【最新】落語について学ぶためのおすすめ本 – 初心者から上級者まで

落語の楽しみ方って?笑いの本質とは?

古くから大衆に愛されてきた”落語”、皆さんも一度は観たことがあるでしょう。理屈抜きでも充分楽しめますが、落語は知れば知るほど奥深い楽しさが分かるようになります。ここでは、初心者から上級者まで落語の魅力を知るためにおすすめの本をご紹介します。

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出典:出版社HP

ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語

誰かに話したくなる落語の知識

吉田茂元首相や渋沢栄一が愛した、“落語”。人の心を掴む術を身につけるツールあるいは人の本質や日本の文化を知るツールとして、長年愛されてきました。本書は、“慶応義塾大学卒”“元ビジネスマン”の異色の経歴を持つ落語家が、「落語」と「日本の伝統芸能」の知識を丁寧に解説します。

立川談慶 (著)
出版社 : サンマーク出版 (2020/1/7)、出典:出版社HP

ビジネスエリートがなぜか身につけている 教養としての落語

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はじめに

“和製チャーチル”吉田茂が愛したもの

吉田茂元首相が、選挙活動中にコートを着たままぶっきらぼうに演説をしている際に、「外套をとれ!」と聴 衆から野次を飛ばされたとき、こう言い返しました。
「外套を着てやるから、街頭演説です」
1916年に寺内正毅内閣が発足し、旧知の間柄であった寺内首相に「総理大臣の秘書官をやらんか」と水を向けられたときには、
「総理大臣なら務まるかもしれませんが、秘書官はとても務まりそうもありません」
晩年に訪問客から「お顔の色が大変いいようですが、何を召し上がっていらっしゃるのですか?」と問われたときはこうです。
「人を食ってます」
吉田元首相は、人の心をつかむ才能に溢れた人でした。彼の言葉は、表面的にはシニカル(冷笑的)でありつつ も、温かな人情味を秘めていて、周りの人間を魅了し続けたそうです。 その才能は外交の局面でも遺憾なく発揮されます。 執務中、ほとんど席に着かず、室内を歩き回るのが常だったGHQのマッカーサーに対し、吉田元首相は愛嬌
を込めてこう声をかけます。
「まるで忙の中のライオンだな」
マッカーサーはニヤリとしたあと、吉田首相にフィリピン製の葉巻をすすめます。 しかし彼は、「私はキューバ製しか吸わない」と、ストレートに断ります。 一見不遜な吉田氏ですが、マッカーサーは非常に気に入り、彼との面会には必ず応じるようになったのだそうです。
その後、吉田氏が「餓死者が出るから食糧輸入をしてほしい」とマッカーサー元帥に交渉したとき。「日本の 数字は杜撰だ」と責められた際に返した言葉はこうでした。
「戦前に日本の統計がもし完備していたなら、あんな無謀な戦争はやらなかったろうし、もし完備していたら、 勝っていたかもしれない」
吉田茂元首相といえば、敗戦後の日本の政治や経済を復興させた立役者』。連合国軍総司令部(GHQ)のマッカーサー元帥の指示を受けながら、敗戦した日本を復興させた総理大臣です。
アメリカの要望を聞き入れながら、日本側のメリットも守る。さまざまな交渉術を駆使し、難しい大役を果たしてくれた偉人です。その政治力と葉巻をこよなく愛したことから「和製チャーチル」と呼ばれました。 「吉田首相がサンフランシスコ平和条約の締結に注力したおかげで、GHQによる日本の支配が早めに終わった」そう評価する声まであります。
そんな彼が愛してやまなかったのが”落語」です。
彼の落語マニアっぷりは有名で、古今亭志ん生師匠(五代目)や桂 文楽師匠(八代目)などを料亭にまで呼び、 落語をきいていたほどです。 落語が彼の人間力、政治力に多大な影響を与えていたことは疑いようがありません。
また、業界内外を問わず評価が高く、池上彰氏からも「今の自民党にあれだけのスピーチができる人はいない だろう」と演説力を高く評価されている小泉進次郎氏も無類の落語好きの一人です。
彼は、時間を見つけては寄席に足を運び、移動中も落語の音源をきいているそうで、ブログでは「落語は演説の勉強になる」と公言しています。
その他にも、「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一氏をはじめとする経営者などにも落語を日常的にきいている人が数多く存在しています。
落語というのは、人の上に立つものにとって必要不可欠な、人の心をつかむ術を身につけるツールとなっているのです。

パーティーで「一眼国」が外国人から絶賛された理由

彼らが落語をきくのは、単に「人の心をつかむ術が身につく」からだけではありません。 落語は日本の「文化」、日本人特有の「価値観」を教えてくれます。それは落語が単なる「娯楽」にとどまらず、伝統芸能としての側面があるからです。
古典落語の中に「一眼国」という落語があります。

一眼国

昔、「一つ目の国」があるという噂を聞きつけた男がいました。男は「『一つ目小僧」をさらってきて 見世物小屋に出せば大もうけできる」と目論み、探しに行くことにします。男は尋ね歩いた先でようやく「一つ目小僧」を見つけ、見世物小屋に出すためつかまえようとするのですが、なんと、現地人に逆 につかまえられてしまいます。
そして、こんな言葉をかけられます。 「こいつは珍しい、二つ目をしている。見世物小屋に売り飛ばせ!」

「一眼国」は、「自分たちが抱いている価値観は、あくまでも自分たちのエリアでしか通用しない」という真理を教えてくれます。
私はこの落語を英語に訳してもらい、とある外国人が集まるパーティーで披露しました。その結果、多くの欧 米の皆さんから、「グレイト!」という絶賛の言葉をいただくことができたのです。もちろんその後、パーティーに来場されていたビジネスエリートの方々に話しかけていただき、予想以上にコミュニケーションがとれたこ とはいうまでもありません。
このパーティーで実感したことですが、欧米のビジネスエリートたちは自国の文化や伝統芸能に精通していま す。そして、自国の人たちがどのような価値観を持っているのかもちゃんと話せます。ビジネスエリートにとって「自国の文化・伝統芸能」は、教養として当たり前の知識であり、コミュニケーションツールになっているの です。
元プロサッカー選手の中田英寿氏が、日本各地を旅するようになったのは、海外で生活しているときに日本の 文化や伝統について尋ねられることが多く、「もっと日本のことを知りたい」と感じたからだそうです。中田氏は現在、お菓子メーカーの執行役員を務め、日本酒の良さを世界に広める会社を設立するなど、ビジネスマンと しても活躍しています。
国内外問わず、自国の文化・伝統芸能はビジネスエリートにとって共通言語になりえます。「落語」を知るということは、日本の文化・伝統芸能を知り、日本人の価値観を知るということです。落語は、日本各国を旅せず とも、日本について深く知ることのできる最強のツールなのです。

落語は人間の失敗図鑑

落語は人間の本質をも教えてくれます。
私の師匠だった故・立川談志(七代目)は「落語とは人間の業の肯定だ」と看破しました。平たく言うと、「人 間とは所詮、どうしようもないものなのだ」という意味です。そんな彼の主張を裏付けるかのように、落語に はどうしようもない人、ばかりが登場します。
前出の「一眼国」の主人公のように、他人をうまく利用しようとしたり。スキあらばタダ酒にありつこうとし たり。片思いや横恋慕に悩んでばかりいたり。お金もないのに見栄っ張りだったり……。 言うなれば「成功していない人」「ダメな人」「イケてない人」のオンパレードなのです。 そして、落語の筋書きの多くは、失敗談ばかりです。その様相は「失敗図鑑」と呼んでもよいでしょう。「落 語」というのは、時代が変わってもどれだけ世の中が発展しても、変わらない人間の本質を教えてくれるので
す。
小泉進次郎氏はこのように話します。 「政治の世界はストレスも多いが、心がささくれ立っている時も落語をきいていると、世の中の何でも許してし まえる。世の中でうまい酒のひとつが、落語をきいた後で飲む日本酒だ」
落語の世界を見ていると、失敗ばかりの世の中だからこそ、皆が上手に“小さな迷惑”を”シェア“し合い、
「お互い様」「持ちつ持たれつ」で生きていることにホッとさせられます。そもそもそんな「和を重んじる心」 こそ、私たち日本人が本来もっている美徳であり、今こそ身につけるべき教養なのではないでしょうか。

この本では、
◆大物政治家や経営者がきいていた「人の心をつかむ術」を身につけるツールとしての落語
◆ビジネスエリートにとって共通言語である「日本の文化・価値観」を知るツールとしての落語
◆「人間の変わらない本質」を教えてくれる落語

そんな教養としての落語を、今まで一度も落語に触れたことのない人にも理解できるように解説しています。
最低限知っておきたい知識はもちろんのこと、落語の歴史から、知っておくと一目置かれる話。さらに、その ほかの伝統芸能の知識を、落語と比べながらわかりやすく説明しています。 「落語について知りたいけど寄席に行くのはハードルが高い」 「日本人として、伝統文化を知っておきたい」 そう思ったことがある方に、ぜひ読んでほしいと思います。

立川談慶 (著)
出版社 : サンマーク出版 (2020/1/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに
和製チャーチル 吉田茂が愛したもの
パーティーで「一眼国」が外国人から絶賛された理由
落語は人間の失敗図鑑

第1部
これだけは知っておきたい
日本の伝統芸能「落語」

第1章
これだけ知っておけば間違いない落語の「いろは」
落語の原点「雷睡 笑」は仏教の聖害的存在だった
最初の落語家は秀吉に仕えた「曽呂利新左衛門」
落語は江戸時代、庶民の娯楽だった
「古典落語」は著作権なしのカバー曲、新作落語はオリジナルソング
落語家はネタバレしている噺を何回もして、なぜ生きていけるのか
「上方落語」と「江戸落語」は何が違うのか
大阪の落語は、一度なくなった?
上方落語を復興させた「桂米朝」
「立川」「林家」「桂」は名字ではない?
現代落語界の派閥は大きく4つに分かれる
超老舗,団体である「落語協会」と「落語芸術協会」
伝統的な昇進制度に反発した2人のカリスマが独立

第2章
噺の構造と落語家の出世
落語の基本構成は「枕」「本題」「オチ」
「枕」をきけば、落語家の腕前がわかる
落語の神髄「オチ」で最も多いのがダジャレ
落語の代表的なオチの種類
登場人物を知っていれば落語は100倍わかりやすくなる
最重要人物「与太郎」は哲学的側面を持つ“愛されキャラ
フリーの売れない芸人「一八」と金持ちの道楽息子「若旦那」
田舎者の代表格「権助」
落語家の出世階級、「前座」「ニッ目」「真打ち」
上方落語には「階級制度」は存在しない
「真打ち」になっても収入は保証されない
「前座」から「二ツ目」になるのは年功序列
下克上も可能な「真打ち昇進」

第3章
ニュースや会話によく出てくる名作古典落語
[1] 子どもでも知っている超有名落語「寿限無」
[2] 世代を問わない爆笑演目「まんじゅうこわい」
[3]そばを食べる仕草と「今、なんどきだい?」という
セリフが有名な「時そば」
[4] さんまは”低級な魚”だった?「目黒のさんま」
[5] 人情噺の大定番!「芝浜」
Column 1
落語家はどうやって稼いでいるの?

第2部
日本の伝統芸能と落語界のレジェンドたち

第4章
落語と比べると理解しやすい日本の伝統芸能
歌舞伎の元は女性たちの踊りが中心だった「かぶき踊り」
江戸時代に、国民的アイドル,級の人気があった「歌舞伎」
歌舞伎はイケメン、落語は三枚目
なぜ人間国宝は歌舞伎役者に多くて落語家に少ないのか?
二世が少ない落語家、ほぼ世襲の歌舞伎役者
能も狂言もルーツは同じ「武士のもの」
笑える話が落語、笑える劇は「狂言」
文楽は人形劇 × ミュージカル
落語は庶民の娯楽』、講談は、武士の講義。
古典落語に「忠臣蔵」がないワケ

第5章
これだけは知っておきたい落語界のレジェンド
落語界の革命児・立川談志(七代目)
改革と本質を追い求めた談志の信念「全てを疑え」
落語界初の人間国宝・柳 家小さん(五代目)
をしなくても惹きつけられる柳家小さんの存在感
「二・二六事件」の最中に兵士の前で落語を演じた?
破天荒で一匹狼な落語の神様・古今亭志ん生(五代目)
大河ドラマでビートたけしが演じた落語家
「なめくじ部屋」に住んだ天才
伝統と現代性を持ち合わせたイケメン落語家・古今亭志ん朝(三代目)
テレビやラジオでも評価された天才落語家
「寄席四天王」の一人・談志との関係性
“超完璧主義” 昭和の落語名人・桂 文楽 (八代目)
8歳の落語名人が高座で放った一言
Column 2 意外と多い落語由来の言葉

第3部
ビジネスマンが知っていると一目置かれる落語

第6章
世界の笑いと落語
国ごとに好まれるジョークは違う
アメリカンジョークの3つの特徴
中国のジョークは古典由来が多い
フランス人はエッチな話がお好き?
落語に人殺しは出てこない
「飢え」と「寒さ」が落語のベース

第7章
これを知っていればあなたも落語通! 使える落語
言えると一目置かれる「芝浜だけに」の意味
不倫ネタは落語の世界でもたくさん存在する
落語に出てくるコミュニケーション最強男
部下ができたら知っておきたい「百年目」
仕事に行きづまったときにおすすめ「ねずみ穴」
仕事のヒントをもらえる「はてなの茶碗」
ブランディング力を学べる「猫の皿」
Column 3 YouTubeで名人のネタをきく
おわりに
注冊
参考文献

第1部
これだけは知っておきたい
日本の伝統芸能「落語」

立川談慶 (著)
出版社 : サンマーク出版 (2020/1/7)、出典:出版社HP

落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ

落語のまったく新しい入門書

ちゃんと聴いたことがあっても興味を持てない、落語の落ちの面白さがわからないと考える人は案外少なくありません。本書では、落語に関する素直な疑問を解き明かしながら、落語ならではの大いなる魅力に迫ります。落語を聴いて面白いと思った方にももちろんおすすめの1冊です。

頭木 弘樹 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2020/8/11)、出典:出版社HP

落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ

お断り
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これらに違反すると犯罪行為として処制の対象になります。

目次

はじめに 「面白くないのがあたりまえ」というところから始めてみたい
第一章 「落語は落ちが命」の本当の意味
Q1 なぜ今、落語なのか?
Q2 面白くない落ちがあるのはなぜ?
Q3 まだ話の途中なのに終わるのはなぜ?
Q4 途中から出てこない登場人物がいるのはなぜ?
Q5 「毎度ばかばかしいお笑いを一馬」と言うのはなぜ?
Q6 面白くない落ちでみんなが笑うのはなぜ?
Q7 小咄と落語はどこがちがうの?
Q8 なぜ落語は今でも笑えるの?
Q9 滑稽噺と人情噺はどこがちがうの?

第二章 「耳の物語」と「目の物語」
Q10 漫才やコントと落語はどこがちがうの?
Q11 文字にすると、なぜ噺が死んでしまうの?
Q12 なぜ小泉八雲は「本を見る、いけません」と言ったの?
Q13 「耳の物語」と「目の物語」とは?
Q14 どうしていつも熊さん八っつぁんが出てくるの?
Q15 古典落語なのに新しさも感じられるのはなぜ?
Q16 なぜ愛宕山に登ったら、落語の『愛宕山」は語れないの?
Q17 落語は映像化したほうが面白いの?
Q18 落語は本で読むと面白くない?
Q19 大人にも語りは必要?

第三章 落語は世界遺産
Q20 語り継ぐとなぜ面白くなるの?
Q21 落語と一人芝居はどこがちがうの?
Q22 落語は日本のものなの?
Q23 コモロ諸島の落語とは?
Q24 噺家さんはどんなふうに落語を作り変えているの?
Q25 所変われば話も変わるの?
Q26 江戸の粋と上方の粋はどうちがうの?

第四章 面白い面白くないを分けるもの
Q27 同じ噺でも演者で面白さがちがうのはなぜ?
Q28 嫌いだった噺を好きになることがあるのはなぜ?
Q29 ギャグで笑わせてはいけないとは?
Q30 くすぐりにも松竹梅があるとは?
Q31 噺家それぞれの味とは?
Q32 なぜ落語はひとりで演じるの?
Q33 同じ噺を何回でも聴けるのはなぜ?
Q34 落語ってじつは絶望的?

あとがき 落語に何度も助けられた
解説 稀有な落語本桂文我

頭木 弘樹 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2020/8/11)、出典:出版社HP

はじめに 「面白くないのがあたりまえ」というところから始めてみたい

●「面白いから、聴いてみて!」ですめば話は早いが
落語を人にすすめるとしたら、やっぱり「面白いから、聴いてみて!」と言うしかないと思います。 しかし、実際のところ、いきなり落語を聴いて、すぐに「面白い!」となる人がどれほどいるでしょうか。 たいていは「面白くなくもないけど、また聴くほどではないかな……」とか、「どちらかと言えば、面白くないかも……」とか、「何が面白いのか、さっぱりわからない!」とか。残念ながら、そういう人のほうが多いで しょう。
では、そういう人たちは、落語とは無縁の人たちなのか? そうではないように思うのです。 そういう人たちの中にも、じつは落語が大好きになるはずの人が、たくさんいると思うのです。
●「面白くなかった人」に対して、落語を語ることはできないか
では、どうしたらいいのか? 「落語は面白いよ」というところからではなく、「落語は面白くないと思ってあたりまえ」というところから話
を始められないかと思いました。 その人たちは、落語を聴いて面白くないと思ったわけですから、その気持ちを大切にしたいと思うのです。そこにはちゃんと理由があると思うのです。
その理由、つまり「なぜ落語は面白くないのか?」という、その謎を解き明かしながら、落語について語って いけたらと思いました。 それがこの本です。
●率直な疑問で、落語を問い直してみる
具体的には、「落語を聴いてみたけど面白くなかった人」が抱きそうな、落語に関する率直な疑問、たとえば 「落ちが、面白くないどころか、意味不明だった。落ちが大切なはずなのに、なぜ?」とか、そういうたくさん の疑問に、ひとつひとつ答えていきながら、できれば、意外な謎解きにまでもっていけたらと思っています。
どんな分野もそうですが、初心者の率直な疑問が、思いがけないところをついていて、詳しい者もハッとさせ られて、あらためて何かに気づかされるということがあるものです。
たとえば、本を読まない人から単行本について、「なぜ表紙が硬くて、中が柔らかいの?」と聞かれたことが あります。「そんなのあたりまえだろ。それでなきゃ、読みにくい」とそのときは思ったのですが、あとで調べ ると、中国には昔、表紙が柔らかくて中が硬いという本もあったのです。それを知って、本というものの形についての認識がずいぶんあらたまりました。もっといろんな可能性があるのだと。
●どういう人に読んでもらいたいか
そういう次第で、この本は、まだ落語を聴いたことのない人や、「落語を聴いてみたけど面白くなかった人」 にも、読んでいただきたいと思っています。 ただ、そういう人は、なかなか落語の本を手にとってくださらないでしょう。 ですから、もしできることなら、落語好きの人がお読みくださって、そういう方たちに語っていただけると、 とてもありがたいです。
落語好きの方がお読みくださっても、楽しんでいただける内容にしたつもりです。もちろん力不足ではありますから、「この謎解きは、もっとこうしたほうが」というご意見があれば、ぜひお聞かせいただきたいです。
●文学は落語から学ぶべきものがまだたくさんある
それから、落語は聴かなくても、小説やドラマや映画や漫画は好きな人、つまり「物語が好き」な人にも、ぜひ読んでみていただきたいと思っています。
日本の文学は、落語からじつに多くのものを得ています。話すように書くという言文一致運動でも、落語の速 記が大きな役割を果たしました。また、夏目漱石などの文豪が、落語の影響を強く受けていることは有名でしょう。太宰 治は、蔵書しない主義でしたが、落語の神様と言われる三遊亭圓朝の全集だけは、ずっと手放さなかったそうです。 日本だけでなく世界的にも、文学は語り芸からとても多くのものを得ています。 それは過去においてもそうでしたが、じつは、これからまた、新たに学ぶべきものがあるのではないかと思っているのです。
新しい物語が誕生するためには、またあらためて落語などの口 承文学から、何かを取り入れることが必要だ と、とても感じているのです。
●どうでもいいと思っている人にすすめるのは難しい
とまあ、手前勝手な熱を吹きましたが、落語に興味のない人に、落語に興味を持ってもらうというのは難題です。
「落語は面白いですよ」と人にすすめると、「ああ、そうなんでしょうね」などと曖昧な返事をされることが多いものです。
「面白いと思う人もいるんだろうけど、でもまあ、自分はいいです」というようなニュアンス。
ぜんぜん落語を知らなければ、かえってもう少しは興味を持ってもらえるでしょう。 「それはいったいどんなものなんです?」と。 でも、たいていの人は、一度は落語を耳にしたことがあります。着物を着た人が座布団に座って語っている姿 をテレビで目にしたこともあるでしょう。
落語好きな人がいることも知っているし、古典芸能として素晴らしいものであることも知っているし、名人と 賞賛される人がいることも知っている。 食わず嫌いというわけではなく、ちゃんと聴いたことがあって、そのうえで、興味がないのです。 嫌いというまでの強い反応もなく、なんとなく興味がない。わざわざ聴くほどの必要性を感じない。ようする に、どうでもいい。 これがいちばんつらいところです。
落語を聴いたことがないというのなら、聴いてみてもらえばいいわけですが、「落語を聴いてみたけど、面白 くない」という人には、そこからまた興味を持ってもらうというのは、大変困難です。もう確認済みなのですか
●「もっと名人のを聴けば」はなかなか通用しない
落語好きとしては、そういうとき、「それは聴いたのがよくなかった。もっと面白い噺があるし、名人が語っているのを聴けば……」というようなことを言いたくなります。 しかしこれはなかなか通用しません。 たとえば、本好きな人なら、面白い本と面白くない本があるのは当然で、面白くない本があったからといって、本全体が面白くないとは思いません。
しかし、あるジャンルにまだ詳しくない場合には、そのジャンルの一作品がつまらないと、そのジャンル全体 がつまらないと判断してしまいがちです。同じ箱に詰まったリンゴの一個がおいしくなかったのに、「他のも試 してみて」と言われても、勘弁でしょう。
●味がわかるようになるまで聴いてもらうことも難しい
それに、そもそも名人の噺をちゃんと聴いている場合も少なくありません。それこそ、古今亭志ん生の 『火焔太鼓」のような、これぞ落語というようなものを。 そういう場合には、落語好きとしては、今度はこう言いたくなります。納豆を初めて食べた外国人に向かって
言うように、「なかなか最初は味がわからないんだよ。慣れてくれば、この味がいいと思うようになるから」
しかし、なんの因果で、面白くないと感じている落語を、慣れるほど何度も聴かなければならないでしょう。 落語なんか好きにならなくても、損した気はまったくしないというのに。 聴き込まないとわからないなんて言ったのでは、かえって敷居が高くなってしまうだけです。
●落語はじつは敷居が高い
だいたいに、落語というのは、敷居が高いものです。演者は着物を着ている、使っている言葉には古くて意味 のわからないものがある、お話の背景も江戸時代などで、様子がよくわからない。笑えると言われても、わから ないことだらけでは、笑うのも難しい。今のはどういう意味なんだろう、なんて思っていると、話はどんどん先 に進んでいってしまっている。
江戸のことがわかって楽しいなどと言われても、江戸のことを勉強しないとわからないと言われているよう で、負担がますます大きいだけです。 というわけで、「落語を聴いてみたけど、面白くなかった」というほうが当然で、落語好きな人がそれでも世 の中にけっこういるほうが、かえって不思議なくらいです。
●落語を聴かないのはなぜもったいないのか
それでも、私はあえて言いたいと思うのです。 「落語を聴かないのは、あまりにも、もったいないですよ」と。 「なぜ?」と聴かれると、なかなか一口には説明できません。
本好きな人は、本を読まないことをもったいないと知っています。でも、「本なんか読まなくても生きていける」と言って、立派に生きている人に対して、本を読むことの素晴らしさを説くことは、なかなか難しいでしょう。
落語の場合も同じです。でも、一口に説明できないのは、それだけ落語の魅力がたくさんあるからです。 そのたくさんの魅力について、これからお話しさせていただければと思っています。
●落語ならではの面白さとはいかなるものなのか
私自身が落語とどう関わってきたかは、「あとがき」に書かせていただきました。私は落語に何度も救われた と思っています。今も、落語を聴かない日は一日もありません。 といっても、私は演芸評論家ではありません。文学紹介者です。なので、ちょっと変わった落語紹介になると思います。ディケンズ、カフカ、クンデラ、マルケス、クッツェー、夏目漱石、幸田露伴などの作家たちも登場させる予定です。
いろんな角度から、落語ならではの面白さとはいかなるものなのかという大きな謎に迫っていけたらと思っています。落語はなぜ面白くないかの答えは、落語はなぜ面白いのかということでもあるはずだからです。 うまく語れましたら、おなぐさみ。

第一章 「落語は落ちが命」の本当の意味

頭木 弘樹 (著)
出版社 : 筑摩書房 (2020/8/11)、出典:出版社HP

ゼロから分かる! 図解落語入門

イラストで落語がよくわかる

「そもそも落語とは?客席ってどんなところ?前提知識が無くても大丈夫?」そんな落語のあらゆる疑問をイラストで分かりやすく丁寧に解説しています。基礎知識から豆知識まで網羅しているので、落語入門に最適の1冊です。

稲田 和浩 (著)
出版社 : 世界文化社 (2018/3/10)、出典:出版社HP

ゼロから分かる!図解落語入門

はじめに

落語知識ゼロからでも大丈夫! 落語は老若男女、 誰もが気軽に楽しめる エンタテインメントです。
落語は誰が聞いてもおもしろい、わかりやすい芸能です。 笑うところがあるから、飽きずに聞くことができます。 人情の機微、なんていうとちょっと古臭いですが、 昔から変わらない、親子の絆、 他人へのちょっとした思いやりなんかが描かれています。 落語の世界には、ざんねんな与太郎とか、間抜けな泥棒とか、 今の社会ではダメな人とされる人たちも出てきます。 そんな人たちが、生き生きとし、おもしろいことを振りまいてくれる。 そして、どことなく共感する。 気楽で楽しい、断を聞いて、 笑うことができる時間を持つことは、 幸福なことだと思いませんか。

落語の魅力・ おもしろさって どこにあるの?
伝承芸だから 磨かれて、 おもしろい噺だけが 残っている!
落語は江戸時代後期の人たち でんが体験したり創造した、おもしろおかしい話が原点です。それ が、いろいろな落語家が口演して練られて洗練され、また時代に合わせて改作されて、よりお もしろい落語になっていきました。

座布団1枚の世界 道具立てはなく、シンプルゆえに、想像力は無限!
基本的には、落語の小道具は 扇子と手ぬぐいだけ。座っている落語家のしゃべりだけで物語 を綴っていきます。あらゆる芸 作の中で、一番シンプルな芸で す。お客さんの想像力で物語が 膨らんでいくのも落語の魅力です。

エンタテインメントの 中ではリーズナブル!
一人の語り芸なので、演劇 みたいに装置や照明にお金が かかることもありません。い たってシンプルゆえ、寄席は目の会だと500円~。料金 がリーズナブルなので、気楽に ふらっと、寄席や近所の地域寄 席なんかに出かけてみるのもおすすめです。

落語は、 毎日のように 聞ける!
寄席はほぼ毎日営業していますし、都内および近郊では月に1000本くらい落語会 が開催されています。CDや DVDも売っています。「落語 が聞きたい」と思えば、いつで も聞くことができます。

続々と 作られている。新作落語で、同時代を体感!
江戸や明治の話ばかりが落論 ではありません。現代をモチーフにした新作落語も次々に作られています。サラリーマンや学 生、時には宇宙人までもが出てくる物語を違和感なく聞かせる のも落語家の芸です。

ニッ目に注目! ユニットや企画も目白押し
キャリア5年未満くらいの若手落語家が活躍しています。ユ ニットを組んだり、新作落語に 意欲的に取り組んでいたり、中 にはイケメン落語家もいたりし ます。彼らの威強会は低料金。 将来の名人を応援してみては。

落語は 一生つきあっていける芸能です。
心が寂しくなったら落語を聞くといい。 何も解決策なんか教えてくれないし、 生きる希望も与えてはくれないけれど、 とりあえず笑って数時間は過ごせる。 楽しくてしょうがない時も落語を聞くといい。 一人で笑っていたらバカみたいだから、 落語を聞いて、みんなで笑おう。 嬉しいにつけ悲しいにつけ、落語がそばにあると、 ちょっとラクになれそうな気がします。

落語に興味が出てきたけれど どうしたらいいの?
初心者はどこから聞く?
江戸時代のことまったくわからない!
今すぐ落語を聞きに行きたい!
こんな時は
この本をぜひ活用してください!

稲田 和浩 (著)
出版社 : 世界文化社 (2018/3/10)、出典:出版社HP

目次

はじめに
落語家のホームグラウンド 寄席を覗いてみよう
大都会の異空間 寄席に行ってみよう
1歩入るだけで手軽 にタイムスリップ
末廣亭の高座はお座敷をイメージ
さあ、開演 にぎやかな寄席の始まり
お楽しみは続く クライマックスはこれから!
まだまだ知りたい一 寄席に関するQ&A
Column
落語家の看板寄席文字に親しむ

2章 落語を知ろう。
そもそも落語ってどういうもの?
古典落語の種類 ジャンル分けすると
上方落語は江戸落語とどう違う?
噺のおもしろさ
1貧乏でも生き生きと楽しそう
2 落語国のアイドルといえば与太郎さん
3 尻に敷く、騙す 断然、女が強い!
4 慌て者はココロの救世主
5 この世にないものが大活躍
6 大旦那 VS 若旦那 男の理想はどっち?
7 ケチと泥棒は寄席に来ないから
8 そこまでして飲む? 酒だけはやめられない
9 江戸っ子の粋な美学? 威勢のよさとやせ我慢
10 親子と夫婦 情に泣いて笑って
11 純空から暴走愛まで落語 にある愛の形
12 無我夢中は騒動の元好きもほどほどに
13 気分すっきり! 逆転劇&出世物語
14 くじけないたいこもちに元気をもらう
15 思わず食べたくなる垂涎の落語

新作の名作
1 人間性も設定もナンセンスで超落語的
2 メルヘンの世界もお手のもの!
3 世情の粗は大いに笑ってちょっと身につまされて
Column
季節を先取り! 落語で四季を感じる
自作自演以外もある! 落語作家による

3章 落語で楽しく 江戸を知る
江戸ってどんなところ?
長屋の生活
江戸っ子は宵越しの銭を持たないのは本当?
見物は庶民の楽しみ
神社仏閣は娯楽のパラダイス
夢も現実も吉原が教えてくれる
町人たちのなりわいはどんなもの?
江戸っ子の職人気質を知る
祝いもとむらいも住人ぐるみで
江戸時代の乗り物は駕籠と船が主流
落語で活躍する江戸の実在人物
まだまだ知りたい 落語に関するQ&A,
Column
何度でも聞きたくなる 古典落語は名ぜりふの宝庫
謎かけに座布団運び 大喜利は落語なの?

4章 落語ライブを 楽しもう!
落語家のユニフォーム
高座者と2つの小道具
落語家は出囃子に乗って 舞台に登場する

落語の表現
1一人何役も演じ分ける落語マジック:
2手ぬぐいと扇子は変幻自在
3しぐさだけでどんな場面でも現出
落語会の形式はさまざまある
本格からカジュアルまでライブよりどり
落語はエコで手軽 どこでもできる!

落語を引き立てる色物さんたち。
1 落語とは違う話芸・語り
2 素晴らしき伝統芸の世界
3 洋風のバラエティ
まだまだ知りたい 落語ライブに関するQ&A
Column
今も語り継がれる名演 伝説となったライブ

5章 落語家をめぐる 世界を垣間見る
落語家になるためのステップ 弟子入り
落語家の階級制度 真打になるまでの道のり
落語家の修業や稽古ってどんなもの?
落語家の晴れ舞台 真打披露興行
落語家の名前・子号からわかること
落語家の活動を支える5つの団体
データでわかる落語家の現状
まだまだ知りたい
落語家に関するQ&A
Column
何が聞けるかわからない 落語の演目の決め方

6章 落語レジェンドをひも解く
落語の生い立ち 落語家の系譜の始まり
近代落語の幕開け 大スター・三遊亭圓朝

落語は世につれ~
知っておきたい昭和の名人【黄金期】
知っておきたい昭和の名人【円熟期】
知っておきたい昭和の名人【流動期】
知っておきたい昭和の名人【李明期】
知っておきたい昭和の名人【上方編】
Column
さらに落語のことを知りたくなった人へ 落語の深みへ誘う本リスト
まだまだ知りたい
落語レジェンドに関するQ&A
Column
人間国宝もいる落語界 そもそも名人って何?

巻末 Special
ゼロ落流 落語おすすめデータ
落語 ライブに出かけよう!
寄席・落語会案内:
自分好みの落語家を探そう!
注目の落語家 198人
もっと落語を楽しむために知っておきたい
寄席・落語ワード集
※指載している家の名前や、や西会などの情報は2016年2月時点のものです。

1章
落語家の ホームグラウンド寄席を覗いてみよう
寄席は年じゅうほとんど無休で営業しており、 落語家は連日寄席の高座に上がって芸を磨いています。 昼から夜まで、いつ入ってもいつ出でも自由な寄席は、 落語に浸りながら異空間にトリップできる場所なのです。

稲田 和浩 (著)
出版社 : 世界文化社 (2018/3/10)、出典:出版社HP

落語名作200席 (上) (角川ソフィア文庫)

極上のガイドブック

情緒たっぷりの廓噺「紺屋高尾」、涙を誘う家族ドラマ「子別れ」、子供に人気の言葉遊び「寿限無」など、寄席や落語会で口演頻度の高い噺が厳選されています。演目別にストーリーや主な会話、結末と落ちなどがコンパクトにまとまっており、落語の初心者・上級者を問わず楽しめる1冊です。

京須 偕充 (著)
出版社 : KADOKAWA/角川学芸出版 (2014/3/25)、出典:出版社HP

落語名作200席 (上) (角川ソフィア文庫)

本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載することを禁止します。また、本作品の内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。 本作品購入時にご承諾いただいた規約により、有償・無償にかかわらず本作品を第三者に譲渡することはできません。
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目次

まえがき

青菜
あくび指南
明烏
麻のれん
愛宕山
あたま山
穴どろ
鮑斗

居酒屋
一眼国
井戸の茶碗
居残り佐平次
今戸の狐

浮世床
うどん屋
殿のたいこ
馬の田楽
うまやかし
厩火事

王子の狐
阿武松
近江八景
大山詣り
御血脈
お茶汲み
お直し
おばけ長屋
御神酒徳利
お見立て
親子酒
お若伊之助

火焔太鼓
掛取り万歳
笠碁
蹴沢
火事息子
片棒
かぼちゃ屋
がまの油
紙入れ
蛙茶番
替り目
集編
看板の一
巌流島

紀州
気の長短
胆潰し
禁酒番屋
金明竹
首提灯
首ったけ
減前圍籠

孝行糖
強情灸
高津の富
甲府い
紺屋高尾
黄金餅
小言幸兵衛
小言念仏
後生變
五人如し
子ほめ
子別れ
蔬酶問答
榆兵衛理

盃の殿様
佐々木政談
真田小僧
皿屋敷
三軒長屋
山号寺号
三十石
三人旅
三年目
三方一両損
三枚起請

鹿政談
紫檀楼古木
七段目
質屋庫
十憲
品川心中
死神
芝浜
締め込み
蛇含草
宗論
寿限無
松竹梅
素人鰻
城木屋
心眼

酢豆腐
崇徳院

千両みかん

粗忽長屋
粗忽の釘
粗忽の使者

番外 真景累ヶ淵

本書に登場する噺家一覧(上巻)

京須 偕充 (著)
出版社 : KADOKAWA/角川学芸出版 (2014/3/25)、出典:出版社HP

まえがき

落語は好きだが、よくは知らない。そういう人がとてもたくさんいる。あの噺をもういちど聴いてみたいが、 演目名を知らないので、実演にも録音録画にも手が出せない。それが判明したとしても、とりあえず誰の口演を 聴けばいいのかよくわからないー。
そんな、落語の玄関口でのささやかな、だが基本的なつまずきが、この芸能と一般社会との間の風通しを、ひどく悪いものにしている。
数ある伝統芸能の中で、落語はいちばん身近な、誰にでも手軽に楽しめる、それでいて探れば結構奥も深い不 思議な存在だ。落語がルーツの「笑い」のパターンは、コントやコメディの中に限りなく拡散しているし、ヨイ ショ、セコい、マジ、ジャリ、トリ、前座などの寄席用語が国民の日常語に浸透している。「紅白歌合戦」の “大トリ”なんて、寄席にはなかった半新造語まで生まれているほどだ。 「昭和の名人」がことごとく世を去ったあとに思いがけず平成の落語ブームというのがあった。それも今は落ち 着いたが、聴き手側はすっかり世代交替して、客席には若い人や女性が目立つ。落語がまだ時代に取り残されて いないのはめでたい。 だが、落語の山脈をどう歩けばいいのか相変わらずよくわかっていない。このままにしておくと、また落語に縁遠くなる人が増えてしまうのではないか。
落語の玄関口は、これまでよりたしかに広くなっている。開放的な明るい雰囲気が出てきて、一般の人が入り やすくなったのは、九〇年代以降の若手の活躍のお蔭だろう。 だが、せっかく玄関口に集まった人々にも、まだ落語屋敷の間取りや、廊下の道順がよくわからない。 向こう見ずに奥へ入り込むと、落語三百年の歴史とともに生き続けた落語博士の妖怪が物陰に潜んでいるよう な気がする。おもしろいはずの落語で恐怖を味わいたくはないから、玄関先で失礼しようかー。 そうした膠着状況が、落語の空から雲や霞を払拭し切れない、いちばん大きな原因ではないだろうか。 一粒で効く特効薬はないと思う。が、そこを何とかしたい。その思いは今に始まったことではなく、落語に関するさまざまな仕事をしてきた私の、変わらぬテーマだった。本書もまた、その一環の産物なのである。
以上は本書の母体となった『ガイド落語名作100選」(弘文出版、一九九九年)の重版後の「あとがき」の書き出しの骨子だ。
それから十五年ほどたって、落語の環境はかなり変わったが、この種の書物へのニーズはあまり変わっていな いとみえて、こうして文庫化の日を迎えることになった。
私は芸が好きだが、噺はもっと好きだ。どういう作品を誰がどう演じるか。それが音楽でも芝居でも肝心要と 思っている。その観点から噺を選び、それを生かしてくれた噺家の名前をあげた。あくまでも私の聴き方を軸に 述べているが、この道ではずいぶん古くから仕事をしてきたので、噺の急所は心得ているつもりだ。これからもっと落語を楽しもうという方々のお役に立つところもあるかと思う。
初めに噺ありきのように申し上げた。私は初めに演者ありき派ではない。ある演者以外の落語は聴きたくない という人もあるが、それでは演者と心中することになりかねず、落語の広大な平原を百歩と歩いていないことになる。
特別な能力をもつ演者が噺を別のものにする例は史上数多くあるが、それほどの奇跡は年に二度も三度もある ことではないから、まずは三百年の寿命をもつ噺と素心に対話するのが、落語の楽しみ方の第一だろう。
上巻、下巻合わせて二百席余では、まだまだ落語の大海を渡り切れるものではないし、文章化しにくい噺のいくつかはあえて取り上げていないので、不満を抱かれる方もあろうかと思うが、まずはベーシックな噺を揃える ことが出来たのではないか。
噺をただデータ的に記述するのではなく、読み物としてもおもしろく紹介する。それが目的のひとつなので、噺によってはまるで口演速記に近い文字数になってしまい、事典としては項目が肥大化していると思われるだろ うが、それは著者の至らざるところ、おもしろくなかったら、平にお許しを願いたい。
なお、落語は小咄を核のようにして数多くの演者が歴史的歲月の下に噺を増幅拡充して今日の形になったもの がほとんどで、特定の作者が書き下ろした噺はとても少ない。 そのため筋立ても題名も今なお流動性を持っていて、ほぼ同一の噺にさえ、複数のバージョンやタイトルがあるのが珍しくない。
そこで本書所収の演目に限って、以下に別題や類似の噺、同工異曲版、また参考になる他演目などを列記しておく。
【上巻】
『あくび指南」(上方では『あくびの稽古」)。「気の長短」(ただ『長短」が多くなった)。『首提灯」(後 半が異なる「胴斬り」がある)。『高津の富」(東京では「宿屋の宮」)。『紺屋高尾」(『幾代餅」が極めて 類似)。『子別れ』(上が「強飯の女郎買い』、『屑屋の遊び」、下に『子は錠」の別題)。『佐々木政談」 (上方では「佐々木裁き」)。「皿屋敷』(東京では『お菊の皿」)。『蛇含草」(同工異曲に『そば清」)。 『素人鰻」(後半の簡潔形が「鰻屋」)。『酢豆腐」(改作版が『ちりとてちん」)。『粗忽の釘」(上方では 『宿替え」)。
【下巻】
『たちきれ線香」は「たちきれ(立切れ)」、「たちきり』の別称がある。「短命」は『長命』ともいう。『出 来心」を『花色木綿」でやることがある。『天狗裁き」(同工異曲に『羽団扇」)。「天神山』(東京の簡略形 は『安兵衛狐」)。『時そば」(上方の原形は『時うどん」)。『長屋の花見』(上方では「貧乏花見」)。 『夏どろ」(亜種は『置きどろ』)。『猫忠」(上方では「猫の忠信」)。「寝床」(別題に「素人義太夫(素 人浄瑠璃)」)。『野晒し」(上方の類似演目は『骨釣り』)。『のめる」(別題『二人群」)。『はてなの茶碗』(東京版は『茶金』)。「花見の仇討」(上方では『桜の宮」)。『妾馬」(別題『八五郎出世」)。『宿 屋の仇討」(上方では「宿屋仇」)。『夢の酒』(同工異曲に『橋場の雪(夢の瀬川)」)。「四段目』(上方 では『蔵丁稚」)。

青菜
「植木屋さん、菜をおあがりか」
「鞍馬より牛若丸が出まして」
◆プロット 「植木屋さん、御精が出ますな」
当お屋敷の旦那様から突然声をかけられて植木屋はびっくりした。
構図を考えることがあるから、たばこをすうのも仕事のうちだが、手を休めているときの不意打ちはパッが悪 い。実は、あまりに暑いので早仕舞にしようと思っていたのだ。
青いものに水を打ってくれたので風が 快いと旦那は喜び、仕事着の汚れがついても構わないから、と植木屋に 縁先の座をすすめ、自分の涼み酒を相伴させた。焼酎に味跡を割った冷用酒・柳影。有は下に氷を敷いた鯉の洗い。ああ、上流の生活。
「植木屋さん、菜をおあがりか」
青菜のおひたし、いただきます。旦那の打つ手に応えて奥様が直々のご登場、しとやかに三つ指ついて「鞍馬 より牛若丸が出ましてその名(英)を九郎(喰らふ)判官」「そうか。義(止し)経にしておきなさい」|菜 がない、ならばよそう、の客前での見事な隠しことば。
植木屋、長屋の自宅へ帰って、さっそく上流ごっこをしてみたくなった。付け焼き刃の上にガサツな女房ときているから、心許ないことこの上もない。友人が立ち寄る。 「植木屋さん、御精が出ますな」 「植木屋はおまえ、おれは大工。しっかりしろよ」
柳影と称してタダの酒、鯉の洗いとは真赤な偽り鯛の塩焼き。友人は一いちあきれながらも賞味してくれる。 「植木屋さん、菜をおあがりか」

京須 偕充 (著)
出版社 : KADOKAWA/角川学芸出版 (2014/3/25)、出典:出版社HP

落語ことば・事柄辞典 (角川ソフィア文庫)

落語辞典の決定版

落語を知るためのキーワード616項目が掲載されています。キーワードを6つのジャンルに分類し、それぞれ観どころや聴きどころを丁寧に解説していきます。落語初心者におすすめの、読んで腑に落ちる1冊です。

榎本 滋民 (著), 京須 偕充 (編集)
出版社 : KADOKAWA (2017/8/25)、出典:出版社HP

落語ことば・事柄辞典 (角川ソフィア文庫)

本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信すること、あるいはウェブサイトへの転載等を禁止し
ます。また、本作品の内容を無断で改変、改ざん等を行うことも禁止します。
本作品購入時にご承諾いただいた規約により、有償・無償にかかわらず本作品を第三者に譲渡することはできま せん。
本作品を示すサムネイルなどのイメージ画像は、再ダウンロード時に予告なく変更される場合があります。 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容にもとづきます。
本作品は縦書きでレイアウトされています。
また、ご覧になるリーディングシステムにより、表示の差が認められることがあります。

目次

一 時・所・風物
二 金銭・暮らし・衣食住
三 文化・芸能・娯楽
四 男と女・遊里・風俗
五 武家・制度・罪
六 心・体・霊・異
主要演目掌解題
あとがき
演目索引
項目索引

榎本 滋民 (著), 京須 偕充 (編集)
出版社 : KADOKAWA (2017/8/25)、出典:出版社HP

本書は、著者・榎本滋民氏が、東京の国立小劇場で月一回開催されているホール落語の会、落語研究会(TBS主催)のプログラムに連載されていた「落語学事典」を集大成したものです。
毎回、口演五演目の落語それぞれから一項目ずつ、簡潔明快に、また適確に解説されたこの「落語学事典」は読んで楽しく、また落語を味わう者にとって何よりの肥やしになる読物でした。時折り添えられる独特のエスプ リが巧まずして落ちになり、知識の小咄の趣きさえありました。平成十五(二〇〇三)年一月十六日、著者の急逝 によって連載に突然のピリオドが打たれたのは、返すがえすも残念なことでありました。
榎本滋民氏は昭和五(一九三〇)年二月二十一日、東京で生まれました。國學院大學文学部に学んだ後、雑誌編 集のかたわら劇作に従事、昭和三十六(一九六一)年ごろから劇団新派の台本脚色を手がけました。同年、『孤 塁」で『オール讀物」募集戯曲第一席に入賞、これは新派で上演されました。
以後は松竹、東宝などの商業演劇を中心に制作に脚色に演出に活発な活動を展開され、代表作に新国劇の『同 期の桜」、新派の『花の吉原百人斬り」、「寺田屋お登勢」(初代・水谷八重子十種の内)、歌舞伎の『大江山酒呑 童子」、山田五十鈴とのコンビで「浮世節立花家橘之助・たぬき」(山田五十鈴十種の内)、『同・新編たぬき』、『愛染め高尾』、『樽屋おせん」、『お市の方」などのほか、『ぼたん刷毛・女優松井須磨子」、『桃中 軒雲右衛門」など多数があります。
作風は史実、逸話にもとづいて綿密周到な考証を重ねた上に重厚な人間ドラマを築くものですが、随所に洒落 や遊びを施すところに、落語などの諸芸に通じた作者の面目が躍如としています。
小説にも『夢二恋歌」『お前極楽」(ともに講談社刊行)、『明日のことは知らず候」、などがあります。 落語ほか芸能一般に精通するところから、多年にわたって芸術祭賞、芸術選奨などの選考委員もつとめられました。TBSが、落語研究会で収録した口演をテレビ放映した「落語特選会」での名解説者ぶりもっとに名高く、二十年の長きにわたって担当されました。
落語関係の著作には『落語小劇場」上下、『落語俗物園」(ともに三樹書房)、『古典落語の世界」(講談社)、『古典落語の力」(筑摩書房)、『長屋歳時記」(たくみ書房)などがあります。
「落語学事典」連載開始にあたって、著者は次のような短い舌代―前口上を添えています。
山本文郎アナウンサーとの対談でおなじみのTBS「落語特選会」のように、演目に関係のある、風俗・ 制度・故事・用語などを、演目ごとに紹介してまいります。ただし雑学・珍学・駄学の学術的価値について は、責任を負いません。
雑学・珍学・駄学と自称し、学術的価値については責任を負いません、と突き放すところに、著者の人柄と見 識がうかがわれます。
著者は、江戸の、江戸文化の大切な要素であるシャイネスの気風をとても尊重されました。そこから風刺や川 柳や落語が生まれ、冗談が一味ちがった洒落になる。落語の、そして芸のこころは、シャイネスの気風を失って はならない――、そんな思いがあったように思われます。
シャイな対応や言動は必ずしも当世向きではなく、また、シャイ迎えにやさしさが正反対の悪態になって表れ たり、ひそかな自負が謙遜どころか自虐のスタイルさえとってしまう――、そんな「江戸気質」が落語愛好者の 間でさえ理解されにくくなっている昨今ですが、著者は終生、シャイネス居士を貫き、江戸の、落語の「気質」 に殉じた人だったように思われます。
考証や研究には、ひととおり以上の力を注がれ、確信したことのみを解説する著者でしたが、学識を誇るよう に受け取られるのは心外だったにちがいありません。そこはそれ落語に通じた人、「やかん」や「千早振る」のエセ識者と並べられる愚は百も承知だったのです。
対談のテレビ画面で、山本アナウンサーにちょっと視線をそらして照れたポーズをとり、しかし淀みなく明快 に解説されていた著者の姿は、いまは懐かしいものとなりました。
連載「落語学事典」は、その日の会の、あらかじめ公表されている落語演目にもとづく解説でしたから、実演 を離れた時点で集めてみると、全くのアトランダム、いわば五目の集積と化してしまいます。そこで、ごく大まかに六つの世界に分類して、その中で五十音順に揃えてみました。とはいえ、庶民の生活に根ざした複合的な事 象を単純に色分けし切れるものではなく、多少の無理や重複が生じたことは否めません。
同一項目について複数の稿が存在するものについては、文章が重複しないよう、ただし原文を極力損ねないよう編集して一項にまとめました。そのためにオリジナルの記載より文字数が倍増している場合も多くあります。
また、たとえば『がまの油」について書かれた「口上難解語句」の項は、当日の公演を離れてみると、何についての語句のことかわからなくなりますので、「がまの油口上―難解語釈」と項目名を修正しました。
そのほか、「辞典」にまとめるにあたって、利便性の観点から小さな修正、変更を施した箇所がありますが、 原文そのものを極力そのまま生かしたつもりです。
また、落語に精通した読者には無用のものですが、これから精通の道をたどる読者のためにと、巻末に拙文 「主要演目掌解題」を掲載しております。噺の片鱗をチラリと見せるのが精一杯の、廓噺風に言えば「三日月解 題」にしかすぎませんし、全項目の演目には、とても手が届きませんでした。
また、たとえば『酢豆腐」のような普及演目であっても、著者執筆期間に落語研究会で口演がなかった演目は 外しております。
生前、著者が「落語掌事典」を一巻にまとめる意図があったかどうかは確かめるすべがありませんし、また、 かりにその意図があったとすれば、もっとちがったかたちを想定されていたのではないか、とも思われます。
こうした仕上がりになったことを、泉下の著者がどのように思われるか、編者としては冷汗ものではあります が、それでも著者の該博な江戸知識と落語へのあたたかいまなざしがひとつの結晶を見たことに、僭越ながら、 やすらぎに似た思いを感じております。
ここで、本辞典の辞典的価値については責任をと締め括ったのでは、「大工調べ」の与太郎ではあるまい し、とんだ著者の猿真似になってしまうことでしょう。
京須惜充

榎本 滋民 (著), 京須 偕充 (編集)
出版社 : KADOKAWA (2017/8/25)、出典:出版社HP

凡例

一、項目は六つのジャンルに分類、その中で五十音順に配列した。
一、項目に関連する落語演目については、それぞれの項目名の下に*をつけて記した。
一、参照項目については、各項の最終行に示した。
一、巻末に全項目の五十音順索引・演目別索引を付した。

一 時・所・風物

主要項目

時・所・風物
愛宕山/丑三ツ時
江戸の花見/近江八景
福籠/祇園祭
蔵前/麹町
三十石船/四宿
品川宿/庄屋・名主
人力車/鈴ヶ森
隅田川の渡し/住吉
高砂/宝船
茶店/ 佃島
十日戎/土用
乗合船/旅籠
備前焼/本所の七不思議
宮戸川/向島
屋根船/數入り

榎本 滋民 (著), 京須 偕充 (編集)
出版社 : KADOKAWA (2017/8/25)、出典:出版社HP

落語 演目・用語事典

落語の知識を深める

落語についての詳しい内容から、背景、系譜まで学ぶことのできる事典です。本書は、演目から落語を調べる演目辞典、落語に出てくる言葉を調べる用語辞典、思いついた言葉から落語が引けるキーワード索引で構成されています。

稲田 和浩 (編集)
出版社 : 日外アソシエーツ (2021/1/22)、出典:出版社HP

目次

解説
 落語の歴史
 寄席とは
 江戸と上方
演目事典
落語・寄席用語
用語事典
キーワード索引

稲田 和浩 (編集)
出版社 : 日外アソシエーツ (2021/1/22)、出典:出版社HP

21世紀落語史~すべては志ん朝の死から始まった~

落語界の教科書

21世紀早々当代随一の人気を誇る古今亭志ん朝の早すぎる死によって、落語界を大激震が襲いました。しかしこれが奇跡的に、落語ブームを巻き起こします。悲劇をどのように乗り越えたのか、現在までの落語史を学ぶことができます。

広瀬和生 (著)
出版社 : 光文社 (2020/1/15)、出典:出版社HP

21世紀落語史~すべては志ん朝の死から始まった~

はじめに

「落語ブーム」って、ホント?
数年前から、マスコミなどで「落語ブーム」と言われることが増えた。 本当にブームならば、テレビで毎日のように落語が放送され、落語会は1000人規模の会場で連日各地で行 なわれて超満員、誰もが何人もの落語家の名を得意演目と共に挙げることが出来る、という状況でなければおかしい。あの漫才ブームのときに、日本中がツービートやB&B、紳助・竜介、ザ・ぼんちのネタを熟知していたように。
だが実際には、「落語」という芸能に日常的に親しんでいる人口は極めて少ない。一般人が知っている落語家と言えばまず『笑点」メンバーと 春風亭小朝、笑 福亭鶴瓶、桂 文枝あたり。もちろん日本一の観客動員数を誇る立川志の輔の知名度は抜群だが、それは必ずしも『祖徠豆腐」や『百年目」 を得意とする落語家としてではなく、一般的には『ガッテン!」の司会者としてだろう。情報バラエティでの辛口コメンテーターからテレビ タレントとして大ブレイクした 立川志らくにしても、彼の落語を聴いたことがある人がどれだけいるだろうか。 そもそも、なぜマスコミは「落語ブーム」と言うのか。 それは、いまだに落語を「年寄りのための古臭い娯楽」もしくは「歌舞伎や能狂言みたいな古典芸能」と思っているマスコミ人が多いからだ。
今のこの程度の状態を「落語ブーム」と騒ぐ人は大抵、落語をほとんど知らない。だから、若者が渋谷の落語 会に詰めかけていると聞くと驚く。「落語なんて古臭いモノが若者にウケてる? ブームか!」と思うわけだ。
言ってしまえば単なる無知。勉強不足なのである。実際、「落語ブームだから」と出演や執筆をオファーしてく る人たちの「勉強不足」には驚かされることが多い。
ただ、ここでハタと気づくことがある。
「勉強不足」という言葉だ。
これだけマスコミが「落語ブーム」と騒ぐと、「それならちょっと聴いてみようかな」と思う人は出てくる。 でも、そういう人たちの少なからぬ割合が、ある種の「ハードルの高さ」を感じてしまうらしい。 「ちゃんと勉強してから寄席に行かないと恥ずかしい」もしくは「勉強しないと落語がわからない」、みたい落語というのは、演者が同時代の観客に語りかける大衆芸能だ。だから本来、落語を楽しむために「落語とは何か」を勉強する必要はまったくない。
「勉強しなきゃ楽しめない大衆芸能」なんてあるわけがない。
ただし、演者と観客側の共通認識がないと楽しめない、ということはあるだろう。それは漫才やコントでも顕 著だ。あるあるネタとか、パロディとか。「〇〇かよ!」というツッコミで笑えるか笑えないかは、まさにその「共通認識」の問題だ。
そう考えると落語は、初心者にとって演者との共通認識を持つまでのハードルが若干高いかもしれない、という気もする。
そして実は、落語の愉しみのひとつに「特殊な認識の共有」という要素はある。立川談志は「落語には、落語 通にとって堪らないフレーズがキラ星のごとくある。わからない奴にはわからない」と言っていた。この「落語 はフレーズだ」という感覚を共有できるかどうかが「落語通」かどうかの境目になる、というのだ。
その感覚はよくわかる。談志は文楽、志ん生、三木助といった昭和の名人たちを引き合いに出し、「家元(= 談志)にもそれがある」と言っていたが、今の優れた演者たちにも「堪らないフレーズ」がある。落語ファン は、たとえ意識せずとも必ずその感覚を共有しているはずだ。 談志は晩年、落語の将来を案じていた。 落語は大衆芸能だ。だから、観客と価値観を共有することが前提となる。では、どちら側から歩み寄るのか。
談志にとっては「落語の世界に観客が引き寄せられる」ことが大事だった。すると、そこにハードルを感じる大 衆も出てくる。
現代の大衆に合わせるためにそのハードルをまったくなくしてしまうと、それはもはや落語ではなくなってし まう。晩年の談志の「落語は江戸の風が吹く中で演じる芸」といった発言の真意はそこに集約される。五代目柳 家小さんは「落語はわかる奴のためのものだ。大衆に合わせるとダメになる」と言っていたと聞くが、それも同 じことだ。
とは言うものの、落語におけるハードルはそんなに高くない。わりと簡単に越えられる。その「意外に簡単に ハードルを越えられた」ことに喜びを見出す若者が増えたこと、それがすなわち今の「落語ブーム」の正体なのだろう。
今、この程度の状況で「落語ブーム」と言われるのは、かつて落語という芸能が、一般的にはほとんど忘れ去られたかのような時期があったことの裏返しだ。
昭和30年代に黄金時代を迎えた落語界は、昭和が終わり平成に入ると、どんどん活気を失っていった。20世紀 末の10年間は史上最も落語が低迷した時代と言っていいだろう。
そして6世紀最初の年、当代随一の人気と実力を誇る古今亭志ん朝が、8歳の若さで亡くなってしまう。 三遊亭圓楽(五代目)、立川談志といった有力な旗 頭が縁を切った寄席の保守本流の世界を、その圧倒的な存 在感で牽引する志ん朝の早すぎる死は、落語界に決定的なダメージを与えた……はずだった。
しかし、そこから落語は奇跡的に盛り返した。落語界が一丸となって「志ん朝の死」という悲劇を乗り越える 中で「落語ブーム」が訪れ、それが今の活況に結びついている。 いわば、「すべては志ん朝の死から始まった」のだ。 本書は、「志ん朝の死」で幕を開けた1世紀の落語界の現在に至るまでの出来事を、落語ファンとして客席に 足を運び続けた立場から振り返り、落語史の折り返し地点とも言える「激動の時代」の記録を後世に伝えるため に書かれたものである。

広瀬和生 (著)
出版社 : 光文社 (2020/1/15)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第一章 すべては志ん朝の死から始まった
志ん朝の死がもたらしたもの
「充実した中堅層」と「イキのいい若手」
落語界の新たな顔・柳家花緑
落語界における「危機意識の芽生え」
重石が取れて動きやすくなった
古今亭右朝の死

第二章 6世紀の「談志全盛期」の始まり
「志ん朝の分も頑張るか」
幻の「談志・志ん朝二人会」
「落語をやめられっこない」
落語を超えた落語

第三章 小朝が動いた 2003年「六人の会」旗揚げ
目玉は鶴瓶――小朝の「六人の会」
「六人の会」結成と「東西落語研鑽会」のスタート
「大銀座落語祭」
頼りになるのは保存された紙の資料
「落語ブーム」と言われ始めた年 「大銀座落語祭2005」
「落語ブームはこれからだ!!」―大銀座落語祭2006」
実は落語以外の要素が多かったー 「大銀座落語祭2007」
5万5000人を動員―― 「大銀座落語祭2008」

第四章 昇太も動いた|2004年「SWA」旗揚げ
「SWA(創作話芸アソシエーション)」の結成
新作落語の地位向上を果たしたSWA
2004年と2005年のSWA
2006~2008年のSWA
SWAは「青春の落語」だった2009~2011年
第五章2005年の落語ブーム――立川談春・タイガー&ドラゴン
タイガー&ドラゴン
林家こぶ平の九代目林家正蔵襲名
画期的だった「ホリイのずんずん調査」
「ずんずん調査 」の落語家順位
談春の飛躍
最もチケットを取れない落語家
「談春七夜」
「談春のセイシュン」ー『赤めだか」の大ヒット

第六章 「旬の演者」を紹介するガイドブックがなぜない?――市馬・喜多八・文左衛門・立川流四天王
落語業界をとりまくジャーナリズムの貧弱さ
「旬の演者」を紹介するガイドブックがなぜない?
柳亭市馬という逸材の「発見」
あまりにも残念な柳家喜多八の早逝
文蔵を襲名した橘家文左衛門
「立川流四天王」
「落語の本は志ん生や志ん朝じゃないと売れない」
落語は「演目」ではなく「演者」を聴きに行く芸能
第七章若手の大躍進――喬太郎・白酒・一之輔・こしら
喬太郎の心の叫び
さん喬・喬太郎、感動の「公開小言」
「羊の皮を被った狼のような古典落語」桃月庵白酒
スーパー二ツ目、一之輔 一之輔、5人抜きの大抜擢
「一之輔追っかけの決死隊」
「こしらってこんなに面白かったっけ?」
「こしら・一之輔ほぼ月刊ニッポンの話芸」のスタート
志らく一門会の「真打トライアル」
「ふざけるにもほどがあるが、ふざけないよりまし」

第八章 談志が死んだ
東日本大震災「今日は中止です。来たのは広瀬さんだけです」
「談志の晩年」の始まり
「談志体調不良のため出演順に変更があります」
高座から遠ざかる談志
談志の復活
談志、最後の「ひとり会」
談志、最後の落語。そして、死

第九章 圓楽党と「七代目圓生問題」
五代目三遊亭圓楽の死と「七代目圓生問題」
「七代目圓生問題」はなぜこじれたのか?
五代目圓楽一門と、それ以外の圓生一門との確執
六代目圓楽襲名
圓楽党の逸材・兼好、萬橘

第十章 柳家小三治が小さんを継がなかった理由
志ん朝とは異なるタイプの「噺の達人」柳家小三治
「お客さんはつい笑ってしまうものなんだ」
小三治が六代目小さんを継がなかった理由
小三治の「伝説の高座」
小三治、落語協会会長就任

第十一章 「二ッ目ブーム」の源流白酒(喜助)・三
二ツ目だけの落語会に客が来る
「二ツ目ブーム」ではなく「落語ファン層の裾野の広がり」
真打昇進で一気に花開いた白酒(宮助)
二ツ目時代から上手かった柳家三三
三三に対する小三治の「公開小言」
「人間として人間を語れ」
高座で演じる三三は消えてしまっていい
「正統派のホープ」の「豚次伝」

第十二章 プチ落語ブームー『昭和元禄落語心中」・シブラク・成金
2016年以降の「プチ落語ブーム」はなぜ生まれた?
「自分にとって面白い」を求めて
「プチ落語ブーム」を支えた二ツ目の活躍
「プチ落語ブーム」前後の動き
「一段落した」落語界に起きた新潮流
『昭和元禄落語心中」と神保町「らくごカフェ」
「シブラク」が成功した理由
キュレーターという存在
「成金」のブレイク
女性落語家の活躍
古典を演ってもちゃんと聴かせる腕がある
人気落語家にとって『笑点」に出ることはマイナス?

第十三章 その後の立川流
談志亡き後の立川流 真打トライアルで「全員合格」
立川談幸の移籍
「談志の孫弟子」世代が熱い
「マゴデシ寄席」と「立川流が好きっ!」

終章 落語界の未来予想図
「古典落語」と「昭和の名人」
「作品派」「ポンチ絵派」そして「己派」 失われた連続性
江戸の風吹くエンターテインメント
リズムとメロディ
伝統をバックに現代を入れて

カバー写真 相澤琢磨

広瀬和生 (著)
出版社 : 光文社 (2020/1/15)、出典:出版社HP

決定版 心をそだてる はじめての落語101

はじめての落語にぴったり

人間は誰でも、なにかしらの短所や欠点を持っているものです。“落語”には、そんな人間の不完全さをあたたかく笑い飛ばして楽しく賢く生きていくための知恵がたくさん詰まっています。子供にもおすすめの落語入門書で、読んでいるだけでも名人になった気分になる楽しい1冊です。

石崎 洋司 (著), 高田 文夫 (監修, 監修), 講談社 (編集)
出版社 : 講談社 (2008/10/31)、出典:出版社HP

目次

おなじみの話
長屋のゆかいな人たち
みんなの人気者、与太郎
ごぞんじ八つぁん、熊さん、ご隠居さん
おかしな親子
おもしろ夫婦
たのしい動物の話
のんきな殿さま、さむらい
まぬけなどろぼう
いろんな商売
ふしぎな話、こわーい話
ことばあそび
上方の話
とっておきの話

石崎 洋司 (著), 高田 文夫 (監修, 監修), 講談社 (編集)
出版社 : 講談社 (2008/10/31)、出典:出版社HP

新版 落語の名作 あらすじ100 (面白くてよくわかる学校で教えない教科書

人気演目を網羅

「文七元結」「芝浜」「時そば」「居残り佐平次」「寿限無」をはじめ、寄席、落語会で演じられる古典落語の名作100席をあらすじで紹介していきます。人気の定番噺から大根田まで、ジャンル別に厳選・収録されています。時代を越えて愛され続けてきた落語の魅力がよくわかる1冊です。

青木 伸広 (著), 十一代目 金原亭馬生 (監修)
出版社 : 日本文芸社; 新版 (2017/11/18)、出典:出版社HP

新版 落語の名作 あらすじ100

はじめに

近年、各種メディアで取り上げられ、寄席も大入りが続くなど、落語を取り巻く環境は、良い意味で大きく変 化しました。入門者も年々増え続け、東都に寄席小屋が四百軒あった黄金期を凌駕しております。氷河期にも例 えられた冬の時代を経て、輝きを取り戻した一因は、この混沌とした世情にあるのかもしれません。
落語は、ほとんどが人間の失敗を描いています。大酒飲み、博打好き、乱暴者、お調子者など、登場人物もいわゆるダメ人間ばかりです。
しかし、落語の国の住人たちは、このどうにもならない日々を、笑い飛ばして明るく生きています。胸躍るヒーロー物語はありませんが、「頑張らなくていいんだよ」「楽しみはふとした日常にあるんだよ」と教えてくれます。
本書は先に出版した演目本を再編集、西炯子先生が素敵な表紙絵を描いてくださいました。落語会でよく高座にかかる演目より、特に人気のある百編を厳選しております。どうぞ、リラックスしてお楽しみください。
2017年1月
らくごカフェ主宰 青木伸広

ごあいさつ

落語ブームという言葉がございます。
戦後、綺羅星のごとく輝いていた名人上手が巻き起こした全国的な落語人気の沸騰から、近年のテレビやマル チメディアを巻き込んだブームまで、多様に形を変えながら常に時代とともに歩んでいる落語。数ある古典芸能 のなかでも、これほど皆様の身近にあって親しまれているものは、そう多くはないでしょう。
では、なぜ落語がそれほどまでに愛されるのか。それは、古典という枠のなかにあっても、落語の持つテーマ がいまだに色あせず、決して古びていないからにほかなりません。
活気あふれる市井の人々の生活、ときには争いながらもしっかりと寄り添う夫婦愛、世代を超えてつながりあう人情、武士や職人の凛とした真っ直ぐな生き様、そして時の権力者への反骨精神……。
それを「笑い」や「涙」という極上のエッセンスで包み込んだ落語。そうです、落語が描く情景は、日本人の 生活そのものであり、八っつあんや熊さん、与太郎、ご隠居さんといった登場人物は我々の分身なのです。
今、ここに百編のストーリーがあります。そのどれもが、古き良き時代から現代まで変わらずに愛され続けて いる珠玉の物語です。
古典といっても決して敷居が高いことはございません。どうぞ皆様、安心して落語の持つ暖かさに触れ、ユー モアに酔いしれ、懐かしい時代に思いを馳せ、ご自身の「今」に重ね合わせてください。
本書がきっかけで少しでも落語に興味を持っていただけたなら、そして従来からの落語ファンの皆様が鑑賞の 一助として楽しんでくだすったなら、監修者として無上の喜びでございます。
十一代目 金原亭馬生

青木 伸広 (著), 十一代目 金原亭馬生 (監修)
出版社 : 日本文芸社; 新版 (2017/11/18)、出典:出版社HP

目次

はじめに 青木伸広
ごあいさつ 十一代目金原亭馬生

第一章 これだけは押さえておきたい超基本ネタ
牛ほめ
金明竹
たらちね
やかん
道灌
寿限無
饅頭怖い
時そば
子ほめ
道具屋

第二章 とにかく大爆笑~抱腹絶倒もの
粗忽の使者
百川
反对伸
転失気
強情灸
艦内に
無精床
堀の内
代書屋
浮世床
二十四孝
蜘蛛駕館
宗論
つぼ算
小言幸兵衛

第三章 動物と子どもにはかなわない
ねずみ
桃太郎
真館
初天神
たぬき
素人鰻
猫と金魚

第四章 ほろりと泣ける人情噺
子別れ
文七元結
唐茄子屋政談
芝浜
柳田角之進
ねずみ穴
中村仲蔵

第五章 ヒーロー&ヒロイン登場
居残り佐平次
お神酒徳利
抜け雀
蒟蒻問答
たがや
三方一両損
お血脈
お菊の皿

第六章 近くて遠きは男女の仲
お見立て
幾代謝
厩火事
青菜
鮑のし
明鳥
細入れ
お直し
崇徳院
三枚起請
川心中
付き

第七章 一度は聴きたい大ネタ
井戸の茶碗
へっつい幽霊
大工調べ
黄金餅
宿屋の富
宿屋の仇討ち
火焔太鼓
寝床

第八章 愛すべきダメ人間たち
湯屋番
らくだ
親子酒
禁酒番屋
試し酒
船徳
幇間腹
家見舞い
野ざらし
粗忽長屋
長短
粗忽の針
六尺棒

第九章 落語の風情にどっぷりひたる
花見の仇討
酢豆腐
あくび指南
目黒のさんま
化物使い
長屋の花見
あたま山
猫の血
だくだく
うどん屋

名人列伝1
名人列伝2
名人列伝3
名人列伝4
名人列伝5
名人列伝6
名人列伝7
名人列伝8

落語&寄席用語辞典
落語 ひとくち歴史案内

第一章
これだけは押さえておきたい
超基本ネタ

青木 伸広 (著), 十一代目 金原亭馬生 (監修)
出版社 : 日本文芸社; 新版 (2017/11/18)、出典:出版社HP