【最新】農業ビジネスについて学ぶためのおすすめ本 – 農業の現在から将来まで

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農業を始めるためには?これからの農業はどうなる?

近年、農業が注目を集め、若い世代を中心に就農希望者が増えており、実際に農業を始める人も増えています。しかし、いざ農業を始めようと思っても何から考えればいいのか、何を準備すればいいのか、補助金はどうなっているのかなど様々な疑問が浮かびます。また、最近は農業にもデジタル化の波が押し寄せており、農業のあり方も変わりつつあります。そこで今回は、これから農業を始めるためのノウハウや農業の将来について学べる本をご紹介します。

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出典:出版社HP

2030年のフード&アグリテック ―農と食の未来を変える世界の先進ビジネス70―

2030年の農業DX時代を展望

デジタルプラットフォームや代替肉などの農と食の新たな技術・製品分野を『フード&アグリティック』と呼び、これは、2030年までに農と食の持続可能な新たなシステムを想像することになるでしょう。本書では、フード&アグリティックを牽引する世界の企業70社を紹介し、2030年までの市場展望と農業経営を俯瞰します。

佐藤 光泰 (著), 石井 佑基 (著), 野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 (編集)
出版社 : 同文舘出版 (2020/4/17)、出典:出版社HP

はじめに

2020年3月2日、米国大手IT企業のグーグル(アルファベット)社の傘下で社会課題の解決に取り組む研究開発組織X(旧グーグルX)社は、ビッグデータと人工知能(AI)を活用した水産養殖管理用のデジタルプラットフォームを開発したことを発表した。これは生管内の高精度カメラや3D画像処理技術を用いて魚1匹ごとの「顔」を認識し、AIが生簀内の魚の数や個々のサイズ、病気の有無などをリアルタイムに判別・記録する個体管理システムである。

X社はこれまで、自動運転技術で世界を席巻しているウェイモ社や“空飛ぶ風力発電として画期的なマカニ社をスピンアウトしており、「Tidal(タイダル)」と名付けられた水産養殖プロジェクトの行方に注目が集まる。

X社で陣頭指揮を執るのは、グーグル社の共同創業者であるセルゲイ・ブリン氏である。同氏は「動物福祉(動物愛護)」や「環境問題」に強い関心を持ち、2013年にオランダ・マーストリヒト大学で開発された世界初の培養肉に研究資金を投下したスポンサーとしても知られている。培養肉は牛の筋幹細胞を採取・培養して製造される代替肉で、「と畜」の必要がなく地球環境に負荷の小さい製品のため、別名“クリーンミート”とも呼ばれている。

培養肉は2022年頃の上市が見込まれるが、昨今、世界中で旋風を巻き起こしている代替食品は、植物由来の原料で製造された植物肉である。植物肉は米国のスタートアップであるビヨンド・ミート社とインポッシブル・フーズ社が2015年以降に市場を創造し、ビーガンやベジタリアンだけでなく、社会課題に高い関心を持つ若いリベラル層を中心とした消費者を取り込んだ。

植物肉が消費者の支持を集めた最大の理由は、テクノロジーの進化による「味」の飛躍的な改善である。両社の植物肉は本物の肉の見た目や味、香り、食感などを分子レベルで解析し、植物性原料のみでそれらを再現することに成功した。これまでの“もどき肉”とは味で一線を画する。

植物肉は一過性のブームで終わる気配はない。米国食肉最大手タイソン・フーズ社のノエル・ホワイトCEOは2019年末に、「2030年に植物肉が食肉市場の半分程度を占めていても不思議ではない」と述べているように、2015年のSDGs(持続可能な開発目標)の採択以降、消費者の嗜好は根本から変わり始めている。「エシカル消費」が表すように、彼らの関心は社会課題の解決であり、言い換えると持続可能な畜産の生産システムの構築である。

筆者はこのようなデジタルプラットフォームや代替肉などの農と食の新たな技術・製品分野を『フード&アグリテック』と呼んでいる。これは「フード(食品)」「アグリ(農業)」に、デジタルやロボットなどの「テクノロジー」を掛け合わせた造語であり、わが国が推し進める「スマート農業」に、一部の食品・流通分野を含めた農と食の新たなソリューション概念である。

フード&アグリテックは、「第三次農業革命」を通じて農業分野の生産性改善や効率・省力化に寄与すると同時に、農と食の産業にデジタルトランスフォーメーション(DX)を促す契機となる。つまり、製品やサービス、生産から流通までの各プロセス、ビジネスモデルなどが変革し、業界の垣根も徐々に取り払われ始める。異業種からの多様なプレーヤーの参入を通じて市場のすそ野の拡大が進む。結果として、2030年までにフード&アグリテックは「農と食の持続可能な新たなエコシステム」を創造することになろう。

本書ではフード&アグリテックを5つのセクターに分類し、第I部では各セクターの市場概要と動向などを俯瞰する。続く第Ⅱ部では、フード&アグリテックを牽引する世界のスタートアップ/企業70社を紹介し、第Ⅲ部では各セクターの2030年までの市場展望とDX時代の農業経営を俯瞰する。

フード&アグリテックが国内外で大きな注目を浴びている中、本書の内容が、農と食の産業に携わる関係者はもちろん、新規ビジネスを検討する異業種企業の皆様にとって、少しでもお役に立てれば幸いである。

最後に、この場を借りて、本書の訪問取材にご協力頂いた国内外の先進企業70社の皆様に心より御礼を申し上げる。また、出版の労をとって頂いた同文館出版株式会社の青柳裕之様と大関温子様に深謝するとともに、本書の出版に関して様々なサポートを受けた弊社の大野敦幸社長と同僚の皆に感謝したい。

2020年3月
野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社
調査部長 主席研究員 佐藤光泰

佐藤 光泰 (著), 石井 佑基 (著), 野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 (編集)
出版社 : 同文舘出版 (2020/4/17)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第Ⅰ部 黎明期を迎えるフード&アグリテック市場

1 フード&アグリテックと第三次農業革命
1. フード&アグリテックが期待される背景
2. フード&アグリテックと第三次農業革命
3. 第三次農業革命に期待される成果

2 フード&アグリテックの市場概要
1. 次世代ファーム
(1) 植物工場
(2) 陸上・先端養殖
2. 農業ロボット
(1) ドローン
(2) 収穫ロボット
(3) ロボットトラクター
3. 生産プラットフォーム
①耕種農業分野
②畜産分野
③水産分野
4. 流通プラットフォーム
①中国
②米国
③欧州
④日本
5. アグリバイオ
(1) 代替タンパク
①植物肉
②培養肉
③植物性ミルク・乳製品
④昆虫タンパク(昆虫食)
(2)ゲノム編集

第II部 フード&アグリテックをリードする世界の先進スタートアップ/企業70社

1. 次世代ファーム
(1)植物工場
スプレッド (京都)
ファームシップ (東京)
本田屋商店 (千葉)
福井和郷 (福井)
成電工業 (群馬)
SANANBIO (中国)
Crop One HD (米国)
AeroFarms (米国)
Bowery Farming (米国)
Freight Farms (米国)
InFarm (ドイツ)
Growing Underground (英国)
Seedo (イスラエル)
(2)陸上・先端養殖
FRDジャパン (埼玉)
SalMar (ノルウェー)
ソウルオブジャパン (東京)

2. 農業ロボット
(1)ドローン
ナイルワークス (東京)
SZ DJI Technology (中国)
XAG (中国)
(2)収穫ロボット
inaho (神奈川)
Abundant Robotics (米国)
Octinion (ベルギー)
Lely HD(オランダ)
Tevel Aerobotics Technologies (イスラエル)
meshek(イスラエル)
(3)ロボットトラクター
クボタ(大阪)
ヤンマーアグリ(大阪)

3. 生産プラットフォーム
オプティム (東京)
スカイマティクス (東京)
ベジタリア (東京)
富士通 (東京)
ファームノート (北海道)
Farmer’s Business Network (KE)
The Climate Corporation (米国)
GRUPO HISPATEC (スペイン)
Priva (オランダ)
Connecterra (オランダ)
Nofence (ノルウェー)
Aimilk (イスラエル)
A.A.A Taranis (イスラエル)

4. 流通プラットフォーム
ポケットマルシェ (岩手)
マイファーム (京都)
羽田市場 (東京)
Meicai (中国)
Songxiaocai (中国)
Shenzhen Agricultural Products (中国)
Shanghai Hema Network Technology (中国)
Aggrigator (米国)
Pan European Fish Auctions (オランダ)
SEMMARIS (フランス)

5. アグリバイオ
(1)代替タンパク
インテグリカルチャー (東京)
BugMo (京都)
タベルモ (神奈川)
ムスカ (東京)
愛南リベラシオ (愛媛)
Gryllus (徳島)
エリー (東京)
Beyond Meat (米国)
Kite Hill (米国)
Memphis Meats (米国)
Finless Foods (米国)
Calysta (米国)
Mosa Meat (オランダ)
Nova Meat (スペイン)
Hargol FoodTech (イスラエル)
(2)ゲノム編集
エディットフォース (福岡)
プラチナバイオ (広島)
Calyxt (米国)
Ginkgo Bioworks (米国)
Inari Agriculture (米国)

第Ⅲ部 フード&アグリテックが促す農と食のデジタルトランスフォーメーション(DX)

1 フード&アグリテックの市場展望
1. 次世代ファーム
(1) 植物工場
(2) 陸上・先端養殖
2. 農業ロボット
(1) ドローン
(2) 収穫ロボット
(3) ロボットトラクター
3. 生産プラットフォーム
4. 流通プラットフォーム
5. アグリバイオ
(1) 代替タンパク
①植物肉
②培養肉
③植物性ミルク・乳製品
④植物卵(卵液)
⑤植物性・培養シーフード
⑥昆虫タンパク(昆虫食)
⑦その他食用タンパク(藻類など)
⑧代替飼料(代替魚粉など)
(2)ゲノム編集

2 フード&アグリテックと2030年の日本農業
1. フード&アグリテックを推進するコアテクノロジー
2. フード&アグリテックが創出する農と食の新市場
3. フード&アグリテックとデジタルトランスフォーメーション
4. デジタルトランスフォーメーション時代の農業経営

佐藤 光泰 (著), 石井 佑基 (著), 野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 (編集)
出版社 : 同文舘出版 (2020/4/17)、出典:出版社HP

農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)

農業の新時代の働き方

日本の農業というと、衰退産業の代名詞とされてきました。しかし、この常識は覆りつつあります。本書は、独自のアイデアと先端技術で希少かつ高品質の商品、サービスを生み出す変革者たち、時代を先取る生き方、働き方について紹介していきます。

川内 イオ (著)
出版社 : 文藝春秋 (2019/10/18)、出典:出版社HP

はじめに

「僕は農業って最高だと思ってますよ」
2018年5月、「NewsPicks」という経済メディアの取材で、杉山ナッツのオーナー、杉山孝尚を訪ねた。その時、彼がなにげなく言ったこの言葉が、日本全国、新時代の農業を担う人々を巡る旅のきっかけとなった。
詳しくは第一章で述べるが、杉山は、世界4大会計事務所のひとつ、KPMGのニューヨークオフィスで働くエリートだった。しかし、あることがきっかけで30歳の時、故郷の浜松に戻って落花生の在来種「遠州小落花」の栽培を始めた。それまで農業に縁がなかった彼が頼ったのは、書籍とグーグルとYouTubeだった。まったくの独学で、無農薬、無化学肥料で落花生を育て、加工し、それをひと瓶1000円以上するピーナッツバター「杉山ナッツ」として売り始めたのが2015年。それから4年たったいま、2万個を生産し、すべてを売り切るまでに成長させた。
栽培方法から加工、営業、販売まで、杉山の話はアイデアと工夫のオンパレードで、話を聞きながら、何度、驚きの声を上げたかわからない。杉山の取り組みはビジネスとしても高く評価され、磐田信用金庫が主催したビジネスコンテストで優勝している。ビジネス全般を対象としたこのコンテストで、農家が優勝したのは初めてだったそうだ。杉山は優勝賞金を使って、早稲田大学のビジネススクールで経営を学んだ。
従来の「農薬」の常識にとらわれない杉山は、農業経験のないスタッフからの提案もどんどん取り入れる。最高のピーナッツバターをつくり上げるための試行錯誤、その過程や変化が楽しくて仕方がないという。だから、「農業は最高」なのだ。

「5K」に当てはまらない?

あらかじめいうと、僕は農業の門外漢である。普段は「稀人ハンター」という肩書で、ジャンルを問わず、「規格外の稀な人」を追いかけて、取材やイベントをしている。僕の大事な仕事のひとつが「稀な人を発掘すること」で、ある時、「浜松に面白い人がいる」という情報を得て、杉山に会いに行ったのだ。
正直に告白すれば、杉山と出会うまで、仕事のジャンルとしての「農業」に、いいイメージがなかった。農業に詳しくなくても、高齢化と後継者不足で耕作放棄地が増えていることや、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に代表される輸入自由化で安い海外産品が入ってきて、日本の生産者が逆風に晒されていることは知っていた。台風や大雨、日照りなどの天候に左右され、長い休みも取れないハードな仕事でありながら、それに見合う稼ぎや充足感が得られているのかも疑問だった。もしやりがいのある仕事なら、後を継ぎたい人が列をなしているはずだ。
こういったマイナスイメージがきれいさっぱり払拭されたわけではないが、杉山の話を聞いて、「あれ、なんだか農業って楽しそうだな」と思ったのは事実。同時に、仕事として、ビジネスとしてのポテンシャルも感じた。少し調べてもらえれば出てくることだが、近年、農業はきつい、汚い、危険の3Kに、稼げない、結婚できない、を加えた「5K」の職業と言われている。しかし、少なくとも杉山は「5K」に当てはまらないように思える。むしろ、彼の働き方や生き方を見れば、憧れたり、うらやましく思う人も少なくないのではないか?(僕もそのひとりだ)
はた目には、閉塞感に満ちているように感じる農業の分野にも、杉山のように独自の発想や取り組みで風穴を開けている人物がいるのかもしれない。農業のイメージを変えるその姿は、いまの仕事や暮らしがしっくりこない人にとって、なにか刺激やヒントになるかもしれない。にわかに農業への関心が高まった僕は、各地を訪ね歩いた。杉山を含めた農業界を革新する10人が登場する本書は、その記録だ。

危機的な綱渡り

本編に入る前に、日本の農業の現状について記したい。農業は日本の食卓を支える重要な役割を担っているのに、現状がどうなっていて、なにが課題で、どんな動きがあるのか、農業関係者以外で詳しい人はそう多くないだろう。調べてみて、驚いた。一言でいうと、危機的だ。
農業就業人口は2000年の389万1000人から18年には175万3000人と半減。このうち65歳以上の高齢者が120万人で、平均年齢も2000年の61.1歳から、18年には66.8歳に上昇している。企業人なら定年退職して、のんびり暮らしているような世代の人たちが、日本の農業界の主力選手として暑い日も、寒い日も、雨の日も、風の日も、農作業に勤しんでいるのだ。
稼ぎも、少ない。15年のデータだが、家族経営の農家における1時間当たりの所得、簡単にいうと、時給はたったの722円。ちなみに、19年の時点で農業経営体数は118万8800、そのうち家族経営は115万2800にのぼる。19年8月、企業が支払う最低賃金の改定額が答申されたが、最も金額が低かった鹿児島など15県が提示した金額は790円。97%弱の家族経営の農業生産者が、最低賃金以下の時給で働いているのだ。生産者の所得も、どんどん低くなっている。95年に891万7000円だった農家総所得(農業収入と農業外収入を足したもの)は、17年に526万円になっている。これはひとり当たりの金額ではなく、「一経営体」の所得である。

もう少し詳しく見てみよう。農業全体の産出額のピークだった1990年(11.5兆円)と17年(9兆2742億円)の内訳を見ると、畜産だけは3.1兆円から3.3兆円に増加している。顕著に減少しているのは米、野菜、果実。90年の6.8兆円から、17年には5兆円に落ち込んでいる。
当然ながら農作物の作付面積や生産も減少の一途をたどっているが、より深刻なのは90年からほぼ倍増した耕作放棄地。その面積は42万3000ヘクタール(15年のデータ)にのぼり、滋賀県の面積と匹敵する。
過酷な労働、明らかな低収入のまま働き続けてきた生産者が高齢になり、疲弊。その姿を見てきた息子、娘はバトンを受け取らない。どうしようもないから、農地を放置する。当然のように、生産高も落ちる。その結果、18年度の日本の食料自給率は37%(カロリーベースによる試算)で、過去最低を記録した。これがいま、日本全国で起きていることだ。

国も、手をこまねいていたわけではない。農業者の経営環境整備や農業の構造的問題解決を目指して、改正農地法(09年、16年)や農業競争力強化支援法(17年)などが施行された。これによって硬直している農業を効率化し、生産性を高めようというもので、規制緩和を含む既存のシステムの再編、農業の大規模化や企業参入が行われた。しかし、活性化の起爆剤になるような効果は出ていない。
企業参入については09年に実施された農地のリース方式による参入の全面自由化によって、それ以前より5倍のペースで企業の参入が増加し、17年末の時点で3030法人となっている。しかし、農業は栽培を始めてから収穫まで時間がかかる上に、天候など不確定要素が多いため、企業の論理やノウハウだけで順調に売り上げを伸ばせるものではない。
例えば、LEDなどを使った「人工光型植物工場」は、09年に農林水産省と経済産業省が150億円の補助金をつけたのをきっかけに異業種からの参入が相次ぎ、11年の64カ所から7年で183カ所にまで伸びた。しかし、日本施設園芸協会の調査では、このうち黒字化しているのはわずか17%。人件費や光熱水費がネックになっているとみられ、撤退する企業も少なくない。露地栽培も同様で、農業に参入した企業のうち黒字化している企業は少ないと予想される。
大規模化については、農地の集積、集約化を目指して2014年、各都道府県に農地の中間的受皿である農地中間管理機構が整備され、機構が借り入れ、転貸しする事業が行われている。初年度の2.4万ヘクタールから2018年度には累計22.2万ヘクタールにまで伸ばしており、一定の成果を上げているが、北海道を別にすると、そもそも日本は中山間地域が農地面積や農業生産額の4割を占めており、アメリカ式の大規模化と農作業の効率化が難しいと言われる。2019年7月に農林水産省が公表したデータでは、10ヘクタール以上、20ヘクタール以上、30ヘクタール以上の耕地を持つ大規模経営体の耕地面積がそれぞれ前年比で減少しており、こちらも陰りが見える。
この状況で、18年12月30日、アメリカを除いた11カ国による環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、19年2月にはEUとの経済連携協定(EPA)が発効した。TPPでは、農林水産物の関税が段階的に撤廃、削減され、関税ゼロになる品目は農林水産物の82%、およそ2100に達する。EPAも同様で、将来的に農林水産物の82%の関税撤廃、チーズ、豚肉など重要品目の関税も削減された。
TPPとEPAは、日本の農産物を輸出しやすくなるメリットがある。しかしここまでに記した日本の農業の現状を見ると、輸出によって活性化するよりも、輸入によってさらなる価格競争に晒され、なんとか踏ん張っていた高齢の生産者に致命的なダメージが広がる可能性の方が高いように思える。

未来の種は蒔かれている

日本の農業は、このまま衰退してしまうのか。凋落に歯止めをかけることはできないのか。そのカギを握るのは、杉山ナッツの杉山のような、従来の農業の常識に縛られない斬新な発想ではないだろうか?前述したように、ノックアウト寸前に見える農業界を鼓舞したいという僕の想いを込めて、本書では、これまでにない取り組みによって農業界に新風を吹き込んでいる10人を取り上げる。どんな人たちなのか、一部を紹介しよう。

「日本の農業はポテンシャルの宝庫ですよ」とほほ笑むのは、一般企業を経て梨園に就職し、500に及ぶカイゼンの結果、直売率99%を達成した東大卒のマネージャー。

「日本の農家はまじめで世界で一番ぐらいの技術を持っています」と太鼓判を押したのは、度胸と知識と語学力を武器に、世界中の珍しいハーブを仕入れ、日本の名だたるレストランと契約しているハーブハンター。

「誰もやらないなら、僕らでやろうと思ったんですよね」と言ったのは、5500人の生産者と7500軒のレストランをつなぐ物流システムを築いた元金融マン。

「世界の人口が100億を超えても大丈夫な基の作物ができるんよ」と自信を見せるのは、独自に編み出した手法で「日本初の国産バナナ」をつくった男。

ひとりひとりの経営規模や売り上げは、まだ小さいかもしれない。しかし、彼らの大胆な動きと斬新なアイデア、前代未聞の結果は、暗雲垂れ込めている農業界で、ひときわ眩しい。彼らはみな、日本の農業を悲観していない。むしろ、これからもっと面白くなる、俺たちがその火種になってみせようと意気込んでいる。彼らの発想や取り組みは、危機感を抱く農業関係者だけでなく、ビジネスパーソンにとっても刺激とヒントになるはずだ。
彼らの生き方にも、注目してほしい。僕は仕事柄たくさんの起業家やビジネスパーソンに会ってきたが、この本に登場する10人には、目の前の利益を必死で追い、上場を目指して邁進するベンチャー企業のシャープな雰囲気とは違う、ドンと構えるスケールの大きさと温かさを感じた。それはきっと、お天道様のご機嫌次第でいろいろなことが左右される特殊な仕事に携わっているからで、些細なことには動じなくなっているのだろう。
僕は彼らと出会って、日本の農業に希望を見出すようになった。どう考えてもお先真っ暗だと思っていたけど、いま、日本の農業に明るい未来はあるか?と問われれば、こう答える。その種は、蒔かれている、と。

川内 イオ (著)
出版社 : 文藝春秋 (2019/10/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第一章 イノベーターたちの登場
「世界一」の落花生で作る究極のピーナッツバター
大手百貨店からニューヨークまで/4大会計事務所の正社員に/「ENSHU」の衝撃/耕作放棄地で発見/世界で一番良いビーナッツを作ろう/「常識を上回るため」の実験/子育てと仕事のローテーション
4年で500以上のカイゼン 東大卒「畑に入らないマネージャー」
客足が絶えない梨園/外資系メーカーから梨園へ/見渡す限り課題だらけ/梨の木にIDを振る/カイゼンの実例をオンラインで無料公開
世界のスターシェフを魅了するハーブ農園
一流料理人たちが訪問/父親との欧州レストランめぐり/カナダの園芸学校でクラス最下位に/「香り? いらねえよそんなもん」/最初の顧客が三ッ星に/世界が欲しがるものを作る

第二章 生産・流通のシフトチェンジ
世界が注目する京都のレタス工場
世界最大規模の植物工場プラント/昔ながらの市場構造への疑問/始まりはマンションの一室から/世界初の自動化ブラント
農業界に新しいインフラを! 元金融マンが始める物流革命
生産者の視点を欠く”古い流通”/投資ファンドから祖母の畑へ/「面倒くさいビジネス」だからやろう/廃棄率は1%以下/新しい農業のインフラを目指す
化粧品、卵、アロマ……休耕田から広がるエコシステム
飼料用米から国産エタノール/バイオ燃料のブームに乗って/ドイツ証券を辞めて東農大を受験/「未利用資源オタク」のアイデア/ヒマワリ、農家民宿……予想を超えた広がり/小さな経済圏をたくさんつくる

第三章 常識を超えるスーパー技術
ITのパイオニアが挑む「植物科学×テクノロジー」
スマート農業元年/IT業界の黎明期を牽引した男の転身/「経験」「勘」「匠の技」からの脱却/農業の「見える化」でできること/日本農業の知的産業化
スーパー堆肥が農業を変える
ダニをもってダニを制す/有用菌に着目/悪臭0%の堆肥が秘めるパワー/宣伝なし口コミだけで農家に広がる
毎年完売! 100グラム1万円の茶葉
標高800メートルの「秘境」/「東頭」誕生のきっかけ/「シングルオリジン」の先駆者/徹底して「質」を追求/すべては最高の茶葉のために/佳輝が茶農家を継いだ理由/低迷する日本茶市場のなかで気を吐く
岡山の鬼才が生んだ奇跡の国産バナナ
岡山に南国の果樹が/ボルネオ島でもらったヒント/驚異的な変化/バナナだけで50億円/廃校を農業学校に、永久凍土を農地に

おわりに

川内 イオ (著)
出版社 : 文藝春秋 (2019/10/18)、出典:出版社HP

マッキンゼーが読み解く食と農の未来

改めて農業をグローバルの視点から捉える

グローバルと他産業の視点なしでは、日本農業の未来戦略はたてられません。本書は、世界的なコンサルティング企業マッキンゼーが全世界での知見を生かして示す農業改革のためのものです。食と農のグローバル・メガトレンドを8つのポイントで整理し、それぞれが日本農業にどのような影響を及ぼすのかを解説します。

アンドレ・アンドニアン (著), 川西 剛史 (著), 山田 唯人 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/8/22)、出典:出版社HP

序に代えて

世界の農業が大きく変わりつつあります。しかしながら、日本国内の農業に関する論調の多くは、国内の農業組織への批判や、既存の農業のやり方、国内企業への批評といった「内向きの議論」に費やされているように見えます。本書は、そうした内向きの枠を飛び越えて、日本農業をマッキンゼーならではの二つの視点から捉え、そこから進むべき将来像および今後期待されるビジネス領域について展望したものです。
二つの視点とは、マッキンゼーがこれまで世界的規模で多数の農業・食料ビジネスに携わってきたことから得られた「グローバルの視点」と、製造業、金融業(銀行・保険)、小売業等の幅広い業界でコンサルティングに携わってきた経験にもとづく「他業界の視点」です。
まず「グローバルの視点」の例として、近年議論が活発になっているサステナビリティを取り上げましょう。
パリ協定のIPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)によると、海面上昇等の長期的なリスクを低減するためには、気温上昇を一・五℃にとどめることが重要と提言されています。農業分野においてこの気温上昇基準を満たすためには、図表1に挙げるように、いくつかアプローチがあります。

大きく分けると、①生産者側の温室効果ガス排出抑制、②需要側の変化(フードロス低減など)、③農地の用途変更(LULUCF:Land Use, Land-Use Change and Forestryと呼ばれます)、④新技術の開発の四つです。
①生産者側で温室効果ガス排出を抑制する手法としては、乾田直播栽培や施肥量およびタイミングの改善、農業機械の燃費改善等、②需要側ではフードロスの低減や牛肉から鶏・豚および代替品タンパク質へのシフト、③農地の用途変更では植林や森林再生、④新技術においてはゲノム編集による植物体への炭素蓄積量の向上といった打ち手が挙げられます。

ここで興味深いのは、IPCCの一・五℃のシナリオ(気候変動による地球の温暖化を一・五℃未満に留める)を実現するためには、生産側のみならず、②に挙げられている、動物性タンパク質の少ない食生活への切り替えなどと需要側の努力も大いに必要となることです。①については、現在考えられる、ありとあらゆる先端技術を考慮し、温室効果ガスの抑制に効果のある手法を入れています。それでも目標には届きません。さらに②についてもかなり大がかりなことを言っています。生産地(畑)から流通に回るまでのフードロスおよび飲食店におけるフードロス(食べられずに捨てられてしまう食料)の半減(50%)、加えて、牛肉から鶏・豚および大豆タンパク質等への切り替えを半分(50%)行う。我々の目指すサステナブルな世界は、こういった生産側・消費側の大きな努力を必要とします。
日本にいると気づきにくいのですが、米国や欧州におけるサステナビリティの議論の高まりや昨今のMeat 2.0の高まりや、ビーフパティを大豆等に由来するプロテインで置き換えたインポッシブルバーガーへの議論が起こっていることも、その流れのなかでのことと言えます(第Ⅰ部第4章で詳述)。
さらに、これらの施策を進めるコストを見てみると(図表3)、①の生産者側で実現可能な施策のなかには、まだまだコスト高なものがあることがわかります(横軸に各打ち手の温室効果ガス低減ポテンシャル、縦軸に各打ち手のコストを表している)。

左から右に各施策のコストを並べてみると、グラフの右側に現れる点滴灌漑(drip irrigation:地面にチューブから少しずつ水や養液を点滴し、水や肥料の使用量を最小限にする方法)へのシフトや肥料の改良、家畜飼料の最適化といった施策はまだまだコスト高であり、実現には今後のブレイクスルーが待たれます。
そのため、この①の生産者側の取り組みだけでなく、②需要側の変化、③農地の用途変更、④新技術の開発といった部分にも注力し、気候変動の目標を達成する取り組みを進めていく必要があるのです。今、海外では、こういった農業セクターにおける温室効果ガスの排出についておおいに議論や投資が進んでいます。
グローバルの視点から、食と農に真剣に取り組まなければならない理由はこれだけではありません。
それは農業が、ビジネスという考え方のみならず、世界がサステナブルに生きていくための「必要条件」だからです。
いまだに、農業を生産者だけのなりわい(生業)と誤解している人たちがいます。しかしながら、これは生産者だけの問題ではなく、その農作物を食べる、全世界のすべての人間の問題となっているのです。
例えば、世界的に見て、農業への気候リスクは、すでにさまざまな形で顕在化しています。二〇一九年の米国アイオワ州における穀物エレベーター(共同利用施設)の洪水被害が典型例です。被害総額は一七億~三四億円と推定されています。また、二〇一八年に起きたアルゼンチンのトウモロコシ畑の干ばつにより六〇〇億円以上の被害が発生しています。
グローバルベースで見ると、農作物の生産地域が集中し、特定の穀物への依存が進むなか、フードシステムのショックに対する脆弱性は高まっています。世界の穀倉地帯における同時不作(具体的には、世界における四大穀物〈コメ、麦、トウモロコシ、大豆〉の生産地帯における、二カ所以上の同時不作を意味する)のリスクも上昇しています。
気温の上昇、降雨パターンの変化、干ばつ、熱波、洪水等の自然災害のいずれも、農作物の生産量に大きな影響を及ぼします。こうした気候変動の結果、世界の穀倉地帯における同時不作の発生確率は、今後、さらに高まることが見込まれます。
さらに、こうした自然災害の発生確率や深刻度もまた、今後高まることが予想されます。今後一〇年以内に一〇%の生産量減少が六九%の確率で発生する(つまり、ほぼ二年に一回は発生するという高い確率)と見込まれています。
一〇%の生産量減少では、世界における穀物ストックが一年以内に底をつく確率も低いでしょう。しかしながら、過去においては、生産量の減少が、食品価格の高騰の引き金となった例もあるため、予断は許されません。このことから最も大きな打撃を受けるのは、国際貧困ライン(一日一・九ドル)を下回る所得で生活する七億六九〇〇万人の人々です。一部の研究者によると、穀物価格が一〇%増加すると、短期的に世界の貧困層が一三%増加すると見込まれます。
もちろん日本国内にいても、食料供給は常に保障されたものではなく、前記の気候変動の例を見ても、決して他人事ではないのです。今こそ、改めて農業をグローバルの視点から捉えるべきです。ここに本書の意義があると考えています。

もう一つ、「グローバルの視点」から農業・食料ビジネスを捉えるべきという例を示しましょう。
我々が本書を執筆している二〇二〇年八月現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界的なパンデミックが起こり、収束の見込みが立っていません。
COVID-19の感染拡大後も、農作物の需要は安定的であるため、一般に農業は影響を受けにくいと考えられがちです。被害は、一部の品目(フードサービス、レストラン向け食材、高価な野菜、果物、花卉、水産物、畜産物等)に集中しています。
しかしながら、長期的に見ると、消費者の購買行動が変わったり、石油価格の低下がトウモロコシの市況(バイオエタノール)に影響を与えたり、肥料等の農業資材や農作物が運べなかったり(サプライチェーンの影響)と、今後のリスクや不確実性は高いと言えます(図表4)。

農業バリューチェーンで見た場合には、人手不足やサプライチェーンの途絶は、生産、流通等の広い領域において影響を及ぼします(図表5)。例えば、肥料の調達や、農業機械の部品調達において、物流機能が低下すれば農作物が作れなくなったり、収穫できなくなったりするため、生産量の低下に影響するというリスクがあります。現在のところ、日本の稲作に目を向けると、二〇二〇年五月時点で、田植えの進捗に大きな遅れはなく、ほぼ平年なみのスピードで進んだと言われています(「日本農業新聞」五月二六日付)。今後、心配なのが収穫時期(今秋)とコロナ第二波が重ならないかということです。もし、重なると、稲刈りの人手だけでなく、農業機械の部品や修理がタイムリーに供給されないことによる、効率性の低下が懸念されます。

グローバルで農作物のカテゴリーごとに見て需要側への影響が大きいのが、トウモロコシや乳製品等です(図表6)。前者は石油価格に左右されたり、後者は需要予測がより困難になったりします(家での食事が増加することに伴い、どのような商品が、同じ商品でもどのような価格帯が、どのチャネルで必要になるかが変化)。高付加価値野菜や果物、花卉、牛肉、水産物で被害が大きくなっているのは主にフードサービス(レストラン等)で消費され、今回コロナ問題をうけて、フードサービスが営業を休止したためです。

これらの現象は、農業をより広い、グローバルの視線で捉える必要性を示す、ほんの一例にすぎません。その他にも世界の農業ではさまざまなアプローチが試みられています。
このようなグローバル視点での議論を踏まえて、日本農業の進むべき道を見つめ直すことが重要と考え、日本農業の持つ課題とその解決策を本書で提示していこうと思います。
本書は、まず序章で、グローバルおよび他業界の視点から農業についての八つのトレンドを概観し、第Ⅰ部の第1~8章でそれぞれを詳しく見ていきます。
その後、第Ⅱ部の第9章では短期的な農業生産性の向上に必要な発想を示し、続く第10章で、長期的な農業の課題を見据えた、将来のあるべき理想像を提示します。そして、理想と現状のギャップを埋めるということから生まれるビジネスの機会についても論じます。
この論は、農業関係者はもとより、製造業・金融業・メディアといった、従来、農業と縁遠かった業界の方々にとっても示唆に富むものと自負しています。

ここで本書の要諦をなす、第Ⅱ部第10章に提示する結論を先に述べてしまいましょう。
我々は、日本農業が将来抱える長期的な課題を予見した上で、それらの課題を乗り越え、さらなる発展を遂げるためには、「新たな農業バリューチェーンの構築」こそ理想の姿であると考えます。
この理想にたどり着くためには、冒頭で述べた「内向きの議論」をいったん置いて、現在の日本農業のバリューチェーンを、その周辺業種も含めて、俯瞰的に見る必要があります。ここで重要となるのが「他業界の視点」です。農業の「常識」にとらわれない大胆な発想でバリューチェーンを構築することが必要なのです。
具体的に言えば、生産、加工、物流、販売といった農業バリューチェーンを形成する企業は、現状ではそれぞれのステップごとに別業種で、各ステップの間には「業界の壁」が存在しています。この壁が将来的には、多様化する消費者ニーズへの対応や、それぞれのステップにおける課題解決・成長のネックになっていくと考えられます。
さらには、そもそも第一次産業である農業は、金融業や保険業、製造業、テレコムといった、第二次・第三次産業とは縁遠い業界といった感が否めませんでしたが、農業ビジネスの将来は大きく広がっているという現実があります。
農業ビジネスの未来を切り開き、理想像に近づけるためにも、この「業界の壁」を取り払う必要があります。そしてバリューチェーン上のプレイヤーと、バリューチェーン外にいたプレイヤーたちを有機的に協働させることが重要となります。これがコネクテッドされた食料供給システムなのです。
もう一つ重要な役目を果たすものがあります。協働を最適化するために必要な、パリューチェーンの各プレイヤーに指示を与える「オーケストレーター」(指揮者)です。
こうして整えられた新たなフード・バリューチェーンにおける、オーケストレーターの役割を担うのは、必ずしも農業従事者である必要はありません。農業以外の製造業、金融・保険、メディア、物流といった他の業種からの適任者を得て、新たな農業ビジネスの展開も可能になると考えます。
我々の提案によって、これまで農業への興味・関心がなかった多くのビジネスパーソン、および消費者の方々の間で議論が沸き上がり、日本農業のさらなる発展につながれば幸いです。

本書は、パートナーの山田唯人、アソシエイト・パートナーの川西剛史が代表となって執筆を進めました。多忙な業務のなか、情報収集や執筆をしてくれたグローバル各支社の同僚コンサルタントの皆さん、また取りまとめてくれた広報・コミュニケーションチームに深く感謝します。

二〇二〇年八月

マッキンゼー日本支社長 アンドレ・アンドニアン

アンドレ・アンドニアン (著), 川西 剛史 (著), 山田 唯人 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/8/22)、出典:出版社HP

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 目次

序章 日本農業を取り巻く環境変化を読み解く

第I部 食と農を変える八つのメガトレンド
第1章 農業を取り巻くマクロエコノミクスの変化
世界的な人口の増加が需要を押し上げる
コラム ピークミート——個人消費量で見るとピークになっている国・地域もある
コラム 人口急増国インドは、どの程度、食肉需要増に食い込んでくるのか
局地的に需要が伸びる魅力的なマーケットが出現
条件次第で目まぐるしく変わる世界の輸出入国
地球温暖化で名乗りを上げる新輸出国
コラム コストカーブが表す需要と供給の原理
地球温暖化がもたらす影響
コラム 気候リスクの経済的インパクト
農業が引き起こす土地の荒廃と水資源の枯渇

第2章 農業の未来を変える技術革新
農業の方法を根本から覆すアグテック
時間と労力を低減するドローン
コラム リモート技術で世界に先駆けた日本企業
進化を遂げたトラクターの自動運転技術
自動運転に残る課題
牧牛管理にもGPSを活用
人手に代わるロボティクス
AIのサポートによる栽培環境の最適化
アグテックがより受け入れられるための条件
ゲノム編集という画期的技術
ゲノム編集技術により広がる農業の可能性
今後に期待――環境に優しいバイオ製剤
バイオ農薬の未来と課題

第3章 政策・規制の変化が農業に及ぼす影響
中国のトウモロコシ輸入と補助金政策
世界に多大な影響を及ぼす中国の政策転換
補助金や関税政策が市場のダイナミクスを変える
ちょっとした変化が輸出競争力に影響
自国主義は業界全体の利益をも損なう
食料安全保障に対する戦略が必要
ゲノム編集とカルタヘナ法
日本でもゲノム編集作物の実用化が期待される
持続可能な社会へ向けて必要となる消費者の努力

第4章 食習慣・食生活の変化
先進国だけでなく、一部の新興国もカロリーを過剰摂取している
健康意識の高まりから注目される大豆加工製品
米国に見られる食生活の変化
健康意識が砂糖の輸出入にも大きく影響
大豆加工食品が肉に替わる日
代替タンパク質の登場とMeat2.0
培養肉「クリーンミート」の未来
深刻さを増す世界的なフードロス

第5章 農業ビジネスをリードする上流プレイヤー
農業ビジネスに超巨大企業誕生
広がりを見せるジェネリック農薬
肥料資源産出国の現状
世界に見る窒素肥料の動き
鉱山を持つ国が主導——リン酸・カリウム

第6章 世界に訪れる消費者ニーズの変化
調理に時間をかけたくない日本人
海外での日本の農産物の評価
食事の「体験」に価値を見出す時代
チョコレートとストーリー性の付加価値
食料品を扱うeコマースの登場
躍進する米国の食品配達会社
「農場から食卓へ」安心・安全を届ける

第7章 代替品・代替手法の登場
広い土地、自然の土という常識を覆す
課題解決なるか、日本の植物工場
都市の農場——栽培用コンテナ
クラウドファンディングで資金調達

第8章 新規参入プレイヤーの台頭
新規参入企業と投資金額の記録的な増加
日本でも多数の企業が参画
農業の「当たり前」と企業の「当たり前」
世界のアグテック企業を支えるエコシステム
アグテック・エコシステムの具体例

第Ⅱ部 日本の食と農の未来

第9章 日本農業に期待される新たな挑戦
収穫時期から逆算した栽培計画の策定
栽培計画をテクノロジーで見える化
生産者には難しい「良好な」土地の確保
マッチングが重要な労働力の確保
栽培に必要な農業資材の強化
資材価格の見える化
栽培方法のペストプラクティスを求めて
テクノロジーの導入に必須となるベストプラクティスの明文化
栽培におけるテクノロジーと生産者の共存
物流網の整備と新しいビジネス
生座者と消費者をつなぐ双方向情報システムの必要性
国家戦略としての農作物貿易
玉石混淆のアグテック

第10章 日本農業のポテンシャルを最大に発揮するために
多様化する消費者ニーズに対応するために
農業バリューチェーンの壁を取り払う
コラム オーケストレートは日本の得意領域(商社の役割)
サブスクリプションという食体験へのサービス
メディアと連携して需要を生み出す
コラム いくらでもある顧客体験——生産者のカスタマー・エクスペリエンス・ジャーニー
農業にビジネスチャンスを狙う新規プレイヤー

あとがきに代えて
参考文献

装幀 竹内雄二

アンドレ・アンドニアン (著), 川西 剛史 (著), 山田 唯人 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2020/8/22)、出典:出版社HP

農業のマーケティング教科書 食と農のおいしいつなぎかた

「食」と「農」をつなぐ

農業は人々の幸せを支えている産業です。しかし今日、「売れない」「儲からない」「うまくいかない」と悩む農業者が少なくありません。どうすれば農業者がもっと元気になり、どうすれば農業が活性化するのでしょうか。そのためのキーワードは「マーケティング」です。本書では、うまくいっている農家は何が違うのか、生活者は何を求めているのかなど、全国調査から見えてきた「食」と「農」をつなぐ道を紹介しています。

岩崎 邦彦 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/11/3)、出典:出版社HP

はじめに

高品質なモノはたくさんある

日本は、高品質の農産物とおいしい食があふれるすばらしい国だ。豊富な山の幸、野の幸、海の幸が存在し、農業の技術レベルも高い。全国各地で生産者に聞いてみると、多くの人がこう答える。

「味では負けない」
「品質には自信がある」
「技術では負けない」

しかし、その後に決まって続くのは、次のような言葉だ。

「だけど、売れない」
「だけど、儲からない」
「だけど、うまくいかない」

味、品質、技術で負けていないのに、なぜ、うまくいかないのだろうか。

消費者は「食べるモノ」でなく「食べるコト」を買う

あなたは、次の文の空欄にいくらと入れるだろうか。
●トマトの購入に1回あたり、(  )円まで払うことができる。
●茶葉の購入に1回あたり、(  )円まで払うことができる。
実際に、全国2000人の消費者に金額を入れてもらった。それぞれの平均値は、 次のとおりだ。

「トマト」 329円 、「茶葉」 848円

では、次はどうだろうか。
●おいしさの感動に (  )円まで払うことができる。
●リラックスしたひと時に (  )円まで払うことができる。
消費者2000人が答えた金額の平均値は、以下の通りだ。

「おいしさの感動」 5292円、「リラックスしたひと時」3943円

価格は「価値」のバロメーターである。前記の消費者の支払許容額は、消費者が感じる 「価値」の高さを示しているとみていいだろう。「おいしさの感動」は「トマト」の3倍。「リラックスしたひと時」は「茶葉」の約5倍だ。そう、消費者は、トマトという「農産物」を買うのではなく、「おいしさ」を買っている。 消費者は、「茶葉」が欲しいのではなく、お茶を飲んで「リラックスしたい」のである。消費者の関心は、農産物そのものではなく、その商品が自分にとって、どのような価値 があるのかだ。だから、単にトマトを売り込もうとしても、うまくいかない。単に茶葉を 売り込もうとしてもうまくいかない。

売り込まれて、買いたくなる人はいない

「農産物を売り込もう!」
「地域産品を売り込もう!」

全国各地でこういったキャンペーンをよく見かける。 しかし、考えてほしい。売り込まれて買いたくなる人はどれほどいるだろうか。 「売り込もう」の発想では、消費者の買いたい気持ちは喚起しにくいし、財布のひもは緩まない。「売ろう」と思えば思うほど、逆に顧客の財布のひもはかたくなる。押されれば押されるほど、人は感情的に引いてしまうものだ。誰かが自分を説得しよう としていると感じると、人は無意識に身構えてしまう。 発想を変えてみよう。21世紀の農業で大切なのは、売り込みという「押す力」ではない。消費者をひきつける 「引く力」(引力)だ。

「食」と「農」をつなごう

農産物の品質を決めるのは、作る人ではなく「食べる人」である。おいしさが生まれるのは、農場でもなく、売り場でもなく、「生活の場」だ。単に農産物を生産するだけの農業は、すでに終焉しているのかもしれない。時代とともに農業の概念も進化していく。1世紀の農業は、農産物を作って終わりではなく、作ったものを売り込むことでもない。農産物の引力を高め、消費者をひきつけ、「食」と「農」をつなぐことである。

では、どうすれば「引力のある農産物」をつくることができるのだろうか。どうすれば、効果的に食と農をつなぐことができるのか。これが本書のメインテーマである。キーワードは「マーケティング」だ。 さあ、ここからは、食と農の“おいしい。つなぎ方を考えていくことにしよう!

岩崎 邦彦 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/11/3)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 農業を再定義しよう
「農」と「食」が強い国の共通点
「おいしい」が意味すること
「農」と「食」と「幸せ」の関係

第2章 農業にマーケティング発想を
マーケティングとは何か
「食べるもの」の日がなぜ普及しないのか
「食べるモノ」から「食べるコト」へ
マーケティングへの関心の高まり
「販売」と「マーケティング」は違う
消費者目線になっているか?
顧客と同じ方向を向こう ?
言うは易く、行うは難し

・「生産者目線」を強制的に「消費者目線」に変える方法
1「売る」という言葉を禁句にし、「買う」と言い換える
2「何」ではなく、「なぜ」で発想する
3「食べるモノ」ではなく「食べるコト」をイメージする
4「農産物をつくる」ではなく、「顧客をつくる」と考える
5 小売店に行って、自分が生産した農産物を自腹で買ってみる 0

第3章 品質を決めるのは消費者である
生産者目線の品質
消費者目線の品質
「おいしさ」が生まれるのは、農場ではなく、食事の場である
人は、舌だけで味わっているのではない

・知覚品質をいかに高めるか
1 「ブランド」で知覚品質が高まる
2 「見える化」で知覚品質が高まる
3 「言える化」で知覚品質が高まるの
4 「物語」で知覚品質が高まる
5 「掛け算」で知覚品質が高まるの
6 「陳列」で知覚品質が高まる
7 「価格」で知覚品質が高まるカ

第4章 うまくいっている農家にはどのような特徴があるのか
第5章 どうやって強いブランドをつくるか

469の農業者を調査
好業績に影響を及ぼす要因

・好業績の農業者の特徴
1 消費者と交流をしている、消費者の声を聞いている
2価格競争に巻き込まれにくい
3 安定的な販売先を確保できている
4 核(シンボル)となる商品がある
5 女性の力を積極的に活用している
6 「農産物を収穫するところまでが主な仕事」とは考えていない

ブランド化とは何か?
ブランドは「品質」を超える
モノづくり # ブランドづくり
ブランドで表面をつくろうことはできない

・ブランド力を評価する方法
1 名前の後ろに、「らしさ」という言葉をつけてみるが
2 目を閉じて、頭にイメージを浮かべてみる
「ブランド」と「名前」の違い

・ブランドに関する誤解
1「知名度を高めれば、ブランドになる」という誤解
2「品質を高めれば、ブランドはできる」という誤解
3 「広告宣伝費がないと、ブランドはできない」という誤解
4 「まずは、ロゴをつくろう」という誤解
5 「数の多さを売りにして、ブランド力を高めよう」という誤解

・「強いブランド」にはどのような特性があるのか
1 ブランド・イメージが明快である
2 感性に訴求している
3 独自性がある
4 価格以外の魅力で顧客を引きつけている
5 情報発生力がある
6 口コミ発生力がある

第6章 「違い」が 価値になる
「普通」の農産物は、ブランドにならない!
個性化は「特殊化」ではない
「二番煎じ」は、ブランドにならない
危険な「ヨコ展開」という発想

・いかに個性を出すか
1「味覚、香り、食感」で個性化
2「形状」で個性化
3 「サイズ」で個性化
4「色」で個性化」
5 「パッケージ」で個性化
6 「生産方法・栽培方法」で個性化
7 「肥料・エサ」で個性化」
8 「品質基準」で個性化
9 「生産場所」で個性化
10 「ずらし」で個性化
11 「ストーリー」で個性化
12 「利用シーン」で個性化
13 「用途の限定」で個性化
14 「売る場所」で個性化が
15 「逆張り」で個性化

・ダメな違いの出し方
1 「一本のモノサシ』で測ることができる違い」
2「消費者が気づかない違い」
3 「消費者にとって価値がない違い」

第7章 どうすれば六次産業化は成功するのか
マーケティングに問題を抱える六次産業化

・六次産業化に関する誤解
1「規格外品の活用のために六次産業化をする」という誤解
2「六次産業化は、新商品開発である」という誤解
3「『加工食品業』の土俵に乗る」という誤解
六次産業化の成功要因は何か?

・六次産業化成功の3つのポイント
1「独自性がある」
2「販売チャネルの確保」
3 「高品質・安心安全」
いかに売れ続ける商品をつくるから

・ロングセラー商品を生み出すポイント
1 おいしすぎない
2 「変わらないもの」と「変わるもの」のバランス
3 近視眼にならない

第8章 農業の体験価値を伝えよう
コトの中に農産物を位置づける
1の体験は、100の広告に勝る
消費地に行くより、産地に来てもらおう
「農業」と「観光」を掛け算しよう

・農村観光にひかれる人々は、どのような特性を持つのか
1「現地の人々との出会い・交流」を重視している
2「自然」を重視している
3「学び」を重視している
4「体験」を重視しているの
5 「その地域ならではの商品や食」を重視している
「農業」と「飲食業」を掛け算しよう

・「農家レストラン」にひかれる人々の特徴
1 小規模店志向である
2 健康志向である
3 食の口コミ発信源である
4 グルメ志向である
5 環境志向である
6 リピート志向が強い

・農家レストランにおけるマーケティングのポイント
1 軸は、あくまで「農業」である
2 メニューの「足し算」をやめよう
3 「核となる商品」をつくろう
4 「ライブ感」を大切にしよう
5 「飽きない」を意識しよう

第9章 さあ、前に踏み出そう!
・マーケティングの失敗を招く4つの誤解%
1 「○○離れ』だから、厳しい」という誤解
2 「後継者がいないから、厳しい」という誤解
3 「規模が小さいから、競争力がない」という誤解。
4「経営改善をすれば、強くなれる」という誤解
さあ、行動しよう!

おわりに
参考文献

岩崎 邦彦 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2017/11/3)、出典:出版社HP

絶対にギブアップしたくない人のための 成功する農業

日本一“使える”新規就農本

農業には中長期的なビジョンが不可欠です。いくら瞬間的に稼げたとしても、それだけでは成功とは言えません。最も重要なことは、「いかにして続けていくか」なのです。農業の面白さや難しさは、この一点に集約されていると言っても過言ではありません。本書は、つてもなく、農業に関する知識もそんなにない人に向けて書かれた、農業を始める前の準備本です。

岩佐 大輝 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2018/3/20)、出典:出版社HP

はじめに

この本は、ツテもなく、農業に関する知識もそんなにない人に向けた新規就農本です。2016年の日本の新規就農者は約6万150人。9歳以下の就農者数に限ると2万2050人。でも、きっとそれ以上に、本当は農業に興味があって、でもどこから動いていいかわからない――それがわかりさえすれば、やってみたいという人が、たくさんいるはずです。この本は、そういう人に向けられたものです。

僕は食べる宝石”と謳ったブランド「ミガキイチゴ」を展開する農業生産法人「株式会社GRA」の代表としての経験をもとに、農業経営について全国各地で講演をしたり、テレビ番組『ガイアの夜明け』などをはじめ、マスメディアでもさまざまなことをお話ししたりしてきました。講演を重ねるなかで、「農業をはじめたい」と思っている人が近年増えていることを実感しています。とりわけ、家庭を持つ現役世代が転職して就農を希望しているケースが多いように思います。また、企業が新規事業として農業に取り組みたいと考えるケースも多く、その真剣味も増してきています。

2011年に東日本大震災で故郷が被災したことをきっかけに、僕は株式会社GRAを立ち上げ、宮城県山元町でイチゴを作りはじめました。それまではIT企業の経営をしていて(いまも辞めたわけではありませんが)、農業のことはほとんど何も知らなかったのです。そんな人間が、いざ「農業をやろう」と思ったときにわかったのは「新規就農に関する情報がとっちらかりすぎていて、めちゃくちゃ不便だ」ということです。また、この本に行き着いたみなさんはご存じかもしれませんが、どういうわけか新規就農に関する本は「俺の成功談」やエッセイみたいなものが多いのです。もちろん、成功された先人の発言には、勉強になることも多い。でもこう言ってはなんですが、汎用性がないこともたしかです。

そういう本を書いている人たちは、自ら試行錯誤しながら少量多品目生産や観光農園に行き着き、成功したわけですが、だからといって、その手法は決して万人にすすめられるものではありません。そんなわけで、僕自身が就農にあたって、どこから手を付けていいものかと迷子になりかけた経験があります。無知だったせいで、事前に申請すればもらえた補助金をもらいそこねたりもしました。この本では、僕のような苦労をしなくて済むように、農業をはじめるときに考えるべき手順を整理してお伝えします。あるていどはどんな就農希望者でも使える、汎用性のあるものを提供したいと思っています。

個人にしろ企業にしろ、就農についての不安や疑問(どこから考えればいいのかわからない、も含めて)、およびその解決方法は通じる部分が多いのです。世の中に数ある新規就農本のように、自分の成功体験に基づいて「これをやれ!」とひとつの手法について言い切っておすすめしたほうが、メッセージとしてはわかりやすいのでしょう。僕のように「農業でやっていくには、いろんなルートがある」「自分の望むワークスタイル、生活スタイルを考えよう。自分に合っていなければ、誰かのマネをしてみたところで、苦痛なだけだ」と言うと、歯切れが悪く聞こえるかもしれません。しかし僕は、ひとつのやり方を押しつけるのではなく、この本を読んだ人が「考える手順がわかり、自分で考える力が身につく」ようにしたいのです。それに共感してくれる人に読んでほしいな、と思っています。

もちろん、もう「やるぞ!」という気になっている人だけでなく、もうちょっと手前の「農業やってみたいけど、でもなあ……」という不安を抱えている人もいるでしょう。安定した収入が得られるのか、都会から地方に移住して大丈夫だろうか、といった疑問が典型的なものです。この本では、まずはそうした「よくある疑問」にお答えし、そのあとで、農業をはじめるときに押さえるべきポイントをお伝えします。農業はどんな作物・作型を選ぶのか、どんなふうに働くのかといったことを自分であるていど設計でき、自由度は高いです。

また、声を大にして言いたいのは、他の職業では得られない喜びがたくさんある、ということです。ただもちろん、他の産業に比べてラクな仕事とまでは言えません。思わぬ落とし穴にはまるリスクだってあります。ただし、自分にとってなるべく苦にならない働き方にすることはできますし、ほとんどのリスクは、施策の組み合わせによって下げることができます。そのためには事前に何を準備し、どのようにはじめるかが重要です。就農前の準備によって、その後が大きく変わるのです。また、これから詳しく書いていきますが、農業には中長期的なビジョンが不可欠です。いくら瞬間的に稼げたとしても、それだけでは成功とは言えません。もっとも重要なことは「いかにして続けていくか」です。農業の面白さや難しさは、この1点に集約されていると言っても過言ではありません。

この本を使えば、自分が農業をやりたい理由(やる目的)が確認でき、自分の望むライフスタイルに合わせて選択肢があるていど絞れ、収益のシミュレーションもできる。どのくらい働いて、どのくらいの収入になりそうかがわかるようになる、そんなところまで、読者のあなたをお連れしたいと思います。

それでは、絶対にギブアップしない農業をはじめましょう。

岩佐 大輝 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2018/3/20)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1部 農業についてのよくある疑問と不安

農業って儲かるの?
・農家の「見かけの所得の低さ」に騙されるな

作物を作ったのに、売れなかったらどうするの?
・農業では市場に卸すかぎり「まったく売れない」ことはない
・直販や契約栽培にもそれぞれメリット・デメリットはある

天候が原因で不作になったら、借金まみれになるのでは?
・全国的に不作なら、数量は減っても販売単価は上がる
・丈夫なハウスを建てて保険をかければ天候リスクは下げられる。

農協ってよく批判されているけど、使わないほうがいいの?
・農協を通したほうが個人で市場に出すより単価は上がる
・農家と農協と市場の関係
・農協によってルールは違う

都会出身の人間が地方に移住してやっていけるものなの?
・ぽんぽん土地を変えられないことはたしか
・地元の名士や農業のレジェンドを味方に付けよう

農地を借りる、買うのはやっぱり大変?
・農地が確保できなくて就農できないことも
・耕作放棄地がたくさんあるのに農地取得が容易ではない理由

やっぱり修業に何年もかかるんでしょう? そのあいだは低収入になるんですよね?
・農業のノウハウ習得に時間がかかるのは、植物を高速で育てるのがムリだから
・すでにノウハウを持っている人・集団に教わるほうが結局、早い
・取れるデータは全部取る

補助金って、頼るとよくないんでしょ?
・補助金を使わないで、使っている農家との競争に勝てますか?
・自分が使える補助金を知りたければ相談できる窓口に行こう

有機農業のほうがいいの?
・「有機」「オーガニック」に決まった定義はない
・「有機で儲ける」には販路確保が重要になる

どの作物が儲かるの?
・作るのが大変な作物の単価は高く、簡単なものは安い
・規模の経済が効く作物・作型なのかを見極めよう
・初期投資が大きいものは参入障壁が高い。ということは…?

観光農園って儲かるんですか?
・作物、作型のコスト構造(原価の構造)によって向き不向きがある。
・直接お客様とふれあいたい、たくさん来てほしい場合にもおすすめ

6次産業化ってよく聞くけど、やったほうがいいんですか?
・安易な6次産業化をおすすめしない理由
・大手ができないことで戦えるなら、アリ

オランダみたいに日本も農産物輸出大国を めざすべきだと思うんですが、どうですか?
・ASEAN市場は言うほど大きくないし、日本勢は負けている
・輸出ビジネスは国内ビジネスより数段ハードルが高い

AI、IoT、ロボットを投入すれば 農業も革新できるのでは?
・すでにある課題を解決するためにテクノロジーを使わないなら無意味
・最新技術だからといってすぐに成果が出るとは限らない

農家になったら「24時間365日」 心血を注がないとダメですか?
・ブラック農家みたいな考えでは、従業員を雇うことができない
・労働強度をいかに下げるか
・魅力的なワークスタイルの提示が重要

で、結局、何を入り口にしたらいいですか?
・農業体験は「労働者としての農家」の体験しかできない
・時間とお金があるなら農業大学校は良い選択肢
・農業ビジネスの全体像を学ぶことを意識してであれば、農業法人への就職もアリ
・ロールモデル (お手本)を見つけよう:

第2部 農業をはじめるための6つのステップ
ステップ1 農業をやる目的を言葉にする。

ステップ2 自分が望む生活スタイル (収入、時間の使い方)を決める
・農業は働く季節が選べる
・労働時間の設計もできる
・農業ビジネスに従事する個人の「収入」が何なのかの定義は難しい
・手取りの所得を設定すると、ぐっと選択肢が絞られてくる
ケース1 転職としての就農―研修生・高泉博幸さんの場合

ステップ3 作物・作型 (育て方、こだわり)を考える:
・消費量が少ない作物は難易度が高い
・「作るのが簡単で単価が高い新規就農者におすすめ」ではない。
・将来的に市場が激減しそうなものは避けよう
・輸入の脅威が大きいもの、政府の方針に左右されるものも難易度が高い
・日本人全体のライフスタイルの変化も考えよう
・数字の向こう側にある、人間の心理を見る
・世界全体の中での動向も見てみよう
・作りたいものがあるなら、妥協で他の作物を選ぶべきではない
・多品目をうまくやるための考え方
ケース2 多品目露地栽培という選択——内藤靖人さんの場合

ステップ4 10年間の経営のビジネスプランを数字に落とし込む
・他の農家はどうなのか?を統計から理解する
・10年間のビジネスプランの作成手順
・売上、費用のイメージをつかんだら、他の選択肢を検討していく
ケース3私がギブアップした理由――あるシイタケ農家の場合

ステップ5 資金調達の方法
・「事業の継続性」を見る銀行との付き合い方
・新規就農者向けの特別な融資メニューもある
・事業の成長性」を見る投資家との付き合い方
コラム 経営のゴールをどこに設定するか

ステップ6 情報収集とネットワーク作り
・「みんなで勝つ」「地域に貢献する」
・情報をシェアする人間にこそ、情報は集まる

第3部 モデルケースを見てみよう
~就農2年目・國中秀樹さんの場合~

まとめ 10年間の経営計画表の書き方

岩佐 大輝 (著)
出版社 : 朝日新聞出版 (2018/3/20)、出典:出版社HP

小さい農業で稼ぐコツ 加工・直売・幸せ家族農業で30a1200万円

小さい農業できちんと稼ぐコツを伝授!

著者は、30aの畑で年間50種類以上の野菜を育て、野菜セット・漬物などにして物にホームページで販売し、お客さんとのやりとりを楽しみ家族5人で幸せに暮らしています。本書では、一年中切れ目なく収穫する野菜作り、無駄なく長く売るための漬物・お菓子作り、自分らしさをアピールする売り方、ファンを増やす繋がり方など、ゼロから始める家族経営の直売農業できちんと稼ぐコツを伝授します。

西田栄喜 (著)
出版社 : 農山漁村文化協会 (2016/2/5)、出典:出版社HP

はじめに

小さい農業だからこそ幸せに

私は石川県で自称日本一小さい農家「風来」を営んでいます(通称・源さん)。どのくらい小さいかというと、耕地面積は全部で三○a(この中に五・四m×一五mのハウス四棟あり)、通常の農家の一〇分の一の大きさになります。畑の前に店舗兼加工所兼自宅があり、家族五人幸せに暮らしています。いわゆる脱サラ農家でバーテンダー、ホテルマンを経てゼロからスタートしました。

ただ、いざ起農しようとすると、どこに行っても「農業は甘いもんじゃない」、また「農業は初期投資がかかる」と言われました。実際に起農する時の平均借入額を聞いてビックリしたものです。その経営をホテルの支配人時代に学んだ損益計算書の視点でみると、ゼロからスタートする場合、どうみても収支が合わない。稲作農家であれば機械代、施設園芸農家であればハウス代など、まさに固定資産の塊のようにみえました。しかし「本来、農業は鍬一本でできるもの。初期投資をかけなくてもできるはず」。そんな視点から農業を見つめ直してみました。そうすると加工、直売を最初から組み入れることによって小さくても十分やっていけると思い、自己資金のみで風来をスタートしました。

実践していく過程で日本は小さい農業、いわゆる家族経営農家が向いているのではないかと実感してきました。大規模農業も農地を守るという観点からみると必要だと思いますが、大規模農業には大規模農業のやり方が、そして小さい農業には小さい農業のやり方があるのではないでしょうか。規模拡大していくとすると、その過程でどうしてもノウハウ化をすすめていく必要があります。ノウハウ化できるものは資本がある人が有利です。小さい農業だからこそ独自性を持ち生き残れる道があります。

そして生まれたのが「ミニマム主義」です。ミニマムとは直訳すると「最小」「最小限の」。つまり、小さい農家でいきましょうということです。あわよくば面積拡充なんて考えず、最初からコンパクトでいこうという考え方を持つことで投資額が定まってきます。そして面積や規模を制限することによって、土地活用や時間の効率もアップします。また大きな機械を買う必要がないので借金する必要もなくなります。そして地域の人間関係も小さいということでスムーズになりますし、天候などのリスクも、小回りがきくということは大きな強みになってきます。

この時代に農を志す人は、何か今の日本や世界に思うところがある人ではないかと思います。ただ最初はそんな思いがあって農家になったはいいけど、作柄や経営的にうまくいかない、また農的暮らしを目指していたのにいつの間にか下請けのようになって心に余裕がないなど、最初の志どおりいかないというのも現実として多々あるようです。仕事としてキチンと食べていけること、今の世の中ではとても大切なことですよね。

何のためにどのくらいもうけるのか……。ミニマム主義ではその「何」は「幸せ」です。幸せに暮らすにはどのくらいの収入があればよいのか、そのためにはどのくらいの売上げが必要なのか。そうやって考えていくとやることがどんどん明確になっていきます。お金はあればあるだけいい、スピードは速ければ速いほうがいい、小さいより大きいほうがいい、なんてしてたらキリがありません。幸せの原点は「比べない」「足るを知る」です。ミニマム主義ではお金と向き合うけど、キリがない欲望には付き合わないのが前提です。そしてミニマム主義を十分発揮できるのが農業です。小さい農業、家族経営農業こそ幸せにいちばん近い仕事だと感じています。

本書では「読んだ人が日本の農業に未来を感じる」ではなく、「読んだ人が自分の農に未来を感じる」そんな内容になればと、私がゼロからスタートした夫(失敗も含め)の数々、そしてその時々で思ったことをここまで書いていいのかな?と思うぐらい書かせていただきました。おかれた環境が違うということもあるので、それぞれのやり方があると思います。読んだ人が少しでもヒントになり、また自信を持っていただければ幸いです。

二〇一六年二月
西田 栄喜

西田栄喜 (著)
出版社 : 農山漁村文化協会 (2016/2/5)、出典:出版社HP

目次

はじめに 小さい農業だからこそ幸せに

第1章 小さい農業の魅力
❶ 小さい農業って何?
借金しない家族経営の直売農業
私が見たオーストラリア農業
日本ほど直売に向いている国はない
お手本は「百姓」

❷ 一日の仕事、一年の仕事
毎朝畑の写真を撮ってフェイスブックに投稿
十時から野菜セットの荷造り
午後は畑仕事とデスクワーク
妻は漬物、お菓子など
月ごと大きく変わる一年の流れ

❸ 小さい農業のいいところ
混植による危険分散
時間もコストもかからない
高額な機械もいらない
少量多品目は飽きない
家族経営には余裕がある

第2章 野菜つくり コンスタントに育てる
❶ 少量多品目で継続的にとる
当初から無農薬栽培
身近な材料でボカシ肥料作り
炭素循環農法へ
安全で味がいい野菜を育てたい

❷ 混植で効率よくとる
ウネは一列ごとに作付け管理
一ウネに一種類はもったいない

❸ 生長を助け、虫食いもなくなるマメ科混植
トマト、ナス、ピーマンのウネの肩にエダマメ
ニンニクやタマネギもマメ科と
トマトとバジル、青ジソ
お互いの終わりの時期を揃える

❸ 育苗で畑をムダなく使う
葉野菜を何度でもとる
直播きするものも苗で欠株対策
サツマイモの収穫と同時に冬ジャガイモを植え付け

❹わき芽収穫で連続どり
収穫は一度だけではもったいない
連続どりに向いた品種
一回目の収穫時期が大切
春キャベツと冬ハクサイも

❺ キャベツ、レタス、ハクサイの超密植栽培
春の端境期にとれる
小型だから直売向き
究極の超密植栽培は苗

❻ 野菜セットのための品種選び
変わり野菜はほどほどに
トロリとした絶品「在来青ナス」
春の端境期にビーツ、フダンソウ

❼ 漬物のための品種選び
品種から選べるのは農家の特権
キムチに向くハクサイは「健春」
キュウリは四葉系「イボ美人」
ナスは肉質が緻密な「千両二号」
ダイコンは主に二種類
ウリの粕漬けには「黒瓜」

第3章 漬物・お菓子作り 長く売れる加工品を作る
❶ 生で売るより加工して売る
販売期間を延ばせる
目的は所得を上げること
毎日食べられる味と価格

❷ 浅漬けで売る
浅漬けタイプのハクサイキムチ
醤油三:みりん三:酢一が基本
浅漬けを長持ちさせる氷温管理

❸ 昔ながらの漬物
意外に若い人に人気
寒干しタクアン
小回りのきく少量販売

❹ ヨモギ団子とかきもち
漬物と比べて一気に売れる
母の直伝レシピ

❺ 加工に必要な機器
お金をかけないで始める
パソコンとプリンターを購入
すぐに少しだけラベル印刷できる
簡単に封ができる脱気シーラー
二坪冷蔵庫と氷温冷蔵庫
加工所は車庫を改造
支援を受けるなら返す気概を

❻ 必要な免許
それぞれの免許に場所が必要
菓子と惣菜の免許を取得
菓子免許でヨモギ団子など
加工技術は習うより慣れろ
無限に可能性が広がる

第4章 売り方 個人を出して売る

❶ 引き売りで学んだ売り方
スタートはキムチの自力販売
販売能力があれば小さくてもやっていける
引き売りができれば怖いものなし
「人がいる」だけでは売れない
普段使いもできる軽ワゴンで
テーブルとパティオタープで演出
鍛えられたポップの書き方
代名詞になるような目玉商品を
リスクが少なくて効果が大きい
引き売り視点の直売所の売り方

❷ 直売という販路を持つこと
品揃えを増やせる
実験販売もできる

❸ 単品よりセットで売る
野菜の単品は安い
ダイコンを三本も入れてはダメ
冬場には鍋セット
地域にしかないセットを売る
まずはお中元、お歳暮から
小さく始めれば、やり直しもきく

❹ 原材料にこだわる
小さいからこそできる仕入れ
肥料も地域の材料で自作
団子の材料は地域の農家の米を製粉
原価率を考える
人気の洋菓子は原価率が高い

❺ 大きさを変える
米を一升単位で売る
米を一合ずつ真空パックで売る

❻ 情報を発信する
農家であることを売る
自分の体験した一次情報を出す
人柄ごと売る
過程を見せる
ブログを毎日発信する
パソコンは今や農機具の一つ
ネットで販売しなくてもいい
年配の強みを活かす

❼ ネットの使い方
情報の出し方の使い分け
キャッチフレーズとモットーを
風来は「日本一小さい農家」
愚痴でなく楽しさを伝える
正しいことはチャーミングに
公的機関のネット勉強会を活かす

第5章 つながり方 ファンを増やす
❶ 風来のつながり方の変遷
直売所、インターネットの台頭
ネットのおかげで遠くの人と近しくなれる
遠いのに近い関係の「知域」
「知域」を経て「地域」へ

❷ つながると売上げは一〇倍になる!?
大もとからの発想の転換
畑の草むしり体験を呼びかける
とれすぎた野菜で漬物教室
仲間でイベントのやり方を学ぶ

❸ 農の体験教室を開く
知恵を持つお年寄りが尊敬される
市民講座で知恵を伝える
月一回二○〇〇円+材料費
農家の知恵が求められている
イベント告知はフェイスブック
農産物は有限、知恵は無限
知恵は減らない、奪われない

❹ 地域の農家どうしでつながる
月一度の近況報告をする
やりたいことが整理される
野武士のネットワークを作る
個人ブランドどうしでつながる
大きい農家とつながる

❺ 農コンを開く
有料の体験教室
農家の話を聞きたい
「かかりつけの農家を見つけよう」と呼びかけた
農家一二人に対して参加者二八名
つながりを求めている人は多い

❻ クラウドファンドでつながる
「擬似私募債」という資金調達法
志に共感してくれると資金援助を受けられる
手軽なクラウドファンディング
二二万円を一日で達成
出資者がファンにもなってくれる
出資金が集まる仕組み
申し込みから審査、公開まで
出資のお返しは野菜セットなど
事務局との文書作成のやり取り
目標達成度は一九二%
地元農業を応援したい
想いの強さに尽きる

❼ビジネスプランを考える
CO2を削減する「三方よし」の融資の仕組み
スーパー経営者の「家庭菜園ビジネス」案
農業はアイデアの宝庫

第6章 小さい農業の考え方
❶始める前にやっておきたいこと
小さい農業ならハードルは低い
始めるための準備は四つ
農業研修をする
なりたい農家像を突き詰める
最大限収量で売上げを計算してみる
専業にこだわらなくていい

❷ミニマム主義とは
農地の制約が始まり
個人を出せる時代だからできる?
直売とつながりが核になる
独立しているから幸せになれる

❸スモールメリット
日本の農業にスケールメリットはあるか
傾系が多くて機械が高価
会社は三〇年、家族経営は数百年
町のパン屋さんに学ぶ
特色があれば価格勝負しなくていい
この時代、どこにこだわるか

❹お金との向き合い方について
お金を手元に引き寄せる
無駄遣いがなくなる「個人通貨」
買わないで自分で作る
欲を出さず、足るを知る
基準金額は毎年家族で決める
売上げのストレスがなくなる
客層が個人のお客さん中心に

❺命の価値観
農業は究極のサービス業
命の価値観で物事を見る
都会と田舎、命の価値観が高いのは?
それ、命的にどうよ?
農は価値観を変える扉
付録1 風来の年間作業一覧
付録2 風来の歩み年表

西田栄喜 (著)
出版社 : 農山漁村文化協会 (2016/2/5)、出典:出版社HP

ゼロからはじめる! 脱サラ農業の教科書 (DOBOOKS)

農起業を成功させる7つのステップ

脱サラ農業に興味があっても、「何から手をつければ良いのか」「失敗するのではないか」など不安が多いでしょう。本書は、自ら脱サラ農業をしながら、農業専門コンサルタント・農業スクール代表として多くの「農業素人」に就農サポートを行なっている著者が、ゼロから農業を始めるためのノウハウや経営手法についてまとめて紹介しています。

田中 康晃 (著)
出版社 : 同文舘出版 (2018/1/13)、出典:出版社HP

はじめに

皆さん、はじめまして。合同会社エースクール農業起業塾代表の田中康晃です。本書は、脱サラ農業に興味があるのだけど「一体、何をどうすればよいかも、何から手を付けたらよいかも、さっぱりわからない」とお悩みの方に向けて、まさにゼロから農業を始めるためのノウハウや経営手法についてまとめた「脱サラ農業の教科書」です。

後でお話しするように、私自身も脱サラして農業を始めました。私の場合、現在はこれに加えて、農業コンサルティングや農業スクールも行なっていて、毎日、多くの農業を目指す方達と接しています。そのほとんどが、農業経験も農業との関係もない「全くの農業素人の方」です。農業コンサルティングを開始してから約1年、農業スクールと農業経営を開始してから約6年になりますが、この間、たくさんの「農業素人の方達の就農に向けてのサポート」を行なってきました。本書では、私自身の脱サラ農業の経験やコンサルティング経験、農業スクールを通じて出会った生徒さんの悩みや、その解決策、農業スクールの授業内容などを、ひとつのノウハウとしてまとめました。

本題に入る前に少しだけ、私の自己紹介も兼ねて「私自身の脱サラ農業」の体験談をお話しさせてください。私が最初に農業に興味を持ったのは、30歳前後の2001年頃、会社勤めで毎日忙しくしていた頃です。実際に就農したのが2011年なので、農業に興味を持ち始めてから、実際にトラクターを持って農業を開始するまでには、10年ほどの歳月がかかっています(その間もずっと農業には携わってきましたが、それは後述します)。

ちなみに、私の前職の会社は農業には全く関係がありませんし、全国各地に出張が多い営業職で、お客様も農業とは全く関係がない業種の方ばかりです。前職での仕事は順調で、これといった不満があるわけでもなく、厳しい会社ではありましたが、先輩、同僚、後輩にも恵まれ、楽しく仕事をしていました。そんな中、たまたま近所に新しく「家庭菜園」ができて、利用者募集の説明会がありました(このような情報が気になるというのは、もともと心の奥底の部分では、農業には関心があったからだと思います)。

それで、本当に気軽な気持ちで参加したら、どこか新鮮で心地よく、それが楽しくて「まさに感覚的に惹かれて(楽しそうなので)、始めてみた」というのが、今思えば、農業への始まりだったかもしれません。
30mほどの区画を借りて、何もわからないまま農業書を片手に、お隣さんにも聞きながら、トマト、ナス、すいか、じゃがいも、たまねぎ、きゅうり、かぼちゃなど、いろいろな野菜を育てていました。当然、すぐにはうまくできるものでもなく、不格好な野菜ばかりでしたが、見た目はともかく、やたらおいしかったのを覚えています。きっと自分で作ったからなんでしょうね。当時は、とにかく畑仕事が楽しくて、休みには毎週通っていました。そうするうちに、自然と「職業としての農業はどんなだろうか?」と興味が深まっていき、「もっと農業が知りたい」「農業を始めるにはどうすればよいのだろう?」と思うよう になりました。

そこで、自治体に設置されている「新規就農相談センター」という農業に関する相談窓口に、とにかく行ってみることにしました。このとき紹介された農家見学ツアーや体験ツアーにも参加しました。その他にも、さまざまな役所や相談窓口にも行きました。ただ、結局「農業を知る」にも、各種ツアーでは観光客の一人でしかなく、さらに「農業を始めるための方法」については、窓口ごとに答えは違うし、疑問は解消されるどころか深まるばかりでした。しかも当時の私は、「農地もない」「技術もない」「お金もない」状態でしたので、まずは「農地を見つけてから来て」「どこかで研修を受けてきて」とか、さらには「お金を貯めてから相談に来て」というような感じで、ほとんど相談にすら応じてもらえず、門前払いに近かったのを覚えています。ただ、今振り返ってみますと、このような対応をされたのも、もしかしたら仕方がなかったのかもしれません。

当時の私は「自分が何をしたいのか?」「何のために農業なのか?」の考えなど、ほとんどない状態です。だから、相談を受けた人も、きっと「この人に農業をさせても大丈夫なのかな?」と思ったに違いありません。とにかく行ってみようというだけで行ったり、場当たり的に相談したりしたら、相談された方も迷惑です。相談する本人自身ですら何を求めているのかわからないのですから、相談された方は答えようもありません。その後も、農業をもっと知りたいと思い、野菜の作り方などの書籍はもちろん、農業経営に関する書籍、インターネット、農業白書、統計データなども読み漁りました。当時の私は「門前払い」が相当悔しかったのかもしれません。とにかく農業を始めるための方法が知りたいと、自分で調べることにしました。

そこで、農業を始めるための方法は、実は「法律で定められている」ということを知り、さらにその法律は「農地法が基本になっている」ということがわかりました。そして、このような農地法などの法律を扱う「行政書士」という職業も知ることができました。ここで少し軌道修正して、「私のような農業を始めたくても始められない人の手助けをしたい」と思うようになり、会社勤めの傍ら、行政書士資格を取得。3歳のとき、会社を辞め脱サラして、農業専門の行政書士事務所を始めました。 「農業参入コンサルティング」の開始です。当時、そんな行政書士事務所などなければ、民間企業でもこのようなサービスはほとんどありませんでした。ですが、やはり私のように困っている方はたくさんいて、お客様も増えてきました。

ただ、コンサルティングの場合、私とお客様とが1対1でサービスを提供させていただくことになり、どうしてもお客様への費用負担が増えてしまいます。結果的に、お客様は企業が多くなり、個人で脱サラ農業したいという方へのサービス提供はできませんでした。個人の方からご相談をいただく場合もありましたが、どうしても対応ができない状態です。そこで、個人の方でも対応が可能なように、1対1のコンサルティングだけではなく、1対複数のサービスが可能な「農業スクール」を開始することにしました。

ご協力いただける農家さんの仲間もでき、農業実習は農家さん、就農手続きや経営に関するところは私が担当して、農業スクールを開始しました(現在は、農業実習も含め、すべて対応しています)。私も一緒に農業スクールの実習に参加することで、農業の現場作業を学んでいきました。それと同時に、タイミングよく、インターネットの情報から最適な農地を見つけることができ、農業スクールにも理解を示してくださったので、すぐに農地を借り受けることができました。このタイミングで合同会社エースクールを設立、農業スクールとともに、私自身も念願の農業を始めることができたというわけです。脱サラ農業の部分でいいますと、私の場合、途中回り道がありましたが、足かけ10年ほどでの脱サラ農業実現です。現在は、農業スクールとともに、農業経営では「いちご」「いちじく」「スイートコーン」等を栽培し出荷しています。

私自身の農業経営もコンサルティングも、まだまだ完成されたものではなく、発展途上です。それでも、脱サラ農家の先輩として、また、多くの脱サラ農家の先輩方をすぐ近くで見てきた者として、皆さんにとって少しでもお役に立てればと思い、本書を執筆させていただきました。本書を通じて、皆さんの脱サラ農業の「手引き」を示すとともに、本書を活用いただき、既存の農業にはない、新たな感覚を持った「脱サラ農業者」がたくさん生まれることを願っております。皆さんが始める農業で、日本農業の未来はもっと明るくなるはずです。私と一緒に明るい未来を作っていきましょう!

合同会社エースクール 農業起業塾 代表 田中康晃

田中 康晃 (著)
出版社 : 同文舘出版 (2018/1/13)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 1年後にムリなく就農できる7つのステップ
1 1年後に就農するために必要な7つのステップ
就農フローチャートでスムーズに脱サラ農業しよう

2 第1ステップ 開始~6カ月目 理想のライフスタイルをイメージする
農業を始めるのは手段にすぎない
幸せな脱サラ農業への第一歩
「なぜ農業なのか?」理想のライフスタイルを確認する作業
理想のライフスタイルと農業

3 第2ステップ 3カ月~6カ月目 情報を集める
情報集めをする前の準備
本物の情報を得る
統計データから読み解く

4 第3ステップ 6カ月~10カ月目 農業体験してみる
農業体験や農家見学に行く
農家見学をする

5 第4ステップ 6カ月~2カ月目 農業シミュレーション
週末農業で農業シミュレーションをしてみる
栽培シミュレーションをする
経営シミュレーションをする

6 第5ステップ 3カ月~2カ月目 理想のライフスタイルを実現する営農計画づくり
営農計画を作る

7 第6ステップ 3カ月~2カ月目 農業研修を受ける
農業研修の目的
農業研修の形態
研修先の選び方・研修の順番

8 第7ステップ 12カ月目 脱サラ~就農
ゆとりを持った農地探し
いよいよ脱サラ農業スタート?

2章 ゼロから農業を始める前に知っておくべきこと
1 就農に立ちはだかる6つの壁
誰もがぶつかる就農の問題点
お金の壁
農地の壁
地域の壁
技術の壁
法律の壁
経営者の壁

2 農業を取り巻くトレンド
新規就農者数から見るトレンド
新規参入企業の動き
法人化の動き
6次産業化の動き
国の農業政策のトレンド

3章 脱サラ農業6つの壁を超える実践ノウハウ
1 お金の壁を超える 〜営農計画・資金計画の作成~
結局、いくら必要なのか?
営農計画を作る意味
営農計画の作成
本物に近付ける
お金を準備する。

2 農地の壁を超える ~農地探しの実践~
農地探しの方法

3 地域の壁を超える ~地域との調和~
地域の資源を使わせてもらうのが農業という仕事

4 技術の壁を超える ~栽培技術を身に付ける~
就農までに必要な栽培技術のレベル
未熟な栽培技術をカバーする栽培システム
未熟な栽培技術を前提とした農業経営とは

5 法律の壁を超える 〜法律を知る~
農業初心者こそ、法律を味方に付けよう
農地法の許可
利用権の設定
会社で農業を始める方法
個人で就農すべきか会社で就農すべきか

6 経営者の壁を超える ~経営者になるということ~
お金を支払って売上を上げるのが経営の王道

4章 強みを生かす脱サラ農家の経営術
1 戦うマーケットを考える
競争をなるべく避けて生き残ろう

2 冷静な自己分析から強みを生かす戦略
競争相手がいないところで戦う
強みを借りるのもひとつの手

3 どこにフォーカスするかにより競争を避ける戦略
鮮度にフォーカスする
栽培方法にフォーカスする

4 収益ポイントを検討する
どこで収益を得るか?

5章 ライフスタイル別農業モデル
1 「ゆったりとした田舎暮らし」を実現する農業モデル
5年後の売上600万円を目指す「いちじくモデル」

2 「家族4人、農業で生計を立てる」ことを目標にした農業モデル
5年後の売上2000万円以上を目指す「いちごモデル」

3 企業的経営で収益を上げることを目的にした農業モデル
5年目の売上5000万円以上を目指す「水耕栽培モデル」

6章 幸せな脱サラ農家が増えるために必要なこと
1 農業者仮資格制度の創設
農地情報も得られやすくなる仕組み

2 兼業農業スタイル
脱サラ組もムリなく起業しやすくなる

3 農地情報のマッチング
農地情報は各地域の連携がポイント

4 農業周辺サービス
農業経営の発展につながるサポートも増えてきた

おわりに

田中 康晃 (著)
出版社 : 同文舘出版 (2018/1/13)、出典:出版社HP

儲かる 農業ビジネス (静岡産業大学 大化けブックス)

農業を始めるために大切なことがわかる

農業は近年成長産業として各方面から注目を集めています。ただ、生産性が低い分野と捉えられることも多く、一般にネガティブなイメージもいまだにつきまとっています。本書は、農業法人、農協、量販店、行政などの実践を紹介し、経営学の知見を農業ビジネスに応用してもらえるように解説しています。農業を始めよう、農業で跳躍しようという人におすすめです。

堀川知廣 (著), 大谷徳生 (著), 稲葉穎 (著), 岡あつし (著), 谷和実 (著), 清水和義 (著), 加藤百合子 (著), 大坪檀 (著), 岩崎邦彦 (著), 新農業経営研究会(堀川知廣・大坪檀) (編集)
出版社 : 静岡新聞社 (2019/11/27)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 農業ビジネスの現状と取り組み
第1節 これからの農業ビジネス (堀川知廣)
第2節 静岡県の農業ビジネスのすすめ(大谷徳生)
第3節 藤枝セレクション(稲葉 穎)
第4節 静岡県立農林大学校における農業ビジネス経営学(岡あつし):

第2章 農業ビジネスの参考事例
第1節 大井川農協の未来志向とスーパーマーケットの取り組み(谷和実)
第2節 藤枝市 富士農園の農業ビジネスの展開~ビジネス化の苦心~(清水和義)
第3節 Food&Farm Ecosystem を目指して(加藤百合子)
第3章 農業の大化け ~そのカギは農業のビジネス化とマーケティング(大坪檀)
第4章 農業におけるマーケティングの大切さ (岩崎邦彦)

あとがき

堀川知廣 (著), 大谷徳生 (著), 稲葉穎 (著), 岡あつし (著), 谷和実 (著), 清水和義 (著), 加藤百合子 (著), 大坪檀 (著), 岩崎邦彦 (著), 新農業経営研究会(堀川知廣・大坪檀) (編集)
出版社 : 静岡新聞社 (2019/11/27)、出典:出版社HP

はじめに

農業は近年、成長産業として各方面から注目を集めています。ただ、生産性が低い分野と捉えられることも多く、一般にネガティブなイメージもいまだ付きまとっているように思われます。具体的には「小規模」「儲からない」「担い手の高齢化」「後継者不足」「仕事がきつい」「天候に左右され不安定」など…。残念ながら、どれもそう見られてしまうだけの理由・現況があるようです。

例えば全農家の経営耕地面積の平均は1.9ヘクタール(2009年)で、米国198ヘクタール、ドイツ3ヘクタール、フランス18ヘクタール、イギリス3ヘクタールと先進各国に比べて、極めて小規模です。経営耕地が20アール以下または販売金額が3万円未満の農家(自給的農家)も全体の4割近くを占めています。一方で農家が貧しいかと言えば、決してそのようなことはありません。農家総所得は平均526万円(2017年)。農業から得られる所得は191万円にとどまりますが、会社勤務や不動産賃貸などの兼業収入でカバーしているのです。

兼業しながら受け継いだ農地を守り、金にはならなくても農業を営むという選択はあって当然ですし、もちろん批判される筋合いもないでしょう。しかし、農業を産業・ビジネスと捉えた場合、別の問題が立ち現われてきます。担い手の高齢化、減少を放置したままでは先細りは不可避です。日本の「食」を支える農業を時に流されるままに縮小させてよいはずはありません。

新鮮でおいしくて安全な農産物の需要はますます旺盛ですし、国内だけでなく国外からの需要も今後伸びが見込まれています。農業が持つ大きな可能性はおのずと明らかなのです。それにもかかわらず「どうせ儲からないから」という先入観が参入をためらわせているとしたら、不幸なことです。関係者が率先して旧来の農業のイメージを払拭し、やりがいと魅力がある新たな農業を積極的に創り発信していく必要があります。

静岡県内では既に行政や民間有志の取り組みが始まっています。県は他に先駆けて農業を成長産業と位置付け、20年ほど前からビジネスとして農業を行おうとする者を支援する姿勢を明確に打ち出しています。特に担い手となる「ビジネス経営体」の育成を軸に据え、新たな農業構築を目指しています。マーケティング戦略に基づいて商品・サービスを提供し、一定の雇用と販売規模を有し、永続的で成長を志向する経営体。そうした条件を満たす県内のビジネス経営体の数は381(2014年)、推定販売額は748億円と、全県の農業産出額の3分の1を占めるまでになっています。試行錯誤の歩みとその成果を 振り返れば、農業をもっと儲かり、やりがいのある、誰もが憧れる産業としていくためビ ジネス化の重要性は明らかでしょう。

本書は、新農業ビジネス研究会を主宰する静岡産業大学の大坪檀、堀川知廣の2人が企画・構成しました。農業に新たに挑戦してみようと考えている人、既に農業に従事しさらなる飛躍(法人化、事業拡大)を展望している人にとって参考となり、その志を鼓舞できるようまとめたつもりです。農業ビジネスにさまざまに関わっている方々に執筆をお願いし、農業法人、農協、量販店、行政などの実践を紹介しています。さらに、経営学の知見を農業ビジネスに応用してもらえるよう解説しました。特に基本となるマーケティングについては、重複してもあえて視点を変え、できるかぎり丁寧に取り上げました。

さて、農業ビジネスを成功に導く決め手は一体何でしょうか。適切なマーケティング、ICTなど情報技術、生産ノウハウ、行政・金融機関の支援と色々と挙げることはできますが、何よりも当事者に熱情(パッション)がなくては始まりません。本書が魅力的な農業の姿を少しでも浮かび上がらせ、意欲的で企業家精神にあふれる人たちにとって志の口火としていただけたなら幸いです。

堀川知廣 (著), 大谷徳生 (著), 稲葉穎 (著), 岡あつし (著), 谷和実 (著), 清水和義 (著), 加藤百合子 (著), 大坪檀 (著), 岩崎邦彦 (著), 新農業経営研究会(堀川知廣・大坪檀) (編集)
出版社 : 静岡新聞社 (2019/11/27)、出典:出版社HP

農業ビジネス ベジ(veggie) vol.28 (売れる野菜 儲かる農業 IoTにも強くなる)

野菜を売る現場の最新情報がわかる

本書は、農業の情報誌で年4回発売されています。今回は、市場ではどんな野菜に人気があるのか、直売で売れる野菜は何か、飲食店に人気の野菜は何かを紹介しています。売れている野菜がどうして売れているのかをしっかりと把握し、新たな野菜のマーケットにつなげていきましょう。

大局観が求められる農業政策

2019年を振り返ると、生産者への取材中、物流費の値上げが話題にならないことはなかった。レストラン向けの野菜づくりに力を入れ、複数の店舗と直接取引しているある野菜農家は、レストランから相次いで「送料の値上げ分を、料理の価格に上乗せできない」と言われ、取引の一時中断を迫られたという。野菜のおいしさは変わらないのに、まったく別の理由で取引が中断したわけだ。生産者の悔しさをおもんばかるしかなかった。

政府は、生産者の経営安定のために、交付金を含め様々な施策をとっている。だが、輸送費高騰や労働力不足など経営環境の激変を前に、セーフティネットとして機能を十分果たせなくなりつつある。いずれ、政策の枠組みを根本から見直す必要があるのではないか。2019年2月、農水省の食料・農業・農村政策審議会の食糧部会経営所得安定対策小委員会に出て、そう感じた。

小委員会で審議された事項は、2020年産からの畑作物の直接支払交付金の単価をどうする かだった。大豆、麦類、テンサイ、ナタネなどの畑作物を対象に国が出す交付金を「ゲタ」という。これらは輸入品との競争にさらされ、国産といえども、販売価格は安価な輸入品の影響を受け、生産コストが販売価格を上回る「コスト割れ」が起きている。そのコスト割れを直接支払交付金で補う(つまり、ゲタを履かせる)というものだ。

交付金単価は、TPPや日米貿易協定などの国際情勢の動き、産地の事情など考慮した上で決められる。今般の小委員会で、農水省が示した交付金単価に対し、出席した委員全員から「妥当」との意見が出た。その上で、生産者の委員を中心に「小麦の輸送費は全て生産者負担。(輸送費が上がっても)販売単価に上乗せができない」「農地の流動化は進みつつあるが、肝心の担い手がいない」などさまざまな課題が出された。交付金制度の範ちゅうを超える内容であることを承知した上で、あえて現場目線で発言したと思われる。交付金はセーフティネットとして機能してきたが、これだけでは経営安定は難しくなってきた。経営環境の変化を見据え、生計として成り立つ農業をどう組み立てていくかという視点が求められる。委員の方々のそんな思いを、座長席に座りながら感じた。

生産現場の経営環境のみならず、流通との関係についても考える必要がある。現在、農水省はスマート農業を推進するため、産地での大々的な実証実験をおこなっている。成果が出るのはこれからたが、実証実録画する生産者の1人から「生産現場だけスマート化しても、流通や消費行動が変わらなければあまりメリットはない」という話を聞いた。

キャベツを例にとると、最も労力が必要な収穫の機械化が開発中にある。この生産者は、試験的に使ってみたがロスが5~7%発生した。地面に対し、斜めに育つキャベツがあるが、収穫機が微調整せず、結球部も切断すると、売り物にならないからだ。

別のキャベツ農家は「収穫機が開発されても自分は使わない」と話す。同じ畑に同じ時期に植えたキャベツでも生育のスピードが異なり大きさがばらつく。どうしても人間の目で見て、そろったサイズを収穫することになる。海外の小売店のように、グラム売りが当たり前であれば、サイズの大小はあまり問題にならず、収穫機は役立つだろう。「だが日本では1個売りで固定価格。店側もそろったサイズをほしがる。この売り方が続く限り、手作業が続くだろう」とのことだった。収穫機を含め、工程全体がスマート化すれば、省力化につながり、働力不足の解決につながるかもしれない。だが、野菜の規格や消費者の購買行動が従来と変わらない以上、本当の意味で省力化にはならない。斜め切りを調整し、大きさを見極めながら収穫する機械がいずれ開発される可能性があるが、普及台数が増え、価格が下がるまでには相当な年数を要する。それより、生産スタイルの変化に対し、流通業者や消費者に理解や協力を求めていくほうが手っ取り早い。こうなると、進んでいるスマート農業の実証実験も、小売店での販売まで含めて実施・検証する必要がある。あらためて、社会や経済の情勢を踏まえてあるべき農業とはどういうものか、農業を継続していくために、利害関係者に求めるものはなにかなど大局的な視点に立った政策が必要になってくる。

株式会社ベジアート 代表取締役社長 古川愼一

目次

60歳で金融から農業に転身しトマトの新文化を切り拓く

・特集 売れる野菜2020
世界のGINZAで売れる野菜
無印良品の世界旗艦店「無印良品 銀座」の青果売場
人気のサラダバーでは意外な野菜が売れていく
シズラー 東京国際フォーラム店「プレミアムサラダバー」
「オオゼキ」下北沢店で野菜がバンバン売れる理由
オオゼキ 下北沢店
2020年、シェフが欲しがる野菜はこれ!
株式会社プラネット・テーブル 「SEND」

業務用野菜に求められるもの
株式会社まつの
鈴木光一が選ぶ 2020年、 直売所で売上を伸ばすおすすめ品種
鈴木光一 (鈴木農場・伊東種苗店)
2020 注目の野菜カタログ
カラフル/ミニ/ サツマイモがブーム/新・珍・気になる野菜たち/茎がうまい/ ミニトマト/これは大きい!/国産フルーツ
加工・業務用の契約栽培で一大産地化を狙うJAとぴあ浜松(静岡県)
ドラッグストアは野菜売り場になっていくのか?

イーサポートリンク株式会社/株式会社タイナイ
地域内物流を担う「やさいバス」に新たな可能性が見えてきた
長野県・松本地域で実証実験終了、本格運用へ!
カッコいいより、生産者のキャラがにじみでるのが農の「ブランディング」です
ブルーファーム株式会社(宮城県大崎市) 代表取締役早坂正年
世界一高価なブドウルビーロマン
その奇跡の誕生と苦難の栽培
全国の酒蔵が欲しがる岡山産雄町米の実力と産地のプライド
酒米「雄町」のブランド戦略
比較すると見えてくるもの
マルシェ 3 日本の直売所
堀口さやか
シリーズ 産地形成
宮城県名取市の「セリ」
セリ鍋ブームに沸く400年の伝統産地
「世界都市農業サミット」練馬区で開催
小野淳

地元に支持されるブランディングから出発したAmbitious Farm(北海道江別市)の経営戦略
「売れる野菜」にするためには、選ばれる理由を作ることだ
料理人に愛されるNOTO高農園(石川県七尾市)の「世界観」
作ったから売る、のではなくお客様のニーズや情報を集めて作る

連載 ほんとうに強い農業をつくる
vol.26 大局観が求められる農業政策 青山浩子
連載 農 Bizニュース解説 世界と畑はつながっている
第16回 マーケットを切り拓く十勝のパイオニア 山田優
連載 季節感をクリエイトする旬野菜
第4回 冬 母良田さやか
新連載 小野淳が会いに行く 新 東京農業クリエイターズ
第2回 東京都目黒区「八雲のはたけ」小野淳
連載 今日から変われる 農家経営を劇的改善
vol.7 生産活動を管理できていますか? 阿部梨園 佐川友彦
連載 新しい農・食・ライフスタイル
vol.22 ソリューションパートナーたちを魅了した
「衝撃の食材」 北村貴

農ビズNEWS
トマト自動収穫ロボット/大葉収穫作業支援ボット
新品種続々誕生!
アグロ・イノベーション2019
PHOTO TOPICS
「ゴヒイキ」スタート/新刊案内
アプリ・サービス紹介
新製品ナビ What’s New
作業機付きトラクター 公道走行が可能に
農のニュースをダイジェスト
農のイベント&農のセミナーカレンダー

次号予告

図解即戦力 農業のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書

日本農業の現状と将来がよくわかる

新型コロナウイルスの感染拡大は、外食需要の激減、人材不足、米相場の値崩れなど、農業にも少なくない影響を与えています。本書は、刻々と変わる状況を冷静に把握し、今後の点棒を保つための情報を可能な限り盛り込んでいます。農業の現状把握、主要産物の生産・消費・流通、環境へのリスク、海外進出の動きなどを紹介します。

窪田 新之助 (著), 山口 亮子 (著)
出版社 : 技術評論社 (2020/6/20)、出典:出版社HP

はじめに

新型コロナウイルスの感染の拡大は、農業にも少なくない影響を与えている。外食需要の激減、外国人技能実習生の入国が困難になったことに伴う人材不足、高止まりしていたコメ相場の値崩れなど。収入保険を始めとするセーフティネットの重要性は、かつてなく高まっている。「STAY HOME」と呼びかけられ、人々が職場と娯楽を離れて家に閉じこもったことで、生活の根幹をなす「食」への関心はむしろ高まったようだ。ただし、コメの常軌を逸した買い占め、消費者による種苗法改正への感情的な反対などが起き、よいことばかりではない。こうした不合 理な行動に、農業現場と消費者の距離の遠さをあらためて感じる。

農業の全体像を把握し、変化に備えるための知識を本書にまとめたつもりだ。農業の現状把握から始まって、構造調整や主要作物の生産・消費・流通、農業資材の業界の動向、環境へのリスク、スマート農業の現状、海外進出の動きなどを紹介する。

国内農業は農家の高齢化と離農が進み、その構造を大きく変えようとしている。本書はこれをことさら危機として煽る立場は取らない。刻々と変わる状況を冷静に把握し、今後の展望をもつための情報を可能な限り盛り込んだ。手垢のついた農業論にならないよう、2人の著者のこれまでの取材に基づき、構成した。また、各章に入りきらなかった農業のこぼれ話や論点を、コラムとして挿入している。

頭から読み進めてもいいし、関心のある章から読んでもらってもいい。巻末に索引を付しているので、気になる用語の解説から確認していくこともできる。2人の著者は、氷河期世代とミレニアル世代。圧倒的多数の高齢で零細な農家の保護を念頭に置いた農業言論界のスタンダードとは違う視点を、感じていただければ幸いだ。本書が農業への理解を深める一助になることを願ってやまない。

2020年6月 窪田新之助 山口 亮子

窪田 新之助 (著), 山口 亮子 (著)
出版社 : 技術評論社 (2020/6/20)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに

Chapter 1 日本の農業はどこへ行くのか
01世界飲食産業という巨大市場にどう食い込めるか
緊急事態下における人手不足とスマート農業による省力化

02 経済効果抜群!やみくもに作業量の多い農業からの脱出
衛星とドローンを活用した可変施肥

03簡易で汎用的な技術が誕生する可能性あり
品種改良を加速させるニューバイオ

04技術をパッケージ化して国際展開する。
メイド・バイ・ジャパニーズ

05餌としての適性を見極めたデータ管理が可能に
牧草地の衛星データをAI 解析で草種判別

06小集団活動が変える現場
カイゼンが進む農業の現場
COLUMN1 ロボトラが走る日は来るのか

Chapter 2 日本の農業を知るための基礎知識
01農業衰退の主因はコメにある
減少する農業の総算出額

02全体の9%の農家が売上の73%を稼ぐ
日本の農家の実態

03かつてないほどの規模で進む離職
大量離農の時代

04造成しすぎた農地のなれの果て
耕作放棄地を問題視する必要はない

05収穫量、価格力ともに課題は多い
日本の農業技術は高いのか

06農業を生業としない組合員が増えていく
日本最大級の組織・JA

07 輸入野菜の加工品や冷凍野菜が好調
日本の野菜市場における輸入品の役割

08 ジュースなど加工品の落ち込みが響く
果実の輸入のすう勢
COLUMN2 農業は危険な職業

Chapter 3 主要作物の生産・消費・流通の最新動向
01必要なところに足りない状況が続く
コメの生産状況と消費動向

02用途に応じた品種の開発と生産が進む
商品としてのコメに求められる“付加価値”

03依然大きな比重を占めるブランド米の開発
相次ぐ新品種のデビューと収量の改善

04総額8兆円以上にものぼる一大政策
減反政策は廃止されたのか

05麦の9割は輸入
麦の生産・流通・消費

06秋まき品種で収量の10~15%増が期待できる
北海道の小麦農家が期待する「みのりのちから」

07実行に移すにあたっては慎重な検討が必要
園芸の振興はコメの減少分を補えるのか

08大規模な経営体が続々誕生
畜産業は規模拡大の流れ

09WAGYUと和牛、共存と棲み分け
海外で評価が高まる和牛

10 小売価格は安定、卸売価格は激しく変動
「物価の優等生」の卵の実際

11多様なサービスと商機が考えられる
花きの生産と需要

12厳しすぎる基準にメリットはあるのか
農産物検査の合理化

13 主要作物の生産・消費・流通の最新動向
施設園芸で成功するヒント
COLUMN3 ブランド米「つや姫」の陰

Chapter 4 生産性向上の鍵を握る資材とその業界の動き
01農業資材の進歩がもたらした食糧増産
農業資材と人口増加

02海外進出とリースの台頭
農機メーカー

03販売競争がはたらきにくい業界構造
農薬メーカー

04小規模事業者がひしめきあう
肥料メーカー

05厳しい状況にあり再編が続く
飼料メーカー

06環境ストレスから植物を守る新技術
農業資材の新区分・バイオスティミュラントとは

07生き残るためには輸出を伸ばすことが不可欠
種苗メーカー

08今後大手への集約が予想される
苗業界

09農家の生産コストを上げている農業資材
世界との農業資材価格の違い

10データ通信の相互接続性を担保する
ISOBUS

11農業分野での国際標準化の促進を目指す世界的なつながり
AgGateway Asia
COLUMN4 原料の枯渇が懸念される化学肥料

Chapter 5 変革する農業経営
01残る農家に土地が集まる
大規模化する農業経営体

02法人化すれば節税になることも
増え続ける農業法人

03 15haの壁をどう乗り越えるか
規模拡大の限界と突破

04 「農業で稼ぐ」を実現する
フード・バリュー・チェーンを意識した儲かる農業ビジネス

05大量離農の受け皿
フランチャイズ農業

06課題が山積し、経営が行き詰まる
集落営農の陥るジレンマ

07 集落営農を次世代へ引き継いでいくために
広域化と連携が集落営農の解

08加速する大規模化、株式会社化。
農地の集積

09 心理的ハードルが色濃く残る
農地の境界を超えるトランスボーダーファーミング

10自営を増やすのではなく雇用型を支援すべき
新規就農支援事業は増額すべきか

11 農業のユニバーサルデザイン
農福連携

12農家とアルバイターの互恵関係を築く
JAが主導する農家の人材確保

13 「最後の担い手」の重要性
拡大するJA出資型法人
COLUMN5 稲作を始める米穀店

Chapter 6 国の食糧戦略を示す農政
01国の食糧戦略を示す農政
自給率をめぐって迷走する食料・農業・農村基本計画

02公正な価格形成を実現するために
自由市場のないコメ

03 生産者に補給金が支払われる緩和策
野菜価格安定制度は必要か

04用途別にそれぞれ乳価がある
生乳の特殊な流通とプール計算

05広域をカバーする強力な組織
指定団体による生乳の需給調整

06 増羽しないと経営が厳しくなる
採卵養鶏の生産調整が大規模化に果たした役割

07類似した制度がいくつもあり見直しも必要か
農家のセーフティネット

08なぜ実態と違ってしまうのか
ゆがむ統計

09都道府県で優良な品種を育成するために
種子法廃止と民間育種

10国の食糧戦略を示す農政
改正農薬取締法
COLUMN 6 都市農業の価値と2022年問題

Chapter 7 流通の変化と展望
01卸売市場を経由するルートは右肩下がり
食品の流通ルート

02食品の新しい流通ルート
ネット販売やオーナー制度

03消費者ニーズに基づいた生産が可能に
激変する農業マーケット

04 データを使ったフード・バリュー・チェーンの構築
量より質でJAと連携するスタートアップ

05業界再編の端緒となるか
改正卸売市場法

06 ステークホルダーと連携を
卸売市場発の変革

07メーカーやショップとの直接取引
契約栽培の拡大

08健康という切り口から食品に新たな価値をもたらす
成長する機能性表示食品
COLUMN7 コメ先物取引で中国の後塵を拝する日本・

Chapter 8 農業と環境
01地球上の土壌の33%以上が劣化している
危機にさらされる土壌

02発生情報の確保と迅速な対応が求められる
日本国内に棲息する病害虫

03さまざまな技術を総合的に組み合わせる
環境に配慮した防除のあり方

04日本農業にとっての脅威になりうる
侵入病害虫

05農業の生産活動における適正な管理のための規格
GAP

06 たった1度の気温上昇が及ぼす多大な影響
気候変動による農業への打撃

07 新たなビジネスにつながる研究が盛んに行われる
化学肥料を減らす微生物

08化学農業、化学肥料に依存しない
冬水田んぼ

09 お互いがお互いに支え合い成り立つ
農業が自然環境に与える影響

10額面以上の深刻な影響も懸念される
あらためて問う鳥獣害対策
COLUMN 8 野生動物の解体処理施設を増やすべきなのか・

Chapter 9 スマート農業の可能性と課題
01 “賢い”農業を目指す!
スマート農業とは何か

02スマート農業の象徴ともいうべき新技術
「GPSガイダンスシステム」と「自動操舵装置」

03質の良いビッグデータは利益を生み出す
スマート農業の鍵を握るデータのありか

04収量と品質のデータを活用して上昇スパイラルに
農業におけるPDCA

05創意工夫で最新テクノロジーを活用
メーカーに依存しないスマート農業化

06省力化はもちろんウシの状態まで分析可
搾乳ロボットの偉大な力

07人工衛星で収穫の適期を割り出す
人工衛星と農業

08住み続けようと思ってもらえる農村環境を目指す
健康までカバーする岩見沢市の農業戦略
COLUMN9 東京・新宿で広がる内藤とうがらし

Chapter 10 世界における日本農業の戦略
01農林水産物輸出額の目標は1兆円
急成長する世界の食市場と日本の輸出力の実態

02農業と農村が果たすべき新たな役割
観光資源としての農村

03 優れた苗を提供し、経営を発展させる
アジアに進出する苗ビジネス

04 海外への無断流出の蛇口を閉める
強まる種苗の保護の動き

05全国で増えるてん茶の生産
世界的抹茶ブームが茶産地の景色を変える

06 小麦に取られた市場を取り返すチャンス
コメの新たな商機・グルテンフリー

07遺伝資源の流出を阻止することが重要
日本の知財の流出を防げ

索引

窪田 新之助 (著), 山口 亮子 (著)
出版社 : 技術評論社 (2020/6/20)、出典:出版社HP

図解よくわかるスマート農業-デジタル化が実現する儲かる農業-

スマート農業にフォーカス

日本の農業にもデジタル化の波が押し寄せスマート農業がブームとなる一方で、「どういう技術をどのように使えばいいかわからない」という悩みが全国の農業者から多く寄せられています。本書では、スマート農業の現在について具体事例を中心に紹介するとともに、スマート農業の導入ステップや失敗しないためのポイントを解説しています。

三輪 泰史 (著), 日本総合研究所研究員 (著)
出版社 : 日刊工業新聞社 (2020/3/28)、出典:出版社HP

はじめに

近年、日本の農業にもデジタル化の波が押し寄せています。農林水産省では、IoT(モノのインターネット)・AI(人工知能)・ロボティクスなどの先進技術を駆使した農業を「スマート農業」と位置付け、研究開発と普及を積極的に推進しています。スマート農業は農業就業人口の減少、農業者の高齢化、耕作放棄地の増加、収益性の伸び悩みといった日本農業の課題を解決する切り札として期待されています。

2019年は農水省などの支援を受けて研究開発が進められてきた自動運転トラクター、農業ロボット、農業用ドローン、生産管理システムなどが実用化し、実証事業などを通して普及へと動き始めました。そして2020年は、いよいよスマート農業技術が農業者の現場に本格的に導入されていくタイミングとなります。

スマート農業がブームとなる一方で、筆者が全国の農業地域を回っていると、多くの農業者から「スマート農業に関心があるが、どういう技術をどのように使えばいいか分からない」という悩みを伺います。多種多様なスマート農業技術が実用化されつつあり、農業者にとっては自らに適したものを選ぶのが難しい状況になっているのです。いかに優れたスマート農業技術であっても、きちんと使いこなせなければ、課題解決にはつながりません。また、黎明期から普及期への過渡期にあるため、製品・サービスによって技術成熟度やサポート体制に大きな差があることに注意が必要です。スマート農業を使いこなすには、しっかりと情報収集することが不可欠です。

本書では、スマート農業の現在地について具体事例を中心に紹介するとともに、スマート農業の導入ステップや失敗しないためのポイントを解説しています。加えて、農水省などによるスマート農業の研究開発支援、普及支援 政策や、規制改革の方向性についても紹介します。スマート農業、IoT/AI、そして地域活性化に対する関心が高まる中、本書の内容が、スマート農業を導入して様かる農業ビジネスを実現しようとしている農業者やビジネスパーソンに対して、少しでもお役に立てば、筆者としてこの上ない喜びです。

本書では、株式会社日本総合研究所に所属する農業・流通・食品・環境などを専門とする多くの研究員が執筆に参画しました。豊富な経験と鋭い発想力を基に、スマート農業の現状と活用方法について分かりやすく解説してくれた執筆者陣に感謝申し上げます。本番の企画、執筆に関しては日刊工業新聞社の土坂裕子様に丁寧なご指導を頭きました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

最後に、筆者の日頃の活動にご支援、ご指導を頂いている株式会社日本総合研究所に対してもより御礼申し上げます。

2010年3月株式会社日本総合積究所創発戦略センター
三輪泰史

三輪 泰史 (著), 日本総合研究所研究員 (著)
出版社 : 日刊工業新聞社 (2020/3/28)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 スマート農業をビジネスにする
1 成長産業化が進展する日本農業 農業は“儲かる”ビジネスへ
2いま注目の“スマート農業”とは、IoT、AI、ロボティクスが変える農業像
3 スマート農業の3分類 スマート農業を構成する匠の眼・頭脳・手
4 2035年、日本は“農業者100万人時代に ピンチをチャンスに変える逆転の発想
5 なぜいま“スマート農業”なのか 日本農業の課題を解決する切り札
6 日本型スマート農業 大規模化だけでない。アジア市場へと躍進

第2章 農業ビジネスの始め方
7 合言葉は“農業ビジネス” “儲かる農業”と“儲ける農業”は違う
8 農業の始め方<新規就農> 自ら農場を始めるか、農業法人に就農するか
9 企業の農業参入モデルの分類農地を「借りる」か「買う」かが参入形態の分かれ目
10 農地を確保するには 計画に合った農地を用意しよう
11 山農業技術の学び方 学校や研修機関を活用した体系的な技術取
12 位外国人材の有効活用 若手が少ない農村地域の労働力不足に対応
13 資材調達の方法 資材の効率的な使用・調達を支えるシステム

第3章 スマート農業の導入ステップ
14 スマート農業導入の6つのステップ まずはしっかりとした計画策定を
15 効率的な情報収集方法 スマート農業の先駆者から成功要因と課題を学ぶ
16 ニーズに合った農業技術の選定 「品目×作業」から適切な技術導入を
17 スマート農業はシェアリングが基本 ヒト・モノ・カネ・ノウハウの共有がカギ
18 スマート農業サービス事業者への作業委託 スマート農業のプロにお任せ
19 設備導入のための資金調達 まずは現実的な事業計画の準備を
20 スマート農業技術の利用時の注意点 広く普及するまでは農業者個人での“理解”が必要
21 スマート農業で失敗しないためのポイント① 本気度の高い、スマート農業技術を選ぼう
22スマート農業で失敗しないためのポイント② 最新の技術・政策情報を常に入手しよう

第4章 スマート農業の“匠の眼 ”
23 ドコモニタリング用ドローン 人が持てない視野から見る。広範囲の生育状態の把握が可能
24 人工衛星リモートセンシング 宇宙から場を見る。人工衛星の画像を解析して生育状態等を把握
25 気象センサー 遠隔場の気象状況の確認が容易
26 土壌センサー 定量的な管理作業判断が可能に
27 畜産用センサー 家事をセンサーで見守り、効率化向上とリスク低減を実現 ”

第5章 スマート農業の“匠の頭脳”
28 生産管理システム<概要> スマート農業のはじめの一歩。農業経営もPDCAで改善
29 生産管理システム<事例> 自身のニーズに合わせてアプリケーションを選択
30 畜産向け生産管理システム ICTを活用して、家畜の管理を高度化
31 農業データ連携基盤 様々なアプリやデータベースが連携するプラットフォーム
32 AIを活用した病害検出システム AIで病害のリスクを大幅低減
33 AIを活用した収穫量予測 AIによる画像解析で収穫計画を精緻化
34 収穫予測アプリケーション 収穫タイミングを見える化。穀物を中心に収穫時期を科学的に予測

第6章 スマート農業の“匠の手”
35 自動運転農機 様々な農機の自動化が急速に進展
36 農業ロボット① 除草ロボット 農業者を悩ます除草作業をロボット導入で手軽に
37 農業ロボット② 収穫ロボット 収穫作業を変容するロボットが従量課金型サービスとして登場
38 農業ロボット③ 多機能型ロボット 農業者に寄り添い、ともに成長するロボット
39 畜産ロボット① 搾乳ロボット 搾乳の自動化で酪農の働き方改革を実現
40 畜産ロボット② 給餌ロボット生育促進、ロス削減、作業時間短縮を同時に実現
41 作業用ドローン 空から短時間で効率的に、農薬や肥料を散布
42 水田自動給排水システム 水管理の労働力を大幅に削減
43 植物工場① 人工光型 続々と立地する巨大工場。競争は激化
44 植物工場② 太陽光型・太陽光併用型 進化を続ける施設園芸技術、世界最高峰のオランダを猛追

第7章 スマート農産物流通
45 改革が進む農産物流通 生産者と消費者を直結するダイレクト流通が拡大
46 卸売市場の役割と今後の方向性 法改正で卸売市場の役割が大きく変わる
47 存在感を増すインターネット販売 インターネットの普及で農家主導の販売が可能に
48 需給マッチングを最適化するスマートフードチェーン スマート農業は生産から流通・消費にまで拡張
49 品質・鮮度の保持技術 優れた農産物の安定供給が実現
50 農業者と地域が協力するラストワンマイル物流 農産物出荷の帰り道を有効活用

第8章 スマート農業を後押しする政策・支援策
51 スマート農業の普及を進める政策 スマート農業は研究開発フェーズから普及フェーズへ
52 スマート農業を対象とした支援制度 開発、実証、導入の3段階での手厚いサポート
53 スマート農業実証プロジェクト コメ、野菜、果樹、畜産などの各分野で成功事例を創出
54 スマート農業に関する技術指導 多岐にわたる技術の習得は専門性を高める1つの手段
55 スマート農業のこれからの技術開発戦略更なる発展を目指すスマート農業

第9章 スマート農業の追い風となるトピック
56 農業とSDGs SDGsは人類共通の課題。農業との結びつきは広い
57 気候変動によるリスク 気候変動による影響が拡大、農業は「適応策」のトップランナー
58 生物多様性と農業の両立 農業だからこそ着献できる社会的責任
59 品種開発の新技術・ゲノム編集、新技術で生まれる新品種に相応しい生活環境・管理能力を
60 農業ビジネスの海外展開①新興国での農産物需要 高所得層向けが牽引する
61 農業ビジネスの海外展開②農産物輸出 品目別輸出から探る成功パターン
62 農業ビジネスの海外展開③日本式農業モデル 現地生産・現地販売でより多くの海外の消費者をターゲットに
63 農村デジタルトランスフォーメーション 農業と農村を一体的にデジタル化

Column
1 GAPの本質
2 「地域ブランド」を後押しする地理的表示保護制度
3 地域の魅力を収益に変える伝統野菜
4 インバウンド向け販売は“隠れた農産物輸出
5 MY DONKEYの構造と活用シーン
6 MY DONKEYのシステム 一農業におけるデータ利活用の基盤として機能する一
7 MY DONKEYが提供するデータ農業サービス
8 MY DONKEYの活用事例① 栃木県茂木町
9 MY DONKEYの活用事例② サントリー

参考文献
参考資料
索引

三輪 泰史 (著), 日本総合研究所研究員 (著)
出版社 : 日刊工業新聞社 (2020/3/28)、出典:出版社HP