ページコンテンツ
コンパクトシティとは?課題・改善策は?
少子高齢化やドーナツ化現象への対策として議論されているコンパクトシティは、公共施設や商業施設などを中心市街地に集約させることで、利便性の向上、行政サービスの充実、環境保全・防災などを目指すものです。2013年頃から活発に議論されるようになり、日本国内でも政策として推進している都市もありますが、課題も多く残されています。今回は、コンパクトシティを実現するための課題や改善点、世界の都市の成功例などを学べる本をご紹介します。
コンパクトシティを考える
コンパクトシティ入門書
人口減少社会、高齢社会の進展に合わせて都市社会の変革が求められており、コンパクトおよびネットワークという概念が、今後の都市政策の中心的な方向性として位置付けられています。本書は、コンパクトシティ化の問題点について、多角的な視点から論じ、今後のコンパクトシティに関わる都市政策のあり方への助けとなることを狙って書かれています。
まえがき
本書は、コンパクトシティ化の問題について、多角的な視点から論じ,今後のコンパクトシティに関わる都市政策のあり方に資することをねらっている。
コンパクトシティとは,都市の郊外開発を抑制し、市街地の広がりを狭くすることで、公共サービスの効率化、公共交通の利用を促進する都市構造である。コンパクトおよびネットワークという概念が,今後の都市政策の中心的な方向性として位置づけられている。その背景には,すでにはじまっている人口減少社会,高齢社会の進展に合わせて,今後の都市社会の変革が求められているという事実がある。
日本では、20世紀後半の急速な都市化により、都市が外延化し,都市域が急速に広がった。それは端的に、DID(人口集中地区)の急速な広がりに表れている。これにより,都市インフラがカバーしなければならないサービス圏域が広がり、それゆえに,広範囲のインフラ整備がなされた。ところが,現在では、その維持管理が主要課題として都市問題化してきている。
そもそも,都市計画法における区域区分(市街化区域と市街化調整区域の区分)の制度は,都市成長時代の「コンパクトシティ」化を実現するための制度であった。郊外部をややゲリラ的に開発するスプロール化現象を食い止める施策として、区域区分の制度が導入されたのである。都市人口の拡張時代には、市街地の区域を制限するだけで、ある程度都市のコンパクト化を図ることができる。しかし,都市人口の縮小時代には一旦設定した、市街地の区域を縮小することは極めて難しい。そもそも縮小は地区の単位でまとまって発生するものではないからである。そこで、人口減少時代においては、コンパクトシティ化には新たな発想の都市制度が必要となる。すでに、立地適正化計画の仕組みが導入され、部分的にコンパクトシティ化に向けて施策が進められつつある。ただ、これだけでは十分とは言えず,今後も様々な工夫が求められている。
このような背景から、「Evaluation」誌(プログレス発行)のNo.66で「コンパクトシティを考える」と題する特集を行った。本書は,特集で掲載された原稿の一部を加筆修正し,かつ,新たな原稿も募って所収したものである。
本書の総論でコンパクトシティ化の問題を概観した後,Ⅰでは、なぜコンパクトシティ化が必要なのかという問題について論じる。ここでは、コンパクトシティが目指しているものは何なのか、どのような経済的な効果を狙っているのか、その効果はどうなのかなどについて論じる。Ⅱでは、コンパクトシティ実現に関して重要な観点である交通の問題点をあてて論じる。交通と不動産ビジネス、交通施策、その経済効果などについて論じる。特に、コンパクトシティ化でしばしばないがしろにされかねない。コンパクト化から外れた地域の問題や緑地の扱いに焦点をあてて論じている。環境問題と重要なつながりがあることが示されている。
Ⅳでは、実現に向けた公共政策のあり方について論じる。スポンジ化(空き地や空き家が多く発生した地域の増加現象)への対処や、コンパクトシティ化を進める上での時間概念のとらえ方、そして公共施設配置のあり方について論じている。
本書をもとに、コンパクトシティの問題に関する議論が触発され,今後の有効な都市政策が実現されていくことを切に願うものである。
本書を刊行するにあたり、プログレスの野々内邦夫氏には大変お世話になった。ここに記して謝意を表したい。
2018年9月20日
浅見 泰司
中川 雅之
目次
総論 コンパクトシティ化とは
人口縮小時代の都市政策 コンパクトシティ化 [浅見 泰司]
1. コンパクトシティとは2
2. コンパクトシティ化の効果
3. コンパクトシティ化の問題
4. コンパクトシティ化の効果分析
5. コンパクトシティ制度の流れ
6. コンパクトシティ問題の根本的な解決:負担問題
7. コンパクトシティ問題の根本的な解決:不動産権利問題
Ⅰ なぜコンパクトシティ化が必要か
コンパクトシティ政策がめざす 都市や地域とは [海道清信]
1.コンパクトシティはいかにして政府の推進する目標となったか
2. 集中と分散のトレンド
3. 画一化と地域性および人口と世帯
4. コンパクトシティ政策は住みたくなる都市や地域を実現できる
コンパクトシティと集積の経済 [中川雅之]
1. なぜコンパクト化が必要なのか
(1) 理論的な整理
(2) 実態上の意味
2. なぜ都市のコンパクト化が困難なのか
3. 行動経済学の視点
4. どのようにして漸進的なコンパクト化を進めるか
⑴ なぜ公共施設の削減が難しいのか
(2) いかにして公共施設廃止・居住地集約の利害調整を行うか
コンパクトシティ化と都市財政・都市政策 [沓澤 隆司]
1. コンパクトシティ化の都市財政・都市政策上の意義
2. コンパクトシティ化の内容と指標−標準距離の設定−
3. 標準距離の大きさが都市財政に与える影響
⑴ モデル
⑵ データの推移
⑶ 推計結果
4. 標準距離に影響を与える都市政策
5. 終わりにコンパクトシティ化の課題
Ⅱ 交通とコンパクトシティ
コンパクトシティ政策の動向と不動産ビジネスの転換 [谷口守]
1. はじめに
2. その動向
3. 多様な目的とクロスセクター・ベネフィット
4. コンパクトシティ政策の現実
5. 不動産業界にとってのコンパクトシティ政策
6. 公共事業としての減築
7. コンパクト化を目指す上での留意事項
交通からコンパクトシティを考える [森本章倫]
1. コンパクトシティをどうやってつくるか
2. 街の形成過程と交通の役割
3. 次世代交通が果たすべき役割
4. 自動運転技術が都市に及ぼす影響
5. 交通からみたコンパクトシティ形成
コンパクトシティ化の経済効果−富山市を例に− [唐渡広志]
1. はじめに
2. 人口
3. 公共交通
4. 住宅
5. 商業機能
6. おわりに
Ⅲ 環境とコンパクトシティ
日本の風土に根ざした新たな田園都市 [横張真]
1. 都市計画の守備範囲
2. オープンスペースからの発想
3. オーバーレイにもとづく都市農村計画
4. 風土に根ざした計画体系
5. 変わる空間,変わらない仕組み
6. 日本型の田園都市
コンパクトシティと環境 [松橋啓介]
1. 都市と環境
(1) 都市と公害
(2) 都市部における交通公害
(3) 都市に残された環境問題
2. 地球温暖化対策とまちづくり
(1) 環境的に持続可能な交通
(2) 低炭素社会 2050124
(3) 地球温暖化対策地方公共団体実行計画
(4) 低炭素まちづくり
(5) パリ協定
3. コンパクトシティと乗用車 CO2排出量
(1) 市町村別の乗用車 CO, 排出量
(2) メッシュ規模別の乗用車 CO, 排出量
4. コンパクトシティと家庭部門 CO2排出量
5. 環境からみたコンパクトシティの展望
Ⅳ コンパクトシティの実現に向けて
都市のスポンジ化とコンパクトシティ [餐庭 伸]
1. 都市の空間はスポンジ化していく
2. 都市の拡大期に都市にはどのような問題が発生するか
3. 都市の拡大期の都市計画
4, 都市の縮小期の都市計画
5. 立地適正化計画
6. 民間の動き
7. 過疎が顕在化しない都市をつくる
8. 残された課題
コンパクトシティと「時間」 [玉川英則]
1. はじめに
2. ある「時間」の情景
3. 計画論における「時間」とコンパクトシティ
4. テクノロジーの変化という「時間」
5. 政策が機能していく「時間」
(1) 集約化と緑地転換による影響
(2) 集約化と人口減少による影響
(3) 集約化、人口減少と緑地転換による影響
6. 結語
施設再配置の必要性 人口分布と病院立地の関係− [豊田奈穂]
1. はじめに
2. 二次医療圏の持続可能性
3. 人口分布と医療資源の関係
4. 立地の調整と既存制度
5. おわりに
コンパクトシティを問う
コンパクトシティの現状と問題点がわかる
急激な人口減少や巨大災害の切迫などの動向に対処するため、政府は今後10か年の国土づくりの方向性を示す国土形成計画を決定しました。国土づくりにおける重要な鍵となるのが、コンパクトシティの都市構造を基礎とし、この連鎖によるコンパクト+ネットワークの考え方です。本書では、コンパクトシティそのものについてや各政策分野についての課題点や改善点、提言を行っています。
はじめに
わが国は今、急激な人口減少や巨大災害の切迫など、国土に係る状況の大きな変化の最中にある。こうした動向に対処するため、政府は、2015年(平成27年)8月、概ね10か年の国土づくりの方向性を示す国土形成計画を、前年に策定した「国土のグランドデザイン2050」をふまえ決定した。
この国土づくりにおける重要な鍵となるのが、本書のテーマである「コンパクトシティ」の都市構造を基礎とし、この連鎖による「コンパクト+ネットワーク」の考え方である。つまり、今後の社会では、それぞれの地域において各種サービスを効率的に提供するには、都市の集約化、すなわちコンパクト化を図ることが不可欠とする。地域がそれぞれに個性を磨き、連携とネットワーク化によって圏域を拡大し、各種の都市機能を確保することが必要としている。こうして,人・モノ・情報の高密度な交流のもとにイノベーションや賑わいを創出し、国全体の生産性を高めようとするものである。
国土形成計画とは、新しい時代を見据え、国内外の状況変化に適応しつつ国民生活の安定と経済の持続的成長を遂げるという、いわば国土形成の構想を実現する戦略としての重要な意味をもっていよう。とはいえ、長期的・広域的計画という面からの不確実性は否定できない。前身の数次にわたる全国総合開発計画は,国の統一した上位計画として大きな役割を果たしてきたものの,地域格差を是正できなかったとか、環境破壊・過度のインフラ整備等をもたらしたなどの批判や,何ら実行力を伴わない計画と指摘もされた。
今日では、地政学上の様々なリスクが自国経済に大きく影響する先行き不透明なグローバル社会にあるほか、どの国も経験したことのない人口減少・超高齢社会に突入することを考えれば、将来を展望することの極めて難しい時代にある。それ故に、この背景のもとに描かれる構想・計画には、実現性が一層憂慮されるのも確かであろう。こうしたなかで,国土形成計画の実効性を高めるには,将来のあるべき姿に変革する具体的なシナリオが不可欠となる。この意味で、計画の肝となる「コンパクト+ネットワーク」の実現を図るため、2014年(平成26年), 都市再生特別措置法の改正で導入された「立地適正化計画」は重要な位置付けをもつものといえる。現在、この計画策定が全国の自治体で進められているのである。
この立地適正化計画が制度化された背景には,今後の急激な社会変容に危機感を抱く厳しい現実がある。2050年には、現在の居住地域の概ね6割以上の地点で人口が半分以下に減少し、うち2割が無居住化し、地域消滅の危機にあるとされている。高齢化率も4割に達し、増大する空き家・空閑地の発生のほか、地域衰退にともなう自治体の厳しい財政運営も予期されるのである。さらに、都市政策の上からは、これまでの自動車依存社会のなかで郊外化が進み、市街化区域の拡散や中心市街地の衰退が顕著となっており、これを打開する有効な手立てが見つからない状況にもある。こうした点に鑑みれば、都市のコンパクト化は説得力のあるひとつの考え方といえる。
しかし、全国の都市を見渡せば、長期的には地域衰退の傾向は否めないものの、2000余りの市町村が一様に消滅の恐れがあるわけでもない。未だ人口増加が続いている都市や、過疎地域でも地域再生や地方創生の動きから、1ターン・Uターンによる地方回帰の動きも見られる。また、国全体の生産性を高めるとはいえ、コンパクト化による効率的な都市形態を志向する考えにも異論があろう。それは一つには、コンパクト化が、必然的に、地域に住む人々の暮らしを直撃し、居住生活の変容を余儀なくする恐れがあるからだ。また,われわれが現在享受している豊かな暮らしは、効率性・画一性のもとに進められてきた経済の成長発展によることは疑う余地もないが、一方で経済優先の社会が潤いのない無味乾燥な都市・居住環境を生み出してきたことも否めない。今後の成熟社会では、利便性に偏重せず、人間性・快適性とバランスのとれた都市・国土形成が望まれる。この意味で、効率化を強引に進める先に、人々の生き生きとした地域生活像が見えないからでもある。
このように、コンパクトシティについては両極に立った見方がある。これまでも数多くの識者によって語られ、各論者の立ち位置によって様々な意見等があり、賛否両論が併存しているというのが実際のところであろう。では、コンパクトシティが、社会一般のなかで,どう受け止められているのだろうか。過疎化が進んで村や島を離れざるを得ない状況に追い込まれた地域の人や、地域の再生・活性化に尽力されている一部の方以外は、大方,他人事のように感じているのではないだろうか。コンパクト化に係る問題は、国土レベルのマクロ的視点というより,地域レベルの立地適正化計画で具現化したときに顕在化しょう。しかし,立地適正化計画が策定されても、コンパクトシティのイメージや総花的な内容だけで、住民には,十分な理解が届かず、自分事の問題と自覚されていないのが現実といえる。
人々が暮らす身の回りの環境が悪化し、手遅れになってからでは遅い。かといって、計画が地域実態をふまえ、住民と認識を共有したものでなければ,その実現性も覚束ないのは明らかである。この意味で、地方自治体は都市経営的な視点と地域運営の難しさに直面しているといえる。こうした現状をふまえ、本書は「コンパクトシティを問う」と題し、コンパクトシティ、これを制度化した立地適正化計画の推進について、ひとつのも問題定期をしたものである。
コンパクトシティそのものに対する考え方をはじめ、各政策分野や関連諸制度についての課題や改善点、提言を行っている。本書を通じ、コンパクトシティとその推進についての多様な見方・考え方、問題点などを明らかにし、社会一般の方々の認識と理解を深めるとともに、適切な制度運用により現実的で実現性のあるコンパクトシティに導くことを目的としている。このため、関連性の深い部市計画・住宅・経済・不動産・福祉・緑農地・交通の各分野に係る,学識経験者、研究者、実務家、行政経験者による多様な考えを集約し,より広い見地から考察したものである。
本書は、厳しい時代背景のもとで国土政策や都市政策の舵取りが難しいなか、国・都道府県の政策部局,立地適正化計画を立案する市町村の関係部署のほか、都市コンサルタントや開発事業者,都市・まちづくりに関心のある方々にとっても有益な書となることを目指した。なお、本書のとりまとめや執筆にあたっては,(株)プログレスの野々内邦夫氏には数々のアドバイスをいただくなど大変お世話になり,執筆者を代表して謝意を表する。本書が,今後の都市づくりを考えるうえで,少しでも寄与できれば望外の喜びとするところである。
平成31年4月30日
山口 幹幸
目次
序論
岐路に立たされる自治体のコンパクトシティへの期待[牧瀬 稔]
1. はじめに
1.1 本章の問題視覚
1.2 本章の目的
1.3 先行文献の類型化
2. 自治体におけるコンパクトシティの歴史
2.1 新聞記事にみるコンパクトシティの歴史
2.2 議会質問にみるコンパクトシティの歴史
3. 自治体におけるコンパクトシティの現況
3.1 自治体におけるコンパクトシティの定義
3.2 コンパクトシティを進める行政計画
4. おわりに コンパクトシティを確実にするために
4.1 コンパクトシティの定義化
4.2 先進事例の過程を重視したコンパクトシティ
4.3 コンパクトシティと地方創成の矛盾
コンパクトシティ政策推進の鍵は何か[米山 秀隆] 1.はじめに
2. 北海道夕張市
2.1 破綻に至るまでの経緯
2.2 まちの集約の必要性
2.3 集約の具体的な進め方
2.4 住推進策の鍵
2.5 財政再建から地域の再生へ
3. 富山市
3.1 コンパクト化に取り組んだ経緯
3.2 LRT 整備と沿線への集住施策
3.3 まちなかの賑わい創出の仕掛け
3.4 コンパクトシティの世界の5都市に
4. 岐阜市
4.1 公共交通の衰退
4.2 バス路線の再編とBRT導入
4.3 市民共働型コミュニティバス
4.4 地域公共交通網形成計画と立地適正化計画
5. 宇都宮市
5.1 メリハリのない都市構造
5.2 LRT 新設による東西交通軸の整備
5.3 居住誘導区域設定の考え方
5.4 富山市,岐阜市,宇都宮市の比較
6. 埼玉県毛呂山町
6.1 厳しい財政状況
6.2 ゴーストタウン化の懸念
6.3 意欲的な数値目標の設定
7. コンパクトシティ政策推進の鍵は何か
7.1 各事例の特徴
7.2 政策の推進力となるもの
7.3 公共交通の選択肢
7.4 居住地域の絞込み
8. おわりに
コンパクトシティの本質を考える[川崎 直宏]
1. はじめに
2. 住宅政策とハウジングの変遷
2.1 わが国の住宅政策の変遷とコンパクトシティの動向
2.2 地域社会再生,地域居住政策への視座
2.3 住生活基本計画以降の住宅政策と地域居住
3. ハウジングとまちづくりの現在
3.1 グローバリズムの中での地域居住とハウジング
3.2 人口減少時代の地域居住とハウジング
4. コンパクトシティ政策の実態と課題
4.1 コンパクトシティの取組み状況
4.2 コンパクトシティ政策の硬直性
5. コンパクトシティ化を担うハウジングビジネス
5.1 現在のハウジングビジネスの背景・要因
5.2 ハウジングビジネスの今後の方向としてのスモール化
5.3 ハウジングビジネスのスモール化の意味
6. 地域居住政策・地域マネジメントの必要
6.1 コンパクトな地域循環に向けた地域マネジメント
6.2 コンパクトシティを担うマネジメントに向けて
7.おわりに
暮らしの目線から「都市のコンパクト化」を考える[中川 智之]
1. 「コンパクトシティ」とは何か? 何を目指すものなのか?
2. 武蔵小杉駅周辺と夕張市を比較してみると
3. これまでの都市化抑制政策
3.1 広域的,俯瞰的視点から都市構造を規定
3.2 線引き制度による市街化抑制
4 なぜ、いま立地適正化計画の策定が必要なのか?
4.1 都市のスポンジ化対応
4.2 制度・施策の重層化による対応
5. 本来考えるべきことは何か?
5.1 人本位の計画づくりと実践
5.2 分野連携・多主体連携
5.3 時間軸のなかでの動態的な展開
6.「都市のコンパクト化」を事例から読み取る
6.1 立地適正化計画に依らない独自の取組み——神奈川県横浜市
6.2 段階的・時間軸を考慮した都市のコンパクト化―北海道夕張市
6.3 過疎地域の持続的な暮らしを支援する——奈良県十津川村
7.まとめ
地域包括ケアのまちづくりとコンパクトシティに向けての提言[神谷 哲朗][辻 哲夫]
1.はじめに 超高齢人口減少社会の到来とまちづくり
1.1 超高齢社会の到来と地域包括ケア
1.2 超高齢・人口減少社会の必然の道としてのコンパクトなまちづくり
2. 地域包括ケアを通したまちづくりの展望
2.1 地域包括ケアの背景
2.2 地域包括ケアの概念と深化
3. 柏プロジェクトの取組みを通したまちづくりの展望
3.1 柏プロジェクトの取組み
3.2 24時間対応の在宅医療と在宅ケアシステム
3.3 生きがい就労の推進
3.4 介護予防システムの再構築
3.5 地域の生活支援システムの展開
4 コンパクトシティ政策への提言
4.1 コンパクトでサスティナブルな(持続性のある)まちづくり
4.2 コンパクトシティに向けての提言
5 おわりに 地域包括ケアと多世代居住のコンパクトなまちづくりは都市の生き残りの必須条件
「都市と緑・農の共生」における産業政策の限界―新たな目標「市民緑農地」[佐藤 啓二]
1. はじめに
2. 都市農業振興基本法と都市農業振興基本計画
2.1 コンパクトシティのポジとネガ
2.2 生産緑地の2022年問題
2.3 コンパクトシティ政策の一環としての都市農地保全
3. 実現した法制度と税制改正(平成29年~平成30年)
4. 農業政策の限界と保全の課題
4.1 意欲ある農家への重点化政策
4.2 取り残された地方都市
4.3 田園住居地域について
5. 必要になった再整理
5.1 韓国の都市農業基本法
5.2 ヨーロッパの市民緑地・農園制度
6. ドイツのクラインガルテン
6.1 クラインガルテンの概要
6.2 ドイツ連邦クラインガルテン法
7. 我が国の市民農園制度
7.1 「農園利用方式」の市民農園
7.2 一般的な市民農園
7.3 町おこしのための「○○クラインガルテン」
8. クラインガルテン制度から学ぶべき点
8.1 都市住民が利用する緑・農空間
8.2 都市緑地確保政策による位置付け
8.3 多様な利用目的(耕作だけでない)と長期間の安定利用
8.4 利用者のコミュニティによる自主管理
9. 農地利用と緑・農空間をめぐる新たな動き
9.1 農地利用を都市住民に拡げる取組み
9.2 農的空間を公園緑地の中に位置付ける取組み
9.3 多様な利用目的と長期間の利用
9.4 利用者のコミュニティによる自主管理
10. 緑・農の新たな将来像「市民緑農地」
10.1 「市民緑農地」の提案
10.2 「市民緑農地」の実現に向けた基本的な考え方
10.3 農地と「市民緑農地」の重複的な位置付け
10.4 農地税制と公園緑地税制
10.5 地域ごとの課題
10.6 必要となる今後の制度整備
11. まとめ
交通の革新がコンパクトシティの未来を左右[阿部 等]
1.都市と交通の関係
1.1 都市と交通の関係の振返り
1.2 人口減を前提とした都市と交通の未来
1.3 人口減を覆す交通の革新
1.4 都市の未来を拓く主体は自動車ではなく鉄道
2 都市の活性化に貢献する鉄道の未来
2.1 超高頻度化により全ての鉄道の利便が向上
2.2 中速新幹線ネットワークによる地方創成
2.3 北海道の鉄路の活用による地方創成
2.4 満員電車ゼロによる郊外回帰
3. 交通の視点からのコンパクトシティと日本の未来
3.1 「コンパクト+ネットワーク」を支える地域公共交通
3.2 自動車の自動運転とシェアリングによる交通と都市の変容
3.3 MaaSによるモビリティ革命
3.4 交通の革新が日本の未来を拓く
4. 地方鉄道を蘇らす2つの具体例
4.1 長野県の諏訪平
4.2 新潟県の上越市~旧新井市
不動産市場から見た立地適正化計画の影響と課題[櫻田 直樹]
1. はじめに
2. 対象都市の位置付けと立地適正化計画における区域設定等の概要
2.1 対象都市の位置付け等
2.2 対象都市の立地適正化計画における居住誘導区域等の区域設定の概要
3. 地価動向等から見た立地適正化計画の影響
3.1 対象都市の地価水準等
3.2 立地適正化計画の区域指定と地価動向等
4. 需要者等から見た居住誘導の影響と課題
4.1 誘導施策の経済的なメリットの概算
4.2 居住誘導区域内外の住宅地供給事例等の整理
4.3 不動産市場から見た立地適正化計画の課題
都市のコンパクト化の必要性と可能性[山口 幹幸]
1. はじめに
2. 首都圏にある都市の立地適正化計画
2.1 本庄市の現状
2.2 立地適正化計画上の問題点
2.3 立地適正化計画の策定に求められる実質的な議論
3. 大都市東京のコンパクト化を考える
3.1 東京における人口減少・少子高齢社会の影響
3.2 東京におけるコンパクト化の必要性
3.3 公共・公的住宅団地を中心とするコンパクト化の推進
3.4 木造密集地域におけるコンパクト化の推進
4. 事例を通じて浮かび上がるコンパクトシティの論点
4.1 都市のコンパクト化を推進することの是非
4.2 立地適正化計画制度の妥当性
4.3 技術革新の進む社会との適合性
4.4 地域の存続と文化・歴史の継承
5. おわりに
コンパクトシティ―持続可能な社会の都市像を求めて
コンパクトシティ入門書
本書は、コンパクトシティに関して、欧米における政策と論争の広範な紹介、日本における都市づくりを取り巻く変化と日本型コンパクトシティの提案を、最新の情報をできるだけ取り入れてまとめたものです。まちづくりに関わる人、環境問題や高齢社会といった新しい条件のもとで望ましい社会の都市像を模索している人におすすめです。
まえがき
自動車利用を前提としたスプロール的な都市拡大は、20世紀の都市の大きな特徴となっている。そこから生じたさまざまな課題に対応するために、EUの環境政策、都市政策の空間形態として提起されているのが、90年代のコンパクトシティである。EU加盟諸国は、それぞれの国の独自性をふまえて具体的な政策を実施している。地球環境問題、社会的な公平性、都市中心部の活気の維持、効率的な公共投資、そしてなによりも都市の機能を強め、都市生活の魅力と生活の質を守り高めるために、コンパクトシティはわかりやすい解決策となっている。しかし、このテーマを巡って、欧米においては今でもさまざまな論争が行われて、多面的で実証的な議論や研究も行われている。
わが国においても、コンパクトシティへの関心が高まっており、都市マスタープランなどに取り入れている自治体も増えてきた。しかし、コンパクトシティとは何か、どのように達成するのか、それは可能か、また、期待されているような効果は得られるのか、といった基本的なことについての共通の理解に乏しいのが現状である。本書は、コンパクトシティに関して、欧米における政策と論争の広範な紹介、わが国における都市づくりを取り巻く変化と日本型コンパクトシティの提案を、最新の情報をできるだけ取り入れて、まとめたものである。序章では、コンパクトシティが注目される背景を、経済、社会状況、都市計画の変化に着目して述べている。あわせて、経済発展が優先されてきたわが国の都市政策において、コンパクトシティ論が持っている意義を考察している。
1章は、コンパクトシティの政策的な基礎となっている持続可能性(サスティナビリティ)について、歴史的な概念の展開をまとめている。さらに、EUにおける持続可能な都市(サスティナブル・シティ)とコンパクトシティについて、経緯や近年の政策展開を整理している。2章は、開発コントロールやパートナーシップなどを通じて、強力な政府主導で持続可能な地域、社会、経済を目指している英国を取り上げている。英国の都市・地域計画の仕組みと最新の動向を紹介し、新たな地域戦略であるアーバン・ルネサンスとロンドンを含む南東部地域戦略について、まとめている。
3章は、英国政府の政策や、都市・地域づくりが自治体の現場でどのように具体化されているかを、中規模都市レディング市と、隣接する田園地域のサウス・オックスフォードシャ郡を取り上げて、現地での調査を踏まえて紹介している。4章は、中世以来の自治都市の伝統をもち、環境問題への積極的な取り組みで知られるドイツと、EU諸国のなかでも、計画的な国土づくりで知られているオランダにおけるコンパクトシティ政策とりあげた。5章は、世界でもっとも早く自動車社会となり、都市のさまざまな機能が郊外へとスプロールしてきたアメリカの動向を考察している。また、ニューアーバニズム運動や賢明なる成長(スマートグロース)政策を取り上げている。6章は、コンパクトシティの理念、具体策、効果、実現可能性、社会の支持などを巡る論争を整理している。また、コンパクトシティの基本的な要素である密度、用途混合、モビリティとアクセシビリティなどについてまとめている。
7章は、わが国の都市空間の特徴をコンパクトシティの視点から、考察している。市街地人口密度と施設の立地やひとびとの交通行動、わが国とドイツの都市空間について考察している。8章は、コンパクトシティの考え方を取り入れたわが国の自治体、産業ランナーなどからの提案、関連した国の政策の動向を広範に取り上げている。そして、欧米における取り組みと比較しつつ特徴を整理している。9章は、コンパクトシティの原型ともいうべき中世都市とメガストラクチャー、段階的な空間構成についての提案をまとめた。さらに、長期間構成の変遷を整理し、これからの都市空間を展望している。最後の10章では、コンパクトシティのヨーロッパモデルとわが国の都市、地域の現状をふまえて、日本型コンパクトシティの10の原則を提案している。
本書は、これからのまちづくりや地域のあり方に関わっている研究者や政策担当者、コンサルタント、学生にはもちろんだが、21世紀を迎え、環境問題や高齢社会といった新しい条件のもとで、望ましい社会の都市像を模索されている市民の方々にも、興味深く有益な材料を提供できているものと思う。
海道清信
目次
まえがき
序章 都市像の意味
1 はじめに
1 豊かな暮らしと都市のありかた
2 都市や地域の変化
3 都市計画の変化
4 OECDの「日本の都市政策」に関する勧告
2 都市像としてのコンパクトシティ
1 都市像とは
2 原風景としての都市像
3 コンパクトシティ論の意味
1章 EUのコンパクトシティの理念と政策
1.1 コンパクトシティとは
1.2 サスティナビリティとは
1 ローマクラブ
2 ブルントランド委員会
3 サスティナブル・シティの理論
1.3 サスティナブル・シティ戦略とコンパクトシティ
1 提起
2 サスティナブル・シティ・キャンペーン
3 サスティナブル・シティ・レポート
4 専門家グループによる意見書
5 自治体へのEUの影響力
2章 英国のアーバンルネサンスとコンパクトシティ
2.1 英国政府によるコンパクトシティ政策の推進
1 中央政府と地方政府の関係
2 都市計画における計画主導システム
3 コンパクトシティ政策の背景
4 コンパクトシティを目指す戦略
5 計画方針ガイダンスPPGSの役割
6 アーバンビレッジ
7 ロンドンの新しい開発パターン
2.2 政府による南東部地域政策
1 地域の概況と地域政策素案の策定
2 南東部地域の開発戦略
3 アーバン・ルネサンスの実現
3章 英国の自治体が目指す都市づくり
3.1 地域の状況
1 レディング 市の概況
2 都市の発展と地域構造
3.2 都市が目指すもの
1 自治体の再編成と広域計画
2 サスティナブルコミュニティの実用
3 商業立地と都市センターのあり方
4 交通の改善を目指して
3.3 開発のコントロール
1 開発コントロールの実際
2 ローカルプランと基本方針
3 プランニング・ブリーフからみた戦略
3.4 田園と町を守るサウス・オックスフォードシャの地域づくり
1 サウス・オックスフォードシャの概況
2 田園景観を守る仕組み
3 ローカル・プランの扱い
4 ローカルプランの見直しへ
5 住宅地開発の考え方
6 商業施設の開発
7 開発コントロール体制
8 議会の積極的な活動
3.5 美国の自治体が無指す都市像と実現方法
4章 ドイツ・オランダのコンパクトシティ政策
4.1 ドイツの都市の空間構成と都市像
1 街の中心部のにぎわい
2 歴史的都市空間の価値の継承
3 ドイツにおけるコンパクトシティ戦略
4 ドイツと日本の都市空間の比較
4.2 オランダ政府によるコンパクトシティ政策
1 政府の基本戦略
2 コンパクトシティを実現する方法
4.3 ヨーロッパ諸国のコンパクトシティ政策の流れ
5章 アメリカにおける都市スプロールへの抵抗
5.1 郊外化の実態と問題
1 アメリカにおける郊外化の実態
2 都市スプロールの原因
3 郊外化のプロセス
4 自動車に過度に依存した結果
5.2 郊外化に対抗する市街地像
1 歩行者ポケット(ペデストリアン・ポケット)
2 ニューアーバニズムと伝統的近隣開発(TND)
3 カルソープの公共交通指向開発モデル(TOD)の具体化
4 軌道系公共交通重視のトランジットビレッジ
5.3 アメリカの自治体政策
1 成長管理政策とスマートグロース
2 シアトルのアーバンビレッジ政策
6章 欧米におけるコンパクトシティ論争
6.1 コンパクトシティの原則と特性
1 コンパクトシティの原則
2 コンパクトシティによる効果
3 コンパクトシティを実現するための都市、地域政策
6.2 コンパクトシティを巡る論争
1 英国における田園居住志向
2 コンパクトシティ論争
6.3 コンパクトシティの検証
1 代替モデル180
2 エネルギー効率、廃棄物削減効果
3 都市形態と交通行動
4 都市のコンパクト性と社会的公平さ
5 都市の強化
6 密度について
7 複合機能、混合用途
7章 都市形態と生活環境
7.1 計画の理念と中心市街地
1 部分と全体の有機性
2 空間の論理
7.2 市街地人口の低密化
1 歴史都市の人口密度
2 DID人口密度の低減傾向
7.3 自動車の保有と利用
1 先進国の自動車の普及と人口増加
2 都市形態と自動車保有
3 都市形態とガソリン消費量
4 自動車保有世帯の特徴
5 街なかの公共交通の衰退と再生
7.4 都市形態と交通行動
1 人口密度と生活施設へのアクセシビリティ
2 都市形態による交通行動への影響
8章 わが国におけるコンパクトシティ提案
8.1 コンパクトシティへの関心・注目
8.2 コンパクトシティをテーマとする構想や提案
1 行政による構想・計画
2 調査研究機関、研究者、プランナーからの提案
3 産業界からの提案
8.3 コンパクトシティを目指す施策
8.4 わが国におけるコンパクトシティ構想を巡る特徴
1 政府の戦略としての位置づけの弱さ
2 自治体主導
3 多様な強い
4 公共事業的手法への依存
5 批判的視点の弱さ
9章 コンパクトシティの空間像
9.1 20世紀のさまざまな都市像
9.2 コンパクトシティの空間像
1 中世都市(有機的な自律都市)
2 メガストラクチャー(自己完結型の人工都市)
3 地域空間の段階構成
9.3 都市空間の変遷とコンパクトシティへの展望
10章 日本型コンパクトシティにむけて
10.1 新しい都市づくりの時代へ―欧米の取り組みと日本の課題
1 持続可能な都市を目指すEU
2 アーバン・ルネサンスを目指す英国
3 地域自治によるスマートグロースを目指すアメリカ
4 日本の都市の課題と可能性
10.2 日本型コンパクトシティの10の原則と三つのモデル
1 近隣生活圏(アーバンビレッジ)で都市を再構成する
2 段階的な圏域で都市や地域を再構成する
3 交通計画と土地利用との結合を強める
4 多様な機能と価値をもつ都市のセンターゾーンを再生、持続させる
5 徒歩の時代の「町割り」を活かす
6 さまざまな用途や機能、タイプの空間を共存させる
7 アーバン・デザインの手法を適用して美しく快適なまちをつくる
8 都市の発展をコントロールして環境と共生した都市を持続させる
9 都市を強化する
10 自治体空間総合計画に基づく都市経営を進める
11 日本型コンパクトシティの三つのモデル
10.3 21世紀都市へ
参考文献
索引
あとがき
世界のコンパクトシティ: 都市を賢く縮退するしくみと効果
日本の課題を解決するヒントを探る!
世界で最も住みやすい都市に選ばれ続けているアムステルダム、コペンハーゲン、ベルリン、ストラスブール、ポートランド、トロント、メルボルンの7都市の事例を紹介しています。7都市が実践しているコンパクトシティの取り組みを学ぶことで、日本においてどのようなことを実践すべきかが分かります。
はじめに
都市の構造をコンパクトにすることにはさまざまなメリットがある。思いつくだけでも、生活利便性の確保、環境負荷の削減、社会基盤の有効活用、行政運営の効率化、地域活性化、健康まちづくりの促進、自然環境の保全、公共交通の経営基盤の改善、交通弱者への配慮といった項目を挙げることができ、一石八鳥とも九鳥とも言うことができる。特に、人口減少時代においては避けては通れない基本的なまちづくりのコンセプトとして期待されている。
その用語自体はようやく広まりつつあるが、日本では制度的な対応が遅れたこともあり、その動きは始まったばかりである。このため、残念ながら、まだ誤解や見当違いの批判も多い。また、1章で後述するように、自治体の担当職員にはその実施が容易ではないと感じている人も多く、その割合は制度化が進んでも変化していない。2014年にしくみ上は立地適正化計画が策定できるようにはなったが、まだどの市町村も恐る恐る計画をたてているのが実際のところといえよう。
最近では、新聞やネット上で都市のコンパクト化が実態としてそれほど進んでいない、といった批判記事を目にする機会も少なくない。ただ、それらの多くは都市のコンパクト化政策をカンフル剤と勘違いしているケースがほとんどである。これは近年の都市政策が規制緩和・活性化を旗印にカンフルを打ち続けることを是としてきたことによる思考停止の結果でもある。特に人口減少が進む日本では、都市のコンパクト化はそのようなカンフル剤ではなく、体質改善策であることをまず理解しなければならない。制度の採用から2~3年で目覚ましい成果を期待することがそもそも筋違いであり、次の選挙までに成果を並べたい政治家にとっては材料にならない政策の代表例ともいえよう。
都市構造を拡散するままに放置しておけば、中長期的にさまざまな問題が悪化する。それはあたかも肥満化した人間が生活習慣病に徐々に罹患していく姿に重なる。都市構造に由来する深刻な問題は生活習慣病と同様にすぐに障害を発症するわけではなく、じわじわとやってくるだけに手が悪い。たとえば、周囲に多少空き家が増えたぐらいでは日常生活に何の影響もないが、それが積み重なると、ある時突然、路線バスや店舗、病院といった都市サービス機能が撤退することになる。地震に伴う津波は瞬時に被害がわかるためにハード・ソフトともに対策がたてられやすいが、都市拡散に伴う「ゆっくり来る津波」にもその影響の大きさからそれ以上の対策とその実行が求められるのである。
ちなみに、なぜ都市のコンパクト化が求められるのかということをたとえれば、肥満化した成人病患者に医者がダイエットを勧めるのと理屈は同じである。その方が都市も人間も健康になるからにほかならない。また、ダイエットの効果を上げるのが容易でないのと同様に、都市のコンパクト化も効果が見えるまで実施することは簡単ではない。共通に求められることは「節制」を継続することである。ダイエットを完遂できる意志の強い人間は少ない。都市も同じである。
なお、自分がダイエットに失敗したからといって、スマートで健康的な体型自体を批判する人はいない。同様にコンパクト化政策に飛びついてはみたものの、思うようにいかないからといってコンパクトシティ自体を間違ったもののように批判するケースが散見されるが、それは筋違いである。なかには「うちのまちはコンパクト化には向かない」ということを平気で宣言する都市もあるが、それは「もう私は糖尿病なんだから、いくら甘いものを食べてもいいでしょう」と言っているのと同じことである。
コンパクト化政策を支える立地適正化制度が導入されて数年が経副したが、そのしくみ自体もまだ十分とは言えず、適宜見直していく必要がある。当初見られたような、「強制的に移住させられる」といった見当違いの誤解はさすがに減ってはきており、市民の理解も向上している。ただ、1章で解説するようないくつかの本質的課題はまだまったく解決しておらず、今後の取り組みが求められる。
以上のような問題意識をもとに、本書ではコンパクトシティに関連するさまざまな観点から海外の先進諸都市を紹介する。国内外を問わず、都市にはそれぞれの都市の個性があり、したがって都市構造に対する政策の打ち方もそれぞれに異なる。コンパクト化政策という名称は共通でも、都市によっては冒頭に示した一石八鳥や九鳥の目的のうち、どれを主眼としているかによってもその対応の仕方は異なってくる。他都市のコンパクト化政策をそのままコピーしてもうまくはいかないが、広く支持される多様な都市の実態を学んでおくことの意義は大きい。本書での都市の紹介においては、その対応方策の幅広さがうまく伝わるよう、対象と内容を厳選している。
具体的には、まず1章でコンパクトシティ政策の現在までの道のりと、今後見直しを進めていくうえでの本質的な課題を整理する。その上で2章以降は、アムステルダム(オランダ)、コペンハーゲン(デンマーク)、ベルリン(ドイツ)、ストラスブール(フランス)、ポートランド(アメリカ)、トロント(カナダ)、メルボルン(オーストラリア)を取り上げ、それぞれ特徴的なコンパクトシティ政策を解説する。
これらの諸都市の中には日本がコンパクトシティ政策に向き合う以前から時間をかけて取り組んできたところが少なくない。本書では、トロントにおけるスマートシティとの連動など最新の情報収集を心がけたが、その一方でコペンハーゲンのフィンガープランやベルリンの拠点集約といった時代が経っても色あせない、むしろ古典としての輝きを増している取り組みも積極的に紹介している。これら諸都市の情報が今後の持続可能な都市づくりに少しでも貢献できることを期待したい。
谷口守
目次
はじめに
1章 日本におけるコンパクトシティの課題と解決策 谷口守
1 コンパクトシティの概要と効果
2 コンパクトシティ政策の系譜
3 時間を要した日本の制度づくり
4 多様化する導入目的
5 残された本質的課題(解決に向けて) 6 今後の方向性を考える
2章 オランダ・アムステルダム 持続可能な経済成長を支える都市政策 片山健介
1 アムステルダムの概要
2 オランダの空間計画制度
3 オランダの国土空間政策とコンパクトシティ
4 アムステルダムのコンパクトシティ政策
5 日本への示唆
3章 デンマーク・コペンハーゲン 駅周辺に都市機能を集約する住宅・交通政策 斉田英子
1 コペンハーゲンの概要
2 デンマークの都市計画制度
3 コペンハーゲン都市圏におけるフィンガープラン
4 コペンハーゲン市のコンパクトシティ政策
5 日本への示唆
4章 ドイツ・ベルリン サービスやインフラへのアクセスを確保する拠点づくり 高見淳史
1 ベルリン=ブランデンブルク首都圏の概要
2 地方行政の体系と空間計画のしくみ
3 コンパクト化が要請された背景
4 首都圏の中心地システムと都市整備
5 コットブス市の拠点の設定方法
6 日本への示唆
5章 フランス・ストラスブール 都市交通政策を軸とした住みやすいまちづくり 松中亮治
1ストラスブールの概要
2 フランスにおける都市内公共交通を支える制度
3 ストラスブールの都市交通政策
4 交通政策を中心とした都市政策の成果
5 日本への示唆
6章 アメリカ・ポートランド 住民参加によるメリハリある土地利用と交通政策 氏原岳人
1 ポートランドの概要
2 ポートランドの都市政策
3 都市政策の成果
4 日本への示唆
7章 カナダ・トロント 多様性とイノベーションを生むスマートシティ開発 藤井さやか
1 トロントの概要
2 コンパクトな都市構造を支える都市計画
3 未来型スマートシティの構想
4日本への示唆
8章 オーストラリアメルボルン 急激な人口増加に対応する都市機能の集約 提純
1 メルボルンの概要
2 オーストラリアの行政機構
3 メルボルン大都市圏の交通政策の変遷
4 メルボルン2030:スプロール抑制と拠点の整備
5 メルボルンプラン2017-2050:メトロ整備と知識集約産業の集積
6 日本への示唆
おわりに
ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか: 近距離移動が地方都市を活性化する
地域経済を活性化するドイツのしくみ
日本では、このままの都市計画、交通計画では市民サービスを低下させるだけでなく、自治体そのものが消滅してしまう事態が迫っています。しかし、ほとんどの地域が新しい取り組みを始めていないのが現状です。本書では、市民の利便性を損なわず、地域の仕事を確保し、地域経済を豊かにするような都市計画について検討しています。
はじめに 車がないまちの豊かさ
スイスのツェルマットを訪れた方はいるだろうか。海抜1600メートルの谷に位置する人口5700人のまちで、周囲をモンテローザ、マッターホルンなど4000メートル級のアルプス最高の山々に囲まれている。ツェルマットでは、1931年に一般乗用車の進入を禁止することにした。そして、1972年、1986年に一般乗用車の進入禁止措置を継続することを住民投票で決めている。つまり、ほとんどの住民は車を持たない。マイカーで訪れる観光客は、まちなかから6キロメートル離れた隣町の有料駐車場に車を停めて、鉄道か電動バス、電動タクシーでツェルマットを訪れることになる。
また商用車についても、(建設用重機や緊急車両などの例外を除いて)ガソリン車やディーゼルエンジン車は市内では使用が禁止されているため、最高時速3~5キロメートルという電気自動車が古くから地域で独自に開発・製造・利用されている(配達車両や送迎車両、タクシー、手工業者向けなど)。そもそも、ツェルマットはスイスの都市圏から遠く離れているので、自動車が利用され始めた時期が遅く、山奥のドン突きにあたる農村地域だから車の進入規制をかけやすかったこともある。ただし、マイカー通行を禁止している自治体はツェルマットだけではない。鉄道のみでつながり、車のないまちがアルプス地方には数多く存在しているし、ドイツやオランダの北海、バルト海に浮かぶフェリーで結ばれた島々、たとえばヒデンゼーに代表されるようなカーフリーのまちもたくさんある。
これらのまちは「車のないまち」という非日常を堪能できることが観光客をひきつけている。ただし、人気のある観光地だからマイカー交通を排除したのではなく、マイカーがないから優れた観光地になったのだ。日本だったら無理にでも自動車を通すであろうそれらのまちを訪問すると、観光客だけでなく、そのまちで暮らす人びとも豊かさを享受しているように感じられる。
ツェルマットでは、学校帰りの子どもたちがアイス屋に群がり、多様な人びとが挨拶を交わし、立ち話をしながら、まちの中心部を行き来していた。子どもたちは、思い思いに道路空間を縦横無尽に歩いてゆく。とてつもなく豊かな光景を目の当たりにして呆然と見入ってしまった。一方、日本で道路端の狭い歩道を申し訳なさそうに通学する子どもたちを目にすると心が痛くなる。どこかで私たち大人は、目先の利便性と引き換えに大切なものを失う選択をしてきた気がしてならない。
日本のほとんどの地域において、自動車を主体として交通を組織していればOKというお気楽な時代ではすでにない。2025年には団塊の世代が5歳を超える。年齢別で特大の世代が自身でマイカーの運転を諦めざるをえなくなる時代が到来する。本書では、今後も進展してゆく人口減少、超高齢化の社会において、市民の利便性を損なわず、地域の仕事を確保し、地域経済を豊かにするようなオルタナティブな交通手段、都市計画について検討している。
具体的なキーワードは、ショートウェイシティの都市計画、自転車交通の推進、そして自動車交通の大幅な抑制と静穏化、分離化、結束化である。人口1万人程度の自治体では、マイカー主体の交通に対して、今でも30億円以上が注ぎ込まれ、その大部分の利益が地域経済を豊かにすることなく域外に流出している構造を抱えている。この交通と経済のしくみを変える必要がある。
その成功例は、すでに欧州には数多くある。ツェルマットのように、地域で電気自動車を組織することで、大都市の自動車メーカーや中東の王族を潤すことを止める。小売店の御用聞きなどの昔ながらのしくみを維持して買い物難民を防ぐ。車が通らない通りの真ん中で市民が立ち話をする。車の騒音がしないまちなかを鼓笛隊が行進する音色が聞こえてくる。一度その風土を体験した観光客は虜になり、物価があからさまに高いにもかかわらず、何度でも訪れるようになる。ツェルマットは安売り競争とは無縁の地だ。外資による大規模リゾート開発とも無縁で、地域に落とされたカネは地域で循環している。
そんなまちの姿を念頭に置きながら、日本の都市部や農村部で、どのように新しい交通、移動を組織するべきか、さまざまな交通手段について事例を挙げて述べている。日本では、このままの都市計画、交通計画では、市民サービスを低下させるだけでなく、自治体そのものが消滅してしまう事態が迫っているにもかかわらず、ほとんどの地域が新しい取り組みを始めていないのが現状である。だからこそ、他に先駆けて変革を始める稀有な地域が、抜け駆けしてより豊かになれる。本書がそんな地域の人々に少しでも役に立つなら幸いである。
本書は、学芸出版社の宮本裕美氏・森國洋行氏の編集力を得て出版されている。感謝したい。そして、時間という貴重な資源を差しだしてくれた家族にも感謝する。
2017年1月
村上 敦
もくじ
はじめに 車がないまちの豊かさ
1章 日本のコンパクトシティはなぜ失敗するのか
都市計画制度が人口密度の違いを生みだす?
日本の都市の寿命は人の半生にしかならない
人口減少が地域に与える真のインパクトを理解する
人口動態が緩やかなドイツ
強い地域経済をつくるエネルギーと交通
2章 地域経済を活性化する交通とは
交通まちづくりの社会的ジレンマ
マイカーよりも他の交通手段を選択すべき理由
日本の「コンパクトシティ」とドイツの「ショートウェイシティ」
オルタナティブな交通を読み解くキーワード
3章 ショートウェイシティー移動距離の短いまちづくり
なぜ、フライブルクは公共交通が充実しているのか
モータリゼーションが破壊したもの
自動車を抑制するフライブルク市の交通政策
フライブルクの中心市街地を活性化する交通政策
渋滞は交通問題ではない
4章 マイカーを不便にするコミュニティのデザイン
道路を暮らしのための空間へとり戻す
シェアド・スペース―交通ルールを取り去った道路料
公共交通の空白地帯を埋めるオルタナティブ交通
5章 費用対効果の高いまちづくりのツール、自転車
次世代の自転車交通政策
自転車交通の費用対効果
活況を呈する自転車ビジネス
進化する自転車インフラ
6章 交通のIT化とシェアリングエコノミーは地域を幸福にするか
拡大を続けるカーシェアリング
自動運転車とウーバーの可能性
ロードプライシングとITSで車は減るか?
IoTが多様な交通を選択可能にする
電気自動車は有効か?
日本版コンパクトシティ―地域循環型都市の構築
歩いて暮らせるコンパクトなまちづくりの考え方
コンパクトシティの考え方は、新たな都市や地域社会の創造であり、人々のライフスタイルの転換です。本書では、日本における固有な問題と深く関わらせながら、コンパクトシティの考え方を示すとともに、実効性あるものにするための視点を示しています。自治体や都市計画関係者、産業界、まちづくりに関わるすべての人におすすめです。
はしがき
2006年、「まちづくり三法」が改正された。旧「まちづくり三法」以降、とくに地方都市の中心市街地空洞化がきわめて深刻な事態に立ち至ってしまったことを直接的な背景としたこの法改正は、改正議論の過程から、大規模商業施設の立地に対する新たな規制と誘導について、「規制緩和」や「市場重視」の大きな潮流に対する逆行ではないかという激しい批判もあった。
しかし、わが国の地方都市の現実は、市場重視や競争原理では立ち行かないほどのさまざまな課題が山積してきており、その実態や背景、そして今後の都市や地域社会のあり方を探るなかで、これまでの都市計画や中心市街地活性化の発想では到底、持続可能な地域社会として存続させていくことが困難であることが明らかになってきた。
コンパクトシティの考え方は、単に都市計画の方法論や技術論ではない。人口減少・少子高齢社会を迎えたいま、高度経済成長期に培ってきたわが国の価値観を1つひとつ克服していく新たな都市や地域社会の創造であり、人々のライフスタイルの転換ではないかとさえ思えてくるのである。そのことは、環境問題や持続可能性あるいは社会的公正性などの課題を背景にして、諸外国で展開されてきたコンパクトシティの潮流でも明らかである。そこで、わが国における固有な問題と深く関わらせながら、コンパクトシティの考え方を示すとともに、さらにコンパクトシティを実効性あるものにするための視点を示すことが、本書のねらいである。
第1章では、コンパクトシティとはどのようなものかについて、わが国においてその考え方が生まれてきた背景とそのポイントについて概説している。第2章では、深刻さが増しているわが国の中心市街地の現状と課題について、都市や地域社会、コミュニティ、農村や郊外ニュータウンのほか、都市計画上の視点などから検証する。第3章・第4章では、「まちづくり三法」、「福島県商業まちづくり条例」について取り上げ、法制度の概要と課題を考察する。第5章では、自治体における諸計画とコンパクトシティに向けた取組係性について検証し、青森市、神戸市、長野市における事例を分析する。第6章では、中心市街地活性化、大型店問題、コミュニティ再生のほか、域交通マネジメント、住宅政策、都市計画、地域循環型経済システムなど、多岐に渡る課題を提示し、その考え方とさまざまな取組みを提起している。最後に第7章では、あらためて日本版コンパクトシティの実現に向けてのポイントを整理したうえで、現段階で提示されている疑問に対して回答し、政策的原則、グランドデザインの構築について提言する。
コンパクトシティは今後、わが国のまちづくりの基本コンセプトになっていくことが予想されるが、自治体や都市計画関係者、産業界、市民やNPOなどが、今後のグランドデザインを描くうえでの基本的な視点として、本書のコンパクトシティの考え方が俎上にあげられることを期待している。
2007年1月
鈴木 浩
目次
はしがき
第1章 コンパクトシティとは何か
①コンパクトシティの考え方
中心市街地空洞化とコンパクトシティへの動き
コンパクトシティとはどのようなものか
市街地と農村の連携の再構築
コンパクトなまちづくりの展開方向
②コンパクトシティへの道程
地方都市におけるバイパス計画の動向
東北地方建設局「未来都市検討委員会」
城下町における都市計画のあり方
福島県商業まちづくり条例制定
日本商工会議所「まちづくり特別委員会」
③世界の潮流とわが国における課題の特質
日本版コンパクトシティのためのポイント
第2章 中心市街地をめぐる現状と課題
①都市と地域社会の諸問題.
経済集積としての都市の高層化
全国総合開発計画の変容とグローバリゼーション
地域経済の流動化、全国ネットワーク化
市街地と農村の連携の希薄化
コミュニティの衰退と地域社会を支える力のアンバランス
②中心市街地の現状と課題
市街地の拡大とモータリゼーション
中心市街地空洞化と郊外ニュータウン衰退の同時進行
都市計画上の諸問題
街なか居住問題
第3章 まちづくり三法とコンパクトシティ
①「まちづくり三法」制定の背景と制定後の経過
「大店法」廃止と「まちづくり三法」制定
「まちづくり三法」の内容
「まちづくり三法」制定後の状況
自治体・商工業界の動き
②「まちづくり三法」の改正
「まちづくり三法」見直しの経過
中小企業4団体からの要望
国土交通省「アドバイザリー会議」
中間報告-コンパクトでにぎわいあふれるまちづくりを目指して一
海外の制度調査、
「まちづくり三法」改正のポイント
③まちづくり三法とコンパクトシティ
「まちづくり三法」改正と今後の課題
コンパクトなまちづくりへの第一歩
第4章 福島県商業まちづくり条例
①「福島県商業まちづくり条例」の構成と内容
特定小売商業施設の立地規制
「商業まちづくり基本方針」の策定
広域調整
地域貢献活動
「商業まちづくり審議会」の設置
②「商業まちづくり基本方針」
誘導地域の前提設定
合併しない自治体への配慮
広域公共交通システムの整備
③コンパクトなまちづくりに向けて一条例制定後の課題
求められる今後の課題
全国の自治体がめざすべき方向性
第5章 自治体計画におけるコンパクトシティ
①自治体における地域計画
都市計画の論理
計画の論理とそれに潜む計画矛盾
計画矛盾の克服
自治体における計画の整合性
②自治体におけるまちづくりの展開―コンパクトシティへの道
青森市の取組み
神戸市の取組み
長野市の取組み
③自治体における今後の対応の方向
旧来の価値観・システムからの転換
行政における計画評価と進行管理
広域行政とコンパクトシティ
市場主義、規制緩和の潮流と社会的公正性
第6章 日本版コンパクトシティのための課題
①中心市街地活性化問題と大型店問題
中心市街地と既成市街地の定義
中心市街地と既成市街地の構成要素
郊外住宅地とニュータウンとは
中心市街地活性化問題の本質
② コミュニティ再生とキャパシティ・ビルディング
公団住宅のコミュニティ維持
欧米のコミュニティ教育
行政の支援によるキャパシティ・ビルディング
③住宅政策とコンパクトシティ
住宅政策の転換一「住宅建設計画法から「住生活基本法」へ
中央集権型住宅政策から地方分権型住宅政策へ
地域居住政策の視点へ. 地域居住政策の展開方向
地域居住政策のための課題
マンションブームと街なか居住
街なか居住の具体的検討
④安全安心のまちづくり
都市インフラの分節化
墨田区の減災対策
⑤ 交通インフラ整備と広域公共交通マネジメント
道路計画の検証
パークアンドライド
ポートランドの交通まちづくり
⑥都市計画と農村計画の連携
都市計画の軌道修正
農村における土地利用
都市計画制度とその手法の根本的な見直し
⑦地域循環型経済システムの構築
地域循環型経済のための都市と農村の連携
地域における住宅供給システム
地域循環型経済を支える金融システム
第7章 日本版コンパクトシティの実現をめざして
①わが国におけるコンパクトシティの潮流と論点
コンパクトシティにつながる自治体の取組み
日本版コンパクトシティの論点一実現への疑問に対する回答
②日本版コンパクトシティの原則
コンパクトシティの政策展開における原則
③持続可能性と地域再生のためのグランドデザイン
地域における政策形成能力と合意形成能力
地域再生のグランドデザイン
参考資料
福島県商業まちづくり条例
福島県商業まちづくり基本方針
事項索引
あとがき
スマートコミュニティ コンパクトシティ+ネットワークと地方創生 (スマートコミュニティシリーズ)
民間活力も加わった新たな公共サービス
2016年に電力の全面自由化がスタートし、スマートコミュニティ社会の実現に向けて大きく前進しました。本書では、コンパクトシティや地域活性化、次世代エネルギーなどために、国や自治体、先進企業がどのような取り組みを行なっているのか、各団体の代表者が具体例を紹介しています。
目次
第1章 スマート&マイクロコミュニティの整備が、地方創生を実現する
東京工業大学特命教授 柏木孝夫氏
第2章 国の取り組み
◆内閣府地方創生推進室
まち・ひと・しごと創生とコンパクトシティなどの取り組みについて
◆総務省
ICTによる「まち・ひと・しごと創生」の実現に向けて
◆経済産業省資源エネルギー庁
多くの成果を得た次世代エネルギー・社会システム実証事業
◆国土交通省総合政策局公共交通政策部
交通政策基本計画の概要と地域公共交通ネットワークの再構築に向けた施策の動向
◆国土交通省都市局
コンパクトシティの形成に向けて
第3章 自治体の取り組み
◆熊本県熊本市 熊本市長 大西 一史氏
持続可能で創造的な多核連携都市の形成 ~公共交通を基軸とした熊本型のコンパクトなまちづくり~
第4章 先進企業の取り組み
◆NECプラットフォームズ株式会社 代表取締役 執行役員社長 保坂深氏
Wi-Fiで観光・住民サービスが充実 ~沖縄・久米島モデル~
◆大阪ガス株式会社 エネルギー事業部東京担当部長 岡本利之氏
スマエネネットワークの構築を目指して
◆大阪ビジネスパークV2X プロジェクト
MID都市開発株式会社 ビル事業部OBP開発室副室長 吉村隆氏
株式会社竹中工務店 環境エンジニアリング本部 エネルギーソリューショングループ 課長 茂手木直也氏
株式会社アイケイエス 代表取締役社長 今井 尊史氏
株式会社日建設計総合研究所主任研究員 ユニットリーダー 鈴木 義康氏
車とまちをつなぐEV・PHV 活用電力供給の可能性
◆株式会社大林組 本社 技術本部 統括部長 小野島一氏
スマートエネルギーシステムへの取り組み
Obayashi Green Vision 2050と技術研究所エネルギースマート化プロジェクト
◆株式会社オリエンタルコンサルタンツ
関東支店 プロジェクト開発部 次長 株式会社オリエンタル群馬 社長 中埜智親氏
社会インフラ創造企業として、地域活性化を実践
◆静岡ガス株式会社 執行役員 電力事業推進部長 中井俊裕氏
日本初、分譲マンション内で各戸間の電力融通を可能に
◆清水建設株式会社 ecoBCP 事業推進室 執行役員 室長 那須原和良氏
住む人がわくわくするスマートコミュニティづくり
◆東京ガス株式会社 執行役員 営業イノベーションプロジェクト部長 穴水 孝氏
需要側と供給側の連携でエリアのエネルギー最適化を実現するスマエネ ~田町駅東口北地区の事例~
◆パシフィックコンサルタンツ株式会社 事業マネジメント本部 地域マネジメント戦略部 部長 日高正人氏
地域の新しい社会サービス提供のためのサービスプロバイダーとして
第5章 特別座談会
スマートコミュニティ社会の形成が、地方創生、国土形成を実現する
東京工業大学特命教授 柏木孝夫氏
奈良県生駒市長 小紫雅史氏
パシフィックコンサルタンツ株式会社
取締役事業戰略部長 千葉淳氏
自治体行政マンが見た 欧州コンパクトシティの挑戦―人口減少時代のまちづくり・総合計画・地方版総合戦略のために
海外コンパクトシティの日本の自治体への応用作
本書では、コンパクトシティとまちづくりの先進都市であるフランスのストラスブールとディジョン、ドイツのフライブルクの3都市で、著者が実際に見て調べたまちづくりの成果を紹介します。また、日本の自治体で取り組みを進めるための視点と政策改革の切り口について提案しています。
目次
はじめに 進まないコンパクトシティと行き詰まるまちづくりのヒントを求めて
1 自治体の「焼き畑農業的対応」と続発する高齢者の運転事故
2 欧州のまちづくりの成果を現地で実感するために
3 12年間の計画担当の経験を踏まえ、「地方版総合戦略の抜本改定から始めよう」との提案
第1節 まちづくりと公共交通の「聖地」フランス・ストラスブールへ
1 世界中にインパクトを与えた憧れのLRTに乗車する!
2 日本のバスなどにはない公共交通の質の高さ
3 車中心の都市の衰退 二度と行こうとは思わない街
4 環境派市長の登場による車の規制とLRTの導入
5 「シャッター通り」はどこにもなかった
6 フランスを代表する環境先進都市に
第2節 フランス・ディジョンはワイン造りとバス交通のトップランナーだった!
1 LRTでなくバス交通で都市交通のランキング1位に
2 初めて乗った連接バスで「パンチをくらう」
3 バスの持てる潜在能力を最大限に発揮
4 バス交通が「成功しすぎて」問題に直面する
5 「ワインレッド」の多様な交通施策が展開
コラム ちょっと寄り道(その1)高速の文書作成の切り札、「親指シフト」とは?
1 「あなたは何回打っていますか?」
2 「日本語を指がしゃべる」入力方式
3 「親指シフト」との出会いと涙の別れ
4 無理やり別れさせられた「恋人」との再会
5 職場で「百聞は一見にしかず」で理解を得る
6 「そうだ、親指シフトにしよう!」
第3節 世界初の「移動権」を保障するフランスと「2周遅れのガラパゴス」日本
1 赤字運営でいいの? 日本人視察者のお決まりの質問
2 「世界初の移動権」を実現する交通目的税
3 「連帯運賃」で運営する「水平エレベーター」
4 「周回遅れ」から「2周遅れ」に
5 パリ市長の挑戦と「ガラパゴス日本」の行方
第4節 フランスのまちづくりの到達点を見た! 都市計画、交通、住宅の個別計画一本化でコンパクトシティを推進
1 都市計画マスタープランが生物多様性にコミットする!?
2 市町村の都市計画で電線類の地中化が建設許可の条件に
3 都市計画の規制で国内で最も地味なマクドナルド店に
4 市街地の拡散を抑制して「都市の上に都市をつくる」
5 「土地消費が進行した」との認識と反省から
6 新規住宅整備のCO2試算で建設地域を限定する
7 「交通不便地域解消」や「電線類地中化」は遅れた都市計画制度の現れ
8 「三位一体」の計画で総合的なまちづくりへ
コラム ちょっと寄り道(その2)学習時間を倍増する切り札、「耳からの情報収集・学習法」
1 「あなたは毎日、何時間勉強していますか?」
2 「放送大学」の無料で多彩な講義を活用しよう
3 「池上解説」も「早聞き」で聴こう
4 離れたところでも電波で飛ばして「早聞き」で聴こう
5 毎日の習慣で、勉強時間もあなたも大きく飛躍する!
第5節 ドイツの「環境首都」フライブルクから学ぶ脱原発のコンパクトシティ
1 森の枯死と原発計画を契機として
2 「地域定期券」を支える「シュタットベルケ」
3 ドイツの都市計画制度とフライブルクの取組み
4 「コンパクトシティ政策の三本柱」を駆使して
5 環境首都に相応しいソーシャル・エコロジー住宅地の建設
6 コンパクトな都市をつくるために問われる居住スタイル
7 「自由の街」から学ぶ持続可能な都市のあり方
第6節 コンパクトシティのまちづくりに向けて地方版総合戦略の抜本改定から始めよう
1 「街ごと持って帰りたい」
2 求められる「総合計画」による「総力戦」の対応
3 「コンパクトシティ政策の三本柱」の議論を
4 市街地を拡大させない都市計画の運用に
5 「第2期地方版総合戦略」でコンパクトテシィのあり方を検討しよう
6 根拠なき「目標人口」と「合計特殊出生率」の結果
7 総合戦略の改定は「抜本的な見直し」で進めよう
8 国がやらなくとも「人口ビジョン」を改定しよう
9 国の方針と決別し人口減少を前提とした総合戦略を策定
10 「都市圏総合戦略」を主体的に策定しよう
11 自治体の政策で都市は変わる!
おわりに 今こそ、「コンパクトで開かれた都市」を創ろう!
1 初めて見た光景
2 日本で見た光景
3 「移動回数を減らさない」都市政策とまちづくり
4 6か国語対応のLRT券売機と9か国語の運賃説明
5 探し求め、たどり着いた、まちづくりの実践
付録ブックレビュー「“ミシュラン”フランス地域巡り
著者紹介
はじめに
1 自治体の「焼き畑農業的対応」と続発する高齢者の運転事故
「焼き畑農業的対応」と近年の自治体の姿勢を批判するのは、東洋大学の野澤千絵教授である。人口減少時代では市街地の拡大を抑制し、中心部に都市機能 や居住を誘導・集約して、人口集積が高密度なまちを形成する「コンパクトシティ」を目指すことが求められている。しかし、人口を確保したい自治体は、開発が規制された地域に、相続対策用のアパートなどが大量に作られることを認めるなど、未だにスプロール化につながる無計画な郊外の開発を許容しているとして、冒頭のコメントを一昨年の日本経済新聞で述べていた。
実際、同紙の調べでは、「コンパクトシティを目指す」として国土交通省が制度を設けた「立地適正化計画」を策定した116市町においてさえ、6割の自治体が誘導区域外の開発に何も手を打たず、さらには、同計画の策定が区域外の開発の抑制に「効果的」と答えたのは1自治体のみであった。つまり、人口減少時代においてコンパクトシティの推進は不可欠であると認識されているものの、欧州のように「計画なければ開発なし」の原則に基づき、都市のスプロール化と中心部の空洞化を食い止める政策が、日本においては実行されていないのである。
また、人口減少・高齢化に関係する昨今の大変気になるニュースとして、高齢者が運転して子どもをひいてしまうなど、高齢者による悲惨な自動車事故の続発が挙げられる。そして、それを報道するマスコミの論調はいつもお決まりで、運転能力が備わっていないのに運転をした本人を批判し、運転を許した家族を責め、また行政に対しては、もっと強力に免許を返納させる取組みを進めろと迫る。このようなマスコミの主張は間違ってはいないのだが、本質的な議論になっていないと、ずっと違和感を抱いていた。つまり、高齢者が自ら運転しなくとも生活できるように、これまでの車依存のあり方を改めて、今こそ公共交通の再生・充実によるまちづくりを進めるべきとの議論がなぜ巻き起こらないのか、いらだちさえ覚えていた。
2 欧州のまちづくりの成果を現地で実感するために
このような最近の問題意識から、以前から関心を持っていた欧州の都市政策について、改めて学ぶ必要があると思ったのである。なかでも、フランスやドイツの先進都市では1980年代からLRT(次世代型路面電車)を中心とした交通政策と都市計画によって、移動距離の短いコンパクトなまちづくりに取り組み、まちの再生と活性化に成功し、日本の地方都市の象徴とさえなっている「シャッター通り」がないといわれている。
フランスやドイツの先進都市の政策については、日本の文献でも多数紹介されているが、やはり「百聞は一見にしかず」である。本当に「シャッター通り」がないのか確認したいとの好奇心もあって、優れたまちづくりの成果を現地で実感するために、2017年の暮れから2018年にかけて渡欧したのである。今回、コンパクトシティと公共交通のまちづくりの先進都市として訪問したのは、フランスは、まちづくりの「聖地」といわれているストラスブール、そしてバス交通で都市交通ランキング1位となったディジョン、ドイツは、「環境首都」と呼ばれているフライブルクである。内陸地方の寒さがこたえる冬の時期だったが、各都市に3日~4日ずつ滞在して、単身、朝から晩まで街を巡り、これからの日本のまちづくりのヒントを探したのである。
3 12年間の計画担当の経験を踏まえ、「地方版総合戦略の抜本改定から始めよう」との提案
そこで、本書では、これらの三都市での見聞と自分の調べを併せて紹介するものである。そして、本書の結びとして、今後、日本の自治体で取組みを進めるための視点と政策改革の切り口について提案している。筆者の前の職場は企画部企画経営課で、総合計画の策定や改定に 12年間携わり、最後は課長として現行計画の策定を総括した。そこで、自身の経験と反省を踏まえつつ、これからの総合計画や地方版総合戦略の改定のあり方について、「コンパクトシティのまちづくりに向けて地方版総合戦略の抜本改定から始めよう」とのタイトルで、最終節において具体的な問題提起と提案を行っているところである。
それでは「欧州コンパクトシティ見聞の旅」に、どうぞ最後まで、お付き合いいただきたい。