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EQを理解して、実生活に活かす!
人間社会でうまくやっていくためには、知能指数として使われるIQが高ければいいのではありません。そこで注目されているのが、EQ(心の知能指数)という「現在の自身の感情状態」をコントロールする力となります。自分自身の感情を認識して制御できれば、自分に適切な行動を取り、前向きな感情を生み出し、前向きな行動を起こすことができるとされ、今回はEQについて更に知りたい、取り入れた知識を実践してみたいなどおすすめ書籍を紹介します。
EQ こころの知能指数 (講談社+α文庫)
注目を集めているEQ
EQとは、IQとは質の異なる頭の良さのことで、自分の気持ちを自覚し、心から納得できる決断を下す能力、他人の気持ちを感じ取る共感能力などのことです。EQは注目されてきており、国語や算数などと同じように必修科目として教えることも検討されてきています。本書では、感情と知の統合はどのようにすれば可能なのかを検討していきます。
日本の読者のみなさんへ
いまこの文章を書いている時点で、「こころの知能指数」を見直そうという私の提案はアメリカの人々に非常に好意的に受け容れられている。一九九五年九月の発売以来『EQ~こころの知能指数』はアメリカのベストセラー・リストの上位を走りつづけ、印刷部数は五十万部に達した。全米各地の学校が、「こころの知性」を算数や国語と同じような必修科目として教える方向へ動きはじめている。企業も社員の「こころの知性」に注目し、EQを高める方法を模索しはじめた。
EQすなわち「こころの知能指数」とは何だろう?それは、知能テストで測定されるIQとは質の異なる頭の良さだ。自分の本当の気持ちを自覚し尊重して、心から納得できる決断を下す能力。衝動を自制し、不安や怒りのようなストレスのもとになる感情を制御する能力。目標の追求に挫折したときでも楽観を捨てず、自分自身を励ます能力。他人の気持ちを感じとる共感能力。集団の中で調和を保ち、協力しあう社会的能力。
「こころの知能指数」には、日本の社会では珍しくない概念もかなり含まれている。「日本的なもの」の真髄に通ずる部分があると言ってもいいかもしれない。思いやり、自制、協力、調和を重んずる価値観は、日本人の本質だ。ある意味では、「こころの知性」に注目しはじめた世界の変化は、世界の国々が日本社会の安定や落ち着きや成功を支えてきた中心的な要素に気づいた徴候とも言えるだろう。
ただ、最近の日本からは気にかかるニュースも聞こえてくる。日本社会も変化しはじめているのかもしれない。
▼東京で、高校生七人を含む十人の若者が十五人の若い女性を強姦した疑いで逮捕された。若者たちはポルノ雑誌で制服姿の女子高生の強姦シーンを見て自分たちもやってみようと思いつき、小グループで被害者の女性たちを襲ったという。
▼第二次世界大戦後の高度経済成長期に日本の家庭では父親不在の傾向が強まり、日本の男性の年間労働時間はあいかわらず世界のトップを走りつづけている。過労死も増えている。近年の不況にもかかわらず、労働時間はあまり減少していない。
▼いじめによる児童の自殺が増えている。個々のケースを調査してみると、両親や教師はいじめの事実にうすうす気づきながら悲劇的な結末を防げずに終わっている。
▼日本の学生は、運命を決めてしまうたったひとつの数字「偏差値」にしいたげられている。子供たちは幼い頃から高い点を取るためにあらゆる努力をするよう圧力をかけられている。
「こころの知性」に関して日本でまず課題とすべきは、学校教育における点数偏重を見直すことだろう。ひとつには、学力試験で測定されるような認知能力は広範な知性のごく一部分しか反映していないことが各種のデータからわかっているからだ。自分自身の感情や他人との関係をうまく処理する能力も、知性の一部分だ。しかもこれは、人生を最終的に大きく左右する知性だ。
アメリカでは、狭い範囲の成績や点数を重視したところでその子が将来いい人生を生きられるかどうか予測する基準にはならないのではないか、と考えるようになってきている。学校の成績は、実際、その人が社会に出てから成功するかどうかの予言にはならないし、まして幸せな人生を送れるか、世の中の役に立つ人間になれるかどうかを決定する要素ではない。同時に、アメリカでは社会の不安定化が進み、子供たちのこころの教育に早急に力を入れる必要性が切実に叫ばれている。日本の社会も、似たような方向へ動いていく徴候を見せはじめているようだ。
さらに、いまの日本の青少年にかけられているプレッシャーの大きさを考えると、不安の処理法を教えていく必要があるように思われる。また、いじめの増加を考えると、親切や思いやりの教育に目を向ける必要もありそうだ。生徒にこれだけ大きなプレッシャーをかける学校教育を今後も続けていくならば、プレッシャーにうまく対処する方法も同時に教えていくべきだろう。将来、こころの教育は日本人らしさを支える重要なカギとなるかもしれない。
一九九六年五月
ダニエル・ゴールマン
アリストテレスの挑戦
然るべきことがらについて、然るべきひとびとに対して、さらにまた然るべき仕方において、然るべきときに、然るべき間だけ怒るひとは賞賛される。
アリストテレス『ニコマコス倫理学』
高田三郎 訳
八月のニューヨーク。耐えがたく蒸し暑い午後。不快指数が人々を不機嫌にする。私はホテルに帰る途中だった。マディソン街を北へ行くバスに乗ろうとステップに足をかけて、驚いた。中年の黒人運転手が顔いっぱいに笑みを浮かべて「こんにちは!ごきげんいかが?」と迎えてくれたのだ。通りにひしめきあう車のあいだを縫うようにバスを走らせながら、黒人運転手は停留所で乗り込んでくる客ひとりひとりにこうして挨拶した。どの客も、私と同じように驚いた顔をした。その日の不快な天気のせいで、運転手の挨拶に応える客はほとんどいなかった。
しかしバスが渋滞の中を北へ向かってのろのろ進むうちに、車内に少しずつ不思議な変化が起こりはじめた。運転手は乗客を楽しませようと、左右の街の風景を陽気に喋りつづける。あの店のセールはすごかったですよ。この美術館の展示はなかなかいいです。その先の映画館で始まったばかりの映画の評判、聞きましたか?ニューヨークの街の魅力を楽しげに語る運転手の明るさが、乗客のあいだに広がっていった。バスを降りる頃には、乗客は乗ってきたときの不機嫌なカラを脱ぎすてて、「さよなら!いい一日を!」という運転手の元気な別れの挨拶に笑顔で応えていた。
あのときの記憶は、二十年近くたった現在も私の脳裏から消えない。マディソン街を走るバスに乗ったとき、私はちょうど心理学の博士論文を書き終えたところだった。しかし当時の心理学は、バスの乗客になぜあのような変化が起こったか、といったテーマにはほとんど関心を向けていなかった。感情の動きについて、心理学は何ひとつ知らなかったのである。それでも私には、バスの乗客に感染した「いい気分」のウイルスがニューヨークの街中へさざ波のように広がっていくのが想像できた。乗客の不機嫌な苛立ちを明るい気分に変えてしまった不思議な運転手の存在が、大都会で出会った心のオアシスのように思われた。
この話とは対照的に、最近の新聞は次のようなニュースを伝えている。
▼地方のある学校で九歳の男子生徒が大あばれし、学校の机やコンピューターやプリンターにペンキをぶちまけ、駐車場にとめてあった自動車をめちゃくちゃに壊した。三年生のクラスメートに「ガキ」呼ばわりされたため、見返してやろうと思っての蛮行だという。
▼マンハッタンのラップ・クラブ前にたむろしていたティーンエージャー同士が不注意でぶつかったことから乱闘が始まり、そのうちのひとりが三十八口径のオートマチック拳銃を群衆に向けて発砲したため、八人の若者が負傷した。この事件のように取るに足らない出来事が挑発と受けとられて発砲事件に至るケースは近年アメリカ全土で増えている、と記事は指摘している。
▼ある報告によれば、殺人事件の犠牲となった十二歳以下の子供のうち、五七パーセントは父母や継父母に殺された子供たちだった。そうしたケースの半分近くで、親は「子供にしつけをしようとしただけだ」と言う。死の折檻の理由は、子供がテレビの邪魔をした、泣いた、おむつを汚した、という程度の「落ち度」だった。
▼トルコ人が住む家に放火して就寝中のトルコ人女性と子供五人を殺したとして、ドイツ人青年が裁判にかけられた。ネオナチのメンバーである青年は法廷で、自分は職に就けず、酒におぼれ、自分の不運を外国人のせいだと考えた、と語った。そして、ほとんど聞きとれないような小声で「自分のしたことを考えると申し訳ない気持ちでいっぱいです。自分のしたことをすごく恥じています」と述べた。
日々のニュースには、社会の礼節や安全の崩壊を物語る出来事や卑劣な衝動のままに起こした事件があふれている。しかしこうしたニュースは、私たちが心の片隅でひそかに感じている不安——自分自身の感情や周囲の人々の感情がコントロール不能になりかけているという不安――を増幅した形で反映しているにすぎない。私たちは誰ひとりとして、感情の噴出や後悔がもたらす大波と無関係に生きることはできない。感情の波は何らかの形で私たちすべての人生を揺らす。
ここ十年のあいだ、家庭や地域社会や集団生活において、こころの働きに関する無知無能や自暴自棄が原因となった事件は増加の一途をたどっている。家でひとりテレビを相手に過ごす鍵っ子の淋しさの中にも、親から捨てられ無視され虐待される子供の痛みの中にも、暴力に支配され荒廃した夫婦関係の中にも、怒りと絶望が年ごとに高まっている。こころを病む人が増えていることはうつ病患者の世界的な急増からもわかるし、世の中に攻撃的な事件が増えていることからもわかる。ティーンエージャーがピストルを持って登校し、フリーウェイでの接触事故が撃ち合いになり、会社を解雇されたことに不満を抱いた人間が同じ職場で働いていた同僚を大量虐殺する世の中なのだ。「情緒的虐待」、「通りがかりの発砲」、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」は珍しい言葉ではなくなり、時代のキャッチフレーズは陽気な「いい一日を!」から挑発的な「やれるもんならやってみな!」に変わった。
この本は、人間の非理性の世界を理解しようとする試みだ。私自身心理学者として、また最近十年間は『ニューヨーク・タイムズ』紙のジャーナリストとして、理性で割り切れない領域が科学的に解明される過程を見守ってきた。現在、私の立っているところからは二つの正反対の動向が見える。ひとつは、気持ちを共有しあうことがますます困難になる社会。もうひとつは、希望をつないでくれる救済策だ。
なぜいまEQなのか
この十年間は悪いニュースも多かったが、人間の感情面に関する科学的研究は飛躍的に進歩した。なかでも劇的なのは、脳の画像処理技術が発達して、現に活動している脳の状態を見られるようになったことだ。こうした技術の発達によって、長いあいだの謎が解明された。人類史上初めて、人間が考えたり感じたり想像したり夢見たりしているときに脳の複雑な神経細胞がどう機能しているかが目で見られるようになったのだ。神経生物学的データが一気に増えたおかげで、脳の中の情動をつかさどる部分がどのような仕組みで人間を怒らせたり泣かせたりするのか、あるいは戦う衝動や愛する衝動を起こさせる脳の原始的な部分をどうすればうまくコントロールできるかが明らかになってきた。こころの働き(あるいはその欠如がもたらす結果)が解明されてきたおかげで、社会をむしばむこころの病への対策もいろいろ考えられるようになってきた。
今までこの本が書けなかったのは、科学的なデータが不十分だったからだ。それは主として、精神活動における情動の地位が研究者のあいだで不当に軽視され、心理学の中で情動の領域だけが暗黒大陸のように未開のまま放置されてきたからだ。この空際に、自助努力を説く本が大量になだれこんできた。しかし善意とはいえ、こうした本の大半はせいぜいが臨床医の意見にもとづいたアドバイスの域を出ず、科学的な裏づけは皆無に近かった。いまようやく、科学は確かな裏づけをもって不可思議な精神の働きを解明し、人間のこころの見取り図を描きはじめている。
こころの見取り図は、人間の知能を狭くとらえる人々、知能は経験で変えることのできない遺伝的素質であり人間の運命はこうした素質によってあらかた決まっているのだと主張する人々に挑戦状をつきつけることになる。知能を狭義にとらえたのでは、「子供たちが人生をよりよく生きていくために大人は何をしてやれるか」、あるいは「IQの高い人が必ずしも成功せず平均的なIQの人が大成功したりする背景にはどのような要因が働いているのだろうか」といった疑問はわいてこない。人間の能力の差は、自制、熱意、忍耐、意欲などを含めたこころの知能指数(EQ)による、と私は考えている。EQは、教育可能だ。EQを高めることによって、子供たちは持って生まれたIQをより豊かに発揮することができる。
しかし新たな可能性の背景には、危急の事情がある。現代は社会の枠組がこれまでにない勢いでほころび、利己的な態度や暴力や卑劣な精神が善良な生活をむしばみつつある時代だ。情操と人格と倫理を論ずるうえでも、EQが重要になってくる。人間の基本的な倫理観はEQという基礎の上に成立していることが、近年少しずつ明らかになってきた。たとえば、衝動は情動が外に表われたものだ。あらゆる衝動の根源は、行動として表出しようと待ちかまえている情動なのだ。衝動のままに動けば自制の努力をしなければ――倫理を欠くことになる。衝動をコントロールする能力は意志と人格の基礎だからだ。同じように、愛他主義の根幹は他人の気持ちを読みとる能力、すなわち共感能力にある。他人の欲求や苦境が理解できなければ、他人に対する思いやりは生まれようがない。いまの時代が何より必要としている倫理は、まさにこの自制と共感だ。
この本の内容
この本で、私は情動について科学的に解明された事実を読者のみなさんに紹介し、私たち自身や周囲の世界をときとして混乱に陥れる不可解な場面をもっとよく理解するための案内役をつとめたいと思う。そして最終的には、情と知の統合とはどういうことか、どうすればそれが可能なのかを理解できるところまで到達したいと思う。これだけでも有意義だ。こころの働きを知的に理解することは、物理学を量子レベルで眺めるのに似て、今まで見ていたものがちがって見えてくるようなインパクトをもたらすだろう。
第一部では、情動をつかさどる脳の仕組みについて新しくいろいろなことが発見され、感情が理性を凌駕してしまう理由が説明できるようになったことを紹介する。憤怒や恐怖にとらわれた場面―あるいは情熱や歓喜に我を忘れた場面で脳の各部分が相互にどう作用するかを理解することによって、本人が意図しない情動反応が出てしまうのはなぜか、破壊的・自滅的な衝動を抑えるにはどうすればいいか、などがわかるだろう。なかでも重要なのは、神経学的データから子供に情動教育をおこなうべき時期がわかってきたことだ。
第二部では、持って生まれた神経学的素質が「情動の知性」という人生の基礎能力にどう表われてくるかを検証する。情動の知性とは、たとえば衝動をコントロールする能力のことだ。他人の心の奥にある感情を読みとる能力、人間関係を円滑に処理する能力、アリストテレスが書いたように「然るべきことがらについて、然るべきひとびとに対して、さらにまた然るべき仕方において、然るべきときに、然るべき間だけ怒る」能力のことだ(神経学的な詳細に興味のない読者は、第一部をとばして第二部から読みはじめてもよい)。「知性」をこのように広くとらえると、こころの知能指数(EQ)は人生を聡明に生きるうえで非常に重要な要素ということになる。
第三部では、EQが人生にどれほどの格差をもたらすかを考える。たとえばEQの高い人は大切な人間関係をうまく育てることができ、EQの低い人は大切な人間関係をだめにしてしまう。市場の影響を受けて労働の形が変化していく中で、EQは職場における成功・失敗をこれまでになく大きく左右する要素にもなっている。さらにまた、健康に有害な情動をコントロールできない人はチェーン・スモーキングと同じくらいの健康上のリスクを負い、反対に情動のバランスを保てる人は健康を維持できる、という格差まで生じる。
情動は人によって遺伝的に配合が決まっており、それが気質を決定している。ただし、これに関係する脳の神経回路は並はずれた柔軟性を持っている。気質は変えられるのだ。
第四部では、子供時代の家庭や学校における情動学習がその人の情動回路を形づくりEQを決定するプロセスを見る。これは言いかえれば、幼年期から思春期が人生を支配する基本的情動を身につけるうえできわめて重要な時期であるということだ。
第五部では、人生をつまずかないで生きるために必要な情動的・社会的技術を先進的な学校では子供たちにどう教えているか、さまざまな例を紹介する。本書の中で最も気がかりなデータを選ぶとしたら、多数の親や教師にアンケートした結果、いまの子供は昔の子供より感情面で病んでいることが世界的傾向として確認された、という調査報告だろう。子供たちは昔に比べて孤独でうつうつとし怒りやすく荒れており、神経質で不安で衝動的で攻撃的になっている。
救済策があるとしたら、われわれ大人が子供たちに生きる知恵をどれだけ授けてやれるかだと思う。現時点では子供に対する情動教育は指針もなく、どんどん悪いほうへ向かっている。ひとつの解決策は、学校が新しい視点に立って生徒全員に知と情を統合する教育を試みることだ。本書では第五部で、情動の基礎教育をめざす先進的な学校の授業風景を紹介する。情動の自己認識、自制心、共感など人間として欠くことのできない能力や、相手の話をしっかり聞く技術、紛争を解決する技術、協力しあう技術などをすべての学校で日常的に生徒に教育する時代が来る、と私は信じている。
人間の徳や人格や善き生活について哲学的に考察した『ニコマコス倫理学』のなかでアリストテレスがめざしたのは、情念を知性によって統御することだった。情念は、うまく使えば知恵となって人間の思考や価値観を導き、命を救う。しかし同時に情念は、いともたやすく道から外れるものでもある。アリストテレスも認識していたように、問題は情動そのものではなく、いかに適切な情動をいかに適切に表現するかにある。いま問われているのは、情動にいかにして知性を持たせるか、街にいかにして安寧をもたらすか、地域社会にいかにして思いやりをとりもどすか、である。
目次
日本の読者のみなさんへ
アリストテレスの挑戦
第一部 情動の脳
第一章 情動とは何か
第二章 情動のハイジャック
第二部 EQ~こころの知能指数
第三章 秀才がつまずくとき
第四章 汝自身を知れ
第五章 激情の奴隷
第六章 才能を生かすEQ
第七章 共感のルーツ
第八章 社会的知性
第三部 EQ応用編
第九章 結婚生活の愛憎外
第十章 職場のEQ
第十一章 医療とこころ
第四部 EQは教育できる
第十二章 家庭が教えるEQ
第十三章 心的外傷の修復
第十四章 気質は変えられる
第五部 情動の知性
第十五章 情動教育のかたち
文庫版訳者あとがき
EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方
EQリーダーシップを学ぶ
気持ちに訴える力があるかどうかは、リーダーとしてあらゆる仕事をうまく処理できるか否かを決めてしまうほど重要です。だからこそリーダーにとってEQというのは欠かせないものなのです。本書では、EQの高いリーダーが集団に共鳴現象を起こし業績を伸ばすことができるのはなぜかという問いを解説しています。
生涯にわたる愛情のなかで
共鳴とEQを学ぶわたしたちに力を貸してくれた
それぞれのパートナー
タラ、サンディ、エディへ
目次
序文
第一部 六つのリーダーシップ・スタイル
第一章 リーダーの一番大切な仕事
第二章 共鳴型リーダーと不協和型リーダー
第三章 EQとリーダーシップ
第四章 前向きなリーダーシップ・スタイル
――ビジョン型、コーチ型、関係重視型、民主型――
第五章 危険なリーダーシップ・スタイル
――ペースセッター型と強制型―――
第二部 EQリーダーへの道
第六章 EQリーダーを作る五つの発見
第七章 EQリーダーへの出発点
第八章 理想のリーダーシップをめざして
第三部 EQの高い組織を築く
第九章 集団のEQをどう高めるか
第十章 組織の現実、組織の理想
第十一章 進化しつづける組織
付録A EQ対IQ
付録B EQリーダーシップのコンピテンシー
謝辞
解説
装幀=川畑博昭
装画=高橋三千男
序文
本書を著すことになったのは、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載した論文「リーダーの資質とは何か」および「結果を出すリーダーシップ」に対して読者諸氏から空前の好評が寄せられたことが大きい。ただし、本書はこれらの論文の範囲をはるかに超え、「EQリーダーシップ」という新しい概念を提唱している。リーダーの基本的な役割は、良い雰囲気を醸成して集団を導くことである。そのためには、集団に共鳴現象を起こし、最善の資質を引き出してやることが肝要だ。リーダーシップとは、気持ちに訴える仕事なのである。
あまり注目されていないが、気持ちに訴える力があるかどうかは、リーダーとしてあらゆる仕事をうまく処理できるか否かを決めてしまうほどの要素だ。だからこそ、リーダーにとってEQ(感じる知性)が重要になる。優れたリーダーシップを発揮するためにはEQが欠かせないのだ。
本書では、EQの高いリーダーが集団に共鳴現象を起こし業績を伸ばすことができるのはなぜか、という問いを解明する。また、EQを個人やチームや企業の実利につなげるにはどうすればいいか、という点も解明していきたい。
数ある経営理論の中で本書のユニークな点は、リーダーシップ理論と神経学を関連づけて論じている点だろう。脳の研究が進んだ結果、リーダーの雰囲気や行動が部下に多大なインパクトを与えるメカニズムが見えてきた。また、EQの高いリーダーが部下を鼓舞激励し、情熱を喚起し、高いモチベーションやコミットメントを維持させることのできる理由もあきらかになってきた。一方で、本書は、職場の感情風土(気風)を毒する有害なリーダーシップに対しては警鐘を鳴らす。
三人の著者は、それぞれ異なる視点から本書に取り組んでいる。ダニエル・ゴールマンは、これまでの著書およびハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載した論文に寄せられた世界的反響のおかげで、各国のリーダーたちと対話する機会を得ることができた。リチャード・ボヤツィスは、世界各地で講演をおこなう一方で、ウェザーヘッド・スクール・オブ・マネジメント教授として十五年にわたり何千人ものMBAや企業役員にEQリーダーシップを指導した経験を通じて、綿密な研究データを蓄積してきた。アニー・マッキーはペンシルベニア大学教育大学院教授として世界各国の企業や組織のリーダーにコンサルティングをおこなっており、多くの組織においてEQリーダーシップ育成の土台を築いてきた経験からさまざまな洞察を得た。こうした三人の多彩な専門知識を撚りあわせて、EQリーダーシップの全体像を描いていきたい。
世界各国の企業や組織を訪ねて何百人もの役員、管理職、従業員と対話した経験の中から、EQリーダーシップの多面的な姿が見えてきた。どんな組織のどんなレベルにも、共鳴を起こす力を持ったリーダーは存在するのだ。そのなかには、正式なリーダーの肩書きは持たないけれども、必要なときに進み出て役割をはたし、再び下がって次の機会が訪れるまで待つ、というリーダーもいる。あるいは、チームや企業全体を率いる立場のリーダー、組織を立ち上げるリーダー、組織に変革をもたらすリーダー、会社から独立して事業を始めるリーダーもいる。
そうした多種多様なリーダーたち(実名もあれば匿名もある)のエピソードを本書で紹介しよう。どのケースも、膨大なデータで裏づけられている。
同僚の研究者たちから提供されたデータも多い。ヘイ・グループの調査研究部門からは、世界各国の顧客を対象に二十年にわたり実施してきたリーダーシップ能力分析データの提供を受けた。近年では、「感情コンピテンシー調査表」(われわれが開発した主要なリーダーシップEQの測定様式)にもとづいてデータを収集する大学の研究室も増えた。他にも、さまざまな研究機関から調査結果や理論が寄せられている。
これらのデータをもとに、われわれはEQリーダーシップに関するさまざまな問いに答えを導き出した。変革の激動を生きのびるために、リーダーにはどのようなEQが必要か?厳しい現実にも率直に対応できるリーダーの精神的強さは、どこから来るものなのか?部下を鼓舞激励して最高の能力を発揮させ、企業に対する忠誠心を育てるために、リーダーは何をすればよいのか?創造的な革新を進め、最高のパフォーマンスを引き出し、顧客との温かな関係を維持していける感情風土を醸成するには、リーダーはどのように努力すればよいのだろう?
これまで長いあいだ、感情の問題は組織の理性的運用を乱す雑音とみなされてきた。しかし、ビジネスから感情を切り捨てる時代は終わったのだ。今日、世界中の組織がなすべきは、EQリーダーシップの価値を再認識し、こころの共鳴を起こせるリーダーを育て、従業員の力を引き出すことである。
本書を書き上げる直前の二○○一年九月十一日、ニューヨークとワシントンDCとペンシルベニアを恐ろしい出来事が襲った。あの惨禍は、悲劇と危機の瞬間におけるEQリーダーシップの大きな役割をはっきりと見せてくれた。そして、こころの共鳴とは単に積極性だけでなく広範な感情にあてはまるものだということを再認識させてくれた。コネチカット州に本社を置くハイテク企業専門の投資銀行、サウンドビュー・テクノロジーのCEOマーク・ローアの例を紹介しよう。サウンドビュー・テクノロジーでは、従業員の友人や同僚や親族に何人かの犠牲者が出た。それを知ったローアは、まず最初に、従業員全員に対して翌日会社へ来るよう連絡した。仕事をするためでなく、悲しみを分かちあい、先のことを話しあうためだ。それから数日間、ローアは涙を流す従業員たちを見守り、つらい気持ちを言葉に出すよう勧めた。毎晩九時四十五分には、自分自身の心情を綴った電子メールを全社員に向けて送信した。
ローアはさらに一歩進めて、犠牲者への援助活動を通じて混乱の中から意味を見出す方策について全社員による話しあいを提案し、自ら指揮をとった。社員たちは、ただ寄付金を集めるよりも一日分の収益をそっくり寄付しよう、と考えた。サウンドビュー・テクノロジーの平均的な収益は一日あたり五十万ドル強、それまでの最高記録は百万ドルだった。だが、社員たちがこの構想を顧客に広めた結果、驚くような反応が起こった。その日の収益は、六百万ドルを超えたのである。
癒しのプロセスを続けるために、ローアは社員たちの思い、恐怖、希望などを収録した『メモリー・ブック』を編纂して未来の世代に残すことを提案した。詩や心情や感動的なエピソードをつづった電子メールが多数寄せられた。社員たちは、『メモリー・ブック』に心の底から思いを吐露した。
このような重大危機に直面したとき、集団の目は感情のやり場を求めてリーダーに集まる。リーダーの見解は特別な重みを持つのだ。リーダーは眼前の状況を解釈し、感情面にも配慮した反応を示して、集団のために意味づけをおこなう役割を期待される。マーク・ローアは、リーダーとして重要な役割を勇敢にはたした――混乱と狂気を前にして、自分自身と社員たちの精神的平静を守ったのだ。そのために、ローアはまず社員の感情的現実に波長を合わせ、それを言葉で表明した。その結果、ローアが数日後に打ち出した方針は全員の心情を代表するものとなり、こころの共鳴を呼んだ。
自分の会社にEQの優れたリーダーがいて、社員たちが共鳴しあい力を発揮できたら、日々の職場はどんな場所になるだろう?途上国の大多数においては、まだビジネス慣行が確立していない。そうした地域で、企業が最初からEQリーダーシップの考え方を取り入れたとしたら、現状の矯正からスタートしなければならない先進諸国とはずいぶん状況がちがってくるだろう。雇用もリーダーシップEQを見て決められるだろうし、昇進も教育もEQがポイントになるだろう。リーダーシップ教育は日常に組みこまれ、企業は人々が協調して働きながら才能を向上させていく場になるだろう。
さらに、こうしたEQを夫婦や家族や親子やコミュニティに応用したら、どうなるだろう?EQリーダーシップ研修の受講者たちの口から、職場だけでなく個人や家庭生活にも良い効果があった、という声をよく聞く。自己認識、共感的理解、感情のコントロール、人間関係などのEQが高まり、それが家庭生活にも波及したのだ。
もう一歩踏み出して考えてみよう。教育現場でこころの共鳴を育てるEQ教育がおこなわれたら、学校は(そして子供たちは)どう変わるだろう?企業から見れば、リーダーとなるのに必要なEQを学校で身につけた人材を雇用できるわけだから、歓迎すべきことだろう。若者から見ても、衝動や不安定な感情に対処するスキルの欠如から生じる社会的病弊(暴力から薬物濫用に至るまで)が減少するという利益がある。さらに、寛容や配慮や個人の責任感の向上は、コミュニティにも恩恵をもたらすだろう。
企業側がこうした能力を備えた人材を求めている以上、大学や専門教育機関(とくにビジネススクール)は基本的EQの習得を教育課程に含めるべきだろう。ルネサンスの偉大な思想家エラスムスは、「国家の最大の希望は若者に対する至当の教育にある」と述べている。
進歩的なビジネス教育専門家ならば、大学の卒業生が単なるマネジャーに終わらず優秀なリーダーに育っていくためには高等教育機関におけるEQ教育が必要だ、ということを理解できると思う。進歩的な財界人ならば、自社だけでなく経済全体に活力をもたらすために、リーダーを育てるEQ教育を奨励し支持してくれるだろう。その恩恵は新世代のリーダーだけでなく、われわれの家族やコミュニティ、さらには社会全体に及ぶ。
最後にひとこと。リーダーはたくさんいる。リーダーは一人だけではない。リーダーシップはあまねく存在する。リーダーはトップに君臨する一人だけでなく、集団を束ねる人間なら、どんなレベルでも、どんな立場でも、リーダーなのだ。組織の中のどこにいようと、組合の職場代表であろうと、チーム・リーダーであろうと、CEOであろうと。すべてのリーダーに、本書を捧げたい。
本書は、リーダーシップにおけるEQの役割を探求する現在進行形のプロジェクトだ。読者諸氏からの反応―――意見、エピソード、感想など――を歓迎したい。すべてのメールに返事を差し上げることは無理だが、読者の声を拝聴し、つねにそこから学ぶことは、われわれの歓びである。
著者のメールアドレスを記しておく。
ダニエル・ゴールマン daniel.goleman @ verizon.net att
リチャード・ポヤツィス richard.boyatzis @weatherhead.cwru.edu
アニー・マッキー anniemckeel @aol.com
子どもの未来が輝く「EQ力」
EQ力を育てる
これまで多くの幼児教室ではIQを高める活動が中心でした。しかし、高いIQを活かすには、人間的な力「EQ力」が不可欠なのです。会社で必要とされ、頼られる人も頭がいい人ではなくEQ力が高い人なのです。本書は、これからの時代重要になってくるEQ力の鍛え方を紹介します。
目次
はじめに——子どもには「EQ力」を!
わが子を、社会で活躍する人材に育てよう
いま求められる、「EQ力/Emotional Intelligence Quotient」とは?
可能性は無限大! 「EQ力」が備わった子どもの素敵な未来
プロローグ——いい「子育て」、悪い「子育て」
激変する「学力の3要素」。時代は、「IQよりEQ」へ
「活きる力」が身につく、「EQ力」育成のためには?
一流人を輩出する、幼児教室「EQWELチャイルドアカデミー」から学ぶ
「EQ力」を育成する、「8つのメソッド」をマスターしよう!
楽しい子育て8か条「うまくここちよく」
第1章 子どもを「否定しない」……メソッド1
01丸ごと受け止めると、どこまでも成長する
02 短所とは、どう向き合うか?
03 子どもの短所が気にならなくなる「長所伸展法」
04 「認める力」がメキメキ上がる、「まあ、いいか」のひと言
05 親子の関係を映し出す、「鏡の法則」
コラム 子どもの本音を引き出す「繰り返し問答法」
第2章 「夢中力」の育み方……メソッド2
01 能力を開花させる「好奇心の芽」
02 興味を持つことを、トコトンやらせる
03 行動を練達させる、「強化学習」のサイクルとは?
04 「ほめて伸ばす」の科学的妥当性
05 社会性を育てる、「ほめ育て」の効果
コラム 子どもの発達を促進する「5つの法則」
第3章 「ほめ方」「叱り方」の方程式……メソッド3
01 学力を「上げるほめ方」、「下げるほめ方」Part①
02 学力を「上げるほめ方」、「下げるほめ方」Part②
03 効果的な「ほめ方」~マジック・レシオとは?
04 子どもの将来を考える「叱り方」4つの指針
コラム ほめると「自尊心が高くなる」は、ウソなのか?
第4章 「言葉かけ」の常識、非常識……メソッド4
01 「あなたならできる!」という信念で子どもを変える
02 期待通りの結果を出させる「ピグマリオン効果」
03 だから思いが伝わる! 幼児期の「脳波」を知る
04 今すぐしたい、幸福感を高める「寝る前の振り返り」
05 東大生の親たちが実践する、子どもへの言動ルール
コラム 学力向上には欠かせない、幼少時からの「読み聞かせ」
第5章 「賢明な子育て」AtoZ……メソッド5
01 未来を決める、「4つのスタイル」とは?
02 「3つの愛」で、健全な子どもに
03 高い「基準」と惜しみない「愛情」~コリンズ式教育法
04 子どもの興味に寄り添い、楽しく導く
コラム 成功と失敗を分ける「マインドセット」
第6章 愛情豊かな「触れ合い」……メソッド6
01 奇跡を起こす、幼児期の「スキンシップ」
02 心をつなぐ、「抱きしめ」と「タッチケア」
03 「俯瞰力」を育成させる父親ミッション
04 愛のホルモン「オキシトシン」で社交性と信頼を
コラム 共働き家庭の「子どもとの接し方」
第7章 「やり抜く力」の伸ばし方……メソッド7
01 人生すべての成功を決める「やり抜く力」とは?
02 「マインドセット」を、「成長思考」に変換する
03 才能・結果ではなく、努力をほめて、継続・改善を
04 その進捗は、「毎日の取り組み」で決まる!
コラム 英語はいつ頃からはじめたらいいの?
第8章 「率先垂範」のススメ……メソッド8
01 禁句はコレ!「勉強しなさい」という6文字
02 あなたが、子どもにとっての最高の「見本」になる!
03 子どもが自ら育つ力、「子育ち力」を刺激する
04 主語を「私」に変えて、まず、自分が「なる」!
コラム 自己実現のためのイメージトレーニング
エピローグ——「EQ力」が道を拓く
最後の明暗をわける、「成功へのカギ」
子育てに、「間違い」は存在しない
もっとたくましく、さらに幸せに! 人生を変える「EQ力」
おわりに——「活きる≒イクウェル」
文部科学省提唱「キャリア教育」への土台を作る、幼児教室「EQWELチャイルドアカデミー」とは?
参考文献
はじめに——子どもには「EQ力」を!
わが子を、社会で活躍する人材に育てよう
時代は変わりました。
AI(人工知能)技術の発達で、誰も経験したことのない、大きな変革期が訪れています。子どもたちは、この目の回るような時代の変化に適応し、力強く生きていかなければなりません。豊かで便利な世の中になった半面、これまで以上に、人としてのたくましさが求められるようにもなってきました。
今の日本はとても恵まれた国です。お金さえあれば、大人になっても、毎日ゲームをしながら、ほとんど家から出ることなく、コンビニのお弁当だけで生活することもできてしまいます。しかし、周りは待ってはくれないでしょう。
もし、これから数年の間、子どもが漠然と日々を過ごしてしまったら、あっという間に社会から取り残されてしまいます。誰にも必要とされず、ひっそりと生きていくことになるかもしれません。
いずれやってくる未来に活躍するのは、自分で目標を決め、自分の頭で考えて、仲間と協力しながら、課題を解決していくことのできる人です。AIがいくら優秀でも、物事を決めたり、人を説得することには向きません。
30周年を迎えた、EQWELチャイルドアカデミーでは、子どもたちの活躍する未来を見据えて、時代に合わせた「活きる力」を育て、磨くことを柱にしています。「活きる」とは、漠然と”生きる”ことではなく、自分の能力を”活かし”、社会の中で “活躍する”ことです。EQWELのレッスンは、テストの数字で測ることのできる基礎的な学力はもちろん、数字にできないコミュニケーション力や努力し続ける力を養う時間でもあります。
このEQWELメソッドは、30年の歴史の中で生み出されました。本書は、答えのない時代に迷いながらも、なんとか「わが子を幸せにしたい」「漠然と生きるだけにはなってほしくない」、そう願う保護者の皆さまに、「これからの時代に必須の力を高める子育ての8つのメソッド」を提供するためのものです。
いま求められる、「EQ力/Emotional Intelligence Quotient」とは?
EQWELチャイルドアカデミーの長い歴史の中で、活躍する子どもたちには共通の力があることがわかりました。それを、私たちは「EQ力」と名づけました。EQWELでは、特に「5つのEQ力」として「自己肯定感、やる気、共感、自制心、やり抜く力」を掲げています。
これらは感情をうまくコントロールしたり、周りと協調したりといった、筆記テストだけではわからない力で、最近では非認知能力とも呼ばれ、認知能力(IQ)の対になる考え方です。
これまで、多くの幼児教室では、IQを高める活動が中心でした。しかし、高いIQを活かすには、人間的な力、つまり「EQ力」が不可欠なのです。
会社で、「あの人と一緒にチームを組むと、なんだかうまくいく」「あの人のアイディアってどこから出てくるんだろう」と感じた経験はないでしょうか。頭が切れる人や、処理能力が高い人はもっとほかにもいるのに、会社に必要とされ、皆に頼られる人。これは、まさに「EQ力」の高い人です。
アメリカのIBMが開発した、スーパーコンピューター・ワトソンは、多くの医師よりも早く、正確に患者の病気を見抜き、最適な治療法を提案することができます。つまり、高IQの代表格だった医師の仕事でさえ、部分的にはAI搭載のコンピューターに奪われて高もしまっているのです。
単純な、ものを覚えるのが早い、計算が早い、データの並び替えが早いといった力は、確かに、生きていく上での基本的な能力ではあります。しかしながら、「それだけしかできない」のであれば、未来の社会で活躍できる大人になるのは、難しいでしょう。子どもたちに求められている力は、私たちが子どもだった時代からガラッと様変わりしてしまっているのです。
だからこそ、親世代にできるのは、自分たちが受けた教育の枠を超えて、新しい場所に飛び込むことです。人は、未知のものに遭遇したとき、怖気づいてしまい、考えるのをやめたり、批判したりしがちです。しかし、子どもたちの「EQ力」を高めるために、まずは、親が相手を受け入れる力(これもEQ力)を発揮できるよう、少しだけ意識を変えてみましょう。
可能性は無限大!「EQ力」が備わった子どもの素敵な未来
後ほど紹介しますが、「EQ力」と自信(特に自己肯定感)には、重要なつながりがあります。EQWELチャイルドアカデミーの卒業生たちは、幼い頃から親の愛情を受けて、自分のことを好きになることができたため、成長してからも人生が輝いているのです。
「EQ力」が、活躍につながっている事例を少しだけ紹介します。
最近では、本田3姉妹の活躍が注目を集めています。フィギュアスケートの世界ジュニア選手権で金メダルを獲得した真凜さんと妹の子役兼フィギュアスケーターの望結さん。一番下の紗来さんは、現在も教室に通っています。
ほかにも、水泳の日本代表として16歳でリオ・オリンピックに出場し、個人・団体合わせて21種目で日本記録(2018年8月時点)を持つ池江璃花子さん。
12歳でTOEIC920点、15歳で英検1級に合格。また、14歳のときに日本記憶力選手権で青年の部1位、成人の部でも3位に入賞した西口茉莉花さん。
高校の3年間で国際物理オリンピックに3年連続で出場し、すべてで金メダルを獲得。最後の大会では世界一の成績を得て、文部科学省からも「日本人初の快挙」と評され、その後、推薦で東京大学に入学した渡邉明大さん。
東京大学在学中に「ロボコン」で2連覇の立役者となり、大学院進学後は、人工知能(AI)研究で博士号を目指しつつ、学生起業もした日高雅俊さん。
国際教養大学を卒業後、世界一と称されるイギリスのオックスフォード大学院(合格率10%)に進学し、卒業したリベラトリわかなさん。
姉妹そろって、国立音楽大学でピアノを学び、卒業後プロのピアニストとして姉妹での連弾など、全国で活躍している上田麻リカさんと上田彩未さん。
4年間の大学生活の間に日本とアメリカの両方の学位を取得する傍ら、バイオリンでも数々の賞を獲得し、イギリスの大学院に進学した山口夏海さん。
このほかにも、たくさんのEQWEL卒業生が、世界中でさまざまな活躍をしています。
この本には、彼ら彼女らの成長を生み出した秘訣が記されています。子どもたちの素敵な未来を想像しながら、読み進めていきましょう。
プロローグ
いい「子育て」、悪い「子育て」
激変する「学力の3要素」。時代は、「IQよりEQ」へ
2020年の教育改革に向けて、文部科学省が一つの方向性を示しました。
教育によって身につけるべき資質・能力として、新たな「学力の3要素」を発表したのです。
1.知識および技能が習得されるようにすること(知識・技能)
2.思考力、判断力、表現力を育成すること(思考力・判断力・表現力)
3.学びに向かう力、人間性を涵養すること(学びに向かう力・人間性)
このうち、特に重要なのは、3つ目に示された「学びに向かう力・人間性」です。
これまでの日本の教育は「知識・技能」に重きを置いていました。その代表的なものが、センター試験の実施で、高校3年生になると、その先をどう生きるかという重要な選択が、知識・技能のテストによって行われているのです。
しかし、すでに説明したように、試験に出るような単純な計算や暗記はAIが得意とするところ。そこで、文部科学省もAI時代に活躍できる人間を育てるために、3の「学びに向かう力・人間性」を学習の柱に盛り込みました。
これは紛れもなく、「EQ力」を構成する要素です。一方、知識・技能はいわゆるIQになります。2020年の教育改革では、現行のセンター試験にも変更が加えられます。また、すでに多くの大学や私立学校などの入学試験では、学力試験だけでなく、人間としての総合力を問うような課題が出されるようになってきているのです。
世の中は、間違いなくIQからEQへと舵を切りはじめました。
しかし、「EQ力」を養うことは、一朝一夕でできるものではありません。親世代にできることはなんなのか、一緒に考えていきましょう。
「活きる力」が身につく、「EQ力」育成のためには?
活きる力、つまり社会で活躍するための力は、どうやったら身につくのでしょうか。結論からいうと、幼少期に親や周りが「どれだけ意識して子どもに有効な接し方をしてきたか」にかかっています。そのため、今、幼児教育の重要性は、世界的な関心事になっているといえるでしょう。
ノーベル経済学賞を受賞したアメリカ・シカゴ大学の経済学者ジェームズ・ヘックマン教授は、幼児教育に関する研究でも注目を集め、2つの指摘をしています。
1.就学後の教育の効率性を決めるのは、就学前の子育て、保育の質である。
2.家庭外の安定した大人との関係が、「非認知能力」の発達を補償する。
すなわち、家庭も含めて、その時期の子育て、保育の質が高ければ、学校に入ってからの教育効果が高まり、さらに、保育園や幼稚園、幼児教室といった家庭外の安定した大人と接する環境があると、「非認知能力(=EQ力)」の発達が補われるというのです。
ヘックマン教授が根拠とした調査は「ペリー就学前プロジェクト」と呼ばれる、幼児教
育についての大規模な追跡調査でした。
プロジェクトは、1960年代に、3~4歳のアフリカ系アメリカ人を対象に行われました。2年間の幼児教育を受けた子どもたちと、受けなかった子どもたちを、その後10年にわたって調査しています。
その結果、幼児教育を受けた子どもたちの方が、40歳時点で学力や学歴、持ち家率、平均所得が高く、生活保護受給率や逮捕率が低いことがわかりました。そのため、ヘックマン教授は、「子どもが成人後に成功するかどうかは、(非認知能力の成長が促される)幼少期の介入の質に大きく影響される」と結論づけているのです。子どもの「EQ力」を伸ばす、いい子育ての最初の実践法は、「まずは幼児教育という選択肢を考えること」で、逆に、幼児期を漠然と過ごすようでは、残念ながら、「悪い子育て」だといわなければならないでしょう。
一流人を輩出する、幼児教室 「EQWELチャイルドアカデミー」から学ぶ
「はじめに」でも紹介したように、EQWELチャイルドアカデミーからは、実に多彩な人材が、毎年社会に羽ばたいていっています。その数は、30年間で、のべ25万人を超えました。
EQWELチャイルドアカデミーの取り組みが、長年支持されてきた理由の一つに、最新の研究成果や専門家の知識を柔軟に取り入れながら、根拠に基づいた教育を実践してきたことがあります。
幼児教育に関しては、さまざまな考え方があります。一方で、子どもたちの個性も多種多様。そのため、他の家の子に効果があったものが、果たして自分の子どもにも効果があるのか、兄弟、姉妹でも効果の良し悪しが出てくるのではないかという不安は拭えないのではないでしょうか。
さらに、幼児期の教育が大切だといっても、その時期はあっという間に過ぎていってしまいます。
だからこそ、EQWELチャイルドアカデミーは、科学を大切にしています。科学とはつまり、再現性があるということです。
レッスンでは、子どもたちの成長から、「この時期にやれる最善の活動」を提案していきます。そして、一つ一つの活動は、小手先のテクニックを用いたものではなく、「科学的な根拠を持ち、子どもの大きな”成長戦略” の中でこの位置を占めているんだ」という確信に基づいて行われるのです。
よい子育ては、目の前の成果に一喜一憂するものではありません。
「この子が大人になったときに、自分の力で、仲間を見つけ、充実した人生を切り拓くことができるようになっているか」と考えて、じっくりと向き合いながら行うものです。
この本で紹介するメソッドは、すべての保護者の方に、「よい幼児教育とはどういったものか」という大きな視点での考え方や実践方法を伝えるために生まれました。よい子育ての軸ができてしまえば、その後は親としても自信を持って、子どもと接することができるようになります。親が迷ってあれやこれやと世話を焼くより、どっしり構えてぶれない姿勢でいることが大切です。
「EQ力」を育成する、「8つのメソッド」をマスターしよう!
ぶれることなく、子どもの「EQ力」を養うために、よい子育てを大きく捉える「8つのメソッド」を紹介していきます。順番に確認してみましょう。
1.子どもを「否定しない」
EQ力を育むには、子どもを受け入れることです。そうすることで、子どもの自信が育まれ、さまざまなことに自由にチャレンジできるようになります。
2.「夢中力」を育む
子どもは、夢中になると思わぬ力を発揮するようになります。何かに夢中になることは、それ自体がかけがえのない能力です。その育み方を学びましょう。
3.「ほめ方」「叱り方」のルールを知る
ほめ方、叱り方で、子どもの未来はガラッと変わります。特に、幼児期にはほめることで、あらゆる面をよい方向に伸ばすことも可能です。
4.適切な「言葉かけ」をする
やる気を促す言葉かけ、反省を促す言葉かけ、言葉かけは確信を持って行うべきです。ぶれることのない、正しい言葉かけの方法を学びましょう。
5.「賢明な育て方」に挑戦する
子育てにおいては、賢明な育て方と呼ばれる方法が存在します。愛情を向けるだけでも、厳しく律するだけでも賢明とはいえません。
6.「触れ合い」を効果的に使う
幼児期の子育てでは、触れ合いの効果が抜群に出ます。そして、その実践は、親の側にも、劇的なよい効果をもたらすのです。
7.「やり抜く力」を育てる
困難に負けず、目の前の課題にチャレンジし続ける「やり抜く力」は、「EQ力」の本丸。世界が注目する「やり抜く力」の養い方を紹介します。
8.「率先垂範」の姿勢を学ぶ
子育てで、最も効果が高いのが「率先垂範」です。子どもは親の背中を見て育ちます。親がどういった態度で見本になればよいのかを学びましょう。
これからの章では、それぞれのメソッドを分解して、紹介していきます。
EQトレーニング (日経文庫)
EQ能力を鍛える
EQは、IQと対比される言葉で、「感情をうまく管理し、理解できる能力」「こころの知能指数」のことです。本書では、今求められるEQスキルを紹介し、その鍛え方について詳しく解説しています。EQについて知っている人もそうでない人も改めて読んで欲しい一冊です。
はじめに
「EQは、遺伝などの先天的な要素が少なく、教育や学習を通して高める(伸ばす)ことができる」(EQ理論提唱者ピーター・サロペイ、ジョン・メイヤー、1990年)
EQ理論の一節です。「EQの能力は高めることができる」。これは、私にとって衝撃的な出会いでした。1997年の彼らの初来日から20数年を経て、EQが開発可能な能力であることを日本で証明し、そのトレーニング方法をここに紹介できることをとても嬉しく思います。
ITの進化、AIの普及で社会は大きく変化し、会社を取り巻く環境も、働き方改革や健康経営はもとより、最近では世界レベルでESG経営(環境・社会・企業統治)への取り組みが求められています。その解決にEQは不可欠であり、世界ではますますEQに注目が集まっています。
日本においても、多くの企業でEQの導入が進み、EQを理解するレベルから、いかにEQを活用して課題を解決するか、そのためにEQをいかに開発するかという方向に向かっています。EQは学ぶ時代から実践のステージへと確実に変化しました。本書では、「いつでも、どこでも誰でもできるEQ開発方法が知りたい」というニーズにお答えするために、今日からできるEQトレーニングをご紹介しています。
しかしながら、本を読んで「なるほど」と学び、「やってみよう」と前向きな気持ちをつくっても、いざ「実行」となると大きなエネルギーが必要となります。
そこで、EQトレーニングの開始前、開始後の能力変化を確認するためのウェア診断テストを用意しました(無料)。5分程度の受検で、その場で結果も確認できます。EQトレーニング終了後(約2カ月後)、再度受検いただき、初回と2回目の診断結果を重ねた遷移チャートで開発の効果がすぐに確認できます。
「EQは人生の質を変える」
私たちは日々感情とともにあります。日々の感情をうまく使うこと(=EQ)は、心と体の健康に影響を与え、よりよい社会生活に寄与します。その日々の積み重ねが人生とすれば、EQは人生の質を変えるといっても過言ではありません。
本書を通してEQを高め、より良い人生の道標としてEQとともに充実した日々をお送りくださいませ。
2020年1月
高山 直
EQトレーニング 目次
第1章 ビジネスで求められるEQスキル
1 「2020年に必要なビジネススキル」トップ10にEQ
世界で根源的な陸力として認知されているEQ
EQ的色彩の強いビジネススキル
2016年のテーマは第四次産業革命
混乱を乗り越えるために必要な4つの知性を支えるEQ
2 ジャック・マーの信念
「大事なのは、あなた自身をどう変えていくかなのです」
変化を待ち伏せ、変化に適応する
3 「心理的安全性」の高い組織が成功する時代
知能(IQ)と性格によって成功の再現を競った20世紀
21世紀の組織では共感や心理的安全性が重要
高EQ組織は「こころを開いて喧嘩する(Open heart Battle)」
「Open heart Battle」ができる蹴場づくりに有効なEQ
Googleが発見した「心理的安全性」
生産性の秘密を採る「プロジェクト・アリストテレス」
第2章 EQの発展と今
1 EQが高い人がIQの高い人より成功している
ビジネスを成功に導く研究から発見されたEQ
人間と動物の感情表現を研究したダーウィン
失敗の原因は感情(怒り)にある
EIからEQにわった名称
EQブームと現在
2 EQ理論の4ブランチ
EQの定義は「感情をうまく使う能力」
EQ能力を構成する4つのプランチ
3 教育界が注目する「非認知能力」とEQ
非認知能力はEQと類似の概念
子どもは1日に400回笑うが、大人は15回
基礎的読解力の低下とEQ
PISA2018でも日本の子どもの読解力低下が報告されている
EQによって読解力を高める
感情回路を麻痺させている大人
4 健康経営・働き方改革とEQ
課題解決にEQを活用する
生産性向上とEQ
メンタルヘルス不調の原因は、職場の人間関係
日常を見ることで部下の状態を把理する
メンタルヘルス不調のサインを見抜く「教科書」と「ドリル」
Al with EQ
糖尿病の予防と改善× EQ
第3章 感情とは何か
1 喜怒哀楽だけではない感情
自覚することの少ない「感情」
感情は無視できるが、わたしたちの中に必ず存続する
感情×EQは人生の質を決める
性格と感情は違う
感情にフタをしない
感情は情報を持ってやってくる
感情と合理性
感情のプラスとマイナスを行き来するEQ能力
感情と理性
生存の危機に生まれる感情
感情と思考(IQ)を統合するEQ
感情と記憶
悲しみは120時間持続し、嫌悪や羞恥は30分で消える
災厄がもたらす深い喪失感の先に希望がある
2 感情にはルールがある
感情のルール
情動の円環モデル
「攻撃心」は「怒り」と「期待」の混合感情
「怒り」に「嫌悪」が混合するとパワハラになる
心理の移行曲線「人はすぐにはやる気にならない」
やる気になるために必要なネガティブな感情
営業でも有効な心理の移行曲線
死の5段階受容
3 自分理解と他者理解
自分の気持ちを感じないと、相手の気持ちも感じない
感情の共有と情報の伝達
第4章 EQのトレーニング
l EQトレーニングの考え方
2カ月間強制的に行動を変える
日常生活のルーティンを変える
EQは後天的に高めることができる
起点となるのは自分のEQ現在地
読者はEQ診断を無料で受検できる
EQ診断結果の読み方
2 EQ能力の12指標
EQ4ブランチを12指標に分類
EQ能力開発シートの使い方
低いEQ指標を自覚→高める→変化を確認する
EQトレーニングは「自転車に乗る練習」
失敗を恐れず、トライし続ける
EQトレーニングを支える「トライ&エラー」
第5章 さらに鍛えたい人へ―高山スペシャル
1 感情日記編
「感情MAP」
感情MAPで1週間の感情サイクルが分かる
感情MAPを2カ月続けると、「変えたい」という気持ちが生まれる
今の気持ちは?−自分の感情を1日3回感じる
今日の「得したなー」を書きだす
喜怒哀楽を入れた「1行日記」を書く
感情の因果関係を理解する
2 言葉編
遮断語はコミュニケーションを断ち切る
誉める、励ます−積極的な言葉の効用
明るくグチると、グチがグチではなくなる
3 行動編
握手で相手とのこころの距離を縮める
会うとき、別れるときに笑顔で手を振る
ハイタッチ−成功を共有し、仲間意識の醸成に役立つ
スキップ&ジャンプ
4 こころ編
こころの付く言葉を使う
言葉がこころのエネルギーを上げる
5 対人関係編
気軽に話しかけ、普段着の感情を知る
EQ力開発「高山スペシャル」
「できこの法則(で:出来事+き:気持ち+こ:行動)」でEQを開発する
1on1ミーティングにおける「で・き・こ」活用
「ちょっとの法則」→ちょっと肯定語=明るい否定
本音を聴きだす「ほんと? 4段活用」
EQ能力開発シート
装幀 next door design
第1章 ビジネスで求められるEQスキル
1 「2020年に必要なビジネススキル」トップ10にEQ
世界で根源的な能力として認知されているEQ
EQは1990年に米国で生まれ、世界に提唱された理論です。日本では1996年に『EQこころの知能指数』として出版された本で広まり、情動知能、感情能力として注目されました。わたし自身は1995年に米国でEQと出会い、その後、独自にEQを測定する検査を開発、その検査を携えて渡米し、EQ理を提唱したビーター・サロペイ博士とジョン・メイヤー博士にお目にかかりました。
お2人についてはEQを解説する部分で詳しくご紹介いたしますが、両博士を面会した目的は2つありました。一つはEQ検査の有効性について検証してもらうことであり、もう一つはEQ理論の論文に書かれていた「EQは開発可能な能力」を実現するEQトレーニング開発の協力を得ることです。
その際に両博士は「EQ理論をまとめる上でわたしたちは東洋の思想、考え、宗教に大きな影響を受けています。日本はEQの国であり、その日本でEQが必要とされるのは、とても嬉しいことです」と話され、研究開発顧問就任を快諾していただき、2つの目的を達成することができました。
翌1996年には2人とも来日され、わたしたち主催のEQシンポジウム「Mega Change21」に参加されました。ここからわたしは日本初となるEQ事業をスタートさせました。
そしてEQはかなりのブームになり、今では日本の1500社を超える企業でEQの考え方が導入されています。日本では人事に関する場面での導入が中心ですが、世界ではEQはもっと根源的な能力として認知されています。みなさんはダボス会議をご存じでしょうか?
ダボス会議でEQはとても重要なテーマとして議論されています。
わたしがダボス会議に強い関心を持ったのは2016年のアニュアルレポートを知ってからです。レポートには「2020年に必要なビジネススキル トップ10」が発表されており、その6位に「情緒的知性(Emotional Intelligence)が挙げられていました。Emotional IntelligenceはEQを指しています(図表1-1)。
EQ的色彩の強いビジネススキル
取り上げられていたビジネススキルは、日本でもよく知られている概念であり、複雑な問題解決力、クリティカルシンキング、創造力、マネジメント力、人間関係調整力、そして情緒的知性が6番目に取り上げられています。これらは別のスキルとして取り上げられていますが、相互が隣接・関連しており、EQビジネスに20年間携わってきたわたしにはEQ的色彩を強く感じます。
たとえば柔軟な頭で批判的に思考するから、問題を解決し新しい価値を創造できます。創造力は、今ないものをつくるので「ビジョン」と言ってもいいでしょう。このビジョンを見る能力はEQに近しいものです。
人間関係調整力とは、他者との人間関係のバランスをとる能力です。インターネットが普及した1990年代後半以降、「Win-Win」という言葉がよく使われるようになりましたが、じっさいのビジネスでは相手(こちら)が勝つとこちら(相手)が負ける「Win-Lose」、貸し借りの繰り返しで人間関係がつくられていきます。部下との接し方も同じ原理です。このバランスをとるのがEQです。
決断力もEQから生まれます。似ている言葉に「判断」がありますが、これはIQ的な認識法。状況を積み上げ確率的に把握するのが判断です。「決断」は判断とは別のもので「覚悟」という意味合いもあると思います。
サービスディレクション力は、消費者の気持ちになって考える「ホスピタリティー」という言葉に置換可能です。もちろんこれにもEQが深く関わっています。
交渉力は、論理で相手を説得する1Q的なスキルと考えられがちです。しかし国家間の外交を見れば分かるよう、1Qとともに様々な感情を駆使している場面を目にします。
2016年のテーマは第四次産業革命
ダボス会議は、毎年1月にスイスのダボスで開催される世界経済フォーラムの年次総会です。大辞林の「ダボス会議」の項目には「世界各国の政財界のリーダーや学者らが参加し、賢人会議ともいわれる」と記載されています。
この世界経済フォーラムは1971年にスイスの経済学者クラウス・シュワブ氏(現・会長)が設立した国際機関です。ダボス会議では約2500名の国際的リーダーが一堂に会し、世界が直面する重大な問題を議論してその成果を発表します。
議論するテーマは毎年決められており、2016年は「第四次産業革命をマスターする(Mastering the Fourth Industrial Revolution)」が論じられました。その内容はシュワブ氏自身がまとめており、日本でも『第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来』(日本経済新聞出版社)が出版されています。
この本は四六判236ページで、付録の解説をのぞくと本論は150ページほどなので読み通すのは容易です。しかし内容はハードで、第四次産業革命によって変わる未来を予測しています。
混乱を乗り越えるために必要な4つの知性を支えるEQ
シュワブ氏は本書でEQの重要性を強調しています。人類は第四次産業革命がもたらす混乱を乗り越えることができるとシュワプ氏は考えていますが、そのために必要なのが「4つの知性」です。
その知性は、①状況把握の知性(精神)、②感情的知性(心)、③啓示的知性(魂)、④物理的知性(肉体)の4つです。『第四次産業革命』では②は「感情的知性」と訳されていますが、原著の「Fourth Industrial Revolution」では「The Emotional Intelligence」と書かれており、EQを意味しています。
シュワブ氏は4つの知性を独立した知性として取り扱っていますが、いずれの知性も他の知性との関係なしでは成立しません。
①の状況把握の知性のキーワードは、「ネットワーク」や「人脈」、「パートナーシップ」や「チーム」です。③の啓示的知性のキーワードは、「共通の運命感」、「集団的意識」、「信頼」、「エンゲージメント」、「チームワーク」、「協調的イノベーション」です。
④の物理的知性は、「個人の連康や幸福の維持、追求に関する知性」と定義され、「健康な体」と「プレッシャーの下でも動じない心」がキーワードになります。
そして感情的知性は、「自己認識」、「自己統制」、「モチベーション」、「共感、ソーシャルスキル」の基盤として定義されており、「組織の階層をフラットにしたり、多くの新アイデア創出を促す環境を構築したりするなどのデジタル的思考様式は、感情的知性に深く依存している」と書かれています。
つまり状況把握の知性、啓示的知性、物理的知性のいずれにもEQが関わっています。それらはまさにEQの得意とするところであり、本書を読み進んでいただければ理解していただけると思います。
2 ジャック・マーの信念
「大事なのは、あなた自身をどう変えていくかなのです」
2018年のダボス会議では、阿里巴巴集団(アリババ)会長だったジャック・マー(馬雲)氏がEQに言及したスピーチを行っています。ジャック・マー氏は1999年にアリババを設立し、瞬く間に世界有数のIT企業に育て上げた人物です。そして創業から20年経った2019年に「教育や慈善事業に専念したい」として会長を退任し、大きな話題になりました。
マー氏はダボス会議でのスピーチでテクノロジーの負の部分に触れ、産業革命によって第一次世界大戦、第二次世界大戦が起き、今も技術の進化による革命が起きていると語ります。マー氏の発言を紹介しましょう。
「人工知能(AI)、ロボット、コンビュータ、データ、プライバシーやセキュリティで人々は不安になります。みんな不安になり始めるのです。しかし、どんなに不安でいても、革命は起きます。不安でいなくても、起きるのです。そこで大事なのは、あなた自身をどう変えていくかなのです」。
この発言をわたしは次のように解釈します。「技術は進化し、いくら不安であっても革命は現実となる。AIやロボットで代替できる仕事はなくなり、テクノロジーは進化し続け、SNSはさらに広がり、個人のプライバシーやセキュリティが守られる保証もない。革命は確実に起こる」。
EQコーチングのスキル
ビジネス・コーチングの問題点を改良していく
ビジネス・コーチングとは、効果的なコミュニケーション技術によって、メンバーの能力と自発性を引き出し、組織目標の達成と、個人の自己実現をサポートすることです。本書では、専門家の視点からビジネス・コーチングで起こりがちな問題を挙げ、効果的に運用されるように解決策を示しています。ビジネス・コーチングに取り組んでいる人、取り組もうとしている人におすすめです。
はじめに
なぜコーチングがうまくいかないのか
以前、「カウンセリング研修」がブームになったとき、うなずきながら、わざとらしく「なるほどねえ」と連発する管理職が増えたことがあります。
俗称「うなずき魔」です。
それが今はコーチング・ブームによって「それで、あなたはどう思う?」と口先だけで質問を繰り返す「質問魔」が増えています
実際、私たちが研修などを担当している多くの現場から、
「最近どうも上司のコミュニケーションのしかたに何か違和感がある……」
「話し終わると、嫌な感じが残るんです……」
という部下たちのフィードバックが聞かれます。
そして「それはいつごろからですか」と聞いてみると「どうも上司がコーチング研修を受けてきた後くらいかららしい」という笑えない話を少なからず耳にします。
でも、きっとその上司の「やっていること」は間違っていないのだと思います。「コーチング研修で習ったとおりにやっている」はずです。
でも何かが違う。
「それは一体何なのか? どうすれば解決できるのか?」
これが本書のテーマです。本書では、松下が主にEQの専門家の視点から、そして上村が主にビジネス・コーチングの専門家の視点から、机上の理論ではなく、あくまで現場で実践することを主眼に、この状況を打開する方途を述べています。
そもそも「コーチングが単なるテクニックやスキルとして扱われているのではないか」という危惧が、今回の企画の発端としてありました。
そして、「そのことへの警鐘を鳴らす」ことが本書の意図でもあります。
これから述べていくことは「コーチングは人を動かす小手先のテクニックではないし、小手先のテクニックでは人は動いたり変わったりするものではない」ということです。
ですから、本書はどちらかと言えば「問題提起の書」ということになるでしょう。次から次へと問題点が綴られていて、途中で嫌になる人もいるかもしれません。
しかし、嫌だからという理由で「問題直視」をしないわけにはいかないのではないでしょうか。
著者たち自身もコーチングの普及に一役買った張本人でもあります。見て見ぬふりなど決してできません。
今、日本のビジネス・コーチングは第一期を経て、第二期にさしかかろうとしています。第一の段階が「コーチングの広報・啓蒙期間」。そしてこの第二の段階が「運用・改良・定着期間」です。この第二段階というものをしっかり根づかせるためにも、今ここで「現実直視」をすることが大切だと考えます。
私たちは、本書を、ビジネス・コーチングに真剣に取り組んでいる人、取り組もうとしている人がお読みくださることを願って書きました。
そうした方々はこの問題提起に対して、きっとそれぞれの立場でご自分やご自分の組織に置き換えて真剣に考えて、行動してくださることでしょう。
そして、その方々の力によって、日本のコーチングは新しい局面に突入していくのだと思います。
本書を読んでくださった方々とともに、ビジネス・コーチングの新たなステージに向かえることを楽しみにしています。
なぜなら「いつだって問題の中に、答えはある」のですから。
二〇〇四年十二月
上村光典
松下信武
※用語について:コーチングを受ける人の呼び名はコーチイ、クライアント、プレイヤーなどさまざまです。本書では、前後の関係から、「部下」と「クライアント」の二つを使い分けています。ご理解が難しいときは、「コーチングを受ける人」と呼びかえていただければ、意味はおわかりいただけると思います。
Contents
はじめに――なぜコーチングがうまくいかないのか
Part1 ビジネス・コーチングの基本ポイント
ビジネス・パーソンの能力を高めるビジネス・コーチング
ビジネスにコーチングが不可欠な理由
組織の目標達成を通して自己実現をする
ティーチングとはどこが違うか
コーチングの三段構造
コーチング上達の基本サイクル
思考と感情に目を向けること
コラム ラグビーのコーチとビジネスのコーチ
Part2 信頼感を築くEQコーチング
相手の信頼を獲得すればコーチングは機能する
コーチングに生きる「EQ」四つの働き
EQの高いコーチとは
EQの低いコーチとは
EQを働かせ信頼を獲得する
好意をもって接すれば擬似的信頼が生まれる
明るくいきいきした表情をつくれば擬似的信頼が生まれる
プロであることが理解されれば擬似的信頼が生まれる
お互いが約束を守り本物の信頼関係をつくる
ポジティブな感情をもち続け本物の信頼関係をつくる
コラム 『ロード・オブ・ザ・リング』に見るコーチング
Par 3 EQコーチングを実践する
[EOからのアプローチ]
自分の感情を正直に受け入れる
行き詰ったときは開放的な感情をつくる
感情への影響を考慮しながら言葉を使う
相手をサポートし続けるための感情をつくり続ける
コーチングが好きという感情をもち続ける
とにかくコーチはリラックスする
感情を調整し集中して聴く
自分の能力を信じる前向きな感情をもつ
自分のおそれに目を向け冷静な感情を維持する
悪の感情に目を向け真摯にコーチングを行う
性善説に立ってコーチングを行う
相手の可能性を本気で信じているか
まずは自分の可能性を信じる
「動かそう」とすると信頼を失う
コーチとクライアントは対等である
コーチが聴かないから相手が話さない
うまくいかない原因が自分にあると考えてみる
コーチの感情は必ず相手に伝わっている
相手を大切に思う気持ちから傾聴・質問が生まれる
とにかく興味・関心・好奇心をもつ
「as if~」の視点をもつ
つらくても相手の本音を聴く
話を聴かないことは最大の侮辱
答えを先にもって聞いてはいけない
一方通行ではなく共につくり上げる関係を築く
「間違い」ではなく「違う」だけであることを理解する
問題の解決に役立つ感情の使い方をする
相手の素晴らしさを感じて承認をする
重要だと感じればコーチングの時間は生まれる
相手への感謝の気持ちをもつ
相手への尊敬の念をもつ
信頼を回復するには誠実に謝罪をする
オープンな関係が信頼を生む
ゴールを明確にする
数字に意味をもたせれば目標になる
組織の目標とメンバーの目標とに関連性をもたせる
コーチの「やり方」ではなく「あり方」が大事
「理想の自分」から「現実の自分」を見ることから始める
スキルではなくパラダイムを大切にする
コラム 最高のコーチ
Part4 組織にEQコーチングを導入する
[EOからのアプローチ]
EQの高い組織をつくる
組織の人間関係を築く
組織のコミュニケーションの質を高める
リーダーのEQを高める
EQコーチを育成する
ゴール・ビジョンを具体的に設定する
リーダーシップのある推進者を選ぶ
プロジェクト・チームへのサポートをする
研修者を継続的にフォローする
満足度だけではない成果を測定する
社内コーチの意欲を大切にする
研修が目的ではないことを確認する
すべてコーチ任せにしない
「見えないもの」こそ大切にする
コラム 環境と「思考・行動・感情」
Part5 信頼感を生むマネジメント
株式会社パソナグループ
代表取締役グループ代表南部靖之代表に聞く
おわりに
EQ 2.0 (「心の知能指数」を高める66のテクニック)
EQをどのように管理するか
EQとは、あらゆる重要なスキルの土台になる「こころの知能指数」のことです。本書の目的は、こころの働きを理解して、感情を味方につけるテクニックを身につけることで読んだ人のEQを向上させることです。はじめにEQを診断し、66のテクニックからそれぞれに適したEQ向上の戦略を立てていきます。
目次
まえがき パトリック・レンシオーニ
第1章 EQへの旅
理性と感情が衝突するとき
あなたの旅
第2章 EQとはそもそも何か
感情の引き金と乗っ取り
全人格を測る
EQの影響
第3章 EQの四つのスキルを理解する
自己認識スキル
自己管理スキル
社会的認識スキル
人間関係管理スキル
第4章 EQを高めるための行動計画
第5章 自己認識力を高めるためのテクニック
1 自分の感情を「いい」か「悪い」かで見ない
2 感情の波及効果を観察する
3 居心地の悪さに慣れる
4 感情を身体で感じる
5 あなたの感情ボタンを押す人やものを知る
6 鷹の目で自分を見る
7 感情を日誌につける
8 悪い気分に左右されない
9 いい気分にも左右されない
10 立ち止まって「なぜそう感じるのか?」と自問する
11 自分の価値観に立ち返る
12 自分自身を振り返る
13 本や映画や音楽の中に自分の感情を見つける
14 フィードバックを求める
15 ストレスのかかったときの自分を知る
第6章 自己管理力を高めるためのテクニック
1 正しく呼吸する
2 感情と理性のリストを作る
3 目標を公開する
4 10まで数える
5 とりあえず放っておく
6 自己管理の達人と話す
7 笑顔や笑い声を増やす
8 毎日、問題解決の時間を取る
9 ひとりごとをコントロールする
10 新しいスキルを身につけた自分の姿を思い描く
11 いい睡眠を取る
12 制約より自由に目を向ける
13 行為に集中する時
14 関係者でない人と話す
15 あなたが出会うすべての人から学ぶ
16 スケジュールの中に充電時間を入れる
17 変化がすぐそこまできていることを認める
第7章 社会的認識力を高めるためのテクニック
1 挨拶するときに相手の名前を呼ぶ
2 ボディー・ランゲージを観察する
3 正しいタイミングを見計らう
4 質問を準備しておく
5 ミーティングでメモを取らない
6 集まりに前もって備える
7 頭の中を片付ける
8 今に集中する
9 15分の旅に出る
10 映画の中にEQを見る
11 傾聴の練習をする
12 ピープル・ウォッチングに出かける
13 文化的な規範を理解する
14 読みを確かめる
15 他人の立場に立つ
16 全体像を見る
17 その場の雰囲気を読み取る
第8章 人間関係管理力を高めるためのテクニック
1 心を開いて好奇心を持つ
2 自分なりの自然なコミュニケーションのスタイルを磨く
3 相手を混乱させない
4 ちょっとした思いやりを示す言葉を使う
5 フィードバックを素直に受け止める
6 信頼を築く
7 オープンドア(門戸解放)政策を取り入れる
8 怒るときは意図的に
9 避けられないことは自然にまかせる
10 相手の気持ちを認める
11 相手の感情や状況を補完する
12 気にかけていることを、行動で示す
13 決定の理由を説明する
14 率直に建設的なフィードバックをする
15 意図と結果を一致させる
16 ちぐはぐな会話を修復する
17 厳しい対話を交わす
エピローグ EQ分野における最近の発見
極地は溶けつつある:EQの今と昔
ジェンダーとEQ
トップは孤独だ
年齢とEQ
中国の秘密兵器 : EQと文化
おわりに:EQと未来研
読書会で使える質問
訳者あとがき
参考文献
本文デザイン・DTP/鰹谷英利
カバーデザイン/幡野元朗
まえがき
『あなたのチームは、機能してますか?』著者
テーブル・グループ社長 パトリック・レンシオーニ
人生の成功のカギは教育ではない。経験でもない。知識でも知力でもない。こうした基準では、成功する人とそうでない人を見分けることはできない。この社会ではあまり気にされていない何かが、成功と失敗を分ける。
職場でも、家庭でも、教会でも、学校でも、地域社会でも、毎日のようにそんな例を見かける。頭がよくて高い教育を受けたはずの人がなかなかうまくいかず、明らかにスキルや才能で劣る人が大成功を収める。それを見て、「どうしてだろう?」と考えてしまう。
答えはかならずと言っていいほど、「心の知能指数 (Emotional Intelligence)」、すなわち「EQ (Emotional Intelligence Quotient)」に関係がある。IQや経験と比べて、心の知能指数はわかりにくいし、測りにくい。もちろん、履歴書を見てもわからない。しかし、その力は否定できない。
今では、「心の知能指数」や「EQ」という言葉を知らない人も少なくなった。EQについては以前から話題になっている。しかし、EQ力を養えている人は少ないようだ。今の世の中で、自己改善と言えば、知識や経験や知能や教育を高めることだと思われている。もしわたしたちが、他者の感情はもちろんのこと、自分の感情も十分に理解できていて、自分の感情が毎日の生活にどう影響しているかをすでに理解できているのなら、知識や経験を高めることに意味がある。
EQというコンセプト自体は浸透しているのに、生活の中でそれが実践できていない理由は2つあると思っている。まずひとつは、EQへの理解不足だ。EQをカリスマ性や社交性だと勘違いしている人は多い。もうひとつは、EQが育つものだとは考えられていないことだ。EQは生まれながらの気質だと思われている。
だからこそ、この本が役に立つ。EQとは何なのか、また人生の中でEQをどのように管理したらいいかを芯から理解すれば、これまで蓄積してきた知識や教育や経験のすべてが活用できるようになる。
これまで何年もEQについて考えてきた人も、EQのことを何も知らない人も、この本を読めば人生の成功についての考え方がガラリと変わるはずだ。この本を繰り返し読んでみることをお勧めしたい。
本文中において、*は原注、※は訳注を表す。