【最新】環境経済学について学ぶためのおすすめ本 – 入門から応用まで

環境経済学とは?最新トピックも分かる入門書を紹介

環境経済学は、経済学の分野の1つであり、地球温暖化といった環境問題が生じるメカニズムを明らかにし、経済学的な枠組みでこれらを解決するための対策を考える学問です。経済活動と環境保全の両立は大きな課題となっており、環境経済学は注目が高まっている学問となっています。ここでは、環境経済学の入門から応用までを学ぶことのできる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

入門 環境経済学―環境問題解決へのアプローチ (中公新書)

経済学の視点から環境問題を考える

経済学の理論の基本を使って、環境問題の解決のためにすべき政策を主張しています。私たちが豊かな未来を作るためには何が必要なのか?経済学の基本から、ごみ有料制・排出量取引など環境経済学のすべてがわかるので入門書としてお勧めの1冊です。

日引 聡 (著), 有村 俊秀 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2002/7/1)、出典:出版社HP

はじめに

わたしたちの生活と環境汚染—わたしたちは、被害者か、それとも汚染者か?

地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、砂漠化、森林の減少、海洋汚染、地下水汚染、大気汚染、水質汚濁、廃棄物問題など、わたしたちは多くの環境問題に直面している。これらの環境汚染の原因はだれにあるのだろうか?
すべての人は、必ず、環境汚染とかかわっている。
たとえば、わたしたちが電気を消費することによって、発電所では石炭や石油、天然ガスが燃やされ、地球温暖化の原因となる二酸化炭素や、酸性雨の原因となる硫黄酸化物、窒素酸化物が大気中に排出される。
また、肉の生産のために飼われる家畜や水田からは温暖化の原因となるメタンが排出される。
日本人がエビを食べれば食べるほど、エビの輸出国であるタイでは養殖場が増え、そのためにマングローブという、稚魚の成育に必要な資源が失われてしまう。
わたしたちの消費活動の背後では、それを支える生産活動のために、多量のエネルギーや資源が消費され、汚染物質の排出により、環境が汚染されていく。
汚染物質を直接排出する主体は、多くの場合生産者である。しかし、製品やサービスが、消費に応じて生産されることを考えると、わたしたちの消費が環境汚染の大きな要因となっており、わたしたちは、環境汚染による被害者であると同時に、間接的な汚染者であることが容易に理解されよう。

技術開発は万能か?

環境問題を解決するために最も重要なことは、汚染物質を除去、低減させる技術の開発であると考える人は多い。しかし、それだけで充分であろうか?
確かに、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー利用技術の開発、電気自動車の開発、汚染物質除去装置やリサイクル技術の開発など、環境保全型技術の開発は、環境汚染の防止に大きく貢献する。しかし、技術が開発され、それらの技術を利用することが環境にとって望ましいとわかっていても、技術利用の費用が大きな障害となり、導入が充分進まないという問題がある。
たとえば、太陽パネルによる発電によって、電力消費量を抑制できれば、発電によって発生する二酸化炭素、窒素酸化物などの汚染物質の発生量を削減することができる。しかし、太陽パネルの設置コストが、節約できる電気代を大きく上回るようであれば、費用負担が大きくなりすぎるため、太陽パネルを設置する人は少ないだろう。この結果、太陽パネルは、なかなか普及しないことになる。
このように、社会的に望ましい技術が存在していても、それが社会に普及しなかったり、また、技術開発が社会的に望ましいとわかっていても、充分な技術開発投資が実施されないならば、環境はよくならない。

環境倫理・環境教育とその実効性

環境問題が深刻化するにつれて、わたしたちのライフスタイルを、環境負荷の低いものに変えることの必要性が盛んに議論されるようになってきた。これにともなって、環境倫理や環境教育の重要性を主張する意見がしばしば見られるようになってきた。
しかし、これらの議論の多くは、環境の大切さを唱えたり、リサイクルの必要性やエネルギー消費節約の必要性を唱えるだけであり、人びとの良心、モラルに頼ったものが多い。
もちろん、このような議論の重要性を否定するものではない。しかし、モラルや良心だけに頼るようなやり方では、なかなか環境保全に無関心な人や企業の行動を変えることはできない。このため、その実効性の疑わしいものが多い。
たとえば、大気汚染物質の排出を抑制しようとすると、自動車に乗るのを止めなければならない。飛行機は大量の燃料を消費するので、海外旅行に行くこともあきらめなければならない。また、工場では、汚染物質除去装置をつけたりしなければならない。このように、環境保全に役立つ行動をとろうとすると、さまざまな不便や費用が生じる。
このため、環境保全的に行動することが今のわたしたちの社会や将来の世代のために重要であるとわかっていても、それによる不便さや費用負担が大きくなればなるほど、環境保全的な行動をとる人や企業の割合は低下する。多くの人びとが環境保全的な行動をとったとしても、そうでない人びとが好きなだけ環境を汚染しつづけることができるかぎり、環境保全の効果は弱くなる。
さらに、教育によって人びとの考え方や価値観を環境保全型に変えていくには、長い時間がかかる。また、一部の人びとや企業の行動を変えることはできたとしても、すべての人びと・企業の行動を変えることはほとんど不可能である。
このように、人びとの良心やモラルだけに頼って環境を保全することは、一部の良心的な人びと・企業の負担(費用負担、不便さ)を重くし、そうでない人びと・企業を相対的に有利にすることになる。

環境保全型社会システムの構築と環境経済学

大多数の人や企業が自分の行動を環境保全的なものに変えないかぎり、いつまでたっても問題は解決しない。環境保全のために必要なことは、一部の良心的な人や企業に頼るのではなく、環境保全に対して無関心な人や企業の行動を環境保全的なものに誘導することである。そのためには、環境を汚染すれば自分の不利益も大きくなり、環境保全に貢献すれば自分の利益も大きくなるような仕組みを、社会につくることが大切である。
たとえば、環境税はそのような仕組みの一つである。環境税は、汚染物質の排出に応じて課税されるので、汚染物質を排出する人や企業は、汚染物質の排出量を増やせば、環境税の支払いが大きくなる。このため、環境保全的に行動しないことの不利益が大きくなる。
このように、根本的に社会の仕組みを変え、環境汚染を助長するような行動をとる人や企業が損をするような社会を作り上げていくことが、豊かな社会を作り上げていくうえで、重要となる。

消費の豊かさvs環境の豊かさ—トレードオフと環境経済学の役割

それでは、わたしたちは、いったいどこまで汚染物質の排出量を抑制すればよいのだろうか?
生活の豊かさとは、良好な環境からもたらされる豊かさ(以下では、環境保全の利益と呼ぶ)と所得・消費からもたらされる豊かさ(以下では、所得・消費の利益と呼ぶ)を合わせたものである。汚染物質の排出量を減らせば減らすほど環境はよくなり、環境保全の利益は大きくなる。しかし、そのいっぽうで、汚染物質削減のための費用負担が大きくなり、企業の利潤や家計の所得を減少させたり、さまざまな製品の価格が上昇したりして消費者の利益を減少させる。このように、環境保全の利益と所得・消費の利益はトレードオフ(二律背反)の関係にある。
このことは、環境保全の利益を最大にすることによって、所得・消費の利益が大きく失われる可能性があることを意味している。たとえば、環境保全の利益を最大にするためには、環境汚染をゼロにしなければならない。しかし、そのためには、場合によっては生産をゼロにしなければならないかもしれない。環境をいくら保全しても、わたしたちの生活水準が極端に落ち込むなら、そのような環境保全のあり方は最適な生活の豊かさを表すものとは考えられない。
誤解を恐れずにいうと、環境はわたしたちの生活にとってひじょうに大切なものであるが、豊かさの構成要素の一つでしかない。そういう意味において、汚染によって生命の危機が生じるような場合を除き、所得・消費の利益を確保するために、ある程度の汚染物質の排出を許容する必要があるであろう。すなわち、わたしたちは、生活の豊かさを最大にするために、環境保全の利益と所得・消費の利益のどちらか一方だけを追求しようとすることは望ましくない。バランスのとれた豊かさを実現するためには環境をどの程度保全し、そのために所得・消費の利益をどの程度犠牲にするかについて意思決定する必要がある。
このため、環境保全のあり方を検討していくうえで、わたしたちが明らかにしなければならないことは、
(1)生活の豊かさ、あるいは、社会全体の利益を最大にするためには、製品やサービスの生産・消費をどの程度抑制し、汚染物質の排出量をどの程度まで抑制すればよいか?
(2)そのためには、どのような環境政策を実施することが望ましいか?
である。環境経済学の基礎理論を学ぶことによって、このような疑問に対する答えが明らかになるであろう。

日引 聡 (著), 有村 俊秀 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2002/7/1)、出典:出版社HP

本書のねらい

わたしたちには、解決していかなければならない環境問題がたくさんある。このため、早急な対策の実施が望まれていても、対策の実施によって利益を失う人びと、企業、産業界、国々との間の合意が困難であったり、合意のための時間がかかるため、対策の実施が遅れがちである。
また、環境問題解決のために、いろいろな政策が提案されていても、それらの中には、経済学の観点から見て誤りであるものも多い。仮に対策が実施されても、それが不適切であれば、問題の解決にいたらなかったり、解決を遅らせることになる。
環境問題の深刻化にともなって、日本でも環境問題を扱う経済学として、環境経済学という言葉が定着してきた。また、経済学の基礎的な教科書であるミクロ経済学の教科書でも、環境問題を題材にした解説が増加し、環境経済学に関する教科書も出版されるようになった。
しかし、多くの教科書では、基礎理論に関する一般的な解説があるだけであり、現在、わたしたちが直面している環境問題に対する政策の問題点や望ましい政策のあり方を理解するには不充分なものが多い。
本書は、従来の教科書とは異なり、次のような問題意識にもとづいて書かれている。
(1)環境政策のあり方を考えるうえで必要な環境経済学の基礎理論を簡明に解説すること。
(2)環境経済学の基礎理論を現境問題に応用し、環境政策のあり方について解説すること。具体的には、「問題が解決しないのはなぜか」、「現在の政策のどこに問題があるのか」、「どのような政策の実施が望ましいのか」、について解説すること。

本書は、第1章から第4章までを第1部とし、第5章から第7章までを第2部としている。
第1部では、環境問題を分析するための基礎的な理論を解説している。とくに、第1章は、全体を通して環境経済学の最も基本的な部分となる。したがって、これから環境経済学を勉強しようとする読者、経済学(とくに、ミクロ経済学)を復習したい読者は、第1章から読まれることをお勧めする。また、ミクロ経済学の基礎的な理論、とくに、費用便益分析(余剰分析)を理解している読者は、第1章を飛ばしていただいてもよい。第2章から第4章までは、それぞれ、お互いに独立しているので、どの順番に読んでも大丈夫である。読者の興味にあわせて読んでいただければよい。
また、第2部では、現在日本が直面している環境問題のうち、廃棄物問題、自動車公害問題、地球温暖化問題を取り上げ、問題の現状、現境政策の現状などについて説明し、政策の問題点を指摘するとともに、望ましい政策のあり方について議論している。現実の問題にのみ興味のある読者、経済学の基礎的な理論を勉強したことのある読者は、第1部を飛ばして、第2部だけを読んでいただいてもよい。
本書は、環境経済学に関心のある学生や、政府・地方自治体で環境政策に携わっている人だけでなく、日本の環境問題や環境政策に関心のある幅広い読者を念頭に置いて書いたものである。本書が、これらの方々にとって有益な情報を提供できることを期待したい。

日引 聡 (著), 有村 俊秀 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2002/7/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 環境経済学の基礎理論

第1章 環境問題と市場の失敗
Ⅰ 消費者の利益と生産者の利益―需要曲線と供給曲線を理解する
Ⅱ なぜ市場が万能なのか
Ⅲ なぜ環境問題は解決されないのか—市場の失敗とは
Ⅳ 環境問題の費用便益分析
V 市場の失敗をどう解決するか?
コラム 公共財
コラム 環境の経済的価値

第2章 政策手段の選択—環境税か、規制か、補助金か
Ⅰ 環境税の利点と問題点
Ⅱ 規制的手段の利点と問題点
Ⅲ 補助金制度か、環境税か
コラム 食品汚染—情報と自己責任、リスクの管理

第3章 環境問題は交渉によって解決できるか
Ⅰ 環境利用権設定の重要性—交渉による解決
Ⅱ コースの定理の限界
Ⅲ コースの定理の応用—排出量取引
コラム ダイバーと漁業
コラム 所有権の決定と分配の問題
コラム 取引費用と政府の役割

第4章 ごみ処理手数料有料制の有効性とごみ排出量の減量化
Ⅰ ごみ処理手数料有料制の効果—ごみ処理手数料有料制の経済分析
Ⅱ 世代間の最適な廃棄物処分場利用とごみ処理手数料有料制

第2部 日本の環境問題と環境政策

第5章 廃棄物問題の現状と廃棄物政策
Ⅰ 一般廃棄物と産業廃棄物
Ⅱ ごみ問題とごみ処理手数料有料制の現状
Ⅲ ごみ処理手数料有料制と不法投棄
Ⅳ 産業廃棄物対策とその問題
コラム 逆有償ははたして悪か?
コラム ごみの有料化—出雲市の事例
コラム 家電リサイクル法の教訓—なぜデポジット制を併用しなかった?

第6章 自動車交通と大都市の大気汚染
Ⅰ 自動車公害の深刻化
Ⅱ 自動車交通公害対策の現状と課題
Ⅲ 望ましい自動車公害対策とは
コラム シンガポールのロードプライシング

第7章 地球温暖化問題
Ⅰ 問題の現状と課題
Ⅱ 地球温暖化対策の現状
Ⅲ 炭素税と排出量抑制のメカニズム
Ⅳ 新しい政策手段導入の試み
Ⅴ 炭素税の導入事例と日本の対策
Ⅵ アメリカの二酸化硫黄排出承認証取引制度の経験
Ⅶ 終わりに—京都議定書を超えて
コラム 持続可能な開発
コラム オイルショックと省エネルギー
コラム 燃料電池と炭素税
コラム 燃料税制

おわりに
文献紹介

イラスト 森谷満美子

日引 聡 (著), 有村 俊秀 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2002/7/1)、出典:出版社HP

環境経済学のフロンティア

最新の環境経済学がわかる

経済学の中でも比較的新しい研究領域である“環境経済学”の第一線で活躍する経済学者が、この分野の最先端を丁寧にレビューしています。環境問題を改善する上で必要な知識を学ぶことができます。

有村 俊秀 (著, 編集), 片山 東 (著, 編集), 松本 茂 (著, 編集)
出版社 : 日本評論社 (2017/9/21)、出典:出版社HP

はしがき

環境経済学は経済学のなかでも比較的新しい研究領域であり、環境経済学を対象とした専門誌がつくられたのは1970年代後半になってからである。日本では、1960年代に深刻化した公害問題に対処するために、種々の対策が導入されていったが、そこで大きな役割を担っていたのは法学・疫学・工学といった研究分野であったように思われる。経済学はどちらかといえば、環境問題を発生させている悪玉とみなされていたように思われる。
しかし、1992年にブラジルのリオで地球環境サミットが開催され、経済的手法を用いた環境対策が提唱されてからは、環境経済学が着目されるようになった。初期には廃棄物問題や資源管理問題に対処するために多くの経済的手法を用いた研究が行われたが、以降も、世界的な気候変動や酸性雨問題、そして生物多様性などといった新しい環境問題に対応するため、環境経済学は量と質の両面において発展を続けてきている。

データ制約などの理由から、従来、環境経済学の主流は理論研究であり、また日本においては国内外の制度の紹介や比較分析に焦点が当てられていた。一方、現在では、他の経済学の領域と同様に、多くの実証研究や実験研究が行われるようになっている。しかし、その成果は国内の大学教育にはまだ充分に活かされているとはいえないかもしれない。また、国内の環境政策の議論・検討においても、実証・実験研究にもとづく成果は充分には活かされているとは言い難く、ようやくスタートラインに立った状態であるといえよう。
本書は、近年急速に広まりつつある実証・実験研究を中心に、理論研究も含めた環境経済学の最先端の研究を紹介することを目的としている。本書を通じて、国内の環境経済学および関連分野での研究がより一層活発になることを願っている。また、日本の環境政策の担当者にも政策立案における新たな視点(データ分析にもとづいた、エビデンスペーストな政策立案の視点)を提供できるのではないかと期待している。
本書は、環境経済学に関心をもつ学部上級生や修士課程の学生を読者として想定している。本書を一読することで、環境経済学のフロンティアを一望することができるようになっているため、卒業論文はもとより、修士論文や、博士論文のテーマを見つけることの一助になると考えている。大学で教壇に立っておられる先生方には、是非ゼミや講義等で活用していただきたい。ただし、本書では学部レベルのミクロ経済学と計量経済学の知識を前提としていることには注意が必要である。また、一部の章では博士課程レベルの知識を必要とするが、そのような章には適宜マークを付けている(章タイトル部分の*は学部上級レベルの経済学の知識が必要となる章であることを、**は修士課程レベル以上の経済学の知識が必要となる、理論分析を中心とした章であることを意味している)。

本書の各章の執筆者は、国際的な学術雑誌に研究をコンスタントに報告している気鋭の若手・中堅の環境経済学者である。経済学研究のフロンティアでは、国際的な学術雑誌が主戦場となっており、国際雑誌に掲載された論文でないと研究として認められないという風潮もある。そのため、優れた研究業績や環境問題に関する知見をもちながらも、日本のアカデミックな世界、あるいは政策担当者にあまり知られていない環境経済学者も少なくない。本書はそのような環境経済学者を紹介する役割も担っている。
執筆者の先生方には改めて謝意を表したい。先生方には、学部上級生でも読めるかたちで、高度な内容をともなう環境経済学のフロンティアを紹介するという、大変困難な依頼をすることになってしまった。このような難しい課題を快諾し、執筆にご協力いただいた先生方に心よりお礼を申し上げたい。
本書は、東京経済研究センター(TCER)のコンファレンス事業の一環として企図されたものである。TCERは「逗子コンファレンス」と称した研究会議をサポートし、それを多くの優れた学術書の出版に結び付けてきた。数年間途切れていた研究成果の出版も、昨年度『国際経済学のフロンティア:グローバリゼーションの拡大と対外経済政策』(木村福成・林寛/編、東京大学出版会)によって復活した。本書はそれに次ぐ、「逗子コンファレンス」事業の復活第二弾という位置づけになっている。本書の企画においても二度のコンファレンスを開催し、執筆者間で議論を重ねた成果が本書の内容になっている。コンファレンスならびに出版の助成へ心よりお礼申し上げる。

本書は四部構成になっている。まず、環境経済学の黎明期から分析対象であった産業部門を対象とした第Ⅰ部は、「産業活動と環境問題」をテーマとしており、以下の四つの章で構成されている。
産業活動の持続可能な発展のためには、汚染物質の排出を経済的かつ効果的にコントロールすることが必須である。そのためには、環境保全技術の研究開発とその普及が重要になる。第1章では環境保全技術の開発および普及についての研究を取り上げている。さらに研究を行う際に有用なデータベースと分析手法についても紹介している。
従来、経済学では、産業活動の担い手である企業の環境負荷削減を促すためには規制が必要であると考えられてきた。しかし、20世紀末から多くの企業が自主的に環境取り組みを行うようになってきた。このような状況を踏まえ、第2章では、企業の自主的な環境取り組みに関する実証研究の方法論について、その課題とともに紹介する。そして、近年の関連する研究をレビューしたうえで、今後の研究の展望も示している。
産業部門のなかでも電力部門は、環境政策において特別な地位を占めてきた。経済規模と化石燃料消費量から、多くの環境汚染物資を排出してきたためである。近年、規制産業であった電力小売りの自由化や、再生可能エネルギーの台頭をうけ、電力部門は環境経済学の研究対象としてとくに注目を集めている。第3章は電力産業にかかわる最新の実証研究の動向を、需要と供給の両サイドから紹介する。
経済的手法による環境規制には、大きく環境税と排出量取引の二つがある。この二つの手法は、特定の条件下では同じ帰結をもたらすことがよく知られているものの、現実の世界ではそれらの条件は満たされにくい。第4章は、現実の世界で経済的手法を利用していくために、どのような工夫が必要になるのかを考察している。

第Ⅱ部では、「消費活動と環境問題」を扱う。今や環境問題の主要な要因は生産活動だけではない。温室効果ガスの排出には、家計部門の消費活動も大きく寄与している。廃棄物問題でも、家計部門の消費活動が大きな影響を与えている。第Ⅱ部は、このような視点に立った以下の三つの章から構成されている。
経済発展にともない廃棄物の増加とその種類の多様化が進んでいる。その結果、環境負荷の増大、最終処分容量の限界、ごみ処理費用の増加などの問題が生じており、リサイクルおよびその前提となる適正な廃棄物処理が果たす役割は大きくなっている。第5章は、廃棄物やリサイクルに関する経済学的研究を、実証分析を中心に概観していく。
家計部門の引き起こす環境問題の重要性は、今日ますます増加してきている。しかし、家計部門は産業部門とは異なる特色を備えており、その負荷を減らすためには様々な工夫が必要となる。第6章は、家計部門の環境負荷を取り上げ、その対策について論じている。
交通・運輸は、多大な経済的便益をもたらす一方、大気汚染や騒音などの負の外部性をもつ。近年ではこれに加え、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の交通・運輸部門からの排出は大きな問題となっており、その対策の政策的重要度は増してきている。第7章は、交通と環境問題についての経済学的研究、とくに交通・運輸部門からの二酸化炭素排出量を抑制する政策に関連する実証研究を、結果のみならず方法論にも注目して解説する。

近年、国境を越えた経済活動が環境問題を複雑化させ、その解決を難しくしている。また、汚染物質そのものが国境を越えて移動する場合もあり、より環境問題への対処を難しくさせている。第Ⅲ部は「国境を越える環境問題」を議論する三つの章で構成されている。
貿易の自由化は輸出国・輸入国の双方に便益をもたらす。経済学は伝統的に貿易自由化を促進する提案を行ってきたが、はたして貿易の自由化は環境問題に対してどのような影響をもたらすのだろうか。第8章では、貿易と環境の問題に関して考察している。
気候変動は、潜在的な被害の大きさから、政策面で国際的に耳目を集めてきた。学術的には、被害の不確実性や、超長期的な時間的視野の必要性から、自然科学と社会科学それぞれの立場から課題に取り組んできた。しかし、近年、個人用計算機の性能向上等により、気候と経済との因果関係を解明する研究が進展しつつある。第9章では、気候変動問題の背景を示したうえで、近年の研究動向を紹介する。
環境資源のなかには他国と共同利用されている共有資源があるが、そうした共有資源の管理方法はこれまで国際交渉の場で話し合われてきた。第10章では、水産資源管理と温暖化交渉を事例として取り上げ、国際交渉問題をゲーム理論の枠組みで分析している。

先進国のみならず、発展途上国も資源管理など様々な環境問題に直面している。また、先進国も生物多様性の保全という自然資源管理の課題を抱えている。第Ⅳ部は、「途上国と資源管理」をテーマとする三つの章で構成されている。
発展途上国で起こる環境資源問題は大きな負の外部性を有し、その解決なしには社会の持続可能性も担保できないと考えられている。第11章では、発展途上国における農山漁村域と都市域の格差拡大に起因する資源環境問題について考察し、それに関する経済実験を用いた研究を踏まえつつ、今後の研究の展望について言及している。

生物多様性によって、人々は多くの恩恵を享受している。過度な経済活動によって生物多様性が減少しないように注意しなければならない。第12章では米国における様々な生物多様性の保全政策を紹介し、さらにそれら政策の効果に関する経済学的な分析研究も紹介する。
水産資源などの共有資源(コモンプールリソース)は、経済学の教科書によれば過剰利用されることが予測されるが、現実にはそのように枯渇が起こったケースだけではなく、利用者問の慣習的なルールのもとで持続的に利用されるケースなど、多様な資源利用のあり方をみることができる。第13章では、コモンプールリソースの利用のあり方に焦点を当て、経済実験を用いた研究を中心に概観し、今後の研究の発展の方向性について考察している。

本書は、早稲田大学に2016年度に設立された環境経済・経営研究所の助成および多様なサポートを受けている。編集作業やコンファレンスの準備などでご協力いただいた同研究所・次席研究員の定行泰甫さん、功刀祐之さん、政治経済学術院の宮本拓郎助教、森田稔助教、大学院生の矢島猶雅さん、寺出礼子さんに感謝申し上げる。二回のコンファレンスを事務的にサポートしてくれた有村研究室の岩塚由紀恵さんにもこの場を借りてお礼申し上げたい。また、すべての原稿に目を通し、詳細かつ的確なコメントを頂いた日本評論社の吉田素規氏にも謝意を表したい。吉田氏はコンファレンスにもご出席いただき、出版に向けて企画段階からアドバイスいただいた。また、必ずしも予定通りにはいかない執筆状況にも寛容にご対応いただき、心よりお礼申し上げる。

2017年 晩夏

執筆者を代表して
有村俊秀・片山東・松本茂

有村 俊秀 (著, 編集), 片山 東 (著, 編集), 松本 茂 (著, 編集)
出版社 : 日本評論社 (2017/9/21)、出典:出版社HP

目次

はしがき

第Ⅰ部 産業活動と環境問題

第1章 環境保全技術の評価(藤井秀道・馬奈木俊介)

1 環境保全技術について
2 環境保全技術の開発と普及に着目した研究の紹介
3 環境技術の評価手法とデータベースの紹介
4 まとめ
参考文献

第2章 企業の自主的な環境取り組みの実証分析(有村俊秀・片山東)

1 はじめに
2 個別企業の環境取り組みについて:ISO14001を中心として
3 自主協定・プログラム
4 まとめ
参考文献

第3章 電力・エネルギー経済学のフロンティア*(松川勇)

1 はじめに
2 研究の概要
3 長めの文献紹介
4 著者の研究紹介
5 将来の研究展望
参考文献

第4章 非対称情報下での環境政策**Weitzman(1974)以降の理論的展開(新熊隆嘉)

1 はじめに
2 Weitzman(1974)の定理
3 ファーストベストを達成する政策
4 セカンドベストを追求する政策
5 将来の研究展望:むすびにかえて
【付録1】Montero(2008)のメカニズム
【付録2】Berglann(2012)のメカニズム
【付録3】Roberts and Spence(1976)のスキームにおける競争市場均衡の解釈
参考文献

第Ⅱ部 消費活動と環境問題

第5章 廃棄物・リサイクルの実証分析(山本雅資)

1 はじめに
2 廃棄物産業の特徴
3 不法投棄・不適正処理
4 家庭ゴミ有料化とリサイクル
5 汚染が地価に与える影響
6 おわりに
参考文献

第6章 家計部門の環境負荷と環境配慮行動(松本茂)

1 はじめに:家計部門の環境負荷
2 環境配慮行動に関する先行研究
3 環境配慮行動の価値
4 国内の公開データとその制約
5 研究課題
参考文献

第7章 交通と環境の経済学*(小西祥文)

1 はじめに
2 文献紹介:交通と環境に関する経済分析の軸
3 都市構造と交通・環境の経済分析
4 自動車保有・走行距離需要とインセンティブ政策の経済評価
5 おわりに
参考文献

第Ⅲ部 国境を越える環境問題

第8章 環境と貿易(神事直人)

1 はじめに
2 貿易と環境、環境規制との関係
3 地球温暖化対策と国際貿易
4 企業の輸出行動と汚染集約度
5 おわりに
参考文献

第9章 気候変動の経済分析**(阪本浩章)

1 はじめに
2 問題の背景
3 理論分析
4 実証分析
5 おわりに
参考文献

第10章 国際的な自然資源管理**(樽井礼・徳永佳奈恵)

1 国際的な自然資源管理の課題
2 国際的な自然資源管理におけるゲーム理論の応用
3 漁業資源管理に関する動学ゲーム・提携形ゲームの応用
4 温暖化交渉ゲームに関する最近の研究動向
5 研究展望
参考文献

第Ⅳ部 途上国と資源管理

第11章 発展途上国の環境問題(小谷浩示)

1 はじめに
2 発展途上国はどのような国々か
3 発展途上国で深刻化する資源環境問題
4 発展途上国の環境問題解決に向けて経済学が貢献できること
参考文献

第12章 生物多様性保全政策の設計と評価米国の事例に即して(堀江哲也)

1 はじめに
2 絶滅危惧種法(ESA)
3 保全休耕地プログラム(CRP)
4 CRPのもつ意図せざる副作用
5 今後の展望
参考文献

第13章 コモンプールリソースの管理と制度の選択(東田啓作)

1 はじめに
2 コモンプールリソースの過剰利用と自然・社会・経済要因
3 外生的な規制、罰則、および制度
4 内生的なルールや制度の選択と資源枯渇の回避
5 発展的なトピック
6 おわりに
参考文献

索引
執筆者紹介
編著者紹介

有村 俊秀 (著, 編集), 片山 東 (著, 編集), 松本 茂 (著, 編集)
出版社 : 日本評論社 (2017/9/21)、出典:出版社HP

環境経済入門(日経文庫)

環境問題と経済学の関係性

環境関連の重要な法律から環境政策・グリーン経営まで、知っておきたいポイントが丁寧にまとめられています。現実・理論・政策をバランスよくわかりやすく解説しているので、環境問題に関わる人はもちろん、一般の方にもおすすめの導入本です。

三橋 規宏 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版; 第4版 (2013/3/16)、出典:出版社HP

まえがき

改訂4版のポイント

環境問題は、時代の変化によって扱う対象も大きく変わります。本書は、このような時代の変化を反映して今回、第4版として全面的に改訂しました。本書の第3版は六年前の二〇〇七年九月に出版しました。当時は、京都議定書の約束である温室効果ガス(GHG)の排出量を一二年度末までに一九九〇年比六%削減することが大きな関心事でした。第3版もそんな時代の空気のなかで、六%削減対策に重点を置きました。それから六年後の今、環境問題の関心は大きく変わってきました。一一年三月一一日の東日本大震災と、それに起因する深刻な原発事故が発生しました。温暖化対策の関心も京都議定書の約束期間が終わり、一三年以降の法的拘束力を持つ国際的削減の枠組みづくりに移っています。

「原発事故と新たな環境問題」を新しい章として加える

このような時代の変化を取り入れ、新しく「原発事故と新たな環境問題」(第2章)を加えました。原子力発電は、私たちの豊かな生活に大きな貢献をしましたが、一度事故が起きると、プラス要因をすべて打ち消すような大きな被害をもたらすことが分かりました。原発事故前は、「原発の安全神話」を信じて、多くの国民はこのような深刻な事故が起こるはずはないと思っていました。さらに、使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物の適正処理がいまだに確立されていない現状を知り驚きました。脱原発を求める国民の声が高まっています。
放射能汚染という新たな環境問題の発生とその対応は、これから長い歳月をかけて取り組み、解決していかなくてはならない重要なテーマです。本書を通し、原発の是非を含め、原発問題を根本から考えるきっかけにしていただければ幸いです。

二〇一三年以降の温暖化対策に焦点

第3章の「地球温暖化と経済活動」は一三年以降の温暖化対策に重点を移し、GHGを五〇年に八〇%削減する目標に挑む日本の取り組みを中心に全面的に書き換えました。
第5章に「環境政策の実際」を新しい章として設けました。環境政策を学生に講義すると、国の環境政策はどのような領域を対象にするのか、どのような手順で実施されるのかといった環境政策の実際を知りたいという声が多く寄せられます。国の環境政策には、必ず根拠になる法律が必要であり、実施に当たっては財源(予算)も確保しなければなりません。政策実施後、第三者機関による政策評価も重要です。環境政策の実際を、分かりやすく解説しました。

低炭素、循環、自然との共生を満たす社会の実現

一二年四月、閣議決定された第四次環境基本計画は、これから約五年先までを視野に入れた日本の環境政策の方向を示しています。基本計画は、「低炭素、循環、自然との共生を満たす社会」を持続可能な社会と定義しています。低炭素は温暖化対策、循環は資源循環型社会の構築、自然との共生は生物多様性の保全です。
本書をお読みいただけば、この三つの目標を達成するための方法、環境と経済の基本的な考え方や枠組み、日本の環境政策の最新の姿が理解できるように工夫したつもりです。
第4版の改訂に当たっては、今回も日本経済新聞出版社の堀口祐介氏に大変お世話になりました。同氏の適切なアドバイスと迅速な編集作業に感謝します。

二〇一三年二月
三橋規宏

三橋 規宏 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版; 第4版 (2013/3/16)、出典:出版社HP

目次

第1章 地球環境と経済

1 環境の世紀に生きる
(1)境と経済の両立を目指す
(2)有限な地球と折り合う知恵
(3)ワンウェイ型の発展で問題はなかった
2 経済成長優先の時代
(1)自然支配を目指した近代科学思想
(2)経済成長が優先する社会の出現
(3)自然の原理・原則を克服する技術の登場
(4)自然資源収奪型技術の発展
3 膨張の時代と地球の限界
(1)人口爆発の二〇世紀
(2)五〇年間で世界人口は約二・四倍に増加
(3)GDPは五〇年間に八倍に拡大
(4)食生活の高度化で食糧生産も加速
(5)様々な環境問題が発生
4 地球の限界と折り合う知恵
(1)地球の限界に遭遇した人類最初の世代の生き方
(2)地上資源の有効活用を図る
(3)地上資源の二つの特徴
(4)共生を重んじる日本人の自然観に期待

第2章 原発事故と新たな環境問題

1 東電福島原発事故と放射能汚染
(1)原発事故の衝撃——避難者一六万人を超える
(2)一○兆円を超える被害額、長期的には一〇〇兆円を超えるとの見方も
(3)メリットを上回るデメリットに驚く
(4)内部被ばくによる健康被害を懸念
(5)転地療法など万全の対策を
(6)放射性セシウムの食品新基準が二〇一二年四月一日からスタート
(7)ベクレルとシーベルトの違い
2 放射性廃棄物の処理
(1)汚染土壌の処理にお手上げだった政府、自治体
(2)五ヵ月遅れで汚染がれき法成立
(3)汚染レベルで地域を区分
(4)最終処分場をどこにつくるかでも意見が対立
3 世界の原発事情
(1)原発新・増設の動き活発化
(2)世界の原発ブームに逆風
(3)ヨーロッパ中心に脱原発の動き目立つ
4 革新的エネルギー・環境戦略——二〇三〇年代原発稼働ゼロ
(1)原発依存から脱原発へ一八〇度転換の日本
(2)二〇三〇年代に原発稼働ゼロを目指す
(3)事故以前は原発依存型のエネルギー基本計画だった
5 グリーンエネルギー革命——原子力を再生可能エネルギーが補う
(1)節電、省エネで一一〇〇億kWh削減
(2)再生可能エネルギー、発電量は二〇一〇年実績の約三倍
(3)コジェネなど熱の高度利用
(4)GHG排出量、二〇年に二五%削減は達成困難に
6 核のごみの処理問題
(1)浮上する核のごみ問題
(2)溜まる一方の高レベル放射性廃棄物
(3)高レベル放射性廃棄物、地下三〇〇メートル以深に処分
(4)日本学術会議、NUMOの安全処分を批判
(5)使用済み核燃料の処理も今後の課題
7 脱原発社会への道
(1)原発ゼロには批判も強い
(2)それでも脱原発の道を選ぶしかない
(3)再生可能エネルギー、節電、省エネなどに期待
(4)自民党政権下でも、原発依存度低下の流れは止まらない

第3章 地球温暖化と経済活動

1 地球温暖化と二〇世紀文明
(1)温暖化のメカニズム
(2)石油に依存してきた経済システム
2 京都議定書の発効
(1)国連中心で温暖化対策を推進
(2)日本六%、アメリカ七%、EU八%の削減を公約
(3)吸収源としての森林の役割を考慮
(4)京都議定書が発効
3 日本は目標を達成できるのか
(1)EUは達成、カナダは議定書から離脱
(2)リーマン・ショックが削減に貢献する皮肉
(3)原発稼働ストップで楽観論、吹き飛ぶ
(4)原発一〇基分に相当する節電効果
(5)目標は滑り込みセーフで達成か
4 京都議定書の限界と課題
(1)地球益優先の考え方は、画期的だったが……
(2)京都議定書締約国、排出量の三割弱カバーにとどまる
(3)アメリカ、中国、インドなどの参加が不可欠
5 二〇一三年以降の温暖化対策
(1)温暖化に警鐘をならす二つの報告書
(2)先進国、二〇二〇年までに二五〜四〇%削減が必要
(3)COPの場で、国際的枠組みづくりに取り組む
(4)二〇二〇年時点の排出量目標の提出
(5)南ア・ダーバンCOP17で、「二〇二〇年に新しい枠組み」発足で合意
(6)残された課題——二〇一〇年代の削減をどうするのか
6 二〇一三年以降の日本の温暖化対策
(1)原発事故で、二〇二〇年二五%削減達成困難に
(2)二〇五〇年八〇%削減の目標は維持
(3)幻に終わった温暖化対策基本法案
(4)再生可能エネルギー法の成立と固定価格買取制度の創設
(5)地球温暖化対策税の導入
(6)二〇一三年度以降の日本の課題と目標は?
(7)二○%削減程度の目標は掲げたい
7 二○五○年八〇%削減のロードマップ
(1)人口九七〇〇万人を想定
(2)一次エネルギー供給量の約五〇%が再生可能エネルギー
(3)八〇%削減には、CO2の回収貯蔵分二億トンも貢献
(4)GDPの規模が小さければ、八〇%削減はもっと楽に達成できる

第4章 環境政策の歴史

1 日本の環境政策の歩み
(1)高度経済成長のひずみ
(2)様々な産業公害の発生
(3)転機となった公害国会
(4)環境庁の新設
2 公害防止先進国への道
(1)急増した公害防止投資
(2)省エネ製品の開発も活発化
(3)公害防止投資を促した理由
(4)公害企業のレッテルに負い目
3 一九九〇年代の環境政策
(1)環境基本法成立の背景
(2)持続可能な社会の構築
(3)環境基本法の概要
4 二○○○年代の環境政策——リサイクル関連法の強化

第5章 環境政策の実際

1 環境政策が扱う領域、実施手順、評価
(1)放射性物質の汚染対策も環境政策の対象に
(2)環境政策の実施に必要な法律、制度
(3)企画立案、予算措置が必要
(4)政策評価
2 環境基本計画
(1)環境政策に関する国の総合的指針
(2)「低炭素、循環、自然との共生を満たす社会」が目標
(3)今後の環境政策展開の四つの方向
(4)放射性物質による環境汚染からの回復
3 環境政策の原則
(1)環境効率性
(2)予防的取り組み
(3)汚染者負担の原則
4 環境政策の手法

第6章 経済学からのアプローチ

1 市場の失敗と外部不経済
(1)外部効果と外部不経済
(2)外部不経済のコントロール
(3)補助金
(4)コースの定理
2 様々な経済的手段
(1)OECDの五つの基準
(2)排出権(量)取引制度
(3)経済合理性のある排出権取引
(4)国家間の排出権取引
(5)両国にとって、プラスが大きい
(6)国内排出権取引のメカニズム
(7)世界の炭素市場、取引量は着実に拡大
(8)預託金(デポジット)払い戻し制度
3 公共財としての地球環境
(1)コモンズの悲劇
(2)囚人のジレンマ
(3)必要な情報の公開

第7章 環境経済学の視点

1 環境経済学の考え方
(1)環境と経済のトレードオフの解決を目指す
(2)経済学に欠けている有限性やストックの視点
(3)「合理的な愚か者」を超えられるか
(4)規模の経済にも修正が必要
(5)経済のグローバル化にも限界が……
2 環境経済学の関心分野はどこにあるのか
(1)フローとストックの関係を重視
(2)不確実性を考慮した体系
(3)市場経済内部に取り込む工夫
(4)世代間の衡平に配慮
(5)ホモエコノミクスの修正
(6)総合的なシステム思考
3 自然満足度曲線から学ぶ
(1)地球限界時代の経済領域
(2)環境破壊の修復代もGDPを増やす要因
(3)精神的満足や気持ちの安らぎなども大切
(4)B点の左側の世界——大量生産、大量消費の時代
(5)B点の右側の世界——地球の限界が明らかになった時代
(6)地球の限界と折り合える社会を目指す
4 持続可能な社会の条件
(1)サステナビリティとは何か
(2)持続可能性の三条件
(3)ハーマン・デーリーの三つの不等式原則
(4)ナチュラル・ステップのシステム四条件
(5)ゼロエミッション
5 エコロジカル・フットプリント
(1)踏み潰した土地の面積
(2)先進国のエコロジカル・フットプリントは途上国よりも大きい
(3)エコロジカル・フットプリントの計算の考え方
(4)二〇五〇年には三個の地球が必要?
(5)持続可能性の条件は守られていない
6 デカップリング経済への転換
(1)経済成長と化石燃料の関係を引き離す
(2)ローカーボン・グロウスへ経済発展モデルを転換
(3)再生可能エネルギーを経済発展のエンジン役に
(4)デカップリング経済に成功したEU諸国
(5)一九八〇年代の日本はデカップリング経済を実現
(6)デカップリング経済実現の四本柱

まとめ 持続可能な社会への道

三橋 規宏 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版; 第4版 (2013/3/16)、出典:出版社HP

地域から考える環境と経済 — アクティブな環境経済学入門 (有斐閣ストゥディア)

新しいスタイルの環境経済学入門

環境問題は、地域の問題とも言えます。本書では、私たちの身近な地域を題材にして、環境と経済のことについて考えていきます。個性的な登場人物や豊富なイラストでわかりやすく、工夫満載の楽しいテキストとなっています。

八木 信一 (著), 関 耕平 (著)
出版社 : 有斐閣 (2019/3/22)、出典:出版社HP

はしがき

筆者たちが大学生の頃、環境経済学のテキストが出はじめました。それらのテキストで勉強して、環境経済学のおもしろさや魅力を感じ、環境と経済とのかかわり、環境問題・環境政策をこれまで学んできました。
また、地域という「現場」にも出向き、現場にかかわっている人たちと出会ってきました。それらの出会いを通して、テキストだけでは味わえない現場の「楽しさ」や、テキストによる学びだけでは通用しない現場の「難しさ」を感じてきました。

このような地域という現場の息吹を、読者のみなさんにも伝えたい。そして、「現場の宝庫」である地域から、環境と経済を考えるきっかけにしてほしい。この本は、そのような願いを込めて書きました。地域という現場は絶えず変化しています。テーマとの関係から書くことができなかった、見方や考え方もあります。この本で足りないことについては、読者のみなさんで補っていただければ幸いです。

こうして、この本がみなさんの前に届くまでには、いろいろな方々にお世話になりました。筆者たちが学恩を受けてきた宮本憲一先生、植田和弘先生、寺西俊一先生。企画を後押ししてくださった諸富微先生。この本の編集担当者として、筆者たちと「三人四脚で歩んでいただいた有斐閣・書籍編集第2部の長谷川絵里さん。そして、各章のイラストをいきいきと描いていただいた。「もう1人の著者」である同・営柔部の平子さん。そのほか、これまでお世話になった多くの方々に、この場を借りてお礼申し上げます。
最後に、地域という現場で汗を流し、考え、み、それでもアクションを起こし続けている、すべての方々に敬意を表します。この本が、それらの地域の方々と読者のみなさんとの間を、少しでもよい形で近づけることができれば、これ以上にうれしいことはありません。

2019年1月
八木信一・関耕平

著者紹介

八木信一
第1章第5章、第7~10章、Column
1973年生まれ、佐貨県大和町(現佐賀市)育ち。佐世保高専・横浜国立大学卒業。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。現在、九州大学大学院経済学研究院教授。
(おもな著作)
「楽物の行財政システム」有斐閣,2004年(平成17年度廃楽物学会現来物資源循環学会]著作賞)、「日本財政の現代史II」(分担執筆有斐閣,2014年、「再生可能エネルギーと地域再生」(分担執筆)日本評論社,2015年「テキストブック現代財政学」(分担執筆)有安
閣,2016年ほか。
●読者へのメッセージ・
私たちは、「ゆりかごから墓場まで」の間に、いくつかの地域との出合いがあります。また、今日ではさまざまなツールを使って、国内外のいろいろな地域と出合うこともできます。ゆえに、地域とは出合うものであるといえるのではないでしょうか。「環境と経済」を題材としたこの本が、そのような地域との新たな出合いの1つになることができれば、うれしいです。

関 耕平
第2〜4章、第6章Column(共著)
1978年生まれ、秋田県鹿角市育ち。岩手大学卒業。一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。現在、島根大学法文学部准教授。
(おもな著作)
「公私分担と公共政策」(分担執筆)日本経済評論社,2008年、「Basic地方財政論」(分担執筆)有斐閣,2013年「岐路に立つ裏災復興」(分担執筆)東京大学出版会、2016年「三江線の過去・現在・未来(共著)今井印刷,2017年ほか。
●読者へのメッセージ・
みなさんが今後、地域へ出かけて行き、そこで見聞きする何気ない出来事を通して、ものごとの本質を感じてハッとする。そんな瞬間が増えることを願ってこの本を書きました。ところで、私は、そのオトボケぶりも含めて、ゲンバくんが自分のように思えてなりません(この本を書くなかで、彼のように成長できたか自信はないですが。この本で学ぶことによって、みなさんがゲンバくん以上に成長できるよう願っています。

八木 信一 (著), 関 耕平 (著)
出版社 : 有斐閣 (2019/3/22)、出典:出版社HP

目次

はしがき
著者紹介
各章の構成本書に登場するおもな事例

CHAPTER0 地域から考えるために
現場からの見取り図
1テーマと出合う
テーマは現場にある!
2テーマを理解する
ー「現場の宝庫」としての地域
テーマ。それが始まり(4)書を持って、現場へ出よう(5)ごみ収集車に乗った経済学者(5)地域という現場をつかむ(6)この本の見取り図を得よう(8)
CHAPTER1 環境と経済をつかむ
「価格のつかない価値物」のとらえ方
1テーマと出合う
環境かそれとも経済か、あるいは
2テーマを理解する
環境経済学への入り口
環境とは何か(14)環境問題とは何か(15)なぜ環境問題が起こるのか1:市場の失敗(16)なぜ環境問題が起こるのか2:政府の失敗(18)なぜ環境問題が起こるのか3:共同体の失敗(19)環境政策のとらえ方(19)環境政策をとらえる1:政策目的(20)環境政策をとらえる2:政策手段(22)環境政策をとらえる3:政業主体(23)

CHRPTER2 公害という原点
被害から始まる環境問題
1テーマと出会う
一公に思いをはせて
2テーマを理解する
一公報まと向き合うなぜ公害を学ぶのか(29)足尾彰泰事件を知る(30)なぜ公害被害は悪化していったのか(32)四大公害とは何か(33)水俣病の発生とその技害(34)償いきれない公害被害と至れる被害救済(35)福島原発事故がもたらした公害被害(36)公害被害地域の今(38)
3テーマを考える
一公害をどう乗り越えるのか公害の被害構造をとらえる(40)企業による地域支配がもたらした公害(42)公害被害を深刻にした政府の失敗(42)公害を招いてきた地域開発の委(44)地域から始まった公害対策(45)環境再生のまちづくりに向けて(46)

CHRPTER3 廃棄物はどこへ向かうのか
廃棄社会から循環型社会へ
1テーマと出合う
ごみを減らすためには?
2テーマを理解する。
一廃棄物問題をどうとらえるのか「とるに足らない」ものが廃棄物問題に(51)物質フローから見える廃棄物問題(52)2つの廃棄物(54)移動する廃本物がもたらした地域間の対立:2つのゴミ戦争(55)不法投楽はなぜ防げなかったのか:豊島不法投棄事件(56)「あとしまつ」重視から3へ(58)地域から循環型社会をつくるエコタウン事業と生ごみの強化の事例(59)
3テーマを考える
一環型社会をどうつくるのか物質代宮の行きづまり(61)グッズからバッズへ(63)バッズの取引がもたらす不法投棄(64)不法投棄のコストはが負担するのか(65)大量廃棄社会は克服できるのか(66)循環型社会に向けて私たちができること(67)

CHRPTER4 農が育む環境
村を持続可能にすること。
1テーマと出合う
ーどうなる。農村のこれから
2テーマを理解する。
一苦しくもんばる農村の今「いのちの営み」の現場としての農村(74)3つの空洞化に直面する農村(75)農村は本当にいらないのか(78)持続可能な農村へ1:有機農業のまちづくりに取り組む宮崎県綾町(79)持続可能な農村へ2:「地域のための企業」としての吉田ふるさと村(80)持続可能な農村へ3:環境保全型農業といきものブランド米(82)
3テーマを考える
―持続可能な農村を実現するために公共事業に依存してきた農村(83)農村の内発的発展をどう実現するのか(83)六次産業化で地域内経済循環を高める(85)農村が支える国土保全(86)農村が支える生物多様性(87)の多面的機能をどう守るのか(88)農村の発展を担うのは誰なのか(89)都市と農村の共生へ向けて(91)

CHRPTER5 みんなの資源を守れるのか
あなたの身近なコモンズ
1テーマと出合う
一勝手にとってはいけません!
2テーマを理解する–
一みんなの資源のとらえ方わたしの資源とみんなの資源(98)勝手にとってはいけない。みんなの資源もある(98)ところ変われば、かかわり方も違う:白神山地の事例(99)政府がなくしてきた。みんなの資(101)みんなの資源を広げる試み(103)
3テーマを考える
一劇を乗り越えるために私的財と公共財(106)2つのコモンズ(107)コモンズの
刺(108)なぜコモンズの制は起こるのか(109)なぜコモンズは残ったのか:オストロムの条件(111)地域資源としてのコモンズのとらえ方(112)コモンズの再生へ向けて(113)

CNRPTER6 エネルギー自治を求めて
地域でつくる再生可能エネルギー
1テーマと出合う
エネルギー資源に恵まれた農村
2テーマを理解する
一地域を左右するエネルギーのあり方エネルギーとは何か(120)エネルギー資源の移り変わりと地域への影響(120)エネルギーと地域1:青森県六ヶ所村から問う核と原子力(122)エネルギーと地域2:北海道下川町によるエネルギー自給への挑戦(125)
3テーマを考える
エネルギー自治で地域再生を枯渇性エネルギーと再生可能エネルギー(128)エネルギー自治とは何か(129)国や電力会社はどうして原発を推進するのか(130)原発は安上がりなのか(131)原発立地地域の経済と電源三法交付金(132)エネルギー自治を阻む原発マネー(134)再生可能エネルギーによる地域再生(134)エネルギー自治のこれから(136)

CNRPTER7 まちづくりとアメニティ
景観を守ること・創ること
1テーマと出合う
あの街この町、「まち」とは何?
2テーマを理解する
一景観まちづくりの歴史と現場「まち」を「つくる」(142)開発の波の中で失われた景観(143)景観台から景観条例・景観法へ(144)条例による景観まちづくり:京都市の事例(144)景観まちづくりの新たな展開:トレードオフからサステイナブルへ(148)まちづくりの土台としての学習:長野県飯田市の事例(149)
3テーマを考える
アメニティの経済学アメニティとは何か(150)アメニティをめぐる問題:混雑現象と土地問題(151)ストックとしてのアメニティ(152)アメニティがもたらす価値と環境評価(153)地域ブランドがつなぐ価値(155)社会的価値の認識と学習の役割(157)

CHRPTER8 グローバルとローカルをつなぐ
地域からの持続可能な発展
1テーマと出合う
—”Thinkglobally.Actlocally
2テーマを理解する
一地球と地域との接点を探る気候変動の問題化(164)2代目標と2つの対策(165)世界の主要都市における気候変動対策の特徴(167)東京都による地域版キャップアンド・トレードへの挑戦(169)東京オリンピックのメダルはリサイクルで(170)国境を越えるリサイクル資源(171)中国の都市におけるリサイクルの実際(172)
3テーマを考える
―持続可能な発展の経済学持続可能な発展とは何か(174)2つの持続可能性(175)包括的富とは何か(177)包括的を比較する(178)持続可能な発展へ向けた環境政策統合(179)なぜポリシー・ミフクスが起こるのか(180)グローバルとローカルをつなぐ制度(182)

CHRPTER9 インフラを造り替える
未来への投資
1テーマと出会う
ーインフラがフラフラに
2テーマを理解する
ーインフラのこれまでとこれからいろいろなインフラ(190)日本におけるインフラ整備の歴史(190)インフラをめぐる危機(193)インフラを造り替える1:コンパクトシティへの取り組み(194)インフラを造り替える2:スマート・シティへの取り組み(196)
3テーマを考える
―持続可能なインフラへ向けて費用便益(効果)分析の考え方(199)コミュニケーションとしての環境アセスメント(200)公共事業の公共性(202)ハードとソフト(204)フォアキャスティングからバックキャスティングへ(205)

CHRPTER10 ガバメントからガバナンスへ
みんなでアクション
1テーマと出合う
一卒業してからの現場
2テーマを理解する
一ガバナンスの現場を歩く「ガバナンス」で振り返る(212)ガバメントからガバナンスへ:埼玉県における見沼田画保全の事例(213)ガバナンスも変わる:熊本地域における地下水保全の事例(216)ガバナンスにおける市場の役割:森林認証制度を通して(218)
3テーマを考える
環境ガバナンス論ガバナンスが求められている「厄介な問題」(220)環境問題も厄介な問題に(222)環境ガバナンスとは何か(223)ガバナンスにおける3つのモード(223)ガバナンスの歴史をひもとく(225)ガバナンスの失敗とメタガバナンス(227)

引用・参考文献
事項索引
地名索引
人名索引

Columnコラム一覧
●私たちの「はじめての現場」
●地域からつくられてきた環境
●基地がもたらす公害
●「不滅の廃棄物」との格闘が始まる
●と福祉がつながる時代へ
●アンチ・コモンズの悲劇.
●エネルギー困
●なぜ景観条例は広まったのか
●MDGsとSDGS
●インフラ輸出の可能性と課題
●「ガバナンスの時代」における仕事像

本書のコピー、スキャン、デジタル化等の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンや、デジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用でも著作権法違反です。

八木 信一 (著), 関 耕平 (著)
出版社 : 有斐閣 (2019/3/22)、出典:出版社HP