【最新】発達心理学を学ぶおすすめ本 – 独学もできる入門から

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発達心理学とは?

生涯の間でいつ、どのように心の変化が現れるのか。 人が生まれてから亡くなるまで、胎児期から乳幼児期、幼児期、小児期、青年期など様々な時期を過ごします。このような人間の発達についての心理についていくつかの期間に質的および量的に焦点を当てていくのが発達心理学となります。今回はその発達心理学についての書籍を紹介します。心理学を勉強して、更に専門的な発達心理学について学ぼうとする方におすすめです。

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出典:出版社HP

問いからはじめる発達心理学 (有斐閣ストゥディア)

生涯にわたる心の発達がこの1冊でわかる

問いからはじめる、とタイトルに有るように各章に問が設定されていて、この構成によってストーリーを持たせるようになっているので理解がしやすくなっています。これまで専門の勉強をしていない、子どもの発達に興味のある保護者などが読んでも理解できるでしょう。一冊で簡単に概要がつかめる良書です。

坂上 裕子 (著), 山口 智子 (著), 林 創 (著), 中間 玲子 (著)
出版社: 有斐閣 (2014/12/20)、出典:出版社HP

はしがき

生涯発達心理学の授業を受け持つようになってから、約15年が経ちました。その間、学生とやりとりをする中で、いくつかの変化を感じ取ってきました。1つ目は、幼い子どもに興味や関心をもつ学生がかつてよりも減り、将来の子育てへの不安を表す学生が増えたこと、2つ目は,高齢者や介護の問題に関心をもつ学生が増えたこと、3つ目は、前向きではありながら、将来への漠然とした不安を訴える学生が増えたことです(あくまで私の個人的な印象です)。

幼い子どもに興味や関心をもつ学生が減り,高齢者に関心をもつ学生が増えた背景には、実生活の中で子どもに接することが少なくなったと同時に,街中で高齢の方を見かけたり、自分の親が祖父母の介護をする姿を見たりすることが増えたことなどがあるのでしょう。また,多様な生き方が認められるようになった現代では、自己責任のもとに1つの選択肢を選ぶということが、かつてよりも大変な作業になっているのかもしれません。いまはさまざまな情報が簡単に手に入り,自分であちこちに足を運ばなくても、部屋にいながらにしてある程度の情報は得ることができます。しかし、そこに実体験が伴っていなければ,また,実体験を通して得られた手応えや自信がなければ、どんなに多くの情報があったとしても、漠然とした不安が残るのは当然のことだといえるでしょう。「知らない」「わからない」ということはしばしば、人に不安を引き起こします。

幼い子の世話をしたことがない学生が,将来の子育てに不安を感じるのは 無理もありません。しかし、身近にいる幼い子どもに意識をして注意を向け、子どもがなぜそのような行動をとるのかを考えたり,自分が実際に見た子どもの行動と研究知見とを照らしてみたりすると、「子どもっておもしろいかも。将来,自分でも子どもを育ててみたい」と思う学生は少なくないようです。また、子どもから大人になっていくときに、人はこんなことを考えたり、こんなことに悩んだりする、という知見にふれたり、学生同士で将来について話し合ってみたりすると、少なからぬ学生が「こんなことを思っていたのは、自分だけではなかったんだ」と安堵の気持ちをもつようです。

私たちの多くは、似たような変化を経験し,発達していきます。私たちの発達には共通性があるからこそ、同世代の仲間と興味や関心,悩みを共有することができるのだといえます。また、少し先を行く世代の人は、多くの人がそうした悩みを乗り越えていくことを体験的に知っているからこそ、自分よりも若い世代の人に寄り添い、支えていくことができるのです。また、若い世代の人は、先を行く世代の人が過去にそうした悩みを乗り越え、いまはその年代ならではの悩みや問題に向き合っていることを知ることで、自分を支えてくれた人への感謝や尊敬の念をもつようになるのでしょう。一方で、私たちの発達には共通性だけではなく、個別性もあります。一人ひとりが生まれもった資質は異なることに加え、発達上のある状態に至るまで、どのような人に出会い、どのような経験をしてきたのかは、人によって実にさまざまです。その人が出会う一人ひとりの人や、1つひとつの出来事が,その人の発達を形づくっていくのだといえます。

この本では、発達とはどのような現象であるのか,また,人は一生涯を通して、どのようなメカニズムのもとに,どのような発達を遂げていくのかを扱っています。本の中では,「この時期にはこのような変化が起こる」という発達の共通性の記述に紙面の多くを費やしていますが,発達の共通性を実体験をもとに確かめることに加え,発達の個別性について知るためにも、自分自身の育 ちを振りかえってみたり、身近な人たちと話をしたり、周りの人たちを観察してみて下さい。そのためのツールとして、各章にはQUESTION(クエスチョン)を設けてあります。ぜひ、いろいろな人たちとQUESTIONの答えを分かち合って、発達についての見方を広げ、考えを深めていってほしいと思います。

最後に、筆者ら4人は、心理学を学びたい学生や教職を目指したり教職についていたりする学生、福祉の仕事を志している学生など、異なる志望をもつ学生を対象に、異なる地域の大学で教鞭をとっています。また、異なる年代。人たちを対象に、研究や支援の仕事をしています。この本を作成するにあたって、これまで教育や研究,支援の場で関わってきたたくさんの人たちを思い浮かべながら、人の育ちや発達についてどんなことを伝えたいか、どんなことを知っておいてほしいかを4人で考え、何度もミーティングを重ねてきました。

そのような意味ではこの本の章すべてに,筆者ら全員の思いがこめられています。本書が,学問としての知識を得るためだけでなく、あなた自身やあなたの周りの人を理解し,あなたのこれからの歩みを考える手がかりの1つとなってくれれば,筆者としてはこれほど嬉しいことはありません。
筆者らもまた、人として、職業人として発達途上にあり,本書の作成を通して得られた理解や発見がたくさんありました。今回,このような機会を設けてくださり、出版に至るまで細やかなサポートをしてくださった有斐閣の中村さやかさんに,深く感謝いたします。

2014年11月
著者を代表して 坂上 裕子

インフォメーション

●各章のツール
各章には、KEYWORDS, QUESTION, POINT が収録されており,適宜Column.comment が挿入されています。
・本文中の重要な語句および基本的な用語を、本文中では太字(ゴシック
体)にし、章の冒頭には KEYWORDS 一覧にして示しています。
・本文中に、学びのスイッチを入れるツールとして、「考えてみよう」「やってみよう」と読者へ問いかけるQUESTIONを設けています。自分のことを想像したり、振りかえったり、身近な人たちと話をしたり、周りの人たちを観察したりしてみてください。
・章末には、各章の要点をわかりやすく簡潔にまとめたPOINT が用意されています。
・また、本文の内容に関連したテーマを、読み切り形式でColumn として適宜解説しています。
・本文中で右上に★印をつけている文や用語については、より理解を深めるための補足情報を,comment として該当頁の下部で解説しています。
●索引
巻末に、索引を精選して用意しました。より効果的な学習に役立ててください。
●ウェブサポートページ
本書を利用した学習をサポートする資料を提供していきます。 http://www.yunikaku.co.jp/static/studia ws/index.html

著者紹介

坂上 裕子(さかがみ ひろこ) 担当序, 第1,2,4,5,6章,13章(共同執筆)
青山学院大学教育人間科学部准教授
主著
『大学1・2年生のためのすぐわかる心理学』(共著)東京図書,2012年。
『はじめての質的研究法——生涯発達編』(共編)東京図書,2007年。
『子どもの反抗期における母親の発達――歩行開始期の母子の共変化過程』風間書房,2005年。
読者へのメッセージ
私たちは皆、それぞれが、それぞれの年代の発達上の課題に向き合いながら、生活を共にし、日々を積み重ねています。このテキストが、あなた自身のことを、そして、あなたにとって大切な人たち、あなたの身近にいる人たちを理解するうえで,役に立つことを願っています。

山口智子(やまぐち さとこ) 担当第11,12章,13章(共同執筆)
日本福祉大学子ども発達学部教授
主著
『老いのこころと寄り添うこころ介護職・対人援助職のための心理学』改訂版(編著)遠見書房,2017年。
『働く人びとのこころとケア介護職・対人援助職のための心理学』(編著)遠見書房,2014年。
『人生の語りの発達臨床心理』ナカニシヤ出版,2004年。
読者へのメッセージ
発達心理学は、自己理解を深めるだけでなく、臨床実践にも役立ちます。特に,発達の時期や道筋の理解、今ここでの交流を楽しむ姿勢,発達を期待するまなざし、発達を促す環境づくりが重要です。また,私の研究テーマ「青年や高齢者は、自己や人生をとのように語るのか」は、大学生のときに感じた「なぜカウンセリングで話すとよくなるのか」という問いとつながっています。20歳前後に見つけた問いは貴重な問いです。この本を、あなたの問いの発見にも役立ててほしいと思います。

林 創(はやし はじむ) 担当第3,7,8章
神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授
主著
『子どもの社会的な心の発達コミュニケーションのめばえと深まり』金子書房, 2016年。
『他者とかかわる心の発達心理学―子どもの社会性はどのように育つか』(共編著)金子書房,2012年。
『大学生のためのリサーチリテラシー入門―研究のための8つの力』(共著)ミネルヴァ書房,2011年。
読者へのメッセージ
人の心の働きは,その発達の様子を知ることで、ますますおもしろくなります。各章に設けられた問いを考え、このテキストを読み終えた頃には、「子どもはこんなふうに考えるんだ」「青年や高齢者にはこんな特徴があるんだ」といったように,「世の中の見え方」や「ヒトに対する感じ方」が変化していることにきっと驚かれることでしょう。このテキストによって,さらに発達心理学に関心を深めていただけると嬉しいです。

中間 玲子(なかま れいこ) 担当 第9,10章 兵庫教育大学大学院学校教育研究科教授
主著
『自己の心理学を学ぶ人のために』(分担執筆)世界思想社,2012年。
『自己形成の心理学』風間書房,2007年。
『あなたとわたしはどう違う?パーソナリティ心理学 入門講義』(共著)ナカニシヤ出版,2007年。
読者へのメッセージ
自分がどんな人間なのか、どのように生きていけばいいのか。そんなことを考えるとき、ちょっと広い視点に立ってみると、違った世界が見えてきます。ヒトであることの不思議,この時代・社会に生まれた不思議。その不思議の中で、いろんな人と出会い、経験し、そしてこういう自分になってきたという事実。自分が生きているということの醍醐味を味わうヒントになれば幸いです。

坂上 裕子 (著), 山口 智子 (著), 林 創 (著), 中間 玲子 (著)
出版社: 有斐閣 (2014/12/20)、出典:出版社HP

目次

はしがき

CHAPTER 0 ヒトとして生まれ、人として生きる
人の生涯をめぐる普遍的な営みと今日的課題
本書の概 要と構成
発達段階と発達課題
本書を手にしたあなたへ

CHAPTER 1 発達するとはどういうことか
1 発達観の変化
発達のゴールとしての大人
寿命の伸長とライフサイクルの変化
発達するのは子どもだけか?
求められる新たな発達観
2 生涯発達心理学の理論的枠組み
獲得と喪失としての発達
発達の多次元性・多方向性
多様な要因の相互作用の結果としての発達
発達の可塑性
歴史に埋め込まれた個人の発達
3 進化の産物としてのヒトの発達
大きな脳
他者の心を理解すること、自己を反省的に見ること
長い子ども期と高齢期の存在
4 社会や文化の産物としての発達
遺伝と環境生まれは育ちを通して
遺伝情報が発現するメカニズム
形質の個人差は何によって説明されるのか

CHAPTER 2 生命の芽生えから誕生まで
1 生命の芽生え一受胎から胎芽まで
胎児にとっての環境としての母体
2 胎児はお腹の中で何をしているのか
活発に動く胎児
五感の発達
胎児は感情を経験している?
胎児期からはじまる親子のコミュニケーション
母親は胎児の存在をどう感じているのか
母子の共同作業としての出産
4 出生をめぐる現代的な問題――出生前診断をめぐって
出生前診断とは
晩産化と新型出生前診断

CHAPTER 3 見て・さわって・感じる 赤ちゃんがとらえる世界
1 ピアジェの発達段階
ピアジェの発達理論
4つの発達段階
2 赤ちゃんは世界を知っている?
感覚運動期の発達
表象の発達と物理的世界の把握
数の理解
3 社会性の萌芽
顔の認知
社会性の発達
Column 赤ちゃんの心を調べる方法

CHAPTER 4 他者との関係性を築く コミュニケーションと人間関係の発達
1 他者からの関わりを引き出す生物学的基盤
2 乳児一養育者間の初期コミュニケーション
泣きと微笑み
コミュニケーションの担い手になる
心の理解を支える養育者の関わり
3 コミュニケーションの中で育まれるもの−アタッチメントの発達
アタッチメントとは
アタッチメントの発達
安全基地としての養育者
アタッチメントの個人差
アタッチメントの個人差の起源
発達早期におけるアタッチメントの連続性と影響
4 多様な関係が支える発達
さまざまな人間関係の中で育つ子ども
発達の可塑性

CHAPTER 5 「いま」「ここ」をこえて 言語と遊びの発達
1 内的世界を支える表象と象徴機能
表象と象徴機能の出現
シンボルの使用と世界の広がり
シンボルとしての言語の特徴
2 言葉が芽生えるまで
音声知覚と構音の発達
注意や意図の理解の発達
共同注視から共同注意へ
共同注意から話し言葉へ
3 幼児期の言語発達
初語の出現
語彙の発達
統語の発達
談話(ディスコース)の発達
読み書きへの関心
行動調整,思考の道具としての言葉へ−外言と内言
4 遊びが広げる子どもの世界
遊びとは
遊びの発達
遊びにおける仲間との関わり
言葉と遊びを育てるために

CHAPTER 6 自分を知り、自分らしさを築く 関わりの中で育まれる自己
1 自己のさまざまな側面
2 主体としての自己を知る
自己感覚の芽生え
自他の意図への気づきと,意図の共有と対立
3 客体として自己をとらえる
客体的自己の認識
第1次反抗期のはじまり
自己意識的感情の出現
4 幼児は自己をどうとらえているのか
自己の経験を語ること
概念的自己(自己概念)の発達
拡張自己の発達
5 自己制御の発達
自己制御とは
自己制御の発達とその文化差
自己制御の個人差

CHAPTER 7 関わりあって育つ 仲間の中での育ち
1 心の状態の理解
感情の理解
欲求や信念の理解
誤信念課題
2 心の理論にもとづく社会性の発達
うそと欺き
洗練されたうそ
道徳的判断
共感性と向社会的行動
実行機能の発達
3 仲間の中での育ち
仲間関係
妬みと関係性攻撃

CHAPTER 8 思考の深まり 学校での学び
1 子どもと学校
前操作期の思考の特徴
具体的操作期の思考の特徴
形式的操作期の思考の特徴
移行期のつまずきやすさと質的飛躍
学習行動と学習支援
2 記憶の発達
記憶のしくみ
ワーキングメモリ
長期記憶
3 動機づけ
内発的動機づけと外発的動機づけ
動機づけを高めるには
4 思考の深まり
メタ認知を育む
Column 領域固有性

CHAPTER 9 子どもからの卒業
1 青年期の発達的変化
2 自己に関わる認知の変化
自己理解の発達
時間的展望の発達
自己への否定的感情の高まり
青年期の自己中心性
3 青年期の友人関係
友人関係の発達
友人関係と自己形成
友人関係に伴う不安
友人関係のチャンネルの変化
4 青年期の恋愛関係
友人関係から恋愛関係へ
青年期の恋愛の特質
恋愛関係が親子関係に与える影響
5 青年期の親子関係
親子関係の時代的変化
コミュニケーションによる親子関係の発達
Column 青年期の自我体験

CHAPTER 10 大人になるために
1 成人期のはじまり
2 アイデンティティの発達
アイデンティティの感覚
アイデンティティ地位
生涯にわたるアイデンティティ発達
アイデ ンティティ発達の二重構造モデル
3 職業選択とキャリア発達
現代社会における職業生活の様相
「やりたいこと」へ のこだわり
主体性を強制される時代
職業キャリアにおける性差の問題
4 家庭生活における発達
結婚という選択
結婚後のライフコース
ライフコース選択に関する意識の実態
男性の家事参加と夫婦関係
性役割観の形成
5 成人期を生きるということ
Column 職業選択の重視点

CHAPTER 11 関わりの中で成熟する
1 世代性と人生の折り返しの危機
2 職業生活における発達
キャリア発達
メンタリング−先輩に育てられ後進を育てる関わり
女性の職業生活
3 親としての発達
親になること――「授かる」から「つくる」へ
親になる準備と子育て初期
子育てによる親の成長
子どもの自立を援助する難しさ
子育ての卒業と夫婦関係の見直し
子育て不安と専業主婦による子育ての見直し
4 老親の介護や看取りにおける発達
「老親扶養」の意識変化
介護ストレス
介護・看取りによる成長
5 ジェネレイショナル・ケアの担い手としての成熟
Column アロマザリング−比較行動学における子育て

CHAPTER 12 人生を振りかえる
1 老いるとはどういうことか
加齢についての理解とエイジズム
生物学的加齢と心理的加齢の関連―心理的加齢モデル
2 認知機能の加齢変化
記憶
知能
認知機能の低下を補償する方略と熟達化
認知機能の低下に対する予防的介入
知恵
3 パーソナリティの発達
人生の振りかえり
超高齢期の課題と老年的超越
人生の意味づけの変容過程
4 発達を支える家族や社会のネットワーク
サクセスフル・エイジングと生きがい
家族関係
ソーシャル・ネットワークとコンボイ・モデル
5 高齢者の死生観と死をめぐる問題
終末期の死のプロセス−キューブラー・ロスの理論
日本の高齢者の死生観と「お迎え」体験
延命治療と尊厳死−超高齢社会を生きる
Column バトラーの提言−プロダクティヴ・エイジングと長寿革命

CHAPTER 13 発達は十人十色 発達におけるつまずきをどう理解し支えるか
1 発達におけるつまずき−発達を理解することの重要性
2 発達障害
発達障害(神経発達症)とは
発達障害への支援
3 児童虐待とアタッチメントの障害
虐待を引き起こす背景―リスク要因とプロテクト要因
虐待による子どもへの影響
4 長い時間軸から見たつまずきと可塑性
乳幼児期
児童期・青年期
成人期
5 つまずきの背景にある時代や文化
生活環境が激変する時代を生きる
文化の影響−性同一性障害から性別違和へ
6 つまずきの理解と支援に求められる発達的観点
生物・心理・社会的側面から総合的につまずきをとらえる
時間的・発生的な過程に位置づけて、つまずきをとらえる
障害や問題を内包する存在として、社会の中で生きる

事項索引
人命索引

本書のコピー,スキャン、デジタル化等の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用でも著作権法違反です。

坂上 裕子 (著), 山口 智子 (著), 林 創 (著), 中間 玲子 (著)
出版社: 有斐閣 (2014/12/20)、出典:出版社HP

CHAPTER 序章 ヒトとして生まれ,人として生きる

KEYWORDS
時代、社会、生涯発達生物学的要因(遺伝)、環境的要因、個人差、遺伝と環境の相互作用、発達段階、エリクソン、危機、発達課題

QUESTION 0-1
あなたはこれまでどのようなことを経験し、どのようなことに悩み、それを乗り越え、育ってきたのだろうか。また、これからの人生において、どのようなことがあなたを待ち受けているだろうか。

QUESTION 0-2
あなたの父母や祖父母などまわりの年配の人に、どのような子ども時代、青年時代を送っていたのか、また、いまの自分と同じ歳の頃にどのような毎日を送り、どのようなことを考えて生活していたのか、話を聞いてみよう。

人の生涯をめぐる普遍的な営みと今日的課題

少子高齢化が進行する昨今、日本では、出産・子育てや子どもの育ち,男女の働き方、老いや看取りなど、人の生涯を取り巻く社会的状況は大きく変化している。これと並行して、人生の節目となるさまざまな出来事(結婚,就職,出産,子育てなど)をいつ、どのように経験するのか(あるいはしないのか)も変化し、多様になってきたといえる。

現代の青年の親世代が育った1970年代,日本では第2次ベビーブームを加え、小学校が次々と増設されていった。子どもたちは道路や空き地で群れ,小学校の中学年にもなると「ギャング」と呼ばれる同性・同年代の仲間で構成される集団を形成し、大人の監視から外れたところで子ども独自の文化を築いていた。また、中学校や高校での校内暴力、暴走族などが社会問題となり,若者の憧れであったミュージシャンが書く詞には、大人や社会への反発の言葉が綴られていた。高校や大学卒業後,企業などに就職した女性は、数年間の勤務を経た後、寿退社(結婚を機に会社を辞め家庭に入ること)し、専業主婦になるのが一般的であった。当時のトレンディドラマでは、郊外のマイホームへの憧れや、大家族の中での葛藤,嫁姑の確執がしばしば描かれていた。しかし、21世紀においては、出生率の低迷と子ども数の減少、三間(子ども が遊ぶ時間、空間,仲間の3つの「間」)の欠如,青年における反抗の希薄化,非婚というライフコースを選択する(あるいはそうした選択を余儀なくされる)男女の増加,晩婚化と晩産化,単身高齢者世帯の増加などが報告され、かつては想像できなかった事態が日本社会では進行している。2010年の国勢調査では,世帯構成のうち、これまでもっとも多い割合を占めてきた夫婦と子どもからなる世帯の数を,単身世帯数がはじめて上回った。これらの現象は、個としての意思や生き方が尊重される方向へと、人びとの価値観や社会が変化してきたことの現れともいえよう。同時にこれは、同世代,異世代の人たちが同じ時間,空間で体験を直接的に共有し、密に関わりながら生活することへの忌避が高まっていることを示唆しているともいえる。

このように人の生涯のありようは、時代や社会の影響を多分に受けている一方では、時代や社会の変化にかかわらず、普遍的なことも存在する。それ人はたった1人では生まれることも、生きていくこともできない、という。である。私たちの大多数が、家族という集団のもとに生まれ、長じるとさまざまな社会集団に所属し、さまざまな人たちと出会い、支え合いながら育ち、育てられていく。そしてやがては次の世代を生み、育て、人生の最期を迎える。

坂上 裕子 (著), 山口 智子 (著), 林 創 (著), 中間 玲子 (著)
出版社: 有斐閣 (2014/12/20)、出典:出版社HP

まんがでわかる発達心理学 (こころライブラリー)

ストーリーだからわかりやすい

渡辺弥生教授ご本人が大学で発達心理学の講義を始めるところから物語は始まります。主人公である学生の成長に合わせて、発達心理学の基本が学べるようになっています。専門書相当の用語や考え方が網羅されおり、まんがで表現することのよさを生かした入門書となっています。

渡辺 弥生 (監修), 鈴村 美咲 (著)
出版社: 講談社 (2019/5/23)、出典:出版社HP

はじめに

科学が進歩し、生命の神秘が解き明かされつつあります。不思議なことに、明らかになればなるだけ秘密のベールは 幾重もあることが分かり、一つの生命は、奇跡とも言える偶然の繰り返しの中でこの地球上に宿り、育つことを知ることになります。終わりのないロマンを感じます。太古の昔から、人は生まれてから死に至るまでの生涯を等しく一度だけ経験します。こうした経験を映画、ドラマ、小説、ニュース、あるいは身近な人たちを通して想像することはできますが、「自分」はどこからどこへいこうとしているのか、自分に適した生き方とはどういうものか、と折に触れて湧いてくる疑問への答えを持ち合わせていないものです。自分以外の他人という存在は、生きることの素晴らしさを教えてくれるときもあれば、同時に生きることの難しさを感じさせる場合も少なくありません。発達心理学は、生まれてから死に至るまでの生涯の発達を科学的に探求する学問です。胎児期から、乳児期、幼児期、児童期、青年期、成人期、高齢期と、各時期にそって心や身体がどのように変化していくのかを解明しようとしています。単なる時間的変化だけではなく、幸せになるという価値観を含んだ一生涯を対象にした学問分野です。

この本は、まんがを通してキャラクターのヴィヴィッドな生活体験の中から発達心理学を学ぶことを可能にしました。専門書相当の用語や考え方を網羅する画期的な一冊になっています。発達心理学を学ぶ学生はもちろん、「心」に関心のある方、心理学の知識を活かした仕事を希望している方など、すべての人のお役に立つことができれば幸い
です。

最後に、企画、シナリオ、まんが……、編集の方々とのたゆまぬコラボレーションのプロセスから学ぶことが多々ありました。感謝申し上げます。

渡辺弥生

渡辺 弥生 (監修), 鈴村 美咲 (著)
出版社: 講談社 (2019/5/23)、出典:出版社HP

目次

はじめに
主な登場人物紹介

プロローグ 発達心理学ってどんな学問?
ピアジェの発達段階説
感覚運動期/前操作期 (前概念的思考段階・直観的思考段階)/具体的操作期/形式的操作期/発達の最近接領域
ピアジェの感覚運動期
エリクソンの8つの発達段階説
基本的信頼 対 基本的不信/自律性 対恥・疑惑/自主性 対 罪悪感/勤勉性 対 劣等感/
アイデンティティ 対 拡散/親密性 対 孤独/世代性 対 停滞/統合 対 絶望
発達心理学を必要とする仕事

第1章 胎児期〜乳児期 (胎児〜1歳)
1-1 胎児期 胎児期の発達
知覚
1-2 0~3ヵ月 気質と愛着
産後うつ/気質/原始反射/共鳴反射/緊張性頸反射/驚愕反射/吸啜反射/自動歩行反射/
バビンスキー反射(足裏反射)/把握反射/モロー反射(抱きつき反射)
クーイング/喃語 (不完全喃語)/反復喃語(基準喃語)/初語
愛着(アタッチメント)/愛着行動/信号行動/注視行動/定位行動/接近行動/
前愛着期/愛着形成期/明確な愛着期/目標修正的協調関係期
選好注視法/社会的微笑/新生児微笑
1-3 0~1歳 人見知りと物の永続性
人見知り
直接模倣 (即時模倣)
物の永続性
1-4 9ヵ月~1歳頃 愛着の個人差
指差し/二項関係/三項関係/交互注視/共同注意
内的ワーキングモデル/安全基地/探索行動
ストレンジ・シチュエーション法
社会的参照
Column 1 遺伝か環境か 環境閾値説

第2章 幼児期 (1~5歳)
2-1 1~2歳 自己意識の発達
自己鏡映像の認知/自己意識の発達
一人遊び/平行遊び/象徴遊び/機能的遊び/表象能力/
象徴機能/見立て遊び/ごっこ遊び
延滞模倣 (遅延模倣)/所有意識
2-2 2歳頃 第一次反抗期
粗大運動/微細運動
第一次反抗期
自律性 対 恥・疑惑
2-3 3~5歳 自己主張と自己抑制・心の理論.
自己制御行動/自己主張/自己抑制
自主性 対 罪悪感/アニミズム/フェノメニズム
エピソード記憶/社会的役割の理解と獲得
心の理論「サリーとアンの課題」
一次の心の理論/誤信念課題
パーテンの遊びの分類
遊びに専念していない行動/一人遊び/傍観的行動/平行遊び/連合遊び/協同遊び
ピアジェの遊びの分類
機能的遊び/象徴遊び/ルール遊び
Column 2 愛着形成についての実験 ハーローの愛着実験

第3章 児童期(6~12歳)
3-1 6~7歳 自尊感情と社会的視点取得能力
共同注意/自尊感情
社会的視点取得能力(役割取得能力)/主観的役割取得
相互的接近/同情愛着/尊敬共鳴
小1プロブレム
ワーキングメモリ/短期記憶/長期記憶
3-2 7~8歳 公正観の発達
時間概念の発達
公正観
公正観の発達段階
3-3 8~9歳 二次の心の理論の発達
一次の心の理論の発達/二次の心の理論の発達
社会的表示規則 (ソーシャルディスプレイルール)/向社会的行動
空間的視点取得能力
「3つの山」問題
3-4 9~10歳 保存概念の発達と責任判断
保存概念の発達/水平的デカラージュ
客観的責任判断/主観的責任判断/脱中心化
3-5 10~11歳 自己決定感とメタ認知能力
社会的比較/上方比較/下方比較
自己決定感/自己効力感/自己肯定感/指し手と駒
勤勉性 対 劣等感
メタ認知能力
メタ認知的知識/メタ認知的行動/人間についての知識/課題についての知識/
方略についての知識
モニタリングとコントロール(メタ認知的行動)
3-6 10~12歳 動機づけ
外発的動機づけと内発的動機づけ
原因帰属理論/動機づけ
学習性無力感
3-7 10~12歳 社会化と道徳性
重要な他者
徒党集団(ギャンググループ)/ギャングエイジ/ソーシャルスキル/社会化
社会的視点取得能力(役割取得能力)/二人称相応的役割取得
道徳性/他律的道徳性と自律的道徳性
応答性と統制/権威がある親/権威主義の親/許容的な親/放任・無視・無関心な親 Column 3 誘惑への抵抗 マシュマロ・テスト

第4章 青年期 (前期~中期13~18歳頃)
4-1 13歳頃 青年期の自己中心性
中1ギャップ
想像上の観衆/青年期の自己中心性/個人的寓話
第二次性徴/成熟前傾現象/成長加速現象/発達加速現象/やせ願望
第二次反抗期/心理的離乳
4-2 13~14歳 共感性と自己嫌悪感
承認欲求/同調行動
チャムグループ
共感性/社会的視点取得能力 (役割取得能力)/三人称役割取得/共感的配慮/個人的苦痛/想像性/視点取得/自己嫌悪感….
対人認知/評価懸念/対人知覚
コーピング/コーピング方略/ポジティブコーピング/
ネガティブコーピング/解決先送りコーピング
4-3 15~16歳 自己開示とジョハリの窓
ノンバーバルコミュニケーション… ”
自己開示/ヤマアラシのジレンマ
ジョハリの窓
開放領域/盲点領域/隠蔽領域/未知領域/共同反芻
4-4 16~17歳 アイデンティティの確立
ピアグループ/アイデンティティ(自我同一性)の確立と危機/モラトリアム
アイデンティティのステイタス
確立/早期完了 (フォークロージャー)/モラトリアム/拡散
アイデンティティの探求
4-5 18歳頃~ 時間的展望とソーシャルサポート
役割実験/時間的展望
ソーシャルサポート
空の巣症候群
アイデンティティの再構成/アイデンティティの再体現化
Column 4 感情力の発達と支援
Column 5 社会的視点取得能力(役割取得能力)の発達段階

さくいん

主な登場人物紹介

プロローグ 発達心理学ってどんな学問?

渡辺 弥生 (監修), 鈴村 美咲 (著)
出版社: 講談社 (2019/5/23)、出典:出版社HP

発達心理学 (公認心理師スタンダードテキストシリーズ 12)

豊富な図解でわかりやすい

図表が豊富で、「重要語句解説」「考えてみよう」「キーワードのまとめ」などを設定し、授業後にも個別学習しやすく、授業で、試験前に、現場に出てからも活用できる一冊となっています。公認心理師カリキュラムに対応しているので、これから勉強を始める方、勉強中の全ての方におすすめです。

下山晴彦 (監修), 佐藤隆夫 (監修), 本郷一夫 (監修), 林創 (編集)
出版社: ミネルヴァ書房 (2019/10/11)、出典:出版社HP

監修者のことば

多様化する社会のなかで,「心」をめぐるさまざまな問題が注目されている今日において、心の健康は誰にとっても重要なテーマです。心理職の国家資格である公認心理師は、まさにこの国民の心の健康の保持促進に寄与するための専門職です。公認心理師になるためには、心理学に関する専門知識および技術をもっていることが前提となります。
本シリーズは、公認心理師に関心をもち,これから心理学を学び、心理学の視点をもって実践の場で活躍することを目指すみなさんのために企画されたものです。「見やすく・わかりやすく・使いやすく」「現場に出てからも役立つ」をコンセプトに全23巻からなる新シリーズです。いずれの巻も広範な心理学のエッセンスを押さえ,またその面白さが味わえるテキストとなっています。具体的には,次のような特徴があります。

①心理学初学者を対象にした、学ぶ意欲を高め、しっかり学べるように豊富な図表と側注(「語句説明」など)で、要点をつかみやすく、見やすいレイアウトになっている。
②授業後の個別学習に役立つように、書き込めて自分のノートとしても活用でき、自分で考えることができるための工夫がされている。
③「公認心理師」を目指す人を読者対象とするため,基礎理論の修得とともに「臨床的視点」を大切にした目次構成となっている。
④公認心理師試験の準備に役立つだけでなく、資格をとって実践の場で活躍するまで活用できる専門的内容も盛り込まれている。

このように本シリーズは、心理学の基盤となる知識と臨床的視点をわかりやすく、学びやすく盛り込んだ総合的テキストとなっています。
心の健康に関心をもち,心理学を学びたいと思っているみなさん、そして公認心理師を目指すみなさんに広くご利用いただけることを祈っております。

下山晴彦・佐藤隆夫・本郷一夫

編著者まえがき

本書は,公認心理師の資格取得を目指す方々が学部で履修する必要のある25科目のうち,「⑫発達心理学」を学ぶためにまとめられたテキストです。公認心理師の業務の目的は,公認心理師法の第1条に明示されているとおり「国民の心の健康の保持増進に寄与すること」にありますが,子どもから高齢者まで,公認心理師が対応すべき年齢はさまざまです。年齢が異なれば、心の働きにも違いがあり支援の方向も異なることがあります。そこで、心の健康の保持増進に寄与するためには,心の発達を扱う発達心理学を学ぶことが重要であり、有益なものとなるのです。

発達心理学の重要な観点は、誕生から死に至るまで「生涯発達的にとらえる」という点にあります。そこで,本書は「第I部 発達心理学の基礎」「第II部 出生前後~児童期までの発達」「第II部 青年期以降の発達と非定型発達」という3部構成としています。まず第1部の1章と2章で生涯発達全体に関わる見方を学んだあと,第II部の3章から9章で,幼少期の心の発達を多面的に学びます。それらを踏まえて,第III部の10章から12章で青年期から老年期までの心理的特徴を学びます。今後、高齢者の割合はますます増大するため,公認心理師として高齢者対応する機会もますます増えることが予想されます。さらに最後の13章において,発達障害など非定型発達をくわしく学ぶことで,支援のあり方が身につきます。このように生涯発達的な視点をとおして、年齢に応じた相談や助言、指導,援助を適切に行うための知識を習得できます。
本書では、「公認心理師試験出題基準 平成31年版」(公認心理師ブループリント)や、日本心理学会がまとめている標準シラバスをもとに、学ぶべき事項を取り上げています。

具体的には、「公認心理師試験出題基準 平成31年版」で取り上げられているキーワードをすべて紹介し,各章末にある「キーワードのまとめ」でもすべてを取り上げています。また各章は、この出題基準の中項目の分類と、日本心理学会の標準シラバスの大項目・中項目・小項目の分類をもとに構成しています。さらに,出題基準以外でも発達心理学の基礎事項として知っておくべき内容を紹介し,「本章のキーワードのまとめ」でも取り上げています。このため、公認心理師のみならず,教員採用試験や大学院の入試などの勉強においても役立つことでしょう。また,基礎を固めることで発展的な力も身につきます。資格取得のみならず卒業論文などの研究にも優れた問題意識をもって取り組むことができるようになるはずです。本書をとおして、心のしくみや働きを生涯発達的な視点でとらえる心理学の面白さと奥の深さを味わっていただけると嬉しく存じます。

2019年5月 林 創

下山晴彦 (監修), 佐藤隆夫 (監修), 本郷一夫 (監修), 林創 (編集)
出版社: ミネルヴァ書房 (2019/10/11)、出典:出版社HP

目次

監修者のことば
編著者まえがき

第I部 発達心理学の基礎

第1章 公認心理師のための発達心理学
1 発達心理学とその理論
2 発達を調べるために
3 発達心理学の隣接領域

第2章 発達の生物学的基礎
1 発達をもたらす要因は何か
2 行動遺伝学と発達
3 エピジェネティクス
4 心の発達と進化

第Ⅱ部 出生前後~児童期までの発達

第3章 感覚と運動の発達
1 生まれる前の発達
2 新生児期の発達
3 乳児期の発達

第4章 アタッチメントの発達
1 人生の始まりと土台としての乳児期
2 アタッチメントの発達
3 アタッチメントの個人差に絡むさまざまな要因

第5章 認知の発達
1 認知発達のグランド・セオリー
2 ピアジェ理論の再構築:情報処理理論に基づくアプローチ
3 グランド・セオリーを超えて子どもの認知の有能性

第6章 社会性の発達
1 社会性とその内容
2 社会的認知の発達
3 社会的行動の発達

第7章 感情と自己の発達
1 感情の発達
2 自己の発達
3 感情と自己
4 社会との関係からみた感情と自己

第8章 遊びと対人関係の発達
1 遊びと対人関係の意義
2 遊びの発達
3 対人関係の発達
4 現代の子どもの遊びと対人関係における課題

第9章 言葉と思考をめぐる発達
1 身体発育と運動能力の発達
2 言葉の発達
3 思考の発達

第Ⅲ部 青年期以降の発達と非定型発達

第10章 青年期
1 青年期の心身の発達
2 アイデンティティ発達の時期としての青年期
3 青年期の性と異性関係
4 青年期の遷延化

第11章 成人期
1 成人期の心身の発達
2 生き方の選択とキャリアの発達
3 働くということ:職業意識と生き甲斐
4 家族形成:夫婦関係と子育て
5 多重役割とワーク・ライフ・バランス

第12章 老年期
1 老年期の心身の発達
2 老年期の心理社会的課題
3 老年期の臨床的問題の理解と支援

第13章 定型発達と非定型発達
1 神経発達症群/神経発達障害群
2 その他の発達上の問題
3 発達につまずきを抱える人への支援の視点

引用文献・参考文献
「考えてみよう」回答のためのヒント
索引

下山晴彦 (監修), 佐藤隆夫 (監修), 本郷一夫 (監修), 林創 (編集)
出版社: ミネルヴァ書房 (2019/10/11)、出典:出版社HP

本書の使い方

①まず、各章の冒頭にある導入文(この章で学ぶこと)を読み、章の概要を理解しましょう。
②本文横には書き込みやすいよう罫線が引いてあります。気になったことなどを自分なりに書き込んでみましょう。また、下記の項目についてもチェックしてみましょう。
・語句説明・・・・・重要語句に関する説明が記載されています。
・プラスa・・・・・本文で解説している内容に加えて、発展的な学習に必要な項目が解説されています。
・参照・・・・・本文の内容と関連するほかの章が示されています。
③本文を読み終わったら章末の「考えてみよう」を確認しましょう。
・考えてみよう・・・・・この章に関連して調べたり、考えたりするためのテーマが提示されています。
④最後に「本章のキーワードのまとめ」を確認しましょう。ここで紹介されているキーワードはいずれも本文で取りあげられているものです。本文を振り返りながら復習してみましょう。

第I部 発達心理学の基礎

臨床の視点

人の抱えている問題を理解し、支援するためには大きく2つの発達的視点が重要となります。第1に、表面的な行動や問題の背後にある多様な要因に目を向けるという視点です。人はさまざまな環境のなかで育ちます。また、ある遺伝的要因がある環境を引きつけやすく、環境によって遺伝的要因の発現のしかたが異なるといったように,遺伝と環境は必ずしも独立ではありません。第2に,目の前の人の抱える問題を理解するためには、現在の状態を詳細に知るだけではなくその人の育ってきた経過に目を向けることが重要です。すなわち、時間の流れのなかで人を理解するという視点です。その点から,第I部では問題の背景の多様さと時間の流れのなかで人を理解する視点を学んでいきます。

第1章 公認心理師のための発達心理学

この章では,公認心理師の資格を取得するうえで,なぜ発達心理学を学ぶ必要があるのかを述べていきます。発達心理学について学ぶことで、人間の心の働きに時間軸が加わります。つまり、物事の認識や行動がどのように変化していくのかを知ることができるのです。人間は誰でも生まれてから時間の経過とともに,年齢を重ねて発達していきますから,そのしくみや体系を知ることは、心理に関する相談や助言, 指導, 援助をしていくうえで欠かせないものとなるのです。

1 発達心理学とその理論
1 発達のとらえ方

心理学は人間の心の動きを解明しようとしていく学問ですが,研究の多くは実験や調査をしやすい大人が対象となっています。しかし、私たちは最初から大人だったわけではありません。誰でも、幼少期からさまざまな過程を経て成長してきたはずです。そこでその発達を心理学的にとらえることが大切です。すなわち、発達心理学とは,「精神発達を対象として、時間経過にしたがって生じる発達的変化についての一般的な特徴や法則性を記述するとともに,発達的変化をおし進める要因についても検討を試みる心理学の一分野」(『心理学辞典』より)であり、人間の心の発達を時間軸に沿って調べていく学問なのです。
それでは、そのような心の発達をどのようにとらえていけばよいのでしょうか。一般に,発達のとらえ方は、大きく2つの方法に分けられます。第1は,連続する量的変化をとらえる方法です。横軸に年齢や時間を縦軸に目的とする発達の指標(たとえば、語彙数、課題の成績)をとり、年齢の関数としてグラフにした「発達曲線」で表現されることが一般的です。

発達曲線をみると心身のさまざまな指標が,図1-1の(a)のような右肩上がり、つまり年齢とともに一直線に上昇したり成績が向上したりするだけではなく、幼い頃に急激に発達したあと、下降したり(b),発達が停滞しつつ続いたり(c)年齢が進んである時期になると急激に発達したり(d)といったさまざまな過程を経ることがわかります。

下山晴彦 (監修), 佐藤隆夫 (監修), 本郷一夫 (監修), 林創 (編集)
出版社: ミネルヴァ書房 (2019/10/11)、出典:出版社HP

よくわかる発達心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

発達心理学の基礎から応用までわかる

42人の心理学者が執筆したものを集めた本です。全くの素人でも乳幼児からの発達の流れが理解できるようになります。大きな見出しでテーマごとに区切られていてとても読みやすい一冊で、辞書のような使い方もできる便利な構成となっています。発達心理学を学びたい方にとってとても価値のある一冊です。

無藤 隆 (編集), 大坪 治彦 (編集), 岡本 祐子 (編集)
出版社: ミネルヴァ書房; 第2版 (2009/3/1)、出典:出版社HP

はじめに

■よくわかる発達心理学[第2版] 本書は、大学の新入生を念頭に置いて、発達心理学について最初に学ぶための入門としたものです。高校生でこれから心理学を学びたいという人にも分かるように、特に、予備知識を想定していません。そのために、次のことを心がけました。

・どこからでも読めます。一つ一つが見開きで完結しています。
・各々の記事が、興味を引く研究の成果やエピソードを挙げて、解説しています。
・胎児期から始め老年期まで生涯にわたって、各々の時期で重要な事柄について、何が分かっているかの要点を述べました。
・全体を通して,現代の発達心理学の主要な知見が理解できるようにしてあります。
・同時に、発達の問題について、知りたいと思う疑問を挙げて,それに答えられるようにしました。

執筆は、日本の第一線の研究の場で活躍している多くの方々に加わって頂きました。感謝申し上げます。また、企画から刊行まで、ミネルヴァ書房編集部には大変にお世話になりました。ありがとうございます。

編者を代表して
無藤 隆

もくじ

はじめに
I 胎児期・新生児期
1 胎内で聞こえる母親の声
2 胎児に害があるアルコール
3 性の分化
4 生まれたときの体重と育ち
5 赤ちゃんの性格の違い
6 赤ちゃんの最初の微笑み
7 生まれたときの視力
8 生まれたときにある力
9 赤ちゃんの認識する世界
10 親の顔を見分ける赤ちゃん
8 毛布などを好きになる

II 乳児期
1 微笑みと人見知り
2 大事に育てたい親子の愛情
3 喜怒哀楽を伝える
4 言葉の芽としての語
5 親と子のやりとり
6 増えていく言葉の数
7 大事なスキンシップ
8 子どもは親から学ぶ
9 ハイハイから二足歩行へ
10 乳児の遊びの意味

III 幼児期前期
1 親の言葉を真似して覚える言葉
2 言葉を覚えはじめるとき
3 ものを見立てる遊び
4 自分に目覚める
5 子ども同士で遊ぶ
6 困ったことをするようになる
7 うそをつく
8 毛布などを好きになる
9 母親とは異なる父親との接触
10 きょうだいげんか

IV 幼児期後期
1 論理的に考える時期
2 数を数える
3 子どもの絵
4 言葉の上達
5 絵本との出会い
6 ごっこ遊び
7 群れて遊ぶ
8 保育所,幼稚園で学ぶこと
9 自分の気持ちを抑えられる
10 自分の特徴を友達と比べて理解する

V児童期
1 入学前の計算力
2 読み書きの力
3 学校への適応
4 グループで遊ぶ
5 いじめ
6 テレビの悪影響
7 劣等感が生まれる
8 先生に恵まれる
9 学び方を自分で考える
10 科学的なものの考え方

VI 青年期
1 友人ができる子できない子
2 性へのめざめ
3 自分の身体の変化へのとまどい
4 自分の身体の変化を受け入れる
5 男の子,女の子の違い
6 将来どうやって生きるか
7 つらい受験勉強
8 中学校の部活動の意味
9 自分についての悩み
10 社会の立場について考えられる。

VII 成人初期・中期
1 どう生きていくべきか
2 初恋から始まる
3 結婚の喜び 順のくぶし
4 子育ての楽しさ つらさ
5 親の愛情
6 働く意味 仕事のやりがい
7 仕事と家庭を両立させた生き方
8 結婚生活が長続きしている夫婦
9 離婚の心理的影響
10 インターネットと新たな関係

VIII 成人後期・老年期
1 中年の危機
2 いつ起こる子離れ
3 退職後の人間関係の変化
4 祖父母にとっての孫
5 高齢者と認知症
6 高齢期の健康
7 老年の生きがい
8 人生を回顧する
9 介護の大変さとストレス
10 死をどう考えているか

IX 発達を援助する
1 虐待はどうして起こる
2 不登校はどうして起こる
3 子育てのストレス学 和らげる援助
4 発達の障害
5 学校の問題を援助する
6 思春期の悩みを援助する
7 思春期の食の問題
8 生きかたに迷う大学生への援助
9 悩みを抱える成人への援助
10 施設高齢者の適応と生きがいと

X 発達を考える際に
1 子どものこころの問題
2 子どもの性格は変化する
3 大人も変わる
4 発達と能力
5 虐待の連鎖をストップする
6 生涯にわたる発達をみる
7 社会・文化で違う子どもの発達
8 時代と発達
9 小さいときの問題とその回復
10 老年の知恵

さくいん

無藤 隆 (編集), 大坪 治彦 (編集), 岡本 祐子 (編集)
出版社: ミネルヴァ書房; 第2版 (2009/3/1)、出典:出版社HP

I 胎児期・新生児期

1 胎内で聞こえる母親の声

生後間もない新生児を対象にした研究から

デキャスパーとファイファーは、生後1日の新生児が男性より女性の声に、また同じ女性でも他の女性より自分の母親の声に選択的に反応することを見出しています。
生後1日であることを考えると,この選択的な反応性(別の言い方をすれば声の識別能力)は驚異的ともいえますが,何よりも胎児のときに母親の声が子宮内で聴いていたこと,そしてその音声を出生後も記憶している可能性に注目すべきです。

さらに、デキャスパーとスペンスでは出生後数日の新生児において、母国語への選択的好みまで見出しています。彼らは英語を母国語としている母親から出生した新生児に対し巧妙な実験を行っています。彼らは新生児に特殊なセンサーをつけた軟質プラスチック製の乳首を通してミルクを与えたのですが,新生児が乳首をリズミカルに吸うとヘッドホンから英語の女性音声(朗読文)が流れ、乳首を吸うのをやめるとアラビア語の音声(やはり女性による朗読文)が流れるようにしたのです。その結果,新生児は乳首をリズミカルに吸い続けようとし、ミルクが出なくてもまるで「母国語を聴き続けたい」と言わんばかりに吸啜行動を続けたのです。

早期産児を対象にした研究

生後の新生児でその記憶をもとに研究するだけでなく、出産予定日より早く生まれた早期産児を対象に行った実験からも、母親の胎内で胎児が音を確実に聴いている証拠を得ることができます。

松田・大坪・島田は、生後1週間以内の正期産児(受胎から出生までの在胎週数がほぼ40週)と早期産児(受胎後から出生までの在胎週数が36週以下)のそれぞれに成人女性の声と成人男性の声、そして4歳の子ども(男子)の声を聴かせて新生児の反応を調べました。
この場合,新生児が聴く声は全ての条件で「よしよし」という呼びかけとし、音の大きさや持続時間は一定としています。新生児の反応は新生児の心拍を連続監視することで得ることとし、その結果をまとめたのが図1です。ここで、早期産児A群というのは正期産児群と出生後の日齢すなわち誕生から実験日までの期間がほぼ等しい群で,この場合は受胎日から数えた日数は正期産児群より約1ヶ月以上短いことになります。

1 DeCasper, A. J., & Fifer, W. P. 1980 Of thuman bonding: New. borns prefer their mothers’ voices. Science, 208, 1174-1176,
2 DeCasper, A.J., & Spence, M. J. 1986 Prenatal maternal speech influences newborn’s perception of speech sounds. Infant Behavior and Development. 9,133-150.
3 松田君彦・大坪治 彦・島田俊秀1988 新生 児の心身発達に関する研究 (TW)一呼びかけ行動に 対する新生児の反応「日本心理学会第52回大会発表論 文集,20,

無藤 隆 (編集), 大坪 治彦 (編集), 岡本 祐子 (編集)
出版社: ミネルヴァ書房; 第2版 (2009/3/1)、出典:出版社HP

手にとるように発達心理学がわかる本

発達心理学の本質が分かる

発達心理学について、心理学的な知識がない人でも分かりやすいように解説してくれている本です。発達心理学の入門編のような本で、イラストも多く、読みやすい構成となっています。発達心理学に携わってきた学者達の理論が簡潔に記載されており、キャリアコンサルタント学科試験にも役立ちます。

小野寺 敦子 (著)
出版社: かんき出版 (2009/7/22)、出典:出版社HP

はじめに

「今、この本を手にとってくださっているあなたは、どのようなきっかけで、読んでみようと思われたのでしょうか。「保育の勉強中で、幼児の成長について知りたい」「テレビや雑誌に出てくる発達障害というものを知りたい」「自分自身が親からどんな影響を受けているのか、もっと知りたい」「中年期になってこれからの人生をどう生きていけばいいか迷っている」…など、その理由はさまざまだと思います。本書はそうした私たちの身近にある問題を発達心理学の視点から解説したものです。
発達心理学という用語が登場したのは、それほど昔のことではありません。以前は児童心理学という領域で子どもの心理だけがとりあげられてきましたが、人生が3年以上にわたる長寿社会を迎えた今、ヒトの発達は胎児期から高齢期まで、広い視野に立って考えていく時代といえます。

発達心理学は決して難しい学問でも理論でもありません。日々の家庭生活や学校生活、そして社会生活を充実して過ごしていくためのヒントを私たちに教えてくれる、とても身近な知識の宝庫です。人生で多くの難問に直面するたび、筆者自身も大いに助けられてきました。
たとえば、二人の子どもの子育てにあたって、トーマス・チェスの気質研究、ボウルビィの愛着研究、そしてピアジェの自己中心性やアニミズムの理論などを知っていたおかげで、子どもと上手に関わることができたように思います。
このように、本書でとりあげた数多くのテーマは、筆者自身が日々の生活のなかで「なぜなんだろう?」と疑問に感じていたことを、発達心理学という切り口でわかりやすく解説したものばかりです。

執筆にあたっては、専門的な用語で説明するのではなく、できるだけ平易な表現を使い、身のまわりにある事例を交えて説明しようと心がけました。また随所に簡単なチェックテストを入れて、ご自分のことを理解する一助としていただけるようにしました。まさに本書のタイトルである「手にとるように発達心理学がわかる本」を心がけて執筆したつもりです。

人間の発達全般について学びたい方は、最初から読み進んでいただければ結構ですし、関心のあるテーマについて知りたい方はそのトピックを選んで読めるように、各テーマを読みきりの形にしました。
渋谷昌三先生との共著『手にとるように心理学がわかる本』(小社刊)は、多くの読者の方々から「読みやすい」、「わかりやすい」といった感想をいただき、現在もなお版を重ねています。本書はその趣旨にそって発達心理学に関する内容をさらに広げ、執筆したものです。
本書を通じて私たち人間の発達について少しでも理解を深めていただき、あなたの生活を楽しく豊かにするヒントとしていただければ幸いです。

2009年7月
小野寺敦子

*第7刷重版にあたり、2019年時点の情報に修正しました。

カバーデザイン 重原隆
イラスト 秋田綾子
本文デザイン 石山沙蘭

小野寺 敦子 (著)
出版社: かんき出版 (2009/7/22)、出典:出版社HP

もくじ

Part 1発達の基礎理論

【発達心理学のはじまり】
発達心理学はこうして生まれた
●発達心理学という名称の誕生
☆発達心理学の年表

【発達心理学の研究者】
発達心理学の先駆者たち
●7世紀までの子ども観
●先駆者その1 ルソー
子どもは大人の小型ではない
●先駆者その2 フレーベル
世界ではじめての幼稚園を創設
●先駆者その3 プライヤー
伝記的―日誌的方法を実践
☆恩物
●先駆者その4 ホール
発達心理学の基礎を築き質問紙法を考案

【生涯発達】
人は生涯にわたって発達し続ける
●新しい発達観~生涯発達という考え方~
●発達の8つの段階区分

【遺伝と環境】
遺伝と環境、どちらが人の発達に大きな影響を与えているのだろう?
●遺伝説のほうが先に生まれた
●人の一生は生まれる前から決まっている?
●ゲゼルによる双生児の実験~成熟優位説~
●発達は環境で決まる~環境説(学術説)~
●遺伝も環境も大切~相互作用説~

【発達段階説】
フロイトの性の発達段階説
●本能や無意識について研究を深めたフロイト
●フロイトの性の発達段階説
●「エス」「自我」「超自我」
☆エディプス・コンプレックス

【心理社会的発達理論】
エリクソンの発達理論
●人生を8つに分けた「心理社会的発達理論」

【発達課題】
ハヴィガーストの発達課題
●ハヴィガーストの発達課題の特徴

【精神分析学】
精神分析学の立場から子ども理解を深める
●クライン、マーラー、ウィニコットの発達理論

【研究方法】
発達心理学における研究方法
●さまざまな発達の研究方法
コラム 文化によって子ども観は違う ~日本は性善説・西洋は性悪説~

Part2 胎児期〜乳児期の発達

【胎児の発達】
お腹のなかで赤ちゃんはどのように成長していくのだろう?
●お腹のなかでも赤ちゃんは活動している
☆生理的早産
●運動機能の発達
●視覚機能の発達
●聴覚機能の発達
☆「戌の日」を知っていますか?

【身体発達の原理】
身体発達の8つの基本原理
●発達は一定の原理にしたがって進む
☆スキャモンの発達曲線のタイプ

【新生児の発達】
生まれたての赤ちゃんのパワー
●出生児の平均体重と身長
●赤ちゃんの聴力
●赤ちゃんにはどれだけ見えている?
●視覚的断崖(ビジュアル・クリフ)

【運動機能】
赤ちゃんの運動能力はどう発達する?
●急激な身体の発達

【脳の発達】
赤ちゃんの脳はどう成長する?
●出生時から140億個の神経細胞がある
●シナプスの回路の発達が脳の発達を支えている

【原始反射】
原始反射は、生きていくために備わっている力
●反射は無意識に身を守ろうとする動き
●脳が発達すると、原始反射から自発運動に変わる

【気質】
赤ちゃんにもさまざまな個性がある
●赤ちゃんの個性には3つのタイプがある

【乳児の特徴】
赤ちゃんにはかわいく見える法則がある
●子どもの顔の特徴は?
●守ってあげたくなる特徴「ベビーシェマ」

【感情の発達】
赤ちゃんの感情はどのように発達するのだろう?
●感情はどのように発達していくのか
●ルイスの感情発達理論
●2歳前から照れや共感、羨望の気持ちが芽生える

【言語】
言葉はどのように身につける?
●泣き方にもいろいろある〜言葉への準備段階~
●喃語には世界中の言葉エッセンスが詰まっている
☆幼児音の主なもの
●身体の動きによって喃語も変わる
●赤ちゃんはおしゃべりしたがっている

【愛着】
親子の絆の確立~アタッチメント~
●二次的動因説
●インプリンティング(刻印付け)
●接触の快
●ボウルビィの愛着理論
●内的ワーキングモデル

【愛着のタイプ】
愛着の質にもタイプがある
●愛着の質を測るストレンジ・シチュエーション法
●実験場面(8つの場面より構成されている)
コラム お酒やタバコが胎児に与える影響

Part3 幼児期の発達
【手足の発達】
子どもの手足はどう発達する?
●手の動きはどのように発達するのだろう?
☆利き手はどうやって決まる?
●足の動きはどのように発達するのだろう?
☆土踏まずが未形成の子ども

【移行対象】
毛布やぬいぐるみがないと寝つけない子どもがいるのはなぜ?
●お気に入りのもの・癖
☆移行対象は子どもの成長の証?
●自分以外のものへ関心が移る「移行現象」

【自己理解の発達】
子どもはいつ自分を認識しはじめるのだろう?
●1歳すぎから自分を認識しはじめる
●自分の認識は他者との関わりで身につく
☆「いや!」「だめ!」は子どもが成長している証拠
●自尊感情の発達
●自己主張・自己抑制の発達
テスト 子どもへの養育態度チェックテスト

【思考の発達】
子どもの思考能力はどう発達するの?
●ピアジェによる思考の発達段階理論

【ワトソン】
恐怖心はどうやって生まれるのだろう?
●ワトソンによるアルバート坊やの恐怖条件づけ実験

【心の理論】
子どもはいつごろから相手の気持ちがわかるようになる?
●「自分・もの」から「自分・人・もの」へ
●2歳ごろから頭でイメージする力が芽生える
●心の理論~4歳ごろから「誤信念」をもつ~

【内言・外言】
子どもはなぜ「ひとりごと」を言うのだろう?
●ひとりごとは7つに分類される
●内言・外言
●ピアジェとヴィゴツキーの論争

【遊び】
子どもの遊びと発達
●遊びが子どもを伸ばす
●ピアジェとパーテンの遊びの分類
●ごっこ遊びで「心の理論」を学ぶ
●遊びに物語性が出てくる2歳半~3歳の時期
☆おもちゃを通して創造性や社会性を身につける

【絵の発達】
子どもの描く絵はどう変わっていくの?
●最初に描く母親の顔~頭足人間~
●太陽や花に目や鼻をつけているのはなぜ?
●4歳は子どもの絵の黄金期

【友人関係】
友人はどうやってつくるのだろう?
●友人関係から社会性を身につける
●2歳からは友達との「隣り合わせ」を好む
●けんかはどう解決する?
●けんかを通して人間関係が磨かれる
コラム テレビアニメとジェンダー

Part4 児童期の発達

【児童期とは?】
児童期とはどのような時期か?
●仲間と強い関わりをもつ「ギャング・エイジ」
●9歳の壁
●身長・体重の著しい増加

【きょうだい】
きょうだいが子どもの性格形成におよぼす影響
●きょうだいはナナメの関係
●二人きょうだいにみられる特徴
●中間子にみられる特徴
●ひとりっ子にみられる特徴
●ふたごにみられる特徴
☆ひとりっ子の母親は母親語(マザーリーズ)を使わない?

【道徳性の発達】
道徳性はどのように発達する?
●道徳性の発達理論は3つある
●コールバーグの道徳性発達理論
●最高段階の道徳観念をもっているのは全人口の2%
●コールバーグへの批判~ギリガンの見解~
●ヤマアラシとモグラの家族

【社会的学習理論】
子どもは大人の模倣をする
●バンデューラの社会的学習理論

【知能】
知能とはどのようなもの?
●知能の測定方法に関する研究の流れ
●知能検査
●知能が高い=勉強ができることではない

【学習のメカニズム】
人はどう学習する?
●学習には法則がある
●古典的条件づけ
●オペラント条件づけ

【達成動機】
子どものやる気を育てるには?
●「やる気」は心理学では「達成動機」という
●内発的動機づけが育つと子どもは伸びる
●失敗が続くと無気力になってしまうことも
☆ピグマリオン効果
●エゴ・レジリエンス

【いじめ】
いじめはなぜ起こるのだろう?
●いじめの現状
●いじめのメカニズム
●いじめっ子・いじめられやすい子の特徴とは?

【不登校】
不登校になってしまうのはなぜ?
●不登校児の急増
●不登校児の支援方法
☆スクールカウンセラーの役割
コラム 子どもの体力・運動能力の低下

Part5 青年期の発達
【青年期とは?】
青年期はいつはじまり、いつ終わるのだろう?
●2~3歳までのおよそ10年間が青年期
●青年は「境界人」
☆思春期と青年期はどこが違う?

【アイデンティティの模索】
自分はどんな人間なのだろう?
●自分探しの時期~アイデンティティの確立~
☆急激な身体の発達と成熟~第二次性徴~
テスト あなたは「アイデンティティ」を確立できていますか?
●アイデンティティ研究の発展

【時間的展望】
若者は自分の将来をどのように考えるのだろう?
●「時間的展望」は、青年期の重要な発達課題
●あなたにとっての未来とは?

【性役割観】
「男らしさ」「女らしさ」はどのようにつくられていくのだろう?
●青年期に自分の性役割を意識するようになる
●アンドロジニー(両性具有性)とは?

【親子関係】
青年期に親子関係はどう変化するのだろう?
●親への反抗は自立への第一歩
●心理的離乳
●親は遠くから温かく見守ろう

【父と娘の関係】
父親が娘の発達に与える影響を
●父親は娘にとってもっとも身近な異性
●両親の仲のよさは娘の価値観に影響する
☆娘がどのような人生を選択するかは父親次第?
テストI 「娘からみた魅力的な父親」チェックテスト
テストⅡ 娘のハッピー度は父親で決まる?

【友人関係】
青年期の友人関係の特徴
●友人をもつことの意味
●今どきの友情とは?
テスト あなたは友人を気づかうタイプ?

【恋心】
恋心とはどんなもの?
●「好き」と「愛している」の違い
●リーによる愛のタイプ分類
テスト あなたの恋心チェック
☆恋する二人の心理

【青年意識の国民性】
日本とアメリカの 青年意識はどう違う?
●日本の青年は独立意識が低く、親との関係が希薄
テスト あなたの独立意識チェックテスト
コラム 「私って太っている?」痩せたい願望に潜む心理

Part6 成人期の発達

【中年期のアイデンティティ】
中年期は人生の正午に位置する
●中年期は人生の正午~ユング~
☆大人になっても自分探し~成人期のアイデンティティ再構築~

【生活構造の変化】
成人期には生活構造が変化する
●レヴィンソンは人生を4つの季節にたとえた
☆女性の生活構造は男性より複雑

【結婚】
未婚化・晩婚化が進んでいる
●未婚化の原因はどこにある?
☆現代女性が理想とする結婚相手とは?

【育児】
親になると人はどう変わる?
●子どもをもつことで親としての意識が生まれる
●歳を重ねるにつれ「柔軟性」「自己抑制」が強くなる

【子どもへの虐待】
なぜ子どもを虐待してしまうのだろう?
●虐待する親の増加
●虐待の定義
●母親自身のストレスが原因となることが多い

【夫婦の関係】
子どもがいると夫婦関係はどう変化するのだろう?
●妻はイライラ、夫は我慢
テスト あなたと配偶者の関係性はどんなもの?

【更年期】
更年期にみられる心と身体の変化
●更年期にみられる症状と原因
●更年期を乗り切る秘訣はクヨクヨしないこと

【喪失】
人は「喪失」とどのように付き合っていく?
●ヘックハウゼンの生涯コントロール理論
☆ジェネラティヴィティ(世代性)
コラム ドメスティックバイオレンス(DV)

Part7 高齢期の発達

【高齢期のはじまり】
人は何歳から「高齢者」とよばれるのだろう?
●高齢者は5歳以上の人をさす
●2055年には女性の平均寿命は8歳に?
☆高齢者のひとり暮らしが増えている

【成長・発達】
高齢者も成長・発達するの?
●未経験の状況に対応する力は衰えていく
☆日本の高齢者は元気
●経験を経て体得した知能は、歳を経ても低下しない

【記憶力の低下】
加齢による記憶の変化
●記憶の長さには3つの種類がある
テスト 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの例

【病気】
認知症はどんな病気?
●認知症
●アルツハイマー病
●脳血管性認知症

【死の受容・生きがい】
人は「死」をどのように受け容れていくのだろう?
●キューブラー・ロスモデルの「死の受容のプロセス」
●エリクソンの「最後の発達課題」
●サクセスフル・エイジングとは?
●高齢者の生きがい感尺度
コラム EQ

付錄 発達のつまずき
発達障害とはなんだろう?
●発達障害とは、性格やしつけが原因ではない
●自閉スペクトラム症
☆アスペルガー症候群の歴史
●AD/HD(注意欠陥/多動性障害)
●限局性学習障害(SLD)
その他の気になる子どもたち
●知的障害(精神遅滞)
●言葉の遅れ
●緘黙(mutism)
●チック障害
☆発達障害のパターン

索引

小野寺 敦子 (著)
出版社: かんき出版 (2009/7/22)、出典:出版社HP

ベーシック発達心理学

保育・教育において必要な知識が身に付く

愛着、感覚運動といった基礎的な概念を、ものすごくわかりやすく短い文章で紹介してくれる、入門に最適な1冊です。子供のいない人でも自分自身の過去を振り返り、未来を見据えるヒントが何かしら得られるはずです。各章ごとに、さらに発展的に学びたい人向けの参考書と、引用文献の記載がある点も素晴らしく、信頼できる手引書です。

開 一夫 (編集), 齋藤 慈子 (編集)
出版社: 東京大学出版会 (2018/1/26)、出典:出版社HP


編集委員 齋藤慈子 浅田晃佑 野嵜茉莉
Introduction to Developmental Psychology Kazuo HIRAKI and Atsuko SAITO, Editors
University of Tokyo Press, 2018
ISBN 978-4-13-012113-2

はじめに

発達心理学には二つの側面がある.一つは、人間の発達的変化において基盤となるメカニズムを明らかにする基礎科学としての側面である.人間の発達を,認知・行動レベルで精緻に記述し,基礎的理論を構築することは、ダイナミックに変化する脳機能をとらえるために必要不可欠である.発展著しい神経科学・脳科学の研究とも密接に関連し,世界中の研究者が人間の発達過程に関心を寄せている。

発達心理学のもう一つの側面は、胎児から高齢者に至るまでの生活の質(QOL:Quality of Life)を高めるための実践的側面である。われわれは,家族形態の変化や、スマートフォン・IT機器・コンピュータネットワークといった技術の急速な発展に見られるように、激動の時代に生きている。旧来から信じられてきた保育・教育理論はこうした現状に対応できるのだろうか、新たな保育・教育法を考える時期にあるのではないか、
われわれの生活をより豊かにし、安心で安全に暮らせる世界を維持していくためには、上述した発達心理学の科学的側面と実践的側面の両方について理解する研究者や保育者・教師を育成することが必須である、実践的側面を知らない基礎研究は浮き世離れした無意味な活動となり,しっかりとした科学的知見を基盤としない実践は無謀な活動となる危険がある。

編者の1人である齋藤は,保育士・幼稚園教諭(保育者),小学校教諭をめざす大学1年生を対象に,発達心理学の授業を行ってきた。学生からは教科書があるとうれしいという声をもらっていたが,配布資料を作成して対応してきた。その理由は、以下に述べるように,適当と思えるテキストに出会えなかったからである。
まず,発達心理学(発達科学)に関するテキストは、名著と呼ばれるものが多数出版されている。しかし,こういったテキストは、心理学の基礎を学んできた学生が,さらに発達心理学という分野を深めるために作られ、多く,心理学を専門としない保育者あるいは教師志望の学生にとっては難しすぎると思われた。また、心理学専攻の学生向けに作られているテキストには保護者や教師が必要とする情報(具体的な子どもの支援に関する内容など)が含まれていないことが多かった。
一方、保育者向けのテキストは,子どもの支援を重視した内容になっている。が、実践的に確立された内容が中心で,発達心理学の最新の知見を含んだものが少ない、保育者や教師志望の学生にとって発達心理学は必修科目であるため、外発的動機づけ(第12章参照)によって学習しているような傾向がある。このような学生に発達心理学のおもしろさを伝えるには,しっかりと方法論を理解してもらった上で、最新の知見を盛り込む必要があると感じた。そういった点では既刊の保育者向けテキストでは物足りなかった。

そこで、発達心理学の基礎や保育者・教師が押さえるべき内容から、心理学の方法論の基礎,最新の知見までを網羅したわかりやすいテキストが作れないかと思い、東京大学出版会の小室まどかさんに相談したのが本書出版のきっかけである.その後,研究仲間でもあり,同じく保育士や教師の養成系の学部で教えている浅田晃佑さん・野嵜茉莉さんを編集委員に迎えて、どのような構成や内容にしたら学生に伝わりやすいか,ふさわしい執筆者はどなたかなどについて、いろいろと知恵を絞ってできたのが本書である.

本書は心理学を専門としない保育士・幼稚園教諭,小学校教諭をめざす学生をメインの対象とした教科書である。保育士養成課程,教職課程の要件を満たしつつ、発達心理学の基礎が学べるものとした、平成31年度からの教育職員免許法・同施行規則の改正により,教職課程のカリキュラムが変更された。それに合わせる形で、保育士養成課程の見直しも行われ、教科目の教授内容も変更される。教職課程カリキュラムでは、特別支援の重要性が増す中で、これまでは、各科目に含まれることが必要な事項として、「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程(障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程を含む.)」というくくりであったものが,「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」と「特別の支援を必要とする幼児,児童及び生徒に 対する理解」という二つの項目に分離して設定されるようになった.本書の第 13章・第14章は「特別の支援を必要とする幼児,児童及び生徒に対する理解」 に対応した内容に,他の章は「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過 程」に該当する内容となっている。発達障害(第 13章)や心と行動の問題(第 14章)は、発達心理学の内容と密接にかかわっているため,合わせて1冊とすることで、「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」の理解の助けになると期待している。
保育士養成課程では,これまで「保育の心理学I」「保育の心理学 II」であった心理関連科目の内容が「子どもの保健の一部や「家庭支援論」の一 部の内容と合わさって,新たに「保育の心理学」「子ども家庭支援の心理学」 「子どもの理解と援助」という3科目に再編された。本書の主な内容は「保育の心理学」に該当するが、乳幼児期から老年期までの生涯発達や初期経験の重要性(第3~16章), 発達課題(第3章),心と行動の問題(第14章)は「子ども家庭支援の心理学」に,発達障害(第13章)は「子どもの理解と援助」に関連する.本書の内容は、隣接科目と結びつけて,学習促進に役立つことが 期待される。ちなみに、本文中のキーワード(ゴシック体で表示)は保育士試験の頻出語句が中心であるため、試験対策にも活用していただけるようになっている。

本書の執筆者の方々は、発達心理学の第一線で研究を行っている気鋭の若手研究者たちである。各章に併設した「コラム」では、執筆者自身の研究あるいは関連する最新の研究(方法)が紹介されている。「コラム」は、心理学への理解や関心をより深める助けとなるであろう
執筆者には、なるべく平易な表現で,かつ最新の知見を,という難題を依頼したが,本書のコンセプトを十分ご理解いただき、これまでにないテキストに仕上がったと喜んでいる。保育者や教師志望者だけでなく、教養として発達心理学を学ぶ学生や心理学を専攻する学生にとっても,読みごたえのある内容になった。子どもにかかわるすべての人に知っておいてもらいたい基礎知識から、最新の発達心理学の成果までを1冊にまとめた本書はまた子育て中の親御さんたちや,保育者や教師としてすでに現場で活躍している方々にも楽しんで読め,参考にしてもらえるものとなっている。

第1章では、発達心理学への導入として、発達のとらえ方,発達に影響を える環境のとらえ方発達心理学の研究法について説明した。第2章,第3音 では、発達にかかわる要因(遺伝と環境),生涯発達の視点についてより詳しく解説する。第4章では胎児期・周産期の発達について概観する。第5章から第11章までは主に乳幼児期の発達について,各心理学的領域における発達を 見ていく。第12章では,学習の理論を,第13章,第14章では,前述のように支援が必要な、いわゆる「気になる子ども、行動」について発達障害と心の 問題を扱う。第15章,第16章では、学童期以降の発達を概観する。 発達心理 学の基本的な内容を押さえている上,おおよそ1章を1回の授業で行えば,15 回程度の授業で消化できる構成となっているため、講義のテキストとしても使 いやすい、構成からわかるように、本書は乳幼児期を中心とした内容となっているが,生涯にわたる発達を見通す一助になると思われる。

最後に,東京大学出版会の小室さんに感謝の意を表したい。相談から刊行まで1年という短期間で本書を出版できたのは、小室さんの力量の賜物である.ここに改めて敬意を表したい。

2017年12月
編者 開一夫・齋藤慈子

開 一夫 (編集), 齋藤 慈子 (編集)
出版社: 東京大学出版会 (2018/1/26)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部
発達のとらえ方

第1章 発達心理学とは
1 発達とは
2 発達に影響を与える要因としての環境のとらえ方
3 発達心理学の研究法

第2章 遺伝と環境
1 生まれも育ちも(Nature & Nurture)
2 環境優位説
3 成熟優位説
4 遺伝と環境の相互作用

第3章 生涯発達の視点
1 初期経験の重要性
2 生涯発達のとらえ方
3 生涯にわたる発達段階理論
4 発達課題
5 発達段階や発達課題の時代による変化

第2部
乳幼児期の発達をくわしく知る

第4章 胎児期・周産期
1 出生前の発達
2 出生後の発達
3 意識のめばえ
4 胎児期の母体からの影響
5 産後の母親の心理的問題

第5章 感覚・運動の発達
1 新生児や乳児の感覚を調べる方法
2感覚の発達
3 身体感覚を伴う多様な経験と環境の相互作用
4 運動機能の発達

第6章 愛着の発達
1 愛着の重要性
2 愛着の発達段階
3 愛着の個人差
4 愛着の発達不全
5 愛着対象は母親のみか

第7章 自己と感情の発達
1 感情の分化と発達
2 自己意識の発達
3自己抑制
4 自律性・自主性・主体性
5 自尊心

第8章 認知の発達
1 認知とは
2 ピアジェの認知発達理論
3 乳児期の認知
4 幼児期の認知
5 発達の領域固有性

第9章 言語の発達
1 音声の発達
2 語彙の発達
3 文法の発達
4 言語と思考

第10章 社会性・道徳性の発達
1 発達早期の社会性
2 社会性の発達
3心の理論の発達
4 道徳性の発達

第11章 遊び・仲間関係
1 遊びとは何か
2 乳幼児期の仲間関係
3 学童期以降の仲間関係

第3部
発達を支える

第12章 学習の理論
1 学習とは
2 古典的条件づけ
3 オペラント条件づけ
4 認知的学習
5 動機づけ

第13章 障害と支援
1 発達障害とは
2 アセスメント
3支援

第14章 心と行動の問題および児童虐待
1 子どもの「気になる」行動
2 心と行動の問題——乳幼児期から学童期に見られる症状
3 心身症と登校に関連する問題
4 心と行動の問題――思春期・青年期以降に見られる症状
5 児童虐待の予防と対策
6 子どもの心と行動の問題への対応

第4部
学童期以降の発達を概観する

第15章 学童期~青年期
1 学童期の認知発達
2 学童期の社会的かかわり
3 発達の連続性と就学の支援
4 青年期の身体的・認知的発達
5 親・友人との関係
6 アイデンティティ

第16章 成人期~老年期
1 前成人期とは
2 中年期とは
3 老年期とは

●コラム
コラム1女に育てたから女になるのか?
コラム2虐待の要因を探るサルの里子実験
コラム 3 早産児の認知発達
コラム 4 妊娠中の母親の食事と胎児の味覚的嗜好
コラム 5 風船を持たせることによる乳幼児の歩行支援
コラム 6 各愛着タイプのその後
コラム7 空想の友達
コラム 8 赤ちゃんも計算ができる?
コラム9 統語的手がかりを用いた動詞学習
コラム10 ヒトの視線のパワー
コラム11 乳児期の道徳性の発達
コラム12 きょうだい関係の役割
コラム13 生活習慣の獲得
コラム14 神経多様性
コラム15 遊びに現れる子どもの心
コラム16 子どもの嘘への対応
コラム17日本人の宗教性とアイデンティティ
コラム18 サルのサクセスフルエイジング?おばあちゃんザルの知恵

人名索引
事項索引

本文イラスト: SUNNY.FORMMART/向井勝明

開 一夫 (編集), 齋藤 慈子 (編集)
出版社: 東京大学出版会 (2018/1/26)、出典:出版社HP

史上最強図解よくわかる発達心理学

ビジュアルで徹底解説

この本の良い点は、とにかく理解がしやすい点です。絵や図を使っていて,平素な文体でわかりやすく、どんな方にもおすすめです。発達領域に興味がある方はもちろん、苦手な方もこの本を読めば興味をもてるかもしれません。発達心理学の入門書として手元に置きたい1冊です。

林 洋一 (監修)
出版社: ナツメ社 (2010/7/13)、出典:出版社HP

マンガで見る
発達心理学でどんなことがわかる?

からだの変化がわかる

誕生から5歳までの発達カレンダー

感情の広がりがわかる

自分に対する意識の変化がわかる

対人関係の広がりがわかる

はじめに

産まれたばかりの何もできないような赤ちゃんが、数年後には大人と同じようにものを食べ、立って歩き、ことばを話し、自己主張までするようになります。人間の発達の過程は実に巧妙にできていて、興味深く、知れば知るほど驚かされることの連続と言ってもよいでしょう。

発達心理学は、「受精から死に至るまでの発達」を研究する心理学の一分野です。ことばのイメージから、「できなかったことができるようになる過程」を考えがちですが、現在の発達心理学は、「できたことができなくなる過程」をもその視野に入れているのです。
さらに、中心になるのは人間の発達ですが、ほかの動物との比較や、進化論的な視点からの分析が行われることもあります。心理学の中でも、一般の方がもっとも関心を持ち、かつ、その知見を日常生活に生かせる分野の1つでしょう。

本書は、これから発達心理学を学びたい方、これから親となる方を主な読者として想定しています。そのため、とくに生涯発達的な視点から、人間の発達についてわかりやすく解説するように心がけました。さらに、入門書ではありますが新しい研究成果も取り入れ、平易にかつ正確な 内容になるように努めました。そのため、発達心理学を学ぶ学生ばかりではなく、知的好奇心を持つ一般の読者の方々にとって興味あるものになったのではないかと自負しています。
現在、お子様を育てているお母様やお父様はもちろん、子どもの保育や教育に関わっている方、子育てを終えて今までとは違う生き方を模索している方など、幅広い読者にお読みいただき、本書をご自分の生活の中で生かしていただければ幸いです。

林 洋一

林 洋一 (監修)
出版社: ナツメ社 (2010/7/13)、出典:出版社HP

目次

マンガで見る 発達心理学でどんなことがわかる?
はじめに

序章 発達って何だろう
定義/発達心理学における発達とは
発達段階と課題/赤ちゃんから一気に大人になる人はいない
発達の法則/発達には一定の順序と法則がある
遺伝と環境/発達への影響が大きいのはどっち?
社会化/ヒトはどうやって人間になる?
学習/経験によって行動が変化する
コラム01 「一児豪華主義」の子育て

第1章 誕生時からある不思議な能力~胎児期・新生児期~
からだ/赤ちゃんの頭が大きいのは人間だけ
脳の発達/胎内で脳の基本が完成している
原始反射/生後3~4か月頃までしかない特別な力
生理的微笑/笑うのは楽しいからではない?
視覚/見えるのは目の前28kmの距離
聴覚/男性よりも女性の声のほうが好き?
触覚/たくさん触れることで世界を知る
気質/赤ちゃんには生まれつきの個性がある
気質の影響/周囲の接し方で性格はどう変わる?
コラム02 胎教の効果はある?

第2章 コミュニケーションの基礎ができる~乳児期~
全身の発達/1歳までに体重は3倍になる
手の発達/手の動きで発達の段階がわかる
情緒/赤ちゃんが泣くのは周囲へのシグナル
社会性/授乳もコミュニケーショントレーニング
愛着/母親への信頼が世界への信頼につながる
愛着の発達/人見知りは強い愛着の裏返し?
愛着のタイプ/愛着のタイプにはよし悪しがある?
Topic01 過保護と過干渉はどう違う?
思考の発達/赤ちゃんが同じことを繰り返すのはなぜ?
共鳴動作/大人の表情をまねして感情を共有する
喃語/「アー」や「ウー」は音声遊びの始まり
コラム03 「寝る子は育つ」は本当?

第3章 感覚からイメージの世界へ~幼児期I~
脳とからだ/脳やからだはどこまで発達する?
全身の発達/歩き出すと世界が広がる
ことばの発達/大人のまねからことばを学ぶ
ことばの発達/使う単語の数が増えていく
Topic02 子どもが何でも知りたがるのはなぜ?
ことばの働き/子どもがひとり言を話すのはなぜ?
読み書き/文字に興味を持ち始める
遊びと発違/遊びがすべての発達を促す
コラム04 テレビが子どもに与える影響とは

第4章 「わたし」と「あなた」の違いに気づく~幼児期I~
自己認知/自分の名前がわかるようになる
自我のめばえ/反抗期はこころが発達した印
きょうだい/上の子にとってきょうだい誕生は一大事
人格/生まれた順序で性格が変わる?
性役割/男女の違いはどこで生まれるのだろう
情緒の発達/気持ちをことばで表現する
Topics03 「叱る」よりも「ほめる」しつけを
困った行動/子どもがウソをつくのはなぜ?
園での生活/家族以外の人たちと関わる
友人関係/こころの発達にはけんかも必要
コラム05 睡眠不足は発達の妨げになる?

第5章 思考力がつき、人間関係が発達する~児童期~
子どもと学校/家庭中心から学校中心の生活へ
思考の発達/論理的に考えられるようになる
知能/IQは高ければ高いほどよい?
働きかけ/親のやる気は子どもに伝わる?
動機づけ/子どもの「学びたい」気持ちを引き出すには
記憶/効果的な記憶法が身につくのはいつ?
つまずき/周囲との比較で劣等感が生まれる
Topics04 ネットとケータイは使いよう
友人関係/「類は友を呼ぶ」は本当?
ギャング・エイジ/子どもが群れるのはなぜ?
コラム06 こころを支えるスクールカウンセラー

第6章 子どもと大人の間で揺れ動く~青年期~
からだ/第2次性徴で性にめざめる
こころ/不安定で否定的になりやすい
青年期の壁/自分自身についての悩みが増える
親子関係/親と次第に距離を置き始める
友人関係/青年期の友人関係は希薄化している?
男女関係/恋愛はどう発達していくのだろう
Topics05 人生に悩める若者たち
いじめ/きっかけはほんの些細なことが多い
ひきこもり/一番苦しんでいるのは本人自身
コラム07 若者文化はどの時代にも現れる

第7章 変化し続けるこころとからだ~成人期以降~
成人期の発達/いくつになっても人は発達する?
仕事/働くことに求めるものは年代で変わる
結婚/パートナーに求めるのは安心感
親の発達/子どもを持つと人はどう変わる?
育児不安/子育てに自信のある人はいない
離婚/夫婦関係はなぜ壊れてしまうのか
中年期/「人生の正午」は危機がいっぱい?
Topics06 中年期に起こりやすいこころの病
老年期/加齢に伴う心身の変化を受け入れる
生きがい/老年期をこころ豊かに過ごすために
認知症/早期発見が症状の進行を遅くする
死の受容/人は死をどう受け止めるのだろう

発達ルポ
知っておきたい発達の障害
発達障害ってどんなもの?
知的障害
ことばの障害
脳性まひ
広汎性発達障害
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
LD(学習障害)
身体的な発達障害
大人の発達障害

発達のつまずきをサポートする
幼児・児童虐待
神経性習癖
不登校
摂食障害
自傷行為
ストレス

※アメリカ精神医学会による「精神疾患の分類と診断の手引き(DSM)」の第5版が2013年に出版されたのを受け、日本精神神経学会により作成された「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」において、いくつかの精神疾患まされ、その中に発達磨害に関するものも含まれていますが、本書では利便性を重視し、旧名称のままで掲載しています。
【名称変更の例】
自閉症、アスペルガー症候群→自閉スペクトラム症 注意欠陥・多動性障害は注意欠如・多動症 学習障害→学習症等)

序章 発達って何だろう

発達心理学における発達とは
「発達」というと、成長、発育など右肩上がりに進んでいくイメージを持つ人が多いのではないだろうか。しかし、発達心理学で扱う発達には、さまざまなものが含まれている

発達は、こころとからだの変化
わたしたち人間は生まれてから死ぬまで心身ともに“変化し続ける生き物”といっても過言ではない。例えば、からだの大きさをみてみよう。生まれたばかりの赤ちゃんは、身長が 50cm前後、体重は3000g前後くらい。自分の今の身長や体重と比べて全く違うことは明らかだろう。数字で表せない変化もある。寝ているだけの赤ちゃんが、数ヶ月後には寝返りをしたり、ハイハイをしたりするなどは、動きの質的な変化だ。
からだ以外にも変化は現れる。子どもは1つの単語からことばを覚え、次第に複雑な文章も扱えるようになる。さらに筋道を立ててものごとを考えたり、抽象的な考え方ができるようになるなど、大人になるまでに大きく変化していく。
こうした変化を全て「発達」としてとらえ、人間のこころやからだ、行動などの変化を研究するのが「発達心理学」だ。

大人になるまでにどんな変化があるか

林 洋一 (監修)
出版社: ナツメ社 (2010/7/13)、出典:出版社HP

おとなが育つ条件――発達心理学から考える (岩波新書)

自分らしく生き抜くためのヒントになる

従業員の教育という側面からではなく、より一段深い人間おとなの発達について書かれており、非常に勉強になります。また、時代を視野に入れた分析と考察がなされていて、読み応えがあります。発達心理学の視点から、とくに大人の視点に入ったとても貴重な本です。

柏木 惠子 (著)
出版社: 岩波書店 (2013/7/19)、出典:出版社HP

《本著作物について》
本著作物の全部または一部を著作椎者および株式会社岩波書店に無断で複製・転職すること、および放送・上演・公衆送信(ホームページ上への掲載を含む)などをすることを禁じます。また、本著作物の内容を無断で改変・改ざんなどをすることも禁じます。有償・無償にかかわらず本著作物を第三者に譲渡することはできません。
「著作権情報等」

はじめに−発達するのは子どもだけではない

「発達心理学」は子どもの研究?

専門は? と問われて、心理学だと申しますと、「心理学の何が専門ですか」と尋ねられることがよくあります。「発達心理学です」と答えますと、「ああ、そうですか」とすんなり分かっていただけることはあまり多くはありません。えー?と考えこまれたり、「では、子どもの研究をしているのですね?」と言われたりすることがしばしばです。「子どもの研究ですね」といわれますと、「そうです」ともいえず「違う」ともいえず困惑してしまいます。そこで「子どもの研究もしましたが、今はおとな特に中高年の男性と女性に関心があります」と申しますと、一層混乱される向きもあるのです。

心理学でも社会心理学や性格心理学、臨床心理学などの場合は、そう混乱なく理解されるようですが、発達心理学はどうも分かりにくい―その一因は「発達」という言葉が日常的に耳慣れないこともあるかもしれません。「発達」とは日常的表現では「成長」とか「育つ」ことですが、これは身長や体重、瞬発力など身体面の場合に使われてきたことから、心理学が扱う心や行動には「発達」という語が使われるようになったようです。

さて、発達とは心や行動の成長だとなりますと、それは子どもだとすぐ思いつくでしょう。五〇センチほどで産まれ泣くほかは何もできなかった赤ちゃんが、たちまち身長も体重も増え、いろいろな音声や表情で自分の意思や喜怒哀楽の感情も表現するようになるなど、他の時期にはみられない子どもの成長ぶりには誰もが強烈な印象を受けます。そこで、成 長、発達というと子どもと連想するのは無理もありません。しかし、これが発達についての誤解の一つです。
もう一つの誤解の元は、子どもとおとな/親との関係から来ています。子は未熟無能で育てられる、他方、育てる親やおとなは子どもに比べて有能です。この「育てられる子|育てる親/おとな」の対比が、おとなは発達がすでに完了しているとの錯覚を招きやすく、発達は子どもの問題であり、おとなの問題ではないと見なすことになりがちなのでしょう。

同様の誤解は学問の世界でも長いこと続いてきました。心と行動の発達を扱うのは児童心理学や青年心理学で、おとなになるまでが研究の対象でした。それがおとな以降も発達し続ける事実が注目されるに及んで、成人したのち死に至るまでの一生が発達研究の対象となり、生涯発達心理学といわれるようになったのです。

おとなも成長/発達する−発達には多様な変化がある

成長/発達は子どものみならずおとなの問題です。人が自分の存在に意味を認め生き甲斐を感じる基盤は、自分が成長しているという実感です。発達は人が生きている証しです。よく、「○○さんから「影響を受けた」」「〇〇に「育てられた」」「〇から「学んだ」」などといいます。自分の歩みを振り返ると、誰しもそう思う経験があるでしょう。私たちはさまざまな人との交流や体験によって、それまではなかった力や知識を得ます。能力や知識だけではありません。それまでの生き方に変化を迫られもします。この「影響を受けた」「育てられた」「学んだ」という変化こそ、発達にほかなりません。

ただし、おとなの発達は子どもの場合のようにみるみる増える、どんどん巧くなるといったものとは限りません。それとは質的に違った特徴をもっています。その一つが、以前していたことをしなくなる、できなくなることです。この消失/衰退という変化は、新しい心の働きや行動の変化をもたらす積極的な変化です。これはおとな以降の発達に顕著な特質です。

このような意味で人は生涯発達します。そしておとなが発達していないことは、本人はもちろん、家族や職場など周囲の人々にも影響が及び、問題が生じます。今、日本ではおとなの発達がうまくいっていない現象が諸処にみられています。なぜ、そのような状況になっているのかを明らかにするのも本書の目的の一つです。

生涯発達心理学は高齢化社会の産物−社会の中の学術研究

生涯発達心理学の誕生と発展は、近年の高齢化を抜きには考えられません。たかだか人生五〇~六〇年だった時代には、おとな以降の発達をあえて問題にする必要はありませんでした。発達はおとなになる前の子どもや青年を研究すること、それ以降については性格心理学や社会心理学などおとなを対象とした研究で十分だったのです。
高齢化によって、それでは済まなくなりました。高齢化すなわちおとな以降の期間の延長は、「おとな」と一括しきれない長い時期に生じる心と行動の変化発達を正面から研究する必要性を提起しました。例えば「いつまでも働きたい」と思う人の希望を充たすには、加齢にともなう心や能力の変化を知る必要があります。さもないと適切な労働条件の整備はできません。また高齢者の幸福のためには、その心身の状態を明らかにした上でどのような生活の整備と支援が必要かを見定めることも発達研究の課題です。このように、発達心理学は高齢化社会の産物ともいえるでしょう。
学術研究というものは、社会の中で生まれ社会と共にあり、そして社会のためにあるものです。おとなの心や生き方を扱う発達心理学の社会的使命は、前例のない超高齢化の日本でとりわけ大きいと思います。

柏木 惠子 (著)
出版社: 岩波書店 (2013/7/19)、出典:出版社HP

目次

はじめに―発達するのは子どもだけではない

第1章 発達とは何か
第2章 おとなの知力とは―子どもの「知能」とおとなの「賢さ」
第3章 感情と人間関係―おとなを支えるネットワークの発達
第4章 家族の中でのおとなの発達1―結婚と夫婦関係
第5章 家族の中でのおとなの発達2―「親になる」こと/「親をする」こと
第6章 私はどう生きるのか―アイデンティティ、生き方、ジェンダー
第7章 幸福感―何がその源泉か

結びに代えて

参考文献一覽

第1章 発達とは何か

発達というと、とかく子どものことと思いがちだ。しかしそうではない。それは、発達について、新しい能力が現れる、より強くなるといった変化を思い浮かべ、高齢とともに諸能力が衰え弱まると思うところからきている。しかし発達という変化には、子どもから高齢者までどの時期にも新しい能力の発現もあれば衰退もあるのである。これらのことを具体的に述べ、さらに発達という変化が何によってもたらされるのか、人間ならではの発達メカニズムについて考える。発達と環境の問題、社会化の仕組み、さらに人の意思や理想、努力を基盤とする発達の自己制御について述べる。

発達という変化

発達というと何よりも注目されるのは、子どもにそれまでなかった能力が発現する、できなかったことができるようになるという変化でしょう。さらにその力が強まっていく変化です。それは姿勢や移動などの身体運動から言語や対人行動、感情など多くの面でみられますが、中でも言語発達は、その代表ともいえるものです。
泣くことしかできなかった赤ちゃんに、母親のいうことがわかるようになる(理解)、やがて自分から相手に表現する発語(産出)も現れ、それが増えていく姿は目覚ましいものです。この乳児の二つの言語機能の発達の消長を示したのが、図1-1の発達曲線です。理解と産出という二つの機能が異なる時期とテンポで増強していく様相が歴然です。

発達曲線では捉えきれない発達―質的構造的転換

理解でも産出でも、その数が増えることは言語発達の重要な側面です。発達曲線はそれを端的に示しています。しかし言語の発達とは、ただ語彙数が増えればいいというものではありません。状況や話者との関係に応じて適切な表現ができるかどうかも重要な側面です。
父親と動物園に行って帰ってきた子が、(一緒に行かなかった)母親に向かって「パンダみたよ」といい、父親には「パンダみたね」といいました。この子は、自分と相手との体験共有の有無によって「よ」「ね」を使い分けているのです。誰に対しても、「パンダみた」というのとでは、発話の効果は大違いです。この「よ」「ね」の区別使用は、自分と他者との関係と伝達したい内容について明確な認識をもっていることが前提です。これは語彙や構音(のど・唇などを使っていろいろな音を出す)など、数量の変化として発達曲線では捉えることができない重要な変化です。

おとなの場合でも同様です。最近、日本に帰化されたドナルド・キーンさんは日本の現代文学から古典にわたる豊富な知識と深い理解をもっている方ですが、「日本語に通じている」とは現代文学や古典を読解できることではないと次のような例を挙げています。
友人とバーで歓談している時、誰かが「アッ、一二時だ」と言ったら、「そろそろ帰る時間だ、腰をあげねば……」のサインだと理解できるかどうかだというのです。「一二時」が言葉どおり時刻の通告ではなく、それ以上のことを意味している含意を理解できなければ、「日本語がわかる」「日本語に通じている」とはいえないというのです。

これは言語の発達に通じるものです。語彙数の増加は言語発達の一要素、それ以外に語彙の含意を理解しそれを使いこなす力、相手や状況に応じて語彙や表現を的確に使い分ける力が重要です。おとなの言語能力は語彙の数量以上に、表現の質が問われるのです。
言語以外の面でも同様です。うちの子は10まで数えられる!と親は喜びますが、その子が数の本質的性質を理解しているとは限りません。ブランコを「一人10回ずつ」と決められた場合、ブランコの振りに対応して一、二、と数えていない子は少なくありません。それは、待ちきれず急いでいるのでも、ずるをしているのでもありません。「振り一回が一」という数の一対一対応の概念を理解しておらず、ただ数を唱えているのです。子どもの数唱範囲が増加するという。量的変化が眼につくあまり、数の理解という質的な面での発達を見落としがちなのです。

消失/衰退も発達―しなくなる/できなくなることも重要

ともあれ、「できるようになる」「強くなる」という変化は発達の重要な面です。となると、おとなや高齢者は、発達はやはり自分たちのことではない、子どもの問題だと改めて思うかもしれません。忘れっぽくなった、何ごとにも時間がかかる、すぐ疲れるといった日頃の体験は「有能になる」「増強する」とは正反対。以前できていたことができなくなる 消失/衰退という変化です。この体験は決して愉快なものではなく、日々増強する子どもには「かなわない!」と嘆くものです。
しかし、違うのです。消失/衰退という変化は、困った否定的な出来事ではありません。発達の別な面であり、しかも積極的意味をもつ変化です。代表的な例が反射です。反射とは、体のある箇所が刺激されると必ず起きる機械的反応です。赤ちゃんは掌にものが触れるとそれが何であれ握ります(把握反射)。ほかにも、膝に支えて立たせると脚を突っ張っ て歩くように動かす起立反射など、いくつもの反射が誕生時からあります。けれども、反射はいつまでも続かず、三~五ヶ月頃には全ての反射は消えてしまいます。いつまでも反射が残っているのは発達の遅れや障害の兆候です。

考えてみれば、何でも触れたものは握ってしまうというのは困った行動です。欲しいものは握る、いらないものは握らないなど、目的に応じて判断し選択して行動するのが人間です。この目的選択に基づく行動は、無差別で機械的な反射 が消失するのと入れ替わって発達します。反射の消失衰退は、より高次な行動の出現のために必須の積極的な意味を持っているのです。

記憶についても同様です。「物覚えが悪くなった」「記憶力が衰えた」というおとなは、子どものような何でも手当たり次第にたちまち覚える記憶力は衰えています。しかし、おとなは手をこまねいてほってはおかず、丸暗記に代わるいろいろな工夫をしているものです、覚えるものは自分にとって重要なものに限定する、一字一句もらさず覚えず瑣末な部分は省き要点に絞って覚えるなど、重要性の判断と選択、焦点化をします。さらにメモを取る、連想を活用する、図や記号に置き換える、調べ方(どの辞書かネットで調べるか誰に聞くかなど)の確認などをして、情報を確実に記憶ストックに納めて活用しています。これは丸暗記能力の衰退によって促されるもので、内容の選択/焦点化によるエネルギーの節約と効果的な記憶方策の創出という、より高次の重要な発達です。
新しい能力の獲得と消失/衰退は、人間の誕生から死までいろいろな面で常にあるのです。子どもはどんどん増強する、加齢とともに衰退の一途、というのではありません。思えば、行動レパートリーがただただ増えていくのではパンクしてしまいます。より高次のものに入れ替わるために必須の前提が消失/衰退、換言すれば消失/衰退があればこそ新しいより高次な機能が生まれ、獲得/増大も起きるのです。

「年齢」「時間」の意味―発達曲線の功罪

発達曲線の「〇歳では〇点(%)」という表示は、「△歳だから△点」「□歳になれば□%ができる」と受けとられがちです。年齢が結果を生んでいるかのように――。しかしそうではありません。発達曲線は一目瞭然わかりやすくて便利ですが、時間や年齢は表記上の基準に過ぎず、年齢差という変化が何によって生じているのか、つまり発達の原因は何かについて、答えていないのです。

日頃、「まだ一歳前なのだから(できなくても)仕方がない」とか「もう少したてばできるようになる」などの言葉をよく耳にします。子どもの成長への熱い期待のあらわれです。加齢にともなう能力の変化についても、「年には勝てない」とか「年の功」などといいます。これらは一般の人がもつ発達についての素朴理論ですが、そこにはあたかも歳月や時間が発達という変化をもたらすとの考えが含まれており、その意味で正しくありません。

発達という変化は、時間さえ経てば黙っていても自然に生じるというものではありません。「石の上にも三年」といいますが、何もせずに座っているだけではだめ、その間の過ごし方が問題です。その時間内に「何をしていたか」「どんな働きかけを受けていたか」など、時間の中味が重要なのです。さらに、好奇心が強く新しい経験に気軽に対応する態度(開放性といいます)は、知識や技能の水準を衰えさせずに維持させます。また、几帳面でまじめに対処する態度も、衰退を補う有効な方略を工夫させています。日頃の生き方や性格は、時間以上に発達を大きく左右するのです。
素朴理論の誤りには心理学も一役買っています。年齢や時間を基準に示す発達曲線の頻繁な使用も一因でしょう。

柏木 惠子 (著)
出版社: 岩波書店 (2013/7/19)、出典:出版社HP