【最新】コミュニティデザインについて学ぶためのおすすめ本 – 地域活性化のためのアイデアがわかる

コミュニティデザインとは?何が実現できる?

持続可能な地域づくりをするためには、コミュニティを活性化させる必要があります。そんな中で人がつながる仕組み作りであるコミュニティデザインを学ぶことが、自分たちの力でよりよいまちを作り上げていくための1つの方法と言えます。ここでは、地域が抱える問題解決のためのコミュニティデザインについて学ぶためにおすすめの本をご紹介します。

ランキングも確認する
出典:出版社HP

地域を変えるデザイン ― コミュニティが元気になる30のアイデア

地域を元気付けるアイデアが詰まった一冊

近年、災害による被害や人口減少など様々な問題を抱える地域が日本各地に増えてきています。本書ではそのような問題を様々なデータを元に正面から見つめ直し、解決するためのアイデアが紹介されています。現状の課題に対するヒントを学ぶことができます。

issue+design project (著),筧 裕介 (監修)
出版社 : 英治出版 (2011/11/28)、出典:出版社HP

この本は縦書きでレイアウトされています。また、ご覧になる機種により、表示の差が認められることがあります。

はじめに―本書におけるデザインとは

私たちは、デザインという行為を以下のように定義しています。
▼問題の本質を一挙に捉え、そこに調和と秩序をもたらす行為
▼美と共感で多くの人の心に訴え、行動を喚起し、社会に幸せなムーブメントを起こす行為
この書籍の企画が固まり、執筆を始めたばかりの2011年3月。マグニチュード9.0の日本観測史上最大の巨大地震が東北地方を襲いました。波高10メートル以上の大津波が発生し、死者・行方不明者は2万人にのぼる未曾有の人的被害をもたらしました。エネルギー自給率4%の国を支えてきた原子力発電所の事故が続きました。
東京大学の前総長・小宮山宏氏が述べた「日本は課題先進国である」という言葉がこれほど説得力を持つ時は過去になかったのではないでしょうか。

こういう時代、今の日本に求められるのが、社会に幸せなムーブメントを起こすデザインです。

震災の被害を受けた自治体の多くは人口数千人から数万人の小規模な市町村です。被災地の自治体をはじめ、地方の中小規模の自治体はこれまで首都圏・阪神圏などの大都市圏の自治体の一足先に、さまざまな課題に直面
してきました。
人口減少という言葉は、中山間・離島地域では数十年前から言われていた過疎化の言い換えです。65歳以上の高齢者が過半数を占める地域も多数存在します。地域経済を支える産業は衰退し、嫁不足、医師不足は深刻です。
こうした問題に一足先に挑戦し、厳しい財政状況の中で知恵を絞り、住民の気持ちを動かし、解決策を実践している地域が多く見られます。
そんな地域が実践している美しい解決策、それが「地域を変えるデザイン」です。

私たちはこうした地域から学ばなければなりません。学んだことを即座に実践しなければなりません。被災地をはじめ、深刻な課題に直面している地域にデザインの力を差し伸べなければなりません。
本書は、そのために必要な3つの要素で構成されています。
パートIでは、地域が直面している社会イシューをわかりやすいデータで紹介します。地域が抱える問題の本質を捉える第一歩の基礎知識として役に立つでしょう。
パートⅡでは、その解決に挑んでいるデザイン事例を紹介します。事例の中には、他の地域でも転用・応用可能なデザインの発想やアウトプットが多数あるでしょう。
パートⅢでは、「地域を変えるデザイン」を実践するために必要なデザインの思考プロセス、デザインの推進役となる地域コミュニティ、行政に関する考え方を提案します。地域が変わるためには、地域の住民そして行政が変わらなければなりません。そのための方法論です。

厳しい時代環境はまだまだ続きます。しかし、生活者を幸せにする美しいデザインが、日本中に次々と生まれれば、日本は、地域は変わるはずです。この書籍が、地域の課題に悩み解決策を模索している皆様の取り組みに少しでもお役に立つことがあれば幸いです。
最後になりましたが、東日本大震災の被害を受けた地域の一刻も早い復旧・復興を心からお祈りしております。私たちも阪神・淡路大震災の教訓を活かしたデザインプロジェクトを通じて微力ながら被災地の復興に向けて、尽力していくつもりでおります。

著者を代表して
issue + design project寛裕介

issue+design project (著),筧 裕介 (監修)
出版社 : 英治出版 (2011/11/28)、出典:出版社HP

 

地域を変えるデザイン
目次

はじめに―本書におけるデザインとは
PARTI
地域を変えるキーイシュー20

1気候変動
2地震
3エネルギー
4食料自給
5森林
6ものづくり
7人口減少
8高齢化
9人口密度
10多世帯化
11コミュニティ
12結婚・出産
13育児
14子どもの心と体
15経済格差と雇用
16外国人
17犯罪
18医療・介護
19自殺
20生活習慣病

PARTII
地域を変えるキーデザイン30

SECTIONⅰ
日常を発掘するデザイン

割りから始まる中山間地域循環システム
1和RE箸(岡山県西粟倉村、岐阜県高山市他)
島外の視点を活かし、「島の日常」を観光資源に
2探られる島・家島(兵庫県姫路市)
労働と体験を交換する「少人数ずつ受け入れる旅」
3半泊景観保全プロジェクト(長崎県五島市)
奥にしまわれたモノに光を与える雑貨店
4おっこう屋(高知県香南市)
ご当地素材・技術でエネルギーの地産地消
5ご当地クリーンエネルギー(東京都、鳥取県鳥取市、證賀県、愛媛県他)
身近なムダを資源に変える
6リサイクルプロダクト(青森県、神奈川県、石川県、東京都)

SECTIONⅱ
想像力を耕すデザイン
放課後を突破口に、市民が教育へ参画
7放課後NPO(東京都港区)
住民、デザイナー、学生の協働による「家具づくりスクール」
8穂積製材所プロジェクト(三重県伊賀市)
市民が発電を体感できる発電床埋め込みゲート
9ふじさわ発電ゲート(神奈川県藤沢市)
島留学制度とニコース制で地域を担う人材育成
10島前高校魅力化(島根県海士町)
うつ病への偏見や勘違いをなくし自殺を防止する
11うつ防止紙芝居(岩手県久慈地域)
体験を通じた学びの場
12子どもワークショップ(神奈川県、香川県、大阪府)

SECTIONⅲ
キモチをカタチにするデザイン
ボランティアと被災者をつなぐスキル共有ツール
13できますゼッケン(兵庫県神戸市)
お医者さんへの感謝の気持ちを届ける
14ありがとうカード(兵庫県、秋田県他)
人と人との絆をつなぐ、まちのうわさ
15八戸のうわさ(青森県八戸市)
「最高の米」と「おもしろ旅」で都市と農村をむすぶ
16こめたび(秋田県)
町から子どもへの世界に一つだけの贈り物
17君の椅子(北海道東川町他)
愛妻の盟地、そして愛菜の聖地へ
18日本愛妻家協会(群馬県嬬恋村)

SECTIONⅳ
格差を埋めるデザイン
妊娠・出産・育児のセーフティーネット
19親子健康手帳(島根県海士町、栃木県茂木町他)
路上生活者の自立支援ガイドブック
20路上脱出ガイド(大阪府大阪市)
女子大生の能力を引き出し、就職機会を育む
21ハナラボ(東京都)
高齢者や身体の不自由な人のためのミニカー
22タケオカ・カー(富山県富山市)
患者を通し、介護ボランティアを育てる
23千里リハビリテーション病院(大阪府箕面市)
特別な才能を活かすモノづくり
24障害者発プロダクト(福岡県、鹿児島県、愛媛県、栃木県)

SECTIONⅴ
みんなを育むデザイン
町民と行政職員が一体で作った実効性ある計画
25海士町総合振興計画(島根県海士町)
まちにとってなくてはならないデパート
26マルヤガーデンズ(鹿児島県鹿児島市)
自立した多世代がともに暮らすコレクティブハウス
27スガモフラット(東京都豊島区)
2万7000人の城主が名城復興
28一口城主制度(熊本県熊本市)
地域の人々が日替わりで料理を作り、助け合う
29ワンデイシェフ(三重県四日市市他)
市民の創造力で、社会課題に挑む
30 issue + design(兵庫県神戸市他)

PARTIII
地域を変えるデザイン
1地域を変えるデザイン思考 寛裕介
2地域を変えるデザインコミュニティ 山崎亮
3地域を変えるデザイン行政 松添高次・本田瓦

参考資料

issue+design project (著),筧 裕介 (監修)
出版社 : 英治出版 (2011/11/28)、出典:出版社HP

 

持続可能な地域のつくり方――未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン

「持続可能な地域」に向けての指針を定める

この本ではまず、日本で起きている数々の問題の実態を突きつけ、個々人が自分のこととして問題意識を持ち、問題解決の為にできることを実に多くの具体例を挙げて、わかりやすく発信してくれています。目的達成に向けて内的動機が高まる仕組みがたくさん詰まっている一冊です。

持続可能な地域とは「人と経済の豊かな生態系」が息づいた地域

持続可能な地域には、4つの豊かな生態環境がある
土、つながり協働し高め合う「地域コミュニティ」
場、道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」
風、一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」
水、未来を切り拓く力を育む「次世代教育」

はじめに

持続可能な地域づくりは、どうしたら可能だろうか?
一過性で終わらない、長期にわたる地域づくりには何が必要なのだろうか?
強力なリーダーに頼ることなく、住民主体でじわじわ地域を活性化できないだろうか?
過去の成功体験や他地域の成功事例に頼るのではなく、確かな知と科学的アプローチによる地域づくりを実践できないだろうか?
一部の住民のためでなく、誰一人取り残さない地域づくりは可能だろうか?
2008年にissue + designを設立以来、地域外のデザイナー、コンサルタントという立場から、地域内の一事業者としての立場から、全国各地で様々な地域課題解決プロジェクトに関わってきた。その過程で私自身が感じてきた問題意識を具体的な方法論というカタチにまとめたのが、本書である。
持続可能な地域を実現するために、私自身がここ数年活用してきたツールがSDGs(持続可能な開発目標)である。SDGsというと、国連が策定した地球レベルの巨大な目標のように聞こえる。しかし、この目標の背景にある考え方は様々な課題を抱える地域がまさに今必要としているものであり、私が現場で実践してきた地域づくりの本質を鋭く突いたものなのである。
本書は、そんなSDGsの考え方に基づき、地域課題の解決が日々の業務である行政のみなさん、地方創生やSDGsの視点から新しいビジネス・CSR活動を企画・実施している企業のみなさん、そして、何よりも自分がばらす地域の活性化のための事業や地域活動に取り組んでいる市民のみなさんに、持続可能な地域を実現するための具体的・実践的な方法論を示すことが目的である。

本書の構成

本書はパート1の知識編、パート2の実践編、そして終章の3つで構成される。
パート1は3章で構成される。
第1章はSDGsと地方創生の基本を理解するための導入の位置付けである。
第2章ではSDGsの17ゴールごとに、日本の地域に関連深いローカルイシューを合計55個、データとともに紹介する。人口減少、高齢化、社会保障費用の増加、教育、地域産業の衰退……地域が抱えている多くの課題は一見それぞれ独立していて互いに無関係に見えても、その根っこでは確実につながっている。持続可能な地域づくりを実践するためには、目の前にある特定の課題を理解するだけではなく、領域を超えて地域全体を俯瞰して捉える必要がある。
第3章は本書の核となるコンセプトを紹介する章である。地域の課題の背景にある5つの「負の連鎖構造」を紹介した上で、連鎖の解消と持続可能な地域を実現するためには「生態系の再生」が不可欠であること、そのために4つの生態環境を整える必要があることを提言している。
パート2は4つの章で構成される。第3章で提言した持続可能な地域に必要な4つの生態環境、土(地域コミュニティ)、陽(未来ビジョン)、風(チャレンジ)、水(次世代教育)、それぞれの地域にとっての意義、環境整備の方法論を1章ずつ紹介して
いる。
また、第3章から第6章の章末に、持続可能な地域づくりに必要な6つの技術を紹介している。この6つは、本書で紹介する全てのプロセスに関連する技術である。より理解が進むように、特に関連性が深い章の後に登場する構成としている。
終章で、私が考える経済成長ステージが終わりテクノロジーが進化した今の時代、日本人が求める「真の豊かさ」があふれる、地域での暮らしに関する考察で締める。

パート1知識編地域の持続可能性とSDGsを理解する
第1章introduction SDGsと地方創生
第2章analysis日本と地域の持続可能性実態
第3章proposal地域の生態系を再生する
技術1地図を描く技術

パート2実践編持続可能な地域づくりを実践する
第4章communityつながり協働し高め合う「地域コミュニティ」
技術2対話の場をつくる技術
第5章vision道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」
技術3声を聴く技術
技術4未来を表現する技術
第6章challenge一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」
技術5問いを立てる技術
技術6発想する技術
第7章education未来を切り拓く力を育む「次世代教育」

終章epilogue地域にある真の「豊かさ」

「地域」の定義

日本の基礎自治体(市区町村)は立地・産業・人口などの現在の状況と抱えている課題で、大きく3つのゾーンに分けられる。
ゾーン1都心・経済成長追求地域
ゾーン2郊外・超高齢化地域
ゾーン3中山間・超人口減少地域
ゾーン1は東京23区、大阪市など、政令指定都市に代表される地域である。人口が当面維持され、今後も日本経済、地域経済の中心地として経済成長が期待される。
ゾーン2は1で働く方の生活拠点となる大都市郊外の地域である。団塊世代がマイホームを構えた地域と重なり、既に退職しているシニア層も多い。現在、急速に高齢化が進んでいる。人口減少は既に始まっている地域も多いが、ゾーン3と比べると当面の減少ペースは緩やかな地域が多い。
ゾーン3は中山間・離島地域と呼ばれる、人口規模が小さく、過疎化・人口減少が急激に進行中の地域である。ゾーン2と比べて高齢化はひと山超えたところも多い。
本書の中で「地域」という言葉は、主にゾーン3の、人口減少が急激に進む小規模の基礎自治体を指している。ただし、例えば、人口150万人の神戸市は、タワーマンションとオフィスビルが立ち並ぶ典型的なゾーン1である大都会・三ノ宮を擁しながら、車や地下鉄で20分ほどの距離に典型的なゾーン3の大農村地帯・北区が位置する。ゾーン1の中にもゾーン2やゾーン3のエリアを含む自治体は多い。そのため、基礎自治体単位で、ゾーン1・2・3を分類することはできない。
ただし、前提として、本書で「地域」という単語は、「人口減少が急速に進む、人口規模の小さいエリア」を意味するものとして、読み進めてもらいたい。なお、「地方圏」という言葉は「三大都市圏(東京圏・関西圏・名古屋圏)」以外を意味している。
私自身、10年間の地域での活動を通じて、多くの地域で様々な方に助けられ、教えてもらい、多様な経験を重ねながら、地域づくりの実践に取り組んできた。その過程で得られた多くの知見を全て洗い出し、精査し、形式知化することで、経験や事例を元にする曖昧な地域づくりではなく、知識と科学に基づく「サイエンスとしての地域づくり」を体系化することを目指し、本書を執筆した。
本書を通じて、地域づくりの「サイエンス」をぜひ体感・実践していただきたい。

 

目次

はじめに
パート1知識編地域の持続可能性とSDGsを理解する
第1章 導入SDGsと地方創生
SDGsとは
地方創生とSDGs
世界は全てつながっている
インタビュー1国谷裕子氏
「中山間地域が地球の未来のカギをにぎる」

第2章 現状認識日本と地域の持続可能性実態
地域課題を包括的に理解する
SDGsイシューマップ:日本の55イシュー
インタビュー2森雅志氏
「都市の総合力が持続可能な地域をつくる」

第3章 提言地域の生態系を再生する
地域は生きている
生態系を壊す負の連鎖構造
再生に必要な4つの生態環境
技術1地図を描く技術

パート2実践編持続可能な地域づくりを実践する
第4章 土つながり協働し高め合う「地域コミュニティ」
つなぎ、育む。豊かな土壌
つながりが地域と住民にもたらすもの
コミュニティを育む
関係の質を高める対話
行政の役割
技術2対話の場をつくる技術
インタビュー3川延昌弘氏
「SDGsは未来を切り拓く最高のコミュニケーションツール」

第5章 道を照らしみんなを導く「未来ビジョン」
未来へ導く太陽
ビジョンづくりのポイント
1想いと仲間を集める
2未来を語り合う
3ビジョンを表現する
行政の役割
技術3声を聴く技術
技術4未来を表現する技術

第6章 風一人ひとりの生きがいを創る「チャレンジ」
小さな風が吹き続ける地域
風を起こすために必要な2つのこと
熱を生み、風を起こす場づくり
行政の役割
技術5問いを立てる技術
技術6発想する技術
インタビュー4山藤旅聞氏
「SDGsは子どもたちの学びと社会をつなぐ窓」

第7章 水未来を切り拓く力を育む「次世代教育」
未来とつながる日本の川
拡がる学習機会の地域格差
弱体化する育の生態系
激変する働く環境と必須スキル
対話型デザイン教育を地域に
SDGsとデザインが拓く市民教育
行政の役割

エピローグ地域にある真の「豊かさ」
貨幣経済に依存しない豊かさ
正しい時間で生きる豊かさ
自分の仕事ができる豊かさ
百姓として生きる豊かさ
身体と技術を使いこなす豊かさ

おわりに

参考資料

 

コミュニティデザインの時代 自分たちで「まち」をつくる (中公新書)

コミュニティデザインについて幅広く解説

ファシリテーターとしての心構え、雰囲気、コミュニティデザイナーとしての資質、行政との付き合い方などは、すぐ実践できる学びの本です。山崎さんと対話しながら講義を受けている感覚になれて、山崎さんの人柄も伝わる本です。街の活性化は、街を構成する一人ひとりが活き活きと活動する事によってもたらされるという事が、具体例を示して、丁寧かつ具体的に書かれています。

山崎 亮 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2012/9/24)、出典:出版社HP

まえがき

最近、講演会に呼んでもらうことが多くなった。平均すると、毎月10回ほどどこかで講演している。コミュニティデザインという聞き慣れない職業を標榜したせいで、「それはいったいどういう仕事なんだ?」という問い合わせにも似た講演依頼をいただくことが多いようだ。
美味しい食事と気持ちいい温泉が大好きな僕は、講演依頼が両者を備えた地域からのものだと二つ返事で引き受ける。こうして講演回数はどんどん増えることになる。多くの場合、講演会の最後には質疑応答の時間が設けられる。初めて聞く仕事内容だという人が多いせいか、質問も多岐にわたる。それらの質問にひとつひとつ答えていくうちに、質問がいくつかに類型化できることに気づいた。「コミュニティデザインを始めようと思ったきっかけは?」「地域に入ったとき、まずは何から始めますか?」「コミュニティデザインの成果は何ですか?」「コミュニティデザインの教科書は書けませんか?」など、どの地域でも出る質問というのがいくつかある。きっと僕がしっかり説明できていなかった点なのだろう。なかには前著『コミュニティデザイン人がつながるしくみをつくる』(学芸出版社)を隅から隅まで読んでくれて、それでもわからなかった点を質問として会場に持ち込んでくれる人もいる。ありがたいことだ。これまで書いた文章のなかでうまく説明できていなかった点がどこなのかがよくわかる。
そこで、講演会場で多く出る質問をベースにした本を書いてみようと考えた。建設系の分野で勉強し、設計の実務を経験した人間が、どうして「つくらないデザイン」を目指すようになったのか。日本の総人口が減ることとコミュニティデザインとの関係性はどうなっているのか。質問に答えるように、ひとつずつ文章を重ねていくと、エッセイのようにひとつひとつ読みきりタイプの原橋になった。
書き終わった原稿を並べ替えてみると、いくつかの特徴に分かれていることに気づいた。そこで、それぞれの文章を次の4つの視点で分類してみた。1つ目は「なぜいま、コミュニティが注目されるのか」という視点。コミュニティの衰退やつながりの希薄化はなぜ進むのか、人口減少社会ではどんな課題が出現するのか、まちはなぜ寂しくなったのか、僕たちは「公共」をどう考えるべきかなどについて、思うところを書いたつもりだ。2つ目は「つながりのデザインって何?」という視点。コミュニティデザインとは何か、住民参加型のデザインにおける注意点、まちの豊かさをどう考えるべきかなどについて考えた。3つ目は「プロジェクトを通じて知り合った人に関するエピソード」。プロジェクトの参加者がどう変化したか、中山間離島地域で生活する人たちから学ぶこと、集落を支援する人材の大切さなどについて述べている。4つ目は「コミュニティデザインの進め方」という視点。ファシリテーションの方法、話の聴き方や事例の調べ方、会場の雰囲気のつくり方、行政職員との付き合い方、コミュニティデザイナーの育て方などについてまとめた。
以上のように分類した読みきりタイプの原稿を、それぞれ「なぜいまコミュニティなのか」「つながりのデザイン」「人が変わる、地域が変わる」「コミュニティデザインの方法」という4章にまとめた。体系だったコミュニティデザイン論を語るほど自分の思考と実践が整理できているわけではない。思いつくままに書き散らかした原稿を4つの袋に分けて入れるのが精一杯。相互に矛盾したことを述べている箇所があるかもしれない。気になる点があれば、ぜひ講演会やワークショップ等で質問して欲しい。インターネット経由でいただいた質問に答えるのはあまり得意ではない。実際に対面しながら語り合うのが好きだ。じっくりと対話しながら質問にお答えしつつ、いつかまたそれらをまとめた書籍をみなさんにお届けしたい。

本書は、前著『コミュニティデザイン』と対をなす本だといえよう。『コミュニティデザイン』がこれまで関わってきたプロジェクトを紹介する本だとすれば、本書はそれらのプロジェクトに関わろうと思った動機や背景を解説する本だといえる。したがって、本書のなかには『コミュニティデザイン』で詳述したプロジェクトがいくつか登場する。プロジェクトの概要は本書の巻末(本書に出てくる主なプロジェクトの概要)に示したものの、もし詳細を知りたいという方がいれば前著も合わせてお読みいただくことをお薦めする。
「つながりをデザインする」とは、まことにわかりにくい表現である。「バラの笑顔」のように暗喩的な響きを持つ言葉とも受け取られよう。しかし、自分が普段関わっているプロジェクトを省みるに、やはり僕が携わっているのは「つながりをデザインする」ことなのだと感じてしまう。本書を通じて、コミュニティデザインの5W1H、「なぜ」「いつから」「誰と」「何を」「どこで」「どうやって」が少しでも伝えられれば幸いである。

山崎 亮 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2012/9/24)、出典:出版社HP

 

目次

まえがき

第1章 なぜいま「コミュニティ」なのか
1.自由と安心のバランス
つながりが分断された社会/つながりのなかに生きる社会/「つながり」と「しがらみ」/「お客さん化」する社会/「活動人口」という考え方/いいあんばいのつながり
2.まちが寂しくなった理由
活動の屋内化とコミュニティの弱体化/公共空間をどうするか/新しいコミュニティが関わる仕組みをつくる
3.「昔はよかった」のか
人口の増減についての空想/日本の適正人口/人口減少先進地における実践/「過疎」を目指して
4.人口減少先進地に学ぶ
人口減少社会/人口減少先進地/中山間離島地域のアドバンテージ/人口減少先進国から何を発信するか
5.ハード整備偏重時代の終焉
「つくる時代」の終わり/建築家の「すごろく」が変わる/時代の変化/これからの時代に何をすべきか
6.まちに関わること
つながりが希薄化する社会/まちの生まれ方を学ぶ/主従関係をずらすコミュニティの活動/専門家の領分
7.パブリックとコミュニティ
「私」と「共」と「公」/公共的な事業に対する住民参加と行政参加/つながりから抜け出す時代/つながりを求める時代/公共をどこまで広げて考えるか

第2章 つながりのデザイン
1.宣言について
つくらないデザイナー/仕事が生まれる/コミュニティデザインと空間のデザイン/建築的思考
2.まちの豊かさとは何か
「住民参加」の胡散臭さ/コミュニティデザインに目覚める/コミュニティに関する違和感/「豊かさの定義」が変われば「デザインの方法」も変わる/精算しない生き方/「ぼろ儲け」人生/豊かさ、幸せ、経済
3.コミュニティとデザインについて
住民参加型デザインはあり得るか/どう話し合うか/誰と話し合うか/何を話し合うか/デザイナーの専門分野、コミュニティの専門分野
4.肩書きについて
ランドスケープデザイナーからコミュニティデザイナーへ/コミュニティってなんだ?/自分の仕事を説明しづらい人たち
5.プライアン・オニールという人
軍用地から国立公園へ/有償の公園利用プログラム/出前プログラム/ショップの品ぞろえ/公務員コミュニティデザイナー
6.変化するコミュニティデザイン
3種類のコミュニティデザイン/コミュニティデザイン1.0/コミュニティデザイン2.0/コミュニティデザイン3.0/ハード整備を前提としないコミュニティデザイン/時代とともに変化するコミュニティデザイン

第3章 人が変わる、地域が変わる
1.人が育つ(中村さんの場合)
まちづくりに参加しなさそうな人/気持ちの変化/本業でもまちづくりの活動を開始/新たな活動へ
2.コミュニティ活動に参加する意義(小田川さんの場合)
レクリエーションとしてのまちづくり/レクリエーションを疑ってみる/まちづくりに関わらなさそうな人の力/コミュニティに何が可能か
3.チームについて
いえしまへ押しかける/普段どおりの生活を見せる/コミュニティデザインの成果
4.中山間離島地域に学ぶ
中山間離島地域の魅力/中山間離島地域の魅力を知り尽くす1ターン者たち/中山間離島地域での買い物/民間企業の公共的役割/個人商店の取り組み
5.集落診断士と復興支援員
なぜ里地里山が大切なのか/集落診断士という提案/兵庫県への提言を海士町で実践/集落支援員の研修と実践/集落支援員の自立/復興支援員の育成/復興予算の「ニューディール」を

第4章 コミュニティデザインの方法
1.コミュニティデザインの進め方
ふたつの変数/コミュニティデザインの4段階/第1段階:ヒアリング/第2段階:ワークショップ/第3段階:チームビルディング/第4段階:活動支援
2.ファシリテーションと事例について
話し合いの場を円滑に進める/無意識のアイデアを引き出す/できる限り事例を調べる/主義化するのはマズイが、事例は大切
3.地域との接し方
事前の勉強/傾聴/酒とファシリテーション
4.雰囲気について
服装/おやつ/体型/坊主にヒゲ面
5.資質について
多様な知性/モードを変える/偶然を計画的に起こす/スタジオメンバーに必要とされる能力
6.教育について
実地訓練が大切/大学の教育にも実践を/ソーシャルデザイン
7.行政職員との付き合い方
行政の特徴/熱い行政職員との出会い/熱い行政職員リスト/行政は「貝」である」
8.コミュニティの自走
仕事の区切り/地域の力学の外側にいること/思えば僕はずっとヨソモノだった

あとがき

本書に出てくる主なプロジェクトの概要

山崎 亮 (著)
出版社 : 中央公論新社 (2012/9/24)、出典:出版社HP

 

地域活性化を成功に導く5つの提言 自立・継続と人財育成

地域活性化の方法を3つの視点から学ぶ

地方を元気にするために、地方の活力を呼び覚ますために、どうすれば良いのかという点において、筆者自身が各地方で地域活性化に携わり、官民問わず大勢の方々と共に経験したことを中心に、「ソフト面」、「コミュニケーションや組織の運営」、「人財と育成」を中心とした「ノウハウ」を紹介しています。

須田 憲和 (著)
出版社 : カナリアコミュニケーションズ (2015/9/20)、出典:出版社HP

はじめに

少子高齢化や首都圏への一極集中による弊害が、日本の将来を大きく左右する喫緊の課題となっております。地方活性化や地方再生という言葉は昔から唱えられていますが、現状においては、もはや様々な課題が複雑に絡み合った末の事象であるが故に、対策を打つにしても従来の単発的な施策では効果が期待できない状況にあります。
2050年には日本の人口は9708万人に減少し、かつ、65歳以上の高齢者が38.8%を占めるという世界的高齢化社会を迎える事実からは逃避することはできません(ちなみに2015年の人口12660万人のうち65歲以上は3396万人(26.8%):2014年版高齢社会白書より)。
2014年、政府はこの問題に真正面から向き合うこととし、閣議決定により「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、政府が一体となって取り組むと共に、各地域が特徴を活かした自律的な社会を創生できるよう国をあげて真剣に取り組むための体制を整えました。
地方創生に係る施策分野は非常に多岐にわたります。本書においては、地方を元気にするために、地方の活力を呼び覚ますために、どうすれば良いのかという点において、私自身が各地方で地域活性化に携わり、官民問わず大勢の方々と共に経験したことを中心に、「ソフト面」、「コミュニケーションや組織の運営」、「人財(人材ではなく人財)と育成」を中心とした「ノウハウ」をご紹介したいと考えております。
国や省庁、地方自治体が執り行う政策は、総合戦略として今までの反省を踏まえた実効性の高いものとなると期待されておりますが、大切なのは施策の「浸透力」と「実行力」です。
国や地方自治体が中心となって戦略を構築しても、実現するには民の力、すなわち各地の住民の皆様や各種団体の皆様の活力がなければ、この大きな課題に立ち向かうことすらできません。
もう時間は待ったなしです。
今こそ、一人ひとりの知恵や行動力が必要とされていると共に、地域に活力を呼び戻すための活動をしている各種団体やチームが当事者意識をもって活躍し、地域をリードすることが、地方創生を成功させる必須条件となりました。
地域のためにご尽力頂いている方々、自らが立ち上がろうとしている方々に、「勇気」と「希望」、活動における「ヒント」をお届けできれば幸いでございます。
特定非営利活動法人元気な日本をつくる会
組織運営本部本部長 須田憲和

須田 憲和 (著)
出版社 : カナリアコミュニケーションズ (2015/9/20)、出典:出版社HP

Contents

はじめに

序章
■地域づくりの基本は先入観を捨て、理解して受け入れること
■自治体と民間の大きな違いを理解する
◎「目的」の違い
◎「慣習」の違い
◎「リソース」の違い
◎縦割り組織ではなく、横串型プロジェクトチーム構築の勧め
■予算という考え方を理解する
■地域活性化のポイントはチームづくりと人づくり
■地方は閉鎖的という概念は間違い
■地域資源は身近にたくさんある

提言その一
地域活動を行う上での組織運営ノウハウ
■プランニング(企画)のアイデア出し
■市場調査分析(「マーケット」「人物」)の重要性
◎事前に自分で調査できること
◎「ヒヤリングによる調査
■他団体への連携アプローチ
■ファンディング(資金手当)の考え方
■マッチング(連携)の考え方
■販路開拓の考え方
■6次産業化の推進支援
■プロジェクト運営の注意点
■組織維持拡大のためには事業構想が必要
■補助金の種類と仕組みについて
■各種事業計画や申請書についての作成のヒント
◎審査員(評価者)の立場に立った視点を持つ
◎提案施策は複合的にシナジー効果を生み出す構成を考える
◎施策の中で使う「キーワード」に配慮をする
◎自分の団体をアピールする

提言その二
地域活性化チームの作り方
■有志賛同型組織は会社組織ではない
■モチベーションの維持とUPについて
◎モチベーション維持に大切な要素1「当事者意識」の醸成
◎モチベーション維持に大切な要素2「一体感」の共有と維持
◎モチベーション維持に大切な要素3「達成感」の共有とメリハリ
◎モチベーション維持に大切な要素4「評価や評判の見える化」
■新聞社などのメディアとのお付き合い
◎新聞社などへのアプローチ
◎取材に来て頂いても掲載の可否は別問題
◎ラジオも地域内へのアピールには有効な手段
◎インターネットでの掲載にも気を配る

提言その三
キーマンと出会う方法
■民間の方々から情報を得る方法
◎地域の酒問屋には意外と情報が集まっている
◎日本青年会議所(JC)の方々は多くの地域貢献を実践されている
◎その他のグループ
■地域おこし協力隊との連携
■キーマンづくりのために注意したいこと

提言その四
ファシリテーターが必要な理由と求められる資質
■発言を引き出すテクニック
■当事者意識を持たせるために
■進行途中では、論点整理をしながら、随所に「OK」や「区切り」を付けていく
■アドバイスと押し付けは紙一重
■時には背中を押す役目も必要
■キーマンや責任者との事前打ち合わせと配慮
■会議時間はしっかり守る
■作業分担の指示を強制してはいけない

提言その五
人材(人財)育成は永遠の課題
■イベントの実体験で経験値は上げられるが、指導には工夫が必要
■企画作成や提案書作成の依頼は、最初に前提情報と考え方を伝える
■団体運営や活動ごとの経理会計に関心を持たせる
■価値観の共有ができるようになるために
■責任感と公的視野の醸成
■自治体や公的機関との調整・意見交換に同席させる
■目先の事象にこだわらない、視野を広く
■他団体の活動や会議にスポット的に参加させてみる
■悩んだときは、尊敬している人ならどういう行動をとるかを想像する癖をつける
■最後に褒めて存在価値を認める

紹介特定非営利活動法人元気な日本をつくる会(パワフルジャパン)
あとがき目に見えない報酬こそが真の価値
須田憲和情報発信

須田 憲和 (著)
出版社 : カナリアコミュニケーションズ (2015/9/20)、出典:出版社HP

 

人口減少社会のデザイン

人口減少転換のための10の論点と提言

本書は、少子化や高齢化の現状について世界の状況も踏まえつつ分析を行っています。加えてコミュニティ、社会保障、医療、死生観、福祉など幅広い分野で提言を行っています。様々な立場にある人が本書に目を通し、この問題に対して考えるきっかけを持てればと思います。

広井 良典 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/9/20)、出典:出版社HP

人口減少社会のデザイン――目次

イントロダクション:
AIが示す日本社会の未来―2050年、日本は持続可能か?
はじめに―AIは未来予測や政策に活用できるか
問題の設定―「2050年、日本は持続可能か?」
AIが示す日本の未来シナリオ―「都市集中型」か「地方分散型」かが最大の分岐点
「地方分散型」社会のイメージ―国際比較から
日本の状況―“アメリカ・モデル”の信奉と帰結
人口減少社会のデザイン

第1章 人口減少社会の意味―日本・世界・地球
1 人口減少社会の到来
ジャパン・シンドローム?―人口減少社会と日本
「集団で一本の道を登る時代」からの変容
「幸福」というテーマへの関心の高まり
幸福度をめぐる様々な展開
人口減少社会の“空間的”側面
若い世代のローカル志向と支援―“地域への着陸”の時代
2 少子化・高齢化をめぐる日本と世界
高齢化と少子化をめぐる動向少子化の背景は何か
「経済効率性」をめぐる逆説と若い世代の生活不安
少子化をめぐる構造―国際比較
3 高齢化の地球的進行と「グローバル定常型社会」
日本についての展望―「定常人口」への移行
「高齢化の地球的進行」
世界人口の定常化と「グローバル定常型社会」

第2章 コミュニティとまちづくり・地域再生
1 コミュニティとは何だろうか
コミュニティという“あいまい”な存在
情報とコミュニティの進化
日本社会とコミュニティ
2 高齢化・人口減少社会におけるコミュニティと都市
地域によって異なる課題
「地域密着人口」の増加
高度成長期の「負の遺産」
「年金マネー」の首都圏集中―社会保障の空間的効果
「居場所」とまちづくり
「コミュニティ空間」としての都市
「コミュニティ感覚」とまちづくり
「都市・まち・むら」をめぐる戦後日本の政策展開
―その第1ステップ:1950年代~70年代……“ムラ”を捨てる政策
第2ステップ:1980年代~30年代ないし2000年代……“マチ”を捨てる政策
第3ステップ:2000年代半ばないし2010年代以降……転換の兆し?
「少極集中」から「多極集中」へ
3 鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ構想
伝統文化の再評価―祭りとーターン・Uターン
岐阜県石徹白地区の先駆例
4 ローカライゼーションと情報化/ポスト情報化
経済構造の変化と“経済の空間的ユニット”
ポスト工業化そしてポスト情報化の時代
資本主義と科学の基本コンセプトの進化――物質→エネルギー→情報→生命/時間
「情報」から「生命/生活(life)」へ
移行期としての「情報化」
【コラム】自然との関わりを通じたケア―鎮守の森セラピー

第3章 人類史の中の人口減少・ポスト成長社会
1 人類史における拡大・成長と定常化
人類史における人口減少・ポスト成長社会
成熟・定常期における文化的創造1―枢軸時代/精神革命
成熟・定常期における文化的創造2―「心のビッグバン」
2 ポスト資本主義のデザイン
資本主義/ポスト資本主義という文脈
私利の追求の肯定と「パイの拡大」
新たな時代状況と人間理解
「第4の拡大・成長」はあるか?
「創造的定常経済」という発想

第4章 社会保障と資本主義の進化
1 社会保障をめぐる現状と国際比較
人口減少社会と「富の分配」
社会保障をめぐる現状
社会保障の国際比較―三つのモデル
「資本主義の多様性」とアメリカ・ヨーロッパ・日本
日本の場合―ビジョンの「選択」の議論を
2 資本主義の歴史的変容
資本主義の歴史的進化と福祉国家・社会保障
「楽園のパラドックス」と対応
「事前的な対応」とベーシック・インカム
3 これからの社会保障
今後の社会保障の方向1―「人生前半の社会保障」の強化
今後の社会保障の方向2―「ストックに関する社会保障」の強化
予防的な社会保障という方向性
検討されるべき税財源

第5章 医療への新たな視点
1 持続可能な医療―医療のエコロジカル・モデル
「持続可能な医療」というテーマ
何が健康水準を決めるのか―アメリカの医療政策からの示唆
「持続可能な医療」と「持続可能な社会」
「複雑系としての病」
コミュニティ等との関わりと進化医学
2 医療費の配分と公共性
医療費の配分1:医療のどの分野に資源を優先配分するか
医療費をめぐる公私の役割分担
医療費の配分2:病院/診療所をめぐる配分

第6章 死生観の再構築
1 超高齢化時代の死生観と「深層の時間」
死亡急増時代と死亡場所の多様化
看取りをめぐる認識の変化
ライフサイクルのイメージと時間
深層の時間―生と死のふれあう場所
日本人の死生観―その三つの層
2 死生観をめぐる現代的展開
現代版「不老不死」の夢
生と死のグラデーション
「無の科学」への道標
第7章 持続可能な福祉社会―地球倫理の可能性
1 グローバル化の先の世界
単純なグローバル化の終わりの始まり
「グローバル化の先」の二つの姿
「持続可能な福祉社会」という社会像
日本の可能性―「経済と倫理」の分離と再融合
新たな動きの萌芽
2 福祉思想の再構築と地球倫理
『相互扶助の経済』―日本の福祉思想へのアプローチ
共同体を超える原理としての「自然」
日本における福祉思想の過去・現在・未来
地球倫理へのアプローチ
ローカル・グローバル・ユニバーサル

参考文献
あとがき

広井 良典 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/9/20)、出典:出版社HP

 

イントロダクション:
AIが示す日本社会の未来―2050年、日本は持続可能か?

はじめに―AIは未来予測や政策に活用できるか

「AI(人工知能)」という言葉が、あらゆる場面に登場している。アメリカの未来学者カーツワイルが唱えたいわゆる「シンギュラリティ(技術的特異点)」論ないし“2045年問題”のように、最高度に発達したAIがやがて人間を凌発し、さらにはそれが人体改造された人間と結びついて“永遠の意識”が生まれるといった議論も存在する。また、AIによって人間の仕事ないし雇用の大半が取って代わられ大量の失業が生まれるといった話題は繰り返し論じられている。
しかし昨今の議論を聞いていると、いささかAIの能力が過大評価ないし“神聖化”されているように思われることが多い。
私は1980年代末の2年間をアメリカのボストンで(MIT[マサチューセッツ工科大学]の大学院生として)過ごしたが、当時はAIの「第二次ブーム」と呼ばれている時期で、現在と同様にAI論が非常に盛り上がっており、“病気の診断もすべてAIが行うようになるので医者はいらなくなる”といった議論もよく行われていた。その後いったんそうした「ブーム」は沈静化し、やがてリバイバルとなったわけだが、そうした流れからも、少し冷静な視点が重要だろう。
いずれにしても、このようにAIに対する社会的関心が高まっている中で、私たちの研究グループ(私を代表とする京都大学の研究者4名と、2016年6月に京都大学に創設された日立京大ラボのメンバー数名)は2017年9月、AIを活用した日本社会の持続可能性と政策提言に関する研究成果を公表した(ウェブサイト「AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言」参照)。その内容は、AIを活用して2050年頃に向けた約2万通りの将来シミュレーションを行い、それを踏まえて採られるべき政策の選択肢を提起するという意旨のものだった。
“AIを活用した社会構想と政策提言”という研究はほとんど日本初のものだったこともあり、政府の各省庁、関連機関、地方自治体、民間企業等、各方面から多くの問い合わせがあり、こうしたテーマに対する関心の高さと手ごたえを感じた。また、長野県庁や岡山県真庭市等とはそれぞれの地域の未来構想に関する同様のAI活用を連携して進め、このうち長野県のものは、リニア新幹線開通が地域にもたらす影響への対応というテーマを含め、2019年4月に「AIを活用した、長野県の持続可能な未来に向けた政策研究について」として公表した。
一方、中央省庁では文部科学省の高等教育局と、上記の研究成果に高等教育を組み入れた新たなシミュレーションを協働で作成し、2018年11月に中央教育審議会大学分科会・将来構想部会合同会議に報告するなどした。これは日本の省庁が「AIを活用した社会構想と政策立案」に関する試みを行った初めてのケースだろう(以上の内容はいずれもウェブ上で閲覧可能)。
そして、AIを活用して行った日本社会の未来に関するシミュレーションは、本書のテーマである「人口減少社会のデザイン」と深く関わる内容のものであるので、ここではその概要を紹介するとともに、そこから浮かび上がってくる今後の課題や展望について若干の議論を行ってみたい。

問題の設定―「2050年、日本は持続可能か?」

私たちの研究の出発点にあったのは、現在の日本社会は「持続可能性」という点において“危機的”と言わざるをえない状況にあるという問題意識である。
日本社会が持続可能性において危機的であるということは、多くの事実関係から言えることだが、特に次のような点が重要ないし象徴的な事柄と言えると思われる。
(1)財政あるいは世代間継承性における持続可能性
しばしば指摘されるように、日本における政府の債務残高ないし借金は1000兆円あるいはGDP(国内総生産)の約2倍という、国際的に見ても際立って大きな規模に及んでおり、言い換えれば私たちは膨大な借金を将来世代にツケ回ししている。
図表0-1はそうした政府の債務残高の推移の国際比較だが、文字どおり日本が突出している。これに関して多少の余談を記すと、私は1996年から2016年までの3年間、千葉大学で社会保障論という通年の講義を行っていたが、その講義を始めた90年代後半の頃―それはこの図の左端の時期にほぼ対応している―、私は講義の中で、日本の借金はすでに相当の規模になっているけれども、イタリアを抜くことはないのではないかと学生に話していたことをよく覚えている。しかしそうした予想を裏切って日本はイタリアを軽く抜き、その後も政府の借金はどんどん増えていった。

図表0-1債務残高の国際比較(対GDP比)……日本が突出

「政府の借金」というと、どこか他人事。のように感じる人も多いのだが、要するに、私たちは医療や年金、福祉などの社会保障の「給付」は求めるが、それに必要なだけのお金(税や社会保険料)をおうとせず、その結果、将来世代に膨大な借金をツケとして回しているのだ。
これは、持続可能性という観点からも真っ先に注目すべき事実だろう。そしてそれは世代間の公平という観点、あるいは“子や孫に借金を残すのは避けるべきだ”という、日本人が本来もっていた(はずの)倫理から見ても、最優先で取り組むべき課題だと私は思う。
加えて、日本がこうしたことを続けてきた背景には、アベノミクスにも象徴されるように、“増税などを急がなくても、やがて「景気」が回復して経済が成長していくから、税収はやがて自ずと増え借金も減っていく”という、高度経済成長時代に染みついた発想を今も根強く引きずっているという点があるだろう。
端的に言えば、かつて「ジャパン・アズ・ナンパーワン」とまで言われた“成功体験”に由来する、「経済成長がすべての問題を解決してくれる」という思考様式である。本書のテーマである「人口減少社会のデザイン」において重要なのは、まさにこうした「拡大・成長」型の思考、あるいは“短期的な損得”のみにとらわれ長期的な持続可能性を後回しにする発想の枠組みから抜け出していくことにある。
(2)格差拡大と人口における持続可能性
次に図表0-2を見ていただきたい。これは生活保護を受けている層、つまり貧困層の割合の推移を示した図で、これもトレンドが非常にはっきりしている。すなわちグラフの一番左が1960年で、そこから高度成長期を通じて貧困世帯は一貫して減っていったわけだが、ここでも、90年代の半ばというのが日本社会のある種の転換期のような時代となっており、1995年を谷として生活保護を受ける人の割合は増加に転じ、その後も着実に増えていった。

図表0-2生活保護を受けている者の割合(保護率)の推移

ある意味でこれは氷山の一角であり、生活保護に至らずとも、生活が困窮していたり、あるいは非正規雇用を含めて雇用が不安定であったりする層が着実に増加している。また、本書の中であらためてくわしく見ていくように、日本においては若者に対する社会保障その他の支援が国際的に見てきわめて手薄であることも手伝って、特に若い世代の雇用や生活が不安定になっている。そしてそのことが未婚化・晩婚化の背景ともなり、それが出生率の低下につながり、人口減少をさらに加速させるという、悪循環が生まれている。「人口の持続可能性」をめぐる困難と、かつて“一億総中流”と呼ばれた構造の侵食が並行して進んでいるのである。
(3)コミュニティないし「つながり」に関する持続可能性
図表0-3は比較的よく知られた国際比較調査(ミシガン大学が中心に行っている「世界価値観調査[World Values Survey]」)の一部で、「社会的孤立(social isolation)」に関する国際比較を示している。ここでの「社会的孤立」は、家族などの集団を超えたつながりや交流がどのくらいあるかに関する度合いを指しているが、図にも示されているように、そうした社会的孤立度が、残念ながら日本は先進諸国の中でもっとも高い国ないし社会になっている。

図表0-3先進諸国における社会的孤立の状況……日本はもっとも高く、個人がばらばらで孤立した状況

私は、現在の日本社会の様々な問題の根底にあるのがこの点ではないかと思っている。本書第2章の「コミュニティ」に関する議論の中でくわしく述べていきたいが、端的に言えば、現在の日本社会は“古い共同体(農村社会など)が崩れて、それに代わる新しいコミュニティができていない”という状況にあり、そのことがこうした「社会的孤立」という点に現れていると思われる。
また、この点は先ほど指摘した政府債務の累積や、その背景にある(社会保障の財源としての)「税」や「社会保険料」への忌避感とも実は重なっているだろう。つまり、およそ社会保障というシステムは、介護にしても年金にしても、“(税や社会保険料を通じた)家族を超えた支え合い”の仕組みであるわけだが、「社会的孤立」度が高いということは、家族(あるいは自分が属する集団)以外の“他人”への無関心や、そうした他者との支え合いへの忌避感というものにつながる。それが結局、第一に挙げた政府の借金の累積ということにつながっているのである。
以上、3つの論点にそくして述べたが、こうした事実に示されるように、現在の日本は持続可能性という点において相当深刻な状況にある。そして、「2050年、日本は持続可能か」という問いをテーマとして設定した場合、現在のような政策や対応を続けていれば、日本は「持続可能シナリオ」よりも「破局シナリオ」に至る蓋然性が高いのではないか。
「破局シナリオ」とはあえて強い表現を使ったものだが、その主旨は、以上に指摘したような点を含め、財政破綻、人口減少加速(←出生率低下←若者困窮)、格差・貧困拡大、失業率上昇(AIによる代替を含む)、地方都市空洞化&シャッター通り化、買物難民拡大、農業空洞化等々といった一連の事象が複合的に生じるということである。上記のように、昨今のような政策基調のもとではこれらが生じる蓋然性は相当程度高いと思われるし、実際、このテーマで学生にレポートを書かせたことがあるが、日本社会の持続可能性について悲観的な見通しを記すものが予想以上に多かった。
こうした関心を踏まえ、AI技術を活用し、また「幸福度」といった主観的な要素も視野に入れた形で将来シミュレーションを行い、日本社会の未来の分岐構造がどのようなもので、またどのような対応がなされるべきかを探ったのが今回の研究である(図表0-4参照)。

図表0-42050年へのシナリオとビジョン・政策選択
・A)持続可能シナリオ
・B)破局シナリオ…財政破綻、人口減少加速(←出生率低下←若者困窮)、格差・貧困拡大、失業率上昇(AIによる代替等)、地方都市空洞化&シャッター通り化、買物難民拡大(現在600~700万人)、農業空洞化
・これらについてAIを活用しシミュレーション
……AI活用による社会構想&政策提言という新たな試み。
・1人口、2財政・社会保険、3都市・地域、4環境・資源という4つの局面の持続可能性に注目
・「幸福」など主観的要素も考慮。
・2025年、2040年頃(高齢者数最大)、2060年頃(高齢化率最高)という節目・時間軸を視野に。

具体的には、以上のような関心から、日本社会の現状そして今後において重要と考えられる149個の社会的要因を抽出するとともにそれらからなる因果連関モデルを作成し、それを基にしてAIを活用したシミュレーションによって2018年から2052年までの35年間の期間にわたる約2万通りの未来シナリオ予測を行い、それらをまず23のシナリオ・グループに分類した上で、最終的に6つの代表的なシナリオ・グループに分類した。分類にあたっては、1人口、2財政・社会保障、3都市・地域、4環境・資源という4つの局面の持続可能性と、(a)雇用、(b)格差、(c)健康、(d)幸福という4つの領域に注目した。

広井 良典 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/9/20)、出典:出版社HP

 

AIが示す日本の未来シナリオ―「都市集中型」か「地方分散型」かが最大の分岐点

さて、シミュレーションの結果として明らかになったのは次のような内容だった。
(1)2050年に向けた未来シナリオとして主に「都市集中型」と「地方分散型」のグループがあり、その概要は以下のようになる。
(a)都市集中型シナリオ
主に都市の企業が主導する技術革新によって、人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下する一方で、政府支出の都市への集中によって政府の財政は持ち直す。
(b)地方分散型シナリオ
地方へ人口分散が起こり、出生率が持ち直して格差が縮小し、個人の健康寿命や幸福感も増大する。ただし、次項以降に述べるように、地方分散シナリオは、政府の財政あるいは環境(CO2排出量など)を悪化させる可能性を含むため、このシナリオを真に持続可能なものとするには、細心の注意が必要となる。
(2)8~10年後までに都市集中型か地方分散型かを選択して必要な政策を実行すべきである。
今から8~10年程度後に、都市集中型シナリオと地方分散型シナリオとの分岐が発生し、以降は両シナリオが再び交わることはない。
持続可能性の観点からより望ましいと考えられる地方分散型シナリオへの分岐を実現するには、労働生産性から資源生産性への転換を促す環境課税、地域経済循環を促す再生可能エネルギーの活性化、まちづくりのための地域公共交通機関の充実、地域コミュニティを支える文化や倫理の伝承、住民・地域社会の資産形成を促す社会保障などの政策が有効である。
(3)持続可能な地方分散型シナリオの実現には、約17~20年後まで継続的な政策実行が必要である。
地方分散型シナリオは、都市集中型シナリオに比べると相対的に持続可能性に優れているが、地域内の経済循環が十分に機能しないと財政あるいは環境が極度に悪化し、(2)で述べた分岐の後にやがて持続不能となる可能性がある。
これらの持続不能シナリオへの分岐は約17~20年後までに発生する。持続可能シナリオへ誘導するには、地方税収、地域内エネルギー自給率、地方雇用などについて経済循環を高める政策を継続的に実行する必要がある。
以上がシミュレーション結果の概要だが、将来の日本社会が分岐していくシナリオのイメージを示したのが図表0-5である。左下のほうのグループが「都市集中型シナリオ」で、他が「地方分散型シナリオ」であり、両者が互いに離れて分岐している様子が示されている(これは2042年時点のもの)。また、シミュレーションの結果浮かび上がってきた6つの代表的なシナリオ・グループの簡潔なまとめを示したのが図表0-6である(最下欄が都市集中型シナリオ)。

図表0-5日本の未来の分岐シミュレーション(イメージ)[2042年のもの]

図表0-6 6つの代表的シナリオ・グループの比較

シナリオ・グループ 人口 財政・社会保障 都市・地域 環境・資源 雇用 格差 健康 幸福 特徴
1~4 地域再生・持続可能
財政持続性に注意要
5~7 持続性不良・不満
8~11 人口持続可能・不満
12~15 × 環境持続不能
16~20 × 財政持続不能
21~23 × × × × × 都市集中・格差拡大
人口持続困難

(注)約2万通りの未来シナリオを、その分岐構造からまず23のシナリオ・グループ、最終的に6つの代表的グループに分類し、モデルで採用した149の社会指標のうち特に重要と思われる指標の動きを、4つの持続可能性(人口、財政・社会保障、都市・地域、環境・資源)と4つの領域(雇用、格差、健康、幸福)という評価軸に基づいて評価し、それぞれのグループが示す社会像の特徴を概括したものである。

「地方分散型」社会のイメージ―国際比較から

以上が今回私たちが行った、AIを活用した日本社会の未来に関する予測の概要である。研究を進めた私自身にとってもある意味で予想外だったのだが、AIによる日本の未来についての今回のシミュレーションが示したのは、日本全体の持続可能性を図っていく上で、「都市集中」―とりわけその象徴としての東京への一極集中―か「地方分散」かという分岐ないし対立軸が、もっとも本質的な分岐点ないし選択肢であるという内容だった。
言い換えれば、日本社会全体の持続可能性を考えていく上で、ヒト・モノ・カネができる限り地域で循環するような「分散型の社会システム」に転換していくことが、決定的な意味をもつということが示されたという点である。
この場合、「地方分散型シナリオ」と言っても、現在の日本はあまりにも一極集中が顕著であるため、そのイメージがつかみにくいという人が多いだろう。この点をもう少し明らかにするべく、以下では海外の例や、戦後日本の政策展開を概観することを通じ、問題の所在と今後の方向性をクリアにすることを試みたい。これは本書のテーマである「人口減少社会のデザイン」の基本的な話題にもつながるものだ。
「地方分散型」社会あるいは「持続可能な地域」というもののイメージをもつため、まず写真0-1をご覧いただきたい。

写真0-1中心部からの自動車排除と「歩いて楽しめる街」(エアランゲン[人口約10万人])。街のにぎわいと活性化にも効果あり

これはドイツのニュルンベルク郊外にあるエアランゲンという地方都市(人口約10万人)の中心部の様子である。印象的なこととして、ドイツのほとんどの都市がそうであるように、中心部から自動車を完全に排除して歩行者だけの空間にし、人々が「歩いて楽しむ」ことができ、しかもゆるやかなコミュニティ的つながりが感じられるような街になっているという点がある。
そして何より、人口10万人という中規模以下の都市でありながら、中心部が活気あるにぎわいを見せているというのが印象深く、これはここエアランゲンに限らずドイツの中小都市すべてに言えることである。残念ながら、日本での同様の規模の地方都市の中心部はいわゆるシャッター通りになり空洞化しているのがほとんどという状況だ。
一般に、ヨーロッパの都市においては1980年代前後から、都市の中心部において大胆に自動車交通を抑制し、歩行者が“歩いて楽しめる”空間をつくっていくという方向が顕著になり、現在では広く浸透している。私はほぼ毎年ドイツを中心にヨーロッパの都市や農村を訪れているが、私が見る限りそうした姿がもっとも顕著なのはドイツの都市であり、加えてデンマークなどの北欧、オランダ、フランスほか、概して中部以北のヨーロッパにおいて明瞭で、意識的な政策が進められている帰結と考えられる。
また、ここではAIに関する話題を述べているので、そうした点と関連するもう一つの例を挙げてみよう。
ドイツの北部にある都市ハノーファーは、人口約50万人の中堅都市であるが、国際見本市(メッセ)が毎年開催される街であるとともに、近年ではドイツが積極的に展開し日本でもしばしば話題となっている「インダストリー4.0」や「IoT(モノのインターネット)」の関連で言及されることの多い都市である。そうした印象からは、すべてがコンピューターによって効率化された“超ハイテク都市”といったイメージが浮かび上がるかもしれないが、実際の街の様子はそれとは真逆のものになっている。
すなわち、やはり都市の中心部からは完全に自動車が排除され、歩行者だけが歩いて楽しめる「コミュニティ空間」となっていて、そこでは様々な世代、車いすの人、ベビーカーをひく人などがゆっくりと過ごしている(写真0-2、0-3)。そうした姿は、他のドイツの都市以上に徹底しているようにも思われた。

写真0-2ハノーファー(インダストリー4.0~IoTのメッカの一つ)の街の様子―“人間の顔をしたスマートシティ”1

写真0-3ハノーファーにおける中心部からの自動車排除と「歩いて楽しめる街」―“人間の顔をしたスマートシティ”2

昨今、日本においてITや情報化などの話題とともに「スマートシティ」ということがしばしば言われるが、ドイツの場合、それはいわば“人間の顔をしたスマートシティ”であり、日本におけるスマートシティの議論が、もっぱら経済の効率化や“省エネ”といった視点を中心に論じられているのとは大きな違いがある。そしてドイツのこうした例を見れば、AIやIoT、情報化という方向が、ここで論じているような「地方分散型」システム、地域の自立性や持続可能性、そして人々の生活の質や「幸福」というテーマと結びつきうるということが具体的なイメージとして浮かび上がるだろう。
ちなみに、ドイツも日本と同様に人口減少社会であり、また本書の後の部分であらためて論じるように、そもそもヨーロッパの大半の国々が、日本より人口の絶対数も人口密度もずっと低い社会である。したがって、日本において広く見られる地方都市の空洞化や“シャッター通り”化、農村の過疎化等といった問題は、しばしば言われるように「人口減少社会」それ自体が原因なのでは決してない。むしろそれは人がどう住み、どのようなまちや地域を作り、またどのような公共政策や社会システムづくりを進めるかという、政策選択や社会構想の問題なのだ。それがまさに「人口減少社会のデザイン」というテーマである。

日本の状況―”アメリカ・モデル”の信奉と帰結
ところで、いまドイツやヨーロッパの街のありようについて述べたが、こうした点は概してアメリカの都市とヨーロッパの都市で大きく異なっている。冒頭で一部ふれたように、私はアメリカに80年代の終わり2年間と2001年の計3年ほど暮らしたが(ボストン)、アメリカの都市の場合、まず街が完全に自動車中心にできており、歩いて楽しめる空間や商店街的なものが非常に少ない。しかも貧富の差の大きさを背景に治安が悪いこともあって、中心部には(窓ガラスが割れたまま放置されているなど)荒廃したエリアやごみが散乱しているようなエリアが多く見られ、またヨーロッパに比べてカフェ的空間などのいわゆる「サード・プレイス(職場と自宅以外の居場所)」も少なく、街の“くつろいだ楽しさ”や“ゆったりした落ち着き”が欠如していると感じられることが多い。

広井 良典 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2019/9/20)、出典:出版社HP