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まちづくりとは?どのように実践する?
まちづくりは、都市の環境を改善し発展させる運動のことですが、現在、その役割が重要視されています。震災等の大規模な災害からの復興において重要な役割を担いますし、人口減少時代における都市の持続、SDGsの目標達成など、様々な課題を解決するためにはまちづくりを実践していく必要があります。今回は、まちづくりについて、入門から実践方法、実際の事例まで学べる本をご紹介します。
まちづくりの仕事ガイドブック:まちの未来をつくる63の働き方
リアルなまちづくりの様子を知る
本書は、まちづくりに関する仕事をある程度カテゴリーに分けて説明し、これからまちづくりを仕事にしようとしている若者に向けて書かれたものです。まちづくりのプロ63名からそれぞれに関わる仕事が紹介されており、まちづくりへの多様な関わりを知ることができる本となっています。
まえがき
まちづくりという言葉は戦後に生まれた若い言葉であるが、法律や制度の中で最初に定義されて使われ始めた言葉ではない。「まち」と「つくる」という二つの簡単な言葉の組み合わせは、簡単であるがゆえに、人々の口から口へと次々と渡り、今ではあちこちで使われる言葉になった。
まちの人たちとともに特産物を掘り起こして小さなビジネスを立ち上げるのも、土地の所有者とともにまちに必要なオフィスビルを開発するのもまちづくり、朝食を食べられない子どもたちに食事を提供するのも、災害後に区画整理事業を使って災害に強いまちとして復興するのもまちづくりである。取り組むべき課題も、それに対する現場の取り組みも、尽きることなく増え続けている。
この本には、こうしたまちづくりの広がりの中で生まれてきた六三の仕事が収められている。誕生して間もない仕事も多くある。まちづくりは若い言葉であり、専門職としてスタイルや方法が確立された仕事だけでなく、さまざまな課題に柔らかく創造的に取り組む仕事を多く取り上げた。
ここでは六三の仕事を五つのカテゴリーに分けて紹介している。「コミュニティとともにプロジェクトを起こす」では、コミュニティという最前線の中で取り組まれている一四の仕事を、「まちの設計・デザイン」では、まちづくりに形を与える一二の仕事を紹介する。「土地・建物を動かすビジネス」では、土地や建物を整え、流通させていく一一の仕事を、「まちづくりを支える調査・計画」では、まちの課題の分析や計画立案を支える一二の仕事を、「制度と支援のしくみをつくる」では、まちづくりそのものを支える環境をつくる一四の仕事を紹介する。五つのカテゴリーは厳密なものではなく、これらをあくまでもガイドとして使うことにより、気になる仕事を見つけてほしい。
それぞれのカテゴリーの中は三つに分かれている。「パイオニア」はそのカテゴリーの仕事や、そのカテゴリーでの経験をもとに新しい仕事を切り開いてきた開拓者へのインタビュー記事である。個人に焦点を当てた記事であり、読者は自身のキャリアを考える参考にしてほしい。
それに続くのが、それぞれの仕事の概要を見開きで紹介する仕事ガイドであり、それぞれの現場の第一線で活躍している方に執筆をお願いした。気になるところを開いて読むだけでなく、あわせて前後のページを読むことにより、さまざまな仕事のヒントを得てほしい。
「ベンチャー」は生まれたばかりの新しい仕事を取り上げている。一般解ではなく、固有の組織に焦点を当てた記事であり、読者には新しい仕事が生まれて成長するダイナミズムを感じてほしい。
まちづくりの仕事をする、ということは、自分の人生の持ち時間をまちのために使い、その対価で自分の人生を組み立てる、つまり、自分とまちの間で経済をつくるということである。それぞれの人が小さな経済をつくることが、まちの経済の仕組みのバランス回復につながり、そこに、ほとんどの日本のまちがまだつくりえていない、持続可能な経済が現れてくるはずである。
この本が、読者がまちの経済の主体となる第一歩を踏み出すきっかけになることを期待している。
二〇一六年八月 饗庭伸
目次
まえがき 饗庭伸
CHAPTER1 コミュニティとともにプロジェクトを起こす
パイオニアインタビュー
地域デザイナーという仕事をつくる
浅海義治/富山県氷見市都市・まちづくり政策監
コミュニティデザイナー
まちづくりセンター[NPO]
まちづくりセンター[自治体]
まちづくり会社
エリアマネジメント
地域おこし協力隊・集落支援員
アートコーディネーター
社会起業家支援
復興まちづくり[活動を起こす]
復興まちづくり[仕事をつくる]
まちづくりベンチャー
マンションのコミュニティデザイン 荒昌史/HITOTOWA INC.
地域の経済に向き合う 岡部友彦/コトラボ合同会社
リソースコーディネーター 友廣裕一/一般社団法人つむぎや
まちづくりのパートナー
[公民館]鹿児島県鹿屋市柳谷集落
CHAPTER2 まちの設計・デザイン
パイオニアインタビュー組織設計事務所の公共デザイン
田中互/(株)日建設計都市デザイングループ 公共領域デザイン部
建築設計事務所
工務店
組織設計事務所
ゼネコン
ランドスケープデザイン事務所
土木デザイン事務所
プロダクトデザイナー
グラフィックデザイナー/アートディレクター
まちづくりベンチャー
地域の価値を高める建築家の仕事 宮崎晃吉/HAGISO
新しい都市デザイン 連勇太朗/NPO法人モクチン企画
カフェからはじめる 岩岡孝太郎/Fab Cafe
まちづくりのパートナー
[福祉]社会福祉法人 佛子園
CHAPTER3 土地・建物を動かすビジネス
パイオニアインタビュー
疑問から都市の課題を見つけ、アイデアを生む
梶原文生/UDS株式会社
ディベロッパー
都市再生
鉄道会社
建築・不動産プロデュース[リノベーション]
建築・不動産プロデュース[コーポラティブハウス]
再開発コンサルタント[企画]
再開発コンサルタント[プロジェクト]
家守
まちづくりベンチャー
新しい“場”づくり 中村真公/株式会社ツクルバ
街に寄り添い、お金を生むまちづくり 岸本千佳/addSPICE・京都移住計画
まちづくりのパートナー
[寺院]應典院
CHAPTER4 まちづくりを支える調査・計画
パイオニアインタビュー街と人をつなぐ“メディア”としての場をつくる
籾山真人/株式会社リライト
都市計画・まちづくりコンサルタント[計画系]
都市計画・まちづくりコンサルタント[事業系]
都市計画・まちづくりコンサルタント[ワークショップ系]
大学教員・研究者[都市計画]
大学教員・研究者[建築計画]
広告会社
シンクタンク
編集者
まちづくりベンチャー
まちの未来をつくる雑誌
鈴木菜央/greenz.jp
研究と実践の両立 榊原進/NPO法人都市デザインワークス
遊びを出前するプレイワーカー 星野諭/NPO法人コドモ・ワカモノまちing
まちづくりのパートナー
[幼稚園]森のようちえん「まるたんぼう」
CHAPTER5 制度と支援のしくみをつくる
パイオニアインタビュー
すべては現場が教えてくれる
金野幸雄/一般社団法人ノオト
国の仕事[国土交通省]
国の仕事[経済産業省]
都道府県の仕事[東京都]
都道府県の仕事[島根県]
市区町村の仕事〔政令指定都市]
市区町村の仕事[特別区]
市区町村の仕事[地方都市]
地方議員
信用金庫
支援財団
まちづくりベンチャー
新しい仕事探し
ナカムラケンタ/日本仕事百貨
挑戦する中間支援NPO
菊池広人/NPO法人いわてNPO-NETサポート
市民活動と市議の両立
及川賢一/NPO法人AKITEN八王子市議
まちづくりのパートナー
[医療]暮らしの保健室
あとがき小泉瑛一
都市計画とまちづくりがわかる本
これから都市計画・まちづくりに触れるきっかけに
本書は、都市計画とまちづくりに関する百科事典であり、それぞれの項目が見開きページでまとめられています。写真や表などの図解が豊富で、注釈も添えられているので、初学者にはおすすめの一冊となっています。
第二版刊行にあたって
2011年11月に第一版を刊行してから5年以上を経過し、時点修正が必要な項目を中心に改訂し、古くなった項目を新しい項目にいくつか入れかえて、第二版にしました。
第一版の刊行間近、原稿がそろい編集作業中の2011年3月11日、東日本一帯にマグニチュード9.0という大地震が起こり、想定外の巨大津波が三陸海岸を中心に青森から茨城の太平洋沿岸を襲い、未曽有の被害をもたらしました。福島では原子力発電所がその影響で信じがたい事故を起こしました。
急きょ刊行を延期し、被災直後のことで震災復興の様相はまだ定かではなかったのですが、震災の概要と復興への取り組みの一端の紹介を追加しました。今後の都市計画・まちづくりに東日本大震災がもたらす影響は計り知れないものがあるはずと想定したからです。
それから5年余りが過ぎ、まだまだ東日本における復興まちづくりの状況は途上にあるのですが、2016年4月に九州・熊本で二度にわたる震度7の大地震が起こり、その復興まちづくりはこれからです。また、空き家への対策やスットク再生、風水害への対策や地域社会における防災など、この5年間、地方創生の流れの中で、新たなまちづくり課題も明らかになってきました。
そうした状況も反映させて、第二版では差し替え5項目を含む以下の13項目(執筆者)を新しく追加、さらに5項目を削除し、全体で100項目としました。
また、第一版の執筆者(編著者も含め)は22人でしたが、新たに5人(甲斐徹郎、杉崎和久、平田京子、藤村龍至、室崎千重)が増え、第二版は27人で分担して執筆しました。
・追加新項目と執筆者
21建築士法改正と倫理教育(平田京子)/44都市計画とまちづくりの権限(杉崎和久)/50ミニ・パブリックスによるまちづくり(伊藤雅春)/56超高齢化社会での住まいの新しいタイプ(室崎千重)/61空き家問題(野澤千絵)/62ストック再生まちづくり(藤村龍至)/68公共施設の再編(藤村龍至)/76風水害・土砂災害(室崎千重)/79中越地震の復興むらづくり(澤田雅浩)/80東日本大震災の復興まちづくり(姥浦道生)/81熊本地震の被災と復興まちづくり(柴田祐)/82災害復興への備え(加藤孝明)/96緑による新しいまちづくり(甲斐徹郎)
多くの大震災被災者の方々に鎮魂と激励のメッセージをお伝えするとともに、これからも真摯に都市計画・まちづくりに取り組み、新しい空間・環境・社会を構築する一助となることに努めていきたいと思います。
2017年4月
編著者を代表して 小林郁雄
目次
はじめに「都市計画」から「まちづくり」へ~この本の構成と読み方~
「都市計画とは」「まちづくりとは」何か?~読む前に知っておきたいしくみと流れ~
第1章 都市計画がわかる
世界の都市計画史と思潮
01 古代の都市
02 中世・ルネサンスの都市
03 バロックの都市
04 理想工業村と田園都市論
05 近隣住区論とラドバーン方式
06 グリーンベルトとニュータウン
07 ライトとル・コルビュジエ
08 ゲデスとマンフォード
09 ジェイコブズとアレグザンダー
日本の都市計画史
10 近世までの都市計画
11 幕末・明治の都市計画
12 大正・昭和戦前の都市計画
13 昭和戦後の都市計画
14 80年代・90年代の都市計画
15 2000年代の都市計画
建築基準法の基礎知識
16 建築基準法とは
17 道路(接道義務)
18 建ぺい率と容積率
19 高さ制限
20 建築確認制度
21 建築士法改正と倫理教育
都市計画の枠組み
22 都市計画法の位置付け
23 都市計画法の体系
24 都市のマスタープラン
25 区域区分(線引き)
26 地域地区(用途地域等)
27 開発許可制度
28 都市計画事業
29 地区計画
30 都市計画決定のしくみ
諸外国の都市計画制度
31 アメリカの都市計画
32 イギリスの都市計画
33 ドイツの都市計画
34 フランスの都市計画
現代都市計画の思潮
35 都市のサスティナビリティ
36 ニューアーバニズム
37 コンパクトシティ
38 シティリージョン
39 新しい公共とガバナンス
40 条例によるまちづくり
まちづくりの担い手
41 参加のデザイン
42 まちづくり協議会と町内会・自治会
43 まちづくりNPO
44 都市計画とまちづくりの権限
45 都市計画・まちづくりの専門家と資格
まちづくりの進め方
46 まちづくりとGIS
47 まちを発見する
48 住民参加の手法
49 ワークショップ
50 ミニ・パブリックスによるまちづくり
訪ねて欲しい都市空間
第2章 テーマ別まちづくりがわかる
中心市街地の再生まちづくり
51 中心市街地の活性化
52 大規模集客施設の郊外立地
53 まちなか居住
超高齢社会のまちづくり
54 ユニバーサルデザインとまちづくり
55 地域包括ケアとCCRC
56 超高齢社会での住まいの新しいタイプ
57 ホームレス一居住保障からまちづくりへ
人口減少社会のまちづくり
58 人口減少社会の到来
59 ニュータウン再生
60 限界集落
61 空き家問題
62 ストック再生まちづくり
都市のマネジメント
63 地区独自のルールづくり
64 エリアマネジメント
65 PFIとPPP
66 コミュニティビジネスと指定管理者制度
67 まちづくりファンド
68 公共施設の再編
交通まちづくり
69 交通まちづくりと総合交通政策
70 TDMとモビリティ・マネジメント
71 次世代型路面電車(LRT)
72 コミュニティバス
防災・復興まちづくり
73 ハザードマップとDIG
74 防災都市づくり計画
75 密集市街地整備
76 風水害・土砂災害
77 復興基金
78 阪神・淡路大震災の復興まちづくり
79 中越地震の復興むらづくり
80 東日本大震災の復興まちづくり
81 熊本地震の被災と復興まちづくり
82 災害復興への備え
83 地域防災計画と地域社会における防災
84 震災復興まちづくり模擬訓練
防犯のまちづくり
85 防犯環境設計と防犯まちづくり
86 犯罪発生マップと地域安全マップ
87 防犯パトロールと防犯カメラ
景観まちづくり
88 歴史的町並み保存と川越伝建地区
89 横浜の都市デザイン活動
90 景観緑三法
91 京都の景観制作
92 景観資源を生かす地域づくり
環境共生のまちづくり
93 地球温暖化対策
94 ヒートアイランド現象
95 低炭素型社会実現への再生可能エネルギー利用
96 緑によるまちの自己組織化
緑・水の保全と再生
97 流域圏と総合治水
98 緑地保全の手法
99 里山保全
100 コミュニティガーデン
訪ねてほしい都市空間
参考文献
出典一覧
索引
編著者・著者紹介
はじめに「都市計画」から「まちづくり」へ
~この本の構成と読み方~
あなたは大学に入学したばかりの新入生ですか?それとも就活に忙しい建築学生ですか?あるいは都市計画とまちづくりを改めて勉強し直したい社会人の方でしょうか?この本は、そうした方々のために「都市計画」「まちづくり」を理解してもらおうとしてつくった入門書です。
「都市計画」のもとになっている都市計画法は、古く1919(大正8)年に制定されましたが、現在の法は1968(昭和43)年に新たに抜本的に組み立て直されたものです。とはいっても、すでに半世紀ほど前のことで、わが国が高度成長を進めていく中で、都市をいかに開発整備するかという国家全体の調和と進展のしくみが、これまでの都市計画の役割でした。
それが1980年以降、地域主権の時代の始まりとともに、まちの生活環境の運営維持を進める運動としての「まちづくり」が都市の主要課題になってきています。その基本は成熟社会・人口減少時代のまちのあり方、そこでの人々の暮らしへの取り組み方法です。
都市計画とまちづくり、それぞれ個別に解説された本は数多くありますが、一連の流れの中で統合的な視点から解説しているのが、この本の特徴です。
都市計画がわかる
最初に、世界と日本の都市計画の歴史を、実際の都市の成り立ちからその計画思潮までを解説しています。本文の01~15を読めば、古代から現代まで、西洋と日本の都市計画が概観できます。
次に、日本の都市計画制度を支える建築基準法と都市計画法の基礎的な必須項目が16~30に整理してあります。アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスといった諸外国における制度も31~34にまとめています。
さらに、いくつかの現代都市計画の新たな課題(35~40)から、これまでの都市計画の取り組みでは対応困難な問題への道筋として「まちづくり」を位置付け、その担い手と進め方について41~50で解説しています。
第1章の「都市計画がわかる」はこうした流れで構成されていますが、もちろん、参照項目として個別に読んでも理解できる内容になっています。
テーマ別まちづくりがわかる
第2章は、まさに現代の「都市計画→まちづくり」が直面しているさまざまなテーマに沿って、各項目の解説をしています。
中心市街地の再生、超高齢社会、人口減少社会、マネジメント、交通、防災・復興、防犯、景観、環境共生、緑・水という10のまちづくり(なんとまあ、多面多岐にわたって「まちづくり」が必要なことでしょう!)をカバーして50項目(51~100)あります。
「都市計画」の中で対応されてきた項目も数多くありますが、半分以上は「まちづくり」としか言いようがない項目であり、これからの時代に対応・解決しなければならない21世紀のテーマです。
都市計画からまちづくりへ
「第1章 都市計画がわかる」「第2章 まちづくりがわかる」を通して読んでいただければ、この100年のわが国の「都市計画からまちづくりへ」という動きが理解できるかと思います。それがこの本の狙いでもあります。
都市計画もまちづくりも、都市の地域環境、地域経済、地域社会である「社区」に基盤を置いたコンパクトタウン(自律生活圏)が基本で、生活圏での活動や空間のありようが焦点となります。
この本は27人の執筆者による共同のものです。多くは若い研究者たちです。都市計画からまちづくりへの転換にこれからどのように対処していくべきか、人生をかけた探求が求められています。
しかし、都市は楽しく、奥深いところでもあります。編著者6名がコラムとして「訪ねてほしい都市空間」を楽しく書きました。是非、そうした実際の都市の空間を、まちづくりの現場を、訪ねてみてください。「現場に真実はあり、細部に神は宿る」からです。
「都市計画とは」「まちづくりとは、何か?
~読む前に知っておきたいしくみと流れ〜
「都市計画」とは?
一般に「都市計画」という言葉には、広くは3つの意味があります。「都市総合計画」と「法定都市計画」と「まちづくり」です。近年まで都市計画といえば、長期的な都市の将来像を示す目標としての「都市総合計画」と、都市計画法に基づき都市の形態・事業を規律化する制度としての「法定都市計画」で、大方はカバーできました。
しかし、それだけでは都市活動の複雑化・多様化に対応しきれません。同時に、国土全体一律の中央集権的開発規制や誘導計画から、地区の特色を重視する自律圏を基本にした地域主権時代が始まります。こうした背景に合わせて、1980年の地区計画の制度化以降、「都市計画」の変転が始まりました。
とくに、1995年の阪神・淡路大震災以後の震災復興において、市民まちづくりが果たした大きな役割から、市民による運動としての「まちづくり」への関心が高まり、都市計画からまちづくりへという大きな流れが、21世紀の最も顕著な都市における政策の動きとなります。
「まちづくり」とは?
「まちづくり」という言葉は現在さまざまな意味で使われています。福祉のまちづくり、緑のまちづくり、まちづくり条例、まちづくり会社など。「まち」を「つくる」とは、いったい何なのでしょうか?都市計画とは何がどう違うのでしょうか?
台湾では「社区営造」といいます。社区はコミュニティ(まち)のことで、営は経営、造は建造で、ソフトとハードの改善活動(つくり)です。文化・教育・健康なども含めて、地区の総合的な整備開発保全の活動を視野に入れています。アメリカでは「Community Development」。地域社会Communityの開発Developmentが「まちづくり」に相当します。開発には当然、ハードな土建業的デベロップメントだけでなく、社会開発・能力開発といったソフトな取りも含んでいます。
じつは台湾の「社区営造」は、1990年代の初めに日本の「まちづくり」を参考にした社区総体営造連動に始まり、1999年の921集集大地震からの復興まちづくり活動以降急速に一般化してきました。中国本土においても2008年の四川省512汝川地震からの復興活動以来、台湾同様「社区営造」が使われ始めています。
またイギリス・アメリカのCommunity Developmentとはかなりニュアンスが異なり、1995年の阪神・淡路大震災からの復興まちづくりを見聞した多くの学者たちは「machizukuri」とそのまま使っている場合が多いようです。
「まちづくり」の定義
「まちづくり」は運動、「都市計画」は制度、と考えるとします。比較対照して記せば、
まちづくり: 地域における、市民による、自律的継続的な、環境改善運動
都市計画: 国家における、政府による、統一的連続的な、環境形成制度
となります。
この場合、もう少し限定的にいえば「市民まちづくり」とするべきでしょう。そして、「制度(法律)」はどのようにつくられるか、ではなくて、どのように使われるか、が問題です。それは、「技術」でも「社会」でも、もちろん「計画」でもそうで、どのように使うかというプロセス・運動が重要となります。
都市計画(City Planning)は幻想(image)の創造(あるいは想像)です。その20世紀最大の成果が「田園都市(Garden City)」と、その継承であるニュータウン政策であり、大いなる錯覚でした。論理的計画目標はあってもプロセス継続思考はなく、完璧な完成像はあっても持続性への対応がありません。計画は完成しますが、その瞬間から、ちょうどソビエト共産主義の瓦解のように、崩壊が始まります。
一方、まちづくり(Machizukuri)は運動(Movement)の継続(あわせて自律)です。21世紀のめざすべき都市像は「自律生活圏の多重ネットワーク社会」であり、その自律圏ネット社会をめざす市民の環境改善運動が「市民まちづくり」です。
「まちづくり」の始まり
「まちづくり」を考えるとき、わが国における転機は1980(昭和55)年でした。都市計画法が改正され全国一律の原則から、地域特性に応じた対応が可能な地区計画制度が導入された年です。神戸市では都市景観条例が前々年(1978)に、まちづくり条例が翌年(1981)に制定されています。35年以上前のことです。
1978年に神奈川県知事だった長洲一二さんが「地方の時代」を雑誌『世界』10月号(岩波書店)に発表し、時は民間活力活用、小さな政府、地域が主体となる社会への傾斜が急でした。
それは「まちづくり=地域における、市民による、自律的継続的な、環境改善運動」の始まりを告げる時代でした。「市街地整備のための環境カルテ」を神戸市が策定、市民に公表(1978)するなど、地域からのまちづくりとして都市計画を考えることを、基礎自治体において真剣に取り組み始めた頃、1968年の新都市計画法制定から12年後でした。
その頃、イギリスではサッチャー政権が1979年に始まり(-90)、アメリカではレーガン大統領が81年に政権につきました(-89)。日本では中曽根民活内閣が少し遅れて82年に始まりました(-87)。イギリス・アメリカ・日本と肩を並べて、高度経済成長以後の新たな社会経をめざしていました。政府主導・中央集権から民間活力・地域主権への転換です。都市計画から「まちづくり」への転換でもあり、NPO・ソーシャルエンタープライズの登場でもありました。
イギリス・アメリカがその後、その路線を法制化し、社会的にも一般化していったのに対し、残念ながら、日本では2001年の小泉改革内閣の突然の成立を待たねばなりません。
日本の転換が遅れたその主因は、経済バブルです。日本の「まちづくり」を10年(20年かもしれません)遅らせたのは、わが国の経済バブル期(1986-91頃)と、それに続く空白の10年といわれるバブル経済崩壊後の停滞した経済社会情勢といってよいでしょう。バブル景気は、地道な密集市街地都市環境整備への取り組み、すなわち、まちづくりへの取り組みを、東京発の地上げ軍団があざ笑い、バブルがはじけた後は、ひたすら縮小ちぢみ志向になり、まちづくりどころではない、ということとなりました。
阪神・淡路大震災/東日本大震災と「まちづくり」
そうした時代の流れの中で、阪神・淡路大震災は起こりました。「まちづくり」のスタートである1980年の地区計画制度から15年後、1995年1月のことでした。
まちの再生・復興まちづくりに向けて、これまでの都市計画行政ではにっちもさっちもいきません。それでも、これまでの都市計画法制の特例で対応しようという復旧・復興方針の中で、「二段階都市計画決定」という、言い訳じみたそれなりに巧妙な(既存システムを守りながら、市民まちづくりを組み込んでいく)方式を、行政も市民も納得していくことになったのです。
振り返って、1980年以降の「まちづくり」へのわが国での取り組みで、コミュニティカルテ(地域生活環境診断)から環境カルテ、CRP(Community Renewal Program)、ころがし方式、住宅地区更新事業・住環境整備モデル事業、などといったさまざまな当時のキーワードが思い出されます。法律的対応、事業的な組み立て、住民参加システムなど今から考えても、コンピュータやインターネットといった技術なしに、いろいろな検討がされたことを記憶しています。しかし、当時の思考外であった「主体」(地域マネジメントの担い手)へのアプローチ不足が、すべての敗因であったかもしれません。
そして、2011年3月に東日本大震災が起こり、かつてない巨大津波で三陸海岸は壊滅的な被害を受けました。この広範囲、全面的な被災は、福島原発事故も含めて、都市・地域のあり方、都市計画・まちづくりのあり方に、根底からの見直しを迫っています。やっと復興への道筋が5年経って見えてきた頃に、熊本でも大地震が起こりました(2016年4月)。
東日本大震災での復興構想会議などの論調や、熊本地震からの復興においても、被災地の復興に被災地域自らの市民まちづくりの重要性が指摘されています。これは阪神・淡路大震災復興において芽生えた市民まちづくりの結実であることは明白です。
さらに、そうした復興市民まちづくりは被災地内に止まらず、臨海・内陸の地域連携や都市・田園の相互交流の中で、新たな地域まちづくり像をつくりだして行くことが期待されます。というか、そうした地域構造の変革なしにわが国の未来はないことを、これらの災害復興は示しています。
時代の変化を見据える
1951年、サンフランシスコ講和条約署名(1952年発効)によって独立国家の体制が整った日本は、建築基準法を制定(1950)し、絶対的住宅不足に住宅金融公庫(1950)、公営住宅法(51)、日本住宅公団(55)という住宅建設供給の基本(公庫・公活・公団)となる三本柱が用意され、それらは住宅金融支援機構(2007)、住生活基本法(06)、UR都市再生機構(04)と姿を変え、ほぼ50年間にわたる役割を終えました。
都市総合計画における体制変化はもっと明確です。1962年に、全国総合開発計画(全総)が新産工特(新産業都市・工業整備特別地域)をひっさげ、拠点開発構想を高度経済成長の要と位置付けましたが、10年の計画期間を経ずして新たな大型プロジェクト構想をめざした新全総に改定されました(1969)。さらに高度成長から転換して定住構想をめざした三全総(1977)が、87年の四全総では交流ネットワーク構想へと目標を転換しました。98年の五全総はもはや全国総合開発という枠組みを捨て、21世紀の国土のグランドデザインをめざしました。そして、全総から50年を経ずに、2005年に国土形成計画へと姿を変えました。
こうして都市計画からまちづくりへと時代は変転してきていますが、古くなった新都市計画法は約50年を経て、時代の変化の中で、賞味期限切れの時を迎えています。
人口減少時代において
21世紀を迎え、わが国の都市計画をめぐる社会状況は多くの変化を見せ始めています。いわゆる世の中の変わり目です。最大の変化はわが国誕生以来、たぶん初めての人口減少社会の到来です。その影響が都市のありように直接現れてくるのは20~30年後と考えられていますが、それまでに団塊世代の高齢化に伴う人口の波」は確実に社会経済体制に変化を引き起こします。それは、わが国の1990年代後半以降の経済停滞の根本的な原因であるとされています(藻谷浩介『デフレの正体』角川書店、2010より)。
住宅建設供給も国土総合開発も、市街地再開発もニュータウン開発も、戦後からこれまですべての都市計画政策は人口増加、都市集中への対応が最大要因でした。それが2004年~2008年をピークにわが国は人口減少時代を迎え、これまでの都市計画が担ってきた役割は終わりました。都市の中心市街地と郊外住宅地の衰退は人口空洞化の最も端的な現れであり、すでに1960年代以降、都市に人口移動した結果の地方・田舎の「都市計画」時代の課題が、都市に始まったといえます。
日本の総人口は2008(平成20)年の1億2808万人(国勢調査及び人口動態統計の値を用いて算出した補正人口/総務省統計局)をピークにして減少をはじめています。国勢調査でも、2005(平成17)年1億2,777万人→2010(平成22)年1億2,806万人→2015(平成27)年1億2,710万人と推移しており、次頁の図のように今後急激な人口減少時代を迎えようとしています。(この図は、内閣府の「選択する未来」委員会(第2回140214)資料として事務局から提出された「人口動態について」の中の「長期的な人口の推移と将来推計」で、2050年には日本の総人口は1億人を割り込み、2060年には8,674万人高齢化率40%、2100年には5,000万人(中位推計)を下回るとしています。)
さらに、21世紀になって地球規模でのCO2増大による温暖化などの環境問題、持続可性を中心にした省エネルギー社会や自然災害からの減災社会といったことが、都市問題・都市計画の主要な課題となる時代になりました。
住民参加から市民主体のまちづくりへ
地域における都市計画事業や地域整備政策に、住民の意向を反映させる「住民参加のまちづくり」から、行政主導ではなく住民を中心にした地域市民がそれらに主体的に取り組む「市民主体のまちづくり」が、参加型の次の段階です。行政のほうからいえば「協働型のまちづくり」ということになります。
都市計画の時代の後を継ぐまちづくりの時代は、環境改善運動を進める主体は誰か、という時代でもあります。そのための法制化(まちづくり法)とともに、より広範な地域主体(CBO=Community Based Organization: 地域を基盤とする組織)とより多様な市民主体(まちづくりNPO=Non Profit Organization: 非営利な市民組織)による地域主権・市民主権のまちづくりの時代です。(小林郁雄)
まちづくりプロジェクトの教科書
新しい時代の「まちづくり」を考える
本書は、これからの新しい時代に対応可能な課題解決型の「まちづくりプロジェクト」の立ち上げや、実践に必要なノウハウが提供されており、その改善や持続可能な発展にも活用できる方法論が紹介されています。また、第1章から読み進めても、必要な箇所のみ部分的に読んでも理解ができる構成となっています。
はじめに
近年、「まちづくり」という言葉を耳にする機会が多くなりました。その意味するところは、私たちそれぞれの解釈に委ねられている部分が大きく、ある人は「地域おこし」のようなニュアンスでとらえているでしょうし、またある人は「都市開発」、またある人は「暮らしやすさの向上」と考えているでしょう。「まちづくり」は、非常に多義的で、つかみどころのない言葉だといえます。
本書を読み進めるうえで、「まちづくり」をきちんと定義しておかなければいけません。本書では、「まちづくり」とは、地域課題の解決や生活の質の向上のための活動を住民らが主体的に行うこと、と定義します。
では、本書のタイトルでもある「まちづくりプロジェクト」についても考えてみましょう。たとえば、商店街が毎夏に感謝セールを開いているとしましょう。これは「まちづくりプロジェクト」でしょうか。毎夏の神社のお祭りであればどうでしょうか。
本書では、「まちづくりプロジェクト」とは、定常的なルーチンワークとは異なるテーマ型の活動、と定義します。先に挙げたセールやお祭りなどのように、定期的に繰り返し行う行事も、もちろん地域活性化への貢献度は大きいでしょう。しかし、定常化された行事は、前回までの取組みのコピーとして実施できてしまう側面もあるので、本書では、これらのルーチンワークと「まちづくりプロジェクト」は異なるものと考えておきます。ちなみに、ルーチンワークである行事を初めて行う場合は、プロジェクトとして着手することになることは覚えておきましょう。
まちづくりプロジェクトの歴史
いま、各地でテーマ型の「まちづくりプロジェクト」が盛んに行われています。より正確にいうとすれば、私たちの暮らしは「まちづくりプロジェクト」を行わなければならない状況に直面しています。その原点は、第二次世界大戦後からの復興に尽力した先人たちの数々の苦悩にあるでしょう。
戦時中、我が国のすべての集落に町内会や部落会がつくられました。これは「隣保団結」により、戦争を追認する「翼賛」体制を実現するための組織です。この時代の町内会は、戦争のための末端組織にすぎず、国から与えられた組織による与えられた活動であり、「まちづくりプロジェクト」とはほど遠いものです。
終戦後、GHQの指導により町内会は解散させられましたが、戦後復興の中心的な存在は町内会でした。たとえば農村部では、多くの人々が仕事を得るために職のある都市部へと移り住みました。中学を卒業すると都市部に移り住んで働く、という人生設計が主流となり、多くの若者が農村部から流出しました。農村部では残された人材でどのように集落や農地を維持するかが課題となりましたが、その際町内会はこれらの課題に向き合う組織として再結成されました。ある集落ではさらなる土地を開拓し、またある集落では、地域産業を生み出すために汗水を流したことでしょう。これは、まさに地域の課題を解決するために、住民が主体的に取り組んだ「まちづくりプロジェクト」です。
一方で、戦後の都市部では全国各地から新たな居住者が殺到しましたが、この際に親睦を深めながら近隣どうしの関係をつくり出したのも町内会でした。さらには、都市の復興や開発に伴い、都市計画道路や公園などが多数つくられ、これに伴って立退きを余儀なくされた人たちも少なくありませんが、これらへの反対運動や自治体との交渉の窓口となったのも町内会でした。これらも「まちづくりプロジェクト」であるといえるでしょう。
つまり、私たちはごく身近な町内会によって、地域課題の解決のための「まちづくりプロジェクト」が行われてきたことを目撃してきたといえます。残念なことに、最近の町内会では、広報紙の配布やごみ集積所の管理、防犯・防災の見回り活動などの「ルーチンワーク」に追われ、かつて盛んだった「まちづくりプロジェクト」の担い手としての姿は見えづらくなってきました。
人口減少時代とまちづくりプロジェクト
私たちの暮らしは「まちづくりプロジェクト」を行わなければならない状況に直面しているなかで、先ほど紹介した戦後の日本と現代の日本には異なる点もあります。かつての我が国には、画一的な価値観やライフスタイルが存在し、経済成長や国際社会の仲間入りといった社会全体の共通目標がありました。さらには先人を敬う儒教的な考えかたをもつ人が多く、トップダウンかつ全員参加で課題解決に取り組むことが可能でした。しかしながら現在の我が国は、多様な価値観やライフスタイル、所得格差が存在し、そして何よりも人口減少時代にすでに突入しており、意識・時間・労力などあらゆる面で、誰もが同じだけの力を発揮できなくなっています。現実問題としては、これが町内会の加入率の低下なども生んでおり、旧来型の地域活動は限界を迎えています。
これらの課題を解決するための新たな担い手としては、NPOなどの活躍もみられます。しかしながら、町内会などの地域コミュニティ組織とNPOの双方の活動は、なかなか融合していない現状にもあります。
我が国が直面している人口減少については、もう少し補足しておきます。
我が国の人口減少は、40年以上前から推計できており、そのこと自体は決して新しい問題ではありません。65歳以上の老年人口は横ばいであり、地域社会のなかでの高齢者の活躍のフィールドが拡大しつつあるのも好材料です。ここで問題なのは、15~64歳の生産年齢人口は2015年の7728万人から50年間で4529万人へと4割以上減少すると推計されていることです。これはすなわち、現在の経済活動や地域活動のスケールを、現在と同じ方法では維持できないということを意味しています。
加えて、我が国にとってこれほどの人口減少は、有史以来初めての出来事であることも重要です。先人たちがこれまで培ってきたまちづくりのノウハウは、右肩上がりの時代に築かれたものにすぎないため、私たちがいまだ経験したことのない極端な人口減少時代においては、そのノウハウさえ生かしきれない可能性があるのです。
これからのまちづくりのために
さて、いまを生きる私たちに課せられた使命は、地域課題の解決に私たち自身が取り組むことによって、少しでも心豊かな生活を送る社会を後世に受け継いでいくことにあります。私たちが人口減少下の社会においても私たち自身のもてる力を総動員できるような方法を手にすることによって、この社会の幸せを持続し、発展させ続けることができるはずです。これこそが、「まちづくり」の現代的な使命です。
しかし、残念なことに、このような使命感をもって「まちづくり」に新たに取り組もうとしても、その道しるべとなるような方法論は体系的に整理されていない現状にあります。
そこで本書では、これからの新しい時代に対応できる課題解決型の「まちづくりプロジェクト」の立上げや実践に必要なノウハウを体系的に提供し、その改善や持続可能な発展にも活用できる方法論を紹介します。
「まちづくりプロジェクト」の実践に取り組む皆さんにとって、本書はまちづくりプロジェクトを進めていくうえでの指針となるだけではなく、これまで十分な関係を構築できていなかった地域コミュニティ組織とNPOなどの相互の活動の関係づくり、あるいはこれらの組織と自治体との協働の方法のヒントにもなるでしょう。また、「まちづくりプロジェクト」の支援を通じて市民協働社会を実現する立場にある自治体にとっては、協働事業の立案・推進のための要点や助成金の審査のポイントが列挙されている指南書としても、本書を活用していただけるものと考えています。
本書の読みかた
まちづくりプロジェクトに初めて着手する読者には、第1章から第8章までを順に読み進めていただくと、まちづくりプロジェクトの立上げから終結までのプロセスが理解できます。また、部分的なスキルアップや知識の習得、取組みの改善を図ろうとする場合は、章ごとに読んでいただくこともできます。
第1章:まちづくりプロジェクトを理解する
第1章は、まちづくりプロジェクトの基礎を理解するために、「まちづくり」や「プロジェクト」がどのようなものなのかについて紹介しています。「まちづくりプロジェクト」が定常的なルーチンワークとはどのような点で異なるのか、理解することを目指します。
第2章~第8章:まちづくりプロジェクトの進めかた
第2章「まちづくりプロジェクトの始めかた」では、実際にまちづくり活動に着手する場合の視点をまとめています。プロジェクトの目標の設定方法などについて取り上げますが、目標が適切に設定できるようになると、活動時の軌道修正や活動後の評価も可能となるため、プロジェクトの全工程を通じて重要な知識となるでしょう。また、ひとたび始めたプロジェクトがどのような状況になると頓挫してしまうか、どうすればそれを防ぐことができるのかについても紹介します。
第3章では、「地域課題に向き合う」方法を取り上げています。多くのまちづくりプロジェクトは、特定の地域課題の解決に取り組んでいますが、私たちが暮らしている地域社会には、誰にも見向きされていないような地域課題も多くあります。このような小さな課題を含め、私たちの身の回りに存在している地域課題を網羅的に見渡す方法や、まちづくりプロジェクトに着手する際の戦略づくりの方法についても紹介します。
第4章は、「地域資源を取り入れる」方法です。第3章で紹介した課題解決型の取組みは、“マイナスの面をプラスに転化する”ものですが、この章では、生活の質の向上を目指す取組みの方法として、地域資源の活用に目を向けます。私たちの身の回りにある6種類の地域資源について紹介し、これらを上手に探索し、“さらなるプラスをもたらす”ために活用できる方法論を提示します。
第5章は、「まちづくりプロジェクトの企画書づくり」についてです。すべてのまちづくり活動は、地域社会との接点をもちながら私たちの暮らしを維持したり、地域社会の課題を解決したりするものです。加えて、第6章で紹介するような仲間集めや資金集めを実現するためには、まちづくりプロジェクトの企画の内容は多くの人に伝える必要があります。そこでこの章では、企画書の基本的な構成要素について紹介し、企画書づくりが容易に行えるようなノウハウの習得を目指します。このなかでは、まちづくりプロジェクトの企画書の例をいくつか示し、どれが優れた企画書であるか一緒に考えてみます。
第6章「まちづくりプロジェクトの仲間集め」では、プロジェクトの実施に不可欠な仲間集めや資金集めに加え、プロジェクトの広報についても紹介し、「伝えること」がプロジェクトの波及において重要であることを理解します。
さて、第7章は「まちづくりプロジェクトの準備と実践」です。第6章までのプロセスを丁寧に踏んでいれば、準備や実践は恐れることは何もありません。それでも、準備期間の途中で軌道修正の必要が生じることもあるので、その方法について紹介し、加えて実践中の注意事項なども確認していきます。
一連の実践が終わることによって、プロジェクトは終結します。第8章「まちづくりプロジェクトの終わりかた」では、事後評価のしかたに加え、次のプロジェクトの立上げに向けた視点を整理します。
第9章、第10章:まちづくりプロジェクトを発展させる
第9章の組織論、第10章の協働論については、本来であればそれぞれ1冊の学術書として成り立つトピックのなかから、要点をかいつまんで紹介しています。まちづくりプロジェクトの企画や実践のうえで、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
第9章は、「まちづくりプロジェクトの実行組織」について紹介しています。プロジェクトの1期目を終えた段階で、2期目の企画や実践に向けて別の組織へと移行することもあります。それぞれの組織形態がプロジェクトに取り組むうえでの得手・不得手を知っておくことで、取組みの方針が変わっていくこともあるので、ここで紹介しておきます。
第10章の「市民協働によるまちづくりプロジェクト」では、他団体や自治体などとの協働の方法について理解することを目指します。対話による協働の場づくりや、近年主流になりつつある公募型の市民協働事業なども紹介して、プロジェクトの発展の方法について考えます。
なお、本書で扱うプロジェクトの進めかたの多くの部分は、プロジェクトマネジメントの国際的な知識体系の1つである「PMBOK®(ピンボック)」に準拠させています。しかし、PMBOK®の知識体系は理解のうえでも実践のうえでも難易度が高く、これからのまちづくりが目指す「もてる力の総動員」とはややかけ離れています。本書では必要に応じて、PMBOK®基準によるものとそうでないものを区別し、言及しながら、解説を進めていくこととします。
もくじ
はじめに
本書の読みかた
第1章 まちづくりプロジェクトとはどんなものか
1 まちづくりとは何か
2 プロジェクトとは何か
第2章 まちづくりプロジェクトの始めかた
1 目的・目標の明確化
2 目的の設定
3 目標の設定
4 目的・目標の妥当性
5 統合の仕組みづくり
6 プロジェクトの頓挫
7 プロジェクトの2つの始めかた
第3章 地域課題に向き合う
1 地域課題の探索
2 地域が抱える強みと弱み
3 地域課題の戦略化
第4章 地域資源を取り入れる
1 地域資源の特徴
2 地域資源の種類
3 地域資源の探しかた
第5章 企画書をつくる
1 企画書の役割
2 6W2H
3 テーマとミッション
4 わるい企画書とよい企画書
5 ステークホルダー・マネジメント
第6章 仲間を集める
1 仲間とは誰か
2 資金計画の立案
3 広報の意義と方法
第7章 プロジェクトの実践
1 進捗の管理
2 エスキースチェック
3 プロジェクトの実行
4 プロジェクトの記録作成と公開
第8章 プロジェクトの終わりかた
1 事後評価の意義
2 事後評価のチェックポイント
3 次の展開へ
第9章 まちづくりプロジェクトの実行組織
1 組織の違いによる得手不得手
2 町内会などの地縁組織の特徴
3 商店街などの組合組織の特徴
4 協議会などのネットワーク型組織の特徴
5 NPO法人や株式会社などの組織の特徴
第10章 市民協働によるまちづくりプロジェクト
1 市民協働の方法
2 協働しやすい住民組織づくり
3 協働しやすい行政機構づくり
4 対話の場の構築
5 プロポーザルによるまちづくり
おわりに
さくいん
人口減少時代の都市 – 成熟型のまちづくりへ (中公新書)
人口減少時代における都市の行方を模索する
本書は、経済の低成長や人口減少の時代を迎える中で、いかに都市を持続させるかということが著されています。大都市のみならず、地方都市の事例も列挙されており、テンポよく読み進められるだけでなく、初学者でも理解しやすい入門書となっています。
まえがき
日本の都市はいま、大きな岐路に立っている。戦後数十年、都市はずっと経済成長、人口増加、地価上昇という三条件の揃った右肩上がりの状況で成長してきた。しかし今後、こうした三条件は反転し、低成長、人口減少、地価下落という新たな三条件下で、私たちは生きていかねばならない。ところが、日本のどの自治体もまだ、長期にわたって右肩下がりの条件下で都市を運営する経験を有していない。人口減少時代の都市政策/都市経営は、だれにとってもまったくの未知数だ。本書はささやかながら、それを模索する試みである。
筆者は過去数年間、人口減少に備えることの必要性を、自治体の首長や議会議員の方々に説く機会があったが、いずれも露骨に嫌な顔をされた経験がある。たしかに人口減少のなかに、明るい将来を見出すのは難しい。どちらかと言えば、経済規模の縮小、地価の下落、空き家・空きビルの増加、税収減と財政悪化など、気が滅入るような話ばかりだ。人口減少を語って住民に夢を振りまくなど、到底できない相談である。首長や議員の方々が、人口減少という話題に顔をしかめるのも無理はない。
しかし、いつまでも「見たくない現実」から目を背けたままでいいのだろうか。人口減少は、出生率の大幅な上昇や移民政策の大転換が起きない限り、確実にやってくる未来である。人口減少を見て見ぬふりしてやり過ごすことも可能だが、その分、必要な対応が遅れていき、状況を確実に悪化させることになる。
人口減少の進展とともに、郊外から徐々に都市機能が失われはじめ、ニュータウンなど新興住宅地区では、放っておくと空き家、空き団地、空きビルが虫食い状に広がっていくだろう。一定の人口密度を前提としたコンビニなどの商業機能がやがて成り立たなくなり、撤退が相次ぐ。道路沿いには延々と、撤退して廃墟となったロードサイド店舗が無残な姿をさらすことになりかねない。
都心部も例外ではない。一見、以前と変わらないようにみえる中心街区でも、老朽化したビルではテナントが撤退して空っぽになっていたり、新しいビルでも空きフロアが目立つようになったりしていくだろう。今後も大都市圏の中心街では、都市の新陳代謝が進むだろうが、地方都市では建物の更新投資もままならなくなり、老朽化したビルがそのまま放置され、都市環境が悪化する事態も想定される。
こうして都市における経済活動が低下していくと、都市財政に悪影響を及ぼす。都市からあがってくる税収が低下するからだ。しかし、都市規模がそのままであれば、社会資本をこれまで通り維持しつづけなければならない。老朽化しつつある社会資本の維持更新費用は、都市財政に大きな圧迫要因となっていく。さらに、高齢化にともなう社会福祉支出の増加が追い打ちをかける。結果として支出を賄えず、財政危機に陥る自治体が次々と出てきてもおかしくはない。
まさに悪夢である。しかし、実は人口減少は悪いことばかりではない。戦後を振り返ってみれば、むしろ都市への急速な人口集中(「過密」)こそが、日本の都市問題の主要因だったからである。高度成長にともなって都市で企業活動が盛んになり、働き口を求めて農村から大量に人々が都市に移動した。急速な人口増加に対し、住宅、保育所、小・中学校などの教育施設、上下水道、道路などの社会資本整備が追いつかなかった。道路の慢性的な渋滞、通勤通学時の公共交通機関の激しい混雑、環境汚染、ごみ問題など、都市の急速な成長にともなう諸問題が、高度成長期以降、一挙に噴出した。
都市計画はあってなきがごとしであり、都市は経済活動のための都市空間づくりが優先された。緑は伐採され、歴史的建造物はたやすく壊され、全国的に特徴のない、均質な都市空間が生み出された。しかも欧米の都市のように、都市と農村が画然と区別されず、郊外に向けて都市がだらだらと広がっていくスプロール化現象が進行した。国際的にみて日本の住宅はきわめて狭小であり、都市の緑地比率も低い。都市公園の貧弱さにみられるように、人々の居住空間を改善するための公的投資は、つねに後回しにされてきた。日本は所得水準こそ飛躍的に上昇したが、生活の質は決して同じスピードで上昇したとはいえない。
このような都市の欠陥が日本で生じたのは、戦後に、他の先進国に類をみない勢いで流入してきた大量の人口を捌き、都市経済を急速に成長させようとしたためであった。逆にいえば今後、人口減少の本格化につれて、これら欠陥を生じさせた人口増加圧力は緩むことになる。したがって今後は戦後初めて、都市における生活の質向上に向けた、空間的余裕が与えられることになる。これは、大きなチャンスと考えることはできないだろうか。
もちろん、漫然と本格的な人口減少を迎えても、前述の悪夢が現実のものとなるだけである。チャンスを生かすには、人口減少時代にふさわしい都市政策/都市経営に打って出る必要がある。それを、本書では「成熟型のまちづくり」、あるいは「成熟型都市経営」と呼ぶ。
必要なのは、人口減少時代にふさわしい都市空間の再編である。つまり、これまでスプロール化し、拡大してきた都市の前線を、いかに人口減少に合わせて撤退できるか、これが試金石となる。本書では、都市の戦略的な縮小を「縮退」と呼んでいる。縮退が必要なのは、拡大しきった都市規模をそのまま維持すれば、減少していく税収で都市を支えきれなくなるからだ。だからといって中心部への強制的な移住を進めるのは、市民の居住の自由を奪うことになり、是非とも避けねばならない。賢い撤退戦略とは、市民の自発的意思によりながら、経済活動と居住を複数の都市拠点に時間をかけて誘導し、都市の活力を維持しつづける方途に他ならない。その途上では、公共施設や社会資本も再編していくことになる。単に戦線を縮小するだけでなく、拠点への新しい投資が必要になるのは、そのためである。
人口減少は、これまでになかったチャンスを私たちにもたらしてくれる。都市における開発圧力が弱まれば、空き地・空き家を集約しつつ住宅区画を拡大し、より大きな居住空間を実現することができるだろう。また、これまでは収益を生まないとして後回しにされてきた公園や緑地帯面積を増やせば、都市の風格を高めることもできるだろう。あるいは、歴史的建築や文化施設を生かして、地域の風土に根差した特徴のあるまちづくりを、これまで以上に展開できないだろうか。
こうしたまちづくりはこれまで、収益を生まないために都市のアクセサリーとされてきたにすぎない。だが、成熟型のまちづくりでは、これらの要素こそが人々を引き付け、都市の価値を引き上げる切り札になっていく可能性がある。本書はこれらが地価を高め、固定資産税収を引き上げる効果があることを強調する。
都市空間を再編する必要が出てきたのは、まさに日本の都市が、人口増加時代と人口減少時代を分かつ分水嶺に立っていることの証でもある。人口減少時代の都市をうまく経営していくには、所有権と利用権の分離を可能にする法体系の整備、空間再編を進める事業主体や行政機構の創設、そして人口が減少し、税源が縮小していく中で、投資を実行していくための新しい財源調達手法や費用負担方法の開発を行う必要がある。これらは簡単なことではないが、本書では、戦前から戦後にかけての日本の都市経営の先駆者たちや、日本に先行して人口減少に見舞われた欧米諸国の試行錯誤の中に、できる限り多くのヒントを見出すよう試みた。もちろん現代日本でも、各地で人口減少に対応する新しい都市づくりの萌芽が現れてきている。
私たちは、人口減少を過度に恐れる必要はない。それを拱手傍観したまま迎えることが、もっとも危険な対応なのだ。むしろ、人口減少を新しい機会ととらえ、生活の質向上をもたらす都市づくりの契機として積極的に打って出ることができれば、私たちは十分、長い人口減少期を乗り切っていけるだろう。
本書が示そうと試みた、人口減少時代における持続可能な都市発展の方途が、果たして十分妥当なものといえるのか否かは、最終的には読者の判断に委ねなければならない。しかし少なくとも本書が、人口減少時代の都市のあり方、都市政策/都市経営をめぐる議論に一石を投じることになれば、筆者としては望外の喜びである。
目次
まえがき
第1章 人口減少都市の将来
1 本格的な人口減少を迎える都市
2 老朽化する社会資本
3 都市財政は大丈夫か
4 「あれもこれも」から「あれかこれか」へ―人口減少時代の都市経営
第2章 「成長型」都市経営から「成熟型」都市経営へ
1 戦前期日本の都市経営
2 戦後日本の都市問題と革新自治体による都市経営
3 「成熟型都市経営」へ向けて
第3章 「成熟型都市経営」への戦略
1 都市はこれから何をすべきか――「成熟型都市経営」へ
2 人口減少を前提とした都市構造へ
3 縮退都市時代に求められる「所有と利用の分離」
4 都市の自然資本への投資を
5 縮退都市化と福祉のまちづくり
6 地域経済循環と成熟型都市経営
7 グローバル化とシティ・リージョン/自治体間連携
第4章 持続可能な都市へ
1 「持続可能な都市」の政策原理
2 都市自治体の自立/自律へ
あとがき
参考文献
図版作製/ケー・アイ・プランニング
まちづくり解剖図鑑
ある町の事例から「まちづくり」の本質をみる
本書は、山形県金山町のまちづくりの事例をもとに、「町の再生」に携わった技術者による事業の折り返し時点での振り返りをまとめたものとなっています。緻密な設計デザインやイラストが施されていたり、まちづくりのプロセスの重要性が記されていたりと、読みやすい構成となっています。
はじめに
旅に似ているのではないだろうか――。
建築設計やまちづくりの仕事は、ある時にある特定の町や建物に関わり、終わると次の異なる場所やテーマに向かう。旅に出発と帰着があるように、今日がはじめてと最後という時がある。そして次に向かう仕事は、旅と同じで異なっている。最適解を求め実現する道程である計画や設計では、自分の持ち駒を総動員、駆使して進める。対象は特定なものだが、その間の頭の中は古今東西を駆け巡り、求める知恵はグローバルにわたる。
この本は、そういう設計者や計画者特有な思考回路をイメージして構成している。体系ももちろん大事だが、計画を進めながら思いつき、頼りにした内容の集積をイメージしてまとめている。学生時代に学んだ知識もあれば、他の建築家たちの仕事から受けた刺激や、旅行などで得た知見もある。今回集めた情報もあれば、今さらと思われる古い情報の混在もよしとしている。贔屓目に宝箱と言いたいが、何かしらのヒントが見つかる引出しであってくれたらと願っている。
第1~4章と第6章は、40年あまり関わってきた山形県金山町のまちづくり、その様々な場面から構成している。100年運動という町の方針を受けて、それを実現し継続するために実施してきた調査、計画や設計の数々である。空間的な側面では、町の全体から部分まで、分野的に言えば、都市計画から建築・土木設計まで、ソフトからハードまで関わった仕事を振り返ったものである。が、ここでは空間的な側面を主としており、景観法をはじめとした制度や助成のしくみなどは取り上げていない。そして第5章は、金山町まちづくりの空間的な側面を整備する時々に参考にしたランドスケープや外部空間の事例や手法、設計についての展開である。常識と思われることや、かなり個人的な興味に片寄った事例もある。世界各地の町やひろばなどは誌面の制約もあるが、我々が興味を惹かれた事例を優先して選択している。
ここで取り上げた金山町での40数年にわたるまちづくりの試みは、その時々町にとって必要と思われる計画を町に協力しながら進めてきた結果である。これをアーバンデザインの実践例と言ってよいか分からないが、建築・土木・都市計画分野を横断、一体的に捉え実行してきた成果であることは確かである。そして現在も試行錯誤しながら続いている。
この本は、特定な町を対象とした計画の積み重ねによる構成である。我々自身も見たことがない試みであるが、広くまちづくりやアーバンデザイン、建築への関心と刺激を高める一助となれば幸いである。
片山和俊
林 寛治
住吉洋二
目次
はじめに
第1章 まちのいいところの見つけ方
異国からの来訪者金山と出会う
不便さも悪くない
金山町はすべて山の中
出会いと別れ
地形のおかげ
小さな町は大きな住宅
煙は高いところに上る
やっぱり旧家は凄い
蔵はまちづくりの玉手箱
金山町の隠れた魅力を顕在化
昔と較べると今がよく分かる
第2章 まちづくりの手法と進め方
はじめが肝心かなめ
大工と町民が町をつくる
風景と調和した街並み景観条例をはじめる
具体的な景観形成基準を示す
景観条例は格好だけではない
第3章 まちの中心地区をよくする計画と設計
マスタープランをつくる
道路舗装をパッチワークにしない
街路拠点の整備後の姿を示す
中心地区の町並みを整える
旧家を守り活かす
裏からはじめる
八幡公園を整備する
旧家土蔵を商工会事務所・ホールに再構築
町並みの連続性を守り八幡公園へ繋ぐ
旧郵便局を外観保存、交流サロンに再構築
大堰公園で町中心部と小学校を繋ぐ
旧家土蔵の再構築と広場創出の試み
回廊と広場をつくる
東蔵を改修する
西蔵を改修する
郊外を繋げる木造屋根付き橋
金山杉と金山大工の技を見せる
水とみどりの小径の繋がりを伸ばす
第4章 魅力的な建物をデザインする
金山杉の山を背に建つ幼稚園をつくる
地域の幼児保育を担う旧保育園を増改築
北国の長い冬も明るく元気に学べる小学校舎
多目的町民ホールを備えた役場庁舎
地域医療を担う木造既存病院を増改築
金山杉を用いた長屋建て教職員住宅
金山小校庭に面した集団移転住宅群
町並みの形成と連続性に配慮した個人住宅
薬師山を背負い町が見渡せる住宅群
冬期も生き生きと活動できる学び舎
金山杉の森の懐に抱かれた告別の場
第5章 潜在力を引き出すランドスケープ
ランドスケープの捉え方
日本の地形と集落の捉え方
町の環境、空間の捉え方
ファサードの捉え方
外部空間の高さに注意
階段廻りは特に要注意!
坂の町、塔の町
魅力的な広場のある町
歴史的町並みの保存と都市改造
パッサージュで新旧の町を結ぶ
街区内部を活用し歩車分離も実現
木骨の街建築、緩やかな起伏の町
城壁に囲まれた威容を誇る町
宿場町における町並み保存事業
古い建物を再配置、外部空間を再構築
海と陸が一体の古の港湾都市
城と城下町は自然地形の申し子
回廊のもつ魅力
古都のシンボル、屋根付き木造橋
生活の場でもある屋根付き木橋
日本の橋が面白い
運河と路地による水上の迷宮都市
心引き付ける水辺のある環境
古都の家並みと路地の風情を保全
生活感溢れる路地の風景
寺社の参道は空間展開手法の宝庫
オープンスペースは大都会の憩いの場
大空と大地の広がりを感じる
現代都市の人と車の関係を探る
共存系のボンエルフ
小建築はキラッと光る渋い名脇役
時代に合った案内板・サイン
石垣・塀を探る
雪と暮らし1
雪と暮らし2
日本の伝統家屋の部材名称
第6章 小さなまちが存続するしくみを見つける
大美輪の大杉は金山町のシンボル
ドイツの小さな町訪問と研修を行う
小さな町の歴史的中心市街地整備
農村再生事業と農家の修復・活用
町とアートの出会い、東京藝大展を開催
大工研修・小川三夫棟梁との交流
まちづくりはゆっくりと着実に進めるのが肝心!
COLUMN
農家住宅
金山町情報公開発祥の地碑
町民製作水車を展示
金山町にある施設を紹介
廃校利用の交流拠点
おわりに
参考文献
著者紹介
Staff
デザイン 総山田デザイン事務所[米倉英弘]
DTP TKクリエイト[竹下隆雄]
編集協力 近藤正
いんさつ 図書印刷
SDGsとまちづくり:持続可能な地域と学びづくり
SDGsをまちづくりへ活かす
本書は、足元にある課題からSDGsをどのように捉え、どのように解決していくのかということが示されています。また、それに向けて我々は市民として何ができるのか、ということを考えることができ、まちづくりへの視点が広がる一冊となっています、
はじめに
SDGs(持続可能な開発目標、2016-30年)は2015年の国連総会で採択された国際的な開発目標である。それは、リオの地球サミット(1992年)以来の地球温暖化や生物多様性などの「持続可能な開発」に関わる環境系の目標と、MDGs(ミレニアム開発目標、2001-15年)で求められた貧困、保健、教育、水・衛生などの開発系の目標との2本柱から成っている。2016年に『SDGsと開発教育―持続可能な開発目標のための学び』を上程したところ、SDGsに関する日本で初めての解説書ということもあり、多くの読者を得るところとなった。これを受けて2017年には『SDGsと環境教育』を発刊して、SDGsの2つの柱に対応した解説書を世に送った。
本書はこれらに続く3冊目のSDGs解説書であり「まちづくり」をテーマとしている。まちづくりを取り上げた理由は2つある。第一にSDGsの17目標は、開発系の目標、環境系の目標のほかに、「地域づくり、社会づくり」に関する目標群があることである。SDGsの最初の6目標(貧困、飢餓、保健・福祉、教育、ジェンダー、水・衛生)がMDGsを引き継ぐ開発系の目標群であり、SDG13-15の3目標(気候変動、海洋資源、陸上資源)が狭義の環境系の目標群である。これに対して、SDG7-12の6目標は両者にまたがる「持続可能な社会づくり」のための目標であり、このなかにはエネルギー、雇用・経済成長、技術革新、不平等、持続可能な都市、生産と消費が含まれている。したがって、開発と環境を扱った前2著に本書を加えることによって、SDGsのすべての目標をカバーすることができる。
第二の理由は、SDGsの目標達成のためには、地方自治体や地域社会の役割がきわめて大きいことである。国連の目標というと何か遠い世界のことに思えるかもしれないが、SDG6-12にあるエネルギー、雇用、生産と消費などは私たちが普段生活している地域社会の課題でもある。とくにSDG11は「住み続けられるまちづくりを」であり、本書のテーマそのものである。ひるがえって、環境系の気候変動や生物多様性の課題も、地域の環境保全や観光と直結している。また、一見開発途上国の課題と思われたSDG1-6も、今や日本の地域社会がかかえる課題とつながっている。すなわち、貧困、農業生産、健康・福祉、質の高い教育、ジェンダーなどは私たちの目の前にある問題である。日本では解決済みと思われた水とトイレのSDG6ですら、その持続可能性をめぐって水道事業の民営化として2018年の国会で議論され、改正水道法が成立している。SDGsが途上国のみならず先進国も含めたユニバーサルな目標であるといわれる所以である。
本書の特徴をいくつかあげておこう。まず総論に当たる第1部で、SDGs関する国・自治体の政策動向、地域経済、SDGsの理念、市民のイニシアティブについて取り上げる。第2部では地域課題とSDGsについて論ずる。ここでは、福祉、「農」、環境の3つの課題について議論する。地域が持続していくためには「ともに生きる」ことと「楽しみ」も大切である。第3部では、多文化共生、祭りと観光、子ども・若者の居場所づくりの3テーマを取り上げる。本書では地域づくりの要は「ひとづくり」であり「学びづくり」であることを強調している。第4部で、生涯教育におけるESD(持続可能な開発のための教育)、大学でのサービス・ラーニング、中学でのグローバル市民教育、地域のコーディネーター養成をテーマに各方面での「学びづくり」の実際と課題を追求する。
SDGsのスローガンは「誰一人取り残さない」である。本書でも、とかく取り残されがちな子ども・若者、高齢者、在住外国人などに焦点を当てて議論をした。執筆者の半数が女性であることも本書の特色の1つである。
本書は、前2著にたずさわった佐藤真久、上條直美そして田中治彦の3者で企画を立ち上げた。その後テーマがまちづくりということもあり、その方面で造詣が深い枝廣淳子、久保田崇の2氏に編集に加わっていただいた。本書の出版に当たっては学文社の二村和樹さんにたいへんお世話になった。本書が地方自治体、地域レベルでの持続可能なまちづくりにすこしでも貢献できれば幸いである。
筆者を代表して 田中治彦
目次
はじめに
序章 SDGsとまちづくり
第1部 SDGsと持続可能なまちづくり
第1章 SDGsと地方自治体
第2章 地域経済とまちづくり
第3章 SDGsと地域づくり・文化づくり
第4章 SDGsと市民のイニシアティブ
第2部 地域課題とまちづくり
第5章 福祉社会とまちづくり
第6章 持続可能な「農」
第7章 環境自治体とSDGS
第3部 ともに生きる楽しいまちづくり
第8章 多文化共生のまちづくり
第9章 祭り・観光とまちづくり
第10章 子どもの居場所があるまちづくり
第4部 SDGsと学びづくり
第11章 まちづくりと社会教育
第12章 サービス・ラーニングとまちづくり
第13章 まちづくり教育の実践
第14章 学び合いの地域づくり
終章 SDGs時代のまちづくりとパートナーシップ
索引
本書に登場する主な地名
次世代郊外まちづくり 産学公民によるまちのデザイン (Business Books)
「次世代郊外まちづくり」の目指す郊外の行く先
本書は、まちづくりや地域再生に興味がある方向けに、「次世代郊外まちづくり」という一つの事例を深く知るための資料として非常に参考となる一冊となっています。まちづくりには、地域住民の積極性や地域への愛着が必要であるということが、具体的な事例をもとに読み取れます。
■はじめに
2012年4月、私たち東急電鉄が横浜市と一緒に始めた取り組み「次世代郊外まちづくり」は、国内外からたくさんの注目を集めました。民間事業者である私たちですが、横浜市と包括協定を締結し、産学公民の連携で郊外住宅地における課題に挑み、新しいまちづくりに取り組んでいます。従来のデベロッパーとは異なる動きに、これまで多くの視察やヒアリング・取材のご依頼をいただきました。
従来のまちづくりでは、デベロッパーは住宅を開発分譲すると共に、居住者向けに生活利便機能としての商業施設を開発し、運営の目処がつくと、まちを立ち去るのが一般的です。
しかし私たちは、開発から半世紀以上経つ郊外住宅地において、持続可能なまちづくりを行うため、建物の整備を進めるだけでなく、住民主体の活動のサポートや、地域コミュニティの形成、産学公民の連携強化といった活動にも注力しています。これが「次世代郊外まちづくり」の大きな特徴です。
郊外住宅地が開発された当初に移り住んだ方々は、まちの歴史と共に年齢を重ねますから、そのまま放置していれば高齢化していきます。また時代の移り変わりと共に、ライフスタイルや住宅に対する意識が多様化すれば、若い世代の郊外離れも起きます。地域の人口が減少し、税収が減れば行政サービスは行き届きにくくなり、地域インフラの整備は後手に回るもの。こうした状況は、「次世代郊外まちづくり」の第1号モデル地区である、東急田園都市線たまプラーザ駅北側地区(横浜市青葉区美しが丘1・2・3丁目)に限ったことではなく、日本の郊外全体が抱える課題です。高度経済成長期に「ベッドタウン」として住機能に特化して発達してきた郊外は、多様な人生設計が可能な、多機能な場への変換が求められているのです。
なぜ私たちがこうした課題に向きあい、土地開発にとどまらない活動を行っているのか。それは、東急グループが創業当時から大切にしてきた、まちづくりに対する思いがあるからです。理想のまちを目指し、交通インフラの整備と同時に、土地所有者の方々と共に住宅地の開発を行い、さらには百貨店やスーパーマーケット、ケーブルテレビのネットワーク、ホームセキュリティ、カルチャースクールの運営など、生活サービス事業も絶え間なく行ってきました。土地の区画整理や住宅地の販売だけでは終わらないトータルなまちづくりを推進するために、できる限りその地に根を下ろし、住民の方々の暮らしをサポートしていきたいと考えています。
「次世代郊外まちづくり」がスタートした当時は、すべてが初めての取り組みで、「横浜市と協定を締結したはいいけれど一体何が始まるんだ?」、「東急は何を企んでいるんだ?」と好奇の目で見られることも多くありました。私たちも、「次世代郊外まちづくり」を進めるにあたり、こうありたいという理想はありましたが、全国を見渡しても類似する事例がなかったことから、将来像を具体的に提示することが難しく、走りながら考え、試行錯誤を続けてきました。
横浜市との包括協定の締結から5年の月日が経った2017年4月には協定を更新。さらに「次世代郊外まちづくり」の情報発信拠点である「WISE Living Lab(ワイズ リビングラボ)」を開設し、私たちが目指すまちと住まいのコンセプトを具現化する、地域利便施設を備えた集合分譲住宅「ドレッセWISEたまプラーザ」の開発を進め、「次世代郊外まちづくり」が何を目指しているのか、より多くの方に実像として見ていただけるようになりました。
本書を通じて私たちの取り組みをお伝えすることで、郊外住宅地のまちづくりについて一石を投じるとともに、同じような課題を抱えていらっしゃる方の参考になればと考えています。包括協定の締結から5年間の活動を「次世代郊外まちづくり」の第1フェーズと捉え、第1章・第2章ではその歩みをレポートしています。第3章・第4章では、協定を更新し第2フェーズに突入した「次世代郊外まちづくり」で見えてきた課題や今後についてまとめています。なお、活動に関する記述は、客観的な視点でお伝えできるよう宣伝会議との共著としました。
「次世代郊外まちづくり」を進めるにあたっては、美しが丘1・2・3丁目の住民の方々、包括協定の締結から共に歩んできた横浜市、専門家・有識者の方々、そしてプロジェクトに一緒に取り組んできた企業の皆様と、多くの方にご協力をいただきました。この場を借りてお礼を申し上げるとともに、感謝の気持ちと、今後も共に歩んで参りたいという想いを込めて、本書をお届けしたいと思います。
東京急行電鉄株式会社
目次
はじめに
第1章 郊外が抱える課題と「次世代郊外まちづくり」への道すじ
郊外住宅地の誕生
東急電鉄とまちづくり
郊外住宅地が抱える課題
横浜市との連携が始動
郊外住宅地とコミュニティのあり方研究会
協定を締結
モデル地区の選出
キックオフフォーラムの開催
まちづくりワークショップ・たまプラ大学の実施
住民参加の社会実験
基本構想の策定
第2章 「次世代郊外まちづくり」第1フェーズの取り組み
住民創発プロジェクト
(1) 意欲的な住民を巻き込む
(2) 住民からの相談を受け入れサポートする体制
(3) 事業につなげる
まちぐるみの保育・子育てネットワーク
次世代のまちづくりを担う人材育成の推進
暮らしを豊かにする部会の推進協
(1) 医療・介護問題
(2) エネルギー・情報インフラ・環境問題
(3) 住まいや住宅地再生への指針づくり
第3章 「コミュニティ・リビング」実現に向けた取り組み
第2フェーズにおける活動方針と2017年度の取り組み
共創と実験の場「WISE Living Lab」
美しが丘1丁目計画「ドレッセWISEたまプラーザ」
行政との連携によるまちづくりの広がり
第4章 郊外におけるまちづくりのこれから
価値創造型のエリアマネジメントへの挑戦
まちを下支えする条件をデザインするのが企業の役割
コラム 働ける、郊外住宅地へ
【特別寄稿】プレイヤーの一人として、まちを経営する企業でありたい
東京急行電鉄株式会社 取締役会長 野本弘文
東急多摩田園都市と東急電鉄の流れ
次世代郊外まちづくり年表
おわりに
リノベーションまちづくり 不動産事業でまちを再生する方法
民間主導のまちづくりを実践から紐解く
本書では、民間主導で町を再生していくための方法が具体的に述べられています。理論だけでなく実践からの知見が得られ、易しい文体で記されています。実際にまちづくりに関わったものの、どのように進めていくか迷っている方向けにはベストな一冊です。
はじめに
人口減少、高齢化、中心市街地の空洞化、増え続ける空き家、自治体の財政破綻、コミュニティ崩壊、世の中がどんどん悪くなってしまうのではないかと懸念される方も多いと思います。実は、私は今あるものを使って創造的にまちを変えていけば、もっと楽しく暮らせる世の中にしていけるのではないかと考えています。ピンチはチャンスです。
『リノベーションまちづくり』は、大都市、中核都市、小都市内に増大し続けている遊休化した不動産という空間資源をリノベーションして、都市・地域経営課題を解決する方法を書いたものです。すなわち、今あるものを使って、停滞している、衰退しているまちに変化を生み出すプロセスをどうつくり出していくか。自分のまちが手の付けようがないような状態であっても、自分たちの考え方次第、工夫次第でもっと暮らしやすく、もっと楽しいまちになる、自分たちの手でそれをやっていくんだ、そんなプロセスをつくっていくことを記したものです。
リノベーションとは、リフォームと違ってただ元通りの新しい状態に戻す行為ではありません。リノベーションは、遊休不動産などの空間資源をイノベイティブな新しい使い方で積極的に活用することにより、まちに変化を生み出すことを言います。
縮退する都市・地域には様々な都市・地域経営課題が存在します。中でも、産業の疲弊は地域を衰退させる主要因と考えられます。産業が疲弊すると生活が成り立たず、人が住めなくなるからです。
また、自治体の財政難という大きな課題が重くのしかかってきています。そう考えると民間主導の自立型地域再生が必要になってきている、すでにその時代を迎えていると感じるのは自然なことかもしれません。
本書の中身は、私自身が地域再生の現場に入って実施したプロジェクトの体験をもとにして地域を再生するノウハウを紡ぎ出したものです。
衰退している地域に変化を生み出すプロセスをどう構築していったらよいか、そして地域がどのように再生していったらよいか、次世代、次々世代までも継続する地域にどうやってしていくかをこの本から体得してもらえたら幸いです。
リノベーションまちづくりは、決して難しくありません。やり方の手順、段取りを1段ずつしっかりと組んでいけば、必ず道が開けていきます。先が少しずつ見えてきます。そして、気づくと共に歩む仲間が傍らに増えています。
そのためには、これまでの常識を捨て去ることが大切です。道元の言葉で「放てば手に満てり」という言葉があります。今までの考え方やこだわりを捨て、自分自身が現実の社会に真っ正面から向き合って考え行動することが大切です。どんな小さなことと思えることでも、その小さなことからやってみること、そしてその結果をよく観察し、次のステップに進んでいくこと、これが大事です。
リノベーションまちづくり、楽しいですよ。
清水義次
目次
はじめに
第1章 リノベーションまちづくりとは何か
01 リノベーションまちづくりは、何のために、何を使って、何をするのか
02 まちづくりのプレーヤーは誰か
03 民間主導型・小さいリノベーションのプロセス
04 公民連携のプロセス
05 リノベーションまちづくりの5ヶ年計画
06 まちを変えるプロジェクト
column01 結果よりもプロセスに着目する
第2章 フィールドワークに基づくエリアマーケティング
01 まちに出て観察する
02 リノベーションまちづくりの可能性を見極める
03 考現学の手法を応用する
04 スモールエリアを定量的に把握する
05 スモールエリアと周辺のまちを定性的に把握する
06 エリアマーケティングとは
07 ストーリーを編集する 仮説・読解からエリアプロデュースへの展開
column02 考現学をまちづくりに応用する
第3章 まち再生のマネジメント 自立型まちづくりの進め方
01 現代版家守とは何か
02 リノベーションまちづくりの具体的な手順
03 プロジェクトを実行する 事業計画・実施・検証・実行のPDCA
column03 まちづくり会社マネジメントのための三種の神器
第4草 公民連携型・小規模なリノベーション
CASE01 北九州市小倉家守プロジェクト
リノベーションまちづくりの典型
CASE02 千代田SOHOまちづくり
現代版家守事業の始まり
CASE03 神田RENプロジェクトとCentral East Tokyo
CASE04 家守塾
colum04 HEAD研究会
第5章 公民連携型・大規模なリノベーション
CASE01 歌舞伎町喜兵衛プロジェクトと吉本興業東京本部の廃校活用
CASE02 3331アーツ千代田
廃校を活用した民間自立型アートセンター
CASE03 岩手県紫波町オガールプロジェクト
公民連携で新しいまちの中心をつくる
column05 エリアイノベーターズブートキャンプと公民連携事業機構
第6章 公民連携型の都市経営へ
01 公だ民だと言っているヒマはない
02 0を1にする/小さく生んで大きく育てる
03 公民の不動産オーナーが連携すれば都市は変わる
04 都市再生に補助金は要らない
05 民間主導のまちづくりは何が違うのか
06 行政の役割は何か
07 民間の役割は何か
08 リノベーションまちづくりで都市・地域経営課題を解決する
09 都市政策と5ヶ年計画の重要性
10 老朽化した公共施設をどうするか
column06 稼ぐインフラ
おわりに——家守事業はどこでもできる
まちづくり構造改革II―あらたな展開と実践―
産業振興と人口維持を繋ぐ地域経済循環の構築を考える
本書は、都市計画と都市経済の融合によるまちづくりについて解説されています。経済波及効果の分析から踏み込んで、地域経済の構造を分析する必要性と手法を学ぶことができる一冊となっています。また、具体的なデータや資料が盛り込まれており、非常に読みやすい内容になっています。
はじめに
「地方創生」という言葉がアベノミクス地方版(ローカル・アベノミクス)で使われて四年が過ぎ、地方創生も第一期総合戦略の総仕上げに向かう時となってきました。当初ほど、新聞などでその言葉を見る機会が少なくなってきましたが、それは地方創生が浸透してきたと考えるのか、その成果も含めて少々色あせてきたと考えるのか、それともマンネリと諦めの境地なのか、立場と経験によってそれぞれ分かれるところでしょう。
でも、地方創生の中心的な課題、つまり「人口問題」が重要な位置を占めていることに変わりはありません。それは、「まちの人口減少」と「国内人口の過度な偏在」です。そして、今後、消滅すると予想される自治体が圧倒的に地方に多いからです。もちろん、これまでの人口トレンドを延長すれば、二〇年後、三〇年後には、常住人口が今の半分以下に減ってしまうことも予想できます。さらに、小さな町村であれば、場合によればほとんどゼロになってしまうかもしれないことも想像に難しくないでしょう。しかし、それは信じたくない、何とかしたい、何とかなるだろうというのが、そういった消滅予言をされた自治体の気持ちではないでしょうか。
一言に「地方」といっても、厳密には政治経済の中心である東京(あるいは首都圏)以外は、すべて「地方」ということになります。もちろん、大阪も名古屋も地方であることに変わりはありません*1。ですから地方だからといっても田舎とは限りません。「地方創生」で主たる対象となっているのは、そういった「地方」の大都市ではなく、正に人口減少に直面している中小の地方都市や中山間地に位置する市町村なのです。
住む人がいなくなって直接困るのは、役場という地方自台体の組織であり、そこに収入源を依存する個人や団体です。いくつかの自治体が合併して何十年か経過すると、合併した旧自治体の居住者が減っているのですが、表面に現れないことがしばしばあります。例えば、現在は合併して岐阜県高山市の一部となっている岐阜県大野郡にあった(旧)高根村は一九六五年の国勢調査人口は三四七七人でしたが、二〇一〇年のそれでは四七四人、さらに二〇一五年一〇月の国勢調査人口では三三八人と記録されています。半減どころか一割近くになっているのです。合併を繰り返すことによって、旧自治体であったところの常住人口が大きく減ってきて、やがてはゼロになることが隠れてしまっているのです。
人が住んでいたところには住居があり、道路や水道などのインフラもあり、田畑なども維持されてきたわけです。しかし、そこに住む人がいなくなると、当然、田畑は荒れ、治山・治水も危うくなってきます。こういったところは往々にして川上に位置するので、下流域にある都市部への影響も、やがては出てくることになります。そうすると、そこには自然に帰すという新たな公共事業が必要になってきます。
人口移動にはプッシュ(押し出す)要因とプル(引きつける)要因があります。例えば、「こんな田舎にいても自分の働きたい仕事はないとか面白くない」との思いで、高校卒業したら東京へいくというのは地方のプッシュ要因です。逆に東京に行けば職も多いし、何とかなるだろうというのは東京のプル要因です。後者は雇用機会の豊富さや消費機会の多様さなどといったいわゆる都会が人を惹きつけるものです。こういった人口の転出入には、地域のしごと・雇用の問題が不即不離です。
地域振興の主題は、産業振興、そして雇用の確保であることは間違いないことです。いろいろと施策をしても地域の活性化に効果が出ない、雇用も増えない、また効果が出ても長続きしないことがあります。これまでの地方経済はこの繰り返しであったと言えるでしょう。これはモノとカネの回り方に問題があると推察されます。言い換えると、「地域経済の循環システム」に思いの他の漏出があるのではないかということです。こういった漏出を地域ができるだけ小さくし、自立した地域経済にするのはどうすれば良いのでしょうか。本書では、そういった問題意識から、産業振興と人口維持をつなぐ望ましい地域経済循環の構築について考えていきます。
ところで前著の「まちづくり構造改革: 地域経済構造をデザインする」を出版したのが二〇一四年三月でした。その時はまだ地方創生という言葉はありませんでした。地方創生という言葉は、二〇一四年(平成二六年)九月三日の第二次安倍改造内閣発足時の総理大臣記者会見で発表されたものです。
その間、多くの方々に読んでいただき、また有意義なご意見やコメントも戴きました。なかには、赤坂町の事例は古すぎるという指摘もありましたが、しっかりと読んでいただくとそのような指摘は全く的外れであることがわかります。先進事例からの温故知新を忘れてはいけません。
前著で提示した「地域経済構造分析」では当たり前のことしかわからないのではないか、そして具体的な打ち手に乏しい、もっと経営戦略的な考え方が必要であるというコメントもありました。まちづくりや地域振興にとって、経営戦略的な考え方は大切で必要なことです。ただ、経営学は個別企業の事例研究の積み重ねがベースとなっていますので、規範的なアプローチにはなっていません。あくまでも経験的なことの積み重ねとその集まりですので、そこにモデル分析をすることは困難です。具体的な打ち手を考えるのは、結局は「ひと」です。企業の経営戦略も「ひと」が考え判断するのと同様に、地方創生の具体的な打ち手も最終的には「ひと」が考えるものです。ただ、地域経済構造分析はそれを考えるための重要で「客観的」な情報を提供してくれ、「打ち手」のヒントを示してくれるのです。
地方版総合戦略の実践課程で、地域の産業連関表を時間と手間と費用をかけて構築し、それを活用した地域経済構造分析を実施することで、新たな姿を目指したまちの構造改革の取り組んでいる市町村は少なからず出てきました。筆者が関与した自治体で、現在進行中のものも含めると、新潟県佐渡市、千葉県南房総市、長野県塩尻市、岐阜県高山市、兵庫県豊岡市、朝来市、和歌山県日高川町、岡山県倉敷市を中心とする高梁川流域圏域、津山圏域、岡山市、笠岡市、高梁市、真庭市、里庄町、奈義町、久米南町、愛媛県松山市、新居浜市、佐賀県佐賀市、熊本県天草市、宇城市、宮崎県宮崎市、小林市、西米良村、鹿児島県鹿屋市、沖縄県那覇市などと少なからずあります。確かに、手間と一定の費用はかかりますが、きちんと調査をし、正しい理解の下で産業連関表を構築すれば、その賞味期限は長いものとなり、費用対効果は十分に満たされるでしょう。
*1 地方自治の用語では、東京都も地方公共団体の一つとなっています。地方自治法のなかでは、市町村は「普通地方公共団体」に分類されていて、東京二三区は「特別区」として「特別地方公共団体」に分類されています。不思議な感じがします。
平成三一年一月
著者
目次
はじめに
第1章 人口偏在と地方創生
地方創生のいきさつ
人口分布二つの偏り
東京集中の本質
地方版総合戦略: 攻める戦略と守る戦略
稼ぐ力の正しい理解
人口減少時代のまちの振興: ミクロな行動
地方創生の本質
第2章 まちの発展と都市政策
まちの成長と発展
地方創生と成長
まちの高齢化
縁辺部の人口減少
都市計画と都市経済のシンクロ
コンパクトな都市は生産性が高い
外都市政策を考えるうえでの留意点
移住支援と産業振興
第3章 まちの経済、見方ととらえ方
ビッグデータ
規範的見方の必要性
データの見方
まちづくりとデータ分析
地域経済の三面非等価
資金移動のメカニズム面
東京と地方との関係
地方創生の構造的問題
地域資金の好循環に向けて
第4章 まちの経済、稼ぐ力と雇用力
移出産業のないまちは持続できない
移出産業の役割
基盤産業のとらえ方
基盤産業の見極め
特化係数の解釈
産業・雇用チャート図の読み取り方
まちの稼ぐ力(基盤産業)と雇用力: 福山市
基盤産業の新たな識別
経済基盤乗数の再考
広島県市町村の例
雇用力拡大のロジック
第5章 まちの構造改革の落とし穴
循環と経済波及効果
経済循環と移出効果
域内経済循環の落とし穴
比較優位の再検討
域際収支の解釈
スモール・オープンの意味
まちの生産性と雇用の誤解
サービス業の生産性向上
まちの生産性
企業誘致の落とし穴
自治体政策の落とし穴
連携の経済的便益
第6章 地方創生の原点: まちの存在理由
地方創生との関係
まち(都市)の存在理由
岡山県のまちの例
天然の条件と制度的要因
大工場の存在
範囲の経済
同業種の集積: 地域特化の経済
同業種集積のまち
同業種集積+α
現代都市の存在理由
まちの人口
まちの振興: 分析の視点
第7章 地域経済構造分析の展開
まちづくりとEBPM
地域分析の考え方
データの見方
バックキャスティング
思地域経済構造分析の流れ
就業圏域でのまちの立ち位置
まちの動き
まちの求人・求職
特化係数の変化
産業間のつながり
産業ポートフォリオ
第8章 まちの構造改革と地域産業連関表
地域産業連関表の真髄
地域産業連関表の留意点
地域産業連関表の読み解き(一)
地域産業連関表の読み解き(二)
産業連関分析の前提条件
地域産業連関分析の留意点
構造改革シミュレーション
調査に基づいて小地域産業連関表を作成する意義
構造改革シミュレーション
構造改革シミュレーション: 中村メソッド
第9章 まちづくり構造改革の実践
朝来市(兵庫県)の例
小林市(宮崎県)の例
新居浜市(愛媛県)の例
松山市(愛媛県)の例外
おわりに
事項索引/参考文献/新聞への寄稿/著者紹介
まちづくり学―アイディアから実現までのプロセス
「まちづくり学」からみたプロセスの概論
本書は、まちづくりに関して基本的な用語や理論がわかりやすく解説されており、初学者でも読みやすい入門書となっています。まちづくりは、個人的な心構えや技法の段階から、集団的な智恵の段階へと進むことが可能なのではないかという、スタンスの変化についても詳しく記されている一冊となっています。
まえがき
まちづくりに関する著書は、すでに数多く出版されている。そしてその多くは、まちづくりの実践例を紹介しているものである。まちづくりのあり方は、それぞれのまちごとに異なっており、また、同じまちでも時代的な変遷もある。したがって、まちづくりに関して一般論を展開するよりも、具体例を繰り広げ、そのカバーする広がりを実例でもって示していく方がわかりやすいということは、確かにいえるだろう。
しかし、まちづくりには、一定程度共通する姿勢や考え方が存在することも事実である。これらを、まちづくりの発想の出現からその実現までのプロセスに沿って、概論的に論じることも可能なのではないかと考えた。そしてまちづくりをその「構想」、「きっかけづくり」、「考え方」、「マネージメント」の4つのステージで考え、それぞれの段階で留意すべきポイントや参考にすべき情報を示したのが本書である。これは、ある意味でまちづくりの集合的智恵の現段階でのささやかな総括である。したがってこれを「まちづくり学」と称することにした。
「学」と呼ぶと、いかにもしかつめらしく聞こえるかもしれない、楽しくないまちづくりなどまちづくりとは呼べないといった主張からすると、「学」などと称するのはもってのほかといわれそうである。しかし視点を少し変えて、楽しくまちづくりにいそしむということ自体が一つの智恵であると考えるならば、それも広い目でみると一つの一貫した姿勢――すなわち一つの体系を内在させているといえるのである。ただし、その体系があらわに示せているかというと、やや忸怩たるものがある。確かに、「学」と呼ぶにはまだあまりにも未熟かもしれないが、お許し願いたいと思う
本書を組み立てる際に、まちづくりのイメージの共通した出発点として、東京都世田谷区のまちづくりファンドとまちづくりセンター(現(財)世田谷トラストまちづくり)の活動を、一つのモデルとして考えた。世田谷のまちづくりが区のまちづくりセンターを中心に、ここ15年以上にわたって活発に展開され、日本のまちづくりシーンのトップランナーの一つとして位置し続けたこと、さらには、同センターが運営するまちづくりファンドがとりわけ初動期のまちづくりに効果的な支援策として機能してきたことは、疑いのない事実である。これが、世田谷のまちづくりを一つの有効なモデルと考えた理由である。
また、まちづくりの幅広い活動のうち、一定の部分に関するイメージを共有することによって、記述の振れを不必要に大きくしたくないという配慮もあった。本書に世田谷の事例が多いのは、そのことにもよる。
しかし、このことが世田谷のまちづくりを唯一のモデルとして示すことを意味しているわけではないのは、もちろんである。神戸市のまちづくりの事例が本書においても重要な示唆を与えてくれる例として明記されているのをはじめとして、全国のまちづくりの例も示されている。ただし、本書の意図はまちづくりの事例をそのものとして示すことにあるのではなく、事例の先に、私たちが共通して認識すべき、まちづくりのスタンスとでもいうべきものが存在することを明らかにすることにある点は、繰り返し強調しておきたい。
本書で私たちが示そうとしたまちづくりのスタンスのあり方は、実は、まちづくりの実践者たちにとっては至極当然のことなのである。これまでにあまり明文化されてこなかっただけなのかもしれない。こうした考え方を一書にまとめて提起することによって、まちづくりは、個人的な心構えや技法の段階から、集団的な智恵の段階へと進むことが可能となるのではないだろうか。
それを「まちづくり学」と呼ぶのは、誇大広告のそしりを免れないかもしれない。しかし、まちづくりが新たな集合的智恵の段階に至りつつあるという日本社会の現段階に対するやや楽観的な視点をもって、これからもまちづくりの多くの仲間とともにこの道を歩んでいきたいと思う。——楽しくなければまちづくりに値しないからである。本書がその手助けになるとしたら、執筆者一同これに勝る喜びはない。
本書の作成に当たっては、構想から製作の段階にわたり、朝倉書店編集部の支援を受けた。記して謝したい。
2007年3月
西村幸夫
目次
第1章 まちづくりの構想
1.1 まちづくりの視点
1.1.1 まちづくりの本質は何か
1.1.2 コモンズ再確立を目指すまちづくり
1.1.3 統合的視点に立つまちづくり
1.1.4 まちづくりの技法へ向けて
1.2 まちづくりの枠組みとその展開のプロセス
1.2.1 まちづくりの進め方を考えるに当たって
1.2.2 エピソード: 小径との出会いから広がるまちづくり
1.2.3 まちづくりの展開を促す8つのキーワード
1.2.4 常に学び合う姿勢を
第2章 まちづくりのきっかけづくり
2.1 まちづくりの諸活動から—まちづくりの気運づくり—
2.1.1 圧倒的無関心の中で
2.1.2 住民参加のまちづくりの技法としてのワークショップ
2.1.3 ワークショップは人の心に火を点けるか
2.1.4 対立をエネルギーに
2.1.5 開かれた組織の連携による地域ガバナンス
2.1.6 インフォーマルなプロセス
2.1.7 リーダー願望よりも行動を
2.2 まちづくり支援の仕組みから
2.2.1 まちづくり支援は現場から
2.2.2 まちづくり支援の内容
2.2.3 まちづくりファンドとまちづくりセンター
2.2.4 2つの仕組みが生み出すシナジー効果
2.2.5 次なるステージに向けて
第3章 まちづくりの考え方
3.1 公平性と透明性
3.1.1 都市計画の本質
3.1.2 都市計画の流れに沿って理解する
3.1.3 公平性をめぐって
3.1.4 透明性をめぐって
3.1.5 システムとしての都市計画の確立に向けて
3.2 行政と住民の関係・専門家のあり方
3.2.1 行政・住民・専門家、3者の協働—まちづくりを担う3○○—
3.2.2 まちづくりの主体形成
3.2.3 市民
3.2.4 行政
3.2.5 専門家
3.2.6 これからのまちづくり—Web2.0時代のパラレルワールド—
第4章 まちづくりのマネージメント
4.1 まちづくりのマネージメントシステム
4.1.1 まちづくりは運動
4.1.2 自律生活圏
4.1.3 まちづくり協議会
4.1.4 まちづくりのマネージメント
4.1.5 まちづくりのための仕組み
4.1.6 まちの運営と市民事業
4.1.7 まちづくりのための資金・基金
4.1.8 まちづくり支援のかたち
4.1.9 21世紀市民活動社会に向けて
4.2 まちづくりの支援システム
4.2.1 NPOをめぐる状況
4.2.2 キャパシティビルディングとは
4.2.3 アメリカ合衆国における草の根団体に対する支援の概況
4.2.4 アメリカ合衆国におけるキャパシティビルディングの事例
4.2.5 日本における先駆的事例
4.2.6 協働型支援基盤の提案
まちづくりのためのキーワード集
索引