【最新】地域再生について学ぶためのおすすめ本 – 地域の抱える問題から再生の成功例まで

地域の抱える問題とは?どのように地域再生を実現していく?

現在、地方・地域は経済、財政、インフラをはじめ多くの面で課題を抱えています。そして、これらの課題を解決し、地域の再生をしていくことが、これからの日本を考えるにあたって重要です。ここでは、地方・地域の抱える問題やその解決策について学べる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

地方創生大全

日本一まっとうなガイドブック

地方が抱える問題を「ネタ」「モノ」「ヒト」「カネ」「組織」の5つに体系化し、28もの問題の構造を明らかに示しています。そして明日から実践できる対策が具体的に述べられています。日本一過激な請負人のノウハウが凝縮された、これから生きていくための知恵の詰まった1冊です。

木下 斉 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/10/7)、出典:出版社HP

はじめに

2014年の「地方消滅論」に端を発した地方創生政策が立ち上がり、地方創生総合戦略なるものが策定され、2015年から全国各地で展開されています。
地方に携わる仕事を18年間している私としては、地方に光が当たるのは嬉しいです。しかし、地方創生を目指すそのアプローチについては、大いに心配を抱かせられるものが少なくありません。
実際、2016年6月にNHKが、内閣府が先進的と紹介する75の事業すべてについて調査をしました。その結果、目標を達成したのは28事業、実に全体の4割に満たないことが明らかになりました。初年度とはいえ、自治体が自ら計画して国から予算をとり、かつ国側も先進的であると全国に紹介した事業でさえも、このような状況にあります。
たしかに地方政策は、1〜2年で地域全体が再生するような事業ではありえません。しかし、自ら立てた毎年の目標さえも達成できないようでは、将来にわたって成果を出すことは期待できません。
自治体が計画をつくって目標を立て、国が認定して予算をつけ、PDCAサイクルを回すという、すでに地方政策でも中心市街地活性化をはじめとしてさまざまな分野で行われ、失敗してきたこの方法で進むかぎり、大きな成果は生み出せないでしょう(参考資料:http://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2016/06/0616.html)。

▶︎地方創生は「事業」であるべき

18年前、私は高校1年生のときに、早稲田商店会の地域活性化事業に関わりました。年間予算が100万円もない貧乏商店会で、そもそも法人でさえなく、事務局員もいませんでした。しかし、そんな弱小団体が当時取り組んでいた「環境まちづくり」は大きな注目を集めました。

そのポイントは大きく分けて3つありました。

ひとつ目は、経済団体が環境をテーマに地域活性化活動に取り組んだことです。
もともと商店街は商売人が集まった組織で、自分たちの利益に対してきわめて利己的な存在です。そのため、従来だと「環境なんて知ったこっちゃない」という精神で、むしろ「ゴミをたくさん出した奴は、それだけ儲かっているという証拠だ。ゴミは商売人の勲章だ」くらいのことを言われる方もいたほどです。1990年代後半といえば、まだ自治体による資源ごみ回収も一般的ではない時代ですから、仕方ありません。しかし、そのような時代に商店街が自ら環境機器メーカーを巻き込んで、空き缶・ペットボトル回収機にクーポン券をつけたり、生ごみ処理機にマイレージ機能をつけるなど、商店街のマーケティングと環境活動を連動させたわけです。また早稲田という土地柄、大学までがその仲間に入り、今で言う産官学の取り組みとなりました。さらにはインターネットを活用し、中央官庁から大企業、中小企業、大学など全国150人以上のキーマンが関わる連携体制にまで発展していました。

2つ目は、補助金は活用せず、自ら稼ぐ地域活性化事業だったことです。
早稲田商店会は「カネがないからこそ知恵が出るんだ」という考えのもと、予算などはなかったものの、その分、さまざまな企業と連携したり、イベントで出店料を集めたり、視察見学を有料化するといった工夫による「稼ぐ地域活性化事業」として取り組んでいました。先の空き缶・ペットボトル回収機なども、チケットで誘客する仕組みで各店舗が儲かっていたため、毎月各店舗が支払う販促費によって運営されていました。つまり、従来の補助金依存の地域活性化事業ではなかったのです。

3つ目は、「民間主導・行政参加」という、従来とは逆の構造で取り組んでいたことです。
これらの取り組みはあくまで「民間」から発案されたもので、後に行政などを巻き込んでいきました。そもそもは大学町特有の商店街の夏枯れ対策(夏休みになると学生がいなくなるため、街が枯れてしまうという状況)からスタートした取り組み。しかし、単に商店街が儲からないのでお客さん来てよ、というようなイベントでは意味がないということで、当時事業系ゴミ回収の有料化によってホットな話題でもあった「環境」を切り口としました。そのような社会性の高いテーマを扱いながら、商店街の活性化という課題にもプラスになる取り組みを民間から発案し、そこに行政が後から関与してくるという構造が注目を集めました。

人生で初めて関わった地域活性化事業でこのような取り組みを経験した後、私は高校3年生のときに、全国商店街の共同出資会社の社長を任されることになります。しかし、そこでは大きな失敗を経験しました。事業とは極めてシビアなものですが、地域を再生しながら、しかも税財源に依存せずに私企業を黒字で経営していくためにはさらに難易度の高い経営力が問われることを、この身をもって知りました。その後、大学院卒業後に改めて、熊本市で仲間と共に熊本城東マネジメントという会社を興し、さらに全国各地の仲間とともにエリア・イノベーション・アライアンスという団体を立ち上げ、各地で自ら出資した事業を開発するとともに、そこで得た知見・情報を発信しています。このような18年の経験から、私は「事業としての地方創生」ということを強く意識するようになりました。
一方で、地方政策は常に同じところをぐるぐると回っているような感覚にも陥ります。今回の地方創生もまた、過去の政策の焼き直しともとれるものが少なくありません。

▶︎地方政策の失敗は、繰り返されるのか

地方創生の先行型予算で取り組まれた代表的な政策のひとつは、「プレミアム商品券」でした。
日本全国の1741市町村(当時)のうち、実に99.8%にのぼる1739の自治体がプレミアム商品券を発行し、1589億円の予算が請求され、執行されました。
では、皆さんの地域において、何か経済が大きく好転したでしょうか。「実感がない」というのが本音だと思います。そもそも地域振興券など過去の同様の政策から見ても、その効果は総額の4分の1〜3分の1に留まると疑問視されています。にもかかわらず、地方活性化策として、いまだにこの「効果のないばらまき」がもてはやされています。
地方創生を進めていく上での戦略策定は、戦略をつくり、国の認定を受け、KPI(key performance indicator)を設定し、PDCA(plan-do-check-act)サイクルを回すという方式です。
これは2016年6月までに200市で認定された、「中心市街地活性化政策」と同様のアプローチです。しかしながら、同政策で地方都市中心部が大きく再生しているというケースは見られません。それどころか、かつてのモデル都市である青森市は、本政策の支援を受けて建設した中核施設「アウガ」の経営失敗により、すでに200億円以上の市税を費やし、市長が辞任を表明する事態となっています。

「過去に問題があった進め方に新たな名前をつけて、再度実行してしまう」ということが、地方創生政策における大きな問題です。
これらは単に地方自治体や政府といった行政の問題だけではなく、民間側もこのような政策に乗っかって商売している節もあります。さらに、この政策決定について予算をつけている国会、地方議会という存在もあり、彼らを選んでいるのはほかならぬ、私たちでもあります。
つまり地方政策は、国と地方、行政と民間、政治と市民という関係の中で、議会で決議され、法律に則り、真面目に執行されているにもかかわらず、まったく成果が出ないのです。
これらの構造的な負の連鎖を断ち切るためには、失敗を見て見ぬふりをしたり、忘れることではなく、私たちみんなが過去の失敗と向き合わなくてはなりません。

▶︎メディアが取り上げる「地方の成功物語」の消費を疑え

地方活性化に関するニュースを見るたびに、私は大きな違和感を覚えます。その多くは、田舎で若者が奮闘する物語であったり、過疎の村で番闘する老人の姿であったりします。そのような「都市部が期待する“心あたたまるきれいな地方の成功ストーリー”」ばかりが取り上げられています。
しかしながら、そんなきれいな話だけで問題が解決するのであれば、地方はすでに再生し、誰も苦労はしていません。
実際には、地域の新たな取り組みに強硬に反対する地元の有力者、成功したことによって妬みを持つ住民、さらに地方独自の成功に乗じて自らの実績をあげるためにモデル事業予算を売り込む役人など、そこにはさまざまな欲望が渦巻いています。
何より、一瞬だけを切り取って「成功」と言うのは簡単ですが、それが継続するかどうかのほうが重要です。数年、さらに言えば数十年にわたるような「成功」をつくり出すことが極めて難しいのは、言うまでもありません。つまり、絶対的な成功などはなく、成功と失敗を繰り返しながら、それでも決定的な失敗をせずに、どうにか上昇気流をつくり出していく日々の取り組みこそ、地域活性化のリアルです。
それらは例外なく、ニュースでは取り上げられない、とても地味な取り組みです。
残念ながら、そのような継続性のある地味な取り組みは、都市住民からすると感動がなく、別にどうでもいい話なので、メディアも取り上げません。

さらに、地方移住に関するメディアの報じ方も異常です。
実際には地方に移住する人はわずかな数で、圧倒的に首都圏に集まる人のほうが多いです。2015年の人口移動報告によれば、東京圏は11万9357人の転入超過となっており、その規模も4年連続で拡大しています。他に転入超過となったのは、埼玉、千葉、神奈川といった東京圏、愛知、大阪といった三大都市圏の中核をなす都市、さらに福岡と沖縄です。
しかしながら、メディアでは「今は、地方移住がトレンド」といったようなことを取り上げ、都市部から理想的だと受け取られるような田舎暮らしをする特異な地方移住者にフォーカスした番組がつくられます。

突出した話題性を求めるあまり、地域に必要な課題解決ではなく、「都市部で話題になるネタ」という特異な事例に報道が偏ってしまうわけです。そして、地方も都市部メディアに取り上げられるために、「ウケ」を狙った取り組みばかりを優先してしまいます。結果、地方の問題は解決されず、一過性の話題づくりばかりに奔走しています。

▶︎これは地域だけの話ではない

私は2014年2月に東洋経済オンラインにて、「地方創生のリアル」という連載を開始しました。
この連載では地方の表面的な話ではなく、過去の失敗を整理すると共に、そこにある構造問題について整理し、解決策に迫ることを目的としました。
この連載では文字通り、衰退する地方を活性化しようとするときに発生する、さまざまなリアルな話を書き綴っています。多くの人が「あたりまえにわかっているけど、言い出しにくい」話というものはたくさんあります。しかし、言い出しにくいことほど、問題の原因となっている場合が少なくありません。

この連載を通じて驚いたのは、
「これは地域だけでなく、うちの会社でも同じだ」
「地域活性化分野と役所との関係は、うちの業界団体と所管官庁との関係と同じ」
「商業とかだけでなく、農業でも林業でも水産業でも同じ」
といったご意見を多くいただいたことです。つまりは、地域の構造問題と日本の各所で見られる問題には、極めて多くの共通点があるのだと気づかされたのです。

本書にまとめている内容は、単に「地方問題」のまとめではなく、「日本のいたるところで発生している構造問題のひとつ」として読んでいただければ幸いです。

▶︎構造問題を5つの視点から整理する

本書では、以下のように5つの視点から地域の構造問題について整理します(図表1)。

・ネタの選び方
・モノの使い方
・ヒトのとらえ方
・カネの流れの見方
・組織の活かし方

図表1 本書全体の構造
このすべての要素が機能して、初めて地域再生に必要な取り組みが成立する。しかし、「事業」「資源」「組織」の3つすべてが間違えているから、地域再生はいつまでも実現しない。間違えた構造をいくら支援したところで、成果は出ない。重要なのは支援ではなく、誤った構造を是正することだ。事業、資源、組織を合理的構造へと転換させることこそが、地方が再生するために不可欠だ。

地域での取り組みが失敗する原因として、まずは「取り組むネタの選び方」があります。そもそも最初から、ネタを選ぶ際に間違っているパターンです。
B級グルメなどは、そのようなパターンのひとつです。そもそも地域でつくられていない小麦粉などを原材料にした、粗利こそとれるものの単価数百円から1000円程度の低廉なメニューを基本とすると、加工などの一部で付加価値を生むのが限界です。それだけでは地域の一次産業を含めた波及効果は期待できません。どこまでいっても、差別化が難しく単価が安い割に表面的な調理・提供に関する付加価値しかとれないため、地域全体の再生にはつながりません。

さらに「モノの使い方」も重要なポイントです。
地域での取り組みでは、建物や空間といったハードも不可欠です。そして、地方にはすでに多額の税金でさまざまなインフラが整備されています。しかしそのつくり方、使い方を間違うと、それは時に地域を滅ぼしかねない原因になります。これまでつくったモノが赤字を垂れ流してしまい、地域のほかのサービスに予算が回らなくなってしまうケースは少なくありません。
たとえば道の駅も、一見すれば地域のためになっているように見えますが、その多くは初期投資を回収できないばかりか、運営にも税金が使われる赤字経営ばかりです。じゃがいも1袋100円といった商売をするのに、鉄筋コンクリート建ての公共建築は過剰投資なのです。毎年数千万円の維持費を稼げる商売ではなく、税金で赤字を補填しなければ潰れてしまう場合がほとんど。それでは、どこまでいっても地域は儲からないのです。

また、多くの地域で問題になるのが「ヒトのとらえ方」です。
昨今は人口という数ばかりが注目され、定住人口の話、観光を中心とした交流人口の話、そのすべてが単に人口というボリュームの問題に集約されてしまっています。地方に人口さえ戻れば、すべての問題が解決するという話になりがちです。
しかしながら、実際には人口を増加させるということは、それだけの人たちを食べさせられる産業をつくるという話であり、単に移住促進補助金などで一過性の人口を追い求めても意味はありません。もともと地域産業に問題があるからこそ、雇用にも問題が波及し、地元に人が残らず、結果として地域内需要までも細っていっているわけです。そのため、本来は地元で強くしていこうとする産業があり、その産業に適合できる人材を集めるという発想が自然なのです。
交流人口についても同様で、一過性のイベントで何十万人を集めたところで、観光消費がなければ意味はありません。重要なのは人数よりも観光消費の「単価」です。ひとりあたりどれだけの消費をしてもらえるのか、単価設定をもとにして、地元の飲食店から宿泊施設までを含めたトータルでのサービスを変えていかなくてはなりません。にもかかわらず、地域の変化は後回しにされ、単に人数を集めればいいという考え方でイベントに予算を費やしてしまい、地元に何も残らないことが多々あります。
ヒトをどうとらえるかというのは、地元の次世代産業を支える人材という意味と、サービスを提供していく顧客という複合的な意味があります。これらを混同し、かつ質的問題を無視して「数」としてしか見ないと、大きな間違いのもとになります。

「カネの流れの見方」についても、地域政策では誤って扱われてきました。
そもそも地域政策は、再分配政策の一貫として政治的・行政的に行われてきたものが多く、経済的な視点、経営的な視点が軽視されてきました。たとえば、国が50億円の支援をするものの、地方自身も50億円を負担し、その維持に毎年2億円の負担が30年続くといった事業が行われてしまいます。これでは、累計すると地方では60億円の赤字です。そのため、地方自治体が活性化事業をやればやるほど財政負担が増加するという状況を引き起こしてきました。
また、地方での事業評価は「自治体」と「民間(第3セクター含む)」の連結決算で評価されなくてはなりません。しかし、特殊な公会計によってその評価が歪められています。さらに、官民ともに地域政策に関与する多くの人が、そもそも財務諸表すら読めないということも少なくありません。おカネの流れが見えないから、地方政策で「効果が見られない」という状況こそわかれど、おカネの流れに問題があることに気づけないのです。

さらに、「組織の活かし方」についても問題があります。
地域政策においては、組織行動に関する理論がほとんど採用されず、いまだに前時代的な「計画経済」のようなアプローチが採用されています。「計画」を定め、単年度での「予算」を決定し、それに従って組織を動かす。事業の状況を監視して、評価し、改善を言い渡す。
しかし、このような動き方は、組織においてモチベーションを高め、目的である「地域を再生する」ということと向き合わせるのには有効ではありません。単なるルーティンを回す、昭和の生産工場のようなやり方、もっと言えば、旧ソ連の国営工場のようなやり方です。
これでは、組織内の個人は本当に地域を再生する事業に汗をかくよりも、打算的に他の地域を模倣した施策を採用したくなります。目標も、単発で事業評価を得られやすい集客数などを優先したくなってしまいます。皆がヒットを狙うことさえせず、バントかフォアボールを狙うような姿勢です。このように「失敗しない」ことを優先する組織の中では、「地域を再生する」という中長期的な視野に立ってリスクをとること自体が、「馬鹿な行い」になってしまいます。

本書では、以上のような各論を、複数の視点から整理していきます。
ぜひとも皆さんの関わる分野が「同じような構造問題」を抱えていないか、点検するような気持ちで読んでいただければ幸いです。

2016年9月
木下 斉

木下 斉 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/10/7)、出典:出版社HP

地方創生大全――目次

はじめに

第1章 ネタの選び方
「何に取り組むか」を正しく決める
▶︎01 ゆるキャラ
〜大の大人が税金でやることか?
地元経済の「改善」に真正面から向き合おう
▶︎02 特産品
〜なぜ「食えたもんじゃない」ものがつくられるのか?
本当に売りたければ最初に「営業」しよう
▶︎03 地域ブランド
〜凡庸な地域と商材で挑む無謀
売り時、売り先、売り物を変え続けよう
▶︎04 プレミアム商品券
〜なぜ他地域と「まったく同じこと」をするのか?
「万能より特化」で地方を救おう
▶︎05 ビジネスプランコンペ
〜他力本願のアイデアではうまくいかない
成功するためには「すぐに」「自分で」始めよう
▶︎06 官製成功事例
〜全国で模倣される「偽物の成功事例」
「5つのポイント」で本物の成功を見極めよう
▶︎07 潰される成功事例
〜よってたかって成功者を邪魔する構造
成功地域は自らの情報で稼ごう

第2章 モノの使い方
使い倒して「儲け」を生み出す
▶︎01 道の駅
〜地方の「モノ」問題の象徴
民間が「市場」と向き合い、稼ごう
▶︎02 第3セクター
〜衰退の引き金になる「活性化の起爆剤」
目標をひとつにし、小さく始めて大きく育てよう
▶︎03 公園
〜「禁止だらけ」が地域を荒廃させる
公園から「エリア」を変えよう
▶︎04 真面目な人
〜モノを活かせない「常識的」な人たち
「過去の常識」は今の“非常識”だと疑おう
▶︎05 オガールプロジェクト
〜「黒船襲来!」最初は非難続出
「民がつくる公共施設」で税収も地価も高めよう

第3章 ヒトのとらえ方
「量」を補うより「効率」で勝負する
▶︎01 地方消滅
〜「地方は人口減少で消滅する」という幻想
人口増加策より自治体経営を見直そう
▶︎02 人口問題
〜人口は増えても減っても問題視される
変化に対応可能な仕組みをつくろう
▶︎03 観光
〜地縁と血縁の「横並びルール」が発展を阻害する
観光客数ではなく、観光消費を重視しよう
▶︎04 新幹線
〜「夢の切り札」という甘い幻想
人が来る「理由」をつくり、交通網を活かそう
▶︎05 高齡者移住
〜あまりにも乱暴な「机上の空論」
「だれを呼ぶのか」を明確にしよう

第4章 カネの流れの見方
官民合わせた「地域全体」を黒字化する
▶︎01 補助金
〜衰退の無限ループを生む諸悪の根源
「稼いで投資し続ける」好循環をつくろう
▶︎02 タテマエ計画
〜平気で非現実的な計画を立てる理由
「残酷なまでのリアル」に徹底的にこだわろう
▶︎03 ふるさと納税
〜「翌年は半減する」リスクすらある劇薬
税による安売りをやめ、市場で売ろう
▶︎04 江戸時代の地方創生
〜なぜ200年前にやったことすらできないのか?
江戸の知恵を地方創生と財政再建に活かそう

第5章 組織の活かし方
「個の力」を最大限に高める
▶︎01 撤退戦略
〜絶対必要なものが計画に盛り込まれない理由
未来につながる前向きな「中止・撤退」を語ろう
▶︎02 コンサルタント
〜地方を喰いものにする人たち
自分たちで考え、行動する「自前主義」を貫こう
▶︎03 合意形成
〜地方を蝕む「集団意思決定」という呪い
無責任な100人より行動する1人の覚悟を重んじよう
▶︎04 好き嫌い
〜合理性を覆す「恨みつらみ」
定量的な議論と柔軟性を重視しよう
▶︎05 伝言ゲーム
〜時代遅れすぎる、国と地方のヒエラルキー
分権で情報と実行の流れを変えよう
▶︎06 計画行政
〜なぜ皆が一生懸命なのに衰退が止まらないのか?
誤った目標を捨てよう
▶︎07 アイデア合戦
〜現場を消耗させる「お気楽アイデアマン」
実践と失敗から「本当の知恵」を生み出そう

おわりに

本書は「東洋経済オンライン」の連載「地方創生のリアル」に大幅に加筆して再編集したものです。

木下 斉 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/10/7)、出典:出版社HP

地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門

地方のリアルと成功のコツがわかる

ストーリーを通して、地方衰退の構造とビジネスでの変革手法について学べます。全国各地における約400名以上の未経験者が、地方創生のために実践したノウハウが紹介されています。地域再生のためには、一人一人の意識を変えることが大切です。全ての人に手に取ってほしい1冊です。

木下 斉 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

はじめに:凡人だからこそ、地域を変えられる

高校一年生のときに商店街の活性化を通じて「まちづくり」の世界に足を踏み入れてから、早20年が経過しました。地域で様々な仕事を経験する中で、なかなか表には出てこない「リアル」な現場も、数多く体験してきたように思います。

当初は盛り上がっていたイベントが、最終的に当事者が疲弊し切って打ち切りとなるケース。
人間関係の縺れや将来に向けた不安からチームが崩壊してしまうケース。
成功例としてメディアに取り上げられたがゆえに弱気なことを言えず、実態よりも大きく物事を語り、現場のメンバーとの乖離が生まれたり、罪悪感に襲われるケース。
どの地域にも、人と人とが向き合う仕事だからこその失敗や挫折があり、その浮き沈みの中でも折れずに前をやってきた人たちだけが、いまも事業を続けられているにすぎません。それが、まちづくりのリアルです。

では、どうやったら、そんな中で成功することができるのか。逆説的に聞こえるかもしれませんが、私はいつも、人と人の仕事だからこそ「ロジック」が大切だ、と発信してきました。
メディアはいつも「地方に移住した若者が奮闘するサクセスストーリー」や「老人たちが手と手を取り合い支え合う心温まる物語」など、地方を綺麗に切り取ろうとします。しかし実際には新たな取り組みを潰そうとする地元の権力者、他人の成功を妬む住民、補助金情報だけで生活する名ばかりコンサル、手柄を横取りしようとすり寄る役人など、様々な欲望が渦巻いています。そんな環境でも、いやそんな環境だからこそ、ブレずに経営のロジックを貫けた者だけが生き残るということを、私はこの20年間肌で感じてきました。そしてその「ロジック」を各地の仲間に伝えるべく、これまで何冊かの本も書いてきました。

しかし、まだ伝えられていない大事なことがあります。特に地域でのビジネスで重要となる「エモーション」、情への理解についてです。
ロジカルに書く経営書からは、当事者同士の感情の衝突や経営面でのプレッシャー、そして何よりそれらにめげず前に進んでいく者たちの「粘り」が、どうしてもこぼれおちてしまいます。そのため、今回は、ロジックと工モーションという両輪をともに伝えるべく、小説形式で地方での事業のリアルを書くことにしました。
よく言われることですが、成功のあり方は様々でも、失敗には共通する「落とし穴」があります。今回は、ふだん伝えきれない「落とし穴」についてかなり細かく描写したので、ぜひ他山の石として参考にしてもらえることを願っています。

先に示すのは野暮かもしれませんが、この本から感じ取ってもらいたいことはふたつあります。

ひとつは「いつまで待っても地元にスーパーマンは来ない」ということです。
成功しているように見える地域のリーダーは、ときにスーパーマンに見えます。「うちのまちにもああいうすごいリーダーがいればなぁ」なんて言う声もよく聞きますが、それは単なる勘違いです。
成功している事業のリーダー像はあくまで表の姿。裏では事業や私生活で様々なトラブルに巻き込まれ、ときに事業なんて放り出して逃げ出したいと思うことさえある、ちっぽけな生身の弱い人間です。今ではたくましく見える人であっても、若い頃に様々な失敗をしていたり、普通の人なら立ち直れないような経験をしています。なんでもできるスーパーマンが一人で成果を挙げてまちを変えてくれるなんてことは、あなたのまちでも、そして他のまちでも起こりえません。
何より、そもそも地域にスーパーマンは必要ないのです。それぞれの役割を果たす「よき仲間」を見つけ、地味であっても事業を継続していけば、成果は着実に積み上がっていきます。最初は二、三人のチームで十分です。その中核となる仲間と共に取り組みを続けていけば、気づかぬうちに地元を超え、全国、海外に仲間ができるようになり、人生は豊かになり、そしてその地域も新たな活力を持つようになっていきます。

「うちのまちにも、観光資源があったらなぁ」「うちのまちも、もっと交通の便がよかったらなぁ」などの声も、他力本願という点では同じです。あなたのまちにはスーパーマンは来ないし、突然名湯が湧いて出ることもなければ、埋蔵金が見つかることもない。ヒトなし・モノなし・カネなし、という困難な状況でもめげずに足を一歩前に出し進んできた「凡人」がいるかどうかが、各地域の明暗を分けるだけなのです。さらに言えば、いまは衰退しているまちも、長い歴史の中で誰かが栄えさせてきたはずです。自分たちで何もせずに文句だけ言う人ばかりがいる地域が栄えた例は、歴史上ありません。

もうひとつは「どの地域だって“始めること”はすぐにできる」ということです。
成功ばかり積み重ねてきた地域なんてありません。というよりは幾重にも失敗しつつ、諦めずに取り組みそのものが破綻しない程度になんとか失敗を食い止め、ダイナミックにやり方を変えながら取り組むことこそが事業の成功なのです。メディアは、わかりやすいところを切り出すので、外からは一貫してうまくいっているように見えるだけです。

だからこそ大切なのは、「失敗せずに成功できるか」という発想そのものを捨てること。まずは一歩を踏み出してみることです。
どこかの組織から予算をもらうのではなく、自分たちの出せる手持ち資金を出し合い、自分たちがこれが正しいと思うことに挑戦していく(人のお金を使いながら自分たちのやりたいように挑戦するなんて都合のいい話はありません)。自分たちの責任だからこそ、間違っていたらすぐに修正をかけながら、とにもかくにも前に進んでいくのです。
最悪なのは、人の予算を活用して、いつまでも勉強会をやるだけ、ワークショップをやるだけで、自ら事業にまったく取り組まない人たちです。何をやったら成功するか、どうやったら成功するか、誰がやったら成功するかなんて、いつまで議論していても、わかるはずはありません。自転車に乗らない人は永遠に自転車に乗れないのです。
まずは、自分たちがやりたいと思うことを、自分たちの手でやり始めること。始めることは、どんなに追い詰められた地域だってできます。そして、多少の失敗も勉強と捉え、まずは始めた地域だけが、最終的な成功を手にすることができます。

私は建前が好きではないので、「いつか誰かが助けてくれます」「時間をかけて考えれば必ずうまくいきます」「頑張れば成果が必ず出ます」などと綺麗事は言いません。だから、ここまで読んで「そこまでして成し遂げる覚悟はない」「やはり自分にはできないのでは」と不安になる人もいるでしょう。でも、僕自身、もともと地域活性化には興味が一切ありませんでしたし、そもそも小学生低学年の頃は、友達の家に訪ねていくことも、クラスで手を上げて発言することも、初対面の大人には話すことすらできないほどの極度の人見知りでした。その後、成長と共に自分なりの主張はできるようになったものの、高校の時に商店街の取り組みに関わり、そこで会社経営までやることになったのもはっきり言ってしまえば「偶然」です。
最初は慣れない仕事にストレスで10円ハゲができたり、未熟さから株主総会で株主にブチ切れ社長を退任することになったり、投資した事業で関係者が夜逃げをしたり、地方に必要だという志から事業を立ち上げたものの代金を踏み倒されたり、「こんな若造に何ができる」とアイデアだけを取られプロジェクトから外されたり、数えきれない失敗や困難を重ねてきました。
だからこそ、この主人公の物語も、あえて「都市部で会社に言われたことをやるだけの弱気なサラリーマン」という設定にしています。実際、今地域で「ヒーロー」として注目される人の中にも、失敗を重ねて成長するまではあまり目立つ存在ではなかったケースはたくさんあります。つまり明日のヒーローは、今日の「凡人」なのです。

衰退する地域を変えることは、決して簡単ではありません。しかし、簡単ではないからといって、限られた誰かにしかできないものではありません。むしろ、普通に日々の生活をする「凡人」だからこそ、格好つけずに失敗してもその事実を受け止め、小さなことを馬鹿にせず積み上げ、利が生じても欲深くならずに継続できるのです。平凡である、そのこと自体が強みなのです。

どこにでもある地域に起こるこの物語を通じて、小さな一歩を踏み出してくれる人が一人でも増えれば、著者として何よりの喜びです。

最後に、本書は小説形式ではありますが、実際に役立ててもらえるよう、注釈やコラムに特に力を入れて書きました。他の本以上に、しっかり読み込んでもらえると嬉しく思います。また、それらの「付録」を充実させたことにより、多少物語の流れが途切れがちになってしまっているかもしれませんが、あくまで「実践のための本」であることを鑑みて、ご容赦いただければと思います。

著者

木下 斉 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

主要登場人物紹介

瀬戸 淳
Atushi Seto
Age 33
高校卒業とともに上京。大学卒業後に中堅メーカーに就職。社内調整に明け暮れる毎日に疑問を持ちながらも、他にやりたいこともなく過ごす。目立つタイプでもなく流されやすい半面、はっきりと物申さないことで憎まれない性格でもある。実家が地元で商売をしているが、父が他界し、今は母だけで店を切り盛りしている。

佐田隆二
Ryuji Sada
Age 33
瀬戸と同じ高校を卒業後、大学には進学せず飲食店修行に出る。実家を継いだうえで、今では地元で五つの店を経営し、人気を博している。物事に対する姿勢がはっきりし男気もあるため、慕う後輩たちは多いが、地元の上の世代からは言うことを聞かないやつとして厄介者扱いされている。

森本祐介
Yusuke Morimato
Age 33
瀬戸と同じ高校を卒業後に地元の国立大学に進学。その後地方公務員試験に合格して市役所に就職した。世渡り上手を自負している。日々、上司の顔色をうかがっているものの、実際には何か大きなことをなしたいという野心もあり、瀬戸たちを度々巻き込む。

鹿内 宏
Hiroshi Shikauchi
Age 31
官僚としてここまで冷や飯を食わされてきたが、課長となったことをきっかけに、新たな補助金政策で地方出身の有力政治家に食い込み、評価される。さらなる出世を目指し鼻息が荒い。「地方は国に指導されるべき存在だ」という歪んだ正義感を持つ。

瀬戸聖子
Seiko Seto
Age 58
淳の母。淳とは対照的に根っからの明るい性格で、夫の死後も客や取引先からも協力あって店をつぶさずに続けてきている。しかし、体力の限界を感じ、自分の今後の人生を考えて、店を畳む決心をする。

田辺 翔
Sho Tanabe
Age 31
芸大を卒業後、東京で中堅の広告代理店に勤める。地元に戻ってきてからはフリーペーパーの広告営業などをしていた。もともとは佐田の飲み仲間で、とにかくノリは軽く、顔が広い。しかし、仕事ではクリエイティビティあふれるアイデアを次々と思いつく。

あらすじ

物語の舞台は、東京から新幹線で1時間、さらに在来線で20分という、人口5万人ほどのどこにでもある地方都市。主人公の瀬戸淳は、高校卒業までこの街で育った。
大学時代は東京で過ごし、そのまま東京の中堅メーカーに就職。実家を離れて10年がたち、最近は年に1回帰省すればいい方だ。
淳の父は地元の商店街で小売店を営んでいた。5年前、その父が亡くなって以来、店の切り盛りは母の聖子が担っていたのだが、その聖子が突然、店も家も売り払い、友人と旅行でもしながら老後を楽しみたいと言い出した。
そもそも店のある商店街は、少子高齢化や人口減少の煽りを受ける地方都市の典型として、完全なシャッター街となっていた。淳の実家に限らず、長年続いた店を畳むというのは珍しくない。
「難しいことはわからないから」と言う聖子に代わり、淳は東京と地元を行き来し、廃業手続きや不動産売却といった“実家の片付け”に追われ、その過程で高校時代の友人たちと再会する。
友人たちを通じて、地元の置かれた現実と向き合ううち、淳は「自分の将来」、そして「地元の将来」について思いを巡らせるようになる。やりがいを感じられない東京での仕事。「仕事がない」と思っていた地元で活躍する佐田の頼もしい姿。果たしてこのまま、実家を売り払い、東京でサラリーマンを続けることが正しい道なのだろうか——。
そして、淳の「実家の片付け問題」は、シャッター街の再生、さらに地域全体の再生という思わぬ方向へと進んでいくのだった。

木下 斉 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

目次

凡人のための地域再生入門

はじめに:凡人だからこそ、地域を変えられる

目次

第一章 シャッター街へようこそ
突然の帰郷
不本意な再会
名店は路地裏にある
コラム1・1 どんな地域にも「人材」は必ずいる
コラム1・2 地方は資金の流出で衰退する

第二章 たった一人の覚悟
役所の誤算、自立する民間
嘔(わら)う銀行
「逆算」から始めよ
コラム2・1 なぜ、今の時代に「逆算開発」が必須なのか
コラム2・2 地方に必要なのは、「天才」ではなく「覚悟」である

第三章 見捨てられていた場所
そこでしか買えないもの
仲のよさこそ命取り
次の一手
コラム3・1 地方のビジネスにおける「場所選び」で重要なこと
コラム3・2 資金調達で悩む前にやるべきこと

第四章 批評家たちの遠吠え
田舎の沙汰も金次第
「子どもじゃないんだからさ」
覚悟の先の手応え
コラム4・1 地方の事業に「批判」はつきもの
コラム4・2 地方でビジネスを始める悩みと不安

第五章 稼ぐ金、貰う金
「欲」と「隙」
お役所仕事
名ばかりコンサルタント
コラム5・1 役所の事業がうまくいかない構造的理由
コラム5・2 見せかけの地方分権のジレンマ

第六章 失敗、失敗、また失敗
成功続きの成功者はいない
原点回帰
丁稚奉公の旅
コラム6・1 本当の「失敗」とは何か
コラム6・2 「よそ者・若者・馬鹿者」のウソ

第七章 地域を超えろ
資金調達
小さな成果、大きな態度
血税投入
コラム7・1 他地域連携でインパクトを生むための思考法
コラム7・2 地方で成功することにより生まれる「慢心」

第八章 本当の「仲間」は誰だ
他人の茶碗を割る権利
仲良し倶楽部を超えて
金は霞が関ではなく、地元にある
他人の金で、人は動かない
コラム8・1 嫌われる決断をすべきとき
コラム8・2 孤独に耐え、各地域のストイックな仲間とつながる

最終章 新しいことを、新しいやり方で、新しい人に
さよなら、シャッター街
コラム9・1 今の組織を変えるより、ゼロから立ち上げよう

おわりに

木下 斉 (著)
出版社 : ダイヤモンド社 (2018/11/15)、出典:出版社HP

地域再生の失敗学 (光文社新書)

本当に必要な「正しい考え方」とは

地域再生の歴史は、“失敗”の歴史と言っても過言ではありません。そしてその成否をいかに未来に活かしていくかが重要です。なぜこれまでの試みが失敗したのか、本当に必要とされているものは何か、地域再生のためのヒントがわかります。

飯田 泰之 (著), 木下 斉 (著), 川崎 一泰 (著), 入山 章栄 (著), 林 直樹 (著), 熊谷 俊人 (著)
出版社 : 光文社 (2016/4/19)、出典:出版社HP

はじめに

飯田泰之
Yasuyuki Iida
明治大学政治経済学部准教授

日本のこれからを考えるにあたって、地方・地域の視点は欠かせないものになってきています。日本という国は複数の地方、多数の地域によって成り立っているわけですから、これは当たり前のことだと思われるかもしれません。しかし今、あらためて、地方・地域の活性化の重要性が注目されるのには理由があります。現在、地方・地域は経済・財政・コミュニティといった複数の意味で危機的状況にある。それが多くの人々の共通認識となったことが、現在のような地方問題への注目につながっているのです。
これまでも日本では無数の地域再生を目指す政策が行われてきました。そのなかに、一定の成功を収めたものがあるのも確かです。しかし、現在の状況から考えると、これまでの地域再生政策は基本的に失敗だったとまとめざるを得ないのではないでしょうか。従来型の政策の多くは失敗だった。これを認めることが、これからの地域再生を考える出発点となるでしょう。
これまでの地域再生、地域経済政策の問題点を挙げればきりがありません。しかし、過去の施策の問題点を責めるだけではこれからの道を探ることはできない。そこで、本書では、従来型の施策の問題点を整理しつつ、「ではどうするのか?」という視点を提供することを目指したいと思います。

「地域再生」という単語を聞いて思い浮かぶものは何でしょうか?道路鉄道網の整備によってある都市に多くの企業・工場が立地すること、あるいは観光客の増加によって市の観光業の売上が向上することでしょうか。それとも、中山間地域の小規模集落において自然と共生した人間らしい生活を取り戻すことでしょうか。地域再生を語る難しさは、そこに含まれる「地域」「再生」という二つの概念について、人によってまったく異なるイメージから語れるところにあります。
対象の定義なしに有益な議論を進めていくことはできません。本書でいう「地域」とは、中心となる都市と、その都市に通勤・通学する人口が一定以上いる周辺地域を合わせたものと理解してください(専門的にはこのような地域分類は都市雇用圏と呼ばれます)。おおまかには、「人口一〇万人以上の市の中心街とその通勤圏」といったイメージで読み進んでいただければと思います。
そして、このような地域における平均所得が向上することをもって「再生」と呼びます。この定義に疑問のある方もいるでしょう。編者も「当該エリアの平均所得向上以外の地域再生はない」「これこそが真の地域再生である」と主張するつもりは毛頭ありません。あくまで本書で何が語られているかを明確に理解いただくための便宜上の定義です。もっとも本書を読み進んでいただければ、地域の平均所得向上が(文化や伝統、コミュニティといった)より広義の地域再生にとって必要条件に等しいことをおわかりいただけると思います。所得が向上すればあらゆる意味で地域が再生するわけではありません。しかし、所得の向上なしには地域再生はおろか、地域の存続すら危ぶまれるのです。

以上の定義に従うと、本書における地域再生とは地域経済振興のことではないかと感じられる方もあるでしょう。その認識は間違いではありません。しかし、戦後長きにわたって行われてきた地域経済振興のための方策と、これからの地域経済に必要なもの・ことは大きく異なります。これまでの国や自治体主体の振興策の失敗から学び、民間主導で地域経済に再び活力と成長を取り戻す——失敗から学び、将来を考えるという観点から、本書のタイトルは『地域再生の失敗学」としました。
日本において地域の経済振興が重要な政策課題として意識されるようになったのは、一九六〇年代前半のことです。戦後復興から高度成長期にかけて、日本経済の成長エンジンとなったのは重化学工業の発展でした。そして、これら重化学工業の多くが北九州から阪神、そして東京圏に至る沿岸地域(いわゆる太平洋ベルト地帯)に立地していたことから、工業化の進む地方とそれ以外での経済格差、所得格差が拡大します。一九六一年時点で、上位の五都府県の平均所得は下位五県の二・一八倍と、戦後最大を記録することになりました(県民経済計算、一人あたり県民所得)。
そこで、一九六二年には「地域間の均衡ある発展」をスローガンとする全国総合開発計画(一全総)が策定されます。一全総の考える地域間均衡のイメージは、その後の、そして今現在に至る地域振興策のひな形となりました。道路・港湾・鉄道を整備することで、工場立地のためのインフラを提供し、それによって日本のあらゆる地域を工業化、近代化させるというイメージです。現在行われている地域振興においても、公共事業によるインフラ整備、工場・企業誘致は大きな目玉とされることが少なくありません。
工場誘致には雇用吸収力がある。つまりは、地域に工場が立地すれば多くの雇用が生まれるかもしれません。しかし、現代の先進国経済における所得の源泉は「ものづくりそのもの」にはありません。先進国にとっての所得の源泉は、企画・開発、デザインといった「ものづくりの周辺」へと移ってきています。
日本が「世界の工場」だった八〇年代前半までと現在で求められている経済振興のあり方は異なる——これは誰しもが理解していることでしょう。だからこそ、工場・企業誘致以外、中心市街地の活性化や地域の特産品を生かした域外販売拡充策へと国・自治体の取り組みは変化しています。しかし、中間目標が工場誘致以外のものになったにもかかわらず、その手法は「大規模なインフラ整備によって(何かの)集積を目指す」というものに留まってしまうことが多い。大規模な商業施設の建設による市街地活性化は、商業振興のために工場誘致の手法を用いてしまっている典型例です。
従来型の地域振興をまとめると、「インフラ整備によって、今までできなかったこと(工場立地・新規店舗開業)を可能にする」というビジョンになります。できなかったことが可能になったのだから、あとは自然と工場や新規店舗がやってくるだろうというわけです。しかし、このような手法が有効なのはあくまで「その地域に工場を建てられるなら建てたい、店を開けるなら開きたい」という潜在的な投資需要が豊富である場合に限られます。国民各々が似たような財・サービスを欲していて、その頭数そのもの(人口)も増加していくという状況ならば、このような方針にも一定の合理性はあったかもしれません。しかし、現在の日本(というよりもすべての先進国)はそのような状況にはありません。
人口はほとんどの先進国で減少を始めており、さらに財・サービスへの需要は量や質よりもバラエティ(自分の好みにぴたりと適合した特徴ある商品の存在)に向かっています。このような状況では、大規模なインフラ整備を軸とする経済振興策は、期待される効果を発揮することができなくなっているのです。

これからの地域再生は、インフラ整備型振興とは異なる方針で発想しなければなりません。経済のバラエティ化が進むと、「どの商品が売れるのか」はますます予測不能となっていきます。熟議と合意形成を経て実行される公的なプロジェクトは、このような状況にまったく対応できません。何が流行るかわからないという状況に対応できるのは、雑多なアイデアを小さく実行し、ダメならば早めに撤退することが可能な民問だけです。これからの地域再生は、企業・個人といった民間のプレーヤーを主役とせざるを得ないのです。
成功する、需要につながるアイデアを生み出すために必要なものは何でしょう。企画やデザインに成功の方程式はありません。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるよろしく、多数のアイデアがテストされ、その中の一部が半ば偶然生き残っていくという視点がこれからの経済にとって重要になるでしょう。地域経済の活性化のためにはより多くのアイデアが生産される場所が必要です。
数を撃つという戦術に関して、日本は、非常に困難な状況に直面しています。生み出されるアイデアの数は人間の数に強く依存します。たくさんの人がいればたくさんのアイデアが生まれる。反対に人の数が少なければ、出されるアイデアの数も少なくなっていく——今後数十年にわたって人口減少が不可避な日本は、そして地域はどうしたらよいのでしょう。
人口減少の問題に即効薬はありません。少なくとも今後半世紀にわたって、日本の人口は減少し続けるでしょう。これは非現実的な人数の移民を受け入れ続けない限り確実な話です。しかし、アイデアの数は人数だけで決まるわけではありません。同じ人数でも、相互の交流があるか否かによってそのアウトプットは大きく異なります。人と人とが出会い、刺激を受ける中でアイデアは生まれます。人と人とが出会う場所としての人口集積地、つまりは十分な規模の都市が存続できるならば、アイデアの総生産量は減少しないでしょう。ここから、人口密集地の維持が民間を主体とする地域再生のために必要であることがわかります。
その一方で、国内で突出したビジネス・居住の集積地となっている東京圏も深刻な問題を抱えています。人口密集とともに公共エリア、都市圏が広域化して居住地が分散した結果、集積のメリットよりもデメリットのほうが目立ちつつある。都市への「適度な集積」を誘導するという方向性を可能にするためには、これまで以上に各都市圏の経済振興への取り組みが重要になってくるでしょう。

民間を中心に据えた振興策、それをサポートする行政のあり方、人口減少への対応とこれからの地域再生を目指すためにはさまざまな視点からの知見が必要となります。本書では、これらの課題に対するヒントを示すため、まさに現場のプレーヤーたちとの対談、研究者による三つの講義とその解題を提供したいと思います。
第1章では、民間による地域再生プロジェクトのプレーヤーである木下斉氏(エリア・イノベーション・アライアンス代表)との対談を通じて、従来型の経済振興策がなぜうまくいかないのか、地域再生を民間主体で行うというのはいったい何をすることなのかを考えます。
続く第2章では、地域再生における官のあり方について、地域経済学を専門とする川崎一泰氏(東洋大学教授)に講義いただいています。地域再生の主体は民間であるという本書のコアとなる主張は、決して国・自治体による公的な政策が不要だとするものではありません。むしろ、主役が民間であるということが明確になることで、これまでとは異なった形で国・自治体が担うべき仕事は増加するかもしれません。これまでの官民連携制度の問題点を整理することで、これから必要なシステムは何かを模索していきたいと思います。
そして、第3章のテーマはアイデアとイノベーションです。先端的な経営学の知見のエヴァンジェリストとしても知られる入山章栄氏(早稲田大学准教授)の講義を通じて、民間企業、そして個人が数多くのアイデアを生み出し、所得を上げるイノベーションに結びつけていくために、地域には何が必要なのかを考えましょう。同章を通じて、技術が高度化し、ネットワークが充実すればするほど人と人との結びつき、その出会いの場としての地域の重要性は高まっていくということが理解できるでしょう。
本書では中小都市から中核都市圏の経済振興がメインのテーマとなっています。人口減少下での都市圏の維持には何が必要なのでしょう。その際に参考となるのは、日本全国、都市圏よりもはるかに早くから深刻な人口減少の問題に直面してきた、いわゆる限界集落の事例ではないでしょうか。第4章では、林直樹氏(東京大学助教)に文化、そして記憶の維持という観点まで含めた人口減少への対応策を提案いただきます。これからの地域再生は容易な事業ではありません。容易ではないからこそ、うまくいかなかったときの次善の策の準備が必要になります。具体的な方策のみならず、次善策、あるいは複数の選択肢を準備することの重要性を理解いただければと思います。
第5章では熊谷俊人氏(千葉市長)との対談を通じて、本書全体の議論をまとめるとともに、これからのビジョン策定につながる展望を考えていきます。他の地域の状況と比べて、一見恵まれている千葉市においてさえ地域再生への道のりは平坦なものではありません。現場のリアリティから、地域再生のために必要な政策的措置は何か、何を変えなければならないかを考えたいと思います。

飯田 泰之 (著), 木下 斉 (著), 川崎 一泰 (著), 入山 章栄 (著), 林 直樹 (著), 熊谷 俊人 (著)
出版社 : 光文社 (2016/4/19)、出典:出版社HP

目次

はじめに
飯田泰之
明治大学政治経済学部准教授

第1章 経営から見た「正しい地域再生」
木下斉
エリア・イノベーション・アライアンス代表
▶︎イントロ・飯田
いかにして「稼げるまち」にするか
▶︎対談・木下×飯田
ゆるキャラは「まちおこし」ではない
どこでも似たようなイベントが行われるワケ
まちは路地裏から変わる
サプライチェーンを長く持つ
競争意識とコスト感覚の欠如
域内で内需拡大と資本を回すのが第一
チェーン店が抜けたあとには何も残らない
小さな事業を集めて強くする
プレーヤーに必要な資質
行商と貿易黒字
「支援」よりも「緩和」を
今あるものを捨てる根性
ソフトランディングのための意識変革

第2章 官民連携の新しい戦略
川崎一泰
東洋大学経済学部教授
▶︎イントロ・飯田
地方再生のために自治体はどう変わるべきか
▶︎講義・川崎
「地域経済学」とは?
国も地方も将来世代からの前借りに依存
増税するインセンティブがない
もっともリーズナブルな自治体経営ができる規模とは?
「自治体消減論」の前提
産業連関表とは何か
公共投資は東京と地方の格差を是正しなかった
民のノウハウを公共サービスへ
PFIという名のローンの横行
人々はなぜ「まちなか」に行かなくなったのか
海外で行われている官民連携の手法
公共交通を税で賄う
税源の国際比戦
適正な負担を受益者に求めるべき
▶︎対談・川崎×飯田
望ましい人口密度とは
公共による「借金の付け替え」
補助金依存を脱却するためには
結局はリーダーシップを執れる人がいるかどうか
地方の税収を増やす改革が急務
ふるさと納税は地方を救うのか

第3章 フラット化しない地域経済
入山章栄
早稲田大学ビジネススクール准教授
▶︎イントロ・飯田
ますます重要になる「信頼」と「人間関係」
▶︎講義・入山
世界はフラット化しなかった
多様な人と出会う非公式な場の重要性
ギザギザ状になった世界
シリコンバレーの投資家を京都へ
「誰が何を知っているか」を知ることの重要性
ビジョンは経営者の顔
地方都市とイノベーション
▶︎対談・入山×飯田
東京は人の集積を生かしきれていない
海外で勝てば一気にジャパンブランドに
オフィスはフラットにして交流を促進せよ
都市にはわかりやすいシンボルが必要

第4章 人口減少社会の先進地としての過疎地域
林直樹
東京大学大学院農学生命科学研究科・特任助教
▶︎イントロ・飯田
「自主再建型移転」とは何か
▶︎講義・林
「過疎」を測る五つの指標
高齢化率予想のショッキングな数字
選択肢を持つことの重要性
「中山間地域」とはどんな場所か
移転したほとんどの人が満足
市町村の財政改善にも貢献
自主再建型移転はなぜ消えたのか
誤解されているデメリットもある
放置すると山は荒れるのか?
民俗知の種火を残すための拠点
移転は「敗走」ではないという意識が重要
集落が維持可能な産業とは
「穏やかな終末期」も視野に
「正しい諦め」の必要性
▶︎対談・林×飯田
「人口減」は絶対悪ではない
増田レポートの陥穽
種火集落形成のための条件
六〇歳前後のリーダーが最適
都市住民の「理想」を押しつけてはいけない
次善策は嫌われる
一番守りたいものをまず決める

第5章 現場から考えるこれからの地域再生
熊谷俊人
千葉市長
▶︎イントロ・飯田
市町村にしかできない役割とは
▶︎対談・熊谷×飯田
100年後の都市計画は不可能
「全国一律願望」がもたらした交付金依存
千葉市はベッドタウンではない
「地域おこし」と「商売」を切り分ける
地方は「東京にないもの」を生み出せ
地方は自らの価値に気づけていない
「設備」から「効用」へ
役所と民間で人材の行き来がもっとあるべき
「行きたい街」かどうかがすべて
地方に住む不便はほとんどない

おわりに
飯田泰之

飯田 泰之 (著), 木下 斉 (著), 川崎 一泰 (著), 入山 章栄 (著), 林 直樹 (著), 熊谷 俊人 (著)
出版社 : 光文社 (2016/4/19)、出典:出版社HP

熱海の奇跡―いかにして活気を取り戻したのか

衰退した観光地“熱海”の再生

人口減少社会を迎える日本では、地域活性化は重要な課題といえます。本書では、衰退した観光地の代名詞となっていた熱海の再生のための街づくりへの取り組みがわかります。活性化ために次から次へと実践するバイタリティが凄まじいです。自分の意識を変えるきっかけとなる1冊になるでしょう。

市来 広一郎 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2018/6/1)、出典:出版社HP

熱海の奇跡―目次

プロローグ ビジネスによる“まちづくり”があなたの街を再生する
五〇年間の衰退を経験した熱海のV字回復
観光白書でも取り上げられた民間の力
ビジネスの手法を用いた「民間主導の」まちづくり
熱海の街をリノベーション
日本全国どんな街でもできる、ビジネスによるまちづくり

【第1章】廃墟のようになった熱海
熱海は五〇年後の日本の姿
日本一の温泉地としての全盛期
見る見る衰退していった九〇年代
保養所が閉鎖
バブル崩壊の余波で故郷を追われる
観光に求めるものが変わった
街の魅力を求めるお客さんたち
《第1章で紹介した「成功要因」》

【第2章】民間からのまちづくりで熱海を再生しよう
地元熱海にこだわる理由
いずれ熱海に戻ろう
旅して気づいた熱海の可能性
このままでは都会にも地方にも未来がない
コンサルティングという仕事のやりがいと限界
自分自身のミッションに気づいた一新塾
まちづくりを仕事にする——事業を通して熱海を変えよう
熱海に没頭するために会社を辞める
帰郷
《第2章で紹介した「成功要因」》

【第3章】まちづくりは「街のファンをつくること」から
地元の人たちが熱海を知らない
観光客も地元の人も街に満足していない現実
地元には人も資源もあふれるほどある
農地の再生——「チーム里庭」
熱海市の行政マンとの出会い
地元を楽しむ体験交流ツアー「オンたま」
「こんな熱海知らなかった」——続々と生まれる熱海ファン
熱海の暮らしが幸せになった
地元の人の意識が変わった
面白いことが起きそうな街へ——役割を終えて次のステージへ
《第3章で紹介した「成功要因」》

【第4章】街を再生するリノベーションまちづくり
自転車の両輪
リノベーションまちづくりの生みの親、清水義次さんとの出会い
現代版「家守」は「リノベーション」で街をつくる
熱海の中心街をリノベーションする
まちづくりにビジネスで取り組む
街への投資資金を生み出す
株式会社machimori
補助金には悪循環のリスクがある
街の要は不動産オーナー
街の変化の兆しを捉え、新しい使い手を呼び込む
《第4章で紹介した「成功要因」》

【第5章】一つのプロジェクトで変化は起き始める
中心街・熱海銀座に「点を打つ」
CAFE RoCAをオープン
「初期投資を三分の一にしなさい」
「最初は、自分の金で成功して見せなさい」
家でも職場でもない“第三の居場所”をつくる
困難だらけの二年間
CAFE RoCAの成功と失敗
志と算盤
《第5章で紹介した「成功要因」》

【第6章】街のファンはビジネスからも生まれる
ゲストハウス「MARUYA」
泊まると熱海がくせになる
ゲストハウス立ち上げの困難
ゲストハウス立ち上げに協力してくれた人々
ゲストハウスの資金調達
二拠点居住の入り口となるゲストハウス
熱海はインバウンド比率が低い
旅人が来るほど街にとってプラスになる観光へ
街の人たちが感じる変化——人こそが街のディスプレイ
《第6章で紹介した「成功要因」》

【第7章】事業が次々と生まれ育つ環境をつくる
海辺のあたみマルシェ
「やってから謝りに行く」ことで理解を得る
起業が次々と起こるnaedoco
《第7章で紹介した「成功要因」》

【第8章】ビジョンを描き「街」を変える
クリエイティブな三〇代に選ばれる街
自ら仕事や暮らしをつくっていく中心となる三〇代
ビジョンを共有する場をつくる
熱海銀座は変わり始めた
若者、女性、シニア、多様な人がいるからこそ生まれる空気
熱海のリノベーションまちづくりのこれから
地域と起業家をつなぐ、現代版家守の役割
《第8章で紹介した「成功要因」》

【第9章】多様なプレイヤーがこれからの熱海をつくる
本格的に動き出した行政
まちづくりの動きの背景と行政の支え
ATAMI2030会議
起業家を生み出す「創業支援プログラム99℃」
新たに生まれた家守や起業家たち
自らリスクをとって動き出してくれた不動産オーナー
V字回復の裏にある、熱海のプレイヤーの世代交代
二〇三〇年に向けて、これからが本当の始まり
本当の「リゾート」を目指して
《第9章で紹介した「成功要因」》

エピローグ 都市国家のように互いに繁栄を
外から来る人が熱海の魅力をつくってきた
二〇三〇年の熱海の風景と、この国の風景
たった一人からでも街は変わる、社会は変わる

市来 広一郎 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2018/6/1)、出典:出版社HP

プロローグ
ビジネスによる“まちづくり”があなたの街を再生する

五〇年間の衰退を経験した熱海のV字回復

衰退していた熱海がV字回復した。
二〇一四年頃からマスコミなどで、盛んにそう言われ、注目されるようになりました。かつて、首都圏の近郊に位置する温泉地として栄えた熱海は高度経済成長期から徐々に衰退していって、バブル経済が崩壊した前世紀の末から二〇〇〇年代にかけては、すっかり見る影もなくなっていました。
熱海の旅館やホテルの宿泊客数は一九六〇年代半ばには五三〇万人でしたが、二〇一一年には二四六万人と半分以下に落ち込んでいます。
しかし、それから四年後である二〇一五年には三〇八万人となっていて、短期間に二〇%以上も急増したため、熱海はV字回復したと言われているわけです。
熱海再生の要因として外的なものはいくつか挙げられます。
まず一つは、かつての繁栄を支えていた大型温泉ホテルの廃業後、低価格で泊まれるホテルが次々とつくられていったことです。お客さんのニーズの変化を捉えて急成長した観光ホテルグループが熱海にも展開してきたことによります。
バブル経済崩壊後の長い不況、さらにはそこから脱したかに思えたときに起こったリーマンショックなどにより、旅行の在り方が確実に変化していました。旅行は「安・近・短」と言われて、大都市圏の人々は近場にあり費用の安いところに短期間だけ遊びに行くというスタイルに変わっていったのです。
熱海の従来型の大型温泉ホテルが、リーズナブルな価格で泊まれるホテルチェーンに取って代わられたのは、こうしたニーズの変化を象徴するものでした。
二つ目の要因は、二〇〇七年頃から団塊の世代が定年を迎え、熱海に移住しようという人たちが増えていったことです。
別荘が次々と建てられ、それまでの旅館やホテルがリゾートマンションに建て替わっていきました。この動きにより、熱海に新しい住人が増えていき、観光による経済の活性ではなく、街の住人による熱海の内需の拡大が可能な状況になりました。
しかし、これら二つの外的な要因だけでは、きっと熱海の再生はありませんでした。

観光白書でも取り上げられた民間のカ

二〇一七年に観光庁が発行した観光白書で、熱海は観光地再生の事例として取り上げられました。観光白書では、熱海の再生を実現させたのは、行政、民間の各プレイヤーによる努力と試行錯誤があってこそだとして、次のような三つの要素を挙げています。
① 財政危機をきっかけとした危機意識の共有、首長主導での観光戦略の合意形成
② 観光関連者の中で統一プロモーションの必要性を共有、新規顧客獲得に向けて若年層をターゲットに選定
③ やる気のある民間プレーヤーにより、個人客を意識した宿泊施設のリニューアルやコンテンツづくり
この三つの要素のうち、③についてはこのような記述もあります。
「民間ベースでは、やる気のある宿泊事業者により旅行スタイルのニーズに合わせた施設のリニューアルや、Uターン者が立ち上げたNPO法人による魅力的なコンテンツづくりが進められている。このように、従来の観光関連事業者、Uターン者が中心となって新たなプレーヤーを巻き込み、行政の観光地域づくりの基盤をつくる取組と連携しながら活躍することで、熱海が生まれ変わりつつある」

平日も観光客で賑わう熱海駅前

ここに指摘されている「Uターン者が立ち上げたNPO法人」とは、おそらく私たちの組織(NPO法人atamista)のことですが、観光白書では私たちの活動について、さらに詳しく、次のように指摘しています。
Uターン者(NPO法人atamista)による熱海の魅力的なコンテンツづくり
・熱海の街・農業・海・緑・歴史・健康などの資源を生かし、住民・別荘保有者・観光客のための体験交流型イベント事業(「オンたま」事業)の提供
・株式会社machimori(NPO法人atamistaから派生)が、熱海の中心商店街の空き店舗をリニューアルし、カフェ、ゲストハウス等を運営等
これらはどれも、私たちが行ってきた熱海再生のための取り組みであり、観光庁が熱海再生に寄与していると公式に認めてくれたことになります。
つまり、民間の小さな活動からでも街は変えられるということなのです。

ビジネスの手法を用いた「民間主導の」まちづくり

「ビジネスの手法を用いて街を活性化させる」
私が民間の立場から熱海の再生のために決めたアプローチを一言で表すならこうなります。
熱海のまちづくりを行う民間企業を、自分たちの手で立ち上げ、街の再生に取り組んでいます。私たちのまちづくりは、税金に頼るのではなく、自ら稼ぎ、街に再投資し事業を生み育てることで、街に外貨を呼び込んだり、経済循環を生み出すことを目指す事業です。
地元をなんとかしたい。地域のコミュニティを再生したい。地域にある文化を次の世代につなげていきたい。地域の自然を守りたい。
こうした想いは大事です。しかし、街の経済と向き合うことなしに、衰退している街を生まれ変わらせるということはできません。
さらに経済と向き合うといっても、ただ単に人口を増やしたり観光客を増やしたりすればいいという単純な問題ではありません。魅力のある商品やサービスを生み出す企業をたくさん育て、街そのものの魅力を高めることによって経済的な実力を備えることがなければ、街は持続的に繁栄することなどできないからです。
また、ビジネスで街を活性化させると言っても、行政による支援や連携は不要というわけではありません。行政には行政にしかできない役割があります。でも、決して、行政がまちづくりの主体ではありません。なぜならば私たちの街は本来私たち自身がつくるものだと思うからです。
また行政はお金を稼ぐことが得意でもありません。でも、観光やまちづくりの分野は本来、街として稼ぐ部分であり、そこで稼いだお金が税金として納められることによって福祉や教育などの行政サービスが可能になるはずです。
だからこそ、まちづくりは、あくまでも民間主導であるべきだと、私は思っています。
「自分たちの暮らしは自分たちでつくる、自分たちの街も自分たちでつくる」
私たちが大事にしていることはこのことであり、その活動を持続可能な発展をするものにしていくには、お金に向き合うことがとても重要だということなのです。

熱海の街をリノベーション

全国で衰退の危機に瀕している数多くの地方都市と同様に、私たちの熱海にもシャッター街が広がっていました。中心街には一〇年以上も使われずにシャッターが閉めっ放しになっている店舗ばかりが目立ち、通りを歩く人はほとんどいないというありさまでした。
私たちは、空き店舗だらけの熱海の中心エリアを復活させたいと考えました。
私たちのまちづくりでは、「リノベーションまちづくり」というやり方も活用しています。
リノベーションとは建物をリフォームするということと混同されて使われることもありますが、単に古いものをもう一度新しくきれいにして使うということではありません。古いものを新しい価値観で見直し、新たな魅力を生み出し使うということです。
リノベーションまちづくりとは、遊休化してしまった資源を活用し、そこに新たな価値を発明し、街を再生する取り組みなのです。
リノベーションまちづくりとは、街の独自文化を活かし、古いものに新しい価値を与える、そんな新しい発想を持った人による経済活動のことです。リノベーションを行うことで、街の文化が魅力を増します。そして、住民自らが生活を楽しめるようになることで内需が拡大し、かつ、外から遊びに来る人が増えて外貨を獲得するという展開を目指すわけです。
つまり、自らの街の文化を見直し、魅力を高め、経済力を増強することで、街を持続可能な形で活性化するという考え方なのです。
そのために大事なのは、新しい価値を生み出す人の存在です。
リノベーションまちづくりで最もカギとなるのは、古い店舗を新しい価値観で再生させてくれる人たちを呼び込むことでした。そこでこの中心エリア再生のために掲げたのが、こんなビジョンだったのです。
「クリエイティブな三〇代に選ばれる街になる」

私たちは、まず、自分たちで空き店舗をリノベーションしてカフェをオープンし、地元の魅力ある人々をここに集めて交流の場にしました。
すると、そうした新しいプロジェクトに惹かれて、地元の面白く意欲のある人々が集まり始めます。外から来る面白い若者が泊まれるゲストハウスを開くと、そこを拠点にして、街に人が流れ始めたり、また熱海に移住する人も出始めます。こうした動きをみていて、このエリアに出店したいという人々が次々とシャッター街の空き店舗で事業を始めたのです。
こうして、熱海の街は変わり始めました。
観光業界にせよ行政にせよ、街の方々は、私たちが提唱していた「リノベーションまちづくり」の意義に賛同し、積極的に支援し、協力してくれました。
熱海市の行政の方々、観光協会や商工会議所や旅館組合の方々、熱海銀座商店街の方々、熱海で旅館や喫茶店や飲食店やお土産物屋さんなど商売をする方々、NPOや市民活動団体の方々、そして熱海に移住してきたシニアの方々、若者たち、農家さん、漁師さん……。こうした多様な方々の理解や協力、支援、共同の取り組みがあってこそ、私たちの活動は成り立ってきました。
よく、「どうやってそんなに多くの人を巻き込んだんですか?」と聞かれることがあります。その答えになっているかどうかはわかりませんが、「大きなビジョンと小さな一歩」ということを常に心がけてきました。いきなり大きくはなれないし、多くの人は巻き込めなくても、一つ一つ、階段を上るように一歩一歩つくりあげていくことで、段々と多くの人と新たな町をつくりあげることができました。
こうした中で、熱海の街のファンができ、ファンがサポーターになり、サポーターがプレイヤーになりという風に、街の担い手も次々と生まれ育ってきたのだと思っています。

日本全国どんな街でもできる、ビジネスによるまちづくり

この本では、熱海で私たちが培った経験を、可能な限りお話しました。
ビジネスの手法でまちづくりをすることは、熱海だけに使えるやり方というのではなく、日本全国どこの地域でも使えると思うのです。
なぜなら、かつての熱海の衰退は、日本全国の地方の衰退と同じ構造で起こったからです。
まず、熱海の衰退は、全国の温泉観光地の衰退と共通した原因を持っていました。
高度経済成長期には盛んだった団体旅行や企業の慰安旅行が激減し、個人や家族単位での旅行が主流となったことで、従来の温泉観光地はお客さんのニーズに応えられなくなっていました。この図式は熱海に限らず、全国の温泉観光地に共通して当てはまります。
さらに、熱海では中心街に人通りがなくなり、シャッター街となっていきました。これは、温泉観光地というより、全国の地方都市に共通した衰退の兆候です。
シャッター街に象徴される地方の衰退は、これまで、しばしば人口減少が原因だと考えられがちでした。
しかし、最近、地方活性化に取り組んでいる人々の間では、人口減少よりも街の魅力の乏しさこそ問題だと、捉えられるようになっています。
私たちもこの考え方に賛同しています。
そして、解決法として選んだ一つが、シャッター街となってしまった街の中心を「リノベーションまちづくり」という手法を用いて新しいまちづくりをすることだったのです。
こうした活動は、待っていれば、行政や街の誰かがやってくれるわけではありません。気づいた人がやるしかないのです。私自身も自らの街の課題に気づいてしまったところから始まりました。たった一人では何もできない、でもたった一人からでも始められる。そして続けることで街は変わっていく。
どうか、私たちの経験則を、皆様の街の活性化にお役立てください。
日本の地方は必ず活性化し、衰退から立ち直ることができる。
私たちはそう確信しています。

市来 広一郎 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2018/6/1)、出典:出版社HP