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日本文学はどのように読む?日本文学の魅力とは?
日本文学についてあなたはどれくらい知っていますか?源氏物語、夏目漱石、芥川龍之介…学校の国語の授業などで断片的に読んだことがあるだけ、という人も多いと思います。しかし、時代や物語の背景なども踏まえて掘り下げて読んでみると非常におもしろく、魅力的な世界がそこには広がっています。ここでは、日本文学を読むための前提知識から歴史まで学ぶことのできる本をご紹介します。
まんがでわかる 日本の古典大事典
楽しく古典の基礎を身につける
本書は、古代から江戸時代までの作品と作者を時代順にマンガとコラムで紹介しています。月の呼び方・装束などの古典に欠かせない知識や作品・作者同士のつながりについて解説しており、本書を読むことで各作品に対する理解がより深まります。
もくじ
この本の見方と使い方
古典って楽しいの?
飛鳥・奈良時代
編年体と紀伝体/漢文と漢詩文
時代ごとの歌人(『万葉集』)
歴史的仮名遣い/万葉仮名/和歌
平安時代
絵巻とは/絵巻の種類
作り物語と歌物語
「月」の名前
和歌集の部立て/八代集とは
日記文学とは
物語の四つの定型
藤原氏とは
散逸物語と欠巻
鏡物とは
鎌倉~室町時代
軍記物語とは/連歌とは
十三代集とは
「百人一首」とは
説話とは
能と狂説
江戸時代
仮名草子とは
俳諧とは
浄瑠璃と歌舞伎
川柳とは
国学とは
江戸時代の読み物
「感じること、考えること」は変わらない!
作品・人物さくいん
※作品と人物は如ページの作品・人物さくいんを見てね。
この本の見方と使い方
おうちの方へ(表記について)
作品や名前の読み方、表記、成立年、生没年などは複数の説がある場合があり、お持ちの本によっては本書と異なることがあります。内容は原文などになるべく忠実に構成していますが、まんがでの会話や衣装、髪型、表現などは興味を持って読んでいただけるように独自にかき起こしている部分もあります。和歌には歴史的仮名遣いが使われています。この本の和歌の漢字の部分は、基本的に歴史的仮名遣いの表記をひらがなでふり、現代仮名遣いの読みをカタカナでふっています。
古典って楽しいの?
2時間でおさらいできる日本文学史
名作を網羅した日本文学史の入門書
本書は、『古事記』から『火花』までの古今の日本文学の名作のあらすじと作品背景を紹介した一冊です。主要な作品と作者の概要を簡単に知ることが出来ます。入門書としても活用できますので、日本文学史を簡単に学びたい人にもおすすめです。
知らないなんてモッタイナイ、読まないなんてモッタイナイ、日本文学!!
上代から現代まで、日本文学の流れを一気に理解できる本を書きたい!その思いを抱いて早や十年以上。今回、この本を書く機会を得て、たくさんの本を読み返してみて思ったことはただ一つ、日本の文学はとにかく面白い!
『万葉集』の中で山上憶良が「言霊の幸はふ国」だと書いているように、言葉には霊力が宿っていて、その霊妙な働きによって幸いがもたらされる国、それが日本であるというのは本当の本当です。
日本語で書かれた文学は、世界に誇れるレベルの内容を持ち、素晴らしい作品が山のように創られてきたのです。読まないなんてモッタイナイ!!
ところが、学校で習ってきた日本文学史は、ただ本の名前や作者の羅列であったり、試験のために棒暗記させられたりしたものが大半です。
「『平家物語』と同じ軍記物語を選べ」と試験で問われて、「えーっとなんだっけ、というか、何でこんなものを覚えなければいけないんだ」という疑問を持ったまま大人になった人も多いのではないでしょうか。
そこで、この本ではただの羅列に過ぎない文学史の紹介の仕方ではなく、内容はもちろん、作品の成立や背景、そして作者の面白エピソードなどを交えながら、日本の文学が本当に面白く、読むに値する素晴らしいものであることを立体的に紹介していきます。
この本は「中古」や「中世」などの大きな時代区分や流れを押さえつつ、ダイナミックに千三百年にも及ぶ日本文学を語っています(そのぶん、泣く泣くカットせざるをえなかった作品・作者も多かったのです……)。
そして、作品そのものの面白さを伝えるために、以下のような工夫をしました。
①原典を知るためのあらすじや有名かつ象徴的な箇所を多数引用
②作品の評価や位置づけ、作者についての興味深いエピソードを豊富に記述
③作品をより深く楽しく理解するための背景知識を掲載
こうした、立体的なアプローチによる日本文学史とすることで、飽きずに楽しく日本文学を学ぶことができるはずです。
そして、この本で紹介されている豊穣なる日本の文学作品に興味が湧いた方は、是非実際に作品を手に取り、読んでみてください。それこそこの本を書いた者として最上の幸せです。
2016年秋
板野博行
【目次】
第1章 上代 CHAPTER1
神話の時代と和歌の揺籃期
日本文学史の始まり
第2章 中古 CHAPTER2
和歌は平安貴族の必須教養
三十一文字に想いを込めて
平安時代は女流文学の花盛り
「をかし」と「あはれ」の美学とは?
日本文学の金字塔『源氏物語』が生まれるまで
紫式部に影響を与えた名作物語
栄華を極めた藤原道長
道長を中心に世界は回っていた
説話文学の誕生と平安末に流行した歌謡
庶民や武士を描いた文学の始まり
第3章 中世 CHAPTER3
鎌倉時代もまだまだ和歌は大人気!
「幽玄」「有心」と和歌は深化した
中世は説話が花盛りの時代
仏教説話と世俗説話
隠者文学の双璧『方丈記』『徒然草』
この世の無常観を綴った鴨長明と兼好法師
軍記物語の最高傑作『平家物語』
平氏滅亡に見る滅びの美学
鎌倉時代の女流文学
あんなこともこんなことも赤裸々に綴った日記
南北朝を描く軍記物語と歴史物語
『太平記』と『増鏡』
中世の芸能は「能」で決まり!
天才親子が一世を風靡する
和歌をしのぐ勢いで広まった連歌
中世に大流行した創作ゲーム
第4章 近世 CHAPTER4
元禄文学の立役者・井原西鶴
西鶴が生んだ浮世草子という新しい小説
俳諧の大成
不易流行の理念を見出した松尾芭蕉の世界
近世の芸能は浄瑠璃と歌舞伎!
天才浄瑠璃作家・近松門左衛門
芭蕉亡きあとの俳諧
蕪村と一茶
国学の四大人!
儒教も仏教も伝わる前の日本人の心って?
読本、洒落本に滑稽本、人情本
子供から大人まで読書に夢中
第5章 近代 CHAPTER5
近代文学の黎明期
言文一致運動と文壇の形成
浪漫主義と明星派の活躍
20代で散った透谷・一葉・啄木
自然主義VS白樺派
日本独自の「私小説」の誕生
鷗外・漱石
二大文豪のデビューから晩年まで
正岡子規とその影響
短歌・俳句の革新
日本の詩
口語体による詩の完成
明治時代後期から大正時代の文学
芥川龍之介と耽美派
昭和初期から戦時下の文学状況
新感覚派からプロレタリア文学まで
第6章 現代 CHAPTER6
戦後の文学状況
無頼派の活躍
孤高の天才作家たち
詩・戯曲・批評
現代作家1
野間宏から中上健次まで
現代作家2
ダブル村上から又吉直樹まで
参考文献
学校では教えてくれない日本文学史
エンターテイメント日本文学史
「徒然草」「源氏物語」「古事記」など、日本文学の数々の名作が現代に至る流れに重視して解説されています。教科書で軽く触れた程度で内容を忘れてしまったような作品も、もう一度読み直したくなります。日本文学の入門の入門書です。
まえがき
日本文学について、気楽なよもやま話をしてみようと思う。文学論をこねくりまわす、という感じにはならないようにして、名作の楽しみ方をあれこれとりざたしてみよう、という計画だ。その作品を読んでいる人にとっては、うん、あそこは面白かった、と合点してもらえるような、読んでいない人にとっては、そんなにいいのなら読んでみようかな、という気がしてくるようなおしゃべりを、心のおもむくままにやってみるのだ。
本書は、PHP新書の『身もフタもない日本文学史』を底本としている。この程度の分量の本で日本文学を語るなんてことは到底無理なのだけれども、そこを思いきってえいやっとやってしまおう、というところから、『身もフタもない日本文学史』という書名にしたのだが、文庫化にあたって改題した。
『学校では教えてくれない日本文学史』のほうが、とっつきやすさが感じられていいと判断したためだ。日本文学に対して、臆することなくずかずかと接近してみよう、という狙いもあるのである。
文庫化にあたって、第一章と、第十一章を、書き下ろしてつけ加えた。いちばん古い「古事記」と、いちばん新しい現代文学も入っていたほうが、より完全な日本文学史になると考えたためである。
私は本書の中で、エッセイ文学というのはジジイの自慢話だ、とか、江戸庶民文学は今日のケータイ小説に似ているとか、大ざっぱに決めつけている。
だが、早わかりの入門書なんだから、そういうわかりやすい決めつけもまたよかろう、と判断しているのだ。私がここでやろうとしていることは、日本文学史を私なりにわかりやすく畳んで、ポケットに入るぐらいの大きさにしてみよう、ということだ。
そんな大づかみなやり方で、日本文学の特徴は何かとか、日本文学の値打ちはどんなところにあるのか、などのことをゆるゆると考えていきたいと思っている。
*引用の際、旧字体の漢字は新字体に改め、注釈の番号などは省略し、一部レイアウトを改めました。また、一部に読みがなを加えました。
目次
まえがき
第一章 「古事記」はただものではない
まず神が生まれるところから始まる神話
国を生み、すべてを生んでいく
スサノヲやオホクニヌシの物語
ヤマトタケルは全国平定の英雄
「古事記」は日本人の原型の文学
第二章 「源氏物語」のどこが奇跡か
「源氏物語」千年紀
華麗から悲哀までさまざまの恋
中国文学に学んでいるに違いない
敬語表現で書かれている不思議
民族の教養としての古典
第三章 短歌のやりとりはメールである
短歌は恋の駆引き
短歌を処理するさまざまな方法
パロディにした「源氏物語」
メールも短歌も心が躍る
デリケートなコミュニケーション
第四章 エッセイは自慢話だ
「枕草子」はセンス自慢
「方丈記」には主題がある
「徒然草」はエッセイの見本
兼好は世の中を叱る
男は兼好、女は清少納言になる
第五章 「平家物語」と「太平記」
滅びの美に日本人は弱い
軍記文学の名作
南北朝時代は大混乱期
「太平記」は欲望の文学
「平家物語」は能、「太平記」は歌舞伎
第六章 紀行文学は悪口文学
日本の紀行文学は陰
西行といえば漂泊の人
さすらう歌人の元祖は紀貫之
田舎の悪口を言う美意識
「坊っちゃん」は紀行文学?
第七章 西鶴と近松——大衆文学の誕生
「好色一代男」はパロディだった
町人の文学を創始
庶民を描く最初の戯曲
心中を恋愛悲劇と見る
大衆を描く文学の力強さ
第八章 「浮世風呂」はケータイ小説?
言葉遊びの名人、十返舎一九
庶民の旅への憧れもすくい取る
式亭三馬は会話を書かせて当代一
人情本の為永春
水もケータイ小説?
曲亭馬琴は日本最大の伝奇作家
第九章 漱石の文章は英語力のたまもの
世界に出せる日本文学は?
漱石は現代の文章を創った
新時代の文学を模索
英文学が下敷きにされている
森鴎外は知的で真面目すぎる
第十章 みんな自分にしか興味がない
自然主義文学が曲がり角だった
白樺派も自分のことを書く
芥川と海風と谷崎
川端康成は変態作家なのか
太宰と三島の類似点
第十一章 戦後文学史は百花繚乱
まずは戦争文学が出現した
アヴァンギャルドと第三の新人
華々しいスター作家たちの活躍
直木賞作家の重要な仕事
日本文学はまったく衰退していない
第十二章 エンターテインメントも文学の華
時代小説とは何か
キラ星の如き時代小説家たち
江戸川乱歩は二面性の人
SFの始まりと大きな広がり
装丁——bookwall
写真— ©️MACHIRO TANAKA/SEBUN PHOTO/amanaimages
日本近代文学入門-12人の文豪と名作の真実
近代文学の文豪の知られざる一面
二葉亭四迷、森鴎外、芥川龍之介など日本近代の文豪12人の人生を辿り、近代文学史についての理解を深めることができます。それぞれの作家の文学史に対する思想が浮かび上がってくるため、非常に興味深いです。
はじめに
こんなにさらさらと書けるのに。
しかも上手いのに。
なぜ休んでばかりいるのだ!
そう怒ったのは、ときの『読売新聞』の社長である。専属作家であった尾崎紅葉が、人気連載『金色夜叉』の執筆を休んでばかりいる。そのことに業を煮やしたのである。
あいだに入ったのは高田半峰こと高田早苗である。政治家であり、早稲田大学の初代学長も務めたが、若いころは『読売新聞』の主筆であった。紅葉を『読売新聞』に招いたのも彼である。田舎の友人宅に招待されると自前の味噌と醤油を持ち込むほどのグルメであった紅葉とは、珍味の贈り比べをするほど親しかった。
そのため休載が続き、社長がやきもきしはじめると、高田が紅葉の家に馳せ参じる。だが朝の遅い紅葉を起こし、前夜遅くまで奮闘していたらしい草稿を見ると、催促する勇気もなくなったという。
同じジレンマを、この草稿を使って回避したのが高田の後継者・市島春城(謙吉)である。社長からのプレッシャーに耐えかねた市島は、あるとき、この草稿を社長に見せた。それは一枚の原稿であったが、あちこちに幾重もの重ね貼りがしてあり、全体に分厚くなったものだった。現代のように修正液もない時代である。いったん書き終えた原稿を読み返し、読み返しして、紅葉は気になる箇所を墨で消し、余白に書き直した。だがそれも気に入らないと、小さく切った白い紙を上に貼りつけて、さらにその上に書き直す。切り貼りのために傷だらけになった机の上で紅葉はこの作業をくりかえすため、原稿にはあちこちに小さな紙の層ができていた。「七たび生れ変わって文章を大成せむ」という彼の気骨の表れである。市島は、社長にこの小さな紙を一枚一枚剥がして見せながら、一言隻句おろそかにしなかった紅葉のこだわりを説いた。舞台裏にどれほどの苦労があるのか、そこではじめて知った社長は、怒りの鉾をおさめたという。
尾崎紅葉は、誰もが認める美しく洗練された文章を書く作家だった。それは彼が、完璧主義の職人気質だったからかもしれない。あるいは、「ありあり」を「歴々」、「すたすた」を「速歩」、「むしゃむしゃ」を「咀嚼」などの当て字で表現する、ユニークな発想の持ち主だったゆえかも知れない。ただ紅葉は、彼の目指した文章の高みへ少しでも近づけるように、心にきざみ骨にちりばめるという彫心硬骨を重ねつづけた。いかにも軽やかで、自然で涼しげな文章は、その証である。
しかし紅葉と同じ時代を生き、近い立場で接していた『読売新聞』の社長でさえ、その苦悩の舞台裏までは知らなかった。まして現代のわれわれが、優美な水鳥の、水面下の足掻きを知ることはない。だが、それは紅葉に限った話でもなければ、創作上の苦労のことだけでもない。
現代でも書店の在庫確認者がどんな時期でも必ず発注をかけるという夏目漱石。
間を置かず舞台上演され、客席を埋めさせる泉鏡花や樋口一葉。
高校の教科書で一度はふれる森鷗外に芥川龍之介。
ミステリー愛好家にとっての探偵小説の父・黒岩涙香と、落語好きにとっての落語中興の祖・三遊亭円朝は、決して「遠くなりにけり」の明治の追憶ではない。
ほかにもロシア文学を日本に広めた二葉亭四迷、自然主義を率いた田山花袋、女流作家の道を一葉に先んじて切り開いた田辺花圃も、それぞれの分野で忘れがたいパイオニアである。
そして芥川賞や直木賞をもうけ、みずからも含む作家の地位向上に尽力した菊池寛の想いは、今日にみごと花開いている。
彼らをここでとりあげたのは、彼らが単に日本近代文学史で有名だったからではない。偉大な文人芸術家というビッグネームと、教科書でもおなじみの美しく澄ました表情の陰で、彼らがどれほど人間的であったか、どれほど日常生活に右往左往していたかを表したかったからである。
そのため、まんべんなく多くの作家をとりあげ、それぞれの人生のすべてに触れていくというふつうの文学史とは異なり、本稿では特に作家に絞らず、近代の日本文壇にゆかりの深い十二人だけをとりあげた。そして、各章ごとにテーマを定め、二人ずつに焦点を当てた。そのテーマに即して選んだため、互いの関係はさまざまである。師弟、ライバル、親友もいれば、一見それほど深いつながりがないようなペアもいる。だが二人を比較し対照させることで、本当に人間的な側面が、いっそう明確に浮き彫りになる。
さらにそれぞれの人生の転機となる局面には多めの稿を割き、代表作を手がけた時期のできごとに比重を傾けた。そして裏話のような小さなエピソードも、あちこちに押し込んでいる。
それぞれの名作を発表する舞台裏で、彼らがどんな苦労をしていたか。
現代のわれわれと同じような葛藤、焦燥、嫉妬、ときには迷い、卑屈になり、逆に得意にもなり……。執筆のプレッシャーに耐え、人間関係に気を遣い、はては物質上、経済的にもそうとうの辛酸をなめていたことには驚きを感じる。
近代日本の文学を代表する彼らが、あえて苦労や苦悩を隠していたというわけではない。ただそこには、ごくふつうの生活を営んでいた、あたりまえの人間がいただけであり、現代のわれわれと何ら変わらない。そんな彼らがそれぞれの生活の中で、どのようにして、かの名作をうみだしていったのか。その姿を知ることは、忙しくストレスの多い現代生活をおくるわれわれ自身への、エールにも活力にもなりえると思える。
漱石は弟子に、「他人は決して己以上はるかに卓絶したものではない。また決して己以下にはるかに劣ったものではない」と説いた。その言葉は、文豪・漱石ではなく、頭を掻いてはその指を嗅ぎ、猛烈に臭いものを嗅いだときの犬のような表情を浮かべ、「いやでたまらない」とぼやきながら机でペンを走らせていた中年おじさんの言葉とみれば、ぐっと身近なものに感じられる。そんな彼らが生んだ名作も彼らの背景を知れば、何だか今までと違って見えてくる。
そして今までとは違った角度へと作品を傾け、個々の人間ドラマとしても作家への興味を惹きよせてくれる。本稿がそんな好奇心を充たす一助になれば、幸せである。
目次
はじめに
第一章 異端の文体が生まれたとき——耳から目へのバトン
①三遊亭円朝『怪談牡丹燈籠』——耳が捉える落語の魅力
名人噺家が生んだ名作
『怪談牡丹燈籠』タイトルの由来
妖気を帯びた高座
大成功の秘訣
七歳で初高座
雪の日も雨の日も裸足で
転機となった大地震
災いを転じて福となす
怪談噺とリアリティーの追求
円朝の交遊
耳から目へ
話し言葉から読み言葉へ
②二葉亭四迷『浮雲』——最初の近代小説が生んだ新文体
落語から生まれた近代小説
新しい文体の誕生
言文一致体小説の先駆
「人真似」の文章
絶賛された内容
タイムリーなリストラ小説
非職免職は流行語
「くたばってしまえ」のペンネーム
詐欺師を自認した二葉亭
第二章 「女が書くこと」の換金性——痩せ世帯の大黒柱とセレブお嬢さま
①樋口一葉『十三夜』——才か色か、女性に換金しえたもの
書くことの換金性
一家の大黒柱になるまで
教員月給の半年分の稿料
桃水に弟子入り
デビューとスキャンダル
師との別れ
靄のなかの一葉
貧窮生活の苦労
ダルマからきたペンネーム
「まことの詩人」と絶賛
玉の輿の”功罪”
作家・一葉の個性
②田辺花圃『藪の鶯』——セレブお嬢さまの自画像
セレブ一家の裏事情
当代の清少納言
「戯れ」の収入で一周忌法要
お嬢さまの等身大小説
同時代の評価
「小説家」として〈十六名媛〉に
第三章 洋の東西から得た種本——模倣からオリジナルへ
①尾崎紅葉『金色夜叉』——換骨奪胎を超えた創意
親分肌の江戸っ子
原敬をしのぐ政治的手腕
西洋文学という源流
墓に手向けてという遺言
ヒントとなった原典
傷だらけの机
文と想の融合
天秤にかけられた愛情と財産
女より弱い者
ヒントから羽ばたくもの
オリジナルの発意
名作は時空を超えて
②泉鏡花『高野聖』——染め出されていく源流
〈本歌取〉の技巧
受け継いだ職人気質と潔癖症
代表作への毀誉褒貶
『高野聖』に見る善知識
迷走する『高野聖』の原点
原作を求める作品
織り混ぜられたルーツ
第四章 ジャーナリズムにおけるスタンス——小説のための新聞か、新聞のための小説か
①夏目漱石『虞美人草』——新聞小説としての成功と文学としての“不成功”
迷いと苦悩の前半生
“都落ち”からスタートした『坊つちやん』人生
望郷の念、ロンドンから東京へ
「ワカラナイ」講義をする教師
教え子の自殺
白湯的小説『吾輩は猫である』
“先輩”の存在
弱い男も弱いなりに
死ぬよりいやな講義の準備
「変人」としての選択
博覧会という時事ネタ
「だらだら小説」の「殺したい」ヒロイン
小説のための新聞
②黒岩涙香『巌窟王』——新聞売り上げのための成功手段
新聞界のマルチタレント
土佐の〈いごっそう〉
英語小説三千冊で培った英語力
〈探偵小説の父〉へのきっかけ
ぞくぞくと涙香訳に夜がふける
新聞は社会の木鐸である
優れたタイトルセンス 絶賛された『巌窟王』
発信されるメッセージ
第五章 実体験の大胆な暴露と繊細な追懐——自然主義と反自然主義
①田山花袋『蒲団』——スキャンダラスな実体験
ペンネームは匂い袋
大柄な「泣き虫小説」作家
日本流自然主義の先駆け
『蒲団』のために検事局で取り調べ
スキャンダルの影響
書くことのジレンマ
モデルへの謝罪
豪快な外見と乙女な内面
文壇を生き抜く
②森鴎外『雁』——やさしい追憶
自然主義作家の敬慕する〈反〉自然主義作家
「閣下」に出会えた一作家
医学士としてのキャリア
厭世観を埋めるために
浪漫詩の紹介者
攻撃的な文芸評論家
蛙を呑む心持——エリートの挫折
実話のちりばめられた佳作
反自然主義の作風
第六章 妖婦と悪魔をイメージした正反対の親友——芸術か生活か
①菊池寛『真珠夫人』 ——新時代の妖婦型ヒロイン
生活第一、芸術第二
教科書も写本した少年時代
マント事件
京都の学府へ
二十五歳未満の者、小説を書くべからず
『真珠夫人』の成功
『文藝春秋』創刊と芥川賞・直木賞の創設
文士の地位向上への熱意
通俗小説人気の確立
②芥川龍之介『鉄儒の言葉』——警句の普遍性
鬼才の鮮烈なデビュー
正反対の親友
辰年生まれで龍之介
“染物屋・芥川”のバリエーション
あざ笑う悪魔 (laughing devil)に私淑
『悪魔の辞典』の影響
休儒の言葉
芥川と田端文士村の終焉
終章 文学のその後、現代へ
文学の文明開化
大正デモクラシーと娯楽小説の多様化
モダニズムから戦後文学へ
双方向型の今日へ
【ちょっとブレイク】
美談のスパイス
裸のつきあい
泥棒と疑われた内弟子時代
虚像のルックス
ライバルへの相矛盾する感情
美男揃いの硯友社メンバー
ウサギへの愛
重宝な泥棒
明治の一大イベント東京勧業博覧会
ストーリーテリングのバトン
鉄道へのこだわり
ナポレオンより短い睡眠時間
天神さまはどちら向き?
愛弟子への助言
あとがき
注
主要参考文献
事項キーワード一覧
人名キーワード一覧
*本文中の引用文は、原則として新字新かなづかいにあらためた。読みやすさを優先して句読点を入れたり、漢字を改めたりしたものもある。ただし、作品名については旧かなづかいのままとした。[ ]内は引用者による注。
日本文学史序説〈上〉 (ちくま学芸文庫)
日本研究のバイブル
小説や詩歌だけでなく、思想・宗教・歴史・農民一揆の檄文にいたるまでを“文学”として視野に収め、文学史にとどまらず日本文化・思想史まで学ぶことができる一冊です。上巻では万葉集の時代から元禄文化までを扱っています。下巻とともに本書を読めば日本人が知っておくべき歴史を学ぶことができます。
目次
日本文学の特徴について
文学の役割
歴史的発展の型
言語とその表記
社会的背景
世界観的背景
特徴相互の連関について
第一章 『万葉集』の時代
『十七条憲法』から『懐風藻』まで
『古事記』および『日本書紀』
民話と民謡
『万葉集』について
第二章 最初の転換期
大陸文化の「日本化」について
『十住心論』および『日本霊異記』
知識人の文学
『古今集』の美学
第三章 『源氏物語』と『今昔物語』の時代
最初の鎖国時代
文学の制度化
小説的世界の成立
女の日記について
『源氏物語』
『源氏物語』以後
『今昔物語』の世界
第四章 再び転換期
二重政府と文化
仏教の「宗教改革」
禅について
貴族の反応
『平家物語』と『沙石集』
第五章 能と狂言の時代
封建制の時代
禅宗の世俗化
仲間外れの文学
芸術家の独立
能と狂言
第六章 第三の転換期
西洋への接触
初期の徳川政権と知識人
本阿弥光悦とその周辺
大衆の涙と笑い
第七章 元禄文化
「元禄文化」について
宋学の日本化
徂徠の方法
白石の世界
『葉隠』と「曾根崎心中」
俳諧について
町人の理想と現実
下巻〔内容〕
第八章 町人の時代
第九章 第四の転換期 上
第十章 第四の転換期 下
第十一章 工業化の時代
終章 戦後の状況
日本の文学 (中公文庫)
日本文学研究者による日本文学の入門書
本書は、日本文学研究者であるドナルド・キーン氏のケンブリッジ大学時代の講義をもとに、日本文学論について書いたものです。『万葉集』『源氏物語』から、松尾芭蕉、正岡子規など、後年のキーン氏の研究の核となる日本文学のエッセンスを論じた日本文学の入門書です。
目次
日本の文学
緒言
Ⅰ 序章
Ⅱ 日本の詩
Ⅲ 日本の劇
Ⅳ 日本の小説
Ⅴ 欧米の影響を受けた日本の文学
海外の万葉集
近松とシェイクスピア
近松と欧米の読者
啄木の日記と芸術
日本と太宰治と『斜陽』
解説 三島由紀夫
ドナルド・キーン氏のこと 吉田健一
キーワード一覧
カバー画 与謝蕪村筆「野ざらし紀行図」(部分)
カバーデザイン 細野綾子
緒言
この本を書いた時、私の目的は欧米の読者、というのは、欧米の文学上の傑作を楽しむのに馴れたものに、私が日本の文学で驚嘆し、また、美しいと思った作品を紹介することにあった。本の枚数が限られていたので、私は日本の文学の長い、複雑な歴史のきわめて大ざっぱな輪郭を描くに止めるか、その作品の幾つかを選んでこれをもう少し詳細に亘って検討するか、その何れかに決める他なかった。私は限定された作品について語る方を取って、それはしかし日本、及び欧米の批評家たちが最も高く評価している傑作の一部には触れないことになることを意味し、そのために例えば私は日本の詞華集の中で疑いもなく首位を占めている『万葉集』について書くことを諦めなければならなくなり、それはこの詩集について書き出せば、連歌と俳句を論じる余地がなくなることは明らかで、私はその連歌と俳句をどうしても取り上げたかったからだった。他の理由から、私は『枕草子』『徒然草』『方丈記』などの傑作も無視しなければならなかった。それ故に、この本は日本の文学について組織的に論究したその概観でもなければ、その代表作を網羅した参考書でもなくて、私が欧米の読者にとって特に興味があるのではないかと考えた日本の文学の或る幾つかの面についての、きわめて個人的な評価を試みたものなのである。
私はこの本がいつかは日本語に訳されるということを思っても見なかった。その目的は欧米の読者の大部分にとって未知の文学を彼等に紹介することにあったのだから、その文学を子供の時から知っている日本の読者にこういう本を提供するのは筋違いかも知れない。しかし日本の友達が私に語ったことによれば、前にも外国人が日本の美術とか、劇とかについて発表した意見が(何かの形での)刺戟になり、日本の文明の伝統について新たな検討が行われるきっかけを作ったことが何度かあるということで、もしこの本の訳がそういう役割を果すことになれば、私としては何も言うことはない。
この本を私は一九五二年に書いた。その後、私は日本文学についてさらに多くのことを知って、この本で強調されていることの中には、今の私が考えていることとは少し違っているものもある。しかし私は今度、訳が出るのに当って、この本の内容にほとんど手を入れなかった。私にとってこの本は思い出が多いもので、これを私はまだ実際に日本というものを知らず、またその頃私が教職にあった英国から京都その他、私が文学を通して知った日本の各地に行けるだけの金を手に入れることはまずなさそうだった時代に書いた。その当時は日本から本を取り寄せるのが容易なことではなかった。そして私は、自分が関心を持っている国からあまりにも遠い所にいて、その上に、私の日本の文学についての講義に誰も何の反応も示さないので落胆していた。私は日本の文学の研究を全然止めてしまって、何かもう少し大学で人並に通用する仕事に転じようかとさえ思い、それでそういう私と、私の講義を聞きに来るものに私がやっている仕事が価値あるものであることを証明するためにこの本を書いた。もし私が今こういう本を書くならば、その後、さらに十年間、勉強を続けただけの違いをそれは示しはするかも知れないが、私がこの本で最初に日本の文学に傾けた情熱を再現することは難しいのではないかと考える。
附記
この本が筑摩書房のグリーンベルト・シリーズに入ってからまた八年間が経ち、その間、日本の文学はめざましい成果をあげ、この本を書いた当時と違って西洋でも翻訳を通じて日本文学の偉大さをより正しく鑑賞できるようになった。特に一九六八年に川端康成氏がノーベル文学賞を受賞されたことで日本現代文学が高く評価されてきて、私をはじめ外国人の日本文学者は大いに喜んでいる次第である。もしも現在この本を新しく書こうと思ったら、きっと違う表現はたくさんあるだろうが、一九六三年の緒言に書いた通り、この本の原型は私にとって特別な意義のあるもので、もう一度もとの形で発表させていただきたい。(一九七一年十一月)
中公文庫版附記
この本が文庫版になると聞いて感慨に堪えない。この本のすばらしい翻訳者吉田さんも、あまりにも親切な解説者三島さんも既にこの世にはない。御冥福を祈るのみだ。(一九七九年十一月)
日本文学の古典 (岩波新書 青版 586)
古典をどう読むか
作品はその時代に即して読み直され、その読み直しに耐えうるものが古典であり、いろいろな意味で私たちの精神を豊かにしてくれます。本書では、刊行当時に古典がどのように読まれていたのかを知ることができます。また、日本の古典文学や芸能の概要を把握するのに最適の1冊です。
第二版はしがき
古典は過去のものであるとともに現代のものでもあり、従ってそれはつねに新たに、恐らくは世代ごとに読み直される運命を免かれない。時間によって聖化されるのではなく、むしろ時間をこえた、こういう新たな読み直し、現代人との対話にたえうる作のみが古典の名に価するともいえる。この対話は、有効に行われるならば、いろいろの意味でわれわれの精神を豊富化するのに役立つはずである。ただそのさい、それぞれの作の背負っている時代固有の約束や文法を一概に無視することはできないわけで、さもないと現代を過去に読みこむことになりかねない。しかもその約束や文法には、正直にいってまだよくわからぬ点がすこぶる多いのだから困る。
それにしても現代、はたしてどのように日本の古典を読み直すことができるか。不充分にしかやれなかったけれど、この問にいささかなりと答えてみようとして、私たちはこの本を書いた。従ってこの本は、いわゆる日本文学通史といった類のものではなく、またむろん、いわゆる学問的な論述でもなく、もっと気ままに、日本の古典の背骨になっていると思われる幾つかの作家や作品を足場にして、古典の再評価のため若干扉を叩こうとした程度のものであるが、読者が今までよりも意識的に、古典を読み、かつ享受する上での一助となるならばさいわいである。
執筆は一章から四章まで及び「古典をどう読むか」が西郷の、五章から八章までが永積の、九章から十二章までが広末の分担である。旧版に制約されて全面的な書き改めはできなかったが、最近の研究の成果をとり入れ、可能なかぎり手を加え第二版を出すことにした。それにつき岩波書店の都築令子さんにひとかたならずお世話になった。厚く感謝したい。
一九六五年十一月
著者
目次
第二版はしがき
一 神話と叙事詩
古事記
常陸風土記
天照大神とスサノオの命
神話の意味
記紀歌謡倭建の命
二 万葉集
相聞歌
東歌の世界
初期万葉時代
柿本人麿
憶良・旅人・赤人・家持
三 源氏物語
作者の眼
作品の主題
竹取物語とのつながり
源氏物語の新しさ
宇治十帖
四 女の文学
女の文学の作者たち
紫式部日記
枕草子
仮名文字
蜻蛉日記
女の文学と男の文学
五 説話の世界
今昔物語集
宇治拾遺物語
十訓抄・古今著聞集
説話集から御伽草子へ
六 平家物語
平家物語と琵琶法師
平家物語の成立
平家物語の英雄たち
和漢混淆文
全体の構想
平家物語の作者
七 能と狂言
観阿弥の能
世阿弥の能芸論
幽玄の世界
初期狂言の諷刺性
武悪
狂言の笑い
狂言の作者
能と狂言
八 隠者の文学
方丈記
徒然草
長明と兼好
西行
宗祇
九 芭蕉の俳諧
下級武士から俳諧師へ
談林から蕉風へ
芭蕉の生きかた
連句と発句
風流
「軽み」
十 西鶴と戯作者
浮世草子の成立
愛欲と金の文学
西鶴置土産
西鶴の笑い
上田秋成
戯作の世界
十一 近松の悲劇
曾根崎心中
世話悲劇
心中天の網島
女同士の義理
浄瑠璃の伝統と近松
十二 歌舞伎
歌舞伎のなりたち
元禄歌舞伎
様式美・役者中心主義と戯曲
並木五瓶
鶴屋南北
熊谷陣屋
黙阿弥
歌舞伎の大衆性
古典をどう読むか
日本文学の古典50選 (角川ソフィア文庫)
古典文学の世界が見渡せる
古典文学とは、昔の人々の「心の遺跡」と言えます。源氏物語、古事記、そして平治物語など、古典の名作が詳しくわかりやすく解説されています。節ごとに、作品の種類や巻冊数も紹介されています。日本文学史の全体の流れをとらえるのに最適な1冊です。
はじめに
土地の開発・再利用のために地面を掘ると、しばしば古代や中世の人々の遺跡が発見されます。そのようなことから、昔の人々の生活が具体的にわかってきて、日本の考古学や歴史学はいちじるしく発展しました。
では、昔の人々はどんなことを考え、何に喜びを見いだし、また何を嘆き悲しんだのでしょうか。それらのことを知るためには、わたくしたちは大地だけではなく、昔の人々が書き残したたくさんの古い書物の世界を掘り起こす必要があるでしょう。
日本人が物を書き残すようになった初めを七世紀初頭の聖徳太子の頃とすると、それからざっと一四世紀近く、近代の百年をのぞいても、一三世紀近くの時が流れたことになります。その間に書き残された物はおびただしい数にのぼります。それを掘り起こすなんて、気の遠くなるような作業だと思う人もいるでしょう。けれども、昔の人々の心の遺跡は、たとえば百舌鳥古墳群やピラミッドのように、このおびただしい古い書物の平野の上にそびえ立っているのです。それが古典文学です。そして、それらを発掘するためには、シャベルもブルドーザーも要りません。要るのはあなたがたの新鮮な心、柔軟な感性だけです。
この本は、そのように日本の古典文学の世界から昔の人々の心、ものの考え方や感じ方をさぐってみようと思う若い人々のための、簡単なガイドブックの役目を果たすことができればという心づもりで書かれたものです。全体は上代の文学・中古の文学・中世の文学・近世の文学の四章から成り、五○の作品ごとに節を立て、各節見出しの下には、だいたいの目星をつけるために、①作品の種類、②巻冊数、③成立年代、④作者、⑤読むのに手ごろな本(例:「新古典大系」は『新日本古典文学大系』岩波書店刊の略)の順で、要点を掲げてあります。ただ、古典文学の作品は伝わる過程でさまざまに変化することが多いので、一つの作品でも本によって違うことが少なくありません。それゆえ引用本文は⑤に示した本の本文と一致するとはかぎりません。また、なるべく読みやすい形に整えました。
作品はだいたい年代順に配列してありますが、一節一節読み切りの形なので、どの節から読んでもかまいません。なお、文学史全体の流れもとらえられるように、各章初めに概説を掲げ、巻末に略年表を添えました。このささやかな本がきっかけとなって、みなさんが直接それぞれの古典文学に親しむようになられること――それがわたくしの念願です。
一九八四年一〇月
久保田淳
目次
はじめに
Ⅰ 上代の文学
1 古事記
2 風土記
3 万葉集
Ⅱ 中古の文学
4 古今和歌集
5 土佐日記
6 竹取物語
7 伊勢物語
8 大和物語
9 落窪物語
10 うつほ物語
11 蜻蛤日記
12 枕草子
13 源氏物語
14 紫式部日記
15 更級日記
16 大鏡
17 今昔物語集
18 梁塵秘抄
Ⅲ 中世の文学
19 保元物語
20 平治物語
21 平家物語
22 山家集
23 新古今和歌集
24 方丈記
25 金槐和歌集
26 建礼門院右京大夫集
27 宇治拾遺物語
28 沙石集
29 徒然草
30 太平記
31 義経記
32 曾我物語
33 隅田川
34 瓜盗人
35 水無瀨三吟百韻
36 閑吟集
37 文正草子
Ⅳ 近世の文学
38 好色五人女
39 世間胸算用
40 おくのほそ道
41 冥途の飛脚
42 仮名手本忠臣蔵
43 柳多留
44 雨月物語
45 金々先生栄花夢
46 蕪村句集
47 東海道中膝栗毛
48 浮世風呂
49 南総里見八犬伝
50 東海道四谷怪談
日本古典文学史年表
各節の見出しページに紹介した本の略称の正式書名は次のとおりです。
・「新古典大系」は『新日本古典文学大系』(岩波書店刊)
・「新古典全集」は『新編日本古典文学全集』(小学館刊)
・「古典集成」は『新潮日本古典集成』(新潮社刊)
・「ソフィア」は角川ソフィア文庫(KADOKAWA刊)
・「BC」は角川ソフィア文庫ビギナーズ・クラシックス(KADOKAWA刊)
響映する日本文学史 (放送大学叢書)
文学にもつながりがある
古典から近代に至るまで、ひとつの文学作品は別の作家を生み、作家たちは作品や作者は新たな作品を作り続けてきました。お互いに響き合うことで文学は発展してきたのです。本書では、魅力的な古典の名作の原文に触れ、作者や作品同士の関連性・類似性を明らかにすることができます。
目次
はじめに
第一章 『古今和歌集』の影響力
第二章 『源氏物語』と日本文化
第三章 『和泉式部日記』と『更級日記』の近代性
第四章 批評文学の源流、『枕草子』と『徒然草』
第五章 謡曲というスタイル
第六章 松尾芭蕉の旅と人生
第七章 本居宣長の学問
第八章 和漢洋の体現者・森鴎外
第九章 夏目漱石と、近代文学のゆくえ
はじめに
本書は『響映する日本文学史』と題して、古典から近代に至る、わが国の代表的な作品と作者を取り上げて、それぞれの作品や作者が内包している現代人へのメッセージを読み取りたい。その際に、日本文学の全体像が明らかになるように、「文学とは何か」という大きなテーマへも、視野を広げたい。そのためにも、それぞれの作品ごとに、ぜひとも「原文」に触れたい。原文を目の当たりにして、じかに作品の息吹に触れたいからである。文学作品はその内容だけでなく、本居宣長も『古事記伝』などで述べているように、「文体」に注目することが重要である。表現や文体がきわめて重要な意味を持っているからである。引用掲載する原文は、それ自体が「日本文学名作選」となることを願って、できるだけ多くの例を挙げた。
内容と文体の両面から、作品の息吹にじかに触れることを本書は目指していると述べたが、それではいったい、「じかに」とは、どういうことなのだろうか。書写によって写本が伝わってきた古典文学の場合には、現代人が「原文を読む」と言っても、原作者が書いた原文そのままを読めることは稀である。「原文を読む」とは、ほとんどの場合、研究者や注釈者によって「校訂された本文を読む」ことなのである。それは現代に限らず、古くから行われてきたことであるから、おのずと各作品の背後に広がる、長年にわたる注釈史・研究史を、現代人が共有することになる。そのような文学上の親密感を大切にしたい。
文学における親密感は、同時代と異時代とを問わず、作者同士の繋がり、作品同士の関連性や類想性を明らかにする。そこに着目することによって、日本文学内部の領域だけでなく、広く世界の文学、さらには歴史や社会、芸術や思想など、世の中の全般がおのずと視野に入ってくると思う。
本書は、平成二十一年(二○○九)から四年間放送された、『日本文学の読み方』の印刷教材を基にしているが、今回、放送大学叢書の一冊に収められるにあたり、章立てを取捨選択し、章の配列を多少変更し、記述内容についても十分に意を尽くすように適宜補足するなどして、私の文学観が明瞭になるように心懸けた。言わば、自分がかつて全十五章を執筆した印刷教材を基盤として、今一度、新たな気持ちでそのエッセンスを書き下ろす姿勢で臨んだ。
私は、これまで自分の著作の中で、しばしば「響映」という言葉を用いて、日本文学を研究してきた。「響映」という熟語は、ある時、ふと、心に浮かんだ言葉だった。意味は、読んで字の如く、「響き合い、映じ合う」ことである。今のところ辞書などにも出ていないようで、見馴れない熟語かもしれないが、本書を執筆しながら、この「響映」という言葉を書名に出して、響き合い、映じ合う文学史の姿を明らかにしたいと思った。本書の各章それぞれが、日本文学の新たな読み方への扉となれば、幸いである。
なお、この場をお借りして、本書の編集を担当してくださった左右社の筒井菜央さん、そして、放送大学叢書で既刊の、拙著二冊『徒然草をどう読むか』『方丈記と住まいの文学』も含めて、今回もいろいろお世話になりました小柳学さんに、心より感謝します。
令和二年八月二十五日
島内裕子