物流危機は終わらない – 安く、早く、モノが届く

全目次 - 物流危機は終わらない
目次

はじめに

第1章 宅配が止まる?
―ヤマト・ショックから考える
1 ヤマト運輸の「サービス残業」問題
2 「即日配達」と「送料無料」
―ネット通販以後
3 「お客様のために」
―形骸化していったルール
4 社会を維持するコスト

第2章 休めない、支払われない、守られない
―トラックドライバーの現実
1 物流の九割を占める日本経済の黒衣
2 ドライバーを取り囲む法制度の「抜け穴」

第3章 悩む物流 ―なぜこんなに安く荷物が届くのか
1 激化する業界競争
2 賃金の低下と成果主義の強化
3 物流二法は何をもたらしたか

第4章 経済のインフラを維持できるか
―持続可能性の危機
1 危機の解決策はあるのか
2 深刻化した人手不足
3 「適正な料金」に向けて
4 運賃が先か、賃金が先か」
5 荷主を巻き込む

第5章 物流危機が問いかけるもの
1 「適正」な企業が淘汰され、「不適正」な企業がはびこる」
2 「高い質を安い価格で」の限界
3 ルールづくりの重要性

あとがき

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首藤 若菜 (著)
出版社: 岩波書店 (2018/12/21)、出典:出版社HP

本書は労使関係論や女性労働論を専攻の立教大学経済学部教授である首藤若菜氏による著作で、物流企業や運送会社、業界団体、労働組合、荷主業者、国交省、厚生労働省などへのインタビュー調査などで収集した資料に基づいてトラック業界におけるドライバーの働く姿を描写し、労働の観点から「物流危機」をもたらした原因を明らかにすることを目的としています。

第1章「宅配が止まる?――ヤマト・ショックから考える」ではまず、ヤマト運輸で問題となったサービス残業と、その解消のために利用者が追求する利便性のための事業が抑制されつつあるという事態について言及されています。本章ではその原因について、ネット通販などの利用者と通販業者が求める「即日配達」や「送料無料」などのサービスが大きな一因であると明らかにしており、また同社では「働き方改革」が取り組まれ始めたことも述べられています。しかし、ヤマト運輸が荷主や利用者の利益を優先させてきたように、中小運送会社のドライバーもまた荷主の都合に振り回されて働いているという、業界の商慣行や雇用慣行の影響などについても本章最後では言及されています。

第2章「休めない、支払われない、守られない――トラックドライバーの現実」では、物流における物の輸送手段で9割を占めるトラックのドライバーが、延着へのプレッシャーから常に時間に追われ、その上高速料金が荷主から収受できないために自身の休憩時間を削ってでも高速道路を利用せず経費削減をしているなどの劣悪な労働の実態について示されています。また、特にトラック運転手は労働時間管理がルーズになりやすいため、ドライバーに対しては一般労働者とは別の労働時間の基準が適用されましたが、強行法規ではなく、十分に遵守されていない現状についても述べられています。

第3章「悩む物流――なぜこんなに安く荷物が届くのか」では、高速道路整備に伴う物流ニーズの上昇などのトラック業界の特性や構造により、運送会社が荷主に対して交渉力を持ちえない現状についてまず言及されます。また、2003年にトラック業界における営業区域の制限が廃止されたことに対し、業界団体の全ト協が反対していた一方で、ヤマト運輸などの企業は消費者をより重視できると肯定的でしたが、この規制緩和によって運賃の決定方法が制度的なものから市場的なものになったと述べられています。本章では他にも、トラック業界には賃金の低下や成果主義の傾向がもたらされたことや、物流二法によってどのような結果がもたらされたかについて述べられており、最後には、現実的でより効果的な施策として、社会保険の加入や労働時間などのワーク・ルールを遵守しうる規模の事業者のみに参入を制限する案を挙げ、社会的規制を機能させるためには、経済的規制を強化する必要があるとまとめられています。

第4章「経済のインフラを維持できるか――持続可能性の危機」ではまず最初に、ブラジルで起きたストライキを例に挙げ、物流が止まるという現象によって国内外の多方面にどのような影響をもたらすのかが述べられており、物流が経済の基盤であることが改めて示されています。また、将来的には自動運転で代替可能とされがちなドライバーですが、現段階では質を備えた物流のためには環境規制や安全基準に則って貨物運搬を担う運送会社と、それらのルールを守って働くドライバーによってインフラは担われざるをえないことが述べられており、やはり労働環境の改善に向けた取り組みが重要であることを示しています。本章では深刻な人手不足や適正な料金、荷主の協力などの課題を前に、どのような労働環境改善の取り組みがなされているかについて説明されています。

第5章「物流危機が問いかけるもの」では、商品価格に見合わない過剰なサービス提供の蔓延にも見られるように、適正な企業が淘汰されて不適正な企業がはびこっている現状についてまず言及されますが、これに対しトラック業界では政府も介入しつつ、業界改善という抵抗運動がなされてきたことが述べられています。本章では、高品質のサービスを安価で提供することにも限界があり、価格を上げることで労働生産性を上げられるということや、ワーク・ルールの重要性やそれを守るためにも労働組合がうまく機能する必要があることが述べられています。最後には、消費者である私たちが自身の経済活動とトラックドライバーなど労働者の過酷な労働実態の関係性をしっかり認識し、彼らの労働改善のためにコストを分かち合うことやそのような社会的連帯を強めていくことが重要であるとまとめています。

本書は、物流における運輸の9割を占めるトラックドライバーの労働の過酷な実態について焦点を当てて物流危機について詳しく説明しているため、消費者が普段の経済活動だけでは見えにくい物流の問題を他人事ではないと知ることができる内容になっており、労働について深く考える機会を与えてくれるものであると言えます。また、労働環境の改善やその広がりが業界全体の改善に繋がるという、企業が無視すべきではない指摘についても考えさせられる内容になっています。

首藤 若菜 (著)
出版社: 岩波書店 (2018/12/21)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 宅配が止まる?
―ヤマト・ショックから考える
1 ヤマト運輸の「サービス残業」問題
2 「即日配達」と「送料無料」
―ネット通販以後
3 「お客様のために」
―形骸化していったルール
4 社会を維持するコスト

第2章 休めない、支払われない、守られない
―トラックドライバーの現実
1 物流の九割を占める日本経済の黒衣
2 ドライバーを取り囲む法制度の「抜け穴」

第3章 悩む物流 ―なぜこんなに安く荷物が届くのか
1 激化する業界競争
2 賃金の低下と成果主義の強化
3 物流二法は何をもたらしたか

第4章 経済のインフラを維持できるか
―持続可能性の危機
1 危機の解決策はあるのか
2 深刻化した人手不足
3 「適正な料金」に向けて
4 運賃が先か、賃金が先か」
5 荷主を巻き込む

第5章 物流危機が問いかけるもの
1 「適正」な企業が淘汰され、「不適正」な企業がはびこる」
2 「高い質を安い価格で」の限界
3 ルールづくりの重要性

あとがき