【最新】チョコレートを学ぶおすすめ本! 科学的、歴史的にみるチョコレート

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チョコレートをより深く知ろう!

チョコレートがカカオからできたものであるというのは広く認識されていますが、そのチョコレートをもっと科学的、歴史的に知ることができる書籍を紹介します。今まで食べているチョコレートに対してもっと別の視点から見ることができるかもしれません。

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出典:出版社HP

 

カカオとチョコレートのサイエンス・ロマン―神の食べ物の不思議

チョコレートが美味しい理由

本書の特徴として、「チョコレートはなぜ美味しいと感じるのか」を科学的に解説しているという点が挙げられます。仕組みを理解することで、普段何気なく食べているチョコレートも一層美味しく感じられるかもしれません。

佐藤 清隆 (著), 古谷野 哲夫 (著)
出版社: 幸書房 (2011/10/1)、出典:出版社HP

はじめに

「遠い昔、山の向こうからカカオがやってきた。」

チョコレートの故郷である中南米地方。その中のメキシコ・チャパス州、ソコヌスコの農家の主人ホルへさんは、こう言いながら、はるか昔と同じように、カカオとトウモロコシを井戸水と混ぜて、冷たい飲みものをつくってくれた。その山のはるか向こうには、パナマ地峡、コロンビア、ベネズエラを越えて、カカオの原産地であるアマゾン川上流域がある。

アフリカを発した人類が、数万年の旅を終えてメソアメリカに到達したのは、約一万二千年前である。熱帯雨林に住み着いた人々は、やがてそこに育つカカオの木の実(カカオポッドという)を食べ始めた。最初はポッドの中の白いパルプだけを食べていたが、まもなくカカオ豆も食べだした。

それから、カカオ豆の食べ方はいろいろに変化した。何千年もの間は、冷たくして飲んでいた。ところが、今から約五○○年くらい前にヨーロッパにカカオが入ると、甘くて香ばしい温かい飲みものとなり、約一六○年前に現在のような、食べるチョコレートが生まれた。よく考えてみると、これは不思議な話である。なぜならば、これだけの長い時間をかけて食べ方を大きく変えてきた食品は、チョコレート以外には見当たらないからである。

他にも、たくさん不思議なことがある。たとえば、カカオの木の学名は「神の食べ物」(ギリシャ語で「デオブロマ」)であるが、なぜこのような学名が与えられたのであろうか?また、チョコレートの味が生まれる仕組みも変わっている。生のカカオ豆が渋くて食べられないので、ローストしなければならないのはコーヒーと同じである。しかしコーヒーと違って、カカオ豆だけを取り出してローストしても、チョコレートの味は生まれない。

では、どのようにしてあの味が生まれるのであろうか?実はこれらの不思議には、カカオからチョコレートになるまでに繰り広げられる、自然と人間のさまざまな営みが深くかかわっているのである。熱帯雨林で生長するカカオの木と、それを支える気温、湿気、土壌、熱帯樹林、鳥、虫などの多様な自然。高温高湿の熱帯地方でカカオを生産する人々や、現代のチョコレートに育てた多くの職人や科学者・技術者たち。とりわけ、カカオ豆を食べられるようにした古代メソアメリカの人々の果たした役割は、きわめて大きい。

本書では、「神の食べ物」であるカカオがチョコレートになるまでの長い歴史を振り返りながら、その中で重要な役割を果たしてきたさまざまなサイエンスに光を当てたい。カカオとチョコレートの不思議を理解する一助になればと願いながら、本書を古代メソアメリカの人々に捧げたい。

2011年9月
佐藤清隆 古谷野哲夫

佐藤 清隆 (著), 古谷野 哲夫 (著)
出版社: 幸書房 (2011/10/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

序章 お菓子の王様
華やかなプレミアムチョコレートの世界/チョコレートの種類/チョコレートの作り方/チョコレートの故郷ではチョコレートが作れない!/飲むチョコレートから始まった/カカオとの遭遇/サイエンスのロマン

第一章 チョコレートの故郷の風景
1.1 カカオ豆の買付所
1.2 カカオの木
1.3 豆の収穫
1.4 発酵と乾燥

第二章 カカオ豆の発芽
2.1 カカオの生涯
2.2 アオギリ科とカカオの木
2.3 発芽と生長
2.4 アグロフォレストリー

第三章 カカオの花の受粉とポッドの生育
3.1 受粉
幹生花/カカオの花の構造/コスタリカのカカオの花の受粉
3.2 カカオの病害

第四章 カカオ豆の発酵と乾燥 チョコレートは発酵食品
4.1 カカオ酒
4.2 カカオの発酵
発酵とは/日本酒、ワイン、カカオの発酵の比較/カカオ豆の発酵の目的と特徴/さまざまなカカオ発酵の方法/カカオ発酵のダイナミクス
4.3 カカオ豆の乾燥
4.4 「チョコレートの南北問題」

第五章 カカオ豆の焙炒と香りの誕生
5.1 食べ物のおいしさと匂い
5.2 匂いの感じ方
5.3 カカオ豆の焙炒
5.4 香りの前駆体
5.5 チョコレートの香り成分
5.6 チョコレートの香りの生理効果

第六章 メソアメリカの人々がカカオを飲む
6.1 人類がメソアメリカへ到達
6.2 メソアメリカー
6.3 トウモロコシ、そしてメタテとマノ
6.4 メソアメリカにおけるカカオの飲み方
古代の人々/現代の人々

第七章 ヨーロッパ人がカカオと遭遇
7.1 スペインとコロンブス
イスラムからの解放と統一スペインの誕生/イスラム世界/コロンプスとカカオの「発見」/世界の分割
7.2 コロンブスはどこの生まれか?
「イタリア人」説と「カタルニア人」説/カタルニアとは?/「カタルニア人」説の根拠

第八章 メソアメリカから世界へ
8.1 スペインによるメソアメリカの征服
8.2 カカオが世界へ
8.3 クリオロ・フォラステロ・トリニタリオ
カカオ豆の種類/クリオロを求めて再びメソアメリカへ/先住民の呪い(?)

第九章 カカオがヨーロッパで華麗に変身
9.1 スペインにおけるカカオ
9.2 カカオの変身は修道院から
9.3 カカオの華麗な変身を支えたバニラと砂糖
バニラ/砂糖
9.4 欧州の宮廷へ
9.5 カカオのライバル登場

第十章 「飲むココア」と「食べるチョコレート」の誕生
10.1 「チョコレートの父」の国
10.2 オランダとカカオ貿易
10.3 ファン・ハウトゥンの発明
ココアパウダーの製造/アルカリ化
10.4 ウェースプ博物館
10.5 ついにできた「食べるチョコレート」

第十一章 現代のチョコレートの完成
11.1 スイスとチョコレート
チョコレート好きのスイス人/多くの発明家たち
11. 2 ミルクチョコレートの誕生
水と油を混ぜるには?/濃縮ミルクの利用
11.3 コンチングの発明
なめらかな舌触り/焙炒とコンチングは最高機密/チョコレート製造における粘性の役割
11.4 テンパリング
微妙な温度調整/テンパングの仕組み

第十二章 チョコレートの未来
12.1 チョコレートへの誤解を解く
虫歯になる?/鼻血が出る?/太る?/にきびができる?
12.2 チョコレートと健康
動脈硬化の予防/抗ストレス効果/ガン予防/その他
12.3 チョコレートのおいしさは何で決まるか?
口どけ
12.4 広がるチョコレートの世界
スイーツ・飲み物/高齢者用食品/カカオ入りの料理
12.5 カカオの木の改良と遺伝子工学
12.6 日本でカカオを栽培できるか?
12.7 絵画や物語に出てくるカカオ、チョコレート、ショコラ
12.8 チョコレート石鹸

終わりに

カカオとチョコレートに関連する年表
参考文献

佐藤 清隆 (著), 古谷野 哲夫 (著)
出版社: 幸書房 (2011/10/1)、出典:出版社HP

序章 お菓子の王様

チョコレートは、「お菓子の王様」である。室温では硬くてパリッと割れるが、口に入れるとスーッと融け、口いっぱいに甘さと苦さとまろやかな香りが広がって、人々を魅了する。世界中のどこにいっても、十人中九人は「チョコレートが好き」と答える。残る一人は、チョコレートにまつわる迷信にとらわれて「食わず嫌い」になっているに違いない。

その迷信とは、「チョコレートを食べると太る」、「にきびができる」、「虫歯になる」、「鼻血が出る」などである。いずれも根拠はないが、頭の隅に引っかかる。それでも、いったん口に入れればそれを忘れるほど、チョコレートのおいしさは人々をひきつける。小売金額で比較すると、日本のお菓子の中でチョコレートは、和・洋生菓子に次いで三番目の売り上げであるにもかかわらず、チョコレートが「お菓子の王様」と呼ばれるのは、それが世界中の人々に愛されているからである。

日本のお菓子の年間売上高(2009年度)

綿菓子 2550億円
チョコレート 4180億円
チューインガム 1580億円
せんべい 760億円
ビスケット 3440億円
米菓 3280億円
和生菓子 5040億円
洋生菓子 4610億円
スナック菓子 4030億円

 

国際的に比較すると、日本のチョコレートの消費量は大変少ない。日本人の、一人当たりのチョコレートの年間消費量は、国際菓子協会/欧州製菓協会の調べでは2011年度は2.2kgで、最近十年間でほとんど変わらない。

ところが海外では、ドイツが11.6kgに、次いでスイスが10.6kg、イギリスが9.8kg、デンマークが8.2kgと続き、他にはフランスが6.6kgに、ベルギー5.7kgなどである。ヨーロッパの南にあるスペインやイタリアでは消費量が少ないが、それでも3.2kg、4.1kgである。一年に11kgというと、一日平均で30kg以上となる。大きな生チョコが一つ9gほどだから、ドイツの人々は、それを毎日、3つ食べていることになる。

・華やかなプレミアムチョコレートの世界
銀座や丸の内の高級チョコレート店では、一粒が数百円もするプレミアムチョコレートが人気を集めている。高級デパートで毎年開かれる展示会では、ヨーロッパからわざわざ自分の店を休んで来日するショコラティエの店に、長い行列ができる。

チョコレートは室温で固まるので、それを利用した芸術作品ができる。図0・1は、二〇一一年にデパートの伊勢丹新宿店で開かれたサロン・デュ・ショコラで展示された、水野直己氏のオブジェである。水野氏は「ワールドチョコレートマスターズ2007(パリ)」で世界一に輝いたパティシエであるが、ボールも扇も蝶々も、すべてがチョコレートでできている。

高級チョコレートのブームは、日本に限らない。たとえば「世界一のチョコレートの座」をめぐって、ベルギーとスイスがしのぎを削っている。ベルギーが国家プロジェクトとしてゲント大学をチョコレート研究の拠点に指定したかと思えば、スイスの有名なチョコレートメーカーは、プレミアムチョコレートの研究開発センターを立ち上げている。いずれも、高級チョコレートの消費がもたらす莫大な経済効果を見据えているのである。

・チョコレートの種類
チョコレートといっても、さまざまな種類がある。板状のものや、ナッツを中に含んだボール状のチョコレート、果汁やリキュールを含んだ柔らかいチョコレート、クッキーの上にのったものもある。スイスの小さな店で見たチョコレートは、上質のハムのような仕上がりにしてあった.。

このように、「形」でチョコレートを区分する方法もあるが、基本となるチョコレートの種類は、その中に含まれる成分によって分類される。

スイートチョコレート(ダークチョコレートとも言う)は、褐色のカカオマス、室温で固まる油脂(無色)であるココアバター、そして砂糖から成っている。カカオマスとは、焙炒したカカオ豆の胚乳部を取り出してすり潰したものである。

ミルクチョコレートは、それに粉乳を加える。一方、ホワイトチョコレートにはカカオマスが含まれない。また生チョコ(ガナッシュ)は、スイートチョコレートと生クリームを混ぜて融かして固めて作るが、10%以上の水分が含まれる。

最近、糖分を控えたチョコレートが人気を集めているが、糖分の量を数字で表しており、100からその数字を引いた分だけ糖分が入っている。たとえば、「カカオ99%」というチョコレートでは糖分はほとんど含まれておらず、「カカオ78%」では、約22%が糖分である。何も書かれていない場合は、約45%が糖分である。

・チョコレートの作り方
チョコレートの出発原料は、カカオ豆である。後で詳しく述べるので、ここでは簡単に説明する。

ココアもチョコレートも、カカオ豆を発酵させて乾燥させたあと、焙炒する。その後、チョコレートの場合は、カカオ豆を融かして固めて食べる。ココアの場合は、焙炒したカカオ豆から油脂を抜いて粉末にしたものに、お湯やミルクを入れて分散して飲む。

この一連の流れの中で、乾燥まではアフリカ、東南アジア、中南米などの熱帯雨林地方で行われる。すなわち、カカオ農園でカカオの木を育て、花を咲かせてカカオ豆を作り、それを取り出して発酵させ、乾燥する。その熱帯雨林地方が、「チョコレートの故郷」である。乾燥されたカカオ豆は、船便で温帯や寒帯地方にあるチョコレート工場に運ばれて焙炒され、ココアとチョコレートができる。

温帯の日本にいると、チョコレート工場などでカカオ豆からチョコレートを作る過程は身近な感じがする。しかし、熱帯雨林でカカオがどのように育ち、カカオ豆が工場に運ばれてくるまでどのような作業が行われているかについては、ほとんど知られていない。しかし、おいしいチョコレートができるためには、カカオ豆が船積みされるまでのプロセスが極めて重要である。

最近は、そのことに世界中のチョコレートの専門家が注目している。熱帯雨林でのカカオの栽培から十分に手をかけられることによって、上質のチョコレートが作られるのである。そのことが、これからのチョコレート作りの新しい潮流になると思われる。そこで、本書の前半では、熱帯雨林で行われているカカオの栽培や、豆の発酵について詳しく述べる。

・チョコレートの故郷ではチョコレートが作れない!
「チョコレートの故郷」では、華々しいプレミアムチョコレートの世界とはまったく異なる風景がある。

カカオ豆が栽培される地域は、高温高湿の熱帯雨林地方に限られる。もちろんそれには理由があるのだが、チョコレート製造国へ輸出するため、生産地の人々はカカオの木の栽培から、カカオ豆の採集、発酵、乾燥と休みなく働くが、いずれも過酷な労働である。

ところが皮肉なことに、カカオの生産地では食べるチョコレートは作れない。なぜならば、チョコレートがパリッと割れるのは、カカオ豆の中のココアバターが固まるためであるが、熱帯雨林地方では気温が高いために、ココアバターが融けてしまうからである。

「チョコレートの故郷ではチョコレートが作れない」

このパラドックスを解く鍵は、カカオ豆にある。カカオ豆は、カカオの木の花が受粉して、木の実である「カカオポッド」が生まれ、それが成熟してポッドの中で大きくなる。その豆がポッドの外に出て発芽し成長し、成木となり、花を咲かせて、またカカオポッドが育つ。

そのようなカカオの木の生涯の中で、最初にカカオ豆が発芽して葉を繁らせて、光合成で自立できるまでの主な栄養が、豆の主成分であるココアバターである。もし、温度が下がってココアバターが固まれば、栄養素に分解できないので豆は発芽できない。つまり、カカオの木は、発生したその瞬間からココアバターを融かさなければならないのである。

したがって、カカオ豆の生産地で「食べるチョコレート」を作ることはできないのである。ココアバターを固めて「食べるチョコレート」にしたのは、カカオが涼しいヨーロッパに持ち込まれてからである。

・飲むチョコレートから始まった
チョコレートの故郷では、人々は昔から焙炒したカカオ豆とトウモロコシを磨砕して混ぜ、砂糖も入れないで冷たい水に溶かして飲んでいた。その飲み方は、何千年も昔から現在まで続いている。

メキシコ南部のチャパス州ソコヌスコは、その昔、アステカ時代に皇帝に捧げるカカオの栽培で大変に栄えた。そこに住む農家の主人によれば、塩をまぶした緑トウガラシをなめながら、皆少したトウモロコシとカカオを冷たい水に混ぜた「パツォル」と呼ぶドリンクをコップ二杯飲めば、朝から昼まで仕事ができるという(口絵写真6)。彼は「遠い昔、山の向こうからカカオがやってきた。それ以来、ずっとこうして飲んでいる」と語った。

・カカオとの遭遇
そもそもカカオと動物の出会いまでさかのぼれば、カカオ豆の周りにへばりついている甘酸っぱいカカオパルプを食べることから始まった。サルやリスなどの動物は、パルプに十数%含まれている糖分を求めたのである。

しかし、生のカカオ豆は強烈に渋くて苦く、とても食べられない。動物はパルプを食べたあとで、豆を捨てていたのである。一方、カカオの木からすれば、甘いパルプで動物を引き寄せ、豆をまき散らすことによって、自らの生存条件を有利に展開した。人類も動物と同じように、最初はパルプを食べ、それをお酒にしていた。ところがあるとき、何らかの偶然か、あるいは意図的に、発酵したカカオ豆を焙炒することを知った。そうすると、生の豆の強烈な渋みが和らいで、芳しい香りが生まれることがわかって、飲み始めた。そして、その飲み物が滋養に満ちていることもわかった。

それから人々は、カカオ飲料を「不老長寿の飲み物」として大事に育てた。五百年前にカカオはヨーロッパに渡り、人々を魅了した。1753年にスウェーデンの植物学者リンネは、カカオの学名を「テオブロマ(ギリシャ語で「神の食べ物」)」と名づけた。その後に数々の発明を経て、現在の「食べるチョコレート」と「飲むココア」となった。

・サイエンスのロマン
アフリカを発した人類が、数万年の旅を経て「チョコレートの故郷」に到達してカカオに初めて接してから、チョコレートを食べるまでの数千年を越える歴史を振り返ると、偶然と必然の織り成すさまざまなサイエンス・ストーリーに満ちていることがわかる。すなわち、カカオからチョコレートが生まれた歴史に、生物学はもちろん、脂質科学、食品化学、食品物理学、食品栄養学、食品工学などのサイエンスや、ヒューマンなドラマが顔をのぞかせる。

本書では、そのようなサイエンスに彩られたロマンをたどりたい。まずは、「チョコレートの故郷」に足を踏み入れてみよう。

佐藤 清隆 (著), 古谷野 哲夫 (著)
出版社: 幸書房 (2011/10/1)、出典:出版社HP

チョコレートの真実 [DIPシリーズ]

チョコレートの背景

本書の前半ではチョコレートの歴史について、後半では現在のチョコレート産業が抱える問題点について述べられています。私たちがチョコレートを手軽に食べられる環境の裏で起きている問題について考えるきっかけとなる一冊です。

キャロル・オフ (著), 北村 陽子 (翻訳)
出版社: 英治出版 (2007/8/27)、出典:出版社HP

目次

シニコッソンの子供たちに。
そして彼らについて命をかけて真実を追い求めた、ギー・アンドレ・キーフェルに。

序章 善と悪が交錯する場所

第1章 流血の歴史を経て
オルメカ人の不思議な飲み物
マヤ人が愛した「カカワトル」
カカオに出会ったコロンブス
アステカ帝国のチョコレート王
スペインの遠征軍、カカオの国へ
預言が現実になる
帝国の崩壊

第2章 黄金の液体
カカオと聖職者たち
スペインの宮廷へ
ヨーロッパ経済の新たな牽引車
過酷な奴隷労働の上に
各国に広がるチョコレート熱
啓蒙思想と三角貿易

第3章 チョコレート会社の法廷闘争
バンホーテンのココア革命
板チョコの誕生
天才的なマーケティング戦略
温情資本主義の光と影
勇気あるジャーナリスト
嘘を信じたがる人々
ネビンソン、実態を暴く
企業倫理の挫折

第4章 ハーシーの栄光と挫折
アメリカンドリームの体現者
ミルクチョコレートの誕生
産業界の奇跡
カリブ海地域のカカオ農園
フォレスト・マーズの登場
温情主義から民主主義へ
キスチョコからM&Mへ

第5章 甘くない世界
ガーナのカカオ農園の誕生と崩壊
不可解な国、コートジボワール
フランスとの戦い
アフリカの奇跡
最後の賭け
世銀・IMFがもたらした災厄

第6章 使い捨て
ある外交官の勇気と悲しみ
約束の地で
疑いを持つ理由は何もなかった
女たちの「職業あっせん業」
告発と救出活動

第7章 汚れたチョコレート
「奴隷不使用」ラベル
ハーキン・エンゲル議定書の意味
妥協との戦い
勝利宣言の影で
自分の見たいものだけを見る人々
忘れられていく問題

第8章 チョコレートの兵隊
アフリカン・ドリームの蹉跌
憎悪の連鎖
イボワリテの体現者
落ちていくコートジボワール
影の首謀者

第9章 カカオ集団訴訟
杜撰な国境警備
「結局は、国内問題です」
懐柔と安協
動き続ける産業
「奴隷はいないが、虐待はある」
妥協の代償
責任逃れを許すな

第10章 知りすぎた男
闇の世界を知る男
忽然と消えた死体
激動の半生
知りたがりは覚悟しろ
浮かび上がる疑惑
カカオ産業との関係
「ブルドッグ」、真相に迫る
疑惑の幻影

第11章 盗まれた果実
組織的な搾取
カカオ・コネクションの実力者
ニューヨーク・チョコレート工場
表に出せば殺される
アグリビジネスの深い闇
陰謀の渦の中で

第12章 ほろ苦い勝利
時間のゆったり流れる街
マヤ人のカカオ栽培
見せられた夢
グリーン&ブラック
「緑」は売れる
フェアトレード運動の現実

エピローグ 公正を求めて

謝辞

参考文献

*訳注は本文中に[……]として記した。
*通貨については1ユーロ=656CFAフラン(固定)、1ユーロ=162円(二〇〇七年五月末現在)で換算。なお、CFAフラン(セーファーフラン)は西部・中部アフリカの旧フランス植民地の各国で用いられている通貨。

キャロル・オフ (著), 北村 陽子 (翻訳)
出版社: 英治出版 (2007/8/27)、出典:出版社HP

序章 | 善と悪が交錯する場所

夢の中で私は、チョコレートを夢中で頬ばり、チョコレートの中に寝転がります。少しもごつごつしていないのです。むしろ人の肌のように柔らかで、まるで無数の小さな口が小刻みに休みなく動いて、私の体をむさぼっていくようです。このまま優しく食べ尽くされてしまいたい。それはこれまで味わったこともない、誘惑の極致です。
ージョアン・ハリス「ショコラ」

コートジボワール最大の都市アビジャンから延びる幹線道路は、地図には二車線の道路と記されている。しかし市街を離れるとすぐ、車一台やっと通れるほどの幅しかないでこぼこ道になってしまった。絡まった愛や低木が両側から迫り、トンネルのようにうっそうとしている所を通り抜けていく。ここでは雨が絶えない。むっとする霧から激しい雷雨、そしてまた霧へと変わる果てしないサイクル。ジャングルが目の前で生い茂っていくのが見えるようだ。
今回の探検旅行の車を走らせているのは、コフィ・ブノワ。コートジボワール人。沈着冷静な彼に私は絶対の信頼を寄せている。同乗しているアンジュ・アボアは、「ラ・ブルス(奥地)」の案内役をしてくれる。熱帯雨林地帯のことを彼はフランス語でそう呼んでいる。アンジュはロイター通信の記者で、混沌としたアフリカビジネス界の暗部の解明に努めている。

アビジャンから西へ向かうと、リベリアとの国境まで数百キロにわたって熱帯林と辺境の農園地帯が広がる。これから 私たちはその奥深く入り込んでいく。目的は、コートジボワールの最も価値ある商品作物、カカオについて真実を探ることだ。
同行の二人は奥地の事情に通じているとはいえ、よそ者にすぎない。ここの人々は自分の氏族の人間しか信用しない。歴史と風土の壁を越えてこの国の深奥を探るには、地元の住人の助けが要る。

小さな村で、ノエル・カボラという人物と落ち合った。ノエルはベテランの仲買人だ。毎日、細い小道をたどって農園を回り、袋詰めのカカオ豆を集荷している。私たちはブワのルノー車を降りてノエルのおんぼろトラックに乗り込み、道路を離れて熱帯林の奥へと分け入る。アンジュは荷台に陣取って、地元の人たちと話し込んでいる。私はノエルの隣に座る。ブノワは残り、できたばかりの知り合いとお茶でも飲むと言う。

世界のカカオの半分近くが、この高湿な西アフリカの熱帯雨林から来ている。ここを出たカカオはやがて、世界のチョコレート・ファンの食生活を彩り、心を潤すお菓子に生まれ変わる。ボンボン、トリュフ、ココア、クッキー、ケーキ、チョコレートパフェ、そしておなじみの板チョコ。バレンタインデーには、この甘い粒に寄せて「アイ・ラブ・ユー」のメッセージが伝わることになっている。「メリークリスマス」や「ハッピーバースデー」にもなるし、ハロウィーンには子供たちに配られるお菓子に、復活祭には卵をかたどったイースターエッグにもなる。こうした行事を彩り、私たちの胃 袋におさまるまでの長い旅が、このうだるような熱帯から始まっている。しかし、先進国で大切にされるそんなセレモニーの晴れやかな場面から、ここほど遠く隔たっている所はない。深緑色のコートジボワールの森の中、悪路を行きながら、私はそう感じる。ノエルが指差す先に、カカオの木立がある。丈の高いバナナやマンゴー、ヤシの木の陰に隠れるような格好だ。エキゾチックな緑や黄色や赤のカカオの実(カカオポッド)。その二〇センチほどの楕円形の実が、今にも落ちそうに、すべすペした幹から下がっている。これが学名テオブロマ・カカオ、「神々の食べ物」という名をもつカカオの木だ。

熟した実をナタで切り落とし、割って中の宝物を取り出す。パルプと呼ばれる淡黄色の果肉に包まれて、くすんだ紫色をした、アーモンド大の種が数十個ある。向こうを見ると、バナナの葉を敷いた台の上に、取り出した種を果肉ごと積み上げてある。そうやって数日間、湿気と熱気の中で発酵させると、驚くべき錬金術が行われる。熱帯の強い日差しにさらされるうちに、果肉から甘くとろりとした液が浸み出し、種がその中に浸る。強烈な匂いを発しながら、微生物が働き出す。これが何の変哲もない豆を魔法のように、世界で最も魅惑的なお菓子に欠かせない原料に変えるのだ。

異臭の中で五、六日発酵させた後、台に広げて乾燥させる。さじ加減の難しい、こうした手作業の積み重ねとチョコレート製造技術のおかげで、有史以来、世界で何百万人もの人間がチョコレートのとりこになってきた。子供たちはお小遣いを握りしめて一かけらのチョコレートを買いに行き、女性たちの中にはセックスより上等のチョコレートの方がいいという人もいる。昨今の科学は、コレステロールを下げるとか、性欲を増進するとか、チョコレートの健康上の効能を数え上げる。
チョコレートは、誘惑そのものだ。わけもなくやみつきになる。だからこそ巨額の貿易が、そして一つの産業が成り立っている。この産業は飽くことを知らないかのように原料を求める。業界を支配する大企業の命運は、遠い西アフリカの農園と、そこで手間暇かけて発酵・乾燥されたカカオ豆を集荷するため日々熱帯林の道なき道を行く仲買人たちにかかっている。

時にはすっかり消えてしまったかと思うような心もとない道を、ノエルは事もなげにたどっていく。途中であちこちの 丘の上に、日差しを求めるカカオ農園があるのを教えてくれる。彼はそれぞれのカカオ豆の品質に一家言を持っている。発酵も乾燥も申し分なしとお墨付きをもらえる農園もあれば、いつも出来が悪いと厳しい評価を受ける所もある。時折、一部屋だけの学校や小さな礼拝堂が見える。その周りを囲む、みすぼらしい泥壁の家に、「神々の食べ物」を育てる農民が住んでいる。この地域が世界市場向けのカカオの生産地になったのは比較的最近で、一九七〇~八〇年代のことだ。コートジボワールの建国の父、フェリックス・ウーフェ・ボワニ[一九〇五~九三。一九六〇年の独立時から死去まで大統領を務めた」。

慈悲深い独裁者ウーフェは、この肥沃な農地から黄金にも匹敵する作物がとれることに気がついた。彼は、フランスから独立を勝ち取ったばかりの国を、西アフリカ経済の原動力にしたかった。ジャングルをエデンの園に変え、国民が自らの労働の成果を享受できるようにすると六〇年代に表明。この建国のビジョンは軌道に乗り、しばらくの間コートジボワールは、アフリカで最も安定し、繁栄を謳歌する国になった。それを可能にしたのは何よりも世界市場へのカカオの供給だった。―しかし、今では何もかも様変わりした。
ル・ウィ「親父さん」、コートジボワールの人々に敬愛の念をこめてこう呼ばれるウーフェは、絶対的指導者だった。一九九三年の彼の死後、権力は、志のより低く、欲のより深い人間たちの手に移った。以来、コートジボワールは混乱と暴力の渦に陥った。特にカカオ農園の所有権をめぐって欲望が渦巻き、たびたびの停戦にもかかわらず、戦闘状態が続いている。楽園は煉獄か、時には地獄の様相を呈するようになった。コートジボワールの農地が生み出す莫大な富の支配権を、軍隊や民兵組織が争っている。カカオ生産に関わる者はいつも攻撃の危険にさらされている。

農園を回り、カカオ豆の詰まった麻袋を集荷しながら、ノエル・カボラは用心を怠らない。カカオ豆はギニア湾の港から工場へ出荷され、最終的には北アメリカやヨーロッパのお菓子売り場に並ぶ。戦闘の脅威はあるものの、各所にカカオ豆の袋が山と積まれ、ノエルを待ち受けている。結局、戦争で商業活動が妨げられることはない。ここでは誰にとってもカカオが経済的な頼みの綱だ。兵士たちの給料はカカオの利益で賄われており、流通を妨げてはならないことくらい、彼らもわかっている。とはいえ、武装した民兵が至る所で金を脅し取ることはなくならない。「特別通行料」を要求する検問にあちこちでひっかかる。金を受け取るのは、安物のヤシ酒の匂いをさせた武装民兵だ。彼らは私のような外国人への軽蔑を隠そうともしない。だが、ノエルも毎日彼らの蔑視にあっていると言う。隣国ブルキナファソから来た彼は、差別とゆすりの標的にされることが多いのだ。

私たちのおんぼろトラックは唸りをあげて急な坂を上っていく。すり減ったタイヤを空回りさせながら赤土のぬかるみを抜け、やっと上りきった。着いたのは、ノエルと同じブルキナファソ出身の農民による共同農園だ。村の名前シニコッソンは、コートジボワールの公用語であるフランス語に訳せば「明日のために」という意味だという。現実は、何もかもその日暮らしで、明日に残せるものなどほとんどない。トウモロコシ、キャッサバ〔根茎がタピオカの原料となる」、食糧としてバナナも植えているが、中心は国際市場向けカカオの生産だ。カカオを売った金で米と油を買うと、たいていあとは何も残らない。
村は孤立し、私が見た中でも地域で最貧層に属する。みな疲労の色が濃く、満足には食べていないようだが、少なくとも当面は、周辺を荒らしまわる暴力からは免れている。最後の検問で見た酔っ払いの兵士たちは、村を襲って金を脅し取ろうにも、ここまで坂道を上ってこられなかったらしい。

遠い国からの訪問者の到着は、シニコッソンでは大事件だ。たちまち村の中央にある家の屋根付きベランダは人でいっぱいになる。男性と少年たちばかりだ。奥のほうに女性と少女たちの姿も何人か見える。彼女たちはおそらく米とトウモロコシで質素な食事の支度をしているのだが、こちらの話を聞き逃すまいとしているようだ。
年寄りたちはニュースを待ちかねている。戦争はどうなった? 政府の公約通り選挙はあるのか? フランスの平和維 持部隊の増派はあるのか?――村々を襲撃から守るために平和維持部隊はすでに派遣されているが、大して役に立っていない。
年寄りたちの話によれば、ここに村を開いたのは一九八〇年だという。初めは地主に雇われて働き、やがて収穫共有協定によって自分たちの農園を持った。当時、未開墾の肥沃な土地が広がっていたが、労働力はきわめて少なかった。そこで「親父さん」は、隣国ブルキナファソとマリのやせた土地から貧しい農民を数千人も移住させ、奇跡の経済成長の原動力にした。彼らは喜んでやってきたのだが、今、立場は弱い。ブルキナファソ出身の彼らは、二〇年以上も農園を営んできた土地に対して、法的な権利を誰からも得ていない。土地所有権を裏づける証書も書類もない。もちろん土地は自分たちのものだと彼らは思っている。道義的には確かにその通りだ。しかし彼らの将来は、ウーフェ存命中に交わされた口約束や握手のあやふやな記憶にかかっている。今までこの土地の所有権が争われたことはないが、そうなるのは時間の問題だ。

村の生計を支えているのは「神々の食べ物」だが、ここは楽園とは程遠い。学校に行っている子供は一人もいないし、電気、電話、診療所や病院といった公共サービスはまったくない。銃を振り回す民兵がのさばる一帯で、この丘の上は何とか生活が営まれているというだけだ。それでも、彼らはここに満足しているように見える。これほどの問題を抱えなが らも、旱魃に見舞われた祖国にいるよりはよかったという。祖国は慢性的な飢餓状態なのだ。
私は、カカオについて本を書こうとしていることを説明した。皆そろってうなずく。カカオについてなら、彼らには豊富な知識がある。カカオ豆の品質、気まぐれな雨、当てにならない収穫、農薬の値段、病害の脅威、乱高下する価格、法外な税金。この地域でカカオを育てる苦労なら、知らないことはない。「もしもカカオを栽培できなくなったとしたら、どうされますか?」と聞くと、「おしまいだよ」と誰かが答え、皆の顔が曇る。
「カカオはここの皆の命ですから」と村長のマハマド・サワダゴが言った。
マハマドは五四歳だというが、ずっと老けて見える。三人の妻と11人の子持ちだ。
「ここのカカオはどこへ行くのですか?」とアンジュが聞く。
戸惑ったような沈黙が広がり、皆がマハマドを見る。
「サンペドロの港です」とマハマド。彼の言葉には重みがある。
「その後、欧米諸国へ行きます」皆うなずく。
「欧米では、カカオ豆をどうするのですか?」
再び沈黙、皆の視線がマハマドに集まる。しかし今回は彼も困ったようだ。
「知りません」
何かを作るのは確かだが、何を作るのかは知らないと言う。
「チョコレートを作るのです」と私は説明した。
「食べたことがありますか?」
遠出をしたとき食べたことがあるという人が一人。おいしいと思ったと言う。
他は誰も、それが何なのかさえ知らない。
コートジボワールのカカオ産業をめぐって報道しているアンジュ・アボアでさえ驚くほど、ここの人たちは、自分たちの作物について何も知らない。アンジュは、ノートのページを破りとって筒状に丸めてみせ、欧米ではカカオを粉にして砂糖をたっぷり加え、このくらいの大きさのチョコレートを作るのだと説明した。とても甘くておいしくて、ミルクやピーナッツが入っていることもある。
欧米の子供たちは、よくおやつにもらうのだ、と。
アンジュが、そのチョコの値段は約五〇〇CFAフラン〔約一二〇円〕だと続けると、信じられないというふうに、みな目を丸くした。そんなちっぽけなお菓子にそんな大金。
それだけあれば、立派な鶏でも米一袋でも買える。
少年の日給、三日分よりもまだ多い―もちろん、給料が払われていればの話で、払われているとは到底思えないが。
私の国の子供たちは、一つのチョコレートを二、三分で食べてしまうと説明すると、少年たちは本当に驚いている。何日も苦労して働いて作られたものを、地球の反対側では一瞬で食べてしまうのか。しかし、彼らは北アメリカの子供のそんな楽しみを妬むわけではない。西アフリカの人々は羨ましいという気持ちをめったに表に出さない。
私の国には学校へ向かいながらチョコレートをかじる子供がいて、ここには学校にも行けず、生きるために働かなければならない子供がいる。少年たちの瞳に映る驚きと問いは、両者の間の果てしない溝を浮かび上がらせる。なんと皮肉なことか。私の国で愛されている小さなお菓子。その生産に携わる子供たちは、そんな楽しみをまったく味わったことがない。おそらくこれからも味わうことはないだろう。これは私たちの生きている世界の裂け目を示している。カカオの実を収穫する手と、チョコレートに伸ばす手の間の溝は、埋めようもなく深い。
「私の国でチョコレートを食べている人は、それがどこから来たのか知らないの」
私は、チョコレートを知らないシニコッソンの少年たちに言った。誰がカカオを収穫しているのか、その人たちがどんな生活をしているのか、私の国ではほとんど誰も知らないのよ。それならあなたが教えてあげればいい、と少年たちは答えた。

キャロル・オフ (著), 北村 陽子 (翻訳)
出版社: 英治出版 (2007/8/27)、出典:出版社HP

チョコレートはなぜ美味しいのか (集英社新書)

チョコレートの美味しさを食品物理学から解明する

微粒子の結晶構造から食感を解析する「食品物理学」の観点から、チョコレートが美味しい理由を解説した一冊です。本書ではチョコレートだけでなく、マーガリンやマヨネーズに関しても科学的な美味しい理由を知ることができます。

上野 聡 (著)
出版社: 集英社 (2016/12/16)、出典:出版社HP

目次

序章 食品物理学とは何か
「経験則」から「科学」へ
「美味しさ」を決める背景要因、間接要因、直接要因
風味がよくても「食感」が悪いと美味しくない
細胞膜の研究から「食品物理学」の世界へ
ココアバターの結晶構造がチョコレートのテクスチャーを決める

第一章 チョコレートは「食べる結晶」
「苦い水」だったチョコレート
毎日五〇杯も飲んでいたアステカの皇帝モクテスマ
ココアパウダーの発明から「食べるチョコレート」へ
発酵はカカオの産地でしかできない
熱帯雨林地方で「食べるチョコレート」がつくれない理由
オリーブオイルとバターはどのように溶けるのか
ほかの油脂にはないココアバターの特性
油脂の分子をつくる「脂肪酸」
三種類の分子がココアバターの溶け方を決める
ココアバターの結晶は「I型」から「M型」までの六タイプ
M型の結晶がもたらす「プルーム現象」とは
ブルームを起こしているチョコレートの表面はどうして白いのか?
ダイヤモンドもカーボンの結晶多形のひとつ
「結晶」は固体の分子配置が規則正しい状態のこと
米粒には「結晶」と「非晶質」が混在している
一九六〇年代に明らかになった油脂の結晶多形
結晶多形を知らない時代でも「美味しいチョコレート」はあった

第二章 「美味しいチョコレート」のつくり方
「砂漠でも溶けないチョコレート」はなぜ不味いのか
バレンタインの「手づくりチョコ」はV型結晶か?
「テンパリング」の基本
「種」を中心に結晶が成長する仕組み
テンパリングなしでV型結晶をつくる方法
BOBを「鋳型」に使う種結晶法
超音波と磁場でV型結晶をつくる
テンパリングマシンの中では何が起きているのか
ミクロの世界を見る「放射光施設」とは
円形加速器から生まれるシンクロトロン放射光
フォトンファクトリーとSPring-8
X線は「水」が苦手だが
新しい実験は装置づくりから始まる
X線の散乱角度から結晶の「周期性」を算出
明らかになったテンパリングと攪拌の役割

第三章 マヨネーズの分離問題に挑む
牛乳はなぜ白いのか
水と油が分離せずに共存する「エマルション」
粒が小さく揃っているほどエマルションは安定する
解凍したマヨネーズの「油水分離」問題
菜種油と大豆油の違い
結晶化した固体の油が液体の油を氷の圧力から守る?
水と同時に結晶化しても安定していた大豆油のエマルション
界面活性剤で結晶化をコントロール
特許訴訟でも高まるサイエンスの重要性

第四章 マーガリンの「粗大結晶」問題
熱力学的な「安定」状態は食品にとって「劣化」
ナポレオン三世が募集した「代用バター」
不飽和脂肪酸は体によいが固まりにくい
二重結合を潰す「水素添加」
部分水素添加によって生じた不都合
米国で原則禁止になる「トランス脂肪酸」とは
パーム油は「半固体油脂」
チョコレートの代用脂にも使われるパーム油
粗大結晶の「犯人」はPOP?
マーガリンには「展延性」が必要
温度サイクルによって粗大結晶が発生
マイクロビームで粗大結晶の構造が明らかに
放射光施設が使いやすい日本の研究環境
粗大結晶はどのように成長するのか

第五章 油脂研究の今後の課題
食品科学は「きたないサイエンス」?
ココアバターの結晶構造はまだ謎のまま
単結晶の構造解析が必要
油脂の結晶ネットワークに見られる階層性
飽和脂肪酸より「体にいい」ネットワークは何でつくるか
中国の消費増大で深刻化するカカオ不足

あとがき

参考文献

図版作成/クリエイティプメッセンジャー

上野 聡 (著)
出版社: 集英社 (2016/12/16)、出典:出版社HP

序章 食品物理学とは何か

「経験則」から「科学」へ 食べ物の「美味しさ」とは、何でしょうか。
美味しいものは好きでも、その裏側にどんな仕組みがあるのかは、あまり考えたことのない人のほうが多いでしょう。もちろん、そんなことを考えなくても、私たちは日々の食生活を楽しむことができます。

テレビでもインターネットでも、いわゆる「グルメ情報」には事欠きません。友人や知人から入ってくる口コミ情報もあるでしょう。それさえあれば、「美味しい食べ物」に出会うのは簡単なこと。「美味しさとは何か」などと難しく考える必要はありません。
でも、食品会社、レストラン、食料品店など食べ物を人々に提供する側の人々にとっては、「どうすれば美味しく感じられるのか」は大問題。より多くの人が喜ぶ「美味しさ」を追求するのが、彼らの仕事です。仕事ではなくても、自分や家族のために料理をつくるときには、誰でも同じことを考えるでしょう。私たち人類は、その長い歴史を通じて、食べ物を美味しくするために多くの経験則を積み重ねてきました。本書のメインテーマであるチョコレートも、例外ではありません。のちほどお話ししますが、チョコレートが現在のような形になるまでには、四〇〇〇年の歴史と、その間のさまざまな工夫がありました。いろいろな試行錯誤を経て、美味しいチョコレートをつくるためのノウハウが生み出されているのです。
しかし経験則によって「こうすると美味しくなる」と結果がわかっても、「なぜそうなるのか」という理屈は、わからないことが多いでしょう。

たとえば一九世紀のチョコレート職人が、弟子に「どうしてこういうつくり方をするのですか?」と質問されても、「美味しくなるからだ」としか答えようがなかっただろうと思います。理由はわからないけれど、とにかくそうやってみたら美味しくなった。「正解」はわかっているのだから、とりあえずそれで問題はありません。とはいえ、その理由を知らずにはいられないのが人間です。好奇心は止めることができません。その好奇心が、文明や文化を発展させてきたこともたしかです。実際、ある方法によって食べ物が美味しくなる理由がわかれば、もっと美味しくする方法や、もっと効率よくつくる方法などが見つかる可能性もあるでしょう。

そこで必要となるのが、「科学」の力です。美味しい食品やそれをつくる方法を科学的に分析することで、その根底にある原理や原則を解き明かす。それによって、私たちの食文化や食生活はより豊かなものになるのではないでしょうか。
「美味しさ」を決める背景要因、間接要因、直接要因 ただし、「美味しさ」を科学的に理解するのも簡単ではありません。私たち人間が何かを「美味しい」と感じるのは最終的には脳の働きですが、脳科学には未解明の謎がたくさんあります。そもそもある食べ物が「美味しい」かどうかは主観的な問題ですから、同じものを食べても感想は十人十色でしょう。
それに、食べ物の好き嫌いを決めるのは、単純な個人差だけではありません。個々の食べ物に対する嗜好は、小さい頃 からの食体験によっても違ってきます。たとえば納豆などは、小さい頃から食べ慣れているかどうかで、かなり好き嫌いが左右されるのではないでしょうか。そこには、個人的な体験だけでなく、社会が共有する食習慣や食文化といった要因もかかわってくるでしょう。学問的には、社会学や文化人類学などの分野に属するテーマかもしれません。

一方、同じ人が同じ食べ物を口にしても、心理状態や体調によっては「美味しさ」の感じ方が変わることもあります。深い悲しみや絶望に打ちひしがれているときには、大好物を食べていても、まるで砂を噛んでいるような味気なさを感じるものです。また、風邪などで体調が悪いときには、何を食べても美味しくありません。これは、心理学や生理学の分野で扱われるべき問題でしょう。
しかし、こうした問題は、「美味しさ」を決める背景的な要因、もしくは間接的な要因にすぎません。「美味しさ」を決める直接的な要因は、言うまでもなく、食品そのものが持つ特性です。これは、物質を扱う化学や物理学の領域でしょう。
食品の「味」とそれを感じる人間の「味覚」については、これまで多くのことが解明されてきました。人間が感知する 味には、甘味、酸味、苦味、塩味、旨味の五つがあることは、ほとんどの人がご存じでしょう。それぞれの味をもたらす物質が何かということも、ほぼ解明されています。

ちなみに西欧では、甘味、酸味、苦味、塩味の四つが基本味だと考えられてきました。
ドイツの心理学者ヘニングが「味の四面体」という説を提唱したのは、一九一六年のことです。しかし日本では、一九〇八年に化学者の池田菊苗が昆布のだし汁から「旨味」の成分であるグルタミン酸ナトリウムを発見しました。そこから「味の素」という商品が誕生し たのは、あまりにも有名な話です。
この旨味という「第五の味」を基本味のひとつとするかどうかは、長く学界で議論されました。最終的には、二〇〇年に舌の味蕾にある感覚細胞にグルタミン酸の受容体が存在するとわかったことで、これも味覚のひとつだと認められています。

味の成分と味蕾の受容体は、「鍵と鍵穴」のような関係です。甘味には甘味成分(ブドウ糖など)を受け入れる受容体、酸味には酸味の成分(酢酸やクエン酸など)を受け入れる受容体があるから、人間はそれをほかの味と区別して感知できるのです。
舌の味蕾細胞の構造や、味覚が脳に伝達される仕組みなどが明らかになったのは、そんなに昔のことではありません。その研究は、二〇〇〇年から二〇〇五年ぐらいにかけて大きく進展しました。それによって、かつての「常識」も覆っています。

たとえば、舌の「味覚地図」のようなものを見たことがある人は多いでしょう。舌の先端部分は甘味、左右は酸味……など、舌の部位によって感じる味が違うという説です。広く常識として共有されていますが、現在では、これは間違いであることがわかっています。基本味の受容体はどれも舌のあちこちに存在するので、私たちは舌のどの部位でも、いろいろな味を感じることができるのです。

風味がよくても「食感」が悪いと美味しくないところで、物質としての「美味しさ」を決めるのは、味覚だけではありません。たとえばレモンとライムの酸味成分は同じですが、私たちはそれを同じ味だとは感じないでしょう。それは、美味しさがにおいや見た目にも左右されるからです。レモンとライムは香りも色も違うので、舌で感じる味の成分は同じでも、違う味として認識されます。つまり私たちは、味覚だけでなく、嗅覚や視覚も動員して「美味しさ」を判断しているわけです。

これを、舌だけで感じる「味」とは区別して、「風味」と呼びます。
嗅覚については、いまのところ、五つの「基本味」に対応するような「基本臭」があるかどうかは、解明されていません。それを探るための分類は進んでいますが、基本とされるにおいだけでも三〇~四Q種類ぐらいあるのが現状です。味覚の研究も今世紀に入ってから進展しましたが、嗅覚の研究も発展途上。食べ物の「風味」というテーマには、科学者にとってまだまだ大きな研究の余地があるといえるでしょう。これは、おもに化学者たちの研究対象です。ならば、物質としての食品の美味しさは化学的な探究だけで解明できるのでしょうか。実は、そんなことはありません。「美味しさ」を左右する食べ物の性質は、風味(味、におい)だけではないからです。たとえば、ポテトチップスのことを考えてみてください。味やにおいは同じでも、湿気たポテトチップスはあまり美味しくないでしょう。煎餅も同じ。あのパリパリと小気味よく割れる感じがないと、たとえ風味はよくても「美味しさ」は損なわれてしまいます。
つまり私たちは、味覚や嗅覚だけではなく、「触覚」でも食べ物を味わっているということ。その触覚にうったえる「食感=テクスチャー」も、食べ物の美味しさを大きく左右する要素にほかなりません。実際、「パリパリ」「サクサ ク」「フワフワ」「カリカリ」「コリコリ」「もちもち」「とろとろ」といった擬態語や擬音語(オノマトペ)に食欲をそそられることはよくあるでしょう。

食品の宣伝文句やメニューのネーミングにも、しばしばそういった表現が使われます。単に「サラダ」といわれるより、「パリパリサラダ」といわれたほうが、何となく美味しそうに思えてくる。たとえテクスチャーが表現されていても、「ふにゃふにゃサラダ」と書かれていたのでは、あまり注文する気にはなりません。

また、グルメ番組のレポーターも、風味を伝える前にまずは「サックサクでとっても美味しいです!」などとテクスチャーに言及することが多いのではないでしょうか。それぐらい、「美味しさ」にとって食感は大切な要素なのです。
細胞膜の研究から「食品物理学」の世界へさらにいえば、テクスチャーが重要なのは「美味しさ」の問題だけではありません。そもそも食品は、美味しいかどうか以前に、「食べやすい」「安全」「健康的」であることが求められます。食べにくかったり、健康を損ねたりする食品は、どんなに美味しくてもありがたくありません。

たとえば高齢者介護の現場では、咀嚼や嚥下のしやすい食品が求められています。喉に詰まったり、胃ではなく肺に人ってしまったりすると、命にもかかわってくる問題。そういう面でも、テクスチャーは重要な意味を持つといえるでしょう。
では、食べ物のテクスチャーは何で決まるのか。これは、そこに含まれている物質の固さ、粘り気、水分含有量などに左右されます。結晶構造などもかかわってきますから、ここは「物性(物質の性質)」を研究する物理学の出番。食品を対象とする物性物理学のことを「食品物理学」といいます。

素粒子物理学、宇宙物理学、分子物理学、低温物理学、放射線物理学、統計物理学、プラズマ物理学……などなど、物理学にはさまざまな専門分野があります。しかし「食品物理学」という言葉は、一般にあまり馴染みがないでしょう。私自身、研究者として最初からその分野に入ったわけではありません。学生時代は原子核物理学を学び、その後は生物
物理学の世界に入りました。

そこで取り組んだのが、細胞膜の基礎研究です。生物の細胞を包む膜は、リン脂質という物質。リン脂質に水を加えると、ひとりでにリン脂質は集まり、風船のようにふくろ状の形になります。つまり水中にリン脂質でできた袋がふわふわと漂っている状態になります。袋の中は水で、ゴム風船のゴムの部分が、リン脂質が集まってできた膜となります。温度やリン脂質に対する水の量を変えるとその性質が変わり、結晶状態になったり液晶状態になったりするのですが、この物質の探究は、要するに「脂質」や「油脂」の研究にほかなりません(脂質と油脂の違いは、基本的には、油脂は脂質の一種だと思ってもらえばいいでしょう)。その研究をしていれば、当然、さまざまな油脂を使う食品の世界とも関係が出てきます。そんなわけで、いつの間にか食品物理学が私の専門分野になっていました。
油脂を多く使う食品にもいろいろありますが、その中で私が中心的な研究テーマとしてきたのが、チョコレートの結晶構造です。

上野 聡 (著)
出版社: 集英社 (2016/12/16)、出典:出版社HP

チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書)

チョコレートが普及するまで

本書では、チョコレートが貨幣として使われていたり、薬として飲まれたりしていた時代から、現在の形になるまでの歴史に加えて、チョコレートと経済の関わりについても学ぶことが出来ます。

武田 尚子 (著)
出版社: 中央公論新社 (2010/12/1)、出典:出版社HP

はじめに

チョコレートと近代化

チョコレートから、人生のどのような記憶が蘇るだろうか。
幼いころに、マーブル・チョコを一粒ずつつまんで大事に食べたことがあるかもしれない。中学生や高校生のとき、夕方の部活を終えて、友達とチョコを分けあった人もいるだろう。バレンタインデーは自分のチョコレート・カレンダーに、花火のようなきらめきやスリリングな一瞬を刻んでいるかもしれない。私たちは人生の折々に、さまざまな味わいのチョコレートを楽しむことができる時代に生きている。しかし、チョコレートがこのような身近な存在になって、わずか10年余りにすぎない。

大きく分けると、チョコレートには二種類ある。工房で職人が手作りするチョコレートと、工場で大量生産される規格品チョコレートである。工房で職人がていねいに作るチョコレートは味の深みを教えてくれるが、値段は高めで、売られている場所も限られている。
この一〇〇余年の間にチョコレートがどんなにおいしいものであるかを人々に教えていったのは、規格品チョコレートである。手ごろな価格で、誰にでも手が届く範囲にチョコレートが登場するようになった。規格品チョコレートが普及して、世界の人々はチョコレートの味を覚えていった。
ベルギーやフランスでは職人の手作りによる、クラフツマン的な味わいのチョコレートが作り続けられたが、規格品チョコレートの普及に貢献したのはイギリスである。
産業革命の一番手の得意技を生かして、チョコレートの工場生産を早い段階で成功させていった。

チョコレートは溶けやすく、デリケートなスイーツである。形状を整えて量産するには、技術力が必要だった。技術改良が進み、工場で生産されるようになって、チョコレートは手ごろな価格になった。チョコレートの普及には、工場や鉄道網の整備など、産業基盤が近代化している必要もあった。
近代産業のしくみが整っていたイギリスでは、早い時期に工場で良質のチョコレートが作られるようになり、チョコレート加工菓子の生産が本格化した。キットカットなど現代でも人気のチョコレート菓子が生み出された。チョコレート・メーカーは、印象的なラッピングをデザインし、広告に工夫を凝らした。

ダブル・テイスト

チョコレートを大喜びで手にしたのは、労働者階級である。長時間働く労働者に、エネルギー補給は欠かせない。午後の適当な時間に「ブレイク」をとって、気合いを入れ直す。手ごろな価格のチョコレートは、短い休憩時間に、紅茶と一緒にお腹に流しこみ、血糖値を上げて、一気にパワーアップする、格好のエネルギー・サプリメントである。
チョコレートが普及する以前に、労働者のパワーアップに貢献していたのはアルコールである。ビールやエールの国で あるイギリスでは、アルコールに手が出やすい。アルコール摂取量を抑え、節制のきいた飲酒、勤勉な労働の習慣を身につけさせるには、アルコールに代わる甘い誘惑が効果的だった。チョコレートも紅茶も労働者の家計でまかなえる価格になり、イギリス人はチョコレートの味を覚えていった。現代のイギリスには、至るところにチョコレートの自動販売機があり、チョコバーをかじりながら、大またで街を歩く人をよく見かける。イギリス人はチョコを口に放り込んで、蒸気機関車のようにエネルギッシュに動き回る。日本で飲料の自動販売機が至るところにあるように、イギリスではチョコ自販機が当たり前の光景になっている。チョコ自販機は国民的エネルギー補給装置なのである。チョコレートのとろける甘さには、国ごとに異なる近代化の過程が溶け込んでいる。チョコレートやココアは、「社会的」なスイーツでもある。チョコレートをめぐる「甘い味わい」と「社会的な味わい」のダブル・テイストが、褐色のスイーツを味わう楽しみをさらに深めてくれることだろう。

武田 尚子 (著)
出版社: 中央公論新社 (2010/12/1)、出典:出版社HP

目次

はじめに

序章 スイーツ・ロード旅支度

1 カカオ豆の楽園
“口福”の成分
カカオ豆の三姉妹
神々の食べ物

2 カカオ豆のマジカル・パワー
カカオ「種明かし」
チョコへの「変身」
チョコレート一族カカオのグローバル・テイスト

1章 カカオ・ロードの拡大

1 カカオ 豆源郷、
カカオ揺籃の地
カカオの神秘的パワー
褐色の貨幣
楽園のドリンク

2 パラダイスからの旅立ち
宮殿の食卓から庶民の手へ
新世界での成長
カカオ・アイランド

3 海を渡る褐色の双子|カカオと砂糖
褐色の涙―大西洋三角貿易
褐色の砂金
カカオの上陸地

2章 すてきな飲み物ココア
ヨークの都市自営業主層
ビジネスと信仰のエートス
ココア製造マニュファクチュアの開始
ココア広告の時代
日本のココアとチョコレート

3 ココア・ビジネスと社会改良
ココア・ネットワークと社会への関心
ココア・ビジネスと社会改良
ヨークの町のワーキング・クラス
ココア・ビジネスの原動力

5章 理想のチョコレート工場

l 郊外の新工場
田園都市構想
理想のワーキング・クラス
ココアとチョコレートの併走

2 チョコレート工場と女性
増加する女性労働者
ファクトリー・ガール

3 心理学とチョコレート工場
チョコレート工場のしくみ
「お給料」とやる気
「人間」が働く
工場産業心理学と工場

6章 戦争とチョコレート

1 スイーツ広告とファミリー
ココアとママ
ブラック・マジックのマジック・パワー
世界で最も甘いパパ

2 キットカットの「青の時代」
キットカットの誕生
「チョコレート・クリスプ」プロジェクト
キットカットのみぞ
キットカットのなぞ
キットカットの青いラッピング・ペーパー

3 戦地のチョコレート
ジャングル・チョコレート_
日本のグル・チョコレート

7章 チョコレートのグローバル・マーケット

1 チョコレートのナショナル化
中間層のスイーツ
Have a Break
路線テレビ時代の申し子
インターナショナルなテイストの模索

2 グローバル・スイーツの時代
インターナショナルなチョコレート・マーケット
スイーツ業界の再編
フェア・トレードの模索

終章 スイーツと社会
スイーツ・ロード・マップ
二つの生産プロセスと社会集団
ココア・チョコレートと消費

あとがき

文献

イラスト・関根美有

序章 スイーツ・ロード 旅支度

1 カカオ豆の楽園

“口福”の成分

チョコレートを食べて、おいしいと感じるとき、どのような「おいしさの成分」が「口福」をもたらしてくれているのだろうか。すぐに思い浮かぶのは「甘さ」だろう。これは、チョコレートを作る過程で、砂糖や甘味料が加えられて、甘く感じるようになったものである。チョコレートの主原料であるカカオ豆は甘くはない。カカオ豆独自の味わいとはどのようなものだろうか。

カカオ豆そのものから発揮される成分には、「香り」(華やかな香り、スパイシーな香り、スモーキーな香りなど)や、「風味」(酸味、苦味、渋味)がある。また、チョコレートを口に入れたときの「かたさ・柔らかさ」「口どけ」「コク」も、おいしさの大事な決め手である。

つまり、原料の主役であるカカオ豆が醸し出すアロマ(香味)やフレーバー(風味)と、砂糖やミルク等を混合してできあがった加工品のテクスチャー(舌ざわり)が、絶妙なバランスを作り出し、チョコレートの個性を生み出している。
カカオ豆本来の「風味」である苦味、渋味は、カカオ豆に含まれるポリフェノールによるものである。カカオ・ポリフェノールの主成分はカテキンやエピカテキンである。ポリフェノールは赤ワインや緑茶などにも多く含まれ、タンニン、カテキン、色素のアントシアンなどの成分は、抗酸化作用によって病気や老化を防ぐ効果がある。ポリフェノールの含有量が多ければ、苦味、渋味が強い。苦味、渋味を緩和させるため、産地ではカカオ収穫後、ただちに発酵させる。発酵が進むと、ポリフェノール量が減少し、渋味や苦味が和らいで、まろやかな味になる。

カカオ豆には本来酸味があるが、発酵で渋味・苦味が軽減され、酸味がより強く感じられるようになる。カカオ含有量が多いダーク・チョコレートを味わうと、さわやかな酸味に、かすかなほろ苦さが溶け合い、深い味わいに驚くことがある。カカオ豆のポリフェノールの含有量や調整の加減で、味のバラエティが生み出されている。

カカオ豆の三姉妹

カカオ豆には、ポリフェノールの含有量が異なる三種類の系統がある。
クリオロ種、フォラステロ種、トリニタリオ種という。
ポリフェノールの含有量が最も少なく、カカオの魅力を最良に発揮する品種は、クリオロ種である。苦味・渋味が少なく、カカオ豆独特の芳香が強い。クリオロ種でビター系のチョコレートを作ると、抜群の味になる。クリオロ種は生の豆を食べても美味に感じるという。しかし、病気に弱いため、栽培が難しい。稀少品種で、現在世界で生産されているカカオ豆の一%程度の生産量にすぎない。
フォラステロ種は、ポリフェノールを多く含む。栽培が容易な強い品種で、世界の生産量の約八五~九〇%を占める。味にパンチはあるが、苦味が強い。そのままでは、ビター系のチョコレートには向かない。しかし、ミルクをブレンドすると、フォラステロ種の強い個性がミルクと調和して、すばらしい味に変わる。
トリニタリオ種は、クリオロ種とフォラステロ種を交配させて、両方の特徴を生かした改良品種である。クリオロ種のすぐれた香味・風味と、フォラステロ種の病気に強い点を兼ね備え、世界の生産量の一〇~一五%を占める期待の品種である。

神々の食べ物

カカオは、学名をテオブロマ・カカオ (Theobroma cacao)といい、アオギリ科に属する樹木である。テオブロマは、ギリシャ語で「神 (theos)」の「食べ物 (broma)」を意味する。成長すると、七~一〇メートルの高さの樹木になる(口絵3)。幹に直接小さな花が咲く(口絵4)。これが大きな炎に成長し、幹や太枝からぶらさがる。この莢をカカオポッドという。これを割ると、白い果肉に包まれて、種子(豆)が三〇~四〇粒入っている。

カカオポッドの収穫は、通常は小刀などを用いて手作業で行われる。収穫後、白い果肉ごと種子を取り出して、集めて発酵させる(図表序-1)。
中の種子を傷めないように注意して、手作業でカカオポッドを割り、種子を取り出す。多くの人手を必要とする労働集約的な作業である。

発酵はカカオ豆の味わいを深める重要な一ステップである。カカオポッドから取り出した白い果肉と種子を積み上げて、バナナの葉で覆う発酵方法や、木の箱に一~二トンを詰めて発酵させる方法などがある。発酵によって、種子は摂氏五〇度程度まで温度上昇し、化学反応を起こして、アミノ酸などが生成される。アミノ酸はポリフェノールと反応して、
種子は褐色に変わり、カカオ独特の風味が生まれる。
発酵を終えると、種子を乾燥させる。乾燥によって、さらに味の熟成が進む。乾燥には、天日乾燥と人工乾燥の二通りがある。人工乾燥では、乾燥台の下に煙道を作り、木材を燃やして、煙道に高温の空気を通す方法などが用いられている。木材の種類や状態によっては、カカオ豆にスモーキーな香りが付着することがある。乾燥がすむと、袋詰めして出荷される。
クリオロ種の原産地は中米、フォラステロ種の原産地は南米のアマゾン川流域とされている。カカオの生育に適しているのは高温多湿地帯で、平均気温が摂氏二七度以上、年間降水量二〇〇ミリメートル以上が望ましい。この条件を満たすのは、赤道をはさんで南北の緯度が二〇度以内の地域で、かなり限定される。中南米、西アフリカ、東南アジアなどが これに該当する(図表2)。

中南米原産だったカカオは、西アフリカに移植された。フォラステロ種の生産地として成長したのは、西アフリカ・ギニア湾のサントメ島、プリンシペ島、フェルナンド・ポー島である。アフリカ本土のガーナに移植が始まったのは一八七九年で、これはちょうどスイスでミルク・チョコレートが発案された時期にあたる。苦味が強いフォラステロ種は、ミルクと混合すると個性が生きる。ミルクチョコレートの発案が追い風になって、アフリカでは、栽培の容易なフォラステ ロ種の生産が急速に拡大していった。
カリブ海のトリニダード島はスペインの植民地になったのち、クリオロ種が栽培されるようになった。十八世紀に不作 になり、フォラステロ種が移植されたため、クリオロ種とフォラステロ種の交配が進んで、トリニタリオ種が生み出された。
現在のおもな産地は、クリオロ種はベネズエラ、メキシコなど中米のごく限られた地域、フォラステロ種は西アフリカや南米、トリニタリオ種は中米や東南アジアなどである。二〇〇五/〇六年の世界三大生産国は、コートジボワール、ガーナ、インドネシアで、この三国で世界総生産量の七二・一%を占めている(図表序-3)。

中南米の森に育ち、「神々の食べ物」だったカカオ豆は、今ではこのように世界各地で生産されるようになった。多様になったカカオ豆を品種別・産地別に見ると、それぞれ微妙な味の違いがある(図表序-4)。
チョコレートをゆっくり味わうと、異なる味の違いを探求する楽しさがさらに広がるだろう。

2 カカオ豆のマジカル・パワー

カカオ「種明かし」

カカオ豆のアロマやフレーバーをしみじみ味わうと、心が落ち着く。
カカオには、アルカロイド(植物内で生成される有機化合物)の一種であるテオブロミンが含まれている。テオブロミンは、カカオ豆独特の香りを醸し出し、精神をリラックスさせ、集中力を高める効果がある。テオブロミンはカフェインと似た分子構造を持っており(図表序-5)、血管拡張作用、強心作用、覚醒作用があるが、カフェインほど刺激は強くない。

カカオ豆がコーヒー豆と大きく異なる点は、豆に含まれる油脂量である。
コーヒー豆のほうが油脂分は少なく、扱いに手間がかからない。
コーヒー豆の脂肪分は重量の一六%程度で、抽出のときに紙や布のフィルターが油脂を吸着してくれる。だから、豆を焙煎し挽いて、抽出すれば、そのままお客さんに飲料として出すことができる。コーヒーの場合、商品化のプロセスで油脂のコントロールが問題になることはあまりない。

一方、カカオ豆は四五~五五%程度の脂肪分を含む。カカオ豆の重量の半分は油脂である。豊富な油脂は、コクや旨味のもとであるが、油脂の処理に手間がかかることは事実である。カカオ豆は油脂をコントロールし、砂糖など他の材料を加えて調整して、ようやく商品になる。加工プロセスに手間がかかる。
チョコレートを食べると、心も身体も生き生きして、パワーアップする。栄養の源、エネルギー源になっているのは豊富な油脂である。油脂の処理の仕方が、カカオ豆特有の生産・加工のしくみと、製品を作り出してきた。

チョコへの「変身」

生産国から出荷して、消費国へ陸揚げされたカカオ豆は、おおよそ次のような加工プロセスをたどる(図表序-6)。

工場に搬入されたカカオ豆は、不良の豆やゴミを取り除く。良質の豆を砕きながら、皮も取り除く。ここで残ったカカオの胚乳部分を「カカオニブ」という。まさにカカオ一〇〇%の状態である。カカオニブをすりつぶす作業を「磨砕」という。カカオニブはすりつぶされて、褐色のドロドロ状態になる。これを「カカオマス」という。カカオマスには脂肪 分が約五五%含まれている。

飲料の「ココア」を作る場合、カカオマスの状態では脂肪分が多すぎて、飲みにくいため、「圧搾」によって、カカオマスから脂肪分を押し出して、脂肪分を軽減する。搾り出された脂肪分を「ココアバター」といい、残った固まりを「ココアケーキ」という。
ココアケーキを砕いて、細かい粒子にしたものが「ココア・パウダー」で、飲料用のココア粉末として使うのはこの状態のものである。
ココアバターは三〇〜三五度で融解する特質がある。これは人間の体温に近いため、チョコレートを食べると、口のなかでスムーズに溶ける。ココアバターは安定した脂質で、用途が多い。ココアバターで化粧品や石鹸も作られる。
チョコレートを製造する場合は、油脂五五%を含んでいるカカオマスに、さらにココアバターを加える。脂肪分を高めて、なめらかな口当たりにするためである。カカオマスに、ココアバターのほか、砂糖、ミルク等を加えて、「精練(コンチェ)」する。長時間練り上げることによって、粒子がさらに細かくなり、チョコレート独特の香りが強まる。充分練り上げたあと、ココアバターを安定させるため、「調温(テンパリング)」を行い、冷却・成形して、チョコレートができあがる。

チョコレート一族

このようにチョコレートの製造過程では、カカオマスにココアバターを加える。しかし、ココアバターは生産量が限られているため、高価である。そのため、ココアバターではなく、代用の油脂を使うことがある。代用油脂として用いられ
ることが多いのは、ココナッツ油、パーム油などである。
製造過程で、多様な材料が添加されるので、チョコレート業界では、チョコレート表示に関する規約を定めている。カカオ分や、ココアバターの含有量によって、製品は四種類に分類されている(チョコレート、ミルクチョコレート、準チ ョコレート、準ミルクチョコレート)。四種類のうち、カカオ成分が最も多いのが、いわゆる「チョコレート」で、日本の規格ではカカオ分が三五%以上で、そのなかにココアバターが一八%以上含まれている製品を指す。

近年、カカオ含有量が多いダーク・チョコレートの人気が高まっている。七〇%、八五%、九九%などの数字が気になるチョコ・ファンも多いことだろう。たとえば、「七〇%」という表示は、「カカオマス・ココアバター」の総量である。規約によって、ココアバターが一八%以上入っていることは確かである。しかし、製品によって「カカオマス」と「ココアバター」の割合は違う。A社の「七〇%」チョコは、カカオマス四〇%+ココアバター三〇%かもしれない。B社の「七〇%」チョコは、カカオマス二〇%+ココアバター五〇%かもしれない。「カカオマス」と「ココアバター」の割合によって、味も値段も変わる。
チョコレート・ショップに足を運ぶと、宝石のように並べられた粒々のチョコレートを「ボンボン・ショコラ」や「プラリネ」と呼んでいたりする。「ココア」を注文しようとすると、「ショコラショーですね」と言われることもある。統一された「チョコレート語」があるわけではなく、それぞれの製造者や、チョコ・ファンが、好みに応じて、好みの「チョコ語」を使っている。
この本ではシンプルにスイーツ・ロードを歩いていくことにしよう。日本で日常的に使われているように、固形で食べるものは「チョコレート」、液体で飲むものは「ココア」(または「カカオ飲料」)、チョコレートを使ったお菓子は「チョコレート加工菓子」と表記する。

カカオのグローバル・テイスト

スイーツ・ロードの旅支度として、旅のおおまかなスケジュールを述べておこう。中南米の「神々の食べ物」だったカカオは、世界各地に広がり、ココアやチョコレートに加工され、「グローバルな食べ物」になった。
十七世紀以降、「貿易」商品として、カカオ豆をヨーロッパへ運ぶしくみが作られていった。近代のヨーロッパでは、搬入されたカカオ豆を「生産・加工」するしくみが整い、ココアなどの加工商品が広まっていった。カカオ豆をめぐる「貿易体制」と「生産・加工体制」が車の両輪のように稼働して、ココアやチョコレートはグローバル・スケールの食品 に成長していった。
この本では、カカオのグローバル化の二つの成長エンジンである「貿易体制」と「生産・加工体制」に着目することにしよう。二つのしくみがどのように形成され、連動して、グローバル食品の成長を実現させていったか、その発展の歴史を解き明かそう。「生産・加工体制」の早期実現を果たしたイギリスのココア・チョコレート事情にフォーカスする理由もここにある。
「スイーツ・ロードをたどりながら、神々の楽園の果実「テオブロマ」が、万人に愛される「グローバル・テイスト」に変貌していった「褐色の宝石」の旅の物語を味わうことにしよう。

武田 尚子 (著)
出版社: 中央公論新社 (2010/12/1)、出典:出版社HP

チョコレートの歴史 (河出文庫)

チョコレートの歴史

本書では、各時代におけるチョコレートのあり方と時代背景が詳細に述べられています。全編を通してチョコレートと歴史の関係に特化しているので、チョコレートの歴史に関して深く学びたいという方におすすめの一冊です。

ソフィー・D・コウ (著), マイケル・D・コウ (編集), 樋口幸子 (イラスト)
出版社: 河出書房新社 (2017/2/6)、出典:出版社HP

目次

序章

第1章 神々の食物の木
複雑多彩な化学成分

第2章 カカオの誕生 オルメカ=マヤ時代
オルメカ人
イサパ文明から古典期マヤまで
密林の王たち――古典期マヤ
古典期マヤの黄昏
征服前夜のマヤ族
征服以降のマヤ族におけるカカオの調理法

第3章 アステカ族 五番目の太陽の民
アステカ族の起源と初期の歴史
征服前夜のアステカ族
アステカ族の「チョコレートの木」―カカワクアウイトル
王家の金庫
アステカ式チョコレートの作り方
調味料、香辛料、その他の添加物
特権階級の飲み物
「夢のような通貨」
象徴と儀式におけるカカオ

第4章 出会いと変容
最初の出会いーグアナファ、一五〇二年
味覚の障壁を乗り越える
言語の障壁を乗り越える
医学の障壁を乗り越える

第5章 チョコレートのヨーロッパ征服
スペインのカカオー「完全の域に達したチョコレート」
イタリアのチョコレート―「より精妙な優雅さ」
宗教的しきたりの障壁を乗り越える
フランスのチョコレート
チョコレートとイギリス人―海賊からピープスまで

第6章 カカオ産地の変遷
新スペインと中央アメリカー植民地経営始まる
グアヤキルー「貧乏人のカカオ」
ベネズエラ
ブラジルーイエズス会のチョコレート事業とその後
極楽―とはほど遠いー島
新天地の開拓―世界を巡るカカオ

第7章 理性と狂気の時代のチョコレート
医学専門家の証言
スペイン
イタリア
チョコレートを使った料理――元祖はイタリアかメキシコか?
革命前夜のフランス
ジョージ王朝のイギリスーチョコレートハウスからクラブまで
産業革命の黎明期におけるチョコレート
一時代の終焉――「聖侯爵」とチョコレート

第8章 大衆のためのチョコレート
過去との決別―ファン・ハウテンの発明
混じりけのないチョコレートを求めて
スイスー牛とチョコレートの国
ミルトン・ハーシーと「お馴染みのハーシーの板チョコ」
現代のチョコレートの作り方
「質」対「量」―より良いチョコレートを求めて
ようこそ、新しいチョコレート

結び―円の完結
あとがき
訳者あとがき
文庫版訳者あとがき

図版 | 出典・所蔵一覧

ソフィー・D・コウ (著), マイケル・D・コウ (編集), 樋口幸子 (イラスト)
出版社: 河出書房新社 (2017/2/6)、出典:出版社HP

チョコレートの歴史

アラン・デイヴィッドスンに捧ぐ

序章

「おお、パングロスよ!」カンディードは叫んだ。
「何と奇妙な系統学だ。そいつ(梅毒)の生みの親は悪魔ではないというのか」
「まさにその通り」とこの大先生は答えた。
「あれは避けることのできないもの、この良き世界にとって不可欠な要素だったのだ。
というのも、もしコロンブスがアメリカのある島で、生命の源を蝕み、しばしば生殖能力を失わせる、言い換えれば明らかに自然の偉大なる目的に反するこの病気にかからなかったとしたら、我々はチョコレートもコチニール染料も知らずにいただろうからな」
ヴォルテール『カンディード』

我が国の賢人の一人も言っているように、過去の歴史などというものはすべて、一般に認められた作り話にほかならない。
ヴォルテール『ジャノーとコラン』

ヴォルテールにも筆の誤り。
コロンブスが新大陸で梅毒にかかったという事実を裏付ける証拠は一つもない。
また同様に、メキシコ産のカイガラムシから採れる紅色の染料は言うまでもなく、後で述べるようにチョコレートについても、彼が何らかの知識を持っていたという証拠は何一つないのである。カンディードの問いに対する不滅の楽天家パングロスの答えは、「一般に認められた作り話」が事実とすり替わった一例にすぎず、食物と料理の歴史にはそんな例が数えきれないほどあるのだ。ヨーロッパ人も結局はこの二つの貴重な物質を知ることになったのだが、それと偉大な航海者の「性病」とは無関係である。

このチョコレートに関する本の題は、十六世紀に新大陸へやってきたスペイン人征服者たちの一人、ベルナール・デ ィアス・デル・カスティーリョによって書かれるか口述され、一五七二年にグアテマラの首都で完成された『メキシコ征服の真実の歴史」にちなんでつけたものだ〔本書の原題は『チョコレートの真実の歴史」)。

年老い貧しく目もほとんど見えなくなっていたこの勇猛な軍人は、ただアステカ族の衰亡に関する掛け値なしの事実を書き残そうとしただけだった。コルテスとその部下たちの偉業を書き記した本の中には、歯の浮くような美辞麗句を並べたものもあるが、ベルナール・ディアスの本は違った。彼は実際にその場に居合わせ、アステカの皇帝その人も含めてすべての関係者を知っており、また自分の利益を図ろうという下心もなかった。彼の目的はただ、彼自身の言葉を借りれば「高雅な美文調」を避け、できるかぎりありのままを書き記すことだった。彼は、「真実の歴史」が「一般に認められた作り話」よりはるかにおもしろく、示唆に富んでいる場合もあることを、世に証明してみせたのだ。


アメリカを象徴する人物からチョコレートを受け取る海神ネプテューン。この寓意 画は1664年に出版されたブランカッチョ枢機卿のチョコレートに関する論文の扉絵 で、チョコレートの新世界からヨーロッパへの伝播を表している。

食物(と飲料)の歴史がれっきとした学問としての地位を獲得したのは、少なくとも西洋では、ここ数十年のことにすぎない。北米と英国では長い間、禁欲的な清教徒気質のせいで、食卓で、ということはそれ以外のどこでも、食べ物について論じることは御法度だった。食と性と死は、人間がそれなしには存在しえない三つの大前提であるにもかかわらず、学者たちはごく最近までその種の主題はあまり上品でないとして避ける傾向にあった。そこで、料理の歴史の研究は否応 なしに、個々の食物や飲料、あるいは料理を愛する熱心なアマチュアの手にゆだねられてきたのである。チョコレート(およびその原料となるカカオ)の研究はその顕著な例と言えよう。この物質の起源は、新世界の先史学と民族歴史学という厄介な、時には曖昧模糊とした領域に属する。その結果、チョコレートの来歴について書かれたもののかなりの部分は、ヴォルテールの言う「一般に認められた作り話」の範疇に含まれる。それはちょうど伝言ゲームを思い起こさせる。一つの話が、順番に隣の者に耳打ちする形で伝えられていくに従って、次第に不正確なものになる。
本書は、起源に立ち戻ることによってその伝言ゲームの連鎖から脱しようとする試みである。

チョコレートといえば、現代人がまず思い浮かべるのは固形の甘い食べ物である。
その証拠に、食物関係の文献でも明らかに固形のチョコレートに重点が置かれている。だがチョコレートは、その長い歴史の約九割に相当する期間、食べ物ではなく飲み物だったのだ。本書では、貴重な飲み物としてのチョコレートにもっと目を向けることで、その不均衡を是正したいと思う。チョコレートを扱った本や論文のほとんどが、スペイン人による征服以前の時代についてはほんの数行か多くても数ページしか割いていないので、本書では二章を費やしてこの領域について論じた。つまるところ、アステカ王国の首都が陥落した一五二一年から現在までは、チョコレートの歴史全体から言うとほんの五分の一ほどにすぎないのだ。

私たちがチョコレートと呼んでいる、暗褐色でほろ苦い、化学的に複雑な成分を持つ物質は、その原料であるカカオの果肉に包まれた種子とはあまり似ていない。知らない人は、その種子からチョコレートが作られるとはとても想像できないだろう。
カカオノキ(テオブロマ・カカオ Theobroma cacao)の素性や、その種子すなわちカカオ豆からチョコレー トが作られる過程を正しく理解するために、まず第1章ではその実用植物学と、チョコレートの化学的性質や特性につい
て考察する。とはいえ、昔から謎とされているカカオの素性や栽培植物化という問題が完全に解明されるまでには、まだ時間がかかるだろう。おそらく緒についたばかりのDNA研究がその鍵となるかもしれない。

だが第2章で述べるように、加工処理されたチョコレートを最初に作り出したのは、三千年ほど前にメキシコ南部低地の森林地帯に住んでいたオルメカ人らしいとわかっている。次いで、マヤ古典期の壮麗な都市における支配者たちとその王宮を取り上げ、最近の絵文字の解読によって明らかになった、マヤにおけるチョコレートの飲用に関する新しく興味深いデータを紹介したい。続く第3章では、信じられないほど豊富な記録文書に基づき、アステカ族における飲み物兼貨幣としてのカカオの使用と重要性、さらにその飲み物が人間の血液の象徴として儀式的な意味を持っていたことを検証する。
一五二一年に、標高一六〇〇メートルあまりの高地に位置するアステカ族の首都が陥落し、彼らの皇帝がその地位を追われたのを境に、チョコレートの歴史は新しい時代に入る。チョコレートの摂取はスペイン人征服者たちによって変容し、西洋化されて、それに関する専門用語も新たに作り出された。

「チョコレート」という呼び名自体もその一つだ。
第4章と第5章では、変容して新しい名を付けられ、味も変化したこの飲み物が、どのようにしてヨーロッパに持ち込まれたかを述べる。
当時のヨーロッパでは、まだ古代ギリシャの医師ヒポクラテスやガレノスの古めかしい医術が幅を利かせており、チョコレートも薬の一種として飲まれていたのだ。
また、カソリック諸国で広く行われていた断食の習慣と折り合うための紆余曲折もあった。「バロック」という語は、今では目を驚かすような美的効果を狙った華麗で複雑な様式を意味するようになった「もともとは「いびつな真珠」の意と言われる」。

確かに、バロック時代のヨーロッパにおけるチョコレート飲料の調合は恐ろしく手が込んだものとなり、貴族や聖職者の食卓に供されるご馳走の仲間入りをするまでになった。
第5章では、イエズス会とカソ リック教会がこの点に深く関わっていたことを明らかにし、また大胆なイタリア人たちのチョコレートによるさまざまな試みについても触れたい。彼らはこの素材の調理法を、ある意味でその極限まで到達させたのである。
第6章では、ヨーロッパの王宮や貴族の館、さらにはチョコレートハウスにまで広まったカカオとチョコレートの生産者たちについて述べる。チョコレートの歴史は、ここに至って、植民地主義や、黒人奴隷の輸送とその労働力の活用、そしてスペイン政府による市場の独占といった問題に関わってくる。また、この頃からスペインの力は徐々に衰え、代わってイギリスやオランダ、フランスが制海権を獲得した。その結果、カカオの生産の主流は、スペイン領熱帯アメリカから、スペインの手ごわい競争相手となった国々が支配するアフリカやその他の植民地に移った。

バロック時代の凝りに凝った調理法に比べると、それに続く「ヨーロッパの理性の時代」と呼ばれる十八世紀のチョコレートの調合はやや精彩に欠けるように見えるが、チョコレートを飲む習慣は相変わらず王侯貴族や教会のものだった。ただしイギリスをはじめとする新教国は別で、それらの国々ではチョコレート(およびコーヒー)ハウスが登場し始めていた。そうした店は集会所としての役割も果たしており、やがて揺籃期にあった政党のためのクラブが生まれた。
第7章では、フランスで革命によってカソリック教会と王制が打ち倒された後、哲学者たちのお気に入りの飲み物であり、啓蒙主義者が集まるサロンにつきものだったコーヒーと紅茶がチョコレート飲料に取って代わった状況を描く。
ところが理性の時代も終わりになると、サド侯爵という風変わりで途方もない人物が登場する。はなはだしく反体制的な著作や行動にもかかわらず、彼はまさに筋金入りの「チョコレート中毒者」だったのである。第7章まで、チョコレートの歴史の中心となってきたのは、褐色の肌をしたアステカ貴族であれ、蒼白い肌をしたイエズス会の聖職者であれ、選ばれた人々のための「飲み物」だった。

最後の第8章では、チョコレートの近代史を扱う。
チョコレートの近代史は、十九世紀初頭における産業化とそれに続く固形のチョコレート、つまり水と混ぜて飲むのでなく 食べるためのチョコレートの発明によって始まる。チョコレートはたちまち庶民の間食にうってつけの食べ物として広まった。
その代表がどこでも見られる板チョコだ。
こうしてチョコレートは、お偉方たちがあれよと見守るうちに変貌を遂げ、イギリスやスイスをはじめとするヨーロッパ諸国に大規模製造業者が出現した。
だが本格的な量産技術は、アメリカ合衆国でミルトン・ハーシーによって完成された。
その工場を中心に一つの町ができあがり、さらにはディズニーランドばりのチョコレートのテーマ・パークまでできた。だが生産、販売、消費がうなぎ上りだったのに対して、製品そのものの質は急落した。

にもかかわらず、この「真実の歴史」の結びは楽観的なものだ。
チョコレートの品質低下は自ずから反作用を引き起こし、二十世紀末になって、懐の豊かなグルメ向けに選り抜きの最高級チョコレートが登場したからだ。といっても、むろん食べるためのチョコレートである。何千年も前に、名も知れぬメキシコの原住民が最初にカカオ豆から「神々の食物」を作って以来、その長い歴史の大部分はそうだったように、選ばれた人々のための飲み物というわけではない。

ソフィー・D・コウ (著), マイケル・D・コウ (編集), 樋口幸子 (イラスト)
出版社: 河出書房新社 (2017/2/6)、出典:出版社HP

チョコレート語辞典 チョコレートにまつわることばをイラストと豆知識で甘~く読み解く

チョコレートにまつわる言葉辞典

本書では、歴史的用語から化学物質の名前まで、チョコレートに関係のある単語が幅広く掲載されている辞典です。一単語ごとの説明文は短いのでスラスラと読み進めることができ、チョコレートに関する知識を身につけることができる一冊です。

Dolcerica香川 理馨子 (著), 千住 麻里子 (監修)
出版社: 誠文堂新光社 (2016/10/5)、出典:出版社HP

はじめに

チョコレート、お好きですか?
この本を手にした方は、元気を出すためにひとかけ、気分転換にひとかけ、あるいは、存分に味わうために、チョコレートのための特別な時間をつくったりしながら、日々チョコレートのある生活を楽しんでいるのではないでしょうか。
「チョコレート語辞典』は、チョコレートの歴史や種類、製造方法などの基本的な情報と、クスッとするようなチョコレートに関するいろいろな言葉を集めた絵辞典です。
気になる項目から読んでも、頭から読んでも、チョコレート尽くし。
チョコレートって、不思議な食べ物です。
なくても生きていけるはずなのに、その魅力にとらわれるとチョコレートのない人生なんて考えられない。
人生を豊かにしてくれる芸術(アート)のような存在。
チョコレートは、ただ食べるだけでも十分幸せになれますが、この本を読んで、さらにチョコレートの世界をお楽しみただけたならうれしいです。

[おことわり] 世界には、職人技が光るクラフト的なチョコレートを生み出す個人規模のショコラティエがたくさん存在しますが、本書ではあえて紹介していません。
広く日本に流通しているメーカーやチョコレート、あるいはチョコレートの歴史や時代の流れなどと関わりの深いショコラティエについては、その事象を説明するために取り上げています。
職人的ショコラティエの世界について、また別の機会に絵と文でご紹介できることを夢見ています。

※本書のデータは、2016年4月現在のものです。商品によっては、現在取り扱いのないものや価格変更となっている場合などがあります。ご了承ください。

この本の見方と楽しみ方

ことばの見方
50音順に「チョコレートの種類」「歴史」「人物」などのチョコレートにまつわることばを配列しています。

読み方・名称
ひらがな、もしくはカタカナで表記しています。
固有名詞は「コロンブス」のように日本語の通称で表記している場合もあります。

【 】内表記
名称がひらがなの場合は、漢字(もしくは漢字 +ひらがな、カタカナ)で、カタカナの場合は、英語(もしくはその他の言語)で記載しています。

関連することばについて。
文末にある一で指された「」内は、そのことばと 関わりのあることばです。
参照するとより理解が深まります。

参考文献について
専門的な情報については、参照した文献がわかるよう、巻末(p181)にある参考文献リストにつけた番号と同じものを記載しています。

<注1>カカオとココアの表記について
文献によっては「ココアパウダー」「ココアバター」と表記しているものものもありますが、本書では「カカオパウダー」「カカオバター」に統一しています。
<注2>本書のデータは、2016年4月現在のものです。商品によっては現在取り扱いのないものや価格変更となっているものもあります。ご了承ください。

読み解き方

チョコレートについて気になることばがあれば、
その頭文字から該当のページを探してみてください。

1 チョコレートの知識を深める

チョコレートのパッケージや広告などを見て、書かれていることばが気になったときは、本書で調べてみてください。知識が広がると、チョコレート選びがますます楽しくなります。

2 「食べる」以外のチョコレートの魅力を知る

チョコレートと関わりのある歴史上の人物や文化人、チョコレートを通じて世界の歴史をのぞいてみるなど、いろいろな角度からチョコレートを見てみましょう。
新たな発見があるかもしれません。

3 コラムを楽しむ

本書の随所に大小のコラムを設けました。
ことばの辞典とはまた違う、テーマごとに掘り下げてまとめた知識をまんがや絵本のように楽しんでいただけます。ちょっとしたうんちく話もあります。
チョコレートをちょこちょこつまむように、どこからでも自由にお読みください。

4 ジャンル別インデックスの使い方

巻末 (p178~)にチョコレートにまつわることばをジャンル別に分けたインデックスのページを設けました。気になるジャンルについて早引きしやすくまとめています。
例えば、「チョコレートの歴史について知りたい」と思ったら、こちらから探してみてください。

Dolcerica香川 理馨子 (著), 千住 麻里子 (監修)
出版社: 誠文堂新光社 (2016/10/5)、出典:出版社HP

Contents

はじめに
この本の見方と楽しみ方

チョコレートの基礎知識
チョコレートの歴史
チョコレートの製造工程
カカオの主な生産地とチョコレートの消費国
チョコレートと関わる人たち

あ行
アイスクリーム、亜鉛、アオギリ科、芥川製菓、アグロフォレストリー、アスキノジー、アステカ文明、アポロ、アルカリ処理、アルコール発酵泡、アンチュイジング、アンヌ・ドートリッシュ、アンリ・ネスレイースター、家入レオ、イエズス会、石白、石屋製菓、市川崑、イッパカラトル、犬のおもちゃ、犬用チョコレート、岩倉具視、ヴァローナ、ウイスキー、ウイスキーボンボン、宇宙食、エイジングエク・チュアフ神、エクレア、江崎グリコ株式会社、エステティックトリートメント、エマルション、エムアンドエムズ、エリザベート皇后、エルナン・コルテス、エンローバーチョコレート、王侯貴族の飲み物、オーガニックチョコレート、大久保利通、小方真弓、贈り物、お酢、OPPシート、オペラ(歌劇)、オペラ(お菓子)、お湯か水か? オランジェット、オリーブみたいなチョコレート、オリジンカカオ、オルメカ文明、オルレアン公フィリップ2世、オレイン酸、温泉、温度

か行
ガーナチョコレート、カール・フォン・リンネ、絵画、カカオ・アン・プードル、カカオセック、カカオ・チョコレート・ココア、カカオニブ、カカオの木、カカオの花、
カカオパウダー、カカオハスク、カカオバター、カカオパルプ、カカオビーン、カカオ・プリエト、カカオポッド、カカオマス、カカオ豆、カカオ豆のお茶、カカオリカー、カカワトルとチョコラトル、かき氷、柿の種、かき混ぜ棒、隠し味、型抜き、カッターナイフ、ガトーショコラ、ガナッシュ、カバーチョコレート、カバーリング、カファレル、カフェイン、カフェモカ、株式会社明治、花粉症、カリウム、カルシウム、漢字、カルロス1世、カレ、カロリー、幹生化、キスチョコ、ギターカッター、キットカット、きのこの山、ギブミーチョコレート、木村カエラ、キャドバリー、キャドバリー兄弟、ギャバ、キャンディーバー、巨大看板、義理チョコ、銀紙、グアナ、クーゲル、グーチョキパー、クーベルチュール、楠田枝里子、薬、口紅、グラサージュ、グラス・オ・ショコラ、クラブ・デ・クロックール・ドゥ・ショコラ、クリスマスケーキ、グルチョコ、クレミノ、黒粥、軍用チョコレート、ケツアルコアトル神、コインチョコ、抗酸化作用、香水、紅茶、更年期障害、小枝、コーティング、コーティングチョコレート、コートドール、コーヒー、コーヒーハウス、ココア(飲み物)、ココア、ゴディバ、コポー、コレステロール、コロンブス、コルネ、ゴンチャロフ、コンチング

さ行
酢酸発酵/乳酸発酵、ザッハトルテ、砂糖、サブレ、座薬、白湯、サントメ島、シェルチョコレート、シガレットチョコレート、湿度、自動販売機、ジビエ、ジャン・エティエンヌ・リオタール、シャンティイ・オ・ショコラ、ジャンドゥーヤ、ジャン・ノイハウス、シャンパン、収穫、シュウ酸、修道女、シュガーブルーム、シュプルングリー、一族、将棋、食物繊維、しょくらあと、ショコラ、ショコラーデ、ショコラーデ、ショコラショー、ショコラティエ、ショコラトリー、ショコラブラン、ジョゼフ・ストアーズ・フライショパン、ショワズール・プララン公爵、白い恋人、白い恋人パーク、シングルオリジン/シングルエステート、シングルビーン、スイートチョコレート、ステアリン酸、スティック型ミキサー、ストレス、3Dプリンター、スライス生チョコレート、赤道、セロトニン、ゾッター、ソリッドチョコレート

た行
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出版社: 誠文堂新光社 (2016/10/5)、出典:出版社HP

チョコレートの科学 (食物と健康の科学シリーズ)

チョコレートの効果

「チョコレートは美味しさでも健康増進の観点でも優れている」ことを示すのが、本書が執筆された動機のひとつであると述べられています。チョコレートは好きだけど健康への影響が気になる…などという方におすすめの一冊です。

大澤 俊彦 (著), 古谷野 哲夫 (著), 佐藤 清隆 (著), 木村 修一 (著)
出版社: 朝倉書店 (2015/5/29)、出典:出版社HP

はじめに

チョコレートに関するジョークに、「世界中のどこへ行っても、10人に『チョコレートが好きか』と聞くと、9人が『イエス』という、『ノー』という1人は、ウソをついているのさ」というのがある。

一方で、チョコレートが16世紀にメソアメリカから世界中に広まって現代にいたるまで、しばしば「チョコレートは体に良いのか悪いのか」という問いが投げかけられる。実はこの2つは、チョコレートに関する人々の考えを象徴している。すなわち、「チョコレートは文句なくおいしい、だけど、体にとって良くないこともあるんじゃないか」というものだ。

世の中にはあふれるほど多くの種類のお菓子があるが、このように複雑な反応が示されるのは、チョコレートに特有のことと思われる。実は、本書の執筆の動機の1つは、おいしさの点からもヒトの健康の増進の点からも、チョコレートがいかに優れた食べ物であるかを示すことである。そのために、栄養学、食品物理学、および製造技術の立場からチョコレートの健康効果とおいしさの発現に関する最新の研究成果をまとめることを試みた。

第1章では古代から近代にいたるまでのチョコレートの歴史を概観し、第2章では熱帯雨林におけるカカオ豆の生産からチョコレートを製造するまでの一連の技術を整理した。第3章ではチョコレートに含まれる脂質や機能性成分の栄養と生理機能に関する最新の研究成果を紹介し、第4章ではチョコレートのおいしさを決める多くの要因を解き明かす試みを行った。

16世紀にメソアメリカの人々に接したスペイン人たちは、先住民の中でも高貴な人々が「不老長寿の薬」と信じてカカオを飲んでいることを、驚きをもって報告している。またスウェーデンの「植物分類学の父」と呼ばれるカール・フォン・リンネは、カカオの木に「神の食べ物」という学名を与えた。もちろん著者らがカカオを「不老長寿の薬」と考えているわけではないが、現代科学の眼で精査してみると、彼らがカカオに込めた思いはあながち的外れでは、と言えるのではないだろうか

第1章の冒頭で述べるように、我が国のチョコレートの1人当たりの消費量はヨーロッパ諸国の半分以下である。このことは、我が国のチョコレートの消費がこれから大きく伸びる可能性を示している。そのために本書が役立つことになれば、著者らの望外の喜びである。

最後に、本企画をご紹介いただき、執筆の機会をくださった香川大学名誉教授・社団法人おいしさの科学研究所理事長の山野善正先生に深甚の謝意を表す

2015年4月
著者一同

大澤 俊彦 (著), 古谷野 哲夫 (著), 佐藤 清隆 (著), 木村 修一 (著)
出版社: 朝倉書店 (2015/5/29)、出典:出版社HP

目次

1. チョコレートの歴史
1.1 カカオ豆からチョコレートまで [佐藤清隆]

1.2 メソアメリカ時代
1.2.1 メソアメリカの通史
1.2.2 古代メソアメリカにおけるカカオの飲み方

1.3 ヨーロッパから世界へ
1.3.1 スペインにおけるカカオの変身
1.3.2 世界へ広がるカカオとその凋落
1.3.3 19世紀の四大発明
1.3.4 テンパリングの不思議 [古谷野哲夫]

2. チョコレートの製造
2.1成分

2.2カカオ豆の生産
2.2.1 カカオ品種と苗木の作成
2.2.2 カカオ木の育成.
2.2.3 カカオ花
2.2.4 ポッドの成長
2.2.5 カカオ豆発酵.
2.2.6 カカオ豆乾燥
2.2.7 カカオ豆の貯蔵と輸送.

2.3 カカオマスの製造
2.3.1 カカオ豆の受け入れ.
2.3.2 カカオ豆のロースト.
2.3.3 ウィノーイング
2.3.4 ニブの粉砕
2.3.5 カカオマス処理

2.4 チョコレート生地の製造
2.4.1 チョコレート生地の種類
2.4.2 原料混合
2.4.3 レファイナー.
2.4.4 コンチング
2.4.5 その他のチョコレート生地製造方法

2.5 チョコレート成型
2.5.1 チョコレート生地のテンパリング
2.5.2 チョコレート生地の流動特性.
2.5.3 モールド成型
2.5.4 エンローバーチョコレート
2.5.5チョコボール
2.5.6 その他の製法

3. チョコレートの栄養と生理機能
3.1 栄養学の分野からみたチョコレート

3.2 カカオマス画分 [木村修一] 3.2.1 カカオポリフェノールの口腔内衛生改善効果
3.2.2 ココアの消化管病原細菌抑制効果.
3.2.3 カカオポリフェノールのがん抑制、免疫機能への影響
3.2.4 カカオポリフェノールの生体内動態
3.2.5 チョコレートはミネラルの宝庫.
3.2.6 カカオマスの機能はアンチエイジングにも関係する?

3.3 チョコレートの脂質画分(ココアバター)
3.3.1 チョコレートは高エネルギー食品か?
3.3.2 チョコレートによる肥満は本当か?.

3.4 チョコレートの砂糖画分.

3.5 チョコレートの持つ機能性研究の足跡
3.5.1 機能性食品研究の夜明け
3.5.2 今なぜ「チョコレート」に注目? [大澤俊彦] 3.5.3 チョコレート摂取による糖尿病予防と血圧低下作用への期待
3.5.4 チョコレートのヒト臨床研究でのメタアナリシス
3.5.5 活性酸素障害に対する抗酸化物質の役割
3.5.6 カカオポリフェノールの機能性
3.5.7メチルキサンチンの機能性

4. チョコレートのおいしさ [佐藤清隆・古谷野哲夫] 4.1 チョコレートのおいしさを決める要因
4.1.1 カカオ豆
4.1.2 砂糖と粉乳
4.1.3 製造工程
4.1.4 摂取条件

4.2 チョコレートの微細構造と「ブルーム」.
4.2.1 チョコレートはナノメートル・レベルの複合構造体
4.2.2 ブルーム現象

索引

大澤 俊彦 (著), 古谷野 哲夫 (著), 佐藤 清隆 (著), 木村 修一 (著)
出版社: 朝倉書店 (2015/5/29)、出典:出版社HP