【最新】スマートシティに関するおすすめ書籍 – 新たな都市ビジネス事例も紹介

スマートシティとは? どのような取り組みがなされているのか?

日本での社会での課題の一つで都市化の問題があります。人々が主体的で快適に生活するために、データを分析し、AI技術などの応用をして、より良い都市計画を進めるのがスマートシティの計画になります。今回は実際の事例なども含めたスマートシティがどのような役割が必要なことになるのかを含めた書籍を紹介します。

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出典:出版社HP

スマートシティはどうつくる? (NSRI選書)

スマートシティの作り方について解説

本書は、主に「現在の都市が抱える問題点」、「そもそもスマート化とは」、「スマート化の導入」の3つの項目に分けられ、スマートシティの作り方について順序立てて解説されています。図やグラフの挿入も多いので、視覚的な面からも理解をサポートしてくれます。

山村真司 (著, 監修)
出版社 : 工作舎 (2015/1/23)、出典:出版社HP

刊行に寄せて

―都市、その可能性と脆弱性のはざまで― 野城智也

いにしえの時代、人々は様々な自然の脅威から身を守るために集って住むようになり「集落」を形成しました。集まって住む場所では交易が始まり、相前後して、政治や宗教の拠点機能が置かれ「まち」となっていきます。交易・政治・宗教がさらに人を呼び込んで、物流が盛んになり交通手段が整備されるとともに、続々と集まる人の成果を支える水や廃棄物にかかわるインフラも整備されていきました。そして、人の集積は様々な産業を勃興させるとともに様々な文化を生み、教育施設・医療施設も整備され、その魅力がさらに人を呼び込んで「都市」となっていったのです。

翻って、現代の都市に目を転じるとその規模の急速な拡大には目を見張るものがあります。西暦一八○○年時点では世界人口の僅か三%が都市人口でしたが二〇世紀末時点では四七%に達しています。一九五〇年で人口一00万人を越える都市は八三に過ぎませんでしたが、二〇一四年七月時点で五二七に増加し、人口一千万人を越える都市(圏)も三三あるといわれています。(二〇一四年一〇月二六日時点で、Principal Agglomerations of the World (http://www. citypopulation.de/world/ Agglomerations.html)に示されているデータによる。)また国連の推計によれば、現時点での都市居住人口は三二億人ですが、二〇三〇年には五〇億人に達します。

都市は、人・情報知識・産業を集積させ、その力を増しています。欧州・北米では知識経済化が進み、都市を舞台にしたイノベーションが戦略的に進められようとしています。例えば、ニューヨークのイーストリバー上に計画されているコーネル大学の新キャンパス、ロンドンのハーマースミス南方に計画されているインペリアルカレッジの新キャンパスは、都市を舞台にオープン・イノベーションを起こしていこうという野心的な試みです。都市の魅力を増し、才能と知識に溢れる多様な人材を集めることに成功した都市は、さらに成長をしていくという、国境を越えた都市間の競争が始まっているのです。こうした観点からみると、世界企業がアジア地区の司令塔を東京からシンガポールなどに移しはじめ、プライスウォーターハウスクーパース(PWC)の第六回目となる分析レポートCities of Opportunityで東京が世界で一三位と苦戦しているのは大いに気になるところです。

一方で、都市はその発展と併行してその脆弱性も高めています。現代の世界規模での都市化の中心は、開発途上国であり、新興国です。都市化の進行にインフラの整備が追いつかず、 水、衛生、環境、交通などの問題は深刻化しています。加えて、例えば、大多数の大規模都市が臨海部に接しているにもかかわらず、洪水や津波に対する防災対策は後手に回るなど、災害への危険性は増しています。また、増大する低所得者の人々の居住環境は悪化の一途を辿り、都市社会の深刻な分裂を生んでいます。また、世界中の都市における消費生活は、エコロジカル・フットプリントの増大を生み、気候温暖化も含め、深刻な地球規模での環境問題を生み出しています。

二一世紀の人類の文明を脅かすものがあるとすれば、非寛容が生むテロ・戦争、もしくは地球規模での環境問題でありましょう。残念なことに、都市における貧困が生む深刻な分裂が非寛容を生み、都市における莫大な消費は地球環境問題を生んでいるのです。約二〇年前、リチャード・ロジャースは、その著書『都市/この小さな惑星の』のなかで「人類が暮らすところ―私たちの都市―が、生態系の最大の破壊者であり、この惑星上で人間の生存を脅かす最大の脅威を与えているというのは皮肉なことだ。」という警句を発していますが、現実はロジャースの描く方向に動いていると考えざるをえません。まさに都市は、偉大な可能性と、脆弱性を隣あわせながら、成長し、変容しているのです。

さて、可能性と脆弱性の高まりが併行してすすむ状況のなかで、スマートシティやその関連語が盛んに使われ始めています。本書でも紹介されていますように、その意味合いは、国・地域によって多様ですが、私は、スマートシティとは「都市の可能性を引き出すとともに、その脆弱性を緩和できるような系統的・持続的な仕組を構築し運用している都市」という点では共通していると理解しています。国・地域によって、可能性にかかわる関心、脆弱性にかかわる課題は異なり、こうした文脈の違いがスマートシティの意味の地域差異性を生んでいると考えられます。

ここでいう「系統的・持続的な仕組」では、多岐にわたるデータの収集と分析・解析及び制御は不可欠で、ICTを活用しない限りその必要性を満たすことはできません(逆に、ICTという技術手段が大発展したからこそ、スマートシティという概念が創られたといっても過言ではないように思われます)。

「系統的・持続的な仕組」を適用することで、都市を動かし支える複雑で大規模な技術システム(例えばエネルギー・システム、交通システム)を賢く運用運営していくことが期待されます。ここで、注意すべきことは、これらの大規模な技術システムは、エネルギー供給事業者や、交通サービス提供者など事業者側だけでは思うように制御できず、使い手がどのように行動するかによっても大きく左右されるということです。一人一人の人間の行動はある意味では恣意的で予測は難しく、技術システムの運営者にとっては大きな不確実性が生まれます。しかし、それは供給者側の視点であって、一人一人の使い手には、信条や、選好など事情があるのです。こうした、それぞれの個の事情をまとめあげて、技術システムを運用運営していくのか、collective approach を支える新たな技術が求められています。

かつてはモノを多く持つことが富の象徴でしたが、現代社会では、むしろQOL(Quality of life)がより重視されはじめています。その価値転換を支えているのが、サイバーフィジカルシステム(CPS :Cyber Physical System) とも、Industry4.0 ともいわれる新しい産業概念です。スマートシティ構想で用いられる要素技術は、CPS、Industry4.0の好例といっても差し支えないと思われます。経済社会や技術社会における価値の再定義は進み、如何にして個の事情にあった価値を実現するのか、そして同時にcollective approachにより全体最適を実現するのかが問われているのです。

スマートシティを旧来の産業の枠組や発想で理解し行動すること、特に供給者視点で発想することは、非生産的な停滞を生むおそれがあります。そうなってしまっては「都市輸出」などという耳にここちよい標語もただただ虚ろになっていってしまうでありましょう。

私たちが、スマートシティの概念を実体化させ、都市の可能性を引き出し、脆弱性を緩和していくためには、従来の枠組の程椎を離れ、使い手の価値を基盤に、使いながら学び改良していくイノベーション・プロセスが不可欠です。そのような意味で、本書の「生活者の価値向上」という視点は極めて当を得たものです。本書が、スマートシティの的確な理解と、その健全なる具現化に大いなる貢献をすることを願ってやみません。

二〇一四年一〇月二六日
[やしろ・ともなり 東京大学生産技術研究所教授・工学博士]

山村真司 (著, 監修)
出版社 : 工作舎 (2015/1/23)、出典:出版社HP

目次

[刊行に寄せて」―都市、その可能性と脆弱性のはざまで 野城智也
[プロローグ]―「スマート」をキーワードとする“まちづくり”

第1章 都市の現況―膨張し続ける都市・成熟を超えた都市
1.1 世界的な都市人口の集中
世界の都市人口と都市建設の増加
アジアの都市化と巨大都市の増加

1.2 加速するエネルギー消費
世界のエネルギー事情
都市におけるCO2排出構造

1.3 高齢化する都市
世界的な高齢化がかかえる問題
高齢化社会に向けたまちづくりの課題

 

1.4 課題解決に向けて期待されるスマート化
スマートな発想への転換
生活者発想のスマート化を
将来のコミュニティ、社会とスマート化

第2章 スマート化とは何か?
2.1 スマート化の概念整理
環境やエネルギーにまつわる都市の呼び名
スマート化の始まりと広がり

2.2 スマート化に関する施策
日本のスマートシティ関連の施策の策定
自治体の取組み

2.3 都市コミュニティにおけるスマート化
コミュニティニーズの紐解きから始める
持続可能の視点からのスマート化
私たちがめざすコミュニティの将来像

2.4 スマート化の標準化の動きについて
なぜ標準化が必要なのか
先進国(主にEU、米国)の動き
日本の「CASBEE 都市」の場合
そのほかの国(中国、新興国)地域の動き

第3章 スマートシティ検討のプロセス
3.1 スマートシティ開発の現況
見なおされる世界の先端事例令
欧州のスマートシティ
米国のスマートシティ
新興国のスマートシティタ
日本のスマートシティ
国内外のスマートシティ開発の課題と展望

3.2 スマートシティ実現のための統合的検討プロセス
都市・コミュニティの類型化
統合的検討プロセスの提案

3.3 スマート化を実現するための事業の進め方
官民の関わり方、官(国、自治体)に求められるもの
実現化のための組織の構築について
都市経営指標による分析

第4章 スマートシティ技術の導入計画[1]4.1 コミュニティづくりと都市計画の方法
スマート化の本質、コミュニティのあり方
都市構造スマート化のための二つのコンセプト
段階的な開発に対応したスマートユニットの提案
鉄道沿線型スマートシティ

4.2 建物の低炭素化の推進
建築・住宅レベルの省エネルギー
まち全体で省エネルギーを実現するために

4.3 エネルギー供給系インフラ計画
都市内の熱供給インフラ
都市内の電力供給インフラ
これからのエネルギー供給インフラ
再生可能エネルギーの種類と技術開発
未利用エネルギーの種類と適用先
未利用エネルギー導入の課題
ドイツ、「シュタットヴェルケ」によるバイオマスエネルギーの導入策

第5章 スマートシティ技術の導入計画[2]5.1 上下水道系インフラ
水資源の保全と有効利用
上下水道インフラの維持管理

5.2 廃棄物処理系インフラ
廃棄物の現状と利活用の状況
日本と世界のバイオマスエネルギー
バイオマスエネルギー化の技術

5.3 インフラとしての緑・水環境
生活の豊かさを求めて
歯止めのかからないヒートアイランド現象
緑と水による風の道とクールスポット形成
緑によるストレス緩和

5.4 交通系インフラ(道路、公共交通、自動車)
交通インフラのスマート化の現状と課題
スマートコミュニティ実現のためのモビリティデザイン
EVを活用した新しい交通施策
総合的なモビリティパッケージデザインの事例
モビリティデザインと環境
エネルギーの包括的評価

5.5 ICT系インフラ
コミュニケーション系と物理情報マネジメント系
セキュリティ系インフラ
ICTが拓く次世代コミュニティサービス

エピローグ
参考資料/文献
写真クレジット
著者紹介

プロローグ

「スマート」をキーワードとする”まちづくり”

昨今「スマートシティ」という言葉をいろいろなところで耳にします。都市やまちがスマー トとはどういうことなのでしょうか。書籍やネットで調べてみると、テクノロジーによってつくられた都市やまちというイメージがありますが、本当でしょうか。スマートフォンやスマート家電とは違い「まち」ともなるとピンとこないという方も多いのではないでしょうか。混乱する一方で、ますます「スマートシティ」が世の中のキーワードとして大きなものになりつつあります。

スマート化については汎用的な定義はとくにありません。本来同じ土俵で議論されることのなかった物理的な取組みから社会学的な範囲までを一括りで「スマート○○」と言い表しているのが実状です。スマート化の流れは一過性に終わらず、あらゆる分野で議論が拡大し続けています。都市に関しても、これまで○○シティ、4人都市と、時代の流れに沿ったキーワードが表れては消えていきました。ところが「スマートシティ」は言われ続けて久しいのです。いったい私たちがくらす都市やまちはどうなっていくのでしょう。国連の予測では二〇三〇年には世界人口の約三分の二(五○億人)が都市に住み、GDPの二五%は人口の上位十数都市からもたらされるといわれています。経済活動のメインドライバーは現在にもまして、都市が担うことになります。

これにともなって、エネルギー消費は産業部門中心から都市部門へとシフトして、CO2排出量の三分の二が都市でのくらしや仕事から発生します。つまり、都大きなチャンスとリスクを同時に背負うことになるのです。情報技術の発達により、これまで考えられなかったような局地的な情報の把握・制御が可能な世の中になってきました。「スマート技術」によって、解決が難しいとされてきた都市の諸問題に対して光明を見いだせるのではないか?と私たちは感じ始めています。とはいえ、技術重視に陥ることなく、私たちがくらしたいまちとは、またコミュニティや空間がどうあってほしいのか、あるいはここで何がしたいのかといったまちづくりの本質を徹底して議論する必要があります。

複雑に絡みあう都市問題に対してスマート化はある解決策を提供できるはずです。その場合、たとえば次のような「まちの視点からの問い」に対する問いから議論を進めていくことが重要であると考えます。

[Q1]対象となるまちとは、コミュニティとは?
▶国内なのか海外なのか、中心市街地か郊外かなど、コミュニティ空間の位置づけを整理して考える必要があります。
[Q2]サスティナブルなコミュニティに求められるものとは?
▶Quality of Life 〈QOL〉の向上や負荷抑制等の持続可能性の両立を視野に入れて考える ことが重要です。
[Q3]都市インフラ充実の方法をどのように考えるのか?
▶いったん敷設した都市インフラの変更は容易ではありません。あらかじめ利便性×省エネルギー性×防災性能などのバランスを考慮した検討が必要です。
[Q4]膨れ上がる都市運営コスト、その削減が可能なのか?
▶エネルギー・資源の自立分散やエネルギー生産の外部依存率を下げるという視点での検討が求められます。

本書では、「スマートシティ」の位置づけやこれまでの動向、その行方について述べつつ、これらの問いに対する答えは何なのか、また問いの解決につながるようなスマートシティを実現するための方策について、その方法論を展開していきます。

山村真司 (著, 監修)
出版社 : 工作舎 (2015/1/23)、出典:出版社HP

デンマークのスマートシティ: データを活用した人間中心の都市づくり

デンマークの都市政策を紹介

本書はデンマークの先進的な都市政策を包括的に紹介しています。デンマークのここが良いといった内容だけでなく、日本と仕組みとデンマークのそれの構造的な違いについてもわかりやすく言及されており、各自治体がそれら特有の状況の中で、デンマークの良い点をどのように参考にして動くべきか想像しやすい本になっています。

中島 健祐 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2019/12/5)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 格差が少ない社会のデザイン
1 格差を生まない北欧型社会システム
2 税金が高くても満足度の高い社会を実現
3 共生と共創の精神
4 課題解決力を伸ばす教育
5 働きやすい環境
6 格差がないからこそ起きること

2章 サステイナブルな都市のデザイン
1 2050年に再生可能エネルギー100%の社会を実現
2 サーキュラーエコノミー(循環型経済) の推進
3 世界有数の自転車都市
4 複合的な価値を生むパブリックデザイン

3章 市民がつくるオープンガバナンス
1 市民が積極的に政治に参加する北欧型民主主義
2 市民生活に溶け込む電子政府
3 高度なサービスを実現するオープンガバメント
4 サムソ島の住民によるガバナンス

4章 クリエイティブ産業のエコシステム
1 デンマーク企業の特徴
2 世界で活躍するクリエイティブなグローバル企業
3 デジタル成長戦略と連携して進展するIT産業
4 スタートアップ企業と支援体制
5 新北欧料理とノマノミクス

5章 デンマークのスマートシティ
1 デンマークのスマートシティの特徴
2 コペンハーゲンのスマートシティ
3 オーフスのスマートシティ
4 オーデンセのスマートシティ

6章 イノベーションを創出するフレームワーク
1 オープンイノベーションが進展する背景
2 トリプルヘリックス(次世代型産官学連携)
3 IPD(知的公共需要)
4 社会課題を解決するイノベーションラボ
5 イノベーションにおけるデザインの戦略的利用
6 社会システムを変えるデザイン

7章 デンマーク×日本でつくる新しい社会システム
1 日本から学んでいたデンマーク
2 デンマークと連携する日本の自治体
3 北欧型システムをローカライズする
4 新たな社会システムの構築

おわりに

中島 健祐 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2019/12/5)、出典:出版社HP

はじめに

デンマークは人口わずか580万人の小国である。日本人には社会保障制度が充実した福祉国家であり、「人魚姫」や「マッチ売りの少女」などの童話で有名なハンス・クリスチャン・アンデルセンが生まれた国として親しみがあるだろう。最近は幸福度が高い国としても知られるようになり、デンマークの文化、デザイン、ライフスタイルが紹介されることが増えてきた。一方で、デンマークが現在の社会システムを築くに至った要因を行政システム、社会インフラ、イノベーション、テクノロジーの切り口で横断的に紹介しているものは少ない。そのため日本でデンマークの経験を取り入れようとしてもうまくいかないことが多い。

本書は、デンマークについて、社会システムの中心である国の政策から市民の暮らしまで俯瞰する形でまとめた。さらに、デンマークを礼賛するのではなく、客観的事実を提示することで、日本で応用展開できることを見極めてもらうことが狙いである。

1章では、「格差が少ない社会のデザイン」としてデンマークがオープンで公平な社会をつくりあげてきた歴史的背景と本質的要素について紹介している。現在のデンマークがつくられたバックグラウンドである。

2章では、「サスティナブルな都市のデザイン」を取り上げる。日本でも地球温暖化に伴い、SGDS(持続可能な開発目標)が話題となっているが、デンマークでは理念にとどまらず具体的なプロジェクトに落とし込むことで社会実装を図っている。

3章では、「市民がつくるオープンガバナンス」を紹介している。デンマークで市民が積極的に参加するオープンガバナンスがどのように実現されているのか、その背景やしくみを取り上げた。

4章の「クリエイティブ産業のエコシステム」では、資源が限られた小国デンマークが創造性によって、いかに産業を発展させてきたのかについて事例を交えて紹介している。

5章の「デンマークのスマートシティ」では、首都コペンハーゲン、第二の都市オーフス、第三の都市オーデンセのスマートシティの取り組みを取り上げた。日本で推進されているスマートシティやスーパーシティ計画との違いは参考になるだろう。

6章の「イノベーションを創出するフレームワーク」では、意外に知られていない、デンマークでイノベーションが創出されるしくみを解説している。概念にとどまらず、日本との投資プロジェクトを通じたイノベーションのメカニズムを解説した。

最後の7章では、「デンマーク×日本でつくる新しい社会システム」として、日本の自治体がデンマークの社会システムを参考にしている具体的な事例と、将来、日本とデンマークが連携する場合の体系について説明した。

デンマークでは、新しい技術やしくみを取り入れるだけではなく、先人の知恵を尊重した社会を構築している。これは「伝統と革新の融合」ともいえるもので、旧来型社会システムから時代を超えた普遍的価値のある枠組みを維持し、そこに先端技術を統合する取り組みでもある。デンマークが500年先も存続し、世界から尊敬される国家を築くための秘訣でもある。筆者はデンマーク外務省という特殊な職場に身を置き、日本人でありながらデンマーク国家の中枢に触れることができる恵まれた環境にいる。本書は、そうした私の立場から、日本の社会に役立つと考えたデンマークの社会システムを紹介したものである。

ますます複雑化する現代社会において、本書がデンマーク人の憧れる日本をさらに豊かなものとするきっかけとなれば幸いである。約100年前に内村鑑三が「デンマルク国の話」として紹介したように。

中島 健祐 (著)
出版社 : 学芸出版社 (2019/12/5)、出典:出版社HP

Smart City 5.0 地方創生を加速する都市 OS

会津若松市のスマートシティ化プロジェクト

震災からの復興をきっかけに、スマートシティ化へと取り組んできた会津若松のプロジェクトの一部始終を解説しています。日本で実際に行われた取り組みなので、他地域で行う際にも取り入れやすいポイントを学ぶことができる一冊です。

アクセンチュア=海老原 城一 (著), 中村彰二朗 (著)
出版社 : インプレス (2019/4/30)、出典:出版社HP

はじめに

「東北、特に福島は復興に長期間を要することが想定される。だからこそ、単なる復興支援ではなく、多くの雇用を生み出す新たな事業を福島で興してほしい!」

会津若松市で地域プロデュース事業を手がける会津食のルネッサンス(現・本田屋本店)の代表で、福島県代表として参加した本田勝之助氏が発したメッセージだ。2011年3月1日に発生した東日本大震災から約1カ月後の4月20日、被災地の復興支援策を協議するために開かれた復興会議でのことだった。当時、被災者の安全や衛生環境を確保するため、被災地では復旧作業が急ピッチで進められていた。社会的責任を果たすべく、日本中の名だたる企業が復興支援チームを組んで支援策を模索していた。

アクセンチュアも復興支援チームを立ち上げ、ボランティアに行ける者、義援金を出せる者を募るといった具合に、当初はできる範囲のことから支援を始めた。しかし、コンサルティング企業である私たちが考えるべき課題はもっと先にあった。ライフラインが復旧した後、家も仕事もなくした彼らの生活を立て直すにはどうしたらいいのか。その時に必要となる支援は何か。私たちは机上の空論を繰り返していた。これは私たちに限らず、他の企業や政府も同じだったと思う。

こんな状況を打破するため、動いたのは経済産業省だった。岩手・宮城・福島の3県から代表者を東京に招き、「被災地は今、何を求めているか」という生の声”を伝える会議を開いたのである。それが前述の復興会議だ。現地の声を聞こうと、会議には業界問わず数百人もの人が集まっていた。復興会議を主催した経済産業省の担当官が発した「ここに参加している皆さん一人ひとりが何を考え、どう行動に移すか?日本の将来は、皆さん個人と各企業の行動にかかっています」という言葉は、今でも心に残っている。

後日、アクセンチュア復興支援チームは本田氏をお招きし、被災地のメッセージを直接伝えてもらった。そして2011年6月8日、異例の速さで拠点開設を目的とした福島訪問が実現した。その日、本著者である海老原と中村を含むアクセンチュア復興支援メンバーの3人は、福島県南相馬市の現状視察から福島県を表敬訪問した後、会津若松市に向かった。

磐梯山の麓から会津若松市の盆地に下る坂道で、3人で見た光景は忘れることができない。これぞまさに「コンパクトシティ」だと感じた。会津若松市は盆地のため、周囲の山々から見下ろされている。磐越道の猪苗代IC(インターチェンジ)から会津若松ICに向かう長い下り坂を下っていくと、ひとかたまりになった街の中心地と山の裾に集落が点在しているのが見えてくる。中心の都市部と周辺の限界集落という風景は、まさに会津若松市をハブとして近隣自治体が連携している「コンパクトシティ」のイメージそのものだったのだ。人口も2万人と多くない。このとき、3人は皆、示し合わせたかのように全く同じ印象を抱いていた。会津若松市の復興改革デザインの青写真は、こうしてイメージされていった。

2011年7月5日、会津若松市と、会津大学、アクセンチュアが共同で、福島の復興に向けた産業振興・雇用創出の取り組みを開始するとプレスリリースを配信した。ここから、壮大なスマートシティプロジェクトがスタートしたのである。これらの経緯からもわかるとおり、このプロジェクトの始まりは、純粋な復興支援だった。しかし、私たちが会津若松市のスマートシティ化こそ地方創生につながると気づくまでに、それほどの時間はかからなかった。

実は、私たちがいち早く福島に復興支援チームの拠点を立ち上げられたのには理由がある。当時アクセンチュアは日本でビジネスを始めて3年を迎え、日本への恩返しとなるプロジェクトを計画していたのだ。そんな最中に東日本大震災が発生。その恩返しプロジェクトは急遽、社長直下の復興支援プロジェクトへと切り替えられることになった。

さて、私たちが活動してきた会津若松市の人口規模は「日本国民1億2000万人の1000分の1」である。会津若松市が取り組む実証実験や市民オプトイン型の現状は、規模こそ小さいが、スモールステップ、ジャイアントリープ(小さく始めて大きく育てる)、だ。これが他の地方都市にも広がっていくことで、日本のスマートシティの進歩、政府が掲げる「クラウド・バイ・デフォルト(クラウドサービスの利用を第一候補として検討すること)」の実現につながると私たちは考えている。会津若松市で始めたことが今後、日本全国にじわじわと広がっていくはずだ。スマートシティは今後も進化し続けていくだろう。

スマートシティに終わりはない。会津若松市でも、市民の参加率をもっともっと高めていかなければならないし、実証事業を行うためのインフラ整備もまだまだ改善の余地がある。継続していくために予算をどう捻出するかという課題もある。

私たちが会津若松市に拠点を構えて7年10カ月。復興の象徴として始めたスマートシティプロジェクトをスタートさせてから約8年が過ぎた。2019年4月9日には雇用創出の場としての「スマートシティAiCT(アイクト)」も完成し、第1ステージとして計画した内容は、ほぼ成し遂げたといっていいだろう。本書では、2011年3月1日に起きた東日本大震災の復興支援から始まり、地方創生を成し遂げるためにデジタルをどう活用してきたか。地域の皆様の参加によってスマートシティプロジェクトをどう育ててきたか。そして、産官学民が集まれるスマートシティAiCTができたことで加速する第2ステージの計画や、その先に見えてくる日本の他地域におけるデジタル地方創生の展開についても触れていきたい。

少子高齢化、労働力不足という課題先進国である日本において、デジタルを活用して地方創生を成し遂げることの重要性は言うまでもない。この8年にわたる会津プロジェクトの軌跡を明らかにすることが、日本の明るい未来を切り拓くスマートシティへの変革に携わる皆さまの一助になれば、これほど嬉しいことはない。会津プロジェクトに関わるすべての皆さまへの感謝を込めて、本書を贈りたい。

アクセンチュア=海老原 城一 (著), 中村彰二朗 (著)
出版社 : インプレス (2019/4/30)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに
CHAPTER1
地方都市が抱える 課題の共通点とSmartCity
1-1 人に選ばれる街になるための地方創生
1-2 市民を巻き込むための「自分ゴト」化の仕掛け
1-3 デジタルに向けた会津若松市の資産と課題

CHAPTER2
SmartCity AIZUの実像
2-1 会津若松スマートシティ計画の構造
2-2 情報提供ポータル「会津若松+ (プラス)」
2-3 インバウンド戦略術としての「デジタルDMO(Destination Management Organization): DDMO」
2-4 予防医療へのシフト術となる
「IoTヘルスケアプラットフォームプロジェクト」
2-5 小さく始めて大きく育てる

CHAPTER3
SmartCity5.0が切り拓くデジタルガバメントへの道程
3-1 行政や企業の変革条件
3-2 都市のためのIoTプラットフォーム「都市OS」
3-3 デジタルシフトによる地方創生
3-4 デジタルシフトをやり抜くための四つの条件
3-5 スマートシティに不可欠なデジタル人材育成
3-6 地域の商品・サービスの価値を上げる施策

CHAPTER4
世界に見るSmartCityの潮流
4-1 「SmartCity」は環境問題やエネルギー産業の振興から誕生した
4-2 データ駆動型スマートシティの価値向上とマネタイズモデル
4-3 世界の「新規開発型」スマートシティと「レトロフィット型」スマートシティ
●新規開発型
藤沢サステイナブル・スマートタウン (神奈川県藤沢市)
Sidewalk Toronto (カナダ・トロント市)
●レトロフィット型
アムステルダム市 (オランダ)
スマートカラサタマ(フィンランド・ヘルシンキ市)
4-4 スマートシティの今後

CHAPTER5
[対談] 会津若松の創生に賭ける人々
5-1 会津若松市 観光商工部 企業立地課 白岩 志夫 課長と
AiYUMU 八ッ橋 善朗 氏
5-2 本田屋本店 代表取締役 本田 勝之助 氏
5-3 会津大学 岩瀬 次郎 理事
5-4_スマートシティ会津 竹田 秀 代表
5-5 アクセンチュア・イノベーションセンター福島
若きスタッフたち

おわりに

アクセンチュア=海老原 城一 (著), 中村彰二朗 (著)
出版社 : インプレス (2019/4/30)、出典:出版社HP

スマートシティ時代のサステナブル都市・建築デザイン

持続可能な都市・建築デザインについて学ぶ

本書は、スマートシティの中でも、都市や建築デザイン分野にスポットを当てて解説されています。本文中には図やグラフが多数挿入されていてわかりやすく、スマートシティ時代に重要となる持続可能な都市や建築デザインについて詳しく学びたい方におすすめです。

日本建築学会 (編集)
出版社 : 彰国社 (2014/12/1)、出典:出版社HP

目次

スマートシティが目指すもの
まえがきに代えて

序章 スマートシティ時代のサステナブル都市・建築デザインへ

第1章 サステナブル建築デザインからスマートシティへ
1-1 環境からみた建築と建築論の歴史
1-2 環境問題と都市の関係の歴史
1-3 温暖化対策に関する国内外の動き

第2章 サステナブルな都市づくりにむけて
2-1 スマートシティの今日的課題
2-2 スマートシティの国内での展開
2-3 スマートシティのデザイン
2-4 情報革命とスマートシティ
2-5 座談:スマートシティ時代の都市計画・制度

第3章 エネルギーとスマートシティ
3-1 東日本大震災以降の地域とエネルギー
3-2 エネルギーの有効利用から見たスマートシティ
3-2-1 「環境」と「防災」を両立させるレジリエントな都市づくりへ
3-2-2 都市形態(Urban Morphology)とサステナビリィティとの関係性
3-2-3 CASBEE- 街区の概要紹介
3-2-4 建物がつながることによる低炭素化等の効果
3-2-5 欧州のスマートシティ調査から考える建築とスマートシティの関係
3-3 エネルギーの有効利用から見た具体的効果の事例
3-3-1 デマンドレスポンスとダイナミック・プライシング
3-3-2 地区防災拠点の事例
3-3-3 横浜市のスマートシティ実証事業の現状
3-3-4 北九州スマートコミュニティ創造事業

第4章 サステナブル建築デザインの技法
4-1 コンピュテーション――サステナブル建築とスマートシティをつなぐもの
4-2-1 熱環境解析
4-2-2 気流解析・換気回路網計算
4-2-3 光環境の計画技術の系譜
4-2-4 ヒートアイランド解析と対策技術
4-2-5 交通解析
4-2-6 都市のエネルギーの有効利用計画とデザイン

第5章 スマートシティ時代の建築の快適性を探る
5-1 スマートシティ時代の新しい建築の実例
5-2 空間とアクティビティのモード変化
5-3 内外が溶け合い、都市と連続する自由な働き方
5-4 環境のムラと開放性を併せ持つ一体空間
5-5 外部環境を変換し現象させる箱

付章 都市と建築をつくる職能の再構築
座談:都市と建築をつくる職能の再構築

個人が発信する都市コンセンサスへの期待感 あとがきに代えて

日本建築学会 (編集)
出版社 : 彰国社 (2014/12/1)、出典:出版社HP

スマートシティが目指すもの
まえがきに代えて

建築家・神戸芸術工科大学教授 小玉祐一郎

暑い夏を迎える頃の季節には、節電が焦眉の課題として新聞をにぎわせる。原発の稼働が停止して以来、夏の電力消費のピークをなんとかやりくりするため、どのように消費を抑制するか、また、どのように供給を融通し合うか、産官学各界あげての取組みが要請されている。スマートシティ構想はその有力な切り札の一つとされる。

地球温暖化は、予想を超えて早く進行しつつある。先進国は現在の炭酸ガス排出量を2050年までには80%ほど削減しなければならないということが、世界の暗黙の共通認識になりつつある。原子力の活用で徐々にその目標を達成しようとしてきた日本は、3.11以後、根本的な見直しを求められている。そもそも日本のような地震国で原子力発電をするのは、所詮無理な話ではないのか。早いうちに脱原発を宣言して、再生エネルギー資源に移行する戦略を立てるべきではないのか…と筆者は思うのだが、その是非はともかくとして、そのように思う理由はもう一つある。これをきっかけにして、これほどまでにエネルギー依存を強めてきた「現代の都市や建築に代わる、新しい近未来のビジョンを考えてみたいと思うのだ。

20世紀はエネルギーの世紀と呼ばれるにふさわしかった。人類の歴史の上で、初めて大量のエネルギー供給が可能になった時代であり、世界のエネルギー消費が急激に増えた時代である。20世紀後半のその増え方は、ほぼ20年ごとに倍増する勢いであった。私たちの日常生活にも大きな影響を与えてきた。灯油やガスが急速に家庭にいきわたって暖房や給湯が普及し、家庭の契約電力量は倍増し続けて、あっという間に住宅は便利な家電製品で埋まってしまった。都市や建築も大きく変わった。エネルギーを用いて「問題をブレークスルーするという思考法が一般化し、その技術は著しく進歩した。暖冷房・照明・エレベータなどの新しい技術は建築を大きく変え、建築を束縛してきた地域や気候風土のしがらみから解放したように見える。これは建築の歴史の上でも画期的なことであった。

その典型的な例が超高層建築であろう。エネルギーの絶え間ない供給を得ることで、人間の居住空間を著しく拡大してきた。都市もまた、エネルギーの恩恵に浴してきた。ヨーロッパの国際会議などに出てみると、都市や地域のエネルギー画の歴史があり、研究も盛んに行われてきたことがわかる。一方、振り返って日本を見ると、意外にもこのような分野が小さい。日本の都市計画は最近まで、無制限のエネルギー供給を前提にして社会のニーズに応えてきたようにも見える。しかし、私たちはそのような多大な恩恵を享受する一方で、エネルギーがなければ何もできないエネルギー依存症、エネルギー中毒になってしまったようでもある。

深刻化する地球環境問題は、たとえ人類が無尽蔵の化石エネルギー源を発見したとしても、もはやこれ以上使うことができないことを示した。差し当たって思いつくことは、エネルギーの節約(省エネルギー)と再生可能エネルギーの開発(創エネルギー)である。原発を創エネの一つとして設定すれば問題は氷解するようにも思えたが、上述したように、これには疑問符がついている。再生エネルギーにもまだまだ多くを期待できない。とすれば、省エネこそが喫緊の課題である。では都市や建築の分野では、どのような省エネの方法がとられるべきなのか。

一つの有力な方法は、エネルギー機器・システムの「高効率化」である。住宅でいえば、暖房や給湯や照明の機器やシステムだ。それらの技術の進歩には目を瞠る。また情報技術を駆使して、居住者が常に運転状況を把握し、エネルギーの消費を最適に制御するマネージメントシステムも急速に普及している。いわゆる「見える化」である。システムの洗練、効率化は日本の技術のお家芸だが、さらに、効率化を住宅や建築の単体でバラバラに考えるだけでなくより広域的に行えば、エネルギーの消費、供給のさまざまなレベルで生じている無駄を省くことができる。近年、広域レベルで日本の技術の高さが顕著に示されるのは、エネルギー消費密度の極めて高い都心地域での地域冷暖房計画であるが、これもまた、「高効率化」に特化したわが国の技術開発の成果の良い例である。さらに広い地域や都市のスケールで総合的に、一体的に効率化の向上を考える、これがスマートシティの発想であろう。

効率化と異なる、省エネのもう一つの考え方は、20世紀に私たちに取りついたエネルギー中毒を克服し、根本からエネルギー依存を減らすことだ。さまざまな社会的制約や気候的制約から人類を解放し、どこにでも住める自由をもたらしたエネルギーの恩恵は疑いもない。しかし一方で、それゆえの制約や不自由もあると感じ始めてもいる。いくつかの例をあげてみよう。

私たちは、暖冷房や照明といった、人工的に環境をつくる室内気候制御技術への依存を強めるほどに、建物の内外の遮断を強めてきた。外の自然環境の変化を外乱ととらえ、その影響を最小限にする努力をしてきた結果、人間と自然の関係がいささかいびつになってきたようだ。とりわけ日本のような比較的温暖で四季の変化に富む地域では、太陽や風をある時は取り入れ、ある時は遮断するといった融通無碍な建物のつくりを特徴とし、自然の変化を楽しむのが伝統的な住宅のつくり方・住み方の作法だった。

これは不均質で変化のある快適さを理想とするが、均質で安定的な室内気候の形成を目標とする近代以降の人工環境制御技術とは相反する面を持つ。均質さ・安定さの追求が利便性を第一とするあまり、しばしば室内環境の退屈さ・平板さの原因となり、地域性や身体性を無視しがちであること、これは、人工環境技術の一面としてつとに指摘されてきたところだ。さらにまた、内外の隔離は、外部環境への居住者の無関心を招き、人々の社会への無関心をも招いてきたように見えるところもある。短絡的に過ぎるとの非難を恐れずにいえば、物理的な遮断が個と共の関係を弱め、社会的分断を助長してきたといえるのではないか。個人主義の台頭とコミュニティの衰退とが、人工環境技術の普及と軌を一にしているのは単なる歴史の偶然とは思われない。

困ったことに、エネルギーへの依存を深め、人工環境技術の効率化を進めるほどに、内外の遮断が強化される。その関係には、室内の環境を良くするほど外部の環境を汚染するというジレンマもつきまとう。効率の追求の結果、暖冷房の効率を上げるために、快適な季節にも窓も開けられないというのでは、どこか本末転倒のような気がするではないか。

エネルギーの世紀のあとの21世紀は環境の世紀と呼ばれることがある。エネルギーへの依存を深めた末の地球環境の危機であることを考えれば、エネルギーシステムの効率化を考えるのは必須である。一方、エネルギー中毒に陥った人類のライフスタイルがその根本にあると考えれば、20世紀的思考とライフスタイルの変換――言い換えて、20世紀的パラダイムのシフトが必要だとの思いに至る。しかし、パラダイムの変換はしばしば、「効率化」の発想と矛盾する。そもそも効率化とは、無駄をなくすことによって現状のパラダイムの隘路を打開しようとするものであり、その目的はパラダイムの維持・延命を図ることだといえるからだ。

スマートシティが、新しい環境の世紀のまちづくり・都市づくりを意図するものであるならば、以上に述べたような効率化がもたらすパラドックスを解消することも、その射程に入れておかねばならない。エネルギーシステムの効率化を図るとともにエネルギーへの依存を減らすライフスタイルを構築していかなければならない。室内環境を快適にすることと外部の自然環境を保全することの両立を考える必要がある。

われわれは明日どこに住むか。私たちのライフスタイルが問われている。近未来の都市や建築のビジョンが求められている。スマートシティはこのような時代の要請にどう応えるか。本書の資図はそこにこそある。
M.フレデリックの「101 Things I Learned in Architecture School(建築学校で学んだ101のこと)」の21番目には次のような文がある。

「建築家はすべてのことについていくばくかを知っている。技術家は一つのことについてすべてを知っている」

建築家と技術家の協同が重要だ。この本が改めてそのきっかけになることにも期待したい。

日本建築学会 (編集)
出版社 : 彰国社 (2014/12/1)、出典:出版社HP