【最新】産業・組織心理学について学ぶためのおすすめ本 – 仕事における心理学の応用

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産業・組織心理学とは?どんな役に立つ?

産業・組織心理学とは、会社などの組織において、その構造や仕事の特性など取り巻く環境が個人にどのような影響を及ぼすか解明する応用心理学のことです。これを理解することで、人材開発や管理職において大いに役立つ知見が得られます。ここでは、組織で人を育てる上で必要な産業・組織心理学を学ぶためにおすすめの本をご紹介します。

役立つ! 産業・組織心理学―仕事と生活につかえるエッセンス

基礎から実戦までわかる

現代の産業・組織に関するさまざまな問題解決のためのヒントを与えてくれるのが、産業・組織心理学です。本書は、産業・組織心理学の古典的な研究から最新の知見までを幅広くカバーし、人材マネジメントの方法や働く人への支援など実践的な内容についても詳細に解説しています。

矢澤美香子・松野航大 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2020/4/3)、出典:出版社HP

はじめに

加速化する社会の変化,時代の流れと共に,産業・組織の在り方も日々刻々 と急速な変貌を遂げてきています。移り変わりの激しい現代においては、雇用 の問題や人材管理の問題,メンタルヘルスの問題など、次々と産業・組織に関 わる新しい課題が生じているといえるでしょう。このような現代の産業・組織 の中で生きる私たちに,その問題解決へのヒントを与えてくれるのが,産業・ 組織心理学です。
本書は,産業・組織心理学の歴史的な背景や基礎的な知識,種々の理論, さ らにはそれらの応用について網羅的に学ぶことができるテキストです。執筆は、 産業・組織心理学の第一線で活躍する研究者や実務家に依頼をしました。産 業・組織心理学の古典的な研究から最新の知見までを幅広くカバーしたうえで, 人材マネジメントの方法や働く人への支援など実践的な内容についても詳細に 解説したものとなっています。「役立つ! 産業・組織心理学」という本書のタ イトルの通り、現代社会で日々働く人々やこれから社会人となる人たちにとっ て、仕事や日常場面で実際に役立つ知識を学ぶことができるでしょう。
また、本書には、心の専門家を目指す学生や,産業領域における心理臨床の 基礎知識を習得したい専門家にも大いに役立つ内容が盛り込まれています。 2015年に心の専門家として初の国家資格である「公認心理師」が法制化され、 2018年から資格取得者が誕生しました。こうした流れに伴い、資格取得に向け た学びの指針を示す「公認心理師大学カリキュラム 標準シラバス」(日本心 理学会)や資格試験の出題基準を示す「ブループリント(公認心理師試験設計 表)」(一般財団法人日本心理研修センター)にも対応した内容となっている点 が、本書の特徴でもあります。
産業・組織心理学の学びにおいては、その基礎的な知識を覚え、理解するだ けではなく、それらをいかに実践につなげて、実務に活かすかという視点が非 常に重要といえます。そのため、本書には各章ごとにその内容に関連するワークを設けています(ワークはダウンロード資料となっています。入手方法については下記の囲みを参照してください)。ワークを通して、本書で得た学びを体験的に振り返り、自己理解を深めていくと共に,社会で役立つ実践的な知識やスキルを身につけていただきたいと考えています。読者のみなさんに、 本書との出会いが自己成長の機会にもなれば幸いです。
長い年月をかけて蓄積されてきた産業・組織心理学のさまざまな知見の中には、産業・組織に関わるすべての人々にとって、日々の生活や仕事で使えるた くさんの知恵が溢れています。学生から社会人そして専門家まで,現代社会を 生きる人々の職業生活や家庭生活などあらゆる場面に本書が役立つことと信じ ています。
最後に、示唆に富む貴重な原稿をお寄せくださった執筆者の先生方に厚く御 礼申し上げます。また、本書を刊行するにあたり快く企画を受け入れてくださ ったナカニシヤ出版編集長の宍倉由高様,編集をご担当いただいた山本あかね 様に謝意を表します。長きにわたるたくさんの励ましと細やかなサポートやア ドバイスがなければ本書は完成に至りませんでした。この場をお借りして、皆 様に心より感謝申し上げます。
2020年2月
矢澤美香子・松野航大

各章の章末のワークには、ダウンロード資料があります。ご希望の方は, manuai@nakanishiya.co.jpまで、ご氏名ご所属および本書の書名(『役立 つ! 産業・組織心理学』)を明記のうえ、メールにてご連絡ください。

矢澤美香子・松野航大 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2020/4/3)、出典:出版社HP

目次

はじめに

序章 産業・組織心理学の歴史と領域
1. 産業・組織心理学の歴史的変遷
2. 産業・組織心理学の研究領域と意義

第1部 組織行動
1 ワークモチベーション
1. ワークモチベーション
2. ワークモチベーションに関わる初期の研究
3. 内容理論
4. プロセス理論
5. ワークモチベーションの諸理論

2 組織におけるチームワーク
1. 集団意思決定
2. チームワーク
3. 組織の枠組みづくり

3 組織とコミュニケーション
1. コミュニケーションのプロセス
2. コミュニケーションの分類
3. 組織における効果的なコミュニケーション

4 リーダーシップ
1. リーダーシップの概念
2. 特性論
3. 行動論
4. コンティンジェンシー理論
5. リーダー・メンバー交換理論
6. 変革型リーダーシップ
7. サーバント・リーダーシップ
8. オーセンティック・リーダーシップ
9. リーダーシップ開発

第2部 人的資源管理
5 人事評価・採用・適性
1. 人的資源管理
2. 労働市場・雇用の動向
3. 人事評価のしくみ
4. 組織における今後のキャリア開発支援

6 キャリア形成
1. キャリアとは何か
2. キャリアカウンセリングの理論
3. これからのキャリアデザイン

第3部 安全衛生
7 産業・労働分野の制度・法律・倫理
1. 産業場面のメンタルヘルス対策の特異性
2. 特別法としての労働基準法
3. 企業におけるメンタルヘルス対策

8 作業改善・安全衛生
1. 近年の労働災害の傾向
2. 労働災害の発生を防ぐためのリスクアセスメント
3. 作業改善と作業能率

9 職場のストレスとメンタルヘルス
1. 労働者とストレス
2. 労働者のメンタルヘルス不調
3. メンタルヘルス不調の予防

10 産業・組織分野における心理学的援助
1. 産業・組織分野における心理学的援助の目的
2. 産業・組織分野における心理学的援助の特徴:他領域との違い
3. 就労支援の実際
4. 近年の行政施策に関連した相談のテーマ

第4部 消費者心理
11 消費者行動
1. 消費者行動とマーケティング
2. 消費者の購買意思決定過程
3. 消費者行動の規定要因
4. マーケティング
5. 広告心理学

索引

矢澤美香子・松野航大 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版 (2020/4/3)、出典:出版社HP

よくわかる産業・組織心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

問題解決のための知見が得られる

産業・組織心理学とは、人々が仕事に取り組む際に直面するさまざまな問題の解決を目指しています。本書では、産業・組織心理学の研究によって明らかにされてきたことを、わかりやすく整理して学習できます。仕事をするときに直面する問題の解決に、本書の内容を活かすことができるでしょう。

山口 裕幸 (編集), 金井 篤子 (編集)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2007/5/1)、出典:出版社HP

はじめに

■よくわかる産業・組織心理学
就職して社会人としての生活を始めると,学生時代を懐かしみ、自由で幸せだったなあと振り返る人が多いようです。現在進行形で学生時代を過ごしているときには,なんとか自分の進む道を明確に定めたいという思いの方が先立って、就職してから先のことは、なかなか思いの及ばないことかもしれません。仕事に就けば、その道の専門家として、色々な知識や技能,経験を身につけながら、社会人として自立していきます。その成長には試練がつきものです。ひとつの仕事をやりとげること自体、大変な試練といえるでしょう。その試練が,自由を謳歌できた学生時代を、ときに懐かしく思わせるのかもしれません。
試練を一つひとつ乗り越えながら、誰もが成長していくのですが,そもそも仕事とは、人間にとってどんな課題を与えるものでしょうか。その課題を整理して、理解し、どのように対処していけばよいのかを前もって考えておくことは、待ち構える試練を克服するのに大いに役立つはずです。
産業・組織心理学(Industrial/Organizational Psychology)は、人々が仕事に取り組む際に直面するさまざまな問題の解決を目指しています。組織経営やマーケティングでは、人間の心理についてよく理解しておくことが大事であるのはいうまでもありません。ところが、もともと人間の心の働きは複雑ですし,心理学の研究は多種多様にあるうえに、純粋に心のメカニズムを探究する側面が強くて、その研究成果を働く現場で直面する問題と関連づけるのにひと苦労します。
この著書では、産業・組織心理学の研究によって検討され、明らかにされてきたことがらを,わかりやすく整理して,学習できるように構成しました。そして、仕事をするときに我々が直面する問題の解決に,産業・組織心理学が培ってきた知見が生かせるように,橋渡しをしたいと願っています。その願いが叶う著書となり得たか、皆様のご批判をお願い申し上げます。
本書の企画・構成・出版に際して、ミネルヴァ書房の吉岡昌俊氏にひとかたならぬご尽力を賜りました。吉岡さんの粘り強いご支援がなければ、本書は世に出ることができませんでした。厚くお礼申し上げます。
2007年2月
山口裕幸・金井篤子

山口 裕幸 (編集), 金井 篤子 (編集)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2007/5/1)、出典:出版社HP

もくじ

■よくわかる産業・組織心理学

はじめに

Ⅰ 産業・組織心理学の歴史とテーマ
1 産業・組織心理学の意義とテーマ
2 組織とは何か
3 組織観の歴史的変遷
コラム1 科学的管理法
コラム2 ホーソン研究
コラム3 オープン・システム・アプローチ
4 組織と個人の関係
5 組織行動
6 人的資源管理論
7 働く人々の安全と健康
8 消費者行動とマーケティング

Ⅱ ワーク・モティベーション
1 内容理論と過程理論:動機と動機づけの違い
2 動機の種類
3 内発的動機づけ
4 達成動機づけ
5 期待理論
6 目標設定理論
7 公正理論
8 職務満足感
9 コミットメント

Ⅲ 採用と面接
1 採用選考
2 適性の考え方
3 採用選抜の理論
4 採用選考の設計
5 適性テスト
6 適性テストの信頼性と妥当性
7 採用面接
8 面接の信頼性と妥当性
9 面接の効用と課題

Ⅳ 人事評価
1 人的資源管理
2 人事評価
3 絶対評価・相対評価
4 昇進・昇格
5 報酬制度
6 360度多面評価
7 アセスメント・センター
8 コンピテンシー

Ⅴ キャリア発達
1 キャリアとは
2 キャリア発達理論
3 ホランドの六角形モデル
4 シャインの組織内キャリア発達段階
コラム4 ライフ・キャリアの虹
コラム5 キャリア・アンカー
5 クランボルツの計画された偶発性
6 ブリッジズのトランジッション論
7 人材育成
8 メンター・プロステージ関係と垂直的交換関係
9 キャリア・ストレス
10 キャリア・カウンセリング

Ⅵ 職場のコミュニケーションと人間関係
1 職場集団の特性
2 職場集団の発達論
3 職場の規範と社会化
コラム6 職場規範の測定法
4 職場のチームワーク
5 職場のコミュニケーション
6 職場のナレッジ・マネジメント
7 会議による意思決定過程の特性
8 職場の人間関係の特徴
9 職場で起こる対人葛藤:その原因と影響
10 対人葛藤への対処

Ⅶ リーダーシップ
1 リーダーシップの概念と研究の歴史的変遷
2 特性アプローチ
3 行動アプローチ
コラム7 二要因論:PM理論とマネジリアル・グリッド理論
4 コンティンジェンシー・アプローチ
5 認知論的アプローチ
6 組織変革とリーダーシップ
コラム8 交流理論

Ⅷ 消費者行動とマーケティング
1 消費者の購買意思決定モデル
2 消費者のブランド選択
3 心理的財布理論
4 近視眼的な価値判断:現在志向バイアス
5 購買様式の類型
6 くちコミの影響
7 購買後の商品評価
8 悪質商法:振り込め詐欺を考える

Ⅸ 仕事の能率と安全
1 作業負担と作業負荷
2 ヒューマン・エラー
3 ルール違反と意図的な不安全行動
4 事故発生モデル
5 事故防止のためのさまざまな取り組み
6 組織事故と安全文化
7 ヒューマン・ファクターズ
8 ユーザー・インターフェース

Ⅹ 職場のストレスとメンタルヘルス
1 職場のストレス
2 セリエのストレス学説
3 ラザルスのシステム理論
4 ホルムズとラーエのライフ・イベント型ストレス
5 クーパーとマーシャルの職務ストレス・モデル
6 タイプA行動パターン
7 ワーク・ファミリー・コンフリクト
8 過労死
9 ストレスへの対処
10 職場のソーシャル・サポート
コラム9 EAP(従業員支援プログラム)

さくいん

山口 裕幸 (編集), 金井 篤子 (編集)
出版社 : ミネルヴァ書房 (2007/5/1)、出典:出版社HP

基礎から学ぶ産業・組織心理学

心理学と経営学の双方の視点から解説

本書を読むことで、組織の中の人間の心理や行動を起点として、産業や企業経営の変化にともなう問題やその解決手法が大きな流れとして理解できます。産業・組織心理学を学ぶ大学生や、産業組織に組み込まれたばかりの社会人、自分が人や組織を動かす立場になったばかりの管理者などにおすすめの一冊です。

幸田 達郎 (著)
出版社 : 勁草書房 (2020/9/30)、出典:出版社HP

はじめに

1. 本書の対象読者

この本は2種類の読者を想定している。第一は、「産業・組織心理学」全般を学ぶ大学生である。日本心理学会による、公認心理師大学標準カリキュラムの標準シラバスのキーワードをすべて網羅しているので、そのためのテキストとして有用であろう。第二は,産業組織に組み込まれたばかりの社会人や,自分が人や組織を動かす立場になったばかりの管理者である。
本書では,理論そのものよりも,①理論の背景にある基本原則についてと,②理論が当てはまる現実の組織で起こる事柄について、記述を厚くした。現実の社会現象は多様であり流動的なので、いかなる理論もそのまま機械的に当てはめようとしてもうまく作用しない。しかし,理論の背景を理解することで、既存の理論そのもののどこをどうアレンジすれば自分自身が抱える問題によりよく当てはまるのかが分かるからである。

2. 本書が採る理解の方法

およそ人がものごとを理解する方法には3つある。
まず、①知りたいと思う対象の内部の構造を分解して要素に分け、それぞれの要素の役割と、それぞれの要素間のつながりを理解する方法である。たとえば、ゼンマイを用いた機械式時計とはどのようなものなのかを理解したいとする。その場合には、機械式時計の内部構造を理解することが役に立つ。
次の方法は、②歴史的展開を用いて理解する方法である。たとえば、時計というものを理解するためには、時間を測定する装置としての日時計からはじまり、夜間や曇天にも、さらには移動中にも時間を知ることができる水時計,ゼンマイバネを用いた機械式時計が開発されたという歴史をたどることができる。それによって、時計というものがいかに便利で正確に時間を知らせるものになったのかを理解できる。
最後の方法は,③他のものとの比較である。たとえば,時間というものの性質を知りたい場合には、長さや重さとの違いを考えると分かりやすい。時間は絶えず一定の速さで動いている。しかもその動きは一方向的であり戻ることはない。長さや重さはそれぞれの物に固有であるが,時間はすべての物に対して均一の速さで経過する。このように,他のものと比較することで時間というものの性質が浮きぼりになる。
この本全体では、①の手法が採られている。産業・組織心理学の内部の構造を各章ごとに分解して要素に分け、それぞれの関係を考えることになる。②の理解のための記述もこころがけたが、③の方法はあまり用いられていない。

3.本書の構成

第1章では全体のガイダンスを行う。ここでは,まず歴史的展開を中心に産業・組織心理学全般の理解を深める。第2章は産業・組織心理学を構成する要素としての個人について扱う。モチベーション,リーダーシップ,キャリア,ストレスなどの現実には個人差がある。そこで,第2章という比較的最初の時点でパーソナリティという個人にともなう問題について考えることとした。どのような視点から対象者のパーソナリティを見たらよいのかを考る。いくつかの視点から複合的に相手を理解することが重要であり,より現実的である。その際に必要となる視点をこの第2章で提供した。
第3章から第6章までは、従来の産業・組織心理学の中心になる分野であり、第2章を基礎として連続した関連を持つ。第2章のパーソナリティの違いが,第3章で扱うモチベーションの違いを生み出す。それぞれの個人の意図やモチベーションがぶつかり合い、第4章で扱われるコミュニケーションや意思決定が行われる。これらがパターン化すると第5章の組織文化が形成されることになる。環境の変化に応じて組織やその文化が影響され、場合によっては組織文化の変革が必要になる。その際に重要になるのが第6章のリーダーシップの働きである。もちろん、リーダーシップは第4章で扱われた組織内のコミュニケーションや意思決定と重要な関連を持つ。また、リーダーの重要な役割の1つは組織のメンバーに対して第3章で扱われたモチベーションを引き出すことでもある。
第7章と第8章,および第9章では,産業・組織心理学にもっとも関連の高い組織側の施策の実際と,それらの施策の基本にある考え方について述べる。第10章のキャリアは,第2章から第6章までの内容とともに,第7章から第9章で述べられる組織側の施策からの影響を受けて総合的に形成される。
第11章では,消費者行動とマーケティングを扱う。多くの場合,「産業心理学」という場合にはこの分野を入れ,「組織心理学」という場合にはこの分野を除いているようである。日本心理学会による公認心理師大学標準カリキュラムでは,「産業・組織心理学」という名称の中で消費者行動を含んでいる。この標準カリキュラムに準拠する本書でも,この分野について十分な紙面を割いて扱っている。現在の産業上の問題は近・現代産業特有の大量生産システムや仕事の標準化に結びついている。実は、それを支えているのが現代の大量消費社会であり、その根底にあるのが大量販売やその技術としてのマーケティングである。消費者行動やそれに対する産業組織側の行動を理解するためには,そうした社会全体の中での位置づけを意識することが重要である。その点も本書では強調している。
第12章では、第11章で紹介された販売方法を可能にした、大量生産システムについて考察する。おそらくそれは20世紀に入ってからはじまった歴史の転換点以降の、新たな人間の心理への負荷の問題である。具体的には、作業の標準化の効果とそれがもたらす心理的な問題について考える内容である。第13章は,それまでの各章の内容を踏まえて、産業・組織で働く上での心理的な負荷や、それに対する援助の必要性と方法について紹介している。ますます重要度が高まっているストレスへの対処やメンタルヘルスについて扱う。第14章では公的な施策の動向や法律を概観する。

4. 本書の読み方と使い方

第1章から順番に読み進めていけば、組織の中の人間の心理や行動を起点として、産業や企業経営の変化にともなう問題やその解決手法が大きな流れとして理解できるはずである。しかし、それぞれの章は独立しているので、すぐに必要な章や関心のある章から読み進めてもまったく差しつかえない。ばらばらの順番で読み進めても最終的に全章に目を通せば,各章それぞれの内容が相互に連携していることが分かるように整理したつもりである。したがって、実務に必要な部分だけを読みたい社会人や授業などでテキストとして読み進める順番を変えてもよい。
実際に大学の授業でこれだけの広範囲の内容を全15回や14回で終わることは難しい。第3章から第6章までの内容は1回の授業では終わらないかも知れない。筆者の場合にはそれ以降の内容も1回では終わらないことが多いため、年度によって重点を変えて教えている。公認心理師資格に関係がない場合には、従来の産業・組織心理学の中心となる分野に力を入れて第7章から第9章のいずれかを省略する場合もあるだろうし,教員の専門によっては第11章を省略することもあり得るだろう。また第14章の内容は,日本心理学会が提示している公認心理師科目の標準シラバスに求められる内容ではあるが,厳密には心理学が扱う内容を超えている。
読者が大学生である場合にも社会人である場合にも,実社会での応用力を向上されることを祈ってやまない。
なお、本書のタイトルである『基礎から学ぶ産業・組織心理学』の“基礎”の意味であるが、1つには基礎となる古典的な原理や理論から出発して組織現象を考える構成にしたということと、筆者が産業界での仕事の中で実際に体験し、見聞きした事柄を具体的な基礎として,産業・組織の一般的な心理的問題を扱うという2つの意味がある。この2つの点が本書の特徴である。

5. 公認心理師科目のテキストとして使用する場合の留意点

日本心理学会による「公認心理師大学カリキュラム標準シラバス」(2018年8月22日版)での大項目(科目に含まれる事項)と小項目(含むべきキーワードの例)はすべて網羅している。また、各章のはじめにその章で扱うキーワードを提示するとともに本文中ではアンダー・ラインをひいている。しかし,中項目(各回の授業タイトルの例)どおりの章立てにはしていたい。その理由は,中項目の分類どおりに授業を進めようとすると各回の授業の内容が完全に独立したこま切れの内容になってしまうからであり、産業・組織心理学の全体像がみえにくくなってしまうと思えたからである。そのために、章立てはあらためて編成しなおしている。

幸田 達郎 (著)
出版社 : 勁草書房 (2020/9/30)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 産業・組織心理学とは何か
1. 産業・組織心理学以前
2. 産業・組織心理学の発展
3. 現在の産業・組織心理学の対象
4.組織と環境
5. 産業・組織心理学の目的と方法
6. 産業・組織心理学における倫理的姿勢

第2章 パーソナリティと適性
1. パーソナリティとは何か
2. パーソナリティと適性
3. パーソナリティの理解と理論
4. 静態論的な立場(類型論と特性論)
5. 動態論的な立場(発達と学習の視点)
6. それ以外の考え方

第3章 職務満足とワークモチベーション
1. 満足を求めることとモチベーション
2. 動機づけ要因と衛生要因
3. X理論・Y理論
4. モチベーションが起こるさまざまな要因
5. 達成動機・パワー動機・親和動機
6. 欲求五段階説
7. 様々な内的要因による動機づけ
8. モチベーションが作用するプロセス
9. モチベーションの生起と維持のメカニズム
10. 公平さとモチベーション
11. 外的報酬とモチベーション

第4章 組織でのコミュニケーションと意思決定
1. 組織からの要求と納得の心理的調整
2. 周囲との関係
3. 集団の性質と集団の力
4. 集団内の行動とコミュニケーション
5. 集団間の摩擦
6. 組織での仕事におけるコミュニケーションと意思決定

第5章 組織文化と組織変革,および企業倫理の改善
1. 組織文化
2. 職場における文化
3. 日本的経営
4. 強い企業の組織文化
5. 企業の変革
6. 文化の変革とその障壁
7. 組織文化とコンプライアンス
8. 不祥事を防ぐ

第6章 リーダーシップと組織
1. 組織行動をみる視点としてのリーダーシップ理論
2. リーダーシップと組織風土,およびモチベーションとの関係
3. リーダーシップの発揮への2つの方向からの視点
4. リーダーシップの源泉となる力
5. リーダーシップへのさまざまなアプローチ
6. リーダーの全体的な役割

第7章 社会的変化と人事制度
1. 生活保障的な意味あい
2. 生活保障からの転換のこころみ
3. 目標管理の導入と歴史
4. 目標管理の運用の背景と理論
5. 成果主義

第8章 人事制度の仕組みと運用
1. 採用
2. 配属
3. 職能と昇給・昇進
4. 職能主義から職務主義への転換
5. 賞与などの処遇
6. 人事異動
7. 福利厚生と退職管理

第9章 能力や仕事の評価
1. 人事のアセスメント
2. 多面的なアセスメントの手法
3. コンピテンシー
4. 実務上の人材評価
5. 上司からの日常の評価
6. 上司による考課での注意点と理論的背景
7. 人事考課にかかわる日々の活動

第10章 職業上のキャリアについての心理的問題
1. キャリアに対する視点
2. パーソナリティからのアプローチ
3. 発達からのアプローチ
4. 学習からのアプローチ
5. キャリア予測の難しさと理論的な問題
6. キャリアを財産として考えること
7. キャリアカウンセリング

第11章 消費者行動とマーケティング
1. 消費者行動
2. 消費者心理
3. 消費者行動に心理的影響を与える要因
4. 商品提供者の側の視点
5. 消費者への対応
6. ブランドと消費者
7. 消費者をとりまく環境
8. プロダクト・ライフサイクルと競争戦略

第12章 作業改善と産業の発展
1. 産業の発展の中での作業改善
2. 効率低下防止の考え方
3. 科学的管理法
4. 科学的管理法以前
5. ヘンリー・フォードとモダンタイムス
6. ホーソン実験

第13章 産業・組織の中のストレスと現場での援助
1. ストレスとは
2. メンタルヘルス
3. 産業分野での専門的な心理学的援助
4. 専門家による心理学的援助の方法と手順
5. 現場での上司からの心理的支援
6. 現場での心理学的面談の進め方
7. 現場での心理学的面談ですべきこと
8. 面談の内容

第14章 労働関連の法律と施策
1. 産業・組織で働くことに関連する基本的な契約と法律
2. 精神的に安全で豊かな職場環境に向けた取り組み
3. 日本社会の傾向のなかでの産業・組織心理学

引用文献
人名索引
事項索引

幸田 達郎 (著)
出版社 : 勁草書房 (2020/9/30)、出典:出版社HP

産業・組織心理学TOMORROW

8テーマ別に解説

産業・組織心理学は職場や組織における人間行動を科学的に明らかにしようとしており、職場での問題解決に役立つ学問です。本書では、産業・組織心理学が扱う主要なテーマについての解説と、応用研究が現代社会におけるどのような課題の解決に活用されているのかについて解説しています。産業・組織心理学を学ぶ際の入門書としても活用できます。

田中 健吾 (著), 高原 龍二 (著)
出版社 : 八千代出版 (2020/12/2)、出典:出版社HP

執筆者一覧

田中健吾 大阪経済大学経営学部教授 11章・12章
高原龍二 大阪経済大学経営学部准教授 5章・6章
新原直樹 東筑紫短期大学食物栄養学科教授,大阪大学名誉教授 1章
縄田健悟 福岡大学人文学部准教授 2章
山下京 近畿大学経営学部准教授 3章・4章
井手亘 大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科教授 7章・8音
阿部晋吾 関西大学社会学部教授 9章・10章
前田洋光 京都橘大学健康科学部准教授 13章・14章
森泉慎吾 帝塚山大学心理学部講師 15章
上田真由子 大阪大学大学院人間科学研究科助教 16章

はじめに

経済政策の変化や天変地異など広範な影響をもたらすものから,ライバル 企業の新戦略や社内不祥事など影響範囲の限られたものまで、企業や労働者 を取り巻く状況は刻一刻と変化しており,多くの企業が生き残りのために工 夫を重ねている。そうした中で労働者の生産性や健康度を向上させるために, 心理学に期待されていることは少なくない。それに応えるべく研究が進められている分野が,産業・組織心理学 (industrial and organizational psychology)ある。行動の理解を追究する心理学の中でも,産業・組織心理学は職場や組 織における人間行動を科学的に明らかにする研究分野であり,その知識を職 場での問題解決に役立てることを志向している (e.g. Zedeck, 2012)。ちなみに, 産業・組織心理学は,「産業心理学 (industrial psychology)」という表現が用い られることも多い。歴史的には産業心理学という表現に組織という言葉が加 えられて、産業・組織心理学という表現になったとされる(馬場, 2017) が,今 日の日本においては明確には使い分けられていない。

産業・組織心理学では心理学の他分野と同様に、人や組織からの情報を収 集するために観察,面接,検査,調査,実験など多種の方法が用いられてお り,得られた情報を研究としてまとめる際にも,事例を詳述するなどの定性 的(質的)研究法,統計的手法を用いて仮説を検証するなどの定量的(量的) 研究法,あるいは両者を併用する混合研究法(mixed method)など多様な方法 が用いられている。
いずれの方法においても、科学としての根拠(エビデンス)に基づいた知見 が重視されることはいうまでもなく,単一の研究よりは複数の研究をまとめ たシステマティックレビューやメタ分析(メタアナリシス)による研究成果が 特に信頼される傾向にある。そのため、産業・組織心理学の研究分野におい ても、確固たる知見がまとまるまでにはかなりの時間が必要とされ、目まぐ るしい産業社会の変化に十分に追いつくことができているとはいいがたい。 産業・組織心理学の基礎的なトピックだけでは現代的な課題に対応することが困難だが、現代的課題に応じられる知見はいまだ十分に体系化されていな いというジレンマが存在するのである。

それでは、産業・組織心理学を学ぶ学生はどこに重点を置いて学習をすれ ばよいか。本書では,上記のジレンマに対応すべく, 産業・組織心理学が扱 う主要なテーマについてそれぞれ2章を設け,基礎的トピックと現代的課題について解説を行った。併せて読むことによって,基礎的な研究を学んだ上 で,それらを背景とした応用研究が現代社会におけるどのような課題の解決に活用されているのか,あるいは活用されようとしているのかを理解してい ただくことが狙いである。
産業・組織心理学が取り扱うテーマは広範囲にわたっており,様々に分類 されているが、日本の産業・組織心理学会では人事部門,組織行動部門,作 業部門、消費者行動部門の4研究部門を置いている。本書では,人事領域の テーマとして採用過程・人事制度 (7,8章),キャリア (9, 10章),組織行動領 域のテーマとして集団・組織と人の行動 (1, 2章),モティベーション(3.4 章)、リーダーシップ(56章), ストレス(11, 12 章),作業領域のテーマとし てヒューマンファクター(15,16章), 消費者行動領域のテーマとして消費者 行動 (13, 14章)を取り上げた。これらのテーマは他の産業・組織心理学の教 科書とほぼ共通するものであり,産業・組織心理学の領域を概ね網羅できて いるものと考えている。

本書の執筆に際しては八千代出版株式会社代表取締役の森口恵美子様,編 集部の井上貴文様に大変お世話になった。深謝の意を表する。

2020年8月
田中健吾・高原龍二

田中 健吾 (著), 高原 龍二 (著)
出版社 : 八千代出版 (2020/12/2)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 集団・組織と人の行動(グループ・ダイナミックス)
1 集団パフォーマンス
2 集団意思決定
3 同調と服従と内部告発

2章 集団・組織と人の行動(グループ・ダイナミックス):現代的課題
1 チームワーク
2 コンフリクト
3 ダイバーシティの高まる職場

3章 ワーク・モティベーション(動機づけ)
1 モティベーションの概念
2 モティベーションの内容理論
3 過程理論
4 ジョブ・クラフティング

4章 ワーク・モティベーション:現代的課題
1 ワーク・エンゲイジメント
2 成果主義とモティベーション
3 自己決定理論の発展
4 超高齢化社会における女性と高齢者の働き方

5章 リーダーシップ
1 特性論
2 行動論
3 状況論
4 認知論
5 関係論
6 変革論
7 その他のリーダーシップ理論

6章 リーダーシップ:現代的課題
1 パワーハラスメントとリーダーシップ
2 リーダーシップと文化

7章 人的資源管理と採用選考
1 人的資源管理
2 採用選考

8章 人的資源管理と採用選考:現代的課題
1 多様化する雇用形態
2 ダイバーシティ

9章 キャリア
1 キャリアとは
2 キャリアの選択
3 キャリアの発達
4 キャリアの転機

10章 キャリア:現代的課題
1 流動化
2 脱組織化
3 長寿化
4 多樣化
5 キャリア・カウンセラー,コンサルタントの役割
6 今後のキャリア

11章 ストレス
1 ストレスとは
2 心理学的ストレスモデル
3 医学的視点に基づいた職業性ストレス理論
4 心理学的視点に基づいた職業性ストレス理論
5 職場不適応の心理学的視点による理解
6 心理学的職場ストレスモデル

12章 ストレス:現代的課題
1 職場ストレス
2 労働者の心の健康
3 職場ストレスに対する心理的支援と産業カウンセリング

13章 消費者行動
1 消費者行動とは
2 消費者の購買意思決定
3 消費者の価格判断
4 購買後の消費者心理

14章 消費者行動:現代的課題
1 購買意思決定過程に影響を及ぼす今日的問題
2 価格とお金にまつわる今日的問題
3 「選択」と「満足」における今日的問題
4 身体化認知と感覚マーケティング

15章 ヒューマンファクター
1 事故とヒューマンファクター
2 わが国における事故の実態
3 事故と不安全行動
4 リスク・マネジメント
5 これからの安全研究の方向性

16章 ヒューマンファクター:現代的課題
1 遮断かんのない踏切で自動車ドライバーに一旦停止してもらうには
2ホーム上の酔客による事故を減らすには
3 焦り慌てによるヒューマンエラーを防ぐには
4 ヒューマンエラーと心理学的考え

引用・参考文献
索引

田中 健吾 (著), 高原 龍二 (著)
出版社 : 八千代出版 (2020/12/2)、出典:出版社HP

第20巻 産業・組織心理学 (公認心理師の基礎と実践)

産業・組織心理学の入門書

本書は、公認心理師を目指す人のための「公認心理士の基礎と実践」シリーズの20巻目です。産業・組織心理学における公認心理士の業務は、国民が「働くこと」に関連した多種多様な心理学支援の理論の研究と実践です。働くことを全般的視野から概説し、公認心理師の業務に関係する最先端の支援を選択し、外観していきます。

新田 泰生 (著), 野島 一彦 (監修), 繁桝 算男 (監修)
出版社 : 遠見書房 (2019/8/28)、出典:出版社HP

巻頭言

心理学・臨床心理学を学ぶすべての方へ
公認心理師法が2015年9月に公布され,2017年9月に施行されました。そして,本年度より経過措置による国家資格試験が始まります。同時に,公認心理師の養成カリキュラムが新大学1年生から始まります。

現代日本には,3万人を割ったとは言えまだまだ高止まりの自殺,過労死,うつ病の増加,メンタルヘルス不調,ひきこもり,虐待,家庭内暴力,犯罪被害者・加害者への対応,認知症,学校における不登校,いじめ,発達障害,学級崩壊などの諸問題の複雑化,被災者への対応,人間関係の希薄化など,さまざまな問題が存在しております。それらの問題の解決のために,私たち心理学・臨床心理学に携わる者に対する社会的な期待と要請はますます強まっています。また,心理学・臨床心理学はそのような負の状況を改善するだけではなく,より健康な心と体を作るため、よりよい家庭や職場を作るため、あるいは,より公正な社会を作るため、ますます必要とされる時代になっています。

こうした社会状況に鑑み、心理学・臨床心理学に関する専門的知識および技術をもって、国民の心の健康の保持増進に寄与する心理専門職の国家資格化がスタートします。この公認心理師の養成は喫緊の非常に大きな課題です。
そこで、私たち監修者は,ここに『公認心理師の基礎と実践』という名を冠したテキストのシリーズを刊行し,公認心理師を育てる一助にしたいと念願しました。

このシリーズは、大学(学部)における公認心理師養成に必要な25科目のうち、「心理演習」、「心理実習」を除く23科目に対応した23巻からなります。私たち心理学者・心理臨床家たちが長年にわたり蓄えた知識と経験を、新しい時代を作るであろう人々に伝えることは使命であると考えます。そのエッセンスがこのシリーズに凝縮しています。
このシリーズを通して、読者の皆さんが,公認心理師に必要な知識と技術を学び、国民の心の健康の保持増進に貢献していかれるよう強く願っています。

2018年3月吉日
監修者野島一彦・繁桝算男

はじめに

我が国の産業・組織心理学会の設立趣旨には,個々人および集団が人間の可能性を基盤として成長し,効率的であると同時に健康的かつ生きがいのある組織を形成し,心と行動の総合体として作業を遂行し,文化的生活者として消費することのできる条件を探究すると述べられている。
産業・組織心理学における公認心理師の業務は,国民が「働くこと」に関連した多種多様な心理学的支援の理論の研究と実践である。その心理学的支援を実施するには,本書の各章にあるように,さまざまな課題があり,そこに産業・組織心理学を学ぶ意義がある。公認心理師の心理学的支援が行われる組織・職場への認識を持つだけではなく、その背景にある経済・産業の動向,個人と組織との関係も学ぶ。
公認心理師の心理学的支援を考えた時,中でも個人と組織との関係は、充分に検討されなければならない。組織は,時に権力的に,自己利益に走りがちである。昨今の各国における自国利益第一主義もその現われである。そこでは,自己組織利益のために、個人の諸権利は抑圧される。また特定の弱者は,スケープゴートとして象徴的に攻撃対象となる。組織が自己利益第一主義に走る時は、法律を無視して、規則を破り、ファシズム化しがちである。

我が国においては、企業のコンプライアンス違反,官庁の付度による政権への迎合,果ては運動部のパワハラによるボス的な集団支配まで、集団の自己利益のために、個人に法律・規則を破る自己犠牲を求める組織風土が存在する。特に我が国の産業界においては、他国に類を見ない「過労死」という組織が個人に自己犠牲を強いる象徴的現象がある。また、ブラック企業においては、組織利益のためには、法律は破られ、若者の健康等の諸権利は否定される。もし過労死を黙認して、あたかも文化的にやむを得ない犠牲とみる風潮が日本文化の深層心理にあるとしたら、そこに日本の強圧的集団主義・集団規範の異常さがある。過労死,ブラック企業,企業のコンプライアンス違反、付度による権力への迎合等を総合的に考察すると、我が国は、欧米に見られるような「自立した働く個人」をいまだに実現できずにいる。我が国においては、働く個人の自立が今後も目指されなければならない。
公認心理師は、上記のような、さまざまな深刻な労働者問題を背景として、個々人の触れると血があふれでるような生々しい心理的傷口をアセスメントし、その心理学的支援を行い,関係者への調整支援と共に,健康的かつ生きがいのある組燃形成に少しでも寄与するという困難でありながらも意義深い仕事を目指す。

本書は,公認心理師養成のテキストという趣旨に基づき企画され,その企画趣旨に基づく編集方針によって執筆された産業・組織心理学である。第1部では,働くことを全般的視野から概説する。上に述べたように,働く個人が自立するためには,労働に関する法律の学習は重要である。よって本書では特別に紙数を割くことにした。第2部の働く人への支援は,公認心理師の業務に関係する最先端の支援を選択し,概観している。公認心理師を目指す読者のお役に立つことができれば幸いである。

2019年7月
新田泰生

新田 泰生 (著), 野島 一彦 (監修), 繁桝 算男 (監修)
出版社 : 遠見書房 (2019/8/28)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 働くことを考える
第1章 産業・組織心理学の意義と方法 新田泰生
1 産業・組織心理学の意義
2 産業・組織心理学の研究方法

第2章 産業組織とは 桐村晋次
1 経営戦略と産業組織
2 経営戦略に関する主な理論
3 経営組織の基本構造
4 事業部制,カンパニー制,SBU
5 組織の集団規範の功罪

第3章 組織における人間の行動―仕事へのモチベーションとリーダーシップ 森下高治・小畑周介
1 仕事へのモチベーション
2 リーダーシップ

第4章 働くことと法 小島健一
1 法を学ぶ意義
2 労働法の生成・発展
3 労働判例と労働契約法
4 雇用慣行の変遷と政策の現在
5 労働基準法
6 労働安全衛生法
7 労災保険法
8 安全・健康配慮義務
9 健康情報の取扱い
10 母性保護と女性労働者への支援
11 育児・介護休業法
12 非正規万 働者の保護
13 定年制と高年齢者雇用安定法
14 障害者雇用促進法
15 職場のハラスメントとメンタルヘルス対策
16 過労死・過労自殺の 向と対策
17 「ブラック企業」問題と労働監督行政
18 「働き方改革」 と労働時間上限規制
19 雇用平等とダイバーシティ&インクルージョン

第5章 ワーク・ライフ・バランスとキャリア形成 金井篤子
1 ワーク・ライフ・バランス
2 キャリア形成

第6章 産業臨床心理学の視点から 種市康太郎
1 産業臨床心理学とは
2 職業性ストレスモデル
3 ストレスチェックの活用―職場ストレスモデルを背景に
4 多職種との連携

第7章 産業保健の視点から 島津明人・小田原幸
1 産業保健制度
2 産業保健に関する施策と法令
3 産業保健におけるメンタルヘルス対策

第2部 働く人への支援
第8章 従業員支援プログラム(EAP) 市川佳居
1 EAPとは
2 EAP 技法の特徴
3 EAPの定義と EAP コアテクノロ ジーについて
4 任意相談 vsマネジメント・リファー
5 労働者の心 の健康の保持増進のための指針とEAP
6 EAPの各種サービス

第9章 組織へのコンサルテーションと心理教育―職場のメンタルヘルス対策 における理論と実際 松浦真澄
1 組織へのコンサルテーション
2 心理教育

第10章 復職支援―働くための能力の回復を目指す職業人への全人的支援 中村美奈子
1 復職支援の背景
2 復職支援の概要
3 復職支援の実際
4 まとめ:生涯発達を見通した全人的復職支援

第11章 再就職・障害者就労における心理支援 馬場洋介
1 再就職における心理支援
2 障害者就労における心理支援
3 まとめ

第12章 職場でのトラウマケア 藤原俊通
1 はじめに
2 危険を伴う職場で働く人々の心理
3 トラウマとは何か
4 トラウマのケア
5 組織におけるトラウマケア
6 トラウマケアの先にあるもの
7 おわりに

第13章 産業心理臨床における心理療法1―認知行動療法, アクセプタンス &コミットメント・セラピー 土屋政雄
1 はじめに
2 認知行動療法
3 アクセプタンス&コミットメント・ セラピー
4 事例

第14章 産業心理臨床における心理療法2―ブリーフセラピー 足立智昭
1 ブリーフセラピーの定義
2 ブリーフセラピーの3つの主要モデル
3 解決志向アプローチの面接
4 企業内心理職に求められる心理療法にお ける特徴
5 産業現場におけるブリーフセラピーを志向した関わりの実際

索引
付録
執筆者一覧・編者略歴 巻末

新田 泰生 (著), 野島 一彦 (監修), 繁桝 算男 (監修)
出版社 : 遠見書房 (2019/8/28)、出典:出版社HP

産業・組織心理学を学ぶ:心理職のためのエッセンシャルズ (産業・組織心理学講座 第1巻)

研究者、実務家に必携

近年、産業・組織に関係する問題が次々と生じていることから、産業・組織心理学に注目が集まってきています。本書では、産業・組織心理学を学び始めた人を対象にしており、産業・組織心理学の基礎的知見をまとめた教科書となっています。公認心理師のシラバスに対応して作られているため、公認心理師を目指している人にもおすすめです。

金井 篤子 (著, 編集), 小野 公一 (著), 角山 剛 (著), 芳賀 繁 (著), 永野 光朗 (著), 産業・組織心理学会 (その他)
出版社 : 北大路書房 (2019/8/7)、出典:出版社HP

産業・組織心理学会設立35周年記念講座

刊行の言葉

本学会は2019(令和元)年に設立35周年を迎えた。1986(昭和61)年11月15日の設立大会以来これまで,節目ごとに学会のあり方を明確化し,学会の役割として学会の知見を集約し,世に広く還元することを試みてきた。すなわち、設立10周年には『産業・組織心理学研究の動向産業・組織心理学会10年の歩み』(1994年学文社)として学会のあり方行く末を模索し、設立25周年には『産業・組織心理学ハンドブック』(2009年丸善)として本学会の知見を集約し、世に広く還元する試みを行った。
今ここに設立35周年を迎え、産業・組織心理学を取り巻く心理学界の情勢をみるに、さかのぼること2015(平成27)年9月,心理学領域における初の国家資格として公認心理師が法制化されたことをあげることができよう。大学における公認心理師養成カリキュラムにおいて,産業・組織心理学は必須科目(実践心理学科目)と位置づけられたのである。これを受けて、本学会は産業・組織心理学を標榜するわが国における唯一の学会として、日本心理学会の求めに応じ,公認心理師大学カリキュラム標準シラバス(2018年8月22日版)を提案した(日本心理学会ホームページを参照)。
このように産業・組織心理学の位置づけが注目される昨今の情勢にかんがみ,設立35周年においては,産業・組織心理学のこれまでの知見を集約し,初学者(公認心理師資格取得希望者含む)から若手研究者,実務家のよりどころとなることを目的として、基礎(第1巻)から応用(第2巻~第5巻)までを網羅した本講座を刊行した。本講座が産業・組織心理学会の現時点における到達点を示し,今後を展望することができれば望外の喜びである。

2019(令和元)年9月
編者を代表して 金井篤子

―産業・組織心理学会設立35周年記念講座―
編集委員一覧

■企画
産業・組織心理学会

■編集委員長
金并管子 名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授

■編集委員
細田聡 関東学院大学社会学部現代社会学科教授
岡田昌毅 筑波大学大学院人間総合科学研究科教授
申紅仙 常磐大学人間科学部心理学科教授
小野公一 亜細亜大学経営学部経営学科教授
角山剛 東京未来大学学長・王子八一之行動科学部教授
芳賀繁 株式会社社会安全研究所技術顧問,立教大学名誉教授
永野光朗 京都橘大学健康科学部心理学科教授

■各巻編集担当
第1巻:金井篤子
第2巻:小野公一
第3巻:角山剛
第4巻:芳賀繁
第5巻:永野光朗

金井 篤子 (著, 編集), 小野 公一 (著), 角山 剛 (著), 芳賀 繁 (著), 永野 光朗 (著), 産業・組織心理学会 (その他)
出版社 : 北大路書房 (2019/8/7)、出典:出版社HP

はじめに

本書は産業・組織心理学会設立35周年を記念して編まれた講座(全5巻)の第1巻である。
本書は、講座の基礎編にあたり,産業・組織心理学の初学者を対象として,産業・組織心理学の基礎的知見をまとめた教科書となっている。産業・組織心理学が公認心理師養成カリキュラムの必須科目となったことを受けて、日本心理学会の求めに応じて産業・組織心理学会が提案した、公認心理師大学カリキュラム標準シラバス(2018年8月22日版)(日本心理学会ホームページならびに,本書Appendix1を参照)に対応し,公認心理師が最低習得すべき産業・組織心理学の知見を網羅している。また、さらに深く学びたい人のために,第2巻以降の応用編で詳細な知見を得られるように工夫している。
本書の構成は4部15章からなり、大学における半年間の講義内容としても活用できるようになっている。第1章では「産業・組織心理学とは」として,その目的,歴史,社会的意義,研究方法などを述べた。以降は産業・組織心理学の扱う領域ごとに,第1部では人事部門の基礎的知見を紹介し,第2部では組織行動部門,第3部では作業部門,第4部では消費者行動部門の基礎的知見を紹介した。用語集は公認心理師の上記標準シラバスに対応し、辞書引きできるように五十音順に並べ、巻末にまとめた。もちろん標準シラバス以外の用語も重要なものは収録している。また、コラムは読者が導入として興味を持てる内容を取り上げた。

本書が産業・組織心理学に関する初学者(公認心理師資格取得希望者含む),若手研究者,実務家のよりどころとなることを期待するものである。
第1巻編者 金井篤子

金井 篤子 (著, 編集), 小野 公一 (著), 角山 剛 (著), 芳賀 繁 (著), 永野 光朗 (著), 産業・組織心理学会 (その他)
出版社 : 北大路書房 (2019/8/7)、出典:出版社HP

目次

産業・組織心理学会設立35周年記念講座 刊行の言葉
編集委員一覧
はじめに

第1章 産業・組織心理学とは
第1節 産業・組織心理学の目的と対象
第2節 産業・組織心理学が扱う領域とテーマ
1. 人事部門
2. 組織行動部門
3. 作業部門
4. 消費者行動部門
第3節 産業・組織心理学の歴史
1. 産業・組織心理学の創始
2. 科学的管理法
3. ホーソン研究
4. 組織観の変遷
5. 自己実現的人間観の登場
第4節 産業・組織心理学の社会的意義
第5節 産業・組織心理学の方法
COLUMN 1 産業・組織心理学と公認心理師

第1部 人を活かす―人事部門
第2章 募集・採用と評価・処遇
第1節 募集・採用と職務分析
1. 募集と職務分析
2. 採用に用いられる検査
3. 職業適性と配置
4. 雇用の多様化
第2節 人事評価・処遇
1. 評価はなぜ必要か
2. 評価内容とその基準としての目標管理
3. 評価の方法と陥りやすい心理的エラー(評価バイアス)
4. 評価の受容を促進するために
COLUMN 2 労働条件:労働基準法とブラック企業

第3章 キャリア発達と能力開発
第1節 キャリア
1. キャリアがなぜ問題にされるのか
2. キャリアの定義
3. キャリア発達
4. キャリア発達を促すもの
第2節 企業の視点から見た能力開発
1. 能力開発の目的
2. 能力開発の方法・考え方:企業によるキャリア発達支援
3. 成果主義と能力開発
第3節 個人の視点から見たキャリアやキャリア発達
1. 働く人々にとってキャリア発達は人生の問題
2. 私的な人間関係に基盤を置くキャリア発達支援

第4章 人間関係管理と職場の人間関係
第1節 職場の人間関係の位置づけ
第2節 人間関係管理:人と企業の関係の管理
1. 人間関係管理の成立と展開
2. 人間関係管理の内容
第3節 私的な支持的関係:人間関係の肯定的側面
1. ソーシャル・キャピタル
2. ソーシャル・サポート
第4節 ハラスメント:地位や力の差がもたらす負の人間関係
1. ハラスメントの定義と種類
2. ハラスメントの実態とその影響
COLUMN 3 働き方改革:ワーク・ライフ・バランスと過労死・メンタルヘルス

第5章 働くことの意味と働かせ方
第1節 働くことの意味
1. 仕事をする目的
2. 働く人々のニーズの変化と価値観の変化:人間観の変遷
3. 多様なニーズと人事管理
第2節 働かせ方:労働条件管理と職務設計
1. 労働条件管理と労働基準法
2. 職務設計
3. 不公正な働かせ方とブラック企業
第3節人らしい働き方と well-being
1. 職務再設計:仕事における”ひと”らしさの復権
2. 働く人々の well-being と生きがい
COLUMN 4 調査結果の見方:働く人々のニーズ調査を例にして

第2部 組織行動を科学する―組織行動部門
第6章 組織行動の心理学的視点
第1節 集団のダイナミックス
1. 集団とは
2. 公式集団と非公式集団
3. 集団の規範
第2節 集団の中の個人
1. 集団意思決定
2. 集団思考過程で見られる負の効果
3. 社会的手抜き
4. 集団浅慮
第3節 集団内コミュニケーション
1. コミュニケーション戦略
2. 説得の技法
3. 他者判断時の思い込み要因
第4節 組織文化
1. 組織風土と組織文化
2. 組織文化の要素
COLUMN 5 企業不祥事の心理学

第7章 リーダーシップ
第1節 リーダーシップの諸相
1. 特性的アプローチ:リーダーシップ特性論
2. 行動的アプローチ:リーダーシップ行動記述論
3. 状況適合的アプローチ:リーダーシップ状況適合論
第2節 リーダーとメンバーの交流
1. 特異性クレジット
2. 変革型リーダーシップ
3. サーバント・リーダーシップ
第3節 信頼とリーダーシップ
1. リーダーの持つパワー
2. リーダーへの信頼感と勤続意思

第8章 仕事へのモチベーション
第1節 モチベーションの諸相
1. モチベーションとは
2. モチベーションを探る視点
3. 内容理論と過程理論
第2節 目標とモチベーション
1. 目標とモチベーション
2. 目標設定理論
3. 目標設定理論からみた目標設定の留意点
第3節 内発的モチベーション
1. 内発的モチベーションの意味
2. 内発的モチベーションのプロセス
3. フロー体験
COLUMN 6 楽観的思考と業績の関係

第9章 組織開発
第1節 組織変革と組織開発
1. 組織変革と組織開発
2 変革のエージェント
第2節 組織と個人の適合性
1. 適合の諸相
2. 個人の価値観と組織の価値観の適合
第3節 ダイバーシティ
1. ダイバーシティが意味するもの
2. 異文化間コミュニケーション
3. セクシュアル・ハラスメント
COLUMN 7 セクシュアルハラスメントの説明モデル

第3部 働く人の安全と健康―作業部門
第10章 仕事の安全
第1節 労働災害
1. 労働災害の基礎
2. 労災保険制度と過労死
第2節 安全と品質に関わる人的要因
1. 事故と人的要因
2. ヒューマンエラーの定義
3. ヒューマンエラーの分類とモデル
4. 違反とリスクテイキング行動
第3節 安全対策
1. ハインリッヒの法則
2. ヒヤリハット分析
3. 適性検査
4. リスクアセスメント
5. 安全マネジメント
第4節 安全文化
COLUMN 8 指差呼称

第11章 仕事の疲労・ストレスと心身の健康
第1節 産業疲労
1. 疲労と休息
2. 労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト
3. 自覚症状しらべと自覚症しらべ
4. 疲労管理
第2節 過労による病気と自殺
第3節 ストレス
1. ストレスとは何か
2. 職務ストレス
3. メンタルヘルスケア
4. ストレスチェック
COLUMN 9 ストレッサーとしてのライフイベント

第12章 作業と職場をデザインする
第1節 作業設計と作業研究
第2節 作業負担
1. 負荷と負担
2. メンタルワークロード
第3節 ヒューマンファクターズ
1. ヒューマンファクターズとは何か
2. SHEL モデル
3. HMIとHCI
4. エラーを防ぐデザイン原則
5. ユーザビリティ
第4節 快適な職場環境
COLUMN 10 ユーザ・エクスペリエンス

第4部 豊かな消費生活―消費者行動部門
第13章 消費者行動への心理学的アプローチとその意義
第1節 消費者行動研究の目的
第2節 消費者行動を理解する枠組み
第3節 消費者行動の研究法
1. 質問紙調査法
2. 面接法
3. プロセス分析法
4. 観察法
5. POSデータ
6. 心理生理学的方法
第4節 消費者行動における研究成果の応用
1. 消費者行動の規定要因(個人差要因)の分析と応用
2. 消費者行動の規定要因(状況要因)の分析と応用
3. 近年の動向
COLUMN 11 店舗内の消費者行動

第14章 消費者の購買意思決定
第1節 消費者の購買意思決定過程とその影響要因
第2節 消費者のブランド選択過程
第3節 選択ヒューリスティックス
第4節 購買後の評価
1 期待不一致モデル
2. 衡平モデル
3. 認知的不協和理論
第5節 購買意思決定と関与
1. 複雑な購買行動
2. 不協和低減型購買行動
3. バラエティ・シーキング型購買行動
4. 習慣的購買行動
COLUMN 12 心理的財布理論

第15章 企業活動と消費者行動
第1節 消費者行動とマーケティング
第2節 消費者行動の規定要因(マスメディアの影響)による効果
第3節 消費者の説得過程
1. 販売場面における消費者の説得過程
2. 説得を規定する心理的要因
第4節 消費者問題と消費者保護
1. 悪徳商法の実例
2.「限定表示」における問題
3. 消費者保護のための消費者研究へ
COLUMN 13 マーケティングの4P

Appendix
Appendix 1 シラバス案
Appendix 2 用語集

文献
索引

金井 篤子 (著, 編集), 小野 公一 (著), 角山 剛 (著), 芳賀 繁 (著), 永野 光朗 (著), 産業・組織心理学会 (その他)
出版社 : 北大路書房 (2019/8/7)、出典:出版社HP

産業・組織心理学 改訂版

実務者にも有用

職場環境、働く人々や消費者の置かれた状況は大きく変貌しています。これに伴い、産業・組織心理学の研究領域や課題も新たな視点から取り組まれてきています。本書は、産業・組織心理学を長年研究してきた著者たちがそれぞれの研究テーマについて執筆しています。難しい内容もわかりやすく解説しているので、初学者にもおすすめです。

小野 公一 (著), 関口 和代 (著), 岡村 一成 (監修), 馬場 昌雄 馬場 房子
出版社 : 白桃書房; 改訂版 (2017/1/27)、出典:出版社HP

まえがき

本書は,産業・組織心理学の現状と課題を纏めたものである。そもそもの発想は学会活動をともにしてきている,中堅,若手研究者達が集まり,われわれの古希を記念して何か一冊の本を出したいということから始まった。

産業・組織心理学も誕生からほぼ一世紀の歴史を持とうとしている。考えてみると,われわれ二人は,そのうちのほぼ半分近くに亘ってこの学問に関わって来たことになる。そのわりには、産業・組織心理学の何たるかを理解したとは言えず,慰愧の念に堪えない感がある。おそらく、この学問の発展の早さ,領域の広さに圧倒されてしまったからであろう。とはいえ,われわれ二人は,まだこの学問から足を洗えず,若しかしたらある時,”EUREKA”と呼べるかもしれないと思い、勉強を続けていく心算である。
そこで,本書も当初の狙いは,この学問に少しでも興味を持った人達の為に,産業・組織心理学の概論書を提供したいというものであったが、出来上がってみると,概論書というより、むしろ研究論文集の様相を呈してしまった感がある。これは,本書の執筆に参加してくれた若手研究者達が、自分達の担当した研究テーマについて、全力投球してくれたからであり,結果として,かなり入門色が薄れてしまったものと考えている。その責任は,あくまでもわれわれ二人にあり、読者諸兄からのご意見、批判をお待ちしたいと考えている。

なお、多忙にも拘らず,本書の編集を引き受けてくれた、亜細亜大学経営学部の小野公一教授,東京富士大学の岡村一成学長には大いに感謝したい。
さらに、本書の出版を快く承諾してくれた、照井規夫氏は、四十年来の友人であり,ある意味では、われわれ二人のご意見番でもある。あらためて深く感謝したい。

2005年5月
馬場昌雄
馬場房子

改訂版まえがき

本書の初版が誕生してから早くも10年余りの歳月が過ぎている。この間,リーマンショックや新自由主義の横行など,わが国の社会経済に大きな影響を与える出来事を受けて職場環境は様変わりし、生活者である働く人々や消費者の置かれた状況は大きく変貌してきている。これに伴い『産業・組織心理学』の研究領域や課題も新たな視点から取り組まれ,新しいセオリーや研究知見が示されるようになった。そこで、本書もそれらに対応できる内容にアップデートする必要に迫られ、改訂版を刊行することになった。
本書の初版は,わが国の産業・組織心理学の創成期に,組織行動と消費者行動という2大領域で多大なご貢献をなされた馬場昌雄先生と馬場房子先生の古希を祝い、ご夫妻の監修によって、当時の産業・組織心理学研究の現状と課題を纏めた概論書として上梓されたものであった。出版後,幸いにも多くの読者を得られ、何度か重版が出来たことは喜びに耐えない。
さて、今回の改訂版では,初版の構成を基にしながらも内容を新しい研究成果を取り入れた15章構成とした。また、執筆者は教職者から人選し,学生に教えることを意識して、学ぶ者の理解を促進するテキストという色彩の強いものに変えることを意図して企画された。
なお、本書の編集にあたっては,馬場先生ご夫妻の薫陶を受けた亜細亜大学の小野公一教授と東京経済大学の関口和代教授にお願いした。ご多忙にもかかわらず、大変な編集作業をお引き受けいただいたことに心から感謝申し上げる次第である。
さらに、本書の出版を快くご承諾され、ご尽力いただいた白桃書房の平千枝子編集長に厚くお礼を申し上げたい。
最後に、本書の監修者であり、産業・組織心理学界の重鎮であった馬場昌雄先生が2013年9月にご逝去された。謹んで哀悼の意を表し、心からご冥福をお祈りする。合掌
2016年12月
岡村一成

小野 公一 (著), 関口 和代 (著), 岡村 一成 (監修), 馬場 昌雄 馬場 房子
出版社 : 白桃書房; 改訂版 (2017/1/27)、出典:出版社HP

目次

まえがき
改訂版まえがき

第1章 産業・組織心理学:定義と歴史
第1節 産業・組織心理学の定義・歴史・課題
第2節 組織の定義と組織観
1 古典的組織観(機械的閉鎖システム観)
2 現代的組織観(有機的開放システム観)
第3節 組織の有効性
第4節 組織と環境との相互作用

第2章 コミュニケーション
第1節 コミュニケーションとは
1 対人コミュニケーションの成り立ち
2 言語的コミュニケー ション―非言語的コミュニケーション
3 低コンテキスト文化と 高コンテキスト文化
4 垂直的コミュニケーションと水平的コミュニケーション
第2節 コミュニケーションとチームパフォーマンス
1 コミュニケーション・ネットワーク
2 組織システムとコミ ュニケーション
3 チーム・メンタルモデル
4 対人交流型記憶(トランザクティブ・メモリー)
第3節 組織のコミュニケーションに影響を与える要因
1 多数派への同調行動
2 集団極性化現象
3 集団思 考
4 ホイッスル・ブローイング

第3章 モティベーション
第1節モティベーションの背景
1 モティベーションとは
2 モティベーションの特徴
3 欲求
第2節 期待とモティベーション
1 達成への期待
2 道具性期待理論
3 効力感期待
第3節 目標とモティベーション
1 具体的で高いレベルの目標が持つ効果
2 フィードバックの 効果
3 目標設定への参加の効果
4 高業績サイクル・モデル
第4節 内発的モティベーション
1 内発的モティベーションとは
2 内発的モティベーションの 命題
3 外発的モティベーションは有害か
4 フロー体 験

第4章 コミットメント
第1節 コミットメントとは
1 コミットメントの意味するもの
2 コミットメントを考える意義
第2節 組織コミットメント
1 組織コミットメントを考える意義
2 組織コミットメントの捉え方
3 組織コミットメントがもたらすもの(結果)
4 組織コミットメントを高めるもの(原因)
5 組織で働く人の組織コミットメントのあり方
第3節 職務関与とキャリア・コミットメント
1 職務関与とは
2 職務関与の結果と原因
3 キャリ ア・コミットメントとは
4 キャリア・コミットメントの結果と原因
第4節 コミットメントの全体像

第5章 職務満足感
第1節 職務満足感とは
1 定義
2 職務満足感の捉え方
第2節 職務満足感に影響を与える要因
1 動機づけ―衛生要因理論
2 職務満足感に影響を与える要因
第3節 職務満足感が影響を与える要因
1 生産性・業績との関係
2 定着意思・コミットメント↔︎離・転職,欠勤との関係
3 職務満足感と生活満足感の関係
第4節 まとめ

第6章 募集・採用と適性
第1節 採用計画と募集
1 採用計画
2 雇用形態
3 募集活動
第2節 職業適性と採用試験
1 職業適性とは何か
2 企業の求める職業適性
3 職業適性検査の種類
4 採用試験
第3節 採用面接
1 採用面接のねらい
2 採用面接の方法

第7章 評価と処遇
第1節 人事考課
1 評価目的
2 評価要素
3 評価方法
4 考課者とバイアス
第2節 アセスメント
1 人事考課との違い
2 アセスメント・センター方式
第3節 日本の評価制度
1 職能資格制度
2 成果で評価する制度
3 プロセスで評価する制度
第4節 配置・異動
1 配置の日米比較
2 日本企業における異動
3 配置先を従業員が選ぶ制度

第8章 キャリア形成
第1節 人材育成
1 人材育成の三本柱
2 人材育成の変化
第2節 キャリア
1 キャリアとは
2 キャリア形成
第3節 キャリア支援
1 メンタリング
2 キャリア・カウンセリング

第9章 リーダーシップとフォロワーシップ
第1節 なぜリーダーシップが問われるのか
1 リーダーシップの定義
2 リーダーの影響力と有効性
3 リーダーシップとマネジメント
第2節 リーダーシップ研究の歴史的変遷と理論
1 特性論
2 行動論
3 コンティンジェンシー理論
4 交換理論
5 変革型リーダーシップ
6 倫理的リーダーシップ
第3節フォロワーシップ
1 フォロワーの役割に関する理論
2 構築主義の理論

第10章 職場におけるメンタルヘルス
第1節 ストレス
1 ストレスとは
2ストレス理論
第2節 仕事ストレスモデル
1 仕事の要求度―コントロール(―サポート)モデル
2 NIOSH モデル
3 努力―報酬不均衡モデル
第3節 職場におけるメンタルヘルスマネジメント
1 日本における歴史的経緯
2 職場におけるメンタルヘルスマ ネジメント
3 職場におけるメンタルヘルスマネジメントの新 しい潮流

第11章 人間関係
第1節 はじめに:なぜ人間関係が重視されるのか
第2節 産業場面における人の発見:ホーソン実験と人間関係管理
1 ホーソン実験
2 人間関係管理の成立
3 人間関係管理の内容
第3節 人間関係が仕事や組織に与える影響:負の影響としてのハラスメント
1 ハラスメントの定義と種類
2 パワーハラスメント
3 セクシュアル・ハラスメント
4 ハラスメントまとめ
第4節 組織における私的な人間関係:仕事や組織に与えるプラスの側面
1 ソーシャル・サポート
2 ソーシャル・キャピタル

第12章 人間工学とリスクマネジメント
第1節 人間工学
1 エルゴノミクスとヒューマンファクター
2 安全工学設計
3 本質安全
4 ユニバーサルデザイン
第2節 リスクマネジメント
1 リスクの定義
2 リスクマネジメント
3 エラーマネジメント
第3節 ヒューマンファクター
1 ヒューマンファクターモデル
2 ヒューマンエラーの分類
3 事故分析手法
第4節 組織の安全文化
1 安全アプローチの変遷
2 組織事故
3 安全文化
4 高信頼性組織

第13章 職務分析と作業研究
第1節 職務分析
1 職務とは
2 職務分析
3 職務分析の方法
4 職務分析を行う際の手順と留意点
第2節 作業研究の展開:作業研究・作業分析とその方法
1 作業研究
2 さまざまな作業研究手法
第3節 現代の雇用情勢から考える職務分析と作業研究の活用(相互併用)について
1 職務分析と作業研究の併用による活用
2 おわりに:現代の 雇用情勢からみる職務分析・作業研究の役割

第14章 消費者心理学
第1節 消費者心理学の定義・歴史・課題
第2節 消費者行動の複雑性と消費者行動のモデル
1 消費者行動の複雑性
2 消費者行動のモデル
第3節 消費者の心理的要因に関する理論
1 消費者の動機づけに関する理論
2 消費者の知覚(認知)に 関する理論
3 消費者の学習・記憶に関する理論
4 消費者の態度と態度変容に関する理論
第4節 消費者を取り巻く環境の変化と消費者の顕在的行動
1 自然的環境・物理的環境
2 企業的環境
3 政治 的環境
4 経済的環境
5 社会的環境
6 文化的環境:文化と下位文化
7 その他の環境
第5節 消費者行動の研究方法
1 情報の収集
2 情報の記述と分析
3 情報の解釈 と洞察
4 行動の予測
5 アイディアの提案と実行

第15章 消費者心理学の応用
第1節 消費者の心理と行動
1 学際的な消費者行動研究
2 マーケティングにおける消費者行動研究の応用
第2節 インターネット普及による消費者行動の変化
1 インターネットがもたらした影響
2 購買行動の多様化
3 購買プロセスの変化
第3節 色と消費者心理
1 色彩研究注目の背景
2 色が消費者心理に与える影響

参考文献
改訂版あとがき
事項索引
人名索引

小野 公一 (著), 関口 和代 (著), 岡村 一成 (監修), 馬場 昌雄 馬場 房子
出版社 : 白桃書房; 改訂版 (2017/1/27)、出典:出版社HP

経営とワークライフに生かそう! 産業・組織心理学 改訂版 (有斐閣アルマ)

充実したワークライフのために

産業・組織心理学は、産業活動に従事する人々、そして組織に関わる心理学の分野であり、多様な研究領域によって構成されています。本書では、効率的な組織運営を行い、充実したワークライフを送るために重要なことを学ぶことができます。ワークライフを経験したことのない学生にとっても理解しやすい内容となっています。

山口 裕幸 (著), 髙橋 潔 (著), 芳賀 繁 (著), 竹村 和久 (著)
出版社 : 有斐閣; 改訂版 (2020/3/12)、出典:出版社HP

改訂にあたって

本書の初版第1刷が刊行された2006年4月から14年余りが過ぎました。たくさんの方々が読んでくださったお陰で、ありがたいことに改訂版のご要望をいただきました。初版刊行当時は各領域で熱く研究に取り組んでいたわれわれ4人の著者が、学生だけでなく、ビジネスパーソンにも広く読んでいただける内容を心がけて、わかりやすくかつ本格的な書を目指して執筆したのが本書です。その思いは、初版の「はじめに」に記してありますのでご覧いただけると幸いです。
改訂版のお誘いにそろそろベテランの域に入ってきた4人は、感謝の気持ちをもちつつも、正直なところ少しためらうところもありましたが、もう一踏ん張り頑張ってみようということになりました。改訂版なのだから、加筆・修正の箇所は必要最低限にしましょう、ということだったのですが、いざ筆を入れはじめると、さまざまな研究のトピックやテーマにおいて進歩や入れ替わりもあって、想定していたよりも多くの加筆と削除、そして修正を行うことになりました。
初版と比べて変わりのないところは、時代を超えて本質的に大切な内容なのであり、加筆・修正がなされているところは、時代や社会の変化に応じて産業・組織心理学の研究が適応的変化を進めたことがらなのだとご理解いただけるとありがたいです。初版をおもちの方には、その本質と変化をご確認いただきながら、読み進めるおもしろさを味わっていただくこともできるのではないかと思います。今回の改訂作業を進めるにあたって、有斐閣書籍編集第2部の渡辺晃さん、中村さやかさんには、献身的で真摯なサポートをいた。きました。少し尻込みしそうになるわれわれを力強く後押ししてくださいました。心より深くお礼申し上げます。
2020年 令和初めての啓蟄を迎えながら
著者一同

本書のWebサポートページ(下記)で各種補足資料を紹介しております。ぜひご利用ください。
http://www./yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641221543

はじめに

産業・組織心理学(industrial/organizational psychology: IOPsych, IOM)を学ぶことの意義はどんなところにあるのでしょうか。学校に通いながら勉強を中心とした生活を送った後には、多くの人が、組織に所属したりあるいは組織を経営したりしながら仕事に従事するワークライフを長期にわたって送ることになります。その長期にわたるワークライフを充実したものとできるか否かは、私たちにとって大切な問題です。本書は、私たちが充実したワークライフを送り、またその基盤となる組織経営を効果的なものとするために、どんなことが重要な鍵を握るのか、という観点に立って企画し、構成しました。
産業・組織心理学は、産業活動に従事する人々、そして組織体に関する心理学の分野であり、多様な研究領域によって構成されています。その研究領域について、わが国の産業・組織心理学会は、大きく4つの分野に分類しています。それは、①組織に所属する人々の行動の特性やその背後にある心理、あるいは人々が組織を形成し、組織としてまとまって行動するときの特性について研究する「組織行動」(organizational behavior : OB)の領域、②組織経営の鍵を握る人事評価や人事処遇、あるいは人材育成について研究する「人的資源管理」(human resource management ; HRM)の領域、③働く人々の安全と心身両面の健康を保全し、促進するための方略について研究する「安全衛生」(safety and health ; SH)の領域、そして、④よりすぐれたマーケティング戦略に生かすべく消費者心理や宣伝・広告の効果を研究する「消費者行動」(consumer behavior ; CB)の領域です。
本書では、各領域をその専門家である1人の著者が担当し、冒頭で示した基本方針に沿って、担当領域における重要なテーマを精選し、内容を構成しました。できるだけ長く読んでいただけるように、時代を超えて重要な問題を取り上げて、解説することを心がけました。そして、それらを全体として統合することによって、ワークライフと経営に生かせる産業・組織心理学の理論と知見を体系的にまとめあげた著書として編みあげることを試みました。ワークライフを本格的に経験していない学生にとっては、産業・組織心理学は、いまひとつ現実感の伴わない学習領域であることを考えて、組織に所属しはじめた時点から、人は実際に何を経験するのかと、という実践的な視点を大切にしようという共通の目標をもって執筆に取り組みました。他方、現にワークライフを送っているビジネス・パークンの方々にとっても、多様な要素が渦巻く混沌とした現実のワークライフの様相を、シンプルに客観的に把握するための視点と、その基盤となる理論を提供するものとなることを目指しました。はたして、私たち著者の願いが、形となって伝わるものになっているのかは、読者のみなさまのご批評を仰がねばなりません。みなさまからのご意見やご希望をお待ちしております。

本書の企画・編集には、櫻井堂雄氏をはじめとして有斐閣のみなさまの献身的なご支援をいただきました。とりわけ櫻井さんの我慢強いサポートには著者一同敬服しており、おかげでなんとかここでたどり着くことができました。心より深く感謝申し上げます。

2006年2月
著者一同

本書の構成と章の流れ

矢印で示した章の流れは、第8章までは、学生が就職活動をして、職に就き、組織で働いていくワークライフのプロセスを展望しながら構成しています。第9章以降は、マーケティングや空間・機器等のデザインのように、心理学との関連が強く、産業分野で非常に重要なテーマを取り上げています。4つの領域をクロスしながら章は展開されていますが、各章がどの領域に深く関連するものなのか、この図で確認しながら読み進めてみてください。

著者紹介

山口 裕幸(やまぐち ひろゆき) 執筆:第2章、第3章、第7章
九州大学大学院人間環境学研究院教授
[主著]『《先取り志向》の組織心理学プロアクティブ行動と組織』有斐閣、2012年、共編/『高業績チームはここが違う一成るために必要な三つの要素と五つの仕掛け』労務行政、2016年、共著/『チームワークの心理学一よりよい集団づくりをめざして』サイエンス社、2008年

高橋 潔(たかはし きよし) 執筆:第1章、第6章、第8章
立命館大学総合心理学部教授、神戸大学大学院経営学研究科名巻
[主著]『「就活」イノベーション―脱・母集団形成と面接重視』2015年(オンライン書籍)/『評価の急所(へそ)ーパラダイムシフト迎える人事評価』生産性労働情報センター、2013年/『Jリーグの行動科学――リーダーシップとキャリアのための教訓』白桃書房、2010年、編著/『人事評価の総合科学一努力と能力と行動の評価』白桃書房、2010年(日本労務学会学術賞)

芳賀 繁(はが しげる) 執筆:第4章,第5章,第12章
株式会社社会安全研究所技術顧問、立教大学名誉教授
[主著]『事故がなくならない理由(わけ)安全対策の落とし穴』PHP研究所、2012年/『失敗のメカニズム忘れ物から巨大事故まで』日本出版サービス、2000年(文庫版:角川書店,2003年)/『うっかりミスはなぜ起きるヒューマンエラーを乗り越えて』中央万働災害防止協会、2019年

竹村 和久(たけむら かずひさ) 執筆:第9章,第10章,第11章
早稲田大学文学学術院教授
[主著]『行動意思決定論経済行動の心理学』日本評論社、2009年/Behavioral decision theory : Psychological and mathematical descriptions of human choice behavior.Springer,2014./Foundations of econic psychology : A behavioral and mathematical approach.Springer、2019

山口 裕幸 (著), 髙橋 潔 (著), 芳賀 繁 (著), 竹村 和久 (著)
出版社 : 有斐閣; 改訂版 (2020/3/12)、出典:出版社HP

目次

第1章 採用と面接
就職活動では何が問われているのか
就職活動で問われること
1人間の能力とは
能力単一説
能力群因子説
能力多因子説
知能と職業との関係
2パーソナリティと仕事の向き・不向き
パーソナリティの類型理論
パーソナリティの特性理論
パーソナリティのビッグファイブ理論
3面接の落とし穴
実務家vs学者
面接評価の誤り

第2章 ワーク・モチベーション
やる気いっぱいで働くには
1ワーク・モチベーション研究の重要性
2ワーク・モチベーションに関する初期研究
科学的管理法の発展
ホーソン研究がもたらした視点の転換
行動科学的アプローチの登場
3内容理論的アプローチ
マクレランドの達成動機理論
ERG理論
内発的動機づけ
4過程理論的アプローチ
過程理論の視点
アトキンソンの達成動機理論
期待価値モデル
目標設定理論
公正理論
5仕事や職場に対する態度とワーク・モチベーション
職務満足感
組織コミットメント

第3章 組織の情報処理とコミュニケーション
正確な情報共有と組織の的確な判断のために
1組織経営においてコミュニケーションが果たす機能
組織とは
組織コミュニケーションの重要な局面
2組織における情報伝達場面のコミュニケーション
組織における情報伝達の特性
情報伝達が正確に成立するには
ITによる組織の情報共有の取り組みとその成果
3コンフリクト調整場面のコミュニケーション
組織コンフリクトとは
コンフリクトがもたらすもの
コンフリクトを克服し生かすコミュニケーション
4集団意思決定場面のコミュニケーション
組織における会議の機能
集団意思決定過程に潜む心理的罠
合議による的確な判断と創造的な問題解決のために

第4章 仕事の能率と安全
生産性と安全性は両立するのか
1仕事のやり方を決定し,改善する手法
作業設計,作業研究,時間研究
動作研究と動作経済の法則
2わが国の労働災害の現状
3ヒューマンエラーと不安全行動
ヒューマンエラーとは何か
ヒューマンエラーの分類と発生メカニズム
意図的な不安全行動
4事故防止対策
職場での取り組み
ハインリッヒの法則
リスク・アセスメント
安全管理のための適性検査
安全マネジメントシステム
5安全文化
6ヒューマンファクター
7レジリエンス・エンジニアリング

第5章 職場の快適性・疲労・ストレス
毎日健康に働くために
1ワークロード
作業負荷・作業負担・疲労の関係
作業負担の測定法
2疲労とストレス
疲労の自覚症状
精神的ストレスによって損なわれるメンタルへルス
厚生労働省の指針に基づく取り組み
ストレスチェック
3職場環境・

第6章 キャリアの展開と生涯発達
人生をどう歩むか
職業探しは自分探し
1キャリア発達の筋道
キャリアとは何か
エリクソンのライフサイクル論
スーパーのキャリア・ステージ論
2自分のキャリアに誰が責任をもつか
キャリアは誰のため?
シャインのキャリア・アンカー論
キャリア・マネジメントvsキャリアプランニング
3組織の中でのキャリアの行方
役職面でのキャリア発達
資格面でのキャリア発達
4組織の外でのキャリア

第7章 組織の変革と管理者のリーダーシップ
組織やチームを健全な成長へと導くには
1組織変革は何ゆえに重視されるのか
オープン・システムとしての組織
組織のライフサイクル
組織変革に不可欠な管理者のリーダーシップ
2管理者の役割の理解
なぜ組織には管理者が必要なのか
管理者の役割行動とリーダーシップの関係
3リーダーシップの理解
リーダーシップの定義
特性アプローチから行動アプローチへ
コンティンジェンシー・アプローチへ
認知的アプローチの台頭
変革型リーダーシップとは
4創造的な組織変革のために
どちらも必要な交流型と変革型
多様化するリーダーシップの考え方

第8章 人事評価
公平な評価のために考えるべきこと
1組織で何が評価されるのか
評価基準に関わる根本問題
評価の仕組み
2絶対評価か相対評価か
絶対評価法
相対評価法
絶対評価と相対評価の比較
3評価にミスとズルが起きないために
ハロー効果
中心化傾向
寛大化・厳格化
類似性効果

第9章 消費者行動
消費者心理がわかったら何の役に立つのか
1消費者行動とは
消費者行動の定義
消費者行動の3つの側面
2消費者行動の仕組みがわかると何の役に立つのか
マーケティングに役立つ
消費者の役に立つ
社会経済現象の解明に役立つ
3消費者行動の理論枠組みと研究法
モチベーション・リサーチ
態度研究
情報処理論的研究
ポストモダン研究

第10章 消費者の価格判断と心的会計
「安い」「高い」とどうして思うのか
1消費者の価格判断
価格判断とは
消費者の価格推定
消費者の価格判断と
心理物理学
2参照価格とプロスペクト理論
参照価格とは
参照価格とプロスペクト理論
損失忌避から導ける価格判断現象
3消費者の心的会計
心理的財布
心的会計
快楽追求的フレーミング

第11章 消費者の意思決定過程
消費者はどんな決め方をしているのか
1消費者の意思決定と情報探索
消費者の情報探索のタイプ
消費者の情報探索の状況
2消費者の種々の決定方略
情報探索と選択肢評価
決定方略とは
消費者の決定方略の種類
消費者の決定方略の分類
消費者の決定方略をどのようにして同定するのか
3購買環境と消費者の意思決定過程
情報過負荷と消費者の決定方略
消費者の決定方略と関与・感情
消費者の店舗内での意思決定
店舗内消費者行動に影響する要因
消費者の非計画購買
4消費者の意思決定後の過程
認知的不協和理論
認知的不協和と消費者行動

第12章 人間工学
ヒトの特性とモノのデザイン
1ヒトのサイズとモノのサイズ
2ヒトとモノの接点――ユーザー・インターフェイス
表示器と操作器
ヒトとコンピュータのインターフェイス
3人間工学的によいデザインの要件
4取扱説明書と警告表示
よいマニュアルの条件
リスク・コミュニケーションとしての警告表示
引用・参考文献
事項索引
人名索引

本書のコピー、スキャン、デジタル化等の無断複製は著作権法上での例除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンパデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用でも著作権法違反です。

山口 裕幸 (著), 髙橋 潔 (著), 芳賀 繁 (著), 竹村 和久 (著)
出版社 : 有斐閣; 改訂版 (2020/3/12)、出典:出版社HP

産業・組織心理学エッセンシャルズ【第4版】

最新の研究動向もわかる

日本だけではなく、世界でさまざまな事柄が大きく変化し続けています。その激しい変動の影響を受ける分野が、組織経営と人間行動との関連、社会生活と人間行動との関係などを研究する産業・組織心理学です。本書では、産業・組織心理学の理論的な研究をわかりやすく解説し、新視点や研究動向まで紹介していきます。

外島 裕 (監修), 田中 堅一郎 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版; 第4版 (2019/4/30)、出典:出版社HP

はしがき

『産業・組織心理学エッセンシャルズ』の初版は、ミレニアム2000年紀の4月に出版いたしました。その後「増補改訂版」「改訂三版」と改訂を工夫してまいりましたが、このたび「第4版」を編集いたしました。
初版より約20年が経過いたしました。おかげさまで、この間、基本的な文献として、多くの研究者、学生の皆様、および実務家の方々に、評価をいただいてきました。
本書では、当初より2つの試みを企画しています。1つは、理論的な研究をしっかりとふまえた上で、これらを応用し実践していくきっかけとなるように、わかりやすく説明することを心がけています。もう1つは、学会内で比較的評価の定まった重要な概念をきちんとおさえた上で、新しい視点や研究動向などにふれることを意識しています。

無論、産業・組織心理学領域の研究の広がりと深化は、日々進展しています。経営環境の変化に対応するための経営の課題解決、組織を構成する一人ひとりの心的過程の理解と支援には、研究成果の適切な実践が期待されます。本書を、それらの手掛かりのひとつとして位置づけていただき、さらに関連する論文や文献を検討いただければと思います。
私たちが生活している日本の社会のみならず、世界では、さまざまな事柄が大きく変化し続けています。その激しい変動の影響を受けざるをえない、一人ひとりの尊厳と自律と幸せを、産業・組織心理学の研究と実践を通して、いかに実現していくことができるでしょうか。組織経営と人間行動との関連、社会生活と人間行動との関連など、一時的な言説の傾向に惑わされることなく、本質的な視点から、洞察を続けたいものです。

そのためにも、従来から関係の深い組織行動論や人的資源管理論のみならず、産業臨床心理学からの知見、コミュニティ心理学からの知見、さらには、経営学、経済学、社会学、法学などからの学際的なアプローチも期待されるでしょう。本書に接していただいた研究者の方々、研究を志している学生の皆さん、実務家の方々との意見交換、ご助言が不可欠です。今後とも、ご支援をお願い申し上げます。
このたびの「第4版」への改訂にあたり、多くのご示唆をいただきました学会の諸先生方、実務家の方々に感謝申し上げます。特に、今まで親しくご教示いただいた、産業・組織心理学会、経営行動科学学会、日本応用心理学会の皆様にお礼申し上げます。
また、今回の企画をご理解くださり、編集の労をとっていただいた宍倉由高氏はじめ、ナカニシヤ出版編集部の皆様にお礼を申し上げたいと思います。

2019年4月
外島 裕
田中 堅一郎

外島 裕 (監修), 田中 堅一郎 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版; 第4版 (2019/4/30)、出典:出版社HP

目次

はしがき
❶仕事への動機づけ
1.動機づけとは
2.歴史的背景
3.内容理論
4.職務満足
5.過程理論
❷人事評価制度
1.人的資源管理と人事評価
2.人事評価
3.教育訓練
4.職務システム
5.報酬システム
❸人事測定の方法
1.職業適性と個人差の把握
2.職業適性検査の構成と種類
3.心理検査の標準化
4.行動の評価
❹職場の人間関係と意思決定
1.集団
2.集団での課題遂行
3.組織における意思決定
❺職場のリーダーシップ
1.特性アプローチ
2.行動アプローチ
3.状況適合的アプローチ
4.相互作用的アプローチ
5.認知的アプローチ
6.リーダーシップ論のトレンド
❻職場のストレス
1.ストレスとは何か
2.職場のストレスを説明するモデル
3.職場のストレス要因
4.ストレス反応
5.ストレス反応に影響を与える個人要因と他者からの支援
6.組織によるストレスへの対応
❼組織における協力と葛藤
1.組織における協力(その1):組織における向社会的行動
2.組織における協力(その2):忠誠か、それとも反逆か
3.組織における葛藤(その1):その種類と原因、そして結果
4.組織における葛藤(その2):葛藤解決の方略
❽ヒューマンエラー
1.ヒューマンエラーとは何か
2.ヒーマンエラーのメカニズム
3.ヒューマンエラー事故発生のモデル
4.ヒューマンエラー事故の対策
❾キャリアの発達とその開発
1.キャリアとそれを取り巻く環境
2.キャリアの理論
3.キャリア形成に必要な能力
4.自律的キャリアの開発支援
5.キャリアトランジション
❿売り手と買い手の心理学
1.要請技法と悪徳商法
2.消費者調査とその分析
3.広告効果と広告情報処理
4.さまざまな広告
特論1 心理学で用いられる統計の基礎知識ガイド
特論2産業・組織心理学史
1.アメリカ
2.日本
3.産業・組織心理学 略年表

参考文献
索引

トピックス目次
報酬と動機づけ
ワーク/ノンワークの理論
印象形成の実験研究
プロスペクト理論
リーダーの発達
組織市民行動を規定する要因と、それが従業員にもたらす影響
レジリエンス・エンジニアリング
単純接触効果と低関与学習理論

外島 裕 (監修), 田中 堅一郎 (編集)
出版社 : ナカニシヤ出版; 第4版 (2019/4/30)、出典:出版社HP