【最新】インバウンド・ビジネスを学ぶおすすめ本 – 訪日外国人から人気を得るには?

インバウンド・ビジネス/経済の知識を身に着けて実践!

より多くのインバウンド需要を地域、企業のビジネスに組み込みたいところですが、何から始めればよいかわからないところがあります。そのためには近年のインバウンド観光客の特徴、人気観光地、または自身の地域のどこに優位性をもたせるべきかなどニーズ発掘をしていく必要があります。今回はインバウンド観光客をより取り込んでいくためのポイントを豊富に揃えた書籍を紹介します。

ランキングも確認する
出典:出版社HP

インバウンド・ビジネス戦略

インバウンドを如何にして活用するか

本書の目的は、新規参入を含めた多様なインバウンド・ツーリズムに関わっている人々が、大きな方向性を議論する具体的なフレームワーク、そして戦略を構築し、具体的に実践する指針を提示しようというものです。既存のツーリズム事業者や新規参入を狙っている方におすすめです。

早稲田インバウンド・ビジネス戦略研究会 (著), 池上 重輔 (監修)
日本経済新聞出版

まえがき

本書は日本の未来を持続的に発展させ得るインバウンド・ビジネス戦略の方向性を提示することを目標にしており、そのために読者が自社・自地域の特性を最大限に活かしながら持続的に利益を獲得できるパラダイムシフト(考え方の転換)を支援する様々な示唆を盛り込んでいる。

昨今“インバウンド”がツーリズムを中心に注目を集めている。2019年1月にJNTO(日本政府観光局)が出した発表によれば、いくつかの災害があったにもかかわらず2018年の年間訪日外国人客数は前年比8.7%増の3119万2000人で、JNTOが統計を取り始めた1964年以降で最多となったという。

これは、世界全体の国際観光客到着数の成長率を大きく上回るペースで伸長している。地域別では東アジア圏を中心に、欧米圏からも堅実な成長を見せ、香港を除く19市場で過去最高を記録したという。2017年時点で外国に旅行した人は世界中で3億2000万人で、1990年の4億4000万人から3倍の成長をみせていることから考えると、世界における観光客到達数ランキングで12位である日本には数的にまだまだ成長の余地があるといわれている。

日本政府はこれまで、「観光/ツーリズム」を国の重要な成長戦略の柱として位置づけ、積極的に観光を振興してきたが、2016年3月、「観光先進国」の実現を目指して「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、これまでの政府目標を大幅に前倒しする形で、「訪日外国人旅行者数を2020年に4000万人、2030年には6000万人」という新たな目標値を発表した。発表当時はかなり挑戦的な数値とも思われたが、着実に射程圏内に入ってきたといえよう。

このように、訪日外国人旅行市場の急速な拡大や、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2025年の日本(大阪)万国博覧会といった国際的な巨大イベントの開催決定などを背景に、「観光」、とくに、「インバウンド(訪日外国人旅行)」に対する期待がますます高まっている。東京・大阪・京都などの、いわゆる「ゴールデンルート」と呼ばれる人気観光都市はもちろん、地方都市から農山漁村地域に至るまで、日本全国すべての地域にとって、インバウンドは大きなビジネスチャンスとなるからだ。

しかし、ここで一瞬立ち止まって考えてほしい。訪日観光客数を今のやり方の延長線上で増やしていくことが日本の未来を、読者の皆さんの未来を持続的に豊かにしていけるのだろうか?訪日人数の増加も必要であろうが、どのような状態になっている未来像が我々にとって、そして海外の人々にとって理想的な状況なのか、そのビジョンと戦略を議論しておく必要があるのではないだろうか?そして、それをどのように実行していくかの具体的な方法論も必要であり、それらのビジョン・戦略・具体的な実践方法の間で何らかの一貫性も必要になってくる。

政治家、官僚、観光事業者、観光以外の事業者、学者、コンサルタントなどから様々な提言・提案・取り組みがなされているが、1中長期的に持続的に収益を上げ、2国際競争力を意識し、3理論と実践のバランスをとった――議論・本は少ないように思われる。監修者が最近座長をさせていただいた経済産業省の「インバウンド起点のクールジャパン政策研究会」でも、同じような課題が提示されていた。

本書は「インバウンド・ビジネス」という、ツーリズムにとどまらない広い定義を適用しているが、ツーリズム分野だけでも既存のツーリズムプレイヤーに加えて新規プレイヤーが参入しつつあり、インバウンド・ビジネスと広義に捉えるとより幅広いプレイヤーが関与してくる。そうした新規参入を含めた多様なプレイヤーが大きな方向性を議論する具体的なフレームワーク、そして戦略を構築し、具体的に実践する指針を提示しようというのが本書の目的である。ゆえに執筆メンバーもアカデミック、実務家の両方で構成されており、それぞれの専門分野も相互補完的である。アカデミックの専門分野は経営戦略、国際経営、コンテンツマーケティングなど、実務家の専門分野はアジア、旅行代理店、IT系、IR系など多種多彩である。

本書はこれまでのインバウンド・ビジネス、インバウンド・ツーリズムの常識感とはやや違った提言をしているかもしれない。しかし本書で提示しているようなパラダイムシフト(考え方の転換)なくして、収益性を伴った持続的成長は期待しにくい。ぜひ、既存のツーリズム事業者の皆さん、新規参入を狙う皆さんに、本書を片手に現在の戦略の見直し、中長期の方針検討を行ってほしい。

本書の構成は大きく3つに分かれる。

1つ目は新たなインバウンド・ビジネスを考察・実行するにあたっての考え方、基本的な知識を記述した第1~8章である。第1章は本書の基調となる、1事業ドメインの拡張、2サービスと価格のバランスに対する価値観の転換、3“ビジネス・エコシステム戦略”の適用、4顧客アプローチの転換、5インフォーマル・リーダーシップの習得という5つのメッセージを提示し、富裕層の潜在性を述べている。

第2章ではツーリズムを取り巻く国内・海外の環境とその変化を概説し、読者にグローバル・ツーリズム・ビジネスの全体像と日本の位置づけを提示している。第3章はオーセンティシティ(本物感)という概念を提示し、日本の潜在性がさらに広げ得ることを語っている。第4章はツーリズムにおいてイノベーションの果たす役割とその活用に関して説明している。様々なタイプのイノベーション例をみることで活用のチャンスが広がるだろう。

第5章はインバウンド戦略を構築するための“ビジネス生態系”戦略について述べている。スタンダード、プラットフォームの活用によって面としての魅力度を向上させ、競争力をアップさせること、そのひとつの具体化としてのDMOをロンドンの事例を使って説明している。またプレミアム化に向けてのビジネス生態系戦略に関しても述べている。さらには新たな市場を創造するためにブルー・オーシャン戦略の要点にも触れている。

第6章は特にSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)にフォーカスしてインバウンド・ツーリズムのマーケティングを語っている。どんなターゲット国・地域、ターゲット層を狙うかは重要なテーマである。第7章ではツーリズム生態系を構築するためのICT(情報通信技術)プラットフォームに関して、旅マエ、旅ナカ、旅アトの全体像を提示し、様々なツーリズム事業者がどのように位置づけられるかを解説している。ツーリズムはストーリーによってその魅力を増加させるが、第8章では、その多様な方法論をニューツーリズムというフレームワークを使いながら解き明かし、青森県田舎館村の事例などを使いながら説明している。

2つ目は、いくつかの重要な論点に関する事例である。第9~11章はエリア事例で、2~3章はテーマ事例である。

第9章は現時点では訪日観光客の7割を占める中国・韓国・台湾・香港の東アジア圏へのアプローチに関して具体的な処方箋が語られている。第10章は世界最大の観光客吸引国であるフランスがどのようにその地位を構築してきたか、そして観光急進都市であるアムステルダムがどのような戦略をとっているかを考察している。第11章はストーリー戦略の中でも特にアートツーリズムを瀬戸内国際芸術祭、リボーンアート・フェスティバルなどを事例に解説している。

第12章は、金額ベースでは世界最大の観光大国であるアメリカのなかでも特に富裕層の取り込みに成功しているナパバレーのワインツーリズムを分析している。第13章は昨今日本でも話題のIR(統合型リゾート)を扱うが、海外におけるビジネスモデルとその功罪、国内におけるチャンスとリスクを、ここまでコンパクトでありながら包括的に深く語った本はほかにないのではないだろうか。

3つ目は人材に関するパートである。インバウンド・ビジネスをけん引するには、公式なポジションや権力を持たないインフォーマル・リーダーシップも必要となってくる。第14章では国際的にインフォーマル・リーダーシップを発揮するにはどうすべきかを、開花亭(福井県)の開発毅氏がどのように衰退しつつあった料亭街を立て直し地域活性化につなげ、国際的なトップブランドとの懸け橋を構築してきたかを説明する。第15章は、そのようなインバウンド・ビジネス、ツーリズム・ビジネスにおけるリーダー人材育成に関して、国内・海外の教育機関、内容などについて包括的なスタディを行っている。

早稲田インバウンド・ビジネス戦略研究会 (著), 池上 重輔 (監修)
日本経済新聞出版

謝辞

寺﨑が担当した第3章は、平成30年度公益財団法人戸部眞紀財団研究助成事業の支援による研究成果の一部である。工藤が担当した第10章では原泰史(パリ社会科学高等研究院/一橋大学経済学研究科)、稲垣京輔(法政大学)、徳田昭雄(立命館大学)に支援をいただいた。井上が担当した第12章ではVisiting Napa Valley CEOのClay Gregory氏および職員の皆様に多大なご協力とご助言をいただいた。また、Travel Trade担当のLynn Jakubowski氏には研究資料の収集にご協力いただき、Fuller & Sander CommunicatesのTom Fuller氏には現地調査の手配にご協力いただいた。ナパバレーコミュニティの皆様には、常に暖かくサポートをしていただいている。桑原が担当した第5章では早稲田アカデミックソリューションの小柳恵子氏にサポートいただいた。マレーシアのアップルバケーションから留学していたZhan Hao Lee君にはコラムで支援いただいた。池上の取材・執筆全般において息子剣太郎と妻智子に多様な支援を受けた。

ご支援いただいた皆様、諸団体に心から感謝の意を表したい。

*本書執筆時点以降の新たな動きをフォローした情報を随時更新していきます。
https://www.nikkeibook.com/item_detail/32283/を参照ください。

早稲田インバウンド・ビジネス戦略研究会 (著), 池上 重輔 (監修)
日本経済新聞出版

目次

まえがき
謝辞

第1章 はじめに―持続的成長のためのインバウンドにおけるパラダイムシフト
1 観光立国ドバイと日本の潜在性
2 日本に必要な5つのパラダイムシフト
3 「インバウンド・ビジネス」として事業機会を広くとらえる
minicolumn 医療ツーリズムのポテンシャル
4 インバウンド・ビジネスにおけるサービスレベルと価格の関係性を抜本的に変える
5 富裕層顧客におけるミスマッチ
6 インバウンド・ビジネスのメリットとリスク

第2章 ツーリズムを取り巻く環境――機会と課題
1 日本の社会・経済とツーリズム
minicolumn 新技術普及に必要な補完的投資
2 インバウンドの再定義と観光・ツーリズムの定義
3 世界の観光市場
4 日本の観光市場
5 ニーズの変化
6 観光市場の多様性を整理する軸

第3章 ツーリズムを考察する視点
1 本物感としてのオーセンティシティ
2 オーセンティックな場所とは何か
minicolumn アフィニティ(愛着・好意)とインバウンド・ツーリズム

第4章 ツーリズムのイノベーション
1 なぜイノベーションなのか
2 イノベーションからインカムへ
3 イノベーションの概念と種類
4 ツーリズム産業イノベーションの競争フレームワーク
5 イノベーションの競争フレームワークについての要素分析
minicolumn 訪日客への案内・説明サポート

第5章 インバウンドの戦略―連携と創造
1 観光地の競争力と差別化要因
2 ビジネス生態系を対象とするビジネス・エコシステム戦略
3 プレミアム化に向けた観光とビジネス・エコシステム
4 ツーリズム生態系の構成メンバー
5 インバウンド・ビジネス生態系をマネージするDMO―ロンドン&パートナーズの事例
6 市場創造とブルー・オーシャン戦略

第6章 インバウンド・ツーリズムのマーケティング
1 インバウンドにおけるマーケティングとは
2 STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
3 STPのための足元固め
4 製品・サービス
5 顧客との距離感と価格
6 プロモーション/コミュニケーションとチャネル
minicolumn 海外現地旅行代理店の活用

第7章 ツーリズム生態系のICTプラットフォーム基盤
1 日本のインバウンド概況
2 観光分野におけるデジタル化状況
3 観光プラットフォーム構築の取り組み
minicolumn 海外旅行先としての国の魅力を上手く伝えるには?――パーソナリティ尺度を用いた国家ブランドの分析枠組

第8章 ツーリズム・コンテンツとストーリー戦略
1 ツーリズム・ビジネスの新たな潮流「ニューツーリズム」
2 ツーリズム・ビジネスの変遷
3 ニューツーリズムと観光まちづくり
4 ストーリー策定の成功事例
5 ニューツーリズムによる観光まちづくりの実現に向けて
minicolumn オタク市場の活用

第9章 〈エリア事例〉アジア:東アジア4カ国・地域を中心とした訪日市場動向と戦略
1 訪日観光市場のなかのアジア
2 主要4カ国・地域の訪日マーケット概況
3 東アジア4カ国・地域の比較
4 「訪日ヘビーリピーター」の獲得法―訪日リピーターに選ばれる「価値ある感動」の提供
5 現場体験からの東アジア・インバウンド戦略具体策

第10章 〈エリア事例〉フランス、アムステルダム:観光大国フランスと観光急進都市アムステルダムにみる「暗黙的観光資産」
1 フランス観光概要
2 フランス観光資産の文化的・歴史的背景
3 観光大国フランスの暗黙的観光資産
4 観光急進都市アムステルダム
5 日本は何を学べるか

第11章 〈エリア事例〉アートツーリズムによる観光まちづくり
1 アートツーリズムによる地域活性化の可能性
2 文化芸術を活用した地域活性化の取り組み
3 芸術祭によるアートツーリズムの事例
4 アートツーリズムの実現に向けて

第12章 〈テーマ事例〉プレミアムツーリズム戦略:ナパバレーのワインツーリズム
1 日本のツーリズムビジネスの発展と問題点
2 ナパバレーのワインツーリズム
3 ナパバレーのプレミアム・ワインツーリズム
4 日本のプレミアム観光化への示唆

第13章 〈IR事例〉観光産業における統合リゾートビジネス
1 海外IRとは
2 日本版IR

第14章 インバウンド・ビジネスのリーダーシップ
1 インバウンド・ビジネスのリーダーとグローバル・リーダー
2 リーダーの役割:変革のマネジメント
3 インフォーマル・リーダーシップの例:福井県開花亭の開発毅氏

第15章 ツーリズムリーダー育成の現状と今後
1 「ツーリズム」と「ホスピタリティ」の定義
2 日本におけるツーリズム人材育成の現状
3 国内外高等教育機関のツーリズム関連プログラム
4 日本のインバウンド・リーダーに必要な異文化マネジメント

早稲田インバウンド・ビジネス戦略研究会 (著), 池上 重輔 (監修)
日本経済新聞出版

2020を越えて勝ち残る インバウンド戦略12の極意 ―観光立国の礎はシビック・プライドにあり―

インバウンドのビジネスを持続的にするために

近年では、インバウンド・ツーリズムの流れは、団体旅行から個人手配旅行中心に変わってきています。訪れる個人客は、特定の宿や店ではなく、まち全体の魅力に惹かれてやってくるのです。本書では、日々のビジネスよりも大きく持続可能な仕事の成果を得るために必要な考え方を習得することを目指しています。

まえがき

私は、ドン・キホーテホールディングス(2019年2月1日からは、「パン・パシフィック・ インターナショナルホールディングス」へと商号変更される)傘下の株式会社ジャパン インバウンド ソリューションズ(JIS)の代表取締役社長という毎日の「米仕事(こめしごと)」 に加え、「日本インバウンド連合会(JIF)」の理事長・「国際空世紀みらい会議(Mellon22)」 議長その他多数の公共的役割を担い、微力ながら「花仕事(はなしごと)」にも積極的に取り組んでいる。

ここであらかじめ、このあと本文でも多用することになる、「米仕事」と「花仕事」という言葉の定義をしておきたい。この二つの言葉は、JR九州をはじめ、日本各地の観光列車のデザインで有名な水戸岡鋭治さんがもともと造った言葉だ。水戸岡さんは岡山県の農村の出身ということで、幼少期から農家の暮らしを見てきたという。農家の人々は朝の日の出前から自分の田んぼに出かけて農作業をする。自分が食っていくための仕事、これが「米仕事」である。

そして、午後も陽が陰って来る夕方になると、ムラビト総出で、農業用水路の沈殿した泥を浚渫したり、浮草を除去したり、土手の草を刈ったりして、水路の流れをよくする。また自 分の田んぼに渡っていくための丸太橋もみんなで架け替えたり手入れをしたりする。あるいは、村の鎮守の神様の祭りの準備もする。今と違って昔は日照りや虫の害があった。灌漑設備が充実し、農薬や肥料をまいておけば実りが保証されている今とは違っていたのだ。農業にも神様のお手伝いが必要不可欠だった。

こうした村祭りの準備も大切な「花仕事」であった。このムラビト総出の「花仕事」への奉 仕によってのみ、農家の各田んぼに水が行き渡り、豊かな稲の実りが手に入るのだ。自分の田んぼの目の前の農業用水路だけを浚渫しても、水は流れて来ない。地域を良くする「花仕事」こそが、自分が食っていくための「米仕事」の成果を生み、地域全体が持続可能になっていたのだ。

インバウンド(特に広義のそれ)の領域における成果の有無は、まさにこの「花仕事」への取り組みにかかっていると強く思っている。私は、明治以来、もっと厳密にいえば、戦後以来、 私たち日本の社会において、人々は「米仕事」にばかり集中してきたように思う。自社の売上(公共セクターの人々は自らの行政領域の成果)ばかり、自分の立身出世にばかりフォーカスし過ぎてきたのだ。

そして、私は税金を払っているのだからということで、「花仕事」は国や都道府県・市町村などの自治体にのみ任せてきたのだ。ここで、一つ補足しておきたい。国や地方公共団体・各種公益団体の職員や国会議員や地方議会議員の方々の仕事は米か花か、というと、これはすべて「米仕事」であるということだ。報酬を得て働く仕事は、仕事の内容にかかわらずすべて「米仕事」なのである。「花仕事」は、原則無報酬の(すなわち直接的対価や見返りのない)、純粋な社会への奉仕の仕事なのだ。

そして過日、この「米仕事」と「花仕事」の両方に取り組む重要性について、名古屋のシン ポジウムで私が発言した際、一緒に登壇した地元の大学教授から、「中村さん、その通りだね。日本では米、へんに、花のつくりで、糀、となる。米と花の両方の仕事が大事だね。そうすると、その地域は、桃の力で発酵され、美味い酒のように、良いまちになる」という、うれしいコメントをいただいた。私は、同教授の示唆に富んだこのコメントから強くインスパイアされて、その力を「醸す力」と名付けている。

このあと本文でも改めて詳しく述べるつもりだが、狭義のインバウンド、すなわちインバウンド・ツーリズムの趨勢は、今や個人手配旅行(これを業界用語でFITという)中心に変わってきている。急速に訪日旅行の形態は団体旅行から個人メインにシフトしているのだ。かつて主力だった団体の訪日ツアーは、A地点の観光施設からB地点のドライブインやC地点の温泉ホテルに移動する。点と線でしかない。そこには、地域との接点はほとんどなかった。今は違う。訪日の個人客は、特定の宿や店にやって来るのではなく、まち全体の魅力に惹かれてやって来るのだ。点と線ではなく、面としての地域にやって来るのだ。

これまで以上にまち全体の魅力アップが不可欠な時代になっている。インバウンド客を呼び込もうと自己の「米仕事」だけに張り切っても、結果が小さい時代なのだ。このようなFIT中心の時代こそ、「花仕事」の重要性が増してくる。

また、狭義のインバウンドに加え、広義のインバウンド、すなわち優れた才能を有する外国 人留学生の招致や外国人就労者獲得、移民受け入れなどの領域においては、「米仕事」だけでは到底、大きな成果にはつながらない。地域全体のシビック・プライド(本文の第2章で詳述する)の醸成、そして国際交流活動が不可欠となる。こうした領域は、個々の「米仕事」のプレーヤーの取り組みだけでは、実りある大きな成果を生み出せない。「米仕事」と「花仕事」の両方に取り組むことによって初めて生まれる、右述の「醸す力」=糀のような力が必要不可欠となるのだ。

おそらく、いま本書を手に取っている皆さんのなかには、インバウンド分野における、自ら の目の前の「米仕事」(日々のビジネス)の直接的成果を求めている方々の方が多いかもしれない。当然のことだと思う。ただし、私は、そのような皆さんにも、ぜひもっともっと大きな、そして持続可能な「米仕事」の成果を得るためにも、具体的な「花仕事」の進め方や、それに取り組む上で重要な考え方を習得していただきたいと願っている。そして本書の知識を活用することによって、最終的に各自の自社の組織や自地域のみらいを創る「醸す力」を身につけて、ご自身の人生の永続的成功をも手にしていただきたいと強く願っている。

それゆえ、「2020を越えて勝ち残る」ためにも、以下の三つの前提で本書を読み進めていただきたいと思う。
1 「花仕事」と「米仕事」の両方のマインドで本書を読む。
2 単に知識を頭に入れるばかりではなく、自らの中に生じる新しい意識の変化に耳を澄ましながら読む(頭を柔らかくして読んでいただきたい!)。
3 本書の内容を、自らの日々の「米仕事」「花仕事」にどう活かし、具体的に実践していくべきかについて考えながら読む(現状において、まだ「花仕事」に取り組んでいない方は、 これからどういう「花仕事」に取り組むべきか・取り組みたいかについても考えながら読む)。

本書は、まず序章「日本のインバウンドの現在・過去・みらい」において、わが国のインバ ウンド振興の歴史を振り返り、現状の課題を劇択し、みらいへの展望を語るところから始まる。続いて、第1章では、2019年のラグビーワールドカップ、2020の東京オリンピック・ パラリンピックに向けてどう取り組むのか、特にレガシー(みらいへの遺産)創出のためのヒ ントについて述べる。第2章では、「市民にとってのインバウンド」、特に本書のサブタイトルにもなっているシビック・プライドの重要性について述べる。また、第3章では、本書のメインタイトルである、「勝ち残るインバウンド戦略Aの極意」の各項目について詳述していく。そして、最後の第4章では、明治維新の分析の中から、真の観光立国の礎を見いだしていく。もちろん、興味のあるどの章から読み進めていただいても結構ではあるが、ぜひとも、この「まえがき」に加え、本書の最後の「あとがき」だけは最初に読んでみていただきたいと思う。

なお、各章の末尾には、本文とは別に、わが国の観光立国分野における唯一の専門週刊誌で ある『週刊トラベルジャーナル』の巻頭コーナーである「視座」に、私が毎月連載させていただいているコラムを、同誌編集長のご快諾のもと収録している。本文と併せて読んでいただければと思う(なお、この1年余のうちに同誌に掲載したコラムや特集号記事のうちの一部は、直接転載せず、可能な限り本文の中に組み込んでいる。また転載されているコラムの内容は、特に注記することなく、直近の数値やファクトに照らして加筆修正している)。

本書を書き上げるにあたっては、実に多くの方々のご支援をいただいた。貴重な知識や有益 な先進事例についてのご教示、また画像や図表のご提供など、ご多忙の中、ご協力いただいた国内外のすべての皆さまに、この場を借りて深く感謝の意を述べたい。また、最後に時事通信出版局の皆さまには本書の出版に向けてタイトなスケジュールの中、ご尽力いただいたことに、心より御礼を申し上げたい。

2018年11月吉日

目次

まえがき

序章 日本のインバウンドの現在・過去・みらい
災害大国ニッポン
山あり谷ありの観光立国の歩み
政府の観光立国への意気込みもいよいよ本気モード
観光資源の再定義と活用を
インバウンドを人口減少の穴埋めにしてはならない
「健全な危機感」の醸成が不可欠である理由
観光公害の真の課題とその解決方法
レガシー(みらいへの遺産)を生み出そう
オリンピックはもともとひとつのフィロソフィー(哲学)である
【COLUMN】 医療におけるおもてなしの実現

第1章 ポスト五輪のインバウンドはどうなるのか
2020は通過点にすぎない
2019年から2020年に向けてのインバウンド戦略
1 食のダイバーシティ
2 言語対応
3 ラグビー文化への理解
4 シンボリックなレガシー拠点の準備
5 市民総出のおもてなし
真のレガシーこそがこの国を「滅ばない日本」へと導く
【COLUMN】 IRの可能性と課題

第2章 市民にとってのインバウンド
シビック・プライドとは何か
なぜ今、シビック・プライドが必要なのか
文化財保護とシビック・プライド
【COLUMN】 高校生の観光選手権

第3章 勝ち残るインバウンド戦略12の極意
極意1 地域の誇りこそ、おもてなしの源泉とせよ
おもてなし問題の本質
何が劣化しているのか
おもてなし再建の処方箋
極意2 トップリーダーにこそ、インバウンドの重要性を伝え、彼らを目覚めさせよ!
極意3 みらい(次世代)の顧客を創造せよ
極意4 夜に商機あり―ナイトタイム戦略を立て実行せよ
歴史と自然の観光資源を
地元住民の理解と平安が大前提
極意5 桁違いのプレミアム戦略を立てよ
「安すぎる」という日本の課題
極意6 ふるさと納税(GCF)を活用せよ
極意7 田園にこそ勝機あり―地方でこそ農泊・民泊を推進せよ
民泊は既存事業者の敵ではない
極意8 ダイバーシティとインクルージョンを実現せよ
極意9 みんな丸ごと「広義の関係人口」化せよ
極意10 「ゆるスポ」と「eスポ」を活用せよ
極意11 越境ECと連動せよ
極意12 ツイン・ツーリズム振興こそが持続可能な成功の鍵、双方向の交流に注力せよ
【COLUMN】 農泊推進への思い

第4章 ニッポンの課題をインバウンドで解決する
明治維新が生み出したもの
明治維新によって失われたもの
1 伝統的な時間感覚の喪失
2 伝統的な空間感覚と自治意識の喪失
3 伝統的精神文化の喪失と変質
観光立国とは、哲学立国のこと――哲学の力で日本を取り戻せ!
インバウンドはシビック・プライドを生み出す「手鏡」
何が富を、お金を生み出すのか?
明治維新前の原点に立ち戻って、これからの150年を再創造しよう
【COLUMN】 脱ロボットのおもてなし

あとがき
参考文献・ウェブサイトほか

◆装幀・本文デザイン 清水信次
◆カバーイラスト 庄司猛
◆編集協力 島上絹子(スタジオパラム)

インバウンドビジネス入門講座 第3版 訪日外国人観光攻略ガイド

インバウンドの基本がわかる

訪日外国人は年々増えており、インバウンドビジネスは今後も成長が見込める新規参入のチャンスが大きいビジネスです。本書は、インバウンドビジネスに取り組むにあたって知っておきたい基礎知識を、図やグラフを交えてわかりやすくまとめています。宿泊、交通といった直接的な観光事業者だけでなく、あらゆるビジネスに影響を与えつつあるインバウンドで最初に読むべき一冊です。

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

本書内容に関するお問い合わせについて

このたびは翔泳社の書籍をお買い上げいただき、誠にありがとうございます。弊社では、読者の皆様からのお問い合わせに適切に対応させていただくため、以下のガイドラインへのご協力をお願い致しております。下記項目をお読みいただき、手順に従ってお問い合わせください。

ご質問される前に
弊社Webサイトの「正誤表」をご参照ください。
これまでに判明した正誤や追加情報を掲載しています。
・正誤表http://www.shoeisha.co.jp/book/errata/

ご質問方法
弊社Webサイトの「刊行物Q&A」をご利用ください。
刊行物Q&A http://www.shoeisha.co.jp/book/qa/
インターネットをご利用でない場合は、FAXまたは郵便にて、下記“翔泳社愛読者サービスセンター”までお問い合わせください。
電話でのご質問は、お受けしておりません。

回答について
回答は、ご質問いただいた手段によってご返事申し上げます。
ご質問の内容によっては、回答に数日ないしはそれ以上の期間を要する場合があります。

ご質問に際してのご注意
本書の対象を越えるもの、記述個所を特定されないもの、また読者固有の環境に起因するご質問等にはお答えできませんので、予めご了承ください。

郵便物送付先およびFAX番号
送付先住所 〒160-0006東京都新宿区舟町5
FAX番号 03-5362-3818
宛先 (株)翔泳社愛読者サービスセンター

※本書に記載された情報は、特に断りのない限り2018年2月現在の情報です。
※本書に記載されている2017年の数値データは速報値を含みます。また一部、編集部で独自に集計して算出している値があります。そのため本書刊行後に発表される確定値、年間数値とは異なる場合があります。

※本書に記載されたURL等は予告なく変更される場合があります。
※本書の出版にあたっては正確な記述につとめましたが、著者や出版社などのいずれも、本書の内容に対してなんらかの保証をするものではなく、内容やサンプルに基づくいかなる運用結果に関してもいっさいの責任を負いません。
※本書に記載されている会社名、製品名はそれぞれ各社の商標および登録商標です。

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

はじめに

本書は2015年に上梓した『インバウンドビジネス入門講座』の第3版です。入門講座ということで、主に、インバウンドビジネスに携わり始めて間もない企業や自治体の新任担当者、そして、この分野に興味を持つ転職希望者や学生の方を対象としています。

第2版から2年が経ち、第3版では激変するマーケットを象徴するトピックスや事例、また、最新動向を把握するための各種データを収録しています。内容も大幅に改訂していますので、前著をお持ちの方もぜひ参考にしていただければと思います。

2017年訪日外国人観光数は2869万人に達し、政府が目標数字として掲げる2020年4000万人もより現実味を持ち始めました。そんななか、まさにインバウンドビジネスは新しい潮流を迎えていると感じています。
潮流の最たるものは、インバウンドの多様化。つまり、世界的な海外旅行トレンドの台頭、ビザ発給要件の緩和、LCCやクルーズ船の増加などで、いままでとはまったく違う国や宗教、ニーズや旅行形態の人々が日本に足を運んでいるのです。

多様化とともに、さらに大きな変化も起きつつあリます。「団体旅行から個人旅行へ」「都市部から地方へ」「モノからコトへ」……。
これらの変化はプラス面と新たなチャレンジ(課題)を我々にもたらしています。

プラス面でいうと、インバウンド消費の受益者となる企業や地域の幅が広がるということです。団体旅行では、ルートが決まっている、時間の制約がある、受け入れられる施設や観光地の駐車場や立地の条件が厳しいなどさまざまな観点があり、実際の誘客にはつながらないケースが大半です。個人旅行であれば、まだ外国人が多くない地方の観光地に足を運んだり、地元の人しか知らないような居酒屋で食事をしたり、スキーが好きな人はスキーだけを2~3週間ゆっくリ満喫したりと、多様な訪日旅行の可能性があります。個人旅行が加速することで、あらゆる業種や地域にチャンスが広がることが大きなメリットといえるでしょう。

一方、チャレンジ(課題)でいうと、より緻密なマーケティングが必要になってきます。マーケットや顧客ニーズが激変するなか、旧態依然とした取り組みではもはや成果にはつながリません。日々適切な情報収集を行い、ターゲットや戦略を決定・修正し、施策を愚直に実行していく。そして、なによりも大切なのが、スピーディーにPDCAを回していくことです。

我々は「日本のインバウンドをもっと熱くする」をモットーに、2007年からインバウンドに特化した教育研修事業含む各種事業を展開していますが、本書にはその過程で得た知見・ノウハウをできるだけわかりやすいように取りまとめています。また、みなさんの取り組みに役立つよう具体的な事例を幅広い業種・業界から掲載しています。

訪日外国人観光数4000万人へ向け、今後さらに広がっていくインバウンドビジネスの中で、本書がみなさまの取り組みの一助になれば、これほど嬉しいことはありません。

2018年2月 株式会社やまとごころ 代表取締役 村山慶輔

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

pick up TOPIC 1

インバウンドビジネスを“もっと”盛り上げる方法
訪日観光客を4000万人時代を見据えて!

2017年、日本を訪れた外国人は2869万人。
2012年が836万人だったので、5年で4倍に迫る数字です。数年前まで「2020年に2000万人」という目標を掲げていた日本政府は、それを「2020年に4000万人」に上方修正し、その消費額を「8兆円」としています。いかにこれを突破するか、カギを握るのは消費単価です

◉インバウンド最前線の最重要トピックは「いかにして消費単価を上げるか」

2017年の訪日外国人観光客の数は、2869万人。目指す2020年までに4000万人を目指すという政府の大目標が現実的になってきたでしょう。そうした中、政府は消費額についても2020年に8兆円、2030年に5兆円という目標を掲げています。

これらを達成するには、1人あたりの旅行支出を上げなくてはなりません。2017年の訪日外国人旅行消費額は約4・4兆円と、1人あたリ約15万円でしたが、2020年に先の目標を達成するには、20万円まで1人あたりの金額を上げる必要があるのです。

外国人観光客というと、いかに呼び込むかという点に注視しがちです。実際、「何人来ているか」を気にする人はたくさんいます。しかし、いくら外国人が来てくれても、お金を使ってもらわなければ、そのエリアが潤うことはありません。ですから、現在インバウンドビジネスの最前線では、いかに旅行支出を上げるかがテーマになっています。

◉旅行支出を上げるには顧客接点を最大化する発想が欠かせない
どうすれば、外国人観光客の旅行支出を上げることができるのでしょうか。

直接旅行支出に影響を与える「買い物代」を伸ばしたいのならば、とにかく現場の接客スタッフが積極的になることが必須です。現状は、恥ずかしい、言葉に自信がないなどの理由から、消極的な接客をしているお店が少なくありません。これまで外国人観光客が多くなかった地方はなおさらです。「歓迎している」ということさえ伝われば、基本的には喜んでもらえます。多少ぎこちなくても、片言でも、積極的に接客をすれば、売上は伸ばせます。

滞在時間を延ばすことも、旅行支出を上げる重要な取り組みです。滞在が1日でも伸びれば、宿泊料金のみならず、飲食や交通、観光など多彩な分野での消費行動につながります。ただし滞在時間を延ばすだけでは不十分で、消費に充てる時間と動機を用意しないといけません。

その意味では、さまざまなコンテンツ(観光資源)を値段のついた商品やサービスにまで昇華させることや、それらに触れてもらう仕掛けも必要です。たとえば名産品を売るには、生産工場の見学ツアーを実施し、可能ならば実際に工程の一部を体験してもらうなどして、その魅力を伝えたうえで商品を売る。そんな仕掛けが全国各地に増えれば、旅行支出は自ずと上がっていきます。

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

pick up TOPIC 2

民泊新法や改・通訳案内士法がチャンスを生む
法改正で生まれる新たな需要

「宿泊施設が飽和状態」「観光ガイドが足りない」など、外国人観光客の増加によってさまざまな課題が浮かび上がってきていますが、これらを解決するために規制緩和が進んでいます。ここでは具体的にどんなビジネスチャンスが広がるのかについて見ていきます

◉新法設立や法改正による規制緩和は現場で起きている課題への突破口だ

訪日外国人観光客数は急増していますが、さらに、2019年にはラグビーW杯が、2020年には東京オリンピック・パラリンピックがあるため、今後もその勢いは衰えるどころか増していくことが予想されます。

そうした増え続ける外国人観光客を受けて、現場ではすでにいくつもの課題や問題が発生しています。

最大のものが宿泊施設不足です。首都圏や関西圏では、絶対数が足リていません。この事態を打開するため、民泊新法と呼ばれる住宅宿泊事業法が新設されました。端的にいえば、これまでグレーゾーンだった民泊を、きちんとルールを決めて運営しようというものです。

同様に、通訳案内士法の改正も現場で起きている課題を解決する突破口だといえます。

現在、国家資格の通訳案内士は、ほとんどが英語話者で都市部に偏在しているため、訪日外国人の言語や訪問地のニーズの多様化に対応できておらず、観光ガイドの不足が起きています。その結果、著しく質の低いガイドが暗躍する事態になっています。その防止策として規制が緩和されたのです。

◉民泊新法が新たな層のインバウンドを呼ぶ!各種企業も続々と参入

このようにいろいろな規制が緩和されることによって、ビジネスチャンスは確実に広がるでしょう。

民泊新法に関していえば、持ち家を所有する一般の方々に加え、マンションやビルを持つ企業にも、インバウンドビジネスで恩恵を受ける機会が増えます。エアビーアンドビーやホームアウェイに代表される民泊仲介業は当然のことですが、民泊のオーナーが不在の場合に委託する民泊施設の管理業といった分野にも波及効果があります。民泊と旅行(体験)をかけ合わせれば、付加価値の高い旅行商品にもなり得ます。

なお、エアビーアンドビーはリクルートと、ホームアウェイは楽天と提携するなど、すでに複数企業が動いています。

しかしなぜ民泊が必要なのか。それはミレニアル世代(8、0年代生まれ)を中心に高い需要があり、逼迫する宿泊需要への対応策として効果があるからです。すでに民泊利用者は一定数いますが、ホテルや旅館の稼働率は下がっていません。民泊利用者は、既存の宿泊施設の客層と異なっている可能性もあります。

もちろん課題もあります。犯罪やテロの温床化、公衆衛生の問題、地域住民とのトラブルなどの防止です。既存業者のビジネスを圧迫する可能性についても完全な否定はできません。

だからこそきちんとしたルールづくリを行い、違反をした場合の対応を明確化することが重要なのです。

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

pick up TOPIC 3

欧米豪からの観光客をさらに伸ばすためにできること
アジア諸国より滞在期間の長い市場を開拓!

インバウンドというと、全体数の多いアジアに目が向きがちですが、2017年夏に観光庁が「欧米豪市場推進室」を設置するなど、欧米豪市場が注目されています。欧米豪の最大の特徴は、1人あたりの旅行支出が多いこと。アジアに比べて1人のインパクトが大きくなります。成熟した観光客であるこの市場を伸ばすヒントを探りましょう

◉欧米豪市場へのテコ入れによる経済効果は意外なほど大きい

訪日中の1人あたりの旅行支出の上位を占めるのは欧米豪です。1日あたりにすると中国などアジア圏が上回ることもありますが、長い日数滞在してくれるのでトータルの金額は欧米豪のほうが多くなります。

最大の理由は平均滞在日数が長いことにあります。「日本人客やアジアからの観光客は1泊や2泊が大半を占める一方で、欧米豪からの観光客は3~4泊が当たり前、ときに1週間滞在することも珍しくない」という、ある地方の旅館の話は、“滞在型”と呼ばれる彼らの旅行傾向を端的に示しています。長く滞在してくれる欧米豪の集客に成功すると、宿泊費だけでなく、飲食や交通といった分野にまで経済効果があります。

別の観点から見ても、欧米豪における消費額の伸びしろは大きいといえます。旅行者に必携のアイテムについて、その価格を各都市で比べたイギリスのレポートでは、「東京の物価はニューヨークの半分以下」としています。つまり、欧米豪の人々からしてみると、日本は安い国なのです。あるイギリスの旅行ブロガーも「日本ほど安くて質の高い国はない」と書いていました。こういったことを考慮しても、欧米豪市場には多くの伸びしろがありそうです

◉「高い国」という先入観を払拭できれば欧米豪市場は日本に目を向ける

欧米豪の市場を伸ばすヒントを探るために、欧米豪の集客に成功しているタイを見てみることにしましょう。2016年におけるドイツ、イギリス、フランス、イタリアの訪タイ数は、訪日数とは大きな開きがあります。特にドイツは顕著で、訪日数が18.3万人なのに対し、訪タイ数は83.5万人もいます。その差はどこにあるのでしょうか?

実は大きな差はありません。0~20年前であれば、「タイのほうが圧倒的に物価が安かったから」ということがいえましたが、現在ではそこまで大きな物価の差はありません。実際、先に挙げたレポートにはタイ南部のプーケットも比較対象に入っていますが、東京のほうが安いとしています。また、日本はテクノロジーとビジネスの国と思い込んでいる欧米人もたくさんいます。つまり、日本の良さがきちんと伝わっていないこと、そして「物価の高い国」という印象を払拭できていないことも大きな原因です。ですから、多様性に富んだ観光資源があり、質の高いサービスが比較的安価で利用できることをPRすべきなのです。

幸い、欧米豪客へ絶好のPR機会が迫ってきています。日本開催のラグビーW杯と東京オリンピック.パラリンピックです。この機会に、ぜひテコ入れを検討しましょう!

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

pick up TOPIC 4

全国に広がる日本版DMOの動きに注目
観光協会となにが違うのか

DMOとは、Destination Management / Marketing Organizationの略称で、2015年頃から観光庁が日本版DMOの形成・確立に動いています。観光に特化した地域づくりのまとめ役として、客観的データをもとに事業を立案・実行していく組織である日本版DMO。なぜ、今、必要とされているのでしょうか?

◉地域の稼ぐ力を最大化!日本版DMOに求められる役割

ここ数年、日本版DMOの組織形成が進められています。
日本版DMOは、欧米にある観光事業組織を参考にしたものです。従来の観光協会や観光機構と異なる点は、「稼ぐ」という視点が中心にあることです。地域の稼ぐ力を最大限に引き出すために、経営的視点を持ってデータ分析を行い、戦略を立てて、プランをつくっていく。ここが、従来の組織と違うのです。地域の祭事やイベントを取り仕切るだけの組織ではないということです。

これまでの地域の観光団体や組織は、少なからず国からの助成金や補助金の受け皿となっているといわざるをえない状況がありました。すべての団体・組織がそうではありませんが、稼ぐというよりは、地域への調整役という枠に収まっていたことは間違いありません。それでは地方の稼ぐ力は育まれません。

国からの助成金や補助金に頼ることなく、観光地域づくりの舵取りを担うのが日本版DMOの役割なのです。

◉「関係者の連携不足」「データ集積・分析の不十分さ」「民間視点の欠如」の解消のために

日本版DMOの必要性が叫ばれるようになった理由は大きく3つあると考えています。

ひとつは、関係者を巻き込むことが難しいという点です。観光という分野は、特定の事業者や関係者のみで成り立つものではありません。地域住民の協力は不可欠ですし、あらゆる商業分野にも関係します。もちろん自然や食なども欠かせない資源ですし、スポーツなど地域の関連事業者との連携も重要です。このように多岐にわたるプレイヤーが連携するには、明確な旗振り役が必要だということです。

データの収集・分析が不十分だったということが2つ目。これまでは、各事業者でデータを収集し、分析することはあっても、そうしたデータを集積し、地域全体の利益につながる戦略を立て、施策を実行することまではできていませんでした。予算もなければ、意思決定の責任者も不在だったからです。これでは変化の激しい観光市場に対応することはできません。

そして、「稼ぐ」という、いわゆる民間的観点・手法が抜け落ちていたということが3つ目にあります。

このような理由から、日本版DMOの組織形成・確立が急がれているのです。

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

pick up TOPIC 5

増便中のLCC・クルーズ船で日本の旅がより身近に!
行動パターンや消費傾向の違いを把握しよう

国際線におけるLCC(格安航空会社)のシェアは、2016年の時点で18・9%と、2007年(0.4%)の3倍近くにもなっています。クルーズ船による入国者数も右肩上がりに伸びています。こうしたLCCやクルーズ船による外国人観光客からの恩恵を最大限に受けるには、どのような施策が必要なのでしょうか?

◉LCCもクルーズ船もまだまだ伸びていくニューマーケット

日本におけるLCC元年は、一般的に2012年だといわれていますが、その後も順調に便数を伸ばし続けています。LCCが主に就航しているのは、成田、羽田、関西、中部、福岡、那覇、新千歳の各空港ですが、それ以外の仙台や岡山、高松、鹿児島といった地方空港においてもLCCが就航しています。

実は、こうしたLCCの増加には理由があります。地方自治体が外国人観光客の集客のため、LCCに送客数に応じた報奨金(補助金)を出したり、空港使用料を引き下げたりすることで誘致をしているのです。LCCやクルーズ船の新規就航数と各国の訪日数の伸びが比例していることから、こうした動きは一定の効果があると見ていいでしょう。

またクルーズ船による外国人入国者数も急増しています。主には大型クルーズ船による中国を中心としたアジアからの観光客ですが、それ以外にも豪華客船で欧米からの富裕層が日本に立ち寄ったり、空の便で入国し、国内港でクルーズ船に乗船する「フライ・アンド・クルーズ」と呼ばれるツアーに参加したりする人もいます。

◉LCC利用者やクルーズ船の乗客から恩恵を受ける方法は?

LCCやクルーズ船による観光客は、従来の客と消費傾向が異なるため、恩恵を最大限に受けるには、新たな商品やサービスを提供する必要があります。

たとえばLCCは、空港使用料の安い早朝や深夜に離着陸することが珍しくありません。つまり従来の観光客と移動する時間帯が異なります。さらに、LCC利用者は節約志向です。そんな傾向をうまく捉え、新たな需要を開拓したのが大江戸温泉物語。「宿泊費を節約したいが空港までの交通手段がない」というLCCの利用者向けに、成田国際空港へのバスの早朝便を運行しています。

クルーズ船による観光客は、寄港-地での観光ルートが固定化されており、なかなか自社の商売につながらないという声もあリます。ただ、述べたように、クルーズ船には、さまざまな種類があるのでそれぞれについて細かく対策を講していくことが重要です。中国人を中心とした大型客船での格安クルーズツアーで来る観光客は、主要なショッピングセンターや免税店へ行くルートが確立しているケースが多いですが、高級クルーズツアーでは寄港地で自由に観光をするケースもあり、商店街を含めさまざまな施設や観光スポットにチャンスがあります。

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

Contents

はじめに

序章 インバウンドピックアップトピック
1 インバウンドビジネスを”もっと”、盛り上げる方法
2 民泊新法や改・通訳案内士法がチャンスを生む
3 欧米豪からの観光客をさらに伸ばすためにできること
4 全国に広がる日本版DMOの動きに注目
5 増便中のLCC・クルーズ船で日本の旅がより身近に!

第1章 インバウンド(訪日外国人観光)ビジネスを知ろう
01 インバウンド(訪日外国人観光)とは
02 なぜ今インバウンドが注目を集めるのか
03 観光立国へ向けた国の取り組み
04 宿泊施設におけるインバウンドの可能性
05 商業施設におけるインバウンドの可能性
06 飲食店におけるインバウンドの可能性
07 交通機関におけるインバウンドの可能性
08 メーカーにおけるインバウンドの可能性
09 自治体におけるインバウンドの可能性
10 訪日外国人4000万人を目指して
Column インバウンドリーグ始動

第2章 外国人観光客を理解しよう
01 外国人観光客はどこの国から来ているのか
02 日本でどんな観光をするのか
03 外国人観光客の満足と期待
04 不満と解決すべき課題
05 中国人観光客はどんな人たちか
06 韓国人観光客はどんな人たちか
07 台湾人観光客はどんな人たちか
08 香港人観光客はどんな人たちか
09 アメリカ人観光客はどんな人たちか
10 タイ人観光客はどんな人たちか
11 マレーシア人観光客はどんな人たちか
12 イギリス人観光客はどんな人たちか
Column アニメ&ゴルフツーリズムに脚光

第3章 インバウンドビジネスの始め方
01 インバウンドビジネス7つのステップ
02 インバウンドを取り巻くプレイヤーたち
Column 求められる人材の幅が広がっている

第4章 外国人観光客を集客しよう
01 集客のためのアプローチ方法を考える
02 「旅行博」で集客する
03 「旅行会社・ツアーオペレーター」で集客する
04 「ファムトリップ」で集客する
05 「フリーペーパー」で集客する
06 「ガイドブック」で集客する
07 「自社ウェブサイト」で集客する
08 「ウェブメディア」で集客する
09 「MICE」で集客する
10 「店頭」で集客する
11 「帰国後のフォロー」で集客する
Column “秘湯は秘境にあるから価値がある”

第5章 受け入れの準備を整えよう
01 受け入れ体制整備で大切なこと
02 「語学」対策で受け入れる
03 「通信環境」整備で受け入れる
04 「ムスリムなど多様性」への対応で受け入れる
05 「さまざまな決済方法」対応で受け入れる
06 「免税」対応で受け入れる
Column チャンス到来。あなたならどうする?

第6章 インバウンドビジネスの取り組み事例
01 旅館 旅館山城屋 大分の家族旅館に外国人が集まるワケ
02 ゲストハウス なごのや 地域活性と連携の核となるゲストハウス
03 ホテル ホテル龍名館 都心部に2棟持つ独立系ホテルの戦略
04 飲食店 浅草つる次郎 普段使いのサービスで国籍不問の人気店に
05 飲食店 牛門渋谷本店 スリム客であふれかえる焼肉屋
06 飲食店 魚心 個店以上、ナショナルチェーン未満の強み:
07 商店街 表町商店街 商店街におけるインバウンドとの距離の取り方
08 交通事業者 ウィラー より簡単・便利・安心なバス利用のために
09 レンタカー 九州エクスプレスウェイパス レンタカー旅行を促進する取り組み
10 酒造メーカー 月桂冠 日本の酒文化をもっと世界に広めるために
11 ウェブマガジン マッチャ 外国人向けメディアが気をつけていること
12 体験プログラム キャニオンズ 世界の中で選ばれるためにやるべきこと
13 旅行会社 たびすけ 地域の特色を打ち出すときに必要なこと
14 旅行会社 ノットワールド 着地型ツアーでのガイドのマネジメント法
15 旅行支援センター 熊野トラベル 地方の観光団体がリアル店舗を構えた理由
16 DMO せとうちDMO 各DMOの役割と財源確保における考え方
17 自治体 豊岡市大交流課 集客やPR戦略におけるデータ活用
18 保険会社 東京海上日動火災保険 保険会社によるインバウンドビジネス支援
19 検定試験 全日本情報学習振興協会 認定試験で業界を支える人材の底上げを
20 業界団体 アニメツーリズム協会 テーマ別観光の可能性を拡大するために

あとがき
インバウンド用語集
インバウンドカレンダー
索引

村山 慶輔 (著), やまとごころ編集部 (著)
翔泳社、出典:出版社HP

まちづくり×インバウンド 成功する「7つの力」

インバウンドをまちづくりに活かすには

これから日本は人口減少が加速していきます。人口が少なくなるということは、経済規模も縮小してしまうでしょう。そうならないために注目されているのがインバウンドビジネスです。本書では、観光立国と地方創生実現のために必要なことは何なのかを紹介しています。日本が滅んでいかない未来を作りたいという人に読んで欲しい一冊です。

はじめに

オリンピックが2016年8月5日から8月1日までの7日間、パラリンピックは9月7日~9月8日の2日間、あわせて29日間、ブラジルのリオデジャネイロで開催され、日本中が、そして世界中が熱戦に沸き、ブラジルに、そしてリオに注目しました。

私自身も、会期中はテレビ観戦のため寝不足にもなりました。閉会式の安倍晋三総理がマリオの姿で登場した印象的な演出も、記憶に鮮明に残りました。獲得したメダル数も史上最高でした。しかし、あれだけ世界中が熱狂した五輪大会も、宴が終わってしまうと、とたんに世界中の人々の関心は、南米のリオから離れつつあります。そして、今度は2020年の日本の東京に、世界中からの視線が集まってきます。そう、明日はわが身なのです。

オリンピック開催に向けて、これからの4年間、かつてなかったほど世界中が日本に、東京に注目することでしょう。しかし、2020年8月の東京大会終了後、その関心は当然、またその次の2024年の開催国・都市に移っていくものとなることでしょう。

私は、わが国のインバウンド3.0の時代(本書第2章を参照)を、この2020年7月の東京五輪とともに起動させるべきことを論じています。東京五輪はあくまでもそのスタート、すなわち“起点”なのです。決してゴールなどではありません。これからの4年間、日本には世界中からの視線が集まり、わが国は国中が五輪特需に沸き、浮かれることでしょう。景気も伸び、訪日観光客も年々伸び続けていくことでしょう。日本国政府が掲げている「2020年までに訪日外国人4000万人、訪日客消費額8兆円の達成」という高い目標も、簡単といえないまでも、不可能な数字だとは思っていません。

また、一部の悲観論者が唱えているような「2020年がインバウンドのピークだ。2020年をピークに、その後の日本の訪日市場は下り坂だ」というような暗い未来に賛成しようとも思いません。(本文で私が述べているようなビジョンを国民の多くの皆さんが共有し、優れたインバウンド・リーダーが育っていけばという前提ではありますが)わが国には(そして世界には)、インバウンドの実績が、2020年を超えて、さらにすくすくと伸びていくだけのポテンシャルがあると思っています。

しかし同時に、2020年以降の日本に立ちはだかってくるのは、人口減少という過酷な難題です。2020年からは47全ての都道府県で人口が減っていきます。五輪開催とも相まって東京都の人口規模は、2020年に過去最大の1335万人となり、ピークに達すると予測されています。ただし逆を言えば、その翌年からはこの東京でさえ、人口減少が始まっていくわけです。2014年に年間約5万人減り、2015年に約30万人減った日本の総人口は、五輪開催後、やがて毎年3万人以上減り始めるようになります。これは、毎年ひとつずつ小ぶりな県が消滅していくようなものです。

インバウンドは人口減少対策のための特効薬ではありません。しかし、観光立国革命への挑戦は、この国の社会の在り方、これまでのモノづくり中心の、規格大量生産社会、右肩上がりを前提にした国づくりの方向を転換させるだけの、そして国民の鎖国意識を変え、この国の真の“心の開国”を実現していく上での、そして縦社会の垂直的な社会構造を変えていく上での、大きなインパクトを持っていると思っています。薬ではなく、むしろサプリメント(栄養補給食品)のように、じわじわと、この国の人々のマインドの体質改善に寄与していくことと期待しているのです。

2020年以降の訪日外客4000万人時代には、外客のほとんどがリピーターとなっていることでしょう。そしてそれにともない、今まで以上に、訪日客の皆さんを飽きさせない、おもてなしの進化と、より深い地域連携が必要とされてくることでしょう。2017年春には、民泊解禁、通訳案内士の業務独占廃止、酒蔵での消費稅に加えて酒税の免稅制度など、新たな法制の整備も予定されています。シェアリングエコノミーや、ICT、SNSの進化は、さらに加速化することでしょう。世界の国際観光市場はますます拡大していくことでしょう。日本の抱える課題は大きいけれども、同時に、われわれが手にしているチャンスもまた、まさに無限大なのです。

私は、一人でも多くの志のある人々に、そして本気でこの国の未来を憂い、日本の未来、ひいてはアジアの未来、世界中の未来を切り拓きたいと望んでいる人々に、この本を手に取っていただきたいと思っています。そして、ともに観光立国革命の同志として立ち上がっていただきたいと熱望しています。また、この本がそのチャレンジの際の小さなヒント・小さなガイドブックになれればと、ひそかに願っています。

なお、各章の章末には、日本を代表するツーリズムビジネス専門誌である『週刊トラベルジャーナル』に毎月連載させていただいている「視座」というコーナーのコラムを、同誌編集長のご快諾のもと、収録させていただいております。本文と合わせて、読んでいただければと思います。(なお、この一年間のうちに書いたいくつかの号の「視座」の内容については、直接転載することなく、可能な限り各章の本文の中に組み込みました)

また、限られた時間の中で、この本を書き上げる上で、実に多くの方々のご支援と励ましとご協力をいただきました。この場を借りて、すべての関係者の皆さまに心より御礼を申し上げます。

2016年9月吉日

地方創生を可能にする まちづくりメインバウンド 成功する「7つの力」 目次

はじめに

序章 インバウンド・バブルは弾けたのか
“爆買い”の反動「勝ち残るインバウンド」と「負けるインバウンド」
インバウンド・バブル崩壊の真実
本格的成長は、むしろこれから
Column 1 ガイドという職業の奥深さ

第1章 亡国のインバウンド ―ニッポンの現実
国内市場をおろそかにしては成り立たない
「儲けられるうちに儲けよう」という発想
補助金依存のインバウンドのリスク
バブル時の外客売上はどこへ
FIT(個人旅行)の流れに乗り遅れるな
「来てください!来てください!」だけのワンウェイ・インバウンドのリスク
Column 2 民泊解禁、その課題と波及効果

第2章 インバウンドの進化が、地方を元気にする!
インバウンドの時代区分
【インバウンド1.0時代】2003年4月~2014年9月
【インバウンド2.0時代】2014年10月1日~2020年7月21日
【インバウンド3.0時代】2020年7月22日~
【インバウンド4.0時代】2030年までに!
「地方創生」はインバウンド振興から
【戦術1】観光資源の発見、地域のアイデンティティー獲得
【戦術2】「地域運営組織CMO」と「日本版DMO」の一体的運用
【戦術3】一世帯当たり、プラス年間10万円の現金収入
【戦術4】英語の通じる地域づくり~英語保育・イングリッシュタウン
【戦術5】縦社会からフラットな人間関係へ
Column 3 サミットのレガシーとMICEの可能性

第3章 最新事例から学ぶ、先進的な取り組み

“受信者”責任型社会と「おもてなし」
年間200日超の出張で見聞した、インバウンドの最新事例
【事例1】岐阜県飛騨高山~キーワードは「普通であること」
【事例2】兵庫県城崎温泉~「花仕事」と「米仕事」を実践
【事例3】京都府かやぶきの里~共同体が支える景観
【事例4】佐賀県白石町~磨けば光る、眠れるポテンシャル
【事例5】東京都品川区~OJTで学ぶ「英語少し通じます商店街」プロジェクト
【事例6】三重県松坂地区~サミットの遺産を創造する
Column 4 街道ツーリズムの可能性

第4章 インバウンドを成功させるための「7つの力」
【条件1】考える力―インバウンドと公共哲学
【条件2】示す力―地域の「未来予想図」を明確に示す
【条件3】巻き込むカ力―「従う力」を持ったお節介
【条件4】醸す力―利害を超えて地域を統合する
【条件5】貫く力―ぶれることなく愚直に戦略を実践し続ける
【条件6】売る力―価値ある「思い」を抱き、他者に与える
【条件7】育てる力―次世代の若いリーダーにバトンを渡す
Column 5 白船来航!その課題と可能性

終章 2020年に向けた「7つの目標」
【目標1】日本の重要観光資源をすべて見て回る
【目標2】公武合体の実現
【目標3】会員制インバウンド塾の全国展開
【目標4】2020年までに1718の全市町村と連携し、地域の6次産業化に寄与する
【目標5】日本に集客し、おもてなしするための体系的なメディア群をつくる
【目標6】世界の観光大国の最前線を網羅的に見て回る
【目標7】観光立国政策研究大学院大学の創設

おわりに

儲かるインバウンドビジネス10の鉄則 未来を読む「世界の国・地域分析」と「47都道府県別の稼ぎ方」

ブーム後のインバウンドビジネスのために

インバウンド産業がブームとなっている時には、たいしたビジョンや戦略がなくてもただ表面的に周りの真似をしていればある程度の儲けや利益は手に入れられました。しかし、これからはそう簡単には成功できません。本書ではインバウンドビジネスで成果を見出す戦略・戦術を解説していきます。

まえがき

今回は、本のタイトルを『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則』と、そしてそのサブタイトルを、未来を読む「世界の国・地域分析」と「不都道府県別の稼ぎ方」と題させていただいた。インバウンド市場の拡大とともに、ここ数年で、この分野に関する実に様々な本が出版されている。私自身、すでに5冊のインバウンドに関する本を書き、出版している(共著を除く)。今回の本で6冊目のインバウンド関連の著作となる。これまでにも、『接客現場の英会話もうかるイングリッシュ』(朝日出版社刊)という実用的な英会話のテキストは書いたが、インバウンドに関する実践的な儲け方の本は書いていない。今回が初めての試みとなる。ただし、今回においても、単なるハウツー本、テクニック集を書き下ろすつもりは毛頭なかった。

日本のインバウンド産業は黎明期を経て、ようやく発展期に入りつつある。一過性のブームや上げ潮のときには、たいしたビジョンや戦略がなくても、ただ表面的に周りの真似をしていれば、ノウハウだけを盗んであれこれ試していれば、誰もがある程度の儲け、すなわち売り上げや短期的な利益は手に入れられた。そして、この後の向こう数年間も、すなわち2020年の東京オリンピック・パラリンピックくらいまでは、それなりの追い風が吹くのかもしれない。しかし、その後は違う。優れた者のみが勝ち残り、凡庸な者・劣った者はふるいにかけられ落とされる時代が必ずやってくるだろう。まさに「優勝劣敗」の時代が到来するのだ。すなわち、今こそが真の勝利者になるための準備をしていく上で大チャンスの時期だと思う。

そもそも、「儲ける」の語源は、「設ける」と同源である。「設ける」とは、「事前に準備する」ことである。何も準備せずやみくもにやり散らかしても、その「儲け」(=成果)は小さく、長続きしない。実際私は、生半可な知識と浅い経験値のまま、安易にインバウンドビジネスに参入し、敗退していった人々をこの10年の間にたくさん見てきた。では、何を準備するのか。小手先の知識やノウハウなどは、状況の変化とともにあっという間に陳腐化するだろう。むしろ、基本的な視座(=鉄則[key rules]、戦略、フィロソフィー)を、しっかり学んで身につけ、日々急速に進化し続けるアジアをはじめとする世界の国際観光市場の変化に備えるべきなのではないだろうか。

ここで、この本を手にしていただいている読者の皆さんに、改めて注意を喚起しておきたいのは、本書のタイトルの冒頭の枕詞は『儲かる…』であって、『儲ける…』ではないという点だ。我が故郷佐賀県の大先輩の実業家である市村清さん(リコー三愛グループ創業者、1900~1968年)は数多くの名言を残した人として有名だが、「儲ける」と「儲かる」の違いについても次のような語録が知られている。

「儲けるのはどんなに上手くても限度があるが、儲かるということは無限だ。そして道にのっとってやるのが、この”儲かる”ことなのである」

そうなのだ。短期的に荒稼ぎしても意味はない。インバウンドビジネスは、このあと本文の第2章の「鉄則2」で述べる通り、中長期的な視点で取り組むべき領域である。「道にのっとって」とは、すなわちビジョンと理念と置き換えてもいいだろう。

ここで、本書の構成について簡単に説明しておきたい。まず第1章では、概論と現在のインバウンド市場のアウトラインを示し、第2章では、メインテーマであるインバウンドマーケティングにおける「10の鉄則」について述べる。そして、続く第3章では「海外主要市場の国・地域別分析」を、第4章では、「47都道府県別・稼ぎ方マニュアル」と題して、本書のサブタイトルでうたった通り、客観的な各種データを示しつつ、具体的なインバウンド戦略・戦術の進め方について述べていく。そして、終章である第5章では、「成果を生み出す7・5・3フィロソフィー」と題して、そうした鉄則や戦略・戦術の大本の基盤となる哲学について示す。

章を追って、最初から読み進めていただくのもいいし、いきなり実践編である第3章・第4章の戦略と戦術編・データ編から入っていただいてもいいと思う。ただし、どこから読み始めていただくにせよ、ぜひとも本書の全項を読み通していただき、我が国の観光立国を実現していく上でのビジョン、考え方の全体観を皆さんと共有できたらと願っている。

また、今回の本においては、私の著者名の肩書を、あえて「一般社団法人 日本インバウンド連合会(JIF)」の理事長と表記させていただいた。約6年間の構想準備期間を経て、2017年4月、私は有志の皆さんと共に、この社団法人を立ち上げた。当会は、日本のインバウンド産業に関わる政官民学・市民にわたるすべてのステークホルダー(利害関係者)をつなぐ、プラットフォームを提供する組織、人々にインバウンドに関する気づきと学びの場を提供する機構である。

そもそも、私がなぜこのJIFの設立を創唱したのか。その遠い原点は、2011年3月11日に起こった東日本大震災後、日本のインバウンド業界の壊滅的な状況の中で、個々のプレーヤーが個々にバラバラな活動をしていても限界があると痛感したことにある。そして、日本全体のインバウンドのプレーヤーをつなぎ、人々の諸力を結集する、業界を超えた、官民の垣根を超えたオールジャパンの機構が必要だという直観を得たことの中にあった。

私は、もちろん同時に今なおドン・キホーテグループ「株式会社ジャパンインバウンドソリューションズ(JIS)」の代表取締役社長を務め、日々インバウンドビジネスの民間の一プレーヤーとしても活動している。本書は、JIFという機構の代表者として日本のインバウンドを俯瞰する視点と、日々売上と利潤を最大化して我がJISの全従業員の生活を守るべくあくせく奮闘している一ビジネスマンとしての視点の、両方に基づいて著述しているつもりである。

それ故、私は日夜インバウンドビジネスの最前線で活躍されているビジネスパーソンの皆さんにとどまらず、政府や地方自治体またDMO/DMCその他各種公的団体の関係者の皆さん、中央や地方の首長・議員の皆さん、そして日本の観光立国を本気で目指しているすべての人々に、本書をぜひ手に取って読んでいただきたいと強く願っている。

他方、私はいくつかの大学・大学院の客員教授も務めている。日進月歩のインバウンド産業において過去の情報はほとんど役に立たない。インバウンド論の教科書として活用できる本もまだまだ少ない。それ故、本書はインバウンド分野に関わる専門学校・大学・大学院のテキストとして活用していただけるように、教育者の視点でも書いているつもりである。教育関係者の皆さんには、教科書・参考書としてもご活用いただければ幸いである。

なお、各章には、本文とは別に、日本を代表するツーリズムビジネス専門誌である『週刊トラベルジャーナル』の巻頭コーナーである「視座」に、私が毎月連載しているコラムを同誌編集長のご快諾の下、収録させていただいている。本文と併せて読んでいただければと思う(なお、この1年余のうちに同誌に掲載したコラムのうちの幾本かは、直接転載することをせず、可能な限り本文の中に組み込んでいる。また、転載されているコラムの内容は、特に注記することなく、直近の数値やファクトに照らして加筆修正している)。

この本を書き上げる上では、実に多くの方々のご支援と協力と激励をいただいた。とりわけ、日経BP社の日経BP総研 未来研究所の皆さまには第3章・第4章のデータ作成において、多大なご尽力をいただいた。この場を借りて、すべての関係者の皆さまに心より御礼を申し上げる。

2017年11月吉日

目次

第1章 世界の観光立国と日本
「インバウンド」の再定義
世界の現状と、日本の現実
世界の国際観光市場の動向
日本のインバウンド最新状況
国際観光市場が増えている理由
日本が生き残る道は唯一インバウンドのみ
観光競争力・世界4位の衝撃
見えてきた課題と、真の実力を築くカギ
日本の課題と、今後の可能性
もっとパスポートを取得しよう
地方分散を強みに多産業化を図ろう
日帰り客を宿泊客・長期滞在客にしよう
通年型でリピーターを獲得しよう

第2章 インバウンド・マーケティング10の鉄則
[鉄則1]「タビビト目線」を徹底せよ――プロモーションとおもてなし
最初から世界を考えよう
人類は永遠のタビビト
旅人と同じ目線でおもてなし
[鉄則2]「中・長期計画」を立てよ
2020年の先を見据えた戦略を
[鉄則3]「花仕事」から入れ―「米仕事」はその後
「自分たちも共に楽しむ」というボランティア
ボランティアからスタートアップへ
花仕事には無限の可能性がある
[鉄則4]「連携」して前に進め
もはや「昭和型」では生き残れない
スポーク思考からハブ思考へ
さらに広域の連携で「ゲートウェイ」へ
[鉄則5]「すでに起こった未来」を見つけ、学び、取り入れよ
人口動態から「未来」を予測する
我流で突き進むのは時間の無駄
[鉄則6]世界に飛び出せ―すべての答えは「ソース・マーケット」にある
1年前のトレンドはもはや手遅れ
訪日客とのギャップをまず埋めよ
[鉄則7]「すでに手の中にあるリソース」を最大限に生かせ
親族・友人という見逃せない需要
地域に眠るリソースを発掘せよ
市民のインバウンド支持率を高めよ
[鉄則8]プレミアム戦略を立て実行せよ
プレミアムとは単に値段が高いことではない
付加価値こそがさらなる付加価値を創出する唯一の原資
[鉄則9]ナイトマーケット(夜の市場)を攻めよ
昼の財布と夜の財布は桁が違う!
IR(カジノ)の可能性と課題
[鉄則10]ダイバーシティーこそがサステナブルな成功の礎
宗教文化におけるダイバーシティー
食文化のダイバーシティー
セクシャリティーにおけるダイバーシティー

第3章 海外主要市場の国・地域別分析
北東アジア~カギは滞在日数の長期化、アクティビティーの開発を
韓国
中国
台湾
香港
南・東南アジア~現在ではなく、「未来に向けて」手を打つべし
タイ
シンガポール
マレーシア
インドネシア
フィリピン
ベトナム
インド
オーストラリア
北・中南米~伸びしろは十分にある。日本独自のコト情報を発信せよ
米国
カナダ
欧州・ロシア~国民性や文化的背景を理解し、「日本独自」をアピール
英国
フランス
ドイツ
ロシア
イタリア
スペイン
中東・アフリカ~訪日ニーズが高まる中東、アフリカは旧宗主国がカギ

第4章 都道府県別・稼ぎ方マニュアル
北海道~眠れる資産を活用して欧米客を呼び込め
北海道
東北~ポテンシャルは高い、広域連携が市場拡大のカギ
宮城県
山形県
岩手県
秋田県
青森県
福島県
新潟県
関東広域~宿泊機能の弱点を克服し、首都東京ではなく世界を見よ
栃木県
茨城県
群馬県
埼玉県
千葉県
神奈川県
山梨県
東京都
昇龍道~産業ツーリズムや遊休資産を活用し、広域連携を成功に導け
愛知県
三重県
静岡県
長野県
岐阜県
石川県
富山県
福井県
滋賀県
関西~日本のインバウンドけん引、民泊活用で主要観光地以外の集客を
京都府
大阪府
奈良県
兵庫県
和歌山県
山陰山陽・四国~高いポテンシャル、横と縦の広域観光周遊ルートでさらなる成長を
鳥取県
島根具
岡山県
広島県
山口県
高知県
愛媛県
香川県
徳島県
九州~北部と南部で異なる取るべき戦略、欧米系訪日客を獲得せよ
福岡県
佐賀県
長崎県
大分県
熊本県
鹿児島県
宮崎県
沖縄~「沖縄らしさ」と「日本らしさ」の両立がカギ
沖縄県

第5章 成果を生み出す7・5・3フィロソフィー
成功へと導く「7つの力」
①考える力
②示す力
③巻き込む力
④醸す力
⑤貫く力
⑥売る力
⑦育てる力
社会を変革する「5つの”き”」
①意識(いしき)
②知識(ちしき)
③勇気(ゆうき)
④元気(げんき)
⑤景色(けしき)
踏み出すための「3つの無」~三無主義
(1)無条件
(2)無前提
(3)無根拠

コラム視座
[その1]明治維新と観光立国
[その2]FIT時代の旅人目線
[その3]お祭りツーリズムの可能性
[その4]ダイバーシティーとムスリムツーリズム
[その5]深化するアジア、足踏みする日本
[その6]訪日産業観光成功の条件
[その7]観光列車の窓から見えたもの
[その8]九州復興へのチャレンジ

観光立国のその向こうへ~あとがきに代えて
参考文献

PR視点のインバウンド戦略—訪日中国人の興味は「爆買い」から「体験」、「都市」から「地方」へ

これからの新しいインバウンド・ビジネス

インバウンドといえば、中国人観光客による「爆買い」を思い浮かべる人も少なくないでしょう。しかし、現在は、そのような買い物や景勝地巡りといった典型的な観光から新たな分野へ広がりつつあります。本書は、これからのインバウンド・ビジネスを成功に導くための考え方を解説しています。

電通パブリックリレーションズ (著), 電通公共関係顧問 鄭燕 (著), 日中コミュニケーション 可越 (著)
宣伝会議

目次

はじめに

第1章
いま、日本のインバウンド市場に何が起きているのか?
1-1 間もなく1000万人突破か?訪日中国人は間違いなく増え続ける
・韓国や台湾を抜いて中国人が訪日観光客のトップへ
・中国人のインバウンド消費が日本の経済を下支えする?
・外国人の受け入れ態勢が今後の最重点課題
1-2 訪日中国人観光客が増加したことには、これだけの理由がある!
・中国版「高度成長」で中産階級が激増
・効果絶大だったビザ発給要件の緩和
・「爆買い」を加熱させた円安や消費税免税
・ネットの普及が日本への関心を高める
1-3 インバウンド事業取り組みの遅れをチャンスに変える
・中国人観光客を地方に誘致することで問題解決へ
・中国人インバウンドがもたらす新たな「開国」
【コラム】15万人が来場。北京「旅行博」から見えてきた訪日旅行

第2章
インバウンド事業、成功と失敗の分かれ道はどこに?
2-1 地方へ広がるインバウンド。「モノ消費」から「コト消費」へ
・「爆買い」から新たなステージへ
・多様化するインバウンドの観光ニーズ
・「コト消費」のインバウンドは地方に向かう
・自分自身を再発見することのむずかしさ
・彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず
2-2 インバウンドを地方へ誘致するためのヒント
・きめ細かい情報発信の必要性
・地域内の連携でインバウンドに対処
・多角的な視点で地元の魅力を探る
・日本には魅力的なテーマ旅行がまだまだある
・中国の旅行会社に企画旅行を提案
・タクシーの手配案内などで外国人観光客の利便を図る
2-3 成功事例から学ぶ中国向けインバウンド・ビジネスへの視点
・中国でプロモーションに成功している日本企業はまだ少ない
・中国人による中国人のためのプロモーションを
・スタート時点から中国人のスタンスに立って戦略を考える
【コラム】中国旅行会社リポート
①《凱撒旅游総公司(Caissa)》
②《知行家》

第3章
中国の社会とヒトを読み解く
3-1 日本を訪れる中国人は、どのような人たちか?
・訪日中国人観光客の中心は20~30代
・日本の「質の高いサービス」を評価
・日本は、中国人にとって一度は行ってみたい国
3-2 急激に変貌する中国社会と中国人のライフスタイル
・スマホひとつで何でも片づく「デジタル超先進国」
・安心・安全や品質を求める「80后」や「90后」世代
・家族や地縁を重視するメンタリティ
3-3 インバウンド誘致のための情報戦略
・旅行前も旅行中も、情報収集はSNSから
・中国人気女優のフォロワー数は4000万人
・KOL効果を最大限に導き出す! ―中国プロモーション成功事例―
・中国人の心をつかむテーマ旅行! ―旅行企画ケーススタディー―
・口コミの拡散=リスクの拡散?リスクをチャンスに変える取り組み
・ウィーチャットが時代遅れになる日が来る?
【コラム】中国デジタルPR事情レポート
巨大ガラパゴス?それとも次代の先駆者?
手法から読み解く中国のコミュニケーション最前線

第4章
コミュニケーションの誤解を解き、未来志向へ
4-1 異文化コミュニケーションに対する理解力を高める!
・グローバル化する「R后」以降の世代 人に対する「距離感」の微妙な違い
・「鷹揚さ」や「気配り」の視点に民族性の相違
・「空気を読む」ことができるのは日本人だけ?
・個人を律する基準はどこの国でも同じ
4-2 インバウンド・ビジネスの将来性
・信頼できるパートナーと組むことが成功のポイント
・中国人インバウンドの将来はどうなる?
・匠の心を求めて、日本に学ぶ中国政府と企業家たち
【コラム】中国デジタルPR事情レポート2
13億人を動かすべく奔走する、中国のデジタルPR

第5章
地方創生の切り札は「インバウンド」だ!
【インタビュー】旅行客の地方誘致とPRの役割
・地方創生を支える観光振興のプレーヤーたち
・活躍が期待される「日本版DMO」とは?
・現状を把握し、ターゲットを設定する
・「何もない」ところから「ストーリー」を紡ぎ出す
・ターゲットに「刺さる」情報の発信を
・インバウンド誘致の合意形成を図る
【座談会】地方はインバウンド需要を取り込めるか
――地方創生への期待と課題
・官民連携でインバウンドを地方創生に活かす
・インバウンド誘致にマーケティングの考え方を取り入れる
・地元が稼ぐ仕組みづくりでDMOを設立
・欧米のFITに特化して独自性を発揮
・旅行博への出展やSNSで情報発信
・多くの自治体にとって「インバウンド」は手探り状態
・オンリーワンの観光資源を見つけて「地方創生」の促進へ
・インバウンド推進には地元の理解を得ることが大切
・無理せず自然体でインバウンドに臨む
・国内と海外の需要バランスを考えて健全な発展を
【コラム】広域連携でインバウンド誘致に取り組む「せとうち観光推進機構」

おわりに

電通パブリックリレーションズ (著), 電通公共関係顧問 鄭燕 (著), 日中コミュニケーション 可越 (著)
宣伝会議

はじめに

インバウンド(訪日外国人旅行)といえば、中国人観光客による「爆買い」を思い浮かべる人も少なくないでしょう。しかし、いま、そのような買い物や景勝地めぐりといった定型的な観光から、インバウンドは新たな分野へ広がりつつあります。京都の禅寺で座禅を体験したり、四国のお遍路の旅に癒やしを求めるなど、日本文化を体験するという人たちも増え始めています。
文化体験といえば、音楽鑑賞も有力なコンテンツのひとつ。東京は実にたくさんのコンサートを開催している都市です。コンサートへ中国人観光客を誘致しようという活動も積極的に推進されています。このように、「日本に来れば、こんなにも多様な文化体験ができるのだ」という評価が、中国人に着実に浸透しつつあるようです。
他方、こうしたインバウンドの動向を見据えて、都心だけでなく、少子高齢化によって縮小傾向にある地方へ、中国人観光客を呼び込もうという機運が各分野で高まりを見せています。

本書の著者、鄭燕(てい・えん)さんと可越(か・えつ)さんは、多様化するインバウンド誘致を軌道に乗せるため、中国人の視点を活かしたサポートを行っています。日中双方の事情に詳しい二人は、インバウンド・ビジネスを成功に導く「水先案内人」の役割を果たしています。
鄭さんは、中国にある日中合弁企業に就職したことが、日本とかかわる契機となっています。同社が経営するホテルで働いていたときに、日本へ留学する機会を得て、一橋大学商学部に入学。その後、アクセンチュア日本法人を経て、2003年に電通に入社。電通本社では、大手グローバルメーカーの海外営業兼戦略プランナーとして、アジアをメインとした海外生活者調査、現地コミュニケーション支援構築、グローバルブランドガイドブックの制作、9カ国共通イントラネットの構築などを手がけてきました。
現在の鄭さんは、北京、上海そして広州に拠点を置く電通公共関係顧問(北京)の総経理(社長、最高経営責任者)を務めています。設立7年目の同社は、クライアントの7割以上が日系企業、その他が中国企業や台湾企業などです。中国における日系PR会社の中で最も著しい発展を遂げてきただけでなく、過去5年間の中国PR業界の平均成長率が約15.5%(中国国際公共関係協会発表の中国公共関係業年度調査報告による)であるのに対し、同社の成長率はそれをはるかに上回っています。業務については、日本製品やサービスのPR案件はもとより、従来のPRの枠を超えてより深く戦略的なコミュニケーションに重点を置いた、ブランドレピュテーションマネジメントやビジネスリーダーのプレゼン能力を高めるスピーチ研修など、トータルなPR戦略を積極的に展開しています。また近年、隆盛を見せるインバウンドビジネスに、より深く関与していくため、インバウンド業務も積極的に開拓しています。
一方、可さんは1994年に留学のため来日し、97年に電通に入社。その後、東京大学の修士課程でメディアを研究。修了後、2004年に日中コミュニケーションを創業しました。
そのころから可さんは、インバウンド業務に関与しています。当時の小泉首相は2010年までに1000万人の外国人を誘致するというスローガンを掲げていました。
「ビジット・ジャパン・キャンペーン」という施策が始まり、推進本部の中に中国関係の部会が設置され、可さんはそのメンバーでした。2013年には観光庁と日本観光振興協会の「観光おもてなし研究会」の委員に就任しました。
可さんの会社は、日本企業の中国向けPRをメイン業務としており、起業当初は、家電量販店などへの中国人誘致に貢献していました。現在は、自治体から観光誘致の相談を受けることも多く、外国人という第三者の目で、「地方創生」のアドバイスも行っています。このほか、中国に関する講演も行っており、中国文化への理解の橋渡しに努めています。
この鄭さんと可さんが出会ったのは2008年のこと。「中国PR研究会」という会合のメンバーになったことがきっかけです。この研究会では、日中間のコミュニケーションのギャップをどのように埋めていくのかを検討。日本の企業をいかにして中国へPRすべきかを研究していました。そのころから、すでに二人は、日中間のコミュニケーションをテーマにして、両国にメリットのある本を出版できないかと話をしていました。
そして私たち電通パブリックリレーションズは、マーケティング・コミュニケーションおよびコーポレート・コミュニケーション領域でPRコンサルティングから専門的なソリューションまでを提供する会社です。インバウンドを契機にPRの需要開拓を行うため、社内に専門チームを立ち上げ、企業や自治体を対象に、日本の魅力を訪日観光客に伝えるための支援を強化しています。PR視点で、特に中国人のインバウンドを推進していく上では、日中間のコミュニケーションは欠かせません。そこで、インバウンドを切り口に、三者の視点から、日本人に役立つ書籍を出版しようと決心しました。

内容は、中国人のライフスタイルやメディア接触の現状、対中コミュニケーションの戦略や課題、インバウンドを地方へ誘致するヒントなど盛り沢山です。
日本はいま、数千年の歴史の中で一度も経験したことのない大変革に直面しています。なぜかというと、これほど多くの外国人が日本に来ることは、過去になかったからです。年間2000万人もの外国人が来ることはまさに大変革であり、これからも続いていくわけです。これは時代の趨勢であり、日本および日本人にとって直面せざるを得ない事実なのです。
そのとき、異文化とのコミュニケーション力が重要になってきます。育った環境や価値観が違う人と接するときは、対立を避けて確かな信頼を築いていくことが肝要です。観光客に対して、どのように接していけば、より安心できる社会づくりができるのか、日本人は考えていかなければなりません。
訪日客による観光が、買い物だけでなく、文化体験に重きが置かれるようになる中で、また、旅行先が都心だけでなく地方へも広がっていく中で、異文化とのコミュニケーション力を鍛えていくことが、ますます重要なテーマとなっています。言葉だけのうわべのコミュニケーションではなく、文化や価値観、個人の生育環境をはじめ、相手の考えなどを分かり合うことが大切で、それがインバウンドを日本に根付かせることにもつながります。
インバウンドからビジネスチャンスを得ようとする場合にも、しっかりと腰を据えて、相手の文化を知ることが必要になってきます。やがて、インバウンド・ビジネスにおいて、勝ち組と負け組の色分けが出てくるでしょうが、勝ち組は、積極的に海外に情報発信を行っていく企業や自治体です。異文化コミュニケーション力を高めていくことこそが勝ち組への近道であることは間違いありません。

「親しい友人同士でも、いろいろとギャップを感じることがあります。意見が衝突することもあります。中国人と日本人の間に違いがあって当然。たとえ日中関係が悪くなっている時期でも、おだやかな心で対応していくことが大切だと思います。この本では、私たちの経験や中国人の考え方などを多岐にわたってご紹介していますが、それがみなさんのお役に立てば幸いです」(鄭さん・可さん)

本書には、親日家である二人の中国人女性が抱く日本への熱い思いと、インバウンド・
ビジネスを成功に導く示唆が込められています。

(電通パブリックリレーションズ インバウンドプロジェクトチーム)

電通パブリックリレーションズ (著), 電通公共関係顧問 鄭燕 (著), 日中コミュニケーション 可越 (著)
宣伝会議