貧困の経済学(上・下) – 世銀研究部門で積み重ねらられた業績とともに

貧困の経済学(上・下) マーティン・ラヴァリオン著

【開発経済学おすすめ本、教科書 – 入門から最先端まで】も確認する

筆者のマーティン・ラヴァリオンは現在、ジョージワシントン大学で教鞭とりつつ、それまでは世界銀行のチーフエコノミストとして発展途上国の貧困研究に携わってきました。世銀にも退職の年齢があるためポジションを大学にうつしており、現在は教育分野での活動でも力をいれております。

大学での授業・講義から、また自身の研究を編纂したものが本書、貧困の経済学(Economics of poverty: History, measurement and policy)となります。この辺りの経緯にはCenter for Global Developmentでのブックラウンチでのコメントの方で、「Ph.D (大学生)ある意味教えるのは楽だが、Undergraduates (学部生)を教えるのは難しい 」とのことも話されており、教鞭をきっかけにこの書が生まれたようです。(参照:下記の3:10〜)

本書は原書では英文字600ページに詳述されており、邦訳の本書でも上巻 480ページ、下巻508ページでの大作で、貧困層が貧困線から上回ることの所得を得られれば貧困を脱出できるといった簡単なことでは語ることができないと分かります。

目次は下記の通りとなります。

第1部 貧困の思想史
第1章 貧困のない世界という考えの起源
第2章 貧困に関する1950年以後の新たな論調

第2部 貧困の測定と評価
第3章 厚生の測定
第4章 貧困線
第5章 貧困・不平等指標
第6章 インパクト評価

第3部 貧困と政策
第7章  貧困と不平等の諸側面
第8章  経済成長、不平等、貧困
第9章  経済全般および部門別の政策
第10章 ターゲティングを伴う介入
終章   これまでの進展と今後の課題

第1部について
ラヴァリオンのこれまでの業績として言えば第1部のところのいわゆる世界の“貧困史”といえるパートは意外かもしれません。これまで氏はいわゆる定量的な側面に当てた研究に従事していたため哲学的なパートも要する第1部は新鮮です。

貧困の考え方が時代・国々の違いでどのように変貌してきたのか – 貧しい人々がなぜ貧しいのか、貧しい人々が貧しいままでいることが避けられないのか、貧困の存在は何の問題であるのかなど、何百年にも及ぶ貧困についての見方を追っています。そして時代とともに貧困について人類が何をするべきであるか考えてきた歴史を学べます。

時代によっては、貧困はあるべきものであったとの解釈もでてきます。それは持てるもの(富裕層)と持てないもの(貧困層)が当たり前にある「自然の秩序」である時もあったのです。

また貧困政策も初期は、その貧困層の厚生や福祉の向上の為という視点ではなく単に富裕層の関心事(疫病、犯罪、暴動の阻止)といった間接的な側面から行われてきました。そのように消極的に行われていた貧困政策が、そのような状況下でいる人達に提供するということから、今度は積極的な関与であったり、貧困絶滅の恒常的な政策の変化も強調されています。

またここでは何も途上国だけでなく先進国でのトピックにも触れております発展途上国の焦点に加えて、これまでのアメリカの貧困問題とイギリスの歴史的アプローチについての議論もあります。

第2部について
第1部からの貧困史から次の第2部は、貧困についての測定について言及されています。貧困や不平等の分析に用いられる指標や方法に焦点を当て、貧困への考察を考える上で、何を貧困と呼べばよいのかという議論から始まります。章別このセクションの最初の章では定性的方法の使用を含む一連のアプローチを概説しています。

ここではセクションでは測定の「なぜ」と「いかに」についてさらに深く掘り下げられています。貧困の測定に関心が持たれるのは、進捗のモニタリングと目標の設定とターゲッティングと政策評価の役割がおおきいからであり、国連などが掲げる目標もミクロの土台で言えば、このような測定があってと言えます。

第3章では、どのように「厚生(welfare)」を測定するかをより詳しくみて(この辺りは初級のミクロ経済学の効用関数の考え方が必要です),
そこでは、(現在もなお議論がなされる)さまざまな争点を含め、重要な概念について説明されています。

第4,5章では、多くの経済厚生指標についての調査に基づく情報を、どのように集計して貧困および不平等に関する要約統計量を得るか、の問題を取り上げられています。どのように貧困線を設定するかと、集計された指標の作り方とその指標がどのような特性を持つのかの研究の紹介の流れで、様々な指標がある中でこの指標を使うと何が分かるのか(分からないのか)多くの議論がここでもあります。第6章では、貧困に対する政策のインパ クトを評価する際の問題と実際に用いられている方法についてレビューされています。。

第3部について
政策に関する本の最後の部分では、世界中の貧困動向の概要と、貧困に取り組むためのさまざまなアプローチを巡るサーベイとなっております。途上国のジェンダーへの諸問題から、都市・環境政策、学校教育、最低賃金、そしてキャッシュトランスファーなどのそれぞれの政策でのこれまでのあり方、進展そして課題を確認することができます。

本書は、かなりの大作になるので、トピック事で調べたいことを章立てで確認しても良いかもしれません。読者としても大学学部で貧困・開発へ興味をもった学生から、既に長年に渡って援助機関・関係所属で携わっている方にもこれらのトピックはとても有意義なものとなるはずです。

マーティン・ラヴァリオン (著), 柳原 透 (監修, 翻訳)
出版社: 日本評論社 (2018/9/18)、出典:amazon.co.jp