果
⑧ 外国からの政治献金
⑨ 対米乗用車輸出自主規制の経済効果
⑩ “Invest Japan”
⑪ サプライチェーンの国際的な広がり
⑫ 地域貿易協定の盛衰:ヨーロッパと南米
⑬ APEC

阿部 顕三 (著), 遠藤 正寛 (著)
出版社 : 有斐閣 (2012/12/7)、出典:出版社HP

コア・テキスト国際経済学 (ライブラリ経済学コア・テキスト&最先端)

基本的なモデル、概念を解説

この本は、国際貿易のモデル理論と外国為替の理論などについて解説しているテキストです。基本的な理論から比較的新しい題材まで取り上げており、テキストとしては標準的な内容です。近年注目されている経済政策や貿易政策を現実問題として考えられるきっかけになるかもしれません。

大川 昌幸 (著)
出版社 : 新世社 (2015/11/1)、出典:出版社HP

編者のことば

少子高齢化社会を目前としながら、日本経済は、未曾有のデフレ不況から抜け出せずに苦しんでいる。その一因として、日本では政策決定の過程で、経済学が十分に活用されていないことが挙げられる。個々の政策が何をもたらすかを論理的に考察するためには、経済学ほど役に立つ学問はない。経済学の目的の一つとは、インセンティブ(やる気)を導くルールの研究であり、そして、それが効率的資源配分をもたらすことを重要視している。やる気を導くとは、市場なら競争を促す、わかり易いルールであり、人材なら透明な評価が行われることである。効率的資源配分とは、無駄のない資源の活用であり、人材で言えば、適材適所である。日本はこれまで、中央集権的な制度の下で、市場には規制、人材には不透明な評価を導入して、やる気を削ってきた。行政は、2年毎に担当を変えて、不適な人材でも要職につけるという、無駄だらけのシステムであった。
ボーダレス・エコノミーの時代に、他の国々が経済理論に基づいて政策運営をしているときに、日本だけが経済学を無視した政策をとるわけにはいかない。今こそ、広く正確な経済学の素養が求められているといって言い過ぎではない。
経済は、金融、財の需給、雇用、教育、福祉などを含み、それが相互に関連しながら、複雑に変化する系である。その経済の動きを理解するには、経済学入門に始まり、ミクロ経済学で、一人一人の国民あるいは個々の企業の立場から積み上げてゆき、マクロ経済学で、国の経済を全体として捉える、日本経済学と国際経済学と国際金融論で世界の中での日本経済をみる、そして環境経済学で、経済が環境に与える影響も考慮するなど、様々な切り口で理解する必要がある。今後、経済学を身につけた人達の専門性が、嫌でも認められてゆく時代になるであろう。
経済を統一的な観点から見つつ、全体が編集され、そして上記のように、個々の問題について執筆されている教科書を刊行することは必須といえる。しかも、時代と共に変化する経済を捉えるためにも、常に新しい経済のテキストが求められているのだ。
この度、新世社から出版されるライブラリ経済学コア・テキスト&最先端は、気鋭の経済学者によって書かれた初学者向けのテキスト・シリーズである。各分野での最適な若手執筆者を擁し、誰もが理解でき、興味をもてるように書かれている。教科書として、自習書として広く活用して頂くことを切に望む次第である。

西村和雄

はじめに

現在、私たちの毎日の生活はさまざまな輸入品により支えられています。原油や鉱物資源などは言うに及ばす、衣料品、さまざまな雑貨、電気製品、マグロやえびなどの魚介類、肉類、野菜、果物といった食料品など、輸入品があふれています。他方、日本は自動車を中心とする輸送機器、精密機器、工作機械、アニメーションなどを世界中に輸出しています。また、巨額の資金が少しでも有利な金融資産や投資先を求めて、毎日世界中を飛び交っています。世界の多くの企業が国境を越えたグローバルな活動を行っています。
私たちは、このような海外貿易や企業のグローバルな活動からたいへん大きな利益を受けています。しかし、それを日々実感することは少ないのではないでしょうか。あたかもきれいな空気や水が安価に豊富に得られている恩恵を実感することが少ないのと似ています。
他方で、貿易は国内のすべての人々に等しく利益をもたらすとは限りません。貿易の拡大により海外の安い輸入品に押されて市場から撤退を余儀なくされた国内生産者も多くいますし、企業の海外移転による雇用の減少や地域経済の衰退も懸念されています。そのため、政府は貿易の利益が多くの人々にゆきわたることができるように、国内の所得分配、資源配分を調整する適切な経済政策を活用することが求められるでしょう。
本書は国際経済学をはじめて学ぶ方を対象にした国際経済学の入門書です。できるだけ多くの読者が国際経済学を学ぶ意義を知り、より進んだ学習に進む意欲をもってくれればと願い、現実のデータや具体例を取り入れてわかりやすい解説を心がけました。そのため、基本的な概念などの説明はできるだけかみ砕いたものにし、理論の説明も直観的に理解し易くすることを優先しました。
国際経済学は、おもに国際貿易理論と国際マクロ経済学で構成されており、国際貿易理論はミクロ経済学、国際マクロ経済学はマクロ経済学の応用分野と位置づけられており、ミクロ経済学やマクロ経済学を応用して理論の説明がなされます。
筆者は、国際経済学の入門科目を2セメスターで講義する科目を何年間か担当しています。1セメスターで、15コマの講義です。受講生にはミクロ経済学やマクロ経済学を履修していない学生も含まれており、履修している学生でもその理解の程度はさまざまに異なります。したがって、理論の説明の際には、まずそこで用いるミクロ経済学やマクロ経済学の基本概念をわかりやすく説明して、そのあとでそれらを用いて講義を進めます。そのため、限られた講義時間の中で取り上げるトピックスは、おのずといくつかの重要なものに限定せざるを得ません。
本書は「第Ⅰ部 国際貿易とその理論」、「第Ⅱ部 外国為替と国際マクロ経済」の2部構成となっています。それぞれを1セメスターで講義すると、1年間の講義で終えることができるようになっています。

本書の初版は、2007年4月に出版されました。すでに8年がたち、この間多くの先生、読者の方、学生からコメントや感想をいただきました。また、テキストのデータや記述を新しく書き換えたいと思っていましたが、幸い新世社の御園生晴彦氏より第2版の改訂のお誘いをいただき、この度、新世社のご厚意により第2版を出版することができました。
第2版では、全体を通じて、データを更新したり、より適切なものに差し替えるとともに、多くの章で新しく必要と思われるトピックスを追加し、説明をより詳しくわかりやすいものとしました。たとえば、第1章では、上記のデータや記述の書き換えを行い、特にWTOの原則及びルール、パネルにおける紛争処理手続きなどについての記述を加えました。第4章のリカード・モデルの、とくに不完全特化の場合を含む貿易パターンの説明などをより詳しく書き換えています。第5章のヘクシャー=オリーン・モデルの説明では、初版と同様基本的に固定係数モデルにもとづいて説明していますが、第5節に補論として可変的投入係数モデルのケースについて、そのエッセンスを追加説明しています。
また、2014年1月から、国際収支表の記載方法が変わりました。そのため、第11章で、国際収支表の新しい記載方法とその見方を旧式の内容と比較しながら説明しています。
この第2版でも取り上げられなかったトピックスやモデルなどが多くありますが、読者がこれからさらに進んだ学習をする際に必要となる基本的なモデルをしっかり理解できるように丁寧に説明することを優先した構成としました。本書で基本を理解した読者にとっては、よりレベルの高いテキストに進むことは決して難しいことではないと思います。
本書は、読者が自分ひとりで十分に学習できるテキストになるように配慮しています。ミクロ経済学やマクロ経済学についての予備知識がなくても読み通せるように、本書の説明で用いる基本的な概念について必要に応じて解説しています。たとえば、第2章では、消費者余剰や生産者余剰の概念を、第3章では消費者の効用関数や無差別曲線、消費者の最適行動などを説明するために一定のページを割いています。また、第Ⅱ部では、マクロ経済学の基本的な概念である、国民所得の諸概念やIS曲線、LM曲線の概念などについて説明しています。一人でも多くの読者が国際経済学を学ぶ楽しさを知ってくだされば、本書の目的は達せられたと言えるでしょう。
本書の執筆に際しましては、多くの方々のご協力を得ました。筆者を本書の執筆にご推薦くださいました西村和雄先生(神戸大学経済経営研究所:特命教授)に心から御礼申し上げます。今回の改訂の作業でも、私の執筆は遅く、なかなか進みませんでしたが、新世社の御園生晴彦氏は忍耐強く、いつも親切に私の執筆を励ましてくれました。また、校正の段階では新世社の谷口雅彦氏にも大変お世話になりました。お二人のご協力に心から感謝申し上げます。
初版の出版の際には、立命館大学の同僚の先生方をはじめ多くの先生方から大変丁寧なコメントをいただきました。名前を挙げることは控えさせていただきますが、いただいた多くの貴重なコメントは今回の改訂に反映させていただきました。これらの先生方に心から御礼申し上げます。今回の改訂にあたり、立命館大学大学院経済研究科卒業生で客員研究員であった井口達也君、現在大学院生の楊晨さんには、データの収集、整理にご協力ただきました。心から御礼申し上げます。
最後に、私事にわたりますが、毎日の研究生活を支えてくれ、本書の執筆でもさまざまな形で協力してくれた妻の睦子、いつも元気をくれる娘の真莉菜、父・進、母・文子に心から感謝したいと思います。

2015年7月
大川昌幸

大川 昌幸 (著)
出版社 : 新世社 (2015/11/1)、出典:出版社HP

目次

第I部 国際貿易とその理論

1 世界の通商システムと日本
1.1 世界と日本の経済成長と貿易の拡大
1.2 戦後の世界の通商システムの誕生
戦前の保護主義化と経済対立
ブレトン・ウッズ協定とGATT(WTO)=IMF体制
1.3 GATT/WTOとその基本原則
無差別待遇の原則
貿易制限措置削減の原則
基本原則の例外措置
1.4 多角的関税引き下げ交渉
1.5 WTOの誕生
1.6 WTOの紛争解決手続き
1.7 WTOで認められている対抗措置
■練習問題

2 貿易の基本モデル(1): 部分均衡分析
2.1 市場の部分均衡分析
2.2 需要曲線と消費者余剰
市場の取引とその利益
消費者余剰
個人の需要曲線と市場の需要曲線
2.3 供給曲線と生産者余剰
生産者余剰
市場の供給曲線
2.4 自給自足経済での市場均衡
2.5 貿易の自由化と貿易利益
■練習問題

3 貿易の基本モデル(2): 2財の貿易モデル
3.1 はじめに
3.2 消費者行動の理論
3.3 自給自足経済の均衡
自給自足経済
社会的厚生
3.4 自由貿易均衡:小国経済の場合
■練習問題

4 リカード・モデル
4.1 リカード・モデル
4.2 絶対優位と比較優位
4.3 生産可能性フロンティア
4.4 相対価格と貿易パターン
4.5 世界市場での相対価格の決定
4.6 自由貿易均衡と貿易利益
4.7 絶対優位と賃金水準
■練習問題

5 ヘクシャー=オリーン・モデル
5.1 リカード・モデルとヘクシャー=オリーン・モデル
5.2 固定係数モデル
5.3 リプチンスキー定理
5.4 ヘクシャー=オリーン定理
5.5 ストルパー=サミュエルソン定理
5.6 要素価格均等化定理
5.7 (補論)可変的投入係数のヘクシャー=オリーン・モデル
等産出量曲線
企業の費用最小化行動
可変的投入係数の場合の生産可能性フロンティア
自給自足均衡と自由貿易均衡
■練習問題

6 不完全競争と国際貿易
6.1 不完全競争市場の特徴
6.2 国内独占と自由貿易:小国の場合
自給自足経済での独占市場の均衡
自由貿易均衡
6.3 輸出企業の価格差別化とダンピング
6.4 製品差別化と産業内貿易
独占的競争市場の企業行動
独占的競争市場の貿易の自由化
産業内貿易と産業内貿易指数
■練習問題

7 完全競争と貿易政策
7.1 貿易政策の手段
関税
非関税障壁
7.2 関税の効果:小国の場合
7.3 関税と生産補助金および消費税
生産補助金の効果
消費税の効果
7.4 関税と輸入数量割当ての同等性
7.5 関税の効果:大国の場合
7.6 有効保護の理論
■練習問題

8 不完全競争と貿易政策
8.1 はじめに
8.2 国内市場が独占の場合の関税と輸入数量割当ての効果
小国の独占企業の場合
大国の独占企業の場合
8.3 外国の独占企業に対する輸入関税
8.4 戦略的貿易政策
小国の輸出補助金の効果について:完全競争市場の場合
戦略的貿易政策:輸出補助金の場合
8.5 保護貿易の政治・経済的背景
幼稚産業保護論
保護貿易の政治・経済的背景
■練習問題

9 生産要素の国際移動
9.1 国際間の資本移動とは
9.2 国際要素移動の基礎理論
リカード・モデルにおける労働移動の効果
2生産要素モデルでの資本移動の効果:財貿易のない場合
9.3 貿易と資本移動の関係
自由貿易の下で両国が不完全特化する場合
自由貿易の下で両国が完全特化する場合
■練習問題

10 地域経済統合とその理論
10.1 地域経済統合とは
10.2 WTOと地域経済統合
10.3 地域経済統合の基礎理論
10.4 日本の経済連携協定
■練習問題

第II部 外国為替と国際マクロ経済

11 海外取引と国際収支
11.1 フローとストック
11.2 国民所得勘定と対外取引
11.3 開放経済と国際収支
国際収支表
近年の日本の国際収支の推移
■練習問題

12 外国為替市場と外国為替レート
12.1 外国為替レート
外国為替レート
実質為替レート
実効為替レート
12.2 外国為替市場
外国為替市場
12.3 為替相場制度と外国為替レートー
金本位制
調整可能な釘付け相場制(アジャスタブル・ペッグ制)
変動相場制
12.4 外国為替相場の変化と貿易収支
マーシャルラーナー条件
Jカーブ効果
12.5 直物為替相場と先渡為替相場
為替リスク
直物取引と先渡取引
金利裁定
■練習問題

13 外国為替相場の決定理論
13.1 アセット・アプローチ
外国資産の邦貨建て予想収益率
13.2 購買力平価説
購買力平価説
絶対的購買力平価説と相対的購買力平価説
■練習問題

14 外国貿易と国民所得水準の決定
14.1 開放マクロ経済の国民所得の決定
財・サービス市場のマクロ経済モデル
開放マクロ経済の国民所得の決定
14.2 需要の変化の影響
輸出の増加
政府支出の増加
■練習問題

15 開放経済のマクロ経済政策
15.1 マンデル=フレミング・モデル
マンデル:フレミング・モデル
IS-LM分析
国際収支均衡線
15.2 固定相場制下の財政・金融政策
資本移動が不完全な場合
資本移動が完全な場合
15.3 変動相場制下での財政・金融政策
資本移動が不完全な場合
資本移動が完全な場合
■練習問題

文献案内
参考文献
練習問題略解
索引

大川 昌幸 (著)
出版社 : 新世社 (2015/11/1)、出典:出版社HP

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕上:貿易編

国際経済学の最先端まで学ぶ

本書は、国際経済学の基礎から最先端の内容までを解説しているテキストです。丁寧な説明に加えて、視覚的に理解できるようにグラフを多く掲載しているため、だれでも理解できるようになっています。内容も充実しているため、世界中の経済学部で最も使用されているとされています。

Paul R. Krugman (著), Maurice Obstfeld (著), Marc J. Melitz (著), 山形 浩生 (翻訳), 守岡 桜 (翻訳)
出版社 : 丸善出版 (2017/1/19)、出典:出版社HP

訳者まえがき

本書はPaul R. Krugman, Maurice Obstfeld, Marc J. Melitz, Intermational Economics, 10th Edition (Pearson, 2015)の全訳となる.翻訳にあたっては,原者出版社からのpdfファイルとInternational版ペーパーバックを参照している.ただしInternational版は,いくつかのコラムが違っている.その場合にはオリジナル版の方を優先している.また,原文に見られた明らかなミスは修正している.
本書は30年近くも前の1988年に初版が刊行されてからすでに第10版,今や国際経済学の標準的な教科書といっていい.貿易理論に加え国際金融の話を大きな柱として設け,その両者の関連性にも十分に注意を払った本書は,画期的なものだった.
そしてまた,本書の初版が登場した1980年代から,世界経済と国際金融制度は急激なグローバル化を見せ,そしてそれにともない,幾多の世界経済危機,通貨危機が世界を襲うようになった.この教科書は,各種の事件を理論面から説明するとともに,そうしたグローバル経済のできごとがまさに次の理論的展開を生み出し,それがすかさず次の版に反映されるという,真の意味でのリアルタイムなガイドとなっている.本書に影響され,貿易理論と国際金融理論を二本柱とした入門教科書はいくつか登場してきた.でも,これだけの時事性とリアルタイム性を保ち続けてきた教科書は,ほぼ類がない.本書自体が常に変わり続け,現実の世界と格闘をつづけるダイナミックなものとなっている.その躍動感が,この教科書の大きな魅力だ.
しかもその執筆者たちが,まさに現実面でも理論面でもこの国際経済学分野の最先端と格闘し続けている第一人者たちだ.教科書執筆なんて第一線を退いた大御所による小遣い稼ぎといった見方もあるけれど,本書はまさに現役バリバリのトップ学者が,その最先端の成果を惜しみなくぶちこんだものとなっている.
ポール・クルーグマンは,この教科書初版時点では,規模の経済と多様性に基づいた,新貿易理論(本書貿易編の第7章)の創始者として名声をとどろかせていた気鋭の学者だ.また同時に為替の投機攻撃分析をめぐる国際金融理論でも名をあげていた.経済地理などの分野でも新機軸を切り拓き,2008年にはノーベル経済学賞を受賞し,大経済学者としての名声を不動のものとした後でも,日本のデフレ研究をはじめ新しい分野で大きな成果をあげ続けている.これらは本書の後半で頻出する大きなトピックだ.
モーリス・オブストフェルドもまた,初版の時点から一貫して国際貿易理論と国際金融の分野で最先端を走る気鋭の学者だ.2014年にはオバマ大統領の経済諮問チームに加わり,2015年の本書刊行直後には,国際通貨基金(IMF)の主任エコノミストとなった.まさに本書の内容と実務政策とをつなぐ存在となっている.その能力は本書の金融編で大きく活かされている.
そして3人目のマーク・メリッツは,一つ前の第9版から参加している.かれはルーグマンの新貿易理論に続き,企業の異質性(貿易する企業は限られており性の高い企業しか輸出しない)に注目した新々貿易理論の若手旗手の一人だ(本書貿易編の第8章).これはそれまで国レベルで議論されていた貿易を,やっと現実に近い,企業レベルにまで下ろした大きな理論的ブレークスルーとして,今まさに急速な発展を遂げている分野だ.かれの参加で,この教科書の理論的な先端性が担保されるとともに,執筆陣も大きく若返りがはかられている.
翻訳にあたっては,理論的な最先端とリアルタイムな時事性をあわせもった,本書の躍動感をできる限り伝えようとした.そのため,経済学の教科書的な用語を重視しつつも,一般に新聞や時事媒体で使われる表現を優先したところもある.用語の統一もある程度は配慮したものの,不自然になるほど徹底はしていない.
例えばtradeという用語は,英語では国内でも外国とのやりとりでも使う.ところが日本語だと前者は取引だし,後者は貿易だ.それをあえて統一はしていない.また円やドルの為替レートが上がったり下がったりするのを,増価/減価と表現するのが教科書的なお約束ではある.でも一般の経済メディアでは,円高やドル安といった表現の方がずっと多い.本書の訳では,それをある程度混在させている.
また,原著では学生や教師用に,各種データや練習問題などを満載した会員制の学習支援サイトがある.残念ながらこの邦訳ではそこまで対応はできていない.ただし,一部の章に用意されたオンラインの補遺は翻訳し,以下のサポートサイトから参照できるようにした.
http://pub.maruzen.co.jp/space/International economics/appendix/
原文は平易で特に迷う部分もなかったものの,誤変換や思わぬミスもまだ残っているかもしれない,ご指摘いただければ幸いだ.見つかったものについても,上のサポートサイトで随時公開する.

2016年9月 深圳/東京にて
訳者代表 山形浩生

まえがき

2007~08年に勃発した世界金融危機から何年もたっているのに,先進国の経済はいまだに成長が遅すぎて,完全雇用を回復できずにいる.途上国の市場は,多くの例で驚異的な所得増大を示してはいるけれど,相変わらず世界資本の浮き沈みに翻弄されやすいそして最後に,2009年からずっとユーロ圏で厳しい経済危機が続き,ヨーロッパの共通通貨の未来すら疑問視されている.
だからこの第10版は,グローバル経済の出来事がいかに各国の経済の成否や政策,政治論争に影響するかを,これまでになく切実に認識させられている時期に登場することになる.第二次世界大戦が終わった頃の世界は,国同士の貿易や金融や通信のつながりですら限られていた.でも21世紀になって十年以上たった現在,話はすっかり変わっている.グローバル化がドーンとやってきた.輸送費や通信費が低下し,政府の貿易障壁が世界的な協議で撤廃され,生産活動のアウトソーシングが広がり,外国の文化や製品に対する認知度が高まるにつれて,財やサービスの国際貿易は着実に拡大してきた.新しく優れた通信技術,特にインターネットは,各国の人々が情報を手に入れてやりとりする方法を一変させた.通貨,株,債券などの金融資産の国際取引は,国際的な製品貿易よりさらに急速に拡大した.このプロセスは,富の保有者に便益をもたらす一方で,金融不安定性の感染リスクもつくり出す.こうしたリスクは最近の世界金融危機で実現してしまい,危機は国境を越えて急激に広がって,世界経済にすさまじいコストをかけた.でもここ数十年の国際状況変化すべての中で,最大のものはやはり中国の台頭だろう――これはすでに,今後21世紀における経済と政治パワーの国際バランスを塗り替えつつある.
今日の世界経済のようすを予見できたら,1930年代の恐慌期に生きていた世代はどんなに驚いたことだろう!それでも,国際論争を引き起こし続けている経済的な懸念事項は,1930年代のものと大して変わっていないし,それどころか2世紀以上前に経済学者たちが初めて分析を行った頃とも大差ない.保護主義と比べて,国同士の自由貿易にはどんなメリットがあるんだろうか?なぜ各国は貿易黒字や貿易赤字を計上するんだろうか,そしてそうした不均衡は長期的にどう解決されるんだろうか?開放経済の銀行や通貨危機を引き起こすものは,そして経済の間に金融感染を引き起こすものは?そして国際金融不安定性に政府はどう対処すべきか?政府はどうやって失業やインフレを避ければいいのか,その際に為替レートはどんな役割を果たし,各国は経済的な目標実現にあたり,お互いにどのように協力すればいいのか?国際経済学ではいつものことながら,出来事や発想が相互にからみ合う中で,新しい分析手法も登場した.そしてこうした分析上の進歩は,一見するとえらく難解に見えても,最終的には間違いなく政府の政策や国際交渉や,人々の日常生活で大きな役割を果たすことになる.グローバル化はあらゆる国の市民たちに,自分たちの運命を左右する世界的な経済的影響力について,空前の規模で認識させるにいたった,そしてグローバル化はもはや止めようがない.

第10版の変更点

この版の変更点として,国際経済学という1巻本と,貿易部分と金融部分を別々の巻に分けた本とを提供することにした.このように巻を分けたのは,教授たちが国際経済学の講義で何をカバーするかに応じて,ニーズにいちばん適した本を使えるようにするためだ.2学期にわたる経済学講義で使う1巻本でも,本を半分ずつ,それどれ貿易と金融の問題に分けるという標準的なやり方に従っている.国際経済学で,貿易と金融の部分はしばしば,同じ教科書の中ですら無関係な話として扱われるけれど,どちらのサブ分野でも似たような主題や手法が何度も出てくる貿易と金融分野につながりが出てきたときには,必ずそのつながりを強調するようにしたその一方で,本書の両半分がそれぞれ完全に独立するようにもした.だから貿易理論の1学期講義なら,第2章から12章まで使えばいいし,国際金融経済学に関する1学期講義なら,第13章から22章まで使えばいい,先生や学生たちの都合に合わせて,今は講義の範囲や長さに応じて,貿易だけの巻を使ったり,金融だけの巻を使ったりすればいい.
内容は全面的に更新して,いくつかの章は大幅に改訂した.こうした改訂は,利用者からの示唆や,国際経済学の理論面と実践面での重要な展開に対応したものだ.最も広範な改訂は以下のとおり:

・第5章 資源と貿易:ヘクシャー=オリーン・モデル
この版では,南北貿易,技術変化,アウトソーシングが賃金格差に与える影響についての説明を拡充した.ヘクシャー=オリーン・モデルの実証的な証拠の説明部分はかき直し,新しい研究を前面に出した,この部分ではまた,中国の輸出パターンがヘクシャー=オリーン・モデルの予想と整合するかたちで変化してきたことを示す,新しいデータもとり入れている.
・第6章 標準貿易モデル
この章はアメリカと中国の交易条件がどう変わってきたかを示す新しいデータを使って更新した.
・第8章 グローバル経済の企業:輸出判断,アウトソーシング,多国籍企業
貿易での企業の役割を強調する記述を改訂した.またアメリカでのオフショア化(外国生産)がアメリカの失業に与える影響を分析した新しい事例研究も追加した.
・第9章 貿易政策のツール
この章では,貿易制限がアメリカ企業に与える影響についての記述を更新した.今回の章は,最近EUと中国の間で太陽電池パネルをめぐって生じた貿易政策紛争や,2009年アメリカ復興再投資法に記述された「バイ・アメリカン(アメリカ製品を買おう)」制限の影響について述べている.
・第12章 貿易政策をめぐる論争
新しい事例研究で,バングラデシュでの衣料工場の倒壊(2013年4月)を扱い,バングラデシュの衣料輸出国としての急成長がもたらす費用と便益の緊張関係を論じる.
・第17章 短期的な産出と為替レート
2007~09年の世界金融危機を機に,世界中の多くの国は財政的な景気刺激策をとった.その後間もなく,財政乗数の規模に関する学術研究が復活したけれど,そのほとんどは閉鎖経済を扱ったもので,本章のモデルで強調されている為替レートの影響を無視している.この版では,開放経済の財政乗数に関する新しい事例研究を追加した.最近の学術文献は,ゼロ下限金利制約での財政政策を重視したものとなっているので,その議論に合わせて我々のモデルで流動性の罠を説明する.
・第18章 固定為替レートと外国為替介入
この章はこの版から,為替市場介入などの手段で増価した水準に抑えられている為替レートに対する「インフロー攻撃」についての議論を追加した.こうした現象は,中国などでみられる,新しい事例研究では,スイスフランの為替レートをユーロに対してキャップしようという方針について論じている.
・第19章 国際金融システム:歴史のおさらい
この版では国際収支の議論を補うものとして,開放経済での異時点間予算制約の詳細な導出を加えた(このかなり専門的な内容を扱いたくない教官は,飛ばしても話のつながりは失われない).異時点間分析は,ニュージーランドの継続的な外国借り入れの持続可能性分析に応用されている.加えて,この章での世界経済における最近の出来事の記述も更新した.
・第20章 金融グローバル化:機会と危機
この版では,第20章と21章の順番を入れ替えて,最適通貨圏やユーロ危機を扱う前に国際資本市場の話をカバーするようにした.なぜかというと,ユーロ危機は相当部分が銀行の危機でもあって,国際銀行業務とその問題を事前にしっかり理解していないと,学生たちはこれを理解できないからだ.このアプローチに合わせて,この版の第20章は銀行のバランスシートと銀行の脆弱性について詳しく扱い,特に銀行資本と資本規制を重視する.本書の初版からずっと,我々は銀行規制のグローバルな文脈を強調してきた.この版では,「金融のトリレンマ」を扱う,これは各国の政策立案者が,金融開放性,金融安定性,自国の金融政策コントロールという三つの考えられる目的のうち,最大でも二つしか選べないというものだ.
・第21章 最適通貨圏とユーロ
ユーロ圏の危機は,本書の第9版が印刷にまわってから急激に悪化した.この新版では,ユーロ諸国での銀行連合など,密接な協調をもたらすイニシアチブに関する新しい材料を使い,ユーロ危機の記述のものにした.最適通貨圏についての理論的な議論も,ユーロ危機の教訓を反映したものとなっている.
・第22章 発展途上国:成長,危機,改革
発展途上国への資本フローに関す説明は,この版ではこうしたフローの規模の小ささに関する最近の研究や,そうした資本が高成長の途上国よりも低成長の途上国を選びがちだというパラドックスめいた傾向についても扱う.途上国への資本配分の理論と,国同士の所得分布の理論上の密接なつながりを指摘する.

こうした構造的な変更に加え,本書は各種の面で更新して現代とのつながりを維持するようにした.だから,アメリカにいる外国生まれの労働者の教育水準を検討し,それが人口全体とどう違うかも調べる(第4章),中国がらみの最近の反ダンピング紛争も検討する(第8章).統計にみられる世界的な経常収支黒字の原因も考える(第13章),ジンバブエのハイパーインフレの発生と収束も説明する(第15章).国際銀行規制のインフラ発展を検討し,バーゼルIIIや金融安定化委員会なども扱う(第20章)

本書について

本書をかこうと思ったのは,1970年代に学部生やビジネスマンに国際経済学を教えた体験のせいだ,教えるにあたり,主な課題が二つあると思った.一つは,このダイナミックな分野でのわくわくする知的な進歩をどう伝えようかということだ.もう一つは,国際経済学理論の発達が,これまで変貌する世界経済を理解する必要性から生じたものであり,国際経済政策の実際の問題を分析する必要があって発展してきたのだということをどう伝えるかということだった.
それまで刊行されていた教科書を見ると,こうした課題に十分に応えきれていなかった,国際経済学の教科書は,生徒たちが怖気をふるうほど多数の特殊モデルや仮定をつきつけ,そこから基本的な教訓を引き出すのは難しかった.そうした特殊モデルの多くはすでに陳腐化していたので,生徒たちはそうした分析が現実世界にどう関係しているのかわからずじまいだった.結果として,多くの教科書は授業で扱ういささか古くさい内容と,目下の研究や政策論争にあふれる,わくわくするような問題との回にギャップを残してしまう.国際経済問題の重要性――そして国際経済学講義の履修者数――が増えるにつれて,このギャップも拡大した.
この本は,目下の出来事に光をあて,国際経済学の興奮を教室にもたらすため,最新の分析フレームワークを理解できるかたちで提供しようとしたものだ.国際経済学の実体経済面と金融経済面のどちらを分析する際にも,我々のアプローチは,壮大な伝統的洞察とともに,最新の知見やアプローチを伝えるための,単純で統合されたフレームワークを一歩ずつ構築することだった.生徒たちが国際経済学の根底にある論理を把握して維持しやすくするため,それぞれの段階で,理論的な展開の前に関連するデータや政策問題を示すことにした.

経済学カリキュラムでの本書の位置づけ

生徒たちが国際経済学を最もしっかり理解するのは,抽象モデルについての抽象理論のかたまりとしてではなく,世界経済の出来事に重要なかたちでむすびついた分析手法として提示されたときだ.だから我々の狙いは,理論的な厳密さよりは,概念とその応用を強調することだ.だからこの本は経済学についての深い知識は想定していない,経済学入門の講義を履修した生徒なら,この本が読めるはずだけれど,もっと進んだミクロ経済学やマクロ経済学の講義を履修した生徒でも,新しい材料はたっぷり得られるはずだ.きわめて先進的な生徒たちへの挑戦として,専門的な補遺や数学的な補遺も含めた.

本書の特色

本書は国際経済学での最近の最も重要な発展をカバーしつつ,この分野の核を伝統的に形成してきた長年の理論的・歴史的な洞察をもないがしろにしないようにした.この包括性を実現するため,最近の理論が世界経済の展開への対応として,以前の発見からどのように発展してきたかを強調している.本書の実物貿易の部分(第2章から12章)と金融の部分(第13章から22章)は,理論中心の核となる何章かがあって,それに続いてその理論を過去や現在の主要な政策問題に適用する章が続く形式になっている.
第1章では,この本が国際経済学の主要なテーマをどう扱うかについて,少々細かく説明する.ここでは,ほかの教科書の著者たちがこれまで系統だったかたちで扱ってこなかった,いくつかのテーマを強調しておこう.

収穫逓増と市場構造

国際的な取引の促進における比較優位の役割と,それに伴う厚生増大の話をする前に,理論と実証研究の最前線を訪れて,貿易の重力モデルを説明しよう(第2章).それから第7章と8章では,収穫逓増と商品の差別化が貿易と厚生にどう影響するか説明して,研究の最前線に戻ってくる.この議論で検討するモデルは,同じ産業内での貿易や,動学的な規模の経済による貿易パターン変化といった,現実の重要なとらえたものだ.そしてこうしたモデルは,相互に利益のある貿易は,比較優位に基づかなくてもいいのだということを示している.

国際貿易での企業

第8章では,国際貿易における企業の役割に注目した,刺激的な新しい研究もまとめている.この章では、グローバル化に直面したときに,企業によって影響が違うのだという点を強調している。一部の企業は拡大し,一部の企業は縮小するので、全体としての生産は同じ産業部門の中でももっと効率的な生産者の方にシフトし,全体としての生産性は上がり,これにより貿易による利得が生まれる、自由貿易環境で拡十する企業は、生産活動の一部をアウトソーシング(委託生産)したり、海外生産を行ったりするインセンティブもありそうだ。これもこの章で説明する。

貿易政策の政治と理論

第4章を皮切りに,貿易が所得分配に与える影響こそは,自由貿易制限の重要な政治要因なのだと強調している。これを強調することで,なぜ貿易政策の標準的な厚生分析による処方箋が,実際の世界ではほとんど通用しないのかが明確になる.第12章では、政府が活発な通商政策を採用して、重要とみなされる経済セクター奨励を行うべきだという一般的な考え方を検討する。この章では,こうした貿易政策の理論的な議論について,ゲーム理論からの単純な発想に基づいた議論をする.

為替レート決定のアセットアプローチ

開放経済マクロ経済学の説明で中心となるのが,現代の外国為替市場と各国金利や期待による為替レート決定だ。我々が開発するマクロ経済学モデルの主要な中身は,金利パリティ関係で,後にそこにリスクプレミアムを追加する(第14章)。このモデルを使って検討するテーマとしては、為替レートの「オーバーシュート」、インフレ目標,実質為替レートのふるまい、固定為替レート下の国際収支危機,外国為替市場への中央銀行介入の原因と結果などだ(第15章から18章)。

国際マクロ経済政策協調

国際金融の経験に関する本書の議論(第19章から22章)で強調したいのは、為替レート方式の違いでそこに参加する各国の政策協調問題も違ってくるということだ。両大戦の間の時期に、黄金をかき集めようと各国が必死に競争した結果が示すように、近隣窮乏政策は自滅的なものになりかねない。これに対して現在の変動為替相場制は、各国の政策立案者たちが各国の相互依存性を認識し、強調して政策を形成するよう求めるものとなっている.

世界資本市場と発展途上国

第20章では,世界の資本市場についての幅広い議論をする.ここでは,国際ポートフォリオ分散がもつ厚生上の意味や,国際的に活動する銀行など金融機関のきちんとした監督の問題を扱っている.第22章は,長期的な成長の見通しと,中進国や新興工業国の具体的なマクロ経済安定問題と自由化問題を集中的に扱う.この章では,エマージング市場の危機を振り返り、借り手である発展途上国と,先進国の貸し手と,国際通貨基金(IMF)などの公的金融機関との相互作用を歴史的に整理する.第22章では,中国の為替レート政策を検討し,発展途上国での貧困持続に関する最近の研究も振り返る。

学習のための仕掛け

本書は,いろいろ学習のための仕掛けを使うことで、説明の中で生徒たちの興味を持続させて,その内容を理解する手助けをしている。

事例研究

すでに説明した内容を裏づけ、それが現実世界にどう適用できるか示し,理論的な議論にしばしば伴う重要な歴史的情報を示すという三重の役割を果たすのが事例研究だ.

囲み記事(コラム)

あまり中心的ではなくても,文中の論点について特に赤裸々な例示となる話題はコラムとして扱う。例えば、アメリカのトマス・ジェファソン大統領による1807~09年の禁輸措置(第3章),バナナ貿易をめぐる争いのおかげで、自国では寒すぎてバナナなんかつくれない国々の間に敵対関係が生じてしまったという驚異のお話(第10章),ノンデリバラブルフォワード取引の市場(第14章),発展途上国による外為準備高の急速な増大(第22章)などだ。

グラフ

200点以上のグラフに,説明文をつけて、本文の議論を強化し、生徒が中身を振り返るのに役立てている。

まとめと重要用語

それぞれの章の最後には、主なポイントを振り返る「まとめ」をつけた。「重要用語」は本文中に初めて出てきたときには太字のゴシック体でかかれ,章末にまとてある。学生が内容を復習しやすいように,「重要用語」は「まとめ」の中では太字にしてある。(注:原書の本文中でイタリックで強調されているところは,本書では太字の明朝体で表した)

練習問題

各章の後,学生の理解を試してしっかりしたものとするための練習問題をつけた。問題は,定型の計算問題から,教室での議論向けの「大きな構図」を尋ねる問題までさまざまだ。多くの問題では生徒に対し,学習内容を現実世界のデータや政策問題にあてはめてもらう。

もっと勉強したい人のために

教科書をほかの読み物で補いたい講師と、自力でもっと深く勉強したい生徒のために、それぞれの章には説明つきの参考文献一覧をつけた。そこには確立した古典から。最近の問題についての最新の検討までいろいろ載せてある.

謝辞

誰よりも大恩あるのが本プロジェクト担当の購買編集者クリスティーナ・マツルゾだ。またプログラムマネージャのキャロリン・フィリップスと、プロジェクトマネージャのカーラ・トンプソンにも感謝する。インテグラ=シカゴとヘザー・ジョンソンのプロジェクトマネージャとしての努力は重要かつ効率的なものだった.またピアソン社のメディアチームにも感謝したい――デニス・クリントン,ノエル・ロッツ,コートニー・カマウス,メリッサ・ホーニッグ――みんなこの第10版のためのMyEconLab教材に尽力してくれた。最後に,これまでの9つの版を実に優れたものにしてくれたほかの編集者たちにも感謝する。
またタチヤナ・クラインバーグとサンディルフラシュワヨの見事な研究支援についても名前をあげておきたい。カミール・フェルナンデスはすばらしい後方支援をいつもながら提供してくれた。有益な示唆とやる気の支援の面では、ジェニファー・コッブ、ギータ・ゴビナス、ヴラディミール・フラサニ、フィルップ・スワゲルに感謝する.
また過去と現在の査読をしてくれた以下のレビューアたちに,その助言と洞察について感謝する:

Jaleel Ahmad, Concordia University
Lian An, University of North Florida
Anthony Paul Andrews, Governors State University
Myrvin Anthony, University of Strathclyde, U.K.
Michael Arghyrou, Cardiff University
Richard Ault, Auburn University
Amitrajeet Batabyal, Rochester Institute of Technology
Tibor Besedes, Georgia Tech
George H. Borts, Brown University
Robert F. Brooker, Gannon University
Francisco Carrada-Bravo, W.P. Carey School of Business, ASU
Debajyoti Chakrabarty, University of Sydney
Adhip Chaudhuri, Georgetown University
Jay Pil Choi, Michigan State University
Jaiho Chung, National University of Singapore
Jonathan Conning, Hunter College and The Graduate Center, The City University of New York
Brian Copeland, University of British Columbia
Kevin Cotter, Wayne State University
Barbara Craig, Oberlin College
Susan Dadres, University of North Texas
Ronald B. Davies, University College Dublin
Ann Davis, Marist College
Gopal C. Dorai, William Paterson University
Robert Driskill, Vanderbilt University
Gerald Epstein, University of Massachusetts at Amherst
JoAnne Feeney, State University of New York at Albany
Robert Foster, American Graduate School of International Management
Patrice Franko, Colby College
Diana Fuguitt, Eckerd College
Byron Gangnes, University of Hawaii at Manoa
Ranjeeta Ghiara, California State University, San Marcos
Neil Gilfedder, Stanford University
Amy Glass, Texas A&M University
Patrick Gormely, Kansas State University
Thomas Grennes, North Carolina State University
Bodil Olai Hansen, Copenhagen Business School
Michael Hoffman, U.S. Government Accountability Office
Henk Jager, University of Amsterdam
Arvind Jaggi, Franklin & Marshall College
Mark Jelavich, Northwest Missouri State University
Philip R. Jones, University of Bath and University of Bristol, U.K.
Tsvetanka Karagyozova, Lawrence University
Hugh Kelley, Indiana University
Michael Kevane, Santa Clara University
Maureen Kilkenny, University of Nevada
Hyeongwoo Kim, Auburn University
Stephen A. King, San Diego State University, Imperial Valley
Faik Koray, Louisiana State University
Corinne Krupp, Duke University
Bun Song Lee, University of Nebraska, Omaha
Daniel Lee, Shippensburg University
Francis A. Lees, St. Johns University
Jamus Jerome Lim, World Bank Group
Rodney Ludema, Georgetown University
Stephen V. Marks, Pomona College
Michael L. McPherson, University of North Texas
Marcel Mérette, University of Ottawa
Shannon Mitchell. Virginia Commonwealth University
Kaz Miyagiwa, Emory University
Shannon Mudd, Ursinus College
Marc-Andreas Muendler, University of California, San Diego
Ton M. Mulder, Erasmus University, Rotterdam
Robert G. Murphy, Boston College
E. Wayne Nafziger. Kansas State University
Steen Nielsen, University of Aarhus
Dmitri Nizovtsev, Washburn University
Terutomo Ozawa, Colorado State University
Arvind Panagariya, Columbia University
Nina Pavcnik, Dartmouth College
Iordanis Petsas, University of Scranton
Thitima Puttitanun, San Diego State University
Peter Rangazas, Indiana University-Purdue University Indianapolis
James E. Rauch, University of California, San Diego
Michael Ryan, Western Michigan University
Donald Schilling, University of Missouri, Columbia
Patricia Higino Schneider, Mount Holyoke College
Ronald M. Schramm, Columbia University
Craig Schulman, Texas A&M University
Yochanan Shachmurove, University of Pennsylvania
Margaret Simpson, The College of William and Mary
Enrico Spolaore, Tufts University
Robert Staiger, University of Wisconsin-Madison
Jeffrey Steagall, University of North Florida
Robert M. Stern, University of Michigan
Abdulhamid Sukar, Cameron University
Rebecca Taylor, University of Portsmouth, U.K.
Scott Taylor, University of British Columbia
Aileen Thompson, Carleton University
Sarah Tinkler, Portland State University
Arja H. Turunen-Red, University of New Orleans
Dick vander Wal, Free University of Amsterdam
Gerald Willmann, University of Kiel
Rossitza Wooster, California State University, Sacramento
Bruce Wydick, University of San Francisco
Jiawen Yang, The George Washington University
Kevin H. Zhang, Illinois State University

いただいた示唆や変更案すべてを採用はできなかったものの,レビューアたちの知見は本書の改訂にとても有益だった。当然ながら、本書に残るすべての欠点については,我々だけが責任を負う。

P.R. クルーグマン
M. オブストフェルド
M.J. メリッツ
2013年10月

Paul R. Krugman (著), Maurice Obstfeld (著), Marc J. Melitz (著), 山形 浩生 (翻訳), 守岡 桜 (翻訳)
出版社 : 丸善出版 (2017/1/19)、出典:出版社HP

目次

第1章 はじめに
国際経済学って何を扱うの?
貿易の利益
貿易のパターン
どのくらい貿易するのがいいの?
国際収支
為替レートの決定要因
国際政策協調
国際資本市場
国際経済学:貿易と金融

第Ⅰ部 国際貿易理論

第2章 世界貿易の概観
誰が誰と貿易するの?
規模が大事:重力モデル
重力モデルの使い方:異常値を探す
貿易を阻害するもの:距離,障壁,国境
世界貿易のパターン変化
世界は小さくなっただろうか?
何を貿易するんだろう?
サービスのオフショア化
古い法則は今でも使えるの?
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第3章 労働生産性と比較優位:リカードのモデル
比較優位の概念
1要素経済
相対価格と供給
1要素しかない世界での貿易
貿易後の相対価格を決める
コラム 現実世界の比較優位:ベーブ・ルースの事例研究
貿易の利益
相対賃金について一言
コラム 貿易しない損失とは
比較優位をめぐる誤解
生産性と競争力
コラム 賃金は生産性を反映するだろうか?
貧民労働論
収奪
多くの財での比較優位
モデルの構築
相対賃金と専門特化
多財モデルで相対賃金を決める
輸送費と非貿易財を追加する
リカード・モデルの実証的な裏づけ
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第4章 特殊要素と所得分配
特殊要素モデル
コラム 特殊要素って何?
モデルの想定
生産可能性
価格,賃金,労働配分
相対価格と所得分配
特殊要素モデルでの国際貿易
所得分配と貿易の利益
事例研究 貿易と失業.
貿易の政治経済:予備的な見方
所得分配と貿易政策
国際労働移動
事例研究 大量移民時代の賃金の収斂
事例研究 移民とアメリカ経済
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第4章補遺:特殊要素の詳細

第5章 資源と貿易:ヘクシャー=オリーンモデル
2要素経済のモデル
価格と生産
投入の組合せを選ぶ
要素価格と財の価格
資源と生産量
2要素経済同士の国際貿易が与える影響
相対価格と貿易パターン.
貿易と所得分配
事例研究 南北貿易と所得格差
事例研究 技能偏向技術変化と所得格差
要素価格の均等化
ヘクシャー=オリーン・モデルの実証的な証拠
財の貿易を,要素貿易の代替として見る:貿易の要素内容
先進国と発展途上国間の貿易パターン
こうした試験の意味合い
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第5章補遺:要素価格,財の価格,生産判断

第6章 標準貿易モデル
貿易経済の標準モデル
生産可能性と相対供給
相対価格と需要
交易条件の変化による厚生効果
相対価格を決める
経済成長:RS曲線のシフト
成長と生産可能性フロンティア
世界の相対供給と交易条件
成長の国際的な影響
事例研究 新興工業国の成長は先進国に痛手か?
関税と輸出補助金:RSとRDの同時シフト
相対需要と関税の供給効果
輸出補助の影響
交易条件効果の意味合い:得をする人と損をする人は?
国際的な借り入れと融資
異時点間の生産可能性と貿易
実質金利
異時点間比較優位
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第6章補遺:異時点間貿易について詳しく

第7章 規模の外部経済と生産の国際立地
規模の経済と国際貿易:概観
規模の経済と市場構造
外部経済の理論
専門特化した供給業者
労働市場のプール
知識のスピルオーバー
外部経済と市場均衡
外部経済と国際貿易
外部経済,生産量,価格
外部経済と貿易パターン
コラム 世界をとじ合わせる
貿易と厚生と外部経済
動学的收穫遞增
地域間貿易と経済地理
コラム 虚飾の町の経済学
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第8章 グローバル経済の企業:輸出判断,アウトソーシング,多国籍企業
不完全競争の理論
独占:簡単なおさらい
独占競争
独占競争と貿易
市場規模拡大の影響
統合市場の利益:数値例
産業内貿易の重要性
事例研究 実際の産業内貿易:1964年北米自動車協定と,北米自由貿易協定(NAFTA)
貿易への企業の対応:勝ち組負け組,産業のパフォーマンス
生産者ごとのパフォーマンスの差
市場規模拡大の影響
貿易費用と輸出判断
ダンピング
事例研究 反ダンピングが保護主義の一種に
多国籍企業とアウトソーシング
事例研究 世界のFDIフローのパターン
外国直接投資(FDI)をめぐる企業の意思決定
アウトソーシング
事例研究 仕事を外国に輸出? アメリカのオフショア化と失業
多国籍企業と外国アウトソーシングの影響
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第8章補遺:限界収入を決める

第Ⅱ部 国際貿易政策

第9章 貿易政策のツール
基本的な関税の分析
単一産業での需要,供給,貿易
関税の影響
保護の量を計測
関税の費用と便益
消費者余剰と生産者余剰
費用と便益を計測する
コラム 因果と関税はめぐる
貿易政策のほかのツール
輸出補助金:理論
事例研究 ヨーロッパの共通農業政策
輸入割当:理論
事例研究 輸入割当の実例:アメリカの砂糖
自発的輸出制限(VER)
事例研究 自発的輸出制限の実例
ローカルコンテンツ要求
コラム ギャップの橋渡し
そのほかの貿易政策ツール
貿易政策の影響:まとめ
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第9章補遺:独占がある場合の関税と輸入割当

第10章 貿易政策の政治経済
自由貿易の支持論
自由貿易と効率性
自由貿易の追加の利益
レントシーキング
自由貿易支持の政治的な議論
事例研究 「1992」の利益
国民厚生から見た自由貿易反対論
交易条件に基づく関税支持論
国内市場の失敗に基づく自由貿易反対論
市場の失敗説はどこまで納得できるものだろうか?
所得分配と貿易政策
選挙での競争
集合行為
コラム 政治家の買収:1990年代からの証拠
政治プロセスのモデル化
保護されるのは誰?
国際交渉と貿易政策
交渉の利点
国際貿易交渉の小史
ウルグアイラウンド
貿易自由化
体制改革:GATTからWTOへ
コラム 紛争の解決――そして新たな紛争の火種に
便益と費用
事例研究 WTOの試金石
ドーハの失望
コラム 農業補助金は第三世界に痛手を与えるか?
特恵貿易協定
コラム 自由貿易圏VS関税同盟
コラム 特恵貿易の魅力とは
事例研究 南米の貿易転換
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第10章補遺:最適関税がプラスだという証明

第11章 発展途上国の貿易政策
輸入代替工業化
幼稚産業論
保護を通じて製造業を促進
事例研究 メキシコ,輸入代替工業化を放棄
製造業びいきの結果とは:輸入代替工業化の問題点
1985 年以来の貿易自由化
貿易と成長:アジアの離陸
コラム インドの躍進
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第12章 貿易政策をめぐる論争
活発な貿易政策を支持する高度な議論
技術と外部性
不完全競争と戦略的貿易政策
コラム インテル創始者の警告
事例研究 シリコンチップをめぐる争い
グローバル化と低賃金労働
反グローバル化運動
貿易と賃金再訪
労働基準と貿易交渉
環境問題と文化問題
WTOと国の独立
事例研究 バングラデシュの悲劇
グローバル化と環境
グローバル化,成長,公害
「公害ヘイブン」の問題
炭素関税論争
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

●数学補遺
要素比率モデル(第5章数学補遺)
貿易する世界経済(第6章数学補遺)
独占競争モデル(第8章数学補遺)
●索引

【掲載写真クレジット一覧】
第3章 p.38: AP Images: p.41: North Wind/North Wind Picture Archives
第8章 p.198: Carlos Osorio/AP Images; p.208: Si Wei/Color China Photo/ AP Images; p.217: © 2004 Drew Dernavich/The New Yorker Collection/ www.cartoonbank.com
第9章 p.241: Courtesy of Subaru of America, Inc.; p.245: Jockel Finck/ AP Images; p.249: Rachel Youdelman/Pearson Education, Inc.; p.253: McClatchy-Tribune Information Services/Alamy

下巻目次
第Ⅲ部 為替レートと開放経済マクロ経済学

第13章 国民所得計算と国際収支
国民所得計算
国民生産と国民所得
資本の損耗(減価償却)と国際移転
国内総生産(GDP)
開放経済での国民所得勘定
消費
投資
政府購入
開放経済での国民所得恒等式
仮想的な開放経済
経常収支と対外債務
貯蓄と経常収支
民間貯蓄と政府貯蓄
コラム 消えた赤字の謎
国際収支勘定
対になった取引の例
根本的な国際収支の恒等式
経常収支再び
資本勘定
金融勘定
純誤差脱漏
公的準備資産の取引
事例研究 世界最大の債務国の資産と負債
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第14章 為替レートと外国為替市場:アセットアプローチ
為替レートと国際取引
国内価格と外国価格
為替レートと相対価格
コラム 為替レート,自動車価格,通貨戦争
外国為替市場
参加者
この市場の特徴
スポットレートとフォワードレート
外国為替スワップ
先物とオプション
コラム アジアのノンデリバラブルフォワード為替取引
外国通貨資産の需要
資産と資産収益
リスクと流動性
利子率(金利)
為替レートと資産収益
簡単なルール
外国為替市場の収益,リスク、流動性
外国為替市場での均衡
金利平価(金利パリティ):基本的な均衡条件
現在の為替レート変化が期待収益に与える影響
均衡為替レート
金利,期待,均衡
金利が変わると今の為替レートはどうなる?
期待の変化が今の為替レートに与える影響
事例研究 キャリートレードはどう説明する?
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第14章補遺:フォワード為替レートとカバーつき金利平価

第15章 貨幣,金利,為替レート
お金の定義:概要
交換媒体としてのお金
会計単位としてのお金
価値貯蔵手段としてのお金
お金って何だろう?
お金の供給量(マネーサプライ)はどう決まるか
個人によるお金の需要(貨幣需要)
期待収益
リスク
流動性
お金の総需要(総貨幣需要)
均衡金利:通貨供給と貨幣需要の相互関係
貨幣市場均衡
金利と貨幣供給(マネーサプライ)
産出と金利
短期での貨幣供給と為替レート
貨幣,金利,為替レートを関連づける
アメリカの貨幣供給とドル/ユーロ為替レート
ヨーロッパの貨幣供給とドル/ユーロ為替レート
長期の貨幣,物価水準、為替レート
貨幣と貨幣価格
貨幣供給の変化による長期的影響
貨幣供給と物価水準の実証的証拠
長期的にみた貨幣と為替レート
インフレと為替レートの動態
短期的公格硬直性VS長期的な価格伸縮性
コラム 貨幣供給の増加とジンバブエのハイパーインフレ
貨幣供給の恒久的変化と為替レート
為替レートのオーバーシュート
事例研究 インフレ率の上昇は通貨の増価をもたらすか? インフレ目標の影響
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第16章 物価水準と長期的な為替レート
一物一価の法則
購買力平価 (PPP)
PPPと一物一価の法則の関係
絶対的PPPと相対的PPP
購買力平価に基づく長期的為替レートモデル
貨幣的アプローチの基本方程式
持続的なインフレ,金利平価, PPP
フィッシャー効果
PPPと一物一価法則の実証的証拠
PPPの問題点を説明する
貿易障壁と非貿易財
自由競争からの逸脱
消費パターン,物価水準測定の違い
コラム 一物一価の法則をめぐる肉々しい裏づけ
短期的、長期的にみたPPP
事例研究 貧困国の物価水準はなぜ低いか
購買力平価を超えて:長期為替レートの一般モデル
実質為替レート
需要,供給,長期的実質為替レート
コラム 硬直的な価格と一物一価の法則:スカンジナビアの免税店から得られた証拠
長期均衡における名目為替レートと実質為替レート
国際金利格差と実質為替レート
実質金利平価
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第16章補遺:価格伸縮的な貨幣的アプローチでのフィッシャー効果, 金利,為替レート

第17章 短期的な産出と為替レート
開放経済における総需要の決定要因
消費需要の決定要因
経常収支の決定要因
実質為替レートの変化が経常収支に与える影響
可処分所得の変化が経常収支に与える影響
総需要の方程式
実質為替レートと総需要
実質所得と総需要
短期的な産出の決まりかた
短期的な産出市場均衡:DD曲線
産出,為替レート,産出市場均衡
DD曲線の導出
DD曲線をシフトさせる要因
短期的な資産市場均衡:AA曲線
産出,為替レート,資産市場の均衡
AA曲線を導き出す
AA曲線をシフトさせる要因
開放経済の短期均衡:DD曲線とAA曲線を組み合せる
金融・財政政策の一時的な変化
金融政策
財政政策
完全雇用を維持するための政策
インフレバイアスなど政策形成の問題
金融・財政政策の恒久的シフト
貨幣供給の恒久的増加
貨幣供給の恒久的増加に対する調整
恒久的財政大
マクロ経済政策と経常収支
貿易フローの段階的調整と経常収支の動向
Jカーブ
為替レートパススルーとインフレ
経常収支、財産、為替レートの動向
流動性の罠
事例研究 政府支出乗数の大きさは?
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第17章補遺1:異時点間取引と消費需要
第17章補遺2:マーシャル=ラーナー条件と貿易弾性の実証的推計

第18章 固定為替レートと外国為替介入
なぜ固定為替レートなんかを研究するんだろうか?
中央銀行の介入と貨幣供給
中央銀行のバランスシートと貨幣供給
外国為替介入と貨幣供給
不胎化
国際収支と貨幣供給
中央銀行はどうやって為替レートを固定するか
固定為替レートでの外国為替市場の均衡
固定為替レートでの貨幣市場の均衡
グラフによる分析
固定為替レートの安定化政策
金融政策
財政政策
為替レートの変化
財政政策と為替レートの変化に対する調整
国際収支危機と資本逃避
管理フロート制と不胎化介入
資産の完全代替性と不胎化介入の無効性
事例研究 市場は強い通貨を攻撃できるか? スイスの例
資産の不完全代替性のもとでの外国為替市場均衡
資産の不完全代替性のもとで不胎化介入が与える影響
不胎化介入の影響をめぐる証拠
国際通貨制度における準備通貨
準備通貨本位制の仕組み
準備通貨国の非対称的な立場
金本位制
金本位制の仕組み
金本位制における対称的な金融調整
金本位制の利点と欠点
複本位制
金為替本位制
事例研究 外貨準備の需要
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第18章補遺1:資産不完全代替のもとでの外国為替市場均衡
第18章補遺2:国際収支危機のタイミング

第Ⅳ部 国際マクロ経済政策

第19章 国際通貨システム:歴史のおさらい
開放経済におけるマクロ経済政策の目標
国内均衡:完全雇用と物価水準の安定
対外均衡:経常収支の最適水準
コラム 国は永遠に借金できるのか――ニュージーランドの場合
通貨システムの分類:開放経済の通貨のトリレンマ
金本位制での国際マクロ経済政策(1870~1914)
金本位制の起源
金本位制下の対外均衡
物価・正貨流出入機構
金本位制の「ゲームのルール」:神話と現実
金本位制下の国内均衡
事例研究 為替レート制の政治経済:アメリカの本位制をめぐる1980年代の衝突
戦間期(1918~39)
つかの間の金への回帰
国際経済の崩壊
事例研究 国際金本位制と大恐慌
ブレトンウッズ体制と国際通貨基金 (IMF)
国際通貨基金 (IMF) の目標と構造
交換可能性と民間資本移動の拡大
投機的資本移動と危機
国内均衡と対外均衡を達成する政策オプションの分析
国内均衡の維持
対外均衡の維持
支出増減政策と支出転換政策
ブレトンウッズ体制下のアメリカの対外均衡問題
事例研究 ブレトンウッズ体制の終わり、世界的インフレ,変動レートへの移行
輸入インフレの仕組み
評価
変動為替レートの支持論
金融政策の自律性
対称性
自動安定装置としての為替レート
為替レートと対外収支
事例研究 変動為替レートことはじめ 1973~90
変動為替レートのもとでのマクロ経済的相互依存
事例研究 世界経済の変化と危機
1973年以来の教訓とは?
金融政策の自律性
対称性
自動安定装置としての為替レート
対外収支
政策協調の問題
固定為替レートは多くの国にとってそもそも選択肢になり得るか
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために
第19章補遺:国際的な政策協調の失敗

第20章 金融のグローバル化:機会と危機
国際資本市場と取引による利益
質による利得3種類
国際取引の動機としてのポートフォリオ分散
国際資産のメニュー:負債(デット)対資本(エクイティ)
国際銀行業務と国際資本市場
オフショアバンキングとオフショア通貨取引
影の銀行(シャドウバンキング)システム
銀行業務と金融の脆弱性
銀行破綻の間題
金融不安に対する政府の安全策
モラルハザードと「Too Big to Fail(大きすぎてつぶせない)」
コラム モラルハザードの単純な算数
国際銀行業務の規制という難問
ファイナンスのトリレンマ
2007年までの規制に関する国際協調
事例研究 2007~09年の世界金融危機
コラム 外国為替の不安定性と中央緩行のスワップライン
世界的な金融危機以降の国際規制のイニシアチブ
国際金融市場は資本とリスクをうまく配分できただろうか?
ポートフォリオの国際的分散の進展
異時点間取引の規模
オフショアとオフショアの利率格差
外国為替市場の効率性
まとめ
重要問題
練習問題
もっと勉強したい人のために

第21章 最適通貨圏とユーロ
ヨーロッパの単一通貨はどう発展したか
ヨーロッパの通貨協力を推進したものは何か
欧州通貨制度(1979~98)
ドイツの金融支配とEMSの信頼性理論
市場統合のイニシアチブ
欧州経済通貨同盟(EMU)
ユーロとユーロ圏の経済政策
マーストリヒト収斂基準と安定成長協定
欧州中央銀行とユーロシステム
為替相場メカニズムの改訂
最適通貨圏の理論
経済統合と固定為替レート圏の利点:GG曲線
経済統合と固定為替レート地域のコスト:LL曲線
通貨圏に参加する決断:GG曲線とLL曲線を合わせる
最適通貨圏とは?
そのほかの重要な検討事項
事例研究 ヨーロッパは最適通貨圏だろうか?
ユーロ危機とEMUの未来
危機の始まり
自己実現的な政府の債務不履行と「ドゥームループ」
さらに広範な危機と政策対応
欧州中央銀行の国債買取プログラム(OMT)
EMUの将来
まとめ
重要用語
練習問題
もっと勉強したい人のために

第22章 発展途上国:成長,危機,改革
世界経済の所得,富,成長
富裕国と貧困国のギャップ
世界の所得ギャップは縮まってきただろうか?
発展途上国の構造的な特徴
発展途上国の借り入れと負債
発展途上国への金融流人の経済学
デフォルト問題
他の資金流入方法
「原罪」の問題
1980年代の債務危機
改革,資本流入,危機の復活
東アジア:成功と危機
東アジアの奇跡
コラム なぜ発展途上国はこんなに大量の国際準備を積み上げたんだろうか
アジアの弱点
コラム 東アジアのやった正しいこととは?
アジア金融危機(アジア通貨危機)
発展途上国の危機の教訓
世界の金融「アーキテクチャ」再編
資本の移動性と為替レートレジームのトリレンマ
「予防的」措置
危機対応
事例研究 中国の固定通貨
世界資本フローと世界所得分配を理解する:地理が命運を決めるのか?
コラム 資本のパラドックス
まとめ
練習問題
もっと勉強したい人のために
●数学補遺
リスク忌避と国際ポートフォリオ分散(第20章数学補遺)

Paul R. Krugman (著), Maurice Obstfeld (著), Marc J. Melitz (著), 山形 浩生 (翻訳), 守岡 桜 (翻訳)
出版社 : 丸善出版 (2017/1/19)、出典:出版社HP

国際経済学 第3版 (現代経済学入門)

国際貿易を幅広く丁寧に学ぶ

この本は、貿易理論をテーマにしているテキストです。伝統的な貿易理論や新しい貿易理論の説明のみならず、新しく出てきた側面についても解説しており、国際経済学の内容が網羅されています。国際経済関係における問題について理論を現実とリンクさせて学べる本と言えます。

若杉 隆平 (著)
出版社 : 岩波書店 (2009/1/27)、出典:出版社HP

第3版へのはしがき

多角的自由貿易体制を基礎として半世紀以上にわたり拡大を続けてきた国際貿易が現代の世界経済の発展を支えてきたことには疑いのないところである.こうした国際貿易の拡大とともにその形態には変化が見られている.一次産品と工業品との産業間貿易の拡大,差別化された工業品の間での産業内貿易の拡大から,財・サービスにとどまらず,資本・技術の国際取引の拡大,企業の生産工程単位での国際分業の拡大などにより,国際貿易の形態は大きく変化している.また,貿易の拡大には,中国,インド,ブラジルなどの新興経済諸国やその他の東アジア諸国,EUへの新規加盟諸国などが大きな役割を果たしている.言うまでもなく,国際貿易の担い手は企業である.多様な特性を持つ企業が国際市場において取引する実態にも注目しなければならない.
国際貿易の発展は経済全体に対して利益をもたらすとしても,すべての人々に等しく利益をもたらすわけではない,利益の配分に預かることのできないグループが生まれることも確かである.このため,自由貿易は,保護主義を求める利益集団,戦略的に産業を育成しようとする国の政策によってしばしば危機に瀕することがある.GATT/WTOは自由貿易ルールを維持,深化する上での基盤としての役割を果たしているが,一方では自由貿易原則が後退するような現象が常に見られたことも確かである.1980年代に多発した先進国間での通商摩擦は,近年では,先進国と新興経済諸国の間での貿易紛争の激化に変化している.また,WTOのもとでの多国間での貿易自由化への合意が困難となっていることに対して,特定の国と国との間での地域統合を形成することにより,無差別でなく,特定国間での貿易自由化を進める動きが見られている.
このようなさまざまな国際経済をめぐる諸現象を正確に把握するためには,国際経済学の基礎的知識をいわば「文法」として理解しておくことが欠かせない.本書は,このような観点から,国際経済を分析し,理解する上で最低限度必要とされる基礎的な理論や知識を習得するための学部学生を念頭においた入門書として書かれている.この意図は,1996年に発行された『国際経済学』(第1版),2001年の同第2版と同じであるが,第3版では,国際経済の変化や国際経済学における最近までの研究蓄積を踏まえて,これまでの内容を大幅に改訂している.本書の内容は以下のように構成される.

(1) 最初に,国際経済に関するデータを紹介する.これは,国際経済の諸現象を理解するための入り口として,国際経済を統計面から理解しておくことが必要であるとの立場によるものである.
(2) 次いで,伝統的な貿易理論であるリカードの比較生産費,ヘクシャー=オリーンの貿易理論を紹介する.ここでは,国際経済学の基礎理論として習得しておくべき,比較優位の概念,国際分業の利益,完全競争下での貿易均衡,特殊的要素と国際貿易,完全競争下での輸出入にかかわる貿易政策などを取り上げる.
(3) しかしながら,寡占市場下における差別化された工業品の貿易の拡大は,伝統的な貿易理論では説明できない.このため登場したのが「新貿易理論」である.ここでは,不完全競争下での貿易理論,規模の経済性と産業内貿易,さらには先進国間での通商摩擦の一因となってきた戦略的貿易政策と貿易利益に関して取り上げる.
(4) 国際貿易において近年注目されるのは,貿易において企業が果たす役割の大きさである.企業は均質ではなく,生産性において差異がある.直接投資・技術取引の拡大,生産工程単位の海外生産委託と国際分業の拡大といった新たな貿易の拡大を解明するには,企業単位での国際取引を抜粋して論ずることはできない,近年,企業の存在を国際貿易に取り込んだ研究が進展し,新しい貿易理論を形成している.こうした「新々貿易理論」を紹介しながら,直接投資,技術移転,海外へのアウトソーシングなど国際貿易の新たな側面を取り上げる.
(5) 最後に,WTOを中心とする国際経済システムの形成に伴う諸問題について,理論と現実の両面から紹介する.

本書の主たる読者は,ミクロ経済学・マクロ経済学の初歩を修得した後に,国際経済学をはじめて学ぶ経済学部の学生を想定している.このため国際経済学の考え方をできる限りわかりやすく,かつ,コンパクトな形で解説することを第一の目的としている.各章において簡単な数式がいくつか見られるが,大半は数学に関する特別の予備知識を必要とするものではない.また,読者の直感的な理解をサポートするために図表を多用している.さらにコラムなどを通して,できる限り現実の問題に引き寄せて基礎的な理論を理解していただけるよう工夫したつもりである.
限られたスペースの中にできるだけ多くの内容を織り込むことを試みているので,厳密性を多少は犠牲にした部分があるかもしれないが,国際経済学における入門的知識を習得しようとする読者にとってなるだけ理解しやすいよう記述することに心掛けたつもりである.もちろん,本書におけるこのような構成と内容は,学部レベルで国際経済学の基礎を修得しようとする学部学生のみでなく,あらためて国際経済学の知識を整理しようとする社会人の読者にとっても役立つものと考える.

『国際経済学』(第1版)が刊行されて以来,その内容に関して数多くの先輩.同僚の経済学者から有益なコメントや示唆をいただいてきた.また,横浜国立大学,慶應義塾大学,京都大学において著者が担当してきた国際経済学の学部・大学院の講義・ゼミ,あるいは北海道大学,早稲田大学などに招かれて開講した講義などを通じて,多くの学部生・大学院生諸君からの意見を伺うことができた.これらは,極力,第3版の改訂に際して反映したつもりである.なお,伊藤萬里君(日本学術振興会特別研究員)と田中鮎夢君(京都大学大学院経済学研究科博士課程在学)には,原稿に目を通してもらうとともに索引の作成に協力してもらった.以前のものに比べて第3版は少なからず改善しているものと期待しているが,それはこれらの人たちによるところが大きいと考える.
第3版の刊行に際しても,第1版・第2版に引き続き,岩波書店編集部髙橋弘氏には,編集上の貴重なアドヴァイスを頂くとともに,改訂作業において種々お手を煩わすことになった.本書が現代の国際貿易を理解するための教科書として少しでも斬新なものとなっているとすれば,高橋氏のお力添えによるところが大きいここに心より感謝を申し上げたい.

2008年12月
若杉隆平

若杉 隆平 (著)
出版社 : 岩波書店 (2009/1/27)、出典:出版社HP

目次

第3版へのはしがき

第1章 国際経済と統計データ
1 国際収支
2 貿易構造と財別データ
3 国際貿易と企業
[column] 世界貿易の拡大と多様な国際取引

第2章 国際貿易の基礎
1 国際貿易による利益
2 交換比率と交易条件
3 生産・消費と交易条件変化
4 経済発展と貿易均衡
[column] 交易条件の変化と貿易利益

第3章 比較優位と国際貿易
1 比較優位と絶対優位
2 比較優位と貿易利益
3 交易条件の決定と貿易均衡
4 貿易利益
5 貿易パターンの決定
[column] リカードの比較生産費

第4章 生産要素の変化と国際貿易
1 ヘクシャー=オリーン・モデル
2 財価格と生産要素価格――ストルパー=サミュエルソンの定理
3 生産要素量の変化と生産――リプチンスキーの定理
[column] 食料輸入と土地

第5章 生産技術と貿易均衡
1 等生産量曲線と要素価格
2 要素価格フロンティア
3 ヘクシャー=オリーン・モデルと「統合経済」
4 生産要素表示と国際貿易
[column] 貿易制限は誰を保護するか

第6章 特殊的要素と国際貿易
1 特殊要素モデル
2 財価格の変化
3 生産要素量の変化
4 生産要素の部門間移動——短期と長期
[column] 多数財・多数生産要素における比較優位の実証研究

第7章 貿易政策の理論
1 輸入制限の部分均衡分析
2 輸出制限・補助金の部分均衡分析
3 輸入制限の一般均衡分析
4 輸出税・輸出補助金の一般均衡分析
[column] 輸出税と国際価格

第8章 不完全競争下における貿易政策
1 輸入数量制限と関税
2 市場の独占と貿易政策
3 最適関税
4 生産要素市場の価格硬直性とセーフガード
[column] 競争法の域外適用

第9章 規模経済性と産業内貿易
1 規模経済性と貿易利益
2 特化パターンと貿易利益
3 製品差別化と独占的競争
4 産業内貿易
[column] 「水平的」と「垂直的」産業内貿易

第10章 戦略的貿易政策と通商摩擦
1 戦略的貿易政策と輸出補助金
2 幼稚産業保護と外部性
3 保護貿易と技術革新
4 通商摩擦
5 非生産的利益追求行動
[column] 貿易理論と産業組織論の融合——実証研究

第11章 直接投資と多国籍企業
1 生産要素の移動
2 生産要素移動の経済的利益
3 直接投資
4 多国籍企業化の要因
5 合弁事業・ライセンシングの選択
6 日本の対外・対内直接投資
[column] 中国への直接投資

第12章 技術移転と国際貿易
1 技術移転と貿易利益
2 最適技術の選択
3 技術移転メカニズム
4 技術移転と知的財産権
5 知的財産権保護と貿易
6 技術移転と経済厚生
[column] 所得水準と知的財産権の保護

第13章 国際貿易と企業
1 海外アウトソーシング
2 企業の異質性と国際貿易
3 産業集積と国際貿易
4 産業空洞化
[column] 日本企業のオフショアリング

第14章 国際貿易ルール
1 国際貿易ルールの変遷
2 WTOの設立と貿易ルール
3 国際貿易ルールと開発途上国経済
4 環境保護
5 地域統合
[column] WTOルールと市場の質

付録1:オッファー曲線と貿易均衡
付録2:マーシャル=ラーナーの安定条件
付録3:貿易無差別曲線

リーディングリスト
索引

装丁 森裕昌

若杉 隆平 (著)
出版社 : 岩波書店 (2009/1/27)、出典:出版社HP

国際経済学をつかむ 第2版 (テキストブックス[つかむ])

国際貿易論を新しく学ぶ

この本は、国際経済学の国際貿易論に関する入門テキストです。国際経済学のエッセンスについて、誰でも理解できるように、図や具体例を用いて、数式をできる限り用いずに解説しています。データやトピックスをアップデートし,新しい章も追加しているため、新しい情報のキャッチアップもできます。

石川 城太 (著), 椋 寛 (著), 菊地 徹 (著)
出版社 : 有斐閣 (2013/9/4)、出典:出版社HP

第2版 はしがき

光陰矢のごとしで,初版を出版してからすでに6年近くがたとうとしている。「比較優位」といった国際貿易論の原理や基礎理論は不変だが,最新かつホットなトピックについては,時の流れとともに当然改訂が必要になる。また,データの更新も必要になってきた。さらに,本書を利用していただいた先生や学生からのフィードバックも少なからずあった。
今回第2版を出版するにあたっては,いただいたフィードバックに可能な限り対応するとともに,アップデートが必要なものについてはできるだけ最新の情報を盛り込むようにした。また,こうしたアップデート以外にも,新たな章として「貿易政策の政治経済学」(第7章)を加え,さらに重要ポイントの入れ替えや図の追加や修正もいくつか行った。
第7章を加えた大きな理由の1つは,以下のとおりである。2010年10月に菅直人首相(当時)が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加検討を表明し,交渉参加の是非をめぐって議論が巻き起こった。その後,2011年11月に野田佳彦首相(当時)がTPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ると表明するも正式な交渉参加は結局表明できず,自民党政権に代わって,2013年3月15日にやっと安倍晋三首相が交渉参加を正式表明した。世論調査によると,菅首相(当時)の所信表明以降ずっと,TPP交渉参加に「賛成」の有権者数が「反対」の有権者数を上回っていた。しかし,国会議員のなかでは必ずしもそうではなかったために,参加表明が大幅に遅れたのである。このような世論と国会議員間のギャップを理解するためには「貿易政策の政治経済学」の知識が役に立つ。そこで,初版では第6章の重要ポイントとして簡潔に解説していた「貿易政策の政治経済学」に大幅に加筆して,新たに章として独立させることにした。
ところで,原理や基礎理論は不変であっても,時間がたてば新たな理論やモデルが生み出される。実は,ファッションのように,研究にも特定の理論やモデルが多用されるといった流行がある。最近の「流行」は,何といっても「メリッツ・モデル」である。このモデルは,ハーバード大学のM.メリッツが2003年にエコノメトリカ(Econometirica)という学術専門雑誌に発表したものである。最近の研究成果の実に多くがこのモデルを基礎にしていてル・スカラー(Google Scholar)によると,現在までに何と5000を超える文献がこの論文を引用している。メリッツ・モデルの厳密な展開は難しいが,そのエッセンスは明快なので,unit6の重要ポイントとして解説することにした。最先端の研究の雰囲気を少しでも感じていただければ幸いである。
今回の改訂において,データの収集や産業内貿易指数の計算等において笹原彰氏に手助けをしていただいた。また,有斐閣の渡部一樹氏には初版に引き続きすばらしいサポートをしていただいた。2氏にはこの場を借りて感謝したい。

2013年6月
著者一同

はしがき

著者の1人が学部生時代に読んだ国際経済学の教科書のはしがきに「国際経済関係が経済問題の中で大きな比重を占めている」(小宮隆太郎・天野明弘著『国際経済学』岩波書店,1972年)とある。経済問題の具体的な中身は変容しているとしても,その教科書が書かれてから30年以上たった現在でもこの言葉はそのまま成り立つといってよいだろう。新聞の経済面を広げれば,国境を越えた企業の提携・買収,自由貿易交渉,貿易をめぐる摩擦,海外への企業進出など,国際経済に関するさまざまな話題や問題が常に紙面をにぎわしている。このような話題や問題を目の当たりにして,どのような背景があるのか,どのような影響があるのかなど,これらをより深く理解してさらなる考察を行おうとすれば,そのための理論的枠組みが必要不可欠である。本書はそのための手助けとなるべく執筆された。
国際経済学は,大きく分けて,モノ・サービスの国境を越えた取引を扱う「国際貿易論」とカネの国境を越えた取引を扱う「国際金融論」に分かれる。本書は,国際貿易論に焦点を当てて,その理論的枠組みを平易に解説している(国際金融論については,本シリーズの『国際金融論をつかむ』で詳しく論じられるので,そちらを読んでいただきたい)。とくに,本書は,「比較優位」といった国際貿易論の基礎理論から「サービス貿易とIT」や「貿易と環境」といった最新かつホットなトピックまで,広範に,かつなるべくわかりやすく解説することを心がけている。ITや環境の問題が国際貿易とどのように関係しているのかについて教科書レベルで解説されているのは,本書の大きな特長といえよう。また,多くの国際経済学の教科書が基礎理論の解説やモデルの数式の説明にかなりの紙幅を割いているのと対照的に,本書は,基礎理論をさまざまなトピックにどのように応用するのかということに主眼を置いて執筆された。さらに,国際貿易の制度についても比較的詳しい解説を行っている。これによって,本書を一読すれば,国際経済学の初学者でも,モノ・サービスの国境を越えた取引に関するさまざまな話題や問題を経済学的見地から幅広く理解できるようになるであろう。
本書は,1つのunitで1つのトピックを解説する構成になっている。unitのタイトルをみれば何を学ぶのか,一目瞭然である。それぞれのunitには重要ポイントや確認問題も含まれているので,unitごとにそれぞれのトピックを勉強できるように工夫されている。もちろん,unit1から順に最後まで読んでいけば,国際貿易論の基礎から最新のトピックまで,すべてカバーできる。すでに国際貿易論を勉強した人であれば,興味あるunitを読むのでもかまわない。
本書は,3人の著者による共同執筆である。内容は,著者たちが学部生時代から今日までに学習・研究してきたことに基づいている。国際経済学の初歩から著者たちを根気よく指導してくださった恩師,池間誠,故池本清,伊藤元重,小島清,佐竹正夫,若杉隆平,J.R.マークセン,J.R.メルヴィンの諸教授に感謝したい。執筆の際には,互いに原稿をチェックし合いながら,何度も修正を重ねた。また,草稿段階では,市田敏啓,黒田知宏,神事直人の諸先生,荒知宏,石原誠太郎,小野有以,河村圭一郎,小森谷徳純,高田智恵子,中平早紀,平尾晋吾,札元絢子,山崎晃志の諸氏に,草稿の一部あるいは全体についてコメントをいただいた。記して感謝したい。
さらに,有斐閣の秋山講二郎,長谷川絵里,渡部一樹の3氏には,本書の企画の段階から完成まで,多大なサポートをしていただいた。とくに,原稿が遅々として進まない状況のなかでも,辛抱強く見守っていただいた。本書がこのような形でついに完成したことを大変うれしく思うと同時に,3氏に心から感謝したい。

2007年8月
著者一同

著者紹介

石川 城太(いしかわ・じょうた)
unit0,第5,12章,第3章共同執筆
1960年,千葉県に生まれる。1983年,一橋大学経済学部卒業。1990年,ウェスタン・オンタリオ大学大学院経済学研究科博士課程修了。
現在,一橋大学大学院経済学研究科教授,Ph.D.(経済学博士)。
主な著作に,“Rent-shifting Export Subsidies with an Intermediate Product” (with B. J. Spencer, Journal of International Economics, 1999), “Trade Liberalization and Strategic Outsourcing” (with Y. Chen and Z. Yu, Journal of International Economics, 2004), “Greenhouse-gas Emission Controls in an Open Economy” (with K. Kiyono, International Economic Review, 2006), “Environmental Management Policy under International Carbon Leakage” (with K. Kiyono, International Economic Review, 2013)などがある。

椋 寛(むくのき・ひろし)
第1,6~8,10,11章,第2~4,9章共同執筆
1974年,東京都に生まれる。1997年,横浜国立大学経済学部卒業。2002年,東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。
現在,学習院大学経済学部教授,東京大学博士(経済学)。
主な著作に,「日本の地域別輸出入関数の推定」(松本和幸編『経済成長と国際収支』,日本評論社,2003年,所収), “Multilateralism and Hub-and-Spoke Bilateralism” (with K. Tachi, Review of International Economics, 2006), “Economic Integration and Rules of Origin under International Oligopoly” (with J. Ishikawa and Y. Mizoguchi, International Economic Review, 2007), “FDI in Post-Production Services and Product Market Competition” (with J. Ishikawa and H. Morita, Journal of International Economics, 2010)などがある。

菊地 徹(きくち・とおる)
第2~4,9章共同執筆
1968年,北海道に生まれる。1991年,小樽商科大学商学部卒業。1993年,神戸大学大学院経済学研究科博士課程前期課程修了。
元神戸大学大学院経済学研究科教授(2011年逝去),神戸大学博士(経済学)。
主な著作に,“Interconnected Communications Networks and Home Market Effects” (Canadian Journal of Economics, 2005), “A New Dynamic Trade Model of Monopolistic Competition and Increasing Returns” (with K. Shimomura, Review of Development Economics, 2007), 『コミュニケーションネットワークと国際貿易』(有斐閣,2007年), “Time Zones as a Source of Comparative Advantage” (Review of International Economics, 2009), などがある。

石川 城太 (著), 椋 寛 (著), 菊地 徹 (著)
出版社 : 有斐閣 (2013/9/4)、出典:出版社HP

目次

unit0 序 国際経済学とは
国際経済学とは何か
国際貿易は特別な経済活動か
特長と読み方
本書の概要

第1章 比較優位
Introduction1
unit1 比較優位と分業の利益
交換の利益
特化の利益
絶対優位と比較優位
比較優位と特化の利益
unit2 比較優位と国際貿易
リカード・モデルと比較優位
閉鎖経済と不完全特化
自由貿易と完全特化
相対価格でみる比較優位
商品が多数ある場合の比較優位
KeyWords1

第2章 部分均衡分析
Introduction2
unit3 貿易利益
消費者余剰
生産者余剰
閉鎖経済均衡価格と貿易パターンの決定
貿易利益
輸入需要曲線と輸出供給曲線
2国モデルによる分析
unit4 比較優位の決定要因
天然資源の存在量
資本蓄積
生産要素の賦存量
生産技術
規模の経済
KeyWords2

第3章 産業内貿易と規模の経済
Introduction3
unit5 産業間貿易と産業内貿易
貿易の成長と産業内貿易
水平的産業内貿易と垂直的産業内
unit6 規模の経済,製品差別化とフラグメンテーション
産業レベルにおける規模の経済
企業レベルにおける規模の経済と水平的産業内貿易
フラグメンテーションと垂直的産業内貿易
KeyWords3

第4章 貿易政策 基礎
Introduction4
unit7 関税・輸入割当の効果
輸入関税の効果
輸入割当の効果
輸入関税と生産補助金の比較
unit8 保護貿易を擁護する主張
最適関税
市場の失敗
雇用の確保
KeyWords4

第5章 貿易政策 応用Ⅰ
Introduction5
unit9 戦略的貿易政策
戦略的貿易政策とは
関税政策の戦略的活用
輸出補助金政策の戦略的活用
一方的措置
戦略的貿易政策の限界
unit10 動学的規模の経済のもとでの貿易政策
動学的規模の経済
比較優位の創出
幼稚産業保護論
輸出促進政策としての輸入制限政策
KeyWords5

第6章 貿易政策 応用Ⅱ
Introduction6
unit11 アンチダンピングとセーフガード
増加するアンチダンピングとセーフガードの発動
日本の状況
ダンピングとアンチダンピング
セーフガード
unit12 アンチダンピングとセーフガードの経済学
なぜダンピングを行うのか
アンチダンピングの経済的効果
セーフガードの経済的効果
KeyWords6

第7章 貿易政策の政治経済学
Introduction7
unit13 保護貿易はなぜ支持されやすいのか
政府の目的は何か
貿易自由化への支持と不支持
貿易のデメリットに関する認識不足
保護貿易のコスト試算
集合行為論
unit14 政治活動と貿易政策の決定
利益団体の政治活動
利益団体による献金競争
選挙における投票
利益追求行動による資源の浪費
KeyWords7

第8章 国際貿易のルールと貿易交——GATTとWTO
Introduction8
unit15 GATTとWTOの歴史と現状
世界恐慌と国際貿易の急速な縮小
GATTの発足と日本の加入
GATTにおける関税交渉の歴史
WTOへの改組
近年の多国間貿易交渉の動向
unit16 GATTとWTOの制度
最恵国待遇の原則
内国民待遇の原則
数量制限禁止の原則
補助金・相殺措置
紛争解決手続き
KeyWords8

第9章 サービス貿易とIT
Introduction9
unit17 サービス貿易の定義と現状
サービス貿易の定義
GATS
サービス化とサービス貿易の現状
unit18 ITと貿易
インターネットの普及と電子商取引
インターネットを用いた新たな貿易
ビジネス・サービス貿易と生産の集中化
KeyWords9

第10章 地域貿易協定——FTAとCU
Introduction10
unit19 地域貿易協定の現状と制度
増加する地域貿易協定
地域貿易協定の種類
地域貿易協定締結に関するルール
サービス部門の地域貿易協定
FTAと原産地規則
unit20 地域貿易協定の経済学
締結国の厚生変化――貿易創出効果と貿易転換効果
非締結国の厚生変化――地域貿易協定の交易条件効果
地域貿易協定は多国間の貿易自由化を促進するか
KeyWords10

第11章 国際要素移動
Introduction11
unit21 多国籍企業と直接投資
国境を越える企業
増加する直接投資
増加するM&Aと企業連携
直接投資の目的
直接投資が貿易に与える影響
企業内貿易の発生とトランスファー・プライシング
受入国に与える影響
投資国に与える影響
プロダクト・サイクル説と雁行形態論
直接投資に関する政策
unit22 労働の国際移動と外国人の受け入れ問題
国際的な労働移動の現状
なぜ労働移動は起こるのか
移民と経済集積
KeyWords11

第12章 貿易と環境
Introduction12
unit23 貿易政策から環境への影響
貿易は環境にとって良いのか,悪いのか
貿易や直接投資の自由化が環境に及ぼす影響
国際排出権取引
環境ラベル
unit24 環境政策から貿易への影響
環境政策が貿易に与えうる影響
環境税
多国間環境協定とGATT/WTOとの整合性
KeyWords12

文献案内
確認問題解答
事項索引
人名索引

イラスト:与儀勝美

重要ポイント一覧
スポーツで考える比較優位
日本の開国と比較優位
ヘクシャー=オリーン定理は本当に成り立つのか
イタリアのタイル産業の集積
メリッツ・モデル
日本車の対米輸出自主規制
保護の大きさをどのように測るか――有効保護率について
不完全競争
囚人のジレンマ
アンチダンピングと(一般)セーフガードの違い
セーフガード措置はアメリカのバイクメーカーを救ったか
輸入自由化を支持しているのは誰か
二大政党制における選挙公約の決定
農産品に対する日本の関税率
内国民待遇と焼酎問題
原産地規則による原産地認定
関税の優遇度の計測
児童労働と企業の社会的責任
日本における外国人看護師・介護士の受け入れ問題
クリーン開発メカニズム
EUによるホルモン牛肉の禁輸問題

石川 城太 (著), 椋 寛 (著), 菊地 徹 (著)
出版社 : 有斐閣 (2013/9/4)、出典:出版社HP